説明

ローラ式ヘミング加工装置

【課題】ヘミング装置において、ローラ5を支持するために硬化された部分を調整することなく、また、余分な移動軌跡を生じることなく、ローラ5の移動軌跡を安定させる。
【解決手段】ローラ5を、第1、第2ガイド面15、16により、各々、下側、外周側から支持することで、ローラ5の移動軌跡を安定させることができる。また、ローラ5を第1、第2ガイド面15、16の両方に支持させた状態で回転させることができるので、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を安定的に変更することができる。このため、ローラ5を支持するために硬化された第1、第2ガイド面15、16を再加工することなく、ローラ傾斜角、TCP−RTP距離を最適化することができる。さらに、ローラ5を内周側に向かって自在に移動させることができるので、上下方向に余分な移動軌跡を発生させることなくローラ5を内周側に向かって移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアパネルやフードパネル等の周縁をヘミング加工するローラ式ヘミング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のドアパネルやフードパネルのような板状部材を被ヘミング材とし、この被ヘミング材の周縁(以下、被ヘミング材周縁と略して呼ぶことがある)をヘミング加工するローラ式ヘミング加工装置(以下、ヘミング装置と略して呼ぶことがある)が公知となっている。
【0003】
従来のヘミング装置100は、図4(a)に示すように、被ヘミング材101が載置される下型102と、下型102に載置された被ヘミング材101の周縁103を転圧して折り曲げるローラ104とを備え、ローラ104は、例えば、ロボットアーム(図示せず)の先端に装着され、ロボットアームの動作が制御されてローラ104の移動軌跡が制御される。そして、周縁103は、下型102上に載置されて位置決めされた後、ローラ104の転圧を受けてヘミング加工される。
【0004】
ここで、被ヘミング材101は、車両のドアパネルやフードパネルである場合、例えば、車両外側のアウターパネル105が下側に、車両内側のインナーパネル106が上側に配されるように、アウター、インナーパネル105、106を上下方向に重ねることで構成されている。そして、周縁103は、アウターパネル105の外周縁がインナーパネル106の外周縁よりも外周側で上方に向かって折れ曲がるように設けられている。
【0005】
また、ローラ104による周縁103の折り曲げは複数段階に分かれて行われる。そして、折り曲げの段階が進むにつれて周縁103が最終の加工状態に近づくように、折り曲げは、通常、複数回の予備曲げと最終の本曲げとに分かれて行われる。
【0006】
そして、従来のヘミング装置100では、転圧時のローラ104の移動軌跡を安定させて周縁103の仕上げ精度を高めるべく、様々な技術的検討が行われてきた。
例えば、特許文献1のヘミング装置によれば、被ヘミング材が載置される載置面の外周側にガイド面が設けられている。このガイド面は、被ヘミング材周縁の転圧時にローラが転がりながら接触するものであり、ローラは、ガイド面により下方から物理的に支持されることで、上下方向への位置ズレが生じなくなって移動軌跡が大幅に安定する。
【0007】
また、特許文献2のヘミング装置によれば、ローラに周状の窪みが設けられるとともに、載置面の外周側延長上に、周状の窪みに嵌まるエッジが設けられている。そして、窪みとエッジとの嵌合により、ローラは、上下方向への位置ズレが生じないばかりでなく、外周側から内周側への位置ズレ、または内周側から外周側への位置ズレ(径方向への位置ズレ)も生じなくなって移動軌跡がさらに安定する。
【0008】
ここで、周縁103の仕上げ精度に関して、重要視されている項目の1つに、ロールインと呼ばれるものがある。
ロールインとは、図4(b)に示すように、例えば、複数段階の折り曲げ段階の内で最先の折り曲げ段階(つまり、最先の予備曲げ)を行う前の周縁103の外周端と、最終の折り曲げ段階(つまり、本曲げ)を行った後の周縁103の外周端との距離として考えることができる(以下、周縁103の外周端を周縁外周端と略して呼ぶ)。
【0009】
そして、ロールインを抑制することが仕上げ精度上の1つの重要課題とされている。
