説明

三次元中空構造布帛および三次元中空構造材

【課題】樹脂を施し構造材とした場合でも、上下層の間に所定の厚みの空隙部を確保できる三次元中空構造布帛の提供。
【解決手段】上層3と下層9の経糸5を閉じ糸としても使用する。上層側の上緯糸7を複数本織り込むと上緯糸7間から飛び出し、折り返し方向に傾斜して対向する下層側の下緯糸11間から入り込んで下緯糸11を複数本織り込むことで、上層側と下層側の緯糸7,11を交互に織り込んでおり、断面視において、閉じ糸5は、上下二層の間で、層側部の飛び出し及び入り込み部分では若干湾曲しながら起立し、中間部では略直線状に傾斜した剛性の糸構造体23を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面構造に特徴のある三次元中空構造布帛およびその布帛に樹脂を施してなる三次元中空構造材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、上層をなす編織物と下層をなす編織物とを、閉じ糸で繋いで連結することで三次元中空構造、即ち立体構造の布帛を製造することは知られている。
上記した三次元中空構造布帛に樹脂を施して硬化させたものは、上下層の間に中空部が存在するので嵩がありながら軽量で、しかも難燃性の材料で構成できることから、車や屋根などのパネル系構造材として有望である。
例えば、特許文献1では、上下層の織物に垂直糸を織り込んで三次元立体形状を形成し、さらにループ状部分に樹脂を被覆させ、その樹脂を硬化させることにより製造した構造材が紹介されている。
また、特許文献2では、ハニカム状に織物を構成し、特許文献1と同様に樹脂で被覆した構造材が紹介されている。
さらに、特許文献3では、上下層の織物の中間層をガラス繊維でループ状に織り込んで三次元立体形状を形成し、特許文献1と同様に樹脂で被覆した構造材が紹介されている。
【0003】
【特許文献1】特開平09−4199号公報
【特許文献2】特開平09−78393号公報
【特許文献3】特開平11−91037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の上下二層を閉じ糸で支えるような三次元中空構造布帛は、閉じ糸の剛性が不十分なため厚み方向に潰れ易かった。また、織物をハニカム状にすると、空隙部が小さくなってしまう。
従って、従来の三次元中空構造布帛を使用すると、所望の大きさの空隙部が確保された構造材を製造することが難しかった。
【0005】
それ故、本発明は、上記課題を解決するために、上下二層の間に存在する閉じ糸の支持構造を工夫することにより、剛性の向上した三次元中空構造布帛を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記布帛に樹脂を施してなるパネル系構造材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、鋭意研究の結果、三次元中空構造布帛の上下二層を特殊な断面構造をなす糸構造体で支えると、その糸構造体の剛性が高いために、上記布帛が潰れ難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
請求項1の発明は、上下二層の編織物が閉じ糸により連結されてなる三次元中空構造布帛において、閉じ糸は経方向または緯方向の糸として上層側または下層側の緯糸または経糸を複数本織り込むと前記緯糸間または経糸間から飛び出し、折り返し方向に傾斜して対向する下層側または上層側の緯糸間または経糸間から入り込んで経方向または緯方向の糸として前記緯糸または経糸を複数本織り込むことで、前記上層側と下層側の緯糸または経糸を交互に織り込んでおり、断面視において、前記閉じ糸は、前記上下二層の間で、層側部の飛び出し及び入り込み部分では若干湾曲しながら起立し、中間部では略直線状に傾斜した糸構造体を形成していることを特徴とする三次元中空構造布帛である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した三次元中空構造布帛において、断面視において、層側部の隣接する飛び出し部分と入り込み部分の閉じ糸が布帛の厚さ方向で重なりながら起立することで1本の支柱をなし、中間部は上層側から出た支柱の端部を頂部とする山と、下層側から出た支柱の端部を頂部とする谷とが交互に現れる山谷部をなしていることを特徴とする三次元中空構造布帛である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載した三次元中空構造布帛において、上層側または下層側から飛び出した閉じ糸は、再び前記上層側または下層側に戻ると先に飛び出した緯糸間または経糸間の隣接する緯糸間または経糸間から入り込んで前記層側の緯糸または