説明

三次元立体編物成形物の成形方法及び三次元立体編物成形物

【課題】成形前の三次元立体編物と比較した際の厚み、圧縮復元性を低下させることなく成形できる三次元立体編物成形物の成形方法を提供する。
【解決手段】三次元立体編物10を、形状成形部12が上型21及び下型22によって加圧されない非加圧状態で該上型21及び下型22間にセットして成形する。加工対象の三次元立体編物10は、編み上げた後、ヒートセットして平板状の原反として提供されるため、ヒートセットを行うことにより、グランド地や連結糸は、編み上げ時よりも厚み方向に押圧された状態で熱変形されている。本発明は、このようにして提供された三次元立体編物10を、非加圧状態で上型21及び下型22間にセットして加熱するため、三次元立体編物10は、熱を受けることにより、グランド地や連結糸の残留応力が上型21及び下型22間で解放され、いわばヒートセット前の編み上げ時の状態に変形しようとして型に沿って変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元立体編物を用いた成形物の成形方法及び該成形方法により得られる三次元立体編物成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、三次元立体編物(三次元ネット材)を加熱圧縮成形し、ブラジャーカップ等に加工する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−31856号公報
【特許文献2】特開2000−199104号公報
【特許文献3】特開2005−154998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されているように、三次元立体編物を加熱圧縮して所定の成形物に成形すると、成形物を構成している三次元立体編物は、成形前と比較して厚みが薄くなり、圧縮復元性が劣化する。この点に鑑み、特許文献3では、加工対象となる三次元立体編物として特殊な生地特性等を有するものを用いることで、圧縮復元性を改善しているが、それでも、加工前の三次元立体編物の圧縮復元性に対し、得られた成形物の圧縮復元性は50%前後に過ぎない。また、加熱圧縮用の金型は製作コストが高く、製作期間も長く要する。
【0004】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、容易に成形できると共に、成形前の三次元立体編物と比較した際の厚み、圧縮復元性を低下させることなく成形できる三次元立体編物成形物の成形方法及び該成形方法により得られる三次元立体編物成形物を提供することを課題とする。また、金型構造を簡素化でき、金型の製作コスト、製作期間共に低減できる三次元立体編物成形物の成形方法及び該成形方法により得られる三次元立体編物成形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明では、三次元立体編物を上型及び下型間にセットして、加熱・冷却し、所定形状に成形する三次元立体編物成形物の成形方法であって、
前記三次元立体編物を、適宜部位を上型及び下型に係止し、少なくとも一部が上型及び下型によって加圧されない非加圧状態で該上型及び下型間にセットして成形することを特徴とする三次元立体編物成形物の成形方法を提供する。
請求項2記載の本発明では、成形時における前記上型及び下型間の少なくとも一部の間隔を、前記三次元立体編物の厚み以上に調整して成形することを特徴とする請求項1記載の三次元立体編物の成形方法を提供する。
請求項3記載の本発明では、前記上型及び下型に、前記三次元立体編物の端部付近を係止して成形することを特徴とする請求項1記載の三次元立体編物成形物の成形方法を提供する。
請求項4記載の本発明では、前記上型及び下型として、パンチングメタルから形成されたものを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の三次元立体編物成形物の成形方法を提供する。
請求項5記載の本発明では、航空機、自動車及び鉄道車両を含む輸送機器用の座席シートのクッション材又は座席シート用構造材の成形に適用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の三次元立体編物成形物の成形方法を提供する。
請求項6記載の本発明では、請求項1〜5のいずれか1に記載の三次元立体編物成形物の成形方法を用いて成形されることを特徴とする三次元立体編物成形物を提供する。
請求項7記載の本発明では、航空機、自動車及び鉄道車両を含む輸送機器用の座席シートのクッション材又は座席シート用構造材であることを特徴とする請求項6記載の三次元立体編物成形物を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、三次元立体編物を、少なくとも一部が上型及び下型によって加圧されない非加圧状態で該上型及び下型間にセットして成形することを特徴とする。加工対象の三次元立体編物は、編み上げた後、ヒートセットして平板状の原反として提供される。ヒートセットは、編み上げた際の表面の凹凸を矯正して平滑化するものであるため、ヒートセットを行うことにより、グランド地を構成するグランド糸や連結糸は、編み上げ時よりも厚み方向に押圧された状態で熱変形されている。本発明は、このようにして提供された三次元立体編物を、非加圧状態で上型及び下型間にセットして加熱するため、三次元立体編物は、熱を受けることにより、グランド地や連結糸の残留応力が上型及び下型間で解放され、いわばヒートセット前の編み上げ時の状態に変形しようとして型に沿って変形する。従って、所定形状に成形された三次元立体編物成形物は、厚みが加工前の三次元立体編物とほぼ同じか、それよりも厚くなっており、加熱圧縮して成形しているわけではないため、加工前の三次元立体編物とほぼ同程度の圧縮復元性が得られる。
