説明

上水施設の監視制御システム

【課題】上水道の運転において、CO2排出量抑制(環境負荷軽減)が求められている。配水の制御だけでなく、浄水処理に係る運転の範囲内でも環境負荷低減に向けた施策が必要である。特に濁度処理は凝集剤注入,ろ過池管理,汚泥処理等のエネルギー消費を低減する余地があり、運転制御技術の高度化が必要。
【解決手段】上水道施設において、濁質処理に係る計測手段,水質,プロセスデータの格納手段,CO2排出量の原単位の格納手段を備え、水質と運転条件の制約条件を満足する運転条件下での濁度,損失水頭,排水処理量を評価し、制御量評価部により所定期間内で予想されるCO2排出量を最小となる運転条件を求め、上水道施設を運転制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水道施設の監視制御を支援する上水施設の監視制御システムに係り、特に上水を製造する過程で発生する環境負荷を低減するための薬品注入等の操作に好適な上水施設の監視制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
京都議定書の発行に伴い、CO2排出を抑制して環境負荷を低減する必要がある。また、省エネ法の対象ともなるため、毎年1%のエネルギー使用量削減が求められている。上水施設における環境負荷低減策としては、需要計画や電力原単位等を考慮した配水コントロール,インバータ等の省エネ機器導入,太陽光や小水力発電等がある。また、浄水処理工程では、薬剤注入や運転管理の合理化による寄与が考えられる。
【0003】
薬剤注入に関しては、上水における主な薬剤として、凝集剤,塩素剤,酸アルカリ剤,粉末活性炭等があり、用途に応じて注入されている。これらの薬剤のうち、環境負荷の観点で重要なのは、凝集剤注入である。凝集剤は水道原水中の濁質を凝集沈殿,ろ過の工程で除去するために注入される。
【0004】
凝集剤は、薬剤製造に係る環境負荷だけでなく、分離された浄水汚泥の処理、すなわち濃縮,脱水の排水処理,運搬,最終処分、または汚泥の再利用のための処理、或いは沈殿池の汚泥を掻き寄せ,引き抜くための動力,ろ層に溜まった濁質を逆洗除去するための逆洗水の供給やろ層の洗浄に伴うエネルギー消費といった形で環境負荷となる。
【0005】
このため、浄水処理に関連する操作では、濁質に係る操作の制御を適正化することが、環境負荷低減に寄与するものと考えられる。
【0006】
凝集剤の注入の制御方法としては、従来から様々な水質や入力パラメータを用いた手法が提案されている。例えば、〔特許文献1〕に記載の従来の技術では、凝集剤の注入制御を自動化するための装置が示されている。この技術は、原水中の流動電流が凝集剤を添加した際の凝集効果に与える影響に着目したものである。流動電流,アルカリ度,導電率,水温,濁度,pH等をパラメータとして凝集剤の注入量を決定する。
【0007】
また、環境負荷を考慮した薬注の制御方法としては、〔特許文献2〕に記載の従来の技術がある。この技術は、膜ろ過とその前処理としての凝集操作を対象プロセスとしており、凝集剤の注入と膜の運転にかかるコストを最小化するように前処理、すなわち凝集剤注入を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−223357号公報
【特許文献2】特開2006−320794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多くの凝集剤注入制御に関する公知例と同様、〔特許文献1〕に記載の従来の技術においても、制御の目標を沈殿処理水濁度とし、これを所定のレベル以下に抑制するための凝集剤注入制御や関連するpH,アルカリ度の調整を行っている。この場合、凝集剤の注入率を適正化するため、凝集剤由来の汚泥発生量は抑制され、その点では環境負荷低減に寄与する。しかし、上述のように濁度処理に係る操作は他にもあり、これらも考慮して環境負荷を低減できる運転条件を導出するものではないという点で課題があった。
【0010】
一方、〔特許文献2〕に記載の従来の技術おいては、凝集と膜ろ過のコストを最小化するものの、実際の多数の上水施設が管理範囲として含む、取水から排水処理における水処理以外の制約条件が考慮されない。また、膜処理の対象となる水源は、近年、表流水に拡大されてきているものの、大多数が比較的水質のよい、覆流水や井戸水となっている。そのため、大規模な浄水施設の水源になりやすい湖沼や河川の下流域など、比較的水質が悪く、様々な凝集阻害成分や生物を原水とするケースでは、膜処理の前処理では必ずしも考慮されていない成分があるという点で課題があった。
