説明

ワクチン製造のためのインフルエンザシードウイルスの調製方法

本発明は、シードインフルエンザワクチンの調製のための鳥類細胞系統の使用、およびそれから製造されるワクチンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスから保護するためのワクチンの製造の分野にある。
【背景技術】
【0002】
ライセンスが取得された不活化インフルエンザワクチンのほとんどは卵で生産される。ヒトサンプルから採取された野外株は、遺伝的および抗原的特性決定のために分離され、有胚卵で増幅される。次に、典型的な分離株が選択され、高増殖シードが遺伝子再集合または逆遺伝学の使用によって調製される。シードがワクチン製造に移される場合には、有胚鶏卵で数代の継代培養を経てきた。
【0003】
有胚卵基質での増幅は、同じ供給源から分離され、哺乳類細胞系統、すなわちMDCK細胞で増幅されたウイルスとは抗原性として、また、生物学的に異なる変異体の選択に至る場合がある。
【0004】
宿主による抗原性の変動が報告されており、卵または細胞に基づく基質で増幅させた後に異なる部分集団が選択されることを示唆している(Katz; Virology 156, 386-395;(1987))。
【0005】
有胚鶏卵において培養した後の、血球凝集素における一アミノ酸置換の結果、MDCKで増殖させたウイルスに比べて免疫原性の低いワクチンが生じ得る(Kodihalli & all; J of Virol, Aug 1995, 4888-4897)。
【0006】
ひと度、卵に順応した突然変異体が確立されると、組織培養で増殖させても一般にさらなる変化は起こらず、最初の卵に順応したその突然変異が維持される。
【0007】
卵で増殖させたウイルスと比較して、VeroまたはMDCKで増殖させたウイルスでマウスの免疫誘導を行い、続いて同種または異種のウイルスを用いて抗原投与を行ったところ、細胞由来のワクチンに対する抗体応答の方が、卵由来のワクチンにより誘発される応答よりも交差反応性が高いことが示された(Govorkova et al 1999, Dev Biol Stand. 1999;98:39-51; discussion 73-4)。
【0008】
HAタンパク質に有意な変異を誘発することなくインフルエンザウイルスを複製できる能力は、数種の哺乳類細胞系統(MDCK、MRC5、LLC−MK2)に共通であることが示されている(Meyer JL Virology 1993 196:1,130-137)。
【0009】
フェレットでは、MDCK由来のインフルエンザA/H3N2ウイルスが卵由来のウイルスよりも、抗原刺激からのより良好な保護を誘発することが示されている(Katz and Webster; 1989. J. Infect. Dis.160:191-98)。
【0010】
マウスモデルにおいて細胞性免疫を誘発する、優れた能力がVero由来の不活化ワクチンで見られた(Bruhl & all; Vaccine 19; 2000 1149-1158)。
【0011】
ヒトインフルエンザウイルスに対する季節性ワクチンを調製するための現行のプロセスおよび細胞培養技術の使用の態様は、国際公開第2008032219号に記載されている。国際公開第2008032219号は、上記背景の立場を裏付けるいくつかの参照文献を開示し、インフルエンザワクチンの製造(卵の使用は避けることが好ましい)において細胞系統を用いる手法を提案している。最も好ましい細胞系統は哺乳類細胞系統であることが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、細胞培養インフルエンザワクチン製造の問題に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は、ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、(i)細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させる工程と、(ii)(i)の感染細胞系統から得られたウイルスを増幅させてシードウイルスとして使用するためのインフルエンザウイルスを生産する工程とを含んでなるプロセスに関する。
【0014】
一態様において、本発明は、ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、(i)細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させる工程と、(ii)工程(i)で得られた感染細胞系統により生産されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、このcDNAを逆遺伝学的手法で用いて、工程(i)のインフルエンザウイルスと共通した少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有する新たなインフルエンザウイルスを調製する工程と、(iii)細胞系統にこの新たなインフルエンザウイルスを感染させる工程と、(iv)シードウイルスとして使用するための新たなインフルエンザウイルスを生産するためにこのウイルスを増幅させる工程とを含んでなる、該細胞系統が工程(i)、(iii)および(iv)の1以上に関して鳥類細胞系統である、前記プロセスに関する。
【0015】
一態様において、本発明は、工程(i)のインフルエンザウイルスが、直接患者から、もしくは細胞系統の初代分離株から得られるか、または集団中に循環しているか、もしくは集団中に循環しているインフルエンザウイルスの抗原性として典型的な血球凝集素を有する株である、上記のプロセスに関する。
【0016】
一態様において、本発明は、ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、(i)細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させる工程と、(ii)工程(i)で得られた感染細胞系統からウイルスを少なくとも1回継代する工程と、(iii)シードウイルスとして使用するためのインフルエンザウイルスを生産するために工程(ii)からの感染細胞系統を培養する工程とを含んでなる、該細胞系統が工程(i)〜(iii)の1つ、またはそれを超える、または全てに関して鳥類細胞系統である、前記プロセスに関する。
【0017】
一態様において、本発明は、インフルエンザウイルスワクチンを調製するプロセスであって、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを生産するために前記請求項のいずれか一項に記載のシードウイルスが培養され、その後、ワクチンを得るために所望によりさらに処理されるプロセスに関する。
【0018】
一態様において、使用される鳥類細胞系統には腫瘍形成表現型を有するものがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】卵培養プロセスと細胞培養プロセスを比較するための方法論を示す。
【図2】逆遺伝学を用いて卵培養プロセスと細胞培養プロセスを比較する方法論を示す。
【図3】EB66由来製剤と卵由来製剤の比較免疫原性:フェレットにおける抗A/インドネシア/05/2005(H5N1)HI力価、を示す。
【図4】EB66由来製剤と卵由来製剤の比較免疫原性:フェレットにおける抗A/インドネシア/05/2005(H5N1)NT力価、を示す。
【図5】EB66由来製剤と卵由来製剤の比較免疫原性:マウスにおける抗A/インドネシア/05/2005(H5N1)HI力価、を示す。
【図6】EB66由来製剤と卵由来製剤の比較免疫原性:マウスにおける抗A/インドネシア/05/2005(H5N1)NT力価、を示す。
【図7】EB66由来製剤と卵由来製剤の比較免疫原性:MDCKにおけるフェレット鼻腔スワブ(nasal swap)ウイルス力価測定:A/ソロモン諸島/03/2006のウイルス量、を示す。
【図8】EB66由来製剤と卵由来製剤およびMDCK由来製剤の比較免疫原性:MDCKにおけるフェレット鼻腔スワブ(nasal swap)ウイルス力価測定:A/ウィスコンシン/67/2005のウイルス量、を示す。
【図9】EB66由来製剤と卵由来製剤およびMDCK由来製剤の比較免疫原性:MDCKにおけるフェレット鼻腔スワブ(nasal swap)ウイルス力価測定:B/マレーシア/2506/2004のウイルス量、を示す。
【図10】EB66由来製剤と卵由来製剤およびMDCK由来製剤の比較免疫原性:フェレットにおけるH1N1型インフルエンザ同種および異種NT力価、を示す。
【図11】EB66由来製剤と卵由来製剤およびMDCK由来製剤の比較免疫原性:フェレットにおけるH3N2型インフルエンザ同種および異種NT力価、を示す。
【図12】EB66由来製剤と卵由来製剤およびMDCK由来製剤の比較免疫原性:フェレットにおけるB型インフルエンザ同種および異種NT力価、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、シードインフルエンザワクチンの調製のための鳥類細胞系統の使用、およびそれから製造されるワクチンに関する。
【0021】
本明細書に言及されるシードウイルスは、ワクチンバッチの生産に直接的または間接的に用いられるウイルスである。一般に、ウイルスの分離株を用いてマスターシードを含んでなる一定量のウイルスを生産することができ、これが一般にアリコートに分けられ、保存される。一アリコートのマスターシードを用いて一定量のワーキングシードを生産することができ、これが再びアリコートに分けられ、保存される。次にこの一アリコートのワーキングシードを用いて一バッチのワクチンを生産することができる。従って、全てのワクチンバッチはマスターシードから2継代しか経ていない。
【0022】
ワクチンの製造に使用されるシードウイルスは、使用前に適宜特性決定が行われている。特性決定は、コンタミネーション試験および/またはウイルスの均一性試験を含み得る。シードウイルスは単一の均一な株であることが好適である。
【0023】
本明細書に言及される場合、細胞系統にウイルスを「感染させる」とは、その細胞にウイルスDNA、またはその細胞内で機能的ウイルスを生成させるに十分な遺伝物質でトランスフェクトすることを含む。
【0024】
本明細書に言及される場合、ウイルスを「増幅する」とは、ウイルスのコピー数を増加させるための細胞培養内でのウイルスの好適な増殖である。
【0025】
本明細書に言及される場合、インフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAの調製とは、逆遺伝学的手法で使用するのに好適なcDNAの分離、精製もしくは生成、またはそうでなければ取得を含む。
【0026】
本明細書に言及される場合、初代分離株とは、感染個体から得られたウイルス分離株を含む。
【0027】
本明細書に言及される場合、集団中に循環している株とは、アトランタ、イギリスのロンドン、オーストラリアのメルボルンおよび日本の東京の疾病管理予防センター(CDC)にある世界保健機関(WHO)インフルエンザ調査研究協力センターにより承認されたいずれの株も含む。
【0028】
ワクチンを生産するためのウイルスの処理には、分割、サブユニットワクチンの作製、および化学的不活化(ホルムアルデヒド処理など)を含む当技術分野で周知の方法によるインフルエンザウイルスの不活化を含む。
【0029】
鳥類細胞系統は、患者サンプルを直接感染させ、初代分離株の生成に使用することができる。
【0030】
あるいは、鳥類細胞系統に、別の細胞系統(非ヒト哺乳類細胞系統、例えばMDCK細胞系統、好ましくは、腫瘍形成表現型を持たないMDCK細胞系統)に事前に感染していたインフルエンザサンプルを感染させてもよい。
【0031】
一態様において、インフルエンザウイルスは、鳥類細胞系統で用いるまでに卵内に存在したことがない。
【0032】
鳥類細胞系統
一態様において、鳥類細胞系統は、鳥類胚幹細胞系統などの連続的な遺伝的に安定な鳥類細胞系統である。好適な細胞系統はニワトリ細胞系統EB14またはカモ細胞系統EB24もしくはEB66細胞、例えば、国際公開第2008129058号もしくは同第2003076601号で製造またはそうでなければ開示されているもの(Vivalisにより生産:www.vivalis.comも参照)などである。好ましい細胞系統はEB66である。米国特許出願第20090239297A1号および同第20040058441A1号などの同等の米国公開を含め、これらの開示は参照により全内容を本明細書に組み入れる。
【0033】
一態様において、国際公開第2008129058号の教示によれば、連続的二倍体鳥類細胞系統が好ましい。本発明に適用可能なこの開示では、本発明の連続的二倍体鳥類細胞系統(すなわちEBx(登録商標))の確立プロセスは、a)増殖を可能とする全ての因子を含有する完全培養培地中、フィーダー層の存在下、動物血清の添加下で、複製能を有する内因性レトロウイルス粒子、より具体的には、EAVおよび/またはALV−Eプロウイルス配列またはそのフラグメントを生産することのできる完全な内因性プロウイルス配列またはそのフラグメントを含まない鳥類由来胚幹細胞の分離、培養および拡大(所望により、該完全培養培地は付加的アミノ酸(すなわち、グルタミン、非必須アミノ酸など)、ピルビン酸ナトリウム、β−メルカプトエタノール、ビタミン類、非動物起源のタンパク質加水分解物(すなわち、イーストレート(yeastolate)、植物加水分解物(ダイズ、コムギなど))などの添加物を含んでもよい);b)前記因子、前記フィーダー層および前記血清、ならびに任意選択の前記添加物の完全な除去が得られるように培養培地を改変すること、およびさらに外因性増殖因子、フィーダー層および動物血清の不在下、基本培地で長期間増殖可能な、複製能を有する内在性レトロウイルス粒子を生産しない接着性または懸濁状態の鳥類細胞系統(すなわちEBx(登録商標))を得ることによる継代、の2つの工程を含んでなる。
【0034】
より具体的には、ES細胞由来の連続的二倍体鳥類細胞系統(該鳥類細胞系統は複製能を有する内因性レトロウイルス粒子を生産しない)を得るためのプロセスは、a)好ましくはカモまたはev−0ニワトリから、イヤル−ギラディ(EYAL-GILADI)の分類(EYAL-GILADI's classification: EYAL-GILADI and KOCHAN, 1976, 《 From cleavage to primitive streack formation : a complementary normal table and a new look at the first stages of the development in the chick 》. "General Morphology" Dev. Biol., 49:321-337)の第VI段階前後から孵化前、好ましくは産卵前後を含む発達段階の鳥類胚を分離する工程(この鳥類のゲノムは、複製能を有する内因性レトロウイルス粒子を生産することのできる内因性プロウイルス配列を含まない);b)工程a)の胚を解離させることにより得られた鳥類胚幹(ES)細胞を、インスリン増殖因子1(IGF−1)および繊毛様神経栄養因子(CNTF);動物血清;ならびにインターロイキン6(IL−6)、インターロイキン6受容体(IL−6R)、幹細胞因子(SCF)および繊維芽細胞増殖因子(FGF)からなる群から選択される任意選択の増殖因子を添加した基本培養培地に懸濁させる工程;c)工程b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層の上に播種し、さらにこのES細胞を少なくとも1継代培養する工程;d)所望により、1〜15継代前後、好ましくは3〜15継代前後の数継代の間、IL−6、IL−6R、SCF、FGFからなる群から選択される全ての増殖因子を培養培地から除去し、さらにこの鳥類ES細胞を少なくとも1継代培養する工程(好ましくは、IL−6、IL−6R、SCF、FGFからなる群から選択される全ての増殖因子の培養培地からの除去は1継代の間、同時に行う。通常、IL−6、IL−6R、SCF、FGFの除去は10〜15継代前後で行う。);e)IGF−1およびCNTFを培養培地から除去し、さらにこの鳥類ES細胞を少なくとも1継代培養する工程(好ましくは、IGF−1およびCNTFからなる群から選択される増殖因子の培養培地からの除去は1継代の間、同時に行う。通常、IGF−1およびCNTFの除去は15〜25継代前後で行う。あるいは、IGF−1およびCNTFの除去は数継代(少なくとも2継代、およそ15継代まで)にわたって段階的に引き下げることにより行う。);f)数継代後にフィーダー層の完全な除去が得られるように培養培地のフィーダー細胞の濃度を段階的に引き下げ、さらに細胞を培養する工程;g)所望により、少なくとも1継代後に添加物の完全な除去が得られるように培養培地の添加物の濃度を段階的に引き下げる工程;h)所望により、数継代後に動物血清の完全な除去が得られるように培養培地の動物血清の濃度を段階的に引き下げる工程;i)増殖因子、フィーダー層の不在下、所望により、動物血清および添加物を含まない基本培地で増殖することができるES細胞由来の接着性鳥類細胞系統(すなわち、EBx(登録商標))(該連続的二倍体鳥類細胞系統は複製能を有する内在性レトロウイルス粒子を生産しない)を得る工程;j)所望により、さらに該接着性鳥類EBx(登録商標)細胞系統を懸濁培養条件に順応させる工程(細胞培養を懸濁状態に順応させる工程は、全てEBx(登録商標)細胞を確立するプロセスに沿って行うことができる。例えば、Muscovy胚幹細胞に由来するカモEBx(登録商標)細胞を用いる場合、これらの細胞はフィーダー層除去の前に懸濁液での増殖に順応したものである。北京ダック由来のカモEB(登録商標)細胞(EB24、EB26、EB66)の場合、これらの細胞は動物血清除去の前に懸濁液での増殖に順応したものである。);k)所望により、さらに該鳥類EBx(登録商標)細胞を、例えば制限希釈によってサブクローニングする工程を含んでなる。
【0035】
別の態様では、鳥類胚幹細胞(ES)由来の連続的二倍体鳥類細胞系統(すなわち、EBx(登録商標))(該鳥類細胞系統は複製能を有する内在性レトロウイルス粒子を生産しない)を得るためのプロセスは、a)産卵前後の発達段階の鳥類胚を分離する工程(該鳥類のゲノムは、複製能を有する内因性レトロウイルス粒子を生産することのできる内因性プロウイルス配列を含まない);b)工程a)の胚を解離させることによって得られた鳥類胚幹(ES)細胞を、少なくともインスリン増殖因子1(IGF−1)および繊毛様神経栄養因子(CNTF);ならびにウシ胎仔血清などの哺乳類血清を添加した基本培養培地に懸濁させる工程;c)工程b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層の上に播種し、さらにこのES細胞を少なくとも1継代培養する工程;e)IGF−1およびCNTFを培養培地から除去し、さらにこの細胞を少なくとも1継代培養する工程;f)数継代後にフィーダー層の完全な除去が得られるように培養培地のフィーダー細胞の濃度を段階的に引き下げ、さらに細胞を培養する工程;g)数継代後に哺乳類血清の完全な除去が得られるように培養培地の哺乳類血清の濃度を段階的に引き下げる工程;h)増殖因子、フィーダー層および哺乳類血清の不在下、基本培地中で増殖することができるES細胞由来の接着性鳥類EBx(登録商標)細胞系統(該連続的二倍体鳥類細胞系統は、複製能を有する内在性レトロウイルス粒子を生産しない)を得る工程;i)所望により、さらに接着性鳥類EBx(登録商標)細胞系統を、懸濁液としての増殖を促進することによって、より好ましくは、工程h)で得られた接着性鳥類EBx(登録商標)細胞系統を、最初の支持体よりも接着性の低い別の支持体(すなわち、Ultra Low attachment support)に移すことによって、懸濁培養条件に順応させる工程を含んでなる。
【0036】
接着性鳥類EBx(登録商標)細胞系統を懸濁培養条件に順応させる工程j)は、実施される場合、別の好ましい実施形態では、培養培地の哺乳類血清の濃度を段階的に引き下げる工程g)の前に行うことができる。
【0037】
別の好ましい実施形態では、本発明に従って連続的二倍体鳥類細胞系統を得るためのプロセスの工程b)の基本培養培地には、さらにインターロイキン6(IL−6)、インターロイキン6受容体(IL−6R)、幹細胞因子(SCF)および繊維芽細胞増殖因子(FGF)からなる群から選択される増殖因子を添加し、該プロセスはさらに、d)所望により、IL−6、IL−6R、SCF、FGFからなる群から選択される全ての増殖因子を培養培地から除去し、さらにこのES細胞を少なくとも1継代培養する工程d)を含んでなる。
【0038】
より好ましい実施形態では、工程d)が実施される場合、IGF−1およびCNTFを培養培地から除去する工程e)は、IL−6、IL−6R、SCF、FGFからなる群から選択される増殖因子を培養培地から除去する工程d)の後に行う。
【0039】
一態様において、鳥類細胞は懸濁液で増殖させることができる。一態様において、鳥類細胞は血清不含培地で増殖させることができる。
【0040】
一態様において、鳥類細胞はin vivoにおいて腫瘍形成能を持たない。
【0041】
一態様において、鳥類細胞系統は、哺乳類細胞系統とα2−6シアル酸受容体を共有する。
【0042】
EB66の増殖に好適な培地は、SAFC biosciencesから得られるEX−CELL EBx培地である。
【0043】
このような鳥類細胞系統はインフルエンザウイルスの直接的分離に使用可能であるか、または集団中に循環しているか、もしくは集団中に循環しているインフルエンザウイルスに抗原性として典型的な血球凝集素を有する株などの、ワクチン製造に好適なインフルエンザ株に感染させることができる。
【0044】
本発明の一態様において、患者サンプルからシードワクチンの調製に用いられるのは鳥類細胞系統だけであり、本プロセスでは種々の鳥類細胞系統の使用が具体的に意図されるが、他のタイプの細胞系統は使用されない。本発明の一態様において、ワクチンの調製に用いられるのは鳥類細胞系統だけであり、他のタイプの細胞系統は使用されない。
【0045】
よって一態様において、インフルエンザウイルスを患者サンプル(例えば、臨床分離株)から鳥類細胞、好適にはEB66細胞に直接感染させ、卵または哺乳類細胞培養を使用せずに、ワクチンシードの調製に用いる。
【0046】
一態様において、インフルエンザウイルスを患者サンプル(例えば、臨床分離株)から鳥類細胞、好適にはEB66細胞に直接感染させた後、所望により種々のタイプの鳥類細胞に再び感染させ、ワクチンシードを調製する。
【0047】
一態様において、インフルエンザウイルスは鳥類細胞系統で1回または2回継代し、一態様においては、抗原の採取およびワクチン調製のためにウイルスを増殖させる前に行う継代は2回以下である。
【0048】
一態様において、インフルエンザ株がH3N2株、特に、A/ウィスコンシン/67/2005(H3N2)株である場合、インフルエンザウイルスは2回を超えて継代されない。
【0049】
複数の異なる細胞系統の使用
上述の特定の細胞系統を含め、鳥類細胞系統は、細胞系統(この細胞系統は、ウイルス複製を助ける哺乳類細胞、例えば、ハムスター、ウシ、霊長類(ヒトおよびサルを含む)およびイヌ細胞を含み得るが、ヒトおよび他の霊長類細胞の使用は好ましくない)にすでに感染していたインフルエンザサンプルに感染させてもよい。腎臓細胞、繊維芽細胞、網膜細胞、肺細胞などの種々細胞種を使用することができる。好適なハムスター細胞の例は、BHK21またはHKCCの名称の細胞系統である。好適なサル細胞は例えば、アフリカミドリザル細胞、例えば、Vero細胞系統のような腎臓細胞がある。好適なイヌ細胞は例えば、CLDKおよびMDCK細胞系統のような腎臓細胞がある。好適な細胞系統は、限定されるものではないが、MDCK、CHO、CLDK、HKCC、293T、BHK、Vero、MRC−5、PER.C6、FRhL2、WI−38などが挙げられる。好適な細胞系統は、例えば、American Type Cell Culture (ATCC) collectionおよびEuropean Collection of Cell Cultures (ECACC)から広く入手可能である。これらの細胞種のいずれを本発明に従って増殖、遺伝子再集合および/または継代に使用してもよい。MDCK細胞系統は種々の腫瘍形成表現型を呈する。ATCC細胞系統CCL−34は、Krauseにより、非腫瘍形成性であることが記載されている。他のMDCK細胞、特に、懸濁に順応した細胞は腫瘍形成表現型を示す。BV5F1などのMDCKのいくつかのクローンは、非腫瘍形成性であることが分かっている(国際公開第05/113758号)。
【0050】
一態様において、インフルエンザウイルスを患者サンプルから非ヒト哺乳類細胞、好適にはMDCK細胞に直接感染させ、その後、鳥類細胞、好適にはニワトリ細胞EB14またはカモ細胞EB24もしくはEB66細胞などの鳥類胚幹細胞に感染させて、ワクチン製造に使用するためのウイルスシードを作製する。
【0051】
一態様において、インフルエンザウイルスを患者サンプルから鳥類細胞、好適にはEB66細胞に直接感染させ、その後、非ヒト哺乳類細胞、好適にはMDCK細胞、好ましくは腫瘍形成表現型を持たないMDCK細胞に感染させて、ワクチン製造に使用するためのウイルスシードを作製する。
【0052】
概説(非鳥類細胞特異的特徴)
インフルエンザウイルス株、哺乳類細胞系統、逆遺伝学的技術、ワクチン調製法、インフルエンザ受容体結合、および医薬組成物を記載した好適な背景情報は国際公開第2008032219号に示されており、この教示は参照により本明細書に組み入れる。
【0053】
本発明の一態様において、シードウイルスは配列決定してもよく、かつ/または抗血清を惹起するために使用してもよく、かつ/またはワーキングシードロットを調製するために使用してもよい。
【0054】
一態様において、シードウイルスゲノムはPR/8/34セグメントを持たない。
【0055】
一態様において、シードウイルスは、Sia([α]2,3)Gal末端二糖を含むオリゴ糖に比べて、Sia([α]2,6)Gal末端二糖を含むオリゴ糖に結合選択性を有する血球凝集素を持つ。
【0056】
一態様において、本発明のプロセスは、(i)細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させること、および(ii)ウイルスを増幅させる前に、工程(i)で得られた感染細胞系統からウイルスを少なくとも1回継代継代することを含む。継代工程は一般に、インフルエンザウイルスを細胞培養で複製させること;複製したウイルスを例えば培養上清から回収すること;および回収した複製ウイルスを非感染細胞培養物に移すことを含む。このプロセスを繰り返すことができる。少なくとも1回の継代の後、ウイルスを複製させ、ウイルスをシードウイルスとして使用するために回収する。
【0057】
ワクチン
一態様において、本発明はまた、インフルエンザウイルスワクチンを調製するプロセスに関し、本明細書で開示されるように作製されたシードウイルスがワクチン製造用のインフルエンザウイルスを生産するために培養される。その後、このウイルスを、ワクチンを生産するために、例えば、不活化完全ワクチン、スプリットワクチン、サブユニットワクチン(HA、VLPまたはビロソームに基づくワクチンなどの、組換え発現されたインフルエンザウイルス抗原に基づくサブユニットワクチンを含む)を生産することによって処理してもよい。このようなワクチンを生産する方法は当技術分野で周知であり、以下にさらに記載する。
【0058】
一態様において、このようにして生産されたワクチンは、1用量当たり25ng未満、好適には10ng未満の残存宿主細胞DNAを含有する。
【0059】
一態様において、多価インフルエンザワクチンは、単一の株に対して本明細書に開示されるようにワクチンを製造し、その後、このワクチンを、所望により、これもまた本発明方法を用いて生産された他の1以上の個々のワクチンと混合して多価インフルエンザワクチンを作製することにより、生産することができる。一態様において、多価インフルエンザワクチンは、2種のA型インフルエンザウイルス株と1種のB型インフルエンザウイルス株を含み得る。一態様において、ワクチンは少なくとも1種のパンデミック株を含んでなる。
【0060】
一態様において、ワクチンは実質的に水銀を含まない。
【0061】
一態様において、ワクチンはアジュバントを含む。
【0062】
アジュバント
一態様において、本発明の医薬組成物はアジュバントを含まない。別の態様において、本発明の医薬組成物はアジュバントを含んでなる。
【0063】
水中油型エマルションアジュバント
一態様において、本発明のアジュバントはエマルション、特に、水中油型エマルションであり、所望により他の免疫賦活剤を含んでもよい。特に、エマルション系の油相は、代謝可能な油を含んでなる。代謝可能な油という意味は当技術分野で周知である。代謝可能なとは、「代謝により変換可能である」ことと定義することができる(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary, W.B. Sanders Company,第25版(1974))。油は、レシピエントに毒性が無く、代謝により変換可能ないずれの植物油、魚油、動物油または合成油であってもよい。ナッツ類、種子および穀粒が植物油の一般的な供給源である。合成油もまた本発明の一部であり、NEOBEE(登録商標)およびその他などの市販の油を含み得る。特に好適な代謝可能な油はスクアレンである。スクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサン)は、サメ肝油中に大量に見られ、また、オリーブ油、コムギ胚芽油、糠油および酵母中に少量見られる不飽和油であり、本発明で用いるための油である。スクアレンは、コレステロール生合成の中間体であるということによって代謝可能な油である(Merck index,第10版, entry no.8619)。
【0064】
水中油型エマルションはそれ自体当技術分野で周知であり、アジュバント組成物として有用であることが示唆されており(欧州特許第399843B号)、また、水中油型エマルションと他の活性剤の組合せもワクチン用のアジュバントとして記載されている(所望により免疫賦活剤QS21および/または3D−MPLとともに製剤化されたスクアレン、α−トコフェロールおよびTWEEN 80に基づくエマルションアジュバントを開示している国際公開第95/17210号;同第98/56414号;同第99/12565号;同第99/11241号;同第2006/100109号;同第2006/100110号;同第2006/100111号;同第2008/128939号;同第2008/043774)。国際公開第90/14837号;同第00/50006号;同第2007/052155号;同第2007/080308号;同第2007/006939号に開示されているものなどの他の水中油型エマルションに基づくアジュバントも記載されており、これらは全てオイルエマルション系(特に、スクアレンに基づく場合)を形成し、本発明の別のアジュバントおよび組成物を形成する。
【0065】
特定の実施形態では、水中油型エマルションは、スクアランまたはスクアレンなどの代謝可能な無毒な油、所望により、トコフェロール、特に、αトコフェロールなどのトコール(および所望により、スクアレンとαトコフェロールの双方)および非イオン界面活性剤TWEEN 80(商標)もしくはポリソルベート80などの乳化剤(または界面活性剤)を含んでなる。特定の実施形態では、このオイルエマルションはさらにコレステロールなどのステロールを含でなる。例えば、Tween 80(もしくはポリソルベート80(商標))/Span 85混合物、またはTween 80(もしくはポリソルベート80(商標))/Triton−X100混合物などの界面活性剤の混合物が使用可能である。
【0066】
トコール(例えば、ビタミンE)もまた、オイルエマルションアジュバントに用いられる(欧州特許第0382271B1号;米国特許出願第5667784号;国際公開第95/17210号)。オイルエマルション(所望により、水中油型エマルション)に用いられるトコールは、欧州特許第0382271B1号に記載のとおりに調剤することができ、この場合、トコールは、所望により乳化剤を含む、所望により直径1ミクロン未満のトコール液滴の分散物であり得る。あるいは、トコールは、別の油と併用してオイルエマルションの油相を形成してもよい。トコールと併用可能なオイルエマルションの例は、上記の代謝可能な油など、本明細書に記載されている。
【0067】
水中油型エマルションを生産する方法は当業者に周知である。一般に、その方法は、油相をPBS/TWEEN80(商標)溶液などの界面活性剤と混合した後、ホモジナイザーを用いてホモジナイズすることを含んでなる。当業者には、混合物をシリンジニードルに2回通すことを含んでなる方法は少量の液体をホモジナイズするのに適していることが明らかであろう。同様に、当業者ならば、マイクロフルイダイザー(M110S Microfluidics機、最大50パス、最大入口圧6バール(出口圧約850バール)で2分間)における乳化プロセスを、少量または多量のエマルションを作製するために適合させることができるであろう。この適合は、必要な直径の油滴を有する調製物が得られるまで、生じたエマルションを測定することを含んでなる慣例の実験によって達成することができた。
【0068】
水中油型エマルションでは、油および乳化剤は水性担体中とすべきである。水性担体は例えばリン酸緩衝生理食塩水であり得る。
【0069】
安定な水中油型エマルション内に見られる油滴の大きさは所望により1ミクロン未満であり、光子相関分光法によって測定した際に実質的に直径30〜600nmの範囲、所望により実質的に直径30〜500nm前後、所望により実質的に直径150〜500nm、特に、直径約150nmであり得る。これに関しては、数において油滴の80%がその範囲にあるべきであり、所望により、数において90%を超える油滴、所望により95%を超える油滴が定義される大きさの範囲内ある。
【0070】
一態様において、免疫原性組成物のアジュバントは、下記組成のサブミクロンの水中油型エマルションを含んでなる:
2〜10%のスクアレン、0.3〜3%のTWEEN80(商標)および所望により2〜10%のα−トコフェロール;
約5%のスクアレン、約0.5%のポリソルベート80および約0.5%のSpan 85。このアジュバントはMF59と呼ばれる。
【0071】
別の態様では、免疫原性組成物のアジュバント中に存在する成分は、これまでに有用であると思われていたものよりも低量であり、好適には、免疫原性組成物のヒト1用量当たり、代謝可能な油(スクアレンなど)11mg未満、例えば、0.5〜11mg、0.5〜10mgまたは0.5〜9mgの間、および乳化剤(好適にはポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタンなど)5mg未満、例えば、0.1〜5mgの間である。好適には、トコール(例えば、α−トコフェロール)は、存在する場合、12mg未満、例えば、0.5〜12mgの間である。本発明のアジュバント組成物は、好適には、0.5〜10mgの量の代謝可能な油と0.4〜4mgの量の乳化剤、および所望により0.5〜11mgの量のトコールを含んでなる水中油型エマルションアジュバントを含んでなる。本発明の別のアジュバント組成物は、好適には、1〜7mgの量の代謝可能な油と0.3〜3mgの量の乳化剤、および所望により1〜8mgの量のトコールを含んでなる水中油型エマルションアジュバントを含んでなる。好適には、該エマルションは、その少なくとも70%、好適には少なくとも80%強度が1μm未満の直径を有する油滴を持つ。
【0072】
「ヒト用量」とは、ヒト用途に好適な用量で送達されるインフルエンザ組成物用量(アジュバントと抗原成分を混合した後)を意味する。一般に、この用量は0.25〜1.5mlの間である。一実施形態では、ヒト用量は約0.5mlである。さらなる実施形態では、ヒト用量は0.5mlより多く、例えば、約0.6、0.7、0.8、0.9または約1mlである。さらなる実施形態では、ヒト用量は1ml〜1.5mlの間である。別の実施形態では、特に、免疫原性組成物がパンデミック集団に用いられる場合、ヒト用量は0.5ml未満、例えば、0.25〜0.5mlの間、または厳密には0.1ml、0.2ml、0.25ml、0.3mlまたは0.4mlであり得る。本発明は、免疫原性組成物内の個々のアジュバント成分のそれぞれまたは全てがこれまでに有用であると思われていたものよりも低レベルであり、一般に上記に挙げられた通りであることを特徴とする。特に好適な組成物は、下記のo/wアジュバント成分を、ヒト用量の最終容量(好適には約0.5mlまたは約0.7ml)中に下記の量で含んでなる(表1および表2)。
【表1】

