ワクチン
本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、および水中油型エマルジョンを含むアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)感染に対するワクチン、ならびにSARSの予防におけるこれらのワクチンの使用に関する。本発明は、かかるワクチンの生成方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、構造タンパク質E、M、NおよびSを含む少なくとも18個のウイルスタンパク質をコードする、プラスセンスの、非分節型(non−segmented)、一本鎖RNAゲノムを有する。コロナウイルスの主要抗原であるS(スパイク)タンパク質は、ウイルスエンベロープの表面から出現する刺の形態で存在する膜糖タンパク質(200〜220kDa)である。宿主細胞の受容体へのウイルスの付着および、ウイルスエンベロープと細胞膜との融合の誘導を担う。Sタンパク質は2つのドメインを有する:S1は、受容体結合に関与すると考えられている;S2は、ウイルスと標的細胞との膜融合を媒介すると考えられている(Holmes and Lai,1996)。Sタンパク質は、非共有結合のホモ三量体(オリゴマー)を形成することができ、それによって受容体結合およびウイルス感染を媒介することができる。
【0003】
2003年3月に、重症急性呼吸器症候群(SARS)の症例と関連して、新規のコロナウイルス(SARS−CoVまたはSARSウイルス)が単離された。ウルバーニ(Urbani)分離株(Genbank accession No.AY274119.3 and A.MARRA et al.,Science,May1,2003,300,1399−1404)およびトロント分離株(Tor2,Genbank accession No.AY278741 and A.ROTA et al.,Science,2003,300,1394−1399)のゲノム配列を含めて、新規のコロナウイルスのゲノム配列が得られた。
【0004】
SARS関連コロナウイルスの別の株も同定され、これはTor2およびウルバーニ分離株と見分けられる。このコロナウイルス株は、SARSを患う患者の気管支肺胞洗浄から採取された試料に由来し、031589という番号で登録され、ハノイ(ベトナム)フランス病院で収集された(国際特許公開第2005/056781号、および同第2005/056584号)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、および水中油型エマルジョンアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。本発明は、本発明の免疫原性組成物を生成する方法も提供し、その方法は、免疫原性Sポリペプチド、またはその断片もしくは変異体を水中油型エマルジョンアジュバントと混合するステップを含む。
【0006】
本発明は、さらに以下を提供する:
薬剤として使用するための本発明の免疫原性組成物;
重症急性呼吸器症候群もしくは他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための本発明の免疫原性組成物;
重症急性呼吸器症候群もしくは他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための薬剤の製造における本発明の免疫原性組成物の使用;
重症急性呼吸器症候群もしくは他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療する方法であって、この方法は、本発明の有効量の免疫原性組成物を、それを必要とする個人に投与するステップを含む;ならびに、
ワクチンとして使用するための本発明の免疫原性組成物。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】Ssolポリペプチドによって誘導される体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。アジュバントなし(no adj.)で、または50μgのミョウバンもしくは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)に付随して、2μgのSsolタンパク質を、3週間の間隔をあけて、2回筋肉内注射することにより、若い成熟BALB/cマウス(1グループにつき8匹)を免疫した。2つの対照グループを、それぞれのアジュバント単独で免疫した。各注射(IS1およびIS2、それぞれ)の3週間後に血清を採取し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の抗SARS ELISAによって、SARS−CoV天然抗原に対する特異的抗体反応を測定した。各マウスの力価を黒い点で表し、それらの平均を水平な線で表す。この実験の検出限界を点線で表す。
【図2】Ssolポリペプチドによって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。若い成熟BALB/cマウス(1グループにつき8匹)を上記のように免疫した。最後の注射の3週間後に採取した血清の中和抗体力価を、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載されたように測定した。各マウスの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。この実験の検出限界を点線で表す。
【図3】BALB/cマウスにおける、Ssolタンパク質によって誘導された免疫反応型の、アジュバントを用いた調節を示す。SARS−CoV天然抗原に対する特異的IgG1アイソタイプおよびIgG2aアイソタイプの力価を、最後の免疫の3週間後に採取したマウスの血清において測定した。各マウスについて測定した力価を点で示す。対照グループについては、力価を各グループの血清の混合物において測定し、ひし形で示す。この実験の検出限界を点線で示す。
【図4】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。各注射の3週間後(それぞれ、IS1およびIS2)および2回目の注射の3ヶ月後(IS2bis)に血清を採取し、図1に記載の抗SARS ELISAによって、SARS−CoV天然抗原に対する特異的抗体反応を測定した。各ハムスターの力価を黒い点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図5】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。最後の注射の3か月後に採取した血清の中和抗体力価を、図2に記載したように測定した。各ハムスターの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図6】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の3ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVをハムスターの鼻腔内に抗原投与した。接種4日後、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図6)およびURT(図7)に対する値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図7】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の3ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVをハムスターの鼻腔内に抗原投与した。接種4日後、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図6)およびURT(図7)に対する値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図8】0.2μgのSsolタンパク質で事前に免疫した抗原投与ハムスターの肺の病理組織学的解析の結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、1〜10の目盛りで示す。
【図9】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoV特異的IgG抗体の力価を示す。
【図10】2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoVアイソタイプ抗体の力価を示す。
【図11】0.2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoV中和抗体の力価を示す。
【図12】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫7日後に得たPBMCにおけるCD4+T細胞反応を示す。
【図13】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た脾臓におけるCD4+T細胞反応を示す。
【図14】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た脾細胞からのサイトカイン分泌(IL−5、IL−13およびIFN−γ)を示す。
【図15】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoV特異的IgG抗体の力価を示す。
【図16】2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoVアイソタイプ抗体の力価を示す。
【図17】0.2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た血清を用いて測定したSARS−CoV中和抗体の力価を示す。
【図18】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫7日後に得たPBMCにおけるCD4+T細胞反応を示す。
【図19】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た脾細胞におけるCD4+T細胞反応を示す。
【図20】異なる用量の、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスの免疫14日後に得た脾細胞からのサイトカイン分泌(IL−5、IL−13およびIFN−γ)を示す。
【図21】シリアゴールデンハムスターにおける、2μgのSsolポリペプチドによって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。最後の注射の8カ月後に採取した血清の中和抗体力価を、図2に記載したように測定した。各ハムスターの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図22】シリアゴールデンハムスターにおける、2μgのSsolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の8ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの値を、肺(図22)およびURT(図23)について黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図23】シリアゴールデンハムスターにおける、2μgのSsolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の8ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの値を、肺(図22)およびURT(図23)について黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図24】2μgのSsolタンパク質で事前に免疫した抗原接種ハムスターの肺の病理組織学的解析結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、1〜10の目盛りで示す。
【図25】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の2週間後に血清を採取し、SARS−CoV天然抗原に対する特異的な抗体反応を、図1に記載したように抗SARS ELISAにより測定した。各ハムスターの力価を黒い点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図26】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の2週間後に採取した血清の中和抗体力価を、図2に記載したように測定した。各ハムスターの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図27】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の3週間後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図27)およびURT(図28)について値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図28】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の3週間後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図27)およびURT(図28)について値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図29】0.2μgのSsolタンパク質の単回注射で事前に免疫した抗原接種ハムスターの肺の病理組織学的解析結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、0〜5の目盛りで示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、重症急性呼吸器症候群(SARS)もしくは他のSARS−CoV関連疾患の予防または治療に有用な免疫原性組成物を提供する。本明細書で使用する「免疫原性組成物」という用語は、任意で、アジュバントで適切に製剤化される時、ヒトなどの個体において免疫反応を引き起こすことができる免疫原性成分を含む組成物をいう。従って、一実施形態において、本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、および水中油型エマルジョンアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。本発明の別の実施形態において、本発明の免疫原性組成物はワクチンであり、すなわちこの免疫原性組成物はSARS−CoV感染に対する防御免疫反応を引き起こすことができる。
【0009】
本発明の免疫原性組成物は、その断片および変異体を含む、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチドを含む。この免疫原性Sポリペプチドは、SARS−CoV感染に対して、防御免疫反応を引き起こすことができるエピトープ、例えば、中和抗体の産生を引き起こすことができるおよび/または細胞性免疫反応を刺激することができるエピトープを有するSタンパク質の任意の部分を含み得る。
【0010】
典型的なSARS−CoVのSタンパク質は、1,255個のアミノ酸を有し(例えば、配列番号1参照)、13個のアミノ酸のシグナル配列、12〜672番目のアミノ酸に存在するS1ドメイン、および673〜1192番目のアミノ酸に存在するS2ドメインを有する。このタンパク質は、シグナルペプチド(1〜13番目のアミノ酸)、細胞外ドメイン(14〜1195番目のアミノ酸)、膜貫通ドメイン(1196〜1218番目のアミノ酸)および細胞内ドメイン(1219〜1255番目のアミノ酸)からなる。このSタンパク質配列は、ヒト集団においてSARSを起こしたことが知られるSARS−CoV株、例えば、Tor2、ウルバーニもしくは番号031589株を含む任意のSARS−CoV株、または、例えば、ヒト集団には未だ侵入したことがなく、ジャコウネコもしくはコウモリなどの動物集団において循環している株である任意の他のSARS−CoV株に由来し得る。
【0011】
一実施形態において、免疫原性Sポリペプチドは、全長Sタンパク質の一部または断片である。本明細書に記載のように、免疫原性Sポリペプチドは、SARSコロナウイルスに対する防御免疫反応を引き起こす全長Sタンパク質または野生型Sタンパク質それぞれの中に含まれる少なくとも1つのエピトープを有する、Sタンパク質の断片または(本明細書記載の全長Sタンパク質またはS断片の変異体であり得る)Sタンパク質変異体を含む。
【0012】
一実施形態において、免疫原性Sポリペプチドは、Sタンパク質の全細胞外ドメイン(外部ドメイン)、例えば、1〜1193番目のアミノ酸からなるまたはそれを含んでもよい。従って、免疫原性Sポリペプチドは、その細胞質内および膜貫通ドメインが除去されたS糖タンパク質からなってもよい。任意で、シグナルペプチド(1〜13番目のアミノ酸)が除去されてもよい。一実施形態において、免疫原性Sポリペプチドは、そのC末端に、セリン−グリシンリンカー(SG)およびオクタペプチドFLAG(DYKDDDDK)を結合したSタンパク質の細胞外ドメインからなる。特に、免疫原性Sポリペプチドは、C末端にSGDYKDDDDK配列を融合させたSARS−CoV Sタンパク質の14〜1193番目のアミノ酸からなるまたはそれを含んでもよい。さらなる実施形態において、Sポリペプチドは、配列番号2の配列からなるまたはそれを含んでもよい。
【0013】
免疫反応を刺激する、誘導する、または引き起こすエピトープを含むSタンパク質断片は、配列番号1の8〜150個の任意の数のアミノ酸(例えば、8、10、12、15、18、20、25、30、35、40、50個などのアミノ酸)に及ぶ連続したアミノ酸の配列を含んでもよい。
【0014】
他の実施形態において、コロナウイルスのSポリペプチド変異体は、配列番号1で示される全長Sタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも50%〜100%のアミノ酸同一性(すなわち、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性)を有する。かかるSポリペプチドの変異体および断片は、少なくとも1つのSタンパク質特異的な生物活性または機能を保持し得る。例えば、(1)SARS−CoVに対する防御免疫反応、例えば、中和反応および/または細胞性免疫反応を引き起こす能力;(2)受容体結合によるウイルス感染を媒介する能力;ならびに(3)ウイルス粒子および宿主細胞間の膜融合を媒介する能力である。
【0015】
Sポリペプチドは、保存的アミノ酸置換を含んでもよい。保存的置換の例として、Ile、Val、Leu、もしくはAlaなどの1つの脂肪族アミノ酸と別の脂肪族アミノ酸との置換、またはLysとArg間、GluとAsp間、もしくはGlnとAsn間などの1つの極性残基と別の極性残基との置換が挙げられる。類似のアミノ酸置換または保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基と交換される置換でもあり、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン);酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸);無電荷の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、ヒスチジン);非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);β分枝状側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)を有するアミノ酸が含まれる。プロリンは、分類することが難しいと考えられるが、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(例えば、Leu、Val、Ile、およびAla)と性質を共有する。特定の状況において、グルタミンのグルタミン酸への置換またはアスパラギンのアスパラギン酸への置換は、グルタミンおよびアスパラギンがそれぞれグルタミン酸およびアスパラギン酸のアミド誘導体であるという点において、類似の置換と考えられ得る。
【0016】
本明細書で開示されるコロナウイルス免疫原配列内のアミノ酸の保存的置換および類似の置換は、本明細書記載の方法および当分野で実施される方法に従って容易に行われ得、例えば、体液性反応(すなわち、野生型(つまり変異体ではない)免疫原と特異的に結合する、および/または野生型(つまり変異体ではない)免疫原と特異的に結合する抗体に結合する抗体に結合し、これと同じ生物活性を有する抗体を生じさせる反応)を含み得る免疫反応を誘導するもしくは引き起こす能力などの、類似の物理的特性および機能活性または生物活性を保持する変異体を提供する。Sタンパク質免疫原の変異体は、例えば、細胞受容体と結合するおよび感染を媒介する能力を保持する。
【0017】
本明細書で使用される「パーセント同一性」または「%同一性」は、コンピューターに実行させるアルゴリズムを用いて、対象のポリペプチド、ペプチド、またはその変異体の配列全体を、試験配列と比較することによって得られるパーセンテージの値である。本明細書記載の変異体免疫原を、点変異、フレームシフト変異、ミスセンス変異、付加、欠失などの1つまたは複数の様々な変異を含むように作ることができる、つまりこれらの変異体は、糖鎖付加およびアルキル化を含む特定の化学的置換などによる修飾の結果であり得る。
【0018】
本明細書記載のSタンパク質免疫原、その断片および変異体は、免疫反応、例えば、体液性反応および/もしくは細胞性免疫反応であり得る防御免疫反応を引き起こすまたは誘導するエピトープを含む。防御免疫反応は、以下の少なくとも1つによって表され得る:コロナウイルスによる宿主の感染を防ぐこと;感染を変更するまたは制限すること;感染からの宿主の回復を助ける、改善する、高める、または刺激すること;ならびに、SARSコロナウイルスによる次の感染を防ぐまたは制限する免疫学的記憶を生み出すこと。SARS CoV感染の症例において、例えば、肺および上気道におけるウイルス量、肺の炎症および病変のスコア、肺におけるウイルス抗原量のスコア、血清中和抗体の存在、PBMC、脾臓におけるCD4+T細胞反応、ならびに脾臓からのサイトカイン分泌によって、防御免疫反応を評価することができる。感染を中和する、ウイルスおよび/もしくは感染細胞を溶解する、宿主細胞によるウイルスの除去を促進する(例えば、食作用を促進する)、かつ/またはウイルス抗原物質と結合するおよびウイルス抗原物質の除去を促進する抗体の産生を、体液性反応は含み得る。体液性反応は、特異的粘膜IgA反応を引き起こすまたは誘導することを含む粘膜反応も含み得る。
【0019】
本明細書記載のSARS−CoVのSポリペプチド、断片または変異体による、対象または宿主(ヒトまたはヒトではない動物)における免疫反応の誘導は、本明細書記載の方法および当分野で通常実施される方法によって測定ならびに特徴づけられ得る。これらの方法には、例えばウサギ、マウス、フェレット、ジャコウネコ、アフリカミドリザル、またはアカゲザルのモデルを用いた動物免疫試験などのインビボアッセイ、ならびにウエスタン免疫ブロット分析、ELISA、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、およびそれらの組み合わせなどを含む抗体検出および抗体解析の免疫化学法などの多数のインビトロアッセイの任意の1つが含まれる。