ところで、ロールインは、最先の折り曲げ段階におけるローラ104の移動軌跡に極めて大きな影響を受ける。より具体的には、ロールインは、図4(c)に示すように、最先の折り曲げ段階におけるローラ傾斜角とTCP−RTP距離とに大きな影響を受ける。
【0010】
ここで、ローラ傾斜角とは、下型102の載置面107とローラ104の転圧面108とのなす角度であり、TCP−RTP距離とは、TCP(ツール・センター・ポイントの英文字の略称)とRTP(ロボット・ターゲット・ポイントの英文字の略称)との距離である。
【0011】
なお、RTPは、例えば、折り曲げ前の周縁外周端から載置面107に鉛直下方に下ろした線が載置面107と交差する点として考えることができ、TCPとは、RTPから転圧面108に垂直に下ろした線が転圧面108と交差する点である。
そして、ヘミング装置100では、さらなる仕上げ精度の向上を目標としてロールインを抑制するべく、最先の折り曲げにおいてローラ104の移動軌跡をさらに安定させ、軌跡上のポイントごとに最適なローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を実現することが要請されている。
【0012】
この点、特許文献2のヘミング装置によれば、ローラ側の窪みと下型側のエッジとの嵌合により、径方向の位置ズレが生じなくなって移動軌跡がさらに安定するものの、移動軌跡のティーチング後にエッジの調整が必要になったり、窪みとエッジとの嵌合を解除するために余分な移動軌跡が生じたり、窪みとエッジとの嵌合を解除した後の移動軌跡が不安定になったりする問題がある。
【0013】
すなわち、特許文献2のFIG−2に示されたヘミング装置によれば、窪みとエッジとの嵌合により、ローラは、径方向への直線的な移動が不可能になるとともに、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離の変更も不可能になる。このため、移動軌跡のティーチング後に、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を最適化するには、エッジを再加工して調整する必要がある。そして、エッジは、ローラの支持に耐え得るように、焼入れされて硬化しているので、エッジの調整は極めて煩雑な作業となってしまう。
【0014】
また、特許文献2のFIG−4に示されたヘミング装置によれば、窪みとエッジとの嵌合部分を中心としてローラを回転させることができるので、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離の変更が可能である。しかし、ローラは、折り曲げ段階の進行に伴い、内周側に向かって移動する必要があるので、窪みとエッジとの嵌合を解除するために、例えば、上下方向に余分な移動軌跡が生じてしまう。また、窪みとエッジとの嵌合を解除した後の折り曲げ段階では、ローラを物理的に支持したり拘束したりすることができないので、ローラの移動軌跡が不安定になってしまう。
【0015】
そして、窪みとエッジとの嵌合を解除するために余分な移動軌跡が生じたり、窪みとエッジとの嵌合を解除した後の移動軌跡が不安定になったりする問題は、特許文献2のFIG−2に示されたヘミング装置においても同様に発生するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平5−38535号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0262912号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ローラ式ヘミング加工装置において、ティーチング後に、ローラを支持するために硬化された部分を調整することなく、また、余分な移動軌跡を生じることなく、ローラの移動軌跡をさらに安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載のローラ式ヘミング加工装置は、板状の被ヘミング材が載置される下型と、下型に載置された被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラとを備える。また、下型は、載置された被ヘミング材により上方を覆われる載置面を有する。そして、載置面の外周側には、被ヘミング材周縁の転圧時にローラが転がりながら接触する第1ガイド面が配され、第1ガイド面の外周側には、被ヘミング材周縁の転圧時にローラの外周側への移動を規制するとともに、内周側への移動を許容する第2ガイド面が配されている。
