説明

ワイヤーハーネス配索装置

【課題】上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減すること。
【解決手段】ワイヤーハーネス配索装置20は、車体とスライドドアとの間に架け渡されるワイヤーハーネス1と、複数のリンク部材32が各連結軸周りに相対回転可能に鎖状に連結されて形成され、ワイヤーハーネス1が挿通された連鎖状リンク部30と、連鎖状リンク部30の端部に位置するリンク部材32が連結軸周りに相対回転可能に連結された支持連結部62を有し、ワイヤーハーネス1が挿通された可動支持部60と、可動支持部60を回転軸A周りに回転可能に支持する支持本体部70とを有するドア側支持部50とを備える。支持本体部70は、可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢において、可動支持部60を、支持連結部62の挿通方向に沿った捻れ軸周りに回転可能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のスライドドア内に設けられる電装品に接続されるワイヤーハーネスの配索技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のスライドドアに設けられる電装品に対して常時給電等する導電ハーネスを支持する装置として、特許文献1に開示のケーブルの支持装置がある。特許文献1のケーブルの支持装置は、ボール状ガイド材と、このボール状ガイド材を回転自在に挟持する一対の第一支持材及び第二支持材と、ボール状ガイド材に連結され、車体とスライドドアとの間に配索されるケーブルに外装された連鎖状リンク材とを備えている。連鎖状リンク材は、複数のリンク部材を連結して形成され、左右方向にのみ屈曲可能となっている。また、ボール状ガイド材は、第一開口とこの第一開口に対して90度間隔をあけた第二開口とが形成されたボール状の枠体を備えた部材である。そして、ケーブルの支持装置は、連鎖状リンク材が外装されたケーブルがボール状ガイド材の内部を挿通して配索されることにより、ケーブルを、ドア内に配索し、車体に対するスライドドアの上下左右方向の変位及び斜め方向の角度変化にも対応可能に支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−118849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のケーブル支持装置において、ケーブルに外装された連鎖状リンク材は、スライドドアの開状態において、車体とスライドドアとの間で、部分的に車体の前方に露出してしまうことがある。このようなケーブル支持装置においては、足の引っ掛け又は荷物のぶつかり等により、連鎖状リンク材に対して上下方向(連結軸に沿った方向)、特に下方に向けて外力が作用する恐れがある。
【0005】
しかしながら、上述したように、連鎖状リンク材は、連結されたボール状ガイド材が第1支持材及び第2支持材により回転可能に支持されることにより、スライドドアの上下動作に伴って上下方向にも傾斜して姿勢変更可能であるものの、傾斜した姿勢からさらに上方又は下方に姿勢変更することは困難である。しかも、連鎖状リンク材自体は、左右方向にのみ屈曲可能となっている。このため、上記のようなケーブル支持装置に対して上下方向に外力が作用すると、連鎖状リンク材がさらに上下方向に姿勢変更して外力を逃がすことが困難であり、リンク部材同士の連結部分又はボール状ガイド材と連鎖状リンク材との連結部分に対して大きな負荷が掛かってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、ワイヤーハーネスを車体とスライドドアとの間に配索するためのワイヤーハーネス配索装置であって、前記車体と前記スライドドアとの間に架け渡されるワイヤーハーネスと、複数のリンク部材が各連結軸周りに相対回転可能に鎖状に連結されて形成され、前記ワイヤーハーネスが挿通された連鎖状リンク部と、前記連鎖状リンク部の端部に位置するリンク部材が連結軸周りに相対回転可能に連結された支持連結部を有し、前記ワイヤーハーネスが挿通された可動支持部と、前記可動支持部を前記連結軸に沿った回転軸周りに回転可能に支持する支持本体部と、を有し、前記車体及び前記スライドドアの少なくとも一方に設けられた回転支持部と、を備え、前記支持本体部は、前記可動支持部の前記回転軸周りの所定の回転姿勢において、前記可動支持部を、前記支持連結部における前記ワイヤーハーネスが挿通される挿通方向に沿った捻れ軸周りに回転可能に支持する。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係るワイヤーハーネス配索装置であって、前記可動支持部は、球面部を有して前記支持本体部の内部で回転可能に支持される被支持部と、前記被支持部の外周部から前記回転軸に沿った方向に突出する凸部とを有し、前記支持本体部は、前記可動支持部の前記凸部が配設され、前記可動支持部の前記回転軸周りの所定の回転姿勢における前記捻れ軸に対する周方向に沿って長尺な長孔部を有している。
【0009】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るワイヤーハーネス配索装置であって、前記可動支持部の前記回転軸周りの所定の回転姿勢は、前記スライドドアが開位置にある状態における前記回転軸周りの回転姿勢である。
【0010】
第4の態様は、第2の態様に係るワイヤーハーネス配索装置であって、前記可動支持部は、前記支持連結部から前記被支持部に亘って内部に前記ワイヤーハーネスが挿通され、前記凸部は、前記可動支持部内に挿通された前記ワイヤーハーネスが引き出される引出口部を先端部に有している。
【0011】
第5の態様は、第1〜第4のいずれか一態様に係るワイヤーハーネス配索装置であって、前記可動支持部は、前記被支持部と前記支持連結部とを接続する被ガイド部を有し、前記支持本体部は、前記被ガイド部を、前記可動支持部の前記回転軸周りの回転姿勢に応じて前記回転軸に沿った方向にガイドするガイド壁部を有している。
【0012】
第6の態様は、第2の態様に係るワイヤーハーネス配索装置であって、前記可動支持部は、前記被支持部と前記支持連結部とを接続する被ガイド部を有し、前記支持本体部は、前記被ガイド部を、前記可動支持部の前記回転軸周りの回転姿勢に応じて前記回転軸に沿った方向にガイドするガイド壁部を有し、前記ガイド壁部は、前記可動支持部が前記回転軸周りの所定の回転姿勢において前記捻れ軸周りに回転して前記凸部が前記長孔部の一端側の位置から他端側の位置に移動した状態から前記回転軸周りに回転する際に、前記凸部が前記長孔部の前記他端側の位置から前記一端側の位置に移動するように、前記被ガイド部をガイドする形状に形成されている。
