説明

三次元組織構造体

【課題】移植手術に耐え得る、実際の手術に使用可能な、培養によって生産され得る人工組織またはシートの提供。さらには、細胞治療に代わる新たな治療法の提供。
【解決手段】特に、心筋以外の部分に由来する細胞を材料として移植手術に耐え得る人工組織を作製する。一部、特定の培養条件によって細胞を培養することによって予想外に組織化が進展し、かつ、培養皿から剥離し易いという性質をもつ人工組織を得ることにより達成される。さらには、スキャフォルドを用いず、成体の心臓を構成する心筋組織以外の部分に由来する筋芽細胞からなる、心臓疾患に適用するためのシート状三次元構造体が適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓に適用可能な三次元構造体に関し、詳細には、成体の心臓以外の部分に由来する細胞を含む、心臓に適用可能な三次元構造体に関する.さらに、本発明は、そのような三次元構造体を製造する方法に関する.
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞は、不可逆的損傷である[H0 KK, Anders0n KM, Kannel WB, Gr0ssman W, Levy D., Circulati0n. 1993;88: 107-115]。虚血性心疾患は、すべての心血管系の死の50%の原因であり、欝血性心不全の主要な原因である。欝血性心不全と診断された患者に関して、慢性心疾患の結果、1年死亡率は、20%である[American Heart Ass0ciati0n., Dallas, Tex: American Heart Ass0ciati0n; 2001]。現在臨床医が利用可能な治療の多くは、急性心筋梗塞に罹患した患者の予後を有意に改善し得る.血管形成術および血栓崩壊剤は、この急性心筋梗塞の原因を除去し得るが、閉塞発症から再灌流までの時間が、不可逆的心筋損傷の程度を決定する[Ryan TJ, Antman EM, Br00ks NH, Califf RM, Hillis LD, Hiratzka LF, Rapap0rt E, Riegel B, Russell R0, Smith EE III, Weaver WD, Gibb0ns RJ, Alpert JS, Eagle KA, Gardner TJ, Gars0n A Jr, Greg0rat0s G, Ryan TJ, Smith SC Jr., J Am C0ll Cardi0l. 1999;34: 890-911]。臨床的に使用されるどの薬剤も処置も、機能性収縮組織で心筋療痕を置換することにおいて、効力を示していない。正常な心筋細胞を再生するための新規な治療についての需要が存在する。
【0003】
心筋形成術が、欝血性心不全に罹患した患者における左心室(LV)機能を改善するための外科的方法として提唱されているが、心機能に対する効果は、不明のままである[C0rin WJ, Ge0rge DT, Sink JD et al., J Th0rac Cardi0vasc Surg 1992;104: 1662-71; Kratz JM, J0hns0n WS, Mukherjee R et al., J Th0rac Cardi0vasc Surg 1994;107: 868-78; Carpentier A, Chachques JC., Lancet. 1985;8840: 1267;およびHagege AA, Desn0s M, Chachques JCら、Preliminary rep0rt: f0ll0w-up after dynamic cardi0my0plasty. Lancet. 1990;335: 1122-4]。近年、生分解性足場を使用する生体操作した心臓移植片移植が、別の新規なストラテジーとして提唱されたが、これは、心筋層にほとんど付着しないのが原因で、心機能の改善において最小限の利点しか示していない[Le0r J, Etzi0n SA, Dar A et al., Circulati0n 2000;102[suppl III]III-56-III-61;およびLi RK, Jia ZQ, Weisel RD et al., Circulati0n 1999;100[suppl II]:II-63-II-69]。生体操作した心臓組織が、障害心筋層の再生についてレシピエント心臓と組織学的電気的統合を示し得ることが、要点であり得る。
【0004】
近年の組織工学の発達は、細胞外基質(ECM)に代わるいかなる生分解性代替物も用いずに細胞シートを三次元重層する、新規な技術を使用する機能性心臓組織の作製を可能にする見込みがある[0kan0 T, Yamada N, Sakai H, Sakurai Y., J Bi0med Mater Res. 1993;27: 1243-1251]。この新規な技術において、細胞間接合およびコンフルエントに培養された細胞単層内の接着タンパク質の両方が、完全に保存される。そして採取法により底部を採取された細胞シートを保存した内因性ECM[Kushida A, Yamat0 M, K0nn0 C, Kikuchi A, Sakurai Y, 0kan0 T., J Bi0med Mater Res 45: 355-362, 1999]が、レシピエント心臓との統合のための接着因子として、重要な役割を果す。さらに、この心筋細胞シートは、電気伝達する拍動性3-D心臓構築物である[Shimizu T, Yamat0 M, Akutsu T et al., Circ Res. 2002 Feb 22; 90(3): e40]。しかし、インビボ移植後に、心筋細胞シートがその機能を果すか否かは未知である。
【0005】
組織工学における最近の進歩は、種々の細胞および細胞外基質から構成される、移植可能な機能的組織を提供する可能性がある。
臓器(例えば、心臓、血管など)の移植に外来性組織を使用する際の主な障害は免疫拒絶反応である。同種異系移植片(または同種移植片、all0graft)と異種移植片(xen0graft)で起こる変化が最初に記述されたのは90年以上前のことである(Carrel A., 1907, J Exp Med 9:226-8; Carrel A., 1912., J Exp Med 9:389-92; Calne RY., 1970, Transplant Pr0c 2:550およびAuchincl0ss 1988, Transplantati0n 46: 1)。動脈移植片の拒絶反応は、病理学的には移植片の拡張(破裂に至る)または閉塞のいずれかを招く.前者の場合、細胞外マトリクスの分解により生じ、一方、後者は血管内細胞の増殖により起こる(Uretsky BF, Mulari S, Reddy S, et al., 1987, Circulati0n 76:827-34)。このような移植片の使用は、材料として非生体物質を使用することが多いことから、このような副作用という弊害がある。
【0006】
最近、生体物質を利用した治療法として細胞移植が注目されている。しかし、梗塞心臓におけるヒト筋芽細胞移植は、1。移植細胞の障害損失、2。レシピエント心の注入時の組織障害、3。レシピエント心への組織供給効率、4。不整脈の発生、5。梗塞部位全体への治療の困難などの欠点を有する。従って、細胞移植はそれほど成功しているとはいいがたい。
【0007】
心筋由来のシートが開発されているが、この心筋由来のシートは、免疫反応を考慮すると、通常自己の心筋を用いる必要があることからその応用には限界があるという問題が指摘される。
【0008】
従って、移植手術に耐え得る、実際の手術に使用可能な、培養によって生産され得る人工組織、三次元構造体またはシートを提供することが渇望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、移植手術に耐え得る、実際の手術に使用可能な、培養によって生産され得る人工組織またはシートを提供することを課題とする。本発明はまた、細胞治療に代わる新たな治療法を提供することを課題とする。特に、心筋以外の部分に由来する細胞を材料として移植手術に耐え得る人工組織を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、心筋以外の部分に由来する細胞を用いて三次元構造体を提供することによって達成された。上記課題は、一部、本発明において特定の培養条件によって細胞を培養することによって予想外に組織化が進展し、かつ、培養皿から剥離し易いという性質をもつ人工組織を見出したことによって達成された。
【0011】
本発明はまた、心筋以外の部分に由来する細胞を用いて三次元構造体を作製しても、心筋と同様に機能することが予想外に発見されたことによって達成された。
従って、本発明は以下を提供する。
【0012】
(非心臓シート・三次元構造体)
(1)成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む、心臓に適用可能な三次元構造体。
(2)上記細胞は幹細胞または分化細胞である、項目1に記載の三次元構造体。
(3)上記細胞は間葉系細胞である、項目1に記載の三次元構造体。
(4)上記細胞が筋芽細胞に由来する、項目1に記載の三次元構造体。
(5)上記筋芽細胞が骨格筋芽細胞である、項目4に記載の三次元構造体。
(6)上記細胞が線維芽細胞である、項目1に記載の三次元構造体。
(7)上記細胞が滑膜細胞である、項目1に記載の三次元構造体。
(8)上記細胞が幹細胞に由来する、項目1に記載の三次元構造体。
(9)上記細胞は、上記三次元構造体が適用される被験体に由来する、項目1に記載の三次元構造体。
(10)上記細胞は、上記三次元構造体が適用される被験体に由来しない、項目1に記載の三次元構造体。
(11)上記三次元構造体は、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、CD56、My0D、Myf5、my0geninおよびMRF4からなる群より選択される少なくとも1つの非成体心臓マーカーを発現する、項目1に記載の三次元構造体。
(12)上記構造体における非成体心臓マーカーは、骨格筋芽細胞における非心臓マーカーが発現するレベルの少なくとも50%のレベルで存在する、請求項11に記載の三次元構造体。
(13)上記三次元構造体は、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、CD56、My0D、Myf5およびmy0geninをすべて発現する、項目1に記載の三次元構造体。
(14)上記ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、CD56、My0D、Myf5およびmy0geninはいずれも、骨格筋芽細胞が発現するレベルの少なくとも約50%以上のレベルで存在する、項目13に記載の三次元構造体。
(15)上記ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、CD56、My0D、Myf5およびmy0geninはいずれも、骨格筋芽細胞が発現するレベルの少なくとも約100%以上のレベルで存在する、項目13に記載の三次元構造体。
(16)上記心筋以外の細胞は、心臓に由来しない細胞である、項目1に記載の三次元構造体。
(17)上記心臓への適用可能性は心筋への適用可能性を含む、項目1に記載の三次元構造体。
(18)単層の細胞シートを含む、項目1に記載の三次元構造体。
(19)複数の層の細胞シートを含む、項目1に記載の三次元構造体。
(20)上記複数の層の細胞シートは、生物学的に結合している、項目19に記載の三次元構造体。
(21)上記生物学的結合は、細胞外マトリクスによる結合、電気的結合およびスキャフォルドなしでの結合からなる群より選択される、項目20に記載の三次元構造体。
(22)項目1〜21に記載の三次元構造体を含む医薬。
(23)上記心臓は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症からなる群より選択される疾患または障害を伴う、項目22に記載の医薬。
(24)成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む、心臓に適用可能な三次元構造体を製造する方法であって、
a)水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性高分子がグラフティングされた細胞培養支持体上で、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を培養する工程;
b)培養液温度を、上記上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下とする工程;および
c)上記培養した細胞を、三次元構造体として剥離する工程;を包含する、方法。
(25)上記剥離時またはその前に、タンパク質分解酵素による処理がなされない、項目24に記載の方法。
(26)上記温度応答性高分子が、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、項目24に記載の方法。
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、移植可能な人工組織が提供される。このような組織は、従来技術では達成不可能な大きさを達成し、しかも強度も優れていることから、従来人工物での移植処置が考えられなかった部位の処置が可能になった。本発明によって、心筋のみならずそれ以外の部分に由来する細胞を材料として人工組織または三次元構造体を提供することが可能となった。従って、自己の心筋以外の部分を材料として移植治療を行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1−1】図1−1は、本発明の人工組織を温度応答性重合体を用いて作製する例である。
【図1−2】図1−2は、本発明の人工組織を温度応答性重合体を用いて作製する別の例である。
【図2】図2は、本発明の人工組織を用いる治療法と、細胞療法とを比較する例である。
【図3】図3は、本発明の人工組織を用いる治療スキーム例である。
【図4】図4は、細胞移植による心筋再生治療の限界を示す図である。細胞を移植するだけでは、右に示されるに細胞が完全には傷害部位を治癒しない。
【図5】図5は、足場を用いた組織移植の限界を示す図である。
【図6】図6は、本発明の人工組織を用いた梗塞心臓への移植例を示す。
【図7】図7は、移植後の本発明の人工組織の様子を示す。左側は移植後2週間、右側は移植後8週間を示す。左側のパネルの上はHE染色を示し、そのうち左側は100倍、右側は200倍を示す。左側のパネルの下は第VIII因子染色を示し、右側はコネキシン43染色を示す。右側のパネルは、HE染色を示し、上は40倍を示し、下は100倍を示す。
【図8】図8は、本発明の人工組織の心機能評価例を示す。ここでは、超音波エコーの図を示す。左はコントロールであり、右は心筋細胞シートを示す。
【図9】図9は、本発明の人工組織の心機能評価例を示す。ここでは、拍出率(EF)、拍出率短縮(FS)、収縮末期面積(ESA)を示す。四角は心筋細胞シートであり、三角はコントロールを示す。左側のパネルの写真は、超音波エコー写真を示す。この写真の上はコントロールであり、下は心筋細胞シートを示す。
【図10】図10は、本発明の人工組織の電気生理学的評価の手法を示す。右側は、電位の変化を示す模式図であり、右側は閾値を数値化したものを示す。右側には、コントロール、本発明の線維芽細胞シートおよび心筋細胞シートを示す。
【図11】図11は、本発明の人工組織の電気生理学的評価を示す。左上は正常心臓、左下は梗塞モデル、右下は心筋細胞シートによる治療を示す。
【図12】図12は、本発明の方法における筋芽細胞の単離および培養法の例である。
【図13】図13は、本発明の方法における筋芽細胞により構成される人工組織の培養例である。
【図14】図14は、本発明の筋芽細胞の人工組織を用いた実験スキーム例を示す。
【図15】図15は、本発明の筋芽細胞の人工組織を移植して4週間後の様子を示す写真である。各々10倍、200倍、1000倍を示す。
【図16】図16は、本発明の筋芽細胞の人工組織を用いた移植手術例を示す。
【図17】図17は、本発明の筋芽細胞の人工組織を用いた移植例における組織染色を示す。上段は、右から人工組織、細胞注射およびコントロールを示す(×10)。下段は、その400倍の写真を示す。
【図18】図18は、本発明の筋芽細胞の人工組織を用いた移植例における超音波エコー図(上段)およびMモード分析(下段)の結果例を示す。左側は梗塞心であり、右側は処置後を示す。
【図19】図19は、本発明の筋芽細胞の人工組織を用いた移植例における人工組織の心機能検査の結果例を示す。ここでは、拍出率(EF)、拍出率短縮(FS)、収縮末期面積(ESA)、E波(E−Wave)を示す。ひし形は筋芽細胞の人工組織を示し、四角は筋芽細胞の細胞注射例を示す。三角はコントロールである。
【図20】図20は、本発明の筋芽細胞の人工組織と筋芽細胞との壁圧の比較を示す例である。各写真(左上は人工組織、右上は細胞注射、右下はコントロール)の結果をまとめたものを左下のグラフに示す。
【図21】図21は、本発明の筋芽細胞の人工組織とコントロールとのデスミン染色、第VIII因子染色およびGFP発現の比較を示す例である。上段は、左側にデスミン染色(人工組織)を示し、右側にGFP発現(人工組織)の様子を示す。真ん中にGFP発現のコントロールを示す。下段は第VIII因子染色を示す。下段は右川人工組織、細胞注射、コントロールを示す。
【図22−1】図22−1は、本発明の人工組織を用いた場合の電気生理学的結合を示す図である。A〜Cはコントロールを示し、D〜Fは筋芽細胞の人工組織を示す。筋芽細胞の人工組織は、電気生理学的結合が観察される。
【図22−2】図22−2は、本発明の人工組織を用いた場合の電気生理学的結合を示す図である。A〜Cはコントロールを示し、D〜Fは筋芽細胞の人工組織を示す。筋芽細胞の人工組織は、電気生理学的結合が観察される。
【図23】図23は、本発明の人工組織を用いた場合のGFP発現を示す図である。GFPの発現の様子を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。
【図24】図24は、本発明の人工組織を用いた処置における超音波エコーによる分析例を経時的に示す。本発明の処置による梗塞心の超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。
【図25】図25は、本発明の人工組織を用いた処置における超音波エコーによる分析例を経時的に示す。Aはコントロールを示し、Bは本発明の人工組織を用いた場合を示す。超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。左側は梗塞心のコントロールであり、右側は本発明の筋芽細胞シートでの結果を示す。
【図26】図26Aは、本発明の人工組織を用いた処置における超音波エコーによる分析例を示す。別の時点での図25とおなじサンプルを示した写真である。超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。左側は梗塞心のコントロールであり、右側は本発明の筋芽細胞シートでの結果を示す。図26Bは、本発明の人工組織を用いた処置における超音波エコーによる分析例を示す。別の時点での図25とおなじサンプルを示した写真である。超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。左側は梗塞心のコントロールであり、右側は本発明の筋芽細胞シートでの結果を示す。図26Cは、本発明の人工組織を用いた処置における超音波エコーによる分析例を示す。別の時点での図25とおなじサンプルを示した写真である。超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。左側は梗塞心のコントロールであり、右側は本発明の筋芽細胞シートでの結果を示す。
【図27】図27は、本発明の人工組織を用いた処置における超音波エコーによる分析例を示す。本発明の処置による梗塞心の超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。
【図28】図28は、RT−PCRによる細胞生着性を示す。
【図29】図29は、移植筋芽細胞シートの移植後の変化を示す。
【図30−1】図30−1は、心筋症ハムスターにおいて本発明の筋芽細胞を用いた人工組織のマッソントリクローム染色例を示す。上段は、シート(人工組織)移植、細胞移植、コントロールを示す(×10)。下段は、それぞれの拡大図(×40)である0
【図30−2】図30−2は、心筋症ハムスターにおいて本発明の筋芽細胞を用いた人工組織の組織学を示す。(筋芽細胞シートは、拡張型心筋症心に生着し、心室壁を肥厚化する)。
【図30−3】図30−3は、α−サルコグリカンの発現量の比較を示す。(筋芽細胞シートの移植によりα−sarc0glycanの発現が増強する)
【図30−4】図30−4は、β−サルコグリカンの発現量の比較を示す。(筋芽細胞シートの移植によりβ−sarc0glycanの発現が増強する)
【図31】図31は、心筋症ハムスターにおいて本発明の筋芽細胞を用いた人工組織(シート)の移植後の生存率を示す。細胞そのものの注入と人工組織の投与の比較を示す。
【図32】図32は、本発明の人工組織の移植後の電気的特性を示す。左側に心筋細胞の人工組織を示し、右側に筋芽細胞を用いた人工組織を示す。
【図33−1】図33−1は、本発明の人工組織の拡張型心筋症ハムスターにおける治療例を示す。左側にEFを示し、右側上にHE染色を示し、右側下にマッソントリクローム染色を示す。
【図33−2】図33−2は、48週でのエコー結果を示す(筋芽細胞シート移植にて拡張型心筋症心の心機能が向上する)。
【図33−3】図33−3は、48週でのエコー(左室収縮能)を示す(筋芽細胞シート移植により拡張型心筋症の左室収縮能は改善する)。
【図34】図34は、本発明の人工組織のブタ梗塞モデルにおける治療例を示す。
【図35】図35は、本発明の人工組織のブタ梗塞モデルにおける治療効果を収縮能で示す。
【図36】図36は、本発明の人工組織のブタ梗塞モデルにおける治療効果を拡張能で示す。
【図37】図37は、アスコルビン酸なしでの人工組織生産法で生産されたシートを示す。
【図38】図38は、本発明の人工組織生産法におけるアスコルビン酸ありでの人工組織生産法で生産された人工組織を示す。
【図39】図39は、本発明の人工組織生産法におけるアスコルビン酸ありでの人工組織生産法で生産された人工組織におけるHE染色を示す。
【図40】図40は、応力および歪みの特性を測定することによって引っ張り強さを決定するための手法を示す。
【図41】図41は、荷重除荷曲線を得るための方法を示す。
【図42】図42は、滑膜細胞をアスコルビン酸2リン酸存在下で培養したときの組織の様子を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0017】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
(再生医療)
本明細書において使用される「再生」(regenerati0n)とは,個体の組織の一部が失われた際に残った組織が増殖して復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し、不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には、生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し、さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨および末梢神経の再生医療がある。神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。近年、これらの組織へ分化し得る能力および自己増殖能を併せ持った組織幹細胞(体性幹細胞)の存在が報告され、組織幹細胞を用いる再生医療への期待が高まっている。胚性幹細胞(ES細胞)はすべての組織に分化する能力をもった細胞であり、それを用いた腎臓、肝臓などの複雑な臓器の再生が試みられているが実現には至っていない・
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリンーエオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0018】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「plurip0tency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは胚性幹細胞であり得るが、状況に応じて組織幹細胞も使用され得る。
【0019】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0020】
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0021】
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような間葉由来でもよい・好ましくは、体細胞は、間葉系由来の細胞が使用され得る。
【0022】
