説明

ワイヤクランプ

【目的】 軸方向の長さが短く、部品点数が少なく、構成が簡単で、安価なワイヤクランプを提供することを目的とする。
【構成】 ワイヤ2が挿通される挿通孔3と、この挿通孔3に直角を除く所定の角度で交差する傾斜穴4が形成された本体1と、前記傾斜穴4内に、前記挿通孔3へ出退可能に挿入され、かつ、該挿通孔3内のワイヤ1に転接させる回転体5と、前記傾斜穴4内に配置され、前記回転体5を前記挿通孔4内のワイヤ2に押圧するスプリング10とを備える。これにより、回転体5及びスプリング10が挿通孔3の軸方向に並ばないので、本体1の軸方向の長さを短くできる。又、回転体5を本体1内で進退可能に保持する部材が不要になり、部品点数を削減でき、構成が簡単になり、安価にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針金などの単線及び単線を撚り合せた撚線を含むワイヤ(以下、単にワイヤという。)を他物に連結したり、他物に連結されたワイヤを緊張させたりするワイヤクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば後掲する特許文献1に開示されているように、ワイヤを他物に連結するワイヤ固定具や、他物に連結されたワイヤを緊張させるワイヤ緊張具はワイヤが挿入又は挿通される中空体からなる本体(ケース)内に、円錐面を形成し、この円錐面とワイヤの間に挟み込む球形の回転体をスプリングで前記円錐面の軸方向に付勢するように構成されている。
【特許文献1】特開2001−140992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この特許文献1に開示された従来技術によれば、円錐面とスプリングが同軸方向に並べられるので、円錐面の軸方向に長くなるという問題がある。
又、前記回転体を保持する部材が必要になり、部品点数が多くなると共に、構造が複雑になり、コスト高になるという問題もある。
本発明は、これらの従来技術の問題を解決し、軸方向の長さが短く、部品点数が少なく、構成が簡単で、安価なワイヤクランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的を達成するため、本発明は、ワイヤが挿入される挿入穴又はワイヤが挿通される挿通孔と、この挿入穴又は挿通孔に直角を除く所定の角度で突当る傾斜穴とが形成された本体と、前記傾斜穴内に、前記挿入穴又は挿通孔へ出退可能に挿入され、かつ、該挿入穴内又は挿通孔内のワイヤに転接させる回転体と、前記傾斜穴内又は挿通孔内に配置され、該回転体を前記挿入穴内又は挿通孔内のワイヤに押圧するスプリングを備えることを特徴とする、との技術的手段を採用する。
【0005】
本発明によれば、ワイヤを前記挿入穴内又は挿通孔内に、この挿入穴又は挿通孔と傾斜穴の挟角が鈍角である方向から鋭角である方向にワイヤを差込むと、ワイヤが前記回転体をスプリングに抗して傾斜穴内に押込め、前記回転体を案内にして、挿入穴の内周面又は挿通孔の内周面と回転体の外周面の間に挟込まれる。
【0006】
回転体が挿入穴又は挿通孔の内周面とワイヤの間に挟込まれた後、前記挿入穴内又は挿通孔内のワイヤを挿入穴又は挿通孔と傾斜穴の挟角が鈍角になる方向から鋭角になる方向に移動させると、回転体が前記スプリングに抗して傾斜穴内に押込められ、ワイヤを自由に移動させることができる。
【0007】
回転体が挿入穴又は挿通孔の内周面とワイヤの間に挟込まれた後、逆に、ワイヤを挿入穴又は挿通孔と傾斜穴の挟角が鋭角である方向から鈍角である方向に移動させようとすると、ワイヤが回転体を挿入穴又は挿通孔の内周面と傾斜穴の内周面の間に引込み、回転体が前記ワイヤと傾斜穴の内周面の間に食い込んでワイヤの移動を禁止する。
【0008】
又、本発明によれば、前記傾斜穴が前記挿入穴に所定の角度で突当るように形成されているので、本体を挿入穴の軸方向に短く形成することができる。
【0009】
更に、本発明によれば、回転体が本体に保持され、本体内で回転体を保持する部材が不要になるので、ワイヤチャックの部品点数が少なくなり、構成が簡単になり、安価になる。
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0010】
