説明

ロール

【課題】長期間に亘り、優れた液体の除去、搾取、洗浄機能が発揮されると共に、高い耐久性を兼ね備えたロールを提供する。
【解決手段】鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記ロール部はロール片が前記台座の外周面に形成されてあると共に、前記ロール片は高分子弾性体を有する極細長繊維からなる不織布にて形成されてあるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールに関しては、さまざまな改良がなされ、例えば、合成繊維からなる不織布で構成されたディスク状物を多数枚重畳させてなるロールにおいて、該不織布が親水性極細長繊維を含む長繊維絡合体で構成されていることを特徴とする不織布ロールが、特開2004−28162号公報に開示されてある。
【0003】
また、合成繊維を交絡させてなる不織布で構成されたディスク状物を、多数枚重畳させてなるロールであって、該合成繊維がスパンボンド長繊維であり、かつ、該ロールの表面硬度がJISK6301におけるスプリング式C型ゴム硬度計で測定したときに50°以上であることを特徴とする不織布ロールが、特開平6−280854号公報に開示されてある。
【0004】
また、極細繊維が立体的に絡合された不織布の空隙部に高分子弾性体が多孔質構造で充填された繊維質シートからなるディスク状物を多数枚重畳してなる吸液ロールが、特開昭61−262586号公報に開示されてある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−28162号公報
【特許文献2】特開平6−280854号公報
【特許文献3】特開昭61−262586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のロールは、例えば、上記の如くの特徴を有する技術が開示されてあるが、特開2004−28162号公報に開示されてある技術においては、不織布を形成する繊維の繊度が0.001〜1デシテックス(dtex)である一般的にマイクロファイバーと呼ばれている極細繊維の長繊維が使用されているので、繊度が1dtexより大である一般的にレギュラーファイバーと呼ばれている原糸繊維に比べて、液体の吸い上げ性能に優れ、高い吸液機能を有するものの、不織布は極細長繊維のみで構成され、高分子弾性体を有していない為、ロールは弾性変形することができず、ロールを構成する不織布層の空隙部が徐々に減少し、極細長繊維により吸い上げられた液体を空隙部に放出することができなくなり、液体除去機能を長期間に亘って持続させることができないという課題を有していた。即ち、ロールの液体除去機能は、ロールに一定の圧力がかかりながら回転することにより、液体を被洗浄面の両端部から流し去るダム機能と、ロールが回転しながら圧力により圧縮される圧縮ゾーンにおいて、不織布層の空隙部に吸収された液体を被洗浄面に一旦放出し、次いでロールが圧力による圧縮から開放される開放ゾーンにおいて、不織布を形成する繊維の毛細管現象により被洗浄面の液体が不織布層に吸い上げられ、不織布層の空隙部に放出される吸排機能とから構成されている。前記ダム機能は、不織布層を有するロールだけでなく、ゴムロール等にも発現する機能であるが、前記吸排機能は、高分子弾性体を有する不織布層からなるロール特有の現象であり、不織布の有する高分子弾性体が弾性変形する為、不織布層の空隙率が前記圧縮ゾーンで0%となり、前記開放ゾーンで元の空隙率に復元することにより発現する。しかし、前記従来技術においては、不織布は極細長繊維のみで構成され、高分子弾性体を有していない為、ロールは弾性変形せず、前記開放ゾーンで不織布層は元の空隙率に復元することができないので、空隙率は徐々に減少する。その為、ロールの初期状態においては不織布層の空隙部が吸液に必要な十分な空隙率を有しているので、優れた液体除去機能を発揮することができるものの、吸排機能が発現せず、空隙率が徐々に減少する空隙部には、極細長繊維により吸い上げられた液体の全量を放出することができず、空隙部に放出できなかった液体は被洗浄面に排出される為、液体除去機能は長期間に亘って持続しないのである。なお、極細繊維が原糸繊維に比べて液体の吸い上げ性能に優れているのは、極細繊維は原糸繊維を細分割したもの、あるいは海島構造を有する構成となっている為、細分割された極細繊維と極細繊維の間に隙間が形成されてあり、あるいは海島構造の海部分が隙間となっているので、極細繊維の毛細管現象に加えて、前記の隙間に液体をスポンジの如く吸い込むことができる構造になっているからである。また、1dtexとは、糸長10000mで1gとなる繊維のことをいう。