本発明の人工組織、三次元構造体を構成する細胞としては、例えば、上述の外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する分化細胞または幹細胞が使用され得る。このような細胞としては、例えば、間葉系の細胞が挙げられる。ある実施形態では、このような細胞として、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、線維芽細胞、滑膜細胞などが使用され得る。このような細胞としては、分化細胞をそのまま利用したり、幹細胞をそのまま利用することもできるが、幹細胞から所望される方向に分化させた細胞を使用することができる。
【0023】
本明細書において「間葉系幹細胞」とは、間葉に見出される幹細胞をいう。本明細書ではMSCと略されることがある。ここで、間葉とは、多細胞動物の発生各期に認められる上皮組織間の間隙をうめる星状または不規則な突起をもつ遊離細胞の集団と、それに伴う細胞間質によって形成される組織をいう。間葉系幹細胞は、増殖能と、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、ストローマ細胞、腱細胞、脂肪細胞への分化能を有する。間葉系幹細胞は、患者から採取した骨髄細胞等を培養または増殖、軟骨細胞あるいは骨芽細胞に分化させるために使用され、または歯槽骨、関節症等の骨、軟骨、関節などの再建材料として使用されており、その需要は大きい。また、間葉系幹細胞は、血液細胞、リンパ系細胞へも分化し得ることから、その需要がますます高まっている。従って、本発明の間葉系幹細胞または分化した間葉系幹細胞を含む人工組織または三次元構造体は、これらの用途において構造体が必要である場合に特に有用である。
【0024】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞、組織などとは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。組織についていう場合、単離された組織とは、その組織以外の物質(例えば、人工組織の場合は、その人工組織を作製するに際して使用された物質、足場、シート、コーティングなど)が実質的に含まれていない状態の組織をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まなし\核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
【0025】
本明細書において「無傷である」とは、人工組織、三次元構造体などについて言及する場合、物理的な外傷がないことをいい、その人工組織などを作製した後、作製に使用された環境から分離する際に与えられる物理的衝撃などによる外傷などが実質的にないことをいう。
【0026】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0027】
本明細書において、「非胚性」とは、初期胚に直接由来しないことをいう。従って、初期胚以外の身体部分に由来する細胞がこれに該当するが、胚性幹細胞に改変(例えば、遺伝的改変、融合など)を加えて得られる細胞もまた、非胚性細胞の範囲内にある。
【0028】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいし\幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0029】
本明細書において「組織」(tissue)とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って細胞の単なる集合体であり得ず、ある機能と構造を備えた有機的細胞集団,社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜、関節および骨の組織が挙げられるがそれらに限定されない。
【0030】
本明細書において「人工組織」とは、天然の状態とは異なる組織をいう。本明細書において、代表的には、人工組織は、細胞培養によって調製される。生物の中に存在する形態の組織をそのまま取り出してきたものは本明細書では人工組織とはいわない・人工組織は、生体に由来する物質および生体に由来しない物質を含み得る。本発明の人工組織は、通常細胞および/または生体物質で構成されるが、それ以外の物質を含んでいてもよい・より好ましくは、本発明の人工組織は、実質的に細胞および/または生体物質のみで構成される。このような生体物質は、好ましくはその組織を構成する細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクスなど)であることが好ましい。
【0031】
本明細書において「移植可能な人工組織」とは、人工組織のうちで、実際の臨床において移植することができ、移植後も少なくとも一定期間移植された部位において組織としての役割を果たすことができる人工組織をいう。移植可能な人工組織は通常、十分な強度、十分な大きさ、十分な無孔性、十分な厚み、十分な生体適合性、十分な生体定着性などを有する。
【0032】
移植可能な人工組織において十分な強度は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その強度を設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の強度を有することが好ましく、そのような強度は、通常、引っ張り強さについて移植を目的とする部分の天然の強度の少なくとも約50%であり、好ましくは少なくとも約60%であり、より好ましくは約70%、さらに好ましくは約80%であり、もっとも好ましくは少なくとも約100%である。そのような強度は、後述の応力、歪み特性を測定したり、クリープ特性イデンテーション試験を行うことによって測定され得る。
【0033】
移植可能な人工組織において十分な大きさは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その大きさを設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の大きさを有することが好ましく、そのような大きさは、通常、面積について少なくとも1cmであり、好ましくは少なくとも2cmであり、より好ましくは少なくとも3cmである。さらに好ましくは少なくとも4cmであり、少なくとも5cmであり、少なくとも6cmであり、少なくとも7cmであり、少なくとも8cmであり、少なくとも9cmであり、少なくとも10cmであり、少なくとも15cmであり、あるいは少なくとも20cmであり得る。
【0034】
移植可能な人工組織において十分な無孔性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その無孔性を設定することができる。本明細書において「無孔性」とは、孔がない状態をいう。ここで、孔とは、その人工組織において体液またはその同等物(例えば、水溶液など)を漏らす程度の実質的な大きさを有する穴をいう。従って、無孔性を調べるためには、その人工組織を水平に配置し、その上に体液またはその同等物を配置し、その体液またはその同等物が漏れないかどうかを確認し、このときに漏れない場合は無孔性であると判定することができる。
【0035】
移植可能な人工組織において十分な厚みは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その厚みを設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の厚みを有することが好ましく、そのような厚みは、通常、少なくとも約50μmであり、好ましくは少なくとも約100μmであり、より好ましくは約150μmであり、さらに好ましくは少なくとも約200μm、少なくとも約300μm、少なくとも約400μm、少なくとも約500μm、少なくとも約600μm、少なくとも約700μm、少なくとも約800μm、少なくとも約900μm、少なくとも約1mmであり得る。心臓へ移植する場合は、この最低限の厚みさえ有していればよいが、他の用途が意図される場合、厚みはより厚い方がよい場合があり得、そのような場合、例えば、少なくとも2mm、より好ましくは少なくとも3mm、さらに好ましくは5mmであることが意図される。
【0036】
移植可能な人工組織において十分な生体適合性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体適合性の程度を設定することができる。通常、所望される生体適合性としては、例えば、炎症などを起こさず、免疫反応を起こさずに、周囲組織と生物学的結合を行うことなどが挙げられるが、それらに限定されない・場合によって、例えば、角膜などでは、免疫反応を起こしにくいことから、他の臓器において免疫反応を起こす可能性がある場合でも、本発明の目的では生体適合性を有するとすることができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、細胞外マトリクスの存否、免疫反応の存否、炎症の程度などが挙げられるがそれらに限定されない・そのような生体適合性は、移植後における移植部位での適合性を見ること(例えば、移植された人工組織が破壊されていないことを確認する)によって判定することができる(ヒト移植臓器拒絶反応の病理組織診断基準鑑別診断と生検標本の取り扱い(図譜)腎臓移植、肝臓移植および心臓移植日本移植学会日本病理学会編、金原出版株式会社(1998)を参照)。この文献によれば、Grade 0、1A、1B、2、3A、3B、4に分けられ、Grade 0(n0 acute rejecti0n)は、生検標本に急性拒絶反応、心筋細胞障害などを示す所見がない状態である。GradeIA(f0cal, mild acute rejecti0n)は、局所的、血管周囲または間質に大型リンパ球が浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。この所見は、1つまたは複数の生検標本で認められる。Grade 1B(diffuse, mild acute rejecti0n)は、血管周囲、間質またはその両方に大型リンパ球がよりびまん性に浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。Grade 2(f0cal, m0derate acute rejecti0n)は、明瞭に周囲と境界された炎症細胞浸潤巣がただ一箇所で見出されるような状態である。炎症細胞は、大型の活性化されたリンパ球からなり、好酸球をまじえることもある。心筋構築の改変を伴った心筋細胞傷害が病変内に認められる。Grade 3A(multif0cal, m0derate acute rejecti0n)は、大型の活性化したリンパ球からなる炎症細胞浸潤巣が多発性に形成され、好酸球をまじえることもある状態である。これらの多発性の炎症性の炎症細胞浸潤巣の2箇所以上が心筋細胞傷害を伴っている。ときに、心内膜への粗な炎症細胞浸潤を伴っている。この浸潤巣は生検標本のひとつまたは複数の標本で認められる。Grade 3B(multif0cal, b0rderline severe acute rejecti0n)は、3Aで見られた炎症細胞浸潤巣がより融合性またはびまん性となり、より多くの生検標本で認められる状態である。大型リンパ球および好酸球、ときに好中球を交える炎症細胞浸潤とともに、心筋細胞傷害がある。出血はない。Grade 4(severe acute rejecti0n)は、活性化したリンパ球、好酸球、好中球を含む多彩な炎症細胞浸潤がびまん性に認められる。心筋細胞傷害と心筋細胞壊死とは常に存在する。浮腫、出血、血管炎も通常認められる。「Quilty」効果とは異なる心内膜への炎症細胞浸潤が通常認められる。かなりの期間、免疫抑制剤で強力に治療されている場合には、細胞浸潤よりも浮腫と出血とが顕著となり得る。
【0037】
移植可能な人工組織において十分な生体定着性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体定着性の程度を設定することができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、移植された人工組織と移植された部位との生物学的結合性などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体定着性は、移植後における移植部位での生物学的結合の存在によって判定することができる。本明細書において好ましい生体定着性とは、移植された人工組織が移植された部位と同じ機能を発揮するように配置されていることが挙げられる。
【0038】
本明細書において「膜状組織」とは、「平面状組織」ともいい、膜状の組織をいう。膜状組織には、心膜、硬膜、角膜などの器官の組織または袋状組織の一定面積部分の組織などが挙げられる。
【0039】
本明細書において「臓器」と「器官」(0rgan)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、膀帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない・このような臓器または器官はまた、表皮系、膵実質系、膵管系、肝系、血液系、心筋系、骨格筋系、骨芽系、骨格筋芽系、神経系、血管内皮系、色素系、平滑筋系、脂肪系、骨系、軟骨系などの器官または臓器が挙げられるがそれらに限定されない。
【0040】
本明細書において「袋状臓器」とは、三次元方向に一定の広がりを持ち、その臓器の内部は管状の組織によって外部と接続され得る臓器をいい、例えば、心臓、肝臓、腎臓、胃、脾臓などが挙げられる。
【0041】
1つの実施形態では、本発明が対象とする器官は、血管系に関連する臓器または器官、好ましくは虚血性の器官(心筋梗塞を起こした心臓、虚血を起こした心臓など)が挙げられる。1つの好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨である。別の好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、心臓、心臓弁、心膜および血管である。
【0042】
本明細書において、ある部分(例えば損傷部位)の周囲に人工組織、三次元構造体などを、r巻く」とは、その人工組織などを、その部分を覆うように(すなわち、損傷などがかくれるように)配置することをいい、その部分を「覆うように配置」すると交換可能に用いられる。ある部分を覆うように配置したかどうかは、その部分と配置された人工組織または三次元構造体などとの間の空間的配置を確認することによって判定することができる。好ましい実施形態では、巻く工程によって、ある部位にはその人工組織などが一回転するように巻き付けられることができる。
【0043】
本明細書において「人工組織と部分とが生物学的に結合するに十分な時間」は、その部分と人工組織との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。従って、この場合、長ければ長いほど好ましいといえるが、実質的には極端に長い場合は、実質的に補強が完了したといえる。
【0044】
本明細書において「免疫反応」とは、移植片と宿主との間の免疫寛容の失調による反応をいい、例えば、超急性拒絶反応(移植後数分以内)(β−Galなどの抗体による免疫反応)、急性拒絶反応(移植後約7〜21日の細胞性免疫による反応)、慢性拒絶反応(3ヵ月以降の細胞性免疫による拒絶反応)などが挙げられる。
【0045】
本明細書において免疫反応を惹起するかどうかは、HE染色などを含む染色、免疫染色、組織切片の検鏡によって、移植組織中への細胞(免疫系)浸潤について、その種、数などの病理組織学的検討を行うことにより判定することができる。
【0046】
本明細書において「石灰化」とは、生物体で石灰質が沈着することをいう。
本明細書において生体内で「石灰化する」かどうかは、カルシウム濃度を測定することによって判定することができ、移植組織を取り出し、酸処理などにより組織切片を溶解させ、その溶液を原子吸光度などの微量元素定量装置により測定し、定量することができる。
【0047】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in viv0)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
【0048】
本明細書において「インビトロ」(in vitr0)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0049】
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0050】
本明細書において「細胞に由来する物質」とは、細胞を起源とする物質すべてをいい、細胞を構成する物質の他、細胞が分泌する物質。代謝した物質などをが含まれるがそれらに限定されない。代表的な細胞に由来する物質としては、細胞外マトリクス、ホルモン、サイトカインなどが挙げられるがそれらに限定されない。細胞に由来する物質は、通常、その細胞およびその細胞の宿主に対して有害な影響をもたらさないことから、そのような物質は人工組織、三次元構造体などに含まれていても通常悪影響を有しない。
【0051】
本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(s0matic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、通常細胞が産生し、従って生体物質の一つである。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞や内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(micr0fibril)、線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。本発明の1つの実施形態では、本発明の人工組織、三次元構造体などは、細胞外マトリクス(たとえば、エラスチン、コラーゲン(例えば、1型、IV型など)、ラミニンなど)は、移植が企図される器官の部位における細胞外マトリクスの組成に類似することが有利であり得る。本発明において、細胞外マトリクスは、細胞接着分子を包含する。本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesi0n m0lecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesi0n m0lecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesi0n m0lecule)に分けられる。本発明の人工組織、三次元構造体は、通常、このような細胞接着分子を含む。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞一基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
【0052】
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。従って、1つの実施形態では、本発明の人工組織、三次元構造体などは、このようなカドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子などの組成もまた、移植が意図される部位と同程度の組成であることが好ましい。
【0053】
このように多種多様な分子が細胞接着に関与しており、それぞれの機能は異なっていることから、当業者は、目的に応じて、適宜本発明の人工組織、三次元構造体に含まれるべき分子を選択することができる。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス −臨床への応用− メディカルレビュー社に記載されている。
【0054】
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。従って、本発明の組織片において用いられる接着因子としては、そのような細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達するものが好ましい。細胞活性化により、組織片としてある組織または臓器における損傷部位に適用された後に、そこに集合した細胞および/または組織もしくは臓器にある細胞の増殖を促すことができるからである。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
【0055】
細胞接着分子としては、例えば、組織固着性の細胞系に広く知られる細胞接着分子としてカドヘリンがあり、カドヘリンは、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。一方,非固着性の血液・免疫系の細胞では,細胞接着分子としては、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリー分子(CD2、LFA−3、ICAM−1、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1など);インテグリンファミリー分子(LFA−1、Mac−1、gplIblIIa、p150、95、VLA1、VLA2、VLA3、VLA4、VLA5、VLA6など);セレクチンファミリー分子(L−セレクチン,E−セレクチン,P−セレクチンなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、そのような分子は、血液・免疫系の組織または臓器を処置するための特に有用であり得る。
【0056】
細胞接着分子は、非固着性の細胞が特定の組織で働くためにはその組織への接着が必要となる。その場合,恒常的に発現するセレクチン分子などによる一次接着、それに続いて活性化されるインテグリン分子などの二次接着によって細胞間の接着は段階的に強くなると考えられている。従って、本発明において用いられる細胞接着分子としては、そのような一次接着を媒介する因子、二次接着を媒介する因子、またはその両方が一緒に使用され得る。
【0057】
本明細書において「組織損傷率」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、処理後の組織または器官がどの程度損なわれ傷ついているかの指標であり、その組織または器官の本来の機能を発揮することができるかどうかの指標である。本明細書において組織損傷率を測定する方法は、当該分野において公知であり、例えば、エラスチン断裂部位を計数することによって判定することができる。本明細書において用いられる方法では、一視野を100μm×100μmごとのユニットに区切り、ユニットを単位としてエラスチン断裂部位がある場合にカウントして算出した。一視野あたり24ユニットが存在した。HE染色により組織切片における細胞外マトリクスの検鏡により計数し、未処理組織を0%となるように規定し、損傷率=x/24で算出する。この場合未処理をx=0として規定する。
【0058】
本明細書において「組織強度」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、その組織または器官の物理的強度である。組織強度は一般に、引っ張り強さ(例えば、破断強度、剛性率、ヤング率など)を測定することによって判定することができる。そのような一般的な引っ張り試験は周知である。一般的な引っ張り試験によって得られたデータの解析により、破断強度、剛性率、ヤング率などの種々のデータを得ることができ、そのような値もまた、本明細書において組織強度の指標として用いることができる。本明細書では、通常、臨床適用することができる程度の組織強度を有することが必要とされる。
【0059】
ここで、本発明の人工組織、三次元構造体などが有する引っ張り強さは、応力・歪み特性を測定することによって測定することができる。手短に述べると、試料に荷重を加え、例えば、1chは歪み、2chは荷重の各々のAD変換器(例えば、ELK−5000)に入力して、応力および歪みの特性を測定することによって引っ張り強さを決定することができる(図40)。引っ張り強さはまた、クリープ特性を試験することによっても達成することができる。クリープ特性インデンテーション試験とは、一定の荷重を加えた状態で時間とともにどのように伸びていくかを調べる試験である。微小な素材、薄い素材などのインデンテーション試験は、先端の半径0.1〜1μm程度の、例えば、三角錐の圧子を用いて実験を行う。まず、試験片に対して圧子を押し込み、負荷を与える。そして、試験片に数十nmから数μm程度押し込んだところで、圧子を戻し除荷する。このような試験方法によって得られる荷重除荷曲線を図41に示す。この曲線から得られた負荷荷重と押し込み深さの挙動とによって硬さ、ヤング率などを求めることができる。
【0060】
1つの好ましい実施形態では、本発明の人工組織、三次元構造体が有する引っ張り強さは、通常移植を目的とする部分の天然の強度の少なくとも約50%であり、好ましくは少なくとも約60%であり、より好ましくは約70%、さらに好ましくは約80%であり、もっとも好ましくは少なくとも約100%である。
【0061】
