説明

不快なビタミン臭が抑制された飲食品

【課題】 不快なビタミン臭が抑制された飲食品を提供すること、並びに、ビタミン配合飲食品が有する不快なビタミン臭を効果的に抑制する方法を提供することである。
【解決手段】 コーヒー豆を酵素を用いて加水分解処理し、不溶物を除去後加水分解物を吸着剤と接触させて精製して得られるキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物を添加したことを特徴とする不快なビタミン臭が抑制された飲食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不快なビタミン臭が抑制された飲食品並びにビタミン配合飲食品が有する不快なビタミン臭を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の健康指向の高まりから、ビタミン類を含んだ各種の健康食品が市販されている。例えばビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等種々のビタミン又はビタミン高含有の商品が上市され、各種の機能効能が謳われているが、そのビタミン臭に起因して、対象となる消費者は成人男子に偏る傾向がある。また近年のストレス社会において、栄養ドリンク剤などは、そのリフレッシュ効果により愛用されるものであるが、やはり成分として含まれるビタミン由来のビタミン臭が、消費拡大に至らない要因の一つと考えられる。
【0003】
このような食品や医薬品のビタミン臭は、その商品価値を低下させるため、ビタミン臭をマスキングする方法が研究されている。これらのビタミン臭のマスキング方法としては、例えば、没食子酸のような多価フェノール化合物を水溶性ビタミン含有水溶液に添加する方法(特許文献1)、トロピカル系香料を使用する方法(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、上記方法では、ビタミン臭が完全には抑制されなかったり、食品や医薬品の味を変化させてしまうなどの問題点があり、更なる技術の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−155756号公報
【特許文献2】特開平11−12159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、不快なビタミン臭が抑制された飲食品を提供すること、並びに、ビタミン配合飲食品が有する不快なビタミン臭を効果的に抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記従来技術の問題点を解決すべく鋭意研究した結果、キナ酸あるいはキナ酸を含むコーヒー豆の加水分解物が、食品や医薬品の不快なビタミン臭を顕著に抑制することを見い出し、本発明を完成した。すなわち、本発明はキナ酸からなるビタミン臭抑制剤である。さらに本発明は、コーヒー豆を加水分解処理し、加水分解処理物を精製して得られるキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物からなるビタミン臭抑制剤である。本発明のビタミン臭抑制剤は、コーヒー豆を酵素を用いて加水分解処理し、不溶物を除去した後、加水分解物を吸着剤と接触させて精製するか、あるいはコーヒー豆をアルカリ加水分解処理し、加水分解処理物を酸で中和した後イオン交換膜電気透析法により脱塩して精製することにより得られる。さらに本発明は、上記ビタミン臭抑制剤を含有することを特徴とする食品又は医薬品である。本発明者らは、前にキナ酸を含むコーヒー加水分解物の添加により有機酸を含有する飲食品の酸味を和らげ、渋味や苦味を改善する方法を提案したが(特開平9−94080号公報)、キナ酸またはキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物が飲食品の不快なビタミン臭を抑制することは知られていない。
【発明の効果】
【0007】
本発明のビタミン臭抑制剤をビタミン臭を有する食品又は医薬品に添加することにより、不快なビタミン臭を抑制することができる。本発明のビタミン臭抑制剤は少量の添加で効果を奏するので食品や医薬品の味に影響を与えることなく不快なビタミン臭を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明において、ビタミン臭抑制剤としてキナ酸を用いる場合、キナ酸には特に限定はなく、市販のものが使用される。本発明において、ビタミン臭抑制剤としてコーヒー加水分解物を用いる場合、製造に供するコーヒー豆は、産地や品種などに制限されることなく任意の豆が用いられ、生であっても焙煎したものであってもよく、通常、粉砕して用いられる。本発明のビタミン臭抑制剤の調製に際して、酵素による加水分解を行う場合は、コーヒー豆を粉砕し、水又は水溶性溶媒により抽出し、抽出液に酵素を加えて加水分解処理するのが望ましい。
【0009】