【0011】
本発明の目的は、上水施設において濁質処理に係る工程を考慮し、環境負荷を低減するためのプラント運転を行うための上水施設の監視制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、濁質の処理工程を含む上水製造に係る上水施設の監視制御システムにおいて、監視制御システムに入力される水質およびプロセス情報を格納する水質,プロセスデータベースと、濁質の処理工程を運転する上で制約条件となる水質または運転条件の項目と値を格納する制約条件データベースと、濁質処理に係る測定を行う手段と、水質,プロセス情報を用いて濁質の処理工程における水質,汚泥量、またはプロセス情報のうち少なくとも一つを予測する濁質負荷量評価部と、運転状況の予測結果を用いて、所定の期間において、濁質の処理工程から生じるCO2排出量を算出し、CO2排出量が所定の期間で最小になるように、濁質の処理工程の操作条件を算出する制御量評価部を設けたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水質,プロセス情報と原水水質とを用いて濁質の処理工程における水質,汚泥量、またはプロセス情報のうち少なくとも一つを運転状況予測手段で予測し、予測結果も用いて、所定の期間における濁質の処理工程から生じる環境負荷量を評価し、環境負荷量が所定の期間で最低になるように、濁質の処理工程の操作を行うので、濁質除去処理の操作に係る環境負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1である監視制御システムの構成図。
【図2】管理サーバの構成を示すブロック図。
【図3】運転状況評価のためのフロー図。
【図4】運転状況評価のために用いる線図の例を示す図。
【図5】運転状況評価のために用いる線図の例を示す図。
【図6】制御量評価のためのフロー図。
【図7】本発明の実施例3である監視制御システムの構成図。
【図8】実施例4における許容逸脱率の算出に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の各実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図1から図6により説明する。図1は、本実施例の監視制御システムの構成図である。
【0017】
本実施例の監視制御システムは、図1に示すように、制御LAN3により接続された管理サーバ1,監視制御手段2,上水処理施設10で構成されている。
【0018】
監視制御の対象となる上水処理施設10は、取水施設11,浄水施設12,送水施設13,給配水施設14、および排水処理施設15を有している。
【0019】
上水の原水を取水施設11から取込み、浄水施設12の着水井21で受ける。着水井21で受けられた上水は、混和池22に送られる。混和池22では、PAC注入設備28から原水にPAC(ポリ塩化アルミニウム)が注入され、急速撹拌により原水とPACを十分混和させる。凝集剤であるPACは、濁質成分を除去するために注入される。注入率は、管理サーバ1で設定される。
【0020】
PAC注入後、濁質は、凝集沈殿池23において、マイクロフロック形成,フロック成長,フロックの沈降分離の過程を経て、水中から大部分が除去される。沈殿したフロックは、定期的またはフロックの蓄積量を指標として引き抜かれ、排水処理施設15に移送される。凝集沈殿池23では濁質は完全には除去されないが、通常、濁度が1度程度になるように管理されている。
【0021】
着水井21には計測手段26Aが、凝集沈殿池23には計測手段26Bが、ろ過池24には計測手段26Cが、排水処理施設15には計測手段26Dがそれぞれ設置されている。
【0022】
水道水に要求される濁度の水質基準は2度であるが、上流で下水処理の放流等が行われ、クリプトスポリジウムやジアルジアのリスクが懸念される場合は、ろ過水で0.1度以下の濁度が要求される。0.1度以下の濁度を凝集沈殿で常時達成するのは困難であり、沈殿処理水中に残留した濁質を所定のレベルに低減するためにろ過池24でろ過処理がなされる。
【0023】
ろ過池24は、ろ過砂やアンスラサイト等で形成されたろ層で構成され、濁質を除去する。通常は、複数のろ過池が設置されている。急速ろ過池の場合、ろ過速度は120−150m/dが一般的であるが、濁質がろ層に蓄積されるとろ層の損失水頭が高くなり、ろ過速度が確保できなくなる。そのため、定期的にろ過池洗浄設備27によりろ層表面の洗浄や逆洗が行われる。通常、洗浄操作はタイマー制御により60時間程度の間隔で実施される。また、損失水頭が設定された値を超えた場合も洗浄が実施される。このとき発生する汚泥を含む洗浄水は、排水処理施設15へ送られる。
