説明

ワクチン組成物

本発明は、腫瘍の治療法に関する。特に本発明は、一般的ながんの治療のための、特に黒色腫の治療のための、ハイパーサイトカインで修飾した同種細胞を含むワクチン組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍の治療法(tumour therapy)に関する。特に本発明は、一般的ながんの治療(treatment)のための、特に黒色腫の治療のための、ハイパーサイトカインで修飾した同種(allogenic)細胞を含むワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカイン及びサイトカイン受容体
IL−11は、IL−6、白血病抑制(Inhibitor)因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、カルジオトロフィン1(CT−I)と共に、造血サイトカインのファミリー(IL−6型又はgp130サイトカイン類と称される)に属し、構造的類似性及び共通の受容体サブユニット(gp130)を共有する(非特許文献1)。IL−6型サイトカインの各々が特異的な(特有の)受容体複合体を必要とするが、少なくとも1分子のgp130が常に結合している。最初にリガンド(IL−6、IL−11、CNTF)は、そのα非シグナル伝達受容体サブユニットと特異的に結合し、次にシグナル伝達受容体鎖を動員する。IL−6及びIL−11はシグナルを伝達するためにgp130ホモ二量体を使用するが、LIF、CNTF、CT−Iはヘテロ二量体gp130/LIFRを利用する。OSMは、gp130/OSMR又はgp130/LIFRヘテロ二量体のいずれかを動員する(非特許文献2、非特許文献3でレビューされている)。
【0003】
IL−6型サイトカインの三次構造は、近年力を入れて研究されている。結晶構造が、LIF(非特許文献4)、CNTF(非特許文献5)、IL−6(非特許文献6)及びOSM(非特許文献7)に関して決定されている。これらの研究により、各リガンドが、長鎖4ヘリックスバンドル位相(four-helix bundle topology)を示し、それは長さが15個〜22個のアミノ酸の範囲にある4本の密集したα−ヘリックス(A、B、C及びDと称される)を含むことが明らかにされた。ヘリックスは、ポリペプチドループにより上−上−下−下(up-up-down-down)配置で接続されている。A−Bループ及びC−Dループは平行のヘリックスを接続するので比較的長いが、B−Cループは逆平行のヘリックスの対を接続するのでより短い。IL−6型サイトカインの詳細な構造解析及び突然変異誘発研究により、3つの受容体結合部位(I、II、IIIと呼ばれる)が同定されており、これらはgp130ファミリーの間で保存されているようである(非特許文献3でレビューされている)。リガンドがその非シグナル伝達受容体と結合することを可能とする部位Iは、A−BループのC末端部分とDヘリックスのC末端残基とに由来するアミノ酸により形成される。部位IIは、IL−6型サイトカインの全メンバーに関する普遍的なgp130結合部位であるようであり、ヘリックスA及びヘリックスC上の露出残基から成る。部位IIIは、ヘリックスDのN末端半分、A−BループのN末端部分、及びC−Dループの終末のアミノ酸残基から構成される。この部位は常に、リガンドの同一性に応じて、第2のシグナル伝達受容体(gp130、LIFR又はOSMR)により占有されている。
【0004】
IL−6型サイトカインシグナル伝達に関与する受容体は、I型膜タンパク質に属する。これらの受容体は、細胞外N末端と1つの膜貫通ドメインとを保有する(CNTFRは例外であり、それは脂質アンカーにより膜と連結されている)(非特許文献8)。その細胞外領域における共通の構造モチーフのために、これらの受容体はサイトカイン受容体クラスIファミリーに分類される(非特許文献1)。このファミリーは、D2及びD3と呼ばれる2つのフィブロネクチンIII型様ドメイン(FNIII)から成る少なくとも1つのサイトカイン結合相同ドメイン(CHD)の存在を特徴とする。CHDは、およそ200個のアミノ酸から構成され、N末端ドメインに位置が保存された4つのシステイン残基、及びC末端ドメインに保存された特徴的なTrp−Ser−X−Trp−Ser(WSXWS)モチーフを有する。さらに各受容体サブユニットが、Ig様ドメインを含有し、それは膜近位CHDのN末端に位置する。IL−6型受容体は、αサブユニット及びβサブユニットという2つの群に分けられる。受容体α(IL−6、IL−11及びCNTFに関する)は、シグナル伝達に関与しない。シグナル伝達受容体鎖であるサブユニットβは、αサブユニットよりも大幅に大きい細胞質部分を含有し、且つ膜貫通受容体二量体の安定化に及び/又は方向づけ等において何らかの役割を果たし得る3つの膜近位FNIIIドメインを有する(非特許文献3、非特許文献2でレビューされている)。膜結合型IL−6型受容体サブユニットに加えて、それらの可溶型が生体液中に見出された(非特許文献9でレビューされている)。可溶型サブユニットは、膜結合型受容体の限定的タンパク質分解(脱落)により、又は異なるスプライシングを受けたmRNAからの翻訳により、形成される。
【0005】
サイトカイン及びサイトカイン受容体の融合タンパク質
幾つかの分子薬剤の潜在的生物活性を増大させ、修飾するために、2つの可溶性の自然に存在する成分を連結するという考えが想定されている。かかる融合タンパク質は、既に説明されている。別々にコードされているIL−12のサブユニット(p35及びp40)が、ポリペプチドリンカーにより接続されている(非特許文献10)。ハイパーIL−6は新しいデザイナー薬剤の別の例であり、これはポリペプチドリンカーによりIL−6と接続されたIL−6Rα鎖のD2ドメイン及びD3ドメインから成る(非特許文献11及び特許文献1)。IL−6の場合には、膜IL−6Rを欠く細胞の刺激に必要なIL−6及びsIL−6Rの有効濃度が非常に高いことが観察された(非特許文献12)。さらに、IL−6/sIL−6R複合体の平均半減期が、IL−6/sIL−6R/gp130複合体を集合させるのに必要な時間よりも短いかもしれない(非特許文献13)。IL−6/sIL−6R複合体の安定性が、融合タンパク質(ハイパーIL−6)を創出するために両方の成分を連結することにより、増強された(特許文献1)。ハイパーIL−6は、そのシグナル伝達受容体サブユニットと直接結合し、IL−6活性を増強することができる。ハイパーIL−6は十分に活性な融合タンパク質であり、可溶性IL−6分子及びsIL−6R分子の組合せと比較して100倍〜1000倍低い用量で、応答を媒介する(非特許文献11)。同様に、IL−6型ファミリーに対して、IL−11/R−FPと称される別のスーパーアゴニストが設計されている(非特許文献14)。IL−11/R−FPは、IL−11RのD2ドメイン及びD3ドメイン(位置:L/109〜G/318)とIL−11(位置:P/29〜L/199)とを21個のアミノ酸のリンカーを使用して共有結合で連結することにより創出され、IL−11及びsIL−11Rの組合せよりもin vitroでの活性が50倍高いことが実証された。しかし、この構築物はヒトIL−11R及びIL−11の切断セグメントから構成されていたので、それぞれの受容体及びサイトカインの自然に存在する部分を欠く。さらに、使用した人工リンカーは天然に存在する配列ではなく、このことはヒト患者の治療に使用した場合IL−11/R−FPの免疫原性の一因となる。全長sIL−11の大部分を含む別のsIL−11R−IL−11の融合タンパク質は特許文献2で説明されており、IL−11/R−FPと比較して有利な特性を示すものであった。
【0006】
特許文献3(Yeda Research and Development Co. Ltd.(Revel M.et al.)「キメラのインターロイキン−6可溶性受容体/リガンドタンパク質、その類似体およびその使用(Chimericinterleukin-6 soluble receptor/ligand protein, analogs thereof and uses thereof)」、1999年1月21日公開)は、sIL−6R及びIL−6の融合タンパク質生成物を含むキメラタンパク質、並びにかかるタンパク質の生物学的に活性な類似体に関する。これらのキメラタンパク質では、sIL−6Rは、直接、又は特異的なリンカーペプチドを介して、IL−6と融合され得る。特許文献3では、がん細胞の阻害剤としての上記キメラタンパク質又は類似体の使用の可能性がさらに論じられている。哺乳動物のがんを治療するための、骨髄移植の増強のための、造血(hematopoeisis)を増大させるための、又は肝障害若しくは神経障害を治療するための、薬物の調製のために上記キメラタンパク質を使用することも意図されている。特許文献3の実施例の節で産出及び試験された特定の融合タンパク質sIL−6R/IL−6及びsIL−6RδVal/IL−6は、非特許文献15による論文においても研究されている。
【0007】
総説(非特許文献16)では、インターロイキン−6ハイパーアゴニスト及びアンタゴニストの治療的用途の可能性が論じられている。上記治療的用途は、血液学的障害、固形悪性腫瘍、心虚血及び心臓移植、骨疾患、糸球体腎炎及びアミロイドーシス、後天性免疫不全症候群、リウマチ性障害、自己免疫、やけど及び大外傷、貧血症、骨髄移植および腫瘍の治療法における未熟造血幹細胞の増殖、血小板新生及び肝再生の誘発を含む。
【0008】
サイトカイン及びその生理学的受容体を含む、上述したもののような融合タンパク質は、個々のサイトカイン及び/又はサイトカイン及びその可溶性受容体の混合物と比較した場合により低用量で高活性であるために、「ハイパーサイトカイン」と呼ばれることもある。
【0009】
腫瘍ワクチン
治療的がんワクチンの概念は、獲得免疫が刺激及び活性化されて、腫瘍細胞を特異的に認識し死滅させることができるという知識に基づいている。ここ25年間、複数のワクチン研究により、例えば腎細胞がんにおいて、選択した患者における免疫学的応答及び臨床的応答が実証されている(非特許文献17)。組換えサイトカイン及び遺伝子送達系をもたらした、分子生物学及び生命工学において為された進歩に伴う腫瘍関連抗原又は樹状細胞(DC)の発見に続いて、腫瘍ワクチン投与の複数の戦略が提唱された:特定のアジュバント(例えば、カルメット・ゲラン桿菌、コリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)又はIFN)と混和した腫瘍細胞から成る腫瘍細胞ベースのワクチン;免疫刺激因子をコードする遺伝子を発現する腫瘍細胞に基づく遺伝子的に修飾した腫瘍ワクチン;及び腫瘍由来RNAで修飾した、ペプチド/腫瘍可溶化物を搭載した(loaded)、又は腫瘍細胞と融合したDC。
【0010】
本出願の発明者らは、大規模生産のために設計された腫瘍ワクチンを研究した。かかる腫瘍ワクチンは、照射され腫瘍保有患者に注入される、樹立同種腫瘍細胞から成る。ハイパーサイトカインを発現するように遺伝子的に修飾した腫瘍細胞での研究では、本発明者らは驚くべきことに、2つの異なる遺伝子的に修飾した腫瘍細胞株を含む組成物が、少なくとも末梢血リンパ球のIL−2及びINF−γ産生に対して、相乗効果を有することを見出した。このIL−2及びINF−γの産生の増大により、細胞傷害活性に関連するTh1免疫応答への、免疫応答の有益なシフトがもたらされる。したがって、同じ又は異なるハイパーサイトカインを発現するように遺伝子的に修飾した第1の同種細胞株及び第2の同種細胞株を含む本発明の組成物は、従来技術から既知であるような腫瘍の治療のための薬物としてより好適であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第97/32891号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/113591号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/02552号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】BazanJF. Structural design and molecular evolution of a cytokine receptorsuperfamily. Proc Natl AcadSci U S A. 1990 Se; 87(18):6934-8.
【非特許文献2】Heinrich PC, Behrmann I, Haan S, Hermanns HM, Muller-Newen G, Schaper F. Principles ofinterleukin (IL)-6-type cytokine signalling and its regulation. Biochem J. 2003 Aug 15;374(Pt 1):1-20.
