説明

下水管路の補修方法

【課題】下水管路に対して、十分な耐久性をもたらすことのできる補修方法を提供する。
【解決手段】下水管路100が埋設された領域の地盤120を開削して下水管路100を補修する下水管路の補修方法において、補修対象の下水管路100の外表面を被覆部材1で被覆する下水管路被覆工程、被覆された下水管路100を埋め戻す前または後に被覆された下水管路100の外表面と被覆部材1との隙間の全域に硬化性材料mを充填する材料充填工程を含む。これにより、下水管路100、特に下水管路100の連結部分に作用する荷重が大幅に減少することから、下水管路100の経年劣化の進行を抑制し、かつ下水管路100の破損の発生を抑制することができ、耐用期間の長い下水管路100を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管路の補修方法、特に、地盤に埋設されて静荷重や活荷重、繰り返し荷重等に晒される下水管路の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の下水道普及率はおよそ70%であり、都市部では、ほぼ100%に近い普及率である。従って、老朽化した下水管路の維持管理が重要なものとなっている。下水管路の総延長は約40万kmであり、かかる下水管路のうち耐用年数50年を越えた下水管路は7000km以上となっている。また、今後、年間数千kmずつ増加する見込みである。
【0003】
このような下水管路は、下水から発生した硫化水素等の有害な酸化物質による腐食で劣化し、その結果破損することがある。また、設置からの年数の経過に伴って、土圧による静荷重、重量車両が地表面を走行することに起因する活荷重や繰り返し荷重等による影響によって様々な変形、例えば、ズレによる段差及び破損、径の変化が発生することがある。ここで、下水管路がズレたり破損等した場合に生じる不具合について、図10を用いて説明する。
【0004】
図示のように、下水管路100は、下水道本管102、及び一般家庭110の排水を排水路112を介して集水する集水桝104、取付管106を備える。取付管106は、下水道本管102と集水桝104とを連結して、一般家庭110の排水を下水道本管102に流下している。この下水管路100は、車両の走行する一般道路の直下に埋設されていることが多く、車両の通行による活荷重や繰り返し荷重の作用を多大に受けることとなる。その結果、取付管106と下水道本管102との連結部分B1や、集水桝104と取付管106との連結部分B2、及び取付管106を構成する管同士の連結部分B3等において、管同士のズレや破損が発生しやすい。このようなズレや破損が発生した場合に、雨水や地下水等によって地盤120が緩むと、雨水や地下水は取付管106の外表面に沿って取付管106の下方向に向かって流れ、ズレや破損が生じた連結部分B1〜B3から、地盤120中の土砂が地下水や雨水とともに取付管106あるいは下水道本管102に流入して地盤中の土砂が流失し、取付管106の周域の地盤120に空洞Sが発生することとなる。このような状況をそのまま放置しておくと空洞Sが大きくなり、地盤沈下や道路陥没等を引き起こす可能性が生じる。そこで、従来から、地盤を開削して下水管路を補修する方法が広く実施されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−269935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地盤を開削して下水管路を補修する方法を用いた場合、その領域の環境は従前の環境のままであることから、上記の繰り返し荷重や静荷重、活荷重によって、再度、下水管路のズレや破損等が発生する可能性がある。特に、重量車両の通行量が多い幹線道路等の直下に埋設される下水管路では、耐用期間の経過前であっても、上記の荷重によってズレや破損が発生することも多く、これらの荷重等に対して耐久性のある下水管路の補修方法が要望されているところである。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、下水管路に対して、十分な耐久性をもたらすことのできる、開削による下水管路の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明による下水管路の補修方法は、下水管路が埋設された領域の地盤を開削して前記下水管路を補修する下水管路の補修方法において、補修対象の下水管路の外表面を被覆部材で被覆する下水管路被覆工程と、前記被覆された下水管路を埋め戻す前または後に前記被覆された下水管路の外表面と前記被覆部材との隙間の全域に硬化性材料を充填する材料充填工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、下水管路の外表面と下水管路を覆った被覆部材との隙間の全域に硬化性材料を充填することから、下水管路の外表面側に新たな層を形成することができる。