緯糸を織り込んでいることを特徴とする三次元中空構造布帛である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した三次元中空構造布帛において、閉じ糸の弾性率は10〜500GPaであることを特徴とする三次元中空構造布帛である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した三次元中空構造布帛において、閉じ糸は上層及び下層のそれぞれの経糸または緯糸でもあることを特徴とする三次元中空構造布帛である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載した三次元中空構造布帛に樹脂を施し硬化させてなる三次元中空構造材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の三次元中空構造布帛は、上下二層を支える糸構造体の剛性が高いので、潰れ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る三次元中空構造布帛1を、図面に従って説明する。
図1に示すように、三次元中空構造布帛1は上層3と下層9が上下に配置されている。
この実施の形態では、上層3と下層9はいずれも平織りの織物で構成されているが、組織などは特に限定されず、綾織り、朱子織り、二重織りなどでもよく、また、編み物でもよい。なお、図中では、視認の便宜のために、下層9の織物の組織の描画は省略されている。
また、この実施の形態では、上層3の織物は経糸5と上緯糸7によって構成されており、下層9の織物は、上層3の織物と同様に、経糸5と下緯糸11とによって構成されている。即ち、上層3と下層9では、経糸5が共用されている。さらに、経糸5は、上層3と下層9を連結して閉じる閉じ糸としても用いられている。なお、上下の織物またはいずれか一方の織物の経方向は、少なくとも経糸5を含む経糸群で構成してもよい。即ち、上層(または下層)のみを構成する経糸が存在してもよい。
【0014】
経糸5や緯糸7、11を構成する糸の繊維は、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよく、具体的な例としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、金属繊維、PBO、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ビニロン、綿などが挙げられる。これらは単独でも2種類以上を複合してもよい。
また、糸の種類は、特に限定されず、例としてはマルチフィラメント、モノフィラメント、スパン糸、扁平糸、バルキー糸、中空糸などが挙げられる。閉じ糸を強撚にすることでFRP化すれば、一層軽量化することができる。
この実施の形態では、ガラス繊維で構成されたマルチフィラメントが経糸5、緯糸7、11として共用されている。
【0015】
糸の太さは、10〜2310tex程度が好ましい。10texより細いと十分な剛性が得られ難く、一方、2310texを超えると今度は織り難くなるからである。また、糸の太さは60〜300tex程度がより好ましい。
特に、閉じ糸としての経糸5は、後述する剛性の高い糸構造体23を形成させるため、弾性率は10〜500GPa程度が好ましく、70〜280GPa程度がより好ましい。
【0016】
以下に、三次元中空構造布帛1の製造方法を、図2の説明的な断面図に従って説明する。
経糸5は下層側の下緯糸11と上層側の上緯糸7を、一例として7本ずつ織り込んでいく。経糸5の織り込みは矢印に示すように進行する。説明の便宜のために、織り込み単位を構成する緯糸を右から、1番糸、2番糸、‥‥、7番糸とし、織り込み単位の間にある緯糸を中間糸とする。
経糸5が下層側の1つの織り込み単位を織り込むと、その織り込み済みの単位の7番糸の下方を通過し、さらにその7番糸とその左隣りの中間糸との間を上に向かって通過すると、今度はその中間糸を織り込まずに上方に飛び出す。
そして、上下二層3,9の間の中空部13を折り返し方向に傾斜して対向する上層側の織り込み済み単位の左隣りの中間糸とその左隣りのこれから織り込む単位の1番糸との間に入り込む。上層側の入り込む隙間は、飛び出した下層側の下緯糸11間の隙間より3つ分だけ後方にずれた箇所である。
【0017】
上層側に入り込んだ経糸5が上層側の1つの織り込み単位(1本目〜7本目の上緯糸7)を織り込むと、その織り込み済みの単位の7本目の上緯糸7の上方を通過し、さらにその7番糸とその左隣りの中間糸との間を下に向かって通過すると、今度は左隣りの中間糸7を織り込まずに下方に飛び出す。
そして、上下二層3,9の間の中空部13を折り返し方向に傾斜して対向する下層側の織り込み済み単位の左隣りの中間糸とその左隣りのこれから織り込む単位の1番糸との間に入り込む。