【非特許文献3】B Bravo J, Heath JK. Receptor recognition by gp130cytokines. EMBO J. 2000 Jun 1;19(11):2399- 411.
【非特許文献4】Robinson RC, Grey LM, Staunton D, VankelecomH, Vernallis AB, Moreau JF, Stuart DI, Heath JK,Jones EY. The crystal structure and biological function of leukemiainhibitory factor: implications for receptor binding. Cell. 1994 Jul 1;77(7): 1101-16.
【非特許文献5】McDonald NQ, PanayotatosN, Hendrickson WA. Crystalstructure of dimeric human ciliaryneurotrophic factor determined by MAD phasing. EMBOJ. 1995 Jun 15;14(12):2689-99.
【非特許文献6】SomersW, Stahl M, Seehra JS. 1.9 A crystal structure ofinterleukin 6: implications for a novel mode of receptor dimerizationand signaling. EMBOJ. 1997 Mar 3;16(5):989-97.
【非特許文献7】Deller MC, Hudson KR, Ikemizu S,Bravo J, Jones EY, Heath JK. Crystalstructure and functional dissection of the cytostaticcytokine oncostatin M. Structure Fold Des. 2000 Aug15;8(8):863-74.
【非特許文献8】Davis S,Aldrich TH, Valenzuela DM, Wong VV, Furth ME, SquintoSP, Yancopoulos GD. The receptor for ciliary neurotrophic factor.Science. 1991 Jul 5;253(5015):59-63.
【非特許文献9】Marz P, Otten U, Rose-John S. Neuralactivities of IL-6-type cytokines often depend on soluble cytokine receptors. Eur J Neurosci. 1999Sep;11(9):2995-3004.
【非特許文献10】Lieschke GJ, Rao PK, Gately MK, Mulligan RG. Bioactive murineand human interleukin-12 fusion proteins which retain antitumouractivity in vivo. Nat Biotechnol. 1997 Jan; 15(1): 35-40.
【非特許文献11】Fischer M, Goldschmitt J, Peschel C, Brakenhoff JP, Kallen KJ, Wollmer A, Grotzinger J, Rose-John S. I. A bioactive designer cytokinefor human hematopoietic progenitor cell expansion. Nat Biotechnol.1997 Feb; 15(2): 142-5.
【非特許文献12】Rose-JohnS, Schooltink H, Lenz D, Hipp E, Dufhues G, Schmitz H, Schiel X, Hirano T,Kishimoto T, Heinrich PC. Studieson the structure and regulation of the human hepatic interleukin-6 receptor. Eur J Biochem. 1990 May31;190(1):79-83.
【非特許文献13】Wells JA. Binding in the growth hormone receptorcomplex. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Jan 9;93(l):l-6.
【非特許文献14】Pflanz S, Tacken I, Grotzinger J, Jacques Y, MinvielleS, Dahmen H, Heinrich PC, Muller-NewenG. A fusion protein of interleukin-11 and soluble interleukin-11 receptor actsas a superagonist on cells expressing gp130. FEBS Lett. 1999 Apr 30;450(1-2): 117-22.
【非特許文献15】Chebath J. et al. Interleukin-6 receptor-interleukin-6 fusionproteins with enhanced interleukin-6 type pleiotropicactivities. European Cytokine Network, Dec 1997, vol. 8, no. 4, pp. 359-365
【非特許文献16】Kallen K.J. et al. Thetherapeutic potential of interleukin-6 hyperagonistsand antagonists. Expert Opinion on Investigational Drugs (1997 Mar), vol. 6,No. 3, pp. 237-266
【非特許文献17】Kubler H, Vieweg J. Vaccines inrenal cell carcinoma. Semin. Oncol.(2006) 33(5):614-624.
【発明の概要】
【0013】
第1の態様によれば、本発明は、(1)第1のハイパーサイトカインを発現するように修飾した1つ又は複数の第1の細胞、及び(2)第2のハイパーサイトカインを発現するように修飾した1つ又は複数の第2の細胞を含む組成物であって、1つ又は複数の第2の細胞が1つ又は複数の第1の細胞と異なる、組成物に関する。
【0014】
第2の態様によれば、本発明は、医療(medicine)における使用のための、第1の態様による組成物に関する。
【0015】
第3の態様によれば、本発明は、薬学的に許容可能な希釈剤、担体、賦形剤、充填剤、結合剤、滑剤、流動促進剤(glidants)、崩壊剤、吸着剤及び/又は保存料をさらに含む第1の態様又は第2の態様による組成物を含む、医薬組成物に関する。
【0016】
第4の態様によれば、本発明は、がんの治療又は予防のための、第1の態様若しくは第2の態様による組成物、又は第3の態様による医薬組成物に関する。
【0017】
第5の態様では、本発明は、がんの治療又は予防のための医薬組成物の調製のための、第1の態様又は第2の態様による組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】同種混合腫瘍リンパ球反応(AMTLR)におけるT細胞増殖応答を示す図である。 カラム1:自発的なT細胞増殖、すなわち腫瘍細胞なし; カラム2:IL−6の存在下における、自発的なT細胞増殖(腫瘍細胞なし); カラム3:H6の存在下における、自発的なT細胞増殖(腫瘍細胞なし); カラム4:同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム5:IL−6の存在下における、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム6:H6の存在下における、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖。
【図2】同種混合腫瘍リンパ球反応(AMTLR)におけるT細胞増殖に及ぼす抗IL−2抗体の効果を示す図である。 カラム1:同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム2:IL−6の存在下における、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム3:H6の存在下における、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム4:IL−2を中和した場合の、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム5:IL−2を中和した場合の、IL−6の存在下における、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖; カラム6:IL−2を中和した場合の、H6の存在下における、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖。
【図3】MFI及びpg/mlとして表した、Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞によるサイトカイン分泌を示す図である。
【図4】MFI及びpg/mlとして表した、健常個体から単離したPBLCによるサイトカイン分泌を示す図である。
【図5】Mich1−H6細胞による、Mich2−H6細胞による、並びにMich1−H6細胞及びMich2−H6細胞の組合せによる、PBLCのサイトカイン産生の刺激による結果を示す図である。結果は、MFIとして、及びpg/mlで表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
方法論、プロトコル及び試薬は変化し得るため、本発明が以下で詳細に説明されるに先立ち、本発明は、本明細書で説明される特定の方法論、プロトコル及び試薬に限定されないと理解すべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、添付した特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないとも理解すべきである。他に規定のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。
【0020】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingualglossary of biotechnological terms:(IUPACRecommendations)", Leuenberger,H. G. W, Nagel, B. and Koelbl,H. eds.(1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel,Switzerland)で説明されているように定義される。
【0021】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲を通して、文脈上他に必要な場合以外は、「を含む(comprise)」という単語、並びに「を含む(comprises)」及び「を含む(comprising)」等の変化形は、記載の整数又は工程又は整数若しくは工程の群を包含することを示唆するが、任意の他の整数又は工程又は整数若しくは工程の群を除外することを示唆しないと理解されよう。
【0022】
複数の文献が、本明細書の本文を通して引用される。本明細書で引用される各々の文献(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、取扱説明書、GenBankアクセッション番号配列寄託(submissions)等を含む)は、上記のもの又は下記のもののいずれかに関わらず、その全体が参照により本明細書に援用される。本明細書のいかなる記載事項も、本発明が先願発明に基づくかかる開示に先行する権利を有しないことを承認するものとは解釈されない。
【0023】
「ハイパーサイトカイン」という用語は、(a)サイトカイン受容体の可溶性部分、及び(b)サイトカイン受容体の上記可溶性部分と生理学的条件下で結合することができるサイトカイン、及び可溶性サイトカイン受容体とサイトカインとの間に位置する任意のペプチドリンカーを含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る融合タンパク質を表す。好ましい実施形態では、上記サイトカインは、GM−CSF、IL−6、IL−11、IL−15、抗TGF、EPO、インターフェロン、LIF、OSM、CNTF、CT−1である。サイトカインがサイトカイン受容体との関係でN末端に位置する場合、サイトカインはその分泌シグナルを依然として含むことが好ましく、それはタンパク質の成熟の過程で切断され、すなわち、成熟ハイパーサイトカインタンパク質は分泌シグナルを含まない。サイトカインがサイトカイン受容体との関係でC末端に位置する場合、サイトカインはその分泌シグナルを含まないことが好ましい。「可溶性サイトカイン受容体」という用語は、サイトカイン受容体の可溶性断片を表し、それは、例えばsIL−6R及びsIL−11Rのように、膜貫通部分及び細胞質ゾル部分のほとんど又は全てを欠いており且つサイトカイン受容体の細胞外部分のほとんど又は全てを含む。受容体断片が、受容体断片を発現する哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞の膜に挿入されていない場合、又は本質的に挿入されていない場合、受容体断片は可溶性である。サイトカイン受容体がサイトカインとの関係でN末端に位置する場合、サイトカイン受容体は、その分泌シグナルを依然として含むことが好ましく、それはタンパク質の成熟時に切断され、すなわち、成熟ハイパーサイトカインタンパク質は分泌シグナルを含まない。サイトカイン受容体がサイトカインとの関係でC末端に位置する場合、サイトカイン受容体はその分泌シグナルを含まないことが好ましい。上で示したように、ハイパーサイトカインは必要に応じて、サイトカイン受容体とサイトカインとの間に位置するペプチドリンカーを含んでいてもよい。好ましくは、上記ペプチドリンカーは、免疫原性が低い、又は非免疫原性である。より好ましくは、上記ペプチドリンカーは、ヒトに対して非免疫原性である。好ましい実施形態では、可溶性サイトカイン受容体はハイパーサイトカインのアミノ末端部分に位置しており、サイトカインは、ハイパーサイトカインのカルボキシ末端部分に位置している。
