説明

上衣用加工芯およびそれを用いた上衣

【課題】テーラードタイプの上衣に要される特徴を維持しながら、着用者の体の動きに合わせて伸縮ができるという上衣を実現する上衣用加工芯を提供することと、該加工芯を用いた着用者の体の動きに合わせて高度に伸縮ができるテーラードタイプの上衣を提供する。
【解決手段】テーラードタイプの上衣の前身頃用の加工芯1であって、台芯2の肩部に肩ダーツ6を設け、該肩ダーツの首側の縁部6Aはフラシ部用当て布4と縫合一体化され、該肩ダーツの腕側の縁部6Bは、前記フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cとフラシ構造部分6Dとからなり、前記フラシ部用当て布4の首側の領域では前記台芯2および胸増芯3と縫合接合され、前記台芯2の該フラシ構造部分6Dから腕側の領域では胸増芯3と該台芯2とが接合されていないことを特徴とする上衣用加工芯であり、該上衣用加工芯と、ストレッチ率が10〜30%である表生地が用いられて形成されているテーラードタイプの上衣。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紳士服等のテーラードタイプ(背広型)の上衣における加工芯とそれを用いた上衣に関する。
【0002】
更に詳しくは、ジャケットや背広上着などのテーラードタイプの上衣において、従来の常識に反して、着用者の肩の動きに対応して比較的自由に伸縮することができて、肩の窮屈さがなく、画期的な着やすさ・着心地感、運動追随性を実現させる上衣の前身頃に使用される上衣用加工芯とそれを用いた上衣に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、ジャケット、背広上着などのテーラードタイプの上衣においては、着用者の肩の動き等に応じて伸縮することは「絶対に」と言っていいほど好まれず、そのため肩の動きなどに応じて伸びたり縮んだりすることがないように、芯地(台芯、胸増芯など)、表地などの形・性能や生地特性が考えられ、縫製されて作られてきた。
【0004】
このような観点で、従来からテーラードタイプの上衣においては、着用したとき、様々なシーンでも美しい立体形状を常に保持し、美しい胸のシルエットやフォルム、ボリューム感をホールドしてシルエット、フォルムを美しく見せるため様々な芯地が内部において使用されている。
【0005】
従来、そのような目的を達成するために前身頃に使用される芯地としては、一般に、台芯(芯地を2枚以上使う場合の基礎となる芯地)に、胸増芯、肩バス芯およびフェルト芯を複合した四重構造を呈して構成されたものなどが多く使用されている。
【0006】
この複数のパーツが複合されて構成された芯地は、全体としては加工芯と呼ばれる(毛芯、作り芯とも呼ばれることがある)。
【0007】
この加工芯を構成するに当たって、従来は、上述したように肩の動き等に応じて上衣が伸びたり縮んだりすることによってテーラードタイプの上衣に相応しいシルエットやフォルムが崩れたりしないようにすることが前提にされて、その上で、衣服としての着用のしやすさなどが考えられてきた。
【0008】
例えば、紳士服等の上着の前身頃に使用される衣服用台芯に関する提案であって、着用者の体形に応じた曲面を有しながら、着用性を向上させる衣服用台芯を提供することを目的として、上着の前身頃内部に介装される台芯であって、前身頃内部に介装される身頃用台芯の肩部を、身頃用台芯の肩部台芯として形成するとともに、この肩部台芯の身頃用台芯との接続部に、肩部から胸部にかけてダーツ(切断して縫合した部分部)を設けた衣服用台芯が提案されている(特許文献1)。この台芯は、切断による肩部ダーツを設けることによって、肩から首部にかけて自然なラインを効果的に表現し着用性を向上させている。
【0009】
この特許文献1の提案のように、台芯の肩部に切断によるダーツを設けたものは、美しいシルエット、安定した丸みを表現するに効果的なものであり、他の加工芯に関する提案でも採用されている(特許文献2−3)。
【0010】
また、胸部のボリュームに応じた立体性、ドレープ性をより効果的に保持できる上衣の前加工芯として、加工芯を胸脇側部と衿前側部の2片に分割して形成するとともに、それ
らの分割境界辺を、衿前側部側に曲線をもって積極的に突出させた湾曲曲線で形成し、その胸脇側部の分割辺と衿前側部の分割辺を突き合わせ縫着して構成した上衣の加工芯が提案されている(特許文献4)。
【0011】
