説明

ワイヤハーネス用クランプ

【課題】パネルの板厚や係止孔のサイズの違いに対応できるのは勿論、パネル側に手を加えることなく、狭いスペースでも簡単にワイヤハーネスの配設を可能とする。
【解決手段】クランプ1は、パネル20の係止孔21に挿入可能な支柱2と、支柱2へ一体に設けられる脚部3と、先端4aが支柱2の先端に結合されて基端板9が支柱2に沿って移動可能なアンカー部4と、基端板9がパネル20に当接した状態で基端板9の移動を規制する凹凸部6,11と、基端板9に連設され、ワイヤハーネスWに固定可能なハーネス固定部5と、を備え、支柱2を脚部3によって挿入が規制されるまで係止孔21に挿入した後、基端板9をパネル20に当接するまで移動させ、アンカー部4を外方へ屈曲させることで、アンカー部4を係止孔21に抜け止め状態で固定可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のワイヤハーネスの配設に使用されるワイヤハーネス用クランプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のワイヤハーネスを車体に配設する際には、ワイヤハーネスに沿って所定間隔で設けられたワイヤハーネス用クランプ(以下単に「クランプ」という。)が使用される。このクランプは、例えば特許文献1に示すように、車体のパネルに設けた係止孔に嵌着係止する係止頭の下方に、ワイヤハーネスへ巻き付けてバンド挿通係止部に差し込み固定する巻着バンドを設けた巻着バンド型がよく知られている。すなわち、係止頭をパネルの係止孔に差し込んで係止させ、巻着バンドをワイヤハーネスに巻き付けて、バンド挿通係止部に巻着バンドを差し込んで固定するものである。
しかし、この巻着バンド型では、取り付けできるパネルの板厚や係止孔の大きさが特定されており、板厚等が異なるとそれに応じた係止頭を有するクランプが必要となる。
そこで、特許文献2では、係止頭を、周囲に爪係止部を階段状に周設した円錐形状の楔形係止頭とする一方、車体の係止孔に、内側に爪係止部と係合する係止爪を突設した一対の対向係止片を備えた係止部材を設けて、パネルの板厚や係止孔の大きさが変わっても、楔形係止頭の差し込み量を変更することで共用可能とした発明を開示している。
【0003】
【特許文献1】特開平8−149663号公報
【特許文献2】実開平6−37676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2のクランプにおいては、楔形係止頭の軸方向の寸法が大きいため、固定状態でパネルとワイヤハーネスとの間隔が大きくなり、狭いスペースでの採用は困難である。また、パネル側に係止部材を設ける必要があるため、部品点数が多くなる上、係止部材をパネルに取り付ける作業も必要となって、ワイヤハーネスの配設に係る作業性が低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、パネルの板厚や係止孔のサイズの違いに対応できるのは勿論、パネル側に手を加えることなく、狭いスペースでも簡単にワイヤハーネスの配設が可能なクランプを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、係止孔に挿入可能な支柱と、支柱へ一体に設けられ、支柱が係止孔を貫通した状態でパネルと当接して支柱の挿入を規制する脚部と、支柱と平行に設けられ、先端が支柱の先端に結合される一方、基端が支柱に沿って移動可能且つ係止孔に挿入不能で、基端の先端側への移動によって外方へ屈曲可能なアンカー部と、支柱とアンカー部との間に設けられ、基端がパネルに当接してアンカー部が屈曲した状態で基端の移動を規制する規制手段と、アンカー部の基端に連設され、ワイヤハーネスに固定可能なハーネス固定部と、を備え、支柱をアンカー部ごと係止孔に挿入し、脚部によって挿入が規制される位置でアンカー部の基端をパネルに当接するまで移動させ、パネルにおける支柱挿入側と反対側でアンカー部を屈曲させることで、アンカー部を係止孔に抜け止め状態で固定することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、パネルへの取付時の信頼性を高めるために、アンカー部を、支柱を先端側から挟むように設けられて二つ折りの先端内面が支柱の先端と結合され、基端の先端側への移動によって支柱の左右で夫々外方へ屈曲する略U字状としたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、基端移動時のアンカー部の外方への屈曲を確実に行わせるために、アンカー部に、外方への屈曲を容易とする薄肉部を形成したことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、規制手段を簡単な構造で形成するために、規制手段を、支柱とアンカー部との互いの対向面に夫々設けられて互いに係合する凹凸部としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、パネルの板厚や係止孔のサイズの違いにも対応可能となる。