説明

下掛け水車用の羽根車及び下掛け水車装置

【課題】 流量の少ない水流の水力エネルギーを有効活用することができるとともに、水流の淀みの発生を低減することができるようにする。
【解決手段】 本発明の下掛け水車用の羽根車2は、水路の横断方向かつ水平方向に延びる軸周りに回転自在に支持される回転体11と、互いに間隔をおいて回転体11の軸方向の両側にそれぞれ設けられた一対の羽根群12とを備えている。各羽根群12は、互いに間隔をおいて回転体11の周方向へ列設されるとともに、該回転体11の略半径方向に突設された複数の羽根13を備えている。各羽根13は、回転体11の略最下位に位置した状態で、水路10の上流側の面が、回転体11の軸方向中央側になるほど、下流側に位置するように配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用水路や小規模な河川等の流量の少ない水路で使用される下掛け水車用の羽根車及び下掛け水車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、流量の少ないの水路で使用される下掛け水車用の羽根車及び下掛け水車装置は、該流量の少ない水から実用的なエネルギーが得られるように、羽根車の外周に列設された各羽根の幅が水路の幅とほぼ同じに設定される。
【0003】
流量の少ない水路における発電効率を高めることを目的とした従来の下掛け水車装置として、特許文献1記載の発電用水車を例示する。この水車は、図9に示すように、用水路を流れる水101に下方の一部が浸るように立てて配置され、同一の方向に回転可能に配置された1対の水車110、120と、水車110、120に連接されて無端軌道をなし、水車110、120を一体として同一の方向に回転可能にする動力伝達部材130と、動力伝達部材130に固定され、用水路を流れる水101の動力を受けて無端軌道の周りに回転する複数の水流受部140と、上方に位置する動力伝達部材130及び水流受部140を支持する支持部材と、を備えた構成を有する。
【0004】
【特許文献1】特許第3993220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の下掛け水車は、前記羽根車の羽根が水路の幅とほぼ同じに設定されているので、次の課題がある。
(1)前記羽根により水流が淀み、効率が低下する。特に、水路の経路に沿って複数段の水車を設ける場合、下流側の水車になるほど水流が大幅に低下してしまう。
(2)水流における流木等の浮遊物が前記羽根車により堰き止められ、水流が淀み、効率が低下する。さらに、この堰き止められた浮遊物により前記羽根車の回転が阻害されることによっても、効率が低下する。
【0006】
また、特許文献1記載の発電用水車は、構成が複雑なためコストが高くなるとともに、構成要素及び可動部分が多いので故障する可能性が高くなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の下掛け水車用の羽根車は、
水路の横断方向かつ水平方向に延びる軸周りに回転自在に支持される回転体と、
互いに間隔をおいて前記回転体の軸方向の両側にそれぞれ設けられた一対の羽根群とを備え、
該各羽根群は、互いに間隔をおいて前記回転体の周方向に列設されるとともに該回転体の略半径方向に突設された複数の羽根を備え、
該各羽根は、前記回転体の略最下位に位置した状態で、前記水路の上流側の面が、前記回転体の軸方向中央側になるほど、下流側に位置するように配設されている。
【0008】
この構成によれば、前記回転体に設けられた一対の羽根群の間に間隔が設けられており、さらに、前記各羽根は、前記回転体の略最下位に位置した状態で、前記水路の上流側の面が、前記回転体の軸方向中央側になるほど、下流側に位置するように配設されているので、前記間隔が設けられている部分の空間に、水路幅略全体の水流が流れ込み、勢いよく下流に流れてゆくため、水流の淀みの発生が少ない。そして、この空間を流れる水流の勢いで前記羽根車は、その回転力が高められ、安定的に力強く回転する。また、この空間を経由させて、流木等の浮遊物を下流に流すことができるので、該浮遊物が前記羽根車に堰き止められ難い。また、本発明の羽根車は構造がシンプルなので、低コストに構成でき、可動部分がないので故障する可能性も低い。
【0009】
前記下掛け水車用の羽根車においては、
前記回転体は、中空に形成されるとともに、内部に気体が密閉されてなる態様を例示する。
【0010】
この構成によれば、該羽根車を軽量化できるだけでなく、該羽根車の浮力を向上させることができる。このため、水路の水位に応じて昇降させる場合に、該昇降のための負荷を軽減させることができる。
【0011】
前記下掛け水車用の羽根車においては、
前記羽根は、前記上流側の面が凹状に形成された態様を例示する。
【0012】
この構成によれば、前記羽根が受ける水流のエネルギーを向上させることができる。
【0013】
また、本発明の下掛け水車装置は、
いずれかの前記羽根車と、
該羽根車を水路の横断方向かつ水平方向に回転自在に支持するフレームとを備えている。
【0014】
この構成によれば、前記羽根車の効果と同様の効果を得ることができる。
【0015】
前記下掛け水車装置においては、
前記フレームは、水路に設置される固定フレームと、該固定フレームに対して昇降可能に支持されるとともに、前記羽根車を回転自在に支持する昇降フレームとを備え、