【0018】
上記のようにして、経糸5を用いて上層側の上緯糸7と下層側の下緯糸11の織り込みが交互に行われる。
形成された上層3の経糸5の織り込み単位(上緯糸7本分)と下層9の経糸5の織り込み単位(下緯糸7本分)の位相は半波長分ずれている。
しかも、経糸5が飛び込む上緯糸7間および下緯糸11間と、経糸5が入り込む上緯糸7間および下緯糸11間は隣り合っており、織り込み単位は連続している。
【0019】
次に、図3の写実的断面図に従って、視認できる断面構造を説明する。
この図に示すように、経糸5は、上層側の上緯糸7間や下層側の下緯糸11間から飛び出して折り返されたり、そこに折り返されて入り込んだりするときに、大きなカーブの湾曲線を描く。
そのため、上下二層3、9の間で、経糸5は層側部の飛び出し及び入り込み部分で若干湾曲しながら起立する。しかも、上層側でも下層側でも経糸5が飛び出した緯糸間の隣りの緯糸間に経糸5が入り込んでいるため、即ち、上層3側では、経糸5の飛び出し部分5aと入り込み部分5bとが隣り合い、下層9側では、経糸5の飛び出し部分5cと入り込み部分5dとが隣り合っているため、起立した部分は、布帛1の厚み方向で重なり合う。
従って、上層3側では、経糸5の飛び出し部分5aと入り込み部分5bとの重なりにより、あたかも1本の支柱15をなしているように見え、下層9側では、経糸5の飛び出し部分5cと入り込み部分5dとの重なりにより、あたかも1本の支柱19をなしているように見える。
【0020】
また、支柱15、19は上層3と下層9から交互に対向する層側に向かって延びており、布帛1の厚み方向に向かって支柱15と支柱19との間の中間部は、支柱19の端部を頂部16とする谷17と、支柱15の端部を頂部20とする山21とが交互に現れる山谷部をなしている。山と谷の輪郭は略直線状になっているように見える。
【0021】
従って、図4の写実的断面図に示すように、上下二層3、9の間の糸構造体23は、上層3、支柱15、谷17および支柱15とがなす五角形と、下層9、支柱19、山21および支柱19とがなす五角形が交互に現れたものとなっている。
【0022】
上記したように、上下二層3、9の間に糸構造体23が存在することにより、上下二層3、9の支持バランスが良く、そのため高い剛性を有する。従って、上下二層3、9に力が加えられても、糸構造体23の高い剛性により簡単には潰れない。即ち、二層の間に所定の厚みの中空部13が確保され易くなっている。
【0023】
以下、好ましい寸法関係について説明する。
上層3の織物の厚み(t1)と下層9の織物の厚み(t2)が、0.05〜5mm程度のものを閉じ糸により繋いで連結した場合には以下の範囲内での設定が必要な剛性を確保する上で好ましい。
上層側、下層側支柱15,19の高さ(a、c): 0.5〜40mm
山谷部の厚み(b): 0.1〜40mm
中間層の厚み(T): 1.9〜49.9mm
山または谷の角度(θ): 10°≦θ≦120°
上記した寸法関係は、閉じ糸として使用する糸の種類、弾性率や太さを選択することにより適宜達成できる。
【0024】
この三次元中空構造布帛1に適当な樹脂27を定法により施し硬化させることにより、図4に示すようにパネル系構造材25が製造される。なお、図中では、視認の便宜のために、下層9の織物の組織の描画は省略されている。
この構造材25は布帛1を芯材として使用した複合材である。従って、上下二層3、9とその二層を支持する糸構造体23は全て樹脂27により被覆されている。
この構造材25では、芯材となっている布帛1の上下二層3、9は従来品より高い剛性を有する糸構造体23により支持されている。
さらに、支柱15を構成する2本の経糸5aと経糸5bとが樹脂27により連結され、支柱19を構成する2本の経糸5cと経糸5dとが樹脂27により連結され、それぞれ強固な支柱となっている。
従って、構造材25は厚み方向に高い剛性を有し、中間部に所望の大きさの空隙部29が確保されたものとなっている。
【0025】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成が上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
例えば、上記実施の形態では、上層3の厚み(t1)と下層9の厚み(t2)は同じに設定されているが、厚みが異なってもよい。
また、上記実施の形態では、上層と下層の織り組織や糸の種類を同じにすることで上下面強度と上下方向性を無くしているが、用途に応じて、逆に織り組織や糸の種類を変えることで積極的に上下面強度や上下方向性を付与するように設計してもよい。
【0026】