【0020】
免疫反応を解析するおよび特徴づけるために使用され得る他の方法および技術には、中和アッセイ(プラーク減少アッセイ、または細胞変性効果(CPE)を測定するアッセイ、または当業者によって実施される任意の他の中和アッセイ)が含まれる。当分野で知られるこれらのならびに他のアッセイおよび方法を、SARSコロナウイルスに対する防御性体液免疫反応または細胞性免疫反応を引き起こす、少なくとも1つのエピトープを有するSタンパク質免疫原およびその変異体を同定するおよび特徴づけるために使用することができる。様々なアッセイにおいて得られた結果の統計的優位性を、関連分野の技術者によって通常実施される方法に従って、計算および理解することができる。
【0021】
コロナウイルスSタンパク質免疫原(全長タンパク質、その変異体、またはその断片)、ならびにかかる免疫原をコードする対応する核酸を単離型で提供し、特定の実施形態において、精製して均一にする。本明細書で使用される「単離する」という用語は、核酸またはポリペプチドを、その最初の環境または天然環境から除去することを意味する。
【0022】
SARSコロナウイルスSタンパク質免疫原ならびにその断片および変異体を、合成でまたは組換えで産生することができる。コロナウイルスに対する免疫反応を誘導するエピトープを含むコロナウイルスタンパク質断片を、自動化された手順による合成を含む標準的な化学的手法によって合成することができる。あるいは、Sタンパク質免疫原を、組換えで産生することができる。例えば、Sタンパク質免疫原を、核酸発現構築物の中のプロモーターなどの発現制御配列に作動可能に連結されたポリヌクレオチドから発現させることができる。例えば、Sタンパク質免疫原は、配列番号3または4のDNA配列によってコードされ得る。SARSコロナウイルスSポリペプチドおよびその断片または変異体を、哺乳類細胞、酵母、細菌、昆虫もしくは他の細胞において、適切な発現制御配列の制御下で発現させることができる。無細胞翻訳系も使用して、RNAを含む核酸および発現構築物を用いて、かかるコロナウイルスタンパク質を産生することができる。原核生物および真核生物の宿主と共に使用する適切なクローニングベクターおよび発現ベクターは、当業者によって通常使用されており、例えば、SambrookらのMolecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,NY,(1989)および第3版(2001)に記載されており、本明細書で開示されるプラスミドベクター、コスミドベクター、シャトルベクター、ウイルスベクター、および染色体複製開始点を含むベクターを含み得る。
【0023】
当業者が理解するように、コロナウイルスSポリペプチドまたはその変異体をコードするヌクレオチド配列は、例えば、遺伝子コードの縮重により、本明細書で提示される配列とは異なり得る。コロナウイルスポリペプチド変異体をコードするヌクレオチド配列は、ホモログまたは株変異体もしくは他の変異体をコードする配列を含む。変異体は、天然の多型に由来してもよく、例えば、アミノ酸変異を導入するための組換え法により、または化学合成により合成されてもよく、1つまたは複数のアミノ酸の置換、挿入、欠失などにより野生型ポリペプチドとは異なってもよい。
【0024】
アジュバントTH1およびTH2免疫反応
免疫反応は、(それぞれ、従来、防御のための抗体によっておよび防御のための細胞エフェクター機構によって特徴づけられる)体液性または細胞性免疫反応の2つの極端なカテゴリーに、広範に分けることができる。反応のこれらのカテゴリーは、TH1型反応(細胞性反応)およびTH2型免疫反応(体液性反応)と呼ばれてきた。
【0025】
極端なTH1型免疫反応は、抗原特異的な、ハプロタイプ限定細胞毒性Tリンパ球反応、およびナチュラルキラー細胞反応が生じることによって特徴づけられ得る。マウスにおけるTH1型反応は、大抵、IgG2aおよび/またはIgG2bサブタイプの抗体産生によって特徴づけられ、ヒトにおけるこれらのTH1型反応はIgG1型抗体に相当する。TH2型免疫反応は、マウスにおいて、IgG1を含む様々な免疫グロブリンアイソタイプの産生によって特徴づけられる。
【0026】
これらの2つの型の免疫反応の発達の背後にある立役者はサイトカインであると考えることができる。高レベルのTH1型サイトカインは、所望の抗原に対する細胞性免疫反応の誘導を助ける傾向にあり、高レベルのTH2型サイトカインは、抗原に対する体液性免疫反応の誘導を助ける傾向にある。
【0027】
TH1型およびTH2型免疫反応の差異は絶対的ではなく、これらの2つの極端な分類の間で、連続的な形態をとることができる。実際には、個体は、主にTH1または主にTH2として説明される免疫反応を支持する。しかし、大抵、マウスCD4+ve T細胞クローンについて、MosmannおよびCoffman(Mosmann,T.R.and Coffman,R.L.(1989)TH1 and TH2 cells:different patterns of lymphokine secretion lead to different functional properties.Annual Review of Immunology,7,p145−173)によって記載される観点から、サイトカインのファミリーを考慮することは都合がよい。従来、TH1型反応は、Tリンパ球によるINF−γサイトカイン産生と関連する。大抵、TH1型免疫反応の誘導と直接関連する他のサイトカイン、例えばIL−12は、T細胞によって産生されない。対照的に、TH2型反応は、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10および腫瘍壊死因子−β(TNF−β)の分泌と関連する。
【0028】
特定のワクチンアジュバントは、特に、TH1型またはTH2型いずれかのサイトカイン反応の刺激に適することが知られている。従来、ワクチン接種または感染後の免疫反応のTH1:TH2バランスの指標として、抗原を用いた再刺激後の、インビトロでのTリンパ球によるTH1サイトカインまたはTH2サイトカイン産生の直接測定、および/または抗原特異的抗体反応のIgG1:IgG2aもしくはIgG1:IgG2b比の(少なくともマウスにおける)測定が含まれる。
【0029】
従って、TH1型アジュバントは、インビトロで抗原を用いて再刺激した時、単離したT細胞集団を刺激し、高レベルのTH1型サイトカインを産生するアジュバントであり、TH1型アイソタイプと関連する抗原特異的免疫グロブリン反応を誘導する。
【0030】
水中油型エマルジョンアジュバント
本発明の免疫原性組成物は、水中油型エマルジョンアジュバントを含む。水中油型エマルジョンそれ自体は、当分野で周知であり、アジュバント組成物として有用であることが示唆された(欧州特許第399843号;国際特許公開第95/17210号)。
【0031】
任意の水中油型組成物がヒトへの投与に適するために、エマルジョン系の油相は、代謝可能な油を含まねばならない。「代謝可能」という用語の意味は当分野で周知であり、「代謝により変換されることが可能である」と定義され得る(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary,W.B.Sanders Company,25th edition(1974))。油は任意の植物性油、魚油、動物性油または合成油であってもよく、レシピエントに対して無毒であり、代謝により変換され得るものである。ナッツ類、種子類、および穀物類は、植物性油の一般的な供給源である。合成油も本発明の一部であり、例えば、NEOBEE(登録商標)などの市販の油を含み得る。
【0032】
適切な代謝可能な油はスクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)であり、これは、サメ肝臓油において大量に存在し、オリーブ油、小麦胚芽油、ぬか油および酵母においては低量で存在する不飽和油である。スクアレンがコレステロールの生合成における中間体であるという事実によって、スクアレンは代謝可能な油である。好ましくは、代謝可能な油は、免疫原性組成物の全容積の0.5%〜10%(v/v)の量で存在する。
【0033】
水中油型エマルジョンアジュバントは、乳化剤をさらに含む。乳化剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))であってもよい。乳化剤は、好ましくは、免疫原性組成物の全容積の0.125〜4%(v/v)の量で、アジュバント組成物中に存在する。
【0034】
本発明の水中油型エマルジョンは、任意でさらにトコール(tocol)を含む。トコールは当分野で周知であり、欧州特許第0382271号に記載されている。適切なトコールは、α−トコフェロールまたは(ビタミンEコハク酸エステルとしても知られる)α−トコフェロールコハク酸エステルなどのα−トコフェロールの誘導体である。トコールは、好ましくは、免疫原性組成物の全容積の0.25%〜10%(v/v)の量で、アジュバント組成物中に存在する。
【0035】
水中油型エマルジョンにおいて、油と乳化剤は、水性担体の中に存在するべきである。水性担体は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態において、水中油型エマルジョンアジュバントには、スクアレン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))およびα−トコフェロールが含まれる。一般的に、水中油型エマルジョンアジュバントは、免疫原性組成物の全容積のうちスクアレン2〜10%、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート0.3〜3%、およびα−トコフェロール2〜10%を含み、国際特許公開第95/17210号に記載の手順に従って製造されてもよい。スクアレン:α−トコフェロールの比は、それがより安定なエマルジョンを提供するように、1以下であってもよい。水中油型エマルジョンには、例えば、免疫原性組成物の全容積の1%のレベルで、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(Span 85)および/またはレシチンが含まれてもよい。
【0037】
水中油型エマルジョンの製造方法は当業者に周知である。一般に、この方法は、(任意でトコールを含む)油相をPBS/TWEEN80(登録商標)溶液などの界面活性剤と混合し、ホモジナイザーを用いて均質化するステップを含む。この混合物を、注射針に2回通過させるステップを含む方法は、少量の液体を均質化するのに適する。同様に、当業者が、マイクロフルイダイザー(microfluidiser)(M110Sマイクロ流体機、最大入力圧力6バール(約850バールの出力圧力)において2分間、最大50回通過)を用いた乳化工程を行い、少量または大量のエマルジョンを製造することができる。必要とされる直径の油滴を有する調製品ができるまで、生じるエマルジョンの測定を含む通常の実験によって、この作業を行うことができる。
【0038】
本発明の水中油型エマルジョン系は、サブミクロン範囲の小さな油滴サイズを有してもよい。好ましくは、油滴サイズは、直径が、120〜750nmの範囲、例えば、120〜600nmのサイズである。水中油型エマルジョンは、強度(intensity)に基づいて少なくとも70%が500nm未満の直径である、強度に基づいて少なくとも80%が300nm未満の直径である、または強度に基づいて少なくとも90%が120〜200nmの範囲の直径である油滴を含んでもよい。
【0039】
本発明によると、油滴サイズ(すなわち、直径)は強度で与えられる。強度に基づく油滴サイズの直径の測定には、数種類の方法がある。強度を、定寸装置を用いて、好ましくは、Malvern Zetasizer 4000またはMalvern Zetasizer 3000HSなどの動的光散乱法によって測定する。第1に考えられる方法は、動的光散乱法(PCS−光子相関分光法)によるz平均直径ZADを測定することである;この方法は、多分散性指数(PDI)をさらに与え、ZADおよびPDIの両方を、キュムラントアルゴリズムを用いて計算する。これらの値は、粒子屈折率の知識を必要としない。第2の手段では、ContinもしくはNNLSのいずれかの別のアルゴリズム、または自動「Malvern」アルゴリズム(定寸装置によってもたらされるデフォルトアルゴリズム)を用いて、全粒径分布を測定することにより、油滴の直径を計算する。ほとんど常に、複合組成物の粒子屈折率は分からないので、強度分布のみ、必要であれば、この分布から得られる強度平均値を考慮に入れる。
【0040】
ワクチンの製剤化および投与
各ワクチン用量中に存在する本発明のタンパク質量は、標準的なワクチンにおいて重度の、有害な副作用のない、免疫防御反応を誘導する量として選択する。かかる量は、使用する特定の免疫原ならびに用いるアジュバントの種類および量に応じて変化する。特定のワクチンの最適量を、対象における抗体力価および他の反応の観察を含む標準試験によって確かめてもよい。一般に、各用量は、1〜1000μgのタンパク質、例えば、1〜200μg、または10〜100μgを含むことが期待される。一般的な用量は、10〜50μgのタンパク質、例えば、15〜25μgのタンパク質、好ましくは、約20μgのタンパク質を含む。あるいは、例えば、大流行の状況では、「用量−節約」法を用いてもよい。これは、効果的なアジュバントの存在により、低用量の抗原を用いて同じ防御作用をもたらすことが可能であるという研究結果に基づく。従って、各ヒト用量は、非常に低い量のタンパク質、例えば、1用量につき0.1〜10μgのタンパク質、または0.5〜5μgのタンパク質、または1〜3μgのタンパク質、好ましくは2μgのタンパク質を含んでもよい。「ヒト用量」という用語は、ヒトへの使用に適する量である用量を意味する。一般的に、これは0.3〜1.5mlである。一実施形態において、ヒト用量は0.5mlである。
【0041】
最初のワクチン接種後、一般的に、対象は、2〜4週間の間隔をあけて、例えば、3週間の間隔をあけて、追加免疫を受け、感染のリスクが存在する限り、任意で、追加免疫を繰り返し受ける。本発明の具体的な実施形態において、単回投与ワクチン接種が計画され、それによって、アジュバントと組み合わせたSタンパク質の1用量は、最初のワクチン接種後にいかなる追加免疫をも必要とせず、SARS CoVに対する防御をもたらすのに十分である。
【0042】
本発明の免疫原性組成物は、経口経路、局所経路、皮下経路、粘膜(一般的に、膣内)経路、静脈内経路、筋肉内経路、鼻腔内経路、舌下経路、皮内経路などの任意の様々な経路および坐薬によってもたらされてもよい。
【0043】
免疫付与は、予防的または治療的であり得る。本明細書記載の本発明は、主に、SARSに対する予防ワクチンに関係するが、それに限らない。
【0044】
本発明で使用する適切な医薬的に許容可能な担体または賦形剤は、当分野で周知であり、例えば、水または緩衝液を含む。ワクチン調製は、一般に、Pharmaceutical Biotechnology,Vol.61 Vaccine Design−the subunit and adjuvant approach,edited by Powell and Newman,Plenum Press New York,1995. New Trends and Developments in Vaccines,edited by Voller et al.,University Park Press,Baltimore,Maryland,U.S.A.1978に記載されている。
【0045】
本発明の免疫原性組成物は、上記で明らかにされた特定の成分を含む。本発明のさらなる態様において、免疫原性組成物は、前記成分から本質的になる、または前記成分からなる。
【0046】
本発明を説明するのに役立つ以下の実施例に関して、本発明をこれから記載する。
【実施例1】
【0047】
可溶型SARS CoV−Sタンパク質の発現
哺乳類細胞のSタンパク質の細胞外ドメインを精製するために、細胞質内ドメインおよび膜貫通ドメインを除去したスパイク糖タンパク質を発現することができる遺伝子を構築した。このポリペプチドをSsolと呼び、Sタンパク質の細胞外ドメイン全体(1〜1193番目のアミノ酸)を含む。C末端にはセリン−グリシンリンカーおよびオクタペプチドFLAGを結合させた。膜アンカードメインを除去したので、このSsolポリペプチドは培地中に分泌される。
【0048】
Ssolポリペプチドの構成的発現
TRIPレンチウイルスベクターを用いて、安定で、構成的な方法で、Ssolタンパク質を発現する細胞株を樹立した。これらのベクターを、pTRIPプラスミドベクター、p8.7パッケージングプラスミドおよびpHCMV−VSV−Gプラスミドの共トランスフェクションにより産生する(Yee et al.,1994;Zennou et al.,2000;Zufferey et al.,1997)。
【0049】
Ssolタンパク質発現のためのTRIPベクターを構築するために、CMVi/eプロモーター、pCIプラスミドのキメライントロン、SsolのORFおよび2つのウイルス排出エレメントCTEまたはWPREのうちの1つを含む発現カセットを、EF1プロモーターおよびGFPのORFの代わりに、pTRIP−EF1−EGFPプラスミドに移した。このように、産生したこれらのプラスミドをpTRIP−Ssol−CTEおよびpTRIP−Ssol−WPREと呼び、これらを用いて、それぞれ、TRIP−Ssol−CTEおよびTRIP−Ssol−WPREのレンチウイルスべクターストックを作った。これらのベクターを用いて、24時間の間隔をあけた、一連の5回の連続形質導入サイクルに従って、FRhK−4細胞に形質導入した。形質導入した細胞を、限界希釈法によりクローン化し、得られたこれらの細胞クローンを、Ssolポリペプチドの顕著な分泌に応じて選択した。これを行うために、様々なクローンの固定数の細胞を35mm培養皿に蒔き、72時間後に、上清におけるSsolタンパク質の存在を、ウエスタンブロットにより解析した。
【0050】
期待されるサイズ(約180kDa)のタンパク質を、全クローンの上清において検出し、形質導入手順の効率を確認した。しかし、Ssolタンパク質を産生するために用いたTRIPベクターとは無関係に、発現レベルがクローンごとに異なった。FRhK−4−Ssol−CTE#3細胞クローンが、培養72時間後に回収した上清において、最高濃度のSsolタンパク質を得ることを可能にした。このクローンを、第2の一連の5回の形質導入サイクルにかけ、第2世代のクローンを得るために選択工程を繰り返した。最も産生力のある第2世代のクローン(FRhK−4−Ssol−CTE#30)を増幅して使用し、大量の上清を産生した。その後、様々な(濃度)範囲の精製Ssolをタンパク質マーカーとして用いる捕捉ELISA試験を用いて、Ssolタンパク質が、5〜10μg/mlの範囲の濃度で、FRhK−4−Ssol−CTE#30クローンの上清に分泌されることを判断することができた。Ssolタンパク質を産生する最適条件を、実験的に、細胞密度パラメーター、血清濃度、培養温度および分泌継続時間を検討して決定した。
【0051】
組換えSsolタンパク質の産生および精製
Ssolタンパク質の大規模産生について、FRhK−4−Ssol−CTE#30クローンの1.5〜2.108のサブコンフルエントな細胞のロットを、0.5%牛胎仔血清を含むDMEMに基づく1リットルの培地の中で、35℃で、4日間培養した。分泌されたSsolタンパク質を含む上清を、限外濾過装置により濃縮し、抗FLAG抗体カラムの親和性クロマトグラフィにより精製した。カラムに固定した物質を、非変性条件下で、FLAGペプチドとの競合により溶出し、その後、ゲル濾過により分離し、FLAGペプチドおよび低分子量混入物を除去した。
【0052】
精製物質をSDS−PAGEおよび硝酸銀染色で解析した。Ssolポリペプチドの期待されるサイズ(180〜200kDa)を有する、糖タンパク質に特徴的な、強く拡散したバンドが現れた。SDS−PAGEの後に、Sタンパク質に特異的なウサギポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロット解析により、この精製タンパク質がSタンパク質の細胞外ドメインと明確に一致することを確認した。SDS−PAGEおよびruby SYPRO染色後に、この精製タンパク質の精製度を調べた。蛍光シグナルの定量化は、ゲル濾過から溶出したタンパク質の90%以上が、Ssolタンパク質に由来することを示した。次に、ビシンコニン酸アッセイ(BCA)を用いて、キットの助けをかりて、この精製Ssolタンパク質を定量化した。3つの独立した産生の解析後、1リットルの培養上清につき1.3〜2.5mgのSsolタンパク質を得ることができた。全段階(濃縮、親和性精製およびゲル濾過)を含めて、全精製収率は、26〜53%の範囲である。その後、精製Ssolタンパク質を、N末端配列解析、質量分析および分析用超遠心分離によりさらに特徴づけた。その結果、精製Ssolタンパク質は、シグナルペプチド(1〜13番目のアミノ酸)は欠損しているが、Sタンパク質の細胞外ドメイン全体と一致する182kDaの可溶性単量体であると結論づけた。
【0053】
水中油型アジュバントの調製
後の実施例で用いる水中油型エマルジョンは、2種類の油(α−トコフェロールおよびスクアレン)で作られる有機相、ならびに、乳化剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の水相でできている。特に記載されない限り、後の実施例で用いる水中油型エマルジョンアジュバント製剤を、以下の水中油型エマルジョン成分(最終濃度)を含むように作った:2.5%スクアレン(v/v)、2.5%α−トコフェロール(v/v)、0.9%ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(v/v)、国際特許公開第95/17210号参照。このエマルジョンを、後の実施例でGSK2と名付け、以下のように2倍濃縮物として調製した。
【0054】
エマルジョンは、疎水性成分(α−トコフェロールおよびスクアレン)を含む油相と、水溶性成分(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートおよびPBSmod(改良型)、pH6.8)を含む水相とを、強く撹拌しながら混合して作製する。撹拌の間、油相(全容積の1/10)を水相(全容積の9/10)に移行させ、この混合物を、15分間、常温で撹拌する。その後、生じた混合物を、マイクロフルイダイザー(15000 PSI−8サイクル)の相互作用チャンバー内で、せん断力、衝撃力およびキャビテーション力にかけることにより、サブミクロンの油滴(100〜200nmの間に分布)を作製する。生じたpHは、6.8±0.1の間である。その後、このエマルジョンを、0.22μmの膜に通す濾過により滅菌し、滅菌バルクエマルジョンを、Cupac容器の中で、2〜8℃で冷蔵保存する。滅菌不活性ガス(窒素またはアルゴン)を、少なくとも15秒間、エマルジョン最終バルク容器の死容積に勢いよく流し入れる。
【0055】
マウスモデルにおけるアジュバントワクチン試験