本発明において、挿入穴とは一端が本体の表面に開放され、他端が閉塞された穴であり、挿通孔とは本体を貫通し、その両端が本体の表面から外側に開放されている貫通孔である。
【0011】
もちろん、この挿入穴の穴径又は挿通孔の孔径は、これに挿入又は挿通するワイヤの外径と同等以上であればよく、又、その横断面の形状は、特に限定されず、例えば円形、正六角形などの多角形などであればよい。
【0012】
この挿入穴又は挿通孔は例えば丸穴又は丸孔など軸方向に断面形状及び内径が一様な穴又は孔であってもよいが、例えばネジ穴又はネジ孔など軸方向に山と谷が交互に連続する穴又は孔にして、前記回転体を介してスプリングで押圧されたワイヤが挿入穴又は挿通孔の内周面に食込み易くなるようにしてもよい。
【0013】
本発明の本体に形成される傾斜穴は、前記挿入穴又は挿通孔に直角を除く所定の角度で突当る直線穴に形成され、又、その挿入穴側の端部の横断断面形状は前記回転体を回転可能に、かつ、この傾斜穴から挿入穴に出没可能に収納できる形状に形成される。
【0014】
前記傾斜穴の挿入穴と反対側の端部(以下、外側端部という。)は閉塞されていてもよいが、前記回転体及びスプリングの組込みを容易にするために、本体外に開放されていることが好ましい。
【0015】
傾斜穴の外側端部が本体外に開放されている場合には、前記回転体及びスプリングを本体内に組込んだ後、この傾斜穴の外側端部に該傾斜穴の外側端部を閉塞する栓体が挿入される。
【0016】
この栓体は、特に限定されないが、前記スプリングを受止めて、該栓体の傾斜穴への挿入量を加減することにより、該スプリングの圧力を加減できるようにすることができる。
【0017】
このスプリングの圧力は、段階的に加減できるようにしてもよいが、前記栓体に傾斜穴に螺合されるネジ部を設け、栓体を螺進退させて栓体の挿入量を連続的に加減することによりスプリングの圧力を連続的に加減できるようにすることが好ましい。
【0018】
又、スプリングの圧力は、例えば、栓体が傾斜穴内で栓体と回転体の距離がスプリングの自然長からセット長の範囲で進退するように栓体を設けて、0から該スプリングがセットするときの前圧力の範囲内で自由に設定することができる。
【0019】
ここで、スプリングの耐久性を高めるという観点からは、栓体が傾斜穴内で栓体と回転体の距離がスプリングの自然長からセット長よりも長い距離の範囲で進退するように栓体を設け、最も栓体を締め込んだ状態でスプリングに幾分縮み代が残されるようにすることが好ましい。
【0020】
しかし、栓体が傾斜穴内で栓体と回転体の距離がスプリングの自然長からセット長よりも長い距離の範囲で進退するように栓体を設ける場合には、栓体を最も深く傾斜穴に挿入してもスプリングの縮み代が残され、ワイヤの振動によりワイヤが挿入穴又は挿通孔内で移動するおそれが生じる。
【0021】
そこで、この場合には、例えば、前記栓体に、該栓体から回転体に向かって突出するロック部を設け、ワイヤの固定位置調整時には、栓体及びロック部をロック部が回転体から離隔するまで傾斜穴の口側に移動させ、スプリングの圧力のみで回転体をワイヤに押圧し、又、ワイヤの固定位置調整後に栓体及びロック部を傾斜穴の奥に移動させて、ロック部で回転体をワイヤに食込ませてワイヤを機械的にロックすることが好ましい。
【0022】
又、スプリングの耐久性を高めるという観点に加えて、操作性を高めるという観点を考慮に入れると、スプリングに幾分縮み代が残される位置に栓体を固定し、ワイヤの挿入時に栓体の位置調節が不要になるようにすることが好ましい。
【0023】
このために、本発明においては、好ましくは、前記栓体が傾斜穴内で、前記回転体から前記スプリングのセット長よりも大きく離隔する位置に固定され、前記栓体に該栓体に螺進退可能に挿通され、前記回転体をワイヤに食込むまで押込むボルトからなるロック具を設ける構成が採用される。
【0024】
この構成によれば、栓体が固定されているので、スプリングの圧力が一定に保持され、スプリングをセットさせてワイヤを固定する場合に比べてワイヤの耐久性を高めることができると共に、ワイヤの挿入前に栓体の位置を調整する必要がなくなり、操作性が高められる。
【0025】
又、この構成によれば、ワイヤの固定位置調整後に前記ロック具を螺締して回転体をワイヤに噛み込ませることにより、ワイヤを機械的にロックでき、振動により固定位置が変動することを防止することができる。
【0026】
