説明

上下回動角調節用ジョイント及び上下回動角調節型刈払機

【課題】市販の刈払機に接続させるだけで長柄に対する回転刃を有する刈払ヘッド装置の上下回動角の調節が行える上下回動角調節用ジョイントにする。また、回転刃を有する刈払ヘッド装置の上下回動角の調節が行える刈払機にする。
【解決手段】上下回動角調節用ジョイント10は、長柄2の前端部を挿着させ得る後部側ケース11の前部と、刈払ヘッド装置50後端に接続される前部側ケース20の後部とが、上下回動自在に接続されている。上下回動角は板ばね40L,40Rと金属球43,43とによる係合で維持される。後部側ケース11内に枢着されている入力軸12の前端部と前部側ケース20内に枢着されている出力軸23の後端部とは、巻線間に隙間があるコイルばね30で連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈払機の長柄に対して回転刃を有する刈払ヘッド装置の上下回動角の調節を可能にさせる上下回動角調節用ジョイントと、このジョイントを装着した上下回動角調節型刈払機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の汎用型の刈払機は、金属パイプ製の長柄の後端部にエンジン又はモータからなる動力源が搭載され、長柄前端部に回転刃を備えた刈払ヘッド装置が装着されたもので構成されている。この長柄内には、エンジンの駆動により回転するドライブシャフトが配設され、ドライブシャフト前端部は長柄前端部から前方に突出して、刈払ヘッド装置内の動力入力部と連れ回り係合するように構成されている。このような構造を有する汎用型の刈払機は、作業者が立ち姿勢で刈払い作業し易いように、回転刃の面に対して長柄の向きが傾斜した向きに設定されており、多くの機種はこの傾斜角は約30°に固定されている。
【0003】
しかしながら、この傾斜角は水平な平地において作業者が楽な立ち姿勢で刈払い作業することを基準にして設定されているため、登り傾斜及び下り傾斜がある土手等の傾斜地における刈払い作業には不向きな傾斜角であった。従来、この不具合に対処させる、長柄に対する回転刃の上下角度が調節できる技術が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−615号公報の第3図
【特許文献2】特開2007−185181号公報の図4、図5、図9、同公報明細書の段落番号「0030」及び「0031」の記載
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の刈払機は、同特許文献の第3図に示すように、ギヤヘッド2とギヤケース3とを組み合わせたハウジングを有する刈払ヘッド装置を前端部に備えており、この刈払ヘッド装置は、従来の汎用型の刈払ヘッド装置とは形状及び内部構造が全く異なる。
このため、従来の汎用型の刈払機にジョイントを装着して特許文献1に記載の刈払機に変更すること、従来の汎用型の刈払機から特許文献1に記載の刈払機に改造すること等、従来の汎用型の刈払機の所有者が安価な方法で上下回動角が調節できる刈払機に変更することが出来なかった。
【0006】
特許文献2の第1実施形態による曲折用アタッチメントは、エンジンからの動力を刈刃部に伝達させる動力伝達が、動力ワイヤ保持具72内に挿通させた動力ワイヤ70で行われているため、この場合にも、上下回動可能な刈払機にするためには大きな改造が必要であった。
【0007】
特許文献2の第2実施形態による曲折用アタッチメントは、エンジンからの動力を刈刃部に伝達させる動力伝達にロッド(ドライブシャフト)が用いられているため、汎用型の刈払機に取り付け可能である。しかしながら、それぞれのシャフト90の前端部に接続アダプタを取り付ける必要があるために刈払機の改造が必要になり、この改造は消費者には困難である。
【0008】
本発明は、上記不具合を解消する、長柄に対して回転刃を有する刈払ヘッド装置の上下回動角の調節を可能にさせる上下回動角調節用ジョイントと、このジョイントを装着した上下回動角調節型刈払機を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る上下回動角調節用ジョイントは、
刈払機の長柄に対してその前方の回転刃を有する刈払ヘッド装置を上下回動角調節自在にさせる上下回動角調節用ジョイントであって、