しかし、これらの従来の提案のものは、いずれも、上着を着用した状態で体を動かしたときなどでも、馴染みが良く、硬い感じがせずに着心地が良い、あるいはドレープ性がよいという効果をねらったものにすぎず、伸縮することを許容しない従来のテーラードタイプの上衣の域を出るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−132805号公報(請求項2、請求項3、段落0061)
【特許文献2】特開平7−252711号公報
【特許文献3】特開2007−231489号公報
【特許文献4】特開2006−161213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一方、近年では、テーラードタイプ(背広型)の上衣でも、着用者の体の動きに合わせて伸縮ができるという、今までにない商品に新たな価値が見出されてきて、その実現が求められるようになってきた。
【0014】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、様々なシーンで美しい立体形状を保持し、美しい胸のシルエットやフォルム、ボリューム感をホールドするという従来のテーラードタイプ(背広型)の上衣に要される特徴を堅持しながらも、着用者の体の動きに合わせて伸縮ができるという、従来にはないテーラードタイプ(背広型)の上衣を提供することを実現する上衣用加工芯を提供すること、および、該加工芯を用いた着用者の体の動きに合わせて高度に伸縮ができるテーラードタイプ(背広型)の上衣を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成する本発明のテーラードタイプの上衣用加工芯は、以下の(1)の構成からなる。
(1)テーラードタイプの上衣の前身頃用の加工芯1であって、台芯2の肩部に肩ダーツ6を設け、該肩ダーツの首側の縁部6Aはフラシ部用当て布4と縫合一体化され、該肩ダーツの腕側の縁部6Bは、前記フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cとフラシ構造部分6Dとからなり、前記フラシ部用当て布4の首側の領域では前記台芯2および胸増芯3と縫合接合され、前記台芯2の該フラシ構造部分6Dから腕側の領域では胸増芯3と該台芯2とが接合されていないことを特徴とする上衣用加工芯。
【0016】
かかる本発明の上衣用加工芯において、さらに、以下の(2)または(3)の構成を有することが好ましい。
(2)前記胸増芯3が織地からなるものであり、該胸増芯3の経糸方向が、該胸増芯3の襟線12の方向と20°〜40°の交差角θを呈してバイアス使用されていることを特徴とする上記(1)記載の上衣用加工芯。
(3)前記台芯2が、襟前側部13側に凸状に湾曲した形状で形成された胸ダーツ62を有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の上衣用加工芯。
【0017】
また、上述した目的を達成する本発明のテーラードタイプ(背広型)の上衣は、以下の(4)の構成からなる。
(4)上記(1)記載の上衣用加工芯と、ストレッチ率が10〜30%である高ストレッチ性表生地が用いられて縫製されていることを特徴とするテーラードタイプの上衣。
【0018】
かかる本発明のテーラードタイプの上衣において、さらに以下の(5)〜(9)のいずれかの構成を有することが好ましい。
(5)前記高ストレッチ性表生地が、ストレッチ率12〜25%の高ストレッチ性表生地であることを特徴とする上記(4)記載のテーラードタイプの上衣。
(6)上記(1)記載の上衣用加工芯の胸増芯3の下に、織地と不織布が積層されて一体化されてなる肩パッドが、該肩パッドの織地の経糸方向が胸増芯3の肩線方向と交差するようにして使用されていることを特徴とする上記(4)または(5)記載のテーラードタイプの上衣。
(7)肩部分に裏地が使用され、該裏地が、ストレッチ率が10〜30%である高ストレッチ性裏地であるかまたは織地からなり該織地の経糸方向が胸増芯3の肩線方向と交差するようにして使用されているバイアス使用裏地であることを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれかに記載のテーラードタイプの上衣。
(8)前記高ストレッチ性表生地が、織物生地であることを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれかに記載のテーラードタイプの上衣。
(9)前記高ストレッチ性表生地が、編物生地であることを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれかに記載のテーラードタイプの上衣。