あるいは、ある実施形態において、本発明の人工組織は、天然の組織(例えば、臨床適用が意図される部分(例えば、心臓など))が有する組織強度の少なくとも約75%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上であり得、天然の組織が有する組織強度以上の値を有していてもよい。ここで、天然の組織が有する組織強度とは、その天然での状態で所望の目的の組織が有する組織強度をいう。十分に強い組織強度は、膜状以外の組織(例えば、管状組織)を適用する場合にも有することが好ましい特性である。管状組織の場合、組織強度は、β値で表すことができる。β値の算出方法は、本明細書の別の場所において詳述し、実施例においても例示した。ある実施形態において、本発明の人工組織は、約15以上のβ値の組織強度を有し、好ましくは、約18以上のβ値の組織強度を有し、より好ましくは約20以上のβ値の組織強度を有し、さらに好ましくは約22以上のβ値の組織強度を有する。別の実施形態において、本発明の人工組織は、処理前の組織が有していたβ値の少なくとも約75%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上であり得、未処理状態での(もともと有していた)β値以上の値を有していてもよい。ここで、組織が未処理状態での特性(例えば、β値)とは、その組織の処理(例えば、本発明の1,2−エポキシド高分子での処理)の前(例えば、天然での状態)で有していた特性をいう。従って、例えば、もともとの組織が25のβ値を有していた場合は、好ましくは、本発明の人工組織は、17.5以上、好ましくは20以上、より好ましくは21.25以上、さらに好ましくは22.5以上のβ値を有し得る。
【0062】
本明細書において管状組織の場合、組織強度は、剛性パラメータ(β値)で表現することができる。β値は、P−D(圧力直径)関係を作製した後、
Ln(P/Ps)=β(D/Ds−1) (1)
で算出することができる。PsおよびDsは、100mmHgでの標準値を示す。PおよびD各々のP(圧力)における直径(D)の値を示す。
【0063】
血管などの管状組織の両端をパイプ状のユニットに固定し、生理食塩水中に内室および外室を満たす。この状態から、内室へ圧力を外武装置より加えていくと同時に、その加圧時の外径をモニタリングする。その測定によって得られる圧力と、外径との関係を上記(1)の式に導入して、β値を算出する(S0n0da H, Takamizawa K., et al. J. Bi0med. Matr. Res. 2001:266-276)。
【0064】
本明細書において「生理活性物質」(physi0l0gically activesubstance)とは、細胞または組織に作用する物質をいう。生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。本発明において、生理活性物質は、本発明の人工組織の移植の際に、定着を促進するためなどに使用され得る。
【0065】
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制禦作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0066】
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
【0067】
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられる。
【0068】
サイトカインおよび増殖因子などの細胞における生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の治療法または医薬の好ましい実施形態において使用することができる。
【0069】
従って、1つの実施形態において、本発明は、このようなサイトカインまたは増殖因子(例えば、HGF)を、移植部位(例えば心筋移植部位)に本発明の人工組織または三次元構造体と同時に投与することによって、人工組織または三次元構造体の定着および移植部位の機能向上が見られることが明らかにされ、そのような併用療法を提供する。
【0070】
本明細書において「分化」とは、細胞、組織または器官のような生物の部分の状態の発達過程であって、特徴のある組織または器官を形成する過程をいう。「分化」は、主に発生学(embry0l0gy)、発生生物学(devel0pmental bi0l0gy)などにおいて使用されている。1個の細胞からなる受精卵が分裂を行い成体になるまで、生物は種々の組織および器官を形成する。分裂前または分裂が十分でない場合のような生物の発生初期は、一つ一つの細胞や細胞群が何ら形態的または機能的特徴を示さず区別することが困難である。このような状態を「未分化」であるという。「分化」は、器官のレベルでも生じ、器官を構成する細胞がいろいろの違った特徴的な細胞または細胞群へと発達する。これも器官形成における器官内での分化という。従って、本発明の人工組織、三次元構造体は、分化した状態の細胞を含む組織を用いてもよい。
【0071】
本明細書において「移植片」、「グラフト」および「組織グラフト」は、交換可能に用いられ、身体の特定部位に挿入されるべき同種または異種の組織または細胞群あるいは人工物であって、身体への挿入後その一部となるものをいう。従って、本発明の人工組織、三次元構造体は、移植片として用いることができる。移植片としては、例えば、臓器または臓器の一部、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、移植片には、ある部分の欠損部に差し込んで欠損を補うために用いられるものすべてが包含される。移植片としては、そのドナー(d0n0r)の種類によって、自己(自家)移植片(aut0graft)、同種移植片(同種異系移植片)(all0graft)、異種移植片が挙げられるがそれらに限定されない。
【0072】
本明細書において自己移植片(組織、細胞、臓器など)または自家移植片(組織、細胞、臓器など)とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。本明細書において自己移植片(組織、細胞、臓器など)というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵」性双生児)からの移植片(組織、細胞、臓器など)をも含み得る。本明細書では、このような自己との表現は、被験体に由来すると交換可能に使用される。従って、本明細書では、ある被験体に由来しないとの表現は、自己ではない(すなわち、非自己)と同一の意味を有する。
【0073】
本明細書において同種移植片(同種異系移植片)(組織、細胞、臓器など)とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。遺伝的に異なることから、同種異系移植片(組織、細胞、臓器など)は、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような移植片(組織、細胞、臓器など)の例としては、親由来の移植片(組織、細胞、臓器など)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0074】
本明細書において異種移植片(組織、細胞、臓器など)とは、異種個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植片(組織、細胞、臓器など)は異種移植片(組織、細胞、臓器など)という。
【0075】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0076】
本発明の人工組織形成技術を用いれば、どのような細胞に由来する人工組織でも使用することができる。なぜなら、本発明の方法により形成された人工組織(例えば、膜状組織、器官など)は、治療目的に損傷のない程度の組織損傷率を保持しつつ(すなわち、低く保ちながら)、目的の機能を発揮することができるからである。従って、従来そのままの組織または臓器自体を移植物として使用するしかなかった状況にあった。このような状況において、細胞から三次元的に結合した組織を形成することができたことによって、そのような三次元的な人工組織を用いることが可能になったことは、従来技術では達成することができなかった本発明の格別の効果の一つといえる。
【0077】
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
本発明の人工組織、三次元構造体、組織グラフトで必要に応じて使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、臓器移植(心臓移植・肺移植技術的,倫理的整備から実施に向けて)(改訂第3版)、中山書店に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(0KT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
【0078】
本発明で用いられる細胞は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の細胞でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、趨歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましい実施形態において、ヒト由来の細胞が用いられる。通常は、宿主と同じ種の細胞を用いることが好ましい。
【0079】
本発明が対象とする被験体と、人工組織との組合せとしては、例えば、心疾患(例えば、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症)を起こした心臓への移植、心膜パッチ、心筋梗塞、下肢、上肢などへの血管移植などが挙げられるがそられに限定されない。
【0080】
本発明が対象とする組織は、生物のどの臓器または器官でもよく、また、本発明が対象とする組織は、どのような種類の生物由来であり得る。本発明が対象とする生物としては、脊椎動物または無脊椎動物が挙げられる。好ましくは、本発明が対象とする生物は、哺乳動物(例えば、霊長類、趨歯類など)である。より好ましくは、本発明が対象とする生物は、霊長類である。最も好ましくは、本発明はヒトを対象とする。
【0081】
本発明の人工組織、三次元構造体などを弁として使用する場合、そのような弁の一般的使用について、当該分野において周知の技術を応用して移植などをすることができる。例えば、ステントレス異種生体弁が当該分野においてよく知られている。異種生体弁では、ステントの存在で有効な弁ロ面積が小さくなり、また弁葉の石灰化や変性が問題であった。最近、ブタ大動脈基部の形態を生かし、ステントを用いないステントレス異種生体弁が大動脈弁位の人工弁として注目されている(Gr0ss C.et al.,Ann Th0rac Surg 68:919,1999)。ステントがないことで、小さいサイズの弁を使用せざるを得ない場合でも弁を介した圧較差が少なく、術後の左心室肥大に対しても有効であると考えられている.また大動脈の基部の弾性が維持され、弁尖にかかるストレスが少なくステント付き生体弁に比較して耐久性の向上も期待できる.さらに、感染による心内膜炎、人工弁感染時にも使用が可能である.現在欧米でのステントレス異種生体弁の中期術後成績は十分に満足できる報告がなされており、長期成績にも期待できる(Gr0ss C.et al.,Ann Th0rac Surg 68:919,1999)。
【0082】
本明細書において「大型」とは、人工組織に関して言及するとき、孔がない部分の大きさをいし\代表的には、孔がない部分の長手方向の長さが少なくとも1cm、好ましくは少なくとも1.5cm、さらに好ましくは少なくとも2cmであることを意味する。この場合、短手方向の長さもまた、少なくとも1cm、好ましくは少なくとも1.5cm、さらに好ましくは少なくとも2cmであることが好ましいが必ずしもそうである必要はない。面積で表す場合、孔がない部分の内接円の面積が通常少なくとも1cmであり、好ましくは少なくとも2cmであり、より好ましくは少なくとも3cmであり、さらに好ましくは少なくとも4cmであり、なおさらに好ましくは少なくとも5cmであり、最も好ましくは少なくとも6cmである。
【0083】
本明細書において「可擁性」の人工組織とは、外的環境からの物理的刺激(例えば、圧力)などに対して、抵抗性を有することをいう。可擁性を有する人工組織は、移植される部位が、自律的にまたは他からの影響で運動したり変形したりする場合に好ましい・従って、そのような可擁性を有する人工組織は、移植された後も、可擁性を有することが好ましい。
【0084】
本明細書において「伸縮性」を有する人工組織とは、外的環境からの伸縮性の刺激(例えば、拍動)に対して抵抗性を有する性質をいう。伸縮性を有する人工組織は、移植される部位が伸縮性の刺激を伴う場合好ましい。そのような伸縮性の刺激を伴う部位としては、例えば、心臓、筋肉、関節、軟骨、腱などが挙げられるがそれらに限定されない。1つの実施形態では、心臓の拍動運動に耐え得る程度の伸縮性が要求され得る。
【0085】
本明細書中で使用される場合、用語「成体の心筋以外の部分」とは、最終分化した心臓中の心筋を除く、任意の部分、組織、細胞、器官を指す。そのような部分、組織、細胞、器官としては、骨格筋芽細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、幹細胞が挙げられるが、それらに限定されない。これらの細胞は、成体心臓の心筋に由来する細胞に特徴的なマーカーを有さない。このようなマーカー(本明細書において「成体心筋マーカー」という)は、成体心筋に特異的なマーカーであれば、核酸分子(mRNAの発現)、タンパク質、細胞外マトリクス、特定の表現型、細胞の形状などどのようなパラメータでも使用することができる。従って、本明細書において具体的に記載されていない成体心筋マーカーであっても、成体心心筋由来であることを示すことができるマーカーであれば、どのようなマーカーを利用して、本発明の人工組織を判定してもよい。このような成体の心筋以外の部分の代表例としては、成体の心筋以外の部分が挙げられ、そのような部分としては、例えば、心筋以外の心臓の部分、間葉系幹細胞またはそれに由来する細胞を含む部分、組織、器官、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、線維芽細胞、滑膜細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、このような心筋以外の部分に特徴的な特異的マーカーを発現するものを同定することによっても成体の心筋以外の部分であることを確認することができる。
【0086】
本明細書中で使用される場合、用語「成体の心臓以外の部分」とは、最終分化した心臓を除く、任意の組織、細胞、器官を指す。そのような組織、細胞、器官としては、骨格筋芽細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、幹細胞が挙げられるが、それらに限定されない。これらの細胞は、成体心臓に由来する細胞に特徴的なマーカーを有さない。ここで、成体心臓に特異的なマーカーであれば、核酸分子(mRNAの発現)、タンパク質、細胞外マトリクス、特定の表現型、細胞の形状などどのようなパラメータでも使用することができる。従って、本明細書において具体的に記載されていない心臓心筋マーカーであっても、成体心臓由来であることを示すことができるマーカーであれば、どのようなマーカーを利用して、本発明の人工組織を判定してもよい。このような成体の心臓以外の部分の代表例としては、成体の心臓以外の部分が挙げられ、そのような部分としては、例えば、間葉系幹細胞またはそれに由来する細胞を含む部分、組織、器官、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、線維芽細胞、滑膜細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、このような心臓以外の部分に特徴的な特異的マーカーを発現するものを同定することによっても成体の心筋以外の部分であることを確認することができる。
【0087】
本明細書中で使用される場合、「成体の心筋以外の部分」、「成体の心臓以外の部分」はまた、骨格筋芽細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、幹細胞などを含む成体の心筋に由来する細胞または成体心臓に由来する細胞に特徴的なマーカー(本明細書においてそれぞれ「非成体心筋マーカー」または「非成体心臓マーカー」という)を一定レベル、例えば、特異的に発現するものの少なくとも約100%未満、好ましくは約80%未満、より好ましくは約50%未満、さらに好ましくは、約25%未満、場合によっては約1%未満発現することによって同定することができる。このようなマーカーとしては、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、CD56、My0D、Myf5、my0geninなどが挙げられるが、これらに限定されない・本明細書において具体的に記載されていない非成体心臓マーカーであっても、成体心臓以外の由来であることを示すことができるマーカーであれば、どのようなマーカーを利用して、本発明の人工組織を判定してもよい。
【0088】
ここで、ミオシン重鎖IIa(ヒト:アクセッション番号NM_017534;配列番号1および2)、ミオシン重鎖IIb(ヒト:アクセッション番号NM_017533;配列番号3および4)、ミオシン重鎖IId(IIx)(ヒト:アクセッション番号NM_005963;配列番号5および6)とは、であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである(Havenith MG, Visser R, Schrijvers-van Schendel JM, B0sman FT. Muscle fiber typing inr0utinely pr0cessed skeletal muscle with m0n0cl0nal antib0dies. Hist0chemistry. 1990;93(5): 497-9)。このマーカーは、主にタンパク質の存在を見ることによって確認することができる。ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIbおよびミオシン重鎖IId(IIx)に対する抗体としては、たとえば、Sigmaから入手可能なMY-32などがあり、この抗体は、骨格筋特異的で心筋は染めない(Webster C, Pavlath GK, Parks DR, Walsh FS, Blau HM, Exp Cell Res. 1988 Jan; 174(1):252-65;およびHavenith MG, Visser R, Schrijvers-van Schendel JM, B0sman FT, 1990;93(5):497-9)。
【0089】
CD56とは、(ヒト:アクセッション番号U63041;配列番号7および8)であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0090】
My0Dとは、(ヒト:アクセッション番号X56677;配列番号9および10)であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0091】
Myf5とは、(ヒト:アクセッション番号NM_005593;配列番号11および12)であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0092】
my0genin(ヒト:アクセッション番号BT007233;配列番号13および14)とは、であり、筋芽細胞に特異的なマーカーである。このマーカーは、主にmRNAの存在を見ることによって確認することができる。
【0093】
他の実施形態では、他の組織に特異的な別のマーカーを利用することができる。そのようなマーカーとしては、例えば、胚性幹細胞については0ct−3/4、SSEA−1、Rex−1、0tx2などが挙げられ;内皮細胞についてはVE一カドヘリン、Flk−1、Tie−1、PECAM1、vWF、c−kit、CD34、Thy1、Sca−1などが挙げられ;骨格筋について上述のもののほか骨格筋αアクチンなどが挙げられ;神経細胞についてNestin、Gluレセプター、NMDAレセプター、GFAP、ニューレグリンー1などが挙げられ;造血細胞系についてc−kit、CD34、Thy1、Sca−1、GATA−1、GATA−2、F0Gなどが挙げられる。
【0094】
本明細書中で使用される場合、用語「由来する」とは、ある種の細胞が、その細胞が元々存在していた細胞塊、組織、器官などから分離、単離、または抽出されたこと、あるいはその細胞が、幹細胞から誘導されたことを意味する。
【0095】
本明細書中で使用される用語「心臓に適用可能な」とは、適用された心臓が拍動するような能力を意味する。このような心臓に適用可能な組織は、拍動する場合の伸縮に耐え得る強度を有することになる。ここでは、心臓への適用可能性は、心筋への適用可能性を含む。心臓に適用可能かどうかは、移植後に移植されたレシピエントが生存しているかどうかを確認することによって判定することができる。
【0096】
本明細書中で使用される場合、用語「三次元構造体」とは、細胞間の電気的結合および配向を保持している細胞を含む、三次元方向に広がる物体を指す。この用語は、任意の形(例えば、シート状など)の物体を包含する。そのようなシート状構造体は、一層でも複数層でもあり得る。
【0097】
本明細書において「細胞シート」とは、単層の細胞から構成される構造体をいう。このような細胞シートは、少なくとも二次元の方向に生物学的結合を有する。生物学的結合を有するシートは、製造された後、単独で扱われる場合でも、細胞相互の結合が実質的に破壊されないことが特徴である。そのような生物学的結合には、細胞外マトリクスを介した細胞間の結合が含まれる。
【0098】
本明細書において「生物学的結合」とは、細胞相互の関係に言及する場合、2つの細胞の間に生物学的になんらかの相互作用があることをいう。そのような相互作用としては、例えば、生体分子(例えば、細胞外マトリクス)を介した相互作用、情報伝達を介した相互作用、電気的相互作用(電気信号の同期などの電気的結合)が挙げられるがそれらに限定されない。相互作用を確認する場合は、その相互作用の特性によって適切なアッセイ方法を用いる。例えば、生体分子を介した物理的相互作用を確認する場合は、人工組織、三次元構造体などの強度(例えば、引っ張り試験)を確認する。情報伝達を介した場合は、シグナル伝達がなされるかどうかを、遺伝子発現などを介して確認する。あるいは、電気的な相互作用の場合は、人工組織、三次元構造体などにおける電位の状況を測定し、一定の波をもって電位が伝播しているかどうかを見ることによって確認することができる。従って、好ましくは、物理的結合は、スキャフォルドなしで結合しているかどうかを見ることによって判定することができる。本発明において、通常生物学的結合は、少なくとも二次元方向にあれば十分であるが、好ましい実施形態では、三次元すべての方向に生物学的結合を有することが有利であり、そのような場合、三次元構造体を形成し得る。好ましくは、三次元すべての方向にほぼ均等に生物学的結合を有することが有利であることがあるが、別の実施形態では、二次元方向にほぼ均等に生物学的結合を有するが、第三の方向にはすこし弱い生物学的結合を有する人工組織、三次元構造体なども使用され得る。
【0099】
本発明の人工組織、三次元構造体などは、医薬品として提供され得るが、あるいは、動物薬、医薬部外品、水産薬および化粧品等として、公知の調製法により提供され得る。
従って、本発明が対象とする動物は、臓器または器官を有するものであれば、どの生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、趨歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)が用いられる。最も好ましくはヒトが対象とされ得る。移植治療において限界があるからである。
【0100】
本発明が医薬として使用される場合、本発明の医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0101】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の処置方法において使用される医薬(人工組織、併用される医薬化合物など)の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、組織の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0102】
本明細書中、「投与する」とは、本発明の人工組織、三次元構造体などまたはそれを含む医薬を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて被検体に提供することを意味する。本発明の人工組織は、以下のような治療部位(例えば、障害心臓など)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る。すなわち、本発明の人工組織および三次元構造体の投与方法としては、例えば心筋梗塞、狭心症等で虚血性の障害を受けた心筋組織の障害部位への直接貼付、貼付後に縫合、挿入等の方法があげられる。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、人工組織などが直接手術によって提供され、他の薬剤は静脈注射によって与えられる場合)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
【0103】