【0019】
これにより、所定の折り曲げ段階において、ローラを、第1ガイド面により下側から支持するとともに第2ガイド面により外周側から支持することができるので、少なくとも、所定の折り曲げ段階で、ローラの移動軌跡をさらに安定させることができる。
【0020】
また、ローラを第1、第2ガイド面の両方に支持させた状態で、支持されている部分を中心として回転させることができるので、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を変更することができる。このため、移動軌跡のティーチング後に、ローラを支持するために硬化された部分を再加工することなく、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を最適化することができる。さらに、ローラを内周側に向かって自在に移動させることができるので、上下方向に余分な移動軌跡を発生させることなく、折り曲げ段階の進行に応じてローラを内周側に向かって移動させることができる。
【0021】
さらに、所定の折り曲げ段階を行った後、ローラを内周側に移動させて次の折り曲げ段階を行う際に、第1ガイド面によりローラを支持して折り曲げを行うことができる。このため、所定の折り曲げ段階以降の折り曲げ段階でも、ローラの移動軌跡を安定させることができる。
以上により、ローラ式ヘミング加工装置において、ティーチング後に、ローラを支持するために硬化された部分を調整することなく、また、余分な移動軌跡を生じることなく、ローラの移動軌跡をさらに安定させることができる。
【0022】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載のローラ式ヘミング加工装置によれば、ローラによる被ヘミング材周縁の折り曲げは、複数段階に分かれて行われ、被ヘミング材周縁は、折り曲げの段階が進むにつれて最終の加工状態に近づく。そして、第2ガイド面は、最先の段階で被ヘミング材周縁を折り曲げる際に、ローラの当接を受けてローラの外周側への移動を規制する。
【0023】
ここで、最先の予備曲げにおけるローラの移動軌跡は、上記のようにロールインを抑制して被ヘミング材周縁の仕上げ精度を高める上で極めて重要であり、ローラにより高精度に追従される必要性が高い。そこで、ローラによる最も高精度な追従を要する移動軌跡を、第1、第2ガイド面によるローラの移動規制により安定させることで、〔請求項1の手段〕に記載の「ティーチング後に、ローラを支持するために硬化された部分を調整することなく、また、余分な移動軌跡を生じることなく、ローラの移動軌跡をさらに安定させることができる」という効果を顕著に得ることができる。
【0024】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載のローラ式ヘミング加工装置によれば、ローラは、被ヘミング材周縁に直接的に当接して転圧作用を及ぼす円筒状の転圧部と、ローラの回転軸に対して転圧部よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部とを有し、フランジ部により第1ガイド面上を転がりながら、被ヘミング材周縁を転圧する。
【0025】
これにより、フランジ部と第1ガイド面との当接を維持することによって、ローラの移動軌跡を安定させることができる。また、フランジ部と第1ガイド面との当接部を中心としてローラを安定的に回転させることができるので、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を高精度に調整することができる。さらに、本曲げ後の被ヘミング材周縁を、適度な丸みを有するように仕上げることができる。
【0026】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載のローラ式ヘミング加工装置によれば、フランジ部は、転圧部に対して着脱自在である。
これにより、転圧部の円筒状の表面(転圧面)に対するフランジ部の膨出量を可変することができる。このため、フランジ部の膨出量を可変することで、TCP−RTP距離をローラ傾斜角とは独立に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)ローラ式ヘミング加工装置の全体図であり、(b)はローラ式ヘミング加工装置の要部を示す説明図である(実施例)。