【発明の効果】
【0019】
請求項1にかかる本発明の上衣用加工芯によれば、様々なシーンで美しい立体形状を保持し、美しい胸のシルエットやフォルム、ボリューム感をホールドするという従来のテーラードタイプ(背広型)の上衣に要される特徴を維持しながら、着用者の体の動きに合わせて伸縮ができるという、従来にはないテーラードタイプ(背広型)の上衣を提供することを実現する上衣用加工芯が提供される。
【0020】
請求項2〜3のいずれかの本発明の上衣用加工芯によれば、上記請求項1にかかる本発明で得られる効果に加え、さらに、シルエットの美しさ、優れたドレープ性という点で優れた上衣用加工芯が提供される。
【0021】
請求項4にかかる本発明のテーラードタイプの上衣によれば、様々なシーンで美しい立体形状を保持し、美しい胸のシルエットやフォルム、ボリューム感をホールドするという従来のテーラードタイプ(背広型)の上衣に要される特徴を維持しながら、着用者の体の動きに合わせて伸縮ができるという、従来にはないテーラードタイプ(背広型)の上衣が提供される。
【0022】
請求項5〜9のいずれかの本発明のテーラードタイプの上衣によれば、上述した請求項4にかかる本発明の上衣の効果をより顕著に発揮できる上衣が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の上衣用加工芯を構成する芯地パーツを分解して示した平面図である。
【図2】本発明の上衣用加工芯の1実施態様を示した外観正面図である。
【図3】図2に示した本発明の上衣用加工芯の1実施態様を、裏側に隠れた芯地パーツを含めて示した正面図である。
【図4】図2に示した本発明の上衣用加工芯の1実施態様を、裏側に隠れた芯地パーツを含めて示した正面図である図3の要部を拡大して示した正面図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の上衣用加工芯における各芯地パーツの接合箇所を説明する正面図である。
【図6】(a)は、本発明の上衣用加工芯における台芯の胸ダーツと胸増芯の地の目の好ましい態様を示したものであり、(b)は、(a)に示した態様と対比して従来の台芯の胸ダーツと胸増芯の地の目の態様を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、更に詳しく、本発明の上衣用加工芯について、図面などを参照しながら説明する。
【0025】
本発明の上衣用加工芯1は、テーラードタイプの上衣の前身頃用の加工芯1であって、図1にその構成パーツを示したように、台芯2、胸増芯3、フラシ部用当て布4、襟用台芯5からなる。6は台芯2に設けられた肩ダーツである。61、62、63、64は、台芯2、胸増芯3に設けられたダーツであり、62、64は胸ダーツと呼ばれる。
【0026】
図1に示した各パーツは、加工芯として仕上げられた状態では千鳥縫いなどによって図2および図3に示したように全体が縫合されて一体化されている。
【0027】
本発明の上衣用加工芯1の特徴の第一は、台芯2の肩部に設けられた肩ダーツ6付近の構造にあり、肩ダーツ6の首側の縁部6Aはフラシ部用当て布4と縫合一体化されていて、一方、該肩ダーツ6の腕側の縁部6Bは、前記フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cとフラシ構造部分6Dとからなり、少なくとも台芯2のフラシ構造部分6Dから腕側の領域では胸増芯3と該台芯2とが接合されていないことにある。そして、好ましくは、台芯2の肩ダーツ6の腕側の縁部6Bから腕側の領域では、台芯2は、フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている腕側の縁部6Bの上端部分6Cを除いて、特に、他のパーツと接合されていないことである。そうした方が、台芯2の肩部の腕側付近がより高度に伸縮に追従することができるからである。
【0028】
本発明において、「フラシ構造」とは、「綴じられていない状態の構造」をいい、より具体的には、縫製で接合して衣類を構成していくケースでは、「縫い止められていない状態の構造」をいい、「振らし(ふらし)」とも書き、振れて動くことのできる状態を意味する服飾業界での用語である。
【0029】
台芯2、胸増芯3、フラシ部用当て布4、襟用台芯5は、代表的にはそれぞれ目の粗めな織物からなり、図1や図5の各芯地パーツにて示したように、その織物の経糸方向Stと緯糸方向Syが考慮されて型取りがされて各芯地として使用される。なお、特に「経糸方向St」は、当業界で「地の目(の方向)」とも呼ばれる。
