説明

三次モード振動式コリオリ流量計

【課題】 振動漏洩を軽減することが可能な三次モード振動式コリオリ流量計を提供する。
【解決手段】 フローチューブ3と、そのフローチューブ3を駆動する駆動装置4と、フローチューブ3に作用するコリオリの力に比例した位相差を検出する一対の振動検出センサ5と、を備えた三次モード振動式コリオリ流量計1とする。駆動装置4は、フローチューブ3を三次モードの曲げ振動で駆動する。フローチューブ3は、略ループ形状の本体部12を有する。その本体部12の両端部13には、両端部13の振動方向に対して略直交方向かつ両端部13の外側に転向する一対の平行な脚部14を連成する。脚部14には、フローチューブ3を支持する固定端部16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一本のフローチューブを備えて構成されるコリオリ流量計に関し、詳しくは、フローチューブを略T字形に形成して三次モードの曲げ振動で駆動する三次モード振動式コリオリ流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
コリオリ流量計は、被測定流体の流通する流管の一端又は両端を支持し、その支持点回りに流管の流れ方向と垂直な方向に振動を加えたときに、流管(以下、振動が加えられるべき流管をフローチューブという)に作用するコリオリの力が質量流量に比例することを利用した質量流量計である。コリオリ流量計は周知のものであり、コリオリ流量計におけるフローチューブの形状は直管式と湾曲管式とに大別されている。
【0003】
直管式のコリオリ流量計は、両端が支持された直管の中央部直管軸に垂直な方向の振動を加えたとき、直管の支持部と中央部との間でコリオリの力による直管の変位差、すなわち位相差信号が得られ、その位相差信号に基づいて質量流量を検知するように構成されている。このような直管式のコリオリ流量計は、シンプル、コンパクトで堅牢な構造を有している。しかしながら、高い検出感度を得ることができないという問題点もあわせ持っている。
【0004】
これに対して、湾曲管式のコリオリ流量計は、コリオリの力を有効に取り出すための形状を選択できる面で、直管式のコリオリ流量計よりも優れており、実際、高感度の質量流量を検出することができている。尚、湾曲管式のコリオリ流量計としては、一本のフローチューブを備えるもの(例えば特許文献1参照)や、並列二本のフローチューブを備えるもの(例えば特許文献2参照)、或いは一本のフローチューブをループさせた状態に備えるもの(例えば特許文献3参照)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】特公平4−55250号公報
【特許文献2】特許第2939242号公報
【特許文献3】特許第2951651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コリオリ流量計において、流路を分岐せずにフローチューブを単一の流路で構成することは、小口径のセンサにおける閉塞の問題点に対する最も良い解決法である。また、圧縮性を持つ流体や、密度や粘度の異なる不連続な流体を計測する際には、流れを分岐させると安定した分流をすることができないことからも、フローチューブを単一の流路で構成することが望まれる。さらに、フローチューブを同一平面内のみで構成することは、フローチューブの製作が容易になるので、安価で形状の再現性を求める場合には有用なことである。
【0007】
しかしながら、従来の単一の流路で構成されるコリオリ流量計にあっては、対向して振動を相殺する構造になっていないために、固定端から流量計外部に向けて振動漏洩が生じ、配管条件の変化によりゼロ点ドリフトやスパン変動が生じていた。さらに、振動漏洩軽減を目的としたカウンターバランサを用いた振動系でも、密度変化によって振動漏洩が変化し、器差を悪化させていた。
【0008】
振動漏洩を軽減するためには、上述の如く、通常カウンターバランサを用いるが、単一の管の曲げ振動を用いたコリオリ流量計では、カウンターバランサ方式が持つ密度影響、温度影響、振動影響を避けることはできなかった。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、振動漏洩を軽減することが可能な三次モード振動式コリオリ流量計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の三次モード振動式コリオリ流量計は、少なくとも一本のフローチューブと、該フローチューブを駆動する駆動装置と、前記フローチューブに作用するコリオリの力に比例した位相差を検出する一対の振動検出センサと、を備えたコリオリ流量計であって、前記駆動装置は前記フローチューブを三次モードの曲げ振動で駆動し、前記フローチューブは略ループ形状の本体部を有し、該本体部の両端部には該両端部の振動方向に対して略直交方向かつ前記両端部の外側に転向する一対の平行な脚部を連成し、該脚部には前記フローチューブを支持する固定端部を形成することを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の本発明の三次モード振動式コリオリ流量計は、請求項1に記載の三次モード振動式コリオリ流量計において、前記脚部の各固定端部を同一平面内の近接した位置に配置することを特徴としている。