上下回動角調節機構と動力伝達機構とを有し、
該上下回動角調節機構は、長柄前端部に接続自在な後部を有する後部側ケースと、前記刈払ヘッド装置に接続自在な前部を有する前部側ケースとが、相互に対向する両側個所から突出させたアーム板どうしが重ね合わせた向きで枢着されて、上下回動角調節自在に組み付けられてなり、
前記動力伝達機構は、前記後部側ケース内に円滑回転自在に枢着され、前記長柄内のドライブシャフト前端部に接続自在な入力軸と、前記前部側ケース内に円滑回転自在に枢着され、前記刈払ヘッド装置の動力入力部に接続自在な出力軸とを有し、前記入力軸の前部と前記出力軸の後部とが、隣り合う巻線部分相互に隙間があるコイルばね、又は同様の隙間があるコイルばね部を長さ途中部に有する金属カップリングで接続されているところに特徴がある。
【0010】
本発明の上下回動角調節用ジョイントは、刈払機の長柄前端部と回転刃を有する刈払ヘッド装置の後端部との間に接続されるジョイントである。
このジョイントの後部側ケースの後方から該ケースの後部内に長柄前端部を突入させて装着すると、長柄内から前方に突出しているドライブシャフト前端部が、このジョイントの入力軸に連れ回り自在に接続される。
また、このジョイントの前部側ケースの筒形状を有する前部を刈払ヘッド装置の後部に突入させて装着すると、このジョイントの出力軸前端部が刈払ヘッド装置の動力入力部に連れ回り自在に接続される。
【0011】
このジョイントの上下回動角調節機構は、後部側ケースに対して前部側ケースを上下回動させるもので、この上下回動とともに入力軸に対して出力軸も上下回動する。
入力軸前端部と出力軸後端部とは、前記コイルばね又は前記金属カップリングで接続されているために、ドライブシャフトの回転駆動力は、入力軸から前記コイルばね又は前記金属カップリング、出力軸を経て、刈払ヘッド装置内に伝達されて、回転刃を回転させる。
【0012】
好適とされる上下回動角の範囲は、±30°であり、後部側ケースと前部側ケース双方のアーム板どうしを重ね合わせた部分の一方の面にこの回動角に対応させた円弧状の長孔を設け、他方の面に該長孔に突入するピンを固定させる等して、上下回動角が30°の回動角を超えないようにすることが望ましい。
【0013】
上下回動角を伴った動力伝達部分には、隣り合う巻線部分相互に隙間があるコイルばね、又は、同様の隙間があるコイルばね部を長さ途中部に有する金属カップリングが用いられている。
コイルばねは、隣り合う巻線部分相互に隙間がある圧縮コイルばねであり、金属カップリングは、その途中部分に切削加工によるスリットが形成されてコイルばね部が設けられた、完全一体型のカップリングである。
【0014】
コイルばね及び金属カップリングは、いずれも一体構造であるためにバックラッシがなく、ユニバーサルジョイントのような1点で屈折しながら回転することによる抵抗が無いため、上下回動角を伴った軸回転のときの振動が少なく、動力伝達効率に優れる。
【0015】
とくに、上下回動角を伴った動力伝達が、隣り合う巻線部分相互に隙間があるコイルばね、又は同様の隙間がある前記コイルばね部分で行われると、前記コイルばね又は前記コイルばね部分は、側面視においてなだらかな円弧形状になるように伸縮を繰り返す。このため、コイルばね又はコイルばね部分の圧縮する側の隣り合う巻線部分どうしが接触することもない。また、側面視においてコイルばね又はコイルばね部分の長さ途中部が折れた形状になることもない。
【0016】
請求項2に係る上下回動角調節用ジョイントは、更に、前記コイルばね及び前記コイルばね部は、断面形状が長方形を有する角線材が該長方形の一方の短辺が外周面になり他方の短辺が内周面になる向きのコイル形状を有する。
【0017】
断面形状が長方形である角線材を用いたコイルばねは、丸軸の線材を用いたコイルばねよりも動力伝達効率は更に高くなる。その理由は次のとおりである。
(1)線材の許容応力(σ)=荷重(A)/断面積(W)で表される。
つまり、丸軸や角線を問わず、線材の断面積が同じであれば、同じ許容応力になる。
(2)断面形状が方形(角線材)と円形(丸軸線材)の断面二次モーメントを比較検証する。
断面二次モーメントとは、断面の形状により変わる曲げたわみなど、変形し易さ及びし難さを数値的に表現したものである。
発明者は、コイルばねには、短辺の長さ(b)が2,75mm、長辺の長さ(h)が6.47mmの寸法の角線材を用いたものが好適である実験結果を得た。
