下水管の伏越し構造
【課題】 下水の流下力が弱い場合でも、夾雑物が堆積することを防止できる。
【解決手段】 上流側下水管2とベント管1と下流側下水管3とを、上流側マンホール4内と下流側マンホール5内とにおいて、それぞれ上流側導水管6と下流側導水管7とによって着脱自在、かつ外部から密閉した状態で連通させる。上流側導水管6は、下水の流入量の増減に応じて、その断面積が増減する断面積可変管を使用する。したがって上流側下水管2内を流下する下水の速度エネルギーが有効利用でき、かつ下水流量が少ない場合でも位置エネルギーが減少しない。
【解決手段】 上流側下水管2とベント管1と下流側下水管3とを、上流側マンホール4内と下流側マンホール5内とにおいて、それぞれ上流側導水管6と下流側導水管7とによって着脱自在、かつ外部から密閉した状態で連通させる。上流側導水管6は、下水の流入量の増減に応じて、その断面積が増減する断面積可変管を使用する。したがって上流側下水管2内を流下する下水の速度エネルギーが有効利用でき、かつ下水流量が少ない場合でも位置エネルギーが減少しない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
河川や地下道等の障害物の下を潜り抜ける下水管の伏越し構造に関し、特に外部から密閉した状態で連通する下水管の伏越し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭の生活排水や産業施設の廃水等を処理する分流式の下水管は、3/1000以下という極僅かな下り勾配に敷設して、下水を下流に流している。しかるに、流路の途中に、河川や地下道等の障害物があると、この障害物を横切る手段が必要となる。
【0003】
この障害物を横切る手段として、従来から、主にポンプ等で下水を汲み上げ、障害物の上を横断させる手段が用いられている。しかるにこの手段では、電動機等の圧送機器、水管橋等の横断経路、および制御機械等が必要となり、工事費及び保守点検費用等も高額になるという問題がある。
【0004】
そこで、障害物を横断させる他の手段として、この障害物の下を潜り抜ける伏越し構造が用いられてきた。ここで従来技術による典型的な伏越し構造を、図9に示す。すなわち、河川を挟んで下水管の上流側に、上流側マンホール404を設け、下水管の下流側に、下流側マンホール405が設けてある。上流側マンホール404の底部と、下流側マンホール405の底部とを、伏越し管401で連通させる。そして上流側下水管402は、上流側マンホール404の上部に連通し、下流側マンホール405の上部に、下流側下水管403が連通している。
【0005】
なお上流側下水管402の底面であって、上流側マンホール404に連通する位置と、下流側下水管403の底面であって、下流側マンホール405に連通する位置との落差:ΔHは、いわゆる伏越し落差に設定してある。ここで伏越し落差:Hは、例えば「下水道施設計画・設計指針と解説、社団法人 日本下水道協会」に示されている次式で計算する。
H=i・L+β・(V2/2g)+α
ここで、
H:伏越しの損失水頭(m)
i:伏越し管内の流速に対する動水勾配
L:伏越し管の長さ(m)
V:伏越し管内の流速(m/s)
g:重力加速度(9.8m/s2)
α:余裕幅(30〜50mm)
β:1.5を標準とする。
なお伏越し管の直径を縮小して、流速を、下水管内の流速より20〜30%増加させる。
【0006】
しかるに、上述した伏越し構造には、次の問題があった。すなわち生活排水である下水には、油等の浮遊性夾雑物や、土砂等の沈降性夾雑物が混入しており、これらが徐々に上流側マンホール404内に堆積し、伏越し管401に流れる下水量を減少させ、そのまま放置しておけば、伏越し管を閉塞させるおそれもある。具体的には、図10に示すように、上流側マンホール404内の水面高さは、上流側下水管402が、このマンホール内に開口する出口の下面から、ほぼ伏越し落差:ΔH分だけ下がった位置になる。このため比重の軽い浮遊性夾雑物S1は、上流側マンホール404内の水面に浮揚し、一方比重の重い沈降性夾雑物S2は、この上流側マンホールの底部に堆積していく。そして、これらの浮遊性夾雑物S1や沈降性夾雑物S2は、時間と共に肥大化し、伏越し管401を閉塞させる原因となる。
【0007】
このため本願出願人等は、上流側のマンホール404内に、浮遊性夾雑物S1や沈降性夾雑物S2が堆積する余地が無いようにした、改良型の伏越し構造を創出して、実施している。すなわち図11に示すように、この改良型の伏越し構造は、上流側下水管502を上流側のマンホール504の底面に連通し、流入する下水を、この上流側のマンホールの底面に設けたU字断面の導流溝に流し、この導流溝の出口に、伏越し管501を連通させる。そして上流側下水管502と、下流側下水管503とに、ΔHの伏越し落差を付ける。伏越し管501は、ベント管であって、上流側のマンホール504から下方に傾斜する下向流部511と、河川の底を横断する水平流部512と、下流側のマンホール503に向って上方に傾斜する上向流部513とから構成している。
【0008】
したがって上流側下水管502からの下水量が多い場合は、上流側のマンホール504内に、比重の軽い浮遊性夾雑物S1や沈降性夾雑物S2が流入しても、これらの夾雑物は、この上流側のマンホール内に堆積する余地が少ないため、そのまま伏越し管501の下向流部511に流出する傾向にある。
【0009】
また伏越し管の勾配や上流側マンホールの直径に工夫したり、下流側マンホール内にポンプを設けて、補助的に下水を汲み上げたりする等の手段が提案されている(特許文献1参照。)。あるいは河川等を挟んだ上流側の下水路に貯水部分を設け、ある程度水が溜まった後に、この貯水を一度に流すことによって、下水量が減少した場合に、下水の流下力を増強する手段が提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−52512号公報(2―5頁、図1、2)
【特許文献2】特開2005−126941号公報(2―13頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、この改良型の伏越し構造では、図12に示すように、伏越し管501の下向流部511内の水面に、比重の軽い浮遊性夾雑物S3が浮遊集積し、底部には、比重の重い沈降性夾雑物S4が堆積するという、更なる改良すべき点があることが判明した。すなわち下水流量が少ない場合には、下水の流下力が低下して十分に夾雑物を押し流すことができず、これらの夾雑物が伏越し管501内に堆積する傾向がある。
【0011】
また上記「特許文献1」の手段では、下水流量が少ない場合には、上述した改良型の伏越し構造と同様に、浮遊性夾雑物の浮遊集積や、沈降性夾雑物の沈殿堆積を防止することは困難であり、汲み上げポンプの使用は、設置費用や電力費用が必要となる。さらに上記「特許文献2」の手段では、貯水部の建設や貯水部を間歇的に開閉する機構が必要となる。
【0012】