【0024】
ろ過水は浄水池25に蓄えられ、送水施設13,給配水施設14を経て供給エリアである需要家へと供給される。
【0025】
排水処理施設15は、調整槽,濃縮設備,脱水設備で構成される。浄水施設12から排出された濁質を多く含む排水は、一旦、調整槽に蓄えられる。通常、濃縮には沈降濃縮方式が採用されるが、遠心分離を用いるなどの機械的な方法でもよい。一方、脱水には、自然乾燥方式と機械脱水方式があり、機械脱水方式としては、遠心脱水,ベルトプレス,スクリュープレス等様々な方式の装置がある。
【0026】
浄水処理においては、上述のような濁質除去のための薬剤注入とそれに伴う処理の他に、消毒のための残留塩素管理が行われており、例えば次亜塩素酸ナトリウムのような消毒剤が注入されている。
【0027】
管理サーバ1は、例えばパーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウェアからなる。監視制御手段2は、制御LAN3経由で上水処理施設10におけるモニタリング情報を監視し、管理サーバ1からの制御指令に従って実際の施設におけるアクチュエータ等の機器運転を実行する。制御LAN3を介して監視制御手段2,管理サーバ1へ送られる監視情報としては、例えば、濁度やpH等の水質計測情報,流量,損失水頭,水圧,薬剤注入量がある。
【0028】
図2は、本実施例の管理サーバ1の詳細を示す構成図で、図2に示すように、管理サーバ1は、CPU30,水質,プロセスデータベース34,制約条件データベース35,CO2排出量原単位データベース36,取水計画データベース37,処理性能データベース38,ネットワークインターフェース(IF)32,データ入出力端末33、及びメモリ31を備えている。
【0029】
メモリ31には、濁質負荷量評価プログラム40、および制御量評価プログラム41が記憶されており、CPU30は、このプログラムを実行して各評価を行う。
【0030】
評価を行うとき、ネットワークインターフェース32は、制御LAN3に接続された監視制御手段2と通信し、水質,プロセスデータベース34に水質,プロセス運転情報である運転条件,電力量が計測日時と紐付けされて格納される。又、処理水量,凝集剤注入率,ろ過池洗浄回数,排水処理施設の汚泥負荷量,過去の類似の原水,運転条件における除去性能などを格納してもよい。これらのデータは計測手段26により計測されるか、ユーザがオフラインで分析実施後、水質,プロセスデータベース34に入力する。
【0031】
制約条件データベース35には、制約条件を与える項目とその制約条件の値、および制約を実行するための条件を格納する。制約条件を与える項目としては、沈殿処理水やろ過水の濁度やpHといった水質項目,凝集剤の注入率や取水量といったプロセス運転項目,各操作における運転コストなどがある。水質や運転条件に関する制約条件としては、処理水量,ろ過水濁度,損失水頭,損失水頭の時間変化,ろ過継続時間,排水処理施設への負荷量などがある。
【0032】
これらの項目は、水質,プロセスデータデータベース34に記憶されて管理されている項目の他、これらのデータセットから評価指標として導出された項目も含む。したがって、制約条件データベース35には、これらの評価指標を算出するために用いる水質,プロセスデータ項目および計算用モジュールも合わせて管理される。また、制約条件の値としては、上下限値,段階的な制約条件の値など複数の値が同一の制約条件を与える項目に対して設定できるようにしてある。
【0033】
CO2排出量原単位データベース36には、薬剤や電力の使用,汚泥の処分等に伴って使用する資源やエネルギー量をCO2の発生量に換算するための原単位が記録されている。
【0034】
濁質の除去に関する操作では、薬剤(凝集剤)の注入,攪拌装置(急速攪拌,緩速攪拌)の運転,ろ過池洗浄(洗浄水や逆洗水の汲み上げ,洗浄水の供給,逆洗水の供給),排水施設(濃縮装置,脱水装置)の運転,汚泥の運搬等が薬剤,電力,燃料の消費としてCO2排出量に影響を与えている。
【0035】
「水道における地球温暖化防止実行計画策定の手引き(建設省、平成11年8月)」には、下水の他に上水処理におけるCO2発生の原単位が記載されており、代表的な凝集剤であるPACや硫酸アルミニウムではそれぞれ405kg−CO2/t,357kg−CO2/tといった数値が示されている。また、電力使用に関しては、0.384kg−CO2/kWh,廃棄物輸送に伴うCO2排出係数としては0.003kg−CO2/kgといった値がある。