【0007】
また、特開平6−280854号公報に開示されてある技術においては、不織布が高分子樹脂を合成繊維にたいして5重量%以上充填されて含有されている為、ロールは上記の如くのダム機能、及び吸排機能を発現することはできるが、不織布を構成するスパンボンド長繊維の繊度が1〜10デニール(d)である原糸繊維が使用されているので、液体の吸い上げ性能が極細繊維に比べて低く、液体除去機能が劣るという課題を有していた。なお、1dとは、糸長9000mで1gとなる繊維のことである。
【0008】
また、特開昭61−262586号公報に開示されてある技術においては、不織布が極細繊維により絡合され、高分子弾性体が充填されているので、前記ダム機能、及び吸排機能が発現し、高い液体除去機能を発揮することができるが、使用されている極細繊維が短繊維である為、長繊維に比べて切れ、ほつれ等が発生しやすく、耐摩耗性に劣り、耐久性が低いという課題を有していた。なお、一般的に短繊維とは長さが50mm以下の繊維のことであり、長繊維とは長さが50mmより大の繊維のことをいう。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、長期間に亘り、優れた液体の除去、搾取、洗浄機能が発揮されると共に、高い耐久性を兼ね備えたロールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決する為に、本発明のロールは、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記ロール部はロール片が前記台座の外周面に形成されてあると共に、前記ロール片は高分子弾性体を有する極細長繊維からなる不織布にて形成されてあるもので、前記ロール片により台座の外周面にロール部を形成した場合、ロールは、ロール片を構成する不織布が高分子弾性体を有していることから、弾性変形することが可能であり、ダム機能と吸排機能が発揮される。また、ロール片を構成する不織布は、液体の吸い上げ性能に優れた極細長繊維が用いられている。その為、ロールは長期間に亘り、優れた液体の除去、搾取、洗浄機能を発現させることが可能である。
【0011】
また、ロール片を構成する不織布は、切れ、ほつれ等が発生しにくい極細長繊維が使用されているので、ロール部が鋼板、非鉄金属板等の被洗浄面と接触を繰り返しても、ロール部が摩耗することが抑制され、ロールは高い耐久性を具備することができる。なお、長繊維が、短繊維に比べて切れ、ほつれ等が発生しにくいのは、長繊維は短繊維よりも長い為、不織布に形成した際、繊維同士が強固に絡み合っているからである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロールは、高分子弾性体を有する極細長繊維にて形成されてある不織布からなるロール片により、ロール部が構成されてあるので、ロールは弾性変形し、ダム機能と吸排機能が発現することから、長期間に亘り、優れた液体の除去、搾取、洗浄機能が発揮されると共に、ロール部の摩耗による切れ、ほつれ等が発生しにくく、高い耐久性も兼ね備えた非常に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明は、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記ロール部はロール片が前記台座の外周面に形成されてあると共に、前記ロール片は高分子弾性体を有する極細長繊維からなる不織布にて形成されてあるもので、前記ロール片により台座の外周面にロール部を形成した場合、ロールは、ロール片を構成する不織布が高分子弾性体を有していることから、弾性変形することが可能であり、ダム機能と吸排機能が発揮される。また、ロール片を構成する不織布は、液体の吸い上げ性能に優れた極細長繊維が用いられている。その為、ロールは長期間に亘り、優れた液体の除去、搾取、洗浄機能を発現することができる。