そこで、この寸法の角線材の断面二次モーメントと、この角線材と断面積が同じである直径(d)が4.761mmの丸軸線材の断面二次モーメントを比較演算した。
角線材における断面二次モーメント(I)=bh/12 の計算式で表され、上記寸法による(I)は、6.47×2.75/12=11.213mm である。
丸軸線材における断面二次モーメント(I)=πd/64 の計算式で表され、上記寸法による(I)は、3.14×4.761=25.208mm である。
以上の演算結果から、角線材の断面二次モーメント(11.213mm)は、丸軸線材の断面二次モーメント(25.208mm)よりも小さいことがわかる。断面二次モーメントが小さいと伸縮の際の曲げたわみ及び変形に対する抵抗が小さくなる。
このため、角線材を用いたコイルばねは、丸軸の線材を用いたコイルばねよりも伸縮を伴った軸回転時の抵抗が小さく、動力伝達効率が高い。
角線材を用いたコイルばねと同様の形状のコイルばね部を有する前記カップリングにおいても同様である。
【0018】
本発明では、更に、断面形状の一方の短辺が外周面になり他方の短辺が内周面になるコイルばねを用いて、線間に隙間(ピッチ)を設けながらも多くの巻数が得られるようにした。
【0019】
請求項3に係る上下回動角調節用ジョイントは、上記いずれかの構成の上、更に、 前記上下回動角調節機構は、前記アーム板どうしを重ね合わせた間に設けられて前向き又は後向きのアーム板のいずれか一方に係止された板ばねと、
前記前向きのアーム板又は後向きアーム板の何れか他方の側面から前記板ばねに向けて突出させた半球部とを更に有し、
該板ばねには、前記後部ケースと前記前部ケースとによる上下回動が所定回動角に達したときに、前記半球部が突入してこの上下回動を所定回動角で係止させる複数個の半球突入部が設けられている。
【0020】
半球部は、金属球の一部面、半球形状を有するピン又はボルトの頭部等のいずれかで構成される。半球突入部は、孔又は半球状の凹部で構成される。
後部ケースに対して前部ケースの上下回動角が所定の回動角にあるとき、すなわち、長柄に対して刈払ヘッド装置が所定の回動角にあるときには、半球部は板ばねの半球突入部内に突入して、この回動角を維持させる。
上下回動の途上においては、半球部の斜面が板ばねを押し上げ、所定回動角に達すると、板ばね自身の元の形状に戻る付勢力により、板ばねは半球突入部内に半球が突入する形状まで復帰する。
【0021】
半球突入部は、板ばねの上下回動角が±30°の角度になる個所に設けられる。更には、±15°の途中回動角度においても、上下回動の係止維持がされるようにすることが好ましい。
【0022】
上下回動角の調節は、長柄やハンドル等を手に持つ作業者が、回転刃の回転を一旦停止させた状態で、回転刃を地面に押し付ける操作をすると行える。
【0023】
尚、前部ケース又は刈払ヘッド装置から上方に向けて短いアームを突出させて、長柄の手元側に該アームを操作するレバーを設け、該アームとレバーとを細杆で接続させて、レバー操作による刈払ヘッド装置の上下回動が行えるようにしてもよい。
【0024】
請求項4に係る上下回動角調節型刈払機は、刈払機の長柄前端部からその前方の回転刃を有する刈払ヘッド装置が一旦取外されて、該長柄前端部と刈払ヘッド装置の間に、請求項1乃至3のいずれかに記載の上下回動角調節用ジョイントが装着されて、長柄に対して回転刃及び刈払ヘッド装置の上下回動角が調節自在な構造を有しているところに特徴がある。
【0025】
本発明の上下回動角調節型刈払機は、市販の大半の刈払機に、請求項1乃至3のいずれかに記載の上下回動角調節用ジョイントが装着された刈払機である。
市販の刈払機にこの上下回動角調節用ジョイントを装着する際には、一旦市販の刈払機の長柄前端部から刈払ヘッド装置を取り外す。そしてこの後、長柄前端部と刈私ヘッド装置の後部との間にこの上下回動角調節用ジョイントを装着する。
【0026】
刈払機には、作業者が自然な立ち姿勢で長柄を操作して水平な地面上の雑草を刈る状態を想定して、長柄に対して回転刃の面の向きが上方に約30°向けた標準角が設定されている。前述の±15°及び±30°の回動角の調節は、作業者の立つ位置と地面の傾斜などに対応させて楽な姿勢で刈払い作業させるためにある。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に係る上下回動角調節用ジョイントによれば、従来から市販の刈払機に、簡単な操作で着脱自在に装着して、市販の刈払機を、水平な地面上だけでなく土手等の傾斜地においても、作業者は楽な立ち姿勢のまま、回転刃の向きを地面に略平行に向けて、雑草等の刈払い作業ができる上下回動角調節型の刈払機に変更することができる。