そこで本発明の目的は、下水自体の速度エネルギーと位置エネルギーとを有効利用することによって下水の流下力を増大させ、下水流量が少ない場合でも、夾雑物が堆積することを防止できる下水管の伏越し構造を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明による下水管の伏越し構造の特徴は、河川や地下道等の障害物を挟んで位置する上流側下水管及び下流側下水管と、この障害物の下を潜り抜けるベント管と、このベント管の入口に位置する上流側マンホールとを備えている。上記上流側下水管は、傾斜する上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で上記ベント管の入口に連通し、このベント管の出口は、上記下流側下水管に連通している。そして上記上流側導水管は、上記上流側マンホール内において、上記上流側下水管と上記ベント管の入口とにそれぞれ着脱自在であることにある。なお上記ベント管と下流側下水管とを、外部から密閉した状態で連通させてもよい。
【0014】
すなわち、従来の下水管の伏越し構造では、図9〜図12に示すように、上流側のマンホール404、504内と、下流側のマンホール405、505内とは、共に大気圧力に開放されているため、上流側のマンホール404内、あるいはベント管501の下向流部511内の水面位置は、ほぼ下流側下水管403、503での水面の高さ位置となる。そして上流側下水管402、502から、上流側のマンホール404またはベント管501の下向流部511内に下水が流れ込むと、この上流側のマンホール内または下向流部内の水位が少し上がり、その僅かな水位差によって、下水が伏越し管401やベント管501を介して下流側に流れていく。
【0015】
すなわちこのような大気開放型の従来構造においては、上流側下水管402、502内を、ある程度の速度で流れる下水の速度エネルギーは、この大気開放の上流側のマンホール404、504で遮断されて、伏越し管401やベント管501内に供給されない。また上流側のマンホール404またはベント管501の下向流部511内の水位は、ほぼ下流側下水管403、503での水面の高さ位置となるために、ΔH分の伏越し落差が、有効に利用できない。
【0016】
そこで本願発明のように、上流側下水管と伏越し管とを、上流側のマンホール404、504において大気開放せずに、傾斜する上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で連通させると、上流側下水管402、502内を流れる下水の速度エネルギーは、そのまま伏越し管401やベント管501内に供給され、後述するように、さらにこれらの上流側下水管内と、下流側下水管403、503内との伏越し落差:ΔHを、位置エネルギーとして、そのまま有効利用することができる。したがって、本願発明の密閉型の伏越し構造を採用することによって、下水の速度エネルギーと、位置エネルギーとの双方を有効利用することで、下水の流下力を増大させ、これによって夾雑物が堆積することが防止できる。
【0017】
ここで「ベント管」とは、上流側下水管と下流側下水管とを連通させる伏越し管であって、下降する下向流部と、ほぼ水平な水平流部と、上昇する上向流部とからなる、略Uの字型の下水管を意味する。なお橋桁等を迂回するために、ベント管を水平方向に曲げる場合には、夾雑物が堆積し難くなるように、水平流部において、できるだけ緩やかな曲率で曲げる。また「上流側マンホール」とは、上流側下水管とベント管との連通部に位置するマンホールを意味し、その形状は問わないが、足掛け金物のない、断面形状が楕円のものが好ましい。
【0018】
また「傾斜する上流側導水管」とは、高位置にある上流側下水管と、低位置にあるベント管の入口とを、斜めに連結する管部材を意味し、その材質や、密閉して連結する手段は問わない。例えば錆び難いステンレス材や合成樹脂等を、クランプやフランジ等で上流側下水管とベント管の入口とを連結する場合が該当する。すなわち上流側下水管とベント管とを、外部から密閉した状態で着脱自在に連結する上流側導水管を設けることによって、ベント管の清掃及び補修等の保守・点検が、さらに容易になる。
【0019】
上記上流側導水管の出口の底面位置は、上記ベント管の出口と下流側下水管との連通部の底面位置と、ほぼ同一の高さにしてあり、この上流側導水管の入口位置と出口位置との高低差は、伏越し落差とほぼ同一にするのが望ましい。
【0020】
また上記上流側導水管は、この上流側導水管への下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減するものからなることが望ましい。
【0021】
すなわち図5に示すように、塩化ビニール管等のような、ある程度の剛性を有する管からなる上流側導水管206を用いると、下水の水量が大きく減った場合には、この上流側導水管内の流路が下水で充填されず、この上流側導水管内の出口近傍に水面が形成され、いわゆる伏越し落差:ΔHの位置エネルギーを有効利用できなくなる。一方図6に示すように、下水の流入量の減少に応じて、流路面積も減少する上流側導水管6を用いると、下水の流入量が減少しても、この上流側導水管内の流路が下水で充填されるので、伏越し落差:ΔHの位置エネルギーを有効利用することができる。
【0022】
ここで「下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減する上流側導水管」としては、例えば合成樹脂繊維からなる不織布製等のホースや、塩化ビニール製のパイプの下半分と、合成樹脂繊維からなる不織布製等のホース上下半分とを、接合したものが該当する。このように上流側導水管自体、またはその円周の一部に、内圧が低下すると、容易に緊迫力が失われて凹む布等を用いることによって、下水の流入量が増減すると、その増減に応じて、流路面積を増減させることができる。
【0023】
上記ベント管は、上流側から順に、下方に傾斜する下向流部と、ほぼ水平な水平流部と、上方に傾斜する上向流部とを備え、この上向流部の底面であって、この上向流部の最下端から、少なくともこの上向流部の管径分だけ離れた位置に、この部分に堆積する堆積物の採取管を連通し、この採取管には、この上向流部との連通部分の近傍に、空気を圧入する空気管を連通させるようにすることが望ましい。
【0024】
すなわち本願発明では、上述したように、上流側の下水の速度エネルギーと位置エネルギーとを有効利用することによって、下水の流下力を増大させ、これによって夾雑物が堆積することを防止しているが、さらに加えて夾雑物の堆積の有無が点検できれば、事前に清掃を行うことによって、下水管の閉塞を更に確実に防止できる。本願発明においては、夾雑物の堆積が最初に生じる場所は、ベント管の水平流部と上向流部との屈曲した連結部と想定される。そこでこの部分に堆積物の採取管を連通し、この採取管に空気管から空気を圧入することによって、採取した堆積物を、この採取管の出口に浮上させることにより、堆積物の有無を適宜かつ容易に点検することができる。
【0025】
ところで河川等の障害物の下を潜る長大な伏越し管は、点検や清掃あるいは補修等に、長期間が必要になる場合が多いため、通常2本以上の複数本を併設する。図11〜図12に示した、改良型の従来構造では、上流側マンホール504の底面に、途中で二股に分かれるY字型の導流溝を設け、この二股に分かれた導流溝の出口部に、2条管のそれぞれのベント管を連結する。そして二股に分かれた導流溝のそれぞれには、仕切り弁等が設けてある。
【0026】
通常は、二股に分かれた導流溝の一方の仕切り弁を開き、他方の導流溝の仕切り弁を閉じておくことによって、この仕切り弁を開いた一方の導流溝に連結したベント管を使用する。そしてこの一方のベント管の清掃や補修が必要になった場合には、仕切り弁の開閉を逆にして、他方のベント管を使用する。しかるにこのような従来構造は、大気開放型であって、上述したように上流側の下水の速度エネルギーと位置エネルギーとを有効利用できない。