上下層の織物を構成する糸(経糸、緯糸)とは、別に閉じ糸を使用し、この閉じ糸を上層や下層を構成する糸と一緒に織り込んでもよい。
上下二層の間の中空部に別の糸などを丸めて閉じ込めるなどして、二層の間の中空部の厚みを一層確実に保持できる構造にしてもよい。
また、糸構造体を構成する閉じ糸を強撚にすることで閉じ糸を被覆する樹脂の量を減らし、さらに一層軽量化を図ることも可能である。
いずれにしても、特許請求されている形状等を除いては、従来からあるまたは将来案出される形状や製造を任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る三次元中空構造布帛は剛性の高い糸構造体により上下二層が支持されているので、この布帛に樹脂を施すことにより、所望の大きさの空隙部が確保された軽量なパネル系構造材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る三次元中空構造布帛の斜視図である。
【図2】図1の三次元中空構造布帛の説明的断面図である。
【図3】図1の三次元中空構造布帛の写実的断面図である。
【図4】図1の布帛に樹脂を施して製造した三次元中空構造材の斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1‥‥三次元中空構造布帛 3‥‥上層
5‥‥経糸(上層、下層)
5a‥‥経糸の上層からの飛び出し部分
5b‥‥経糸の上層への入り込み部分
5c‥‥経糸の下層からの飛び出し部分
5d‥‥経糸の下層への入り込み部分
7‥‥上緯糸(上層)
9‥‥下層 11‥‥下緯糸(下層)
13‥‥中空部 15‥‥支柱
16‥‥頂部 17‥‥谷
19‥‥支柱 20‥‥頂部
21‥‥山 23‥‥糸構造体
25‥‥三次元中空構造材 27‥‥樹脂
29‥‥空隙部
t1‥‥上層の厚み t2‥‥下層の厚み
T‥‥中間層の厚み
a‥‥上層側支柱の高さ c‥‥下層側支柱の高さ
b‥‥山谷部の長さ
θ‥‥山と谷の頂部の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下二層の編織物が閉じ糸により連結されてなる三次元中空構造布帛において、
閉じ糸は経方向または緯方向の糸として上層側または下層側の緯糸または経糸を複数本織り込むと前記緯糸間または経糸間から飛び出し、折り返し方向に傾斜して対向する下層側または上層側の緯糸間または経糸間から入り込んで経方向または緯方向の糸として前記緯糸または経糸を複数本織り込むことで、前記上層側と下層側の緯糸または経糸を交互に織り込んでおり、
断面視において、前記閉じ糸は、前記上下二層の間で、層側部の飛び出し及び入り込み部分では若干湾曲しながら起立し、中間部では略直線状に傾斜した糸構造体を形成していることを特徴とする三次元中空構造布帛。
【請求項2】
請求項1に記載した三次元中空構造布帛において、断面視において、層側部の隣接する飛び出し部分と入り込み部分の閉じ糸が布帛の厚さ方向で重なりながら起立することで1本の支柱をなし、中間部は上層側から出た支柱の端部を頂部とする山と、下層側から出た支柱の端部を頂部とする谷とが交互に現れる山谷部をなしていることを特徴とする三次元中空構造布帛。
【請求項3】
請求項2に記載した三次元中空構造布帛において、上層側または下層側から飛び出した閉じ糸は、再び前記上層側または下層側に戻ると先に飛び出した緯糸間または経糸間の隣接する緯糸間または経糸間から入り込んで前記層側の緯糸または緯糸を織り込んでいることを特徴とする三次元中空構造布帛。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した三次元中空構造布帛において、閉じ糸の弾性率は10〜500GPaであることを特徴とする三次元中空構造布帛。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した三次元中空構造布帛において、閉じ糸は上層及び下層のそれぞれの経糸または緯糸でもあることを特徴とする三次元中空構造布帛。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載した三次元中空構造布帛に樹脂を施し硬化させてなる三次元中空構造材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−121155(P2008−121155A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307296(P2006−307296)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(597140110)サカイ産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】