説明

下痢原性大腸菌感染症の判別に用いられる固相等

【課題】下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の判別を、より迅速且つ正確に行うために用いることが可能な、精製LPS、固相、方法及びキット等を提供する。
【解決手段】リポ多糖が固着された固相を提供する。また、複数種類のリポ多糖が、同一固相上に個別に固着されている固相を提供する。下記工程を少なくとも含むことを特徴とする、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別方法を提供する。
工程1:請求項1〜3のいずれか1項に記載の固相に固着されたリポ多糖に、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を接触させ、上記リポ多糖と上記血清中に含まれる抗リポ多糖抗体とからなる結合体を形成させる工程。
工程2:上記結合体に、抗リポ多糖抗体に結合し得る抗体を接触させ、上記結合体を検出する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別に用いることができる固相、方法及びキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に、本明細書において用いる略号を示す。
LPS:リポ多糖
下痢原性大腸菌感染症は、腸管毒素原性大腸菌、腸管病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、腸管凝集性大腸菌、腸管侵入性大腸菌等の大腸菌の感染により発症する感染症として知られており、下痢、水溶性便、血便、溶血性尿毒症症候群(以下、「HUS」と略記する)、急性腸炎、腹痛、発熱、嘔吐等の症状が現れることがあることから問題となっている。
【0003】
一方、上記のような大腸菌の細菌外膜は、それぞれその血清型によって異なる構造を有するLPSによって構成されており、一般に上記のような大腸菌がヒト等の動物に感染すると、当該動物の血清中に上記LPSに対して特異的な抗体が産生されることが一般に知られている。
【0004】
従来より、上記のようなメカニズムにより血清中に産生される抗体を、免疫学的測定方法により検出することにより、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型を判別する方法等が知られていた。
【0005】
特許文献1には、標的生物由来の異なるポリペプチドが各位置に配置されているアレイが開示されている。そして標的生物の一例として、下痢原性大腸菌が挙げられている。しかし、LPSが配置されているアレイについては開示も示唆もない。
【0006】
下痢原性大腸菌感染症においては、極めて迅速且つ正確に感染した大腸菌の血清型を判別することが望ましいため、より効率的で確実性の高い下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型を判別することが可能な方法が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特表2005−515754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の判別を、より迅速且つ正確に行うために用いることが可能な、精製LPS、固相、方法及びキット等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、LPSを固着させた固相を用いることにより、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の判別を効率的で迅速に、且つ高い正確度で行うことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記のものを提供する。
(1)LPSが固着された固相(以下、「本発明固相」という)。
(2)複数種類のLPSが、同一固相上に個別に固着されていることを特徴とする、上記(1)に記載の固相。
(3)LPSが、下記の群から選択されるO血清型により分類される、1又は2以上の大腸菌に由来するものである、上記(1)又は(2)に記載の固相;
O1、O25、O26、O63、O113、O125、O125ac、O144、O153、O168、O3、O77、O114、O126、O145、O157、O169、O6、O27、O78、O115、O127、O146、O158、O8、O28、O86、O117、O128、O148、O159、O11、O29、O91、O119、O131、O149、O164、O15、O32、O103、O121、O136、O150、O18、O44、O111、O111ab、O123、O142、O151、O166、O20、O55、O112、O112ac、O124、O143、O152、O167、O165。
(4)下記工程を少なくとも含むことを特徴とする、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別方法(以下、「本発明判別方法」という)。
工程1:本発明固相に固着されたLPSに、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を接触させ、上記LPSと上記血清中に含まれる抗LPS抗体とからなる結合体を形成させる工程。
工程2:上記結合体に、抗LPS抗体に結合し得る抗体を接触させ、上記結合体を検出する工程。
(5)判別される大腸菌の血清型がO血清型である、上記(4)に記載の判別方法。
(6)工程2における抗体が抗IgM抗体である、上記(4)又は(5)に記載の判別方法。
(7)本発明固相及び抗LPS抗体に結合し得る抗体を少なくとも構成成分として含む、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別キット(以下、「本発明キット」という)。