本明細書において「補強」とは、意図される生体の部分の機能を改善させることをいう。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作製され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0104】
本明細書において「刺激応答性高分子」とは、ある高分子について、ある刺激に対して応答して、その刺激のある前とその刺激を受けた後との形状および/または」性質が変化するものをいう。そのような刺激としては、光照射、電場印加、温度変化、pH変化、化学物質の添加などが挙げられるがそれに限定されない。刺激応答性高分子としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレン)、核酸などの生体物質を高分子に組み込んだ樹脂、および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0105】
本明細書において「温度応答性高分子」とは、温度に応答して、その形状および/または」性質を変化させる性質を有する高分子をいう。温度応答性高分子としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において使用される温度応答性高分子としては、例えば、水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃であるものが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、臨界溶解温度とは、形状および/または性質を変化させる閾値の温度をいう。本明細書では、好ましくは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が使用され得る。
【0106】
例えば、γ線照射したポリビニルメチルエーテル水溶液は,室温では水和し膨潤しているが、温度が上がると脱水和して収縮する感熱性の高分子ゲルとなることが知られている。ゼリーのように均質透明なPVMEゲルを温めると白濁し透明性が変化する。多孔質構造のゲルを調製したり、繊維または粒子などの小さな形に成形すると高速で伸縮するようになる。このような多孔質構造をもつ繊維状PVMEゲルの場合、伸縮速度は1秒末満という速さであるといわれる(http://www.aist.g0.jp/NIMC/0verview/v27-j.html、特開2001−213992号および特開2001−131249号参照)。N−イソプロピルアクリルアミドゲル(すなわち、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド))もまた、温度応答性ゲルとして知られる。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)に対して、疎水性のモノマーを共重合させると、形状および/または」性質が変化する温度を低下させることができ、親水性のモノマーを共重合させると形状および/または」性質が変化する温度を上げることができる。これを利用して、所望の刺激に応答した充填剤を調製することができる。このような手法は、他の温度応答性高分子に対しても適用することができる。
【0107】
本明細書において「タンパク質分解酵素」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、タンパク質の分解を触媒する酵素をいい、プロテアーゼとも呼ばれる。
本明細書において「規則的配列」フィルムとは、ある一定の規則によって配列される構造を有するフィルムをいう。このようなフィルムには、ハニカム構造、ライン構造、ドット構造などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の人工組織は、好ましくは、このような規則的配列を用いて生産される。このようなフィルムは、生分解性材料(例えば、ポリ−L−乳酸(PLLA)など)を用いて構成することができる。伸展性のフィルムを作製するためには、ポリ(5−カプロラクトン)(PCL)などを使用することができる。
【0108】
細胞工学、組織工学等において細胞培養を行う場合、細胞の足場となる基材が必要であることが多く、細胞との相互作用において細胞は最良表面の化学的な性質のみならず微細な形状によっても影響を受けることが知られている。細胞の機能制御を目指すとき、細胞と接触する材料表面の化学的性質および細胞の微細な構造の双方の設計が重要となる。ハニカム構造を有する多孔性フィルムではハニカムパターンが細胞接着面を提供し、多孔質構造が細胞の支持基盤へのアクセス、栄養の供給ルートとなることが示されている。従って、1つの実施形態において、本発明では、このようなハニカム構造を利用することが好ましい。
【0109】
このハニカム構造フィルムをベースに細胞を組織化すれば、その1つの利用方法として人工臓器または人工組織が提供される。人工臓器または人工組織等にしたときには体内に吸収される可能性があることから、この基材は長期的には生体内へ吸収されることが望ましい。これまでのハニカム構造を与える材料で細胞培養に要する時間は安定に構造を維持し、それ以上では分解するような生分解性材料から作られたものは、例えば、特開2001−157574号、特開2002−335949号などに記載されている。特開2001−157574号には、生分解性ポリマーが50〜99w/w%および両親媒性ポリマーが50〜1w/w%からなるポリマーの疎水性有機溶媒溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、この有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に上記キャスト液表面で結露させ、上記結露により生じた微小水滴を蒸発させることで得られるハニカム構造体、並びに上記ハニカム構造体からなるフィルムが開示されている。また、特開2002−335949号には、この方法で作製したハニカム構造を有するフィルムを用いて、生体組織に類似した秩序だった細胞の三次元集合体の形成することができることが記載されている。
【0110】
本発明において用いられるフィルムは、生分解性かつ両親媒性を有する単独のポリマーまたは生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーとを含むポリマー混合物の疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストし、上記有機溶媒を蒸散させると同時にこのキャスト液表面で結露させ、上記結露により生じた微小水滴を蒸発させることにより得られる。
【0111】
本発明では、生分解性かつ両親媒性を有する単独のポリマーを使用してもよいし、あるいは、生分解性を有するポリマーと両親媒性を有するポリマーから成る複数のポリマーの混合物を使用してもよい。
【0112】
本発明で用いることができる生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステル、並びにポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート等が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。中でも、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンが入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
【0113】
本発明で用いることができる両親媒性ポリマーとしては、細胞培養基材として利用することを考慮すると毒性のないことが好ましく、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基或いはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、或いはヘパリンやデキストラン硫酸、核酸(DNA、RNAなど)などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等を利用することが望ましい・生分解性かつ両親媒性を有する単独のポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸一ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリ5一カプロラクトンーポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリリンゴ酸一ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体などが挙げられる。
【0114】
本明細書中で使用される場合、用語r障害心臓」およびr障害心筋層」とは、障害(例えば、虚血性障害が挙げられるが、これに限定されない)を受けた心臓および心筋層を指す。そのような虚血性障害としては、心筋梗塞、狭心症等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
本明細書において「三次元化促進因子」とは、細胞の集団を構成した後、そのような集団が三次元方向に生物学的結合することを促進させる因子をいう。そのような因子としては、代表的には、細胞マトリクスの分泌を促進するような因子が挙げられる。そのような三次元化促進因子としては、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体(例えば、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸、L一アスコルビン酸ナトリウムなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、このような三次元化促進因子は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように細胞外マトリクスの分泌を促す成分(単数または複数)であることが好ましい・そのような三次元化促進因子が複数の成分を含む場合は、そのような複数成分は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように組成され得る。
【0116】
本明細書においてrアスコルビン酸またはその誘導体」には、アスコルビン酸およびその類似体(例えば、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸など)、およびその塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩など)が含まれる。
【0117】
(発明を実施するための最良の形態)以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0118】
1つの局面において、本発明は、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む、心臓に適用可能な三次元構造体を提供する。心臓に適用可能な三次元構造体は、従来成体の心筋由来の細胞で小型で性能の悪いものが提供されていた。本発明は、特定の培養条件下(例えば、三次元化促進因子の存在など)で成体(胚でない)の心筋以外の部分に由来する細胞を含む細胞を培養することにより、世界で初めて心臓に適用可能な三次元構造体を提供することができたという効果を有する。このような三次元構造体は、細胞を含み、好ましくは実質的に細胞および細胞に由来する成分(例えば、細胞外マトリクスなど)から構成される。このように、本発明の三次元構造体は、好ましい実施形態において生体物質から構成されることから、従来の足場(scaff0ld)を用いた構造体に比べて、足場に起因する欠点(例えば、生体適合性の問題、免疫原性の問題など)が解消されるという点で有利である。
【0119】
1つの好ましい実施形態において、本発明の三次元構造体が含む細胞は、幹細胞であっても分化細胞であっても両方を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、本発明の三次元構造体が含む細胞は、間葉系細胞である。理論に束縛されないが、間葉系細胞が好ましいのは、間葉系細胞自体が心臓と適合性が優れているからであり、心臓へ分化する能力を有し得るからである。
【0120】
そのような間葉系細胞は、間葉系幹細胞であっても間葉系の分化細胞であってもよい。
本発明において使用される間葉系細胞としては、例えば、骨髄、脂肪細胞、滑膜細胞、などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0121】
より好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞は、筋芽細胞に由来することが好ましい。筋芽細胞を用いた三次元構造体が心臓において適用可能であることは、従来予測不可能であったことであり、驚くべき効果であるといえる。筋芽細胞が好ましい理由としては、例えば、供給源が豊富であることが挙げられるがそれに限定されない。
【0122】
さらに好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞は、骨格筋芽細胞である。骨格筋芽細胞は、豊富に存在することから容易に入手可能な供給源として好ましい。また、骨格筋芽細胞は、本発明において初めて実証されるように、心臓に対する移植可能性が示されたことから、実際の医療に使用可能である。
【0123】
このように、自己の心筋以外の部分に由来する細胞をうまく培養することによって心臓移植手術を行わなくても、欠陥心臓を修復することができる。
別の実施形態において、本発明において使用される細胞は、線維芽細胞であってもよい。線維芽細胞もまた、三次元構造体において三次元方向に生物学的結合を有することが確認されたからである。ただし、線維芽細胞を用いた三次元構造体は、心臓用途に使用することができる。あるいは、このような滑膜細胞から構成される三次元構造体は、心臓用途以外にも補強に使用することができる。
【0124】
別の実施形態において、本発明において使用される細胞は、滑膜細胞であってもよい。滑膜細胞もまた、三次元構造体において、顕著に三次元方向の生物学的結合を有する。従って、このような滑膜細胞から構成される三次元構造体もまた、心臓用途に使用することができる。あるいは、このような滑膜細胞から構成される三次元構造体は、心臓用途以外にも補強に使用することができる。
【0125】
別の実施形態において、本発明において使用される細胞は、幹細胞に由来する。幹細胞に由来する細胞から構成される三次元構造体は、所望の方向に分化させた細胞を利用することができるからである。従って、心臓に用いる場合は、心臓の分化細胞への分化の方向に分化させた幹細胞を用いることが好ましくあり得る。そのような分化の手法としては、LIFを用いて分化させることなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0126】
好ましい実施形態において、本発明において使用される細胞は、三次元構造体が適用される被験体に由来する細胞であることが有利である。このような場合、本明細書において使用される細胞は自己細胞ともいわれるが、自己細胞を用いることによって、免疫拒絶反応を防ぐかまたは低減することができる。
【0127】
あるいは、別の実施形態では、本発明において使用される細胞は、三次元構造体が適用される被験体に由来しない細胞であってもよい。この場合、好ましくは、免疫拒絶反応を防ぐ手段が講じられることが好ましい。
【0128】
別の実施形態において、本発明の三次元構造体は、その中に含まれる細胞がミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、CD56、My0D、Myf5およびmy0geninからなる群より選択される少なくとも1つの非成体心臓マーカーを発現する。このような非成体心臓マーカーを有することによって、非成体心臓由来の細胞を用いた三次元構造体であることが確認され得る。本発明の三次元構造体は、成体の心臓を使用することを回避することによって、心臓治療の可能性を格段に増加させたという効果をもたらす。
【0129】
このような非成体心臓マーカーは、その非成体心臓の臓器または組織が通常有するレベルの量で発現されており、通常例えば、非成体心臓の臓器または組織が天然で有するレベルの少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約100%以上のレベルで存在し得る。このようなレベルを確認する方法としては、例えば、PCR、ノーザンブロッティングなどのmRNA発現量を確認するブロッティング、あるいはウェスタンブロッティングなどの発現タンパク質の量を確認するブロッティングなどが挙げられる。PCRを利用する場合、上述の非成体心臓マーカーのうち、特異的なプライマーを当該分野において周知の方法によって(例えば、市販のPCRプライマー設計装置を利用する)設計し、対象となる組織または細胞からmRNAを含む試料を抽出しcDNAを当該分野において周知の手法によって調製し、これを用いて特異的発現の検出を可能にするPCRサイクルを行い、その後増幅された産物を例えば電気泳動およびその後の染色によって確認することによって発現レベルを測定することができる。ノーザンブロッティングの場合は、上述の非成体心臓マーカーの核酸配列全部または一部(特に、特異的検出を可能にするもの)をプローブとして調製し、対象となる組織または細胞からmRNAを含む試料を抽出し電気泳動によって分離した後、上述のプローブを用いて発現を検出することができる。マーカーがタンパク質発現を伴う場合は、それに対する特異的抗体を調製し、その抗体を用いてウェスタンブロッティングなどの抗原抗体反応を用いることによって発現を検出することができる。
【0130】
別の実施形態において、本発明の三次元構造体は、その中に含まれる細胞が成体心臓マーカーを実質的に含まない。このような成体心臓マーカーを実質的に有しないことによって、非成体心臓由来の細胞を用いた三次元構造体であることが確認され得る。本発明の三次元構造体は、成体の心臓を使用することを回避することによって、心臓治療の可能性を格段に増加させたという効果をもたらす。
【0131】
このような成体心臓マーカーは、成体心臓の臓器または組織が通常有するレベルの量未満で発現されており、通常例えば、成体心臓の臓器または組織が天然で有するレベルの少なくとも約100%未満、好ましくは少なくとも約80%未満、より好ましくは少なくとも約50%未満、より好ましくは少なくとも約20%未満、より好ましくは少なくとも約10%未満、より好ましくは少なくとも約5%未満のレベルで存在する。
【0132】
好ましい実施形態では、本発明の三次元構造体は、中に含まれる細胞がすべての成体心臓マーカーを実質的に含まない。成体心臓マーカーすべて確認することによって、成体心臓以外であることを確認することがより確実にできるからである。ただし、これらすべてを常に確認する必要があるというわけではない。
【0133】
好ましくは、本発明の三次元構造体において使用される細胞は、心臓以外の細胞であることが好ましい・心筋以外の細胞であれば、本発明において利用可能であるが、心臓由来の細胞は、その供給源が限定されていること、および自己由来の心臓由来の細胞は実質的に入手不可能であることから、心臓以外に由来する細胞を用いることが好ましい。
【0134】
本発明の三次元構造体の適用可能性は、通常心臓であるが、それ以外の臓器へ適用されてもよい・好ましくは、本発明の三次元構造体は、心筋へ適用され得る。
1つの実施形態において、本発明の三次元構造体は、少なくとも単層の細胞シートを含み、ある実施形態では、本発明の三次元構造体は、単層の細胞シートによって構成される。細胞シートが含まれることによって、本発明の三次元構造体は、無傷であることが保証され、あるいは、無孔性が保証されるからである。従って、細胞シートを少なくとも単層で持つ本発明の三次元構造体は、損傷部位を覆う用途において有用である。
【0135】
好ましい実施形態において、本発明の三次元構造体は、複数の層の細胞シートを含む。好ましくは、この複数の層の細胞シートは、互いに生物学的に結合していることが有利である。生物学的に結合とは、この場合、細胞外マトリクスを介した物理的結合、あるいは、拍動などの電気的結合であることが好ましいが、それらの結合は、所望とされる部位に応じて変動する。心臓への移植が意図される場合、このような生物学的結合は、通常電気的結合を含む。あるいは、このような生物学的結合は、スキャフォルドなしでの結合という側面で記載することができる。
【0136】
本発明の三次元構造体は、医薬として提供されていてもよい。あるいは、本発明の三次元構造体は、医師などが医療現場で調製してもよく、または、医師が細胞を調製した後、その細胞を第三者が培養して三次元構造体として調製し、手術に用いてもよい。この場合、細胞の培養は、医師でなくても、細胞培養の当業者であれば実施することができる。従って、当業者であれば、本明細書における開示を読めば、細胞の種類および目的とする移植部位に応じて、培養条件を決定することができる。
【0137】
別の局面において、本発明は、成体の心臓以外の部分に由来する細胞を含む、心臓に適用可能な三次元構造体を製造する方法を提供する。この方法は、a)温度応答性高分子を含む支持体上で成体の心筋以外の部分に由来する細胞を培養する工程;b)培養温度をその温度応答性高分子の臨界溶解温度範囲の外側にする工程(この場合、上限がある場合、上限以上であり、下限がある場合下限以下);およびc)培養した細胞を三次元構造体として剥離する工程を含む。ここで、心筋以外の部分に由来する細胞は、心臓以外の部分に由来する細胞であり、例えば、間葉系の細胞(例えば、筋芽細胞、骨格筋芽細胞、滑膜細胞、線維芽細胞)などであり得る。好ましくは、臨界溶解温度の外側とは、水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃である。温度応答性高分子を含む支持体は、好ましくは、そのような温度応答性高分子がグラフティングされている。
【0138】
好ましい実施形態では、本発明の三次元構造体製造法において剥離またはその前に、タンパク質分解酵素による処理がなされないことが好ましい。従来の細胞シートなどの調製方法では、タンパク質分解酵素による処理を行うことによって剥離を容易にしていたが、これにより細胞シートが損傷を受け、三次元構造体とはなっていなかったという問題があった。本発明は、上記のような方法を用いることによって、タンパク質分解酵素による処理を省くことができ、その結果、損傷のない三次元構造体が提供されたという効果をもたらす。
【0139】
好ましい実施形態では、温度応答性高分子は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は、20℃強という下限臨界溶解温度を有することから、この場合、通常の培養温度(例えば、37℃前後)から培養液を20℃前後にすることによって、容易に三次元構造体を調製することができるという効果がもたらされる。これによって、移植手術に適用可能な、成体心筋以外に由来する細胞から構成される三次元構造体が提供された。これにより、従来心臓移植しか助かる道の無かった数多くの疾患(例えば、拡張型心筋症など)にとって、実質的に臓器移植以外の手法が提供されるという従来の方法では不可能であった治療法を提供する。
【0140】
さらに好ましい実施形態では、本発明の三次元構造体は、細胞培養の際に三次元組織化促進因子を含むことが好ましい。このような三次元組織化促進因子は、アスコルビン酸またはその誘導体であり得る。
【0141】
別の局面において、本発明が提供する人工組織および三次元構造体は、培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表されるタンパク質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された人工組織および三次元構造体は、細胞、細胞間のタンパク質(例えば、細胞外マトリクス)が保持された強度ある細胞塊として回収することができ、心筋細胞特有の収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合、および配向性等の機能を何ら損なうことなく保有している。また、三次元構造体においては、例えば、結合組織からなる膜形成、血管内皮細胞による管腔形成等の生体組織様の幾つかの特徴ある細胞の配列も認められる。トリプシン等の通常のタンパク質分解酵素を使用した場合、細胞、細胞間のデスモソーム構造、および細胞、基材間の基底膜様タンパク質等は殆ど保持されておらず、従って細胞は個々に分かれた状態となって剥離される。その中でタンパク質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞、基材間の基底膜様タンパク質を殆ど破壊してしまうものの、デスモソーム構造については10℃〜60℃に保持した状態で剥離させることができることで知られているが、得られる三次元構造体および人工組織は強度の弱いものである。それに対し、本発明の三次元構造体および人工組織は、デスモソーム構造、基底膜様タンパク質が共に80%以上残存された状態のものであり、その結果上述したような種々の効果を得ることができるようになる。細胞培養支持体において基材の被覆に用いられる温度応答性ポリマーは、水溶液中で上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度0℃〜80℃、より好ましくは20℃〜50℃を有する。上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
