説明

ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物

【課題】ワイヤーハーネス用止水材として必要な、止水性、電線被覆材との接着性、耐熱性及び柔軟性を併せ持ち、かつポッティング法を用いずとも、射出成形によって成形することが可能なワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】酸変性されたスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)とを含有する樹脂組成物であって、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(A)成分の割合が、80質量%を超えて99質量%以下であることを特徴とする、ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物に関する。特に、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネスの止水材用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などに搭載される電子制御ユニットは、それ自体が水のかからない非被水領域に搭載される場合においても、電子制御ユニットに接続されるワイヤーハーネスが雨水等の浸入しやすい領域(被水領域)を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要である。
従来、ワイヤーハーネス用の止水材には耐熱性が必要とされることから、シリコーン樹脂をはじめとして硬化性の樹脂をポッティングする方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの樹脂は硬化のために長時間の工程が必要となり、また、硬化するまで単体で形状保持が出来ないため、箱型の中に流し入れるポッティング法が使用されている。
近年、シール部材の材料として耐熱性を向上させた熱可塑性エラストマーが開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかしこの材料では、軟化剤の添加を必須とし、流動性を高め、また、高温時の形状保持のために、フィラーの添加を必須としている。
【0003】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)は、他の構造のものに比べて格別に融点が高いため、熱成形を高い温度で行う必要がある。しかし、このように高い温度で成形する際には、熱分解による分子量低下を招くことになり、機械的性質が低下する。
従来から、成形時の熱分解による機械的性質の低下を防ぐために、ポリスチレン樹脂に、トリホスファイトとフェノール系酸化防止剤を添加したものや、トリホスファイト、ジホスファイト及びフェノール系酸化防止剤を加えた方法が知られており、SPSと熱可塑性エラストマーからなる組成物に、特定構造を有するリン系化合物とフェノール系酸化防止剤を配合してなるポリスチレン系樹脂組成物が公知である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−292898号公報
【特許文献2】特開2005−132922号公報
【特許文献3】特開平1−182350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3では、酸変性スチレン系エラストマーについては何ら記載されておらず、また、電線被覆材との接着性や柔軟性などのワイヤーハーネス用止水材に必要となる性能について何ら記載されていない。
そこで、本発明の課題は、ワイヤーハーネス用止水材として必要な、止水性、電線被覆材との接着性、耐熱性及び柔軟性を併せ持ち、かつポッティング法を用いずとも、射出成形によって成形することが可能なワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題について鋭意検討を行った結果、酸変性されたスチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)とを特定比率で含有する樹脂組成物であれば、止水性、電線被覆材との接着性、耐熱性及び柔軟性を併せ持ち、かつ射出成形によって成形することが可能であり、ワイヤーハーネス用、詳細にはワイヤーハーネスコネクタ用の止水材として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1]〜[4]に関する。
[1]酸変性されたスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)とを含有する樹脂組成物であって、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(A)成分の割合が、80質量%を超えて99質量%以下であることを特徴とする、ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
[2]酸変性されたスチレン系エラストマー(A)が、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)の酸変性物、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)の酸変性物、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)の酸変性物、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)の酸変性物、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)の酸変性物、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)の酸変性物から選ばれる少なくとも一種である、上記[1]に記載のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
[3]酸変性されたスチレン系エラストマー(A)がスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)のマレイン酸変性物である、上記[2]に記載のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
[4]さらに、酸変性された又は未変性のポリフェニレンエーテル(C)を、前記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.5〜10質量部含有する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物は、止水性、電線被覆材との接着性、柔軟性及び耐熱性を併せ持つ。さらに、該樹脂組成物は、ポッティング法を用いずとも、射出成形などによってワイヤーハーネス用の止水材を成形することが可能であり、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネス用の止水材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例及び比較例においてシール性の評価試験に用いた装置の斜視図である。
