説明

ワッペンの製造方法

【課題】刺繍の利点と織ネームの利点との双方を実現できるだけでなく、模様の位置ずれを防止することも可能なワッペンの製造方法を提供する。
【解決手段】織ネームによって模様が施されたレピア11を形成するレピア形成工程と、レピア11を所定形状に裁断するレピア裁断工程と、基布にレピア11を重ねる基布重合工程と、レピア11の縁部を基布とともに刺繍する縁部刺繍工程と、基布におけるレピア11からはみ出た部分を裁断する基布裁断工程とを経ることにより、織ネームによって形成された模様11a,11b,11c,11dと、刺繍によって形成された模様10a,10b,10c,10d,10e,10fとが混在したワッペンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類などに取り付けるワッペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワッペンは、その模様の施し方により、各種のものがある。例えば、刺繍により模様を施した「刺繍ワッペン」が知られている。刺繍ワッペンは、フェルトを基布としたものが一般的であり、制服用のブレザーなどを始め各種の衣類に採用されている。この刺繍ワッペンは、模様に立体感を付与することができて高級感があるという利点や、視認性が高いという利点や、小ロット生産に対応しやすいという利点を有している。ところが、刺繍ワッペンは、細かい模様を表現しにくいという欠点や、針数に比例して製造コストが高くなるという欠点を有していた。
【0003】
また、細い金属線をコイル状に巻いた金モールにより模様を施した「金モールワッペン」が知られている。金モールワッペンは、手作りされたものが一般的であり、優勝旗のエンブレムなどとして採用されている。この金モールワッペンは、仕上がりに立体感を付与することができて高級感があるという利点や、視認性が高いという利点や、小ロット生産に対応しやすいという利点を有している。ところが、金モールワッペンは、細かい模様を表現しにくいという欠点や、手作りのために、製造コストが高い、品質に個体差がでやすい、納期がかかるという欠点を有していた。また、金モールワッペンは、洗濯に適していないという欠点も有していた。
【0004】
さらに、金属を蒸着したポリウレタン素材に高周波ウェルダーを用いてエンボス加工を施すことにより模様を施した「ウェルダーワッペン」が知られている。ウェルダーワッペンは、精密な金型を用いて生産されたものが一般的であり、制服用のブレザーなどを始め各種の衣類に採用されている。このウェルダーワッペンは、模様に立体感を付与することができて高級感があるという利点や、細かい模様を表現しやすいという利点や、多数の色を用いたデザインにも容易に対応できるという利点を有している。ところが、ウェルダーワッペンは、金型を使用するため製造コストが高くなるという欠点を有していた。
【0005】
さらにまた、経糸と異なる色の横糸を織物地における所定箇所のみでオモテ面側に露出させることにより模様を施した「織ネームワッペン」が知られている。この織ネームワッペンは、細かい模様を表現しやすいという利点や、多数の色を用いたデザインにも容易に対応できるという利点や、地紋を表わすことができるという利点や、洗濯に適しているという利点を有している。ところが、織ネームワッペンは、模様を平面的にしか形成することができず高級感に劣るという欠点を有していた。
【0006】
このように、ワッペンは、その模様の施し方によって一長一短である。このため、1種類の方法のみで模様を施すのではなく、複数種類の方法で模様を施したワッペンも提案されている。例えば、特許文献1には、織ネームで模様が施されたレピアの縁に刺繍を施したワッペンが記載されている。このように、刺繍ワッペンと織ネームワッペンとを組み合わせることにより、模様に立体感を付与することができ高級感がある、視認性が高い、という刺繍ワッペンの利点と、細かい模様を表現しやすい、多数の色を用いたデザインにも容易に対応できる、地紋を表わすことができる、洗濯に適している、という織ネームの利点を実現することができる。
【0007】