【0024】
「ハイパーサイトカイン活性」という用語は、融合タンパク質の活性を表す。特に好ましいハイパーサイトカインは、該ハイパーサイトカインの基となるサイトカインに対して、又はサイトカイン及びサイトカイン受容体の混合物、すなわちハイパーサイトカインを形成する未融合部分、に対して、同じアッセイで同じモル量に基づき100倍〜1000倍高い活性を有するが、全てのハイパーサイトカインがかかる劇的な改善を示すわけではなく、該改善はとりわけ、含まれるサイトカイン及び可溶性サイトカイン受容体の部分の長さと、(存在する場合には)存在するタンパク質リンカーの長さとに依存する。本発明において利用することができるハイパーサイトカインの基礎を形成するそれぞれのサイトカインの活性を評価する、多数のアッセイが知られている。それぞれのハイパーサイトカインが、該ハイパーサイトカインの基となる天然サイトカイン(同じモル量で)、又はサイトカインとサイトカイン受容体の可溶性部分との未融合部分の混合物の少なくとも10倍の活性を有する場合、本発明の意味の範囲内においてハイパーサイトカイン活性を示すとみなす。好ましくは、ハイパーサイトカインは、該ハイパーサイトカインの基となるサイトカイン、又はサイトカインと可溶性サイトカイン受容体との組合せの、同じモル量で少なくとも20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、150倍、200倍、250倍、300倍、350倍、400倍、450倍、5000倍(folde)、550倍、600倍、650倍、700倍、750倍、800倍、850倍、900倍、950倍又は1000倍の活性を有する。好適なアッセイ系は、例えばIL−6ハイパーサイトカインに関しては、非特許文献11で説明されているようなBAF−3/細胞の増殖の誘導を含む。
【0025】
本明細書を通して使用される「少なくとも90%の配列同一性」という表現は、好ましくは少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の、それぞれの基準ポリペプチドに対する配列同一性を表す。配列同一性の百分率を算出する比較対象となる基準配列が特定されていない場合、配列同一性は、比較される2つの配列のうち長い方の配列を基準として算出される。基準配列が示されている場合、配列同一性は、配列番号により示される配列の全長に基づいて確定される。例えば、配列番号2による全長IL−6のアミノ酸と比較して21個のアミノ酸から成るペプチド配列は9.9%(21:212)という最大の配列同一性の百分率を示すことがあり、106個のアミノ酸の長さを有する配列は50%(106:212)という最大の配列同一性の百分率を示すことがある。
【0026】
ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の類似性、すなわち配列同一性の百分率は、配列アライメントにより確定することができる。かかるアライメントは、幾つかの当該技術分野で既知のアルゴリズムにより、好ましくはhmmalign(HMMER package, http://hmmer.wustl.edu/)により、又はCLUSTALアルゴリズム(Thompson, J. D., Higgins, D. G., Gibson, T. J. (1994) Nucleic AcidsRes. 22, 4673-80)(例えばhttp://www.ebi.ac.uk/clustalw/で、又はhttp://npsa-pbil.ibcp.fr/cgi-bin/npsa_automat.pl?page=/NPSA/npsa_clustalw.htmlで利用可能である)により、実施することができる。使用する好ましいパラメータは、http://www.ebi.ac.uk/clustalw/index.html#で設定されているような初期設定パラメータである。配列同一性の程度(配列一致度)は、例えばBLAST、BLAT又はBlastZ(又はBlastX)を使用して算出することができる。好ましくは、配列一致度解析を、Shuffle−LAGAN(Brudno M., Bioinformatics2003, 19 Suppl 1:I54-I62)等の確立された相同性マッピング法、又はマルコフ確率場(Markov random fields)により、追加で行うことができる。配列同一性の百分率が本発明との関連で算出されると、これらの百分率は、他に特に記載がなければ、より長い配列の全長との関連で算出される。
【0027】
本発明との関連では「ペプチドリンカー」は、1個〜100個のアミノ酸のアミノ酸配列を表す。好ましい実施形態では、本発明によるペプチドリンカーは、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個又は30個のアミノ酸の最小長さを有する。さらに好ましい実施形態では、本発明によるペプチドリンカーは、100個、95個、90個、85個、80個、75個、70個、65個、60個、55個、50個、45個、40個、35個、34個、33個、32個、31個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個又は15個のアミノ酸又はそれ以下の最大長さを有する。特に好ましい実施形態では、本発明によるペプチドリンカーの上述した好ましい最小長さ及び最大長さを組み合わせることができる(かかる組合せが数学的に意味をなすならば)。さらに好ましい実施形態では本発明のペプチドリンカーは非免疫原性であり、特に好ましい実施形態では、ペプチドリンカーはヒトに対して非免疫原性である。
【0028】
本発明の具体的形態
本発明をここでさらに説明する。以下の節では、本発明の種々の態様をより詳細に規定する。そうして規定した各態様は、反対の内容が明示されない限り、任意の他の態様(単数又は複数)と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であるとして示した任意の特徴を、好ましい又は有利であるとして示した任意の他の特徴(単数又は複数)と組み合わせることができる。
【0029】
第1の態様では、本発明は、
(1)第1のハイパーサイトカインを発現するように修飾した1つ又は複数の第1の細胞、及び
(2)第2のハイパーサイトカインを発現するように修飾した1つ又は複数の第2の細胞
を含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る組成物であって、1つ又は複数の第2の細胞が1つ又は複数の第1の細胞と異なる、組成物を提供する。
【0030】
第1の細胞及び第2の細胞が異なる細胞株に由来する場合、及び/又は第2の細胞が第1の細胞と異なる遺伝子修飾を保有する場合、例えば第1の細胞及び第2の細胞が異なるハイパーサイトカインを発現するように修飾されている場合、第2の細胞は第1の細胞と異なる。好ましい実施形態では、第1の細胞及び第2の細胞はそれぞれ、2つの異なる個体の組織に、好ましくは2人の異なるヒトに由来する。2つの組織、好ましくは腫瘍組織が同じ型のものであることが好ましい。本明細書で使用される場合、「組織」という用語は、例えば皮膚、肝臓、脳、腎臓、肺、胃、結腸、膀胱又は精巣のような固形組織と、例えばリンパ球又は幹細胞のような移動性細胞集団との両方を表す。細胞は自家性又は同種であることが考え得るが、第1の細胞及び/又は第2の細胞が同種性であることが特に好ましい。「同種」という用語は、細胞と該細胞を受け入れる患者との間の関係を特徴づける。特定の個体由来の細胞は、任意の他の患者に対して同種であり、その特定の個体に対しては自家性である。同種性は任意の細胞ベースのワクチンの工業的大規模生産の前提条件であるが、これは、そうでなければ各細胞ワクチンを治療されるそれぞれの患者から単離及び培養した細胞から個々に生産しなければならないためである。同種細胞は、自家性細胞より同種細胞の方が患者においてより強い免疫応答を誘発する傾向があるということを含む、さらなる利点をもたらす。
【0031】
本発明において使用する場合、「1つ又は複数の第1の細胞」及び「1つ又は複数の第2の細胞」という用語は、個々の細胞を、その細胞のクローン集団を、及び類似の細胞の集合体(assortment)を表す。したがって、細胞が一次組織、好ましくは原発性腫瘍に由来する好ましい一実施形態では、細胞の全てがクローン性であるというわけではなく、特定の細胞及び/又は腫瘍型に属する1、2、3以上のクローン性細胞集団から構成される。特に、腫瘍細胞は増殖により高い遺伝子的変動性を示すので、或る樹立細胞株内の細胞が遺伝子的に完全に同一だというわけではないことはよく知られている。これらの細胞は、類似の細胞の集合体の一例である。別の例は、或る腫瘍を起源とする原発性腫瘍細胞であり、該細胞はin vitroで1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回以上継代培養され、該継代培養により、増殖する細胞サブタイプの選択と、それにより細胞集団の不均一性の低減とがもたらされる、すなわち細胞の集合体をより類似したものにする。第1の細胞及び/又は第2の細胞が一次組織、好ましくは同じ型の一次組織、特に腫瘍組織に由来する一実施形態では、第1の細胞及び第2の細胞が2つの異なる個体、好ましくは2人の異なるヒトに由来する場合、それらは異なるとみなす。
【0032】
「発現するように修飾した」という用語は、それぞれのハイパーサイトカインをコードする遺伝子が、ハイパーサイトカインをコードする遺伝子の安定な発現と、その後のそれぞれのハイパーサイトカインの産生とを可能にする形態で、細胞中に安定に導入されていることを示す。
【0033】
好ましくはハイパーサイトカインをコードする遺伝子は哺乳動物細胞における使用のための発現ベクター中に導入され、該ベクターは通常、任意の必要なリボソーム結合部位、RNAスプライシング部位、ポリアデニル化部位及び転写ターミネーター配列と共に、複製起点(必要に応じて。以下を参照されたい)、発現される遺伝子の前に位置するプロモーター、必要に応じてトランスに(in trans)エンハンサーを含む。かかる発現ベクターをその後使用して、それぞれのハイパーサイトカインを発現するように細胞を修飾することができる。
【0034】
好ましい一実施形態では、本発明の発現ベクターは、プラスミド;ファージミド;ファージ;コスミド;人工染色体、特に人工の哺乳動物染色体、又は人工の酵母染色体;ノックアウト構築物又はノックイン構築物;ウイルス、特にアデノウイルス、ワクシニアウイルス、弱毒化ワクシニアウイルス、カナリアポックスウイルス、レンチウイルス(Chang LJ, Gay EE. The molecular genetics of lentiviralvectors--current and future perspectives. Curr Gene Ther. 2001 Sep;l(3):237-51.)、ヘルペスウイルス、特に単純ヘルペスウイルス(HSV−1、Carlezon WA Jr, Nestler EJ, Neve RL. Herpes simplex virus-mediated gene transfer as atool for neuropsychiatric research. Crit Rev Neurobiol. 2000; 14(1):47-67.)、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、Carter PJ, Samulski RJ. Adeno-associatedviral vectors as gene delivery vehicles. Int J MoI Med. 2000 Jul;6(l): 17-27.)、ライノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、フィロウイルス、及び上述のウイルスの操作版(engineered versions)(例えばKobinger et al, 2001を参照されたい);ビロソーム;「ネイキッド」DNA、リポソーム;ウイルス様粒子;並びに核酸コーティング粒子、特にゴールド・スフェア(gold spheres)を含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る。アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクター又はレトロウイルスベクター(Lindemann D, Patriquin E, Feng S, Mulligan RC.Versatile retrovirus vector systems for regulated gene expression in vitro andin vivo. MoI Med. 1997 Jul;3(7):466-76.及びSpringer ML, Chen AS, Kraft PE, BednarskiM, Blau HM. VEGF gene delivery to muscle: potentialrole for vasculogenesis in adults. Mol Cell 1998Nov;2(5):549-58.)等のウイルスベクターが特に好ましい。かかる組換えウイルスベクターの生成を可能にするプラスミドの例は、pFastBacl(Invitrogen Corp., Carlsbad CA)、pDCCMV(Wiznerowicz M, Fong AZ, Mackiewicz A, Hawley RG. Double-copy bicistronicretroviral vector platform for gene therapy and tissue engineering: applicationto melanoma vaccine development. GeneTher. 1997Oct;4(10):1061-8.)及びpShuttle−CMV(Q-biogene,Carlsbad, California)を含む。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合には、コード配列を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーター及び三部分リーダー配列に連結することができる。in vitro又はin vivoの組換えにより、アデノウイルスのゲノム中にハイパーサイトカイン遺伝子を挿入することができる。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1、E3又はE4)への挿入により、生存可能であり且つ感染した細胞中でそれぞれのハイパーサイトカインを発現することができる組換えウイルスがもたらされる。ハイパーサイトカインを発現するように修飾した第1の細胞及び/又は第2の細胞がウイルス粒子を産生するのを妨げるために、使用するウイルスベクターを複製不能なように修飾することが好ましい。