【0030】
図2は、台芯2の肩ダーツ部6の裏側にフラシ部用当て布4が配されている位置を示しており、フラシ部用当て布4は、台芯2の肩ダーツ部6の裏側において、肩ダーツ6の図面上、左側の領域(図5(c)の左上がり斜線で示した領域Z2)で台芯2と縫合等により接合されている。この縫合接合状態については、図4、図5を用いて詳細は後述する。
【0031】
図3は、フラシ部用当て布4の裏側にさらに、襟用台芯5を配し、その裏側にさらに胸増芯3を配した位置関係を示す。襟用台芯5は必ずしも使用しなくてもよいが、襟元のシルエットをしっかりと保持する上で使用することが好ましい。
【0032】
台芯2、フラシ部用当て布4、襟用台芯5、胸増芯3の縫製による接合状態を図4、図5を用いて説明する。
【0033】
図4は、特に肩ダーツ6付近における縫合状態を示したものであり、肩ダーツの首側の縁部6Aはフラシ部用当て布4と縫合部7Aで縫合されている。台芯2の肩ダーツの腕側
の縁部6Bは、フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cと、フラシ構造部分6Dとからなっていて、肩側縁部6Aとは相違する構造となっている。
【0034】
肩ダーツk腕側の縁部6Bのフラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cは、長さにして約1.5〜2.5cm程度であり、その部分の下(腹側)にフラシ構造部分6Dが約6〜9cm程度の長さで設けられている。
【0035】
フラシ部用当て布4は、台芯2と、肩ダーツ6よりも図面上で左側の領域のほぼ全体(図5(c)で左上がりの斜線を引いた領域Z2)、さらに、肩ダーツの肩側の縁部6a、および肩ダーツの腕側の縁部6bの上端部分6c部分において縫合により接合されている。また、フラシ部用当て布4は、その裏側で、胸増芯3と、肩ダーツ6よりも図面上で左側の領域の襟側(根本)から約1/2〜約1/3までの領域(図5(c)で右上がりの斜線を引いた領域Z1)で、縫合一体化されている。
【0036】
台芯2と胸増芯3は、該台芯2のフラシ構造部分6Dから腕側の領域(好ましくは、前述したように、台芯2の肩ダーツ6の腕側の縁部6Bから腕側の全体の領域(ただし、
台芯2の肩ダーツの腕側の縁部6Bのうちの、フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cを除く))(図5(a)で白抜きで示した領域Z3)では胸増芯3と台芯2とが接合されていないものであり、両者の接合部分は、図5(a)で2点鎖線の左上がりの斜線で示した部分である。この接合は、図5(b)に示したような、両者を重ね合わせて行う千鳥縫い9などによってなされる。なお、図5(a)で示した2点鎖線の左上がりの斜線は、胸増芯3の経糸方向St(上述した地の目)をも、ほぼ示している。
【0037】
上述した構造にしたことによって、本発明の上衣用加工芯1では、台芯2の肩ダーツの腕側の縁がフラシ構造となっていること、さらに、そのフラシ構造部分よりも腕側の領域Z3においては、台芯2は、図5(b)に示したように、腕側に引張り力F1を加えると台芯2はフラシ構造部分の存在によって、簡単に台芯2のみが引っ張られて芯地が振れる(引張り力F2の方向に伸縮する)。そのときでも、胸増芯3は、領域Z3における台芯2とは相互に独立していて、フラシ部用当て布4の襟側の根本部付近において、該フラシ部用当て布4を介して台芯2の襟側の根本部付近としっかりと接合されているため、引張り力F1の作用をほとんど受けることなく、芯地(胸増芯)としての形状を保ち、芯地(胸増芯)が本来醸し出す美しい立体形状をホールドし、美しい胸のシルエットやフォルム、ボリューム感を実現するという機能を発揮するのである。
【0038】
特に、本発明者らの各種知見によれば、この効果を良好に発揮する上で、胸増芯3が織地からなるものであって、かつ胸増芯3の経糸方向St(地の目)が、該胸増芯3の襟線12の方向と20°〜40°の交差角θを呈してバイアス使用されていることが(図1)、図5(b)に図示したように、胸増芯3がある程度伸縮できるので好ましい。交差角θは、さらに好ましくは25°〜35°であり、最も好ましくは28°〜32°程度の30°前後である。
【0039】
また、伸縮をしたとしても、常に美しい立体形状を実現する上で、台芯2が、襟前側部13側に凸状に湾曲した形状で形成された胸ダーツ62を有することが好ましい(図1、図2)。このような胸ダーツ62を設けると、上衣にF3のような向きの力が加わったときでも、胸部において前後に立体的に湾曲しようとする力F4が作用するので、美しいシルエット、フォルムが維持されるからである(図2)。