【0027】
そこで本願発明による下水管の伏越し構造では、上記ベント管は、2条管であって、このベント管の出口に位置する下流側マンホールを備えている。また上記上流側下水管と上記2条管のそれぞれの条管とは、上記上流側マンホール内において、それぞれの上記上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で交互に着脱自在に連結可能になっている。さらに上記2条管のそれぞれの条管と上記下流側下水管とは、上記下流側マンホール内において、それぞれの下流側導水管を介して、交互に着脱自在に連結可能になっている。
【0028】
ここで上流側導水管と下流側導水管とは、2条管のそれぞれの条管に連結するために、それぞれ相異なる2種類のものである場合に限らず、上流側導水管と下流側導水管とに、それぞれ曲げたり伸ばしたりすることが可能な、フレキシブルなホース等を使用することによって、1種類にすることも可能である。
【発明の効果】
【0029】
ベント管と少なくとも上流側下水管とを密閉した状態で連通させることによって、下水の速度エネルギーと、位置エネルギーとの双方を有効利用することができる。これによって下水の流下力を増大させ、夾雑物が堆積することが防止できる。また上流側下水管とベント管とを、上流側導水管によって、上流側マンホール内において着脱自在に連結することにより、ベント管の清掃及び補修等の保守・点検が容易になる。
【0030】
上流側導水管の出口の底面位置を、ベント管の出口と下流側下水管との連通部の底面位置とほぼ同一の高さにして、この上流側導水管の入口位置と出口位置との高低差を、伏越し落差とほぼ同一の高さにすることによって、上流側下水管と下流側下水管との間に十分な位置エネルギー差を設け、これによってベント管内における下水の流下力を増大させ、夾雑物が堆積することが防止できる。また上流側導水管を、下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減するものにすることによって、下水の流入量が減少しても、水面位置がベント管内に低下することを回避して、伏越し落差による位置エネルギーを有効利用することができる。
【0031】
ベント管の上向流部の近傍に採取管を設け、圧入空気によって堆積物を浮上させることによって、堆積物の有無の点検が容易になり、事前に清掃を行うことにより下水管の閉塞を確実に防止できる。また2条管からなるベント管のそれぞれに、上流側下水管と下流側下水管とを、それぞれの上流側導水管と下流側導水管とによって、交互に密閉状態でかつ着脱自在に連結可能とすることによって、2条管からなるベント管の清掃及び補修等の保守・点検が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1〜図4を参照しつつ、本発明による下水管の伏越し構造の具体例を説明する。図1は、河川の下を潜り抜ける下水管の伏越し構造の断面を示しており、ここの河川を挟んで位置する上流側下水管2と下流側下水管3とに、ベント管1が連通している。上流側下水管2とベント管1の入口との連通部には、上流側マンホール4が設けてあり、このベント管の出口と下流側下水管3との連通部には、下流側マンホール5が設けてある。なおベント管1は、上流側から順に、下方に傾斜する下向流部11と、ほぼ水平な水平流部12と、上方に傾斜する上向流部13とから構成されている。
【0033】
また上流側下水管2とベント管1の入口とは、上流側導水管6によって、外部から密閉状態で連結してあり、同様に、このベント管の出口と下流側下水管3とは、下流側導水管7によって、外部から密閉状態で連結してある。なお上流側導水管6の出口の底面位置、すなわちベント管1の入口との連結位置における底面位置は、このベント管1の出口と下流側下水管3が連通する底面位置、すなわち、下流側マンホール5の中央部底面と、ほぼ同一高さに設定してある。また上流側導水管6の入口の底面位置、すなわち上流側下水管2と連通する底面位置と、この上流側導水管の出口底面位置、すなわちベント管1の入口と連通する底面位置との高低差は、伏越し落差とほぼ同一、またはそれよりやや小さく設定してある。
【0034】
図1と図2とに示すように、上流側マンホール4は、コンクリート製の円筒形、楕円筒形、あるいは四角筒形からなり、上部は地表に開口し、この開口部は蓋(図示せず。)で覆われている。また底面には、Uの字状の断面をした導流溝43が、傾斜を付けて設けてある。この傾斜は、導流溝43の上端と下端との高低差が、伏越し落差とほぼ同一、またはそれよりやや小さくなる傾きになっている。導流溝43の上端と下端とは、それぞれ上流側マンホール4に設けた貫通穴41、42に連通している。貫通穴41、42には、それぞれ上流側下水管2とベント管1の入口とが挿入され、これらの端部と入口とに、それぞれクランプ8、8によって、上流側導水管6の両端部が、外部から密閉状態で連結してある。なお上流側導水管6の外側底面は、Uの字状の導流溝43の底に係止されている。
【0035】
上流側導水管6は、下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減する断面積可変管を使用している。この断面積可変管の具体的な構成を、図3〜図4に示す。すなわち流入する下水量が、大幅に減少すると想定される場合には、図3に示すように、上流側導水管6に、伸縮しない気密性の不織布からなるホース61を使用し、両端部に塩化ビニール製のフランジ部62、63を取り付ける。フランジ部62、63は、上流側マンホール4内において、上流側下水管2とベント管1の入口とに、クランプ8、8によって着脱自在になっている。
【0036】
流入する下水量が、あまり減少しないと想定される場合には、図4に示すように、上流側導水管106に、上半分が伸縮しない気密性の不織布からなるホースの半割り部分161を使用し、下半分に塩化ビニール製の半割り部分164を使用したものを使用する。なお両端部には、塩化ビニール製のフランジ部162、163を取り付ける。フランジ部162、163は、上流側マンホール4内において、上流側下水管2とベント管1の入口とに、クランプ8、8によって着脱自在になっている。
【0037】
なお、下流側マンホール5内で、着脱自在の下流側導水管7は、断面積が一定の塩化ビニール製のパイプを使用する。
【0038】
また上述した断面積可変管からなる上流側導水管6、106の長さを延長すると共に、上流側下水管2内に挿入嵌合可能な直径にして、この上流側下水管内のさらに上流の位置まで挿入することも効果的である。すなわち下水の水量が減少した場合には、図6に示す上流側下水管2内の水面位置が、この上流側下水管内のさらに上流の位置に移動するために、有効利用できる位置エネルギー:ΔHが増加し、これによって下水の流下力を増大させることができる。
【0039】
さて図7に示すように、ベント管1の上向流部13の底面であって、その最下端から、やや上向方向に離れた位置に設けた開口孔91aに、堆積物の採取管91の一端が連通している。また採取管91には、上向流部13との連通箇所から少し離れた位置に設けた開口孔92aに、空気を圧入する空気管92の一端が連通している。なお上向流部13の水平線に対する角度:θが45度以上の場合には、開口孔91aの中心と、この上向流部の最下端との距離:Lは、この上向流部の管径:Dの1/3以上であることが望ましい。またθが45度未満の場合に