アジュバントなしで、または50μgのミョウバンもしくは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のいずれかと共に、2μgのSsolタンパク質を、若い成熟BALB/cマウス(1グループにつき8匹)の筋肉組織に、3週間の間隔をあけて2回注射した。これらのアジュバントの用量は、従来、小型げっ歯類に対して使用された量であり、ヒト医学において使用される用量の1/10に相当する。2グループのマウスがこの研究の対照として関係し、各々、アジュバントの一方のみで免疫した。これらのマウスの血清を、各注射の3週間後に採取し、抗SARS ELISA、血清中和解析およびアイソタイプ解析により、SARS−CoVの特異的体液性反応を調べた。
【0056】
ELISA(図1)により、対照グループの血清の抗体力価は、常に、検出限界以下(1.7log10)であった。1回のみの注射後、アジュバントなしでまたはミョウバンアジュバントと共にタンパク質によって誘導した抗体反応は弱く(それぞれの平均力価は、1.9±0.2log10および2.1±0.3log10)、以前に得られた結果を裏付けた。逆に、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)とタンパク質により誘導した抗体力価は、最初の注射から非常に高くなる(3.6±0.2log10の平均力価)。2回の注射後、タンパク質で免疫した全グループにおける力価の顕著な増加が観察される。最も弱い反応で最も異種的な反応が、アジュバントを用いなかった時に観察される(3.9±0.5log10の平均力価)。ミョウバンを免疫原調製品に加えると、抗体反応を改善することができる(4.6±0.2log10の平均力価;p<0.01)。最初の注射後に観察された結果によると、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)は、2回の注射後にSsolタンパク質の免疫原性を顕著に改善し、得られた抗体力価(5.2±0.2log10の平均力価)は、ミョウバンアジュバントとタンパク質によって誘導された力価よりも有意に高い(p<10‐4)。
【0057】
様々な免疫原による体液性反応の質を、2回目の注射の3週間後に採取した血清を用いて調べた。中和抗体力価(図2)は、ELISAによる解析の時に観察された階層に従う。アジュバントなしでタンパク質を用いた時に、最も弱い力価が得られる(2.3±0.4log10の平均力価)。中和反応は、ミョウバンを加えることによって有意に改善する(3.1±0.3log10の平均力価;p<0,001)。同様に、タンパク質に水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えると、非常に高い中和抗体力価を得ることができ(3.7±0.2log10の平均力価)、ミョウバンアジュバントとタンパク質によって誘導される力価より有意に4倍高い(p<0.002)。
【0058】
SARS−CoV抗原に対する特異的IgG1およびIgG2aのアイソタイプ力価を、最後の注射の3週間後に採取した血清において、抗SARS ELISAにより、各グループについて調べた(図3)。アジュバントのないタンパク質での免疫またはミョウバンアジュバントとタンパク質での免疫は、ほぼ全くIgG1のみ誘導する。Ssolタンパク質に水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えると、ミョウバンが存在する時よりもさらに高いIgG1力価(平均力価5.4±0.2log10)を誘導することができ、IgG2a力価も高レベルになる(平均力価2.1±0.6に対して2.8±0.7;p<0.05)。IgG2aに対するIgG1の平均比は、GSK2アジュバントの存在下で840であり、ミョウバンの存在下で1600を超える。これらの結果は、アジュバントなしでまたはミョウバンと共にタンパク質によって誘導される免疫反応が、主に2型であることを示す。Ssolタンパク質に水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えると、TH−2型免疫反応が有利に働くが、弱くはあるが異種のTH−1型免疫反応も誘導できる。
【実施例2】
【0059】
ハムスターモデルにおけるアジュバントワクチン試験
50μgのミョウバンまたは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のいずれかと共に、2μgまたは0.2μgのSsolタンパク質を、シリアゴールデンハムスター(1グループにつき6匹)の筋肉組織に、3週間の間隔をあけて2回注射した。これらのアジュバントの用量は、従来、小型げっ歯類に対して使用され、ヒト医学において使用される用量の1/10に相当する。2グループのハムスターがこの実験の対照として関係し、各々、アジュバントの一方のみで免疫した。SARSに対する有望なワクチンを構成する、50μgのミョウバンと2μg(Sと同等)の精製した、β−プロピオラクトン不活性化SARS−CoVウイルス粒子(BPL−SCoV)を、別のグループのハムスターに注射した。これらのハムスターの血清を、各注射の3週間後(それぞれ、IS1およびIS2)および2回目の注射の3ヶ月後(IS2bis)に採取し、抗SARS ELISAおよび血清中和解析により、SARS−CoVの特異的体液性反応を調べた。
【0060】
ELISA(図4)により、対照グループの血清の抗体力価は、常に、検出限界以下(1.7log10)であった。2μgのSsol用量において、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)は、1回(IS1)および2回(IS2)の注射後に、Ssolタンパク質の免疫原性を顕著に改善し、得られた抗体力価(4.2±0.3log10および5.0±0.1log10の平均力価)は、ミョウバンアジュバントとタンパク質により誘導された力価よりも、それぞれ0.6log10および0.7log10高い(p<10‐3)。
【0061】
0.2μgのSsolの1回のみの注射後、ミョウバンアジュバントを用いた時に観察された反応は弱く、検出限界に近い(1.8±0.2log10の平均力価)。逆に、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)とタンパク質によって誘導される抗体力価は、最初の注射から高くなり(3.9±0.5log10の平均力価)、ミョウバン存在下の2μgのSsolの単回注射後に達した力価より、より異種的ではあるが高いレベルに達する。2回の注射後、タンパク質で免疫した両グループの力価の顕著な増加が観察される。最も弱い反応であり最も異種的な反応が、ミョウバンアジュバントを用いた時に観察される(2.6±0.7log10の平均力価)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を免疫原調製品に加えると、抗体反応を強力に改善させることができる(4.8±0.2log10の平均力価;p<10‐4)。
【0062】
水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と0.2μgおよび2μgのSsolの2回目の注射後、全免疫ハムスターにおいて、比較的高い力価反応が得られた(5.0±0.1log10に対する4.8±0.2log10力価)。これは、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を用いると、SARSに対する用量−節約ワクチン戦略が可能になることを示す。
【0063】
0.2μgのSsolまたは2μg(Sと同等)の不活化ウイルス粒子によって誘導される体液性免疫反応の質を、2回目の注射の3ヶ月後に採取した血清を用いて試験した。中和抗体力価(図5)は、ELISAによる解析の時に観察された階層に従う。ミョウバンとタンパク質を用いて得られた力価は、検出限界以下であった(1.3log10)。中和反応は、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えることによって非常に改善する(2.7±0.2log10の平均力価;p<10‐7)。この反応は、2μg(Sと同等)の不活化ウイルス粒子によって誘導される反応と明確に同じであった(2.5±0.2log10の平均力価)。
【0064】
Ssol免疫ハムスターの抗原投与感染(Challenge infection)
免疫3か月後に、選択したグループのハムスターに、105pfuのSARS−CoVを鼻腔内接種により抗原投与し、4日後に安楽死させ、ウイルス複製を調べた。各動物の肺(図6)および上気道(URT)、すなわち咽頭と気管(図7)において、ウイルス量の値を調べた。各模擬ワクチン接種動物の肺において、ウイルスの強力な一貫した複製が観察された(7.5±0.1log10pfu)。さらに、模擬ワクチン接種ハムスターの上気道において、ウイルス複製が示された(5.0±0.3log10pfu)。ミョウバンと0.2μgのSsolで免疫した動物の肺(4.1±1.4log10pfu)およびURT(2.5±0.4log10pfu)の両方において、SARS−CoV量を検出できた。明確な対照として、この動物モデルにおける強力なウイルス複製にも関わらず、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したいずれのハムスターにおいても、感染性ウイルスは検出できなかった(log10pfu/臓器<2.1)。Ssolとミョウバンで免疫したハムスターと比較して、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したハムスターの肺におけるSARS−CoV複製の減少が102倍を上回るという証拠を、これらのデータは示す。Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で達成されたこの高レベルの防御は、不活化ウイルス粒子とミョウバンで免疫したハムスターにおいて観察されたレベルに匹敵する。
【0065】
興味深いことに、抗原投与時、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と2μgのSsolによる単回投与は、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と0.2μgのSsolによる2回投与(4.4±0.1log10 pfu)と同じくらい高い抗SARS抗体のELISA力価(4.2±0.3log10pfu)を誘導した(図4)。この後者のワクチン接種計画が、SARS抗原投与に対して免疫ハムスターを保護する(図6および図7)という事実を考慮すると、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と2μgのSsolによる単回投与も、防御反応を誘導すると予想することができる。これは、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を用いると、SARSに対する単回投与ワクチン戦略が可能になることを示す。
【0066】
抗原投与ハムスターの肺の病理組織学的解析
抗原投与後、0.2μgのSsolタンパク質で免疫したハムスターの肺に対して、ヘマルン−エオシン染色(HE)を用いる病理組織学検査および抗SARS−CoVポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学解析を行った。図8は、肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、1〜10の目盛りで示す。模擬ワクチン投与動物では、急性ウイルス性肺炎の特徴的病変として、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷が観察された(スコア=3.1±0.6)。従って、ウイルス抗原を、これらの肺胞炎の病巣の中、ならびに気管および気管支肺胞の上皮にも検出した(スコア=3.9±0.4)。損傷のスコア(2.6±1.0)およびウイルス抗原量(3.3±1.2)の双方は、ミョウバンと0.2μgのSsolで免疫した動物の肺においても高かった。明確な対照として、上気道(咽頭−気管、データ示さず)および肺(図8)の気道部分の大規模IHCスクリーニングにもかかわらず、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のワクチン接種ハムスターにおいて、肺における肺胞炎または肺炎の特異的損傷は検出されず(スコア=0.5±0.0)、ウイルス抗原はいずれの動物においても検出されなかった。
【0067】
これらのデータは、上気道および下気道における検出可能なウイルス抗原がないこと、ならびに肺炎がないことによって示されるように、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でワクチン接種したハムスターは、SARS−CoV抗原投与から完全に保護されることを裏付ける。
【0068】
Ssol免疫ハムスターの抗原投与感染の長期防御
2μgのSsolで2回免疫したハムスターのグループに対して、長期防御を試験した。2回目の注射の8カ月後、ミョウバン添加(平均力価1.8±0.4log10)と比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の添加により、中和抗体反応は改善された(2.6±0.2log10の平均力価;p<0.005)(図21)。この反応は、2μg(Sと同等)の不活化ウイルス粒子によって誘導される反応(2.6±0.2log10の平均力価)と明らかに類似していた。
【0069】
その後、これらのハムスターに、105pfuのSARS−CoVを鼻腔内接種によって抗原投与し、4日後に安楽死させ、ウイルス複製を調べた。各動物の肺(図22)および上気道(URT)(図23)において、ウイルス量の値を調べた。上記の結果と一致して、模擬ワクチン接種動物の肺およびURTの両方において、ウイルスの強力な複製が観察された(肺およびURTにおいて、それぞれ、7.7±0.2log10pfuおよび5.1±0.2log10pfu)。ミョウバンと2μgのSsolで免疫した動物において、SARS−CoV量は、5匹中2匹の肺およびURTの両方において検出でき、高いウイルス量(4.8log10pfu)が1匹の動物のURTにおいて観察された。明確な対照として、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したいずれのハムスターにおいても、感染性ウイルスは検出できなかった(log10pfu/臓器<2.1)。Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で達成されたこの高レベルの防御は、不活化ウイルス粒子とミョウバンで免疫したハムスターにおいて観察されたレベルに匹敵する。
【0070】
さらに、抗原投与および安楽死後、これらのハムスターの肺に対して、ヘマルン−エオシン染色(HE)を用いる病理組織学検査および抗SARS−CoVポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学(IHC)解析を行った(図24)。上記のように、模擬ワクチン投与動物において、急性ウイルス性肺炎の特徴的病変として、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷が観察され(スコア=5.4±0.9)、ウイルス抗原が検出された(スコア5.1±0.4)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と2μgのSsolでワクチン接種した動物の肺において、損傷のスコアは有意に減少し(0.9±0.5、p<10‐4)、ウイルス抗原量は検出されなかったが、ミョウバンと2μgのSsolで免疫した動物においては、損傷スコアの中程度の減少が観察され(スコア=2.6±0.8)、ウイルス抗原は5匹中2匹において検出可能であった(スコア=0.5±0.6)。
【0071】
結局、これらのデータは、Ssolタンパク質と水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)による長期防御の可能性の証拠を示す。
【0072】
Ssolの単回投与を用いた抗原投与感染からのハムスターの防御
50μgのミョウバンまたは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のいずれかと0.2μgの用量のSsolを筋肉組織に注射して、Ssolの単回投与による免疫後の防御を試験した。注射2週間後、ELISA抗体反応(図25)は、ミョウバンの添加(平均力価2.0±0.4log10)と比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の添加により非常に改善した(平均ELISA力価3.3±0.3log10;p<0.001)。中和抗体力価(図26)は、ELISA解析によって観察された階層に従う。ミョウバンとタンパク質を用いて得られた力価は、各動物について、検出限界以下(1.3log10)であった。中和反応は、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の添加により改善し、免疫ハムスターの6匹中3匹が、検出可能な抗体反応を示した(1.5±0.3log10の平均力価;p<0.1)。
【0073】
免疫の3週間後に、これらのハムスターに105pfuのSARS−CoVの鼻腔内接種によって抗原投与し、その4日後に安楽死させ、ウイルス複製を調べた。各動物の肺(図27)および上気道(URT)(図28)において、ウイルス量の値を調べた。上記の結果と一致して、模擬ワクチン接種動物の肺およびURTの両方において、ウイルスの強力な複製が観察された(肺およびURTにおいて、それぞれ、7.3±0.3log10pfuおよび4.8±0.5log10pfu)。ミョウバンと0.2μgのSsolで免疫した後、中程度〜高いSARS−CoV量が、6匹中5匹の肺およびURTの両方において検出可能であった(肺およびURTにおいて、それぞれ、4.9±1.8log10pfuおよび3.0±1.0log10pfu)。明確な対照として、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したいずれのハムスターにおいても、感染性ウイルスは検出できなかった(log10pfu/肺<2.1およびlog10pfu/URT<1.8)。
【0074】
さらに、抗原投与ならびに安楽死後、これらのハムスターの肺に対して、ヘマルン−エオシン染色(HE)を用いる病理組織学検査および抗SARS−CoVポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学(IHC)解析を行った(図29)。上記のように、模擬ワクチン投与動物において、急性ウイルス性肺炎の特徴的病変として、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷が観察され(スコア=1.9±0.3)、ウイルス抗原が検出された(スコア2.4±0.3)。0.2μgのSsolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でワクチン接種した動物の肺において、損傷のスコアは有意に減少し(1.0±0.0、p<10‐4)、ウイルス抗原量は検出されなかったが、ミョウバンと0.2μgのSsolでワクチン接種した動物において、損傷のスコアの減少は観察されず(スコア=2.2±0.9)、ウイルス抗原は6匹の各々において検出可能であった(スコア=2.6±0.8)。
【0075】
結局、これらのデータは、Ssolタンパク質および水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の単回低用量注射によって誘導される高レベルの防御の可能性の証拠を示す。
【実施例3】
【0076】
A)BALB/cマウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する体液性免疫反応
6〜8週齢のメスのBALB/cマウスをオランダのHarlan社から入手した。0日および21日目に、アジュバントなしで(「plain」)、50μgのミョウバンでアジュバント化した、または水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と共に、2、0.2または0.02μgのSsolタンパク質を、マウス(1グループにつき23匹)に筋肉内注射した。追加の3グループのマウスを対照として含め、各々、PBS、ミョウバンまたはGSK2アジュバント単独で免疫した。
【0077】
非アジュバント化Ssol抗原の調製
以下の順番に従って、製剤を用時調製した:注射用の水にSsol抗原を加え(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの最終濃度に達するように量を加える)、常温で5分間、軌道振盪台上で混合し、(最終濃度が150mMに達するように)1500mMのNaClを加え、常温で5分間、軌道振盪台上で混合する。製剤化の終了後1時間以内に注射を行った。
【0078】
ミョウバンアジュバント化Ssolの調製
以下の順番に従って、ワクチン調製品を作製した:注射用の水に水酸化アルミニウムを加え(1000μg/mlの最終濃度に達するように量を加える)、(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの最終濃度に達するように)Ssol抗原を加え、常温で30分間、軌道振盪台上で混合し、(最終濃度が150mMに達するように)1500mMのNaClを加え、常温で5分間、軌道振盪台上で混合する。このワクチンを、最初の試験の第1の免疫の6日前に調製し、注射まで4℃で保存した。
【0079】
GSK2adjアジュバント化Ssolの調製
以下の順番に従って、製剤を用時調製した:注射用の水に10倍濃縮のリン酸緩衝生理食塩水を加え、Ssol抗原を加え(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの最終濃度に達するように量を加える)、常温で5分間、軌道振盪台上で混合し、2倍濃縮のGSK2アジュバントを加え、常温で5分間、軌道振盪台上で混合する。製剤化の終了後2時間以内に注射を行った。
【0080】
体液性反応の解析
免疫14日後(35日の時点)にそれぞれのマウス(1グループ8匹)の血液試料から調製した血清において、体液性反応を調べた。抗原としてSARS−CoVに感染させたVeroE6細胞または陰性対照として感染させていないVeroE6細胞の溶解物を用いた間接ELISA法により、抗SARS−CoV特異的抗体の存在の検出およびアイソタイプ解析を行った。ペルオキシダーゼに結合させたポリクローナル抗マウスIgG(H+L)抗体(NA931V,Amersham)を用いて、続いて、TMBおよびH2O2(KPL)を加えて明らかにした後、OD0.5を与える血清の希釈の逆数として、力価を計算した。アイソタイプの解析のために、マウスIgG1およびIgG2a抗体に特異的なポリクローナル血清を用いた(Southern Biotech)。
【0081】
抗SARS−CoV抗体
用量依存的な抗SARS−CoV抗体反応が、アジュバントなしで、またはミョウバンもしくは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下でSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて観察された(図9)。非アジュバント化Ssolで免疫したマウスと比較して、アジュバントの存在下、Ssolで免疫したマウスにおいて、抗体反応が有意に高いことが判明した。ミョウバンアジュバント化Ssolで免疫したマウスと比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、この反応は有意に高かった(p<10‐4);水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下で最も低用量のSsol(0.02μg)で誘導された抗体力価は、ミョウバンの存在下で最も高い用量のSsol(2μg)で誘導された抗体力価より優れていることが判明した(p=0.08)。