【0013】
第7の態様は、第1〜第6のいずれか一態様に係るワイヤーハーネス配索装置であって、前記回転支持部は、前記スライドドアに設けられている。
【発明の効果】
【0014】
第1の態様に係るワイヤーハーネス配索装置によると、車体とスライドドアとの間に架け渡されるワイヤーハーネスが、複数のリンク部材が各連結軸周りに相対回転可能に鎖状に連結されて形成された連鎖状リンク部に挿通され、この連鎖状リンク部の端部に位置するリンク部材が連結軸周りに相対回転可能に連結された支持連結部を有し、ワイヤーハーネスが挿通された可動支持部と、可動支持部を回転軸周りに回転可能に支持する支持本体部とを有する回転支持部が車体及びスライドドアの少なくとも一方に設けられている。そして、支持本体部が、可動支持部の回転軸周りの所定の回転姿勢において、可動支持部を支持連結部におけるワイヤーハーネスが挿通される挿通方向に沿った捻れ軸周りに回転可能に構成されている。このため、連鎖状リンク部に対して上下方向の外力が作用しても、さらに可動支持部の捻れ軸周りの回転動作が行われることにより、その外力を捻れ軸周りの回転方向の力として吸収することができる。これにより、上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することができる。
【0015】
第2の態様に係るワイヤーハーネス配索装置によると、可動支持部が、球面部を有して支持本体部の内部で回転可能に支持される被支持部と、被支持部の外周部から回転軸に沿った方向に突出する凸部とを有し、支持本体部が、可動支持部の凸部が配設され、可動支持部の回転軸周りの所定の回転姿勢における捻れ軸に対する周方向に沿って長尺な長孔部を有している。このため、連鎖状リンク部に対して上下方向の外力が作用しても、その外力を、可動支持部の凸部が支持本体部の長孔部内で移動する方向における可動支持部の回転方向の力として吸収し、上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することができる。
【0016】
通常、車体とスライドドアとの間に架け渡されるワイヤーハーネスが挿通された連鎖状リンク部のうち、上下方向の外力が作用する可能性があるのは、スライドドアが開位置にある状態において乗降口の内側で露出される車体寄りの部位である。第3の態様に係るワイヤーハーネス配索装置では、可動支持部の回転軸周りの所定の回転姿勢は、スライドドアが開位置にある状態における回転軸周りの回転姿勢である。このため、連鎖状リンク部に対して上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することができ、より効果的に連結部分の保護を図ることができる。
【0017】
第4の態様に係るワイヤーハーネス配索装置によると、可動支持部は、支持連結部から被支持部に亘って内部にワイヤーハーネスが挿通され、凸部は、可動支持部内に挿通されたワイヤーハーネスが引き出される引出口部を先端部に有しているため、凸部と引出口部とを別々に設ける場合と比較してより簡易な構成にすることができる。
【0018】
第5の態様に係るワイヤーハーネス配索装置によると、可動支持部が被支持部と支持連結部とを接続する被ガイド部を有し、支持本体部が、被ガイド部を、可動支持部の回転軸周りの回転姿勢に応じて前記回転軸に沿った方向にガイドするガイド壁部を有しているため、スライドドアが車体に対して上下方向に移動する構造の自動車において、スライドドアの開閉動作をスムーズに行うことができる。
【0019】
第6の態様に係るワイヤーハーネス配索装置によると、ガイド壁部が、可動支持部が回転軸周りの所定の回転姿勢において捻れ軸周りに回転して凸部が長孔部の一端側の位置から他端側の位置に移動した状態から回転軸周りに回転する際に、凸部が長孔部の他端側の位置から一端側の位置に移動するように、被ガイド部をガイドする形状に形成されている。このため、スライドドアを開閉操作するだけで、連鎖状リンク部における複数のリンク部材同士が各連結軸周りに姿勢変更される動作により、可動支持部がもとの姿勢に復帰して、連鎖状リンク部に作用した外力を吸収する形態からもとの形態に復帰させることができる。
【0020】
通常、車体とスライドドアとの間に架け渡されるワイヤーハーネスが挿通された連鎖状リンク部のうち、上下方向の外力が作用する可能性があるのは、スライドドアの開状態において乗降口の内側で露出される車体寄りの部位である。第7の態様に係るワイヤーハーネス配索装置によると、回転支持部がスライドドアに設けられているため、より小さい捻れ方向の変形によって上下方向に作用する外力を吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ワイヤーハーネス配索装置が設けられた自動車の概略平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】ワイヤーハーネス配索装置の動作を示す斜視図である。
【図4】ドア側支持部の側面図である。
【図5】ドア側支持部の側断面図である。
【図6】支持本体部内における可動支持部の様子を示す平面図である。
【図7】可動支持部の斜視図である。
【図8】支持本体部の平面図である。
【図9】支持本体部の分解斜視図である。
【図10】凸部が回転用孔部内に位置する状態のドア側支持部の斜視図である。
【図11】凸部が捻れ用孔部内に位置する状態のドア側支持部の斜視図である。
【図12】図10のXII−XII線断面図である。
【図13】図11のXIII−XIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係るワイヤーハーネス配索装置20について説明する(図1〜図3参照)。ワイヤーハーネス配索装置20は、自動車10において、ワイヤーハーネス1を車体12とスライドドア14との間に配索するための構成である。
【0023】
<適用対象>
説明の便宜上、まず、ワイヤーハーネス配索装置20の適用対象である自動車10の車体12とスライドドア14との関係について説明する。
【0024】
