説明

三次元形状造形物の製造方法

【課題】光造形法により三次元形状造形物を製造するにあたり、粒径が小さい粉末材料を用いつつも、粉末材料の層を薄くかつ均一に形成することにより、三次元形状造形物を高精度に製造することを目的とする。
【解決手段】光ビームLが照射されるテーブル20上に供給された粉末材料に上部から圧力を付加することにより粉末どうしを圧着固化させてテーブル20の全面にならす工程Aと、その後、テーブル20の全面にならされた粉末材料の所定厚さΔtの表面部13を切削除去する工程Bと、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末材料の層に光ビームを照射して焼結層を形成する工程を繰り返すことにより、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末材料の層に光ビーム(指向性エネルギービーム、例えば、レーザー)を照射して焼結層を形成し、この焼結層の上に新たな粉末材料の層を形成して光ビームを照射することで焼結層を形成する工程を繰り返すことにより、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
光造形法と称されるこの技術においては、光ビームのエネルギー密度を調整することで、粉末材料がほぼ完全に溶融した後に固化した状態(すなわち、焼結密度がほぼ100%の状態)を得ることができる。この状態を経て得られた三次元形状造形物の表面(焼結層の表面)は、仕上げ加工をすることで非常に滑らかな面となる。したがって、三次元形状造形物は、滑らかな面が要求されるプラスチック成形用金型などに適用できる。また、光造形法によれば、複雑な三次元形状物を短時間で製造することができる。
【特許文献1】特許3687667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、三次元形状造形物を高精度に製造するためには、粉末材料の層をできるだけ薄くかつ均一にする必要があり、そのためには、粉末の粒径をできるだけ小さくすることが望ましい。
【0005】
しかし、粉末の粒径が小さくなればなるほど、粉末どうしが凝集を起こし、結果的に粉末自身の流動性が低下して、粉末材料の層を形成しにくくなるだけでなく、粒径が小さい粉末材料の層に光ビームを照射して、焼結層を形成すると、焼結層の光ビームが照射された面は、非常に滑らかな面となり、焼結層の上にさらに粒径が小さい粉末材料の層を薄く形成することが困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、光造形法により三次元形状造形物を製造するにあたり、粒径が小さい粉末材料を用いつつも、粉末材料の層を薄くかつ均一に形成することにより、三次元形状造形物を高精度に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法は、粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで焼結層を形成し、この焼結層の上に粉末材料の新たな層を被覆して所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで下層の焼結層と一体になった新たな焼結層を形成することを繰り返して、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造するにあたり、光ビームが照射されるテーブル上に供給された粉末材料に上部から圧力を付加することにより粉末どうしを圧着固化させてテーブルの全面にならす工程Aと、その後、テーブルの全面にならされた粉末材料の所定厚さの表面部を切削除去する工程Bと、を含むことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法において、工程Bに鋭利な刃物または線材を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2に記載の三次元形状造形物の製造方法において、工程Bと同時にまたは工程Bの後に、切削除去された不要な粉末材料を回収することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の三次元形状造形物の製造方法は、粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで焼結層を形成し、この焼結層の上に粉末材料の新たな層を被覆して所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで下層の焼結層と一体になった新たな焼結層を形成することを繰り返して、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