【図2】実施例及び比較例においてシール性の評価試験に用いた装置の断面図である。
【図3】実施例及び比較例におけるシール性の評価試験の様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物は、酸変性されたスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)とを含有する樹脂組成物であって、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(A)成分の割合が、80質量%を超えて99質量%以下であることを特徴とするものである。
ワイヤーハーネス(Wire Harness)とは、絶縁されている導線を絶縁体の物質を用いてまとめてくくりつけたもので、電源供給・信号通信を目的とした複数の電線を束にして、それらを配線し易い長さ、形状にかたどったものであり、ケーブルハーネス(Cable Harness)とも呼ばれている。
屋外に設置される電気・電子機器は、接続されるワイヤーハーネスが雨水等の浸入しやすい領域(被水領域)を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要であり、本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物は、該ワイヤーハーネス(詳細には、ワイヤーハーネスコネクタ)に用いられる止水材の原料である。
【0011】
(A)成分の酸変性されたスチレン系エラストマー(酸変性されたスチレン系熱可塑性エラストマー)は、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)の酸変性物、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)の酸変性物、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)の酸変性物、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)の酸変性物、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)の酸変性物、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)の酸変性物から選ばれる少なくとも一種からなるものである。また、これらスチレン系エラストマーの中でも、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)の酸変性物が好ましい。また、前記スチレン系エラストマーのスチレン含有量は、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%、さらに好ましくは25〜35質量%である。
酸変性されたスチレン系エラストマー(A)としては、マレイン酸やフマル酸などで変性されたスチレン系エラストマーが好ましく挙げられ、マレイン酸変性されたスチレン系エラストマーがより好ましい。
以上より、酸変性されたスチレン系エラストマー(A)としては、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)のマレイン酸変性物がさらに好ましい
酸変性されたスチレン系エラストマー(A)の酸価は、1mgCH3ONa/g以上が好ましく、5mgCH3ONa/g以上がより好ましく、5〜20mgCH3ONa/gがさらに好ましく、5〜15mgCH3ONa/gが特に好ましい。また、湿度230℃、荷重2.16kgfの条件におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1〜20g/10分、より好ましくは1〜10g/10分、さらに好ましくは3〜10g/10分である。
【0012】
(B)成分の、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(以下、SPSと称することがある。)におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。
核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるシンジオタクチック構造のタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、前記(B)成分としては、通常、ラセミダイアッドで好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン系重合体が用いられる。
【0013】
(B)成分のSPSにおけるスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。
ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(t−ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などがある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)など、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などがある。
なお、これらの中で好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−又はt−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられ、ポリスチレンがより好ましい。
これらSPSは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
(B)成分であるSPSは、公知の方法に従って製造することができ、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(前記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報参照)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1−46912号公報に記載の方法、水素化重合体は特開平1−178505号公報に記載の方法などにより得ることができる。
【0015】
(A)成分と(B)成分の合計量に対する(A)成分の割合は、80質量%を超えて99質量%以下であり、好ましくは80質量%を超えて98質量%以下、より好ましくは80質量%を超えて97質量%以下である。(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して(B)成分(SPS)が1質量部未満の場合にはSPSによる耐熱性向上効果が得られず、20質量部よりも多い場合には、柔軟性が低下し、かつ止水材として必要な電線被覆材との接着性が維持できなくなる恐れがある。
【0016】