【0012】
請求項3記載の本発明の三次モード振動式コリオリ流量計は、請求項1又は請求項2に記載の三次モード振動式コリオリ流量計において、前記本体部の幅をW、前記本体部の高さをH、前記脚部の高さをht、前記固定端部の間隔となる固定端幅をw、前記本体部の高さHと前記本体部の幅Wとの比をH/W、前記固定端幅wと前記本体部の幅Wとの比をw/W、前記脚部の高さhtと前記本体部の高さHとの比をht/Hとすると、(1)0.03<H/W<1、(2)0.005<w/W<0.48、(3)0<ht/H<2.75、の条件を満足することを特徴としている。
【0013】
以上のような特徴を有する本発明によれば、フローチューブを略T字形に形成し、そして、そのフローチューブを、振動が最もエネルギー消費の少ない状態で安定する三次モードの曲げ振動によって駆動するようにしていることから、フローチューブの本体部の両端部における曲げ振動を、その両端部に連成した脚部において捻り振動に変換することができる。平行に並ぶ脚部に、互いに反対方向の捻り応力を生じさせ、これによって振動漏洩をほぼ相殺することができる。脚部の両固定端部を同一平面内の近接した位置にすれば、振動漏洩をより一層良好に相殺することができる。所定の条件を満足する形状にフローチューブを形成することで、振動漏洩の軽減を図ることができる。
【0014】
三次モードの駆動では、コリオリ力として四次モード的なコリオリ力が生じるが、フローチューブとしては全体の剛性との兼ね合いから二次モード的(捻り振動)な動きが生じる。二次モード的(捻り振動)な動きに対し剛性を低くするためには、上下流の固定端間距離を近くし、且つ曲げに対して剛性を低くする必要がある(回転自由支持端のような働き)。これにより、コリオリ力の検出感度が良くなる。
【0015】
振動漏洩の見地から三次の曲げ振動を考察すると、フローチューブ端部において曲げ振動を捻り振動に変換するためには、フローチューブを90°に転向するのが良い。残された捻り振動を効率良く減じるためには、回転方向が逆で平行する回転軸を極力近づける方が良く、その固定端は同一平面上に存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動漏洩を軽減することができるという効果を奏する。また、配管条件の変化を要因としたゼロ点ドリフトやスパン変動を最小にすることができるという効果を奏する。本発明によれば、より良いコリオリ流量計を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の三次モード振動式コリオリ流量計の一実施の形態を示す図であり、(a)は筐体の正面図、(b)は内部構成の概略図である。また、図2は三次モード振動式コリオリ流量計のセンサ部、信号演算処理部、及び励振回路部に係るブロック図である。
【0018】
図1及び図2において、本発明の三次モード振動式コリオリ流量計1は、筐体2と、その筐体2内に収納される一本のフローチューブ3と、駆動装置4、一対の振動検出センサ5、5、及び温度センサ6を有するセンサ部7と、センサ部7からの信号に基づいて質量流量等の演算処理を行う信号演算処理部8と、駆動装置4を励振するための励振回路部9とを備えて構成されている。以下、各構成部材について説明する。
【0019】
上記筐体2は、曲げやねじれに強固な構造を有している。また、筐体2は、フローチューブ3と、そのフローチューブ3自身が形成する面に対して平行に配置される静止部材10とを収納することができる大きさに形成されている。さらに、筐体2は、フローチューブ3等の流量計要部を保護することができるように形成されている。このような筐体2の内部には、アルゴンガス等の不活性ガスが充填されている。不活性ガスの充填により、フローチューブ3等への結露が防止されるようになっている。本形態の筐体2は、フローチューブ3の形状に合わせてその外観形状が形成されている(一例であるものとする)。
【0020】
フローチューブ3が平行に配置される静止部材10は、平板状に形成されており、その一部が筐体2に対して固着されている。静止部材10には、フローチューブ3の流入口側及び流出口側を支持固定するための支持部11が適宜手段で取り付けられている。