【発明の効果】
【0011】
本発明判別方法によれば、非常に高い精度で下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型を判別することができる。また本発明固相を用いることにより、本発明判別方法を行うことができる。また本発明判別キットを用いることにより、本発明判別方法をより効率的且つ簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明を実施するための最良の形態により本発明を詳説する。
<1>本発明固相
本発明固相は、LPSが固着された固相である。
【0013】
上記においてLPSは、例えば大腸菌に例示されるグラム陰性菌から、熱フェノール法等の公知の方法により抽出することにより入手することができる。なお、本発明においてLPSの由来は特に限定されないが、大腸菌であることが好ましい。また大腸菌のなかでも、腸管毒素原性大腸菌、腸管病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌及び腸管凝集性大腸菌、腸管侵入性大腸菌から選択される大腸菌であることがより好ましく、血清型がO血清型である大腸菌であることもより好ましく、なかでも下記の群より選択される1又は2以上の大腸菌であることが好ましい;
O1、O25、O26、O63、O113、O125、O125ac、O144、O153、O168、O3、O77、O114、O126、O145、O157、O169、O6、O27、O78、O115、O127、O146、O158、O8、O28、O86、O117、O128、O148、O159、O11、O29、O91、O119、O131、O149、O164、O15、O32、O103、O121、O136、O150、O18、O44、O111、O111ab、O123、O142、O151、O166、O20、O55、O112、O112ac、O124、O143、O152、O167、O165。
【0014】
また、本発明固相におけるLPSは、その精製度等によって限定されるものではないが、後述する本発明精製LPSであることが好ましい。
【0015】
なお本明細書においては、大腸菌に由来するLPSを、Ec−LPSと略記する。
【0016】
本発明固相において、LPSを固着させる固相としては、例えばプレート、メンブレン、ビーズ等の担体を用いることができる。
【0017】
また本発明固相において、LPSを固相に固着させる方法については特に限定されないが、LPSを固着させる固相としてメンブレンを用いる場合、例えばLPSをメンブレンにドットし(後述する実施例1及び図1を参照されたい)、適宜緩衝液等を用いてLPSをメンブレン上に固定し、乾燥する方法等が例示される。
【0018】
本発明固相において、固相に固着させるLPSの種類は単数種類であってもよく、複数種類であってもよい。しかし、例えば本発明固相を後述する本発明判別方法において用いる場合、下痢原性大腸菌感染症が疑われる患者の血清中に存在するか、存在する可能性がある抗LPS抗体が有する、異なる種類の血清型を有する複数の大腸菌由来のLPSに対する反応の特異性を、迅速且つ効率的に確認することが望ましいく、このような場合においては、同一固相上に複数種類のLPSを個別に固着させることが好ましい。ここで、複数種類とは、2種類以上である限りにおいて特に限定されないが、3種類以上であることが好ましく、5種類以上であることがより好ましく、10種類以上であることが最も好ましい。
【0019】
なお、上記において、同一固相上に複数種類のLPSを「個別に」固着させるとの状態としては、複数種類のLPSが接触又は混合しない状態であれば特に限定されない。具体的には後述する実施例1を参照されたい。
【0020】
本発明固相は、これを用いる方法によって限定されるものではないが、例えば後述する本発明判別方法の工程1における固相として、又は後述する本発明判別キットの構成成分として用いることができる。
<2>本発明判別方法
本発明判別方法は、下記工程を少なくとも含むことを特徴とする、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別方法である。
工程1:本発明固相に固着されたLPSに、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を接触させ、上記LPSと上記血清中に含まれる抗LPS抗体とからなる結合体を形成させる工程。
工程2:上記結合体に、抗LPS抗体に結合し得る抗体を接触させ、上記結合体を検出する工程。
【0021】
上記において、「本発明固相」及び「LPS」なる用語、LPSを本発明固相に固着させる方法については、上記<1>本発明固相におけるこれらの説明を参照されたい。
【0022】
工程1においては、本発明固相に固着されたLPSに、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を接触させ、上記LPSと上記血清中に含まれる抗LPS抗体とからなる結合体を形成させる。
【0023】
一般に、ヒト等の動物が下痢原性大腸菌に感染すると、下痢、水溶性便、血便、HUS、急性腸炎、腹痛、発熱、嘔吐等の症状が現れることが知られている。上記において「下痢原性大腸菌感染症が疑われる」状態の例としては、例えば上記に例示した症状の内、1又は2以上の症状が現れた状態が例示されるが、本発明判別方法においては、上記のような症状が無い場合であっても、何らかの理由により下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別を要する状態にある場合であれば、「下痢原性大腸菌感染症が疑われる」状態であると解されるものとする。また、上記の「動物」としては、例えばヒト、イヌ及びネコ等の哺乳動物が例示される。上記における「血清」は、このような動物から採取した血液を材料として用い、公知の方法により調製することにより得ることができる。