【表2】

【0073】
表1および表2に示されている全ての数値(例えば、%またはmg)は、5%の変動を見込んで理解すべきであり、すなわち、4.88mgのスクアレンは、4.64〜5.12mgの間を意味すると理解すべきである。
【0074】
必要なHA量および必要なアジュバント成分量を送達するアジュバント含有ワクチンを作製するために、各成分(o/wエマルションおよび抗原)の前希釈を行うことができる。
【0075】
一実施形態では、凍結乾燥したインフルエンザ抗原組成物を再構成するために液体アジュバントが使用される。この実施形態では、アジュバント組成物のヒト用量として好適な容量はヒト用量の最終容量にほぼ等しい。液体アジュバント組成物は、凍結乾燥した抗原組成物の入ったバイアルに加える。最終ヒト用量は0.5〜1.5mlの間で可変である。
【0076】
所望により、油(例えば、スクアレン):トコール(例えば、α−トコフェロール)の比率は1以下であるが、これはより安定なエマルションを提供するためである。
【0077】
本発明のワクチンが安定剤、好適には、α−トコフェロールコハク酸などのα−トコフェロールの誘導体をさらに含有することが有利な場合もある。
【0078】
免疫原性組成物においてアジュバントを働かせる成分の用量は、ヒトにおいて抗原に対する免疫応答を増強し得ることが好適である。特に、代謝可能な油、トコールおよびポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタンの好適な量は、アジュバント不含組成物に比べて組成物の免疫能を増強する量、または対象ヒト集団において別の(より高い)量の該成分を含んでなるアジュバントで増強される組成物で得られるものと同等の免疫能を与えるとともに、反応原性特性から許容される量である。
【0079】
任意選択の免疫賦活剤
一態様において、アジュバントは、スクアレンなどの代謝可能な油、α−トコフェロールなどのトコールおよびポリソルベート80などの界面活性剤を、上記で定義された量で含む水中油型エマルションアジュバントであり、付加的免疫賦活剤は含まず、特に、非毒性脂質A誘導体(3D−MPLなど)またはサポニン(QS21など)を含まない。
【0080】
本発明の別の態様では、抗原または抗原組成物と、水中油型エマルションおよび任意選択の1以上のさらなる免疫賦活剤を含んでなるアジュバント組成物とを含んでなるワクチン組成物が提供される。付加的免疫賦活剤は非毒性脂質A誘導体(3D−MPLなど)またはサポニン(QS21など)であり得る。本発明の別の態様では、水中油型エマルションアジュバントは所望により1以上の付加的アジュバント、またはQS21および/もしくはMPL以外の免疫賦活剤を含んでなる。
【0081】
本発明の別の態様では、本発明の医薬組成物は、本明細書に挙げられている成分をはじめとする、水中油アジュバント以外のアジュバントを単独で、または例えば、非毒性脂質A誘導体(3D−MPLなど)もしくはサポニン(QS21など)と組み合わせて含んでなる。
【0082】
本発明の別の態様では、アジュバントは、リポ多糖類、好適には、脂質Aの非毒性誘導体、特に、モノホスホリル脂質A、またはより詳しくは、3−脱アシル化モノホスホリル脂質A(3D−MPL)を含む。3D−MPLはGlaxoSmithKline Biologicals N.A.によりMPLの名称で販売されており、MPLまたは3D−MPLとして文献に参照される。例えば、米国特許第4,436,727号、同第4,877,611号、同第4,866,034号および同第4,912,094号参照。3D−MPLは主として、IFN−g(Th1)表現型を伴うCD4+T細胞応答を促進する。3D−MPLは、GB2220211Aに開示されている方法に従って生産することができる。化学的には、この3D−MPLは、3−脱アシル化モノホスホリル脂質Aと3、4、5または6本のアシル化鎖の混合物である。本発明の組成物では、小粒子3D−MPLが使用可能である。小粒子3D−MPLは、0.22μmフィルターで濾過除菌できる粒径を持つ。このような調製物は国際公開第94/21292号に記載されている。
【0083】
3D−MPLなどの該リポ多糖類は、免疫原性組成物のヒト1用量当たり1〜50μgの間の量で使用することができる。このような3D−MPLは約25μgのレベルで使用することができる。別の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、3D−MPLを約10μg、例えば5〜15μgの間のレベルで含んでなる。さらなる実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は3D−MPLを約5μgのレベルで含んでなる。
【0084】
別の実施形態では、脂質Aの合成誘導体は任意選択の付加的免疫賦活剤として用いられ、TLR−4アゴニストと記載される場合もあり、限定されるものではないが、下記のものを含む。
【0085】
OM174 (2−デオキシ−6−o−[2−デオキシ−2−[(R)−3−ドデカノイルオキシテトラ−デカノイルアミノ]−4−o−ホスホノ−β−D−グルコピラノシル]−2−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]−α−D−グルコピラノシルリン酸二水素)、(国際公開第95/14026号)
OM294 DP (3S,9R)−3−−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9(R)−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1,10−ジオール,1,10−ビス(リン酸二水素)(国際公開第99/64301号および同第00/0462号)
OM197 MP−Ac DP (3S−,9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1,10−ジオール,1−リン酸二水素10−(6−アミノヘキサノエート)(国際公開第01/46127号)
使用可能な他のTLR4リガンドとしては、国際公開第9850399号または米国特許出願第6303347号(AGPの調製プロセスも開示されている)に開示されているものなどのアルキルグルコサミニドリン酸(AGP)、好適には、RC527もしくはRC529、または米国特許出願第6764840号に開示されているようなAGPの薬学上許容される塩がある。AGPのあるものはTLR4アゴニストであり、またあるものはTLR4アンタゴニストである。双方ともアジュバントとして有用であると考えられる。
【0086】
TLR−4を介してシグナル伝達応答を引き起こすことができる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5) 他の好適なTLR−4リガンドとしては、例えば、グラム陰性菌由来のリポ多糖類およびその誘導体、またはその断片、特に、LPSの非毒性誘導体(3D−MPLなど)がある。他の好適なTLRアゴニストは、熱ショックタンパク質(HSP)10、60、65、70、75もしくは90;界面活性剤プロテインA、ヒアルロナンオリゴ糖、ヘパラン硫酸断片、フィブロネクチン断片、フィブリノゲンペプチドおよびb−デフェンシン−2、ムラミルジペプチド(MDP)または呼吸器合胞体ウイルスのFタンパク質である。一実施形態では、TLRアゴニストはHSP60、70または90である。他の好適なTLR−4リガンドは、米国特許出願第2003/011223号および同第2003/099195号に記載されている通りであり、例えば、国際公開第2003/011223号の第4〜5頁または同第2003/099195号の第3〜4頁に開示されている化合物I、化合物IIおよび化合物III、特に、国際公開第2003/011223号にER803022、ER803058、ER803732、ER804053、ER804057、ER804058、ER804059、ER804442、ER804680およびER804764として開示されている化合物である。好適には、該TLR−4リガンドはER804057である。
【0087】
Toll様受容体(TLR)は、昆虫とヒトの間で進化的に保存されているI型膜貫通型受容体である。TLRはこれまでに確立されている(TLR1〜10)(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。TLRファミリーのメンバーは類似の細胞外ドメインと細胞内ドメインを有し、それらの細胞外ドメインはロイシンリッチリピート配列を有し、細胞内ドメインはインターロイキン−1受容体(IL−1R)の細胞内領域と類似していることが示されている。TLR細胞は免疫細胞と他の細胞(血管上皮細胞、脂肪細胞、心筋細胞および腸管上皮細胞を含む)との間で差次的に発現される。TLRの細胞内ドメインは、アダプタータンパク質Myd88(その細胞質領域にIL−1Rドメインもまた有する)と相互作用して、サイトカインのNF−KB活性化をもたらすことができ、このMyd88経路は、サイトカイン放出がTLRの活性化によって達成される1つの経路である。TLRの主要な発現は、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージなど)のような細胞種における。
【0088】
TLRを介した刺激による樹状細胞の活性化は、樹状細胞の成熟およびIL−12などの炎症性サイトカインの生産をもたらす。これまでに行われた研究では、TLRは異なるタイプのアゴニストを認識するが、いくつかのTLRに共通のアゴニストもあることが分かっている。TLRアゴニストは主として細菌またはウイルスに由来し、フラジェリンまたは細菌リポ多糖(LPS)などの分子を含む。「TLRアゴニスト」は、直接的リガンドとして、または内因性もしくは外因性リガンドの生成を介して間接的に、TLRシグナル伝達経路を介してシグナル伝達応答を生じ得る成分を意味する(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。
【0089】
別の実施形態では、TLR分子の他の天然または合成アゴニストが任意選択の付加的免疫賦活剤として用いられる。これらには、限定されるものではないが、TLR2、TLR3、TLR7、TLR8およびTLR9のアゴニストが含まれる。
【0090】
よって、一実施形態では、アジュバント組成物は、TLR−1アゴニスト、TLR−2アゴニスト、TLR−3アゴニスト、TLR−4アゴニスト、TLR−5アゴニスト、TLR−6アゴニスト、TLR−7アゴニスト、TLR−8アゴニスト、TLR−9アゴニストまたはその組合せからなる群から選択される免疫賦活剤を含んでなる。
【0091】
本発明の一実施形態では、TLR−1を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−1を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、トリ−アシル化リポペプチド(LP);フェノール可溶性モジュリン;結核菌(Mycobacterium tuberculosis)LP;細菌リポタンパク質のアセチル化アミノ末端を模倣するS−(2,3−ビス(パルミトイルオキシ)−(2−RS)−プロピル)−N−パルミトイル−(R)−Cys−(S)−Ser−(S)−Lys(4)−OH三塩酸(PamCys)LPおよびライム病ボレリア(Borrelia burgdorfei)由来のOspA LPから選択される。
【0092】
別の実施形態では、TLR−2を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−2を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、リポタンパク質、ペプチドグリカン、結核菌、ライム病ボレリア、梅毒トレポネーマ(T pallidum)由来の細菌リポペプチド;黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を含む種に由来するペプチドグリカン;リポテイコ酸、マンヌロン酸、ナイセリア・ポリンズ(Neisseria porins)、細菌線毛、エルシナ(Yersina)病原因子、CMVビリオン、麻疹血球凝集素、および酵母由来ザイモサンの1以上である。
【0093】
別の実施形態では、TLR−3を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−3を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、二本鎖RNA(dsRNA)、またはウイルス感染に関連する分子核酸パターンであるポリイノシン−ポリシチジル酸(ポリIC)である。
【0094】
別の実施形態では、TLR−5を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−5を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、細菌フラジェリンである。
【0095】
別の実施形態では、TLR−6を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−6を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、マイコバクテリアのリポタンパク質、ジアシル化LP、およびフェノール可溶性モジュリンである。さらなるTLR6アゴニストは国際公開第2003043572号に記載されている。
【0096】
別の実施形態では、TLR−7を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−6を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、一本鎖RNA(ssRNA)、ロキソリビン、N7およびC8位におけるグアノシン類似体、またはイミダゾキノリン化合物もしくはその誘導体である。一実施形態では、TLRアゴニストはイミキモドである。さらなるTLR7アゴニストは国際公開第02085905号に記載されている。
【0097】
別の実施形態ではTLR−8を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。好適には、TLR−8を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、一本鎖RNA(ssRNA)、抗ウイルス活性を有するイミダゾキノリン分子、例えば、レシキモド(R848)であり、レシキモドはまたTLR−7によっても認識され得る。使用可能な他のTLR−8アゴニストには、国際公開第2004071459号に記載されているものが含まれる。
【0098】
別の実施形態では、TLR−9を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストが用いられる(Sabroe et al, JI 2003 p1630-5)。一実施形態では、TLR−9を介してシグナル伝達応答を生じさせることのできるTLRアゴニストは、細菌またはウイルスDNA、非メチル化CpGヌクレオチドを含有するDNA、特に、CpGモチーフとして知られる配列構成を含有するDNA(国際公開第96/02555号、同第99/33488号、米国特許第6,008,200号および同第5,856,462第)である。好適には、CpGヌクレオチドはCpGオリゴヌクレオチドである。本発明のCpGオリゴヌクレオチドは一般にデオキシヌクレオチドである。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドのヌクレオチド間はホスホロジチオエート結合、または好適にはホスホロチオエート結合であるが、ホスホジエステル結合および他のヌクレオチド間結合も本発明の範囲内にある。また、混合型のヌクレオチド間結合を有するオリゴヌクレオチドも本発明の範囲内に含まれる。ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドまたはホスホロジチオエートオリゴヌクレオチドの作製方法は、米国特許第5,666,153号、同第5,278,302号および国際公開第95/26204号に記載されている。好ましいオリゴヌクレオチドは、国際公開第2008/128939号に開示されているCpG7909である。
【0099】
別の実施形態では、アジュバント組成物は、サポニンアジュバントを含んでなる。本発明での使用に特に好適なサポニンは、Quil Aおよびその誘導体、例えば、QS21(欧州特許第0362278号)(QA21としても知られる)である。QS−21は、キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)の樹皮に由来する天然サポニンであり、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、Th1細胞および優勢なIgG2a抗体応答を誘発し、本発明に関して好ましいサポニンである。QS21のようなこの免疫学的に活性なサポニンは、免疫原性組成物のヒト1用量当たり1〜50μgの量で使用することができる。
【0100】
3D−MPLおよび/またはQS21の用量は好適には、ヒトにおいて抗原に対する免疫応答を増強することができる。特に、好適な3D−MPLおよび/またはQS21量は、アジュバント不含組成物に比べて、または別の3D−MPLもしくはQS21量のアジュバント含有組成物に比べて組成物の免疫能を高めるとともに、反応原性特性から許容される量である。一般にヒト投与の場合、サポニン(例えば、QS21)および/またはLPS誘導体(例えば、3D−MPL)は、免疫原性組成物のヒト1用量中に、1用量当たり1μg〜200μg、例えば10〜50μg、または1μg〜25μgの範囲で存在する。
【0101】
特定の実施形態では、本発明のアジュバントおよび免疫原性組成物は、上記のオイルエマルション中のサポニン(例えば、QS21)および/またはLPS誘導体(例えば、3D−MPL)を、ステロール(例えば、コレステロール)とともに含んでなる。これらのステロールは当技術分野で周知であり、例えば、コレステロールは、Merck Index, 11th Edn.,第341頁に動物脂肪中に見られる天然ステロールとして開示されている。さらに、オイルエマルション(特に、水中油型エマルション)はSpan 85および/またはレシチンおよび/またはトリカプリリンを含み得る。水中油型エマルション、ステロールおよびサポニンを含んでなるアジュバントは、国際公開第99/12565号に記載されている。さらなる免疫賦活剤の例は本明細書および“Vaccine Design - The Subunit and Adjuvant Approach” 1995, Pharmaceutical Biotechnology, Volume 6, Eds. Powell, M.F., and Newman, M.J., Plenum Press, New York and London, ISBN 0-306-44867-Xに記載されている。
【0102】