特に、クランプの支柱を係止孔に差し込んで基端を押し込む操作のみでパネルへの取付が完了するため、パネルに手を加える必要がない上、狭いスペースでも簡単にワイヤハーネスの配設が可能となって作業性にも優れる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、支柱の両側でアンカー部が拡開して抜け止めがされることとなり、パネルへの取付時の信頼性が高まる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、薄肉部の形成により、基端が移動する際のアンカー部の外方への屈曲が確実になされる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、凹凸部の採用により、規制手段を簡単な構造で形成可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のクランプの一例を示す斜視図で、このクランプ1は、合成樹脂の成形品で、支柱2と、その支柱2へ一体に設けられる脚部3と、支柱2と結合されるアンカー部4と、そのアンカー部4に連設されてワイヤハーネスに固定可能なハーネス固定部5とを有する。
まず支柱2は、車体のパネルに形成された係止孔に挿入可能な軸状体で、中間部外周には、リング状の突条を軸方向へ等間隔で突設してなる凹凸部6が形成されている。
また、脚部3は、支柱2より短い一対の平行な当接部7,7を有するコ字状で、当接部7,7の中央に支柱2の基端2aが連結されて、支柱2を含む全体が山の字状となっている。
【0009】
次に、アンカー部4は、支柱2を先端から挟むように設けられて両側の中間部8,8が支柱2と平行となる略U字状の帯体で、先端4aの内面が支柱2の先端と結合されている。アンカー部4の基端は、中間部8,8と直交し、係止孔より大きい基端板9となって、基端板9の端縁に形成した切欠き10に支柱2を貫通させている。
また、中間部8,8の内面には、幅方向の突条を長手方向に沿って等間隔で突設することで、支柱2の凹凸部6と係合可能な凹凸部11が夫々形成される一方、中間部8,8には、外面で幅方向に形成した溝により、外側への屈曲を容易とする薄肉部12が形成されている。
一方、ハーネス固定部5は、アンカー部4の基端板9における切欠き10と反対側の端部に固着された角筒13と、その角筒13に挿通されるタイバンド14とからなり、図2のようにタイバンド14をワイヤハーネスWに巻回して固定することで、ワイヤハーネスを基端板9に固定可能としている。
【0010】
以上の如く構成されたクランプ1を用いてワイヤハーネスを取り付ける際、まず図2のようにアンカー部4の基端板9にハーネス固定部5を介してワイヤハーネスWを固定した後、図3のように、車体のパネル20に形成された係止孔21に支柱2の先端をアンカー部4ごと差し込み、そのまま脚部3の当接部7,7がパネル20に当接するまで押し込む。
次に、ここからさらにワイヤハーネスWを押す等してアンカー部4を係止孔21側へ押し込むと、脚部3の当接部7,7がパネル20に当接しているため、支柱2の位置はそのままで、基端板9が支柱2に沿ってパネル20側に移動する。すると、アンカー部4においては、先端4aの内面が支柱2に結合されて移動しないため、図4(A)に示すように、薄肉部12の位置で中間部8,8が外方へ屈曲してパネル20の反対側でアンカー部4が拡開することになる。なお、この基端板9の移動の際、支柱2と中間部8との間で凹凸部6,11同士が接触して抵抗を生じさせるが、当該抵抗に抗して移動させれば、突条の弾性によって互いに係脱を繰り返しながら中間部8,8の移動を許容する。
【0011】
そして、基端板9がパネル20に当接すると、同図(B)に示すように、アンカー部4が完全に拡開して抜け止め状態となり、基端板9との間でパネル20を挟持する格好となる。この状態で、支柱2と中間部8,8との間で凹凸部6,11同士が係合して互いの移動を規制するため、取り付け時に基端板9を押し込んだ際程度の力が加わらない限り、支柱2と基端板9とが移動することはない。よって、ワイヤハーネスWはクランプ1を介してがたつきなくパネル20に取り付けられる。特に、基端板9がパネル20に当接することで、基端板9に固定されるワイヤハーネスWはパネル20へ近接した状態で配設される。
また、パネル20の板厚や係止孔21の大きさが異なっても、支柱2のパネル20からの突出量やアンカー部4の拡開量が変わることで対応でき、アンカー部4の拡開による抜け止めは同様に維持される。
【0012】
このように、上記形態のクランプ1によれば、係止孔21に挿入可能な支柱2と、支柱2へ一体に設けられ、支柱2が係止孔21を貫通した状態でパネル20と当接して支柱2の挿入を規制する脚部3と、支柱2と平行に設けられ、先端4aが支柱2の先端に結合される一方、基端板9が支柱2に沿って移動可能且つ係止孔21に挿入不能で、基端板9の先端側への移動によって外方へ屈曲可能なアンカー部4と、支柱2とアンカー部4との間に設けられ、基端板9がパネル20に当接してアンカー部4が屈曲した状態で基端板9の移動を規制する規制手段(凹凸部6,11)と、基端板9に連設され、ワイヤハーネスWに固定可能なハーネス固定部5と、を備え、支柱2をアンカー部4ごと係止孔21に挿入し、脚部3によって挿入が規制される位置で基端板9をパネル20に当接するまで移動させ、パネル20における支柱挿入側と反対側でアンカー部4を屈曲させて、アンカー部4を係止孔21に抜け止め状態で固定するようにしたことで、パネル20の板厚や係止孔21のサイズの違いにも対応可能となる。特に、クランプ1の支柱2を係止孔21に差し込んで基端板9を押し込む操作のみでパネル20への取付が完了するため、パネル20に手を加える必要がない上、狭いスペースでも簡単にワイヤハーネスWの配設が可能となって作業性にも優れる。
【0013】