しかし、織ネームと刺繍により模様を施すワッペンは、織ネームによって形成された模様と刺繍によって形成された模様とが位置ずれしていると目立ってしまい、高級感を損なう原因ともなり得る。このため、織ネームにより模様が施されたレピアに刺繍を施す際には、レピアを正確に位置決めしなければならないが、そのようなワッペンの製造方法はこれまでには提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実登第3076995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、模様に立体感を付与することができ高級感がある、視認性が高い、という刺繍の利点と、細かい模様を表現しやすい、多数の色を用いたデザインにも容易に対応できる、地紋を表わすことができる、洗濯に適している、という織ネームの利点との双方を実現できるだけでなく、刺繍によって形成された模様と織ネームによって形成された模様との位置ずれを防止することも可能なワッペンの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、織ネームによって模様が形成されたレピアに刺繍を施すことにより、織ネームによって形成された模様と刺繍によって形成された模様とが混在したワッペンを製造することを特徴とするワッペンの製造方法を提供することによって解決される。ここで、「織ネーム」とは、縦糸(経糸)と横糸(緯糸)で形成された織物地であって、経糸と異なる質(例えば色)の糸を横糸に用い、横糸を織物地における所定箇所のみで織物地のオモテ面側に露出させることにより、織物地のオモテ面側に文字や図柄を表わしたものをいう。
【0011】
本発明のワッペンの製造方法の具体的な工程は、特に限定されないが、織ネームによって模様が施されたレピアを形成するレピア形成工程と、レピアを所定形状に裁断するレピア裁断工程と、基布にレピアを重ねる基布重合工程と、レピアの縁部を基布とともに刺繍する縁部刺繍工程と、基布におけるレピアからはみ出た部分を裁断する基布裁断工程とを経ると好ましい。
【0012】
このとき、レピアと同じ形の輪郭を有し、レピアにおける織ネームによって形成された模様に重ねるための位置合わせ用窓が形成された位置合わせ板をレピア裁断工程で用いると、刺繍によって形成された模様と織ネームによって形成された模様との位置ずれを防止するできるため、より好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によって、模様に立体感を付与することができ高級感がある、視認性が高い、という刺繍の利点と、細かい模様を表現しやすい、多数の色を用いたデザインにも容易に対応できる、地紋を表わすことができる、洗濯に適している、という織ネームの利点との双方を実現できるだけでなく、刺繍によって形成された模様と織ネームによって形成された模様との位置ずれを防止することも可能なワッペンの製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法により製造されたワッペンをオモテ側から見た図である。
【図2】本発明のワッペンの製造方法において、レピア形成工程を終えた直後のレピアをオモテ側から見た図である。
【図3】本発明のワッペンの製造方法において、好適に使用できる位置合わせ板をオモテ側から見た図である。
【図4】本発明のワッペンの製造方法において、刺繍によりその中央部に模様が施された状態のレピアをオモテ側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.ワッペンの製造方法の概要
本発明のワッペンの製造方法の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の製造方法により製造されたワッペン10をオモテ側から見た図である。図2は、本発明のワッペン10の製造方法において、レピア形成工程を終えた直後のレピア11をオモテ側から見た図である。図3は、本発明のワッペン10の製造方法において、好適に使用できる位置合わせ板20をオモテ側から見た図である。図4は、本発明のワッペン10の製造方法において、刺繍によりその中央部に模様10aが施された状態のレピア11をオモテ側から見た図である。
【0016】
本発明のワッペン10の製造方法は、図1に示すように、織ネームによって形成された模様11a,11b,11c,11dと、刺繍によって形成された模様10a,10b,10c,10d,10eとが混在したワッペン10を製造するものとなっている。以下においては、本発明のワッペン10の製造方法につき、第一実施態様から第三実施態様までの3つの実施態様を例に挙げて順に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施態様に限定されず、各種変更を施すことができる。
【0017】
2.第一実施態様のワッペンの製造方法