【図2】(a)は最先の予備曲げの段階を示す説明図であり、(b)は中間の予備曲げの段階を示す説明図であり、(c)は最終の本曲げの段階を示す説明図である(実施例)。
【図3】(a)はロールインを示す説明図であり、(b)はローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を示す説明図である(実施例)。
【図4】(a)はローラ式ヘミング加工装置の説明図であり、(b)はロールインを示す説明図であり、(c)はローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を示す説明図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施形態のローラ式ヘミング加工装置は、板状の被ヘミング材が載置される下型と、下型に載置された被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラとを備える。また、下型は、載置された被ヘミング材により上方を覆われる載置面を有する。そして、載置面の外周側には、被ヘミング材周縁の転圧時にローラが転がりながら接触する第1ガイド面が配され、第1ガイド面の外周側には、被ヘミング材周縁の転圧時にローラの外周側への移動を規制するとともに、内周側への移動を許容する第2ガイド面が配されている。
【0029】
そして、ローラによる被ヘミング材周縁の折り曲げは、複数段階に分かれて行われ、被ヘミング材周縁は、折り曲げの段階が進むにつれて最終の加工状態に近づく。そして、第2ガイド面は、最先の段階で被ヘミング材周縁を折り曲げる際に、ローラの当接を受けてローラの外周側への移動を規制する。
【0030】
また、ローラは、被ヘミング材周縁に直接的に当接して転圧作用を及ぼす円筒状の転圧部と、ローラの回転軸に対して転圧部よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部とを有し、フランジ部により第1ガイド面上を転がりながら、被ヘミング材周縁を転圧する。
さらに、フランジ部は、転圧部に対して着脱自在である。
【実施例】
【0031】
〔実施例の構成〕
実施例のローラ式ヘミング加工装置1(以下、ヘミング装置1と呼ぶ)の構成を、図1および図2を用いて説明する。
ヘミング装置1は、車両のドアパネルやフードパネルのような板状部材を被ヘミング材2とし、被ヘミング材2の周縁3を折り曲げ加工(ヘミング加工)するものである。
【0032】
ヘミング装置1は、被ヘミング材2が載置される下型4と、被ヘミング材2の周縁3を転圧して折り曲げるローラ5と、ローラ5を保持するロボットアーム6と、ロボットアーム6等の動作を制御する制御手段7とを備える。
ここで、ロボットアーム6の先端には、ローラ5を回転自在に支持するローラ支持部9が設けられている。そして、ローラ支持部9内には、例えば、コイルスプリング、油圧シリンダ、ガススプリング、エアシリンダまたはサーボモータのように、ローラ5から周縁3に作用する転圧力を調節することができる転圧力調節手段(図示せず)が内蔵されている。
【0033】
下型4は、被ヘミング材2の下面11に面接触する載置面12を有する。ここで、載置面12は下面11の形状に合わせて設けられ、通常、被ヘミング材2の一形態に対して1つの下型4が設けられる。
【0034】
なお、被ヘミング材2は、車両外側のアウターパネル2aが下側に、車両内側のインナーパネル2bが上側に配されるように、アウター、インナーパネル2a、2bを上下方向に重ねることで構成されている(すなわち、下面11は、アウターパネル2aにより形成される)。
【0035】
また、周縁3は、アウターパネル2aの外周縁がインナーパネル2bの外周縁よりも外周側で上方に向かって折れ曲がるように配された周縁部3aと、インナーパネル2bの外周縁とアウターパネル2aとが載置面12に沿うように直接的に接触して上下方向に重なっている周縁部3bとで構成されている。なお、周縁部3aにおいて、アウターパネル2aの外周縁は、上方に向かって折れ曲がっている。
【0036】
制御手段7は、制御機能および演算機能を有するCPU、ROMやRAMのような各種の記憶装置、入力装置、および出力装置を有する周知のマイクロコンピュータを含むように構成されている。そして、制御手段7から出力される制御信号に基づいてモータ、エアシリンダ等のアクチュエータ13が動作することで、ロボットアーム6の動作が制御されてローラ5の移動軌跡が三次元的に制御される。
【0037】