造するにあたり、光ビームが照射されるテーブル上に供給された粉末材料を、テーブル全面を覆いテーブル上面と略平行に回転する加圧体により、テーブルの全面にならしながら粉末材料の厚さを薄くかつ均一にするとともに不要な粉末材料をテーブルの外に除去する工程Cを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、上記請求項4に記載の三次元形状造形物の製造方法において、テーブルの外に除去された不要な粉末材料を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光造形法により三次元形状造形物を製造するにあたり、粒径が小さい粉末材料を用いつつも、粉末材料の層を薄くかつ均一に形成することにより、三次元形状造形物を高精度に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施形態1)
以下、図面を参照しながら実施形態1について説明する。以下の説明では具体例を挙げて本発明を説明する場合があるが、本発明は以下の具体例に限定されない。
【0014】
図1に実施形態1に係る三次元形状造形物の製造装置(以下、単に「製造装置」と呼ぶ)を示す。
【0015】
製造装置は、シリンダー15で外周が囲まれた空間内を上下に昇降するテーブル20上にスキージング用ブレード21で粉末材料を供給し粉末材料の層(粉末層)10を形成する粉末層形成手段2と、粉末層形成手段2のベース部にXY駆動機構(高速化の点で直動リニアモータ駆動のものが好ましい)40を介して設けられた加圧体41で粉末層10に上部から圧力を付加することにより粉末どうしを圧着固化させてならす加圧手段3と、粉末層10の所定厚さの表面部13(図2参照)を鋭利な刃物42により切削除去する粉末層切削手段4と、レーザー発振器30から出力された光ビーム(レーザー)Lをガルバノミラー31等のスキャン光学系を介して粉末層10の所定箇所に照射することで当該箇所を焼結して焼結層11を形成する焼結層形成手段5と、を基本構成とする。
【0016】
このものにおける三次元形状造形物の製造は、図2に示すように、焼結層形成手段5と焼結層11との相対距離を調整する調整手段であるところのテーブル20上面の造形用ベース22表面にシリンダー15の上面と同じレベルで水平方向に往復移動するブレード21により粉末材料を供給して粉末層10を形成し、次に、テーブルを少し上昇させ加圧体41で粉末層10に上部から圧力を付加することにより粉末どうしを圧着固化させてならし、その後、粉末層10をシリンダー15の上面に沿って所定厚さΔtの表面部13を切削除去することで第1層目の粉末層10とし、この粉末層10の硬化させたい箇所に光ビームLを照射して粉末を焼結させてベース22と一体化した焼結層11を形成する。
【0017】
そして、テーブル20を少し下げて再度ブレード21により粉末材料を供給して粉末層10を形成し、次に、テーブル20を少し上昇させ加圧体41で粉末層10に上部から圧力を付加することにより粉末どうしを圧着固化させてならし、その後、粉末層10をシリンダー15の上面に沿って所定厚さの表面部13を切削除去することで第2層目の粉末層10とし、この粉末層10の硬化させたい箇所に光ビームLを照射して粉末を焼結させて下層の焼結層11と一体化した焼結層11を形成する。
【0018】
上記工程を繰り返すことにより、目的とする三次元形状造形物が製造される。
【0019】
ここで、粉末材料は、粒径が1〜100μmの細かい金属粉末を含む。粉末材料が粒径の細かい金属粉末を含むことで、粉末材料の表面積が大きくなり光ビームLの吸収率も大きくなるので、エネルギー密度の低い照射条件でも粉末材料が焼結しやすく、造形速度が向上する。また、ある程度の造形強度を得るためには、隣接する焼結層11どうしの密着強度を高くする必要があるが、粉末材料であれば、粉末間にある隙間を通して、光ビームLが下の焼結層11にも照射され、下の焼結層11も加熱されて密着強度が向上する。
【0020】
具体的には、粉末材料は、クロムモリブデン鋼からなる鉄系粉末と、ニッケル粉末と、銅リンまたは銅マンガン粉末とを含む混合粉末である。クロムモリブデン鋼粉末はその硬度や強度の点から、ニッケル粉末は強度、靭性および加工性の点から、銅リンまたは銅マンガン粉末は濡れ性および流動性の点から採用している。
【0021】
なお、鉄系粉末のみに光ビームLを照射して高密度な三次元形状造形物を製造することは困難である。これは、鉄系粉末のみを用いた場合には、先に形成された焼結層11に次の焼結層11を、隙間を作ることなく一体化することが困難だからである。クロムモリブデン鋼自体は硬度が高く機械的強度に優れていても、クロムモリブデン鋼粉末のみに光ビームLを照射して得られる三次元形状造形物の造形密度は低く、造形強度も小さい。