【0036】
取水計画データベース37には、需要量を考慮した取水量の計画値が記録されている。取水量は分や時間の単位で設定されている。また、需要量は、気温,季節,曜日,平日/休日,イベントの有無により変化するため、それぞれに応じた取水計画のパターンを取水計画データベース37に記録する。
【0037】
処理性能データベース38には、浄水場の各工程における濁質除去性能に関するデータ、及び工程への濁質負荷量又は濁質負荷量に係る指標のデータが格納されている。
【0038】
本実施例では、濁質除去性能に関するデータとして、原水水質パラメータと運転条件に対して、沈殿処理水濁度及びろ過水濁度を予想するためのデータを格納することとする。又、濁質負荷量やその指標データとして、後述するように、ろ過池への濁質蓄積に係る評価指標、及び排水処理施設への濁質負荷の評価指標を算出するためのデータを格納することとする。又、水質,運転条件及び計画水量に応じた処理性能に関する情報が格納されている。
【0039】
原水水質パラメータ及び運転条件としては、少なくとも濁度及び凝集剤注入率を考慮する必要がある。一方、濁質蓄積に係るパラメータとしては、原水濁度,凝集剤注入率,沈殿処理水の濁度,処理水量,ろ過継続時間などの項目を考えることができる。
【0040】
図3に濁質負荷量評価プログラム40における処理フローを示す。濁質負荷量評価プログラム40は、例えば、ユーザが設定した所定の期間内における、濁質及び凝集剤による負荷量を算出する。ここで、所定の期間としては、例えば、24時間,ろ過洗浄間隔などがあり、原水水質の変化や浄水施設12や排水処理施設16,送水施設13等の管理業務に関連する期間を設定するのが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0041】
負荷量算出の対象として、本実施例では、ろ過池への濁質負荷(沈殿処理水の濁質と処理水量による濁質除去性能に依存)と排水処理施設15への汚泥負荷(原水濁度,凝集剤注入率,処理水量に依存)を考慮する。
【0042】
S401で、ユーザが設定する評価の期間(t1)を取得する。S402〜S404は評価の期間(t1)における運転条件,水量,水質を取得するが、この期間におけるこれらの実測データの有無によってデータ取得方法を変更する。
【0043】
S402で、所定の期間内で凝集剤注入率,ろ過池洗浄回数,排水処理施設への汚泥負荷量の実測データがある場合は、水質,プロセスデータベース34からその運転条件を取得する。一方、実測データがない場合は、凝集剤注入率,原水濁度の最新の実測データを以降の期間における運転条件として取得する。
【0044】
S403で、所定の期間内で処理水量データがある場合は、水質,プロセスデータベース34から処理水量(m3/h)を取得する。実測データがない場合は、曜日,気温に応じた取水計画を処理水量である計画水量として取水計画データベース37から取得する。
【0045】
404では、評価時点から所定の期間の終わりまでの水質,運転条件および計画水量に応じた処理性能に関する情報を処理性能データベース38から取得する。
【0046】
S405で、運転条件の実測データがない期間における、濁質及び凝集剤による負荷率を算出し、運転条件,処理水量,水質,負荷量の値を各日時に対して出力する。
【0047】
S404で取得する処理性能に関する情報の一例として、図4,図5に示す線図を用いる。ここでは、原水濁度,凝集剤(PAC)注入率及び処理水量を用いて、ろ過池への濁質負荷を得る。図4では、沈殿処理水濁度評価のための線図、図5では、損失水頭評価のための線図を一例として示している。沈殿処理水濁度評価のための線図では、原水濁度に対してPAC注入が濁度除去に寄与する程度を係数k1として得られるようにしている。原水濁度が増加すると、フロックの濃度が増加して凝集効率が向上するため、右上がりの曲線となっている。この例ではk1は水温依存性を表現しており、低水温期では凝集の効果が低いため、k1は小さい値が設定されている。このk1を用いてS405では、数1により沈殿処理水濁度を算出する。
【0048】
〔数1〕
(沈殿処理水濁度)=(原水濁度)−k1×(PAC注入率) …(1)
【0049】