【0082】
抗SARS−CoV抗体のアイソタイプ解析
2μgの用量のSsolで免疫した「Plain」グループ、ミョウバンアジュバント化グループ、および水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したグループ(1グループ8匹)から調製した血清において、SARS−CoV特異的なIgG1およびIgG2a抗体のアイソタイプ解析をELISAにより行った。結果を図10に示す。
【0083】
非アジュバント化Ssolタンパク質またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質のいずれかで免疫したマウスにおいて、この反応は、IgG1アイソタイプに強く傾いていることが判明し、一方で非常に低レベルのIgG2a抗体が検出された。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいては、高い力価(5.3±0.1log10力価)のIgG1抗体が得られた。興味深いことに、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、IgG2a抗体の力価(4.0±0.8log10力価)は、1匹を除いて有意に増加した(p<10‐5)。
【0084】
中和抗体
1ウェルにつき100 TCID50のSARS−CoVを用いて、FRhK−4細胞における標準的な血清中和アッセイにより、中和抗体の存在を調べた。熱で不活化した(56℃、30分間)血清の、1:20の希釈からの2倍の段階希釈物を用いて、二重に(in duplicate)試験した。ReedおよびMunsch(Am J Hyg 1938:27:493−97)の方法に従って、ウェルの50%(4ウェルのうち2ウェル)のウイルス感染力を中和する希釈の逆数として、中和力価を決定した。
【0085】
アジュバントなしで、またはミョウバンもしくは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下、0.2μgのSsolで免疫した個々のマウス(1グループにつき8匹)の免疫14日後に調製した血清を、SARS−CoVを中和する抗体の存在について解析した。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下、0.5μgのSタンパク質と同等の用量の不活化した全ウイルス調製品で免疫したマウスの血清を比較のために含めた。結果を図11に示す。
【0086】
水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和抗体力価(3.4±0.1log10力価)は、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスの力価(2.8±0.3log10力価、p<0.001)よりも0.6log10高かったが、非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和力価は、8匹中6匹について検出できなかった(<1.3log10)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下、中和抗体力価は、0.5μgのSと同等の全ウイルス抗原(3.6±0.2log10力価)と比べて、0.2μgのSsolタンパク質で同程度だった。
【0087】
B)BALB/cマウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する細胞性免疫反応
BALB/cマウスの「Plain」グループ、ミョウバンアジュバント化グループ、およびGSK2adjアジュバント化グループの細胞性免疫反応を、以下の表Aにまとめたように調べた。
【表1】
【0088】
1グループにつき15匹のマウスのPBMCおよび脾臓において、細胞性反応を測定した。免疫7日後にPBMCを採取し、免疫14日後に脾臓を摘出した。3匹のマウスの5つのプールにおいてPBMCを調べ、1グループにつき2匹のマウスの4つのプールにおいて脾臓を調べた。
【0089】
細胞内サイトカイン染色(ICS)
溶解緩衝液(BD Pharmingen)を用いた赤血球細胞の溶解後、PBMCのインビトロ抗原刺激を、最終濃度1μg/mlのSsolを用いて、最終濃度107細胞/ml(96ウェルマイクロプレート)で行い、その後、抗CD28および抗CD49d(共に1μg/ml)を加えて、37℃で2時間インキュベートした。抗原再刺激ステップの後、ブレフェルジン(1μg/ml)の存在下、細胞を37℃で一晩インキュベートし、サイトカイン分泌を阻害した。
【0090】
脾臓をマウスから摘出し、RPMI+Add培地に貯蔵した(2匹/1グループの4つのプール)。RPMI+Addで希釈したPBL懸濁液を、5%牛胎仔血清を加えたRPMI中で107細胞/mlに調整した。脾臓細胞のインビトロ抗原刺激を、最終濃度1μg/mlのSsolを用いて行い、その後、抗CD28および抗CD49d(共に1μg/ml)を加えて、37℃で2時間インキュベートした。抗原再刺激ステップの後、ブレフェルジン(1μg/ml)の存在下、細胞を37℃で一晩インキュベートし、サイトカイン分泌を阻害した。
【0091】
4℃で一晩保存した後、細胞染色を以下のとおりに行った:細胞懸濁液を洗浄し、2%Fcブロッキング試薬(1/50;2.4G2)を含む50μlのPBS1%FCSに再懸濁した。4℃での10分間のインキュベーション後、抗CD4−PE(1/50)と抗CD8a perCp(1/50)の50μlの混合物を加え、4℃で30分間インキュベートした。PBS1%FCSで洗浄した後、200μlのCytofix−Cytoperm(Kit BD)に再懸濁することにより細胞を透過処理し、4℃で20分間インキュベートした。
【0092】
その後、細胞をPerm Wash(Kit BD)で洗浄し、Perm Washで希釈した50μlの抗IFNγ−APC(1/50)+抗IL−2FITC(1/50)で再懸濁した。4℃での2時間のインキュベーション後、細胞をPerm Washで洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを加えたPBS1%FCSに再懸濁した。試料の解析をFACSにより行った。生きている細胞をゲーティングし(FSC/SSC)、約20,000イベント(リンパ球CD4)について(データ)取得を行った。CD4+のゲート集団におけるIFNγ+またはIL2+のパーセンテージを計算した。
【0093】
サイトカイン分泌(CBA)量
再刺激の上清のサイトカイン量も、免疫14日後の脾臓のPBMCにおいて計算した。脾臓をマウスから摘出し、RPMI+Add培地に貯蔵した(2匹/1グループの4つのプール)。PBMC懸濁液を、5%牛胎仔血清を加えたRPMI中で107細胞/mlに調整した。PBMCのインビトロ抗原刺激を、最終濃度1μg/mlのSsolを用いて行い、その後、37℃で72時間インキュベートした。上清を回収し、IFNγ、IL−5およびIL−13の検出のためのCBA(サイトカインビーズアッセイ)−flex(BD kit)による試験まで−70℃で保存した。
【0094】
異なる蛍光強度を有するビーズ集団を、IFN−γ、IL−5およびIL−13タンパク質に特異的な捕捉抗体でコーティングした。ビーズ集団を混合し、サイトメトリックビーズアレイ(CBA)を形成させ、BD社のFACS(商標)フローサイトメーターのFL3チャネルで解像した。サイトカイン捕捉ビーズをPE結合検出抗体と混合し、その後、組換え標準物質または試験試料とインキュベートし、サンドイッチ複合体を形成させた。フローサイトメーターを用いて試料データを取得後、試料の結果のグラフおよび表を作成した。
【0095】
マウスサイトカイン標準物質を再構成し、アッセイ希釈剤を用いて段階希釈により希釈した。マウスサイトカイン捕捉ビーズ懸濁液を貯蔵、混合し、各アッセイ試験管に移した(50μl/試験管)。標準希釈物および試験試料を適切な試料用試験管に加え(50μl/試験管)、50μlのPE検出試薬を加えた。全試料および標準物質を、常温で2時間、暗室の中でインキュベートした。インキュベーション後、全反応試験管を、1mlの洗浄緩衝液で洗浄し、200×gで、5分間、遠心分離した。(上清を)取り除いた後、標準物質および試料を300μlの洗浄緩衝液に再懸濁した。標準物質および試料のデータを、サイトメーターの設定のためのBD社のFACSCompソフトウェア、および試料を解析するためのCellQuestソフトウェアを用いてFACSCaliburフロ−サイトメーターで読み取り、BD社のCBAソフトウェアを用いて次の解析(標準曲線を用いた試料濃度の計算)を行った。
【0096】
PBMCにおけるCD4+T細胞反応
ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質または非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、各抗原用量で、有意に高い(p<0.05)CD4+T細胞反応が誘導された(図12)。ミョウバンアジュバント化Ssolまたは非アジュバント化抗原は、アジュバント単独またはPBSでの免疫により達成される反応と類似のレベルのCD4+T細胞反応を誘導した。GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質2μg、0.2μgまたは0.02μgを用いてマウスを免疫した後、類似のレベルのCD4+T細胞反応が観察された(図12)。
【0097】
脾臓におけるCD4+T細胞反応
ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質または非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、各抗原用量で、より高いCD4+T細胞反応が誘導された(図13)。ミョウバンアジュバント化Ssolまたは非アジュバント化抗原は、アジュバント単独またはPBSでの免疫により達成される反応と類似のレベルのCD4+T細胞反応を誘導した。GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質2μg、0.2μgまたは0.02μgを用いてマウスを免疫した後、類似のレベルのCD4+T細胞反応が観察された(図13)。
【0098】
脾細胞からのサイトカイン分泌
非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質またはGSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、より高レベルのIL−5、IL−13およびIFN−γサイトカインが誘導された(図14)。両方のアジュバント(ミョウバンおよびGSK2アジュバント)は、混合したTh1型(IFN−γ)ならびにTh2型(IL−5およびIL−13)サイトカインプロファイルをもたらした。
【実施例4】
【0099】
A)C57BL/6マウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する体液性免疫反応
BALB/cマウスについて実施例3で記載した手順と同じ実験手順を、オランダのHarlan社から入手した6〜8週齢のメスのC57BL/6マウスにおいて行った。アイソタイプの解析のために、マウスIgG1およびIgG2b抗体に特異的なポリクローナル血清を用いた(Southern Biotech)。
【0100】
抗SARS−CoV抗体
用量依存的な抗SARS−CoV抗体反応が、アジュバントなしで、またはミョウバンもしくは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下でSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて観察された(図15)。各抗原用量において、非アジュバント化Ssolで免疫したマウスと比較して、アジュバントの存在下、Ssolで免疫したマウスにおいて、抗体反応が有意に(0.3−1.9log10)高いことが判明した。2μgおよび0.2μgの抗原用量において、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、この反応は有意に(0.8−0.9log10)高かった(p<0.005)。ミョウバンアジュバント化(p=0.09、および差=0.2log10)またはplain(p=0.02 Ssol、および差=0.3log10)のSsolタンパク質で免疫したマウスと比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化した0.02μgのSsolでマウスを免疫した後に、より高い抗体反応の傾向が観察された。
【0101】
抗SARS−CoV抗体のアイソタイプ解析
非アジュバント化Ssolタンパク質またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質のいずれかで免疫したマウスにおいては、反応がIgG1アイソタイプに強く傾いていることが判明したが、IgG2b抗体が全く検出されなかったか、または非常に低レベルのIgG2b抗体が検出された(図16)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスでは、高い力価(5.0±0.2log10力価)のIgG1抗体が得られた。珍しいことに、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて観察された力価と比較して、IgG2b抗体の力価(3.7±0.5log10力価)は、異種的ではあるが有意に増加した(1.7±0.04log10力価、p<10‐6)。
【0102】
中和抗体
水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和抗体力価(2.4±0.5log10力価)は、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスの力価(1.8±0.4log10力価、p=0.02)よりも有意に高かったが、非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和力価は、検出限界以下に落ちた(図17)。
【0103】
B)C57BL/6マウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する細胞性免疫反応
C57BL/6マウスの「Plain」グループ、ミョウバンアジュバント化グループ、および水中油型エマルジョン(GSK2adj)でアジュバント化したグループの細胞性免疫反応を、BALB/cマウスについて実施例3で記載したように調べた。しかし、脾臓摘出の技術的問題により、Plain製剤(非アジュバント化Ssolタンパク質)またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおける脾臓の細胞性反応は入手できなかった。
【0104】
PBMCにおけるCD4+T細胞反応
GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて、用量に関わらず、弱い頻度のCD4+T細胞(反応)が得られた(図18)。ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質(3種類の用量全て)または非アジュバント化Ssolタンパク質(0.2μgおよび0.02μg)で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質によって、より高いCD4+T細胞反応が誘導された。2μgの非アジュバント化SsolとGSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質との間で、類似のしかし弱い頻度(反応)が観察された(図18)。
【0105】
脾臓におけるCD4+T細胞反応
GSK2アジュバントでアジュバント化した2または0.02μgのSsolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質でマウスを免疫した後に、より高いCD4+T細胞反応の傾向が観察された(図19)。GSK2アジュバント単独で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質でマウスを免疫した後に、有意に高い(p<0.05)CD4+T細胞反応が観察された。GSK2アジュバントでアジュバント化した、0.2μgまたは0.02μgの用量のSsolが、類似のレベルのCD4+T細胞反応を誘導した(図19)。
【0106】
脾細胞からのサイトカイン分泌
GSK2アジュバントでアジュバント化した2または0.02μgのSsolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、IL−5およびIL−13サイトカインのより高い産生の傾向が観察された(図20)。GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質がいかなる用量であろうと、類似のレベルのIFN−γサイトカインが観察された(図20)。
【0107】
実施例3および4の結果の概略および結論
これらのデータは、概して、アジュバントがない場合またはミョウバン存在下のいずれかにおけるSsolタンパク質での免疫と比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を用いたSsolタンパク質のアジュバント化が、BALB/cおよびC57BL/6マウスの両方において、より高レベルの抗SARS−CoV ELISA抗体反応および中和抗体反応を誘導したことを示した。さらに、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質または非アジュバント化Ssolタンパク質での免疫と比較して、GSK2アジュバントを用いたSsolタンパク質のアジュバント化が、より高いCD4+T細胞反応を誘導した。BALB/cおよびC57BL/6マウスのそれぞれにおけるTh1型およびTh2型サイトカインのより高い産生ならびにIgG2aまたはIgG2bの産生の増加によって示されるように、GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質は、混合したTh1/Th2様反応プロファイルをもたらした。
配列番号1
SARS−CoV#031589株のSタンパク質のアミノ酸配列
配列番号2
Ssolアミノ酸配列
1〜13番目のアミノ酸はシグナルペプチドに相当し、成熟タンパク質から切断される(下線)。Ser−GlyリンカーおよびFLAGペプチド配列を太字で示す。
配列番号3
Sタンパク質をコードし、pCI−S−WPREの中のようにBamH1−Xho1カセット内に挿入されるDNA配列。ATGおよびTAAコドンに下線をし、余分な配列(BamH1、Xho1、コザック配列)を太字で示す。
配列番号4
Ssolポリペプチドをコードし、BamH1−Xho1カセットに挿入されるDNA
−ATGおよびTAAコドンに下線をする
−余分な配列(BamH1、Xho1、コザック配列)を太字で示す。
−Ser−Glyリンカー配列を網掛けで示す。
−FLAGペプチド配列を□で示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)感染に対するワクチン、ならびにSARSの予防におけるこれらのワクチンの使用に関する。本発明は、かかるワクチンの生成方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、構造タンパク質E、M、NおよびSを含む少なくとも18個のウイルスタンパク質をコードする、プラスセンスの、非分節型(non−segmented)、一本鎖RNAゲノムを有する。コロナウイルスの主要抗原であるS(スパイク)タンパク質は、ウイルスエンベロープの表面から出現する刺の形態で存在する膜糖タンパク質(200〜220kDa)である。宿主細胞の受容体へのウイルスの付着および、ウイルスエンベロープと細胞膜との融合の誘導を担う。Sタンパク質は2つのドメインを有する:S1は、受容体結合に関与すると考えられている;S2は、ウイルスと標的細胞との膜融合を媒介すると考えられている(Holmes and Lai,1996)。Sタンパク質は、非共有結合のホモ三量体(オリゴマー)を形成することができ、それによって受容体結合およびウイルス感染を媒介することができる。
【0003】
2003年3月に、重症急性呼吸器症候群(SARS)の症例と関連して、新規のコロナウイルス(SARS−CoVまたはSARSウイルス)が単離された。ウルバーニ(Urbani)分離株(Genbank accession No.AY274119.3 and A.MARRA et al.,Science,May1,2003,300,1399−1404)およびトロント分離株(Tor2,Genbank accession No.AY278741 and A.ROTA et al.,Science,2003,300,1394−1399)のゲノム配列を含めて、新規のコロナウイルスのゲノム配列が得られた。
【0004】
SARS関連コロナウイルスの別の株も同定され、これはTor2およびウルバーニ分離株と見分けられる。このコロナウイルス株は、SARSを患う患者の気管支肺胞洗浄から採取された試料に由来し、031589という番号で登録され、ハノイ(ベトナム)フランス病院で収集された(国際特許公開第2005/056781号、および同第2005/056584号)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、および水中油型エマルジョンアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。本発明は、本発明の免疫原性組成物を生成する方法も提供し、その方法は、免疫原性Sポリペプチド、またはその断片もしくは変異体を水中油型エマルジョンアジュバントと混合するステップを含む。
【0006】
本発明は、さらに以下を提供する:
薬剤として使用するための本発明の免疫原性組成物;
重症急性呼吸器症候群もしくは他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための本発明の免疫原性組成物;
重症急性呼吸器症候群もしくは他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための薬剤の製造における本発明の免疫原性組成物の使用;
重症急性呼吸器症候群もしくは他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療する方法であって、この方法は、本発明の有効量の免疫原性組成物を、それを必要とする個人に投与するステップを含む;ならびに、
ワクチンとして使用するための本発明の免疫原性組成物。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】Ssolポリペプチドによって誘導される体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。アジュバントなし(no adj.)で、または50μgのミョウバンもしくは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)に付随して、2μgのSsolタンパク質を、3週間の間隔をあけて、2回筋肉内注射することにより、若い成熟BALB/cマウス(1グループにつき8匹)を免疫した。2つの対照グループを、それぞれのアジュバント単独で免疫した。各注射(IS1およびIS2、それぞれ)の3週間後に血清を採取し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の抗SARS ELISAによって、SARS−CoV天然抗原に対する特異的抗体反応を測定した。各マウスの力価を黒い点で表し、それらの平均を水平な線で表す。この実験の検出限界を点線で表す。