スクアレンおよびサポニン(任意に、QS21)が含まれる場合には、その製剤にステロール(任意に、コレステロール)も含ませるのが有利であり、これはエマルション中の油の総レベルを少なくすることができるからである。これにより製造コストが低減され、ワクチンの全体的な快適性が改善され、IFN−γ生産の向上など、得られる免疫応答が質的および量的に向上する。よって、本発明のアジュバント系は一般に、200:1〜300:1の範囲の比率の代謝可能な油:サポニン(w/w)を含んでなり、また、本発明は「低油」型でも使用することができ、その任意選択の範囲は1:1〜200:1、所望により20:1〜100:1、または実質的に48:1であり、このワクチンは、はるかに低い反応原性特性を持ちながら、全ての成分の有益なアジュバント特性を保持している。よって、いくつかの実施形態では、スクアレン:QS21(w/w)の比率は1:1〜250:1、または20:1〜200:1、または20:1〜100:1の範囲、または実質的に48:1である。所望により、ステロール(例えば、コレステロール)も含まれ、上記のようなサポニン:ステロール比で存在する。
【0103】
付加的免疫賦活剤が所望により含まれるアジュバントは、小児および/または高齢者のワクチン製剤に特に好適である。
【0104】
別の態様では、水中油型エマルションアジュバントは所望により、5〜60、10〜50、または20〜30μg(例えば、5〜15、40〜50、10、20、30、40または50μg)の脂質A誘導体(例えば、3D−MPL)をさらに含んでなる。
【0105】
インフルエンザワクチンの製造プロセス
一実施形態では、本発明のワクチンは、不活化スプリットワクチン、完全ワクチン、サブユニットワクチン(HA、ビロソームまたはVLPに基づくワクチンなどの、組換え発現されたインフルエンザウイルス抗原に基づくサブユニットワクチンを含む)であり得る。
【0106】
本発明に従って使用するためのスプリットインフルエンザウイルスワクチンは好適には、スプリットウイルスまたはスプリットウイルス抗原調製物を含んでなり、この場合、ウイルス粒子は界面活性剤または脂質エンベロープを可溶化するための他の試薬で破壊されている。スプリットウイルスまたはそのスプリットウイルス抗原調製物は好適には完全なインフルエンザウイルス(感染性または不活化)を可溶化濃度の有機溶媒または界面活性剤で断片化した後、全てまたは大部分の可溶化剤および一部または大部分のウイルス脂質材料を除去することによって調製される。そのスプリットウイルス抗原調製物とは、スプリットウイルス成分の大部分の抗原特性を保持しつつ、スプリットウイルスに比べてある程度の精製を受けたと思われるスプリットウイルス調製物を意味する。例えば、細胞培養で生産された場合には、スプリットウイルスは宿主細胞夾雑物を除去することができる。スプリットウイルス抗原調製物は、2以上のウイルス株のスプリットウイルス抗原成分を含んでもよい。スプリットウイルスを含有するワクチン(「インフルエンザスプリットワクチン」と呼ばれる)またはスプリットウイルス抗原調製物を含有するワクチンは一般に、残留マトリックスタンパク質および核タンパク質および場合によっては脂質、ならびに膜エンベロープタンパク質を含んでなる。このようなスプリットウイルスワクチンは通常、ウイルスの構造タンパク質の大部分または全てを含んでいるが、完全なウイルスに見られるものと同じ特性である必要はない。市販のスプリットワクチンの例としては、例えば、FLUARIX(商標)、FLUSHIELD(商標)またはFLUZONE(商標)がある。
【0107】
別の実施形態では、インフルエンザウイルスワクチンは、精製サブユニットインフルエンザワクチンの形態である。サブユニットインフルエンザワクチンは一般に、2つの主要なエンベロープタンパク質HAとNAを含み、それらは、特に若年のワクチン接種者では反応原性が低いので、完全ビリオンワクチンに優る付加的利点を持ち得る。サブユニットワクチンは破壊されたウイルス粒子から精製することができる。市販のサブユニットワクチンの例としては、例えば、AGRIPPAL(商標)またはFLUVIRIN(商標)がある。特定の実施形態では、サブユニットワクチンは、血球凝集素(HA)、ノイラミダーゼ(NA)またはM2などの少なくとも1つの主要なエンベロープ成分、好適にはHAから調製される。好適には、それらはインフルエンザ構造タンパク質HA、NA、マトリックス1(M1)およびM2の少なくとも2つの組合せ、好適には、HAおよびNAの双方と、所望によりM1を含んでなる組合せなど、2以上の抗原の組合せを含んでなる。
【0108】
あるいは、インフルエンザウイルスワクチンは、完全ウイルスワクチンの形態であってもよい。
【0109】
一実施形態では、インフルエンザウイルスワクチンは、ビロソームを含んでなる。ビロソームは、ビロソームのリン脂質二重膜に組み込まれた、正確なコンフォメーションで機能的なウイルスエンベロープ糖タンパク質HAおよびNAを保持する球形の単ラメラ小胞である。市販のビロソームワクチンの例としては、例えば、INFLEXAL V(商標)またはINVAVAC(商標)がある。
【0110】
別の実施形態では、サブユニットインフルエンザ成分は、ウイルス様粒子(VLP)またはカプソマー、好適には植物が生成したまたは昆虫細胞が生成したVLPの形態で発現される。VLPは、それらの天然形態で抗原を提示する。VLPサブユニット技術はもっぱらインフルエンザタンパク質に基づいてもよいし、あるいはネズミ白血病ウイルス(MLV)などの他のウイルスに頼ってもよく、従って、MLV gagタンパク質などの非インフルエンザ抗原を含んでもよい。好適なVLPは、少なくとも1つの、好適には少なくとも2つのインフルエンザタンパク質を、所望によりインフルエンザまたは非インフルエンザタンパク質とともに含んでなる、例えば、M1とHA、HAとNA、HAとNAとM1、またはHAとNAとMLV gagなどである。VLPは植物細胞または昆虫細胞のいずれかで生産され得る。VLPはまた、例えば、2種の季節株(例えば、H1N1とH3N2)から、または季節株とパンデミック株(例えば、H3N2とH5N1)から作製されたVLPなど、2つ以上のインフルエンザ株に由来する抗原を有することもできる。
【0111】
インフルエンザウイルス抗原またはその抗原調製物は、例えば、特許DD300833およびDD211444、または国際公開第2002097072号(米国特許第7316813号に同じ)(全て参照により本明細書に組み入れる)に記載されているスプリットインフルエンザプロセスなどの商業的に適用可能ないくつかのプロセスのいずれによって生産してもよい。
【0112】
スプリットワクチンの調製プロセスは、複数の異なる濾過、および/または超遠心分離、限外濾過、ゾーン遠心分離またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換)工程などの他の分離工程を様々な組合せで、所望により、例えば、熱、ホルムアルデヒドもしくはβ−プロピオラクトン、またはU.V.(分割の前または後に行うことができる)などの不活性化工程とともに含み得る。この分割プロセスは回分法、連続法または半連続法として行うことができる。スプリット免疫原性組成物に好ましい分割および精製プロセスは、国際公開第2002097072号に記載されている。
【0113】
一実施形態では、インフルエンザワクチンは、低レベルのチオメルサールの存在下、またはチオメルサールの不在下で調製される。別の実施形態では、得られるインフルエンザワクチンは有機水銀系保存剤の不在下で安定であり、特に、この調製物はチオメルサールの残留が無い。特に、このインフルエンザウイルス調製物は、チオメルサールの不在下で、または低レベルのチオメルサール(一般に20μg/ml以下、例えば15μg/ml以下、10μg/ml以下、5μg/ml以下、または2μg/ml以下)下で安定化された血球凝集素抗原を含んでなる。具体的には、B型インフルエンザ株の安定化は、コハク酸αトコフェロール(ビタミンEコハク酸エステル、すなわち、VESとしても知られる)などのαトコフェロール誘導体によって行われる。このような調製物およびそれらを調製する方法は国際公開第02/097072号に開示されている。
【0114】
好ましいワクチンは、WHOが推奨する適当なインフルエンザ季節株から調製される3つの不活化スプリットビリオン抗原を含有する。
【0115】
一態様において、本発明はまた、患者サンプルを鳥類細胞とともにインキュベートする工程を含む、患者サンプルからインフルエンザウイルスを分離する方法(ここで、鳥類細胞は懸濁培養、血清不含培地、タンパク質不含培地、またはその任意の組合せの1つで増殖している)、および該方法によって分離されたインフルエンザウイルスに関する。
【0116】
一態様において、本発明は、ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するプロセスであって、該方法は、(i)卵基質で増殖されたことのないインフルエンザウイルスを入手する工程;(ii)このインフルエンザウイルスに細胞系統を感染させ工程;および(iii)工程(ii)から得られた感染細胞をインフルエンザウイルスを生産するために培養する工程を含んでなるプロセスに関し、このプロセスは数工程または全工程に鳥類細胞系統を用いる。
【0117】
これに関して入手するとは、以下に記載されるように、使用することまたは使用のために準備することを意味し得る。
【0118】
一態様において、本発明は、ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するプロセスであって、(i)血清含有培地中で増殖する基質上で増殖されたことのないインフルエンザウイルスを入手する工程;(ii)細胞系統にこのインフルエンザウイルスを感染させる工程;および(iii)工程(ii)から得られた感染細胞をインフルエンザウイルスを生産するために培養する工程を含んでなるプロセスに関し、このプロセスは数工程または全工程に鳥類細胞系統を用いる。
【0119】
一態様において、本発明は、ワクチンに使用するためのインフルエンザウイルス抗原を調製するプロセスであって、(i)逆遺伝学的技術を用いて作出されたインフルエンザウイルスを入手する工程;(ii)細胞系統にこのインフルエンザウイルスを感染させる工程;および(iii)工程(ii)から得られた感染細胞をインフルエンザウイルスを生産するために培養する工程を含んでなるプロセスに関し、この細胞系統は鳥類細胞系統である。
【0120】
一態様において、本発明は、遺伝子再集合体インフルエンザウイルスを調製するプロセスであって、(i)細胞系統に、第一のゲノムセグメントセットを有する第一のインフルエンザウイルス株と、第二のゲノムセグメントセットを有する第二のインフルエンザウイルス株の双方を感染させる工程(この第一の株は所望の血球凝集素をコードするHAセグメントを有する);および(ii)工程(i)から得られた感染細胞を、第一のゲノムセグメントセットに由来する少なくとも1つのセグメントと第二のゲノムセグメントセットに由来する少なくとも1つのセグメントを有するインフルエンザウイルスを生産するために培養する工程を含み、ただし、前記第一のゲノムセグメントセットに由来する少なくとも1つのセグメントが第一の株に由来するHAセグメントを含んでなる、プロセスに関し、このプロセスは数工程または全工程に鳥類細胞系統を用いる。
【0121】
医学的処置および送達
一態様において、本発明は、ヒト被験体に免疫応答を誘発する方法に関し、該方法は本発明のワクチンを被験体に投与することを含んでなる。
【0122】
本発明のワクチンは、例えば皮内、粘膜、例えば、鼻腔内、経口、具体的には、舌下、筋肉内または皮下などの任意の好適な送達経路によって投与することができる。他の送達経路も当技術分野で周知である。
【0123】
筋肉内送達経路は、アジュバント含有インフルエンザ組成物に好適であり得る。本発明の組成物は、単回用量容器、あるいはまた、パンデミックワクチンに特に好適な多回用量容器で提供することができる。この場合、使用中の汚染を避けるためにチオメルサールなどの抗微生物保存剤が一般に存在する。チオメルサール濃度は25μg/0.5ml用量(すなわち、50μg/mL)であり得る。好適には、5μg/0.5ml用量(すなわち、10μg/ml)または10μg/0.5ml用量(すなわち、20μg/ml)のチオメルサール濃度が存在する。好適なIM送達デバイスとしては、無針液体ジェット注射デバイス、例えば、Biojector 2000(Bioject, Portland, OR)などを使用することができる。あるいは、エピネフリンの自宅送達に使用されるものなどのペンインジェクターが、ワクチンの自己投与を可能とするために使用することができる。このような送達デバイスの使用は、パンデミック時に必要となるような大規模な免疫誘導キャンペーンに特に沿いやすい。
【0124】
皮内送達はもう1つの好適な経路である。皮内送達には、例えば、短針デバイスなどの任意の好適なデバイスを使用することができる。皮内ワクチンはまた、参照により本明細書に組み入れる国際公開第99/34850号および欧州特許第1092444号に記載されているもの、およびその機能的等価物など、皮膚への針の有効侵入長を制限するデバイスによって投与してもよい。また、液体ジェット注射器を介して、または角質層に穿入して真皮に到達するジェットを作り出す針を介して真皮に液体ワクチンを送達するジェット注射デバイスも好適である。また、皮膚の外層から真皮へ粉末状のワクチンを加速化する圧縮ガスを用いる弾道粉末/粒子送達デバイスも好適である。さらに、従来のシリンジも、皮内投与の従来のマントー法に使用可能である。
【0125】
別の好適な投与経路は皮下経路である。皮下送達には、例えば、従来の針などの任意の好適なデバイスが使用可能である。好適には、無針ジェット注射器デバイスが用いられる。好適には、該デバイスに液体ワクチン製剤を予め充填する。
【0126】
あるいは、ワクチンを鼻腔内に投与する。一般に、ワクチンは、好適には肺に吸入されずに、鼻咽頭領域に局所的に投与される。ワクチン製剤を、肺に入ることなく、または実質的に入ることなく、鼻咽頭領域に送達する鼻腔送達デバイスを使用することが望ましい。
【0127】
本発明のワクチンの鼻腔内投与に好適なデバイスは噴霧デバイスである。好適な市販の鼻腔用噴霧デバイスとしては、Accuspray(商標)(Becton Dickinson)がある。ネブライザーは肺に容易に吸入され得る極めて微細な噴霧を作り出すが、そのため鼻腔粘膜には効率的に到達しない。従って、ネブライザーは好ましくない。
【0128】
鼻腔用に好適な噴霧デバイスは、デバイスの性能が、使用者によってかけられる圧力に依存しないデバイスである。これらのデバイスは圧力閾値デバイスとして知られる。液体は、閾値圧がかけられた際にのみノズルから放出される。これらのデバイスは、規則的な液滴サイズを有する噴霧を達成することを容易にする。本発明とともに使用するのに好適な圧力閾値デバイスは当技術分野で公知であり、例えば、参照により本明細書に組み入れる国際公開第91/13281号ならびに欧州特許第311863B号および同第516636号に記載されている。このようなデバイスはPfeiffer GmbHから市販されており、Bommer, R. Pharmaceutical Technology Europe, Sept 1999にも記載されている。
【0129】
好適な鼻腔用デバイスは、1〜200μm、好適には10〜120μmの範囲の液滴(液体として水を用いて測定)を作り出す。10μm以下では吸入のリスクがあることから、10μm以下の液滴は約5%以下であることが望ましい。120μmを超える液滴も、小さな液滴と同様に拡散しないので、120μmを超える液滴は約5%以下であることが望ましい。
【0130】
2用量送達は、本発明のワクチンとともに使用するための鼻腔送達系のさらに好適な特徴である。2用量デバイスは単回ワクチン用量の2つの分割用量を含み、1つの分割用量は各鼻孔への投与のためのものである。一般に、この2つの分割用量は単一のチャンバーに存在し、このデバイスの構築は、単一の分割用量を一度に効率的に送達することを可能にする。あるいは、本発明のワクチンの投与に単回用量デバイスを用いてもよい。
【0131】
あるいは、経表皮または経皮または経皮膚ワクチン接種経路も本発明において意図される。
【0132】
本発明の一態様において、ワクチン接種はプライム・ブースト・アプローチであってもよい。
【0133】
本発明の一態様において、初回投与用のアジュバント含有免疫原性組成物を筋肉内に施し、追加免疫組成物(アジュバント含有または不含)を、例えば、経皮膚、皮内、皮下、鼻腔または舌下などの異なる経路で投与してもよい。
【0134】
特定の実施形態では、初回投与用の組成物は、パンデミックインフルエンザ株に対しては15μg未満の量のHAを含有し、追加免疫組成物は投与経路によって、標準量15μg、または好適には低用量、すなわち15μg未満のHAを含有してよく、より少量で与えてもよい。
【0135】
本発明のワクチンは単回用量として投与してもよいが、その成分はまた同時に一緒にまたは異なる時点で投与することもできる(例えば、インフルエンザ抗原は別に、好適にはアジュバントの投与と同時に投与することができる)。単一の投与経路の他、2回の注射を行う場合には、異なる投与経路を用いてもよい。例えば、第一の投与(例えば、プライミング用量)のアジュバント含有インフルエンザ抗原をIM(またはID)投与し、第二の投与(例えば、追加免疫用量)をIN(またはID)投与することができる。さらに、本発明のワクチンは、プライミング用量をIM投与し、追加免疫用量をIN投与してもよい。
【0136】
ワクチン中のインフルエンザ抗原の含量は、特にパンデミックワクチンの場合には、インフルエンザ一株当たりHA0.1〜15μg、好適には1〜10μgの範囲、最も一般には1〜8μgの範囲であり得る。インフルエンザ抗原の好適な含量は、ワクチン中に含まれるインフルエンザ一株当たりHA5μg未満または正確に5μgである、初回接種の後、被験体に十分な間隔をおいて1または数回の追加免疫誘導を行うことができる。
【0137】
インフルエンザ株
免疫原性組成物またはワクチン組成物中に含まれるべきインフルエンザウイルス株は好適には、季節株、またはパンデミック大発生に関連するか、もしくはパンデミック大発生に関連する可能性を有する株であり、あるいは好適にはこれらの株の混合物である多価組成物である。
【0138】
パンデミック間期株は例えば、限定されるものではないが、H1N1、H1N2、H3N2またはBなどの季節的に世界的に循環している株である。市販のインフルエンザワクチンは、1株のインフルエンザB株と2株のインフルエンザA株(H1N1、H3N2)を含む三価の組合せである。
【0139】