ところで、開放された傾斜穴の外側端部を閉塞する栓体を設ける場合には、この栓体が傾斜穴から脱出して紛失するおそれが生じる。
【0027】
そこで、前記傾斜穴の外側端部が本体外に開放され、前記回転体及びスプリングの組込み後に該傾斜穴の外側端部に挿入されて該傾斜穴の外側端部を閉塞する栓体が設けられる場合には、必要に応じて、この栓体が傾斜穴から脱出することを防止する脱出防止手段が設けられる。
【0028】
この脱出防止手段は、傾斜穴の外側端部に挿入された栓体の傾斜穴の外側端部からの脱出を防止できるようにしてあればよく、例えば栓体のネジ部の軸方向外側にネジ部よりも小径の軸部を設け、この軸部が挿通され、ネジ部よりも小径の孔又はネジ部の径よりも小幅の溝を有し、前記本体に固定される板部材を備えるものを挙げることができる。
【0029】
上述したように、栓体に該栓体と同軸方向に螺進退可能に挿通され、前記回転体をワイヤに食込ませて機械的にロックするロック具を設ける場合には、このロック具が栓体及び傾斜穴から脱出することを防止する脱出防止手段を設けることが好ましく、又、必要に応じて、このロック具がワイヤを機械的にロックする位置から栓体の方向に緩解することを防止する緩解防止手段を設けることが好ましい。
【0030】
ところで、前記回転体は、傾斜穴の軸心及び挿入穴又は挿通孔の径に直角な軸心と平行な回転軸心を中心軸とする回転体であればよく、球形、楕円球形、樽形、円筒形、鼓形などの回転体形に形成され、前記傾斜穴内に、前記挿入穴へ出退可能に挿入され、かつ、該挿入穴内のワイヤに転接させる。
【0031】
ここで、樽形とは回転軸心の軸心方向両端部よりも中央部が大径に形成された回転体形を意味し、鼓形とは回転軸心の軸心方向両端部よりも中央部が小径に形成された回転体形を意味する。又、円筒形には、回転軸心の軸心方向の全長にわたって半径が一様な回転体形のみならず、一端側よりも他端側に向かって径が増大又は減少する回転体(テーパーローラ)も含まれる。
【0032】
なお、前記回転体は、正六角柱形、正八角柱形、或いはこれよりも多角の多角柱形に形成したものであってもよい。
【0033】
この回転体の半径は、該回転体の周面によって、挿入穴に挿入されたワイヤがスプリング側に突入することを防止できる程度に大きければよく、例えば回転体の半径を挿通穴の半径と同等以上に設定すれば、挿入穴に挿入されたワイヤの先端を確実にスプリングと反対側の回転体と挿入穴の内周面の間に円滑に案内することができる。
【0034】
ワイヤは、挿入穴と傾斜穴の挟角が鈍角になる方向から挿入穴に挿入され、その先端がスプリングに抗して回転体を傾斜穴に押し込めながら回転体と挿入穴の内周面の間に突き進められ、やがて、回転体を乗り越える。
【0035】
この後、ワイヤを更に差し込み方向と同方向、即ち、挿入穴と傾斜穴の挟角が鈍角である方向から鋭角である方向に差し込むと、ワイヤが回転体をスプリングに抗して傾斜穴に押し込めながら回転させるので、ワイヤは自由に差し込むことができる。
【0036】
ワイヤの先端が回転体を乗り越えた後に、ワイヤを差し込み方向と反対方向に引くと、即ち、挿入穴と傾斜穴の挟角が鋭角である方向から鈍角である方向にワイヤを引くと、回転体がワイヤと傾斜穴の内周面の間に食い込み、ワイヤが回転体及び本体に固定される。
【0037】
ここで、回転体の形状としては、球形、楕円球形、樽形など軸方向中央部が拡径されている回転体形を選択してもよいが、軸方向に径が一様な円筒形の回転体を用いると、ワイヤと回転体が馴染み易くなり、回転体のワイヤへの食い込みが確実になり、又、回転体の形状が簡単で安価に製造できるので最も好ましい。
【0038】
回転体の形状を軸方向中央部が縮径されている鼓形の回転体を選択すると、回転体の形状は円筒形よりも複雑になるが、ワイヤと回転体が一層馴染み易くなり、回転体のワイヤへの食い込みが一層確実になるので、クランプ能力を高めるという観点からは最も好ましい。
【0039】
又、回転体の周面は、円滑に連続する球面、楕円球面、樽形面、円筒面、鼓形面、或いは平滑な平面が連続する多角柱面に形成してもよいが、その周面に全周にわたって交互に連続する山部と谷部とが形成されている場合には、ワイヤと回転体が互いに噛合うようにして、又、回転体と傾斜穴の内周面が互いに噛合うようにして、回転体がワイヤと傾斜穴の内周面の間に食い込むので、ワイヤの滑りが確実に防止され、ワイヤを回転体及び本体に確実に固定できるようになる。