前記水路の水位に応じて前記固定フレームに対して前記昇降フレームを昇降駆動する昇降駆動装置を備えた態様を例示する。
【0016】
この構成によれば、水路の水位に応じて前記羽根車を昇降させることにより、羽根車の回転を安定させることができ、水流のエネルギーを効率的に利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る下掛け水車用の羽根車及び下掛け水車装置によれば、流量の少ない水流の水力エネルギーを有効活用することができるとともに、水流の淀みの発生を低減することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図6は本発明を具体化した一実施形態を示している。本発明の下掛け水車装置1は、図1〜3に示すように、羽根車2と、水路10に設置された固定フレーム3と、該固定フレーム3に対して昇降可能に支持されるとともに、羽根車2を回転自在に支持する昇降フレーム4と、水路10を流れる水8の水位に応じて固定フレーム3に対して昇降フレーム4を昇降駆動する昇降駆動装置5と、羽根車2の軸2aの回転により駆動される直流発電機6と、該直流発電機6が出力する直流電力を交流電力に変換して出力する電力変換装置7とを備えている。
【0019】
羽根車2は、図4に示すように、水路10の横断方向かつ水平方向に延びる軸周りに回転自在に支持される回転体11と、互いに間隔をおいて回転体11の軸方向の両側にそれぞれ設けられた一対の羽根群12とを備えている。羽根群11同士の間隔としては、特に限定されないが、回転体11の幅の約10〜25%とすることを例示する。
【0020】
回転体11は、本例では、中空のドラム型に形成されるとともに、内部に気体が密閉されてなっている。回転体11の軸心には、シャフト11aが取り付けられている。シャフト11aの両側には、はずみ車(図示略)が装着されており、羽根車2の回転を安定させるとともに該回転のエネルギーを保存するようになっている。
【0021】
各羽根群12は、互いに間隔をおいて回転体11の周方向へ列設された複数枚(本例では24枚)の羽根13を備えている。各羽根は、回転体11の略半径方向に突設されている。各羽根群12における羽根13の枚数としては、特に限定されないが、約20〜30枚とすることを例示する。
【0022】
各羽根13は、回転体11の略最下位に位置した状態で、水路10の上流側の面が、回転体11の軸方向中央側になるほど、下流側に位置するように配設されている(図6の底面図参照)。この配設の態様としては、特に限定されないが、回転体11の軸方向に対して約15〜30°傾けた態様を例示する。羽根13の高さ(回転体11の半径方向の長さ)としては、特に限定されないが、回転体11の直径の約15〜25%とすることを例示する。また、各羽根13は、前記上流側の面が凹状に形成されている。
【0023】
本発明の羽根車2の実施例としては、特に限定されないが、幅約2.4mの水路10に設置する場合の態様として次のものを例示する。
(1)回転体11:幅約2m、直径約2m
(2)羽根群12同士の間隔:約0.4m
(3)各羽根群12の羽根13の枚数:24枚
(4)羽根13:回転体11の軸方向における幅0.8m、回転体11の半径方向の高さ0.4m、厚さ4mm
【0024】
固定フレーム3は、箱枠状に形成されており、水路10の側壁に設置されている。昇降フレーム4は、箱枠状に形成されており、スライド手段20を介して固定フレーム3に対し昇降可能に支持されている。本例のスライド手段20は、固定フレーム3の4本の柱材3aにそれぞれ設けられたスライドレール21と、該各スライドレール21に対峙する昇降フレーム4の各柱材4aに設けられ、該各スライドレール21に沿って転動するスライドローラー22とからなっている。
【0025】
昇降駆動装置5は、固定フレーム3の上枠3bに回転自在に支持された状態で下垂された4本の昇降送りネジ31と、該昇降送りネジ31が螺入可能に昇降フレーム4の各柱材4aに設けられた雌ネジ穴(図示略)とを備えている。各昇降送りネジ31の上端側には、それぞれスプロケット33が固定されており、これらのスプロケット33にチェーン34が巻き掛けられている。そして、一つの昇降送りネジ31が伝動機構35を介して昇降駆動モータ36により回転駆動されると、他の昇降送りネジ31も連動するように構成されている。昇降駆動モータ36は、水路10を流れる水8の水位を検出する水位センサー37から出力される水位信号に応じて作動するように構成されている。本例では、水位センサー37は、上位及び下位の2段階の水位を検出するように構成されており、昇降駆動装置5は、図5(a)に示すように水位が上位になっていると昇降フレーム4を所定の上位位置まで上昇させ、図5(b)に示すように水位が下位になっていると昇降フレーム4を所定の下位位置まで下降させるようになっている。
【0026】
なお、本例では、水路10における下掛け水車装置1のすぐ上流側には、流量調整ゲート装置(図示略)が設置されており、該装置により下掛け水車装置1へ向かう水量が過多にならないように調節されるようになっているものとする。
【0027】