は、距離:Lは、管径:D以上であることが望ましい。これらの位置に、夾雑物が堆積し易いからである。
【0040】
採取管91と空気管92との他端部は、共にそれぞれ地表に設けた計測室93内につながっており、この空気管の他端部には、電動式又は手動式のコンプレッサーからの加圧空気を導入可能になっている。すなわちこれらの機材によって、堆積物の点検装置9が構成される。なお計測室93を、下流側マンホール5内に設けてもよい。
【0041】
さて空気管92の他端部から、コンプレッサーからの加圧空気を導入すると、採取管91に設けた開口孔92aから空気が入り、この採取管内を沫となって上昇する。そしてこの上昇する空気の沫に引き付けられて、上向流部13に設けた開口孔91aから堆積物S5が吸い込まれ、この空気の沫と共に採取管91内を上昇し、計測室93内に位置する採取管91の他端部に浮出る。そこで、この浮出た沫に堆積物が混入しているか否かを点検することによって、容易に上向流部13内の堆積物S5の有無を調べることができる。
【0042】
なおベント管1が小口径の場合には、空気管92を介して、加圧空気を上向流部13に導入することによって、堆積物S5をこの上向流部内で浮遊させて、除去、清掃することも可能である。
【0043】
図8に、ベント管が2条管301A,301Bからなる場合の、下水管の伏越し構造を示す。図8の(A)は、2条管のうち一方のベント管301Aを使用し、他方のベント管301Bを予備とした場合を示している。なお一方のベント管301Aは、上述した方法によって、上流側マンホール304内において、上流側導水管306Aによって、上流側下水管302と密閉状態に連結してある。また同様に、下流側マンホール305内において、下流側導水管307Aによって、下流側下水管303と密閉状態に連結してある。
【0044】
図8の(B)は、上述した一方のベント管301Aを、点検、清掃、あるいは補修等する際に、予備としていた他方のベント管301Bを使用する場合を示している。すなわち上流側マンホール304内と下流側マンホール305内とにおいて、それぞれ上流側導水管306Aと下流側導水管307Aとを、クランプ308を緩めてとり外し、別の上流側導水管306Bと下流側導水管307Bとを、上流側下水管302、予備にしていた他方のベント管301B、及び下流側下水管303に、それぞれクランプ308によって連結する。
【0045】
したがって予備のベント管に切替える場合は、上下流側のマンホール内で、上下流側導水管をそれぞれ交換するだけで足りるため、容易かつ短時間に切替作業を行なうことが可能となる。なお上流側導水管と下流側導水管とに、それぞれ曲げたり伸ばしたりすることが可能な、フレキシブルなホース等を使用すれば、上流側導水管と下流側導水管とを、上流側下水管302と下流側下水管303から取り外すことなく、一方のベント管301Aから他方のベント管301Bに切替えることが可能となる。
【0046】
なお上述した下水管の伏越し構造は、主に分流式の下水管に適するものであるが、この分流式に限らず雨水等との合流式の下水管にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
下水管の敷設に関わる部品や装置の製造、及び土木工事等に関する産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】下水管の伏越し構造の概略断面図である。
【図2】上流側マンホール部分の一部拡大断面図である。
【図3】断面積可変管からなる上流側導水管の斜視図である。
【図4】断面積可変管からなる他の上流側導水管の斜視図である。
【図5】下水量が減少した場合の、断面積が変化しない上流側導水管内の水面位置を示す概略断面図である。
【図6】下水量が減少した場合の、断面積可変管からなる上流側導水管内の水面位置を示す概略断面図である。
【図7】ベント管の堆積物を点検する手段を示す概略断面図である。
【図8】2条管からなるベント管の切替方法を示す上面図である。
【図9】従来例による下水管の伏越し構造の概要を示す断面図である。
【図10】従来例による上流側マンホール部分を示す一部拡大断面図である。
【図11】改良型の従来例による下水管の伏越し構造の概要を示す断面図である。
【図12】改良型の従来例による上流側マンホール部分を示す一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1、301〜501 ベント管(伏越し管)
11、511 下向流部
12、512 水平流部
13、513 上向流部
2、202〜502 上流側下水管
3、303〜503 下流側下水管
4、204〜504 上流側マンホール
5、305〜505 下流側マンホール
6、106〜306 上流側導水管
7、307 下流側導水管
8 クランプ
9 堆積物の点検装置
91 堆積物の採取管
92 空気管
【技術分野】
【0001】
河川や地下道等の障害物の下を潜り抜ける下水管の伏越し構造に関し、特に外部から密閉した状態で連通する下水管の伏越し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭の生活排水や産業施設の廃水等を処理する分流式の下水管は、3/1000以下という極僅かな下り勾配に敷設して、下水を下流に流している。しかるに、流路の途中に、河川や地下道等の障害物があると、この障害物を横切る手段が必要となる。
【0003】
この障害物を横切る手段として、従来から、主にポンプ等で下水を汲み上げ、障害物の上を横断させる手段が用いられている。しかるにこの手段では、電動機等の圧送機器、水管橋等の横断経路、および制御機械等が必要となり、工事費及び保守点検費用等も高額になるという問題がある。
【0004】
そこで、障害物を横断させる他の手段として、この障害物の下を潜り抜ける伏越し構造が用いられてきた。ここで従来技術による典型的な伏越し構造を、図9に示す。すなわち、河川を挟んで下水管の上流側に、上流側マンホール404を設け、下水管の下流側に、下流側マンホール405が設けてある。上流側マンホール404の底部と、下流側マンホール405の底部とを、伏越し管401で連通させる。そして上流側下水管402は、上流側マンホール404の上部に連通し、下流側マンホール405の上部に、下流側下水管403が連通している。
【0005】
なお上流側下水管402の底面であって、上流側マンホール404に連通する位置と、下流側下水管403の底面であって、下流側マンホール405に連通する位置との落差:ΔHは、いわゆる伏越し落差に設定してある。ここで伏越し落差:Hは、例えば「下水道施設計画・設計指針と解説、社団法人 日本下水道協会」に示されている次式で計算する。
H=i・L+β・(V2/2g)+α
ここで、
H:伏越しの損失水頭(m)
i:伏越し管内の流速に対する動水勾配
L:伏越し管の長さ(m)
V:伏越し管内の流速(m/s)
g:重力加速度(9.8m/s2)
α:余裕幅(30〜50mm)
β:1.5を標準とする。
なお伏越し管の直径を縮小して、流速を、下水管内の流速より20〜30%増加させる。
【0006】