【0040】
回転体の周面の全周にわたって交互に連続する山部と谷部を形成する方法は特に限定されず、例えばローリング加工、セレーション加工、歯切加工、鋳造、鍛造など任意の方法を選択すればよい。
【0041】
回転体の表面硬度は、ワイヤの表面硬度及び本体の表面硬度を考慮して適宜設計され、例えばステンレスワイヤの場合には、回転体の周囲部をステンレスよりも表面硬度が高い超硬合金、セラミックスなどで形成することが好ましい。
【0042】
回転体の中心部の材質は、該回転体の周囲部と同質であっても、異質であってもよく、例えば合成樹脂、亜鉛合金、鉄、鋼、超硬合金などの金属、セラミックスなどを用いることができる。
【0043】
ところで、本発明において、挿入穴又は挿通孔に差し込まれ、回転体と挿入穴又は挿通孔の内周面の間に挟まれて固定されているワイヤを差込方向と反対方向に引き抜くことができるようにする場合には、前記回転体をスプリングに抗して傾斜穴に退入させ、回転体と挿入穴の内周面の間隔をワイヤの径よりも大きくし、ワイヤと回転体の間、及び/又はワイヤと挿入穴又は挿通孔の内周面の間に隙間を形成する必要がある。
【0044】
このため、本発明においては、必要に応じて、前記本体に、前記回転体をスプリングに抗して挿入穴から退出させるピンが挿入されるピン孔を形成し、このピン孔に差し込んだピンで前記回転体をスプリングに抗して挿入穴から退出させる構成が採用される。
【0045】
なお、前記本体の外形は、特に限定されず、必要に応じて、該本体を他物に連結するための雄ネジ、雌ネジ、フランジなどの取付部が設けられ、特に、この取付部が雄ネジ、雌ネジなどのネジで構成される場合には、必要に応じて、本体にレンチ、スパナなどの工具を適合させる工具装着部や、手指で摘む摘みが設けられる。
【0046】
又、本体の材質は、特に限定されず、例えば合成樹脂や、亜鉛合金、アルミ合金、銅、真鍮、青銅、鉄、ステンレス鋼を含む鋼などの金属を用いればよい。
【発明の効果】
【0047】
以上に説明したように、本発明のワイヤクランプは、ワイヤが挿入又は挿通される挿入穴と、この挿入穴に所定の角度で交差する傾斜穴とが形成された本体と、前記傾斜穴内に、前記挿入穴へ出退可能に挿入され、かつ、該挿入穴内のワイヤに転接させる回転体と、前記傾斜穴内に配置され、該回転体を前記挿入穴内のワイヤに押圧するスプリングとを備えることを特徴とする、との技術的手段を採用するので、以下の効を奏する。
【0048】
先ず、回転体とスプリングが挿入穴の軸方向に並ばず、挿入穴と交差する方向に並べられるので、挿入穴の軸方向の寸法を短くすることができる、との効を奏する。
【0049】
次に、回転体が本体に形成された傾斜穴内に配置され、本体そのものに直接保持されているので、回転体を保持して挿入穴の軸方向に移動する部材が不要になり、部品点数を削減でき、構成が簡単になり、安価になる、との効を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明に係るワイヤチャックのいくつかの実施例を図面に基づいて具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
図1は、本発明の一実施例に係るワイヤチャックをその挿通孔の中心線及び傾斜穴の中心線に沿って縦断した縦断正面図である。
【0052】
図1に示された本発明の一実施例に係るワイヤチャックの本体1は、亜鉛合金を鋳造したものであり、その内部にワイヤ2が挿通される挿入孔3と、この挿入孔3に直角を除く所定の角度、例えば約30°で突当る直線穴からなる傾斜穴4が形成されている。
【0053】
この傾斜穴4の挿入孔3側の部分には円筒形の回転体5が、該傾斜穴4の軸方向に移動可能に、かつ、前記挿入孔3に挿入されたワイヤ2に転接可能に挿入されている。
【0054】
図2の斜視図に示すように、前記回転体5は、その外形形状に因んでギヤーと通称されていて、例えば合成樹脂からなる中心部6と、その周囲に形成されたセラミックス製の周囲部7とを備え、この周囲部7の外周面には、全周にわたって交互に等間隔で連続する山部8と谷部9が形成されている。
【0055】
もちろん、中心部6の材質は、合成樹脂に限られず、適用されるワイヤ2の材質を考慮して、例えば周囲部7と同質又は異質のセラミックス、金属、木などを用いてもよい。