従って、下水管路の強度、特に、破損しやすい連結部分を増強することができる。これにより、被覆部材で被覆する下水管路が工場から出荷された新設の管であれば、下水管路の強度、特に、破損しやすい連結部分が増強されることによって下水管路の破損が防止される。一方、被覆部材で被覆する下水管路が、分解洗浄等のためにいったん撤去した後に改めて設置し直した下水管路であれば、破損箇所を修復しつつ管の接合強度の増強を行うことができる。その結果、静荷重や活荷重、繰り返し荷重等の影響による下水管路の経年劣化の進行を抑制し、下水管路の破損の発生を抑制することができる。更に、埋設した後のその領域の環境が従前の環境のままであっても、耐用期間の長い下水管路を得ることができることから、下水管路が埋設された地盤内において空洞が発生することを効果的に防止することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1に記載の下水管路の補修方法において、前記下水管路は、集水桝と下水道本管とを連結する取付管を含み、前記下水管路被覆工程では、前記取付管の所定範囲を被覆することを特徴とする。
【0011】
一般に、複数の管が連結して構成される取付管は、下水管路が地中で受ける荷重によって破損しやすい脆弱な部分であることから、この構成では、取付管の外表面の所定範囲を被覆することで、硬化性材料を充填して下水管路の脆弱な部分を積極的に補修することができる。従って、取付管の破損を効果的に防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1または2に記載の下水管路の補修方法において、前記下水管路被覆工程では、前記被覆部材は筒状体にて構成され、前記補修対象の下水管路を前記筒状体被覆部材にて被覆しつつ地中に設置していくことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、被覆部材を予め筒状体として形成しておくことで、下水管路を設置しつつ被覆部材で下水管路を簡易に被覆していくことができる。従って、下水管路の設置完了とともに被覆部材による被覆も完了することができ、作業負担の軽減を図ることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1または2に記載の下水管路の補修方法において、前記下水管路は、一端が集水桝に連結された取付管の他端が連結される下水道本管を含み、前記下水管路被覆工程では、前記取付管の前記下水道本管に連結する部分を含む所定範囲及び前記下水道本管の前記取付管が連結された部分を含む所定の長さ範囲を前記被覆部材で被覆することを特徴とする。
【0015】
複数の管が連結して構成される取付管のみならず、取付管と下水道本管との連結部分は、下水管路が地中で受ける荷重によって破損しやすい脆弱な部分であることから、この構成では、下水道本管と取付管との連結部分を被覆部材で被覆することで、この連結部分にも硬化性材料を充填して下水管路の脆弱な部分を積極的に補修することができる。従って、連結部分の破損を効果的に防止することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1に記載の下水管路の補修方法において、前記下水管路は、他端が前記下水道本管に連結された取付管の一端が連結される集水桝を含み、前記下水管路被覆工程では、前記集水桝の前記取付管が連結された部分を含む下部範囲を前記被覆部材で被覆することを特徴とする。
【0017】