また、ろ過池への濁質負荷評価の場合は、図5に示すように、ろ層に蓄積される濁質の性状k2をPAC/原水濁度に依存するものとして取得するようにしている。PAC/原水濁度への依存性は小さいが、PAC注入が過剰な領域では、ろ層で捕捉される濁質の組成が変化することから、損失水頭への影響度を大きく取っている。このk2を用いて、数2によりろ過池への濁質負荷による評価指標を算出する。
【0050】
〔数2〕
(ろ過池への濁質負荷)=∫k2×(沈殿処理水濁質量)×(処理水量)dt …(2)
【0051】
ここで、積算する範囲は、ユーザが設定した所定の期間である。将来の沈殿処理水濁度は、上述の評価した予測値を用いる。
【0052】
また、排水処理施設への負荷量を評価については、数3により排水処理施設への負荷量を求めて評価する。
【0053】
〔数3〕
(排水処理施設への負荷量)=k3×∫{(凝集剤注入量)+(粉末活性炭注入量)+
(原水濁質量)}×(処理水量)dt …(3)
【0054】
処理性能データベース38には、この線図の情報を格納し、水質と運転条件に応じてk1やk2を抽出するが、線図を用いる方法以外にも、a)多変数を入力とした評価式(予測式)、b)水質,プロセスデータベースから過去の類似の原水,運転条件における除去性能を抽出する方法、c)評価時点での処理性能を使用する方法を採ることもできる。処理性能データベース38に格納する情報としては、a)の場合、評価式および入力項目、b)の場合、抽出項目および抽出条件(抽出する値の範囲や割合,マハラノビス距離等の評価指標)、c)の場合、参照する期間と期間内のデータの処理方法となる。
【0055】
図6に制御量評価プログラム41における処理フローを示す。制御量評価プログラム41は、濁質負荷量と制約条件に基づき、ろ過池洗浄操作時期を設定し、薬剤注入,洗浄,排水処理によるCO2排出量を算出する。運転条件を変化させた評価を行い、CO2排出量が最小となる運転条件を探索する。
【0056】
S501で、濁質負荷量評価プログラム40からの出力結果を取得する。S502で、ユーザが設定した評価期間を取得する。S503で、制約条件データベース35から水質や運転条件に関する制約条件を取得する。制約条件を設定する項目としては、本実施例では、処理水量,ろ過水濁度,損失水頭,損失水頭の時間変化,ろ過継続時間,排水処理施設への負荷量とする。
【0057】
ろ過水濁度は、クリプトスポリジウムによる汚染の可能性がある水源から取水している浄水場では0.1度以下に管理する必要があり、優先度の高い制約条件である。損失水頭は、各地で一定の処理水量を確保する点で重要な制約条件である。損失水頭の時間変化が大きいと、ろ過池の洗浄回数が増加し、これに伴い本来のろ過処理に利用できる時間が短縮され、結果的に処理水量を確保できなくなる可能性が生じることから、重要な制約条件である。ろ過継続時間は、ろ過池洗浄操作が特定の日時に集中して処理水量が確保できなくなることを防止するために重要な制約条件となる。そして、廃水処理設備への負荷量は、高濁度原水が長時間流入する場合などに排水処理施設の処理容量を超えると、浄水処理や水道水供給に制限が加わる可能性があることから制約条件とする必要がある。
【0058】
S504では、制約条件に係る水質,プロセスデータを取得する。この水質,プロセスデータとS501で得た運転状況の評価結果を用い、S505では制約条件の満足状況を判断する。ここで、制約条件を満足しない場合は、S511において、評価期間内の将来の運転に係る運転条件を変更し、再度、濁質負荷量評価プログラム40を実施する。S402〜S404の運転条件設定では、S511の条件を優先させる。
【0059】
運転条件の変更は、ろ過池の洗浄操作,凝集剤注入率,排水処理施設運転,処理水量の順で行う。すなわち、ろ過池の洗浄操作の実施日時を変更させ、制約条件が満足するか判断する。ろ過池の洗浄操作だけでは制約条件を満足できない場合は、凝集剤注入率も変更させて制約条件を満足するかを判断する手順で、最終的には上述した4項目の運転条件の調整で制約条件を満足するようにする。
【0060】
一方、制約条件を満足する場合は、S506でCO2排出量原単位データベース36から原単位を取得する。S507で、所定の期間における各操作によるCO2排出量の評価を行う。各操作とは、薬剤使用,ろ過池洗浄,排水処理、および取水,送水のそれぞれに係るCO2排出量であり、評価時点より前の実績データが存在する場合は、そのデータを用い、評価時点より将来のCO2発生量の評価には、S505の運転条件を用いて算出する。S508でこれらのCO2排出量を合計し、一時保管する。
【0061】
S509で、CO2排出量を評価していない別の薬注条件の有無を判定し、制約条件を満足している場合は薬注条件を変更して再評価する。一方、薬注条件が他にない場合は、S508で評価したCO2排出量が最小となる薬注条件を抽出し、上水施設における薬注条件をこの値に変更する。