【図2】Ssolポリペプチドによって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。若い成熟BALB/cマウス(1グループにつき8匹)を上記のように免疫した。最後の注射の3週間後に採取した血清の中和抗体力価を、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載されたように測定した。各マウスの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。この実験の検出限界を点線で表す。
【図3】BALB/cマウスにおける、Ssolタンパク質によって誘導された免疫反応型の、アジュバントを用いた調節を示す。SARS−CoV天然抗原に対する特異的IgG1アイソタイプおよびIgG2aアイソタイプの力価を、最後の免疫の3週間後に採取したマウスの血清において測定した。各マウスについて測定した力価を点で示す。対照グループについては、力価を各グループの血清の混合物において測定し、ひし形で示す。この実験の検出限界を点線で示す。
【図4】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。各注射の3週間後(それぞれ、IS1およびIS2)および2回目の注射の3ヶ月後(IS2bis)に血清を採取し、図1に記載の抗SARS ELISAによって、SARS−CoV天然抗原に対する特異的抗体反応を測定した。各ハムスターの力価を黒い点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図5】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。最後の注射の3か月後に採取した血清の中和抗体力価を、図2に記載したように測定した。各ハムスターの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図6】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の3ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVをハムスターの鼻腔内に抗原投与した。接種4日後、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図6)およびURT(図7)に対する値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図7】シリアゴールデンハムスターにおける、Ssolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の3ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVをハムスターの鼻腔内に抗原投与した。接種4日後、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図6)およびURT(図7)に対する値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図8】0.2μgのSsolタンパク質で事前に免疫した抗原投与ハムスターの肺の病理組織学的解析の結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、1〜10の目盛りで示す。
【図9】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoV特異的IgG抗体の力価を示す。
【図10】2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoVアイソタイプ抗体の力価を示す。
【図11】0.2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoV中和抗体の力価を示す。
【図12】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫7日後に得たPBMCにおけるCD4+T細胞反応を示す。
【図13】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た脾臓におけるCD4+T細胞反応を示す。
【図14】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したBALB/cマウスから免疫14日後に得た脾細胞からのサイトカイン分泌(IL−5、IL−13およびIFN−γ)を示す。
【図15】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoV特異的IgG抗体の力価を示す。
【図16】2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た血清における、間接ELISA法により測定したSARS−CoVアイソタイプ抗体の力価を示す。
【図17】0.2μgの、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た血清を用いて測定したSARS−CoV中和抗体の力価を示す。
【図18】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫7日後に得たPBMCにおけるCD4+T細胞反応を示す。
【図19】異なる用量の、Ssol単独、またはミョウバンアジュバント化Ssolまたは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスから免疫14日後に得た脾細胞におけるCD4+T細胞反応を示す。
【図20】異なる用量の、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2adj)化Ssolで免疫したC57BL/6マウスの免疫14日後に得た脾細胞からのサイトカイン分泌(IL−5、IL−13およびIFN−γ)を示す。
【図21】シリアゴールデンハムスターにおける、2μgのSsolポリペプチドによって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。最後の注射の8カ月後に採取した血清の中和抗体力価を、図2に記載したように測定した。各ハムスターの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図22】シリアゴールデンハムスターにおける、2μgのSsolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の8ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの値を、肺(図22)およびURT(図23)について黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図23】シリアゴールデンハムスターにおける、2μgのSsolポリペプチドによって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。2回目の注射の8ヶ月後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの値を、肺(図22)およびURT(図23)について黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図24】2μgのSsolタンパク質で事前に免疫した抗原接種ハムスターの肺の病理組織学的解析結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、1〜10の目盛りで示す。
【図25】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の2週間後に血清を採取し、SARS−CoV天然抗原に対する特異的な抗体反応を、図1に記載したように抗SARS ELISAにより測定した。各ハムスターの力価を黒い点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図26】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される中和体液性反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の2週間後に採取した血清の中和抗体力価を、図2に記載したように測定した。各ハムスターの力価を点で表し、それらの平均を水平な線で表す。
【図27】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の3週間後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図27)およびURT(図28)について値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図28】シリアゴールデンハムスターにおける、0.2μgのSsolポリペプチドの単回注射によって誘導される防御免疫反応に対するアジュバントの効果を示す。注射の3週間後に、105PFUのSARS−CoVで、ハムスターの鼻腔内に抗原接種した。接種4日後に、ハムスターを安楽死させた。肺と上気道(URT、すなわち咽頭と気管)のホモジェネートを調製し、Callendretら(Virology,2007,363:288−302)に記載の、ベロ細胞におけるプラークアッセイにより、感染性SARS−CoVに対する力価を測定した。それぞれのハムスターの、肺(図27)およびURT(図28)について値を黒丸で表し、平均を水平な線で表す。これらのアッセイの検出限界を点線で示す。
【図29】0.2μgのSsolタンパク質の単回注射で事前に免疫した抗原接種ハムスターの肺の病理組織学的解析結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、0〜5の目盛りで示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、重症急性呼吸器症候群(SARS)もしくは他のSARS−CoV関連疾患の予防または治療に有用な免疫原性組成物を提供する。本明細書で使用する「免疫原性組成物」という用語は、任意で、アジュバントで適切に製剤化される時、ヒトなどの個体において免疫反応を引き起こすことができる免疫原性成分を含む組成物をいう。従って、一実施形態において、本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、および水中油型エマルジョンアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。本発明の別の実施形態において、本発明の免疫原性組成物はワクチンであり、すなわちこの免疫原性組成物はSARS−CoV感染に対する防御免疫反応を引き起こすことができる。
【0009】
本発明の免疫原性組成物は、その断片および変異体を含む、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチドを含む。この免疫原性Sポリペプチドは、SARS−CoV感染に対して、防御免疫反応を引き起こすことができるエピトープ、例えば、中和抗体の産生を引き起こすことができるおよび/または細胞性免疫反応を刺激することができるエピトープを有するSタンパク質の任意の部分を含み得る。
【0010】
典型的なSARS−CoVのSタンパク質は、1,255個のアミノ酸を有し(例えば、配列番号1参照)、13個のアミノ酸のシグナル配列、12〜672番目のアミノ酸に存在するS1ドメイン、および673〜1192番目のアミノ酸に存在するS2ドメインを有する。このタンパク質は、シグナルペプチド(1〜13番目のアミノ酸)、細胞外ドメイン(14〜1195番目のアミノ酸)、膜貫通ドメイン(1196〜1218番目のアミノ酸)および細胞内ドメイン(1219〜1255番目のアミノ酸)からなる。このSタンパク質配列は、ヒト集団においてSARSを起こしたことが知られるSARS−CoV株、例えば、Tor2、ウルバーニもしくは番号031589株を含む任意のSARS−CoV株、または、例えば、ヒト集団には未だ侵入したことがなく、ジャコウネコもしくはコウモリなどの動物集団において循環している株である任意の他のSARS−CoV株に由来し得る。
【0011】
一実施形態において、免疫原性Sポリペプチドは、全長Sタンパク質の一部または断片である。本明細書に記載のように、免疫原性Sポリペプチドは、SARSコロナウイルスに対する防御免疫反応を引き起こす全長Sタンパク質または野生型Sタンパク質それぞれの中に含まれる少なくとも1つのエピトープを有する、Sタンパク質の断片または(本明細書記載の全長Sタンパク質またはS断片の変異体であり得る)Sタンパク質変異体を含む。
【0012】
一実施形態において、免疫原性Sポリペプチドは、Sタンパク質の全細胞外ドメイン(外部ドメイン)、例えば、1〜1193番目のアミノ酸からなるまたはそれを含んでもよい。従って、免疫原性Sポリペプチドは、その細胞質内および膜貫通ドメインが除去されたS糖タンパク質からなってもよい。任意で、シグナルペプチド(1〜13番目のアミノ酸)が除去されてもよい。一実施形態において、免疫原性Sポリペプチドは、そのC末端に、セリン−グリシンリンカー(SG)およびオクタペプチドFLAG(DYKDDDDK)を結合したSタンパク質の細胞外ドメインからなる。特に、免疫原性Sポリペプチドは、C末端にSGDYKDDDDK配列を融合させたSARS−CoV Sタンパク質の14〜1193番目のアミノ酸からなるまたはそれを含んでもよい。さらなる実施形態において、Sポリペプチドは、配列番号2の配列からなるまたはそれを含んでもよい。
【0013】
免疫反応を刺激する、誘導する、または引き起こすエピトープを含むSタンパク質断片は、配列番号1の8〜150個の任意の数のアミノ酸(例えば、8、10、12、15、18、20、25、30、35、40、50個などのアミノ酸)に及ぶ連続したアミノ酸の配列を含んでもよい。
【0014】
他の実施形態において、コロナウイルスのSポリペプチド変異体は、配列番号1で示される全長Sタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも50%〜100%のアミノ酸同一性(すなわち、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性)を有する。かかるSポリペプチドの変異体および断片は、少なくとも1つのSタンパク質特異的な生物活性または機能を保持し得る。例えば、(1)SARS−CoVに対する防御免疫反応、例えば、中和反応および/または細胞性免疫反応を引き起こす能力;(2)受容体結合によるウイルス感染を媒介する能力;ならびに(3)ウイルス粒子および宿主細胞間の膜融合を媒介する能力である。
【0015】
Sポリペプチドは、保存的アミノ酸置換を含んでもよい。保存的置換の例として、Ile、Val、Leu、もしくはAlaなどの1つの脂肪族アミノ酸と別の脂肪族アミノ酸との置換、またはLysとArg間、GluとAsp間、もしくはGlnとAsn間などの1つの極性残基と別の極性残基との置換が挙げられる。類似のアミノ酸置換または保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基と交換される置換でもあり、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン);酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸);無電荷の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、ヒスチジン);非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);β分枝状側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)を有するアミノ酸が含まれる。プロリンは、分類することが難しいと考えられるが、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(例えば、Leu、Val、Ile、およびAla)と性質を共有する。特定の状況において、グルタミンのグルタミン酸への置換またはアスパラギンのアスパラギン酸への置換は、グルタミンおよびアスパラギンがそれぞれグルタミン酸およびアスパラギン酸のアミド誘導体であるという点において、類似の置換と考えられ得る。
【0016】
本明細書で開示されるコロナウイルス免疫原配列内のアミノ酸の保存的置換および類似の置換は、本明細書記載の方法および当分野で実施される方法に従って容易に行われ得、例えば、体液性反応(すなわち、野生型(つまり変異体ではない)免疫原と特異的に結合する、および/または野生型(つまり変異体ではない)免疫原と特異的に結合する抗体に結合する抗体に結合し、これと同じ生物活性を有する抗体を生じさせる反応)を含み得る免疫反応を誘導するもしくは引き起こす能力などの、類似の物理的特性および機能活性または生物活性を保持する変異体を提供する。Sタンパク質免疫原の変異体は、例えば、細胞受容体と結合するおよび感染を媒介する能力を保持する。
【0017】
本明細書で使用される「パーセント同一性」または「%同一性」は、コンピューターに実行させるアルゴリズムを用いて、対象のポリペプチド、ペプチド、またはその変異体の配列全体を、試験配列と比較することによって得られるパーセンテージの値である。本明細書記載の変異体免疫原を、点変異、フレームシフト変異、ミスセンス変異、付加、欠失などの1つまたは複数の様々な変異を含むように作ることができる、つまりこれらの変異体は、糖鎖付加およびアルキル化を含む特定の化学的置換などによる修飾の結果であり得る。
【0018】
本明細書記載のSタンパク質免疫原、その断片および変異体は、免疫反応、例えば、体液性反応および/もしくは細胞性免疫反応であり得る防御免疫反応を引き起こすまたは誘導するエピトープを含む。防御免疫反応は、以下の少なくとも1つによって表され得る:コロナウイルスによる宿主の感染を防ぐこと;感染を変更するまたは制限すること;感染からの宿主の回復を助ける、改善する、高める、または刺激すること;ならびに、SARSコロナウイルスによる次の感染を防ぐまたは制限する免疫学的記憶を生み出すこと。SARS CoV感染の症例において、例えば、肺および上気道におけるウイルス量、肺の炎症および病変のスコア、肺におけるウイルス抗原量のスコア、血清中和抗体の存在、PBMC、脾臓におけるCD4+T細胞反応、ならびに脾臓からのサイトカイン分泌によって、防御免疫反応を評価することができる。感染を中和する、ウイルスおよび/もしくは感染細胞を溶解する、宿主細胞によるウイルスの除去を促進する(例えば、食作用を促進する)、かつ/またはウイルス抗原物質と結合するおよびウイルス抗原物質の除去を促進する抗体の産生を、体液性反応は含み得る。体液性反応は、特異的粘膜IgA反応を引き起こすまたは誘導することを含む粘膜反応も含み得る。
【0019】
本明細書記載のSARS−CoVのSポリペプチド、断片または変異体による、対象または宿主(ヒトまたはヒトではない動物)における免疫反応の誘導は、本明細書記載の方法および当分野で通常実施される方法によって測定ならびに特徴づけられ得る。これらの方法には、例えばウサギ、マウス、フェレット、ジャコウネコ、アフリカミドリザル、またはアカゲザルのモデルを用いた動物免疫試験などのインビボアッセイ、ならびにウエスタン免疫ブロット分析、ELISA、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、およびそれらの組み合わせなどを含む抗体検出および抗体解析の免疫化学法などの多数のインビトロアッセイの任意の1つが含まれる。
【0020】
免疫反応を解析するおよび特徴づけるために使用され得る他の方法および技術には、中和アッセイ(プラーク減少アッセイ、または細胞変性効果(CPE)を測定するアッセイ、または当業者によって実施される任意の他の中和アッセイ)が含まれる。当分野で知られるこれらのならびに他のアッセイおよび方法を、SARSコロナウイルスに対する防御性体液免疫反応または細胞性免疫反応を引き起こす、少なくとも1つのエピトープを有するSタンパク質免疫原およびその変異体を同定するおよび特徴づけるために使用することができる。様々なアッセイにおいて得られた結果の統計的優位性を、関連分野の技術者によって通常実施される方法に従って、計算および理解することができる。
【0021】
コロナウイルスSタンパク質免疫原(全長タンパク質、その変異体、またはその断片)、ならびにかかる免疫原をコードする対応する核酸を単離型で提供し、特定の実施形態において、精製して均一にする。本明細書で使用される「単離する」という用語は、核酸またはポリペプチドを、その最初の環境または天然環境から除去することを意味する。
【0022】
SARSコロナウイルスSタンパク質免疫原ならびにその断片および変異体を、合成でまたは組換えで産生することができる。コロナウイルスに対する免疫反応を誘導するエピトープを含むコロナウイルスタンパク質断片を、自動化された手順による合成を含む標準的な化学的手法によって合成することができる。あるいは、Sタンパク質免疫原を、組換えで産生することができる。例えば、Sタンパク質免疫原を、核酸発現構築物の中のプロモーターなどの発現制御配列に作動可能に連結されたポリヌクレオチドから発現させることができる。例えば、Sタンパク質免疫原は、配列番号3または4のDNA配列によってコードされ得る。SARSコロナウイルスSポリペプチドおよびその断片または変異体を、哺乳類細胞、酵母、細菌、昆虫もしくは他の細胞において、適切な発現制御配列の制御下で発現させることができる。無細胞翻訳系も使用して、RNAを含む核酸および発現構築物を用いて、かかるコロナウイルスタンパク質を産生することができる。原核生物および真核生物の宿主と共に使用する適切なクローニングベクターおよび発現ベクターは、当業者によって通常使用されており、例えば、SambrookらのMolecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,NY,(1989)および第3版(2001)に記載されており、本明細書で開示されるプラスミドベクター、コスミドベクター、シャトルベクター、ウイルスベクター、および染色体複製開始点を含むベクターを含み得る。
【0023】
当業者が理解するように、コロナウイルスSポリペプチドまたはその変異体をコードするヌクレオチド配列は、例えば、遺伝子コードの縮重により、本明細書で提示される配列とは異なり得る。コロナウイルスポリペプチド変異体をコードするヌクレオチド配列は、ホモログまたは株変異体もしくは他の変異体をコードする配列を含む。変異体は、天然の多型に由来してもよく、例えば、アミノ酸変異を導入するための組換え法により、または化学合成により合成されてもよく、1つまたは複数のアミノ酸の置換、挿入、欠失などにより野生型ポリペプチドとは異なってもよい。
【0024】
アジュバントTH1およびTH2免疫反応