自動車10は、車体12と車体12の一側部に設けられたスライドドア14とを備えている。この車体12の一側部には、人が車体12内部に対して乗降可能な乗降口13が設けられている。そして、スライドドア14は、図示省略のガイドレールを含むスライド支持機構部によって、乗降口13を閉じる閉位置P1と、乗降口13を開放させる開位置P2との間で移動可能に支持されている(図1〜図3参照)。
【0025】
より具体的には、スライドドア14は、主として車体12の前後方向に移動することにより、閉位置P1と該閉位置P1より車体12後方側の開位置P2との間で移動可能とされている。このスライドドア14は、閉位置P1から開位置P2への移動に伴って、車体12との干渉を避けるために、車体12の幅方向外側にも移動する。この際、スライドドア14は、車体12の幅方向において、下端部の移動量が上端部の移動量より大きくなるように設定されている。このため、スライドドア14の下端部は、スライドドア14が閉位置P1にある状態より開位置P2にある状態の方が、上端部に対して相対的に上方に位置するようになっている。また、スライドドア14は、全体として、車体12の上下方向において閉位置P1より開位置P2の方が上方に位置するように設定されることもある。
【0026】
ここでは、図1に示されるように、車体12の左側に設けられたスライドドア14を対象として説明する。
【0027】
<ワイヤーハーネス>
配索対象であるワイヤーハーネス1は、自動車10のスライドドア14に搭載される電気機器に対して常時給電又は信号伝達するための複数の電線が、結束されて配索形態に形成されたドア配索用ワイヤーハーネスである。スライドドア14に配索される電気機器としては、パワーウインドウ、ドアロック、操作スイッチ等がある。このワイヤーハーネス1における車体12からスライドドア14に架け渡される部分は、複数の電線が1本に結束されて構成されている。そして、ワイヤーハーネス1は、スライドドア14内で分岐されて各種電気機器に接続される。
【0028】
<ワイヤーハーネス配索装置>
ワイヤーハーネス配索装置20は、上記ワイヤーハーネス1と、連鎖状リンク部30と、車体側支持部40と、ドア側支持部50とを備えている(図3参照)。
【0029】
連鎖状リンク部30は、ワイヤーハーネス1を、主として一平面上で曲げ変形されるようにガイドする部分である。この連鎖状リンク部30は、自身が一平面上で曲げ変形可能に形成され、内部にワイヤーハーネス1が挿通されることにより、ワイヤーハーネス1をガイドする。
【0030】
より具体的には、連鎖状リンク部30は、複数のリンク部材32が各連結軸周りに回転可能に鎖状に連結されて構成されている(図4、図5参照)。連鎖状リンク部30は、基本的に連結軸方向には曲げ変形されないが、連結軸方向に外力が作用した場合、僅かに撓んで連結軸方向に曲げ変形されることもある。
【0031】
リンク部材32は、内側にワイヤーハーネス1を挿通可能な略直線状の内部空間を有している。ここで、リンク部材32それぞれにおいて、ワイヤーハーネス1が挿通される内部空間の延在方向を挿通方向と称する。そして、複数のリンク部材32が鎖状に(直列に)連結されることにより、複数のリンク部材32の各内部空間が連通して線状に延びるワイヤーハーネス1挿通用の空間が形成される。この連鎖状リンク部30は、ケーブルベア(登録商標)とも呼ばれる。
【0032】
ここでは、リンク部材32は、挿通方向に沿って長尺な一対の壁部が間隔をあけて対向する形態で設けられ、挿通方向における中間部分が枠状に形成された形状に形成されている。また、リンク部材32は、一対の壁部のうち、中間部分から挿通方向一方側に延出する一方(車体12側)の連結部に一対の壁部を結ぶ方向に貫通する連結用凹部が形成され、中間部分から他方側に延出する他方(スライドドア14側)の連結部に他のリンク部材32の連結用凹部内に突出する連結用凸部が形成されている形状である。そして、一のリンク部材32の連結用凸部が他のリンク部材32連結用凹部に挿入された状態で、リンク部材32同士が連結軸周りに相対回転可能に連結される。ここで、連結軸は、連結用凸部の突起方向及び連結用凹部の貫通方向に沿って、連結用凸部及び連結用凹部の中心を通る仮想軸である。
【0033】
この連鎖状リンク部30は、連結された複数のリンク部材32に対して傷付き防止用に外装される角筒状のグロメット、コルゲートチューブ等の保護材38を有していることもある。
【0034】
連鎖状リンク部30は、延在方向両端部がそれぞれ車体12及びスライドドア14に設けられる各支持部に対して支持されることにより、スライドドア14の開閉動作に伴って、主として一の仮想平面上で曲げ変形されるように車体12とスライドドア14との間に架け渡されている。前記仮想平面は、概略的には、車体12側の支持部の位置とスライドドア14側の支持部の移動経路とを含む平面である。
【0035】
本ワイヤーハーネス配索装置20では、連鎖状リンク部30は、車体12及びスライドドア14の少なくとも一方に設けられた回転支持部により、車体12側及びスライドドア14側の少なくとも一方の端部が支持されている。ここでは、連鎖状リンク部30の車体12側の端部が車体12に設けられた車体側支持部40に支持され、スライドドア14側の端部がスライドドア14に設けられた前記回転支持部としてのドア側支持部50に支持される例で説明する(図1参照)。
【0036】
車体側支持部40は、連鎖状リンク部30における車体12側の端部に位置するリンク部材32が連結軸周りに回転可能に連結される(又は回転不能に固定される)ことにより、連鎖状リンク部30の車体12側の端部を支持する部分である。前記連結軸は、連鎖状リンク部30における各リンク部材32同士の連結部分における連結軸と平行に設定されている。この車体側支持部40は、車体12に対して直接的又は間接的にネジ止め等により取り付けられている。また、車体側支持部40は、連鎖状リンク部30内に挿通されているワイヤーハーネス1を車体12内の配索経路に案内する案内空間を有するように形成されている。そして、車体12内に案内されるワイヤーハーネス1は、車体12側の各種電装品或いはこれに接続されたケーブルに対して電気的に接続される。
【0037】
ドア側支持部50は、連鎖状リンク部30を回転軸A周りに回転可能に支持する部分である。このドア側支持部50は、可動支持部60と、支持本体部70とを有している(図4〜図6参照)。なお、図4、図5では右側が自動車10の前方、図6では上側が前方である。
【0038】