【0062】
この処理フローの例では、制約条件としてCO2排出量を設定せず、CO2排出量が最低になる薬注条件を探索しているが、この処理フローとは別に、CO2排出量の上限値を制約条件に加え、制約条件を満足し、かつ評価時点での薬注量により近い薬注条件を探索し、調整することもできる。
【0063】
本実施例ではCO2排出量を評価しているが、CO2に限らず、CH4やN2Oなどの他の温室効果ガスを含めた排出量を評価してもよい。
【実施例2】
【0064】
本実施例は、濁質負荷量評価プログラム40において、評価時点より将来の水質や損失水頭等のプロセスに関する予測精度を向上させるための情報処理を行うものである。
【0065】
予測精度を向上させる方法としては、a)上流側の情報、すなわち濁度や降雨量の測定結果から将来、取水施設から取込まれる原水の濁度変化を推定する方法、b)濁度以外に、凝集沈殿処理,ろ過処理および排水処理性能に影響する因子の計測結果も用いて予測する方法がある。
【0066】
上流側の情報を用いる場合、計測地点から薬注地点に到達するまでの所要時間を考慮して将来の水質の予測精度を向上させることができる。河川の濁度と着水井での濁度とは一致しない場合もあるため、河川の濁度と着水井での濁度間の相関式を用いて着水井の濁度を推定する。水源地域の降雨量を計測する場合も同様に、降雨量と原水濁度との相関式を予め求めておき、原水濁度を推定する。
【0067】
濁質負荷量評価プログラム40では、S401で、上述したように将来の水質の推定値を取得する。この推定値を用いて、所定の時間間隔(t2)で薬剤の注入率を、注入率式や線図から求める。
【0068】
S404とS405では、それぞれの時間における処理性能の取得、および負荷量評価を行う。
【0069】
次に、制御量評価プログラム41において、実施例1で示した制約条件を満足する運転条件のうち、CO2排出量が最小となる運転条件を探索する。このとき、S511の運転条件変更のステップでは、将来の水質の推定値に対する薬剤注入率の変更パターンは、例えば、数4に示す注入率式や線図から求めた各時間における注入率に対して一定の係数を乗じる方法、数5に示す注入率に対する除去性能で重みを付ける方法を用いる。
【0070】
〔数4〕
(変更後の注入率)t=ti=R×(変更前の注入率)t=ti …(4)
〔数5〕
(変更後の注入率)t=ti=R×w1it=ti×(変更前の注入率)t=ti …(5)
【0071】
ここで、wiは原水水質と注入率から予想される処理性能をパラメータとした重みである。
【0072】
一方、濁度以外の影響因子を用いる場合のパラメータとしては、pH,アルカリ度,水温,有機物,藻類(種類,個数濃度),流動電流,金属イオン濃度,濁質の粒径分布等の項目を考えることができる。特に、フミン酸やフルボ酸に代表される有機物や、一部の藻類(ミクロキスチス等)は、凝集を阻害する方向に働くため、これらの因子を考慮した操作線図の作成や、目標とする沈殿処理水濁度毎の凝集剤注入率式を設定することで、薬注量とろ過池への濁質の負荷量の予測の精度を向上させることができる。注入率式としては、例えば数6,数7を用いる。
【0073】
〔数6〕
(PAC注入率)=Σ(mi×Ci)+b1 …(6)
〔数7〕
(PAC注入率)=b2Π(Ci^ni) …(7)
【0074】
ここで、Ciはパラメータiの値、mi,niはそれぞれパラメータiに関する係数、b1,b2は定数である。
【0075】
ろ層への濁質蓄積による評価指標の算出では、通常の濁質と比較して損失水頭への影響が大きい因子を考慮して指標の値を求める。藻類の内、珪藻類のシネドラやメロシラ等はろ過閉塞を生じさせる原因となることが知られている。そのため、これらの生物数を関数とした重み係数(w2i)を設定し、数2の右辺に乗じる。これらの結果を用いて制御量評価プログラム41を実行する。
【0076】
本実施例では、水質に関する取得データ項目を拡大することにより、水質の将来的予測、これに伴う注入率や負荷量の予想が可能となる。そのため、CO2排出量の予測精度が向上し、排出量最小とする運転条件として、より適正な条件を得ることができる。
【実施例3】
【0077】
本発明の実施例3を図7により説明する。本実施例では、管理サーバ1に、監視制御手段2が受信する各設備機器の運転情報を格納する運転状態データベースを設けている。浄水施設12は、2系列の混和池−凝集沈殿池−ろ過池を有し、各系列で処理された水は浄水池25で混合されるようになっている。