【0056】
又、周囲部7の材質も、特に限定されず、適用されるワイヤ2の材質を考慮して、例えば金属、合成樹脂などを用いてもよい。
【0057】
ただし、周囲部7の材質は、使用されるワイヤ2と表面硬度が同等又はそれよりも高い材質であることが推奨される。
【0058】
なお、ここでは中心部6と周囲部7が異質であるが、回転体5はこれらが同材質の、いわゆる、ムクのものであってもよい。
【0059】
この実施例に係る回転体5は、例えば中心部6を鋳型の中に配置して、セラミックスを溶媒に配合した溶液を鋳型に加圧注入し、加圧しながら中心部6の周囲にセラミックスを凝固させて周囲部7を形成するという方法で製造される。
【0060】
本発明の回転体5の各山部8の形状は、特に限定されず、ここでは三角山形に形成しているが、台形山形、矩形山形、半円山形を含む弦月山形、楕円山形、歯車に用いる標準歯形、インボリュート歯形、オフセット歯型などの歯形に形成してもよい。
【0061】
又、各谷部9の形状も、同様に特に限定されず、ここではV字谷形に形成しているが、U字谷形、台形谷形、歯車の歯谷形など任意の谷形を採用することが可能である。
【0062】
又、この回転体5の半径は、特に限定されないが、ここでは、該回転体5の周面によって、挿通孔3に挿入されたワイヤ2が後述するスプリング10側に突入することを確実に防止するために、回転体5の半径を挿通孔3の半径と同等に設定している。
【0063】
図1に示すように、前記傾斜穴4の挿通孔3と反対側の外側端部は本体1の外側に開放され、この開放された外側端部から前記回転体5とスプリング10が順次挿入される。
【0064】
この後、該傾斜穴4の外側端部にネジ部11を備える栓体12を螺合して該傾斜穴4の外側端部を閉塞する。
【0065】
このネジ部11の軸方向内側には前記スプリング10を受止めるバネ座13が形成され、このバネ座13に受止めた前記スプリング10をこの栓体12を螺旋回して螺進退させることにより、自然長とセット長の間で伸縮させ、該スプリング10の圧力(付勢力)を0と最大圧力(セット圧)の間で加減できるようにしている。
【0066】
この栓体12は前記ネジ部11と同軸心に、該ネジ部11の外側に順次連設された軸部14及び摘み15を備え、この摘み15を手指で摘んで該栓体10をねじ回す。
【0067】
なお、この摘み15の表面には、必要に応じて、ローリング加工、セレーション加工などの滑り止め加工が施される。
【0068】
又、図1においては、スプリング10がセットした状態が示され、スプリング10がセットする時に前記栓体12の先端が回転体5に当接し、回転体5をワイヤ2に食込ませるようにしているが、この実施例において、スプリング10のセット時に栓体12が回転体5に当接することは必須のことではない。
【0069】
図1の縦断正面図及び図3の分解斜視図に示すように、前記栓体12は、この栓体12を前記傾斜穴4から脱出することを防止する脱出防止手段16の板部材17を組付けた後、この板部材17と共に前記本体1に組付けられる。
【0070】
前記本体1は、この本体1を他物に取付けるための雄ネジを形成した取付部18と、この本体1を他物に取付ける際に使用するスパナ、レンチなどの工具を装着する六角頭状の工具装着部19を備える六角ボルト状に形成されている。
【0071】
前記挿通孔3はこのボルト状の本体1の軸心を貫通するように形成され、前記傾斜穴4は工具装着部19の頂部面取面20に直交するように形成されている。
【0072】
工具装着部19の頂部面取面20に連続する工具装着面21と、工具装着部19の底面22には、前記板部材17がはめ込まれる装着溝23が形成され、又、工具装着部19の頂面24と底面22には前記板部材17が嵌め込まれる係合溝25、26が形成される。
【0073】
図4の斜視図に示すように、前記板部材17は、前記頂部面取面20に沿う傾斜面27と、この傾斜面27の下縁に連続し、工具装着面21の装着溝23に嵌め込まれる側面28と、この側面28の下縁に連続し、工具装着部9の底面22に形成された装着溝23に嵌合される底面29と、前記傾斜面27の上縁に連続し、前記頂面24に形成された係合溝25に嵌合される係合部30と、前記底面22に連続して前記工具装着部19の底面22に形成された係合溝26に嵌合される係合部31を備える。
【0074】
