説明

ワーク乾燥台

【課題】エアブロー時にワークの特定の箇所に液を残すことがなく,構造的にも簡素なワーク乾燥台を提供すること。
【解決手段】本発明のワーク乾燥台1は,固定受け座部材2と,バイメタル3と,可動受け座部材4とを有している。可動受け座部材4は,バイメタル3の上に載っている。これにより,高温時と低温時とで,固定受け座部材2の受け座と可動受け座部材4の受け座との上下関係が入れ替わるようになっている。乾燥過程の途中で,エアブローによりバイメタル3の温度が変化する。このため乾燥過程では,ワーク5が固定受け座部材2に載っている状態と,ワーク5が可動受け座部材4に載っている状態との両方をとる。よって,ワーク5とワーク乾燥台1とが,乾燥過程を通じて接触したままという箇所がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,洗浄液で洗浄した作業対象物(ワーク)を載置して乾燥させるワーク乾燥台に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ギアその他の機械要素部品は,製造過程における焼き入れ後や切削後など種々の場面で洗浄される。洗浄後には,洗浄液を除去するために乾燥が行われる。この乾燥のためのエアブローの際にワークを載置するパレットの例が,特許文献1に開示されている。この文献に記載のエアブロー装置では,パレットに傾斜機構を設けている。これにより,エアブロー中にパレットとともにワークを傾斜させるようにしている。これは,ワークの凹部に入り込んだ洗浄液を傾斜により除去することを主目的とするものである。
【特許文献1】特開平7−155717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら前記した従来の技術には,次に説明する問題点があった。すなわち,ワークの一部分は必ずパレットと接触している。このため,その接触箇所にはエアブローが当たらない。結局その箇所には液が残ってしまうのである。パレットおよびワークを傾斜させてもこのことに変わりはない。また,傾斜機構自体が複雑な構造を要するものである。
【0004】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,エアブロー時にワークの特定の箇所に液を残すことがなく,構造的にも簡素なワーク乾燥台を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のワーク乾燥台は,ワークを載置する第1の受け座と,ワークを載置する第2の受け座と,温度変化により状態を変化させる温度感応部とを有し,ワークを乾燥させる過程での温度変化による温度感応部の状態の変化により,第1の受け座より第2の受け座の方が高い状態と,第2の受け座より第1の受け座の方が高い状態とをとるものである。
【0006】
このワーク乾燥台では,第1の受け座より第2の受け座の方が高い状態と,第2の受け座より第1の受け座の方が高い状態とがある。前者の状態では第2の受け座にワークが載値され,後者の状態では第1の受け座にワークが載値される。そして,ワークを乾燥させる過程の途中で,温度感応部の温度変化により,前者の状態から後者の状態へと変化する。または,後者の状態から前者の状態へと変化する。このため,ワークと受け座とが乾燥過程を通じて接触したままという箇所がない。したがって,ワークのいずれの箇所からも十分に液が除去される。
【0007】
ここで温度感応部は,温度変化により第1の受け座の高さを変化させるものであることが望ましい。温度感応部が温度変化により必然的に伸縮するものであることにより,従来の傾斜機構のような複雑な機械構成を何ら要しない。すなわち構造的にも簡素化が実現できる。
【0008】
ここで温度感応部は,第2の受け座より外側にあることが望ましい。ワークを乾燥させるためのエアブローがよく当たり,温度変化が確実に起こるからである。
【0009】
ここで温度感応部には,バイメタルを用いることができる。すなわち,温度変化に伴うバイメタルの湾曲変形により,第1の受け座を昇降させることができる。
【0010】
または,温度感応部としてガスシリンダを用いることもできる。すなわち,温度変化に伴うガスの体積変化により,第1の受け座を昇降させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,簡素な構成で,エアブロー時にワークの特定の箇所に液を残すことがないワーク乾燥台が提供されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態に係るワーク乾燥台は,トランスミッションの一部品であるカウンタードリブンギアをワークとするものである。すなわち,カウンタードリブンギア(以下,単にワークという。)を洗浄および乾燥のために載値するワーク乾燥台である。
【0013】
[第1の形態]
第1の形態のワーク乾燥台は,図1の斜視図に示すように構成されている。図1のワーク乾燥台1は,一対の固定受け座部材2,2を有している。固定受け座部材2は,中央の板状部21と,その両脇の側部22,22とを有している。板状部21の上端には,ワーク5の受け座である凹部23が形成されている。側部22,22は,板状部21の両脇に,ワーク5に対して外向きに設けられている。側部22,22の内面には,縦溝24,24が形成されている。また,図2に示すように,側部22,22の内面であって凹部23より下方の位置には,横溝25,25が形成されている。
【0014】
側部22,22の間には,帯状のバイメタル3が配置されている。バイメタル3の両端は横溝25,25に差し込まれている。すなわちバイメタル3は,ワーク5から見て,板状部21より外側に位置している。そして,バイメタル3の上側の面上には,板状の可動受け座部材4が配置されている。可動受け座部材4の上端には,図1に示すようにワーク5の受け座である凹部43が形成されている。可動受け座部材4の両側端は,縦溝24,24に差し込まれている。これにより可動受け座部材4は,上下方向に移動可能とされている。なお,図1中ワーク5の向こう側の固定受け座部材2にも同様に,側部22,22,縦溝24,24,横溝25,25が形成されており,バイメタル3および可動受け座部材4はそこにも同様に配置されている。
【0015】
バイメタルは周知のように,温度により,直線状であったり湾曲したりする部材である。図1のワーク乾燥台1のバイメタル3は,常温(20℃程度)で直線状になり,高温(60℃程度)で湾曲して中央部が上方に迫り出すようになっている。このバイメタル3の変形に伴い,その上に載っている可動受け座部材4も上下に移動する。
【0016】
これにより,常温時と高温時とで,凹部23と凹部43との上下関係が逆転するようになっている。すなわち,常温時には,図3および図4に示すように固定受け座部材2の凹部23の方が高い。このため常温時には,ワーク5は凹部23に載置されることとなる。一方,高温時には,図5および図6に示すように可動受け座部材4の凹部43の方が高い。このため高温時には,ワーク5は凹部43に載置されることとなる。
【0017】
この動きを実現するバイメタル3の素材の一例として本形態では,富士金属株式会社製の「M2」を使用した。この素材は,JISC2530規格の「TM2」に属し,以下の性質を持つ。
比例温度範囲:−20〜150℃
湾曲係数:14.6×10-6-1(比例温度範囲内)
弾性係数:167000MPa
バイメタル3の寸法は,以下の通りとした。
有効長:150mm(図2中左右方向)
幅:20mm(ワーク5の軸と平行な方向)
厚さ:1.5mm(図2中上下方向)
作製したバイメタル3では,ワーク5および可動受け座部材4による荷重約30Nが掛かった状態での高温での変位量は,約2.2mmであった。これに伴い,凹部23の高さを,常温での凹部43より1mm程度高くした。これにより凹部23の高さを,常温および高温での凹部43の高さのほぼ中間とした。なお,バイメタル3が両持ち板バネ状であるため,バネ定数が高く高荷重にも対処できるのである。
【0018】
ワーク乾燥台1は,ワーク5の製造プロセスにおける洗浄設備内に設置される。そして,ワーク5の洗浄および乾燥は,洗浄設備内のワーク乾燥台1にワーク5を載置した状態で行われる。よって,洗浄液やエアブローは,ワーク載置台1およびワーク5の全体に対して降りかかる。洗浄液は60℃程度の高温であり,洗浄後のエアブローは20℃程度の常温である。
【0019】
このため第1の形態では,洗浄および乾燥の過程において,以下のような現象が起こる。まず洗浄過程では,洗浄液がワーク載置台1およびワーク5の全体に降りかかる。これによりワーク5の洗浄がなされる。洗浄過程の開始直後の時点では,ワーク乾燥台1は常温であり,ワーク5の温度は前のプロセスによる。ワーク乾燥台1が常温であることから,ワーク乾燥台1およびワーク5は,図3および図4に示した状態である。この状態では,ワーク5は凹部23に載置されている。このため,ワーク5と可動受け座部材4の凹部43との間には隙間があり,この箇所では両者は接触していない。このため,この箇所には洗浄液が容易に入り込む。
【0020】
洗浄過程では,洗浄液が高温であることにより,ワーク5もワーク乾燥台1も,高温の洗浄液の温度に近い温度となる。もちろんバイメタル3も高温となる。特にバイメタル3は,板状部21より外側にあるので,洗浄液がよく降りかかり,洗浄液の温度に非常に近い温度になる。このため洗浄過程の後半でのワーク載置台1およびワーク5は,図5および図6に示した状態になっている。この状態では,ワーク5は凹部43に載置されている。このため,ワーク5と固定受け座部材2の凹部23との間には隙間があり,この箇所では両者は接触していない。このため,この箇所には洗浄液が容易に入り込む。このように,洗浄過程を通じてワーク5とワーク載置台1とが接触したままという箇所はない。
【0021】
洗浄が終了すると,ワーク載置台1およびワーク5の配置はそのままにして,引き続き乾燥が行われる。この乾燥過程では,エアブローがワーク載置台1およびワーク5の全体に吹き付けられる。乾燥過程の開始直後の時点では,ワーク載置台1およびワーク5は,洗浄液との接触により高温となっている。このため,図5および図6に示した,ワーク5と固定受け座部材2の凹部23との間に隙間がある状態である。よってこの箇所には気流が容易に回り込み,乾燥が良好になされる。
【0022】
乾燥過程では,エアブローが常温であることにより,ワーク5もワーク乾燥台1も,温度が低下していく。もちろんバイメタル3も常温となる。特にバイメタル3は,板状部21より外側にあるので,エアブローがよく当たり,エアブローの温度に非常に近い温度になる。このため乾燥過程の途中でワーク載置台1およびワーク5は,図3および図4に示した状態に戻る。すなわち,ワーク5と可動受け座部材4の凹部43との間に再び隙間が生じる。よってこの箇所に気流が容易に回り込み,乾燥が良好になされる。
【0023】
このように,乾燥過程を通じてワーク5とワーク乾燥台1とが接触したままという箇所はない。これにより,ワーク5とワーク乾燥台1との間のいずれの箇所にも,洗浄液が残留することがない。こうして,本形態のワーク乾燥台1では,ワーク5の表面全体を良好に乾燥させることができるのである。
【0024】
ここで,ワーク乾燥台1では,可動受け座部材4の上下移動を,バイメタル3の変形により行っている。このため,洗浄液やエアブローによる温度変化に伴い必然的に上下移動が行われる。すなわち,上下移動のための別途の動力源を要しない。また,機械的駆動部分を有しないので故障のおそれもない。
【0025】
以上詳細に説明したように第1の形態によれば,簡素な構成で,エアブロー時にワーク5の特定の箇所に液を残すことがないワーク乾燥台1が実現されている。ここにおいて,バイメタル3や可動受け座部材4,固定受け座部材2の具体的形状は任意である。バイメタル3の種類も,[0017]に示したものに限らず何でもよい。さらには,バイメタルのような湾曲変形に限らず,線膨張係数の高い物質の熱膨張自体で可動受け座部材4を昇降させるものも考えられる。
【0026】
また湾曲の仕方についても上で説明したものに限らない。下向きに湾曲するものとか,高温時に直線状で常温時に湾曲するもの,あるいは高温時と常温時とで逆向きに湾曲するものも考えられる。いずれの場合でも,高温時と常温時とで可動受け座部材4と固定受け座部材2との高さ関係が逆転するようになっていればよい。高温時に固定受け座部材2が,常温時に可動受け座部材4が,それぞれワーク5を保持するものであってもよい。また,洗浄液が高温でエアブローが常温である場合にも限らない。逆でもよい。また,「高温」は60℃程度には限定されないし,常温も20℃程度に限定されない。要は,乾燥過程の始期と終期との間に温度差があればよい。さらに,洗浄は別のところで行い乾燥のみワーク乾燥台1で行うこともできる。