【0021】
上記フローチューブ3は、略ループ形状(略長円形状)の本体部12と、その本体部12の両端部13に連成される一対の平行な脚部14とを有して平面視T字形に形成されている(T字形の形状にした理由については後述する)。脚部14は、両端部13の振動方向に対して略直交方向かつ両端部13の外側に転向するように連成されている。引用符号15は両端部13に連続する1/4円弧の終端首部を示している。このような脚部14は、フローチューブ3自体を支持する固定端部16を有している。両固定端部16は、同一平面内の近接した位置に配置されている。
【0022】
フローチューブ3における一方の脚部14に流入した測定流体は、本体部12を流通し他方の脚部14から流出するようになっている。フローチューブ3の材質は、ステンレス、ハステロイ、チタン合金等のこの技術分野において通常のものが用いられている。
【0023】
上記センサ部7を構成する上記駆動装置4は、フローチューブ3を三次モードの曲げ振動で振動させるためのものであって、コイル(符号省略)とマグネット(符号省略)とを備えて構成されている。このような駆動装置4は、フローチューブ3の中心軸S1に沿って配置されている。言い換えれば、駆動装置4は、三次モード振動により生じる三つの腹のうち、中央の腹の範囲内に位置するように本体部12の中央に配置されている。
【0024】
駆動装置4の上記コイルは、静止部材10に取り付けられている。また、上記コイルからは、特に図示しないが、電線又はFPC(フレキシブル・プリント・サーキット)が引き出されている。駆動装置4の上記マグネットは、専用の取付具を用いてフローチューブ3に取り付けられている。
【0025】
駆動装置4において吸引作用が生じると、上記マグネットが上記コイルに差し込まれるような状態になり、その結果、フローチューブ3が静止部材10に対して近接するようになる。これに対し、反発作用が生じると、フローチューブ3が静止部材10に対して離間するようになる。駆動装置4は、フローチューブ3を図1の紙面に対して直交方向に交番駆動するように構成されている。
【0026】
上記センサ部7を構成する上記振動検出センサ5、5は、フローチューブ3の振動を検出するとともに、フローチューブ3に作用するコリオリの力に比例した位相差を検出するセンサであって、それぞれコイル(符号省略)とマグネット(符号省略)とを備えて構成されている(これに限らず、加速度センサ、光学的手段、静電容量式、歪み式(ピエゾ式)等の変位、速度、加速度のいずれかを検出する手段であればよいものとする)。
【0027】
このような構成の振動検出センサ5、5は、本体部12の長手方向の軸S2に沿って配置されている。振動検出センサ5、5は、上記中央の腹の両隣の腹の範囲内であって、コリオリの力に比例した位相差を検出することが可能な位置に配置されている。振動検出センサ5、5は、フローチューブ3を三次モード振動で振動させたときに生じる節に対して、ずれた位置となるように配置されている。
【0028】
振動検出センサ5、5の上記各コイルは、静止部材10に取り付けられている。また、上記各コイルからは、特に図示しないが、電線又はFPC(フレキシブル・プリント・サーキット)が引き出されている。振動検出センサ5、5の上記各マグネットは、専用の取付具を用いてフローチューブ3に取り付けられている。
【0029】
本形態において、駆動装置4及び振動検出センサ5、5の上記各コイルは、適度な重量があり図示しない電線又はFPC(フレキシブル・プリント・サーキット)の配線(配線系の図示は省略する)も必要であることから、上述の如く、静止部材10の所定位置に取り付けられている。これにより、フローチューブ3の振動に及ぼす影響が極力軽減されている。
【0030】
尚、本発明においては、上記コイルと上記マグネットの取り付けを逆にしたりする(上記コイルをフローチューブ3に取り付け、上記マグネットを静止部材10に取り付ける)ことを妨げないものとする。
【0031】
本発明の三次モード振動式コリオリ流量計1の内部には、特に図示しないが、基板等が設けられている。また、その基板には、三次モード振動式コリオリ流量計1の外部に引き出されるワイヤハーネスが接続されている。
【0032】
上記センサ部7の一部を構成する温度センサ6は、三次モード振動式コリオリ流量計1の温度補償をするためのものであって、適宜手段でフローチューブ3に取り付けられている。具体的には、例えば流入口側であって支持部11に支持固定された部分の近傍、すなわち固定端部16の近傍に取り付けられている。尚、温度センサ6から引き出される図示しない電線又はFPC(フレキシブル・プリント・サーキット)は、図示しない上記基板に接続されている。