【0024】
また、本発明固相に固着されたLPSに、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を接触させる方法は、本発明固相に固着されたLPSと、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清中に含まれる抗LPS抗体との間で結合反応が惹起され得る方法であれば特に限定されないが、例えばLPSが固着された本発明固相表面に下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を添加し、好ましくは5分〜1時間、より好ましくは30分程度インキュベートすることにより接触させることができる。具体的には後述する実施例1を参照されたい。
【0025】
工程2においては、工程1において形成させた結合体に、抗LPS抗体に結合し得る抗体を接触させ、上記結合体を検出する。
【0026】
上記において、抗LPS抗体に結合し得る抗体としては、例えば抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgA抗体、抗IgD抗体及び抗IgE抗体等の抗体が例示されるが、なかでも、より高い特異性で抗LPS抗体に対して結合し得る、すなわち、血清中に含まれる抗LPS抗体の種類を正確に判別することにつながるといった観点から、抗IgM抗体が好ましい。さらに、抗IgM抗体と、抗IgM抗体以外の抗体(例えば抗IgA抗体及び/又は抗IgG抗体)を組み合わせて用いれば、より確実な判別を期待することができることからより好ましい。
【0027】
また、抗LPS抗体に結合し得る抗体は、例えばペルオキシダーゼ等の酵素等によって標識されていることが好ましい。このような抗体は、公知の方法により調製又は入手することができる。
【0028】
上記において、工程1において形成させた結合体に、抗LPS抗体に対して結合し得る抗体を接触させる方法は、工程1において形成させた結合体と、抗LPS抗体に対して結合し得る抗体との間で免疫反応が惹起され得る方法である限りにおいて特に限定されないが、例えば工程1を行った後の固相表面に、抗LPS抗体に結合し得る抗体を含む溶液を添加し、好ましくは5分〜1時間、より好ましくは30分程度インキュベートすることにより接触させることができる。具体的には後述する実施例1を参照されたい。
【0029】
工程2においては、工程1において形成させた結合体と、抗LPS抗体に結合し得る抗体との間で惹起される上記のような免疫反応に基づいて、上記結合体を検出する。ここでこのような免疫反応においては、例えば上述した工程1において形成される結合体の濃度の増加に応じて、検出されるシグナルが増強され場合、反応が惹起されていると判断することができる。
【0030】
工程2における検出の方法については特に限定されないが、例えばEIA法及びELISA法等のエンザイムイムノアッセイ法、蛍光イムノアッセイ法(FIA法)及びラジオイムノアッセイ法(RIA法)等の標識イムノアッセイ、化学発光酵素免疫測定法(CLIA法)、ラテックス凝集反応法、レーザーイムノアッセイ等の非標識イムノアッセイ法等に例示される公知の方法を適宜採用することができる。
【0031】
本発明判別方法においては、工程2における検出において、特定のO血清型を有する大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において検出されるシグナルが、他のEc−LPSを固着させた部分において検出されるシグナルに比べてより強い場合、感染した大腸菌は、より強いシグナルが検出された上記の特定のO血清型を有する大腸菌である可能性が高いと判断することができる。さらに、このような判断においては、上述したように、抗LPS抗体に対して結合し得る抗体を複数種類用いて各検出結果を得て、例えばこの複数の検出結果の内で最も強いシグナルが検出された部分を確認する等して各検出結果を総合的に判断することにより、感染した大腸菌の血清型として最も可能性が高いものを判断することが望ましい。
<3>本発明判別キット
本発明判別キットは、本発明固相及び抗LPS抗体に結合し得る抗体を少なくとも構成成分として含む、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別キットである。
【0032】
上記において、「本発明固相」、「抗LPS抗体に結合し得る抗体」、「下痢原性大腸菌感染症」、「大腸菌の血清型の判別」に関する説明については、上記<2>本発明判別方法を参照されたい。
【0033】
本発明判別キットは、本発明固相及び抗LPS抗体に結合し得る抗体の他に、例えば、免疫学的測定において用いる反応バッファー、洗浄液及び発色試薬等をその他の構成成分として含んでいてもよい。
【0034】
本発明判別キットを用いることにより、本発明判別方法をより効率的且つ簡便に行うことができる。なお、本発明判別キットを用いる具体的方法については、上記<2>本発明判別方法及び後述する実施例1を参照されたい。
<4>本発明精製LPS
本発明精製LPSは、添付図面の図2のいずれかのレーンに示されるSDSゲル電気泳動特性によって特徴付けられる、精製LPSである。
【0035】
本発明精製LPSは、非常に純度が高いことをひとつの特徴としている。このような精製LPSは、例えば後述する実施例1記載の方法により大腸菌からLPSを抽出することにより得ることができる。
【0036】
なお、本発明精製LPSは、その使用方法によって限定されるものではないが、例えば、上記<1>本発明固相におけるLPS、又は上記<2>本発明判別方法の工程1におけるLPSとして、好適に用いることができる。より具体的には後述する実施例1を参照されたい。
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。
【実施例1】
【0038】
(1)Ec−LPS固着化メンブレンの作製
後述する表4に掲載した血清型を有する各大腸菌58種を、それぞれ37℃、約15〜20時間、Gmeiner培地にて培養した。培養した大腸菌を集菌し、蒸留水で2回洗浄し、凍結乾燥した。乾燥菌体を45%フェノール水溶液に溶解し、68℃、20分間加熱攪拌した後、室温まで冷却した。溶液を2500rpm、20分間遠心して水画分を除き、フェノール画分に等量の蒸留水を加えて再度抽出を行った。得られた水画分を集めて透析チューブに入れ、毎日水を交換しながら3日間透析を行った。透析後、内容物を凍結乾燥して粗LPSを得た。この粗LPSを10mg/mlの濃度で蒸留水に溶解し、10万xg、3時間で超遠心した。沈殿物に蒸留水適量を加えて溶解し、再度超遠心を行い、沈殿物を凍結乾燥して精製LPSを得た。
【0039】
上記の精製LPSを、10μg/mlとなる様に0.1M炭酸ナトリウム緩衝液に溶解し、そのうち50μlをPVDFメンブレン(日本ミリポア社製)にスポットした。このメンブレンを、5% TweenX20−リン酸緩衝化生理食塩水(以下、「リン酸緩衝化生理食塩水」を「PBS」、「5% TweenX20−リン酸緩衝化生理食塩水」を「洗浄液」と略記する)で2回洗浄した後、3% スキムミルク(Difco社製)−PBSをメンブレンにマウントした。室温で30分静置した後、これを再度洗浄液で洗浄し、乾燥、保存した。
【0040】
なお、固相に対してEc−LPSをスポットするステップを図1に、上記において抽出したEc−LPSを、常法によりSDSゲル電気泳動し、糖質に特異的なHitchcock銀染色を行った結果を図2に示す。また、上記のEc−LPSと市販の抗血清との反応性を、ウェスタンブロット法により確認した結果を図3に、ELISA法により確認した結果を表1に示す。また、上記のEc−LPSと患者血清との反応性を、ウェスタンブロット法により確認した結果を図4に、ELISA法により確認した結果を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表中、+は反応が確認されたことを、−は反応が確認されなかったことを示す。また+の数が多い程、強い反応が確認されたことを示す(以下の表2においても同様)。
【0043】
【表2】

【0044】
なお、表中の血清番号1、2−1及び2−2、3−1〜3−3、4−1及び4−2、5−1及び5−2、6−1及び6−2は、それぞれ表3における患者No.1、2、3、4、5、6より採取した血清であることを示す。
【0045】
【表3】

【0046】
*1 採血から本実施例を行うに至るまでの日数を示す。
*2 便より分離した大腸菌の同定により判別した血清型を示す。

(2)下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別
上記(1)で作製したEc−LPS固着化メンブレン上のLPSを固着させた部分に、ヒト血清 約30μlを3%スキムミルク−PBS 3mlに希釈したものをマウントし、室温で30分間静置した。これを洗浄液で2回洗浄した後、ペロキシダーゼラベル二次抗体(抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgA抗体、それぞれDako社製。)6μlを3%スキムミルクーPBSに希釈したものをマウントし、室温で30分間静置した。これを洗浄液で4回洗浄した後、ジアミノベンチジン(DAB)を用いて発色させた後、再度洗浄液で4回洗浄を行い、乾燥させた。以上のようにして、各血清中の抗LPS抗体を検出した。
【0047】
検出結果を示す写真の一部を図5及び図6に示す。なお、上記の血清の由来である患者のデータについては表3を参照されたい。また、図5及び図6中の各スポットに固着されたEc−LPSの由来の大腸菌の血清型を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
検出結果を基にして血清型の判別を行った結果を表3の血清型*3に示す。以下に、判別に至るまでの詳細を具体的に示す。
【0050】
図5及び図6から明らかなように、血清No.3、5、6、7については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、さらに血清No.7については、加えて抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO157である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において非常に強いシグナルが検出されたことから、上記の各血清の由来である患者(患者No. 3、5、6、7)に感染した大腸菌の血清型がO157である可能性が高いことが判別された。
【0051】
また、血清No.9については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO26である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において強いシグナルが検出され、さらに上記以外のEc−LPSを固着させた部分においては比較的に微弱なシグナルしか検出されず、すなわちこの場合においては高い特異性で血清型がO26である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分においてシグナルが検出されたことから、患者No.9に感染した大腸菌の血清型がO26である可能性が高いことが判別された。
【0052】
また、血清No.11については、特に抗IgG抗体を2次抗体として用いた場合と、抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO150である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において比較的に強いシグナルが検出され、さらに特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合においては、上記以外のEc−LPSを固着させた部分においては比較的に微弱なシグナルしか検出されず、すなわちこの場合においては高い特異性で血清型がO150である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分においてシグナルが検出されたことから、患者No.11に感染した大腸菌の血清型がO150である可能性が高いことが判別された。
【0053】
また、血清No.12及び21については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO136である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において比較的に強いシグナルが検出されたことから、患者No.12及び21に感染した大腸菌の血清型がO136である可能性が高いことが判別された。
【0054】
また、血清No.15については、特に抗IgG抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO121である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において比較的に強いシグナルが検出されたことから、患者No.15に感染した大腸菌の血清型がO121である可能性が高いことが判別された。
【0055】
また、血清No.18については、特に抗IgG抗体を2次抗体として用いた場合と、抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO153である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において強いシグナルが検出され、また上記以外のEc−LPSを固着させた部分においては比較的に微弱なシグナルしか検出されず、すなわちこの場合においては高い特異性で血清型がO153である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分においてシグナルが検出されたことから、さらに抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合においては、比較的に弱いシグナルではあるが、上記部分に対して高い特異性を有するシグナルが検出されたたことから(上記以外のEc−LPSを固着させた部分においてはほとんどシグナルが検出されなかった)、患者No.18に感染した大腸菌の血清型がO153である可能性が高いことが判別された。
【0056】
また、血清No.20については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO150である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において強いシグナルが検出されたことから、患者No.20に感染した大腸菌の血清型がO150である可能性が高いことが判別された。
【0057】
また、血清No.13については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO25である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において、比較的に弱いシグナルではあるが、上記部分に対して高い特異性を有するシグナルが検出されたたことから(上記以外のEc−LPSを固着させた部分においてはほとんどシグナルが検出されなかった)、患者No.13に感染した大腸菌の血清型がO25である可能性が高いことが判別された。
【0058】
また、血清No.16については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合と、抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO166である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において比較的に強いシグナルが検出され、さらに特に抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合においては、上記以外のEc−LPSを固着させた部分においてはほとんどシグナルが検出されず、すなわちこの場合においては高い特異性で血清型がO166である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分においてシグナルが検出されたことから、患者No.16に感染した大腸菌の血清型がO166である可能性が高いことが判別された。
【0059】
また、血清No.17については、特に抗IgG抗体を2次抗体として用いた場合と、抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO115である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において比較的に強いシグナルが検出され、さらに特に抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合においては、上記以外のEc−LPSを固着させた部分においてはほとんどシグナルが検出されず、すなわちこの場合においては高い特異性で血清型がO115である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分においてシグナルが検出されたことから、患者No.17に感染した大腸菌の血清型がO115である可能性が高いことが判別された。
【0060】
また、血清No.19については、特に抗IgM抗体を2次抗体として用いた場合、及び抗IgA抗体を2次抗体として用いた場合において、血清型がO166である大腸菌に由来するEc−LPSを固着させた部分において強いシグナルが検出されたことから、患者No.19に感染した大腸菌の血清型がO166である可能性が高いことが判別された。
【0061】
なお、血清No.7、9については、表3に示したように、便より分離した大腸菌の同定により判別した血清型と、本実施例の方法により判別した血清型が一致することを確認した。これは本発明判別方法の正確性が高いことを裏付けている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】固相に対してEc−LPSをドットするステップを示す図である。
【図2】抽出したEc−LPSを常法によりSDSゲル電気泳動し、糖質に特異的なHitchcock銀染色を行った結果を示す。各レーンの上部に示した数字は、各Ec−LPSのO血清型の番号を示す。
【図3】抽出したEc−LPSのウェスタンブロット法による市販の抗血清との反応性を示す図である。図中、anti-O26、anti-O55、anti-O86、anti-O103、anti-111、anti-119、anti-128、anti-142、anti-157は、用いた市販の抗血清の種類を示す。各レーンの上部に示した数字は、各Ec−LPSのO血清型の番号を示す。
【図4】抽出したEc−LPSのウェスタンブロット法による患者血清との反応性を示す図である。各レーンの上部に示した数字は、各Ec−LPSのO血清型の番号を示す。
【図5】血清型の判別結果を示す。図の上部に記載した、IgG、IgM、IgAは、用いた2次抗体がそれぞれ、抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgA抗体であることを示す。なお、行番号と列番号によって特定される各部分に固着されたEc−LPSの由来の大腸菌の血清型は表4に示したので参照されたい。
【図6】血清型の判別結果を示す。図の上部に記載した、IgG、IgM、IgAは、用いた2次抗体がそれぞれ、抗IgG抗体、抗IgM抗体、抗IgA抗体であることを示す。なお、行番号と列番号によって特定される各部分に固着されたEc−LPSの由来の大腸菌の血清型は表4に示したので参照されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ多糖が固着された固相。
【請求項2】
複数種類のリポ多糖が、同一固相上に個別に固着されていることを特徴とする、請求項1に記載の固相。
【請求項3】
リポ多糖が、下記の群から選択されるO血清型により分類される、1又は2以上の大腸菌に由来するものである、請求項1又は2に記載の固相;
O1、O25、O26、O63、O113、O125、、O125ac、O144、O153、O168、O3、O77、O114、O126、O145、O157、O169、O6、O27、O78、O115、O127、O146、O158、O8、O28、O86、O117、O128、O148、O159、O11、O29、O91、O119、O131、O149、O164、O15、O32、O103、O121、O136、O150、O18、O44、O111、O111ab、O123、O142、O151、O166、O20、O55、O112、O112ac、O124、O143、O152、O167、O165。
【請求項4】
下記工程を少なくとも含むことを特徴とする、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別方法。
工程1:請求項1〜3のいずれか1項に記載の固相に固着されたリポ多糖に、下痢原性大腸菌感染症が疑われる動物由来の血清を接触させ、上記リポ多糖と上記血清中に含まれる抗リポ多糖抗体とからなる結合体を形成させる工程。
工程2:上記結合体に、抗リポ多糖抗体に結合し得る抗体を接触させ、上記結合体を検出する工程。
【請求項5】
判別される大腸菌の血清型がO血清型である、請求項4に記載の判別方法。
【請求項6】
工程2における抗体が抗IgM抗体である、請求項4又は5に記載の判別方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の固相及び抗リポ多糖抗体に結合し得る抗体を少なくとも構成成分として含む、下痢原性大腸菌感染症における大腸菌の血清型の判別キット。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−256214(P2007−256214A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84286(P2006−84286)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「第11回 日本エンドトキシン研究会 プログラム・講演抄録集」,平成17年11月15日,日本エンドトキシン研究会 http://www.societyinfo.jp/infect/abview.asp?qs=%93V%96%EC 平成18年1月23日掲載 「感染症学雑誌」第80巻臨時増刊号,平成18年3月20日,社団法人日本感染症学会
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】