可動支持部60は、連鎖状リンク部30が連結され、支持本体部70に対して主として回転軸A周りに回転可能に支持される部分である。また、可動支持部60は、連鎖状リンク部30の内部に挿通されたワイヤーハーネス1が挿通される内部空間を有している。この可動支持部60は、支持連結部62と被ガイド部64と被支持部66と凸部68を有し、この支持連結部62と被ガイド部64と被支持部66とが一方向に連続して設けられた構成である(図7参照)。
【0039】
支持連結部62は、連鎖状リンク部30におけるスライドドア14側の端部に位置するリンク部材32が連結軸周りに回転可能に連結される部分である。前記連結軸は、連鎖状リンク部30における各リンク部材32同士の連結部分における連結軸と平行に設定されている。この支持連結部62は、角筒状に形成され、その内部空間に連鎖状リンク部30に挿通されたワイヤーハーネス1を挿通可能である。連鎖状リンク部30側で開口する開口部を挿入口部63という。この支持連結部62では、支持連結部62と被ガイド部64と被支持部66とが連続する方向にワイヤーハーネス1が挿通されるため、この方向を支持連結部62の挿通方向という。
【0040】
被ガイド部64は、後述する支持本体部70の一対のガイド壁部74によりガイドされる部分である。被ガイド部64は、円筒形状に形成され、中心軸が支持連結部62の挿通方向に沿う形態で延在して支持連結部62と被支持部66とを接続する形状に形成されている。被ガイド部64においても、中心軸の方向を挿通方向という。
【0041】
もっとも、被ガイド部64は、その周方向において、一対のガイド壁部74に接触する部位に中心軸に対する周方向に沿った弧状面を有していればよい。また、被ガイド部64は、ワイヤーハーネス1を挿通する内部空間を有する筒状であればよく、内部形状は中心軸に直行する断面視において円形に限られない。
【0042】
被支持部66は、球面部を有して支持本体部の内部で回転可能に支持される部分である。ここでは、被支持部66は、被ガイド部64の端部に連続した球状に形成され、支持本体部70により2軸周りに(3次元的に)回転可能に支持される部分である。より具体的には、被支持部66は、被ガイド部64の外径より大きい球状に形成されている。そして、被支持部66は、被ガイド部64が一対のガイド壁部74にガイドされることにより、主として、支持連結部62及び被ガイド部64の挿通方向に略直交する回転軸A周りに回転するように動作が規制されている。
【0043】
また、被支持部66は、支持連結部62及び被ガイド部64の内部空間と連通する内部空間を有している。被支持部66の内部空間は、支持連結部62及び被ガイド部64の挿通方向に沿った方向から回転軸Aに沿った方向に屈曲して延在している(図5参照)。
【0044】
また、可動支持部60は、被支持部66の外周部から回転軸Aに沿った方向に突出する凸部68を有している。この凸部68は、後述する支持本体部70の長孔部76内に配設される部分である。
【0045】
より具体的には、凸部68は、回転軸Aを中心軸とする円周面を有する形状に形成されている。ここでは、凸部68は、被支持部66の内部空間に連通した内部空間を有する筒状に形成され、その先端部で開口し、可動支持部60の内部空間に挿通されたワイヤーハーネス1が引き出される引出口部69を有している。凸部68は、支持連結部62と被ガイド部64と被支持部66とが連なる方向に対して略直交する方向に突出しており、引出口部69は、挿入口部63と略直交する方向に開口している。すなわち、可動支持部60の内部空間は、一方が挿入口部63で開口すると共に他方が引出口部69で開口し、支持連結部62から被支持部66に亘って略L字状に延在している。
【0046】
もっとも、凸部68は、被支持部66の外周部のうち、回転軸Aに沿った方向の両側に形成されていてもよい。この場合、一方の凸部68は、中空状でなく中実状に形成されていてもよい。
【0047】
また、引出口部69は、凸部68の先端部で開口するように形成されている場合に限られず、被支持部66の回転軸Aに沿った方向における凸部68とは反対側の部位で開口するように形成されていてもよい。
【0048】
支持本体部70は、主として可動支持部60を連鎖状リンク部30における連結軸に沿った回転軸A周りに回転可能に支持する部分である。ここで、連結軸に沿ったとは、回転軸Aが連結軸に真に平行な場合だけでなく、設計上の誤差、連鎖状リンク部30の撓み等により僅かに傾いている場合も含むものとする。この支持本体部70は、スライドドア14に対して直接的或いは間接的に(例えば、スライドドア14内に設けられる図示省略のガイドレールに沿って移動可能な部材に対して)ネジ止め等により取り付けられている。なお、支持本体部70(ドア側支持部50)は、車体側支持部40との関係では、スライドドア14が閉位置P1にある状態で車体側支持部40より前方に位置し、開状態で車体側支持部40より後方に位置するものとする(図1、図3参照)。
【0049】
支持本体部70は、略直方体に形成された本体部分から、固定対象(ここではスライドドア14)に対して固定するための2つのブラケットが張り出した形状に形成されている。例えば、支持本体部70は、このブラケットがネジ止め、嵌め込み等されることにより固定対象に対して固定される。この支持本体部70は、前記本体部分に形成された支持凹部72と、一対のガイド壁部74と、長孔部76とを有している。
【0050】
支持凹部72は、可動支持部60の被支持部66を配設可能な内部空間を有する凹状荷形成され(図9参照)、被支持部66を2軸周りに回転可能に支持する部分である。より具体的には、支持凹部72は、被支持部66より大きい(ここでは僅かに大きい)球状の内部空間を有する形状に形成されている。すなわち、支持凹部72は、被支持部66をがたつきなく回転可能に内部に配設可能なサイズに設定されているとよい。そして、支持凹部72は、その内部に被支持部66が配設された状態で、内周面が被支持部66の外周面に接触することにより、被支持部66の中心点を略中心として2軸周りに回転可能に支持する。
【0051】
支持凹部72の内部空間は、支持本体部70の本体部分における隣接する2面で連続する一対のガイド壁部74を有するガイド開口部75、及び、前記2面に隣接する1つの面で開口する長孔部76を通じて外方に開放されている。支持本体部70(ドア側支持部50)は、ガイド開口部75が自動車10の後方側及び車内側(図6の下側及び右側)に向けて開口すると共に、長孔部76が上方に向けて開口する姿勢で、スライドドア14に設けられている。
【0052】