【0033】
上記信号演算処理部8には、一方の振動検出センサ5からの、フローチューブ3の変形に関する検出信号DA、他方の振動検出センサ5からの、フローチューブ3の変形に関する検出信号DB、及び温度センサ6からの、フローチューブ3の温度に関する検出信号DTがそれぞれ入力されるように配線及び接続がなされている。このような信号演算処理部8では、センサ部7より入力された検出信号DA、DB、及びDTに基づいて質量流量Qm及び密度ρの演算がなされるように構成されている。また、信号演算処理部8では、演算により得られた質量流量Qm、密度ρが表示器17に対して出力されるように構成されている。
【0034】
上記励振回路部9は、平滑部20と比較部21と目標設定部22と可変増幅部23と駆動出力部24とを備えて構成されている。また、励振回路部9は、フローチューブ3を三次モード振動で振動させるに於いて、正帰還ループが構成されている。平滑部20は、一方の振動検出センサ5(又は他方の振動検出センサ5)からの検出信号DAを取り出すように配線されている。また、平滑部20は、入力された検出信号DAを整流平滑するとともに、その振幅に比例した直流電圧VAを出力することができるような機能を有している。比較部21は、平滑部20からの直流電圧VAと目標設定部22から出力される目標設定電圧Vmとを比較するとともに、可変増幅部23の利得を制御して共振振動の振幅を目標設定電圧に制御することができるような機能を有している。
【0035】
尚、上記平滑部20〜駆動出力部24までの構成は、従来の正帰還ループで振動を制御する場合の構成と同じであるが、本発明の三次モード振動式コリオリ流量計1においては、三次モード振動を得るために、正帰還ループの信号波形を逆相に変換するように構成されている。すなわち、図2中のA部において、駆動出力部24から送出される出力線を逆に結線して出力波形を逆相に変換するように構成されている。又は、図2中のB部において、励振回路部9に入力される検出信号DAの信号線を逆に結線して信号波形を逆相に変換するように構成されている。又は、図2中のC部において、可変増幅部23から送出される配線を逆に接続して増幅波形を逆相に変換するように構成されている。又は、図2中のA部において、駆動出力部24から送出される出力をインバータを用いて逆相に変換するように構成されている。又は、図2中のB部において、励振回路部9に入力される検出信号DAをインバータを用いて逆相に変換するように構成されている。又は、図2中のC部において、可変増幅部23から送出される出力をインバータを用いて逆相に変換するように構成されている(もう少し詳しく説明すると、駆動装置4及び振動検出センサ5、5を上記位置に配置し、さらには、駆動装置4の変位極性と振動検出センサ5、5の変位極性とを互いに逆相の関係となるようにするとともに、励振回路部9をその正帰還ループ上で上記逆相の関係となった各変位極性を互いに同相の関係となるように変換する)。
【0036】
上記構成において、フローチューブ3に測定流体を流すとともに、駆動装置4を駆動させてフローチューブ3を三次モードの曲げ振動で振動させると、振動検出センサ5、5の点でのコリオリの力によって生じるフローチューブ振動の位相差分により、質量流量Qmが信号演算処理部8で算出される。また、本形態においては密度ρも算出される。
【0037】
以上、図1及び図2を参照しながら説明してきたように、本発明の三次モード振動式コリオリ流量計1は、フローチューブ3を略T字形に形成し、そして、そのフローチューブ3を、振動が最もエネルギー消費の少ない状態で安定する三次モードの曲げ振動によって駆動するようにしていることから、フローチューブ3の本体部12の両端部13における曲げ振動を、その両端部13に連成した脚部14において捻り振動に変換することができる。平行に並ぶ脚部14に、互いに反対方向の捻り応力を生じさせ、これによって振動漏洩をほぼ相殺することができる。従って、本発明の三次モード振動式コリオリ流量計1は、従来よりも振動漏洩を軽減することができる。尚、後述する説明からも分かるが、脚部14の両固定端部16を同一平面内の近接した位置にすれば、振動漏洩をより一層良好に相殺することができる。
【0038】
その他、本発明の三次モード振動式コリオリ流量計1は、フローチューブ3が単一の流路でありカウンターバランサがないことから、密度変化があっても振動漏洩に変化がなく、常にバランスを保つことができる。また、バランス取りが不要であることから、製造コストを削減するとともに、品質を長期にわたり安定させることができる。また、フローチューブ3が単一の流路であることから、既知のブレースバーが不要である。そして、ブレースバーが不要であることから、ロウ付けが不要になり、その結果、製造コストを削減することができる。
