説明

下肢用衣類およびその製造方法

【課題】踵開口部の周縁のごろつき感をなくし快適で丈夫なトレンカを容易に製造可能とする。
【解決手段】パンティ部と該パンティ部に連続する一対のレッグ部およびフット部を有し、足先と踵を露出させて着用するトレンカであって、熱融着弾性糸を含む糸で編成され、該熱融弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地からなり、前記フット部の足先を露出させる足先開口部および踵を露出させる踵開口部のうち、少なくとも前記踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなしの状態とされ、非着用時における前記踵開口部の形状は編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状として前記踵開口部の周縁にRを持たせている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下肢用衣類およびその製造方法に関し、詳しくは、踵を露出させる開口部周縁のごろつき感をなくし、快適で丈夫なトレンカを容易に製造可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
足先と踵を露出させて着用するトレンカとして、例えば特開2009−270223号公報(特許文献1)には、切開した踵部の編地101をレッグ部102およびフット部103側に折り目104で畳み込み、縫着ライン105に沿って縫着することで踵を露出させる開口部(踵開口部)106の周縁を補強したトレンカ100が提案されている(図4参照)。
【0003】
一方、レッグ部112にパンティ部111を連続させたストッキングタイプのトレンカ110(図5参照)は、土踏まず位置まで脚を覆うことで脚を視覚的に長く見せ、足先部が露出するためパンプスにも合わせやすい等の理由で近年着用者が増加している。このようなトレンカ110においてもフット部113の踵開口部114の周縁に力がかかるため当該領域の強度を高めておく必要はあるが、前記特許文献1のように編地を踵開口部114の周縁で折り返して縫着すると、ごろつき感が生じ快適な着用感が得られにくいという問題がある。また、編地を踵開口部114の周縁で折り返して縫着する工程が必要となるため、製造に手間がかかるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−270223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、下肢用衣類、特に、踵を露出させる開口部周縁のごろつき感をなくし快適で丈夫なトレンカやレギンスを容易に製造可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第1の発明は、熱融着弾性糸を含む糸で編成され該熱融弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地、又は熱合着弾性糸を含む糸で編成され該熱合着弾性糸を熱合着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地からなる下肢用衣類を提供している。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に係る下肢用衣類が、足先と踵を露出させて着用するトレンカであって、足先を露出させる足先開口部および踵を露出させる踵開口部のうち、少なくとも前記踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなしの状態とされ、非着用時における前記踵開口部の形状は編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状であることを特徴とする下肢用衣類を提供している。
【0008】
第3の発明は、第2の発明に係る下肢用衣類が、パンティ部と該パンティ部に連続する一対のレッグ部およびフット部を有し足先と踵を露出させて着用するトレンカであることを特徴とする下肢用衣類を提供している。
【0009】
第4の発明は、第2の発明又は第3の発明に係る下肢用衣類が、非着用時における前記踵開口部の形状は編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状として前記踵開口部の周縁にRを持たせているトレンカであることを特徴とする下肢用衣類を提供している。
【0010】
第5の発明は、ストッキング状の編地をシングルカバリング糸を用いて編成し、該編地に100〜130℃で5〜60秒間ヒートセット加工を行った後、編地をカットして周縁が切りっぱなし状態の開口部を形成している前記下肢用衣類の製造方法を提供している。
【0011】
前記のように、本発明の下肢用衣類(トレンカ、レギンス等)は熱融着弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した編地又は熱合着弾性糸を熱合着させてほつれ止め機能を付与した編地からなるため、足先開口部や踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなし状態であっても端末からほつれが生じず強度低下を防止できる。なお、前記熱合着弾性糸とは、絡み合った繊維が熱により熱固定される弾性糸のことをいう。したがって、編地を折り返して縫着する等の作業が不要となり製造が容易となると共に、縫着によるごろつき感もないため快適な着用感を得ることができる。特に本発明では、非着用時における前記踵開口部の形状を、編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状として前記踵開口部の周縁にRを持たせている。この構成により、着用によって前記踵開口部の周縁に引張力が加えられても応力集中を防いでほつれの発生を効果的に防止することができ、繰り返し着用に耐えうる強度を保持することができる。
【0012】
前記熱融着弾性糸又は熱合着弾性糸を含む糸は、繊度20〜80デシテックスのポリウレタン糸にドラフト率2.5〜3.5倍、撚り数200〜1000T/mで繊度10〜120デシテックスのナイロン糸を巻き付けたシングルカバリング糸とし、該シングルカバリング糸で編成した編地にヒートセット加工を施していると共に、前記踵開口部の前記楕円または長円形状の短径を0.5〜4cm、長径を3〜9cmとしていることが好ましい。
【0013】
前記熱融着弾性糸又は熱合着弾性糸を含む糸として、前記のように、熱融着弾性糸又は熱合着弾性糸であるポリウレタン糸を芯糸とし該芯糸の周りにナイロン糸を巻き付けたシングルカバリング糸を用い、前記シングルカバリング糸を構成するポリウレタン糸の繊度やドラフト率、ナイロン糸の繊度や撚り数を前記範囲内とすることで、薄手で肌触りのよいフィット性に優れた編地を編成できると共にヒートセット加工によりポリウレタン糸同士の熱融着又は熱合着を促進してほつれ止め機能を高めることができる。
また、前記のように、踵開口部の前記楕円または長円形状の短径を0.5〜4cm、長径を3〜9cmとすることで、前記薄手の編地からなるトレンカの踵開口部周縁に引張力が加えられてもほつれの発生が効果的に防止され、かつ土踏まずや足首とのフィット感も向上する。なお、開口部の楕円または長円形状には、瓢箪型も含まれる。
【0014】
前記ストッキング状の編地には前記足先開口部が予め形成されていてもよいし、前記踵開口部と同様に形成されずに足先まで連続させていてもよい。足先開口部および踵開口部が形成されていないストッキング状編地を前記シングルカバリング糸で編成した場合には、前記ヒートセット温度、ヒートセット時間でヒートセット加工を行った後、足先部分および踵部分の編地をカットするだけでトレンカの製造を完了させることができる。また、ダブルウエルトやシングルウエルト等の端末組織により足先開口部は形成されているが踵開口部が形成されていないストッキング状編地を編成した場合には、前記ヒートセット加工後に踵部分の編地をカットするだけでトレンカの製造が完了する。即ち、前記構成によれば、踵開口部の周縁を縫着するなど手間のかかる端始末作業が不要となるため、トレンカを容易に製造することができる。また、ヒートセット加工後に踵部分の編地をカットすることでカット時のほつれも防止できる。
【0015】
前記ストッキング状の編地は丸編地からなることが好ましい。具体的には、少なくとも土踏まず位置まで筒状に編成された1対の丸編地を用い、パンティ部に相当する部分に切れ目を入れて裁断線同士をつき合わせて縫着し、一体化させることにより前記ストッキング状の編地を得ることができる。編組織は、プレーン(平編組織)でよいが、種々の編組織を組み合わせてもよい。
【0016】
前記編地編成後のヒートセット加工において、ヒートセット温度が100度未満であったりヒートセット時間が5秒未満であったりすると、ポリウレタン糸同士の熱融着又は熱合着が不完全となりやすく、十分なほつれ止め機能が付与できない場合がある。一方、ヒートセット温度が130度を超えたりヒートセット時間が60秒を超えたりすると、編地が熱により硬くなったり変色したりするおそれがある。
【0017】
前記ヒートセット加工後、前記ストッキング状編地の各レッグ部ならびにフット部の前中心線と後中心線を折り線として、レッグ部、フット部の内側面と外側面を重ね合わせ、踵位置で前記後中心線を短軸とする半長円形状または半楕円形状に編地をカットすることで、前記長円形状または楕円形状の踵開口部を形成することができる。足先までのストッキング状編地においては、土踏まず付近の所定位置で前記重ね合わせた編地を編地横方向に略直線状にカットすることで足先開口部を形成することができる。前記足先開口部の周縁も踵開口部と同様、切りっぱなし状態とすることができるが、編地を足先開口部の周縁で折り返して縫着してもよいし、シングルウエルトやダブルウエルト等の端末組織から足先開口部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0018】
前述したように、本発明の下肢用衣類、特にトレンカは熱融着弾性糸を含む糸で編成され該熱融着弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した編地、又は熱合着弾性糸を含む糸で編成され該熱合着弾性糸を熱合着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地からなるため、足先開口部や踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなしの状態であっても端末からほつれが生じず強度低下を防止できる。したがって、開口部の周縁で編地を折り返して縫着する等の作業が不要となり製造が容易となると共に、縫着によるごろつき感もないため快適な着用感を得ることができる。特に本発明では、非着用時における前記踵開口部の形状を、編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状として前記踵開口部の周縁にRを持たせているため、着用によって前記踵開口部の周縁に引張力が加えられてもほつれの発生を効果的に防止して、繰り返し着用に耐えうる強度を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の下肢用衣類(トレンカ)の着用状態を示す概略斜視図である。
【図2】下肢用衣類(トレンカ)の後面側を示す概略平面図である。
【図3】(A)は踵開口部が形成されていないストッキング状編地の概略平面図(後面側)であり、(B)踵開口部のカットラインを示す要部拡大図である。
【図4】従来例を示す図である。
【図5】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の下肢用衣類(トレンカ)の実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態のトレンカ1は、図1に示すように、履き口部2に連続するパンティ部3と、該パンティ部3に連続し足首から脚の付け根までを覆う一対のレッグ部4と、該レッグ部4に連続し足首から先端側を覆うフット部5からなる。フット部5には、踵を露出させる踵開口部6と、土踏まずから先端側の足先を露出させる足先開口部7とを設けている。
【0021】
トレンカ1の編成には、繊度20〜80デシテックス(本実施形態では47デシテックス)のポリウレタン糸にドラフト率2.5〜3.5倍(本実施形態では3倍)、撚り数200〜1000T/m(本実施形態では400T/m)で繊度10〜120デシテックス(本実施形態では78デシテックス)のナイロン糸を巻き付けたシングルカバリング糸を用いている。トレンカ1は、前記シングルカバリング糸を用いて編成した丸編地に、後述するヒートセット加工を施しポリウレタン糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地からなり、踵開口部6の周縁は縫着されずに切りっぱなし状態としている。足先開口部7も周縁を切りっぱなし状態とすることができるが、本実施形態ではダブルウエルトの端末組織から足先開口部7を形成している。
【0022】
踵開口部6の形状は、図2に示すように、非着用状態で編地の縦方向(ウェール方向)を短軸方向、編地の横方向(コース方向)を長軸方向とする長円形状として踵開口部6の周縁にRを持たせ、前記長円の短径D1を0.5〜4cm(本実施形態では1.5cm)、長径D2を3〜9cm(本実施形態では5.6cm)としている。
【0023】
以下、本実施形態のトレンカ1の製造方法について説明する。
まず、ストッキング等の製造に一般的に使用される丸編機の給糸口に前記シングルカバリング糸を給糸して、図3(A)に示されるパンティ部3、レッグ部4およびフット部5を有するストッキング状編地10をプレーン編組織で編成する。ストッキング状編地10は土踏まず位置まで筒状に編成された1対の丸編地を用い、パンティ部3に相当する部分に切れ目を入れて裁断線同士をつき合わせて縫着し一体化させることにより形成している。ストッキング状編地10の下端はダブルウエルトの端末組織として土踏まずから先端側の足先を露出させる足先開口部7を形成している一方、踵開口部は形成していない。
なお、パンティ部3は、補整、引き締め機能等を付加するなど任意の構成としてもよく、レッグ部4も足首に向けて段階的に緊締力を高めていく構成としてもよい。
【0024】
続いて前記ストッキング状編地10にヒートセット加工を行う。ヒートセット温度は100〜130℃(本実施形態では113℃)とし、ヒートセット時間は5〜60秒間(本実施形態では20秒間)としている。該ヒートセット加工により、シングルカバリング糸の芯糸であるポリウレタン糸同士を熱融着させて、ほつれ止め機能を編地に付与している。
【0025】
ヒートセット加工後、図3(B)に示すように、ストッキング状編地10の各レッグ部4ならびにフット部5の前中心線11と後中心線12を折り線として、レッグ部4、フット部5の内側面と外側面を重ね合わせ、踵位置で後中心線12を短軸とした半長円形状(本実施形態ではD1=1.5cm、D2/2=2.8cm)に編地をカットする(カットラインC)。この作業により、長円形状を有し周縁が切りっぱなし状態の踵開口部6が形成され、本実施形態のトレンカ1の製造が完了する。なお、本実施形態では踵開口部6を長円形状としているが、楕円形状としてもよい。
【0026】
前記のように、本実施形態のトレンカ1はシングルカバリング糸を形成するポリウレタン糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した編地からなるため、踵開口部6の周縁が縫着されずに切りっぱなし状態であっても端末からほつれが生じず強度低下を防止できる。したがって、踵開口部6の周縁で編地を折り返して縫着する等の作業が不要となり製造が容易となると共に、縫着によるごろつき感もないため快適な着用感を得ることができる。特に、非着用時における踵開口部6の形状を、編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする長円形状として踵開口部6の周縁にRを持たせているため、着用によって踵開口部6の周縁に引張力が加えられてもほつれの発生を効果的に防止して、繰り返し着用に耐えうる強度を保持することができる。
【0027】
また、本実施形態では、熱融着弾性糸であるポリウレタン糸を芯糸とし該芯糸の周りにナイロン糸を巻き付けたシングルカバリング糸を用い、前記シングルカバリング糸を構成するポリウレタン糸の繊度やドラフト率、ナイロン糸の繊度や撚り数を前記範囲内としている。これにより、薄手で肌触りのよいフィット性に優れた編地を編成できると共にヒートセット加工によりポリウレタン糸同士の熱融着を促進してほつれ止め機能を高めることができる。
さらに、前記のように、踵開口部6の長円形状の短径を0.5〜4cm、長径を3〜9cmとすることで、前記薄手の編地からなるトレンカ1の踵開口部6周縁に引張力が加えられてもほつれの発生が効果的に防止され、土踏まずや足首とのフィット感も向上する。
【符号の説明】
【0028】
1 トレンカ
2 履き口部
3 パンティ部
4 レッグ部
5 フット部
6 踵開口部
7 足先開口部
10 ストッキング状編地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着弾性糸を含む糸で編成され該熱融弾性糸を熱融着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地、又は熱合着弾性糸を含む糸で編成され該熱合着弾性糸を熱合着させてほつれ止め機能を付与した伸縮性編地からなることを特徴とする下肢用衣類。
【請求項2】
請求項1に記載の下肢用衣類が、足先と踵を露出させて着用するトレンカであって、足先を露出させる足先開口部および踵を露出させる踵開口部のうち、少なくとも前記踵開口部の周縁が縫着されずに切りっぱなしの状態とされ、非着用時における前記踵開口部の形状は編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状であることを特徴とする下肢用衣類。
【請求項3】
請求項2に記載の下肢用衣類が、パンティ部と該パンティ部に連続する一対のレッグ部およびフット部を有し足先と踵を露出させて着用するトレンカであることを特徴とする下肢用衣類。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の下肢用衣類が、非着用時における前記踵開口部の形状は編地の縦方向を短軸方向、編地の横方向を長軸方向とする楕円または長円形状として前記踵開口部の周縁にRを持たせているトレンカであることを特徴とする下肢用衣類。
【請求項5】
ストッキング状の編地をシングルカバリング糸を用いて編成し、該編地に100〜130℃で5〜60秒間ヒートセット加工を行った後、編地をカットして周縁が切りっぱなし状態の開口部を形成している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の下肢用衣類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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