【0035】
導入遺伝子の安定な発現を可能にするために、発現ベクターは、細胞のゲノムから独立した複製を可能にする複製起点が与えられる必要がある、又は第1の細胞及び/又は第2の細胞のゲノム中に組み込まれる必要がある。前者の場合は、発現ベクターはエピソームとして維持される。好適な複製起点を、SV40又は他のウイルス(例えば、ポリオーマ、アデノ、CMV、VSV、BPV)源から得ることができる。後者の場合は、発現ベクターがゲノム、例えば染色体中に組み込まれれば、複製起点を与えることは必要ではない。
【0036】
ハイパーサイトカインを発現させるために、ハイパーサイトカインをコードする遺伝子は、細胞の転写機構により認識されるプロモーター及び/又はエンハンサーと操作可能に連結される。好適なプロモーターは、哺乳動物細胞のゲノム(例えば、メタロチオネインプロモーター)に、又は哺乳動物ウイルス(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター若しくはサイトメガロウイルスプロモーター)に由来し得る。SV40ウイルスの初期プロモーター及び後期プロモーターは、両方ともSV40ウイルス複製起点も含有する断片としてウイルスから容易に得られるので、特に有用である。HindIII部位からウイルス複製起点に位置するBglII部位までに及ぶおよそ250bpの配列が含まれる場合には、より小さい又はより大きいSV40断片も使用することができる。さらに、ハイパーサイトカインの基となるサイトカイン又はサイトカイン受容体をコードするポリヌクレオチドと通常結合しているプロモーター又は制御配列を利用することも可能であり、そのことが望ましい場合がある。
【0037】
本明細書で使用される場合、「操作可能に連結される」は、発現制御配列が対象のコード配列の発現を効果的に制御するように遺伝子構築物に組み込まれていることを意味する。
【0038】
ハイパーサイトカインをコードする配列の効率的な翻訳のために特定の開始シグナルが必要とされることもある。これらのシグナルは、ATG開始コドン及び隣接配列を含む。ATG開始コドンを含む外来の翻訳制御シグナルを与えることがさらに必要とされることがある。当業者は、容易にこれを確定し、必要なシグナルを与えることができる。開始コドンは、全挿入物の翻訳を確実にするために所望のコード配列のリーディングフレームとインフレーム(又はインフェーズ)でなければならないことが既知である。これらの外来の翻訳制御シグナル及び開始コドンは、天然及び合成の両方から成る様々な起源のものであり得る。適当な転写エンハンサー要素及び転写ターミネーターを含めることにより、発現効率を向上させることができる。真核性発現では、元のクローニングしたセグメント内にポリアデニル化部位が含有されていなかった場合、通常、転写ユニット中に適当なポリアデニル化部位(例えば、5’−AATAAA−3’)を組み込むことも望ましい。典型的には、ポリA付加部位は、転写終結前の或る位置のタンパク質終結部位の約30〜2000ヌクレオチド「下流」に置かれる。
【0039】
上で示したように、ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを使用するよりも、適当な発現制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位等)により制御したベクター及び選択性マーカーで、細胞を形質転換することができる。外来DNAの導入後、操作した細胞を強化培地中で1日間〜2日間成長させることができ、その後選択培地に変更する。組換えプラスミド中の選択性マーカーにより、選択に対する抵抗性がもたらされ、細胞の染色体中に安定にプラスミドを組み込み、細胞を成長させて引き続き細胞株へとクローン化および拡張することができる中心部(foci)を形成することが可能となる。
【0040】
tk細胞、hgprt細胞又はaprt細胞におけるそれぞれ単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hgprt)遺伝子及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(aprt)遺伝子を含むがこれらに限定されない多数の選択系を使用することができる。また、抗代謝剤抵抗性を、メトトレキサートに対する抵抗性をもたらすジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr);ミコフェノール酸に対する抵抗性をもたらすgpt;アミノグリコシドG−418に対する抵抗性をもたらすネオマイシン(neo);及びハイグロマイシンに対する抵抗性をもたらすハイグロマイシン(hygro)に関する選択の基礎として使用することができる。
【0041】
好ましい一実施形態では、修飾される細胞を形質転換する、トランスフェクトする又は感染させるのに使用される発現ベクターは、ハイパーサイトカインをコードする遺伝子と共に1つの転写物として選択性マーカーをコードする遺伝子を含む。選択性マーカー及びハイパーサイトカインの個々の発現を確認するために、配列内リボソーム侵入部位(IRES)が2つのコード配列の間に配置される。
【0042】
本発明の組成物中に含まれる細胞は、好ましくは別々に増殖させる。好ましくは該細胞は、以下の2つの様式のうち1つでin vitroで増殖させる:培養の大半を通して懸濁液中で成長する非足場依存性の細胞として、又はその増殖のために固体基板への付着を必要とする足場依存性の細胞として(すなわち、単層型の細胞成長)。適当な成長条件は、細胞の種類により確定し、当業者が日常的な実験を使用することにより確定することができる。
【0043】
第1の態様の組成物の好ましい一実施形態では、第1のハイパーサイトカイン及び/又は第2のハイパーサイトカインは、可溶性サイトカイン受容体及びサイトカインを含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る融合タンパク質である。好ましい実施形態では、可溶性サイトカイン受容体が(a)sIL−6R、sIL−11R、sOSM−R、sCNTF−R及びsCT−I−Rから成る群;又は(b)(a)によるポリペプチドと少なくとも90%の配列同一性を示すポリペプチドから独立して選択され、かつサイトカインが(c)IL−6、IL−11、OSM、CNTF及びCT−Iから成る群;又は(d)(c)によるポリペプチドと少なくとも90%の配列同一性を示すポリペプチドから独立して選択され、そして必要に応じて可溶性サイトカイン受容体とサイトカインとの間にペプチドリンカーが存在し、得られた融合タンパク質はハイパーサイトカイン活性を有する。好ましくは、融合タンパク質のN末端からC末端までの配置は以下の通りである:可溶性サイトカイン受容体−任意のペプチドリンカー−サイトカイン。発現されたハイパーサイトカインの分泌を確認するために、ハイパーサイトカインは少なくとも1つの天然又は人工の分泌シグナルを含む。全てのサイトカインが分泌されるので、全てのサイトカインが当然にかかる分泌シグナルを含む。類似のシグナルペプチドが、サイトカイン受容体においても見出される。好ましくはこの分泌シグナルは、融合タンパク質のN末端に位置する。分泌シグナルは、ハイパーサイトカインのプロセッシング時及び/又は分泌時に切断される。
【0044】
sIL−6R、sIL−11R、sOSM−R、sCNTF−R及びsCT−I−Rについて言及する場合、好ましくはヒト起源のIL−6R、IL−11R、OSM−R、CNTF−R及びCT−I−Rのそれぞれの可溶性部分を意味し、本明細書でこれらの配列はIL−6Rに関しては配列番号1として、及びIL−11Rに関しては配列番号3として示される。全ての他のサイトカイン受容体の配列は、NIHのGenebank又はEMBLのデータバンクで、例えばOSM−R(Genebankアクセッション番号:NP_003990)及びCNTF−R(Genebankアクセッション番号:NP_001833)に関して、得ることができる。IL−6、IL−11、OSM、CNTF及びCT−Iについて言及する場合、好ましくはヒト起源のIL−6、IL−11、OSM、CNTF及びCT−Iを意味し、本明細書でこれらの配列はIL−6に関しては配列番号2として、及びIL−11に関しては配列番号4として示される。全ての他のサイトカインの配列は、NIH又はEMBLデータバンクで、例えばOSM(Genebankアクセッション番号:P13725)及びCNTR(Genebankアクセッション番号:NP_000605)に関して、得ることができる。
【0045】
第1の態様の組成物の一実施形態では、ハイパーサイトカインは、
(a)ヒト可溶性IL−6受容体(sIL−6R)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−6R部分であって、上記配列同一性は配列番号1のP113からA323までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−6R部分、
(b)ヒトインターロイキン−6(IL−6)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−6部分であって、上記配列同一性は配列番号2のP29からM212までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−6部分、及び
(c)任意のペプチドリンカー
を含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る融合タンパク質であり、
ここで融合タンパク質は、IL−6活性の関連のアッセイ(例えば非特許文献11に記載のBAF−3/細胞の増殖の誘導)で試験した場合、配列番号9によるハイパーIL−6融合タンパク質の活性の好ましくは少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%以上のハイパーサイトカイン活性を有する。
【0046】
第1の態様の組成物のさらなる一実施形態では、ハイパーサイトカインは、
(a)ヒト可溶性IL−11受容体(sIL−11R)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−11R部分であって、上記配列同一性は配列番号3のM1からG365までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−11R部分、
(b)ヒトインターロイキン−11(IL−11)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−11部分であって、上記配列同一性は配列番号4のA19からL199までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−11部分、及び
(c)任意のペプチドリンカー
を含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る融合タンパク質であり、
ここで融合タンパク質は、IL−11活性の関連のアッセイで試験した場合、配列番号11によるsIL−11R−IL−11融合タンパク質の活性の好ましくは少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%以上のハイパーサイトカイン活性を有する。
【0047】
第1の態様の組成物のさらに好ましい一実施形態では、ハイパーサイトカインは、
(a)配列番号5〜配列番号11によるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は
(b)(a)によるポリペプチドと少なくとも90%の配列同一性を示し、ハイパーサイトカイン活性を有するポリペプチドを含む、これらから本質的に成る、又はこれらから成る。
【0048】
