説明

ワイピング用布帛

【課題】吸湿性、吸油性の両性能に優れ、布帛の安定性及び拭き取り性にも優れたワイピング用布帛を提供する。
【解決手段】少なくともセルロース系繊維と合成繊維との複合糸からなり、剛軟度が30mm以下、摩擦係数が0.2〜0.3、カバーファクターが1700〜2500を満足するワイピング用布帛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性、吸油性が良く、優れた拭き取り性能を有するワイピング用布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりワイピング材は、メガネやカメラのレンズ等のガラス、プラスチック製品や、貴金属や光沢装飾品等の曇りや汚れを落とす拭き取り用途等に広く用いられている。
【0003】
これらワイピング材の素材として、ポリエステルの割繊糸が広く用いられているが、吸油性に優れ油性の汚れ拭き取り性には優れるものの、吸水性に劣るため、水滴等の水分拭き取り性に問題がある。
【0004】
また、吸湿性素材である綿や麻、レーヨン等の紡績糸と合成繊維を複合した素材を用い、前記吸水性を改良したワイピング材が提案されているが、短繊維の毛羽が拭き取り対象物へ付着し易く、清掃性能に問題がある。
【0005】
該問題を解決するために、例えば特開平3−1831号公報(特許文献1)において、13重量%以上のアセテート長繊維と単糸繊度が0.5d以下の極細長繊維との組合せ糸からなる布帛であって、アルカリ処理によって、布帛表面に2重量%以上減量加工された極細長繊維を配し、布帛内部に13重量%以上減量加工されたアセテート長繊維を配し、該布帛の保水率が210重量%以上、吸水速度が3秒以下である吸水性能を有するワイピングクロスが提案されているが、布帛の安定性が悪く改良の余地があり、未だ満足できるものとはいえない。
【特許文献1】特開平3−1831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術における上記問題点を解決するためになされたものであり、具体的な目的は吸湿性、吸油性の両性能に優れ、布帛の安定性及び拭き取り性にも優れたワイピング用布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を達成するもので、次の構成を備えている。
すなわち、本発明は少なくともセルロース系繊維とポリエステル繊維の複合糸からなり、以下の要件を満足することを特徴とするワイピング用布帛を提供する。
(1) 剛軟度が30mm以下であり、
(2) 摩擦係数が0.2〜0.3であって、
(3) カバーファクターが1700〜2500である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のワイピング用布帛は、上記構成を備えていることにより、吸水性及び吸油性に優れ、布帛の安定性があり、優れた拭き取り性能を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。
本発明のワイピング用布帛は、少なくともセルロース系繊維とポリエステル繊維の複合糸からなり、以下の要件を満足することが必要である。
(1) 剛軟度が30mm以下、
(2) 摩擦係数が0.2〜0.3、
(3) カバーファクターが1700〜2500である。
【0010】
本発明に用いるセルロース系繊維は、セルロースを原料として、再生或いは半合成された繊維のフィラメント糸であればよく、再生繊維としては、例えばビスコースレーヨン、リヨセル等が挙げられ、半合成繊維としては、例えばセルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等が挙げられるが、その製法や種類を特に限定するものではなく、また、単糸の断面形状、表面形状、艶、繊度等を特に限定するものではなく、得ようとするワイピング用布帛を考慮して任意に選定すればよいが、好ましくは吸水性、布帛の安定性の観点から次の構成が採用できる。
【0011】
例えば、セルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維に鹸化加工することにより、通常のレーヨンよりも吸水効果の高い繊維とすると、ワイピング布帛への静電気によるホコリ等の吸着を防止し、拭き取り対象物に対してもホコリ等を付着させることが無いことから好ましい。
【0012】
本発明に用いる合成繊維はその製法や種類を特に限定するものではなく、単糸の断面形状、表面形状、艶、繊度、収縮性、伸縮性、染料染着特性等を特に限定するものではない。また、2種類以上の合成繊維を複合したものであってもよく、好ましくは汚れ拭き取り性の観点から次の構成が採用される。
例えば、ポリエステル系繊維とポリアミド系繊維とからなる分割型原糸が、原糸の形状がエッジを有することによる汚れ掻き取り性に優れており、特にマルチフィラメント化が容易であることから好ましく用いられる。
【0013】
本発明に用いるセルロース系繊維とポリエステル繊維の複合糸は、その製法を特に限定するものではなく目的とする織物の風合いや意匠性により任意に選定すればよいが、次の構成を採用することが好ましい。
【0014】
例えば、インターレースによるエア混繊加工により、セルロース系繊維と合成繊維を適度に交絡することで好適な加工糸を得ることができる。インターレースの交絡個数は60〜110が好ましい。
交絡個数が60以下となると、布帛としたときのセルロース系繊維と合成繊維の色差による杢が表出し易く、110以上となると複合糸の曲剛性が高くなり、布帛のドレープ性が低くなってワイピングし易さが低下するとともに、交絡部部分が粗硬となり、拭き取り時にムラ拭きになり易くなる。
【0015】
また、インターレース混繊の前に、セルロース系繊維、合成繊維のそれぞれに、若しくはその片方に仮撚捲縮を施してもよく、この場合、ワイピング用布帛に適度なフクラミと、密度感を付与できる。
【0016】
該複合糸を用い、布帛とした後にアルカリ処理により、セルロースアセテート繊維の鹸化と合成繊維の割繊とが同時に実施できるので、好適なワイピング性能をもった布帛を効率的に得ることができる。この工程を取ることにより、合成繊維による糸収縮と、セルロースアセテート繊維の鹸化収縮とが制御でき、複合糸外層には比較的多くの合成繊維を配置し、内層へは比較的多くの鹸化されたセルロースアセテート繊維を配置することが可能となり、外層の合成繊維による油分に対する拭き取り性能、内層の鹸化されたセルロースアセテートによる吸水、吸湿性能が発揮でき好ましい効果を得ることができる。
また、前記インターレースによるエア混繊した複合糸に撚を施してもよく、この追撚により更なる顕著な外層、内層の効果を発揮することが可能となる。
【0017】
本発明のワイピング用布帛は、剛軟度が30mm以下であることが必要である。
剛軟度が30mmを越えると、布帛として硬く、ワイピングするときに曲がりづらく拭き取り作業がしづらくなる。
【0018】
本発明のワイピング用布帛は、摩擦係数が0.2〜0.3の範囲であることが必要である。
摩擦係数が0.2未満であると、対象物のワイピング時にエッジ効果、すなわち拭き取り性が悪くなる。また、摩擦係数が0.3を越えると、対象物のワイピング時に、対象物を傷つけてしまう虞れや、その引っ掛かりから、ハンドリングの不快感を生じてしまう。
【0019】
本発明のワイピング用布帛は、カバーファクターが1700〜2500の範囲であることが必要である。
カバーファクターが1700未満であると、ワイピング時にスナッグ等の問題を起こし易い。また、カバファクターが2500を超えると、布帛が硬くなり、ワイピングするときに曲がりづらく拭き取り作業がしづらくなる。
以上の構成を採用することにより、別段特殊な後加工をせずとも、ワイピング性能に優れた、ワイピング用布帛を得ることが出来る。
【0020】
本発明のワイピング布帛の吸水速度は特に規定するものではないが、5秒以下であることが好ましい。吸水速度が5秒を越えると、瞬時に水滴等の水分を吸い取れず、ワイピング性能が悪くなる。
【0021】
本発明のワイピング布帛の保水率、保油率は特に指定するものではないが、10分後の保水率及び保油率が200%以上、脱水後の保水率が50%以上、脱水後の保油率が70%以上であることが好ましい。これらの数値を下回ると、せっかくワイピングによって除去した水分や油分等の汚れを、再度拭き取り対象物に付着させることとなる。
【0022】
本発明の布帛の形態は、織物、編物と特に指定するものではなく、本発明の範囲内であれば、組織も自由に選択してよいが、本発明の布帛にあっては、平織りや綾織りからなる単純な織物においても優れた効果を発揮する。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。また、その評価は次のように実施した。
1. 剛軟度
「JIS L1096 剛軟性 A法」により、経方向と緯方向の剛軟度を測定し、平均値を算出した。
2. 摩擦係数
KES表面試験器によりMIUを測定した。
3. カバーファクター
以下の式(I) 〜(III) により、計算した。
カバーファクター=経のカバーファクター+緯のカバーファクター …(I)
経のカバーファクター=経糸の繊度(dTex)1/2×経糸密度(本/2.54cm) …(II)
緯のカバーファクター=緯糸の繊度(dTex)1/2×緯糸密度(本/2.54cm) …(III)
4. 吸水性
「JIS L1907 滴下法」により、吸水性を測定した。
5.10分後の保水率及び保油率
「JIS L1996 乾燥性 B法」により、保水率及び保油率を測定した。
6.脱水後の保水率及び保油率
遠心脱水機(2000rpm)にて、2分脱水後の保水率及び保油率を測定した。
【0024】
〔実施例1〕
単糸菊型断面のトリアセテートマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト110dTex/64フィラメント(f) 酢化度61.2)と、ポリエステル及びポリアミドからなる分割型複合フィラメント糸(クラレ社製 CR−950 KN 84dTex/24f)を用い、インタレースエア混繊糸を作成した。
【0025】
この混繊糸を、織物の経糸および緯糸に用い、平織りの織物を作成した。得られた織物の生機を、常法により精練後、苛性ソーダ26%owf溶液により105℃にて減量、鹸化処理し、生機より32.3%減量した布帛を常法により染色加工して、ライトブルーに染色仕上げし、仕上げ経密度が83本/2.54cm、仕上げ緯密度が73本/2.54cmの平織り物を得た。
得られた織物の物性は表1に記載した。得られた織物は、水分や油分の拭き取り性に優れ、布帛の適度な柔らかさにより拭き心地の良いものであった。
【0026】
〔実施例2〕
単糸菊型断面のトリアセテートマルチフィラメント糸(三菱レイヨン社製、ブライト110dTex/64フィラメント(f) 酢化度61.2)と、ポリエステル及びポリアミドからなる分割型複合フィラメント糸(クラレ社製 CR−950 KN 84dTex/24f)の仮撚加工糸とを用い、インタレースエア混繊糸を作成した。
【0027】
この混繊糸を、織物の経糸および緯糸に用い、平織りの織物を作成した。得られた織物の生機を、常法により精練後、苛性ソーダ26%owf溶液により105℃にて減量、鹸化処理し、生機より32.2%減量した布帛を常法により染色加工して、ライトブルーに染色仕上げし、仕上げ経密度が83本/2.54cm、仕上げ緯密度が73本/2.54cmの平織り物を得た。
得られた織物の物性は表1に記載した。得られた織物は、仮撚糸を用いたことにより実施例1よりも水分や油分の拭き取り性に優れ、布帛の適度な柔らかさにより拭き心地の良いものであった。
【0028】
〔実施例3〕
実施例2にて作成した混繊糸を用い、織物の経糸および緯糸に用い、2/1右上がりの綾織りの織物を作成した。
得られた織物の生機を、常法により精練後、苛性ソーダ26%owf溶液により105℃にて減量、鹸化処理し、生機より30.1%減量した布帛を常法により染色加工し、ライトブルーに染色仕上げし、仕上げ経密度が110本/2.54cm、仕上げ緯密度が94本/2.54cmの綾織り物を得た。
得られた織物の物性は表1に記載した。得られた織物は、綾織り組織を用いたことにより実施例2よりも水分や油分の拭き取り性に優れ、布帛の適度な柔らかさより拭き心地の良いものであった。
【0029】
〔比較例1〕
単糸丸型断面のポリエステルマルチフィラメント糸(84T/18f)を織物の経糸に用い、ポリエステルフィラメント糸(220T/34f)の仮撚糸を織物の緯糸に用い2/1の綾織の織物を作成した。得られた織物の生機を常法により精練後、苛性ソーダ26%owf溶液により105℃で減量処理し、生機より30.6%減量した布帛を常法により染色加工して、ライトブルーに染色仕上げし、仕上げ経密度が144本/2.54cm、仕上げ緯密度が112本/2.54cmの綾織物を得た。
【0030】
得られた織物の物性は表1に記載した。得られた織物は、油分の拭き取りには申し分無いものであったが、水分の拭き取り性に劣るものであった。また、摩擦係数が高いため、拭き取り対象物に若干のスリキズが見られた。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセルロース系繊維と合成繊維の複合糸からなり、以下の要件を満足することを特徴とするワイピング用布帛。
(1) 剛軟度 30mm以下
(2) 摩擦係数 0.2〜0.3
(3) カバーファクター 1700〜2500
【請求項2】
複合糸の交絡数が60〜110であることを特徴とする請求項1記載のワイピング用布帛。

【公開番号】特開2010−104533(P2010−104533A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279140(P2008−279140)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】