最初に、第一実施態様のワッペン10の製造方法について説明する。まず、織ネームによって模様11a,11b,11c,11d(図2を参照)がオモテ面に形成されたレピア11を織る(レピア形成工程)。第一実施態様のワッペン10の製造方法において、模様11aは、「KWL CORPORATION」というアルファベット文字により構成されており、レピア11における上縁に沿った箇所に配されている。模様11bは、「SINCE 1989」というアルファベット文字が中央部に記されたリボンの図柄により構成されており、レピア11における下縁に沿った箇所に配されている。模様11c,11dは、複数枚の樹葉を列状に配した図柄により構成されており、レピア11における向かって左縁と右縁に沿った箇所に配されている。本実施態様のワッペン10の製造方法においては、レピア織機を用いてレピア10を織っている。
【0018】
織マークによって形成される模様11a,11b,11c,11dは、レピア11を構成する横糸を縦糸よりもオモテ面側に局所的に露出させることにより形成される。横糸には、通常、縦糸とは異なる色のものが使用される。本実施態様のワッペン10の製造方法において、縦糸には、紺色の糸及び黒色の糸を使用しているのに対して、模様11a,11bは、白色の糸で形成しており、模様11c,11dは、金色の糸で形成している。レピア織機を用いると、このように複数種の横糸が織り込まれたレピア11を容易に織ることができる。
【0019】
続いて、レピア11にナイロン系の接着フィルム(図示省略)を用いて厚さ2mmのフェルトを貼り(フェルト貼付工程)、レピア11をレーザーカットする(レピア裁断工程)。第一実施態様のワッペン10の製造方法においては、図2に示すように、レピア11を盾形(縦長5角形状)に裁断している。このとき、図3に示す位置合わせ板20を用いると、模様11a,11b,11c,11dをレピア10の輪郭に対して位置決めすることが可能になる。したがって、織ネームによって形成された模様11a,11b,11c,11dと刺繍によって形成された模様10a,10b,10c,10d,10e,10f(図1を参照)との位置ずれを最小限に抑えることも可能になる。この位置合わせ板20は、レピア11と同じ盾形の輪郭を有し、レピア11における織ネームによって形成された模様11a,11b,11c,11dにそれぞれ重ね合わせるための位置合わせ用窓21,22,23,24が形成されたものとなっている。位置合わせ板20は、透明又は半透明なものであると、位置合わせを行いやすくなるために好ましい。
【0020】
続いて、レピア11を、基布(図示省略)に重ね(基布重合工程)、刺繍により模様10a,10b,10c,10d,10e,10fを施す。基布重合工程は、レピア11の輪郭に沿った輪郭ラインを基布に刺繍する輪郭ライン刺繍工程を行った後に行ってもよい。第一実施態様のワッペン10の製造方法において、刺繍は、レピア11の縁部を基布とともに刺繍(縁取り)して模様10b,10c,10d,10e,10fを形成する縁部刺繍工程と、レピア10の中央部を基布とともに刺繍して模様10aを形成する中央部刺繍工程とで構成されている。レピア11の中央部の模様10aは、校章によって構成されている。第一実施態様のワッペン10の製造方法においては、2枚のオーガンジーを基布として用いている。この後、基布におけるレピア11からはみ出た部分をハサミで裁断する基布裁断工程を経て、図1に示すワッペン10が完成する。
【0021】
3.第二実施態様のワッペンの製造方法
次に、第二実施態様のワッペン10の製造方法について説明する。第二実施態様のワッペン10の製造方法において、レピア形成工程までは、第一実施態様のワッペン10の製造方法と同じであるため、説明を割愛する。第二実施態様のワッペン10の製造方法では、レピア形成工程を終えた後、レピア11にナイロン系の接着フィルム(図示省略)を貼り、レピア11をレーザーカットする(レピア裁断工程)。レピア11を盾形に裁断する点や、図3に示す位置合わせ板20を用いて裁断することもできる点については、第一実施態様のワッペン10の製造方法と同様である。
【0022】
続いて、レピア11を、基布(図示省略)に重ね(基布重合工程)、刺繍により模様10a,10b,10c,10d,10e,10fを施す。基布重合工程は、レピア11の輪郭に沿った輪郭ラインを基布に刺繍する輪郭ライン刺繍工程を行った後に行うことができる点や、刺繍が、レピア11の縁部を基布とともに刺繍(縁取り)して模様10b,10c,10d,10e,10fを形成する縁部刺繍工程と、レピア11の中央部を基布とともに刺繍して模様10aを形成する中央部刺繍工程とで構成されている点や、模様10a,10b,10c,10d,10e,10f,11a,11b,11c,11dの形態や、2枚のオーガンジーを基布として用いている点については、第一実施態様のワッペン10の製造方法と同様である。
【0023】