配列番号5によるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列番号1によるIL−6RのP113からA323までの部分、13個のアミノ酸の高グリシンリンカー配列、及び配列番号2によるIL−6のP29からM212までの部分から成る(非特許文献11)。さらに、配列番号6、配列番号7及び配列番号8によるアミノ酸配列を有するsIL−6R及びIL−6の融合タンパク質がChebath et al.により説明されており、該タンパク質は、配列番号1によるIL−6RのM1からV356までの領域、配列番号2によるIL−6のP29からM212までの領域、及び異なるリンカー配列から成る。配列番号6によるポリペプチドは3個のアミノ酸のリンカー配列(EFM)を含み、配列番号7によるポリペプチドは13個のアミノ酸のリンカー配列(EFGAGLVLGGQFM;配列番号12)を含み、配列番号8によるポリペプチドはリンカー配列を含有しない。さらに、融合タンパク質が特許文献1で説明されており、配列番号9による13個のアミノ酸のリンカー配列(RGGGGSGGGGSVE、配列番号13)、又は配列番号10による18個のアミノ酸のリンカー配列(RGGGGSGGGGSGGGGSVE;配列番号14)のいずれかにより連結された、配列番号1によるsIL−6Rのアミノ酸M1〜A323と、配列番号2によるIL−6のアミノ酸(amino acids and)P29〜M212とを含む。配列番号11によるアミノ酸配列を有する融合タンパク質は、sIL−11RのM1からQ365までの領域と、IL−11のA19からL199までの領域とを含む。配列番号9によるsIL−6R−IL−6融合タンパク質が特に好ましい実施形態であり、本明細書で「ハイパーIL−6」又は「H6」と称する。共にCMV即時初期プロモーターの制御下にあるハイパーIL−6及びネオ選択性マーカーを含む好ましい発現カセットは、配列番号15として提供される。このカセットは、様々なベクター、好ましくはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター中に含まれ得る。
【0049】
第1の態様の好ましい一実施形態では、第2の細胞、好ましくは同種の第2の細胞は、第1の細胞、好ましくは同種の第1の細胞と異なるヒト白血球抗原(HLA)型を有する。HLA系は、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に関して使用される名称である。この複合体をコードする遺伝子群は染色体6に存在しており、細胞表面抗原提示タンパク質及び多数の他の遺伝子をコードしている。主要なHLA抗原は免疫機能において必須の要素である。
【0050】
異なるクラスは異なる機能を有する:
(a)クラスI抗原(A、B及びC) − 細胞の内側から、ペプチド(存在する場合には、ウイルスペプチドを含む)を提示する、及び
(b)クラスII抗原(DR、DP及びDQ) − 細胞の外側から、貪食された抗原をT−リンパ球に対して提示する。
6つの主要抗原をコードする遺伝子とは別に、多数の他の遺伝子が存在し、その多くがHLA複合体に位置する免疫機能に関与する。ヒト集団におけるHLAの多様性は疾患防御の一態様であり、結果として、2つの非血縁個体が全ての遺伝子座において同一のHLA分子を有する可能性は非常に低い。HLAによりコードされているタンパク質は、その人に(効果的に)特有の体細胞の外側部分におけるタンパク質である。免疫系は、自己細胞と非自己細胞とを区別するためにHLAを使用する。その個体のHLA型を表示するどの細胞も、その個体に属する(したがって侵入者ではない)。PCRベースの遺伝子配列決定及び遺伝子同定が利用可能となるかなり前には、HLA抗原は、移植(transplantion)の成功を邪魔する、又は時として移植を成功させる因子と認識されていた。レシピエントに移植されたドナー臓器は、そのドナーの組織に対する抗体を誘発し、そのドナーのHLA受容体をレシピエントの免疫系の抗原にする(したがって「ヒト白血球抗原」という名称である)。受容体の型は、該受容体が誘導した抗体に基づき分類することができた。これらの抗体、特に特定のクラスIIハプロタイプのホモ接合体であったドナーに対する抗体は、異なる受容体型及びアイソフォームを同定するために使用することができる。HLAを分類するのに使用される命名に関する2つの対応する(parallel)システムが存在する。最初のまた最も古いシステムは、血清学的(抗体ベースの)認識に基づいている。このシステムでは抗原は最終的に文字及び数字を割り当てられる(例えばHLA−B27、又は短縮してB27)。対立遺伝子のより精密な定義を可能にする対応するシステムが開発されており、このシステムでは「HLA」を文字、アスタリスク(*)及び4桁以上の数(例えばHLA−B*0801、A*68011、A*240201N N=Null)と共に使用して、所定のHLA遺伝子座における特定の対立遺伝子を指定する。HLA遺伝子座は、MHCクラスI及びMHCクラスII(又はまれにD遺伝子座)にさらに分類することができる。この分類は、それぞれのHLA遺伝子座からの配列情報に基づいている。したがって当業者は、2つの群の細胞が同じ又は異なるHLA型を有するか否かを確定する方法を十分に認識している。好ましくは、第1の細胞株及び第2の細胞株は、抗体型分類システムに基づき異なるHLA型を有する。
【0051】
好ましい実施形態では、1つ又は複数の第1の細胞及び/又は1つ及び複数の第2の細胞は腫瘍細胞である。好ましくは、腫瘍細胞は、黒色腫細胞、腎臓癌細胞、前立腺がん細胞、結腸がん細胞、肺がん細胞、膵臓がん細胞、肝臓がん細胞、脳がん細胞、頭頚部がん細胞及び肉腫細胞から成る群から各細胞に関して独立して選択される。好ましくは、第1の細胞及び第2の細胞は、1つの個体内の異なる腫瘍由来か、又は2つの異なる個体由来の、同じ腫瘍細胞型から選択される。
【0052】
第1の態様の一実施形態では、ハイパーサイトカインを発現するように修飾した第1の細胞は、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen」(DSMZ)(Inhoffenstr. 7B,38124 Braunschweig, Germany)にアクセッション番号DSM ACC2837で2007年4月24日に寄託されたヒト(ホモ・サピエンス)黒色腫由来細胞Mich1であり、及び/又はハイパーサイトカインを発現するように修飾した第2の細胞は、DSMZにアクセッション番号DSM ACC2838で2007年4月24日に寄託されたヒト(ホモ・サピエンス)黒色腫由来細胞Mich2である。Mich1及びMich2は異なる患者を起源とする。
【0053】
好ましい一実施形態では、第1の細胞は、DSMZにアクセッション番号DSM ACC2839で2007年4月24日に寄託されたMich1−H6である。好ましい一実施形態では、第2の細胞は、DSMZにアクセッション番号DSM ACC2840で2007年4月24日に寄託されたMich2−H6である。Mich1−H6及びMich2−H6はそれぞれ、配列番号15による発現カセットを含み且つCMVプロモーターの制御下で配列番号9によるハイパーIL−6を発現するレトロウイルスによるMich1及びMich2の感染から得られたものである。
【0054】
ハイパーサイトカインを発現するように修飾した第1の細胞及び第2の細胞、特に腫瘍細胞を含む組成物により発揮されるin vivo抗腫瘍効果は、第1の細胞及び/又は第2の細胞を、抗原、好ましくは腫瘍抗原、サイトカイン、特にGM−CSF、IL−2、IL−6、IL−7、IL−11、IL−15、IL−21、抗TGF、EPO、インターフェロン、特にINF−α、LIF、OSM、CNTF、CT−1、又はそれぞれの細胞中に含まれる第1のハイパーサイトカインと異なるハイパーサイトカインをコードする少なくとも1つのさらなるポリヌクレオチドを含むように操作した場合には、さらに増強させることができる。操作は、ベクター、特にハイパーサイトカインに関して上で示した発現ベクターの1つを使用すること、及びこれ(ら)のベクター(複数可)を修飾される第1の細胞及び/又は第2の細胞中にその後又は同時に導入することにより、より早く達成することができる。1つ又は複数のさらなるポリヌクレオチドが、別々のベクター中に含まれてもよく、又はポリヌクレオチドをコードするハイパーサイトカインと同じベクター内に含まれてもよい。宿主細胞が、ハイパーサイトカインと少なくとも1つのさらなるポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのさらなるタンパク質との両方を同時に発現することが好ましい。
【0055】
「腫瘍抗原」という用語は、腫瘍に対する免疫応答を誘発する全ての物質を含む。特定の好適な物質は、健常細胞と比較して腫瘍細胞中に豊富なタンパク質又はタンパク質断片である。これらの物質は好ましくは、腫瘍細胞内に存在する、及び/又は腫瘍細胞の外側上で接近可能である。腫瘍抗原が腫瘍細胞内にのみ存在する場合、抗原又はその断片は細胞の表面でMHC系により提示されるため、腫瘍抗原は免疫系にとって依然として接近可能である。好ましい一態様では腫瘍抗原は、ほとんど排他的に又は排他的に、腫瘍細胞上に及び/又は腫瘍細胞中に存在し、同じ細胞型の健常細胞中には存在しない。
【0056】
好適な腫瘍抗原は、例えば、マイクロアレイベースのアプローチを使用して同じ細胞型の腫瘍細胞と健常細胞との間でのタンパク質の差示的発現を分析すること(Russo G., Zegar C. and Giordano A.Advantages and limitations of microarray technology in human cancer. Oncogene.2003, 22:6497-507)により、腫瘍特異的突然変異細胞遺伝子に関するPCRベース又はマイクロアレイベースのスクリーニング(Heller M.J. DNA microarray technology: devices, systems, andapplications. Annu. Rev. Biomed. Eng. 2002, 4:129-53)により、又は組換え発現クローニングによる抗原の血清学的同定(SEREX、Tureci O., Sahin U. and Pfreundschuh M. Serological analysis of human tumorantigens: molecular definition and implications. Mol Med Today. 1997, 3:342-349)により、同定することができる。当業者は、腫瘍細胞上に及び/又は腫瘍細胞中に優先的に又は排他的に存在する多数の物質、例えば発癌遺伝子のような、例えば切断表皮成長因子、葉酸結合タンパク質、メラノフェリン(melanoferrin)、癌胎児性抗原、前立腺特異的膜抗原、HER2−neu等を含む物質、を認識している。
【0057】
腫瘍細胞中に及び/又は腫瘍細胞上に優先的に又は排他的に存在する物質の全てが強い免疫応答を誘発するわけではないので、腫瘍抗原は、強い免疫応答を誘発する本発明の組成物の第1の細胞及び/又は第2の細胞中に発現されるように選択されることが好ましい。強い免疫応答を誘発する抗原は、抗原で事前に免疫したマウスから単離したIFNγ産生CD8+T又はCD4+T細胞の増殖を、抗原での負荷により、少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、及び最も好ましくは少なくとも15%誘導し、及び/又は抗原で事前に免疫したマウスから単離したB細胞(B-cells cells)の増殖を、抗原での負荷により、好ましくは少なくとも5%、及び最も好ましくは少なくとも15%誘導する。これらの基準を満たす抗原は、本発明のがんワクチン組成物中に表される候補物質である。
【0058】
特定の好ましい一実施形態では、腫瘍抗原は、突然変異した又は組み換えた細胞遺伝子の特有の遺伝子生成物に属するT細胞に規定されるがん関連抗原、特にサイクリン依存性キナーゼ(例えばCDC2、CDK2、CDK4)、p15Ink4b、p53、AFP、β−カテニン、カスパーゼ8、p53、p21Ras突然変異、Bcr−abl融合生成物、MUM−1、MUM−2、MUM−3、ELF2M、HSP70−2M、HST−2、KIAA0205、RAGE、ミオシン/m、707−AP、CDC27/m、ETV6/AML、TEL/Aml1、デカイン(Dekcain)、LDLR/FUT、Pml−RARα、TEL/AMLI;精巣がん(CT)抗原、特にNY−ESO−1、MAGEファミリーのメンバー(MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A6、MAGE−10、MAGE−12)、BAGE、DAM−6、DAM−10、GAGEファミリーのメンバー(GAGE−1、GAGE−2、GAGE−3、GAGE−4、GAGE−5、GAGE−6、GAGE−7B、GAGE−8)、NY−ESO−1、NA−88A、CAG−3、RCC関連抗原G250;腫瘍ウイルス抗原、特にヒト乳頭腫ウイルス(HPV)由来のE6又はE7腫瘍性タンパク質、エプスタイン・バーウイルスEBNA2−6、LMP−1、LMP−2;過剰発現又は組織特異的分化抗原、特にgp77、gp100、MART−1/Melan−A、p53、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質(TRP−1及びTPR−2)、PSA、PSM、MC1R;広範に発現した抗原、特にART4、CAMEL、CEA、CypB、HER2/neu、hTERT、hTRT、iCE、Muc1、Muc2、PRAME RU1、RU2、SART−1、SART−2、SART−3、及びWT1;並びにその断片及び誘導体から成る群から選択される。特定の好ましい腫瘍抗原は、チロシナーゼ関連タンパク質に由来する抗原である。
【0059】
本発明の組成物を患者に投与する場合、第1の細胞及び/又は第2の細胞と、第1の細胞及び/又は第2の細胞とエピトープ及び/又は腫瘍抗原を共有する任意の腫瘍細胞との両方に対して免疫応答を誘発するように投与する。したがって、組成物の細胞は、本発明の組成物のレシピエント内に限られた時間生残するに過ぎず、その後レシピエントの免疫系によりレシピエント生物から排除されることが期待される。それにも関わらず、これらの細胞を患者に投与する前に、第1の細胞、好ましくは同種細胞及び/又は第2の細胞、好ましくは同種細胞の増殖が阻害されていることが、安全性の理由から好ましい。「阻害」という用語は、増殖速度の低減と、増殖の完全な停止との両方を含む。当業者は、細胞の成長速度に影響を及ぼすより多数の化学的方法及び物理的方法を認識しており、これらの方法は、放射線、例えばγ−照射、又は架橋結合、例えばソラレン若しくはアルデヒドを含むがこれらに限定されない。しかしながら阻害のレベルは好ましくは、第1の細胞及び第2の細胞中に導入された導入遺伝子の転写及び翻訳が完全には停止しない、すなわち導入遺伝子が、阻害前の第1の細胞及び/又は第2の細胞の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%以上のレベルで発現されるようなものであるべきである。好ましくは、細胞は、増殖を阻害する化学的方法又は物理的方法の適用後、1回〜5回、すなわち1回、2回、3回、4回又は5回の複製サイクルを重ね続けることができる。