本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物には、必要に応じて、さらに酸変性された又は未変性のポリフェニレンエーテル(C)を含有させてもよい。酸変性された又は未変性のポリフェニレンエーテル(C)の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜7質量部である。酸変性された又は未変性のポリフェニレンエーテル(C)を0.5質量部以上含有させることにより、接着性の向上効果が得られ、10質量部以下とすることにより、エラストマーの伸びが阻害される恐れがなく、必要とされる柔軟性が得られる。
該(C)成分が酸変性されたポリフェニレンエーテルであると、より一層、電線被覆材との接着性が向上するため好ましい。酸変性されたポリフェニレンエーテルとしては、マレイン酸やフマル酸などで変性されたポリフェニレンエーテルが好ましく、フマル酸変性されたポリフェニレンエーテルがより好ましい。
【0017】
(C)成分のポリフェニレンエ−テル(PPE)としては、ポリ(2,3−ジメチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−クロロメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ〔2−(4’−メチルフェニル)−1,4−フェニレンエーテル〕;ポリ(2−ブロモ−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−ブロモ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−メチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。これらの中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。ポリフェニレンエ−テルは、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
これらのポリフェニレンエ−テルは、公知の化合物であり、米国特許第3,306,874号、同3,306,875号、同3,257,357号及び同3,257,358号の各明細書を参照することができる。ポリフェニレンエーテルは、通常、銅アミン錯体、及び二箇所もしくは三箇所を置換した一種以上のフェノール化合物の存在下で、ホモポリマー又はコポリマーを生成する酸化カップリング反応によって調製される。ここで、銅アミン錯体は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンから選択される少なくとも一種から誘導される銅アミン錯体を使用できる。
また、酸変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法にも特に制限はないが、例えば、ポリフェニレンエーテルと、フマル酸やマレイン酸等の酸と、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等のラジカル発生剤とをドライブレンドし、二軸押出機等を用いて150〜350℃(好ましくは250〜330℃)で溶融混練を行う方法が好ましく挙げられる。
【0019】
また、本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物には、コンパウンドや止水材の熱安定性を高める観点から、酸化防止剤を含有させてもよい。該酸化防止剤の含有量は、ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物中、好ましくは5質量%以下である。
酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブロビオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、IRGANOX1010)、ビス−(2,6−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(株式会社ADEKA製、アデカスタブ PEP−36)、1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(株式会社ADEKA製、アデカスタブ AO−20)等を用いることができる。
他にも、本発明の効果を著しく阻害しない限りにおいて、添加剤として、老化防止剤;フィラー;難燃剤;帯電防止剤;着色剤;分散剤;滑剤;アンチブロッキング剤等を含有させてもよい。これら添加剤の含有量は、ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物中、それぞれ好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0020】
本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物の調製方法については、特に制限はなく、公知の方法により調製することができる。例えば、上記成分を常温で混合した後、溶融混練など様々な方法でブレンドすればよく、その方法は特に制限はされない。混合・混練方法としては、二軸押出機を用いた溶融混練が好ましい。
二軸押出機を用いた溶融混練においては、用いるSPSの融点以上及び350℃以下での混練が好ましい。混練温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、SPSの粘度が高くなり過ぎることがないため、生産性が低下することがない。また、350℃以下とすることにより、SPSが熱分解する恐れがない。なお、SPSの融点以上及び330℃以下での混練がより好ましい。
【0021】
本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物は、実施例に記載の方法に従って測定したピーリング応力が、およそ5〜60N/cmであり、好ましいものでは7〜55N/cm、より好ましいものでは10〜55N/cm、さらに好ましいものでは40〜55N/cmである。また、実施例に記載の方法に従って測定したビカット軟化点は、およそ45〜60℃であり、好ましいものでは45〜55℃である。さらに、実施例に記載の方法に従って測定した破断伸びは、およそ300〜600%であり、好ましいものでは400〜600%、より好ましいものでは450〜600%、さらに好ましいものでは500〜600%である。
【0022】
本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物の成形方法に特に制限はなく、本発明のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物を、射出成形、押出成形等公知の方法により成形することができる。射出成形のときの成形温度は、用いるSPSの融点以上、350℃以下が好ましい。成形温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、流動性が低下する恐れがなく、350℃以下とすることにより、SPSが熱分解する恐れがない。なお、射出成形のときの成形温度は、用いるSPSの融点以上、330℃以下がより好ましい。
また金型温度としては、40〜100℃が好ましく、40〜80℃がさらに好ましい。金型温度を40℃以上であれば、SPSが十分に結晶化し、SPSの特徴が十分に発揮される。また100℃以下であれば、止水材が金型内で溶融してしまう恐れがない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例における物性試験の測定及びシール性の評価を次のように行った。