とくに、この上下回動角調節用ジョイントによれば、上下回動角を伴った動力伝達部分に、隣り合う巻線部分相互に隙間があるコイルばね、又は同様の隙間があるコイルばね部を長さ途中部に有する金属カップリングを用いた結果、振動が少なく、円滑な動力伝達が行える。
【0028】
請求項2に係る上下回動角調節用ジョイントによれば、更に、断面形状が長方形を有する角線材が該長方形の一方の短辺が外周面になり他方の短辺が内周面になる向きのコイル形状を有するコイルばね、又はこのようなコイル形状のコイル部を持つ金属カップリングは、上下回動角を伴った軸回転の際の動力伝達効率を、丸軸の線材を用いたコイルばねよりも動力伝達効率を更に向上させることができる。
【0029】
請求項3に係る上下回動角調節用ジョイントによれば、更に、前記半球突入部を有する前記板ばねと前記半球部とによる簡単且つ側方に突出しない構造で、前述の上下回動を所定回動角で係止させることができる。
とくに、作業者が長柄やハンドルを持って一旦停止させた回転刃や刈払ヘッド装置を地面に押し付けるという簡単な操作で、上記上下回転角の調節が行える。
【0030】
請求項4に係る上下回動角調節型刈払機によれば、長柄に対する回転刃を有する刈払ヘッド装置の上下回動角の調節が行える構造であるため、水平な地面の上の雑草等を刈払うことができるだけでなく、作業者は楽な立ち姿勢で土手等の傾斜地の雑草等を刈払うことができる。
また、上下回動角調節用ジョイントの刈払機に装着する向きを変えるだけで、長柄に対する刈払ヘッド装置の向きを左右回動方向に調節することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は本発明実施形態の上下回動角調節型刈払機を標準角に角度調節した状態で示した側面図、(b)同じく刈払ヘッド装置を上向きに角度調節した状態で示した図、(c)は同じく刈払ヘッド装置を下向きに角度調節した状態で示した図。
【図2】(a)及び(b)はいずれも本発明実施形態の上下回動角調節型刈払機の使用状態図。
【図3】上下回動角調節型刈払機の前部を拡大して示した側面図。
【図4】上下回動角調節用上下回動角調節用ジョイント周辺部の斜視図。
【図5】フレキシブルカバーを取り外した状態の上下回動角調節用上下回動角調節用ジョイントの斜視図。
【図6】同じく一部を分解して示した斜視図。
【図7】同じく平面断面図。
【図8】上下回動角調節型刈払機の前部の側面断面図。
【図9】同じく刈払ヘッド装置を上方に回動調節した状態の側面断面図。
【図10】(a)は上下回動角の調節が標準角の状態の係止構造を示した一部破断部を含む側面図、(b)は同じく平面断面図。
【図11】(a)は上下回動角の調節が標準角から下方に30°の向きにおける係止構造を示した一部破断部を含む側面図、(b)は同じく平面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態を次の実施例において詳述する。
【実施例】
【0033】
図1(a)に示す本発明実施形態の上下回動角調節型刈払機1(以下、本発明実施形態の刈払機1と略称する。)は、金属パイプ製の長柄2の後端部にエンジン3が搭載され、長柄2の途中長さの個所に両手で操作するハンドル4装着され、長柄前端部に回転刃51を有する刈払ヘッド装置50が装着された市販の汎用型の刈払機に、上下回動角調節用ジョイント10が装着されたものである。
上下回動角調節用ジョイント10は、長柄2と刈払ヘッド装置50との間に着脱自在に装着されており、上下回動角調節用ジョイント10の外周は雨水や塵埃等の浸入を防止するフレキシブルカバー60で覆われている。
【0034】
図1(a)に示す本発明実施形態の刈払機1は、上下回動角調節用ジョイント10による上下回動角度は標準角に設定されている。この状態では長柄2に対する回転刃51の面は上方に30°傾斜した向きにある。30°の角度は刈払ヘッド装置50自体の構造による。