【0060】
本発明の組成物の抗腫瘍効果は、自家性又は同種であってもよく第1の細胞及び/又は第2の細胞と異なる1つ又は複数のさらなる細胞も組成物中に含まれる場合には、さらに増強することができる。好ましくはこれらの細胞は、好ましくは第1の細胞型及び/又は第2の細胞型のHLA型と異なるHLA型を有するさらなる個体を起源とする。さらに、これらの細胞が、好ましくは第1の細胞及び/又は第2の細胞と同じ腫瘍型由来の腫瘍細胞であることが好ましい。上で概説した理由から、1つ又は複数のさらなる好ましい同種細胞の増殖が、好ましくは上で概説したように、阻害されていることも好ましい。
【0061】
1つ又は複数のさらなる同種細胞の1つ又は複数の細胞が、サイトカイン、サイトカイン受容体、ハイパーサイトカイン及び/又は腫瘍抗原(antigene)を発現するように修飾されていることが特に好ましい。好ましくは、サイトカインはGM−CSF、IL−2、IL−6、IL−7、IL−11、IL−15、IL−21、抗TGF、EPO、インターフェロン、特にINF−α、LIF、OSM、CNTF、CT−1から成る群から選択され、サイトカイン受容体又はその可溶性部分は、表示したサイトカインに対応するそれらの受容体である。好ましくは、ハイパーサイトカインは、ハイパーIL−6(例えば配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10による)、IL−2、ハイパーIL−11(例えば配列番号11による)、ハイパーCNTF及びハイパーOSMから成る群から選択される。
【0062】
本発明の組成物は免疫応答を誘発することが意図されるので、組成物はさらに、免疫効果を増強するためにワクチン中に一般に使用されるアジュバントを含み得る。好ましいアジュバントは、非メチル化DNA、特にCpGジヌクレオチド(CpGモチーフ)を含む非メチル化DNA、特にホスホロチオエート(PTO)骨格を有するCpG ODN(CpG PTO ODN)、又はホスホジエステル(PO)骨格を有するCpG ODN(CpG PO ODN);水酸化アルミニウムのゲル様沈殿物(ミョウバン);グラム陰性細菌の外膜由来の細菌性生成物、特にモノホスホリル脂質A(MPLA)、リポ多糖(LPS)、ムラミルジペプチド、及びその誘導体;合成リポペプチド誘導体、特にPamCys;リポアラビノマンナン;ペプチドグリカン;ザイモサン;熱ショックタンパク質(HSP)、特にHSP70;dsRNA及びその合成誘導体、特にポリI:ポリC;ポリカチオン性ペプチド、特にポリ−L−アルギニン;タキソール;フィブロネクチン;フラゲリン;イミダゾキノリン;アジュバント活性を有するサイトカイン、特にGM−CSF、インターロイキン−(IL−)2、IL−6、IL−7、IL−18、I型及びII型、インターフェロン、特にインターフェロン−γ、TNF−α;水中油型エマルション、特にスクアレンから成るMF59;Tween80及びSpan85(トリオレイン酸ソルビタン)及びQS−21、Quil Aのより高精製の誘導体、非イオン性ブロックポリマー、特にポロキサマー401、サポニン及びその誘導体、特にサポニン由来の免疫刺激性断片;ポリホスファゼン;N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカノイルアミドハイドロアセテート(BAY R1005)、25−ジヒドロキシビタミンD3(カルシトリオール);DHEA;ムラメチド(murametide)[MDP(Gln)−OMe];ムラパルミチン(murapalmitine);乳酸及び/又はグリコール酸のポリマー;ポリメチルメタクリレート;トリオレイン酸ソルビタン;スクアラン;ステアリルチロシン;スクアレン;テラミド(theramide)、合成オリゴペプチド、特にMHCII提示ペプチドから成る群から選択される。本発明の組成物中に含まれ得る特定の好ましいアジュバントは、非メチル化DNA、特にCpGジヌクレオチド(CpGモチーフ)を含む非メチル化DNA、特にホスホロチオエート(PTO)骨格を有するCpG ODN(CpG PTO ODN)又はホスホジエステル(PO)骨格を有するCpG ODN(CpG PO ODN)、及び合成リポペプチド誘導体、特にPamCysの群から選択される。
【0063】
さらなる一態様では、本発明は、医療における使用のための、本発明の組成物に関する。
【0064】
さらなる一態様では、本発明は、薬学的に許容可能な希釈剤、担体、賦形剤、充填剤、結合剤、滑剤、流動促進剤、崩壊剤、吸着剤及び/又は保存料をさらに含む本発明の組成物を含む、医薬組成物に関する。好ましくは医薬組成物は、好ましくは他の物質、例えば溶液を血液と等張にするのに十分な塩又はグルコースを含有し得る無菌水溶液の形態で、非経口的使用のために調合される。必要に応じて、水溶液は好適に緩衝化されるべきである(好ましくは3〜9のpHに)。特に好ましい水溶液は、リン酸緩衝食塩水(PBS)である。
【0065】
好ましくは本発明の組成物の単位用量は、細胞数が少なくとも1×10〜1×10、好ましくは少なくとも2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10及び1×10の、第1の細胞を含む。本発明の組成物の特定の好ましい単位用量は、1×10〜1×10、好ましくは2.5×1×10の、第1の細胞を含む。さらに、本発明の組成物の単位用量は、細胞数が少なくとも1×10〜1×10、好ましくは少なくとも2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10及び1×10の、第2の細胞を含む。本発明の組成物の特定の好ましい単位用量は、1×10〜1×10、好ましくは2.5×1×10の、第2の細胞を含む。好ましくは組成物は、単位用量当たりの細胞数が計2×10〜2×10の、およそ同数の第1の細胞及び第2の細胞を含む。本発明の組成物の特定の好ましい単位用量は、2×10〜2×10、好ましくは5×10の第1の細胞及び第2の細胞を含む。単位用量の総体積は、好ましくは0.5ml〜20ml、好ましくは1ml〜5ml、例えば1ml、2ml、3ml、4ml又は5mlである。
【0066】
さらなる一態様では、本発明は、がんの治療又は予防のための、本発明の組成物、又は本発明の医薬組成物に関する。本発明による組成物による治療又は予防が可能な好ましいがんは、胃腸管又は結腸直腸管、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、前立腺、子宮内膜のがん、頭頚部がん、卵巣、精巣、前立腺、皮膚、眼、黒色腫、異形成口腔粘膜、浸潤性口腔がん、小細胞肺がん及び非小細胞肺がん、ホルモン依存性乳がん、ホルモン非依存性乳がん、移行上皮がん及び扁平上皮がん、神経芽腫、神経膠腫、星状細胞腫を含む神経性悪性腫瘍、骨肉腫、軟部組織肉腫、血管腫、内分泌学的腫瘍、白血病、リンパ腫並びに他の骨髄増殖性疾患及びリンパ球増殖性疾患を含む血液学的新生物、上皮内癌、過形成病変、腺腫並びに線維腫から成る群から選択される。黒色腫、膵臓がん及び腎臓がんの治療又は予防が特に好ましい。
【0067】
さらなる一態様では、本発明は、がんの治療又は予防のための医薬組成物の調製のための、本発明の組成物の使用に関する。
【0068】
本発明の組成物は、広範な種々のがんの治療及び/又は予防に使用することができるが、本発明により治療又は予防が可能な好ましいがんは、胃腸管又は結腸直腸管、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、前立腺、子宮内膜のがん、頭頚部がん、卵巣、精巣、前立腺、皮膚、眼、黒色腫、異形成口腔粘膜、浸潤性口腔のがん、小細胞肺がん及び非小細胞肺がん、ホルモン依存性乳がん、ホルモン非依存性乳がん、移行上皮がん及び扁平上皮がん、神経芽腫、神経膠腫、星状細胞腫を含む神経性悪性腫瘍、骨肉腫、軟部組織肉腫、血管腫、内分泌学的腫瘍、白血病、リンパ腫並びに他の骨髄増殖性疾患及びリンパ球増殖性疾患を含む血液学的新生物、上皮内癌、過形成病変、腺腫並びに線維腫から成る群から選択される。黒色腫、膵臓がん及び腎臓がんの治療又は予防が特に好ましい。特にがんの治療及び/又は予防との関連では、疾患のいかなる症状も発症する前に患者が「がんワクチン」で免疫される(すなわち、保護的免疫を受ける)こと、又は疾患の症状を発症した後に患者が「がんワクチン」で免疫される(すなわち、治療的ワクチン投与を受ける)ことを考えることができる。
【0069】
ハイパーサイトカイン、好ましくはハイパーIL−6を発現する第1の細胞及び/又は第2の細胞による少なくとも1つのさらなるサイトカイン、特にGM−CSFの発現は、或る特定の腫瘍、特に黒色腫及び腎臓がんとの関連では、ハイパーサイトカインのみを発現する細胞よりもさらに強いin vivoでの抗腫瘍応答をもたらし得る。したがって好ましい使用においては、ハイパーサイトカインを発現する第1の細胞及び/又は第2の細胞は、少なくとも1つのさらなるサイトカインを発現するように修飾され、増殖性疾患を予防又は治療するための薬物の製造のために使用される。
【0070】
この意味においては、第1の細胞及び第2の細胞が同じ型の組織、好ましくは腫瘍組織由来であるが第1の細胞及び/又は第2の細胞と部分的に又は完全に異なるHLA型を有する場合、特に好ましい。
【実施例】
【0071】
以下で、非限定的な実施例により、本発明をより詳細に説明する:
【0072】
実施例1:ハイパーIL−6(H6)は同種混合腫瘍リンパ球反応(AMTLR)におけるT細胞増殖応答を増加させる。
照射した腫瘍細胞を、IL−6(1ng/ml)又は精製したH6(1ng/ml)の存在下又は非存在下で、プライミングしていない同種リンパ球と混合した。3日後、T細胞を、増殖に関してH−チミジン取り込みによりアッセイし、1分当たりのカウント数(cpm)として確定した。本実験の結果を、図1に示す。
【0073】
カラム1〜カラム3は、自発的なT細胞増殖、すなわち腫瘍細胞の非存在下での結果を示す。明らかに、有意な程度の自発的なT細胞増殖は、IL−6(カラム2)又はH6(カラム3)を混合物に添加するか否かに関わらず、生じない(カラム1〜カラム3)。
【0074】
カラム4〜カラム6は、同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖の結果を示す。同種腫瘍細胞の存在下では、T細胞は非常に強い増殖を示す(カラム4)。IL−6の添加は、T細胞の増殖に対して明らかな効果を有しない(カラム5)。H6の添加(カラム6)は、T細胞増殖のほぼ2倍の増大をもたらす。したがってH6は、同種混合腫瘍リンパ球反応(AMTLR)におけるT細胞増殖応答を強力に増強する。
【0075】
実施例2:同種混合腫瘍リンパ球反応におけるT細胞増殖はIL−2に依存している。
照射した腫瘍細胞を、IL−6(1ng/ml)、精製したH6(1ng/ml)、及び抗IL−2抗体(1μg/ml)の存在下又は非存在下で、プライミングしていない同種リンパ球と混合した。3日後、T細胞を、増殖に関してH−チミジン取り込みによりアッセイし、cpmとして確定した。本実験の結果を、図2に示す。
【0076】
図2のカラム1〜カラム3は、抗IL−2抗体の非存在下での同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖の結果を示す。この実験からの結果は、図1のカラム4〜カラム6に示した結果とほとんど同一である。実施例1で示したように、T細胞は、同種腫瘍細胞の存在下で非常に強い増殖を示す(図2のカラム1)。IL−6の添加は、T細胞の増殖に明らかな効果を有しない(図2のカラム2)。H6の添加は、T細胞増殖のほぼ2倍の増大をもたらす(図2のカラム3)。
【0077】
図2のカラム4〜カラム6は、IL−2の効果を中和する抗IL−2抗体の存在下での同種腫瘍細胞に応答したT細胞増殖の結果を示す。抗IL−2抗体の添加は、T細胞増殖を大きく低減する(カラム4〜カラム6)。IL−6(カラム5)又はH6(カラム6)の存在は、抗IL−2抗体が存在する場合には、T細胞増殖に明らかな効果を有しない。したがって、同種混合腫瘍リンパ球反応(AMTLR)におけるT細胞増殖は、IL−2に依存している。
【0078】
実施例3:ハイパーIL−6は、同種混合腫瘍リンパ球反応におけるT細胞によるIL2及びIFN−γの産生を増加させる。
本実施例は、同種混合(mixed allogenic)腫瘍/リンパ球反応におけるハイパーIL−6(H6)の免疫刺激能の評価を説明する。得られた結果は、ハイパーIL−6が同種黒色腫細胞の免疫刺激能を増大させることを示す。さらに、ハイパーIL−6は、IL−6より効力が強いだけでなく、質的に異なる生物学的活性も示す。既知のTh2誘導因子である天然IL−6とは対照的に、ハイパーIL−6は、Th1応答の特徴である末梢血リンパ球(PBLC)によるIFN−γ及びIL−2の産生を増大させながら、IL−10発現を低減するようである。
【0079】
被験物質:A375黒色腫細胞及びその誘導体A375−H6細胞;健常ボランティアから単離したPBLC。
【0080】
培地、成分及び機器:FBS(GIBCO/Invitrogen)、PBS(GIBCO/Invitrogen)、DMEM(GIBCO/Invitrogen)、トリプシンEDTA(GIBCO/Invitrogen)、組織培養フラスコ25cm(Sarstedt)、24ウェルプレート(Nunc)、リンパ球分離培地(ICN)、BD Cytometric Bead Array(CBA)ヒトTh1/Th2サイトカインキット−II(Becton Dickinson)、IL−6(Pharmingen)、フローサイトメーター(Becton Dickinson)、FACSAria(商標)(BectonDickinson)。
【0081】
方法:
健常ボランティアから採取したPBLCは、リンパ球分離培地を媒体として遠心分離により全血液から分離した。細胞をPBSで2回洗浄し、血球計での標準的な手順により計測した。リンパ球を、2%FBSを添加したDMEM培養培地中に2×10細胞/mlで再懸濁した。腫瘍細胞をトリプシン処理し、PBSで2回洗浄し、2%FBSを添加したDMEM培地中に2×10細胞/mlで再懸濁した。0.5mlのリンパ球懸濁液を0.5mlの腫瘍細胞と混合し、24ウェルプレート上に播種して1mlの混合細胞培養物とした。
【0082】
実験上の設定:
0.5mlのリンパ球懸濁液+0.5mlの培養培地(対照)
0.5mlのリンパ球懸濁液+0.5mlの培養培地+10ngのIL−6
0.5mlのリンパ球懸濁液+0.5mlのA375腫瘍細胞懸濁液
0.5mlのリンパ球懸濁液+0.5mlのA375細胞懸濁液+10ngのIL−6
0.5mlのリンパ球懸濁液+0.5mlのA375−H6細胞懸濁液
0.5mlのA375腫瘍細胞懸濁液+0.5mlの培養培地
0.5mlのA375−H6腫瘍細胞懸濁液+0.5mlの培養培地
【0083】
混合した細胞を、37℃、5%CO/95%空気で、加湿した細胞インキュベーター中で3日間培養した。3日後、無細胞上清を回収し、サイトカイン含有量に関して分析した。回収した上清を、適切に印を付け、直ぐに、解析まで−20℃で凍結した。サイトカイン含有量を、CBAマニュアル中で提供される取扱説明書に従って1ヶ月以内にCBAにより確定した。
【0084】
本実施例の結果を、以下の表1に要約する。結果は、A375腫瘍細胞が同種T細胞を刺激してIL−2、IL−6、IL−10及びIFN−γを産生させることを示している。IL−6ではなくハイパーIL6の存在により、T細胞でのIL−2及びIFN−γ産生が有意に増加し、同時にIL−10の分泌が低減した。
【0085】
【表1】

【0086】
上の結果から、ハイパーIL−6がIL−6より効力が強いだけでなく質的に異なる生物学的活性を示すことが明らかである。既知のTh2誘導因子である天然IL−6とは対照的に、ハイパーIL−6は、Th1応答の特徴であるIFN−γ及びIL−2の産生を増大させながらIL−10の発現を低減するようである。この型のTヘルパー応答(すなわちTh1)は、細胞傷害性T細胞の誘導及び発生時に極めて重要であり、したがって抗腫瘍ワクチンにおいて望ましい応答である。
【0087】
単一の説明に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、培養培地中に過剰に添加したIL−6の活性の明らかな欠如は、以下のように説明することができると考えている。上の実験から、同種腫瘍細胞はそれ自身が反応中のT細胞における非常に強力なIL−6産生を誘発させるようである。この産生は、非常に高いレベルに到達し、全てのIL−6特異的受容体を飽和させる可能性が極めて高い。結果として、IL−6の培養系への添加は、T細胞の挙動に何も影響を有しない。他方、ハイパーIL6は未占有のIL−6受容体を必要とせず、その代わりに共通のgp130受容体サブユニットと結合する。さらに、ハイパーIL6は特異的なIL−6受容体を必要としないので、IL−6と比較して様々な細胞集団に作用し得る。観察された効果は、IL−6応答性T細胞の過度の刺激、又はIL−6受容体に関して陰性である独立したT細胞の刺激によるものであり得る。
【0088】
本実施例で示された結果から、in vitro条件下でハイパーIL−6は、免疫応答をTh1型(すなわち細胞性応答)にシフトさせることにより、ヒト同種黒色腫細胞の刺激能を有意に増大させることが明らかである。
【0089】
実施例4:黒色腫細胞とH6修飾黒色腫細胞とによるサイトカイン、成長因子及び血管因子の合成
本実施例の目的は、ワクチン中の成分として使用することができる黒色腫細胞による選択されたサイトカイン、成長因子及び血管因子の合成を評価することであった。さらなる目的は、上記黒色腫細胞による上記因子の合成に及ぼすH6遺伝子修飾の効果を評価することであった。具体的な目的は、(i)黒色腫細胞Mich1及びMich2によるIL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、INFγ、GM−CSF、RANTES及びVEGF等の可溶性因子の分泌の解析;(ii)Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞(H6修飾黒色腫細胞)による上記因子の分泌の解析;(iii)H6修飾Mich1細胞、H6修飾Mich2細胞、並びに親Mich1細胞及び親Mich2細胞の分泌パターンの比較を含むものであった。
【0090】
被験物質:Mich1細胞、Mich2細胞、Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞を解凍し、2日間培養し、その次の3日間継代した。その後細胞をトリプシン処理し、凍結した。これらの細胞(継代1−P1)を、実験で使用した。
【0091】
【表2】

【0092】
方法論:検討した細胞株は、解凍し、培養フラスコ中に播種した。細胞をコンフルエントまで培養し、その後5%CO加湿雰囲気中、無血清(FBS)培地(DMEM)中で48時間維持した。その後培地を回収し、FC読み取り(readout)での多重粒子ベースイムノアッセイを使用して上で列挙した因子に関して分析した。
【0093】
検討した4種類の細胞株による分析した因子の分泌
Mich1細胞、Mich2細胞及びMich1−H6細胞、Mich2−H6細胞により培養培地中に分泌されたサイトカイン及び成長因子の量の結果を、表3に要約する。
【0094】
【表3】

【0095】
Mich1細胞は、低いレベルのIL−12、RANTES及びINF−γ;並びに中程度のレベルのIL−6及びGM−CSF;並びに比較的高いレベルのIL−8及びVEGFを分泌した。IL−2、IL−4及びIL−10は、分泌されなかった、又はアッセイの検出限界を下回る極めて低いレベルで分泌された。
【0096】
Mich2細胞は、低いレベルのIL−12、RANTES及びINF−γ;中程度のレベルのIL−6及びVEGF;並びに高いレベルのIL−8及びGM−CSFを分泌した。IL−2、IL−4及びIL−10はアッセイで検出不可能であった。
【0097】
Mich1−H6細胞は、低いレベルのIL−10、IL−12、GM−CSF及びINF−γ;中程度のレベルのIL−2及びRANTES;高いレベルのIL−6及びVEGF;並びに非常に高いレベルのIL−8を分泌した。IL−4はアッセイで検出不可能であった。
【0098】
Mich2−H6細胞は、低いレベルのIL−10及びIL−12;中程度のレベルのIL−2、RANTES及びVEGF;高いレベルのIL−6、並びに非常に高いレベルのIL−8及びGM−CSFを分泌した。IL−4及びINF−γはアッセイで検出不可能であった。
【0099】
Mich1細胞及びMich2細胞による検討した因子の分泌パターンの比較
親細胞株Mich1及びMich2による検討した因子の分泌パターンの比較により、有意な質的類似性が実証された(表3を参照されたい)。両細胞株の細胞が、IL−6、IL−8、IL−12、GM−CSF、RANTES、VEGF及びINF−γを分泌したが、IL−2、IL−4及びIL−10は分泌しなかった。しかしながら、両細胞株の間にGM−CSF及びVEGFの分泌における幾つかの量的な差異が観察された。
【0100】
Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞による検討した因子の分泌パターンの比較
修飾した細胞株Mich1−H6及びMich2−H6による検討した因子の分泌パターンの比較により、概して、質的に類似の分泌パターンが明らかにされた(表3を参照されたい)。両細胞株の細胞がIL−2、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、GM−CSF、RANTES及びVEGFを分泌した。Mich1−H6細胞はINF−γを分泌したが、Mich2−H6は分泌しなかった。いずれの細胞株もIL−4を分泌しなかった。GM−CSF及びVEGFの分泌に関しては、両細胞株の間に有意な量的差異が見られた(それぞれ3桁及び2桁大きい)。
【0101】
黒色腫細胞株による検討した因子の分泌パターンに及ぼすH6修飾の効果
Mich1細胞:Mich1細胞とMich1−H6細胞との間に有意な質的差異(IL−2、IL−10)及び量的差異が観察されている。減少したGM−CSFを除き、検討した全ての他の因子の発現が、H6修飾細胞で有意に増大した。
【0102】
Mich2細胞:Mich2細胞とMich2−H6細胞との間に有意な質的差異(IL−2、IL−10、INF−γ)及び量的差異が観察されている。同じレベルであったIL−12及びVEGFを除き、検討した全ての因子の発現が有意に増大した。対照的に、Mich2−H6細胞はINF−γを発現しなかった。
【0103】
実施例4からの結果の要約
Mich1細胞及びMich2細胞は、検討した10種類の因子のうち7種類を分泌した。H6修飾は、2種類のさらなるタンパク質(IL−2及びIL−10)の誘導をもたらし、検討した他の因子のほとんどの産生を増大させた。IL−8、VEGF又はGM−CSF等の幾つかの因子は、ナノグラムの10分の1で、修飾した細胞により分泌された。IL−8は、ワクチン注入部位への免疫細胞の動員を増大させる非常に強い化学誘引物質である。GM−CSFは樹状細胞成熟の主要な刺激因子であるので、抗原提示を誘発する。VEGFは、脈管形成及び血管新生に関与するシグナル伝達タンパク質である。VEGFは、単球/マクロファージ移動を刺激することもできる。IL−2、IL−12及びINF−γは、T細胞に対する免疫調節機能を示す。修飾した細胞は、免疫抑制因子であると考えられるIL−10も分泌した。しかしながら、実験検討により、IL−10 cDNAで修飾したマウス黒色腫細胞が特異的な抗黒色腫性免疫応答を誘発することが実証され、かかる設定においてIL−10がTリンパ球に対する刺激性シグナルをもたらすことが示された。さらに、修飾した細胞は、有意な量のIL−6を分泌した。しかしながら、抗IL−6抗体はH6タンパク質と反応し得るので、さらなる同定検討が必要である。したがって、利用した方法により培養培地中で検出された高いIL−6レベルは、遺伝子導入によるH6タンパク質の分泌を反映するが、ワクチン細胞による天然IL−6タンパク質の分泌を必ずしも反映しない可能性がある。
【0104】
実施例5:AMTLRにおける2種類のH6修飾黒色腫細胞株の混合物のサイトカイン産生
本実施例の目的は、異なるHLAハプロタイプを有する様々な健常個体から単離したPBLCによるサイトカイン産生に及ぼす2種類の黒色腫細胞株(Mich1−H6及びMich2−H6)の混合物の効果の解析を含むものであった。さらに、2種類の細胞株の混合物の効果を、単独で使用した各細胞株と比較した。サイトカイン産生は、培養培地中のサイトカイン含有量をCBA(サイトメトリービーズアッセイ)により測定することにより評価した。
【0105】
細胞:Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞を実施例4で説明されているのと同じ供給源から入手し、照射した;PBLCを4人の健常ボランティア(男性3人及び女性1人)から単離した。
【0106】
培地、成分及び機器:DMEM(GIBCO/Invitrogen);FBS(GIBCO/ Invitrogen);PBS(GIBCO/Invitrogen);リンパ球分離培地(ICN);H−チミジン(Amersham Biosciences);トリプシンEDTA(GIBCO/Invitrogen);96ウェルプレート(Sarstedt);75ml組織培養フラスコ(Corning);BD Cytometric Bead Array(CBA)ヒトTh1/Th2サイトカインキット−II(BD Biosciences);FACSAria(商標)(BD Biosciences);シンチレーションカウンター;位相差顕微鏡(Olympus);COインキュベーター(Sanyo);遠心分離機(Sorvall)。
【0107】
細胞の調製:細胞は、有資格研究員がGMPに準ずる条件下で実験室において標準的な手順により培養した。
【0108】
Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞を、培養フラスコ中の10%FBSを添加したDMEM培養培地に、およそ1.67×10細胞/cmの播種密度で、別々にプレーティングした。細胞を培養物中でコンフルエントまで成長させ(3日〜5日)、その後トリプシン処理し、PBSで2回洗浄し、サイトカイン産生記録のために2%FBSを添加したDMEM培地中に2×10細胞/mlで再懸濁し、その後80Gy(60Co)で照射した。
【0109】
PBLCを、リンパ球分離培地を媒体とする遠心分離により、4人の健常個体(A、D、M及びNとコード付けた)から回収した全血液から分離した。細胞をPBSで2回洗浄し、血球計での標準的な手順により計測した。その後PBLCを、サイトカイン産生記録のために2%FBSを添加したDMEM培養培地中に5×10細胞/mlで再懸濁した。
【0110】
サイトカイン産生解析の手順
試験は、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、TNF−α及びIFN−γサイトカイン産生パネルについて、1枚の96ウェルプレート上で行った。
【0111】
細胞懸濁液を、4個体の各々に関して1行で、各細胞株当たり100μlの体積で、96ウェルプレート中に移した。各行中に、2×10細胞/ウェルの濃度で細胞を移した。各細胞株を4つの異なる列に重複させた(reduplicated)(各細胞株に関して4つの試料)。最後から2番目の16ウェル(4個体の各々当たり4ウェル)、すなわち行5には黒色腫細胞を添加せず、これらのウェルは自発的なPBLC増殖に関する陰性対照(対照−)の役割を果たすものとした(対照ウェルは、100μlの量のDMEM+2%FBSと、5×10細胞/ウェルの濃度のPBLCとを含有するものとした)。最後の12ウェル、すなわち行6にはPBLCを添加せず、これらのウェルは自発的な黒色腫細胞増殖に関する陽性対照(対照+)の役割を果たすものとした(陽性対照は、100μlの量のDMEM+2%FBSと、Mich1−H6、Mich2−H6、及び両細胞株の混合物のそれぞれに関して2×10細胞/ウェルの濃度の黒色腫細胞とを含有する)。
【0112】
その後PBLCを、100μlの体積で、且つ0.5×10細胞/ウェルの濃度で、陰性対照ウェルを含む(が陽性対照ウェルは除く)各ウェルに添加した。各ウェル中の総体積は、200μl(すなわち、100μlのPBLC+100μlの黒色腫細胞溶液)とした。
【0113】
【表4】

【0114】
混合した細胞を、サイトカイン産生解析のために3日間(これはインキュベーションのための最適な期間であるため)、37℃で、5%CO/95%空気雰囲気中で、加湿したインキュベーター中で同時培養した。
【0115】
3日の所定の期間後、プレートから無細胞上清を回収し、適切に印を付け、直ぐに、さらなる解析まで−20℃で凍結した。培地中に蓄積したサイトカインを、1ヶ月以内にBD(商標)Biosciences Cytometric Bead Array(CBA)ヒトTh1/Th2サイトカインキット−IIアッセイを使用して、CBAマニュアル中で提供される取扱説明書に従って測定した。
【0116】
サイトカイン分泌
図3に示すように、Mich1−H6細胞は、IFN−γ、TNF−α、IL−10及びIL−2を産生しなかった。Mich2−H6細胞はIFN−γ及びIL−2を産生しなかった。予想した通り、これらのサイトカインは、両細胞株の混合物の培養培地中にも見られなかった。しかしながら、少量のTNF−α及びIL−10が、Mich2−H6細胞により分泌された。両細胞株がIL−6及びIL−4を、それぞれ非常に多量及び中程度の量で産生した。これらの2種類のサイトカインが、各細胞株により同等のレベルで産生された。
【0117】
図4にPBLCによるサイトカイン産生の結果を示す。PBLCは、IFN−γ、IL−10又はIL−2を産生しなかった。検証した残りのサイトカイン、すなわちTNF−α、IL−6及びIL−4は、同等のレベルでPBLCにより産生された。
【0118】
図5は、Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞の単独及び組合せでのPBLCサイトカイン分泌に及ぼす効果の結果を示す。黒色腫細胞株と共にPBLCをインキュベーションすることにより、検討したサイトカインのほとんどに関してPBLCによるサイトカイン産生の変調がもたらされた。IL−4の分泌のみ及びおそらくIL−6の分泌が影響を受けなかった。全ての4人のドナー由来のPBLCでは、別々に使用した各細胞株と比較して両細胞株の混合物の相乗効果が、IL−2産生に関して観察された。同様の相乗効果が、IFN−γ産生について4人のドナーのうち3人で見られた。別々に使用した細胞を上回る細胞株の混合物の抑制効果が、4人のドナーのうち3人由来のPBLCでのTNF−α産生に関して観察された。Mich1−H6及びMich2−H6の混合物によりもたらされるIL−10の産生は、Mich1−H6又はMich2−H6により別々にPBLCを刺激した場合に観察される値の中間であった。
【0119】
実施例5からの結果の要約
得られた結果により、2種類の同種黒色腫細胞株の混合物が、別々に使用した各細胞株と比較して、健常ドナーから単離したPBLCによるサイトカイン分泌に対して異なる生物学的効果を示すことが実証される。これらの効果は、IL−2及びINF−γの産生の増大に対しては相乗的であり、TNF−α分泌に対しては抑制的であることが証明された。IL−2及びINF−γの産生の増大は、Th1免疫応答への有益なシフトを示す。TNF−α分泌の減少は、検出されたサイトカイン量がアッセイについての低い検出限界付近であったため、さらなる検討が必要である。
【0120】
結論としては、Mich1−H6細胞及びMich2−H6細胞の組合せにより、PBLCによるIL−2及びINF−γの産生に及ぼす相乗効果により実証されたように、Th1型へと免疫応答をシフトさせることにより、単独で使用した各細胞株と比較して、ワクチンのin vitroでの免疫原性が増大する。したがって、デザイナーサイトカイン、例えばH6等のハイパーサイトカインでの腫瘍細胞の遺伝子修飾、及び複数の腫瘍細胞株の組合せにより、同種ワクチンの治療能が増大する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)第1のハイパーサイトカインを発現するように修飾した1つ又は複数の第1の細胞、及び
2)第2のハイパーサイトカインを発現するように修飾した1つ又は複数の第2の細胞
を含む組成物であって、前記第2の細胞が前記第1の細胞と異なる、組成物。
【請求項2】
該第1のハイパーサイトカイン及び/又は該第2のハイパーサイトカインが、サイトカイン受容体及びサイトカインを含む融合タンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該サイトカイン受容体が、
(a)sIL−6R、sIL−11R、OSM−R、CNTF−R及びCT−I−Rから成る群、又は
(b)(a)によるポリペプチドと少なくとも90%の配列同一性を示すポリペプチド
から独立して選択され、
該サイトカインが、
(c)IL−6、IL−11、OSM、CNTF及びCT−Iから成る群、又は
(d)(c)によるポリペプチドと少なくとも90%の配列同一性を示すポリペプチド
から独立して選択され、
該ハイパーサイトカインがハイパーサイトカイン活性を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
該サイトカイン受容体及び該サイトカインが、直接連結されている、又はペプチドリンカーにより連結されている、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
該ハイパーサイトカインが、
(a)ヒト可溶性IL−6受容体(sIL−6R)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−6R部分であって、前記配列同一性は配列番号1のP113からA323までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−6R部分、
(b)ヒトインターロイキン−6(IL−6)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−6部分であって、前記配列同一性は配列番号2のP29からM212までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−6部分、及び
(c)必要に応じて、ペプチドリンカー
を含み、ハイパーサイトカイン活性を有する融合タンパク質である、又は
(a)ヒト可溶性IL−11受容体(sIL−11R)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−11R部分であって、前記配列同一性は配列番号3のM1からQ365までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−11R部分、
(b)ヒトインターロイキン−11(IL−11)と少なくとも90%の配列同一性を示すIL−11部分であって、前記配列同一性は配列番号4のA19からL199までのポリペプチド配列の全長にわたり算出される、IL−11部分、及び
(c)必要に応じて、ペプチドリンカー
を含み、ハイパーサイトカイン活性を有する融合タンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
該ハイパーサイトカインが、
(a)配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9によるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は
(b)(a)によるポリペプチドと少なくとも90%の配列同一性を示し、ハイパーサイトカイン活性を有するポリペプチドである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
該第1の細胞及び/又は該第2の細胞が同種細胞である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
該第2の細胞が該第1の細胞と異なるHLA型を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
該第1の細胞及び/又は該第2の細胞の少なくとも一方が腫瘍細胞である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
該腫瘍細胞が、黒色腫細胞、腎臓癌細胞、前立腺がん細胞、結腸がん細胞、肺がん細胞、膵臓がん細胞、肝臓がん細胞、脳がん細胞、頭頚部がん細胞及び肉腫細胞から成る群から該第1の細胞及び該第2の細胞に関して独立して選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
該第1の腫瘍細胞が、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen」(DSMZ)にアクセッション番号DSM ACC2837で寄託されたMich1であり、該第2の腫瘍細胞が、DSMZにアクセッション番号DSM ACC2838で寄託されたMich2である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
該第1の細胞が、DSMZにアクセッション番号DSM ACC2839で寄託されたMich1−H6である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
該第2の細胞が、DSMZにアクセッション番号DSM ACC2840で寄託されたMich2−H6である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
該第1の細胞及び/又は該第2の細胞の増殖が阻害されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
該増殖が、放射線又は化学的架橋結合により阻害されている、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
該第1の細胞及び/又は該第2の細胞と異なる1つ又は複数のさらなる細胞を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記1つ又は複数のさらなる細胞が1つ又は複数のさらなる腫瘍細胞である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
該1つ又は複数のさらなる細胞の増殖が阻害されている、請求項16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
該1つ又は複数のさらなる細胞の増殖が、放射線又は化学的架橋結合により阻害されている、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
該1つ又は複数のさらなる細胞のうち少なくとも1つの細胞が、サイトカイン、サイトカイン受容体又はハイパーサイトカインを発現するように修飾されている、請求項16〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
医療における使用のための、請求項1〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
薬学的に許容可能な希釈剤、担体、賦形剤、充填剤、結合剤、滑剤、流動促進剤、崩壊剤、吸着剤及び/又は保存料をさらに含む請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物を含む、医薬組成物。
【請求項23】
がんの治療又は予防のための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
該がんが、胃腸管又は結腸直腸管、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、前立腺、子宮内膜、頭頚部がん、卵巣、精巣、前立腺、皮膚、眼、黒色腫、異形成口腔粘膜、浸潤性口腔がん、小細胞肺がん及び非小細胞肺がん、ホルモン依存性乳がん、ホルモン非依存性乳がん、移行上皮がん及び扁平上皮がん、神経芽腫を含む神経性悪性腫瘍、内分泌学的腫瘍、血液学的新生物、上皮内癌、過形成病変、腺腫、並びに線維腫から成る群から選択される、請求項23に記載の組成物又は医薬組成物。
【請求項25】
治療される該患者が、該第1の細胞及び/又は該第2の細胞と部分的に又は完全に異なるHLA型を有する、請求項23又は24に記載の組成物又は医薬組成物。
【請求項26】
がんの治療又は予防のための医薬組成物の調製のための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項27】
該がんが、黒色腫若しくは腎細胞癌、前立腺がん、結腸がん、肺がん、膵臓がん、肝臓がん、脳がん、頭頚部がん又は肉腫である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
該医薬組成物が、該第1の同種細胞及び/又は該第2の同種細胞と部分的に又は完全に異なるHLA型を有する患者の治療のためのものである、請求項26又は27に記載の使用。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−511772(P2011−511772A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544642(P2010−544642)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000626
【国際公開番号】WO2009/095261
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(506387199)アジルクス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】