しかるに、上述した伏越し構造には、次の問題があった。すなわち生活排水である下水には、油等の浮遊性夾雑物や、土砂等の沈降性夾雑物が混入しており、これらが徐々に上流側マンホール404内に堆積し、伏越し管401に流れる下水量を減少させ、そのまま放置しておけば、伏越し管を閉塞させるおそれもある。具体的には、図10に示すように、上流側マンホール404内の水面高さは、上流側下水管402が、このマンホール内に開口する出口の下面から、ほぼ伏越し落差:ΔH分だけ下がった位置になる。このため比重の軽い浮遊性夾雑物S1は、上流側マンホール404内の水面に浮揚し、一方比重の重い沈降性夾雑物S2は、この上流側マンホールの底部に堆積していく。そして、これらの浮遊性夾雑物S1や沈降性夾雑物S2は、時間と共に肥大化し、伏越し管401を閉塞させる原因となる。
【0007】
このため本願出願人等は、上流側のマンホール404内に、浮遊性夾雑物S1や沈降性夾雑物S2が堆積する余地が無いようにした、改良型の伏越し構造を創出して、実施している。すなわち図11に示すように、この改良型の伏越し構造は、上流側下水管502を上流側のマンホール504の底面に連通し、流入する下水を、この上流側のマンホールの底面に設けたU字断面の導流溝に流し、この導流溝の出口に、伏越し管501を連通させる。そして上流側下水管502と、下流側下水管503とに、ΔHの伏越し落差を付ける。伏越し管501は、ベント管であって、上流側のマンホール504から下方に傾斜する下向流部511と、河川の底を横断する水平流部512と、下流側のマンホール503に向って上方に傾斜する上向流部513とから構成している。
【0008】
したがって上流側下水管502からの下水量が多い場合は、上流側のマンホール504内に、比重の軽い浮遊性夾雑物S1や沈降性夾雑物S2が流入しても、これらの夾雑物は、この上流側のマンホール内に堆積する余地が少ないため、そのまま伏越し管501の下向流部511に流出する傾向にある。
【0009】
また伏越し管の勾配や上流側マンホールの直径に工夫したり、下流側マンホール内にポンプを設けて、補助的に下水を汲み上げたりする等の手段が提案されている(特許文献1参照。)。あるいは河川等を挟んだ上流側の下水路に貯水部分を設け、ある程度水が溜まった後に、この貯水を一度に流すことによって、下水量が減少した場合に、下水の流下力を増強する手段が提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−52512号公報(2―5頁、図1、2)
【特許文献2】特開2005−126941号公報(2―13頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、この改良型の伏越し構造では、図12に示すように、伏越し管501の下向流部511内の水面に、比重の軽い浮遊性夾雑物S3が浮遊集積し、底部には、比重の重い沈降性夾雑物S4が堆積するという、更なる改良すべき点があることが判明した。すなわち下水流量が少ない場合には、下水の流下力が低下して十分に夾雑物を押し流すことができず、これらの夾雑物が伏越し管501内に堆積する傾向がある。
【0011】
また上記「特許文献1」の手段では、下水流量が少ない場合には、上述した改良型の伏越し構造と同様に、浮遊性夾雑物の浮遊集積や、沈降性夾雑物の沈殿堆積を防止することは困難であり、汲み上げポンプの使用は、設置費用や電力費用が必要となる。さらに上記「特許文献2」の手段では、貯水部の建設や貯水部を間歇的に開閉する機構が必要となる。
【0012】
そこで本発明の目的は、下水自体の速度エネルギーと位置エネルギーとを有効利用することによって下水の流下力を増大させ、下水流量が少ない場合でも、夾雑物が堆積することを防止できる下水管の伏越し構造を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明による下水管の伏越し構造の特徴は、河川や地下道等の障害物を挟んで位置する上流側下水管及び下流側下水管と、この障害物の下を潜り抜けるベント管と、このベント管の入口に位置する上流側マンホールとを備えている。上記上流側下水管は、傾斜する上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で上記ベント管の入口に連通し、このベント管の出口は、上記下流側下水管に連通している。そして上記上流側導水管は、上記上流側マンホール内において、上記上流側下水管と上記ベント管の入口とにそれぞれ着脱自在であることにある。なお上記ベント管と下流側下水管とを、外部から密閉した状態で連通させてもよい。
【0014】
すなわち、従来の下水管の伏越し構造では、図9〜図12に示すように、上流側のマンホール404、504内と、下流側のマンホール405、505内とは、共に大気圧力に開放されているため、上流側のマンホール404内、あるいはベント管501の下向流部511内の水面位置は、ほぼ下流側下水管403、503での水面の高さ位置となる。そして上流側下水管402、502から、上流側のマンホール404またはベント管501の下向流部511内に下水が流れ込むと、この上流側のマンホール内または下向流部内の水位が少し上がり、その僅かな水位差によって、下水が伏越し管401やベント管501を介して下流側に流れていく。
【0015】
すなわちこのような大気開放型の従来構造においては、上流側下水管402、502内を、ある程度の速度で流れる下水の速度エネルギーは、この大気開放の上流側のマンホール404、504で遮断されて、伏越し管401やベント管501内に供給されない。また上流側のマンホール404またはベント管501の下向流部511内の水位は、ほぼ下流側下水管403、503での水面の高さ位置となるために、ΔH分の伏越し落差が、有効に利用できない。
【0016】
そこで本願発明のように、上流側下水管と伏越し管とを、上流側のマンホール404、504において大気開放せずに、傾斜する上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で連通させると、上流側下水管402、502内を流れる下水の速度エネルギーは、そのまま伏越し管401やベント管501内に供給され、後述するように、さらにこれらの上流側下水管内と、下流側下水管403、503内との伏越し落差:ΔHを、位置エネルギーとして、そのまま有効利用することができる。したがって、本願発明の密閉型の伏越し構造を採用することによって、下水の速度エネルギーと、位置エネルギーとの双方を有効利用することで、下水の流下力を増大させ、これによって夾雑物が堆積することが防止できる。
【0017】
ここで「ベント管」とは、上流側下水管と下流側下水管とを連通させる伏越し管であって、下降する下向流部と、ほぼ水平な水平流部と、上昇する上向流部とからなる、略Uの字型の下水管を意味する。なお橋桁等を迂回するために、ベント管を水平方向に曲げる場合には、夾雑物が堆積し難くなるように、水平流部において、できるだけ緩やかな曲率で曲げる。また「上流側マンホール」とは、上流側下水管とベント管との連通部に位置するマンホールを意味し、その形状は問わないが、足掛け金物のない、断面形状が楕円のものが好ましい。
【0018】
また「傾斜する上流側導水管」とは、高位置にある上流側下水管と、低位置にあるベント管の入口とを、斜めに連結する管部材を意味し、その材質や、密閉して連結する手段は問わない。例えば錆び難いステンレス材や合成樹脂等を、クランプやフランジ等で上流側下水管とベント管の入口とを連結する場合が該当する。すなわち上流側下水管とベント管とを、外部から密閉した状態で着脱自在に連結する上流側導水管を設けることによって、ベント管の清掃及び補修等の保守・点検が、さらに容易になる。