ガイド開口部75は、支持本体部70の本体部分における隣接する2面で連続して開口するように延在して、支持凹部72の内部から支持本体部70の外方に貫通する長孔である。このガイド開口部75の内側には、被支持部66が支持凹部72内に配設された可動支持部60の被ガイド部64が移動可能に配設される。より具体的には、ガイド開口部75は、ドア側支持部50の平面視において、可動支持部60の支持連結部62が自動車10の前後方向に沿って後方を向く姿勢と、前後方向に対して傾いて前方且つ車内側を向く姿勢との間で姿勢変更可能なように、被ガイド部64を移動可能に配設する(図6参照)。
【0053】
一対のガイド壁部74は、ガイド開口部75における長尺方向に沿った対向する壁部であり、被ガイド部64を、可動支持部60の回転軸A周りの回転姿勢に応じて回転軸Aに沿った方向にガイドする部分である(図4、図9参照)。ここで、一対のガイド壁部74が被ガイド部64をガイドする回転軸Aに沿った方向とは、可動支持部60の回転軸Aと支持連結部62の挿通方向とに直交する軸周りにおける被ガイド部64の比較的小さい角度範囲の接線方向に近似される動作の方向を指す。また、一対のガイド壁部74は、被ガイド部64の外径と略同じ(ここでは僅かに大きい)寸法の間隔をあけて延在している。そして、一対のガイド壁部74は、被ガイド部64を間に介在させて、内周部が被ガイド部64の外周部に接触することにより被ガイド部64を位置規制する。
【0054】
ここでは、上下方向において、ドア側支持部50は、スライドドア14の開操作に伴って車体側支持部40に対して徐々に上方に移動する。また、説明の便宜上、スライドドア14の開閉動作時におけるガイド開口部75内の回転軸A周りの被ガイド部64の移動態様について説明しておく。スライドドア14が閉位置P1にある状態では、被ガイド部64は、自動車10の後方に向かい、ガイド開口部75の一方の端部に位置する。そして、スライドドア14が開位置P2付近に移動されるまで、被ガイド部64はガイド開口部75の一方の端部に位置する。また、スライドドア14が開位置P2付近まで移動されると、被ガイド部64は、ガイド開口部75の一方の端部側から他方の端部側に向けて移動する。そして、スライドドア14が開位置P2にある状態で、被ガイド部64は、自動車10の前方且つ車内側に向かい、ガイド開口部75の他方の端部に位置する。
【0055】
このドア側支持部50の車体側支持部40に対する上下動作に対応して、一対のガイド壁部74は、支持本体部70の車内側の部位において、前方に向けて下方に傾斜する形状で延在している。すなわち、スライドドア14が開位置P2側に移動されるにつれて、可動支持部60の支持連結部62の先端部が下がるように設計された形状である。また、スライドドア14が開位置P2にある状態で、被ガイド部64は、ガイド開口部75の前方側の端部に留まり易い。一方、一対のガイド壁部74のうち支持本体部70の後方側の部位は、端部側の部分が下方に傾斜する形状で延在している。すなわち、スライドドア14が閉位置P1にある状態で、被ガイド部64は、ガイド開口部75の前方側の端部に留まり易い。
【0056】
このように、一対のガイド壁部74により被ガイド部64がガイドされる可動支持部60が、回転軸Aと支持連結部62の挿通方向とに直交する軸周りに微小に回転されるため、可動支持部60の回転軸Aは、スライドドア14の開閉操作に伴って僅かに姿勢変更する。
【0057】
支持本体部70は、可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢において、可動支持部60を、支持連結部62における挿通方向に沿った捻れ軸B周りに回転(捻れ動作)可能に支持している。ここでは、支持本体部70の長孔部76により、可動支持部60の凸部68の移動範囲を規制することにより、捻れ動作を可能にしている。なお、上記捻れ軸Bとは、支持連結部62及び被ガイド部64の挿通方向に沿った軸であり、ここでは、被支持部66の中心点を通る被ガイド部64の中心軸と一致する。
【0058】
長孔部76は、可動支持部60の凸部68が配設され、可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢における捻れ軸Bに対する周方向に沿って長尺に形成された孔部である。すなわち、可動支持部60の所定の回転姿勢は、スライドドア14が開位置P2にある状態における回転姿勢である。この長孔部76は、長尺方向の一方の端部側の位置である回転用孔部77と、他方の端部側の位置である捻れ用孔部78とを有する形状に形成されている(図8参照)。
【0059】
回転用孔部77は、可動支持部60が回転軸A周りに回転動作される際に、凸部68が配設される略円形の孔部である。この回転用孔部77は、凸部68より大きい直径に設定されている。また、回転用孔部77は、外方側の開口部が支持凹部72側の開口部より大きく設定されている。上述したように、可動支持部60は、被ガイド部64が一対のガイド壁部74にガイドされることにより、回転軸Aを傾かせて姿勢変更しつつその回転軸A周りに回転する。このため、凸部68は被支持部66の中心点周りに回転軸Aの傾く範囲で移動される。この移動範囲で凸部68を移動可能に配設するように、回転用孔部77は、上記サイズに設定されている。
【0060】
捻れ用孔部78は、可動支持部60が捻れ軸B周りに回転(捻れ動作)する際に、凸部68が配設される孔部である。換言すると、捻れ用孔部78は、スライドドア14が開位置P2(又はその付近)にある状態でのみ可動支持部60が捻れ軸B周りに回転するように、凸部68の移動経路を規制する部分である。この捻れ用孔部78は、回転用孔部77に対して、前記状態における捻れ軸Bに対する周方向に並んで設けられている。
【0061】
すなわち、長孔部76は、スライドドア14が開位置にある状態における可動支持部60の回転軸A周りの回転姿勢において、捻れ軸Bに対する周方向に長尺に形成されている。ここでは、長孔部76は、支持本体部70の平面視において、自動車10の前後方向に対して反時計回りに傾く方向に延在し、捻れ用孔部78が回転用孔部77に対して前方且つ車外側に向けて延在するように形成されている。もっとも、長孔部76が長尺な方向は、スライドドア14が開位置P2にある状態における捻れ軸Bの支持本体部70に対する向きによって決定されるため、ドア側支持部50の固定姿勢、車体側支持部40とドア側支持部50との位置関係による連鎖状リンク部30の曲げ形態等により異なる。
【0062】
捻れ用孔部78は、回転用孔部77との連通方向に直交する方向の幅寸法が凸部68の直径と略同じ(ここでは僅かに大きい)大きさに設定されている。すなわち、凸部68が捻れ用孔部78内に移動した状態では、なるべく可動支持部60が捻れ方向に回転する動作のみをするように、凸部68の移動経路が設定されている。