又、前記板部材17は、前記傾斜面27と側面28にわたって軸部挿通溝32が、前記側面28にこの軸部挿通溝32に順次連続するネジ部挿通溝33とバネ座挿通部34が形成されている。
【0075】
前記軸部挿通溝32は、前記軸部14の直径よりも広幅に、かつ、前記ネジ部11よりも細幅に形成され、前記ネジ部挿通溝33はネジ部11よりも広幅に、かつ、ネジ部11の軸方向の長さより高く形成されている。
【0076】
前記バネ座挿通溝34は、ネジ部挿通溝33から傾斜面28の下方にネジ部11を挿抜する時にバネ座13が支障なく板部材17を通過できる形状及び大きさを備えている。
【0077】
前記回転体5とスプリング10を傾斜穴4に挿入した後、板部材17に組付けた栓体12を前記傾斜穴4の外側端部に螺合し、更にこの後、場合によっては栓体12を傾斜穴4に挿入し、該傾斜穴4に螺合する前に、板部材17の係合部30、31を本体1の係合溝25、26に嵌め込む。
【0078】
これにより、板部材17が本体1に固定され、前記栓体12の螺進退できる範囲が、スプリング10がセットし、回転体5がワイヤ2に強く食い込むセット位置と、ネジ部11が板部材17の傾斜面27に受止められ、ワイヤ2に回転体5が当接する圧力が0になるフリー位置との間に限定され、栓体12が傾斜穴4から脱出することが防止される。
【0079】
ところで、図1に示すように、この実施例においては、必要に応じて、前記本体1の挿通孔3と傾斜穴4の挟角が鈍角になる側、即ち、取付部18側の端面から、前記挿通孔3と平行に前記傾斜穴4に貫通するピン穴35が形成され、このピン穴35に差込んだピン36により、前記回転体5をスプリング10に抗して挿通孔3から退出させることができるようにしている。
【0080】
このピン穴35に前記ピン36を差込み、回転体5を挿通孔3から傾斜穴4内に退出させることにより、挿通孔3の内周面と回転体5の間にワイヤ2の径よりも大きい間隙を開き、ワイヤ2をその軸方向の双方向に自由に移動させることができるようになる。
【0081】
以上に説明したように、この実施例によれば、前記挿通孔3に、該挿通孔3と傾斜穴4との挟角が鈍角である方向から鋭角である方向にワイヤ2を差し込むと、ワイヤ2が、スプリング10に抗して回転体5を傾斜穴4に押込み、回転体4を回転させながら、或いは回転体4の表面を滑りながら、挿通孔3内を自由に突き進むことができる。
【0082】
これに対して、ワイヤ2が回転体5よりも挿通孔3の奥に差し込まれた後、逆方向、即ち、挿通孔3と傾斜穴4との挟角が鋭角である方向から鈍角である方向にワイヤ2を引き抜こうとすると、回転体5がワイヤ2と傾斜穴4の内周面の間に食い込み、ワイヤ2が回転体5及び本体1に固定される。
【0083】
又、この実施例によれば、前記傾斜穴4が前記挿通孔3に直角を除く所定の角度で突当るように形成されているので、本体1を挿通孔3の軸方向に短く形成することができる。
【0084】
更に、この実施例によれば、回転体5が本体1に保持され、本体1内で回転体5を保持する部材が不要になるので、ワイヤチャックの部品点数が少なくなり、構成が簡単になり、安価になる。
【0085】
又更に、この実施例によれば、前記傾斜穴4の外側端部が本体1外に開放され、前記回転体5及びスプリング10の組込み後に前記傾斜穴4の外側端部に挿入されて該傾斜穴4の外側端部を閉塞すると共に、前記スプリング10を受け止めて該スプリング10の圧力を加減する栓体12が設けられているので、回転体5及びスプリング10の組込みが容易になり、製造コストを削減できると共に、栓体12の螺進退操作により容易にスプリング10の圧力を調整できる。
【0086】
更に、この実施例によれば、前記傾斜穴4から緩解方向にねじ回される前記栓体12を所定の位置で牽制する脱出防止手段16が設けられているので、栓体12が傾斜穴4から脱出することを確実に防止でき、栓体12の傾斜穴4からの脱出による紛失を確実に防止することができる。
【0087】
加えて、この実施例によれば、前記回転体5が円筒形に形成され、その周面に全周にわたって交互に連続する山部8と谷部9が形成されているので、回転体5がワイヤ2及び傾斜穴4の内周面に食い込ませてワイヤ2の滑りを防止し、確実にワイヤ2を回転体5及び本体1に固定できる。
【0088】