免疫反応は、(それぞれ、従来、防御のための抗体によっておよび防御のための細胞エフェクター機構によって特徴づけられる)体液性または細胞性免疫反応の2つの極端なカテゴリーに、広範に分けることができる。反応のこれらのカテゴリーは、TH1型反応(細胞性反応)およびTH2型免疫反応(体液性反応)と呼ばれてきた。
【0025】
極端なTH1型免疫反応は、抗原特異的な、ハプロタイプ限定細胞毒性Tリンパ球反応、およびナチュラルキラー細胞反応が生じることによって特徴づけられ得る。マウスにおけるTH1型反応は、大抵、IgG2aおよび/またはIgG2bサブタイプの抗体産生によって特徴づけられ、ヒトにおけるこれらのTH1型反応はIgG1型抗体に相当する。TH2型免疫反応は、マウスにおいて、IgG1を含む様々な免疫グロブリンアイソタイプの産生によって特徴づけられる。
【0026】
これらの2つの型の免疫反応の発達の背後にある立役者はサイトカインであると考えることができる。高レベルのTH1型サイトカインは、所望の抗原に対する細胞性免疫反応の誘導を助ける傾向にあり、高レベルのTH2型サイトカインは、抗原に対する体液性免疫反応の誘導を助ける傾向にある。
【0027】
TH1型およびTH2型免疫反応の差異は絶対的ではなく、これらの2つの極端な分類の間で、連続的な形態をとることができる。実際には、個体は、主にTH1または主にTH2として説明される免疫反応を支持する。しかし、大抵、マウスCD4+ve T細胞クローンについて、MosmannおよびCoffman(Mosmann,T.R.and Coffman,R.L.(1989)TH1 and TH2 cells:different patterns of lymphokine secretion lead to different functional properties.Annual Review of Immunology,7,p145−173)によって記載される観点から、サイトカインのファミリーを考慮することは都合がよい。従来、TH1型反応は、Tリンパ球によるINF−γサイトカイン産生と関連する。大抵、TH1型免疫反応の誘導と直接関連する他のサイトカイン、例えばIL−12は、T細胞によって産生されない。対照的に、TH2型反応は、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10および腫瘍壊死因子−β(TNF−β)の分泌と関連する。
【0028】
特定のワクチンアジュバントは、特に、TH1型またはTH2型いずれかのサイトカイン反応の刺激に適することが知られている。従来、ワクチン接種または感染後の免疫反応のTH1:TH2バランスの指標として、抗原を用いた再刺激後の、インビトロでのTリンパ球によるTH1サイトカインまたはTH2サイトカイン産生の直接測定、および/または抗原特異的抗体反応のIgG1:IgG2aもしくはIgG1:IgG2b比の(少なくともマウスにおける)測定が含まれる。
【0029】
従って、TH1型アジュバントは、インビトロで抗原を用いて再刺激した時、単離したT細胞集団を刺激し、高レベルのTH1型サイトカインを産生するアジュバントであり、TH1型アイソタイプと関連する抗原特異的免疫グロブリン反応を誘導する。
【0030】
水中油型エマルジョンアジュバント
本発明の免疫原性組成物は、水中油型エマルジョンアジュバントを含む。水中油型エマルジョンそれ自体は、当分野で周知であり、アジュバント組成物として有用であることが示唆された(欧州特許第399843号;国際特許公開第95/17210号)。
【0031】
任意の水中油型組成物がヒトへの投与に適するために、エマルジョン系の油相は、代謝可能な油を含まねばならない。「代謝可能」という用語の意味は当分野で周知であり、「代謝により変換されることが可能である」と定義され得る(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary,W.B.Sanders Company,25th edition(1974))。油は任意の植物性油、魚油、動物性油または合成油であってもよく、レシピエントに対して無毒であり、代謝により変換され得るものである。ナッツ類、種子類、および穀物類は、植物性油の一般的な供給源である。合成油も本発明の一部であり、例えば、NEOBEE(登録商標)などの市販の油を含み得る。
【0032】
適切な代謝可能な油はスクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)であり、これは、サメ肝臓油において大量に存在し、オリーブ油、小麦胚芽油、ぬか油および酵母においては低量で存在する不飽和油である。スクアレンがコレステロールの生合成における中間体であるという事実によって、スクアレンは代謝可能な油である。好ましくは、代謝可能な油は、免疫原性組成物の全容積の0.5%〜10%(v/v)の量で存在する。
【0033】
水中油型エマルジョンアジュバントは、乳化剤をさらに含む。乳化剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))であってもよい。乳化剤は、好ましくは、免疫原性組成物の全容積の0.125〜4%(v/v)の量で、アジュバント組成物中に存在する。
【0034】
本発明の水中油型エマルジョンは、任意でさらにトコール(tocol)を含む。トコールは当分野で周知であり、欧州特許第0382271号に記載されている。適切なトコールは、α−トコフェロールまたは(ビタミンEコハク酸エステルとしても知られる)α−トコフェロールコハク酸エステルなどのα−トコフェロールの誘導体である。トコールは、好ましくは、免疫原性組成物の全容積の0.25%〜10%(v/v)の量で、アジュバント組成物中に存在する。
【0035】
水中油型エマルジョンにおいて、油と乳化剤は、水性担体の中に存在するべきである。水性担体は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態において、水中油型エマルジョンアジュバントには、スクアレン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))およびα−トコフェロールが含まれる。一般的に、水中油型エマルジョンアジュバントは、免疫原性組成物の全容積のうちスクアレン2〜10%、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート0.3〜3%、およびα−トコフェロール2〜10%を含み、国際特許公開第95/17210号に記載の手順に従って製造されてもよい。スクアレン:α−トコフェロールの比は、それがより安定なエマルジョンを提供するように、1以下であってもよい。水中油型エマルジョンには、例えば、免疫原性組成物の全容積の1%のレベルで、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(Span 85)および/またはレシチンが含まれてもよい。
【0037】
水中油型エマルジョンの製造方法は当業者に周知である。一般に、この方法は、(任意でトコールを含む)油相をPBS/TWEEN80(登録商標)溶液などの界面活性剤と混合し、ホモジナイザーを用いて均質化するステップを含む。この混合物を、注射針に2回通過させるステップを含む方法は、少量の液体を均質化するのに適する。同様に、当業者が、マイクロフルイダイザー(microfluidiser)(M110Sマイクロ流体機、最大入力圧力6バール(約850バールの出力圧力)において2分間、最大50回通過)を用いた乳化工程を行い、少量または大量のエマルジョンを製造することができる。必要とされる直径の油滴を有する調製品ができるまで、生じるエマルジョンの測定を含む通常の実験によって、この作業を行うことができる。
【0038】
本発明の水中油型エマルジョン系は、サブミクロン範囲の小さな油滴サイズを有してもよい。好ましくは、油滴サイズは、直径が、120〜750nmの範囲、例えば、120〜600nmのサイズである。水中油型エマルジョンは、強度(intensity)に基づいて少なくとも70%が500nm未満の直径である、強度に基づいて少なくとも80%が300nm未満の直径である、または強度に基づいて少なくとも90%が120〜200nmの範囲の直径である油滴を含んでもよい。
【0039】
本発明によると、油滴サイズ(すなわち、直径)は強度で与えられる。強度に基づく油滴サイズの直径の測定には、数種類の方法がある。強度を、定寸装置を用いて、好ましくは、Malvern Zetasizer 4000またはMalvern Zetasizer 3000HSなどの動的光散乱法によって測定する。第1に考えられる方法は、動的光散乱法(PCS−光子相関分光法)によるz平均直径ZADを測定することである;この方法は、多分散性指数(PDI)をさらに与え、ZADおよびPDIの両方を、キュムラントアルゴリズムを用いて計算する。これらの値は、粒子屈折率の知識を必要としない。第2の手段では、ContinもしくはNNLSのいずれかの別のアルゴリズム、または自動「Malvern」アルゴリズム(定寸装置によってもたらされるデフォルトアルゴリズム)を用いて、全粒径分布を測定することにより、油滴の直径を計算する。ほとんど常に、複合組成物の粒子屈折率は分からないので、強度分布のみ、必要であれば、この分布から得られる強度平均値を考慮に入れる。
【0040】
ワクチンの製剤化および投与
各ワクチン用量中に存在する本発明のタンパク質量は、標準的なワクチンにおいて重度の、有害な副作用のない、免疫防御反応を誘導する量として選択する。かかる量は、使用する特定の免疫原ならびに用いるアジュバントの種類および量に応じて変化する。特定のワクチンの最適量を、対象における抗体力価および他の反応の観察を含む標準試験によって確かめてもよい。一般に、各用量は、1〜1000μgのタンパク質、例えば、1〜200μg、または10〜100μgを含むことが期待される。一般的な用量は、10〜50μgのタンパク質、例えば、15〜25μgのタンパク質、好ましくは、約20μgのタンパク質を含む。あるいは、例えば、大流行の状況では、「用量−節約」法を用いてもよい。これは、効果的なアジュバントの存在により、低用量の抗原を用いて同じ防御作用をもたらすことが可能であるという研究結果に基づく。従って、各ヒト用量は、非常に低い量のタンパク質、例えば、1用量につき0.1〜10μgのタンパク質、または0.5〜5μgのタンパク質、または1〜3μgのタンパク質、好ましくは2μgのタンパク質を含んでもよい。「ヒト用量」という用語は、ヒトへの使用に適する量である用量を意味する。一般的に、これは0.3〜1.5mlである。一実施形態において、ヒト用量は0.5mlである。
【0041】
最初のワクチン接種後、一般的に、対象は、2〜4週間の間隔をあけて、例えば、3週間の間隔をあけて、追加免疫を受け、感染のリスクが存在する限り、任意で、追加免疫を繰り返し受ける。本発明の具体的な実施形態において、単回投与ワクチン接種が計画され、それによって、アジュバントと組み合わせたSタンパク質の1用量は、最初のワクチン接種後にいかなる追加免疫をも必要とせず、SARS CoVに対する防御をもたらすのに十分である。
【0042】
本発明の免疫原性組成物は、経口経路、局所経路、皮下経路、粘膜(一般的に、膣内)経路、静脈内経路、筋肉内経路、鼻腔内経路、舌下経路、皮内経路などの任意の様々な経路および坐薬によってもたらされてもよい。
【0043】
免疫付与は、予防的または治療的であり得る。本明細書記載の本発明は、主に、SARSに対する予防ワクチンに関係するが、それに限らない。
【0044】
本発明で使用する適切な医薬的に許容可能な担体または賦形剤は、当分野で周知であり、例えば、水または緩衝液を含む。ワクチン調製は、一般に、Pharmaceutical Biotechnology,Vol.61 Vaccine Design−the subunit and adjuvant approach,edited by Powell and Newman,Plenum Press New York,1995. New Trends and Developments in Vaccines,edited by Voller et al.,University Park Press,Baltimore,Maryland,U.S.A.1978に記載されている。
【0045】
本発明の免疫原性組成物は、上記で明らかにされた特定の成分を含む。本発明のさらなる態様において、免疫原性組成物は、前記成分から本質的になる、または前記成分からなる。
【0046】
本発明を説明するのに役立つ以下の実施例に関して、本発明をこれから記載する。
【実施例1】
【0047】
可溶型SARS CoV−Sタンパク質の発現
哺乳類細胞のSタンパク質の細胞外ドメインを精製するために、細胞質内ドメインおよび膜貫通ドメインを除去したスパイク糖タンパク質を発現することができる遺伝子を構築した。このポリペプチドをSsolと呼び、Sタンパク質の細胞外ドメイン全体(1〜1193番目のアミノ酸)を含む。C末端にはセリン−グリシンリンカーおよびオクタペプチドFLAGを結合させた。膜アンカードメインを除去したので、このSsolポリペプチドは培地中に分泌される。
【0048】
Ssolポリペプチドの構成的発現
TRIPレンチウイルスベクターを用いて、安定で、構成的な方法で、Ssolタンパク質を発現する細胞株を樹立した。これらのベクターを、pTRIPプラスミドベクター、p8.7パッケージングプラスミドおよびpHCMV−VSV−Gプラスミドの共トランスフェクションにより産生する(Yee et al.,1994;Zennou et al.,2000;Zufferey et al.,1997)。
【0049】
Ssolタンパク質発現のためのTRIPベクターを構築するために、CMVi/eプロモーター、pCIプラスミドのキメライントロン、SsolのORFおよび2つのウイルス排出エレメントCTEまたはWPREのうちの1つを含む発現カセットを、EF1プロモーターおよびGFPのORFの代わりに、pTRIP−EF1−EGFPプラスミドに移した。このように、産生したこれらのプラスミドをpTRIP−Ssol−CTEおよびpTRIP−Ssol−WPREと呼び、これらを用いて、それぞれ、TRIP−Ssol−CTEおよびTRIP−Ssol−WPREのレンチウイルスべクターストックを作った。これらのベクターを用いて、24時間の間隔をあけた、一連の5回の連続形質導入サイクルに従って、FRhK−4細胞に形質導入した。形質導入した細胞を、限界希釈法によりクローン化し、得られたこれらの細胞クローンを、Ssolポリペプチドの顕著な分泌に応じて選択した。これを行うために、様々なクローンの固定数の細胞を35mm培養皿に蒔き、72時間後に、上清におけるSsolタンパク質の存在を、ウエスタンブロットにより解析した。
【0050】
期待されるサイズ(約180kDa)のタンパク質を、全クローンの上清において検出し、形質導入手順の効率を確認した。しかし、Ssolタンパク質を産生するために用いたTRIPベクターとは無関係に、発現レベルがクローンごとに異なった。FRhK−4−Ssol−CTE#3細胞クローンが、培養72時間後に回収した上清において、最高濃度のSsolタンパク質を得ることを可能にした。このクローンを、第2の一連の5回の形質導入サイクルにかけ、第2世代のクローンを得るために選択工程を繰り返した。最も産生力のある第2世代のクローン(FRhK−4−Ssol−CTE#30)を増幅して使用し、大量の上清を産生した。その後、様々な(濃度)範囲の精製Ssolをタンパク質マーカーとして用いる捕捉ELISA試験を用いて、Ssolタンパク質が、5〜10μg/mlの範囲の濃度で、FRhK−4−Ssol−CTE#30クローンの上清に分泌されることを判断することができた。Ssolタンパク質を産生する最適条件を、実験的に、細胞密度パラメーター、血清濃度、培養温度および分泌継続時間を検討して決定した。
【0051】
組換えSsolタンパク質の産生および精製
Ssolタンパク質の大規模産生について、FRhK−4−Ssol−CTE#30クローンの1.5〜2.108のサブコンフルエントな細胞のロットを、0.5%牛胎仔血清を含むDMEMに基づく1リットルの培地の中で、35℃で、4日間培養した。分泌されたSsolタンパク質を含む上清を、限外濾過装置により濃縮し、抗FLAG抗体カラムの親和性クロマトグラフィにより精製した。カラムに固定した物質を、非変性条件下で、FLAGペプチドとの競合により溶出し、その後、ゲル濾過により分離し、FLAGペプチドおよび低分子量混入物を除去した。
【0052】
精製物質をSDS−PAGEおよび硝酸銀染色で解析した。Ssolポリペプチドの期待されるサイズ(180〜200kDa)を有する、糖タンパク質に特徴的な、強く拡散したバンドが現れた。SDS−PAGEの後に、Sタンパク質に特異的なウサギポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロット解析により、この精製タンパク質がSタンパク質の細胞外ドメインと明確に一致することを確認した。SDS−PAGEおよびruby SYPRO染色後に、この精製タンパク質の精製度を調べた。蛍光シグナルの定量化は、ゲル濾過から溶出したタンパク質の90%以上が、Ssolタンパク質に由来することを示した。次に、ビシンコニン酸アッセイ(BCA)を用いて、キットの助けをかりて、この精製Ssolタンパク質を定量化した。3つの独立した産生の解析後、1リットルの培養上清につき1.3〜2.5mgのSsolタンパク質を得ることができた。全段階(濃縮、親和性精製およびゲル濾過)を含めて、全精製収率は、26〜53%の範囲である。その後、精製Ssolタンパク質を、N末端配列解析、質量分析および分析用超遠心分離によりさらに特徴づけた。その結果、精製Ssolタンパク質は、シグナルペプチド(1〜13番目のアミノ酸)は欠損しているが、Sタンパク質の細胞外ドメイン全体と一致する182kDaの可溶性単量体であると結論づけた。
【0053】
水中油型アジュバントの調製
後の実施例で用いる水中油型エマルジョンは、2種類の油(α−トコフェロールおよびスクアレン)で作られる有機相、ならびに、乳化剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の水相でできている。特に記載されない限り、後の実施例で用いる水中油型エマルジョンアジュバント製剤を、以下の水中油型エマルジョン成分(最終濃度)を含むように作った:2.5%スクアレン(v/v)、2.5%α−トコフェロール(v/v)、0.9%ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(v/v)、国際特許公開第95/17210号参照。このエマルジョンを、後の実施例でGSK2と名付け、以下のように2倍濃縮物として調製した。
【0054】
エマルジョンは、疎水性成分(α−トコフェロールおよびスクアレン)を含む油相と、水溶性成分(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートおよびPBSmod(改良型)、pH6.8)を含む水相とを、強く撹拌しながら混合して作製する。撹拌の間、油相(全容積の1/10)を水相(全容積の9/10)に移行させ、この混合物を、15分間、常温で撹拌する。その後、生じた混合物を、マイクロフルイダイザー(15000 PSI−8サイクル)の相互作用チャンバー内で、せん断力、衝撃力およびキャビテーション力にかけることにより、サブミクロンの油滴(100〜200nmの間に分布)を作製する。生じたpHは、6.8±0.1の間である。その後、このエマルジョンを、0.22μmの膜に通す濾過により滅菌し、滅菌バルクエマルジョンを、Cupac容器の中で、2〜8℃で冷蔵保存する。滅菌不活性ガス(窒素またはアルゴン)を、少なくとも15秒間、エマルジョン最終バルク容器の死容積に勢いよく流し入れる。
【0055】
マウスモデルにおけるアジュバントワクチン試験
アジュバントなしで、または50μgのミョウバンもしくは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のいずれかと共に、2μgのSsolタンパク質を、若い成熟BALB/cマウス(1グループにつき8匹)の筋肉組織に、3週間の間隔をあけて2回注射した。これらのアジュバントの用量は、従来、小型げっ歯類に対して使用された量であり、ヒト医学において使用される用量の1/10に相当する。2グループのマウスがこの研究の対照として関係し、各々、アジュバントの一方のみで免疫した。これらのマウスの血清を、各注射の3週間後に採取し、抗SARS ELISA、血清中和解析およびアイソタイプ解析により、SARS−CoVの特異的体液性反応を調べた。
【0056】
ELISA(図1)により、対照グループの血清の抗体力価は、常に、検出限界以下(1.7log10)であった。1回のみの注射後、アジュバントなしでまたはミョウバンアジュバントと共にタンパク質によって誘導した抗体反応は弱く(それぞれの平均力価は、1.9±0.2log10および2.1±0.3log10)、以前に得られた結果を裏付けた。逆に、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)とタンパク質により誘導した抗体力価は、最初の注射から非常に高くなる(3.6±0.2log10の平均力価)。2回の注射後、タンパク質で免疫した全グループにおける力価の顕著な増加が観察される。最も弱い反応で最も異種的な反応が、アジュバントを用いなかった時に観察される(3.9±0.5log10の平均力価)。ミョウバンを免疫原調製品に加えると、抗体反応を改善することができる(4.6±0.2log10の平均力価;p<0.01)。最初の注射後に観察された結果によると、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)は、2回の注射後にSsolタンパク質の免疫原性を顕著に改善し、得られた抗体力価(5.2±0.2log10の平均力価)は、ミョウバンアジュバントとタンパク質によって誘導された力価よりも有意に高い(p<10‐4)。
【0057】
様々な免疫原による体液性反応の質を、2回目の注射の3週間後に採取した血清を用いて調べた。中和抗体力価(図2)は、ELISAによる解析の時に観察された階層に従う。アジュバントなしでタンパク質を用いた時に、最も弱い力価が得られる(2.3±0.4log10の平均力価)。中和反応は、ミョウバンを加えることによって有意に改善する(3.1±0.3log10の平均力価;p<0,001)。同様に、タンパク質に水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えると、非常に高い中和抗体力価を得ることができ(3.7±0.2log10の平均力価)、ミョウバンアジュバントとタンパク質によって誘導される力価より有意に4倍高い(p<0.002)。
【0058】
SARS−CoV抗原に対する特異的IgG1およびIgG2aのアイソタイプ力価を、最後の注射の3週間後に採取した血清において、抗SARS ELISAにより、各グループについて調べた(図3)。アジュバントのないタンパク質での免疫またはミョウバンアジュバントとタンパク質での免疫は、ほぼ全くIgG1のみ誘導する。Ssolタンパク質に水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えると、ミョウバンが存在する時よりもさらに高いIgG1力価(平均力価5.4±0.2log10)を誘導することができ、IgG2a力価も高レベルになる(平均力価2.1±0.6に対して2.8±0.7;p<0.05)。IgG2aに対するIgG1の平均比は、GSK2アジュバントの存在下で840であり、ミョウバンの存在下で1600を超える。これらの結果は、アジュバントなしでまたはミョウバンと共にタンパク質によって誘導される免疫反応が、主に2型であることを示す。Ssolタンパク質に水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えると、TH−2型免疫反応が有利に働くが、弱くはあるが異種のTH−1型免疫反応も誘導できる。