本発明実施形態の刈払機1は、図1(b)に示すように、上下回動角調節用ジョイント10を、更に上方に約30°向けた角度調節と、図1(c)に示すように、下方に約30°すなわち長柄2と回転刃51の角度の差が0°になる向きに角度調節できる。図示していないが、標準角から上下いずれの回動方向にも15°の向きの角度調節もできる。
【0035】
図2(a)に示すように、長柄2に対する回転刃51及び刈払ヘッド装置50の向きを標準角にした状態の本発明実施形態の刈払機1は、水平地面上の雑草等を、作業者は楽な立姿勢で刈払うことができる。
また、例えば図2(b)に示すように、長柄に2に対する回転刃51及び刈払ヘッド装置50を標準角から上方に30°回動調節すると、土手等の傾斜地の雑草を楽な姿勢で刈払うことができる。
【0036】
図3及び図4に示すように、円筒形状のフレキシブルカバー60は、その両端部が上下回動角調節用ジョイント10における大径部分の前後の両端部に、締結バンド61,62を用いて装着されている。
上下回動角調節用ジョイント10の前部には、高速回転する回転刃51が地面に接触することによる土砂の飛散を防止する保護カバー70が装着されている。
【0037】
次に、上下回動調節用ジョイント10について詳述する。
図5乃至図7に示すように、上下回動調節用ジョイント10は、上下回動角調節機構と動力伝達機構とを有する。
上下回動角調節機構は、長柄2の前端部に接続自在な後部を有する後部側ケース11と、前記刈払ヘッド装置50に接続自在な前部を有する前部側ケース20とが、相互に対向する両側個所から突出させたアーム板(後向きアーム板22L,22R、前向きアーム板14L,14R)どうしが重ね合わせた向きで枢着されて、上下回動角調節自在に組み付けられてなる。
【0038】
後部側ケース11は、後部が長柄の前端部を突入させて装着する小径筒形状の長柄装着部11aで構成され、前部が大径筒部11bで形成された一体成形品である。大径筒部11bの両側面には、厚肉長板形状の前向きアーム板14L,14Rの後端部がビス15・・・を用いて装着されて、前向きアーム板14L,14Rを前方に向けて突出させている。
【0039】
前部側ケース20は、その前部が刈払い装置の後端部に突入させる小径筒部20aで形成され、後部が大径筒部20bで形成された一体成形品である。大径筒部20bの両側面には、厚肉長板形状の後向きアーム板22L,22Rの後端部がビス24・・・を用いて装着されて、該アーム板22L,22Rを後方に向けて突出させている。
後部側ケース11と前部側ケース20とは、後向きアーム板22L,22Rの後部と前向きアーム板14L,14Rの後部とが重ね合わせた向きで枢着部材28L,28Rを介して上下回動自在に枢着されて、上下回動自在に連結されている。
【0040】
上下回動角調節用ジョイント10の一方の片側における上下回動構造と回動係止構造を説明する。
前向きアーム板14Lの前端面と後向きアーム板22Lの後端面との間には、幅広略長方形状の板ばね40Lが、枢着部材28Lを挿通させた状態で支持されている。前向きアーム板14Lの前端面の内側における上下個所には、板ばね40Lに向けたピン14d,14eが突出した状態で設けられており、該ピン14d,14eの先端部は、板ばね40Lの孔40m,40n内から、後向きアーム板22Lに形成されている円弧形状の長孔22d,22e内に常時突入している。
このため、板ばね40Lは、前向きアーム板14Lに係止された状態にあり、後向きアーム板14Lは、枢着部材28Lを軸にして前向きアーム板14L及び板ばね40Lに対して回動自在な状態にある。
【0041】
後向きアーム板22Lには、金属球43,43の略半分強程度を突入係止させる有底の穴22b,22cが設けられ、穴22b,22c内に金属球43,43の略半分が突入している。このため、金属球43,43の略半分(半球部)が、後向きアーム板22Lの前端部内側面から板ばね40Lに向けて突出した状態にある。
板ばね40Lの枢着部材28Lを中心にした半径上の前後には、これらの半球部が突入する孔からなる半球突入部40b〜40f,40g〜40kが設けられている。上下回動角調節用ジョイント10の他方の片側における上下回動構造と回動係止構造についても同様である。
この回動係止の詳細については後述する。
【0042】
図7は上下回動角調節用ジョイント10をフレキシブルカバーが装着されていない単体で示されており、図8は上下回動角調節用ジョイント10を装着した刈払機前部の側面断面図である。