【0142】
本発明に用いる温度応答性重合体はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような重合体としては、上述のほかに、例えば、特開平2−211865号公報に記載されいる重合体が挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コ重合体の場合は、これらのうちの任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、重合体同士のグラフトまたは共重合、あるいはホモポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、重合体本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
【0143】
温度応答性重合体の支持体への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい・すなわち、被覆は、基材と上記モノマーまたは重合体を、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混線等の物理的吸着等により行うことができる。
【0144】
本発明において、細胞の培養は上述のようにして製造された細胞培養支持体上(例えば、細胞培養皿)で行われる。培地温度は、基材表面に被覆された前記重合体が上限臨界溶解温度を有する場合はその温度以下、また前記重合体が下限臨界溶解温度を有する場合はその温度以上であれば特に制限されない。しかし、培養細胞が増殖しないような低温域、あるいは培養細胞が死滅するような高温域における培養が不適切であることは言うまでもない。温度以外の培養条件は、当該分野において周知の技術を用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎仔血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。
【0145】
本発明の方法においては、上記方法に従い、人工組織または三次元構造体の使用目的に合わせて培養時間を設定すれぱよい。培養した人工組織または三次元構造体を支持体材料から剥離回収するには、培養された人工組織もしくは三次元構造体をそのまま、またはは必要に応じ高分子膜に密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆重合体の上限臨界溶解温度以上若しくは下限臨界溶解温度以下にすることによって、培養された細胞シートまたは三次元構造体を単独で、若しくは高分子膜に密着させた場合はそのまま高分子膜とともに剥離することができる。なお、人工組織または三次元構造体を剥離することは細胞を培養していた培養液において行うことも、その他の等張液において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。また、必要に応じ細胞シートまたは三次元構造体を密着させる際に使用する高分子膜としては、例えば、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロースおよびその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、和紙等の紙類、ウレタン、スパンデックス等のネット状・スリキネット状高分子材料を挙げることができる。ここで、ネット状、ストッキネット状高分子材料であれば人工組織および三次元構造体は自由度が増し、収縮弛緩機能を更に増大させることができる。本発明における細胞の人工組織および三次元構造体の製法は特に限定されるものではないが、例えば、上記した高分子膜に密着した培養細胞シートを利用することで製造することができる。
【0146】
人工組織および三次元構造体を高収率で剥離、回収する目的で、細胞培養支持体を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、さらにはピペットを用いて培地を撹拝する方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。加えて、必要に応じて人工組織および三次元構造体は、等張液等で洗浄して剥離回収してもよい・基材から剥離された人工組織、または三次元構造体は、特定方向に引き伸ばすことで、さらに配向された細胞シートまたは三次元構造体となる。その引き伸ばす方法は、何ら制約されるものではないが、テンシロンなどの引っ張り装置を用いる方法、あるいは、単純にピンセットで引っ張る方法等が挙げられる。配向させることで、細胞シートおよび三次元構造体自身の動きに方向性を持たせることができ、このことは、例えば、特定の臓器の動きに合わせて、人工組織あるいは三次元構造体を重ね合わせることを可能とするため、人工組織あるいは三次元構造体を臓器に適用する場合に効率が良い。
【0147】
上述の方法により得られた人工組織および三次元構造体は、従来の方法では得られなかったものである。得られた人工組織あるいは三次元構造体は従来技術では断絶された基底膜を保持している為、心臓、骨、筋肉、腕、肩、足、その他のいかなる臓器等、生体内のどこに埋入しても、周囲の組織に良く生着し、それぞれの場合で脈を打ち続ける。理論に束縛されないが、これは、生体内に埋入された人工組織あるいは三次元構造体が、生体組織に生着すると同時に、収縮弛緩することで低酸素状態となり、それを補うために生体組織側より積極的に血管内皮細胞が進入し、血管が形成され、血液を介して酸素のみならず栄養分も十分に補給された結果と考えられる。以上より、生体内に埋入された人工組織および三次元構造体により、生体内で機能性組織が形成されることとなる。それらは移植用等の臨床応用が強く期待される。具体的には、本発明の人工組織、三次元構造体あるいは組織を心臓の収縮力の弱まった部位に移植することで、心筋梗塞等の心疾患等に対する治療用用具として、あるいはそれらを血管の周囲に当てることで血行を改善させることができ、例えば、重度のレイノウ、重度な肩こり、さらには大動脈の機能不全等の治療用具として有用なものとなる。なお、本発明の方法において使用される細胞培養支持体は繰り返し使用が可能である。
【0148】
(三次元化促進因子による人工組織の調製)
別の局面において、本発明は、人工組織を生産するための方法を提供する。この人工組織生産法は、A)細胞を提供する工程;B)該細胞を、三次元化促進因子を含む細胞培養液を収容する、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する容器に配置する工程;およびC)該容器中の該細胞を、該所望の大きさのサイズを有する人工組織を形成するに十分な時間培養する工程、を包含する。
【0149】
ここで用いられる細胞は、どのような細胞であってもよい。細胞を提供する方法は、当該分野において周知であり、例えば、組織を摘出してその組織から細胞を分離する方法、あるいは、血液細胞などを含む体液から細胞を分離する方法、あるいは、細胞株を人工培養によって調製する方法などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0150】
本発明の人工組織生産法では、三次元化促進因子を含む細胞培養液が使用される。このような三次元化促進因子としては、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体などが挙げられ、例えば、アスコルビン酸1リン酸、アスコルビン酸2リン酸、L−アスコルビン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0151】
本発明において使用される細胞培養液は、目的とする細胞が増殖する限りどのような培地であってもよいが、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB104、199、MCDB153、L15、SkBM、Basal培地などを適宜グルコース、FBS(ウシ胎仔血清)、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど)を加えてたものが使用され得る。
【0152】
本発明の方法において使用される容器は、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する限り、当該分野において通常使用されるような容器を用いることができ、例えば、シャーレ、フラスコ、型容器など、好ましくは底面積が広い(例えば、少なくとも1cm)容器が使用され得る。その容器の材質もまた、どのような材料を利用してもよく、ガラス、プラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネートなど)、シリコーンなどが用いられ得るがそれらに限定されない。
【0153】
好ましい実施形態では、本発明の人工組織生産法に用いられる三次元化促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む。従来アスコルビン酸を細胞培養に用いることは知られていたが、アスコルビン酸2リン酸を意図的に加えて組織形成を行ったという報告はなされていない。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量加えることによって、生産される細胞外マトリクスが多すぎず、その組成も移植可能にする程度となり、従って、細胞と細胞外マトリクスとの比率が移植可能な程度の強度などを保持させることを達成したという予想外の効果が奏される。
【0154】
好ましい実施形態では、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは、0.5mMの濃度、さらにより好ましくは1.0mMの濃度で存在することが好ましい。
【0155】
あるいは、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、アスコルビン酸1リン酸と共存して用いられる。この場合、使用されるアスコルビン酸1リン酸とアスコルビン酸2リン酸とは、特定の比率で用いることが好ましくあり得る。そのような好ましい比率としては、例えば、1:10〜10:1の範囲内が挙げられる。あるいは、好ましい比率としては、アスコルビン酸1リン酸のモル量がアスコルビン酸2リン酸よりも少ないという関係を挙げることができる。
【0156】
別の実施形態において、本発明において使用される三次元化促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む。アスコルビン酸2リン酸を明示的に加えて組織形成を行ったという報告はなされていない。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量加えることによって、生産される細胞外マトリクスが多すぎず、その組成も移植可能にする程度となり、従って、細胞と細胞外マトリクスとの比率が移植可能な程度の強度などを保持させることを達成したという予想外の効果が奏される。
【0157】
好ましい実施形態では、アスコルビン酸1リン酸のモル量がアスコルビン酸2リン酸よりも少ない場合、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で、さらに好ましくは少なくとも0.5mMの濃度で存在することが好ましい。さらにより好ましくは1.0mMの濃度で存在することが好ましい。
【0158】
ある好ましい実施形態では、本発明において使用される三次元化促進因子は、アスコルビン酸1リン酸またはその塩、アスコルビン酸2リン酸またはその塩およびL−アスコルビン酸またはその塩を含む。
【0159】
本発明の人工組織生産法において使用される容器は、温度応答性高分子でコーティングされることが好ましい。あるいは、別の好ましい実施形態では、この容器は、ハニカム構造をした足場が敷かれていることが好ましいがそれに限定されない。ハニカム構造の利用については、例えば、田中賢ら、「新しいバイオメディカルインターフェイス」化学工業2002年12月号901−906、化学工業社に記載されており、これを参照することができる。
【0160】
本発明の人工組織生産法において使用され得る温度応答性高分子は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を含む。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織生産法では、培養した工程に続き、D)人工組織を剥離させ自己収縮させる工程、をさらに含む。剥離は、物理的な刺激(例えば、容器の角に棒などで物理的刺激を与えるなど)を行うことによって促進することができる。温度応答性高分子を用いる場合、その臨界溶解温度よりも高いまたは低い温度に環境を操作することによって、剥離を促進することができる。自己収縮は、このような剥離の後自然に起こる。自己収縮により、特に第三次元方向(シート上の組織に関する場合、二次元方向と鉛直な方向)の生物学的結合が促進される。このようにして製造されることから、本発明の人工組織は、三次元構造体という形態をとるといえる。
【0161】
本発明の人工組織生産法では、十分な時間とは、目的とする人工組織の用途によって変動するが、好ましくは少なくとも3日間を意味するが、それ以上であってもよく、それ以下であってもよい。3日間培養することによって、少なくとも心臓の補強に使用することができる程度の移植片を調製することができるからである。
【0162】
別の局面において、本発明は、機能的人工組織を提供する。本明細書では、本発明の機能的人工組織は、移植可能な人工組織である。これまでも細胞培養によって人工組織を作製することが試みられているが、いずれも、大きさ、強度、はがすときの物理的損傷などによって移植に適した人工組織とはなっていなかった。本発明は、上述のような三次元化促進因子の存在下で細胞を培養することによって、大きさ、強度などの点で問題が無く、剥離させるときに特に困難を伴わない組織培養方法が提供された。このような組織培養法が提供されたことによって、初めて移植可能な人工組織が提供されたことになる。従来、臓器移植のみに頼っていた疾患(例えば、難治」性心疾患(心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拡張型心筋症など))にとっては、それ以外の汎用性のある治療法が提供されることになり、その有用性は計り知れない。
【0163】
本発明が対象とする「疾患」は、組織に傷害がある任意の心疾患であり得る。そのような心疾患としては、心不全、心筋梗塞、心筋症などが挙げられる。本発明の併用療法は、組織傷害の再生を目的とする限り、心臓以外の臓器の傷害を再生するためにも適用され得る。特定の実施形態において、本発明の方法が対象とする疾患は、難治性心不全である。
【0164】
「心不全」とは、心機能不全、循環機能不全、収縮力減退など心臓自体に障害があって、全身の臓器へ必要な量および質の血液を循環し得なくなった状態をいう。心不全は、心筋梗塞、心筋症などの心臓疾患の末期の症状である。重症心不全とは、その程度が重症であるものをいい、末期心不全ともいう。
【0165】
「難治性心不全」とは、内科的治療、薬物治療では改善が困難な治療抵抗性心不全をいい、慢性心不全または末期的心不全とほぼ同義に用いられる。このような難治性心不全は、通常のジギタリス薬、利尿薬、ACE阻害薬などを用いるトリプルセラピー、β遮断薬を加えた薬物治療ではコントロールできない。これらの治療には、IABP(intra−a0rtic ball00n pumping)またはPCPS(percutane0us cardi0pulm0nary supp0rt)などによる機械的循環補助、あるいは心臓移植を必要とすることから、簡便でかつ根本的な治療の開発が求められていた。特に、心臓移植は、ドナー不足が深刻であり、心臓移植適応除外症例(たとえば、高齢者、透析症例など)の場合は難治性心不全は大きな問題となっており、心臓移植代替治療が切望されている。
【0166】
「心筋梗塞」とは、冠状動脈の種々の病変による高度狭窄、閉塞によってその灌流領域に虚血性壊死が生じる疾患である。心筋梗塞の重傷度判定には、種々の分類がある。そのような分類としては、例えば、時間的経過による分類、形態学的分類(心筋層内範囲、部位、壊死の大きさなど)、心筋の壊死形態、梗塞後の心室再構築、血行動態的分類(治療、予後などに関連する)、臨床的重症度による分類などが挙げられる。ここで重症度が高いものを特に重症心筋梗塞という。
【0167】
「心筋症」とは、心筋の器質的および機能的な異常に起因する疾患の総称であり、高血圧、代謝異常症、虚血などの基礎疾患に続発する二次性心筋症、および見かけ上の基礎疾患なしに発症する突発性心筋症に分類される。病理的変化としては、心筋肥大、線維化、変性などが認められる。
【0168】
「拡張型心筋症」とは、左室の拡張を伴った左心室の機能不全をいい、「うっ血性心筋症」とも言われる。本明細書において「DCM」(dilated cardi0my0pathy)と略することがある。拡張型心筋症では、収縮不全が伴い、慢性心不全をきたす。病因としては、たとえば、ウイルス感染、遺伝子変異など多様なものが挙げられる。一般的には、他に明らかな一義的原因のある虚血性心筋症、代謝異常などに伴う心筋疾患などの特定心筋疾患(従来、二次性心筋疾患と称されていた疾患)は含まれないとされるが、本発明の目的では、その治療効果が示される限り、本発明の範囲内に入る。大部分の患者は全体に収縮力低下を示すが孤立性に部分的壁運動異常が起こることもあるといわれる。通常はうっ血を伴う心不全徴候を示すが,低心拍出量状態を現す倦怠感を示すこともある。拡張型心筋症は、原因不明で、特発性の心筋疾患である。主な病態は心筋収縮力の低下であり、その結果左室内腔の拡大をきたす。左室拍出血液量の減少、左室拡張期圧の上昇などを起こす。発症は急性または潜行性であり、末期では難治性心不全を呈することが多い。病理組織学的には,びまん性にあるいは局所的に心筋組織の変性、線維化、萎縮が認められる。残存心筋細胞が肥大している例も多い。心不全のほか重篤な不整脈、血栓塞栓症をきたし,予後はきわめて不良である。診断上とくに有用なものは心エコー図であり、びまん性壁運動の低下、心室壁の非薄化、心室内腔の拡大を証明する。これに冠動脈造影術にて冠動脈病変の否定、心筋生検(心筋バイオプシー)を行うことによりより確実に診断することができる。従って、本発明では、心臓超音波検査、心臓カテーテル検査、核医学検査(心筋シンチ検査)、心筋生検など当該分野において周知の検査手法を行うことによって拡張型心筋症の改善を確認することができる。
【0169】
従来、拡張型心筋症では、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬、強心薬などによる薬物療法、塩分・水分摂取制限、運動制限などの生活指導が行われているが、いずれも疾患そのもののに対する治療ではない・不整脈に対してはアミオダロンなどの抗不整脈投与が行われているが、これも対症療法としかなり得ない。血栓、塞栓にはワルファリンなどの抗凝固薬が使用されるが、これも対症療法に過ぎない・外科的療法として、ぺースメーカー、埋め込み型除細動器、補助循環装置(バイパス)、心臓移植などが行われているが、心臓移植以外は根治的とはいえず、ドナー不足が深刻な現在、心臓移植にも限界が存在する。本発明の治療技術は、このような拡張型心筋症などにも有効であり、画期的な治療効果をもたらす。
【0170】
「肥大型心筋症」(hypertr0phic cardi0my0pathy;HCM)は、心筋の異常な肥厚および左心室肥大による拡張期コンプライアンスの低下を主な症状とする心筋症をいう。心収縮機能は通常保たれている。5年および10年の生存率は、それぞれ約90%、約80%であり、良好であるが、突然死の原因とされており、臨床上の問題となっていることから、その根治的治療が求められている。本発明の治療技術は、このような肥大型心筋症などにも有効であり、画期的な治療効果をもたらす。
【0171】
「拡張相肥大型心筋症」とは、肥大型心筋症のうち、経過中に心筋の線維化が進み、心室壁の非薄化、収縮力の低下が生じ、心室内腔の拡張をきたして拡張型心筋症のような症状を呈したものをいう。きわめて予後不良といわれているが、無症状のものも多数存在しており、臨床上の問題となっている。従って、この拡張相肥大型心筋症もまた、根治的治療が求められている。本発明の治療技術は、このような拡張相肥大型心筋症などにも有効であり、画期的な治療効果をもたらす。
【0172】
上述のような難治性心不全の従来の治療および診断法などについては、循環器疾患最新の治療2002−2003、篠山重威、矢崎義雄編、南江堂、2002などに記載されている。つい最近に刊行された循環器疾患最新の治療2002−2003、篠山重威、矢崎義雄編、南江堂、2002に記載されているように、難治性心不全については、根治的治療法がなく、本発明はこのような心疾患、特に難治性心不全に対して初めて治療法を提供したという効果を奏する。
【0173】
本明細書において「予防」(pr0phylaxisまたはpreventi0n)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないようにするか、そのような状態を低減した状態で生じさせるかまたはその状態が起こることを遅延させるように処置することをいう。
【0174】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。本明細書では「根治的治療」とは、病的過程の根源または原因の根絶を伴う治療をいう。従って、根治的治療がなされる場合は、原則として、その疾患の再発はなくなる。
【0175】
本明細書において「予後」とは、予後の処置ともいい、ある疾患または障害について、治療後の状態を診断または処置することをいう。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、三次元方向に生物学的に結合されている。ここで、生物学的結合は、本明細書において他の場所において説明されており、例えば、細胞外マトリクスによる物理的結合、電気的結合などが挙げられるがそれらに限定されない・本発明では特に、組織の強度という点から細胞外マトリクスによる物理的結合が重要である。
【0176】
1つの実施形態において、本発明の人工組織は、従来の人工組織とは、細胞を含むという点で異なるということができる。
好ましくは、本発明の人工組織は、実質的に細胞または該細胞に由来する物質から構成される。実質的に細胞および細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクス)のみから構成されることによって、生体適合性および生体定着性を上げることができる。ここで、細胞に由来する物質は、代表的に細胞外マトリクスを含む。特に、人工組織では、細胞と細胞外マトリクスが適切な割合で含まれていることが好ましい。そのような適切な割合とは、例えば、細胞と細胞外マトリクスとの比が1:9〜9:1、好ましくは、3:7〜73、より好ましくは3:7〜5:5程度である。好ましい比率は、目的とする処置によって変動するが、そのような変動は、当業者には自明であり、目的とする臓器における細胞および細胞外マトリクスの比率を調査することによって、推定することができる。
【0177】
別の実施形態において、本発明の人工組織は、単離されていることが好ましい。単離とは、この場合、培養に用いた足場、支持体、培養液などから分離されていることを意味する。足場などの物質が実質的に存在しないことによって、本発明の人工組織は、移植後の免疫拒絶反応、炎症反応などの有害反応を抑えることができる。
【0178】
他の実施形態において、本発明の人工組織は、無傷であることが好ましい。傷のない人工組織は、本発明において初めて提供された、三次元化促進因子を用いた人工組織生産法によって実質的に初めて提供可能となった。なぜなら、従来は、人工組織を培養環境から剥離する際、どうしても組織そのものに物理的刺激を与えざるを得ず、その際必然的に傷が付かざるを得ない状態になっていたからである。従って、従来方法で調製された細胞シートは、複数重ねて利用するということが試みられていた。しかし、複数重ねて使用しても実際の移植に容易に利用できる状態にならない。従って、このような問題点を本発明の人工組織はこの無傷性によって達成する。
【0179】
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、大型である。大型とは、通常移植対象の部位を覆うに十分な面積を有することをいう。そのような面積は、例えば、少なくとも1cm2以上であり、より好ましくは、少なくとも2cm2以上であり、少なくとも3cm2以上であり、少なくとも4cm2以上であり、さらに好ましくは少なくとも5cm2以上であり、あるいは少なくとも6cm2以上であることがさらに好ましい。
【0180】
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、肉厚である。肉厚とは、通常移植対象の部位を覆うに十分な強度を有する程度の厚みをいう。そのような面積は、例えば、少なくとも約50μm以上であり、より好ましくは、少なくとも約100μm以上であり、少なくとも約200μm以上であり、少なくとも約300μm以上であり、さらに好ましくは少なくとも約400μm以上であり、あるいは少なくとも約500μmまたは約1mmであることがさらに好ましい。