続いて、レピア11にナイロン系の接着フィルム(図示省略)を貼り、ポリウレタン系のスポンジ(図示省略)と、厚さ1mmのフェルト(図示省略)を貼り付ける。この後、基布などにおけるレピア11からはみ出た部分をハサミなどで裁断する基布裁断工程を経て、図1に示すワッペン10が完成する。第二実施態様の製造方法で得られたワッペン10は、スポンジを使用した分、厚みがあるものとなっている。このため、ワッペン10は、クッション性を有するだけでなく、より高級感のあるものとなっている。
【0024】
第二実施態様の製造方法により得られたワッペン10におけるスポンジを「アンコ」に見立てて、第二実施態様の製造方法で得られたワッペン10を「アンコありワッペン」と呼ぶことがある。これに対し、第一実施態様の製造方法で得られたワッペン10を「アンコなしワッペン」と呼ぶことがある。アンコありワッペンにおいて、スポンジ(アンコ)の厚さは、特に限定されないが、薄くしすぎると上述したクッション性などが低下するおそれがあるし、厚くしすぎるとワッペン10としての使用に適さなくなってしまう。このため、スポンジの厚さは、通常、1〜5mmとされ、好ましくは、2〜4mmとされる。本実施態様のワッペン10の製造方法において、スポンジの厚さは約3mmとしている。
【0025】
4.第三実施態様のワッペンの製造方法
最後に、第三実施態様のワッペン10の製造方法について説明する。第三実施態様のワッペン10の製造方法において、レピア形成工程からフェルト貼付工程を経てレピア裁断工程を終えるまでは、第一実施態様のワッペン10の製造方法と同じであるため、説明を割愛する。第三実施態様のワッペン10の製造方法では、レピア裁断工程を終えた後、ポリプロピレン系の不織布の上に置いて中央部(中の部分の模様10a)を刺繍する(中央部刺繍工程)。このときはまだ、縁部の模様10b,10c,10d,10e,10fは刺繍しない(図4を参照)。
【0026】
続いて、レピア11にナイロン系の接着フィルム(図示省略)を貼り、レピア11をヒートカットする。その後、レピア11に厚さ2mmのフェルト(図示省略)を重ね、2枚のオーガンジーを基布(図示省略)として縁部の模様10b,10c,10d,10e,10fを刺繍する(縁部刺繍工程)。この後、基布などにおけるレピア11からはみ出た部分をハサミなどで裁断する基布裁断工程を経て、図1に示すワッペン10が完成する。第三実施態様の製造方法で得られたワッペン10は、第一実施態様の製造方法で得られたワッペン10と同様、「アンコなしワッペン」であるが、その中央部に刺繍された模様10a付近の凹みが防止されたものとなっている。
【0027】
5.用途
以上のように、本発明のワッペンの製造方法では、模様が細かく緻密な表現が可能であるだけでなく、模様が立体的で高級感のあるワッペンを製造することができる。このようにして得られたワッペンは、各種の衣類や装飾品に取り付けるのに好適に使用することができる。また、製造コストを大幅に増大させることなく、小ロットから大量生産まで幅広く対応することもできる。したがって、学生服用のブレザーに取り付けるワッペンとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 ワッペン
10a 刺繍によって形成された模様
10b 刺繍によって形成された模様
10c 刺繍によって形成された模様
10d 刺繍によって形成された模様
10e 刺繍によって形成された模様
10f 刺繍によって形成された模様
11 レピア
11a 織マークによって形成された模様
11b 織マークによって形成された模様
11c 織マークによって形成された模様
11d 織マークによって形成された模様
20 位置合わせ板
21 位置合わせ用窓
22 位置合わせ用窓
23 位置合わせ用窓
24 位置合わせ用窓


【特許請求の範囲】
【請求項1】
織ネームによって模様が形成されたレピアに刺繍を施すことにより、織ネームによって形成された模様と刺繍によって形成された模様とが混在したワッペンを製造することを特徴とするワッペンの製造方法。
【請求項2】
織ネームによって模様が施されたレピアを形成するレピア形成工程と、
レピアを所定形状に裁断するレピア裁断工程と、
基布にレピアを重ねる基布重合工程と、
レピアの縁部を基布とともに刺繍する縁部刺繍工程と、
基布におけるレピアからはみ出た部分を裁断する基布裁断工程と、
を経ることにより、織ネームによって形成された模様と刺繍によって形成された模様とが混在したワッペンを製造する請求項1記載のワッペンの製造方法。
【請求項3】
レピアと同じ形の輪郭を有し、レピアにおける織ネームによって形成された模様に重ねるための位置合わせ用窓が形成された位置合わせ板をレピア裁断工程で用いる請求項2記載のワッペンの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate