説明

一液型液状エポキシ樹脂組成物

【課題】リレーを気密封止又は絶縁封止をする場合において、数μm以下のような非常に狭い間隔の隙間に流入しても、その隙間で完全硬化が可能で、保存安定性の良好な一液性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】25℃で液体のエポキシ樹脂(A)を100重量部、エポキシ化合物(B)にジアルキルアミン(C)を反応して得られる、特定の官能基を有するアミン付加物(D)の表面を酸性物質で処理した潜在性硬化剤(E)を4〜8重量部、およびジシアンジアミド(F)を含み、かつ前記アミン付加物(D)の軟化点が80〜120℃であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リレーを気密封止又は絶縁封止するための一液型液状エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リレーは、エレクトロニクス産業の発展とともに、その生産量も順調に伸びており、通信機器、OA機器、家電機器、自販機等使用される分野も多岐にわたっている。特にプリント配線基盤に搭載されるリレーが増加しつつある。その必要特性として、半田フラックスの侵入防止、部品の溶剤洗浄が可能であることあるいは半田リフロー処理後に気密性を保持できること等が挙げられ、樹脂等による完全気密封止型のリレーが多くなってきており、その信頼性要求は、ますます厳しくなっている。
【0003】
このように、リレーとして、その気密性が強く要求されることに伴い、優れた封止材料が必要とされており、従来から、この様な目的のための封止樹脂としては、エポキシ樹脂が用いられていた。エポキシ樹脂組成物としては、ポリアミドアミン、酸無水物等の硬化剤とエポキシ樹脂とを使用直前に混合して使ういわゆる二液型エポキシ樹脂組成物と、潜在性硬化剤として、ジシアンジアミド等を予めエポキシ樹脂組成物と混合しておく、いわゆる一液型液状エポキシ樹脂組成物がある。
【0004】
一般に、二液型エポキシ樹脂組成物の欠点として、配合時の計量ミスによる硬化不良や配合後のポットライフが短い等が挙げられる。また、硬化剤にポリアミドアミン、脂肪族アミン等を用いた場合、硬化物の耐熱性が低く、封止後、半田槽を通過後の気密不良が生じることが多い。また、同様に酸無水物を用いた場合は、硬化温度を高くしなければならないという欠点があった。従って、最近では材料ロスが少なく生産性の高い一液型液状エポキシ樹脂組成物に移行している。
【0005】
従来から、一液型液状エポキシ樹脂組成物は、その電気特性や耐熱性の良好なことから電気、電子部品の生産にとっては必須の材料であり、接着剤、封止剤として使用されている。また、電気、電子部品の構成部材は、端子材料、コイル、磁石等以外は、プラスチック材料が主体であるため、硬化温度は120℃以下が望まれている。
【0006】
また、近年になって、電気、電子部品の小型化、軽量化や高密度化に伴い、各種部品の接着部分や封止部分における隙間の間隔が数μm以下と非常に狭くなってきている。数μm以下の極めて狭い隙間においては、毛細管現象により液状エポキシ樹脂と硬化剤との分離が発生し、この硬化剤と分離した液状エポキシ樹脂が可動部や接点部等の場所にまで入り込み、特性不良を引き起こすという問題が発生している。
【0007】
上記問題を解決する手段として、以前、本願出願人らは隙間への流れ込み距離が改善された一液型液状エポキシ樹脂組成物を提案した(特許文献1)。この提案した方法によれば、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みに対し大幅な改善が見られたものの、対象となるリレーの材質や硬化条件等によっては前記課題に対しまだ不十分であるケースが見出された。
【0008】
【特許文献1】特開2010−047717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、リレーを気密封止又は絶縁封止をする場合において、数μm以下のような非常に狭い間隔の隙間に流入しても、その隙間で完全硬化が可能で、保存安定性の良好な一液性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の一液型液状エポキシ樹脂組成物について鋭意検討した結果、25℃で液体のエポキシ樹脂(A)を100重量部、エポキシ化合物(B)にジアルキルアミン(C)を反応して得られ、分子中に下記一般式(式1)
【0011】
【化1】