複数の管が連結して構成される取付管、及び取付管と下水道本管との連結部分のみならず、取付管と集水桝との連結部分も下水管路が地中で受ける荷重によって破損しやすい脆弱な部分であることから、この構成では、取付管と集水桝との連結部分を被覆部材で被覆することで、これらの部分にも硬化性材料を充填して下水管路の脆弱な部分を積極的に補修することができる。従って、これらの部分の破損を効果的に防止することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法において、前記被覆部材の内側面に、前記下水管路の外表面と前記被覆部材との隙間を確保するための突起状のスペーサを設けたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、被覆部材を下水管路に被覆すると、被覆部材の内側面に突起状のスペーサが設けられていることから、スペーサが設けられた位置において下水管路の外表面と被覆部材との隙間が的確に確保される。従って、被覆部材で被覆した下水管路の全域において、硬化性材料の充填密度を偏りなくほぼ一定にすることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法において、前記下水管路被覆工程で、前記下水管路に被覆された被覆部材の下方側端部にて前記下水管路との隙間を閉塞し、前記材料充填工程で、前記被覆部材の上方側端部から前記硬化性材料を充填することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、被覆部材の上方側端部を開放した状態で下方側端部を閉塞することから、硬化性材料を、下水管路の外表面と被覆部材との間で漏洩することなく、被覆部材の上方側端部から容易に注入することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法において、前記硬化性材料として、硬化後に弾力性を有する発泡性の発泡材料を用いたことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、発泡材料は硬化すると弾力性を有することから、地中において下水管路の外表面から下水管路に直接的に作用する荷重を効率的に緩衝して吸収することができ、下水管路の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0024】
請求項9に記載の発明による下水管路の補修方法は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法において、前記被覆部材として、前記発泡材料に対して非浸透性でかつ水に対して浸透性を有する布材を用い、前記硬化性材料として、水発泡性の発泡材料を用いることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、被覆部材として発泡材料に対して非浸透性でかつ水に対して浸透性を有する布材を用い、硬化性材料に水で発泡する発泡材料を用いることから、被覆部材として用いられる布材から水を浸透させることで、下水管路と被覆部材との間において発泡材料を容易に発泡させることができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、下水管路の外表面側に新たな層を形成することで、下水管路の強度、特に、連結部分を補強することができ、耐久性の向上が図られ、下水管路の破損の発生や経年劣化の進行を抑制することができる。従って、埋設された下水管路の周囲の土砂等が下水管路内に流入することが長期的にかつ的確に抑制される。その結果、下水管路が埋設された地盤内において空洞が発生することを防止することができる。ひいては、地盤沈下や道路陥没等の発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る下水管路の補修方法によって下水管路が補修された状態の概略を説明する図である。
【図2】同じく、本実施の形態に係る下水管路の補修方法の工程の概略を説明する図である。
【図3】同じく、本実施の形態に係る下水管路の補修方法によって、被覆部材を取付管に被覆した状態を説明する図である。
【図4】同じく、本実施の形態に係る下水管路の補修方法に用いる連結部補修部材の概略を説明する図である。
【図5】同じく、本実施の形態に係る下水管路の補修方法に用いる本管補修部材の概略を説明する図である。
【図6】同じく、本実施の形態に係る下水管路の補修方法によって、被覆部材を下水道本管と取付管との連結部分に被覆した状態を説明する図である。
【図7】同じく、本実施の形態に係る下水管路の補修方法によって、硬化性材料を充填する工程の概略を説明する図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る下水管路の補修方法の概略を説明する図である。
【図9】同じく、本発明の他の実施の形態に係る下水管路の補修方法の概略を説明する図である。