【0181】
本発明の人工組織は、無孔であることが好ましい・無孔の人工組織は、移植に適しているからである、特に、覆う必要がある袋状組織の欠損部位を補強するために好ましい・
別の実施形態において、本発明の人工組織は、可擁性である。可擁性であることによって、特に、運動性の臓器の補強に適切となる。そのような臓器としては、例えば、心臓、血管、筋肉などが挙げられるがそれらに限定されない・
別の実施形態において、本発明の人工組織は、伸縮性を有する。伸縮性を有することによって、伸び縮みする臓器、例えば、心臓、筋肉などにおける適用が可能となる。このような伸縮性は、従来の方法で調製された細胞シートなどでは達成されなかった性質である。好ましくは、本発明の人工組織は、心臓の拍動運動に耐え得る強度を有する。そのような拍動運動に耐え得る強度とは、例えば、少なくとも天然の心筋が有する強度の少なくとも約50%以上、好ましくは少なくとも約75%以上、より好ましくは少なくとも約100%以上であることが挙げられるがそれらに限定されない・
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、三次元方向すべてに生物学的結合がある。従来の方法で調製された人工組織は、二次元方向には生物学的結合がある程度見られるものがあったが、三次元方向にあった組織は調製されていない。従って、本発明の人工組織は、このように三次元方向すべての生物学的結合を有することによって、どのような用途においても実質的に移植可能という性質がもたらされる。
【0182】
本発明の人工組織において指標となる生物学的結合の例としては、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間情報伝達の存在が挙げられるがそれらに限定されない・細胞外マトリクスの相互作用は細胞間の接着を顕微鏡で適宜染色して観察することができる。電気的結合は、電位を測定することによって観察することができる。
【0183】
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、臨床適用することができる組織強度を有する。臨床適用することができる組織強度は、適用が意図される部位に応じて変動する。そのような強度は、当業者が本明細書の開示を参照して、当該分野における周知技術を参酌することによって決定することができる。例えば、好ましい実施形態では、本発明において要求される強度は、臨床適用が意図される部分の組織強度の少なくとも80%以上である。
【0184】
特定の実施形態において、上記臨床適用が意図される部分は、心臓を含むが、場合によって、心臓以外の部分への適用が企図される。
別の局面において、本発明は、細胞から人工組織を生産するための細胞培養組成物を提
整理番号=FI05040CIVPCT/P2004/00I024提出日=平成18年1月17日34供する。この細胞培養組成物は、細胞を維持または増殖させるための成分(例えば、市販される培地など);および三次元化促進因子を含む。このような三次元化促進因子に関する説明は、上述の人工組織生産法において詳述した。従って、この三次元化促進因子は、アスコルビン酸またはその誘導体(例えば、アスコルビン酸1リン酸またはその塩、アスコルビン酸2リン酸またはその塩、L一アスコルビン酸またはその塩など)を含む。ここで、本発明の培養組成物において含まれるアスコルビン酸2リン酸またはその塩は、少なくとも0。1mMで存在するか、あるいは濃縮培養組成物の場合は、調製時に少なくとも0。1mMとなるように含まれている。あるいは、この最低限度の濃度は、0。01mM、0。05mMであり得、または0。2mM、もしくは0。3mMであり得る。さらに好ましくは最低限度の濃度は、0。5mMであり得、あるいは1。0mMであり得る。
【0185】
好ましい実施形態では、本発明の細胞ビア要素生物中の三次元化促進因子は、アスコルビン酸1リン酸またはその塩およびアスコルビン酸2リン酸またはその塩を含む。
本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、アスコルビン酸1リン酸と共存して用いられる。この場合、使用されるアスコルビン酸1リン酸とアスコルビン酸2リン酸とは、特定の比率で用いることが好ましくあり得る。そのような好ましい比率としては、例えば、1:10〜10:1の範囲内が挙げられる。あるいは、好ましい比率としては、アスコルビン酸1リン酸のモル量がアスコルビン酸2リン酸よりも少ないという関係を挙げることができる。
【0186】
別の実施形態において、本発明において使用される三次元化促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む。アスコルビン酸2リン酸を明示的に加えて組織形成を行ったという報告はなされていない。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量加えることによって、生産される細胞外マトリクスが多すぎず、その組成も移植可能にする程度となり、従って、細胞と細胞外マトリクスとの比率が移植可能な程度の強度などを保持させることを達成したという予想外の効果が奏される。
【0187】
好ましい実施形態では、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で、さらに好ましくは少なくとも0.5mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは最低限度の濃度は、1.0mMであり得る。
【0188】
ある好ましい実施形態では、本発明において使用される三次元化促進因子は、アスコルビン酸1リン酸またはその塩、アスコルビン酸2リン酸またはその塩およびL一アスコルビン酸またはその塩を含む。
【0189】
(「巻く」ための人工組織)別の局面において、本発明は、動物の生体の部分を補強するための人工組織を提供する。このような補強を行うことができる人工組織は、本発明の人工組織生産法によって初めて達成された技術である。
【0190】
好ましい実施形態では、上記部分は、袋状臓器を含む。袋状臓器では、無傷性および/または無孔性という性質が人工組織にとって重要であり、そのような性質を有する人工組織であって、一定の大きさを持つような組織は従来提供されていない。従って、上述のような本発明の人工組織が提供されたことによって初めて袋状臓器の実質的な治療が可能になったといえる。従って、袋状臓器については、特定の疾患(例えば、難治精神疾患(例えば、拡張型心筋症など)など)の場合、初めて臓器移植以外の治療が可能になったといえる。
【0191】
特定の実施形態では、上記袋状臓器は、心臓、肝臓、腎臓などが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明の特定の実施形態において、上記補強は、上記部分を覆うように本発明の人工組織を配置することによって達成され得る。従来の方法で提供される人工組織は、このような覆うことによる処置(すなわち、「巻く」用法)が不可能であったことから、本発明の人工組織は、従来技術で達成不可能であった用途を提供することになる。
【0192】
従って、そのような特定の実施形態において、本発明の人工組織は、上記部分の伸縮に対して抵抗性を有する。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、生物学的結合を有することが有利である。
【0193】
別の好ましい実施形態において、生物学的結合は、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間の情報伝達のうち少なくとも1つを含む。
別の好ましい実施形態において、本発明の補強用人工組織は、三次元化促進因子の存在下で細胞を培養することによって形成される。
【0194】
別の実施形態において、本発明の補強用人工組織は、処置該当される動物(例えば、ヒト)に由来する細胞(自己細胞)を含む。より好ましくは、本発明の補強用人工組織は、処置該当される動物(例えば、ヒト)に由来する細胞(自己細胞)のみを細胞として含む。
【0195】
(「巻く」治療法)別の局面において、本発明は、動物の生体の部分を補強するための方法を提供する。この方法は、A)人工組織を、該部分を覆うように配置する工程;およびB)該人工組織と該部分とが生物学的に結合するに十分な時間保持する工程、を包含する。ここで、ある部分を覆うように配置することは、当該分野において周知技術を用いて行うことができる。ここで、十分な時間は、その部分と人工組織との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。従って、この場合、長ければ長いほど好ましいといえるが、実質的には極端に長い場合は、実質的に補強が完了したといえ、特に限定する必要はない。
【0196】
別の実施形態において、本発明の補強方法では、上記部分は、袋状臓器(例えば、心臓、肝臓、腎臓など)を含むことが好ましい。そのような袋状組織の補強には、巻くこと(損傷部分を覆うこと)が必要である。巻く用途で抵抗可能な人工組織は、本発明によって初めて提供された。従って、本発明の補強方法は、従来達成されなかった画期的な方法を提供することになる。
【0197】
特に、本発明の補強方法では、本発明の人工組織は、上記部分の伸縮に対して抵抗性を有する。このような伸縮の例としては、心臓の拍動運動、筋肉の収縮などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0198】
別の好ましい実施形態では、本発明の補強方法では、本発明の人工組織は、生物学的結合(例えば、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間の情報伝達など)を含む。この生物学的結合は、三次元方向すべてにおいて有されていることが好ましい。
【0199】
別の好ましい実施形態において、本発明の補強方法は、三次元化促進因子の存在下で細胞を培養して本発明の人工組織を形成する工程をさらに包含する。このような三次元化促進因子の存在下での培養を包含する方法の移植・再生技術は、従来提供されていなかった方法であり、このような方法によって、従来治療が不可能とされていた疾患(例えば、難治性心疾患(例えば、拡張型心筋症など))を治療することができるようになった。
【0200】
好ましい実施形態において、本発明の補強方法において、本発明の人工組織において使用される細胞は、移植が意図される動物に由来する細胞(すなわち、自己細胞)である。自己細胞の使用により、免疫拒絶反応などの有害な副作用を回避することができる。
【0201】
別の好ましい実施形態では、上記部分は心臓である。この心臓は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拡張型心筋症などの疾患または障害を伴う。
【0202】
一部の臓器について、特定の疾患、障害および状態は、その治療について根本的な治療が困難といわれるものがある(例えば、難治性心疾患など)。しかし、本発明の上述のような効果によって、従来では不可能とされていた処置が可能となり、根本的な治療にも応用することができることが明らかとなった。したがって、本発明は、従来の医薬で達成不可能であった有用性を有するといえる。
【0203】
(併用療法)別の局面において、本発明は、HGFのようなサイトカインと人工組織とを併用することによる再生療法を提供する。
本発明で使用されるサイトカインはすでに市販されているが(例えば、東洋紡(株)HGF−101等)、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる.HGFを産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGFを得ることもできる.或いは、遺伝子工学的手法によりHGFをコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主に挿入して挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清から目的とする組み換えHGFを得ることができる(例えば、Nature、342、440(1989)、特開平5−111383号公報、Bi0chem-Bi0phys. Res. C0mmun., 163;967(1989)等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母または動物細胞一などを用いることができる。このようにして得られたHGFは、天然型HGFと実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/または付加されていてもよい。患者への導入方法としては、例えば、本発明においてHGFの導入方法として、安全かつ効率の良い遺伝子導入法であるセンダイ・ウィルス(HVJ)リポソーム法(M0lecular Medicine、30、1440-1448(1993)、実験医学、12、1822−‡826(1994))、電気的遺伝子導入法、ショットガン方式遺伝子導入法等があげられる。好ましくは、HVJリポソーム法が使用される。
【0204】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0205】
本実施例において、動物の取り扱いは、大阪大学において規定される基準を遵守し、動物愛護精神に則って実験を行った。
(実施例1:心筋細胞シートでの人工組織および三次元構造体の作製および利用一組織操作した収縮性心筋細胞シートは、障害心筋層を再生する一)(生体操作した収縮性心筋細胞シートは、梗塞心筋層と統合してこれを再生する)本実施例において、本発明者らは、(1)心筋細胞シート(人工組織)は、移植後に生存し、かつ障害心筋層との組織学的電気的結合を示すか否か;(2)移植した心筋細胞シート(人工組織)は、心機能の改善を誘導し得るか否かという特定の課題について検証し、それぞれ、電気的結合を示すことおよび心機能改善をもたらすことを実証した。
【0206】
本発明者らは、障害心筋層の処置に対して、生体操作した組織移植の概念を導入した。足場を有さない組織操作した収縮性心筋細胞シートが、障害心筋層との組織学的電気的統合を示し、梗塞心筋層の再生をもたらしたことを実証した。
【0207】
(材料および方法)
(心筋梗塞モデル)
30匹のLewis系統の雄性ラット(300g、8週齢;Seac Y0shit0mi Ltd, Fuku0ka, Japan)を、本研究のために使用した。人道的な動物の世話は、Nati0nal S0city f0r Medical researchにより規定された「Principles 0f Lab0rat0ry Animal Care」およびInstitute 0f Lab0rat0ry Animal Res0urceにより準備されNati0nal Institute 0f Healthにより刊行された「Guide f0r the Care and Use 0f Lab0rat0ry Animals」(NIH Publicati0n N0.86-23、1985年改訂)に従った。急性心筋梗塞を、他所[Weisman HF, Bush DE, Mannisi JA, Weisfeldt ML, HealyB. Cellular mechanism 0f my0cardial infarct expansi0n. Circulati0n. 1988;78: 186-201]で記載されたようにして誘導した.簡単に述べると、ラットを、ペントバルビタールナトリウムで麻酔し、そして気管内チューブを通して、陽圧呼吸を適用した。第4左肋間隙にて胸郭を開胸し、8−0ポリプロピレン結紮糸によって、LADの起点から3mm遠位にて、LADを完全に結紮した。
【0208】
(矩形に設計したPIPAAmグラフティングポリスチレン細胞培養皿の調製)矩形に設計したPIPAAmグラフティング細胞培養皿の調製のための特定の手順は、他所[0kan0 T, Yamada N, Sakai H, Sakurai Y., J Bi0med Mater Res. 1993;27:1243-1251]に記載されている。簡単に述べると、2一プロパノール溶液中のIPAAmモノマー(K0hjin, T0ky0, Japanにより親切にも提供された)を、組織培養ポリスチレン(TCPS)皿(Falc0n 3002, Bect0n Dickins0n)上に広げた。その後、これらの皿を、Area Beam Electr0n Pr0cessing System(Nisshin High V0ltage)を使用する照射(0.25MGy電子ビーム線量)に供し、IPAAmの重合およびこの皿表面へのIPAAmの共有結合を生じさせた。これらのPIPAAmグラフティング皿を、冷たい蒸留水でリンスして、グラフティングしていないIPAAmを除去し、この皿を窒素ガス中で乾燥させた。第2工程において、このPIPAAmグラフティング表面を、矩形のカバーガラス(24×24mm、Matsunami, T0ky0, Japan)でマスクした。2−プロパノール中のアクリルアミド(AAm)モノマー溶液を、このマスクした皿表面上に広げた。その後、この皿表面に、電子ビームを照射し、そして洗浄した。結果として、各皿の中心の矩形領域は、PIPAAmグラフティングされており(温度応答性であり)、周囲の境界は、ポリ−AAmグラフティングされていた(非細胞接着性であった)。矩形の構成をしたPIPAAmグラフティング皿を、培養中で使用する前に、エチレンオキシドによりガス滅菌した。
【0209】
(新生児ラット心室筋細胞の初代培養物)初代新生児ラット心筋細胞を、以前に刊行された手順[Shimizu T, Yamat0 M, Akutsu T et al., Circ Res. 2002 Feb22;90(3):e40]に従って調製した。簡単に述べると、1日齢〜2日齢の新生児ラットを、深く麻酔して屠殺し、その心臓を迅速に取り出し、コラゲナーゼ(クラスII、W0rthingt0n Bi0chemical)を含むハンクス溶液中で37℃にて消化した。単離した細胞を、6%FBS、40%Medium199(Gibc0 BRL)、0.2%ペニシリンーストレプトマイシン溶液、2.7mm0l/Lグルコース、および54%平衡塩類溶液(116mm0l/LNaCl、1.0mm0l/LNaHP0、0.8mm0l/LMgS0、1.18mm0l/LKCl、0.87mm0l/LCaCl、および26。2mm0l/KNaHC0sを含む)を含む培養培地中に、懸濁した。この細胞懸濁物を、細胞密度8×106/皿でプレーティングし、5%C0を含む加湿雰囲気下で37℃にてインキュベートした。
【0210】
(線維芽細胞の初代培養物)
初代線維芽細胞を、以前に刊行された手順[Z. Yabl0nka-Reuveni, M. Namer0ff. Skel et al muscle cell p0pulati0ns. Separati0n and partial characterizati0n 0f fibr0blast-likecellsfr0membry0nictissueusingdensitycentrifugati0n.Hist0chemistry.1987;87=27-38]に従って調製した.簡単に述べると、8週齢のLewisラットの脚の筋肉由来の細胞懸濁物を、Perc0ll TM(Amersham Bi0sciences Sweden)密度遠心分離により、線維芽細胞と筋細胞とに分離した。単離した線維芽細胞を、コントロール線維芽細胞シートのために使用した。
【0211】
(心筋細胞シートの作製)
単離した新生児ラットの心筋細胞を、矩形に設計したPIPAAmグラフティングポリスチレン細胞培養皿上で培養し、そして温度を20℃まで低下させることによって矩形の細胞シートとして剥離させた。そして2つの心筋細胞シートを重層して、より厚い心臓移植片を作製した。二重層心臓シートの断面観察は、密接した結合と均質な心臓様組織を示した。四重層心筋細胞シートの同期した運動が、肉眼で検出された(データは示さず)。線維芽細胞シートの場合、単離した線維芽細胞を、同じ皿上で2日間培養し、そして同じ方法によって、矩形の細胞シートとして剥離した。
【0212】
(心筋細胞シートの移植)心筋細胞シート移植を、LewisラットのLAD結紮の2週間後に実施した。全身麻酔下に、この調査中のラットを、第4左肋間隙を介して曝した。その梗塞領域を、表面療痕および壁運動の異常を基にして可視的に同定した。心筋細胞シートまたは線維芽細胞シートを、梗塞心筋層中に移植した。コントロール群には、処置しなかった。
【0213】
移植の2週間後、4週間後、および8週間後に、心機能を評価した。移植の8週間後、心臓を採取し、切片化し、そして組織学的検査および免疫組織学的検査のために処理した0
移植した心筋細胞シートの同定のために、EGFP新生児ラット心筋細胞を、同じプロトコルにより単離し、そして心筋細胞シートを作製した。本発明者らは、EGFP新生児ラット心筋細胞シートを、ヌードラットの梗塞心筋層に移植した。本発明者らは、その梗塞心筋層において、EGFP陽性心筋細胞を検出し得た(図6左下および右下)。
【0214】
(ラット心臓の心機能の測定)
ラットに、ペントバルビタールナトリウムで麻酔した。麻酔にエタノールを補充して、軽度の麻酔を維持した。ラットを、仰臥位で軽く固定し、前胸部を剃毛した。心臓超音波検査を、市販の心エコーS0N0S5500(PHILIPS Medical Systems, USA)を用いて実施した。12MHzの環状アレイ変換器を、左半胸郭に適用した音響カップラーゲル層上に配置した。胸部への過度の圧力を避けつつその変換きが胸部との十分な接触を維持するように、注意を払った。上述のラットを、浅い左側面位で画像化した。まず、心臓を、最大左心室(LV)直径のレベルで、短軸断面にて2次元モードで画像化した。収縮左心室(LV)面積および拡張左心室(LV)面積を、同じ時間で決定した。左心室(LV)容量を、左心室(LV)短軸面積により評価した[G0rcsan J 3rd, M0rita S, Mandarin0 WA, Deneault LG, Kawai A, K0rm0s RL, Griffith BP, Pinsky MR. Tw0-dimensi0nal Ech0cardi0graphic Aut0mated B0rder Detecti0n Accurately Reflects Changesin Leftventricular V0lume. J Am S0c Ech0cardi0gr. 1993;6:482-9]。得られた画像は、左心室(LV)前壁および左心室(LV)後壁に対して垂直にMモードカーソルを位置付けるために使用した。すべての測定は、モニターを使用してオンラインで行った。拡張測定は、見かけの最大左心室(LV)拡張寸法の時期に行った。左心室(LV)収縮末期寸法を、左心室(LV)後壁の最も前方に収縮した軌跡の時期に測定した。左心室(LV)拡張寸法(LVDd)および左心室(LV)収縮寸法(LVDs)を測定した。寸法データおよび面積データは、選択した2拍動または3拍動の測定値の平均として表す。左心室(LV)駆出率(EF)を、LVEF(%)ニ[(LVDd3−LVDs3)/LVDd3]×100として計算した。LV%内径短縮率(FS)を、LV%FSニ[(LVDd−LVDs)/LVDd]×100として計算した。
【0215】
(カラーキネシスを用いる、局所的左心室壁運動のエンドカルジオグラフィ定量)
カラーキネシスは、この技術の拡大部分である。カラーキネシスは、リアルタイムで心臓内運動を自動的に探知しそして提示する手段として、連続的音波フレーム間の組織の後方散乱値を比較する。カラーキネシスを、市販の超音波システム(S0N0S5500, PHILIPS Medical Systems, USA)に組み込んだ[Auchincl0ss 1988, Transplantati0n 46:1: R0bert ML, Philippe V, Lynn W, James B, Claudia K, J0anne S, Rick K, David P, Vict0r MA, et al. Ech0cardi0graphic quantificati0n 0f regi0nal left ventricular wall m0ti0n with c0l0r kinesis. Circulati0n. 1996;93:1877-1885]。
【0216】
すべての研究対象において、12MHz環状アレイ変換器を用いて超音波画像化を実施した。側面位にて呼気終期の間に、胸骨傍短軸を得た。画像の質を最適にした後、心臓境界検出のための超音波定量システムを起動させた。利得制御(全利得および側方利得、時間利得補償)を調整して、予め規定した目的の領域内の血液一心臓内境界面の探知を最適にした。その後、カラーキネシスを、心収縮期全体を通して心臓内軌跡のオンラインカラーコード化のために起動した。心周期全体を通してカラーキネシスデータを含む画像系列を得、そのデータを、オフライン分析のために光学ディスクにデジタル形式で格納した。
【0217】
(組織学)
左心室心筋層検体を、心筋細胞シート移植後2週間目および8週間目に得た。各検体を、10%中性ホルムアルデヒド中に配置し、そしてパラフィン中に包埋した。各検体から、2〜3個の連続切片を切断し、そして光学顕微鏡検査のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0218】