以上のように構成された本例の下掛け水車用の羽根車2によれば、回転体11に設けられた一対の羽根群12の間に間隔が設けられており、さらに、各羽根13は、回転体11の略最下位に位置した状態で、水路10の上流側の面が、回転体11の軸方向中央側になるほど、下流側に位置するように配設されているので、図6の底面図に示すように、前記間隔が設けられている部分の空間に、水路幅略全体の水流9が流れ込み、勢いよく下流に流れてゆくため、水流9の淀みの発生が少ない。そして、この空間を流れる水流9の勢いで羽根車2は、その回転力が高められ、安定的に力強く回転する。また、この空間を経由させて、流木等の浮遊物を下流に流すことができるので、該浮遊物が羽根車2に堰き止められ難い。また、本発明の羽根車2は構造がシンプルなので、低コストに構成でき、可動部分がないので故障する可能性も低い。
【0028】
また、回転体11は、中空に形成されるとともに、内部に気体が密閉されてなっているので、該羽根車2を軽量化できるだけでなく、該羽根車2の浮力を向上させることができる。このため、水路10を流れる水8の水位に応じて昇降させる場合に、該昇降のための負荷を軽減させることができる。
【0029】
また、羽根13は、前記上流側の面が凹状に形成されているので、羽根13が受ける水流9のエネルギーを向上させることができる。
【0030】
また、本発明の下掛け水車装置1は、羽根車2と、該羽根車2を水路10の横断方向かつ水平方向に回転自在に支持するフレーム(3,4)とを備えているので、羽根車2の効果と同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、下掛け水車装置1においては、前記フレームは、水路10に設置される固定フレーム3と、該固定フレーム3に対して昇降可能に支持されるとともに、羽根車2を回転自在に支持する昇降フレーム4と、水路10を流れる水8の水位に応じて固定フレーム3に対して昇降フレーム4を昇降駆動する昇降駆動装置5とを備えているので、該水位に応じて羽根車2を昇降させ、水流9のエネルギーを効率的に利用することができる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)下掛け水車装置1を水路10の長さ方向に多段に設置したり(図7参照)、水路の幅方向に多段に設置したりすること。
(2)図8に示すように、羽根車2の1対の羽根群12における羽根13が、交互に回転体11の幅方向の中央まで延設された態様とすること。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係る下掛け水車用の羽根車及び下掛け水車装置の側面図である。
【図2】同羽根車及び下掛け水車装置の平面図である。
【図3】同羽根車及び下掛け水車装置の正面図(水路の上流側から見た図)である。
【図4】同羽根車の斜視図である。
【図5】同下掛け水車装置の動作を示す側面図であり、(a)は水位が高いときの動作を示す図、(b)は水位が低いときの動作を示す図である。
【図6】同羽根車の作用を示す底面図である。
【図7】同下掛け水車装置の変更例を示す平面図である。
【図8】同羽根車の変更例を示す正面図である。
【図9】従来の発電用水車を示す図であり、(a)は側面図、(b)は用水路を横切る方向の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 水車装置
2 羽根車
2a 軸
3 固定フレーム
3a 柱材
3b 上枠
4 昇降フレーム
4a 柱材
5 昇降駆動装置
6 直流発電機
7 電力変換装置
8 水
9 水流
10 水路
11 回転体
11a シャフト
12 羽根群
13 羽根
20 スライド手段
21 スライドレール
22 スライドローラー
31 ネジ
33 スプロケット
34 チェーン
35 伝動機構
36 昇降駆動モータ
37 水位センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路の横断方向かつ水平方向に延びる軸周りに回転自在に支持される回転体と、
互いに間隔をおいて前記回転体の軸方向の両側にそれぞれ設けられた一対の羽根群とを備え、
該各羽根群は、互いに間隔をおいて前記回転体の周方向に列設されるとともに該回転体の略半径方向に突設された複数の羽根を備え、
該各羽根は、前記回転体の略最下位に位置した状態で、前記水路の上流側の面が、前記回転体の軸方向中央側になるほど、下流側に位置するように配設された下掛け水車用の羽根車。
【請求項2】
前記回転体は、中空に形成されるとともに、内部に気体が密閉されてなる請求項1記載の下掛け水車用の羽根車。
【請求項3】
前記羽根は、前記上流側の面が凹状に形成された請求項1又は2記載の下掛け水車用の羽根車。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の羽根車と、
該羽根車を水路の横断方向かつ水平方向に回転自在に支持するフレームとを備えた下掛け水車装置。
【請求項5】
前記フレームは、水路に設置される固定フレームと、該固定フレームに対して昇降可能に支持されるとともに、前記羽根車を回転自在に支持する昇降フレームとを備え、
前記水路の水位に応じて前記固定フレームに対して前記昇降フレームを昇降駆動する昇降駆動装置を備えた請求項4記載の下掛け水車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−174480(P2009−174480A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15709(P2008−15709)
【出願日】平成20年1月27日(2008.1.27)
【出願人】(507415842)
【Fターム(参考)】