【図10】下水管路の破損等によって生じる不具合の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について、図1〜7に基づいて説明する。なお、図1〜図7において、図10と同様の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。また、本実施の形態において、下水道本管、集水桝、取付管によって下水管路が構成されている場合を例にとって説明する。
【0029】
図1は、本実施の形態に係る下水管路の補修方法によって、下水管路100及びその連結部分が補修された状態の概略を説明する図である。図示のように、下水管路100は、その外表面が不織布で形成された被覆部材1によって被覆されている。すなわち、本実施の形態では、下水道本管102と取付管106との連結部分B1、取付管106の全域、取付管106と集水桝104との連結部分B2が被覆部材1によって被覆されている。これにより、下水管路100と被覆部材1との間に隙間が形成される。
【0030】
この隙間の全域に亘って、地盤120を汚染することのない流動性のある硬化性材料、本実施の形態では水と反応して発泡する発泡材料、例えば発泡ポリウレタン等の材料が充填される。そして、この発泡材料が水に反応して硬化して、発泡材Mが成形されることによって、下水道本管102と取付管106との連結部分B1、取付管106の全域、取付管106と集水桝104との連結部分B3を含む下水管路100が補修されている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る下水管路の補修方法の工程について説明する。本実施の形態では、図10で示したように、下水道本管102と取付管106の連結部分B1、集水桝104と取付管106の連結部分B2、及び取付管106を構成する管同士の連結部分B3に、ズレが発生している。これらズレが発生した連結部分B1〜B3から地盤120中の土砂が雨水や地下水とともに取付管106あるいは下水道本管102に流入して地盤120中の土砂が流失し、取付管106の周域の地盤120に空洞Sが発生している。
【0032】
まず、所定の時期に、下水管路100の現状把握調査を行う。すなわち、集水桝104と取付管106の連結部分B2を目視して、集水桝104と取付管106の連結部分B2のズレの有無を確認する。集水桝104と取付管106の連結部分B2のズレを確認した場合、取付管106の他の箇所にもズレや破損が発生していることが予測されることから、カメラ付きの公知の管路内面調査機を集水桝102から取付管106内に導入して、下水管路100のズレや破損を調査する。その後、レーダによって地盤120中の空洞の有無を調査する公知の空洞調査機を、同じく集水桝102から取付管106内に導入して、地盤120中の空洞発生の有無を調査する(下水管路調査工程)。
【0033】
調査の結果、下水道本管102と取付管106の連結部分B1及び取付管106を構成する管同士の連結部分B3のズレ、及び地盤120中に空洞Sが発生していることを確認する。この調査の結果に基づいて、既設の取付管106を除去して工場から出荷された新たな取付管106を設置する必要があると判断した場合、あるいは既設の取付管106を一度撤去してこの取付管106を構成していた管を用いて改めて構築し直す必要があると判断した場合は、取付管106が埋設された領域の地盤120の開削工事を決定する(開削工事決定工程)。
【0034】
開削工事の決定に基づいて、取付管106が埋設された領域の地盤120を掘削機等の重機によって開削工事を行う。この地盤開削は、地盤120に埋設された取付管106の全域及び取付管106が連結している部分を含んだ下水道本管102が外部に露出するまで行う(地盤開削工程)。この開削によって、地盤120中の空間Sが消滅する。
【0035】
その後、既設の取付管106を除去して工場で製造された新たな取付管106を設置する、あるいは既設の取付管106を一度撤去してこの取付管106を構成していた管を用いて改めて構築し直す。本実施の形態では、既設の取付管106を除去して工場から出荷された新たな取付管106を新設する場合を例として説明する。
【0036】
まず、既設の取付管106を構成する管同士の連結を解除して、取付管106を除去する。その後、新たな取付管106の設置を行う。この新たな取付管106の設置に伴って、被覆部材1を、取付管106を含む下水管路100に被覆していく(下水管路被覆工程)。この被覆部材1は、厚さ5mm〜10mm程度のポリプロピレン製の不織布であって、通気性を良好に確保できるとともに水分に対しては浸透性を有し、発泡材料に対しては非浸透性を有する。なお、被覆部材1は不織布に限られず、厚さ1〜2mm程度で通気性の良好なフェルト布等、可撓性のある薄布であればよい。