【0039】
尚、両固定端部16に作用する応力が捻り方向で管の周方向に対し全周で均一になるので、チューブ配管若しくはアンカーへの接続をメカシールで行うことが可能である。また、簡易的なメカシールでの接続も可能であるので、フローチューブのみを着脱することができる構造にすることが可能である。その他、両固定端部16に貫通タイプのバルクヘッドコネクタを用いれば、完全に接液部が交換可能なフローチューブを構成でき、医療や食品関連産業に適したコリオリ流量計になる。
【0040】
次に図3ないし図20を参照しながらフローチューブ(以下、流管とする)の最適な幾何学的条件について説明する。
【0041】
図3(a)〜図9(d)は三次モードで駆動するコリオリ流量計の分類を系統的に示している。流路が曲げ振動だけで構成されるものとして、図3(a)は直管形の三次モード、図4(a)はU字形の三次モード(固定端は同一平面上)、図5(a)はループ形の三次モード(固定端は同一軸上で反対方向に伸びる場合)を示している。
【0042】
図3(a)の直管形の三次モードに対して両端部の振動方向は、図3の紙面に対して垂直であるが、この場合の振動方向に対して垂直に管路を付加したものを図3(b)に示す。付加した管路は、端部の曲げ振動により捻り振動する。しかし、実際には付加した管路にも曲げ振動がそのまま伝播する場合が多い。
【0043】
図4(a)のU字形の三次モード(固定端は同一平面上)の両端部の振動方向は、図4の紙面に対して垂直であるが、この場合の振動方向に対して垂直且つ内方向に管路を付加したものを図4(b)に、外方向に管路を付加したものを図4(c)示す。共に付加した管路は、端部の曲げ振動により捻り振動する。図4(b)から派生した形状例として、図6(a)〜図6(d)を示す。また、図4(c)から派生した形状例として、図7(a)〜図7(f)を示す。
【0044】
図5(a)のループ形の三次モード(固定端は同一軸上で反対方向に伸びる場合)の両端部の振動方向は、図5の紙面に対して垂直であるが、この場合の振動方向に対して垂直且つ外方向に管路を付加したものを図5(b)に、内方向に管路を付加したものを図5(c)示す。共に付加した管路は、端部の曲げ振動により捻り振動する。図5(b)から派生した形状例として、図8(a)〜図8(k)を示す。また、図5(c)から派生した形状例として、図9(a)〜図9(d)を示す。
【0045】
図3〜図9の例でコリオリ力の検出感度が良く、上下流の固定端が同一平面内で近接し、チューブの曲げ回数が少なく、チューブ周波数を比較的高くすることが可能な形状は、図8(b)である。
【0046】
特に一本のフローチューブの構成で振動漏洩を軽減し、器差性能を確保するために三次モード駆動を行うコリオリ流量計(三次モード振動式コリオリ流量計)において、固定端近傍では曲げ応力が捻り応力に変換され、振動漏洩を減じることができる流管(フローチューブ)形態として最も優位な例として図8(b)に示すT字形を選び、その幾何学的条件を定義するために図10を参照しながら説明する。この流管形状の具体的な幾何学的条件は以下の通り。
【0047】
流入口及び流出口を含む平面から垂直方向に伸びる流管において、流管の幅(フローチューブの本体部の幅)をW、流管の高さ(フローチューブの本体部の高さ)をHとした場合、その縦横比H/Wは、0.03(チューブ曲げ半径と振動周波数等から決定)<H/W<1(後述の付加された管路に角変位を与えやすいこと、更に周波数を上げ且つ位相差をより得やすくする必要から横長の形状である意味合いから)の範囲。
【0048】
付加された管路(対となった脚部)の固定端における幅wの流管の幅Wに対する割合の下限は、幅wがチューブ直径D以下にならないことと、W/Dの上限が流管全体の剛性、周波数等からW/D<200が適当であることから、1/200(=0.005)となる。また、その上限はFEM解析により0.48以下であれば流管の曲げ変位の角変位への変換が効率良く行われ、その結果は固定端近傍の変位が軽減していることからも証明されたことより、w/Wの条件は1/200(=0.005)<w/W<0.48と決定した。
【0049】
上記条件の下、付加された管路の長さhtを決定するに当たり、w/W=0.19、H/W=0.21、W/D=48.68、t/D=0.046を選び、その最適値をFEM解析により決定していった。その結果、付加された管路の高さhtの、流管の高さ(本体部の高さ)Hに対する割合ht/Hは2.50程度とすると、曲げの捻りへの変換効率が良く、且つ安定した特性を得ることができることが分かった。また、ht/Hを2.75以上とすると、付加された管路、すなわち脚部の曲げ剛性が低下するために、流管の所要の三次モード振動を得にくくなることが分かった。一方、ht/Hの下限は、0<ht/Hとすることが可能である。ここで、H/D<50とhtの最小値とが曲げ半径の最小値と同じ3Dであることから、3/50=0.06となる。よって、ht/Hの条件は、0<ht/H<2.75であり、最適条件としては、0.06<ht/H<2.75とした。