【0014】
また、ロール片を構成する不織布は、切れ、ほつれ等が発生しにくい極細長繊維が使用されているので、ロール部が鋼板、非鉄金属板等の被洗浄面と接触を繰り返しても、ロール部が摩耗することが抑制され、ロールは高い耐久性を具備することができる。
【0015】
第2の発明は、特に、第1の発明のロールにおいて、前記不織布を構成する極細長繊維と高分子弾性体の重量配合比率が、95:5から30:70としたもので、極細長繊維と高分子弾性体の重量配合比率を様々に設定することで、使用目的に応じた最適なロールを提供することができる。例えば、被洗浄面に付着している液体の量が多い場合、あるいは液体の粘度が高い場合等においては、極細長繊維の比率を高めることで、効率的に液体が除去される。また、被洗浄面に付着している液体が少ない場合、あるいは液体の粘度が低い場合等においては、高分子弾性体の比率を高めることで、ロールコストの削減を図ることができる。
【0016】
第3の発明は、特に、第1から第2の発明のロールにおいて、前記不織布を構成する高分子弾性体の分子間に架橋構造が形成されてあるもので、高分子弾性体に一段と優れた弾力性が付与される。その為、ロールは、一段と優れたダム機能と吸排機能を発揮することができ、液体の除去、搾取、洗浄機能が大幅に向上する。
【0017】
また、ロールは低い圧力においても、弾性変形することが可能であり、ロールにたいする負荷が軽減されるので、ロールの使用期間の一層の長期化を図ることができる。
【0018】
さらに、低圧力にてロールを使用することができるので、ロールを構成するロール部と接触する鋼板、非鉄金属板等の被洗浄面に強い力が加わらない為、鋼板、非鉄金属板等の歪み、屈曲等を防止することができる。
【0019】
第4の発明は、特に、第1から第3の発明のロールにおいて、前記不織布を構成する極細長繊維にたいして液体浸透剤が含浸されてあるもので、被洗浄面に付着している液体とロール部が接触した際、極細長繊維と液体の境界面における界面張力が低下し、極細長繊維と液体との湿潤性が増して、液体は極細長繊維に浸透しやすくなる為、極細長繊維による液体の吸い上げ性能が向上する。その為、液体の除去、搾取、洗浄機能が飛躍的に向上する。特に、ラインスピードの速い洗浄工程においては、ロール部と被洗浄面との接触時間が短くなるので、迅速、且つ確実に被洗浄面に付着している液体を除去、搾取して、被洗浄面を洗浄することができる。なお、界面張力とは、固体と液体が接している境界面において、接触面積を小さくする方向に働く張力のことをいう。従って、界面張力が低下するということは、固体と液体との接触面積が大きくなることであり、極細長繊維と液体との接触面積が大きくなり、液体は極細長繊維に濡れやすくなるので、湿潤性が増し、極細長繊維に浸透しやすくなる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
図1は、本発明のロールを鋼板表面の油分除去用として使用した形態の正面図、図2は、ロール片を前面側から見た斜視図、図3(A)は、集合体を前面側から見た斜視図、図3(B)は、図3(A)の断面図、図3(C)は、他の実施の形態における不織布を形成する弾性極細長繊維を前面側から見た斜視図である。
【0022】
図1において、ロール1は、台座3、止め金具5、プレート6、及び複数のロール片4から形成されてあるロール部2より構成されてある。台座3は、鉄等の金属材料からなる略円柱形状、あるいは略円筒形状であり、外周面にロール部2が形成されてある。また、ロール部2は、複数のロール片4が重ね合わされて形成されてあり、両側から止め金具5、及びプレート6にて挟み付けられて装着されてある。止め金具5には、スナップリングが使用されてある。なお、ロール部2は、ロール1に使用する総数のロール片4より形成されてある。
【0023】
図2において、ロール片4は、概円盤状の平板形状に形成された不織布7であり、中心部には穴部13が形成され、外周部には端部14が形成されてある。また、不織布7を形成する集合体8は、図3(A)、及び図3(B)の如く、液体浸透剤15が含浸された極細長繊維10の外面に高分子弾性体9が付着した弾性極細長繊維8が、隙間部11を介して6本集束した概楔形状にて形成されてある。