【0037】
この下水管路被覆工程を、図2〜図6に基づいて説明する。図2は、本実施の形態に係る下水管路の補修方法によって取付管106を設置しつつ被覆部材1を下水管路100に被覆していく工程の概略を説明する図である。被覆部材1による被覆に先立って、スペーサ20を被覆部材1の内側面において一様に分布するように設けておく。このスペーサ20は、本実施の形態では円柱状に突起するゴム製であるが、形状や材質はこれに限定されるものではない。例えば、取付管106の延伸方向に亘って延在する棒状に形成されたスペーサであってもよい。
【0038】
図2に示すように、まず、集水桝104の下部範囲を被覆部材1で被覆する。本実施の形態では、この部分を被覆する被覆部材1は、桝補修部材11を用いる。まず、排水路112における集水桝104に連結する側の端部の外表面を桝補修部材11で被覆して集水桝104と排水路112の連結部分B4を被覆しつつ、排水路112の端部の外表面とこの部分を被覆する桝補修部材11の端部とを帯状体、本実施の形態ではベルト22によって締結して閉塞する。
【0039】
一方、取付管106を被覆する被覆部材1は、本実施の形態では、取付管補修部材10を用いる。まず、取付管106の全域を被覆する取付管補修部材10を不織布で筒状に形成し、筒状に形成した取付管補修部材10を軸方向に予め座屈変形させて蛇腹部10Aを形成しておく。そして、取付管106における集水桝104に連結する側の端部の外表面を、筒状に形成した取付管補修部材10で被覆して集水桝104と取付管106の連結部分B2を被覆しつつ、取付管106の端部の外表面を被覆する取付管補修部材10の端部を、集水桝104の下部範囲を被覆する桝補修部材11に接合する。
【0040】
この状態で、取付管106を構成する管106−1及び106−2〜106−nを矢線Aで示す方向に移動して連結させて取付管106を設置しつつ、連結させた部分から取付管補修部材10で順次被覆すべく、筒状の取付管補修部材10の蛇腹部11を矢線Bで示す方向に伸張させていく。これにより、新たな取付管106を設置しながら取付管106の外表面を、取付管106を構成する管同士の連結部分B3を含む全域において、取付管補修部材10で簡易に被覆することができる。
【0041】
図3は、取付管106を取付管補修部材10で被覆した状態の概略を説明する図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。図示のように、取付管106の外表面を取付管補修部材10で被覆すると、取付管補修部材10の内側面に一様に分布するようにスペーサ20が設けられていることから、スペーサ20の先端部分が取付管106の外表面に当接して、取付管106の外側面と取付管補修部材10との隙間の距離を一定に確保することができる。
【0042】
次に、下水道本管102と取付管106の連結部分B1を被覆する場合について説明する。まず、下水道本管102に連結する側の取付管106の端部の外表面を被覆する場合について説明する。この部分を被覆する被覆部材としては、本実施の形態では、図4で示す略ハット状の連結部補修部材12を用いる。
【0043】
まず、予め連結部補修部材12を形成しておく。この連結部補修部材12は、台座部12a及び台座部12aから円筒状に突出する突出部12bを備え、不織布で略ハット状に形成する。突出部12bは、突出部12bと取付管106の外表面との間に隙間を有するように形成しておく。
【0044】
そして、取付管106における下水道本管102に連結する側の端部の外表面を、連結部補修部材12の突出部12bで被覆して、取付管106と下水道本管102とを連結する。更に、取付管106の上方から取付管106を被覆する筒状に形成した取付管補修部材10の端部と連結部補修部材12の突出部12bの外周面とを接合して、取付管補修部材10と連結部補修部材12とを結合する。
【0045】
次に、取付管106に連結される部分を含む下水道本管102を所定の長さ範囲で本管被覆部材12によって被覆する場合を説明する。この部分を被覆する被覆部材1としては、本実施の形態では、図5で示す本管被覆部材14を用いる。
【0046】