図7及び図8に示すように、後部側ケース11の内側には、入力軸12が円滑回転自在に枢着されている。
入力軸12の後部には、後部側ケース11の長柄装着部11a内に長柄2の前端部を突入させたときにドライブシャフト5の前端部が突入するスプライン嵌合孔12cが形成されている。
【0043】
前部側ケース20の内側には、出力軸23が円滑回転自在に枢着されている。出力軸23の前端部23aは、刈払ヘッド装置50の後部内に設けられている動力入力部になる筒軸53に連れ回り嵌入するスプライン形状を有している。
【0044】
上下回動調節用ジョイント10の動力伝達機構の構造は、入力軸12の前部と出力軸23の後部とをコイルばね30で連れ回り自在に連結されてなる。
コイルばね30は、断面形状が長方形を有する角線材が、該長方形の一方の短辺が外周面になり他方の短辺が内周面となる向きで、巻線間に隙間を設け巻かれたコイルばねが用いられている。コイルばね30の両端部は、入力軸12の前部外周面と出力軸23の後部外周面に形成されている螺旋状の突条に噛み合った状態で装着されて、入力軸12からコイルばね30を経て出力軸23に至る動力伝達が確実に行えるようにしてある。
【0045】
図8に示すように、刈払ヘッド装置50におけるハウジング52の後部には、上下回動角調節用ジョイント10の前端部になる筒部20aを突入させて装着させる筒状の装着部52aが設けられている。そして、装着部52aの奥には、傘歯車54を連れ回り自在に装着させた筒軸53が支持されている。傘歯車54はハウジング52内において回転軸55に連れ回り自在に装着された傘歯車56と噛合している。ハウジング52下方に突出する回転軸55の下端部には、回転刃51が装着されている。このため、ドライブシャフト5の回転が、入力軸12、コイルばね30、出力軸23を経て刈払ヘッド装置50内に伝達されて、回転刃51を高速回転させる。
【0046】
図8においては、長柄2に対する回転刃51を含めた刈払ヘッド装置50の向きが、刈払作業者が自然な立ち姿勢で水平な地面上の雑草等を刈払う向き、すなわち、標準角に設定されている。この向きではコイルばね30は直線方向に向けられている。
【0047】
フレキシブルカバー60は、耐寒・耐熱性、耐水及び防水性、耐久性、柔軟性などに富む合成ゴムを素材とする薄肉ホース60aの外周面に、形状安定性と弾性などに富むポリプロピレン等を素材とする螺旋突条60bが固定されたものが使用されている。これらの図では螺旋突条60bは角軸のものが示されているが、丸軸のものであってもよい。
図9においては、長柄2に対する回転刃51を含めた刈払ヘッド装置50の向きが、土手等の斜面等のような傾斜地における刈払い作業に適した上方に回動調節されている。
【0048】
図9に示す上下回動角に設定されると、入力軸12と出力軸23との間に角度がある。この角度はコイルばね30の長さ方向の途中部が伸縮することによって対応させている。コイルばね30は、高速で軸回転しながらこの伸縮を繰り返して、入力軸12の回転を出力軸23に伝達する。コイルばね30の伸縮による曲げ方向の変形は大きな円弧状になって行われるため、しかもコイルばね30の巻線間には隙間(ピッチ)があるため、コイルばね30が縮んでも隣り合う巻線どうしが接触することはない。
【0049】
次に、上下回動角調節機構による所定角度の係止について詳述する。
図10(a)及び(b)は、後部側ケース11に向きと前部側ケース20の向きとが揃った向きで係止された状態で示され、図11(a)は、後部側ケース11に対して前部側ケース20が下方に30°回動した向きで係止された状態で示されている。
【0050】
図10(a)及び図11(a)に示すように、前向きアーム板14Lと板ばね40とはピン14d,14eで係止されている。ピン14d,14eの先端部は更にその前方に位置する後向きアーム板22Lの長孔22d,22e内に突入している。
図10(a)に示すピン14d,14eの位置は、長孔22d,22e内の中央にあり、図11(a)に示すピン14d,14eの位置は、上下回動に伴って長孔22d,22e内の端に位置している。
【0051】
図10(a)に示す後向きアーム板22Lと前向きアーム板14Lの向きとが揃った上下回動角では、図10(a)及び(b)に示すように、後向きアーム板22Lの穴22b,22c内から突出する金属球43,43の半球部が、板ばね40Rの半球突入部40d,40i内に突入係止して、この回動角を維持させている。