血管内皮細胞を標識するために、第VIII因子関連抗原の免疫組織化学染色を実施した。凍結切片を、PBS中の2%パラホルムアルデヒド溶液を用いて、室温にて5分間固定し、3%過酸化水素を含むメタノール中に15分間浸漬させ、その後、PBSで洗浄した。そのサンプルを、ウシ血清アルブミン溶液(DAK0LASBKit, DAK0C0RP0RATI0N, Denmark)を用いて10分間カバーして、非特異的反応をブロックした。この検体を、HRPと結合したEP0S結合体化抗第VIII関連抗原抗体(DAK0EP0SAnti-Human V0n Wilebrand Fact0r/HRP、DAK0 Denmark)とともに一晩インキュベートした。このサンプルをPBSで洗浄した後、これらを、ジアミノベンジジン溶液(PBS中0。3mg/mlのジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得た。
【0219】
コネキシン43を検出するために、コネキシン43関連抗原の免疫組織化学染色を実施した。凍結切片を、3%過酸化水素を含むメタノール中に5分間浸漬し、その後、PBSで洗浄した。この検体を、コネキシン43に対するマウスモノクローナル抗体(CHEMIC0N Internati0nal, Inc., USA)とともに20分間インキュベートした。このサンプルをPBSで洗浄した後、このサンプルを、ビオチン化抗マウス免疫グロブリン(DAK0, Denmark)中に10分間浸漬し、その後、PBSで洗浄した。このサンプルを、ペルオキシダーゼ結合体化ストレプトアビジン(DAK0, Denmark)中に10分間浸漬した。サンプルをPBSで洗浄した後、このサンプルを、ジアミノベンジジン溶液(PBS中0.3mg/mlのジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得た。
【0220】
(電気組織学的分析)電位の捕捉のための1つの微小電極(直径100μm、Unique Medical C0. Ltd., T0ky0)を、心筋細胞を移植した療痕の上、線維芽細胞シートを移植した療痕の上、または処置していない療痕の上に、配置した。他の2つの電極を、左肋骨下領域および右大腿領域に配置した。宿主心筋層の刺激のために、2つの微小電極を、心房上に配置した。宿主心電図の検出のために、3つの電極を、胸部右上領域、左肋骨下領域および右大腿領域に取り付けた。両方の電位図を、生体電気増幅器(UA-102、Unique Medical C0., Ltd., T0ky0)により増幅し、そしてデータ収集システム(UAS-108S, Unique Medical C0., Ltd., T0ky0)により記録した。心房を、刺激器(NIH0NK0DEN, Japan)によって、速度300bpmで刺激した。その後、電位を、目的の領域中で捕捉した。
【0221】
その後、その閾値を分析するために、刺激用の2つの微小電極を、処置していない療痕上、心筋細胞シートを移植した療痕上、または線維芽細胞シートを移植した療痕上に、配置した。ぺーシングした宿主心電図の検出のために、1つの電極を、正常な心筋層に取り付け、そして他の2つの電極を、左肋骨下領域および右大腿領域に配置した。その後、本発明者らは、同じ刺激器によって、速度300bpmにて、処置していない療痕、心筋細胞シートを移植した療痕、または線維芽細胞シートを移植した療痕を刺激した。
【0222】
(データの分析)
データを、平均±標準偏差(SD)として表す。個々の群の間の差異の有意性を評価するために、ノンパラメトリック・マン−ホイットニー二標本検定を用いて、統計学的評価を実施した。統計学的有意性は、0.05未満のp値と決定した。
【0223】
(結果)
(心臓移植片の特徴)
剥離した心筋細胞シートは、細胞骨格再構成に起因して、面積が5.76cmから111±0.05cmへと縮んだ(n=3)。一方、その厚さは、20.1±0.9μmから52。4±6.0μmへと増加した(n=3)。この心臓シートは、巨視的観察によると、自然に収縮した。
【0224】
(組織学的評価)
本発明者らは、低温度下で単層心筋細胞シートを得ることができた(図6の左上)。心筋細胞シートは、移植後に結紮糸を用いずに、梗塞心筋層上にじかに付着させた(図6右上)。移植の2週間後、移植した心筋細胞シートのヘマトキシリンーエオシン(HE)染色の組織学的検査により、炎症細胞が蓄積することなく、梗塞心筋層上に整列して十分に付着したことが示された。黄色の矢印は、コラーゲンシートを示し、これは、心筋細胞シートを梗塞心筋層に送達するために必要である(図7)。移植した心筋細胞シートを移植後8週目に目視すると、移植した心筋細胞シートとレシピエント心臓との間が密接に付着していることが明らかになった。移植の8週間後の移植した心筋細胞シートのHE染色により、心筋細胞シートと宿主心筋層とが療痕の中心に整列して統合したことが示された(図7右下)。免疫組織化学染色により、移植した心筋細胞シート中、および移植した心筋細胞シートとレシピエント心臓との間の接触領域周辺にある、不規則な方向のコネキシン43が示された(図7中下)。第VIII因子免疫組織化学染色により、移植した心筋細胞シート中またはこのシートの周辺にある、多くの第VIII因子陽性細胞が示された(図7左下)。
【0225】
(梗塞心筋層の機能的回復)
Bモード分析により、C群と比較してT群において、左心室の拡張が十分に抑制されたこと、および全体的壁運動が十分に保存されたことが、示された(図8)。ベースラインでの駆出率(EF)、内径短縮率(FS)、左心室収縮末期面積(LVESA)は、3つの群の間で有意には異ならなかった。
【0226】
移植の2週間後および4週間後、2Dエンドカルジオグラフィは、他の群と比較して、T群におけるEFおよびFSの有意な改善を示した。LVESAは、他の群においてよりもT群において有意に小さかった。これらの機能的改善は、移植の8週間後に保存された(図9)。
【0227】
(電気生理学的実験)
電気生理学的実験は、C群において脚ブロックのようなQRS波の2つのピークを示したにも関わらず、T群において、処置した療痕領域のQRS波の1つのピーク成分を示した(図11)。F群もまた、T群ほどではないが効果が観察された。さらに、電気生理学的実験は、F群およびC群において低振幅を示したにも関わらず、T群において、QRS群の振幅(ボルト)の改善を示した(C群対T群:2.79±0.9V対0.83±0.64V、P<0.05)(図11)。
【0228】
T群において、心房を、刺激器によって振動数300bpmにて刺激すると、同期した電気スパイクが、移植した領域で検出された(図10左下)。さらに、レシピエント心臓のぺーシングについての閾値は、F群およびC群よりもT群において低かった(C群対F群対T群:4.9±0.9V対3.0±0.7V対1.7±0.5V、P<0.05)(図10右)。
【0229】
(結果)ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)製の温度応答性ドメインを、ポリスチレン細胞培養表面上にグラフティングした。新生児ラットの心筋細胞を、これらの皿上で培養し、そしてトリプシンを用いずに20℃未満で矩形の細胞シートとして剥離した。2つのシートを重層して、より厚い心臓移植片を作製した。これらの心筋細胞シートは、自然に収縮した。2つのシートの断面観察は、密接な結合と均質な心臓様組織を示した。
【0230】
左前下行枝(LAD)結紮の2週間後、以下の2つの異なる処置;1)心筋細胞シート移植(T群、n=10)、2)線維芽細胞シート移植(F群、n=10)を行った。コントロール群は、処置をしなかった(C群、n=10)。エンドカルジオグラフィによって、移植の2週間後、4週間後、および8週間後に、T群において心機能が有意に改善されたことが示された。カラーキネシスにより、移植前の値と比較して、局所的収縮壁運動が非常に回復されたことが示された。心筋細胞シートは、梗塞心筋層上に整列して付着し、その心筋層において均質の組織であるように見えた。免疫組織化学染色により、移植した心筋細胞シートにおいて、新脈管形成および不規則な方向を向いたコネキシン43が示された。電気生理学的実験によって、C群において脚ブロックのようなQRS群の2つのピーク成分が示されたにも関わらず、T群において、R波の改善および処置した療痕領域におけるQRS群の1つのピークが示された。F群においても、若干の改善が見られた。さらに、レシピエント心臓のぺーシングの閾値は、F群およびT群においては、C群よりも低かった(C群対F群対T群:4.9±0.9V対3.0±0.7V対1.7±0.5V、P<0.05)。
【0231】
(考察)
針注入により導入される細胞性心筋症の近年の発達により、損傷した心機能を回復するための新規なアプローチが提供された[Tayl0r DA, Atkins BZ, Hungspreugs P, J0nes TR, Reedy MC, Hutches0n KA, Gl0wer DD, Kraus WE. Regenerati0n 0f functi0nal my0cardium: Impr0ved perf0rmance after skeletal my0blast transplantati0n. Nature Med. 1998; 4: 929-933]。心筋細胞シート移植法の付加された潜在的利点は、組織形成プロセス(移植片の形状、サイズ、および一貫性)の良好な制御、容易な移植技術、ならびに最小の細胞損失で多数の細胞を移植することであり、一方、注射法は、トリプシン処理によって一定量の細胞または細胞表面タンパク質(例えば、コネキシン43)の損失をもたらす。心筋細胞シート移植法は、心筋梗塞に加えて、全体的な心筋機能不全(例えば、拡張型心筋症)の修復のために有用であり得る。臨床的適用を達成するために、移植した全心筋組織量は、障害心筋層の修復のために極めて重要であり、そして新脈管形成の増強により、心臓シートをより厚くすること、およびより多くの細胞を障害心筋層に送達することが、可能になり得る。
【0232】
本実施例において、本発明者らは、足場を有さない収縮性心筋細胞シートを開発し、そして移植後の心臓の機能評価および組織学的評価を分析した。心筋細胞シートは、新脈管形成を伴って梗塞心筋層に付着した。この心筋細胞シートは、コネキシン43を発現する均質な筋細胞組織のように見え、そしてインビボで同期的に収縮する。心筋細胞シート中の心筋細胞は、移植した心筋細胞シート中で整列すること、およびほとんど炎症細胞が蓄積しないことを示した。この心筋細胞シート移植は、心臓の収縮性能および拡張性能の優れた改善をもたらす見込みがあった。電気生理学的実験により、心筋細胞シートが、療痕における導電率を改善すること、そして処置した療痕領域におけるQRS群の1つのピーク成分を再構成することが、明らかになった。これらのデータは、収縮性心筋細胞シートが、新脈管形成およびコネキシン43の発現が付随する、障害心筋層との組織学的電気的統合を示し、心機能の有意な改善を誘導するという、本発明者らの仮説を証明した。本発明者らが知る限りでは、これは、障害心筋層において、組織操作した心臓シートを使用して心筋再生治療が成功した最初の報告である。
【0233】
再生治療における統合の主要な要因は、動的統合、電気的統合、および組織学的統合である。
動的統合に関して、移植した心筋細胞シートの心筋細胞は、梗塞心筋層において整列を示し、そして局所的および全体的な収縮機能の有意な改善を促進した。損なわれたリモデリングは、梗塞心臓における心臓の構造的変形および心機能の劣化の原因である[Tyagi SC. Extracellular matrix dynamics in heart failure: A pr0spect f0r gene therapy. J. Cell. Bi0chem. 1998; 68: 403-410]。Kelleyらは、梗塞心筋層上にメッシュを配置された左心室(LV)の拡張の制限が、ヒツジ心筋梗塞モデルにおいて左心室(LV)の構成および休止機能を保存することを示した[Kelley ST, Malekan R, G0rman JHら、Restraining infarct expansi0n preserves left ventricular ge0metry and functi0n after acute anter0apical infarcti0n. Circulati0n. 1999; 99: 135-142]。機能不全組織における左心室(LV)構成の保存および局所的収縮機能の改善の両方が、損傷した心臓における収縮性能を修復するために必須であり得るが、それゆえ、左心室(LV)拡張の減弱のみでは、不十分な処置である。非収縮シートが収縮シートと比較して収縮性能を改善しなかった本発明者らのデータは、この所見を支持する。さらに、本発明者らのデータは、梗塞心筋層において有意な新脈管形成を示した。心臓機能の改善に関する機構の1つは、移植した心筋細胞シートにより誘導される新脈管形成であり得る。総括すると、心筋細胞シート移植により誘導される収縮機能の有意な改善は、左心室(LV)構成の保存、局所的収縮機能の改善、および新脈管形成の誘導を担う。
【0234】
電気的統合に関して、本発明者らの研究は、電気導電体(すなわち、コネキシン43を発現する心筋細胞シート)が、療痕における導電性を促進して、梗塞心筋層において、QRS群の振幅の改善、および脚ブロックのようなQRS群の2つのピーク成分の修復をもたらしたことを、示した。脚ブロックパターンは、心筋層における線維症または壊死に関連する可能性がある[Agarwal A. K., Venug0palan P. Right bundle branch bl0ck: varying electr0cardi0gram patterns. Aeti0l0gical c0rrelati0n, mechanisms and electr0physi0l0gy. Internati0nal J0urnal 0f Cardi0l0gy. 1999;71: 33-39]。組織学的変化は、心電図記録におけるQRS群の振幅を反映した[Sakam0t0 A, 0n0 K, Abe M, Jasmin G, Eki T, Murakami Y, Masaki T, T0y0-0ka T, Hana0ka F. B0th hypertr0phic and dilated cardi0my0pathies are caused by mutati0n 0f the same gene, delta-sarc0glycan, in hamster: an animal m0del 0f disrupted dystr0phin-ass0ciated glyc0pr0tein c0mplex. Pr0c Natl Acad Sci USA. 1997; Dec 9; 94(25): 13873-8]。USにおいて示された同期的壁運動の事実、脚ブロックのようなQRS群の2つのピーク成分の修復、および療痕における閾値の減少は、移植した心筋細胞シートと宿主心筋層との間の電気的接続を示し得る。この理由のために、本発明者らがトリプシンではなく温度応答性皿を使用して培養皿から細胞シートを剥離した場合、その細胞シートは、コネキシン43とその表面との良好な状態を維持した。
【0235】
組織学的統合に関して、移植した心筋細胞シートは、新脈管形成を伴う梗塞心筋層との良好な付着を示した。すでに、本発明者らは、血液細胞増殖因子による細胞/細胞相互作用および細胞/ECM相互作用の増強による組織学的統合が、梗塞心筋層の心筋再生に必須であることを示した[Miyagawa S, Sawa Y, Taketani S, Kawaguchi N, Nakamura T, Matsuura N, Matsuda H. My0cardial regenerati0n therapy f0r heart failure. Hepat0cyte gr0wthfact0r enhances the effect 0f cellular cardi0my0plasty. Circulati0n. 2002; 105: 2556-2561]。Kushidaらは、細胞シート中の接着因子は、温度応答性皿からの剥離後に十分に保存されたことを報告した[Kushida A, Yamat0 M, K0nn0 C, Kikuchi A, Sakurai Y, 0kan0 T., J Bi0med Mater Res 45: 355-362, 1999]。従って、これらのシートは、その表面に接着分子を良好に保存して、いくつかの器官との良好な付着および統合を示す[Shimizu T, Yamat0 M, Kikuchi Aら、Tw0-dimensi0nal manipulati0n 0f cardiac my0cyte sheetsutilizing temperature-resp0nsive culture dishes augments the pulsatile amplitude. Tissue Eng 2001; 7(2): 141-51; 24: v0n Recum HA, Kim SW, Kikuchi A, 0kuhara M, Sakurai Y, 0kan0 T. Retinal pigmented epithelium culture 0n thermally resp0nsive p0lymer p0r0us substrates. J Bi0mater Sci P0lym Ed 9: 1998; 1241-1254]。さらに、細胞群落を保存しての細胞の送達が、注射法を介する細胞送達とは対照的に、細胞の生存および生存度にとって重要であり得る。これらの結果は、足場を有さない心筋細胞シートが、宿主心筋層とのシンチウムを生じることを示す。
【0236】
シートの細胞供給源は、臨床適用において非常に重要な問題である。近年、筋芽細胞が、細胞移植の臨床適用のために最も広範に使用されている。筋芽細胞は、心筋細胞よりも虚血を許容する可能性を有する。それゆえ、筋芽細胞は、現在のところ、臨床適用における細胞シート移植のために適切な細胞供給源のうちの1つである。
【0237】
結論として、本発明者らは、収縮性心筋細胞シートが、障害心筋層を、動的に、電気的に、そして組織学的に、統合することを示した。
心筋細胞シート移植は、障害心筋層における機能的性能および心臓構造を修復するための、新規かつ有望なストラテジーであり得る。
【0238】
線維芽細胞シートもまた、心臓細胞シートほどではないが、若干の改善を提示した。従って、少なくとも応急措置として線維芽細胞シートを利用することができることが実証された。
【0239】
(結論)
新生児ラットの心筋細胞を使用する人工組織は、障害心筋層と統合し、虚血心筋層モデルにおいて心機能を改善した。本発明者らは心筋細胞を使用したが、細胞シート技術を使用して組織化した人工組織は、組織移植の新規な概念として、再生医療の分野において有用である。この方法を、図1に模式化して示す。
【0240】
(実施例2)
(自己由来筋芽細胞シートは、障害心筋層を再生する:臨床適用への道−ラットを用いた実証例)
組織工学における最近の進歩は、心筋以外の種々の細胞および細胞外基質から構成される、移植可能な機能的組織を提供する可能性がある。本発明者らは、自己由来筋芽細胞シートを設計した。これらのシートが、臨床適用の点で有益であり得ると、本発明者らは考え、本実施例では、筋芽細胞を材料として用いて人工組織または三次元構造体を構築し、その医療応用における効果を実証した。
【0241】
(方法)
左前下行枝(LAD)を2週間結紮することによって、28匹のラットにおいて、損傷心臓を作製した。高分子(N−イソプロピルアクリルアミド)製の温度応答性ドメインで、培養皿上をコーティングした。脚筋肉から単離した骨格筋芽細胞(SM)を培養し(図12を参照)、20℃にて単一の単層細胞シート(組織)として皿から脱着した(図13)。9匹のラットにおいて2つの筋芽細胞シート移植(筋芽細胞シート(S)群=107細胞)を行った;9匹のラットにおいて筋芽細胞注入(1群=107細胞)を行った;10匹のラットにおいて非細胞治療(C群=培地のみの注入)を行った(図14および16を参照)。
【0242】
(心機能の測定)
ラットを麻酔し、手術後14日目および28日目に、心機能をモニターした。12MHzで操作する環状アレイ変換器を備えた超音波機器(S0n0s 5500)を使用して、エンドカルジオグラフィを実施した(図18)。B画像化モードおよびM画像化モードにおける胸骨傍短軸画像および胸骨傍長軸画像を実施した。前壁圧に加えて、全体的パラメーター(例えば、左心室拡張末期直径、左心室収縮末期直径、内径短縮率および駆出率)を測定した(図14を参照)。
【0243】
(組織学)
2週間後および4週間後、過量のペントバルビタールによってラットを屠殺し、その心臓を摘出し、10%ホルマリンで固定し、そしてパラフィン中に包埋した。低温槽を使用することによって、心臓の長手軸方向に沿って心底から心尖まで、一連の5mm厚切片を調製し、その後、標準的組織学のために処理した(図15および17に示されるように、筋肉の可視化のためのヘマトキシリンおよびエオシン染色およびコラーゲン含量を評価するためのマッソン−トリクローム染色を行った)。
【0244】
(結果)
(心機能に対する筋芽細胞移植の効果)
実験により、手術の24時間以内に、心筋梗塞は20%未満の急性死亡率を生じた。一方、この細胞移植手順は、さらなる動物の死亡を引き起こさなかった。
【0245】
心室リモデリングは、全体的な心腔の拡大と心力不全とを特徴的に生じる。術後2週目。4週目および8週目において、組織(MS群)およびMI群は、左心室直径の有意な減少を生じ、左心室拡張末期面積(LVEDA)および左心室収縮末期面積(LVESA)の両方が、この処置後に改善した。さらに筋芽細胞シート群における駆出率(EF)値および内径短縮率(FS)値もまた、MI群と比較した高かった(図19を参照)。
【0246】
細胞治療を行っていないコントロール群の心臓は、心室のさらなる拡張、前壁の肥厚、および明らかに低い駆出率(EF)値および内径短縮率(FS)値を示した。
(組織学的知見)
MI群の損傷心臓が、拡張して不均一に厚くなった壁を有したこと(図20を参照)、および移植細胞のパッチをほとんど含まなかったことが、組織学によって明らかになった(図21)。対照的に、シート移植物を含む梗塞心臓は、拡張せず、均一に厚くなった壁を有し、十分に細胞化し、そして療痕を有さなかった。移植物の生存を、移植後2週間目、4週間目、および8週間目に同定した。
【0247】
移植細胞の技術的な損失は、Y染色体の存在についてRT−PCRによって分析した場合、15分および1日の時点で、MS群においてはMI群と比較して少なかった(全心臓細胞数の3.7±0.5%対1.7±0.5%)。
【0248】
(連続写真)本発明の筋芽細胞移植によって、実際に拍動が生じていることを動画を撮影することによって確認した(図22〜29)。
図22A〜図22Fは、電気生理学的試験の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。図22A〜Cは、コントロールであり、図22D〜図22Fは、本発明の筋芽細胞シートによる結果である。
【0249】
図23A〜図23Cは、GFPの発現の様子を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。本発明の筋芽細胞シートは、実際に拍動していることがわかる。
【0250】
図24A〜図24Cは、本発明の処置した梗塞心の超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。
図25A〜図25Cもまた、超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。左側は梗塞心のコントロールであり、右側は本発明の筋芽細胞シートでの結果を示す。示されるように、本発明によって、梗塞がほぼ治癒し、ほぼ正常に拍動している様子がわかる。
【0251】
図26A〜26Cは、別の時点での図25とおなじサンプルを示した写真である。このように、梗塞心は本発明によってほぼ治癒している様子がわかる。
図27A〜27Cもまた、本発明の処置による梗塞心の超音波エコー図の結果を動画表示し、その中で代表的なコマを静止画として表したものである。このように、梗塞が本発明の処置により治癒していることがわかる。
【0252】
(RT−PCR)次に、細胞生着性を示すために、移植細胞数のRT−PCRによる定量を行った。この実施例では、SRYおよびIL2の遺伝子コピー数についてTaqManアッセイを行った。
【0253】
RT−PCRは、雄性細胞中Y染色体に由来する遺伝子の一部をプライマーとして用いて、雌性宿主中の染色体における遺伝子量を比較し、生着性を確認した。以下のプライマーを使用した。
【0254】
反応溶液として以下のPCR反応混合液を用いた。
Universal Mix(製造業者が提供) 12.5μl
プライマー(100μM)フォワード 0.05μl
プライマー(100μM)リバース 0.05μl
プローブ(50μM) 0.1μl
dH20 10.3μl
テンプレート(DNA) 2.0μl
プライマーおよびプローブ配列は以下のとおりである。
SRY(フォワードプライマー)GCC TCA GGA CAT ATT AAT CTC TGG AG(配列番号15)
(リバースプライマー) GCT GAT CTC TGA ATT CTG CAT GC(配列番号16)
(プローブ) AGG CGC AAG TTG GCT CAA CAG AAT CC(配列番号17)
IL2(フォワードプライマー)GCC TTG TGT GTT ATA AGT AGG AGG C(配列番号18)
(リバースプライマー) AGT GCC AAT TCG ATG ATG AGC(配列番号19)
(プローブ) TCT CCT CAG AAA TTC CAC CAC AGT TGC TG(配列番号20).