まず、予め、本管被覆部材14を形成しておく。図5(a)で示すように、本管被覆部材14は、取付管106が下水道本管102に連結する部分を予め切り欠いて切欠部14a及び14bを形成し、不織布で形成する。この本管被覆部材14を、図5(b)で示すように、取付管106が下水道本管102に連結する部分を含む下水道本管102の所定の長さ範囲において、本管被覆部材14を下水道本管102の径方向に巻回して被覆する。そして、本管被覆部材14と連結部補修部材12の台座部12aとを接合して、本管被覆部材14と連結部補修部材12とを結合する。
【0047】
その後、図6で示すように、下水道本管102を被覆した本管被覆部材14の両端部14cと下水道本管102の外表面をベルト22によって強固に締結して閉塞する。これにより、被覆部材の下方側端部である本管被覆部材14の両端部14cにおいて下水管路100と被覆部材との隙間が閉塞され、下水管路被覆工程による下水道本管102と取付管106との連結部分B1、取付管106を構成する管同士の連結部分B3を含む取付管106の全域、取付管106と集水桝104との連結部分B2の被覆が完了する。
【0048】
下水管路被覆工程が完了した後、材料充填工程または下水管路埋設工程に移行する。下水管路被覆工程の後は、材料充填工程と下水管路埋設工程のどちらを先に実行してもよく、また、被覆部材1によって被覆された下水管路100を埋め戻しながら発泡材料mを充填してもよい。本実施の形態では、材料充填工程を先に実行する場合について説明する。
【0049】
材料充填工程では、本実施の形態では、下水管路100と被覆部材1との隙間の全域に硬化性の発泡材料を充填して独立発泡させて、ポリウレタン樹脂からなる発泡材を成形する。この発泡材料は、例えば、水とイソシアネートの反応により発生する炭酸ガスを発泡剤として用いている。なお、発泡ポリウレタン材料に代えて、セメントミルクに植物性繊維を混合した流動性のある湿状の硬化性材料(例えば、古紙を水に浸してパルプ状にしたものを混ぜたセメントミルク)を用いてもよく、材料特性の相違に基づく硬化に要する時間を考慮することなく、種々の硬化性材料を用いることができる。
【0050】
図7は、材料充填工程の概略を説明する図である。図示のように、集水桝104の外表面にゴム製のパッキン16を嵌合密着させるとともにパッキン16と被覆部材1の内側面とを接合する。パッキン16には、チューブ18a及びチューブ18bを挿入する挿入孔が形成されている。チューブ18aは、地盤120の地表面に配置された図示しない第1タンクに連結している。この第1タンク内には、発泡材料mが貯留されており、図示しないポンプによって発泡材料mが汲み出されて、発泡材料mがチューブ18aから噴出される。
【0051】
一方、チューブ18bは、地盤120の地表面に配置された図示しない第2タンクに連結している。この第2タンク内には、水Wが貯留されており、図示しないポンプによって水Wが汲み出されて、この水Wがチューブ18bから噴出される。
【0052】
チューブ18aから噴出された発泡材料mは、チューブ18bから噴出された水Wと混合して反応しながら、下水管路100と不織布10との隙間に充填される。すなわち、まず、下水道本管102の外表面と本管被覆部材14との隙間に発泡材料mが充填されると、チューブ18aから連続して噴出される発泡材料mが下水道本管102と取付管106の連結部分B1と連結部補修部材12及び本管被覆部材14との隙間に充填される。更に、チューブ18aから連続して噴出される発泡材料mによって取付管106の外表面と取付管補修部材10との隙間が充填され、最終的に集水桝104と取付管106との連結部分B2と桝補修部材11との隙間、及び集水桝104の外表面と桝補修部材11との隙間、集水桝104と排水路112との連結部分B4と桝補修部材11との隙間が充填される。下水管路100の外表面と被覆部材1との隙間はスペーサ12によってこの隙間の距離が一定に確保されていることから、被覆部材1で被覆した下水管路100の全域において発泡材料mが偏移することなく一様に充填される。このとき、下水管路100の外表面と被覆部材1との隙間に存在している空気は不織布で形成された被覆部材1を透過して外部に排出されることから、発泡材料mが効率的充填される。
【0053】
下水管路100と被覆部材1との隙間に充填された発泡材料mは、水Wと反応して、図1で示したように、ポリウレタン樹脂からなる発泡材Mを成形する。この発泡材料mの発泡成形時には、上記のように、下水管路100の外表面と被覆部材1との隙間に存在している空気が被覆部材1を透過して外部に排出されていることから、気泡の少ない高品質な発泡材Mを成形することができる。発泡材Mの成形によって、下水管路100が補修される。
【0054】