【実施例2】
【0059】
ハムスターモデルにおけるアジュバントワクチン試験
50μgのミョウバンまたは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のいずれかと共に、2μgまたは0.2μgのSsolタンパク質を、シリアゴールデンハムスター(1グループにつき6匹)の筋肉組織に、3週間の間隔をあけて2回注射した。これらのアジュバントの用量は、従来、小型げっ歯類に対して使用され、ヒト医学において使用される用量の1/10に相当する。2グループのハムスターがこの実験の対照として関係し、各々、アジュバントの一方のみで免疫した。SARSに対する有望なワクチンを構成する、50μgのミョウバンと2μg(Sと同等)の精製した、β−プロピオラクトン不活性化SARS−CoVウイルス粒子(BPL−SCoV)を、別のグループのハムスターに注射した。これらのハムスターの血清を、各注射の3週間後(それぞれ、IS1およびIS2)および2回目の注射の3ヶ月後(IS2bis)に採取し、抗SARS ELISAおよび血清中和解析により、SARS−CoVの特異的体液性反応を調べた。
【0060】
ELISA(図4)により、対照グループの血清の抗体力価は、常に、検出限界以下(1.7log10)であった。2μgのSsol用量において、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)は、1回(IS1)および2回(IS2)の注射後に、Ssolタンパク質の免疫原性を顕著に改善し、得られた抗体力価(4.2±0.3log10および5.0±0.1log10の平均力価)は、ミョウバンアジュバントとタンパク質により誘導された力価よりも、それぞれ0.6log10および0.7log10高い(p<10‐3)。
【0061】
0.2μgのSsolの1回のみの注射後、ミョウバンアジュバントを用いた時に観察された反応は弱く、検出限界に近い(1.8±0.2log10の平均力価)。逆に、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)とタンパク質によって誘導される抗体力価は、最初の注射から高くなり(3.9±0.5log10の平均力価)、ミョウバン存在下の2μgのSsolの単回注射後に達した力価より、より異種的ではあるが高いレベルに達する。2回の注射後、タンパク質で免疫した両グループの力価の顕著な増加が観察される。最も弱い反応であり最も異種的な反応が、ミョウバンアジュバントを用いた時に観察される(2.6±0.7log10の平均力価)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を免疫原調製品に加えると、抗体反応を強力に改善させることができる(4.8±0.2log10の平均力価;p<10‐4)。
【0062】
水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と0.2μgおよび2μgのSsolの2回目の注射後、全免疫ハムスターにおいて、比較的高い力価反応が得られた(5.0±0.1log10に対する4.8±0.2log10力価)。これは、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を用いると、SARSに対する用量−節約ワクチン戦略が可能になることを示す。
【0063】
0.2μgのSsolまたは2μg(Sと同等)の不活化ウイルス粒子によって誘導される体液性免疫反応の質を、2回目の注射の3ヶ月後に採取した血清を用いて試験した。中和抗体力価(図5)は、ELISAによる解析の時に観察された階層に従う。ミョウバンとタンパク質を用いて得られた力価は、検出限界以下であった(1.3log10)。中和反応は、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を加えることによって非常に改善する(2.7±0.2log10の平均力価;p<10‐7)。この反応は、2μg(Sと同等)の不活化ウイルス粒子によって誘導される反応と明確に同じであった(2.5±0.2log10の平均力価)。
【0064】
Ssol免疫ハムスターの抗原投与感染(Challenge infection)
免疫3か月後に、選択したグループのハムスターに、105pfuのSARS−CoVを鼻腔内接種により抗原投与し、4日後に安楽死させ、ウイルス複製を調べた。各動物の肺(図6)および上気道(URT)、すなわち咽頭と気管(図7)において、ウイルス量の値を調べた。各模擬ワクチン接種動物の肺において、ウイルスの強力な一貫した複製が観察された(7.5±0.1log10pfu)。さらに、模擬ワクチン接種ハムスターの上気道において、ウイルス複製が示された(5.0±0.3log10pfu)。ミョウバンと0.2μgのSsolで免疫した動物の肺(4.1±1.4log10pfu)およびURT(2.5±0.4log10pfu)の両方において、SARS−CoV量を検出できた。明確な対照として、この動物モデルにおける強力なウイルス複製にも関わらず、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したいずれのハムスターにおいても、感染性ウイルスは検出できなかった(log10pfu/臓器<2.1)。Ssolとミョウバンで免疫したハムスターと比較して、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したハムスターの肺におけるSARS−CoV複製の減少が102倍を上回るという証拠を、これらのデータは示す。Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で達成されたこの高レベルの防御は、不活化ウイルス粒子とミョウバンで免疫したハムスターにおいて観察されたレベルに匹敵する。
【0065】
興味深いことに、抗原投与時、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と2μgのSsolによる単回投与は、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と0.2μgのSsolによる2回投与(4.4±0.1log10 pfu)と同じくらい高い抗SARS抗体のELISA力価(4.2±0.3log10pfu)を誘導した(図4)。この後者のワクチン接種計画が、SARS抗原投与に対して免疫ハムスターを保護する(図6および図7)という事実を考慮すると、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と2μgのSsolによる単回投与も、防御反応を誘導すると予想することができる。これは、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を用いると、SARSに対する単回投与ワクチン戦略が可能になることを示す。
【0066】
抗原投与ハムスターの肺の病理組織学的解析
抗原投与後、0.2μgのSsolタンパク質で免疫したハムスターの肺に対して、ヘマルン−エオシン染色(HE)を用いる病理組織学検査および抗SARS−CoVポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学解析を行った。図8は、肺の炎症および病変(HE)のスコアならびにウイルス抗原量(IHC)のスコアを、1〜10の目盛りで示す。模擬ワクチン投与動物では、急性ウイルス性肺炎の特徴的病変として、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷が観察された(スコア=3.1±0.6)。従って、ウイルス抗原を、これらの肺胞炎の病巣の中、ならびに気管および気管支肺胞の上皮にも検出した(スコア=3.9±0.4)。損傷のスコア(2.6±1.0)およびウイルス抗原量(3.3±1.2)の双方は、ミョウバンと0.2μgのSsolで免疫した動物の肺においても高かった。明確な対照として、上気道(咽頭−気管、データ示さず)および肺(図8)の気道部分の大規模IHCスクリーニングにもかかわらず、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のワクチン接種ハムスターにおいて、肺における肺胞炎または肺炎の特異的損傷は検出されず(スコア=0.5±0.0)、ウイルス抗原はいずれの動物においても検出されなかった。
【0067】
これらのデータは、上気道および下気道における検出可能なウイルス抗原がないこと、ならびに肺炎がないことによって示されるように、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でワクチン接種したハムスターは、SARS−CoV抗原投与から完全に保護されることを裏付ける。
【0068】
Ssol免疫ハムスターの抗原投与感染の長期防御
2μgのSsolで2回免疫したハムスターのグループに対して、長期防御を試験した。2回目の注射の8カ月後、ミョウバン添加(平均力価1.8±0.4log10)と比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の添加により、中和抗体反応は改善された(2.6±0.2log10の平均力価;p<0.005)(図21)。この反応は、2μg(Sと同等)の不活化ウイルス粒子によって誘導される反応(2.6±0.2log10の平均力価)と明らかに類似していた。
【0069】
その後、これらのハムスターに、105pfuのSARS−CoVを鼻腔内接種によって抗原投与し、4日後に安楽死させ、ウイルス複製を調べた。各動物の肺(図22)および上気道(URT)(図23)において、ウイルス量の値を調べた。上記の結果と一致して、模擬ワクチン接種動物の肺およびURTの両方において、ウイルスの強力な複製が観察された(肺およびURTにおいて、それぞれ、7.7±0.2log10pfuおよび5.1±0.2log10pfu)。ミョウバンと2μgのSsolで免疫した動物において、SARS−CoV量は、5匹中2匹の肺およびURTの両方において検出でき、高いウイルス量(4.8log10pfu)が1匹の動物のURTにおいて観察された。明確な対照として、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したいずれのハムスターにおいても、感染性ウイルスは検出できなかった(log10pfu/臓器<2.1)。Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で達成されたこの高レベルの防御は、不活化ウイルス粒子とミョウバンで免疫したハムスターにおいて観察されたレベルに匹敵する。
【0070】
さらに、抗原投与および安楽死後、これらのハムスターの肺に対して、ヘマルン−エオシン染色(HE)を用いる病理組織学検査および抗SARS−CoVポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学(IHC)解析を行った(図24)。上記のように、模擬ワクチン投与動物において、急性ウイルス性肺炎の特徴的病変として、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷が観察され(スコア=5.4±0.9)、ウイルス抗原が検出された(スコア5.1±0.4)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と2μgのSsolでワクチン接種した動物の肺において、損傷のスコアは有意に減少し(0.9±0.5、p<10‐4)、ウイルス抗原量は検出されなかったが、ミョウバンと2μgのSsolで免疫した動物においては、損傷スコアの中程度の減少が観察され(スコア=2.6±0.8)、ウイルス抗原は5匹中2匹において検出可能であった(スコア=0.5±0.6)。
【0071】
結局、これらのデータは、Ssolタンパク質と水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)による長期防御の可能性の証拠を示す。
【0072】
Ssolの単回投与を用いた抗原投与感染からのハムスターの防御
50μgのミョウバンまたは50μLの水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)のいずれかと0.2μgの用量のSsolを筋肉組織に注射して、Ssolの単回投与による免疫後の防御を試験した。注射2週間後、ELISA抗体反応(図25)は、ミョウバンの添加(平均力価2.0±0.4log10)と比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の添加により非常に改善した(平均ELISA力価3.3±0.3log10;p<0.001)。中和抗体力価(図26)は、ELISA解析によって観察された階層に従う。ミョウバンとタンパク質を用いて得られた力価は、各動物について、検出限界以下(1.3log10)であった。中和反応は、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の添加により改善し、免疫ハムスターの6匹中3匹が、検出可能な抗体反応を示した(1.5±0.3log10の平均力価;p<0.1)。
【0073】
免疫の3週間後に、これらのハムスターに105pfuのSARS−CoVの鼻腔内接種によって抗原投与し、その4日後に安楽死させ、ウイルス複製を調べた。各動物の肺(図27)および上気道(URT)(図28)において、ウイルス量の値を調べた。上記の結果と一致して、模擬ワクチン接種動物の肺およびURTの両方において、ウイルスの強力な複製が観察された(肺およびURTにおいて、それぞれ、7.3±0.3log10pfuおよび4.8±0.5log10pfu)。ミョウバンと0.2μgのSsolで免疫した後、中程度〜高いSARS−CoV量が、6匹中5匹の肺およびURTの両方において検出可能であった(肺およびURTにおいて、それぞれ、4.9±1.8log10pfuおよび3.0±1.0log10pfu)。明確な対照として、Ssolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)で免疫したいずれのハムスターにおいても、感染性ウイルスは検出できなかった(log10pfu/肺<2.1およびlog10pfu/URT<1.8)。
【0074】
さらに、抗原投与ならびに安楽死後、これらのハムスターの肺に対して、ヘマルン−エオシン染色(HE)を用いる病理組織学検査および抗SARS−CoVポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学(IHC)解析を行った(図29)。上記のように、模擬ワクチン投与動物において、急性ウイルス性肺炎の特徴的病変として、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷が観察され(スコア=1.9±0.3)、ウイルス抗原が検出された(スコア2.4±0.3)。0.2μgのSsolと水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でワクチン接種した動物の肺において、損傷のスコアは有意に減少し(1.0±0.0、p<10‐4)、ウイルス抗原量は検出されなかったが、ミョウバンと0.2μgのSsolでワクチン接種した動物において、損傷のスコアの減少は観察されず(スコア=2.2±0.9)、ウイルス抗原は6匹の各々において検出可能であった(スコア=2.6±0.8)。
【0075】
結局、これらのデータは、Ssolタンパク質および水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の単回低用量注射によって誘導される高レベルの防御の可能性の証拠を示す。
【実施例3】
【0076】
A)BALB/cマウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する体液性免疫反応
6〜8週齢のメスのBALB/cマウスをオランダのHarlan社から入手した。0日および21日目に、アジュバントなしで(「plain」)、50μgのミョウバンでアジュバント化した、または水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)と共に、2、0.2または0.02μgのSsolタンパク質を、マウス(1グループにつき23匹)に筋肉内注射した。追加の3グループのマウスを対照として含め、各々、PBS、ミョウバンまたはGSK2アジュバント単独で免疫した。
【0077】
非アジュバント化Ssol抗原の調製
以下の順番に従って、製剤を用時調製した:注射用の水にSsol抗原を加え(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの最終濃度に達するように量を加える)、常温で5分間、軌道振盪台上で混合し、(最終濃度が150mMに達するように)1500mMのNaClを加え、常温で5分間、軌道振盪台上で混合する。製剤化の終了後1時間以内に注射を行った。
【0078】
ミョウバンアジュバント化Ssolの調製
以下の順番に従って、ワクチン調製品を作製した:注射用の水に水酸化アルミニウムを加え(1000μg/mlの最終濃度に達するように量を加える)、(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの最終濃度に達するように)Ssol抗原を加え、常温で30分間、軌道振盪台上で混合し、(最終濃度が150mMに達するように)1500mMのNaClを加え、常温で5分間、軌道振盪台上で混合する。このワクチンを、最初の試験の第1の免疫の6日前に調製し、注射まで4℃で保存した。
【0079】
GSK2adjアジュバント化Ssolの調製
以下の順番に従って、製剤を用時調製した:注射用の水に10倍濃縮のリン酸緩衝生理食塩水を加え、Ssol抗原を加え(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの最終濃度に達するように量を加える)、常温で5分間、軌道振盪台上で混合し、2倍濃縮のGSK2アジュバントを加え、常温で5分間、軌道振盪台上で混合する。製剤化の終了後2時間以内に注射を行った。
【0080】
体液性反応の解析
免疫14日後(35日の時点)にそれぞれのマウス(1グループ8匹)の血液試料から調製した血清において、体液性反応を調べた。抗原としてSARS−CoVに感染させたVeroE6細胞または陰性対照として感染させていないVeroE6細胞の溶解物を用いた間接ELISA法により、抗SARS−CoV特異的抗体の存在の検出およびアイソタイプ解析を行った。ペルオキシダーゼに結合させたポリクローナル抗マウスIgG(H+L)抗体(NA931V,Amersham)を用いて、続いて、TMBおよびH2O2(KPL)を加えて明らかにした後、OD0.5を与える血清の希釈の逆数として、力価を計算した。アイソタイプの解析のために、マウスIgG1およびIgG2a抗体に特異的なポリクローナル血清を用いた(Southern Biotech)。
【0081】
抗SARS−CoV抗体
用量依存的な抗SARS−CoV抗体反応が、アジュバントなしで、またはミョウバンもしくは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下でSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて観察された(図9)。非アジュバント化Ssolで免疫したマウスと比較して、アジュバントの存在下、Ssolで免疫したマウスにおいて、抗体反応が有意に高いことが判明した。ミョウバンアジュバント化Ssolで免疫したマウスと比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、この反応は有意に高かった(p<10‐4);水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下で最も低用量のSsol(0.02μg)で誘導された抗体力価は、ミョウバンの存在下で最も高い用量のSsol(2μg)で誘導された抗体力価より優れていることが判明した(p=0.08)。
【0082】
抗SARS−CoV抗体のアイソタイプ解析
2μgの用量のSsolで免疫した「Plain」グループ、ミョウバンアジュバント化グループ、および水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したグループ(1グループ8匹)から調製した血清において、SARS−CoV特異的なIgG1およびIgG2a抗体のアイソタイプ解析をELISAにより行った。結果を図10に示す。
【0083】
非アジュバント化Ssolタンパク質またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質のいずれかで免疫したマウスにおいて、この反応は、IgG1アイソタイプに強く傾いていることが判明し、一方で非常に低レベルのIgG2a抗体が検出された。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいては、高い力価(5.3±0.1log10力価)のIgG1抗体が得られた。興味深いことに、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、IgG2a抗体の力価(4.0±0.8log10力価)は、1匹を除いて有意に増加した(p<10‐5)。
【0084】
中和抗体
1ウェルにつき100 TCID50のSARS−CoVを用いて、FRhK−4細胞における標準的な血清中和アッセイにより、中和抗体の存在を調べた。熱で不活化した(56℃、30分間)血清の、1:20の希釈からの2倍の段階希釈物を用いて、二重に(in duplicate)試験した。ReedおよびMunsch(Am J Hyg 1938:27:493−97)の方法に従って、ウェルの50%(4ウェルのうち2ウェル)のウイルス感染力を中和する希釈の逆数として、中和力価を決定した。
【0085】
アジュバントなしで、またはミョウバンもしくは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下、0.2μgのSsolで免疫した個々のマウス(1グループにつき8匹)の免疫14日後に調製した血清を、SARS−CoVを中和する抗体の存在について解析した。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下、0.5μgのSタンパク質と同等の用量の不活化した全ウイルス調製品で免疫したマウスの血清を比較のために含めた。結果を図11に示す。
【0086】
水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和抗体力価(3.4±0.1log10力価)は、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスの力価(2.8±0.3log10力価、p<0.001)よりも0.6log10高かったが、非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和力価は、8匹中6匹について検出できなかった(<1.3log10)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下、中和抗体力価は、0.5μgのSと同等の全ウイルス抗原(3.6±0.2log10力価)と比べて、0.2μgのSsolタンパク質で同程度だった。
【0087】
B)BALB/cマウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する細胞性免疫反応