【0040】
本発明の加工芯におけるこれらの台芯2、胸増芯3の地の目と、胸ダーツの構造の好ましい態様を図6の(a)に示し、従来のそれらの態様を図6の(b)に示した。図6(a)に示した本発明の好ましい胸ダーツ62の凸状に湾曲させるレベルは凸状の深さ(高さ
)Dで1.2〜1.5cm程度が好ましい。ちなみに、従来の加工芯では、図6(b)に示したように、θは約15°であり、台芯2と胸増芯3の地の目の方向は一致するようにして構成され、さらに、胸ダーツ62は直線でV字型の切込みとして形成されているのが通常である。
【0041】
本発明において、加工芯地を構成する素材は、従来から同種の上衣用の芯地として使用されてきている粗い織物を使用することができる。使用に当たっては、接着芯地と併用した接着縫製用としても従来と同様に使用することができる。すなわち、本発明では、芯地のパーツの形、構造、組合せた構造に特徴があるのであり、本発明の加工芯地は、従来の加工芯地と同様に、接着芯地と併用されて表地および裏地と適宜に合わされて使用され得るものである。
【0042】
また、胸増芯3とフラシ部用当て布4は、同一の芯地材で構成されていることが好ましい。また、それら(胸増芯3とフラシ部用当て布4)は、台芯2よりもハリ、コシが強く、剛性が大きいものを使用するのが好ましい。
【0043】
本発明の加工芯地は、フル加工芯(フル毛芯)として構成されていてもよく、あるいは7分加工芯(7分毛芯)として構成されていてもよく、特に限定されない。それらの相違は、図1、図2、図3、図6などで示した台芯の下方で破断線で表したあたりから下の部分があるかないかである。前者では全丈は85〜86cm前後、後者では全丈は65cm前後となるのが代表的な例である。
【0044】
本発明の加工芯地は、テーラードタイプの上衣に使用されてその効果を遺憾なく発揮する。
【0045】
特に、そうした上衣用としては、従来では使用されることがほとんどなかったストレッチ率が10〜30%である高いストレッチ性を有する表生地が用いられて形成されたテーラードタイプの上衣が、そのストレッチ特性を生かせるので、本発明の効果をより高く発揮できる。
【0046】
例えば、野球やゴルフのスウィング動作や各種球技スポーツの投球動作も無理なく可能なものである。高ストレッチ性の表生地は、好ましくは、特にストレッチ率12〜25%の高ストレッチ性表生地であるが好ましい。
【0047】
また、本発明にかかる上衣用加工芯の胸増芯3の下に、織地と不織布が積層されて千鳥縫いや直線状縫いで縫製一体化されてなる肩パッドが、該肩パッドの織地の経糸方向が台芯2の織地の経糸方向と交差するようにしてバイアス使用されていることが好ましい。
【0048】
本発明にかかるテーラードタイプの上衣に用いられる高ストレッチ性表生地は、前述した伸縮率を有する織物生地あるいは編物生地であることが好ましい。
【0049】
また、本発明にかかるテーラードタイプの上衣において、肩部分に裏地を使用する場合は、該肩部分の裏地も、高ストレッチ性の生地を使用すること、あるいは、ストレッチ性の生地を使用しない場合には、肩パッドの場合と同様に、台芯2の織地の経糸方向と該裏地の経糸方向とが交差するようにしたバイアス使用をすることが好ましい。
【0050】
本発明により得られるテーラードタイプの上衣を着用すれば、良好な着心地感が得られることで優れ、身体も軽く動きやすいので疲れを感じることが少ない。したがって、ビジネスの効率も上がり、現代社会のビジネスシーン、ストレスを蓄積させないテーラードタイプの上衣として最適なものである。
【0051】
〔ストレッチ率〕
本発明において、ストレッチ率とは、ストレッチ性を有する織物の伸縮性を測定する下記する定荷重法によって伸長率(B1法)値を求めて、その値をストレッチ率としたものである。すなわち、試験片を約6cm×約30cmに切り、短い幅の方の両側の糸をほついて5cm幅にする。そして、試験片の一端の上部をクリップで固定し、他端に初荷重に相当するクリップを掛け、20cm間の2点に印を付ける。初荷重に代え、1.5kgの荷重を加え、1分間放置後の印間の長さ(L1:cm)を測定し、以下の式(a)により伸長率(%)を求める。本発明ではn数を3としてその平均値を求めて小数点以下1桁の数字に丸めた。
伸長率(ストレッチ率)={(L1−20)/20}×100 ………式(a)
【0052】