【0050】
上記条件に関してもう少し詳しく説明する。
【0051】
流管の曲げ半径Rは、一般的に高圧ガス保管協会が耐圧上の観点から、R=4D(D:チューブ直径)を一つの基準としているが、実用上、R=3D程度までならコリオリ流量計として圧力特性上ほぼ問題が生じないことが分かっている。このことから、流管の曲げ半径Rの下限を3D以上と定義する。ここで流管の幅Wの条件は、チューブ直径Dを基準に考えると、固定端間距離wがチューブ直径D以下にならないことから、13<W/Dとなる(図11参照)。また、W/Dの上限は流管全体の剛性、周波数等からW/D<200が適当である。よって、13<W/D<200となる。
【0052】
流管の高さ(本体部の高さ)Hの条件は、チューブ直径Dを基準に考えると、その下限は6<H/Dとなる。また、H/Dの上限は、流管全体の剛性、周波数等からH/D<50が適当である。よって、6<H/D<50となる。
【0053】
付加された管路(脚部)の固定端における幅wは、流管の幅Wを基準に考えると、前述のように幅wがチューブ直径D以下にならないことと、W/Dの上限が流管全体の剛性、周波数等からW/D<200が適当であることから、1/200(=0.005)となり、その下限は200<W/D、D=wより、1/200(=0.005)<w/Wとなる。また、その上限はFEM解析により0.48以下であれば流管の曲げ変位から角変位への変換が効率良く行われ、その結果は固定端近傍の変位が軽減していることからも証明された。よって、w/Wの条件は、1/200(=0.005)<w/W<0.48と決定した。
【0054】
ここで、図12に関して説明する。図12は固定端における幅wと流管の幅Wとの比w/W、及び付加された管路の高さhtと流管の高さHとの比ht/Hで決定される最適な幾何学的条件を示すための概念系統図である。ここではH/W=0.5の場合を示した。図中の枠で囲っている条件が最適な幾何学的条件となる。
【0055】
図13は流管の幅Wと高さHを変化させた場合の組み合わせの概念図である。縦横比H/Wが等しい組み合わせが右下がりの破線で示されている。右下になるほど幾何学的形状がそのままに流管に対する相対的な寸法が大きくなる。
【0056】
縦横比H/Wは前述の条件、13<W/D<200、6<H/D<50より、0.03<H/W<3.85となるが、その上限は、周波数を上げ且つ位相差をより得やすくする要件から、横長の形状である必要があり、その値を1とした。よって、0.03<H/W<1とする。付加された管路の固定端における幅wと管路の幅Wとの比w/Wと、付加された管路の長さhtを決定するにあたり、幾何学的条件として、上記条件を満足するH/W=0.21、W/D=48.68、素材SUS316Lを選び、その最適値をFEM解析により決定していく。
【0057】
図14は付加された管路の幅wに対する、首部Aと固定端近傍Bにおける変位及び角変位をFEM解析によって求めた結果である。尚、首部Aに係るA部と固定端近傍Bに係るB部の位置は図10に示す。図14の横軸は、固定端における幅wと流管の幅Wとの比w/Wとした。幾何学的条件の代表例として、縦横比H/W=0.21、付加された管路の高さhtと流管の高さHとの比ht/Hを2.42で一定とした。流管の横端部での振幅を1mmとする。固定端近傍B位置の変位量は微少なので10倍に拡大して表記した。固定端における幅wの流管の幅Wに対する割合w/Wを0.02から0.58まで変化させた。
【0058】
首部Aの変位は、固定端における幅wと流管の幅Wとの比w/Wによる影響が大きく、幅の比w/Wを増すに従い、0.024mmから0.4mm程度に向かって増加していく。一方、首部Aの角変位に関しては、固定端における幅wと流管の幅Wとの比w/Wが0.02〜0.58の範囲では0.8°〜0.85°の範囲でほぼ一定であるが、詳細に観察すると、w/W=0.2〜0.48程度において角変位が減少していることが分かる。
【0059】
固定端近傍B(固定端から1/4Hの位置)における変位(図では10倍に拡大して表記)に関しては、w/W=0.02では0.006mm程度と小さいが、w/Wが増加し0.48程度になると一定の値の0.015mmに漸近する。一方、固定端近傍Bにおける角変位は、w/Wにはほぼ依存せず、0.1°程度に抑えられている。
【0060】
固定端近傍Bの変位が小さいことが振動漏洩の軽減と振動基部における応力の低減にとって重要であるので、w/Wの最適な条件は、1/200(=0.005)<w/W<0.48となる。