BALB/cマウスの「Plain」グループ、ミョウバンアジュバント化グループ、およびGSK2adjアジュバント化グループの細胞性免疫反応を、以下の表Aにまとめたように調べた。
【表1】
【0088】
1グループにつき15匹のマウスのPBMCおよび脾臓において、細胞性反応を測定した。免疫7日後にPBMCを採取し、免疫14日後に脾臓を摘出した。3匹のマウスの5つのプールにおいてPBMCを調べ、1グループにつき2匹のマウスの4つのプールにおいて脾臓を調べた。
【0089】
細胞内サイトカイン染色(ICS)
溶解緩衝液(BD Pharmingen)を用いた赤血球細胞の溶解後、PBMCのインビトロ抗原刺激を、最終濃度1μg/mlのSsolを用いて、最終濃度107細胞/ml(96ウェルマイクロプレート)で行い、その後、抗CD28および抗CD49d(共に1μg/ml)を加えて、37℃で2時間インキュベートした。抗原再刺激ステップの後、ブレフェルジン(1μg/ml)の存在下、細胞を37℃で一晩インキュベートし、サイトカイン分泌を阻害した。
【0090】
脾臓をマウスから摘出し、RPMI+Add培地に貯蔵した(2匹/1グループの4つのプール)。RPMI+Addで希釈したPBL懸濁液を、5%牛胎仔血清を加えたRPMI中で107細胞/mlに調整した。脾臓細胞のインビトロ抗原刺激を、最終濃度1μg/mlのSsolを用いて行い、その後、抗CD28および抗CD49d(共に1μg/ml)を加えて、37℃で2時間インキュベートした。抗原再刺激ステップの後、ブレフェルジン(1μg/ml)の存在下、細胞を37℃で一晩インキュベートし、サイトカイン分泌を阻害した。
【0091】
4℃で一晩保存した後、細胞染色を以下のとおりに行った:細胞懸濁液を洗浄し、2%Fcブロッキング試薬(1/50;2.4G2)を含む50μlのPBS1%FCSに再懸濁した。4℃での10分間のインキュベーション後、抗CD4−PE(1/50)と抗CD8a perCp(1/50)の50μlの混合物を加え、4℃で30分間インキュベートした。PBS1%FCSで洗浄した後、200μlのCytofix−Cytoperm(Kit BD)に再懸濁することにより細胞を透過処理し、4℃で20分間インキュベートした。
【0092】
その後、細胞をPerm Wash(Kit BD)で洗浄し、Perm Washで希釈した50μlの抗IFNγ−APC(1/50)+抗IL−2FITC(1/50)で再懸濁した。4℃での2時間のインキュベーション後、細胞をPerm Washで洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを加えたPBS1%FCSに再懸濁した。試料の解析をFACSにより行った。生きている細胞をゲーティングし(FSC/SSC)、約20,000イベント(リンパ球CD4)について(データ)取得を行った。CD4+のゲート集団におけるIFNγ+またはIL2+のパーセンテージを計算した。
【0093】
サイトカイン分泌(CBA)量
再刺激の上清のサイトカイン量も、免疫14日後の脾臓のPBMCにおいて計算した。脾臓をマウスから摘出し、RPMI+Add培地に貯蔵した(2匹/1グループの4つのプール)。PBMC懸濁液を、5%牛胎仔血清を加えたRPMI中で107細胞/mlに調整した。PBMCのインビトロ抗原刺激を、最終濃度1μg/mlのSsolを用いて行い、その後、37℃で72時間インキュベートした。上清を回収し、IFNγ、IL−5およびIL−13の検出のためのCBA(サイトカインビーズアッセイ)−flex(BD kit)による試験まで−70℃で保存した。
【0094】
異なる蛍光強度を有するビーズ集団を、IFN−γ、IL−5およびIL−13タンパク質に特異的な捕捉抗体でコーティングした。ビーズ集団を混合し、サイトメトリックビーズアレイ(CBA)を形成させ、BD社のFACS(商標)フローサイトメーターのFL3チャネルで解像した。サイトカイン捕捉ビーズをPE結合検出抗体と混合し、その後、組換え標準物質または試験試料とインキュベートし、サンドイッチ複合体を形成させた。フローサイトメーターを用いて試料データを取得後、試料の結果のグラフおよび表を作成した。
【0095】
マウスサイトカイン標準物質を再構成し、アッセイ希釈剤を用いて段階希釈により希釈した。マウスサイトカイン捕捉ビーズ懸濁液を貯蔵、混合し、各アッセイ試験管に移した(50μl/試験管)。標準希釈物および試験試料を適切な試料用試験管に加え(50μl/試験管)、50μlのPE検出試薬を加えた。全試料および標準物質を、常温で2時間、暗室の中でインキュベートした。インキュベーション後、全反応試験管を、1mlの洗浄緩衝液で洗浄し、200×gで、5分間、遠心分離した。(上清を)取り除いた後、標準物質および試料を300μlの洗浄緩衝液に再懸濁した。標準物質および試料のデータを、サイトメーターの設定のためのBD社のFACSCompソフトウェア、および試料を解析するためのCellQuestソフトウェアを用いてFACSCaliburフロ−サイトメーターで読み取り、BD社のCBAソフトウェアを用いて次の解析(標準曲線を用いた試料濃度の計算)を行った。
【0096】
PBMCにおけるCD4+T細胞反応
ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質または非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、各抗原用量で、有意に高い(p<0.05)CD4+T細胞反応が誘導された(図12)。ミョウバンアジュバント化Ssolまたは非アジュバント化抗原は、アジュバント単独またはPBSでの免疫により達成される反応と類似のレベルのCD4+T細胞反応を誘導した。GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質2μg、0.2μgまたは0.02μgを用いてマウスを免疫した後、類似のレベルのCD4+T細胞反応が観察された(図12)。
【0097】
脾臓におけるCD4+T細胞反応
ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質または非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、各抗原用量で、より高いCD4+T細胞反応が誘導された(図13)。ミョウバンアジュバント化Ssolまたは非アジュバント化抗原は、アジュバント単独またはPBSでの免疫により達成される反応と類似のレベルのCD4+T細胞反応を誘導した。GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質2μg、0.2μgまたは0.02μgを用いてマウスを免疫した後、類似のレベルのCD4+T細胞反応が観察された(図13)。
【0098】
脾細胞からのサイトカイン分泌
非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質またはGSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、より高レベルのIL−5、IL−13およびIFN−γサイトカインが誘導された(図14)。両方のアジュバント(ミョウバンおよびGSK2アジュバント)は、混合したTh1型(IFN−γ)ならびにTh2型(IL−5およびIL−13)サイトカインプロファイルをもたらした。
【実施例4】
【0099】
A)C57BL/6マウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する体液性免疫反応
BALB/cマウスについて実施例3で記載した手順と同じ実験手順を、オランダのHarlan社から入手した6〜8週齢のメスのC57BL/6マウスにおいて行った。アイソタイプの解析のために、マウスIgG1およびIgG2b抗体に特異的なポリクローナル血清を用いた(Southern Biotech)。
【0100】
抗SARS−CoV抗体
用量依存的な抗SARS−CoV抗体反応が、アジュバントなしで、またはミョウバンもしくは水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)の存在下でSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて観察された(図15)。各抗原用量において、非アジュバント化Ssolで免疫したマウスと比較して、アジュバントの存在下、Ssolで免疫したマウスにおいて、抗体反応が有意に(0.3−1.9log10)高いことが判明した。2μgおよび0.2μgの抗原用量において、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスと比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、この反応は有意に(0.8−0.9log10)高かった(p<0.005)。ミョウバンアジュバント化(p=0.09、および差=0.2log10)またはplain(p=0.02 Ssol、および差=0.3log10)のSsolタンパク質で免疫したマウスと比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化した0.02μgのSsolでマウスを免疫した後に、より高い抗体反応の傾向が観察された。
【0101】
抗SARS−CoV抗体のアイソタイプ解析
非アジュバント化Ssolタンパク質またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質のいずれかで免疫したマウスにおいては、反応がIgG1アイソタイプに強く傾いていることが判明したが、IgG2b抗体が全く検出されなかったか、または非常に低レベルのIgG2b抗体が検出された(図16)。水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスでは、高い力価(5.0±0.2log10力価)のIgG1抗体が得られた。珍しいことに、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて観察された力価と比較して、IgG2b抗体の力価(3.7±0.5log10力価)は、異種的ではあるが有意に増加した(1.7±0.04log10力価、p<10‐6)。
【0102】
中和抗体
水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)でアジュバント化したSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和抗体力価(2.4±0.5log10力価)は、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスの力価(1.8±0.4log10力価、p=0.02)よりも有意に高かったが、非アジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて、中和力価は、検出限界以下に落ちた(図17)。
【0103】
B)C57BL/6マウスにおけるアジュバント化Ssolタンパク質に対する細胞性免疫反応
C57BL/6マウスの「Plain」グループ、ミョウバンアジュバント化グループ、および水中油型エマルジョン(GSK2adj)でアジュバント化したグループの細胞性免疫反応を、BALB/cマウスについて実施例3で記載したように調べた。しかし、脾臓摘出の技術的問題により、Plain製剤(非アジュバント化Ssolタンパク質)またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおける脾臓の細胞性反応は入手できなかった。
【0104】
PBMCにおけるCD4+T細胞反応
GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質またはミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質で免疫したマウスにおいて、用量に関わらず、弱い頻度のCD4+T細胞(反応)が得られた(図18)。ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質(3種類の用量全て)または非アジュバント化Ssolタンパク質(0.2μgおよび0.02μg)で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質によって、より高いCD4+T細胞反応が誘導された。2μgの非アジュバント化SsolとGSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質との間で、類似のしかし弱い頻度(反応)が観察された(図18)。
【0105】
脾臓におけるCD4+T細胞反応
GSK2アジュバントでアジュバント化した2または0.02μgのSsolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質でマウスを免疫した後に、より高いCD4+T細胞反応の傾向が観察された(図19)。GSK2アジュバント単独で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質でマウスを免疫した後に、有意に高い(p<0.05)CD4+T細胞反応が観察された。GSK2アジュバントでアジュバント化した、0.2μgまたは0.02μgの用量のSsolが、類似のレベルのCD4+T細胞反応を誘導した(図19)。
【0106】
脾細胞からのサイトカイン分泌
GSK2アジュバントでアジュバント化した2または0.02μgのSsolタンパク質で免疫したマウスと比較して、GSK2アジュバントでアジュバント化した0.2μgのSsolタンパク質で免疫したマウスにおいて、IL−5およびIL−13サイトカインのより高い産生の傾向が観察された(図20)。GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質がいかなる用量であろうと、類似のレベルのIFN−γサイトカインが観察された(図20)。
【0107】
実施例3および4の結果の概略および結論
これらのデータは、概して、アジュバントがない場合またはミョウバン存在下のいずれかにおけるSsolタンパク質での免疫と比較して、水中油型エマルジョンアジュバント(GSK2アジュバント)を用いたSsolタンパク質のアジュバント化が、BALB/cおよびC57BL/6マウスの両方において、より高レベルの抗SARS−CoV ELISA抗体反応および中和抗体反応を誘導したことを示した。さらに、ミョウバンアジュバント化Ssolタンパク質または非アジュバント化Ssolタンパク質での免疫と比較して、GSK2アジュバントを用いたSsolタンパク質のアジュバント化が、より高いCD4+T細胞反応を誘導した。BALB/cおよびC57BL/6マウスのそれぞれにおけるTh1型およびTh2型サイトカインのより高い産生ならびにIgG2aまたはIgG2bの産生の増加によって示されるように、GSK2アジュバントでアジュバント化したSsolタンパク質は、混合したTh1/Th2様反応プロファイルをもたらした。
配列番号1
SARS−CoV#031589株のSタンパク質のアミノ酸配列
配列番号2
Ssolアミノ酸配列
1〜13番目のアミノ酸はシグナルペプチドに相当し、成熟タンパク質から切断される(下線)。Ser−GlyリンカーおよびFLAGペプチド配列を太字で示す。
配列番号3
Sタンパク質をコードし、pCI−S−WPREの中のようにBamH1−Xho1カセット内に挿入されるDNA配列。ATGおよびTAAコドンに下線をし、余分な配列(BamH1、Xho1、コザック配列)を太字で示す。
配列番号4
Ssolポリペプチドをコードし、BamH1−Xho1カセットに挿入されるDNA
−ATGおよびTAAコドンに下線をする
−余分な配列(BamH1、Xho1、コザック配列)を太字で示す。
−Ser−Glyリンカー配列を網掛けで示す。
−FLAGペプチド配列を□で示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体;ならびに
(b)代謝可能な油および乳化剤を含む水中油型エマルジョンアジュバント
を含む免疫原性組成物。
【請求項2】
前記Sポリペプチドが、Sタンパク質の細胞外ドメインからなるまたはそれを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Sポリペプチドが、C末端にSGDYKDDDDK配列を結合している、SARS−CoVのSタンパク質の14〜1193番目のアミノ酸からなるまたはそれを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記Sポリペプチドが、配列番号2の配列からなるまたはそれを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記Sポリペプチドが、ヒトの1用量につき1〜5μgの量で存在する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記代謝可能な油がスクアレンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記乳化剤がポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記水中油型エマルジョンアジュバントがさらにトコール(tocol)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記トコールがα−トコフェロールである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記水中油型エマルジョンアジュバントがスクアレン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))およびα−トコフェロールを含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物を産生する方法であって、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体を、水中油型エマルジョンアジュバントと混合するステップを含む、上記方法。
【請求項12】
薬剤として使用する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための薬剤の製造における、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療する方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の有効量の免疫原性組成物を、それを必要としている個体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項16】
前記組成物が、単回投与ワクチン接種計画において投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ワクチンとして使用する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項1】
(a)免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体;ならびに
(b)代謝可能な油および乳化剤を含む水中油型エマルジョンアジュバント
を含む免疫原性組成物。
【請求項2】
前記Sポリペプチドが、Sタンパク質の細胞外ドメインからなるまたはそれを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Sポリペプチドが、C末端にSGDYKDDDDK配列を結合している、SARS−CoVのSタンパク質の14〜1193番目のアミノ酸からなるまたはそれを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記Sポリペプチドが、配列番号2の配列からなるまたはそれを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記Sポリペプチドが、ヒトの1用量につき1〜5μgの量で存在する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記代謝可能な油がスクアレンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記乳化剤がポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記水中油型エマルジョンアジュバントがさらにトコール(tocol)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記トコールがα−トコフェロールである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記水中油型エマルジョンアジュバントがスクアレン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(登録商標))およびα−トコフェロールを含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物を産生する方法であって、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体を、水中油型エマルジョンアジュバントと混合するステップを含む、上記方法。
【請求項12】
薬剤として使用する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療するための薬剤の製造における、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS−CoV関連疾患を予防または治療する方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の有効量の免疫原性組成物を、それを必要としている個体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項16】
前記組成物が、単回投与ワクチン接種計画において投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ワクチンとして使用する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2012−510449(P2012−510449A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538002(P2011−538002)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066089
【国際公開番号】WO2010/063685
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【出願人】(593218462)インスティチュート・パスツール (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066089
【国際公開番号】WO2010/063685
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【出願人】(593218462)インスティチュート・パスツール (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】
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