そして、被ヘミング材2は、下型4上で外周側から複数のロケータ(図示せず)に当接されるとともに上方からプレッシャパッド(図示せず)により当接されて位置決めされる。さらに、被ヘミング材2の位置決め後、周縁3は、複数のクランプ(図示せず)により下型4に強固に固定されてから、ローラ5の転圧を受けてヘミング加工される。すなわち、被ヘミング材2の位置決め後、周縁部3bが複数のクランプにより下型4に強固に固定されてから、周縁部3aがローラ5の転圧を受けて周縁部3bの方に向かって折り曲げられる。
【0038】
ここで、ローラ5による周縁部3aの折り曲げは複数段階に分かれて行われる。そして、周縁部3aの折り曲げは、折り曲げの段階が進むにつれて最終の加工状態に近づくように、複数回の予備曲げと最終の本曲げとに分かれて行われる。
なお、ヘミング加工が行われている間、複数のロケータは、全て、ローラ5の移動軌跡から後退するように制御される。また、複数のクランプは、移動軌跡上においてローラ5が存在する位置に応じて、個別に周縁部3bの下型4に対する固定を解除してローラ5等と立体的に干渉しないように制御される。
【0039】
〔実施例の特徴〕
実施例のヘミング装置1の特徴を、図1〜図3を用いて説明する。
ヘミング装置1によれば、載置面12の外周側には、周縁3の転圧時にローラ5が転がりながら接触する第1ガイド面15が配され、ローラ5は、第1ガイド面15に上方から当接して第1ガイド面15により下方から物理的に支持される。また、第1ガイド面15の外周側には、周縁3の転圧時にローラ5の外周側への移動を規制するとともに、内周側への移動を許容する第2ガイド面16が配され、ローラ5は、第2ガイド面16に内周側から当接して第2ガイド面16により外周側から物理的に支持される。
【0040】
ここで、第2ガイド面16は、最先の予備曲げにより周縁部3aを折り曲げる際に、ローラ5の当接を受けてローラ5を支持するとともに、ローラ5の外周側への移動を規制する(図2(a)参照)。
また、第2ガイド面16は、第1ガイド面15と90°よりも大きい角度をなして交わるように設けられており、ローラ5は、第1、第2ガイド面15、16の両方に支持された状態で、支持されている部分を中心として回転することができる。
【0041】
また、ローラ5は、周縁部3aに直接的に当接して転圧作用を及ぼす円筒状の転圧面17を有する転圧部18と、ローラ5の回転軸に対して転圧部18よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部19とを有し、フランジ部19により第1ガイド面15上を転がりながら周縁部3aを折り曲げる。また、第2ガイド面16は、フランジ部19の当接を受けることで、ローラ5の外周側への移動を規制する。すなわち、第1、第2ガイド面15、16は、フランジ部19を支持することでローラ5の全体を支持する。
【0042】
さらに、転圧部18とフランジ部19とはネジ等により結合されており、フランジ部19は、転圧部18に対して着脱自在である。
なお、第1、第2ガイド面15、16は、ローラ5の支持に耐え得るように、焼入れされて硬化している。
【0043】
〔実施例のヘミング加工〕
実施例のヘミング装置1によるヘミング加工を、図2および図3を用いて説明する。
ヘミング装置1は、まず最先の予備曲げにおいて、第2ガイド面16にローラ5を当接させて、第2ガイド面16によりローラ5の外周側への移動を規制する。そして、ヘミング装置1は、第2ガイド面16によりローラ5の外周側への移動を規制しながら、第1ガイド面15上でローラ5を転がすように移動させて周縁部3aを折り曲げていく(図2(a)参照)。すなわち、ヘミング装置1は、最先の予備曲げにおいて、第1、第2ガイド面15、16の両方によりローラ5を支持しながら周縁3を転圧する。
【0044】
その後、ヘミング装置1は、中間の予備曲げにおいて、ローラ5を第2ガイド面16から離脱させて内周側へ移動させる。また、ヘミング装置1は、フランジ部19を第1ガイド面15に当接させた状態でローラ5を図示時計方向に回転させ、フランジ部19の第1ガイド面15に対する傾斜状態を可変し、ローラ5の立ち方向を最先の予備曲げ時よりも上下方向に近付ける。
【0045】
そして、ヘミング装置1は、ローラ5を第2ガイド面16に当接させない状態で、第1ガイド面15上で転がしながら移動させて、周縁部3aをさらに周縁部3bの方に向かって折り曲げていく(図2(b)参照)。すなわち、ヘミング装置1は、中間の予備曲げにおいて、第1ガイド面15のみによりローラ5を支持しながら周縁3を転圧する。
【0046】
そして、ヘミング装置1は、最終の本曲げにおいて、ローラ5をさらに内周側へ移動させるとともに、第1ガイド面15からも離脱させてローラ5をさらに図示時計方向に回転させる。そして、ヘミング装置1は、ローラ5を第1、第2ガイド面15、16に全く当接させない状態で移動させて周縁部3aを周縁部3bに重ね合わせていく(図2(c)参照)。すなわち、ヘミング装置1は、最終の本曲げにおいて、第1、第2ガイド面15、16によりローラ5を支持することなく周縁3を転圧する。
【0047】
以上のような実施例のヘミング加工において、仕上げ精度上、重要視されるロールインは、図3(a)に示すように、例えば、最先の予備曲げを行う前の周縁3の外周端と、最終の本曲げを行った後の周縁3の外周端との距離、すなわち、上方に向かって折れ曲がった周縁部3aの外周端から載置面12に鉛直下方に下ろした線が載置面12と交差する点と、周縁部3bに重なった周縁部3aの外周端から載置面12に鉛直下方に下ろした線が載置面12と交差する点との距離として考えることができる。
【0048】
また、ロールインは、最先の折り曲げ段階におけるローラ傾斜角、および最先の折り曲げ段階におけるTCP−RTP距離に大きな影響を受ける(図3(b)参照)。そして、最先の折り曲げ段階におけるローラ傾斜角は、最先の折り曲げ段階において第1、第2ガイド面15、16により支持されたローラ5の転圧面17と、下型4の載置面12とのなす角度である。
【0049】
また、最先の折り曲げ段階におけるTCP−RTP距離を構成するRTPは、例えば、最先の予備曲げを行う前の周縁3の外周端(上方に向かって折れ曲がった周縁部3aの外周端)から載置面12に鉛直下方に下ろした線が載置面12と交差する点として考えることができる。また、TCPは、このRTPから、第1、第2ガイド面15、16により支持されたローラ5の転圧面17に垂直に下ろした線が転圧面17と交差する点である。
【0050】
〔実施例の効果〕
実施例のヘミング装置1によれば、載置面12の外周側には、周縁3の転圧時にローラ5が転がりながら接触する第1ガイド面15が配される。また、第1ガイド面15の外周側には、周縁3の転圧時にローラ5の外周側への移動を規制するとともに、内周側への移動を許容する第2ガイド面16が配されている。そして、第2ガイド面16は、最先の予備曲げにより周縁3を折り曲げる際に、ローラ5の当接を受けてローラ5の外周側への移動を規制する。
【0051】
これにより、ローラ5を、第1ガイド面15により下側から支持するとともに第2ガイド面16により外周側から支持することができるので、ローラ5の移動軌跡をさらに安定させることができる。
【0052】
また、ローラ5を第1、第2ガイド面15、16の両方に支持させた状態で、支持されている部分を中心として回転させることができるので、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を安定的に変更することができる。このため、移動軌跡のティーチング後に、ローラ5を支持するために硬化された第1、第2ガイド面15、16を再加工することなく、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を最適化することができる。
【0053】
さらに、ローラ5を内周側に向かって自在に移動させることができるので、上下方向に余分な移動軌跡を発生させることなく、折り曲げ段階の進行に応じてローラ5を内周側に向かって移動させることができる。
【0054】
また、中間の予備曲げ段階でも、第1ガイド面15にローラ5を支持させてローラ5の移動軌跡を安定させることができる。
以上により、ヘミング装置1において、ティーチング後に、ローラ5を支持するために硬化された部分(第1、第2ガイド面15、16)を調整することなく、また、余分な移動軌跡を生じることなく、ローラ5の移動軌跡をさらに安定させることができる。
【0055】
なお、最先の予備曲げにおけるローラ5の移動軌跡は、ロールインを抑制して周縁3の仕上げ精度を高める上で極めて重要であり、ローラ5により高精度に追従される必要性が高い。そこで、ローラ5による最も高精度な追従を要する移動軌跡を、第1、第2ガイド面15、16によるローラ5の移動規制により安定させることで、「ティーチング後に、ローラ5を支持するために硬化された部分を調整することなく、また、余分な移動軌跡を生じることなく、ローラ5の移動軌跡をさらに安定させることができる」という効果を顕著に得ることができる。
【0056】
また、ローラ5は、周縁部3aに直接的に当接する転圧面17を有する円筒状の転圧部18と、ローラ5の回転軸に対して転圧部18よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部19とを有し、フランジ部19により第1ガイド面15上を転がりながら、周縁3を転圧する。
【0057】
これにより、フランジ部19と第1ガイド面15との当接を維持することによって、ローラ5の移動軌跡を安定させることができる。また、フランジ部19と第1ガイド面15との当接部を中心としてローラ5を安定的に回転させることができるので、ローラ傾斜角およびTCP−RTP距離を高精度に調整することができる。さらに、本曲げ後の周縁3を、適度な丸みを有するように仕上げることができる。
【0058】
また、フランジ部19は、転圧部18に対して着脱自在である。
これにより、転圧面17に対するフランジ部19の膨出量を可変することができる。このため、フランジ部19の膨出量を可変することで、TCP−RTP距離をローラ傾斜角とは独立に調整することができる。
【0059】
〔変形例〕
実施例のヘミング装置1によれば、中間の予備曲げは、1段階のみで行われていたが、中間の予備曲げを複数段階に分けて行ってもよい。また、ローラ5の第1、第2ガイド面15、16からの離脱を、中間の予備曲げのいずれかの段階で行うようにしてもよい。
【0060】
また、第2ガイド面16は、最先の予備曲げの際に、ローラ5の当接を受けてローラ5の外周側への移動を規制していたが、第2ガイド面16によりローラ5の外周側への移動を規制すべき段階は、最先の予備曲げの段階に限定されない。そして、折り曲げの何れかの段階を行う際に、第2ガイド面16によりローラ5の外周側への移動を規制することで、少なくとも、第2ガイド面16によりローラ5の外周側への移動を規制する段階では、ローラ5の移動軌跡をさらに安定させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ヘミング装置(ローラ式ヘミング加工装置)
2 被ヘミング材
3 周縁(被ヘミング材周縁)
4 下型
5 ローラ
12 載置面
15 第1ガイド面
16 第2ガイド面
18 転圧部
19 フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被ヘミング材が載置される下型と、この下型に載置された前記被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラとを備えるローラ式ヘミング加工装置において、
前記下型は、載置された前記被ヘミング材により上方を覆われる載置面を有し、
前記載置面の外周側には、被ヘミング材周縁の転圧時に前記ローラが転がりながら接触する第1ガイド面が配され、
前記第1ガイド面の外周側には、前記被ヘミング材周縁の転圧時に前記ローラの外周側への移動を規制するとともに、内周側への移動を許容する第2ガイド面が配されていることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記ローラによる前記被ヘミング材周縁の折り曲げは、複数段階に分かれて行われ、前記被ヘミング材周縁は、折り曲げの段階が進むにつれて最終の加工状態に近づき、
前記第2ガイド面は、最先の段階で前記被ヘミング材周縁を折り曲げる際に、前記ローラの当接を受けて前記ローラの外周側への移動を規制することを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記ローラは、
前記被ヘミング材周縁に直接的に当接して転圧作用を及ぼす円筒状の転圧部と、
前記ローラの回転軸に対して前記転圧部よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部とを有し、
このフランジ部により前記第1ガイド面上を転がりながら、前記被ヘミング材周縁を転圧することを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記フランジ部は、前記転圧部に対して着脱自在であることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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