【0022】
また、鉄系粉末がニッケル成分を多く含む合金の場合、鉄系粉末の表面に形成される強固な酸化膜が鉄系粉末同士の融着一体化を阻害するため、前記の問題が甚だしくなる。鉄系金属にニッケル成分を含有させることは、その鉄系金属の靭性や強度および耐食性を向上できるという利点はあるが、光ビームLの照射により三次元形状造形物を製造する場合には、その利点が全く発揮できない。
【0023】
光ビームLの照射エネルギーを大きくすれば、クロムモリブデン鋼自体やニッケル成分を含む鉄系粉末でも、十分に融着一体化できる場合があるが、その場合には、光ビームLの照射装置が大掛かりになったり、過大な電力が必要になったり、製造コストが高くついたりするという欠点がある他、光ビームLの走査速度を高められないため、製造効率も低下する。また、過大な照射エネルギー量でつくられた三次元形状造形物は、熱応力により反りや変形を起こしやすくなる。
【0024】
そして、光ビームLが照射された粉末材料は、その一部または全部が一旦溶融し、その後冷却凝固されて焼結層11となるが、この溶融した時の濡れ性が大きいと隣接する焼結層11との接合面積が大きくなり、流動性が大きければ上面の盛り上がりが小さくそこに新たな粉末層10を形成しやすいことから、溶融した時の流動性が大きく且つ濡れ性も良いことが望まれる。
【0025】
ここで、銅は、溶融された時にその流動性が良く、溶融状態で鉄系材料との濡れ性が良く、かつ鉄系材料と合金化された場合でも特性の劣化がほとんどない。鉄系粉末と銅合金粉末からなる混合粉末に光ビームLを照射すると、この銅合金粉末が先に溶融し、鉄系粉末間のすきまを埋めてくれるとともに、これが結合材となって融着一体化する。光ビームLの照射エネルギーが高い場合は本混合粉末を形成する全鉄系粉末および銅合金粉末が溶融し合金となる。また、溶融金属の流動性は、溶融時の温度と融点の差が大きいほど良く、融点は、純銅よりも銅リン合金や銅マンガン合金の方が低いため、光ビームLを同じエネルギーで照射した場合の流動性は、純銅よりも銅リン合金や銅マンガン合金の方が良い。
【0026】
なお、前述したように、鉄系粉末がニッケル成分を含む合金である場合には、粉末表面に形成される強固な酸化膜によって、粉末同士の融着一体化が阻害されるが、鉄系粉末とは別個の粉末としてニッケル粉末が銅合金粉末とともに混合された場合には、これらの粉末同士の融着一体化は良好に行われる。そして、この混合粉末からなる焼結層11は、その焼結密度が高く、その結果、靭性や強度の高いものとなる。
【0027】
特に、クロムモリブデン鋼粉末の配合比率を60〜90重量パーセント、ニッケル粉末の配合比率を5〜35重量パーセント、銅マンガン合金粉末の配合比率を5〜15重量パーセントとすれば、特に好ましい結果を得ることができる。なお、この混合粉末は、平均粒径が1〜100μmで、略球状の形状をしている。
【0028】
また、加圧体41として、例えば、加圧ローラーを用いる。
【0029】
そして、本実施形態では、粉末層10の所定厚さの表面部13を切削除去するために、鋭利な刃物42を用いているが、これに限らず、線材(ピアノ線や糸)を用いてもよい。なお、表面部13が切削除去された粉末層10の厚さは、0.2〜0.01mmとなる。刃物42や線材を用いて表面部13を切削除去する場合には、下方向よりもむしろ横方向に力がかかるので、下方向への力が刃物42や線材よりも大きくかかるブレード21を用いて表面部13を切削除去する場合に比べて、確実に所望の粉末層10を形成することができる。
【0030】
また、光ビームLとしては炭酸ガスレーザーが用いられる。光ビームLの照射経路は、予め三次元CADデータから作成しておく。すなわち、三次元CADモデルから生成したSTLデータを等ピッチでスライスした各断面の輪郭形状データを用いる。
【0031】
したがって、光造形法により三次元形状造形物を製造するにあたり、粒径が小さい粉末材料を用いつつも、粉末層10を薄くかつ均一に形成することにより、三次元形状造形物を高精度に製造することができる。
(実施形態2)
図3に実施形態2に係る製造装置を、図4に当該製造装置の動作を示す。実施形態1とは、切削除去された不要な粉末材料を回収する回収手段6が設けられている点で異なり、その他の点については同様である。
【0032】
ここで、回収手段6は、エアポンプ50およびエアポンプ50に接続された吸引ノズル51からなり、吸引ノズル51は、自在に移動することができるように、XY駆動機構40に設けられている。
【0033】
なお、実施形態2では、粉末層10の所定厚さの表面部13を切削除去するために線材43を用いている。粉末層10は、先に行われた加圧により、粉末どうしが圧着固化しているが、粉末層10の切削除去に線材43を用いることにより、切削除去された不要な粉末材料は、粉末どうしが分離し、回収しやすくなるからである。