【0063】
また、捻れ用孔部78は、その先端(長孔部76の一方の端部)側の部分が支持凹部72側から外方側に向けて先端部側に傾斜して、支持凹部72側より外方側が大きく開口する形状に形成されている(図12、図13参照)。より具体的には、捻れ用孔部78の先端側部分における内周部は、可動支持部60が捻れ方向に回転して、被支持部66の中心点の周りに移動した凸部68の外周面が沿う形状に形成されている。
【0064】
そして、可動支持部60が支持本体部70に支持され、スライドドア14が開位置P2にある状態で、可動支持部60が捻れ軸B周りに車体12側から見て時計回りに回転すると、凸部68は、回転用孔部77内から捻れ用孔部78内に移動する(図10〜図13参照)。
【0065】
上記長孔部76は、支持本体部70におけるワイヤーハーネス1の引出用の開口を兼ねている。すなわち、可動支持部60内に挿通されることにより支持本体部70内に挿通されるワイヤーハーネス1は、可動支持部60の凸部68に形成された引出口部69から引き出されることにより長孔部76を通じて支持本体部70の外方に延出する。
【0066】
また、上記一対のガイド壁部74及び長円部76の内周部の形状は、スライドドア14の閉操作に伴う連鎖状リンク部30の曲げ変形動作により、可動支持部60が捻れ軸B周りに回転した捻れ状態から復帰する形状としても作用するものである。
【0067】
一対のガイド壁部74は、可動支持部60が捻れ軸B周りに回転して凸部68が長孔部76の回転用孔部77内から捻れ用孔部78内に移動した状態で回転軸A周りに回転する際に、凸部68が長孔部76の捻れ用孔部78内から回転用孔部77内に移動するように、被ガイド部64をガイドする形状に形成されている。より具体的には、一対のガイド壁部74のうちの一方(上側)のガイド壁部74は、凸部68が捻れ用孔部78内に位置した状態で回転軸A周りに回転することによる被ガイド部64の上方への移動を規制する構成として、被ガイド部64の回転軸A回りの移動経路に対して交差する(遮る)方向に沿って延在する面を有している。ここでは、前記面は、一方のガイド壁部74における前方側の端部寄りの部位である。すなわち、支持本体部70は、可動支持部60に対して回転軸A周りの回転方向の力が加えられ始めるのとほぼ同時に、可動支持部60が復帰動作をするように設定されている。
【0068】
もっとも、一方のガイド壁部74は、前方側の端部寄りの部位が、凸部68が捻れ用孔部78内にある状態における被ガイド部64の回転軸A周りの移動経路に沿った形状に形成され、その先で前記移動経路に対して交差する方向に沿って延在する形状に形成されていてもよい。この構成によれば、可動支持部60が回転軸A周りに回転する途中の姿勢で復帰動作をするように動作させられる。
【0069】
また、長孔部76の内周部は、凸部68が捻れ用孔部78内にある状態で可動支持部60が回転軸A周りに回転された際に、一方のガイド壁部74により被ガイド部64がガイドされて姿勢変更しようとする可動支持部60の凸部68を、長孔部76の長尺方向における回転用孔部77側にガイドする形状に形成されている。より具体的には、長孔部76における捻れ用孔部78の内周部は、一方のガイド壁部74により被ガイド部64がガイドされることによる可動支持部60の凸部68の車内側への移動を規制する構成として、凸部68が移動しようとする経路に対して交差して(遮って)長孔部76の長尺方向に延在する面を有している。
【0070】
ここでは、上記支持本体部70は、2つの分割部材を組み合わせて構成されている(図9参照)。すなわち、可動支持部60を挟んで2つの分割部材を組み合わせることにより、可動支持部60が支持本体部70により支持されている。
【0071】
次に、スライドドア14が開位置P2にある状態において、連鎖状リンク部30に対して上下方向(捻れ変形前の複数のリンク部材32同士の連結軸に沿った方向)下方に向かう外力が作用したときのワイヤーハーネス配索装置20の動作について説明する(図3参照)。スライドドア14が開位置P2にある状態では、ドア側支持部50は、車体側支持部40より後方且つ車外側に位置している(図1参照)。そして、連鎖状リンク部30は、車体側支持部40から車外側に延び出すと共に後方に曲げられて後方に向けて延在し、スライドドア14側の端部寄りの部分でさらに車外側に曲げられてドア側支持部50に向かう緩やかな平面視略S形状を成している。また、ドア側支持部50においては、可動支持部60は、支持連結部62が車内側且つ前方に向かう姿勢となっている(図6の二点鎖線参照)。
【0072】
連鎖状リンク部30のうち車体側支持部40から後方に向けて曲げられた部位に対して、下方に向けて外力(図3の実線矢印参照)が作用すると、連鎖状リンク部30には、延在方向において車体12側から見て時計回りに回転しようとする捻れ応力が作用する。すなわち、車体側支持部40に対して車外側が下方に移動しようとするため、連鎖状リンク部30のうち車体側支持部40から後方に向けて延在する部分には、前方から見て時計回りに回転しようとする捻れ応力が作用する。また、ドア側支持部50に対して前方側が下方に移動しようとするため、連鎖状リンク部30のうちドア側支持部50寄りの部分には、車体12側から見て時計回りに回転しようとする捻れ応力が作用する(図3の二点鎖線矢印参照)。
【0073】
すると、連鎖状リンク部30に連結された可動支持部60に対しても、車体12側から見て時計回りの力が作用する。これにより、可動支持部60は、凸部68が長孔部76において回転用孔部77内(図10、図12参照)から捻れ用孔部78内に移動し、捻れ軸B周りにおいて車体12側から見て捻れ軸B周りにおける時計回りに回転する(図11、図13参照)。そして、連鎖状リンク部30において外力が作用した部位の周りの部分は、下方に移動した状態となる。すなわち、支持本体部70による可動支持部60の支持構造部において、外力を可動支持部60の捻れ方向の回転動作により吸収している。
【0074】
上記のように外力を吸収した状態から、スライドドア14が閉操作されると、凸部68が長孔部76において捻れ用孔部78内から回転用孔部77内に移動して、可動支持部60は捻れ状態から復帰される。
【0075】