(式中、RおよびR’は、メチル基、エチル基、プロピル基、およびベンジル基の中から選択され、R及びR’は同一でも異なっても良い)
で表される官能基を有するアミン付加物(D)の表面を酸性物質で処理した潜在性硬化剤(E)を4〜8重量部、およびジシアンジアミド(F)を含み、かつ前記アミン付加物(D)の軟化点が80〜120℃であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物を用いることにより、リレーにおける数μm以下の極めて狭い間隔の隙間に流入しても、その隙間で完全硬化が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において用いられる(A)常温で液体のエポキシ樹脂としては、従来から一液型エポキシ樹脂組成物に使用されている、常温で液体のエポキシ化合物であれば、特に限定なく使用することが出来る。常温で固体のエポキシ樹脂を使用した場合、本願記載のエポキシ樹脂組成物とした場合にエポキシ樹脂が結晶化してしまい、好ましくない。本発明で用いられる常温で液体のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、カテコール、レゾルシン等の多価フェノール、またはグリセリンやポリエチレングリコールのような多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、あるいはp-オキシ安息香酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、あるいはフタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸から得られるポリグリシジルエステル、あるいは4,4−ジアミノジフェニルメタンやm−アミノフェノールなどから得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、さらにはフェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好適に用いられる。これらのエポキシ樹脂は単独あるいは混合して使用しても差し支えない。
【0013】
本発明において用いられる(B)エポキシ化合物としては、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルに代表されるモノエポキシ化合物や先に例示したビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂や、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が上げられ、この中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好適に用いられる。これらのエポキシ樹脂は単独あるいは混合して使用しても差し支えない。
【0014】
本発明において用いられる(C)ジアルキルアミンは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジベンジルアミン等やアルキル基の一部が置換されたエチルエタノールアミン、ジエタノールアミンが使用される。この中でもジメチルアミン、ジエチルアミンが好適に用いられる。これらのジアルキルアミンは単独あるいは混合して使用しても差し支えない。
【0015】
(B)エポキシ化合物に(C)ジアルキルアミンと反応させ分子中に下記一般式(1)
【0016】
【化1】