【0061】
図15(a)〜図18(b)はT字形チューブの三次モード駆動モデルのFEM解析の結果である。流管の幅方向端部を一定振幅1mmとし、T字形チューブの脚部長さht/Hを変化させた場合の最大振幅の状態を示した(図の振幅は誇張して表記してある)。ここで、流管の幅をW、流管の高さをHとした場合の縦横比H/Wは0.21とし、固定端における幅wの流管の幅Wに対する割合w/Wは0.19で一定とした。
【0062】
図15(a)はht/H=0.50、図15(b)はht/H=0.75、図15(c)はht/H=1.00、図15(d)はht/H=1.25、図16(a)はht/H=1.50、図16(b)はht/H=1.75、図16(c)はht/H=2.00、図16(d)はht/H=2.25、図17(a)はht/H=2.50、図17(b)はht/H=2.75、図17(c)はht/H=3.00、図18(a)はht/H=4.00、図18(b)はht/H=5.00の場合を示す。
【0063】
図18(a)のht/H=4.00、図18(b)のht/H=5.00では、ht/H=4.00より小さい場合と比較して流管の天頂の直線部がほとんど撓んでいない。コリオリ流量計のフローチューブとして振動する際に、角変位することで初めてコリオリ力が発生することから、流管が平行移動するだけではコリオリ力が発生しないので、図18(a)のht/H=4.00、図18(b)のht/H=5.00の場合はコリオリ流量計として適さないことになる。
【0064】
三次モードにおける二つの節は、ht/Hを増加させ付加された管路、すなわち脚部が長くなると、それぞれ上記天頂の直線部から上流及び下流側の固定端方向に移動していくが、二つの節の位置がチューブの最大幅部を通過するのは、ht/H=3.00とht/H=4.00の間である。この条件を境にht/Hが小さいと二つの振動の節が天頂の直線部側に近くなり、ht/Hが大きいと振動の節が上流、下流の固定端側に近づく。
【0065】
図19は図15(a)〜図17(c)に示したディメンジョンのT字形チューブの流管の幅方向端部を1mmで一定振幅とした場合の首部A及び固定端近傍B(固定端から1/4Hの位置、流管からの相対的な距離は変化する。図10参照)における変位量と角変位量をFEM解析により求めた結果である。固定端近傍B位置の変位量は微少なので10倍に拡大して表記した。縦横比H/Wは0.21とし、固定端における幅wの流管の幅Wに対する割合w/Wは0.19で一定とした。ht/Hは0.50〜3.00まで段階的に増加させた。
【0066】
首部Aにおける変位量は、ht/H=0.50からht/Hを増やすと、0mmから緩やかに増えてくるが、ht/H=2.50付近(0.2mm)を越えると急激に増加し、ht/H=3.00では1.55mmとなっている。一方、首部Aにおける角変位量は、ht/Hを増やすと0°から急激に立ち上がり、ht/H=2.50程度で0.83°に達し、それ以上では急激に低下してht/H=3.00では0.43°程度にまで低下する。
【0067】
固定端近傍Bにおける変位量は、ht/H=0.75(最小値)からht/Hを増やすと、0mmから緩やかに増えてくるが、その量は微小である(図では10倍に拡大して表記している)。ht/H=3.00でもその変位量は0.038mm程度に留まり、ht/H=2.50までは、より具体的にはht/H=2.75までは0.01mm以下にその変位量が抑えられていることが分かる。一方、固定端近傍Bにおける角変位量は、ht/H=0.75(最小値)では0.23°で最大であるが、ht/Hを増加させると角変位がほぼ線形的に減少し、ht/H=3.00では0.07°程度になる。
【0068】
ht/H=2.50において首部Aの角変位が最大になること、固定端近傍Bでの角変位及び変位が小さいこと、首部Aでの変位も比較的小さい値で済んでいることから、曲げ方向の振動が捻り振動に効率良く変換され、固定部に伝わる変位、角変位は微小で済んでいることが分かる。このような現象が生じる要因としては、付加された管路(脚部)が三次モード振動時に単純に倒れるのではなく、流管(本体部)に近づくほど倒れる方向に対し反対方向(中立方向)に変位するからである(図17(b)、図17(c)参照)。よって、ht/H=2.50程度が付加された管路の高さの最適な条件であることが分かる。また、ht/Hを2.75以上とすると、付加された管路(脚部)の曲げ剛性が低下するために、流管の所要の三次モード振動が得にくくなることが分かった。一方、ht/Hの下限は、H/D<50とhtの最小値が曲げ半径の最小値と同じ3Dであることから、3/50=0.06となる。よって、ht/Hの最適条件は0.06<ht/H<2.75とした。
【0069】