上記のように、本実施の形態では、材料充填工程の後に下水管路埋設工程に移行する。この下水管路埋設工程では、発泡材Mで補修された下水管路100を埋め戻して埋伏する。その結果、空間Sを消滅させたうえで下水管路100を補修することができる。
【0055】
従って、下水管路100が発泡材M及び被覆部材1によって被覆されて下水管路100の外表面に層が形成され、下水管路100の強度が増強されて補修されることから、かかる下水管路100が埋設された地盤120の地表面が、例えば、重量車両が頻繁に走行する幹線道路等であった場合であっても、下水管路100の外表面から下水管路100に直接的に作用する活荷重や繰り返し荷重は、発泡材M及び被覆部材1によって緩衝される。同様に、土圧による静荷重も、発泡材M及び被覆部材1によって緩衝される。
【0056】
発泡材M及び被覆部材1の緩衝作用によって、下水管路100の経年劣化の進行を抑制することができることから、下水道本管102と取付管106の連結部分B1、集水桝104と取付管106の連結部分B2、及び取付管106を構成する管同士の連結部分B3のズレや破損等の発生を抑制することができる。これにより、下水管路100が埋設された地盤120内において空洞Sが発生することを防止することができ、ひいては、地盤沈下や道路陥没等の発生を防止することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、図8で示すように、下水道本管102と取付管106の連結部分B1、及び取付管106を構成する管同士の連結部分B3を含む取付管106のみを被覆部材1で被覆し、取付管106を被覆する取付管補修部材10の上方側端部10aから発泡材料mを充填してもよい。これにより、下水管路100が地中で受ける荷重によって破損しやすい脆弱な部分である下水道本管102と取付管106との連結部分について、効果的な補修を行うことができる。
【0058】
また、図9で示すように、取付管106を構成する管同士の連結部分B3を含む取付管106の所定範囲を取付管被覆部材10で被覆して、取付管106に被覆された取付管被覆部材10の下方側端部10bをベルト22で閉塞したうえで、取付管被覆部材10の上方側端部10aから発泡材料mを充填してもよい。これにより、取付管106を構成する管同士の連結部分B3の中でも、地中で受ける荷重によって特に破損しやすい連結部分B3について、集中的にかつ効果的に補修することができる。
【0059】
更に、図示は省略するが、集水桝104と取付管106との連結部分B2を含むようにして、集水桝104の下部範囲及び取付管106の一部のみを桝補修部材11で被覆して、取付管106に被覆された取付管被覆部材10の下方側端部10bをベルトで閉塞したうえで、桝補修部材11の上方側端部から発泡材料mを充填してもよい。これにより、地中で受ける荷重によって破損しやすい集水桝104と取付管106との連結部分B2について、集中的にかつ効果的に補修することができる。
【0060】
また、下水管路100に被覆された被覆部材1の下方側端部をベルト22によって閉塞せずに、下水管路100と被覆部材1との隙間に発泡材料mを充填してもよい。発泡材料mは上記隙間に充填されつつ徐々に硬化していくことから、下水管路100の外表面と下水管路100を覆った被覆部材1との隙間に充填した発泡材料mによって、下水管路100の外表面側に新たな層を形成することができる。
【0061】
上記実施の形態では、下水管路被覆工程で取付管106を取付管補修部材10で被覆する際に、取付管補修部材10を予め筒状に形成して被覆することを説明したが、例えば、取付管補修部材10を取付管106の周方向に巻回しながら被覆していくことによっても、簡易に取付管106の全域を被覆することができる。
【0062】
また、上記実施の形態では、取付管補修部材10で取付管106を被覆しながら設置していく場合を説明したが、例えば、取付管106を設置した後に取付管被覆部材10で取付管106を被覆してもよく、補修工事を行う現場の状況に応じて対応することが可能である。
【0063】
更に、上記実施の形態では、チューブ18a及び18bを集水桝104の側部外表面に配置して発泡材料m及び水Wを噴出する場合を例として説明したが、チューブ18a及び18bを集水桝104の外表面と被覆部材1との隙間から下水道本管102と連結部補修部材12との隙間まで導入して、発泡材料m及び水Wを噴出してもよい。かかる方法によっても、下水管路100の全域において、発泡材料mを下水管路100の外表面と被覆部材1との間で漏洩することなく充填することができる。なお、この場合、導入したチューブ18a及び18bは、所定の箇所で切断して、下水管路100の外表面と被覆部材1との隙間に導入した部分はそのまま埋伏してもよい。