【0019】
上記上流側導水管の出口の底面位置は、上記ベント管の出口と下流側下水管との連通部の底面位置と、ほぼ同一の高さにしてあり、この上流側導水管の入口位置と出口位置との高低差は、伏越し落差とほぼ同一にするのが望ましい。
【0020】
また上記上流側導水管は、この上流側導水管への下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減するものからなることが望ましい。
【0021】
すなわち図5に示すように、塩化ビニール管等のような、ある程度の剛性を有する管からなる上流側導水管206を用いると、下水の水量が大きく減った場合には、この上流側導水管内の流路が下水で充填されず、この上流側導水管内の出口近傍に水面が形成され、いわゆる伏越し落差:ΔHの位置エネルギーを有効利用できなくなる。一方図6に示すように、下水の流入量の減少に応じて、流路面積も減少する上流側導水管6を用いると、下水の流入量が減少しても、この上流側導水管内の流路が下水で充填されるので、伏越し落差:ΔHの位置エネルギーを有効利用することができる。
【0022】
ここで「下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減する上流側導水管」としては、例えば合成樹脂繊維からなる不織布製等のホースや、塩化ビニール製のパイプの下半分と、合成樹脂繊維からなる不織布製等のホース上下半分とを、接合したものが該当する。このように上流側導水管自体、またはその円周の一部に、内圧が低下すると、容易に緊迫力が失われて凹む布等を用いることによって、下水の流入量が増減すると、その増減に応じて、流路面積を増減させることができる。
【0023】
上記ベント管は、上流側から順に、下方に傾斜する下向流部と、ほぼ水平な水平流部と、上方に傾斜する上向流部とを備え、この上向流部の底面であって、この上向流部の最下端から、少なくともこの上向流部の管径分だけ離れた位置に、この部分に堆積する堆積物の採取管を連通し、この採取管には、この上向流部との連通部分の近傍に、空気を圧入する空気管を連通させるようにすることが望ましい。
【0024】
すなわち本願発明では、上述したように、上流側の下水の速度エネルギーと位置エネルギーとを有効利用することによって、下水の流下力を増大させ、これによって夾雑物が堆積することを防止しているが、さらに加えて夾雑物の堆積の有無が点検できれば、事前に清掃を行うことによって、下水管の閉塞を更に確実に防止できる。本願発明においては、夾雑物の堆積が最初に生じる場所は、ベント管の水平流部と上向流部との屈曲した連結部と想定される。そこでこの部分に堆積物の採取管を連通し、この採取管に空気管から空気を圧入することによって、採取した堆積物を、この採取管の出口に浮上させることにより、堆積物の有無を適宜かつ容易に点検することができる。
【0025】
ところで河川等の障害物の下を潜る長大な伏越し管は、点検や清掃あるいは補修等に、長期間が必要になる場合が多いため、通常2本以上の複数本を併設する。図11〜図12に示した、改良型の従来構造では、上流側マンホール504の底面に、途中で二股に分かれるY字型の導流溝を設け、この二股に分かれた導流溝の出口部に、2条管のそれぞれのベント管を連結する。そして二股に分かれた導流溝のそれぞれには、仕切り弁等が設けてある。
【0026】
通常は、二股に分かれた導流溝の一方の仕切り弁を開き、他方の導流溝の仕切り弁を閉じておくことによって、この仕切り弁を開いた一方の導流溝に連結したベント管を使用する。そしてこの一方のベント管の清掃や補修が必要になった場合には、仕切り弁の開閉を逆にして、他方のベント管を使用する。しかるにこのような従来構造は、大気開放型であって、上述したように上流側の下水の速度エネルギーと位置エネルギーとを有効利用できない。
【0027】
そこで本願発明による下水管の伏越し構造では、上記ベント管は、2条管であって、このベント管の出口に位置する下流側マンホールを備えている。また上記上流側下水管と上記2条管のそれぞれの条管とは、上記上流側マンホール内において、それぞれの上記上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で交互に着脱自在に連結可能になっている。さらに上記2条管のそれぞれの条管と上記下流側下水管とは、上記下流側マンホール内において、それぞれの下流側導水管を介して、交互に着脱自在に連結可能になっている。
【0028】
ここで上流側導水管と下流側導水管とは、2条管のそれぞれの条管に連結するために、それぞれ相異なる2種類のものである場合に限らず、上流側導水管と下流側導水管とに、それぞれ曲げたり伸ばしたりすることが可能な、フレキシブルなホース等を使用することによって、1種類にすることも可能である。
【発明の効果】
【0029】
ベント管と少なくとも上流側下水管とを密閉した状態で連通させることによって、下水の速度エネルギーと、位置エネルギーとの双方を有効利用することができる。これによって下水の流下力を増大させ、夾雑物が堆積することが防止できる。また上流側下水管とベント管とを、上流側導水管によって、上流側マンホール内において着脱自在に連結することにより、ベント管の清掃及び補修等の保守・点検が容易になる。
【0030】
上流側導水管の出口の底面位置を、ベント管の出口と下流側下水管との連通部の底面位置とほぼ同一の高さにして、この上流側導水管の入口位置と出口位置との高低差を、伏越し落差とほぼ同一の高さにすることによって、上流側下水管と下流側下水管との間に十分な位置エネルギー差を設け、これによってベント管内における下水の流下力を増大させ、夾雑物が堆積することが防止できる。また上流側導水管を、下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減するものにすることによって、下水の流入量が減少しても、水面位置がベント管内に低下することを回避して、伏越し落差による位置エネルギーを有効利用することができる。
【0031】
ベント管の上向流部の近傍に採取管を設け、圧入空気によって堆積物を浮上させることによって、堆積物の有無の点検が容易になり、事前に清掃を行うことにより下水管の閉塞を確実に防止できる。また2条管からなるベント管のそれぞれに、上流側下水管と下流側下水管とを、それぞれの上流側導水管と下流側導水管とによって、交互に密閉状態でかつ着脱自在に連結可能とすることによって、2条管からなるベント管の清掃及び補修等の保守・点検が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1〜図4を参照しつつ、本発明による下水管の伏越し構造の具体例を説明する。図1は、河川の下を潜り抜ける下水管の伏越し構造の断面を示しており、ここの河川を挟んで位置する上流側下水管2と下流側下水管3とに、ベント管1が連通している。上流側下水管2とベント管1の入口との連通部には、上流側マンホール4が設けてあり、このベント管の出口と下流側下水管3との連通部には、下流側マンホール5が設けてある。なおベント管1は、上流側から順に、下方に傾斜する下向流部11と、ほぼ水平な水平流部12と、上方に傾斜する上向流部13とから構成されている。
【0033】