【0078】
運転状態データベースは、監視制御手段2が取得した水質やプロセスのデータと、予め設定された警報発報の境界値を用いて定期的に判断され、運転状態データベースには、設備機器状態(軽故障,重故障)が格納される。
【0079】
また、保守点検や改造工事に伴う発報を区別するために、ユーザによる「点検中」または「点検予定」の入力値を日時と紐付けして格納している。運転状態データベースには、軽故障,重故障,点検中における関連機器の運転可能な範囲がそれぞれ設定されている。
【0080】
運転可能な範囲とは、設備機器が実際に性能を出すことができる範囲のことである。何らかの故障が発生した場合は、その設備機器が健全な状態にある場合に比べて性能が落ちると仮定する。一例として、ポンプの吐出能力は、健全時で1000m3/hであるが、軽故障時には500m3/h、重故障時には100m3/h、点検時は700m3/hのように運転状態データベースに登録する。
【0081】
濁質負荷量評価プログラム40では、2系列についてそれぞれ、沈殿処理水濁度,ろ過池への濁質蓄積による評価指標,排水処理施設への負荷量の評価を行う。制御量評価プログラム41のS508で、対象とする施設全体でのCO2負荷量の合計値を算出する。S511で、次の運転条件を設定する際、運転状態データベースに何らかの信号が記録されている場合は、それぞれの状態に応じた運転可能範囲において運転条件を設定する。例えば、データベースに格納された運転可能範囲の中間値で運転するものとして以後の評価を行う。
【0082】
図7に示す例で、PAC注入設備28Bに軽故障が発生したケースについて説明する。PAC注入設備28Bに不具合があった場合、運転可能な範囲、すなわち注入量は低下することになるので、運転状態データベースには予め運転可能な注入量および処理可能な水量の範囲を格納しておく。
【0083】
実際の軽故障が生じた場合、濁質負荷量評価プログラム40では、所定の期間内は軽故障が継続するとして、この期間内での各系列での沈殿処理水濁度等を評価する。制御量評価プログラム41では、各種運転条件におけるCO2排出量評価を行うが、不具合がある場合でも実施例1で示した制約条件を満たす必要がある。PAC注入設備28Bの運転条件が制限されるため、混和池22側への水量の負荷,PAC注入設備28への負荷が増大し、損失水頭の制約条件からろ過池洗浄回数も変化する。このように、運転条件データベースに設定された範囲内で運転条件を変化させ、CO2排出量が最小になる条件を出力する。
【0084】
本実施例では、設備機器の運転状況に関する情報を取込むようにしているので、CO2排出量最小となる運転条件が、設備機器の状況に応じた制約条件の範囲内で評価できるようになる。そのため、現実的に適用できない運転条件の選定と指令を回避でき、ユーザの介入なしにプラントの運転を安定的に行うことができる。
【実施例4】
【0085】
制御量評価プログラム41において、運転条件を決定する他の実施例を説明する。
【0086】
制約条件データベース35に格納された制約条件は、通常、常に満足していなければならない。しかし、日常的な管理においては重要な指標となるが、原水水質悪化などの非定常時や異常時には、後段の処理性能に期待して制約条件を緩和できるものが含まれる。
【0087】
制約条件データベース35のフィールドに、制約条件を与える項目に対する許容逸脱率を追加する。許容逸脱率の定義として時間基準と面積基準を用いた例を図8に示す。
【0088】
時間基準では、基準日から評価時点までの期間(t3)に対し、制約条件を逸脱した時間(t4)が許容逸脱率以下になるように、すなわち、t4≦t3×(許容逸脱率)を満たすように運転条件を調整する。一方、面積基準では、基準日から評価時点までの期間で、制約条件を与えられている項目の値の積分(s1)に対し、制約条件を逸脱した期間での積分(s2)が許容逸脱率以下になるように、すなわち、s2≦s1×(許容逸脱率)を満たすように運転条件を調整する。この判断は制御量評価プログラム41のS505において実施し、このステップを通過した運転条件については以降のステップでCO2排出量を評価する。
【0089】
沈殿処理水に適用した場合、通常、制約条件は沈殿処理水濁度≦1度に設定しているが、原水が高濁になった場合や、有機物や藻類が多く凝集沈殿特性の悪い水質の場合は、沈殿処理水の制約条件を常に満足する運転よりも、ろ過池との負荷分担による運転の方がCO2排出量を低減できる運転条件をとることができる。
【0090】