更に加えて、この実施例によれば、前記本体1に、前記回転体5をスプリング10に抗して挿通孔3から退出させるピン36を挿入するピン孔35が形成されているので、このピン孔35にピン36を差込み、前記回転体5をスプリング10に抗して挿通孔3から退出させることにより、ワイヤ2をその軸方向の双方向に自由に抜差しできるようになる。
【0089】
図5は、本発明の他の実施例に係るワイヤチャックをその挿通孔の中心線及び傾斜穴の中心線に沿って縦断した縦断正面図である。
【0090】
このワイヤチャックにおいては、前記栓体12から回転体5に向かってロック部37が連出されている。
【0091】
このロック部37のバネ座13から先端面までの長さは、前記スプリング10の自然長よりも短く、セット長よりも長くしてある。
【0092】
これにより、栓体12を締め込むと、スプリング10がセットする前にロック部37が回転体5に当接し、更に栓体12を締め込むことにより、前記スプリング10をセットさせることなく、回転体5がワイヤ2に食込むまで挿通孔3に押込まれる。
【0093】
このように、栓体12で回転体5を押してワイヤ2に食込ませると、ワイヤ2は機械的に回転体5及び本体1にロックされ、振動により回転体5の圧力が緩んでワイヤ2の位置がずれることを確実に防止できるようになる。
【0094】
なお、回転体5を押している栓体12の振動による螺緩は、ロック部37と回転体5の摩擦ないしロック部37の回転体5への食い込みにより防止されるが、この実施例では、必要に応じて、栓体12の緩解を防止する緩解防止手段が設けられている。
【0095】
この実施例においては、部品点数を増加させないように、前記脱出防止手段16が緩解防止手段に兼用されるようにしている。
【0096】
即ち、前記脱出防止手段16がバネ板で構成されると共に、この脱出防止手段16の形状が、締め込んだ栓体12をその軸方向に例えば外向きに付勢する形状、例えば該脱出防止手段16の傾斜面27(図4参照。)を外側に弓なりに膨らむように湾曲させた形状に形成される。
【0097】
栓体12を回転体5がワイヤ2を機械的にロックするまで閉め込むと、前記傾斜面27が膨らみが小さくなる方向に弾性変形し、締め込んだ栓体12をその軸方向に例えば外向きに付勢するようになり、この脱出防止手段16の付勢力により締め込まれた栓体12の回転に対する摩擦抵抗が増大し、栓体12の螺解が防止される。
【0098】
なお、これに代えて、前記脱出防止手段16の傾斜面の外側で前記軸部14に外嵌されたバネワッシャからなる脱出防止手段を設けてもよい。
【0099】
この実施例のその他の構成、作用ないし効果は前記本発明の一実施例のそれらと同様であり、前記本発明の一実施例の各部分に対応するこの実施例の各部分には同じ名称が付され、図5において同じ符号を付して示している。
【0100】
図6は、本発明の又他の実施例に係るワイヤチャックをその挿通孔の中心線及び傾斜穴の中心線に沿って縦断した縦断正面図であり、図7はその分解斜視図である。
【0101】
図6と図7に示されたワイヤチャックにおいては、前記栓体12に該栓体12と同軸心方向に螺進退可能に挿通して前記回転体5に接離させるボルトからなるロック具38が設けられる。
【0102】
前記栓体12の外周面にはその軸方向の全長にわたってネジ部11が形成され、該栓体12の内側端面がスプリング10の外側端部を受止めるバネ座13となっている。
【0103】
又、この栓体12の軸部14は省略され、摘み15の代わりに栓体12の外側端面に例えばドライバの爪先を適合させる工具適合用溝39が形成される。
【0104】
この栓体12を傾斜穴4内の所定の位置まで螺入して固定することにより、スプリング10の圧力がワイヤ2の挿入に最適値に保持される。
【0105】
これにより、ワイヤ2の挿入前に栓体12をねじ回してスプリング10の圧力を調整する必要がなくなり、操作性が高められると共に、栓体12、スプリング10、回転体5などが傾斜穴4から脱出したり、傾斜穴4から脱出した栓体12、スプリング10、回転体5などが紛失されたりすることが防止される。
【0106】
前記ロック具38は、ワイヤ2の固定位置を調整する時には、栓体12から脱出しない程度に緩解して、その先端が回転体5から離隔し、回転体5がスプリング10の圧力のみによりワイヤ2に押圧されるようにする。
【0107】
なお、このロック具38の栓体12ないし本体1からの脱出は、前記本発明の一実施例において栓体12の脱出を防止する手法と同様の手法で防止することができる。