パンデミック、すなわち、パンデミックインフルエンザ株に関連するインフルエンザ疾患の大発生を起こす可能性を与えるインフルエンザウイルス株の特徴は、それが現在循環している株の血球凝集素に比べて新しい血球凝集素を含み、従って、ほぼ全ての人々が免疫学的にナイーブであること、あるいはそれが大多数の人々が免疫学的にナイーブである循環株のバリエーションを含むこと;それがヒト集団において水平伝播され得ること:およびそれがヒトに対して病原性であることである。新しい血球凝集素は、H2など、おそらく何十年もの長期間ヒト集団には顕現しなかったものであり得る。あるいは、それは、これまでにヒト集団には循環していなかった鳥類種に見られる、例えば、H5、H9、H7またはH6などの血球凝集素であり得る。いずれにせよ、集団の大部分、または集団の少なくとも大きな割合、またはさらには集団全体は過去にその抗原に出くわしたことがなく、それに対して免疫学的にナイーブである。現在、WHOによりヒトにおいてパンデミックを引き起こす可能性のあるものとして特定されているA型インフルエンザウイルスは高病原性H5N1型トリインフルエンザウイルスである。従って、本発明のパンデミックワクチンは好適には、H5N1ウイルスを含んでなる。特許請求される組成物に包含させるための他の3種の好適な株はH1N1、H9N2またはH7N1である。
【0140】
一般にある特定の集団に、パンデミック状況でインフルエンザに感染する高いリスクがある。高齢者、慢性疾患患者および小児は特に罹患しやすいが、多くの若年層および見かけ上健康な人々にもリスクがある。H2インフルエンザでは、1968年以降に産まれた集団の一部に高いリスクがある。これらのグループはできる限り速やかに、簡単な方法で効果的に保護することが重要である。
【0141】
高リスクのもう1つのグループが旅行者である。今日、旅行者はかつてより増え、近年、最新のウイルスが出現する地域である中国および東南アジアが任期のある旅行先になっている。この旅行パターンの変化が、新しいウイルスが数ヶ月または数年ではなくおよそ数週間で地球を一巡りすることを可能にしている。
【0142】
よって、これらのグループの人々には、特に、パンデミック状況または潜在的パンデミック状況において、インフルエンザから保護するための予防接種の必要がある。好適な株は、限定されるものではないが、H1N1、H5N1、H5N8、H5N9、H7N4、H9N2、H7N7、H7N3、H2N2およびH7N1である。ヒトにおける他のパンデミック株としては、H7N3(カナダで2例が報告)、H10N7(エジプトで2例が報告)およびH5N2(日本で1例が報告)およびH7N2がある。パンデミック株またはパンデミックに関連し得る株であるインフルエンザ株は、本明細書では短く「パンデミック株」と呼ぶ。
【0143】
一態様において、インフルエンザウイルスはA型インフルエンザ株またはB型インフルエンザ株である。一態様において、A型インフルエンザウイルス株はH1、H3またはH5血球凝集素亜型のものである。インフルエンザウイルスはパンデミック株または非パンデミック株であり得る。
【0144】
一態様において、この株は鳥類細胞に対して致死性が無いように改変される。
【0145】
本発明の好ましいインフルエンザウイルス(シードウイルス、鳥類細胞を用いて患者サンプルから分離されたウイルス、遺伝子再集合体ウイルスなどを含む)は、Sia([α]2,3)Gal末端二糖を有するオリゴ糖に比べて、Sia([α]2,6)Gal末端二糖を含むオリゴ糖に結合選択性を有する血球凝集素を含む。
【0146】
本発明の好ましいインフルエンザウイルス(シードウイルス、鳥類細胞を用いて患者サンプルから分離されたウイルス、遺伝子再集合体ウイルスなどを含む)は、卵由来のウイルスから得られたものとは異なるグリコシル化パターンを有する糖タンパク質(血球凝集素を含む)を含む。よって、これらの糖タンパク質は、鶏卵で増殖させたウイルスには見られない糖型を含んでなり、例えば、それらは哺乳類様の糖結合を含む非鳥類の糖結合を持ち得る。
【0147】
本発明の一態様において、免疫原性組成物のヒト用量は、単一のインフルエンザ株に由来する血球凝集素(HA)を含有し、「一価」インフルエンザ組成物と呼ばれる。本発明の別の態様では、免疫原性組成物のヒト用量は、2種類以上のインフルエンザ株に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる、「多価」インフルエンザ組成物と呼ばれる。本発明による好適な多価組成物は、二価組成物(2種のインフルエンザウイルス株、例えば、限定されるものではないがパンデミックに関連するか、またはパンデミックに関連し得る2株、に由来する血球凝集素(HA)、例えば、H5=H2)、三価組成物(3種のインフルエンザウイルス株、所望により2種のA株と1種のB株、例えば、限定されるものではないが、B/山形またはB/ビクトリア)に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる)、四価組成物(4種のインフルエンザウイルス株に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる)または五価組成物(5種のインフルエンザウイルス株に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる)である。好適な四価組成物は、異なる系列の2種のA株と2種のB株(B/山形またはB/ビクトリアなど)に由来する血球凝集素を含んでなる。あるいは、四価組成物は、3種のA株(所望によりH1N1、H3N2およびパンデミックに関連するか、またはパンデミックに関連し得る1種のA株)と1種のB株(例えば、B/山形またはB/ビクトリア)に由来する血球凝集素を含んでなる。さらに別の四価組成物は、パンデミックに関連するか、またはパンデミックに関連し得る株からの4種のA株、例えば、H5+H2+H7+H9のような鳥類株に由来する血球凝集素を含んでなる。具体的には、多価アジュバント含有パンデミック組成物、例えば、パンデミック二価(例えば、H5+H2)または三価または四価(例えば、H5+H2+H7+H9)は、パンデミックインフルエンザA脅威亜型に対する先取免疫および脅威亜型に対する永続的プライミングの利点を付与する。一般に、6週齢から、便宜な計画(例えば、6〜12か月間隔)を用いて2用量を投与し、所望により、想定された周期的追加免疫(例えば、10歳)を行う。所望により、このようなパンデミックワクチンを季節性ワクチンと組み合わせてもよい。
【0148】
多価組成物はまた、6種以上のインフルエンザ株、例えば6、7、8、9または10種のインフルエンザ株を含んでなることもできる。
【0149】
2種のB株を多価季節性組成物に用いる場合、それらは2種の異なる系列(所望によりB/ビクトリアおよびB/山形)に由来してもよい。前記B株の少なくとも一方、好適にはB株の双方は循環系列に由来する。このような組成物は特に、小児に好適である。好適には、小児に用いるための多価組成物が2種のB株を含む場合、B株に通常当てられている抗原量がその2種のB株間で分配される。具体的には、アジュバント含有四価(H1+H3+両B系列)インフルエンザワクチンは、(相同性ドリフト保護と、2種の循環B系列に対するその有効性の両面で)アジュバント不含ワクチンに比べて優れた有効性としてナイーブ小児の予防効果を増強し、年齢に基づき、年中、免疫誘導が可能であるという利点を付与する。好適には、6週齢といった早期から、または6〜35か月の間に1用量または2用量が投与される。
【0150】
特定の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、2種のA株(所望により、H1N1、H3N2)と1種のB株に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる三価の免疫原性組成物またはワクチン組成物である。好適には、1株当たりのHAは低量のHA(所望により、1株当たり10μgHA以下)であり、上記に定義される通りである。好適には、1株当たりのHAは約5μg以下、約2.5μg以下である。本明細書に定義されるようなアジュバントを特に表1に定義されるように包含させることができる。好適には、アジュバント組成物は、スクアレン、α−トコフェロールおよびポリソルベート80をそれぞれ1用量当たり5〜6mgの間、5〜6mgの間および2〜3mgの間の量で含む水中油型エマルションである。あるいは、アジュバント組成物は、スクアレン、α−トコフェロールおよびポリソルベート80をそれぞれ1用量当たり2.5〜3.5mgの間、2〜3mgの間および1〜2mgの間の量で含んでなる水中油型エマルションである。これらのアジュバント含有免疫原性組成物またはワクチンは、成人(18〜60歳)または年長の子供(3〜17歳)の集団に特に好適であり、H3N2ドリフト変異体に対して、また、異なる系列に由来するB株に対して交差保護を提供し得る。
【0151】
別の特定の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、2種のA株(所望により、H1N1、H3N2)および2種のB株(所望により、異なる系列、例えばB/ビクトリアおよびB/山形に由来)に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる四価免疫原性またはワクチン組成物である。別の特定の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、2種のパンデミック間期A株(所望により、H1N1、H3N2)、1種のB株およびパンデミックに関連するか、またはパンデミックに関連し得る1種のA株(所望により、H5N1、H9N2、H7N7、H5N8、H5N9、H7N4、H7N3、H2N2、H10N7、H5N2、H7N2およびH7N1)に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる四価免疫原性またはワクチン組成物である。別の特定の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、3種のパンデミック間期A株(所望により、H1N1および2種のH3N2株)と1種のB株に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる四価免疫原性またはワクチン組成物である。好適には、1用量当たり1株当たりのHAは約15μgである。好適には、1株当たりのHAは低量のHA(所望により、四価組成物1用量当たり最大40〜45μgHAを達成するために、1用量当たり1株当たり約10μgHA以下)であり、上記に定義される通りである。好適には、1株当たりのHAは約5μg以下、約2.5μg以下である。存在する場合、アジュバントは本明細書に記載されるようないずれのアジュバントであってもよい。
【0152】
別の特定の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、2種のパンデミック間期A株(所望により、H1N1、H3N2)、2種のB株(所望により、異なる系列、例えば、B/ビクトリアおよびB/山形に由来)およびパンデミックに関連するか、またはパンデミックに関連し得る1種のA株(所望により、H5N1、H9N2、H5N8、H5N9、H7N4、H7N7、H7N3、H2N2、H10N7、H5N2およびH7N1)に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる五価免疫原性またはワクチン組成物である。別の特定の実施形態では、免疫原性組成物のヒト用量は、3種のパンデミック間期A株(所望により、H1N1および2種のH3N2株)および2種のB株(所望により、異なる系列、例えば、B/ビクトリアおよびB/山形由来)に由来する血球凝集素(HA)を含んでなる五価免疫原性またはワクチン組成物である。好適には、1株当たりのHAは低量のHA(所望により、1株当たり10μgHA以下)であり、上記に定義される通りである。
【0153】
一実施形態では、多価組成物は、好適にはスクアレンに基づく水中油型エマルションアジュバントを含有する。よって、特定の実施形態では、本発明は、スクアレンとHAを含んでなり、スクアレン:HA総重量(含まれる全てのインフルエンザ株)の重量比が約50〜150または約150〜400(例えば、約200〜300)の間の範囲である、インフルエンザ免疫原性組成物を提供する。このような組成物は、限定されるものではないが好適には、高齢者集団における使用、および反応原性と免疫原性の最良のバランスを目的とするものである。別の実施形態では、本発明は、スクアレンとHAを含んでなり、スクアレン:HA総重量(含まれる全てのインフルエンザ株)の重量比が約50〜400、例えば、約50〜100、75〜150、75〜200、75〜400、100〜200、100〜250または200〜400の間である、インフルエンザ免疫原性組成物を提供する。この比は好適には、特定の集団に対して保護に関する少なくとも2つ、好適には3つ全ての基準(下記表3または4参照)を満たすものである。TLRアゴニスト、好適にはTLR−4(例えば、3D−MPL、MPL、AGP分子(RC527もしくはRC529など)、またはER804057から選択)またはTLR−9(好適には、CpGオリゴヌクレオチド、例えば、CpG7909)アゴニストが包含され得る。好適なスクアレン:TLR−4重量比は、約100〜450、例えば、50〜250、50〜150、100〜250、200〜250、350〜450の間である。好適なスクアレン:TLR−9重量比は、約50〜1000、例えば、50〜500、100〜1000、100〜400、400〜600の間である。HAは季節性インフルエンザ株に由来し得る。このような組成物は、限定されるものではないが好適には、成人または小児集団における使用、および反応原性と免疫原性の最良のバランスを目的とするものである。好適には、HAは少なくとも3種、少なくとも4種のインフルエンザ株に由来する。好適には、3種の季節性(例えば、H1N1、H3N2、B)株が存在する。好適には、4種の株が存在する場合、それらは4種の季節性株(例えば、H1N1、H3N2、2種のB株;またはH1N1、B、2種のH3N2株)の群、または1種のパンデミック(例えば、鳥類)株と3種の季節性株(例えば、H1N1、H3N2、B)の群に由来するものである。
【0154】
特許請求されるアジュバント含有免疫原性組成物またはワクチンは全て、接種後6か月を超える期間、好適には12か月を超える期間の間、持続的免疫応答を提供するアジュバントに頼るのが有利である。
【0155】
好適には、上記の応答、例えば、持続的免疫応答および表3または4に概要が示されているものが1用量の後、または同じ進行中の一次免疫応答の間に2用量を投与した後に得られる。1用量のみのアジュバント含有組成物またはワクチンの投与後に免疫応答が得られる特許請求組成物が特に有利である。また、同じ進行中の一次免疫応答の間に、好適にはナイーブまたは免疫抑制集団もしくは個体に対して2用量を投与することも好適である。好適には、2用量は、それまでにワクチン接種を受けていない小児、特に、6歳未満、もしくは9〜10歳、または0〜3歳児に必要であると思われる。
【0156】
よって、本発明の一態様において、インフルエンザに対して1用量または2用量で使用するための、非生パンデミックインフルエンザウイルス抗原調製物、特に、スプリットインフルエンザウイルスまたはその抗原調製物を含んでなる免疫原性組成物が提供され、ここで、1用量または2用量の接種は、インフルエンザワクチンの国際規制要件の少なくとも1つ、好適には2つまたは3つを満たす免疫応答を生成する。別の特定の実施形態では、前記1用量の接種はまた、またはそれに加えて非アジュバント含有ワクチンで得られるものよりも高いCD4 T細胞免疫応答および/またはB細胞記憶応答を生成する。特定の実施形態では、前記免疫応答は交差反応性抗体応答または交差反応性CD4T細胞応答またはその双方である。特定の実施形態では、ヒト患者はワクチン接種株に対して免疫学的にナイーブである(すなわち、既存の免疫性を持たない)。一態様において、ワクチン組成物は低量のHA抗原と、これまでに有用であると考えられていた量および本明細書で定義されているような量よりも低レベルの成分を含む水中油型エマルションアジュバントとを含有する。具体的には、ワクチン組成物は本明細書に定義されている通りである。特に、ワクチン組成物の免疫原性特性は本明細書に定義されている通りである。好適には、ワクチンは筋肉内に投与される。
【0157】
有効性基準
本発明のインフルエンザ薬は好適には、ワクチンに関するある特定の国際基準を満たす。インフルエンザワクチンの有効性を評価するための標準が国際的に適用される。インフルエンザワクチンの年間ライセンス手続きに関連する臨床試験のヒト用途に関する欧州医薬品審査局(European Agency for the Evaluation of Medicinal Products)の基準(CHMP/BWP/214/96, Committee for Proprietary Medicinal Products (CPMP) Note for harmonization of requirements for influenza vaccines, 1997. CHMP/BWP/214/96 circular N°96-0666:1-22)に従って血清学的変数が評価され(表3または表4)。これらの要件は成人集団(18〜60歳)および高齢者集団(>60歳)では異なる(表3)。パンデミック間期インフルエンザワクチンでは、少なくとも1つの評価(セロコンバージョン係数、セロコンバージョン、セロプロテクション率)は、ワクチンに含まれる全てのインフルエンザ株に関して要件をみたすべきである。1:40以上の力価の割合が、保護の最良の相関であると思われることから、最も適切であると考えられる[Beyer W et al. 1998. Clin Drug Invest.;15:1-12]。
【0158】
www.emea.eu.intで入手可能な‘Guidelines on flu vaccines prepared from viruses with a potential to cause a pandemic’と題された”Guideline on dossier structure and content for pandemic influenza vaccine marketing authorisation application". (2004年4月5日のCHMP/VEG/4717/03またはより最近の2007年1月24日のEMEA/CHMP/VWP/263499/2006)に明示されているように、非循環株に由来するインフルエンザに関して基準が無い場合には、パンデミック候補ワクチンが、2用量のワクチンの投与後に、プライムされていない成人または高齢被験者における既存のワクチンに関する現行の3つの標準のセットの、好適には全てを満たすに十分な免疫応答を(少なくとも)惹起できるはずである。このEMEAのガイドラインにはパンデミックの場合には、集団が免疫学的にナイーブであり、従って、季節性ワクチンの3つのCHMP基準の全てがパンデミック候補ワクチンによって満たされると想定されるという場合が記載されている。
【0159】
本発明の組成物は好適には、組成物に含まれる株に関して、表3に示されるような保護のための3つの基準のうち少なくとも1つ(認可を得るには1つの基準で十分である)、好適には少なくとも2つ、または一般には少なくとも全てを満たす。
【表3】