より具体的には、スライドドア14の閉操作により、連鎖状リンク部30が曲げ変形され始めると、各リンク部材32同士が各連結軸周りに相対回転しようとすると共に、連鎖状リンク部30により支持連結部62が押される可動支持部60も支持本体部70に対して回転軸A周りに回転しようとする。しかしながら、凸部68が捻れ用孔部78内にある状態の回転軸A周りに可動支持部60が回転されようとすると、被ガイド部64が一方のガイド壁部74に当接して回転軸A周りの移動を規制され、一方のガイド壁部74に沿った経路にガイドされる。また、被ガイド部64が一方のガイド壁部74に沿った経路にガイドされることにより姿勢変更する可動支持部60の凸部68は、捻れ用孔部78の幅方向に対向する壁部の一方に当接して、長孔部76の長尺方向にガイドされる。
【0076】
つまり、凸部68が捻れ用孔部78内に位置する状態において可動支持部60が回転軸A周りに回転しようとする力を、可動支持部60が捻れ軸B周りに逆回転する力として働かせている。これにより、凸部68が、長孔部76において捻れ用孔部78内から回転用孔部77内に移動する。
【0077】
また、上記可動支持部60の復帰動作には、連鎖状リンク部30が曲げ変形されることによる支持連結部62を押し上げようとする力も、可動支持部60を捻れ軸B周りに車体12側から見て反時計回りに回転させる力として補助的に作用する。
【0078】
そして、可動支持部60が捻れ状態から復帰した後、連鎖状リンク部30は、車体側支持部40の位置とドア側支持部50の移動経路を含む平面上に延在し、スライドドア14の動作に伴って該平面上で曲げ変形される。
【0079】
これまで、ワイヤーハーネス配索装置20について、ドア側支持部50が連鎖状リンク部30をスライドドア14側の端部で支持する例で説明したが、この構成に限られるものではない。例えば、ワイヤーハーネス配索装置は、ドア側支持部50と同様構成の支持部が、連鎖状リンク部30を車体12側の端部で支持するように設けられた構成、又は、連鎖状リンク部30を両端部で支持するように設けられた構成であってもよい。
【0080】
また、支持本体部70の長孔部76は、スライドドア14が開位置P2にある状態で可動支持部60が捻れ軸B周りに回転する場合に限られず、スライドドア14が開位置P2以外の位置にある状態で連鎖状リンク部30に対して上下方向の力が作用する恐れがある場合等には、その位置で可動支持部60が捻れ軸B周りに回転するように長尺方向が設定されていてもよい。
【0081】
また、可動支持部60の被支持部66と支持本体部70の支持凹部72とは、被支持部66が、支持凹部72内に配設された状態で上述した2軸周りの動作が可能であればよい。例えば、被支持部は、回転軸Aの両端部に1つの仮想球面に沿った一対の球面部を有すると共に、一対の球面部の間に円柱状の中間部を有する形状に形成されてもよい。また、支持凹部は、直方体状の内部空間を有する凹部を有すると共に、凹部における対向する一対の壁部に1つの仮想球面に沿った一対の支持面部を有する形状に形成されてもよい。すなわち、被支持部は球面部を有し、支持凹部は内周部が被支持部の球面部に接触することにより被支持部を支持するように構成されていればよい。
【0082】
また、支持本体部70が、可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢において、可動支持部60を捻れ軸B周りに回転可能に支持する構成は、凸部68と長孔部76との組合せによるものに限られるものではない。例えば、可動支持部の被支持部に形成される引出口部とは反対側に長円凹部が形成されると共に、支持本体部の支持凹部の内周部から前記長円凹部内に突出してその内側で相対移動可能な凸部が形成された構成を採用することもできる。
【0083】
上記構成に係るワイヤーハーネス配索装置20によると、車体12とスライドドア14との間に架け渡されるワイヤーハーネス1が、複数のリンク部材32が各連結軸周りに相対回転可能に鎖状に連結されて形成された連鎖状リンク部30に挿通され、この連鎖状リンク部30の端部に位置するリンク部材32が連結軸周りに相対回転可能に連結された支持連結部62を有してワイヤーハーネス1が挿通された可動支持部60と、可動支持部60を回転軸A周りに回転可能に支持する支持本体部70とを有するドア側支持部50がスライドドア14に設けられている。そして、支持本体部70が、可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢において、可動支持部60を捻れ軸B周りに回転可能に構成されている。このため、連鎖状リンク部30に対して上下方向の外力が作用しても、外力が作用した姿勢からさらに可動支持部60の捻れ軸B周りの回転動作が行われることにより、その外力を捻れ軸B周りの回転方向の力として吸収することができる。これにより、上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することができる。
【0084】
また、可動支持部60が、支持本体部70内に配設されて3次元的に回転可能に支持される被支持部66と、被支持部66の外周部から回転軸Aに沿った方向に突出する凸部68とを有し、支持本体部70において可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢における捻れ軸Bに対する周方向に沿って長尺に形成された長孔部76内に可動支持部60の凸部68が配設されている。このため、連鎖状リンク部30に対して上下方向の外力が作用しても、その外力を、可動支持部60の凸部68が支持本体部70の長孔部76内で移動する方向における可動支持部60の捻れ軸B周りの回転方向の力として吸収し、上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することができる。
【0085】
また、通常、車体12とスライドドア14との間に架け渡されるワイヤーハーネス1が挿通された連鎖状リンク部30のうち、上下方向の外力が作用する可能性があるのは、スライドドア14が開位置P2にある状態において乗降口13の内側で露出される車体12寄りの部位である。本実施形態に係るワイヤーハーネス配索装置20によると、可動支持部60の回転軸A周りの所定の回転姿勢は、スライドドア14が開位置P2にある状態における回転軸A周りの回転姿勢である。このため、連鎖状リンク部30に対して上下方向に作用する外力により各連結部分に掛かる負荷を軽減することができ、より効果的に連結部分の保護を図ることができる。
【0086】