【0007】
また、従来の加熱圧縮成形のように、金型の加圧力によって型形状に無理に沿わせる必要がなく、上記のように三次元立体編物自体の残留応力を利用してそれを熱によって解放することで型形状に沿わせるものである。このため、金型としては、加圧圧縮成形時に用いる金型よりも簡易な構成とすることができ、パンチングメタルを用いて製作することもできる。従って、金型の製作コストや製作期間も大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1及び図2は本実施形態の製造工程を示す図である。これらの図に示したように、まず、加工対象となる三次元立体編物10は、例えば、略方形、略円形など、金型20にセットしやすい所定の形状に裁断されたものを用いる。
【0009】
ここで、三次元立体編物10は、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。一方のグランド編地は、例えば、単繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)によって形成され、他方のグランド編地は、例えば、短繊維を撚った糸から、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編み目構造に形成されている。もちろん、この編地組織は任意であり、細目組織やハニカム状以外の編地組織を採用することもできるし、両者とも細目組織を採用するなど、その組み合わせも任意である。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、この一対のグランド編地間に編み込んだもので、三次元立体編物に所定の剛性を付与する。グランド編地を形成するグランド糸の太さは、三次元立体編物に必要な腰の強さを具備させることができると共に、編成作業が困難にならない範囲のものが選択される。
【0010】
グランド糸又は連結糸の素材としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の合成繊維や再生繊維、ウール、絹、綿等の天然繊維が挙げられるが、これらの素材は単独で用いてもよいし、これらを任意に併用することもできる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂類、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミド樹脂類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン樹脂類、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)あるいはこれらの樹脂を2種類以上混合した樹脂である。なお、ポリエステル系樹脂はリサイクル性に優れており好適である。また、グランド糸又は連結糸の糸形状は限定されるものではなく、丸断面糸でも異形断面糸等でもよい。
【0011】
連結糸は、表層と裏層のグランド編地中にループ状の編み目を形成してもよく、挿入組織で表層と裏層のグランド編地に引っかけた構造でもよいが、少なくとも2本の連結糸が表層と裏層の編地を互いに逆方向に斜めに傾斜して、クロス状(X状)やトラス状に連結することが、三次元立体編物の形態安定性を向上させる上で好ましい。
【0012】
なお、三次元立体編物は、相対する2列の針床を有する編機で編成することができる。このような編機として、ダブルラッセル編機、ダブル丸編機、Vベッドを有する横編機等がある。寸法安定性のよい三次元立体編物を得る上で、ダブルラッセル編機を用いるのが好ましい。三次元立体編物は、編み上げられた生機を、精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げる。ヒートセットは、例えば、150℃で1分間の乾熱で行われ、平滑な面を有する平板状に仕上げられる。仕上げ加工が行われた三次元立体編物は、例えば、ロール状に巻回されて原反として提供される。本実施形態では、ロール状に巻回された原反を所定長引き出し、上記のように所定形状に裁断される。
【0013】
所定形状に裁断された三次元立体編物10は、図1(a)に示したように、金型20を構成する上型21と下型22との間にセットされる。セットする際には、三次元立体編物10の適宜部位、例えば、端部11付近を上型21及び下型22に係止する。上型21と下型22に端部11付近を係止する手段は任意であり、例えば、該端部11付近が位置する上型21及び下型22の端部係止部21a,22aに、ピン部材などを用いて係止することもできるし、図2に示したように、上型21及び下型22の端部係止部21a,22aの間隔を、加工対象の三次元立体編物10の厚みよりも狭くなるように調整することで、端部係止部21a,22a間に挟持して係止できる。
【0014】
端部係止部21a,22a間に挟持される端部11以外の部分(以下、「形状成形部」という)12を成形する上型21及び下型22は、成形時において端部係止部21a,22aを除いた部分が、三次元立体編物10の形状成形部12を加圧しない間隔でセットされる。すなわち、図2に示したように、端部係止部21a,22aを除いた上型21及び下型22間の間隔は、加工対象である三次元立体編物10の厚みとほぼ同じかそれよりも広い間隔でセットされる。
【0015】