100ngの各ゲノムDNAを用いてPCRを行った。その反応混合液を、Micr0Amp 0ptical 96ウェル反応プレートのウェル中に入れた。Micr0Amp 0ptical Capsを用いてウェルにキャップをし、手短に気泡を抜き、これらのウェル中の底にある液体を集めた。各々の遺伝子についての測定は、3連で行った。PCRは、ABI Prism 7700 Sequence Detecti0n Systemを用いて行った。
【0255】
標準DNAは以下のとおりである:(200ng. 40ng. 8ng. 1.6ng 0.32ng 0.064ng);(SRY 200ng=3x10 c0py; IL 2200ng=6x10 c0py)。サーマルサイクリングのパラメータとしては以下のものを用いた。
ステージ1 ステージ2 ステージ3
50℃/2分 95℃/10分 95℃/15秒−−60℃/1分
これを40サイクル反復雄性細胞の指標、以下の式で求めた。
【0256】
(2xSRY÷IL2)x100。
その結果、図28に示すように、シート(三次元組織体)移植は、針移植(細胞そのもの)より良好な細胞生着性を示すことが明らかになった。
【0257】
(細胞性の実証)
移植筋芽細胞シートが移植後にどのような細胞種に分化しているかどうかを検証した。
そこで、マッソントリクローム染色HE(ヘマトキシリンーエオシン)染色MHC速筋(MHC fast)染色およびMHC遅筋(MHC sl0w)染色を行った。
【0258】
その手順は、以下のとおりである。
<マッソントリクローム染色>
マッソントリクローム染色法は以下のとおりである:マッソントリクローム染色では、鉄ヘマトキシリンで核が染められ、その後に拡散速度の大きい小色素分子(酸フクシン、ポンソーキシリジン)が細胞の細網孔へ浸透し、次いで拡散速度の小さい大色素分子(アニリン青)が膠原線維の粗構造に入り込み青色に染め出す。
【0259】
マッソントリクローム染色で使用される試薬
A)媒染剤
10%トリクロル酢酸水溶液 1容
10%重クロム酸カリウム水溶液 1容
B)ワイゲルトの鉄ヘマトキシリン液(使用時に1液と2液を等量混合)
1液
ヘマトキシリン 1g
100%エタノール 100ml
2液
塩化第二鉄 2.0g
塩酸(25%) 1ml
蒸留水 95ml
C)1%塩酸70%アルコール
D)I液
1%ビーブリッヒスカーレット 90ml
1%酸性フクシン 10ml
酢酸 1ml
E)II液
リンモリブデン酸 5g
リンタングステン酸 5g
蒸留水 200ml
F)III液
アニリン青 2.5g
酢酸 2ml
蒸留水 100ml
G)1%酢酸水
マッソントリクローム染色法の手順
1.脱パラ、水洗、蒸留水
2.媒染(10〜15分)
3.水洗(5分)
4.ワイゲルトの鉄ヘマトキシリン液(5分)
5.軽く水洗
6.1%塩酸70%アルコールで分別
7.色出し、水洗(10分)
8.蒸留水
9.I液(2〜5分)
10.軽く水洗
11.II液(30分以上)
12.軽く水洗
13.III液(5分)
14.軽く水洗
15.1%酢酸水(5分)
16.水洗(すばやく)
17.脱水、透徹、封入。
【0260】
マッソントリクローム染色法では、膠原線維、細網線維、糸球体基底膜は、鮮やかな青に染まり、核は黒紫色に染まり、細胞質は淡赤色に染まり、赤血球は檀黄色〜深紅色に染まり、粘液は青色に染まり、細胞分泌穎粒は好塩基性が青に好酸性が赤に染まり、線維素は赤に染まる。従って、青く染まった面積を線維化した部位として算出することができる。
【0261】
<ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色>
細胞における支持体の定着・消長を観察するために、HE染色を行った。その手順は以下のとおりである。必要に応じて脱パラフィン(例えば、純エタノールにて)、水洗を行い、オムニのヘマトキシリンでサンプルを10分浸した。その後流水水洗し、アンモニア水で色出しを30秒間行った。その後、流水水洗を5分行い、塩酸エオジン10倍希釈液で2分間染色し、脱水し、透徹し、封入する。
【0262】
<MHC fast染色の手順>
モノクローナル抗骨格筋ミオシン(FAST)
ミオシン重鎖:MY−32(骨格筋芽細胞)
ラットおよびヒトとの比反応性
1)凍結ストックから、5μm厚の切片を作製する。
【0263】
2)−20℃で5〜10分間にわたり、アセトン中でこの切片を固定する(パラフィンブロックは、パラフィン除去し再水和する必要がある)
3)内因性ペルオキシド活性は、メタノール中0.3%H中で20分間室温でブロックする(1ml 30%H+99mlメタノール)
4)PBSで洗浄する(3×5分)。
【0264】
5)モノクローナルー次抗体(MY−32)(1μl抗体+200μlPBS/スライド)と4℃で湿式チャンバー内で一晩インキュベートする。
6)翌日PBSで洗浄する(3×5分)。
【0265】
7)抗マウスおよび抗ウサギのn0.1ビオチン化結合を、30分〜1時間室温で適用する(3滴を直接スライドにたらす)。
8)PBSで洗浄する(3×5分)。
【0266】
9)ストレプトアビジンHRP n0.2を、LSABについて、直接、約三滴たらし10〜15分間浸す。
10)PBSで洗浄する(3×5分)。
【0267】
11)DABをたらす(5ml DAB+5μl H
12)茶っぽい色を顕微鏡で観察する。
13)水中に5分ほど浸す。
【0268】
14)HEを30秒−1分間浸す。
15)数回洗浄する。
16)イオン交換水で1回洗浄する。
【0269】
17)80%エタノールで1分洗浄する。
18)90%エタノールで1分洗浄する。
19)100%エタノールで1分洗浄する。(3回)
20)キシレンで3回×1分間洗浄する。その後カバースリップをかける。
【0270】
21)発色を見る。
(MHC sl0w染色)
モノクローナル抗ミオシン:骨格筋遅筋
イヌ、ラットおよびヒトでの、比反応性
1)凍結ストックから、5μm厚の切片を作製する。
【0271】
2)−20℃で5−10分間にわたり、アセトン中でこの切片を固定する(パラフィンブロックは、パラフィン除去し再水和する必要がある)
3)内因性ペルオキシド活性は、メタノール中0.3%H中で20分間室温でブロックする(1ml 30%H+99mlメタノール)
4)PBSで洗浄する(3×5分)。
【0272】
5)モノクローナルー次抗体(N0Q7)(1μl抗体+200μl PBS/スライド)と4℃で湿式チャンバー内で一晩インキュベートする。
6)翌日PBSで洗浄する(3×5分)。
【0273】
7)抗マウスおよび抗ウサギのn0.1ビオチン化結合を、30分−1時間室温で適用する(3滴を直接スライドにたらす)。
8)PBSで洗浄する(3×5分)。
【0274】
9)ストレプトアビジンHRP n0.2を、LSABについてたらし1015分間浸す。
10)PBSで洗浄する(3×5分)。
【0275】
11)DABをたらす(5ml DAB+5μl H
12)茶っぽい色を顕微鏡で観察する。
13)水中に5分ほど浸す。
【0276】
14)HEを30秒−1分間浸す。
15)数回洗浄する。
16)イオン交換水で1回洗浄する。
【0277】
17)80%エタノールで1分洗浄する。
18)90%エタノールで1分洗浄する。
19)100%エタノールで1分洗浄する。(3回)
20)キシレンで3回×1分間洗浄する。その後カバースリップをかける。
【0278】
21)発色を見る。
その結果、図29に示すように、移植した筋芽細胞シートは、速筋繊維(fast fiber)から遅筋線維(sl0w fiber)に分化していたことが明らかになった。これらのマーカーは、本発明の三次元組織構造体を識別するために使用することができる。
【0279】
(結論)
骨格筋芽細胞移植は、心臓リモデリングを減弱させそして損傷心筋層を再生させることによって、細胞移植と比較して、全体的心機能を改善した。このことは、心筋再生治療のための有望なストラテジーを示唆する。
【0280】
従って、筋芽細胞シートを三次元構造体として用いて移植した場合に、障害心筋層の心機能が改善することを実証した。本実施例では、直接注入を使用して、自己由来骨格筋芽細胞(SM)の移植を、臨床適用した。直接注入に起因する移植細胞および移植細胞外基質(ECM)の損失は、骨格筋芽細胞の数および能力を制限する。
【0281】
自己由来細胞供給源を使用する臨床試験に関して、自己由来筋芽細胞が好ましい。細胞移植よりも組織移植の方が、損傷心臓を再生するために有利であることも実証された。
(実施例3:骨格筋芽細胞−組織操作した筋芽細胞シートの移植は、心筋症ハムスターにおいて、心臓リモデリングの減弱によって心機能を改善する−ハムスターでの例)次に、骨格筋芽細胞を用いて作製した人工組織または三次元構造体が心筋症が改善するかどうかを実証した。
【0282】
細胞治療は、虚血性心筋症についての有望なストラテジーである。しかし、直接注入法は、拡張型心筋症(DCM)における全般的細胞送達について制限を有するようである。この一連の証拠を考慮して、組織操作した筋芽細胞シートは、拡張型心筋症(DCM)における心機能を改善するための優れた有望な方法であり得ると、本発明者らは考え本実施例を実行した。
【0283】
(方法)中程度の心臓リモデリングを示す27週齢の雄性BI0T0−2(拡張型心筋症(DCM)モデルハムスター)を、レシピエントとして使用した。BI0FIBハムスター(FIB)から単離した筋芽細胞を、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド製温度応答性高分子をグラフティングした皿上で培養し、そして20℃にて、酵素処理を用いることなく細胞シートを脱着した。
【0284】
以下の3つの異なる治療:(1)筋芽細胞シート移植群(S群、n=8)、(2)筋芽細胞(FIBから単離した筋芽細胞)注入群(T群、n=10)、(3)シャム手術群(C群、n=10)を行った。S群において、筋芽細胞シートを、左心室(LV)壁上に移植した。T群において、筋芽細胞を、右心室(RV)壁および左心室(LV)壁中に注入した。
【0285】
(結果)
(梗塞心筋層の機能的回復)
Bモード分析により、C群と比較してT群において、左心室の拡張が十分に抑制されたこと、および全体的壁運動が十分に保存されたことが、示された(図18)。
【0286】
筋芽細胞シートを移植した後、拡張した左心室(LV)寸法が顕著に減少したことが、超音波エコー図(UCG)によって示され、他方、T群およびC群の心臓は、左心室(LV)拡張の進行を示した(図33A)。手術の6週間後、内径短縮率(FS)は、C群と比較して、S群およびT群において有意に改善された。7週間後、S群における内径短縮率(FS)は手術前のレベルで維持され、一方、他の群の内径短縮率(FS)は、徐々に減少した。S群における僧帽弁E波の最大速度は、シート移植の1週間後にわずかに減少したが、これは、手術の2週間後に、手術前のレベルに回復した。S群およびT群における平均E波は、手術の4週間後およびその後、C群においてよりも有意に高かった。移植したシートがほぼ全心臓を覆うこと、および生存筋芽細胞により左心室(LV)壁厚が増加したことが、S群における組織学的検査によって示された(図30A〜30D)。図30Bから明らかなように、移植後の筋芽細胞は、組織構造体にした場合に、密に細胞が生着し心臓の機能を補助していることがわかる。図30Cおよび図30Dから明らかなように、α−サルコグリカンおよびβ−サルコグリカンの発現は、正常を5、DCMハムスターを1とした場合、αの場合で2〜3とスコアリングされ、ベータの場合で3程度と、ほぼ中程度に回復していたことが明らかになった。DCMハムスターは、サルコグリカンの発現が減少することによって一部拡張型心筋症の症状を呈することが知られているが、本発明の三次元組織構造体によって、そのような遺伝子発現も補充する効果があることが明らかになった。
【0287】
また、図33Bから明らかなように、本発明の三次元組織構造体を用いた場合に、48週を超えてDCMハムスターが生存していた。これは、注入(細胞のみ)またはコントロールと比較して(これらはいずれも38週〜40週で死滅)と比較して、顕著な効果であり、全く予想外のことといえる。図33Cに示すように、筋芽細胞三次元組織構造体の移植により拡張型心筋症の左室収縮能が顕著に改善した。これは、心臓において本願発明の構造体が適用可能であることを示す。この顕著な改善は、人間に換算すると約25年の寿命延長に該当し、本発明の三次元組織構造体の顕著な効果が心筋症において実証されたといえる。これは、正常ハムスターの寿命は2年、人間を80年とし、DCMハムスターの平均寿命はであり40週、シート移植による最長寿命は70週であることを考慮し計算した結果、人間の寿命に換算すると25年であることに基づく。
【0288】
(結論)
筋芽細胞シート移植は、拡張型心筋症(DCM)心臓において、心臓拡張の進行を減少させ、心機能を改善した。筋芽細胞シート移植は、拡張型心筋症(DCM)心臓における心臓リモデリングの減弱により心機能を回復させるための有望な方法であり得る。
【0289】
(実施例4:ブタ梗塞モデルにおける治療)
本実施例では、より臨床での知見をめざし大動物心筋梗塞モデルに骨格筋芽細胞シートを移植し、その心機能改善を検討した。
【0290】
(方法)
30kgのブタを全身麻酔下、開胸を行い、LADを結紮することにより作製された心筋梗塞モデルに3つの異なる治療1)骨格筋芽細胞シート群2)骨格筋芽細胞注入群3)コントロール群を作製し、心機能、心筋組織の変化を検討した(図34)。骨格筋芽細胞は自己の大腿筋から採取し、分解液としてコラゲナーゼ、トリプシンEDTA、硫酸ゲンタマイシン、アンフォテリシンBを調製後、0.22μフィルターでろ過したものを使用し、初代培養液としてSkBM Basal Medium、ウシ胎児血清、EGF、リン酸デキサメタゾンナトリウム、硫酸ゲンタマイシン、アンフォテリシンBを調製後0.22μフィルターでろ過したものを使用した。この細胞をポリ(N−イソプロピルアミド製温度応答性高分子をグラフトした皿上で培養し、温度変化にて酵素処理することなく細胞シートを脱着した。
【0291】
(結果)
細胞シートを移植した群では心機能の収縮性、拡張性が改善している(図35および36)。さらに心筋梗塞部分に移植細胞の生着を確認した。
【0292】
(結論)
げっ歯類以外の動物の実験においても、本発明の筋芽細胞シートを使用して治療することにより心機能改善効果を認められた。
【0293】
(実施例5:滑膜細胞)
別の細胞で実証するために、組織幹を含む細胞として、滑膜細胞をシート状にし、心筋梗塞モデルに移植し、心機能改善効果があるか検討した。
【0294】
(方法)
8週齢ラットの膝関節を剥離し、関節内側面に滑膜組織を切離する。20%FBS、DMEM high gluc0seの培養液に貼り付け、細胞を培養する。得られた細胞をポリ(N−イソプロピルアミド製温度応答性高分子をグラフトした皿上で培養し、温度変化にて酵素処理することなく細胞シートを脱着した。LADの結紮することにより作製された心筋梗塞モデルに3つの異なる治療1)細胞シート群2)細胞注入群3)コントロール群を作製し、心機能、心筋組織の変化を検討した。
【0295】
(結果)
細胞シートを移植した群では心機能の収縮性、拡張性が改善している。さらに心筋梗塞部分に移植細胞の生着を確認した。
【0296】
(結論)
滑膜組織から得られた細胞から分化した細胞においても、シート化することにより心機能改善効果を認められる。
【0297】
(実施例6:幹細胞)
未分化細胞の例として、マウス胚性幹細胞から心筋細胞に分化する細胞があることが知られている。本実施例ではこの心筋細胞をシート状にし、心筋梗塞モデルに移植し、心機能改善効果があるか検討した。
【0298】
(方法)マウス胚性幹細胞のうちMHCの発現する遺伝子のプロモーターの部位に耐性遺伝子を導入し、分化させると心筋細胞以外に分化する細胞は淘汰される高濃度薬剤選択性培養を行い、心筋細胞を選択した。この細胞をポリ(N−イソプロピルアミド製温度応答性高分子をグラフトした皿上で培養し、温度変化にて酵素処理することなく細胞シートを脱着した。LADの結紮することにより作製された心筋梗塞モデルに3つの異なる治療1)細胞シート群2)細胞注入群3)コントロール群を作製し、心機能、心筋組織の変化を検討した。
【0299】
(結果)
細胞シートを移植した群では心機能の収縮性、拡張性が改善している。さらに心筋梗塞部分に移植細胞の生着を確認した。
【0300】
(結論)
胚性幹細胞から分化した細胞においても、シート化することにより心機能改善効果を認められる。
【0301】
(実施例7:アスコルビン酸添加による人工組織作製)
次に、アスコルビン酸またはその誘導体による人工組織作製への影響を検討した。
筋芽細胞を十分量増殖させた後、5×10の細胞数を、10cmの温度応答性培養皿にて培養した。培養には、SkBM Basal Medium(Cl0netics(Cambrex))という培地を使用した。次に、アスコルビン酸2リン酸(0.5mM)、アスコルビン酸1リン酸マグネシウム塩(0.1mM)、L−アスコルビン酸Na(0.1mM)を投与し、培養開始4日後に20度にて、脱着させた。コントロールとして、アスコルビン酸類を添加しない培養系で培養した人工組織を作製した。
【0302】
(結果)
アスコルビン酸類を添加した場合は、無添加の培養系での人工組織よりも、脱着が格段に容易となっており、しかも、無添加の培養系では、数mm程度の大きさまでしか培養されず、それを超えると、割れ目などが入り、成長しなかった。しかも、はがすことが実質的に困難であり、移植可能な人工組織を提供できなかった。これに対し、本発明のアスコルビン酸類を添加した培地で培養した人工組織は、移植可能な程度の大きさに成長し、しかも、脱着が容易であり、孔も発生せず、傷もほとんど付けることなく人工組織を単離することができた。生物学的結合を見たところ、細胞外マトリクスによる相互作用がかなり進んでいることが判明した(図37〜39)。
【0303】
(実施例8:アスコルビン酸2リン酸添加の効果)
次に、アスコルビン酸2リン酸酸による人工組織作製への影響を検討した。
滑膜細胞および筋芽細胞を十分量増殖させた後、5×10の細胞数を、10cmの温度応答性培養皿にて培養した。培養には、アスコルビン酸2リン酸(1mM)を含むSkBM Basal Medium(筋芽細胞)またはアスコルビン酸2リン酸(1mM)を含むDMEM(滑膜細胞)という培地を使用した。コントロールとして、アスコルビン酸類を添加しない同じ培地を含む培養系および通常使用されるアスコルビン酸1リン酸(1mM)を含む同じ培地を含む培養系で培養した人工組織を作製した。
【0304】
培養開始9日後に、脱着させ、収縮させた。収縮させるとおよそ3分の1程度に収縮した。
収縮した組織をHE染色などの組織学分析を行ったところ(図42、滑膜細胞)、細胞は10層以上になり、マトリクスはコラーゲンのメッシュまたはスポンジ状となっており、ピンセットで容易につまめる硬さとなっていた。
【0305】
(応カー歪み試験(引っ張り試験))強度を確かめるために、引っ張り試験により、物体を引っ張ったときの荷重一時間(応力歪み)曲線を得る。この曲線から比例限度、弾性係数、降伏点、最大強さ、破談点、弾性エネルギーおよび靭性を得る。
【0306】
(クリープ特性(インデンテーションテスト))クリープ特性を測定するインデンテーション試験は、粘弾性を測定することによって実施する。歪みが増加する現象を観察することができる。棒のようなものでゲル状物質を一定圧で押し込み、変形をモニターする。
【0307】
(結果)
アスコルビン酸2リン酸を添加した場合は、無添加の培養系での人工組織および通常使用されるアスコルビン酸1リン酸を含む系での人工組織よりも、脱着が格段に容易となっており、しかも、無添加の培養系では、数mm程度の大きさまでしか培養されず、それを超えると、割れ目などが入り、成長しなかった。通常使用されるアスコルビン酸1リン酸を含む系で培養したものも、大きさ、強度などの点で添加した系に及ばなかった。無添加コントロール系では、人工組織をはがすことが実質的に困難であり、移植可能な人工組織を提供できなかった。
【0308】
特に、硬度という点では、アスコルビン酸2リン酸を含む系で培養した人工組織は、ピンセットでつまめる程度の硬度であったのに対して、それ以外のものでは、硬度の点でアスコルビン酸2リン酸を含む系には及ばなかった。アスコルビン酸2リン酸を添加した培地で培養した人工組織は、移植可能な程度の大きさに成長し、しかも、脱着には特別な注意も要することなく、孔も発生せず、傷もほとんど付けることなく人工組織を単離することができる。生物学的結合を見たところ、細胞外マトリクスによる相互作用がかなり進んでいることが判明した。
【0309】
(実施例9:アスコルビン酸類の存在下で培養した人工組織の効果)
実施例7および8においてアスコルビン酸類の存在下で作製した人工組織を、拡張型心筋症ハムスターに移植したところ、移植したハムスターすべてが完治し、通常のハムスターと同様の生存期間生存した。従って、本発明は、特定の三次元化促進因子の存在によって、従来難治性といわれた疾患をも完治させることができることが判明した。
【0310】
(実施例10:併用療法)
上記実施例で作製されたシートと遺伝子治療の併用療法を施行した。これは併用療法によりシート移植部の血管新生を促進し、移植シートの生着促進、シート内部の細胞壊死を抑制する目的である。
【0311】
(方法)
センダイウイルス(HVJ)およびリポソーム複合体の調製は文献(Kaneda Y, Iwai K, Uchida T. Increased expressi0n 0f DNA c0-intr0duced with nuclear pr0tein in adult rat liver. Science. 1989; 243: 375-378)の記載に従っておこなった。以下に簡潔に示す。DNA溶液200μ1を加え、30秒間振盤し、37度恒温槽に30秒間静置する。これを8回繰り返す。5秒間超音波処理をし、30秒間振盤する。0.3mlのBSSを加え、37度恒温槽で振盤する。不活化したHVJを加え、氷上で10分間置く。37度恒温槽にて1時間振盤する。超遠心チューブに60%と30%のショ糖溶液をそれぞれ1ml、6mlで重層し、HVJリポソーム液をのせ、BSSをチューブの付近まで加える。62,800g、4度で1.5時間超遠心する。30%ショ糖溶液層のすぐ上を回収し、4度に保存し、遺伝子導入に用いた。
【0312】
約0.2mlのセンダイウイルスリポソーム−プラスミド複合体(15μgのヒトHGFcDNAを含む)を心筋梗塞領域に注射した。コントロール群に対しては、空のベクターを梗塞を起こした心筋に遺伝子導入した。心臓組織におけるヒトHGF濃度を、抗ヒトHGFモノクローナル抗体(日本、東京、株式会社特殊免疫研究所(Institite 0f Immun0l0gy))を用いて酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)で測定した(Ueda H, Sawa Y, Matsum0t0 K et al. Gene Transfecti0n 0f Hepat0cyte Gr0wth Fact0r Attenuates reperfusi0n Injury in the Heart. Ann Th0rac Surg. 1999; 67: 1726-1731)。細胞をポリ(N−イソプロピルアミド製温度応答性高分子をグラフトした皿上で培養し、温度変化にて酵素処理することなく細胞シートを脱着した。LADの結紮することにより作製された心筋梗塞モデルに3つの異なる治療1)細胞シート群2)遺伝子治療群3)併用療法群4)コントロール群を作製し、心機能、心筋組織の変化を検討した。
【0313】
(結果)
細胞シートを移植した群、併用療法群では心機能の収縮性、拡張性が改善している。さらに併用療法をした群では心筋梗塞部分に血管新生を認め、移植細胞の生着が改善していることが確認できる。
【0314】
(結論)
シート化した組織と遺伝子治療を併用することにより心機能改善効果とさらに血管新生効果と細胞保護効果があり、より心機能の改善が認められる。
【0315】
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0316】
本発明は、従来治療が困難であった疾患(重症心不全を呈する疾患、例えば特に重症心臓疾患など)の根本的な治療方法、技術、医薬を提供するという有用性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャフォルドを用いず、成体の心臓を構成する心筋組織以外の部分に由来する筋芽細胞からなる、心臓疾患に適用するためのシート状三次元構造体。
【請求項2】
筋芽細胞が骨格筋芽細胞である、請求項1に記載のシート状三次元構造体。
【請求項3】
前記細胞は、前記シート状三次元構造体が適用される被験体に由来する、請求項1、2のいずれか1項に記載のシート状三次元構造体。
【請求項4】
複数の層の細胞シートを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート状三次元構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート状三次元構造体を含む心臓疾患に適用するための医薬。
【請求項6】
前記心臓は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症からなる群より選択される疾患または障害を伴う、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
スキャフォルドを用いず、成体の心臓を構成する心筋組織以外の部分に由来する筋芽細胞からなる、心臓疾患に適用するためのシート状三次元構造体を製造する方法であって、
a)水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性高分子がグラフティングされた細胞培養支持体上で、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を培養する工程;
b)培養液温度を、該上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下とする工程;および
c)該培養した細胞を、シート状三次元構造体として剥離する工程;
を包含する、方法。
【請求項8】
前記剥離前に、培地にアスコルビン酸またはその誘導体を加えることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記剥離時またはその前に、タンパク質分解酵素による処理がなされない、請求項7、8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記温度応答性高分子が、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30−1】
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【図30−2】
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【図30−3】
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【図30−4】
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【図31】
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【図32】
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【図33−1】
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【図33−2】
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【図33−3】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公開番号】特開2010−29680(P2010−29680A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223536(P2009−223536)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2006−519056(P2006−519056)の分割
【原出願日】平成16年2月2日(2004.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年3月28日 インターネットアドレス「http://suites.is‐assoc.co.jp/」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年3月28日 「第67回日本循環器学会年次学術集会」において発表
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【Fターム(参考)】