【0160】
セロコンバージョン率は、接種後の保護力価が1:40以上である各群の被験者の割合として定義される。簡単に言えば、セロコンバージョン率は、HI力価が接種前には1:10より小さく、接種後には1:40以上となる被験者の%である。しかしながら、最初の力価が1:10以上である場合には、接種後の抗体量が少なくとも4倍増である必要がある。
【0161】
**変換係数は、各ワクチン株に関する、接種後の血清HI幾何平均力価(GMT)における増加倍率として定義される。
【0162】
***保護率は、接種前に血清陰性で、(保護的)接種後HI力価が1:40以上である被験体、または接種前に血清反応陽性であり、接種後力価が有意に4倍増加した被験者(それは通常、保護を示すと認識される)の割合として定義される。
【0163】
FDAは若干異なる年齢カットオフポイントを用いているが、それらの基準はCHMP基準に基づくものである。適当なエンドポイントは同様に、1)1:40以上のHI抗体力価に達した被験者の割合%、および2)接種後HI抗体力価の4倍の上昇として定義されるセロコンバージョン率を含む。幾何平均力価(GMT)も結果に含められるべきであるが、これらのデータは点推定値だけでなく、セロコンバージョンの発生率の95%信頼区間の下限も含むべきであり、42日目の1:40以上のHI力価発生率は、目標値を超えなければならない。従って、これらのデータおよびこれらの評価の点推定値の95%信頼区間(CI)が提供される。FDAドラフトガイダンスでは、両目標値が満たされることを求めている。これを表4にまとめる。
【表4】