【0024】
(1)ピーリング応力
インサート成形により127mm×13mm、厚み2mmの架橋ポリエチレン製の電線被覆材のシートと、実施例及び比較例で得られた127mm×13mm、厚み1.2mmの止水材のシートを貼り合わせ、それをT型剥離試験装置(INSTRON製、5567P7529)にて25mm/minの試験速度でピーリング応力(N/cm)を測定し、接着性の指標とした。ピーリング応力が大きいほど、接着性に優れることを示す。
(2)ビカット軟化点
JIS K7206に準拠して、試験荷重10N及び昇温速度50℃/hにてビカット軟化点(℃)を測定し、耐熱性の指標とした。ビカット軟化点が高いほど、耐熱性に優れることを示す。
(3)破断伸び
ASTM D638に準拠して、Type IV試験片を用い、引張速度50mm/分の条件下で測定される破断時の伸び率(%)を測定し、柔軟性の指標とした。破断伸びが大きいほど、柔軟性に優れることを示す。
(4)シール性(止水性)の評価
図1に示された導電性の芯線11と、絶縁性の被覆部12とを備えている電線1に、ペレット状に成形された本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を用いて止水部2を成形する。次いで、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物とは異なる樹脂組成物を用いて、ハウジング部3を成形する。前記手順によって得られた成形体をアルミ製の冶具(図示せず)にセットして水中に入れ、冶具にチューブを通して当該チューブから冶具内に100.0kPaの圧縮空気を30秒間送り、止水部2と電線1の界面、止水部2とハウジング部3の界面からの圧縮空気の漏れを観測した。圧縮空気の漏れがないものを合格(○)、圧縮空気の漏れがあるものを不合格(×)とした。
【0025】
実施例1〜3、比較例1〜2
下記の配合成分を第1表及び第2表に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機を用いシリンダー温度290℃で溶融混練を行い、得られたストランドを水槽を通して冷却した後、ペレット化し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて上記の物性試験の測定を行った。測定結果を表1に示す。
なお、(A)成分及び(B)成分としては、以下のものを使用した。
(A)酸変性スチレン系エラストマー
マレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体:(旭化成ケミカルズ株式会社製、タフテック M1913、スチレン/エチレンブチレン質量比=30/70、MFR(温度230℃、荷重2.16kgf)=5g/10分、酸価=10mgCH3ONa/g)
(B)主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)
ホモシンジオタクチックポリスチレン:(出光興産株式会社製、ザレック130ZC、ラセミペンタッドタクティシティー=98%、MFR(温度300℃、荷重1.2kgf)=13g/10分)
【0026】
【表1】

【0027】
以上の実施例及び比較例の結果から次のようなことが確認される。
(1)酸変性されたスチレン系エラストマーにSPSを添加することによりビカット軟化点が高くなり、耐熱性が向上すると共に、ポッティング法を用いずに、射出成形によって成形することが可能なワイヤーハーネス止水用樹脂組成物を得ることができる。
(2)酸変性されたスチレン系エラストマーとSPSの含有割合が本発明の範囲内であれば、止水性(シール性)、ピーリング応力及びビカット軟化点が高く、さらに破断伸びも大きい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のワイヤーハーネス止水用樹脂組成物は、止水性、電線被覆材との接着性、耐熱性及び柔軟性を併せ持ち、かつ射出成形によって成形することが可能であるため、例えば、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネスの止水材等として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 電線
2 止水部
3 ハウジング部
11 芯線
12 被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性されたスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)とを含有する樹脂組成物であって、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(A)成分の割合が、80質量%を超えて99質量%以下であることを特徴とする、ワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
【請求項2】
酸変性されたスチレン系エラストマー(A)が、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)の酸変性物、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)の酸変性物、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)の酸変性物、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)の酸変性物、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)の酸変性物、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)の酸変性物から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
【請求項3】
酸変性されたスチレン系エラストマー(A)がスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)のマレイン酸変性物である、請求項2に記載のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、酸変性された又は未変性のポリフェニレンエーテル(C)を、前記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.5〜10質量部含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のワイヤーハーネス止水材用樹脂組成物。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−167135(P2012−167135A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26473(P2011−26473)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】