【0052】
図11(a)においては、後向きアーム板22Lが、前向きアーム板14Lに対して下方に30°回動した向きにある。このとき、金属球43,43の半球部は、板ばね30Lの半球突入部40f,40g内に突入係止して、この回動角を維持させている。この回動角に達すると、ピン14d,14eが長孔22c,22dの端部に当接して、後向きアーム板22Lの更なる下方に向けた回動を阻止させている。
【0053】
図11(b)に示すように、上下回動途上では、後向きアーム板22Lとともに金属球43,43が上下回動方向に移動して、板ばね40Lを押し上げる。
【産業上の利用分野】
【0054】
本発明に係る上下回動角調節用ジョイント及び上下回動角調節型刈払機は、従来から市販されている汎用型の刈払機を改造することなく、刈払機の上下回動調節と、これに合わせた動力伝達を可能にさせる。このため、刈払機の製造及び販売並びに使用する分野において利用が期待される。
【符号の説明】
【0055】
1 上下回動角調節型刈払機
2 長柄
3 エンジン
4 ハンドル
5 ドライブシャフト
5a ドライブシャフト前端部
10 上下回動角調節用ジョイント
11 後部側ケース
12 入力軸
14L,14R 前向きアーム板
20 前部側ケース
22L,22R 後向きアーム板
23 出力軸
28L,28R 枢着部材
30 コイルばね
40L,40R 板ばね
43 金属球
50 刈払ヘッド装置
51 回転刃
60 フレキシブルカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈払機の長柄に対してその前方の回転刃を有する刈払ヘッド装置を上下回動角調節自在にさせる上下回動角調節用ジョイントであって、
上下回動角調節機構と動力伝達機構とを有し、
該上下回動角調節機構は、長柄前端部に接続自在な後部を有する後部側ケースと、前記刈払ヘッド装置に接続自在な前部を有する前部側ケースとが、相互に対向する両側個所から突出させたアーム板どうしが重ね合わせた向きで枢着されて、上下回動角調節自在に組み付けられてなり、
前記動力伝達機構は、前記後部側ケース内に円滑回転自在に枢着され、前記長柄内のドライブシャフト前端部に接続自在な入力軸と、前記前部側ケース内に円滑回転自在に枢着され、前記刈払ヘッド装置の動力入力部に接続自在な出力軸とを有し、前記入力軸の前部と前記出力軸の後部とが、隣り合う巻線部分相互に隙間があるコイルばね、又は同様の隙間があるコイルばね部を長さ途中部に有する金属カップリングで接続されていることを特徴とする上下回動角調節用ジョイント。
【請求項2】
前記コイルばね及び前記コイルばね部は、断面形状が長方形を有する角線材が該長方形の一方の短辺が外周面になり他方の短辺が内周面になる向きのコイル形状を有する、請求項1に記載の上下回動角調節用ジョイント。
【請求項3】
前記上下回動角調節機構は、前記アーム板どうしを重ね合わせた間に設けられて前向き又は後向きのアーム板のいずれか一方に係止された板ばねと、
前記前向きのアーム板又は後向きアーム板の何れか他方の側面から前記板ばねに向けて突出させた半球部とを更に有し、
該板ばねには、前記後部ケースと前記前部ケースとによる上下回動が所定回動角に達したときに、前記半球部が突入してこの上下回動を所定回動角で係止させる複数個の半球突入部が設けられている、請求項1又は2に記載の上下回動角調節用ジョイント。
【請求項4】
刈払機の長柄前端部からその前方の回転刃を有する刈払ヘッド装置が一旦取外されて、該長柄前端部と刈払ヘッド装置の間に、請求項1乃至3のいずれかに記載の上下回動角調節用ジョイントが装着されて、長柄に対して回転刃及び刈払ヘッド装置の上下回動角が調節自在な構造を有していることを特徴とする上下回動角調節型刈払機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−200257(P2012−200257A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90486(P2011−90486)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(591065480)ニシガキ工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】