また上流側下水管2とベント管1の入口とは、上流側導水管6によって、外部から密閉状態で連結してあり、同様に、このベント管の出口と下流側下水管3とは、下流側導水管7によって、外部から密閉状態で連結してある。なお上流側導水管6の出口の底面位置、すなわちベント管1の入口との連結位置における底面位置は、このベント管1の出口と下流側下水管3が連通する底面位置、すなわち、下流側マンホール5の中央部底面と、ほぼ同一高さに設定してある。また上流側導水管6の入口の底面位置、すなわち上流側下水管2と連通する底面位置と、この上流側導水管の出口底面位置、すなわちベント管1の入口と連通する底面位置との高低差は、伏越し落差とほぼ同一、またはそれよりやや小さく設定してある。
【0034】
図1と図2とに示すように、上流側マンホール4は、コンクリート製の円筒形、楕円筒形、あるいは四角筒形からなり、上部は地表に開口し、この開口部は蓋(図示せず。)で覆われている。また底面には、Uの字状の断面をした導流溝43が、傾斜を付けて設けてある。この傾斜は、導流溝43の上端と下端との高低差が、伏越し落差とほぼ同一、またはそれよりやや小さくなる傾きになっている。導流溝43の上端と下端とは、それぞれ上流側マンホール4に設けた貫通穴41、42に連通している。貫通穴41、42には、それぞれ上流側下水管2とベント管1の入口とが挿入され、これらの端部と入口とに、それぞれクランプ8、8によって、上流側導水管6の両端部が、外部から密閉状態で連結してある。なお上流側導水管6の外側底面は、Uの字状の導流溝43の底に係止されている。
【0035】
上流側導水管6は、下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減する断面積可変管を使用している。この断面積可変管の具体的な構成を、図3〜図4に示す。すなわち流入する下水量が、大幅に減少すると想定される場合には、図3に示すように、上流側導水管6に、伸縮しない気密性の不織布からなるホース61を使用し、両端部に塩化ビニール製のフランジ部62、63を取り付ける。フランジ部62、63は、上流側マンホール4内において、上流側下水管2とベント管1の入口とに、クランプ8、8によって着脱自在になっている。
【0036】
流入する下水量が、あまり減少しないと想定される場合には、図4に示すように、上流側導水管106に、上半分が伸縮しない気密性の不織布からなるホースの半割り部分161を使用し、下半分に塩化ビニール製の半割り部分164を使用したものを使用する。なお両端部には、塩化ビニール製のフランジ部162、163を取り付ける。フランジ部162、163は、上流側マンホール4内において、上流側下水管2とベント管1の入口とに、クランプ8、8によって着脱自在になっている。
【0037】
なお、下流側マンホール5内で、着脱自在の下流側導水管7は、断面積が一定の塩化ビニール製のパイプを使用する。
【0038】
また上述した断面積可変管からなる上流側導水管6、106の長さを延長すると共に、上流側下水管2内に挿入嵌合可能な直径にして、この上流側下水管内のさらに上流の位置まで挿入することも効果的である。すなわち下水の水量が減少した場合には、図6に示す上流側下水管2内の水面位置が、この上流側下水管内のさらに上流の位置に移動するために、有効利用できる位置エネルギー:ΔHが増加し、これによって下水の流下力を増大させることができる。
【0039】
さて図7に示すように、ベント管1の上向流部13の底面であって、その最下端から、やや上向方向に離れた位置に設けた開口孔91aに、堆積物の採取管91の一端が連通している。また採取管91には、上向流部13との連通箇所から少し離れた位置に設けた開口孔92aに、空気を圧入する空気管92の一端が連通している。なお上向流部13の水平線に対する角度:θが45度以上の場合には、開口孔91aの中心と、この上向流部の最下端との距離:Lは、この上向流部の管径:Dの1/3以上であることが望ましい。またθが45度未満の場合に
は、距離:Lは、管径:D以上であることが望ましい。これらの位置に、夾雑物が堆積し易いからである。
【0040】
採取管91と空気管92との他端部は、共にそれぞれ地表に設けた計測室93内につながっており、この空気管の他端部には、電動式又は手動式のコンプレッサーからの加圧空気を導入可能になっている。すなわちこれらの機材によって、堆積物の点検装置9が構成される。なお計測室93を、下流側マンホール5内に設けてもよい。
【0041】
さて空気管92の他端部から、コンプレッサーからの加圧空気を導入すると、採取管91に設けた開口孔92aから空気が入り、この採取管内を沫となって上昇する。そしてこの上昇する空気の沫に引き付けられて、上向流部13に設けた開口孔91aから堆積物S5が吸い込まれ、この空気の沫と共に採取管91内を上昇し、計測室93内に位置する採取管91の他端部に浮出る。そこで、この浮出た沫に堆積物が混入しているか否かを点検することによって、容易に上向流部13内の堆積物S5の有無を調べることができる。
【0042】
なおベント管1が小口径の場合には、空気管92を介して、加圧空気を上向流部13に導入することによって、堆積物S5をこの上向流部内で浮遊させて、除去、清掃することも可能である。
【0043】
図8に、ベント管が2条管301A,301Bからなる場合の、下水管の伏越し構造を示す。図8の(A)は、2条管のうち一方のベント管301Aを使用し、他方のベント管301Bを予備とした場合を示している。なお一方のベント管301Aは、上述した方法によって、上流側マンホール304内において、上流側導水管306Aによって、上流側下水管302と密閉状態に連結してある。また同様に、下流側マンホール305内において、下流側導水管307Aによって、下流側下水管303と密閉状態に連結してある。
【0044】
図8の(B)は、上述した一方のベント管301Aを、点検、清掃、あるいは補修等する際に、予備としていた他方のベント管301Bを使用する場合を示している。すなわち上流側マンホール304内と下流側マンホール305内とにおいて、それぞれ上流側導水管306Aと下流側導水管307Aとを、クランプ308を緩めてとり外し、別の上流側導水管306Bと下流側導水管307Bとを、上流側下水管302、予備にしていた他方のベント管301B、及び下流側下水管303に、それぞれクランプ308によって連結する。
【0045】
したがって予備のベント管に切替える場合は、上下流側のマンホール内で、上下流側導水管をそれぞれ交換するだけで足りるため、容易かつ短時間に切替作業を行なうことが可能となる。なお上流側導水管と下流側導水管とに、それぞれ曲げたり伸ばしたりすることが可能な、フレキシブルなホース等を使用すれば、上流側導水管と下流側導水管とを、上流側下水管302と下流側下水管303から取り外すことなく、一方のベント管301Aから他方のベント管301Bに切替えることが可能となる。
【0046】
なお上述した下水管の伏越し構造は、主に分流式の下水管に適するものであるが、この分流式に限らず雨水等との合流式の下水管にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
下水管の敷設に関わる部品や装置の製造、及び土木工事等に関する産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】下水管の伏越し構造の概略断面図である。