一方、アンカー部4を、支柱2を先端側から挟むように設けられて二つ折りの先端4aの内面が支柱2の先端と結合され、基端板9の先端側への移動によって支柱2の左右で夫々外方へ屈曲する略U字状としたことで、支柱2の両側でアンカー部4が拡開して抜け止めがされることとなり、取付時の信頼性が高まる。
また、アンカー部4に、外方への屈曲を容易とする薄肉部12を形成しているので、基端板9が移動する際のアンカー部4の外方への屈曲が確実になされる。
さらに、規制手段を、支柱2とアンカー部4との互いの対向面に夫々設けられて互いに係合する凹凸部6,11としたことで、規制手段が簡単な構造で構成可能となる。
【0014】
なお、上記形態では、アンカー部を略U字状として、中間部を支柱の両側で拡開させるようにしているが、板状のアンカー部を支柱の片方側のみに沿って設けて、基端の移動で中間部を当該片方側のみで拡開させるようにしても、パネルへの取付は可能である。基端の形状も基端板の大きさや形状を変更して円形のフランジ状としたり、長さが係止孔の直径よりも大きい棒状や帯板状としたりしてもよい。また、薄肉部は省略することもできる。
【0015】
そして、ハーネス固定部の形態も上記形態に限らず、タイバンドに代えて、図5に示すように、基端板9にワイヤハーネスWと平行な連結片15,15を突設し、その連結片15ごとワイヤハーネスWをテープ16で巻回する等の変更が可能である。
また、上記形態では、クランプにワイヤハーネスを固定した後パネルに取り付ける手順で説明しているが、クランプをパネルに取り付けた後ハーネス固定部にワイヤハーネスを固定する手順であっても差し支えない。但し、先にワイヤハーネスを固定すると、ワイヤハーネスを把持して支柱の押し込みが容易に行える利点がある。
【0016】
その他、支柱は角棒や板状としてもよいし、脚部も、当接部の数や形状を変更したり、半割のキャップ状としたり等、適宜設計変更できる。また、規制手段も、支柱側では全周でなくアンカー部と対向する側面側にのみ突条を設けたり、リング状の突条に代えて螺旋状のネジ山としたり、突条による凹凸部に代えて円形の凹凸部としたり等、互いの移動規制が可能であれば他の構造も選択して差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】クランプの斜視図である。
【図2】ワイヤハーネスを固定したクランプの斜視図である。
【図3】クランプをパネルの係止孔に差し込んだ状態を示す説明図で、(A)が側面、(B)が正面を夫々示す。
【図4】クランプの取付状態を示す説明図で、(A)が取付の途中、(B)が取付完了時を夫々示す。
【図5】変更例のクランプの斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
1・・ワイヤハーネス用クランプ、2・・支柱、3・・脚部、4・・アンカー部、4a・・先端、5・・ハーネス固定部、6,11・・凹凸部、7・・当接部、8・・中間部、9・・基端板、12・・薄肉部、20・・パネル、21・・係止孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のパネルに形成された係止孔を利用してワイヤハーネスを固定するワイヤハーネス用クランプであって、
前記係止孔に挿入可能な支柱と、
前記支柱へ一体に設けられ、前記支柱が前記係止孔を貫通した状態で前記パネルと当接して前記支柱の挿入を規制する脚部と、
前記支柱と平行に設けられ、先端が前記支柱の先端に結合される一方、基端が前記支柱に沿って移動可能且つ前記係止孔に挿入不能で、前記基端の先端側への移動によって外方へ屈曲可能なアンカー部と、
前記支柱とアンカー部との間に設けられ、前記基端が前記パネルに当接して前記アンカー部が屈曲した状態で前記基端の移動を規制する規制手段と、
前記アンカー部の前記基端に連設され、前記ワイヤハーネスに固定可能なハーネス固定部と、を備え、
前記支柱を前記アンカー部ごと前記係止孔に挿入し、前記脚部によって挿入が規制される位置で前記アンカー部の前記基端を前記パネルに当接するまで移動させ、前記パネルにおける前記支柱挿入側と反対側で前記アンカー部を屈曲させることで、前記アンカー部を前記係止孔に抜け止め状態で固定することを特徴とするワイヤハーネス用クランプ。
【請求項2】
前記アンカー部を、前記支柱を先端側から挟むように設けられて二つ折りの先端内面が前記支柱の先端と結合され、前記基端の先端側への移動によって前記支柱の左右で夫々外方へ屈曲する略U字状としたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネス用クランプ。
【請求項3】
前記アンカー部に、外方への屈曲を容易とする薄肉部を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤハーネス用クランプ。
【請求項4】
前記規制手段を、前記支柱とアンカー部との互いの対向面に夫々設けられて互いに係合する凹凸部としたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のワイヤハーネス用クランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−207233(P2009−207233A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44918(P2008−44918)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】