【0064】
上記実施の形態では、チューブ18bから水Wを噴出して発泡材料mと混合させて発泡材料mを反応させる場合を例として説明したが、あえて水Wを噴出させずに、地盤中の水と反応させてもよい。すなわち、埋伏された下水管路100を被覆する被覆部材1から地盤120中の水(例えば地下水)が浸透して発泡材料mと反応して、発泡材料mが硬化して発泡材Mが形成されることによって、下水管路100を補修することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 被覆部材
10 取付管補修部材(被覆部材)
10a 上方側端部
10b 下方側端部
11 桝補修部材(被覆部材)
12 連結部補修部材(被覆部材)
14 本管被覆部材(被覆部材)
14c 両端部(下方側端部)
20 スペーサ
22 ベルト
100 下水管路
102 下水道本管
104 集水桝
106 取付管
B1〜B3 連結部分
m 発泡材料(硬化性材料)
M 発泡材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水管路が埋設された領域の地盤を開削して前記下水管路を補修する下水管路の補修方法において、
補修対象の下水管路の外表面を被覆部材で被覆する下水管路被覆工程と、
前記被覆された下水管路を埋め戻す前または後に前記被覆された下水管路の外表面と前記被覆部材との隙間の全域に硬化性材料を充填する材料充填工程と、
を含むことを特徴とする下水管路の補修方法。
【請求項2】
前記下水管路は、集水桝と下水道本管とを連結する取付管を含み、
前記下水管路被覆工程では、
前記取付管の所定範囲を被覆することを特徴とする請求項1に記載の下水管路の補修方法。
【請求項3】
前記下水管路被覆工程では、
前記被覆部材は筒状体にて構成され、
前記補修対象の下水管路を前記筒状体被覆部材にて被覆しつつ地中に設置していくことを特徴とする請求項1または2に記載の下水管路の補修方法。
【請求項4】
前記下水管路は、一端が集水桝に連結された取付管の他端が連結される下水道本管を含み、
前記下水管路被覆工程では、
前記取付管の前記下水道本管に連結する部分を含む所定範囲及び前記下水道本管の前記取付管が連結された部分を含む所定の長さ範囲を前記被覆部材で被覆することを特徴とする請求項1に記載の下水管路の補修方法。
【請求項5】
前記下水管路は、他端が前記下水道本管に連結された取付管の一端が連結される集水桝を含み、
前記下水管路被覆工程では、
前記集水桝の前記取付管が連結された部分を含む下部範囲を前記被覆部材で被覆することを特徴とする請求項1に記載の下水管路の補修方法。
【請求項6】
前記被覆部材の内側面に、前記下水管路の外表面と前記被覆部材との隙間を確保するための突起状のスペーサを設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法。
【請求項7】
前記下水管路被覆工程で、前記下水管路に被覆された被覆部材の下方側端部にて前記下水管路との隙間を閉塞し、
前記材料充填工程で、前記被覆部材の上方側端部から前記硬化性材料を充填することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法。
【請求項8】
前記硬化性材料として、硬化後に弾力性を有する発泡性の発泡材料を用いたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法。
【請求項9】
前記被覆部材として、前記発泡材料に対して非浸透性でかつ水に対して浸透性を有する布材を用い、
前記硬化性材料として、水発泡性の発泡材料を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の下水管路の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−102481(P2012−102481A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250057(P2010−250057)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)
【出願人】(000220675)東京都下水道サービス株式会社 (98)
【Fターム(参考)】