次に、図1(b)に示したように、金型20にセットした三次元立体編物10を、例えば、加熱炉30に収容して加熱処理する。三次元立体編物10は、上記のようにその形状成形部12が上型21及び下型22によって加圧されないようにセットされているため、三次元立体編物10を構成するグランド編地のグランド糸や連結糸は、残留応力によって、ヒートセット時の熱変形が解除されるように形態が安定するまで変形する。この結果、三次元立体編物の形状成形部12は、上型21と下型22との間で、加圧されていないにも拘わらず型内面に沿った形態に変形する。
【0016】
一方、端部係止部21a,22a間に挟持されている端部11は、本実施形態では、加工前の三次元立体編物10の厚みよりも狭くなるように調整しているため、該端部11のグランド糸や連結糸の変形は面方向になり、加工前の三次元立体編物10の厚みよりも薄くなるように変形する。端部11は、このように変形するため、厚み方向の弾力性は形状成形部12よりも小さくなるが、該端部11は、他の部材、例えば、自動車用シートのフレームとの連結代等として使用される部分であるため、厚みが薄くなることによって、連結のための縫製作業等が容易化する。
【0017】
金型20を構成する上型21及び下型22は、熱伝導性の高い材料を用いて製作することが好ましい。また、従来の加熱圧縮成形のように、金型20の加圧力によって型形状に沿わせたりする必要がないため、パンチングメタルを用いて簡易に製作することができる。
【0018】
なお、本実施形態における加熱時の温度は、加熱時間や三次元立体編物の厚み等によっても変化するが、ヒートセット時の温度以上であって三次元立体編物10を構成するグランド糸や連結糸の融点以下、例えば、3〜5分の加熱時間で、140〜170℃の加熱温度に設定することが好ましい。
【0019】
加熱処理後、例えば、約80℃以下になるまで強制冷却し(図1(c)参照)、脱型すると(図1(d)参照)、所望形状の三次元立体編物成形物50が得られる。得られた三次元立体編物成形物50は、上記のようにして成形されるため、形状成形部12の厚みが加工前よりも薄くならず、逆に、上型21と下型22との間の隙間によっては、加工前よりも厚くなり、ヒートセット前の編み上げ時の厚さに近くなり、厚み方向の弾力性、圧縮復元性が、加工前とほぼ同等か、それよりも大きくなっている。
【0020】
なお、本発明によって得られる三次元立体編物成形物の用途は任意であり、例えば、航空機、自動車及び鉄道車両を含む輸送機器用の座席シートのクッション材としても用いることができる。また、これらの座席シート用構造材であるバックボード、ガーニッシュ、あるいはフレーム補強用のパネル材などとして利用することもできる。また、これらの補強用のパネル材等として用いる場合には、4軸織物等の多軸織物、合成皮革等を接着等により積層すると、強度が向上するため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(a)〜(d)は、本発明の一の実施形態に係る三次元立体編物成形物の成形方法を説明するための図である。
【図2】図2は、加工対象である三次元立体編物を金型にセットした際の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 三次元立体編物
11 端部
12 形状成形部
20 金型
21 上型
22 下型
50 三次元立体編物成形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元立体編物を上型及び下型間にセットして、加熱・冷却し、所定形状に成形する三次元立体編物成形物の成形方法であって、
前記三次元立体編物を、適宜部位を上型及び下型に係止し、少なくとも一部が上型及び下型によって加圧されない非加圧状態で該上型及び下型間にセットして成形することを特徴とする三次元立体編物成形物の成形方法。
【請求項2】
成形時における前記上型及び下型間の少なくとも一部の間隔を、前記三次元立体編物の厚み以上に調整して成形することを特徴とする請求項1記載の三次元立体編物の成形方法。
【請求項3】
前記上型及び下型に、前記三次元立体編物の端部付近を係止して成形することを特徴とする請求項1記載の三次元立体編物成形物の成形方法。
【請求項4】
前記上型及び下型として、パンチングメタルから形成されたものを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の三次元立体編物成形物の成形方法。
【請求項5】
航空機、自動車及び鉄道車両を含む輸送機器用の座席シートのクッション材又は座席シート用構造材の成形に適用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の三次元立体編物成形物の成形方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の三次元立体編物成形物の成形方法を用いて成形されることを特徴とする三次元立体編物成形物。
【請求項7】
航空機、自動車及び鉄道車両を含む輸送機器用の座席シートのクッション材又は座席シート用構造材であることを特徴とする請求項6記載の三次元立体編物成形物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−107161(P2007−107161A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301792(P2005−301792)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】