図20はT字形のフローチューブの三次モード振動の最大変位時における様子を一本の単管に引き伸ばした概念図である。FEM解析結果から大略書き写したものである。上から順番にht/H=0.50からht/H=5.00までの変化を示した。これによるとht/H=3.00以上となると両固定端付近にまで曲げの変位が伝播していることが分かる。また、ht/H=2.50程度が固定端近傍の曲げ変位が少なくなっていることが分かる。
【0070】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の三次モード振動式コリオリ流量計の一実施の形態を示す図であり、(a)は筐体の正面図、(b)は内部構成の概略図である。
【図2】三次モード振動式コリオリ流量計のセンサ部、信号演算処理部、及び励振回路部に係るブロック図である。
【図3】三次モードで駆動するコリオリ流量計の分類を系統的に示す図(直管形の三次モード)である。
【図4】三次モードで駆動するコリオリ流量計の分類を系統的に示す図(U字形の三次モード)である。
【図5】三次モードで駆動するコリオリ流量計の分類を系統的に示す図(ループ形の三次モード)である。
【図6】図4(b)から派生した形状例を示す図である。
【図7】図4(c)から派生した形状例を示す図である。
【図8】図5(b)から派生した形状例を示す図である。
【図9】図5(c)から派生した形状例を示す図である。
【図10】幾何学的条件を定義するための説明図である。
【図11】チューブ直径に係る説明図である。
【図12】最適な幾何学的条件を示すための概念系統図である。
【図13】縦横比H/Wの概念説明図である。
【図14】FEM解析結果を示すグラフである。
【図15】FEM解析結果を示す図(ht/H=0.50〜1.25)である。
【図16】FEM解析結果を示す図(ht/H=1.50〜2.25)である。
【図17】FEM解析結果を示す図(ht/H=2.50〜3.00)である。
【図18】FEM解析結果を示す図(ht/H=4.00〜5.00)である。
【図19】FEM解析結果により得た変位量及び角変位量の結果を示すグラフである。
【図20】三次モード振動の最大変位時における様子を一本の単管に引き伸ばした概念図である。
【符号の説明】
【0072】
1 三次モード振動式コリオリ流量計
2 筐体
3 フローチューブ
4 駆動装置
5 振動検出センサ
6 温度センサ
7 センサ部
8 信号演算処理部
9 励振回路部
10 静止部材
11 支持部
12 本体部
13 端部
14 脚部
15 首部
16 固定端部
20 平滑部
21 比較部
22 目標設定部
23 可変増幅部
24 駆動出力部
S1 中心軸
S2 長手方向の軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一本のフローチューブと、該フローチューブを駆動する駆動装置と、前記フローチューブに作用するコリオリの力に比例した位相差を検出する一対の振動検出センサと、を備えたコリオリ流量計であって、
前記駆動装置は前記フローチューブを三次モードの曲げ振動で駆動し、前記フローチューブは略ループ形状の本体部を有し、該本体部の両端部には該両端部の振動方向に対して略直交方向かつ前記両端部の外側に転向する一対の平行な脚部を連成し、該脚部には前記フローチューブを支持する固定端部を形成する
ことを特徴とする三次モード振動式コリオリ流量計。
【請求項2】
請求項1に記載の三次モード振動式コリオリ流量計において、
前記脚部の各固定端部を同一平面内の近接した位置に配置する
ことを特徴とする三次モード振動式コリオリ流量計。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の三次モード振動式コリオリ流量計において、
前記本体部の幅をW、前記本体部の高さをH、前記脚部の高さをht、前記固定端部の間隔となる固定端幅をw、前記本体部の高さHと前記本体部の幅Wとの比をH/W、前記固定端幅wと前記本体部の幅Wとの比をw/W、前記脚部の高さhtと前記本体部の高さHとの比をht/Hとすると、(1)0.03<H/W<1、(2)0.005<w/W<0.48、(3)0<ht/H<2.75、の条件を満足する
ことを特徴とする三次モード振動式コリオリ流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−84372(P2006−84372A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270743(P2004−270743)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)
【Fターム(参考)】