この測定手法は、JIS L1096「一般織物試験方法」の「伸縮織物の伸縮性」の測定評価法として規定されている、8.14.1「伸縮織物の伸長率」のB法(定荷重法)に準じている。編地の表地についても、この方法に準じて測定をするものである。
【符号の説明】
【0053】
1:加工芯
2:台芯
3:胸増芯
4:フラシ部用当て布
5:襟用台芯
6:肩ダーツ
6A:肩ダーツの首側の縁部
6B:肩ダーツの腕側の縁部
6C:肩ダーツの腕側の縁部Bのうちフラシ部用当て布と縫合により一体化されている上端部分
6D:肩ダーツの腕側の縁部Bのうちのフラシ構造部分
6b:(フラシ部用当て布における)肩ダーツの腕側の縁部
6c:(フラシ部用当て布における)肩ダーツの腕側の縁部Bのうちフラシ部用当て布と縫合により一体化されている上端部分
6d:(フラシ部用当て布における)肩ダーツの腕側の縁部Bのうちのフラシ構造部分
7:肩ダーツの縁部の縫合部
7A:肩ダーツの首側縁部の縫合部
7B:肩ダーツの腕側縁部の縫合部
8:台芯2とフラシ部用当て布4の縫合接合部
9:千鳥縫い
10:フラシ部
11:台芯の襟線
12:胸増芯の襟線
13:襟前側部
61、63:ダーツ
62、64:胸ダーツ
Z1:肩ダーツ6よりも図面上で左側の領域の襟側の1/2〜1/3の領域で、右上がりの斜線を引いた領域
Z2:肩ダーツ6よりも図面上で左側の領域のほぼ全体の左上がりの斜線を引いた領域
Z3:台芯2のフラシ構造部分6Dから腕側の領域で、図5(a)で白抜きで示した領域St:織物芯地の経糸方向(地の目)
Sy:織物芯地の緯糸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーラードタイプの上衣の前身頃用の加工芯1であって、台芯2の肩部に肩ダーツ6を設け、該肩ダーツの首側の縁部6Aはフラシ部用当て布4と縫合一体化され、該肩ダーツの腕側の縁部6Bは、前記フラシ部用当て布4と縫合により一体化されている上端部分6Cとフラシ構造部分6Dとからなり、前記フラシ部用当て布4の首側の領域では前記台芯2および胸増芯3と縫合接合され、前記台芯2の該フラシ構造部分6Dから腕側の領域では胸増芯3と該台芯2とが接合されていないことを特徴とする上衣用加工芯。
【請求項2】
前記胸増芯3が織地からなるものであり、該胸増芯3の経糸方向が、該胸増芯3の襟線12の方向と20°〜40°の交差角θを呈してバイアス使用されていることを特徴とする請求項1記載の上衣用加工芯。
【請求項3】
前記台芯2が、襟前側部13側に凸状に湾曲した形状で形成された胸ダーツ62を有することことを特徴とする請求項1または2記載の上衣用加工芯。
【請求項4】
請求項1記載の上衣用加工芯と、ストレッチ率が10〜30%である高ストレッチ性表生地が用いられて縫製されていることを特徴とするテーラードタイプの上衣。
【請求項5】
前記高ストレッチ性表生地が、ストレッチ率12〜25%の高ストレッチ性表生地であることを特徴とする請求項4記載のテーラードタイプの上衣。
【請求項6】
請求項1記載の上衣用加工芯の胸増芯3の下に、織地と不織布が積層されて一体化されてなる肩パッドが、該肩パッドの織地の経糸方向が胸増芯3の肩線方向と交差するようにして使用されていることを特徴とする請求項4または5記載のテーラードタイプの上衣。
【請求項7】
肩部分に裏地が使用され、該裏地が、ストレッチ率が10〜30%である高ストレッチ性裏地であるかまたは織地からなり該織地の経糸方向が胸増芯3の肩線方向と交差するようにして使用されているバイアス使用裏地であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のテーラードタイプの上衣。
【請求項8】
前記高ストレッチ性表生地が、織物生地であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のテーラードタイプの上衣。
【請求項9】
前記高ストレッチ性表生地が、編物生地であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のテーラードタイプの上衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107367(P2012−107367A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258575(P2010−258575)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(500282427)東レインターナショナル株式会社 (27)
【出願人】(510306867)株式会社カタヤマ (1)
【Fターム(参考)】