また、可動支持部60は、支持連結部62から被支持部66に亘ってワイヤーハーネス1が挿通され、凸部68は、可動支持部60内に挿通されたワイヤーハーネス1が引き出される引出口部69を先端部に有しているため、凸部68と引出口部69とを別々に設ける場合と比較してより簡易な構成にすることができる。さらに、支持本体部70の開口縁部(ここでは長孔部76の開口縁部)からワイヤーハーネス1を保護する効果も得られる。
【0087】
また、可動支持部60が被支持部66と支持連結部62とを接続する被ガイド部64を有し、支持本体部70が、被ガイド部64を、可動支持部60の回転軸A周りの回転姿勢に応じて回転軸Aに沿った方向にガイドする一対のガイド壁部74を有しているため、スライドドア14が車体12に対して上下方向に移動する構造の自動車10において、スライドドア14の開閉動作をスムーズに行うことができる。
【0088】
また、一対のガイド壁部74が、可動支持部60が捻れ軸B周りに回転して凸部68が長孔部76における回転用孔部77内から捻れ用孔部78内の位置に移動した状態から回転軸A周りに回転する際に、凸部68が長孔部76の捻れ用孔部78内から回転用孔部77内の位置に移動するように、被ガイド部64をガイドする形状に形成されている。このため、スライドドア14を閉操作するだけで、連鎖状リンク部30における複数のリンク部材32同士が各連結軸周りに姿勢変更される動作により、可動支持部60がもとの姿勢に復帰して、連鎖状リンク部30に作用した外力を吸収する形態からもとの形態に復帰させることができる。
【0089】
また、通常、車体12とスライドドア14との間に架け渡されるワイヤーハーネス1が挿通された連鎖状リンク部30のうち、上下方向の外力が作用する可能性があるのは、スライドドア14の開位置P2において乗降口13の内側で露出される車体12寄りの部位である。本実施形態に係るワイヤーハーネス配索装置20によると、ドア側支持部50がスライドドア14に設けられているため、より小さい捻れ方向の変形によって上下方向に作用する外力を吸収することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 ワイヤーハーネス
10 自動車
12 車体
14 スライドドア
20 ワイヤーハーネス配索装置
30 連鎖状リンク部
32 リンク部材
50 ドア側支持部
60 可動支持部
62 支持連結部
64 被ガイド部
66 被支持部
68 凸部
70 支持本体部
74 一対のガイド壁部
76 長孔部
A 回転軸
B 捻れ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーハーネスを車体とスライドドアとの間に配索するためのワイヤーハーネス配索装置であって、
前記車体と前記スライドドアとの間に架け渡されるワイヤーハーネスと、
複数のリンク部材が各連結軸周りに相対回転可能に鎖状に連結されて形成され、前記ワイヤーハーネスが挿通された連鎖状リンク部と、
前記連鎖状リンク部の端部に位置するリンク部材が連結軸周りに相対回転可能に連結された支持連結部を有し、前記ワイヤーハーネスが挿通された可動支持部と、前記可動支持部を前記連結軸に沿った回転軸周りに回転可能に支持する支持本体部と、を有し、前記車体及び前記スライドドアの少なくとも一方に設けられた回転支持部と、
を備え、
前記支持本体部は、前記可動支持部の前記回転軸周りの所定の回転姿勢において、前記可動支持部を、前記支持連結部における前記ワイヤーハーネスが挿通される挿通方向に沿った捻れ軸周りに回転可能に支持する、ワイヤーハーネス配索装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤーハーネス配索装置であって、
前記可動支持部は、球面部を有して前記支持本体部の内部で回転可能に支持される被支持部と、前記被支持部の外周部から前記回転軸に沿った方向に突出する凸部とを有し、
前記支持本体部は、前記可動支持部の前記凸部が配設され、前記可動支持部の前記回転軸周りの所定の回転姿勢における前記捻れ軸に対する周方向に沿って長尺な長孔部を有している、ワイヤーハーネス配索装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤーハーネス配索装置であって、
前記可動支持部の前記回転軸周りの所定の回転姿勢は、前記スライドドアが開位置にある状態における前記回転軸周りの回転姿勢である、ワイヤーハーネス配索装置。
【請求項4】
請求項2に記載のワイヤーハーネス配索装置であって、
前記可動支持部は、前記支持連結部から前記被支持部に亘って内部に前記ワイヤーハーネスが挿通され、
前記凸部は、前記可動支持部内に挿通された前記ワイヤーハーネスが引き出される引出口部を先端部に有している、ワイヤーハーネス配索装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のワイヤーハーネス配索装置であって、
前記可動支持部は、前記被支持部と前記支持連結部とを接続する被ガイド部を有し、
前記支持本体部は、前記被ガイド部を、前記可動支持部の前記回転軸周りの回転姿勢に応じて前記回転軸に沿った方向にガイドするガイド壁部を有している、ワイヤーハーネス配索装置。
【請求項6】
請求項2に記載のワイヤーハーネス配索装置であって、
前記可動支持部は、前記被支持部と前記支持連結部とを接続する被ガイド部を有し、
前記支持本体部は、前記被ガイド部を、前記可動支持部の前記回転軸周りの回転姿勢に応じて前記回転軸に沿った方向にガイドするガイド壁部を有し、
前記ガイド壁部は、前記可動支持部が前記回転軸周りの所定の回転姿勢において前記捻れ軸周りに回転して前記凸部が前記長孔部の一端側の位置から他端側の位置に移動した状態から前記回転軸周りに回転する際に、前記凸部が前記長孔部の前記他端側の位置から前記一端側の位置に移動するように、前記被ガイド部をガイドする形状に形成されている、ワイヤーハーネス配索装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のワイヤーハーネス配索装置であって、
前記回転支持部は、前記スライドドアに設けられている、ワイヤーハーネス配索装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−35331(P2013−35331A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170826(P2011−170826)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】