【図2】上流側マンホール部分の一部拡大断面図である。
【図3】断面積可変管からなる上流側導水管の斜視図である。
【図4】断面積可変管からなる他の上流側導水管の斜視図である。
【図5】下水量が減少した場合の、断面積が変化しない上流側導水管内の水面位置を示す概略断面図である。
【図6】下水量が減少した場合の、断面積可変管からなる上流側導水管内の水面位置を示す概略断面図である。
【図7】ベント管の堆積物を点検する手段を示す概略断面図である。
【図8】2条管からなるベント管の切替方法を示す上面図である。
【図9】従来例による下水管の伏越し構造の概要を示す断面図である。
【図10】従来例による上流側マンホール部分を示す一部拡大断面図である。
【図11】改良型の従来例による下水管の伏越し構造の概要を示す断面図である。
【図12】改良型の従来例による上流側マンホール部分を示す一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1、301〜501 ベント管(伏越し管)
11、511 下向流部
12、512 水平流部
13、513 上向流部
2、202〜502 上流側下水管
3、303〜503 下流側下水管
4、204〜504 上流側マンホール
5、305〜505 下流側マンホール
6、106〜306 上流側導水管
7、307 下流側導水管
8 クランプ
9 堆積物の点検装置
91 堆積物の採取管
92 空気管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川や地下道等の障害物を挟んで位置する上流側下水管及び下流側下水管と、この障害物の下を潜り抜けるベント管と、このベント管の入口に位置する上流側マンホールとを備え、
上記上流側下水管は、傾斜する上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で上記ベント管の入口に連通しており、
上記ベント管の出口は、上記下流側下水管に連通しており、
上記上流側導水管は、上記上流側マンホール内において、上記上流側下水管と上記ベント管の入口とにそれぞれ着脱自在である
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項2】
請求項1において、上記上流側導水管の出口の底面位置は、上記ベント管の出口と下流側下水管との連通部の底面位置と、ほぼ同一の高さにしてあり、
上記上流側導水管の入口位置と出口位置との高低差は、伏越し落差とほぼ同一にしてある
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、上記上流側導水管は、この上流側導水管への下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減するものからなる
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの1において、上記ベント管は、上流側から順に、下方に傾斜する下向流部と、ほぼ水平な水平流部と、上方に傾斜する上向流部とを備え、
上記上向流部の底面であって、この上向流部の最下端から、少なくともこの上向流部の管径分だけ離れた位置には、この部分に堆積する堆積物の採取管が連通し、
上記採取管には、上記上向流部との連通部分の近傍に、空気を圧入する空気管が連通する
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの1において、上記ベント管は、2条管であって、
上記ベント管の出口に位置する下流側マンホールを備え、
上記上流側下水管と上記2条管のそれぞれの条管とは、上記上流側マンホール内において、それぞれの上記上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で交互に着脱自在に連結可能であって、
上記2条管のそれぞれの条管と上記下流側下水管とは、上記下流側マンホール内において、それぞれの下流側導水管を介して、交互に着脱自在に連結可能である
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項1】
河川や地下道等の障害物を挟んで位置する上流側下水管及び下流側下水管と、この障害物の下を潜り抜けるベント管と、このベント管の入口に位置する上流側マンホールとを備え、
上記上流側下水管は、傾斜する上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で上記ベント管の入口に連通しており、
上記ベント管の出口は、上記下流側下水管に連通しており、
上記上流側導水管は、上記上流側マンホール内において、上記上流側下水管と上記ベント管の入口とにそれぞれ着脱自在である
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項2】
請求項1において、上記上流側導水管の出口の底面位置は、上記ベント管の出口と下流側下水管との連通部の底面位置と、ほぼ同一の高さにしてあり、
上記上流側導水管の入口位置と出口位置との高低差は、伏越し落差とほぼ同一にしてある
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、上記上流側導水管は、この上流側導水管への下水の流入量の増減に応じて、その流路面積が増減するものからなる
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの1において、上記ベント管は、上流側から順に、下方に傾斜する下向流部と、ほぼ水平な水平流部と、上方に傾斜する上向流部とを備え、
上記上向流部の底面であって、この上向流部の最下端から、少なくともこの上向流部の管径分だけ離れた位置には、この部分に堆積する堆積物の採取管が連通し、
上記採取管には、上記上向流部との連通部分の近傍に、空気を圧入する空気管が連通する
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの1において、上記ベント管は、2条管であって、
上記ベント管の出口に位置する下流側マンホールを備え、
上記上流側下水管と上記2条管のそれぞれの条管とは、上記上流側マンホール内において、それぞれの上記上流側導水管を介して、外部から密閉した状態で交互に着脱自在に連結可能であって、
上記2条管のそれぞれの条管と上記下流側下水管とは、上記下流側マンホール内において、それぞれの下流側導水管を介して、交互に着脱自在に連結可能である
ことを特徴とする下水管の伏越し構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−163622(P2008−163622A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353634(P2006−353634)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(598003829)株式会社東京設計事務所 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(598003829)株式会社東京設計事務所 (3)
【Fターム(参考)】
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