【0108】
ワイヤ2の固定位置が調整された後、前記ロック具38を螺締し、該ロック具38で前記回転体5をワイヤ2に押付けると、回転体5がワイヤ2に食込み、ワイヤ2が回転体5及び本体1に機械的にロックされる。
【0109】
ワイヤ2がロックされた後に振動によりロック具38が緩解することは、回転体5とロック具38の摩擦ないしロック具38の回転体5への食込みにより防止されるが、例えば、このロック具38に栓体12及び本体1の外側で螺合される緩み止め用ナットなどからなる緩解防止手段40を設け、この緩解防止手段40を締め付けることによりロック具38の緩解を一層確実に防止するようにしてもよい。
【0110】
この実施例のその他の構成、作用ないし効果は前記本発明の一実施例のそれらと同様であり、前記本発明の一実施例の各部分に対応するこの実施例の各部分には同じ名称が付され、図6において同じ符号を付して示している。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、本発明の縦断正面図である。
【図2】図2は、本発明の回転体の斜視図である。
【図3】図3は、本発明の分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の脱出防止手段の板部材の斜視図である。
【図5】図5は、本発明の縦断正面図である。
【図6】図6は、本発明の縦断正面図である。
【図7】図7は、本発明の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0112】
1 本体
2 ワイヤ
3 貫通孔
4 傾斜穴
5 回転体
6 中心部
7 周囲部
8 山部
9 谷部
10 スプリング
11 ネジ部
12 栓体
14 軸部
16 脱出防止手段
38 ロック具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤが挿入される挿入穴又はワイヤが挿通される挿通孔と、この挿入穴又は挿通孔に所定の角度で交差する傾斜穴が形成された本体と、前記傾斜穴内に、前記挿入穴又は挿通孔へ出退可能に挿入され、かつ、該挿入穴内又は挿通孔内のワイヤに転接させる回転体と、前記傾斜穴内に配置され、該回転体を前記挿入穴内又は挿通孔内のワイヤに押圧するスプリングとを備えることを特徴とするワイヤクランプ。
【請求項2】
前記傾斜穴の外側端部が本体外に開放され、前記回転体及びスプリングの組込み後に前記傾斜穴の外側端部に挿入されて該傾斜穴の外側端部を閉塞すると共に、前記スプリングを受止めて該スプリングの圧力を加減する栓体が設けられている請求項1に記載のワイヤクランプ。
【請求項3】
前記傾斜穴からの栓体の脱出を防止する脱出防止手段が設けられている請求項2に記載のワイヤクランプ。
【請求項4】
前記栓体が傾斜穴内で、前記回転体から前記スプリングの自由長よりも小さく、セット長よりも大きく離隔する位置に固定され、前記栓体に螺進退可能に挿通され、前記回転体をワイヤに食込むまで押込むボルトからなるロック具が設けられる請求項1又は2に記載のワイヤクランプ。
【請求項5】
前記回転体が円筒形又は鼓形に形成され、その周面に全周にわたって交互に連続する山部と谷部とが形成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載のワイヤクランプ。
【請求項6】
前記本体に、前記回転体をスプリングに抗して挿入穴から退出させるピンが挿入されるピン孔が形成されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載のワイヤクランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−224957(P2007−224957A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44497(P2006−44497)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(501390965)大阪コートロープ株式会社 (9)
【出願人】(505032470)株式会社光熱学 (4)
【出願人】(392018078)日栄インテック株式会社 (28)