水溶性溶媒としてはメタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン等の溶媒が例示され、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができ、必要に応じて水溶液の形で使用される。抽出法は一般に用いられる条件で可能であり、特に限定されるものではないが、抽出溶媒の量はコーヒー豆の1〜30倍量が用いられ、好ましくは5〜20倍量が用いられる。抽出の温度及び時間は任意に定めることができ、特に限定されるものではないが、50〜100℃にて1〜24時間、好ましくは2〜8時間が適当である。
【0010】
抽出液は不溶物を除去した後、必要に応じて濃縮工程を経て、酵素分解される。得られた抽出液が水抽出液の場合はそのまま、水溶性溶媒を含む場合は濃縮等により水溶性溶媒の量を5%以下にした後、酵素処理を行うことが望ましい。酵素分解にはタンナーゼ又はクロロゲン酸エステラーゼが用いられる。利用できるタンナーゼの種類としては特に限定されるものではなく、麹菌などの糸状菌、酵母、細菌などの微生物、特に Aspergillus属や Penicillium属から産生されるタンナーゼを挙げることができるが、好ましくは Aspergillus属、特に好ましくはAspergillus oryze から産生されるタンナーゼが用いられる。利用できるクロロゲン酸エステラーゼの種類についても特に限定されるものではなく、Aspergillus属、Penicillium属、Botrytis属などの糸状菌により産生されるものを挙げることができるが、好ましくは Aspergillus属、特に好ましくは Aspergillus japonics や Aspergillus niger から産生されるクロロゲン酸エステラーゼが用いられる。これらの酵素は、キッコーマン株式会社より入手することもできる。また、これらの酵素は各種の固定化方法により固定化したものを使用することで、更に高い効率を得ることも可能となる。酵素分解の条件は特に限定されるものではないが、好ましくは30〜50℃で1〜48時間、更に好ましくは35〜45℃で2〜24時間が適当である。
【0011】
酵素分解物は不溶物を濾過除去後、吸着剤に接触することにより、未反応のクロロゲン酸、副生成物のカフェー酸、或いはカフェイン等の夾雑物を除去することにより精製される。吸着剤の種類としては、高分子樹脂系吸着剤であれば特に限定されるものではなく、例えばアンバーライトIR(オルガノ株式会社)のような陽イオン交換樹脂、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤ダイヤイオンHP(三菱化学株式会社)などが挙げられ、特に好ましくはダイヤイオンHP−20が用いられる。これら樹脂に接触させる方法はバッチ式、カラム式いずれでも良いが、生産規模ではカラム方式の方が一般的である。得られた液状組成物はそのままでビタミン臭抑制剤として使用できるが、好ましくは減圧濃縮、凍結乾燥などにより溶媒を除去し、粉末状として目的のビタミン臭抑制剤を得る。
【0012】
本発明のビタミン臭抑制剤の調製に際して、アルカリ加水分解を行う場合は、コーヒー豆を微粉砕し、これにアルカリ水溶液を加えて60〜90℃で10〜60分間加熱攪拌す
る。アルカリ水溶液としては、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの水溶液が用いられ、好ましくは水酸化カルシウムが用いられる。加水分解後、反応液に、塩酸、硫酸、蓚酸、リン酸などの酸を加えて中和処理する。中和処理した加水分解液をイオン交換膜電気透析装置にかけ、中和により生成した塩を除去する。脱塩は陽イオン交換膜分画分子量100、300、好ましくは300相当膜、あるいは陰イオン交換膜分画分子量100、300、好ましくは100相当膜を用いて行うのが望ましい。得られた液状組成物はそのままでビタミン臭抑制剤として使用できるが、好ましくは減圧濃縮、凍結乾燥などにより水を除去し、粉末状として目的のビタミン臭抑制剤を得る。
【0013】
かくして得られたビタミン臭抑制剤には、コーヒー豆に含有されていたクロロゲン酸の加水分解物であるキナ酸の他、単糖類、アミノ酸等が含まれており、キナ酸、単糖類の含有率はそれぞれ約30〜50重量%、20〜40重量%である。本発明のビタミン臭抑制剤は、キナ酸自体よりも、コーヒー加水分解物、特に酵素による加水分解物の効果が優れているが、これはキナ酸と他の成分の相乗効果によるものと考えられる。
【0014】
本発明のビタミン臭抑制剤は、ビタミン臭を有する食品又は医薬品に少量添加すれば、不快なビタミン臭を抑制することができる。本発明により抑制されるビタミン臭は、ビタミンB1、B2、B6、B12などのビタミンB群、ビタミンC、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビオチンなどの不快な臭気である。これらのビタミン臭は、ビタミンB1自体の分解で生成した含硫化合物、あるいはビタミン類相互の反応で生じた化合物が原因であると言われている。