【0027】
[第2の形態]
図7および図8に示す第2の形態は,第1の形態におけるバイメタル3を,ガスシリンダ7およびガスタンク8で置き換えたものである。ガスシリンダ7はガスタンク8につながっている。このワーク乾燥台では,ガスタンク8内のガスが,洗浄液やエアブローにより温度変化することでその体積を増減する。これにより,ガスシリンダが可動受け座部材4を昇降させる。図7が高温時を,図8が常温時を,それぞれ示している。よって,第1の形態と同様に,簡素な構成で,エアブロー時にワーク5の特定の箇所に液を残すことがないワーク乾燥台となっている。
【0028】
なお,ガスタンク8を有さずガスシリンダ7の内部のガスのみの体積変化で可動受け座部材4を昇降させるものも可能である。あるいは,熱膨張による体積変化に限らず,温度による相変化に伴う体積変化を利用するものでもよい。このようなものとしては例えば,固−液相変化をするサーモワックスが挙げられる。
【0029】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本発明の温度感応部として,第1の形態では,温度変化により形状が変化するバイメタルを用いた。また第2の形態では,温度変化によるガスの体積変化を利用するガスシリンダを用いた。しかし温度感応部は,温度変化により何らかの状態を変化させるものであればよい。よって,温度変化により出力信号を変化させるセンサを用い,そのセンサ信号に基づいて可動受け座を昇降させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の形態に係るワーク乾燥台を示す斜視図である。
【図2】第1の形態に係るワーク乾燥台の構造を示す断面図である。
【図3】第1の形態に係るワーク乾燥台の作用を示す正面図である。
【図4】第1の形態に係るワーク乾燥台の作用を示す概念図である。
【図5】第1の形態に係るワーク乾燥台の作用を示す正面図である。
【図6】第1の形態に係るワーク乾燥台の作用を示す概念図である。
【図7】第2の形態に係るワーク乾燥台の構成および作用を示す概念図である。
【図8】第2の形態に係るワーク乾燥台の構成および作用を示す概念図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ワーク乾燥台
2 固定受け座部材
23 固定受け座部材の凹部
3 バイメタル
4 可動受け座部材
43 可動受け座部材の凹部
7 ガスシリンダ
8 ガスタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを載置する第1の受け座と,
ワークを載置する第2の受け座と,
温度変化により状態を変化させる温度感応部とを有し,
ワークを乾燥させる過程での温度変化による前記温度感応部の状態の変化により,前記第1の受け座より前記第2の受け座の方が高い状態と,前記第2の受け座より前記第1の受け座の方が高い状態とをとることを特徴とするワーク乾燥台。
【請求項2】
請求項1に記載のワーク乾燥台において,
前記温度感応部は,温度変化により前記第1の受け座の高さを変化させるものであることを特徴とするワーク乾燥台。
【請求項3】
請求項2に記載のワーク乾燥台において,
前記温度感応部は,前記第2の受け座より外側にあることを特徴とするワーク乾燥台。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のワーク乾燥台において,
前記温度感応部は,バイメタルで構成されていることを特徴とするワーク乾燥台。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のワーク乾燥台において,
前記温度感応部は,ガスシリンダで構成されていることを特徴とするワーク乾燥台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−157480(P2008−157480A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343453(P2006−343453)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】