【0164】
セロコンバージョン率は、a)ベースライン力価が1:10以上である被験者では、4倍以上の上昇;またはb)ベースライン力価が1:10より小さい被験者では、1:40以上の上昇として定義される。これらの基準は、真の値に関して95%CIの下限を満たさなければならない。
【0165】
別の実施形態では、本発明の組成物は好適には、組成物に含まれる株に関して、表4に示されるような保護のための基準のうち少なくとも1つ、好適には双方の基準を満たす。
【0166】
好適には、この効果は、7.5μgHAのような低用量の抗原、または3.8μgもしくは1.9μgHAのようないっそう低用量の抗原で達成される。
【0167】
好適には、このような基準のいずれか、または全ては、小児および任意の免疫抑制集団のような他の集団に関しても満たされる。
【0168】
本発明の特定の特徴としては以下のものが挙げられる。
【0169】
1)ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、
(i)細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させる工程、および
(ii)(i)の感染細胞系統から得られたウイルスを増幅させてシードウイルスとして使用するためのインフルエンザウイルスを生産する工程
を含んでなる、該細胞系統が鳥類細胞系統である、プロセス。
【0170】
2)ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、
(i)細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させる工程;
(ii)工程(i)で得られた感染細胞系統により生産されたインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、このcDNAを逆遺伝学的手法で用いて、工程(i)のインフルエンザウイルスと共通した少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有する新たなインフルエンザウイルスを調製する工程;
(iii)細胞系統にこの新たなインフルエンザウイルスを感染させる工程;および
(iv)シードウイルスとして使用するための新たなインフルエンザウイルスを生産するためにこのウイルスを増幅させる工程
を含んでなる、該細胞系統が工程i、iiiおよびivの1以上に関して鳥類細胞系統である、プロセス。
【0171】
3)工程(i)のインフルエンザウイルスが、直接的に患者もしくは細胞系統の初代分離株から得られるか、または集団中に循環している株、もしくは集団中に循環しているインフルエンザウイルスの抗原性として典型的な血球凝集素を有する株である、前記1)または2)に記載のプロセス。
【0172】
4)インフルエンザウイルスが鳥類細胞系統に感染させる前に哺乳類細胞系統で増殖される、前記3)に記載のプロセス。
【0173】
5)前記哺乳類細胞系統がMDCK細胞系統である、前記4)に記載のプロセス。
【0174】
6)いずれの工程にも卵におけるインフルエンザウイルスの増殖または継代を含まない、前記1)〜5)のいずれか一項に記載のプロセス。
【0175】
7)前記鳥類細胞系統が連続的二倍体鳥類細胞系統である、前記1)〜6)のいずれか一項に記載のプロセス。
【0176】
8)前記鳥類細胞系統がカモ細胞系統である、前記1)〜7)のいずれか一項に記載のプロセス。
【0177】
9)カモ細胞系統が国際公開第2008129058号または同第2003076601号で製造された通り、またはそうでなければ開示されている通りである、前記1)〜8)のいずれか一項に記載のプロセス。
【0178】
10)前記細胞系統が幹細胞系統、例えばEB66である、前記9)に記載のプロセス。
【0179】
11)インフルエンザウイルスが、鳥類細胞系統の使用後にMDCK細胞系統などの非ヒト細胞系統に感染される、前記1)〜10)のいずれか一項に記載のプロセス。
【0180】
12)鳥類細胞がシードワクチンの生産に使用される唯一の細胞培養細胞である、前記1)〜3)、6)〜10)のいずれか一項に記載のプロセス。
【0181】
13)前記1)〜12)のいずれか一項に記載のシードウイルスがワクチン製造用のインフルエンザウイルスを生産するために培養される、インフルエンザウイルスワクチンの調製プロセス。
【0182】
14)ワクチンを生産するためにウイルスが処理される、前記13)に記載のプロセス。
【0183】
15)個々のインフルエンザウイルス株に対して前記14)に記載のプロセスを実施すること、およびその株を、所望により前記13)に記載のプロセスを用いて作製された1以上の他のインフルエンザワクチンと混合して、多価インフルエンザワクチンを作製することを含んでなる、多価インフルエンザワクチンの作製プロセス。
【0184】
16)前記14)または15)に従って製造されたワクチン。
【0185】
17)前記16)に記載のワクチンを用いて個体に接種を行うことを含んでなる、それを必要とする個体の処置方法。
【0186】
一般用語
特許出願および付与された特許を含む本願の全ての参照文献の教示は、参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。本願が優先権を主張するいずれの特許出願も、公開および参照のために本明細書に記載されている様式で参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。
【0187】
疑念を避けるため、本明細書において「含んでなる(「comprising」、「comprise」および「comprises」)」という用語は、いずれの場合にも、「からなる(それぞれ「consisting of」、「consist of」および「consists of」)という用語と所望により置換可能であることが、本発明者らにより意図される。本明細書および特許請求の範囲で用いる場合、「含んでなる(comprising)」(ならびに「comprise」および「comprises」などの「comprising」のいずれの形態も)、「有する(having)」(ならびに「have」および「has」などの「having」のいずれの形態も)、「包含する(including)」(ならびに「includes」および「include」などの「including」のいずれの形態も)または「含有する(containing)」(ならびに「contains」および「contain」などの「containing」のいずれの形態も)という用語は、包括的または「オープンエンド形式」であり、付加的な、記載されていない要素または方法工程を排除するものではない。
【0188】
本発明の「ワクチン組成物」に関する本明細書の実施形態はまた、本発明の「免疫原性組成物」に関する実施形態にも適用可能であり、その逆も可能である。全ての数値において「約」(または「前後」)は5%の変動を見込み、すなわち、約1.25%という値は1.19%〜1.31%の間を意味する。
【0189】
本特許請求の範囲および/または本明細書において「含んでなる」という用語とともに用いる場合、「a」または「an」は、「1つ」を意味し得るが、それはまた「1以上の」、「少なくとも1つの」および「1を超える」の意味とも一致する。本特許請求の範囲で「または」という用語は、唯一の選択肢を指すこと、または選択肢が相互に相容れないことが明示されない限り、「および/または」を意味して用いられるが、本開示では唯一の選択肢ならびに「および/または」を指す定義を支持する。本願を通じ、「約」という用語は、値が測定、その値を測定するために用いられる方法、または被験体間に存在する変動に関する固有の誤差変動を含むことを示して用いられる。
【0190】
本明細書において「またはその組合せ」という用語は、その用語の前に挙げられている項目の全ての順列および組合せを指す。例えば、「A、B、Cまたはその組合せ」は、A、B、C、AB、AC、BCまたはABCの少なくとも1つを含むことを意図し、特定の文脈で順番が重要である場合には、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BACまたはCABも含むことを意図する。この例を用いて続ければ、BB、AAA、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどのような1以上の項目または用語の繰り返しを含む組合せも明らかに含まれる。当業者ならば、文脈からそうではないことが明らかでない限り、一般に、任意の組合せの項目または用語の数に制限はないことを理解するであろう。
【0191】
本明細書において開示および特許請求される組成物および/または方法は全て、本開示に照らして過度な実験無く、作製および実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態に関して記載してきたが、当業者には、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の組成物および/または方法、方法の工程または方法の一連の工程には変形形態が適用可能であることが明らかである。当業者に明らかなこのような同等の置換および改変は全て、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあると考えられる。
【0192】
本明細書に記載の特定の実施形態は例示により示され、本発明の限定ではないと理解される。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の実施形態に使用することができる。当業者ならば、慣例の検討だけを用い、本明細書に記載の特定の手法の多くの均等物を認識または確認することができる。このような均等物は本発明の範囲内であるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。本明細書に挙げられている全ての刊行物および特許出願は、本発明が属する当業者の技術水準を示すものである。全ての刊行物および特許出願は、各個の刊行物または特許出願が具体的かつ個々に参照により本明細書に組み入れられ場合と同じ程度で参照により本明細書に組み入れられる。
【0193】
本発明を以下の非限定的な実施例を参照してさらに説明する。
【実施例】
【0194】
I.ウイルスの分離および増幅
臨床分離株(通常4℃または−70℃で維持)を入手するとすぐ、サンプルを解凍する。サンプルの一部または全部を細胞培養培地で希釈する。残りのサンプルは冷凍することができる。
【0195】
培養培地、一般にSAFC製のEBx−PROI培地またはLonza製のultraMDCKで希釈したサンプルをEB66などの鳥類細胞、またはMDCK細胞の細胞培養に、適当であれば、1:10から10〜8:1の範囲の最終容量/容量比に基づいて加える。特に、温度は30〜37℃、好ましくは33〜35℃の間に設定する。細胞密度は1×10〜5×10細胞/mlまで可変である。動物、細菌または植物起源のトリプシンまたはトリプシン様プロテアーゼを使用することができる。トリプシン濃度はLenette et al (1995)に記載されている。好ましい方法は、細胞を、EBx−PROI培地で希釈した臨床分離株とともにマルチウェルプレート内に種々の臨床分離株容量で、またはサンプルの希釈率が高い場合にはフラスコ内に播種することである(増幅については同じ方法、下記参照)。
【0196】
数日、一般には2〜7日のウイルス増幅後に、細胞変性効果(CPE)を観察する。CPEが確実であると明らかになった際にウイルスを回収し、この回収物をウイルスシードとすることができ、−70℃で保存する。
【0197】
細胞基質は好ましくは、連続的鳥類細胞系統および/またはカモ細胞系統または非腫瘍形成表現型を有する細胞系統である。
【0198】
ウイルス増幅を別の動物細胞系統、例えばMDCK細胞系統で行った場合には、この増幅から得られるウイルスはウイルスサンプルとみなされ、ウイルス増幅は上記のように行う。
【0199】
インフルエンザ株の調製に逆遺伝学が用いられる場合には(図2)、救済ウイルスを卵または細胞系統のいずれで増殖させてもよいが、好ましくは細胞系統である。本明細書に記載の方法は、新たなシード調製物またはそのワクチン調製物のための例えばEB66細胞系統で拡大させる場合、両タイプのシードに適用可能である。
【0200】
以下のパラメーターは、従来の技術を用いて当業者により至適化され得る。
【0201】
・感染日前の前培養期間:2または3日
・温度:33または35℃
・1回添加またはウイルス複製中、毎日の添加における組換えトリプシン(TrypzeanまたはTrypLE)の性質
・MOI:10−3〜10−6
・観戦後3日目、4日目または5日目に回収
II:EB66細胞培養で増幅されたインフルエンザウイルスのHAおよびNAの配列が変更されているかどうかを調べるための細胞系統の試験
EB66細胞系統を、EB66細胞系統内で増殖されたインフルエンザウイルスのHA配列に影響があるかどうかを調べるために試験した。
【0202】
II.1.パンデミックウイルス株の分離および増幅
この方法の原理は、EB66細胞基質上で、次世代のための複数の候補シード(そのうち最良のものが選択される)を生産するために、ある世代の選択シードの希釈範囲を試験することであった。この方法には、P0と称する最初のシードの力価を知る必要がある。
【0203】
詳しくは、CDCから入手したP0シードを用いた。このP0シードは、インドネシアで感染者から最初に分離され、低病原性H1N1 A/Puerto−Rico/8/34株に由来する6つの内部ビリオンタンパク質コード遺伝子を含有する、インドネシア/05/2005(H5N1)/PR8−IBCDC−RG2と呼ばれる遺伝子再集合体ウイルスへとさらに処理されたH5N1パンデミック株である。この遺伝子再集合体ウイルス(以降、A/インドネシア/05/2005と呼ぶ)は、プラスミドDNAをVero細胞にトランスフェクトすることにより回復させた。この遺伝子再集合体株が、卵で2回継代された後、CDC(米国)により供給された(ヒト分離株、8.37log CCID50/ml)。
【0204】
EB66由来抗原の場合には、このP0シードを用いて、1〜3 10細胞/ml前後のEB66細胞に感染させた。この感染は、感染時にTrypLE(0.5〜2.5mrPU/10細胞/ml)を加えて、MOI(多重感染度、一般に10−3〜10−6)に基づいて行った。この結果得られたP1シードを3日後に回収および冷凍し、サンプルを解凍し、Reed and Muenchの方法(Am. J; Hyg.1938, 27: 493-497)に従ってそのウイルス量の力価測定を開始した。次に、得られた力価をランク付けし、最良の回収物をP1シードとして用い、P2シードを調製するためにEB66細胞に接種した。P2およびP3シードも同じプロトコールに従って調製した。
【0205】
卵由来抗原の場合には、同じシードを、例えば、国際公開第2002097072号に概略が示される季節性「Fluarix」卵プロセスで増幅させた。
【0206】
結果
EB66細胞系統の増幅プロトコールを用い、P0およびP3シードのHAおよびNA遺伝子の配列決定を行った。ヌクレオチド変化は見られなかった。このことは、EB66が臨床分離株に見られる天然HA配列を維持するのに好適な細胞系統であることを示す。さらなる実験を実施例IIIのように行った。
【0207】
II.2.季節性インフルエンザウイルス株の分離および増幅
II.2.1 緒論
EB66細胞のウイルス順応中に生じる可能性のある突然変異事象をさらに検討した。EB66細胞での培養の前後で季節性株のHA遺伝子およびNA遺伝子に対して配列決定を行い、卵に基づく増幅またはMDCKに基づく増幅と比較した。
【0208】
II.2.2.材料および方法
サンプルの属性および卵またはEB66細胞での継代回数を表5に示す。E4E2は、卵、その後EB66培養で6回の継代を意味する。P0およびP3は、EB66細胞またはMDCKでの、それぞれ継代前および3回の継代後を意味する。
【表5】

【0209】
第II.1節に記載されるものと同じ原理に基づきウイルスを増幅させた。詳しくは、CDCまたはNIBSCから入手したP0シードを用い、EB66細胞に2.5〜5 10細胞/mlで感染させた。この感染は、Trypzeanを0.3〜0.8USP/10細胞/mlの濃度で毎日加え、MOI(多重感染度、一般に10−3〜10−6)に基づいて行った。細胞基質としてMDCKを用いた場合には、細胞を15,000細胞/cmで播種した。3日後、感染を10−2〜10−7の希釈容量に基づいて行い、組換えトリプシンtryp−LEを、感染時と感染1日後に3mrPU/mlの濃度で加えた。この結果得られたP1シードを3日後に回収および冷凍し、同日にサンプルを解凍し、Reed and Muenchの方法(Am. J; Hyg.1938, 27: 493-497)に従ってそのウイルス量の力価測定を開始した。次に、得られた力価をランク付けし、最良の回収物をそのままP1シードとして用い、2つのP2シードを調製するためにEB66細胞に接種した。P2およびP3シードも同じプロトコールに従って調製した。
【0210】
核酸抽出および逆転写酵素反応:
High Pure Viral Nucleic Acidキット(Roche)を製造者の説明書に従って用い、200μlのサンプルからRNAを抽出した。抽出したRNAを、スーパースクリプトIII酵素(Invitrogen)を製造者の説明書に従って用い、逆転写させてcDNAを得た。RT反応は、初期変性65℃5分、その後、25℃5分、50℃1時間、および70℃15分で行った。
【0211】
各遺伝子の全長を表6に記載の特異的プライマーを用い、2回の独立したPCR反応によって増幅させた。
【表6】

【0212】
P3のサンプルのHa遺伝子およびNa遺伝子を2回の独立したPCR反応により増幅した。一方の反応はPlatinium HiFi酵素を用い、他方はTakara Ex Taq酵素を用いる。Platinium HiFiを用いた増幅では、サイクル条件は、95℃2分の1サイクルの後、95℃30秒、55℃30秒および68℃2分の35サイクルとした。Takara Ex Taqを用いた増幅では、サイクル条件は、95℃2分の1サイクルの後、95℃30秒、55℃30秒および72℃2分の35サイクルとした。アニーリング温度55℃を用いた場合には増幅が上手く行かなかったため、N1遺伝子に用いたアニーリング温度は、P0およびP3に関してそれぞれ42℃および45℃とした。各増幅は最終容量50μlで行った。次に、この増幅物5μlを1.25μlのローディングバッファーと混合し、1.5%アガロースゲルに流した。電気泳動後、ゲルをSybrsafeで染色した。この第一の実験セットにおいて、Ex Taq酵素での増幅はPlatinium HiFiでの増殖よりも効果的であったことから、その後行った増幅はもっぱらEx Taq酵素を用いることによって行った。
【0213】
ExoSap−IT 酵素(GE Healthcare)を製造者の説明書に従って用い、PCR増幅物を精製した。次に、精製した増幅物の各ストランドについて、ABI PRISM Big Dye Terminayorサイクルシーケンシングキット(Applied Biosystems)およびABI3730シーケンサーを用い、以下に添付したファイルに示したシーケンシングプライマーで配列決定を行った。フォワードおよびリバース配列をアラインし、完全配列に相当する断片を得るためにトリミングを行った。
【表7】

【0214】
II.2.3.結果
試験サンプル(P0およびP3)から得られた配列をアラインし、データベースで入手可能な各季節性株配列と比較した。
【0215】
II.2.3.1. FluB HAおよびNA
FluB HAの633位に、P0およびP3において、両継代間で配列進化を示さない二集団(R)が見られた。641位に、P0およびP3で二集団が見られ(Y)、これはデータベースから収集した配列から予測されるものであった。これらの結果を考え合わせると、FluB HA遺伝子に対して、FluB季節性株をEB66細胞上で培養する影響は無いということが示された。
【0216】
同様に、これらのアライメントはまた、EB66細胞での継代の前後でNA FluB配列にも100%の配列相同性があることを示した。
【0217】
アライメントの結果はまた、EB66細胞での継代の前後でH1 FluA配列にも100%の配列相同性があることを示した。
【0218】
これらのアライメントはまた、EB66細胞での継代の前後でN1 FluA配列にも100%の配列相同性があることを示した。
【0219】
II.2.3.2. FluA HAおよびNA
FluA H3遺伝子配列アラインメントをP0、P1、P2およびP3で分析した。P1およびP2で観察された配列間には、P0開始配列と比べて違いは見られなかった。しかしながら、P3の配列には二集団(522位)(A/T)が見られた。P4のアライメントでは、同じ位置に独特な集団が検出された(T)ことが示された。この突然変異は、リシン(AAA)がアスパラギン(AAT)に置き換わったため、サイレントではない。
【0220】
アライメントの結果は、EB66細胞での継代の前後でN2 FluA配列に100%の配列相同性があることを示した。
【0221】
II.2.4 要約
2種の季節性Flu株(B/マレーシア/2506/20004;A/ソロモン諸島/03/2006(H1N1))のHA遺伝子およびNA遺伝子について、EB66細胞での3回の継代の前後で配列決定試験を行った。これらの結果は、EB66細胞での3回の継代後にHA配列とNA配列の間には参照配列(P0)と比べて100%の配列相同性があることを示した。
【0222】
A/ウィスコンシン/67/2005(H3N2)株のN2配列も、EB66細胞での3回の継代の後に、NA配列間に参照配列(P0)と比べて100%の配列相同性があることを示した。1つの例外がA/ウィスコンシン/67/2005(H3N2)株のHA遺伝子に見られ、継代P3において522位に1つの突然変異(AとTの双方が検出)が見られた。さらに継代4で採取した配列決定データによれば、突然変異したヌクレオチド(T)が元の配列(A)に完全に置き換わっていたことが示された。この突然変異は、アミノ酸変化(リシンがアスパラギンに置換)が見込まれることから非サイレント突然変異である。
【0223】
III.インフルエンザ株のウイルス免疫原性に関する試験
各継代後にその株の血球凝集素の配列決定を行うことができ、卵由来シードにおいて有意な突然変異が確認され、細胞由来分離株には確認されなかった場合に、通常、前臨床in vivo試験を行う。
【0224】
卵培養プロセスと細胞培養プロセスを比較するのに適したアプローチを図1および2に示す。
【0225】
細胞に基づくウイルス単離株またはワクチンの抗原性(例えば、bi SRD試験)免疫原性能を卵由来ウイルスシードまたは精製不活化ウイルスとどのように比較を行うか決定するために、段階的に以下の試験を行うことができる。
【0226】
1.鳥類細胞系統、卵またはMDCK細胞に由来する生シードをナイーブフェレットの鼻腔内に接種して、そのウイルスによって誘発された同種および異種双方の抗体応答の量を比較する。
【0227】
2.ナイーブまたはプライムしたマウスにおける、スプリットウイルスなどの精製した不活化ウイルスを、アジュバントとともに、またはアジュバントを伴わずに用いた場合の同種および異種双方の抗体応答の比較免疫原性。
【0228】
3.ナイーブフェレットにおける、精製不活化ウイルスを用いた同種および異種両株に対する比較免疫原性および保護。
【0229】
分析方法
血清血球凝集阻害アッセイ(HI)
このHI試験の原理は、特定の抗インフルエンザ抗体の、インフルエンザウイルス血球凝集素(HA)によるニワトリまたはウマ赤血球(RBC)の血球凝集を阻害する能力に基づく。
【0230】
このアッセイでは、HA阻害活性の測定の前に、血清を56℃に加熱し、補体を不活化した。非特異的凝集の排除は、血清を受容体破壊酵素(RDE)で処理することによって行った。50μlの血清に200μlのRDE(100単位/ml)を37℃で12〜18時間加えた。150μlのクエン酸ナトリウム(2.5%)を56℃で30分間加え、RDEを不活化した。サンプル容量をPBSで500μlとした(最終サンプル希釈率は1:100となる)。標準的なHAIアッセイにおいて、各サンプルの2倍連続希釈液で、抗原の生産に用いたシードと同種の完全/スプリットインフルエンザウイルスおよび異種亜型株による0.5%ニワトリ赤血球または1%ウマ赤血球の凝集を阻害する能力を試験した。
【0231】
中和抗体アッセイ
血清に含まれる抗体によるウイルス中和は中和アッセイで測定することができる。血清は、さらなる処理を行わずに本アッセイに用いた。
【0232】
このアッセイでは、標準化した量のウイルスを血清の連続希釈液と混合し、インキュベートして抗体とウイルスを結合させる。次に、所定量のMDCK細胞を含有する細胞懸濁液を、このウイルスと抗血清の混合物に加え、35℃で5〜7日間インキュベートする。このインキュベーション期間の後、ウイルス複製を直接評価するか、またはニワトリ赤血球の血球凝集により可視化する。血清の50%中和力価を、Reed and Muenchの方法(Am. J; Hyg.1938, 27: 493-497)によって計算する。
【0233】
鼻腔洗液におけるウイルス力価測定
このアッセイでは、全ての鼻腔サンプルをまずSpin Xフィルター(Costar)で濾過除菌して、混入細菌を除去した。鼻腔洗液の連続10倍希釈液50μlを、50μlの培地を含有するマイクロタイタープレートに移す(一希釈液当たり10ウェル)。次に、100μlのMDCK細胞(2.4×10細胞/ml)を各ウェルに加え、35℃で5〜7日間インキュベートする。
【0234】
インキュベーション6〜7日後に、培養培地を穏やかに除去し、100μlの1/15 WST−1含有培地を加え、さらに18時間インキュベートする。
【0235】
生細胞がWST−1を還元した際に生じる黄色のホルマザン色素の強度は、ウイルス力価測定の終了時にウェル内に存在する生細胞の数に比例し、各ウェルに吸光度を適当な波長(450ナノメーター)で測定することによって定量される。カットオフ値は、非感染対照細胞のOD平均値−0.3OD(0.3ODは非感染対照細胞のODの+/−3StDevに相当する)として定義する。正のスコアはODがカットオフ値よりも小さい場合と定義され、これに対して、負のスコアはODがカットオフ値よりも大きい場合と定義される。ウイルス排出力価は、「Reed and Muench(参照)」により測定し、Log TCID50/mlとして表した。
【0236】
III.1.パンデミック株
III.1.1.フェレットの筋肉内接種
フェレットモデルにおけるインフルエンザ感染は、感受性および臨床症状の点でヒトインフルエンザを密接に模倣している。フェレットは、ウイルス株を事前に順応させなくとも、ヒトインフルエンザウイルス感染に極めて感受性が高い。従って、フェレットモデルは、投与されたインフルエンザワクチンによって付与される保護の検討のために優れたモデルを提供する。
【0237】
さらに、感染後のフェレット抗血清は、抗原ドリフトの評価および亜型株の抗原性比較のための重要なツールとなる。
【0238】
本研究では、(有胚卵由来シードに比べて)少なくとも同等レベルの中和抗体または血球凝集阻害抗体を誘導するEB66由来シードの潜在的利益を評価する。
【0239】
14〜20週齢の雌フェレット(Mustela putorius furo)(3〜5匹/群)に、細胞由来シードまたは有胚卵由来シード(用量範囲1.9〜15μg)のいずれかを筋肉内経路で2回接種した。あるいは、必要に応じ、より高感度の比較を可能とするために、ある容量範囲の各接種物、すなわち、10倍希釈溶液を接種することもできる。
【0240】
抗体応答を評価するため、免疫誘導前および各筋肉内投与後21日目までに動物から血清サンプルを採取した。血清サンプルは、同型のインフルエンザ株に対しての血球凝集阻害と中和活性について試験することができる。
【0241】
本試験を、本明細書の上記第II.1節に記載の通りに得たH5N1パンデミック株を用いて行った。フェレット各5匹の群の筋肉内に、EB66細胞培養または卵のいずれかで生産した一価A/インドネシア/05/2005 H5N1スプリット抗原を21日間隔で2回接種して免疫誘導した。細胞培養に基づく製剤と卵に基づく製剤の双方に対し、AS03アジュバント系を含むものと含まないもので比較を行った。用量および容量(500μl)は第I相臨床試験に関して想定されたヒト用量と同じとした。
【0242】
群1:15μg HA EB66に基づく抗原(n=5)
群2:3.8μg HA EB66に基づく抗原/AS03A(n=5)
群3:1.9μg HA EB66に基づく抗原/AS03B(n=5)
群4:15μg HA 卵に基づく抗原(n=5)
群5:3.8μg HA 卵に基づく抗原/AS03A(n=5)
群6:1.9μg HA 卵に基づく抗原/AS03B(n=5)
群7:生理食塩水(n=3)。
【0243】
本試験ならびに下記試験に用いたAS03アジュバント系は、DL−α−トコフェロール、スクアレンおよびポリソルベート80を含む水中油型エマルションに基づくアジュバント系である。その調製物は国際公開第2008/043774号(その中の実施例II)に記載されている。本発明の目的では、AS03A一用量には11.86mg α−トコフェロールを含有し、AS03BはAS03Aの半分の用量からなる(5.93mg α−トコフェロール)。よって、ヒト用量と同じ抗原/アジュバント比を維持するために、フェレットには全ヒト用量を注射し、マウスにはヒト用量の1/10を注射した。
【0244】
種々の製剤に対する体液性免疫応答を0日目(フェレット5匹/群のプール)、1回目の免疫誘導の後21日目(post−1、フェレット5匹/群のプール)、および2回目の免疫誘導の後21日目(post−2個別)に、HIおよびNTアッセイにより測定した。EB66に基づくスプリット抗原をHIアッセイの試薬として用いた。データを表8/図3(HI力価)および表9/図4(NT力価)に示す。
【表8】

【表9】

【0245】
結論として、このフェレットにおける予備免疫原性試験は、EB66細胞培養由来のパンデミックH5N1ワクチン候補がフェレットにおいて卵に基づくH5N1ワクチンと同等の免疫応答を誘導することができることを示した。
【0246】
III.1.2.ナイーブマウスにおける比較免疫原性
0日目および21日目にC57BL/C6マウスの筋肉内または腹腔内に、EB66または有胚卵由来の精製不活化ウイルスに由来する、所望によりアジュバントを含有する抗原50μlを接種して免疫誘導した。1回目の免疫誘導後21日目および2回目の投与後14日目に動物から伏在静脈を介して、または心臓穿刺によって採血した。血清サンプルを同型および/または異種亜型インフルエンザ株パネルに対するそれらの血球凝集阻害および中和活性について試験し、それらの交差反応性抗体応答を誘導する能力を比較することができる。EB66由来シードは、有胚卵由来シードと少なくとも同等の交差反応性抗体応答を誘導すると予測される。
【0247】
本試験のため、6週齢の雌C57BL/6マウス群に、上記の第II.1節に記載したようにEB66細胞培養また卵のいずれかで生産した一価A/インドネシア/05/2005 H5N1スプリット抗原の筋肉内注射(各50μl)を21日間隔で2回施した。生体内利用率等価性(限界範囲0.5〜2%)を検定するために群の設計を行った。5群を次のように定義した。
【0248】
群8:(マウス20匹)3.8μg EB66に基づく抗原/AS03A
群9:(マウス30匹)1.9μg EB66に基づく抗原/AS03B
群10:(マウス20匹)3.8μg Eggに基づく抗原/AS03A
群11:(マウス30匹)1.9μg Eggに基づく抗原/AS03B
群12:(マウス14匹)生理食塩水。
【0249】
AS03AおよびAS03Bは本明細書の上記に定義される通りである。1回目の免疫誘導後21日目および2回目の免疫誘導後14日目に血清サンプルを採取した。特定の抗A/インドネシア/05/2005 H5N1 HI力価およびNT力価を、1回目の投与後のサンプルでは1つのプールで、2回目の投与後のサンプルでは個別に測定した。
【0250】
データを表10/図5(HI力価)および表11/図6(NT力価)に示す。
【表10】

【0251】
全てのアジュバント含有ワクチン群で強いHI力価が誘導された。EB66細胞培養抗原で得られたHI力価は卵に基づく抗原で得られるものよりも低かったが、抗原間の差は2倍より小さかった。in vivo試験の固有の変動の中で考えると、EB66細胞培養由来の抗原と卵由来の抗原の間に生体内利用率等価性が検出された。
【表11】

【0252】
全てのアジュバント含有ワクチン群で高いNT力価が誘導された。EB66細胞培養由来抗原と卵由来抗原の間に生体内利用率等価性が検出された。
【0253】
血清サンプルはまた、異種亜型インフルエンザ株、すなわち、A/ベトナム/1194/2004株に対するそれらの中和活性に関して試験し、交差反応性抗体応答を調べた。データを表12に示す。セロコンバージョンは、免疫誘導後の力価が免疫誘導前より4倍高い場合に起こる。
【表12】

【0254】
交差応答が検出された:H5N1 A/インドネシア/05/2005による免疫誘導後に、抗H5N1 A/ベトナム/1194/2004 NT力価が検出された。
【0255】
III.1.3.フェレットにおける抗原チャレンジ試験
本試験の目的は、EB66細胞培養由来製剤および卵由来製剤の免疫原性および有効性を、同種の野生型A/H5N1/インドネシア/05/2005ウイルスチャレンジを用いて比較することである。
【0256】
約12か月齢の雌フェレット(Mustela putorius furo)(6匹/群)に、EB66または有胚卵由来の分離株からの精製(例えば、スプリットまたはサブユニット)抗原500μlを、2回の筋肉内免疫誘導でとして注射する。2回目の免疫誘導後28日目に、フェレットに気管内経路により、10 Log CCID50の同型インフルエンザ株で抗原チャレンジを行う。抗原チャレンジ前と抗原チャレンジ後5日目までに鼻腔洗液を採取し、ウイルス複製を測定する。体温を連続的にモニタリングする。0日目、21日目(1回目の免疫誘導後)、2回目の免疫誘導後21日目および27日目に血清サンプルを採取し、同型および異種亜型株に対する中和抗体力価および血球凝集素阻害抗体力価を測定する。
【0257】
III.2.季節性株
細胞培養由来季節性(saisonal)インフルエンザ株を、フェレット抗原チャレンジ試験で評価した。本試験の目的は、EB66細胞培養由来製剤、MDCK細胞培養由来製剤または卵由来製剤の免疫原性および有効性を比較すること、ならびにEB66由来シード、MDCK由来シードおよび卵由来シード間の交差反応性抗体応答を比較することである。
【0258】
14〜20週齢の雌フェレット(Mustela putorius furo)(4匹/群)に対して、MDCK、EB66または有胚卵いずれかに由来の分離株からの精製5〜7Log TCID50/ml 250μlで鼻腔内抗原チャレンジを行った。用いたウイルス株は第II.2節に記載され、上記の表5に挙げられている通りである。従って、10群を次のように定義する(E3は卵での3回の継代を意味し、E6は卵での6回の継代を意味し、P0は細胞での0回の継代を意味し、P3は細胞での3回の継代を意味する)。
【表13】

【0259】
抗原チャレンジの3日前およびチャレンジ後7日までに鼻腔洗液を採取し、ウイルス複製を測定した。ウイルス量はMDCK細胞でのウイルス力価測定により評価し、その結果を図7、8および9に示す。
【0260】
血清サンプルを0日目および抗原チャレンジ後14日目に採取し、同型および異種亜型株に対する中和抗体力価を測定する。測定された力価を図10、11および12に示す。得られたセロプロテクション率およびセロコンバージョン率を表14に示す(NT力価)。セロプロテクションは、力価が40を超える場合に達成される。セロコンバージョンは、免疫誘導後の力価が免疫誘導前より4倍高い場合に起こる。
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、
(i)鳥類細胞系統にインフルエンザウイルスを感染させる工程と、
(ii)(i)の感染細胞系統から得られたウイルスを増幅させてインフルエンザシードウイルスを生産する工程と、
を含んでなる、プロセス。
【請求項2】
ワクチン製造用のインフルエンザシードウイルスを調製するプロセスであって、
(i)細胞系統に第一のインフルエンザウイルスを感染させる工程と、
(ii)工程(i)で得られた感染細胞系統により生産された前記第一のインフルエンザウイルスの少なくとも1つのウイルスRNAセグメントのcDNAを調製し、このcDNAを逆遺伝学的手法で用いて、前記工程(i)の第一のインフルエンザウイルスと共通した少なくとも1つのウイルスRNAセグメントを有する新たな第二のインフルエンザウイルスを調製する工程と、
(iii)細胞系統に前記新たな第二のインフルエンザウイルスを感染させる工程と、
(iv)シードウイルスとして使用するための新たな第二のインフルエンザウイルスを生産するためにこのウイルスを増幅させる工程と、
を含んでなる、前記細胞系統が工程i、iiiおよびivの1以上に関して鳥類細胞系統である、プロセス。
【請求項3】
前記工程(i)のインフルエンザウイルスが、細胞系統の初代分離株;直接的に患者;集団中に循環している株;集団中に循環しているインフルエンザウイルスの抗原性として典型的な血球凝集素を有する株、の1つから得られる、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
鳥類細胞系統に感染させる前に哺乳類細胞系統でインフルエンザウイルスを増殖させることを含んでなる、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記哺乳類細胞系統がMDCK細胞系統である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
いずれの工程にも卵におけるインフルエンザウイルスの増殖または継代を含まない、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記鳥類細胞系統が連続的二倍体鳥類細胞系統である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記鳥類細胞系統がカモ細胞系統である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記カモ細胞系統が国際公開第2008129058号もしくは同第2003076601号、米国特許出願第20090239297A1号または同第20040058441A1号で製造された通り、またはそうでなければ開示されている通りである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記細胞系統が幹細胞系統である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記細胞系統がEB66である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記鳥類細胞系統の使用後に非ヒト細胞系統に前記インフルエンザウイルスを感染させる工程をさらに含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記非ヒト細胞系統がMDCK細胞系統である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
鳥類細胞がシードワクチンの生産に使用される唯一の細胞培養細胞である、請求項1〜4、6〜11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
使用される前記鳥類細胞系統に腫瘍形成表現型を有するものがない、請求項1〜14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載のシードウイルスがワクチン製造用のインフルエンザウイルスを生産するために培養される、インフルエンザウイルスワクチンの調製プロセス。
【請求項17】
ワクチンを生産するために前記ウイルスが処理される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
個々のインフルエンザウイルス株に対して請求項17に記載のプロセスを実施することと、その株を、所望により請求項15に記載のプロセスを用いて作製された1以上の他のインフルエンザワクチンと混合して、多価インフルエンザワクチンを作製することと、を含んでなる、多価インフルエンザワクチンの作製プロセス。
【請求項19】
請求項17または18に従って製造されたワクチン。
【請求項20】
請求項19に記載のワクチンを用いて個体に接種を行うことを含んでなる、それを必要とする個体の処置方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2013−509167(P2013−509167A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535847(P2012−535847)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066466
【国際公開番号】WO2011/051445
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】