(式中、RおよびR’は、メチル基、エチル基、プロピル基、およびベンジル基の中から選択され、R及びR’は同一でも異なっても良い)で表される官能基を有するアミン付加物(D)は、前記エポキシ化合物を溶剤に溶解し、過剰のジアルキルアミンを混合加熱しながら反応させ、反応終了後、未反応アミンを留去することで得られる。また、この得られたアミン付加物(D)の軟化点は80℃以上、120℃未満であり、好ましくは90℃以上、110℃以下である。80℃より軟化点が低い場合、分離の原因となる未硬化分の減少に効果が見られず、エポキシ樹脂組成物としての保存安定性が悪くなり、120℃より高い場合、潜在性硬化剤としての反応性が悪くなる。
【0017】
アミン付加物(D)はさらに亜硫酸、塩酸、炭酸、硫酸、ホウ酸、蟻酸、酢酸等にさらし、乾燥することにより、酸性物質で表面処理した潜在性硬化剤(E)が得られる。これらの酸性物質の使用量は、ジアルキルアミン付加物の粉体表面に露出しているアミノ基を中和するに足りる量であればよく、前もって表面のアミンを滴定し酸性物質の必要量を決定しておくことが望ましい。
【0018】
こうして得られた潜在性硬化剤(E)は、常温で液体のエポキシ樹脂(A)100重量部に対し、4〜15重量部使用される。4重量部より少ない場合、分離の原因となる未硬化分の減少に効果が見られず、15重量部より多い場合、エポキシ樹脂組成物としての保存安定性が悪くなる。
【0019】
本発明で使用する(F)ジシアンジアミドは、一般的に入手可能なものが利用可能であり、この中でも事前に粉砕を行い、#150メッシュパスしたものが好ましい。また(F)ジシアンジアミドの使用量は特に限定されないが、常温で液体のエポキシ樹脂(A)100重量部に対し、通常1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部使用される。1重量部より少ない場合、接着性が低くなり、10重量部より多い場合、粘度が高くなり、1液型エポキシ樹脂組成物としての実用性が乏しくなる。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤、カップリング剤、着色剤等を配合することができる。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラスフィラー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミナ等が挙げられ、カップリング剤としては、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられ、着色剤としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン等が挙げられる。
【0021】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じてチキソトロピー剤を配合することができる。チキソトロピー剤としては、例えば、日本アエロジル株式会社製アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、楠本化成社製ディスパロンC-308、ディスパロン4110、ディスパロン4300、ディスパロン6500、ディスパロン6600等が挙げられる。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法は、通常のエポキシ樹脂組成物の調製方法と同様に一般的な撹拌混合装置と混合条件が適用される。使用される装置としては、ミキシングロール、ディゾルバ、プラネタリミキサ、ニーダ、押出機等である。混合条件としてはエポキシ樹脂等を溶解および/または低粘度化し、撹拌混合効率を向上させるために加熱してもよい。また、摩擦発熱、反応発熱等を除去するために必要に応じて冷却してもよい。撹拌混合の時問は必要により定めればよく、特に制約されることはない。
【実施例】
【0023】
本発明について実施例をもって詳述するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中「部」は質量部を示す。 また、以下実施例中記載の軟化点はJIS K7234に準じる方法で測定した。
【0024】
<製造例1(潜在性硬化剤1の製造例)>
YDCN-700-3 (新日鐵化学(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)199部と、YD-017(新日鐵化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)155部をエチルセロソルブ455部に溶解し、加熱撹拌しながら123部のジメチルアミン水溶液(50%)を可急的すみやかに滴下する。50〜80℃で2時間反応させた後、未反応アミンおよび溶剤を100〜160℃で加熱下減圧留去する。次いでトルエンに反応物を溶解させた後、同様に減圧留去して樹脂中の未反応アミンを留去することにより392部のアミン付加物を得た。このアミン付加物の軟化点は110℃であった。これを氷酢酸2.7部で処理して潜在性硬化剤1を得た。
【0025】
<製造例2(潜在性硬化剤2の製造例)>
YDCN-700-2(新日鐵(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)199部と、YD-014 (新日鐵化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)155部をエチルセロソルブ455部に溶解し、加熱撹拌しながら123部のジエチルアミン水溶液(50%)を可急的すみやかに滴下する。その後製造例1と同様にして392部のアミン付加物を得た。このアミン付加物の軟化点は82℃であった。これを氷酢酸2.7部で処理して潜在性硬化剤2を得た。
【0026】
<製造例3(潜在性硬化剤3の製造例)>
YDCN-700-2を271部と、YD-014を86部をエチルセロソルブ455部に溶解し、加熱撹拌しながら123部のジメチルアミン水溶液(50%)を可急的すみやかに滴下する。その後製造例1と同様にして392部のアミン付加物を得た。このアミン付加物の軟化点は76℃であった。これを氷酢酸2.7部で処理して潜在性硬化剤3を得た。
【0027】
<製造例4(潜在性硬化剤4の製造例)>
YDCN-700-10(新日鐵(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)86部と、YD-019 (新日鐵化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)271部をエチルセロソルブ455部に溶解し、加熱撹拌しながら123部のジメチルアミン水溶液(50%)を可急的すみやかに滴下する。その後製造例1と同様にして392部のアミン付加物を得た。このアミン付加物の軟化点は130℃であった。これを氷酢酸2.7部で処理して潜在性硬化剤4を得た。
【0028】
<実施例、比較例>
製造例1〜4で得られた潜在性硬化剤1〜4を用いて表に示す組成でエポキシ樹脂組成物を調製した。この組成物を用いて組成物の分離性の未硬化分の有無を観察した。測定結果を表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(分離性未硬化部の評価)
1. 2枚のスライドガラス(縦26mm×横76mm×厚み1.5mm )の間に厚み9μmのスペーサーを相対する26mmの2辺に挟み、その両端をスライドガラスの上からクリップでとめる。
2.1.の2枚のスライドガラスの76mmの辺が上下になる形で垂直に立て、9μmの隙間の上端部に均等に実施例1〜2、比較例1〜4で調製した一液型エポキシ樹脂組成物0.1gを塗布し、100℃で60分硬化させた後、そのスライドガラスを剥離し、隙間に入り込んだ樹脂の未硬化分の有無を目視にて観察した。
【0031】
(分離性の評価方法)
分離性の未硬化分の有無は、以下の通り評価した。
×:未硬化部あり、○:未硬化部なし
【0032】
(保存安定性の測定方法)
40℃に保持した乾燥機内に密閉保管し、所定期間ごとに取り出し、25℃で粘度の測定を行い、粘度が初期値の2倍になるまでの期間で判定した。
【0033】
(保存安定性の評価方法)
×:1週間未満、○:1週間以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃で液体のエポキシ樹脂(A)を100重量部、エポキシ化合物(B)にジアルキルアミン(C)を反応して得られ、分子中に下記式(式1)
【化1】

(式中、RおよびR’は、メチル基、エチル基、プロピル基、およびベンジル基の中から選択され、R及びR’は同一でも異なっても良い)
で表される官能基を有するアミン付加物(D)の表面を酸性物質で処理した潜在性硬化剤(E)を4〜15重量部、およびジシアンジアミド(F)を含み、かつ前記アミン付加物(D)の軟化点が80〜120℃であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−100403(P2013−100403A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244721(P2011−244721)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】