【0024】
次に、ロール1の製作方法について説明する。最初に、ロール片4を概円盤状の平板形状に打ち抜く。次いで、概円盤状の平板形状に打ち抜かれたロール片4を複数重ね合わせて、穴部13を台座3にたいして貫通させる。そして、台座3の長手方向からプレス機にて所定長さだけ圧縮させた後、止め金具5、及びプレート6にて挟み付けて固定する。次に、所定時間放置することにより、重ね合わせた複数のロール片4の内部応力を均一化させ、端部14を切削加工及び研磨加工し、台座3の外周面上にロール部2を形成して、製作される。
【0025】
次に、ロール片4を構成する不織布7の製造方法について、いくつか述べる。
第1の方法は、合成樹脂を溶融紡糸して、概丸形断面を有する原糸長繊維を得る。得られた原糸長繊維に、特殊な針を突き刺して、原糸長繊維を立体的に絡合する。前記の如く、立体的に絡合させる製造方法は、一般的には、ニードルパンチングと呼ばれており、立体的に絡合された原糸長繊維はウエッブと呼ばれている。次いで、前記ウエッブにたいして、100kg〜150kg程度の高圧水流を当て、原糸長繊維を結合させると共に、前記原糸長繊維は、高圧水流が当たることにより、図3(A)、及び図3(B)の如く、外周面の長手方向に沿って、切り込み部12が発生して細分割され、隙間部11を介して極細長繊維10が形成される。次に、架橋剤を配合した高分子弾性体9と、液体浸透剤15をスプレー、浸漬、含浸等の方法を用いて極細長繊維10に付着、含浸させ、弾性極細長繊維8が集束した集合体16からなる平板形状の不織布7を形成する。前記の如くの製造方法は、一般的に水流絡合法と呼ばれている。
【0026】
第2の方法は、融点の異なる2成分の合成樹脂を、それぞれ溶融紡糸して、図3(C)の如く、概丸形断面を有する極細長繊維20と、極細長繊維20より融点の低い他の極細長繊維を得る。得られた極細長繊維20と、他の極細長繊維をニードルパンチングにより機械的に3次元に絡合する。次いで、加熱することにより、極細長繊維20より融点の低い他の極細長繊維を溶融して除去し、海島構造を有するウエッブを形成する。なお、海島構造の海部分は、極細長繊維20より融点の低い他の極細長繊維があった部分で隙間部となり、島部分は極細長繊維20である。次に海島構造が形成された前記ウエッブにたいして、架橋剤を配合した高分子弾性体19、及び液体浸透剤25をスプレー、浸漬、含浸等の方法を用いて極細長繊維20に付着、含浸させ、弾性極細長繊維18からなる平板形状の不織布を形成する。なお、高分子弾性体19は極細長繊維20の繊維同士を化学的に強固に結合させるバインダーとしての役割も果たしている。前記の如くの製造方法は、一般的にケミカルボンド法と呼ばれている。
【0027】
なお、不織布7を形成する極細長繊維10、20には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、別名ウレタン弾性糸とも呼ばれるスパンデックス、アクリル繊維等の合成樹脂繊維が、使用目的に応じて、単独使用、あるいは併用される。
【0028】
また、高分子弾性体9、19には、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、ウレタンゴム等のエラストマー、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂が、鋼板に付着している油分の性状に応じて、単独使用、あるいは併用される。
【0029】
上記極細長繊維10、20と、高分子弾性体9、19の重量配合比率は、95:5から30:70にて形成される。高分子弾性体の重量比が5%未満の場合、ロール1は弾力性が発現しにくく、効果的なダム機能、及び吸排機能を発揮することができない。また、極細長繊維10、20の重量比が30%未満の場合、鋼板の油分を吸い上げる極細長繊維10、20の量が少ないので、油分を完全に除去することができず、鋼板に油分が残ることになる。なお、より効果的にダム機能、及び吸排機能をロール1に発現させ、鋼板に付着している油分の量や粘度等に対応して、効率よく確実に油分を除去するには、極細長繊維10、20と、高分子弾性体9、19の重量配合比率を、80:20から55:45にて設定し、極細長繊維10、20の比率を、高分子弾性体9、19の比率より高く設定することが好ましい。
【0030】
また、架橋剤は、上記高分子弾性体9、19の分子間に橋架け構造を形成し、一段と優れた弾力性を高分子弾性体9、19に付与する目的で配合されるものであり、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメラミン樹脂、ブロックイソシアネート等のイソシアネート樹脂、脂肪族エポキシ等のエポキシ樹脂が単独使用、あるいは併用される。前記架橋剤は、高分子弾性体9、19の100重量部にたいして、0.5〜5重量部配合されるのが好ましい。0.5重量部未満の場合には、高分子弾性体9、19の分子間全てに渡り、橋架け構造が形成されず、分子間に未架橋部分が生成され、高分子弾性体9、19に一段と優れた弾力性を付与することができない。5重量部より多い場合には、高分子弾性体9、19が硬くなり、却って弾力性が劣ることになる。また、架橋剤に、有機アミン塩、複合金属塩等の架橋助剤を、架橋剤の使用量の10〜50%添加して用いてもよい。架橋助剤は、高分子弾性体9、19の分子間に橋架け構造が形成されるのを促進する目的で添加されるものである。さらに、前記架橋剤を用いずに、高分子弾性体9、19を加熱することにより、高分子間反応を起こし、高分子弾性体9、19を自己架橋させて、橋架け構造を形成する方法を用いることもできる。
【0031】
また、液体浸透剤15、25には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等の炭化水素系の非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等の炭化水素系の陰イオン性界面活性剤が単独使用、あるいは併用される。なお、非イオン性界面活性剤とは、水溶液中で電荷を帯びない界面活性剤のことであり、陰イオン性界面活性剤とは、水溶液中で負の電荷を帯びる界面活性剤のことである。前記液体浸透剤15、25は、極細長繊維10、20の100重量部にたいして、0.3〜3重量部配合されるのが望ましい。0.3重量部未満の場合には、極細長繊維10、20は十分な油分の浸透力を得ることができず、3重量部より多い場合には、著しい界面張力の低下が期待できず、却ってコスト高となる。また、前記炭化水素系界面活性剤の他、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を単独使用、あるいは併用しても何ら差し支えない。
【0032】
次に、前記水流絡合法にて形成された不織布7を、ロール片4として用い、ロール部2を構成した場合のロール1の動作、作用について説明する。
【0033】
ロール1は、略箱形の鋼板洗浄機(図示せず)に上下一対で設置されてあり、エアーシリンダーや油圧シリンダーを用いて、ロール1にたいして一定の圧力が加えられ、回転している。そして、回転している上下のロール1の間を、油分が付着した鋼板が通過し、鋼板とロール部2が接触する。ロール部2を構成するロール片4は、高分子弾性体9が液体浸透剤15を含浸した極細長繊維10の外面に付着した弾性極細長繊維8の集合体16からなる不織布7にて形成されてある。また、高分子弾性体9は、分子間に架橋構造が形成されてあるので、優れた弾力性がロール1にたいして付与される。その為、鋼板がロール部2と接触すると、ロール1には圧力が加えられているので、鋼板はロール部2から押し付け圧を受け、鋼板に付着している油分は、ロール1のダム機能により、鋼板の両端部から押し流される。また、ロール部2は、ロール片4が高分子弾性体9を有する為、弾性変形することができるので、ロール1に加えられた圧力からの圧縮ゾーンにてロール部2の空隙部は空隙率が0%となり、空隙部に溜まっていた油分を一旦、鋼板に放出し、次いでロール1が圧力から開放される開放ゾーンにて空隙部が元の空隙率に復元し、極細長繊維10の毛細管現象、及び極細長繊維10の間に形成されてある隙間部11のスポンジ効果により吸い上げられた油分を、復元した空隙部に放出する吸排機能が発現する。前記ダム機能と吸排機能が発現することにより、鋼板に付着している油分は、鋼板から除去されると共に、長期間に亘って、油分除去機能が持続する。
【0034】
また、極細長繊維10は、液体浸透剤15が含浸されているので、ロール部2が鋼板と接触した際、極細長繊維10と油分の境界面における界面張力が低下し、極細長繊維10と油分との湿潤性が増して、油分は極細長繊維10に浸透しやすくなる為、極細長繊維10による液体の吸い上げ性能が向上する。
【0035】
また、ロール片4を構成する不織布7は、切れ、ほつれ等が発生しにくい極細長繊維10が使用されているので、ロール部2が鋼板と接触を繰り返しても、ロール部2が摩耗することが抑制され、ロール1は高い耐久性を具備することができる。さらに、不織布7を構成する高分子弾性体9の分子間に架橋構造が形成されてある為、ロール1に加えられる圧力が低くても、ロール1は弾性変形することができ、ロール1にたいする負荷が軽減されるので、ロール1の使用期間の一層の長期化を図ることも可能である。
【0036】
なお、前記ケミカルボンド法により形成された不織布を、ロール片として用い、ロール部2を構成した場合においても、ロール1は、前記水流絡合法にて形成された不織布7の場合と同様の動作、作用を示す。
【0037】
次に、本発明のロールの油分除去性能、及び摩耗性能について、下記要領にて試験した。なお、油分除去性能については、油分除去性能1として、ロールの初期状態における性能、油分除去性能2として、ロールを24時間、洗浄油に浸漬した後の状態における性能の2通りについて試験した。本発明のロールに使用した不織布の組成を実施例1、比較例として、比較例1から比較例4に使用した不織布の組成を、それぞれ表1に示す。また、油分除去性能1、油分除去性能2、及び摩耗性能の試験結果を、それぞれ表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(油分除去性能1)
外径が120mm、内径が50mm、全長が190mmのロール部を有するロールを、それぞれ2本ずつ作成し、鋼板洗浄機に上下一対で前記ロールを設置した。ロール部の表面硬度は80°にて設定した。次に、溶融亜鉛メッキ鋼板の上面に、スギムラ化学工業株式会社製の洗浄油プレトンR−303Pを毎分6リットルにて散布し、周速を毎分100mにて回転させた前記ロールにたいして、線圧8.3kgf/cmの圧力を加えて押し付け、上下のロールの間に溶融亜鉛メッキ鋼板を通過させた。
【0040】
そして、コーラーインスツールメント社製のフィルムゲージを用いて、溶融亜鉛メッキ鋼板の上面の油膜厚みを測定して、下記基準により判断した。
○・・・油膜厚みが1.0μ以下であった
△・・・油膜厚みが1.0μを超え、2.0μ以下であった
×・・・油膜厚みが2.0μを超えていた
【0041】
(油分除去性能2)
油分除去性能1に用いたのと同様のロールを、スギムラ化学工業株式会社製の洗浄油プレトンR−303Pに24時間、浸漬した後、油分除去性能1と同様の試験を実施した。なお、判断基準についても、上記油分除去機能1と同様の判断基準を適用した。
【0042】
(摩耗性能)
外径が120mm、内径が50mm、全長が190mmのロール部を有するロールを、それぞれ2本ずつ作成した。ロール部の表面硬度は80°にて設定した。その後、前記ロールの1本の表面に、#36の研磨紙を巻き付け固定後、2本のロールを、線圧8.3kgf/cm、周速を毎分100mにて、30分間互いに押し付けて回転させた。
【0043】
そして、#36の研磨紙が巻き付け固定されていないロールにおけるロール部の摩耗量を測定して、下記基準により判断した。
○・・・摩耗量が0.02kg以下であった
△・・・摩耗量が0.02kgを超え、0.05kg以下であった
×・・・摩耗量が0.05kgを超えていた
【0044】
【表2】

【0045】
上記試験結果より、実施例1のロールは、高分子弾性体を有する極細長繊維からなる不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールの初期状態における油分除去性能、ロールを24時間、洗浄油に浸漬した後の状態における油分除去性能、及び摩耗性能とも良好な結果が得られた。
【0046】