【0034】
また、切削除去された不要な粉末材料の回収は、不要な粉末材料の切削除去と同時に行ってもよい。
【0035】
したがって、不要な粉末材料を再利用することが可能となる。
(実施形態3)
図5は、実施形態3に係る製造装置の要部概略斜視図である。
【0036】
テーブル20およびテーブル20全面を覆う加圧体41は略円柱形状をしており、加圧体41は、テーブル20上面と略平行に回転しながら、テーブル20上の粉末材料に上部から圧力を付加する。その結果、粉末材料は、テーブルの全面にならされて、厚さが薄くかつ均一な粉末層10になるとともに、加圧体41の回転により、不要な粉末材料は、テーブル20の外に押し出され、この不要な粉末材料を除去することができる。
【0037】
なお、テーブル20の外に押し出された不要な粉末材料を回収すれば、粉末材料の再利用が可能となる。不要な粉末材料の回収には、実施形態2で述べたようなエアポンプ50およびエアポンプ50に接続された吸引ノズル51からなる回収手段6を用いることができる。
【0038】
したがって、光造形法により三次元形状造形物を製造するにあたり、粒径が小さい粉末材料を用いつつも、粉末材料の層を薄くかつ均一に形成することにより、三次元形状造形物を高精度に製造することができる。
【0039】
なお、各実施形態に記載の事項は、適宜に選択し、組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1の一例に係る概略斜視図である。
【図2】同上の動作説明図である。
【図3】実施形態2の一例に係る概略斜視図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】実施形態3の一例に係る要部概略斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
3 加圧手段
4 粉末層切削手段
6 回収手段
10 粉末層
11 焼結層
13 表面部
41 加圧体
42 鋭利な刃物
43 線材
L 光ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで焼結層を形成し、この焼結層の上に粉末材料の新たな層を被覆して所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで下層の焼結層と一体になった新たな焼結層を形成することを繰り返して、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造するにあたり、
光ビームが照射されるテーブル上に供給された粉末材料に上部から圧力を付加することにより粉末どうしを圧着固化させてテーブルの全面にならす工程Aと、
その後、テーブルの全面にならされた粉末材料の所定厚さの表面部を切削除去する工程Bと、
を含むことを特徴とする三次元形状造形物の製造方法。
【請求項2】
工程Bに鋭利な刃物または線材を用いることを特徴とする請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項3】
工程Bと同時にまたは工程Bの後に、切削除去された不要な粉末材料を回収することを特徴とする請求項1または2に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項4】
粉末材料の層の所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで焼結層を形成し、この焼結層の上に粉末材料の新たな層を被覆して所定箇所に光ビームを照射して該当箇所の粉末を焼結することで下層の焼結層と一体になった新たな焼結層を形成することを繰り返して、複数の焼結層が積層一体化された三次元形状造形物を製造するにあたり、
光ビームが照射されるテーブル上に供給された粉末材料を、テーブル全面を覆いテーブル上面と略平行に回転する加圧体により、テーブルの全面にならしながら粉末材料の厚さを薄くかつ均一にするとともに不要な粉末材料をテーブルの外に除去する工程Cを含むことを特徴とする三次元形状造形物の製造方法。
【請求項5】
テーブルの外に除去された不要な粉末材料を回収することを特徴とする請求項4に記載の三次元形状造形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−291318(P2008−291318A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138123(P2007−138123)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】