本実施例のような運転条件の決定方法を適用すれば、制約条件の優先順位を設定できることになる。又、沈殿処理水を対象にしたケースでは、非定常時や異常時における負荷分担の判断をユーザが実施する必要がなくなり、運転の自動化によるユーザの負荷軽減に効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0091】
各実施例によれば、上水施設の運転制御に関して、濁質の除去に係る負荷を上水施設内の複数の処理で分担し、全体として環境負荷(CO2排出量)の少ない運転条件を選択させることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 管理サーバ
2 監視制御手段
3 制御LAN
10 上水処理施設
11 取水施設
12 浄水施設
13 送水施設
14 給配水施設
15 排水処理施設
21 着水井
22 混和池
23 凝集沈殿池
24 ろ過池
26 計測手段
27 ろ過池洗浄設備
28 PAC注入設備
30 CPU
31 メモリ
32 ネットワークインターフェース
33 データ入出力端末
34 水質,プロセスデータベース
35 制約条件データベース
36 CO2排出量原単位データベース
37 取水計画データベース
38 処理性能データベース
40 濁質負荷量評価プログラム
41 制御量評価プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視制御手段から入力される水質,運転条件を格納する水質,プロセスデータベースと、上水処理施設の各処理工程を運転する上で制約条件となる水質項目又は運転条件の項目と値を格納する制約条件データベースと、取水量の計画値を記録した取水計画データベースと、前記上水処理施設の各処理工程における濁質除去性能に関するデータを格納した処理性能データベースと、使用する資源やエネルギー量をCO2の発生量に換算するための原単位が記録されているCO2排出量原単位データベースと、実測データがない将来の運転について前記水質,プロセスデータベースから最新の水質,運転条件を取得し、前記取水計画データベースから計画水量を取得して該水質,運転条件,計画水量に応じた処理性能に関する情報を前記処理性能データベースから取得し、ろ過池への濁質負荷と廃水処理施設への負荷量を算出し、運転条件,処理水量,水質の値を各日時に対して出力する濁質負荷量評価部と、該濁質負荷量評価部で出力された水質,運転条件と前記制約条件データベースに格納された水質,プロセスデータを比較して制約条件を満足するように、かつ前記負荷量が前記CO2排出量原単位データベースに記録されている原単位で換算されるCO2排出量が最小となる運転条件を検索する制御量評価部を備えた上水施設の監視制御システム。
【請求項2】
前記水質が濁質であって、所定の期間において、濁質の処理工程から生じるCO2排出量を算出し、CO2排出量が最小になるように、濁質の処理工程の操作条件を算出する請求項1に記載の上水施設の監視制御システム。
【請求項3】
前記制約条件が、沈殿処理水濁度,ろ過池濁度,ろ過池損失水頭,排水処理設備能力のうちの少なくとも一つである請求項1に記載の上水施設の監視制御システム。
【請求項4】
前記濁質の処理に係る測定が、有機物濃度測定,藻類数測定,流動電流測定,降雨量測定のうち少なくとも一つである請求項2に記載の上水施設の監視制御システム。
【請求項5】
前記濁質の除去に係る設備機器の不具合または保守点検状況,不具合または保守点検状況における運転可能範囲を格納する運転状態格納手段を有し、上水施設において運転状態格納手段が格納する種類の不具合または保守点検が発生している場合、運転可能範囲内で運転条件を選択しCO2排出量を算出する請求項1に記載の上水施設の監視制御システム。
【請求項6】
前記制約条件に対する許容逸脱率を設け、所定の期間内に許容逸脱率の範囲内で制約条件を満足しない運転条件を選択し、選択された運転条件も含めてCO2排出量を算出する請求項1に記載の上水施設の監視制御システム。
【請求項7】
前記環境負荷量算出に関連する設備機器の運転コストを制約条件とする請求項1に記載の上水施設の監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−158632(P2010−158632A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3020(P2009−3020)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】