比較例1のロールは、極細長繊維のみからなる不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールの初期状態における油分除去性能、及び摩耗性能は良好な結果が得られたが、不織布は高分子弾性体を有していないので、弾性変形することができず、吸排機能が発現しない為、ロール部の空隙部が元の空隙率に回復することができず、ロール部が吸液飽和状態となると、極細長繊維が吸収した油分を空隙部に排出できないことから、ロールを24時間、洗浄油に浸漬した後の状態における油分除去性能は劣るものであった。
【0047】
比較例2のロールは、高分子弾性体を有する長繊維の原糸繊維からなる不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、摩耗性能は良好な結果が得られたが、極細繊維に比べて油分の吸い上げ性能に劣る原糸繊維が使用されている為、ロールの初期状態における油分除去性能、及びロールを24時間、洗浄油に浸漬した後の状態における油分除去性能は共に劣るものであった。
【0048】
比較例3のロールは、高分子弾性体を有する極細短繊維からなる不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールの初期状態における油分除去性能、及びロールを24時間、洗浄油に浸漬した後の状態における油分除去性能は共に良好な結果が得られたが、長繊維に比べて切れ、ほつれ等が発生しやすい短繊維を使用している為、摩耗性能は低いものであった。
【0049】
比較例4のロールは、高分子弾性体を有する短繊維の原糸繊維からなる不織布を、ロール片として使用し、ロール部が形成されてあるので、ロールの初期状態における油分除去性能、及びロールを24時間、洗浄油に浸漬した後の状態における油分除去性能は共に低く、摩耗性能については劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のロールは、主に、鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する目的以外にも、高い耐久性を必要とするロールとして、広く好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のロールを鋼板表面の油分除去用として使用した形態の正面図
【図2】ロール片を前面側から見た斜視図
【図3】(A)集合体を前面側から見た斜視図、(B)図3(A)の断面図、(C)他の実施の形態における不織布を形成する弾性極細長繊維を前面側から見た斜視図
【符号の説明】
【0052】
1 ロール
2 ロール部
3 台座
4 ロール片
5 止め金具
6 プレート
7 不織布
8、18 弾性極細長繊維
9、19 高分子弾性体
10、20 極細長繊維
11 隙間部
12 切り込み部
13 穴部
14 端部
15、25 液体浸透剤
16 集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記ロール部はロール片が前記台座の外周面に形成されてあると共に、前記ロール片は高分子弾性体を有する極細長繊維からなる不織布にて形成されてあることを特徴とするロール。
【請求項2】
請求項1記載の構成よりなるロールにおいて、前記不織布を構成する極細長繊維と高分子弾性体の重量配合比率が、95:5から30:70であることを特徴とするロール。
【請求項3】
請求項1から2記載の構成よりなるロールにおいて、前記不織布を構成する高分子弾性体の分子間に架橋構造が形成されてあることを特徴とするロール。
【請求項4】
請求項1から3記載の構成よりなるロールにおいて、前記不織布を構成する極細長繊維にたいして液体浸透剤が含浸されてあることを特徴とするロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−2521(P2008−2521A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170910(P2006−170910)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(391044797)株式会社コーワ (283)
【Fターム(参考)】