【0015】
本発明のビタミン臭抑制剤は、上記ビタミン類が配合された飲食品や医薬品に適用され、その例としては、栄養補助食品としてのサプリメント、ニアウォーターのような飲料、クッキー、ビスケット、ゼリーなどに配合した栄養バランス食品、医薬部外品のドリンク剤、ビタミン剤、胃清涼剤等が挙げられる。
【0016】
本発明のビタミン臭抑制剤は直接または水、エタノールのような適当な溶剤に溶かして飲食品および医薬品に添加される。添加量には特に限定はないが、通常飲食品等に対し0.00001〜0.0005重量%、好ましくは0.00003〜0.0001重量%の添加量とすることが適当である。
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない
【実施例】
【0018】
[実施例1]
コーヒー生豆500gを微粉砕した後、70重量%エタノール水溶液5000mlを加え、2時間加熱還流した。冷却後、遠心濾過器で固液分離し、濾過液をエタノール含量5重量%以下まで減圧濃縮し、タンナーゼ(キッコーマン社製)5000単位(タンナーゼの1単位は30℃の水中においてタンニン酸に含まれるエステル結合を1分間に1マイクロモル加水分解する酵素量である)を加え40℃、3時間攪拌した。処理液を、遠心分離により不溶物を取り除き、合成吸着剤(ダイヤイオンHP−20)500mlを添加し、1時間攪拌した。その後濾過により合成吸着剤を濾別し、濾液を凍結乾燥することにより、成分重量比:キナ酸32%、グルコース16%、フルクトース15%からなるコーヒー豆加水分解物のビタミン臭抑制剤29.9gを得た。
【0019】
[実施例2]
コーヒー生豆500gを微粉砕した後、70重量%エタノール水溶液5000mlを加え、2時間加熱還流した。冷却後、遠心濾過器で固液分離し、濾過液をエタノール含量5重量%以下まで減圧濃縮し、クロロゲン酸エステラーゼ(キッコーマン社製)1000単位
(クロロゲン酸エステラーゼの1単位は30℃の水中において3−カフェオイルキナ酸を1分間に1マイクロモル加水分解する酵素量である)を加え40℃、3時間攪拌した。処理液を、遠心分離により不溶物を取り除き、合成吸着剤(ダイヤイオンHP−20)1000mlを充填したカラムに通導し、溶出してきた液を凍結乾燥することにより、成分重量比:キナ酸32%、グルコース16%、フルクトース15%からなるコーヒー豆加水分解物のビタミン臭抑制剤26.6gを得た。
【0020】
[実施例3]
コーヒー生豆150gを微粉砕した後、水酸化カルシウム45gと水1500gを加え、80℃で30分間加熱攪拌した。室温まで冷却後、固液分離して水溶液を得た。希塩酸を加えてpHを3に調製した後、活性炭脱色を行った。不溶物を濾過にて除去し、濾液を得た。この濾液をイオン交換膜電気透析装置(陽イオン交換膜分画分子量:300、陰イオン交換膜分画分子量:100)にて脱塩処理した後、減圧濃縮し、凍結乾燥することにより成分重量比:キナ酸34%、庶糖28%、単糖類12%、灰分8%、その他からなるコーヒー豆加水分解物のビタミン臭抑制剤13.5gを得た。
【0021】
[試験例1]
下記組成を有する飲料用ビタミンミックス(理研ビタミン株式会社製)の0.02重量%水溶液に、キナ酸(ナカライテスク社)を0.32ppm添加した液を調製した。飲料用ビタミンミックスの0.02重量%水溶液に、上記キナ酸添加液のキナ酸含量として同等となるよう、実施例1及び実施例2の加水分解物を1.0ppm、実施例3の加水分解物を0.9ppm加えた液を調製した。またビタミン臭抑制剤無添加の飲料用ビタミンミックス水溶液を対照液とした。各サンプルについて、訓練されたパネラー6名によりビタミン臭を評価項目として官能評価を行った。評価点は、対照液を4点、ビタミン臭を強く感じたものを7点、ビタミン臭を全く感じなかったものを1点とした。評価結果の平均値を表1に示した。
飲料用ビタミンミックスの組成(製品0.5g当たりの含有量):
ビタミンA 1667IU
ビタミンB1 0.5mg
ビタミンB2 0.57mg
ビタミンB6 0.67mg
ビタミンB12 2μg
ナイアシン 6.67mg
葉酸 0.14mg
ビタミンC 20mg
ビタミンD3 133IU
ビタミンE 6.71mg
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果から、本発明のビタミン抑制剤はビタミン臭を顕著に低減することがわかった。また、本発明のビタミン臭抑制剤において、コーヒー豆加水分解物を用いた場合はキナ酸を用いた場合よりもさらに高い抑制効果が得られる。
【0024】
[実施例4]
ドリンク剤
下記の処方のドリンク剤に、実施例1もしくは実施例2の加水分解物を5ppm、実施例3の加水分解物を4.5ppmまたはキナ酸を1.6ppm加えた液を調製した。またビタミン臭抑制剤無添加のドリンク剤を対照液とした。各サンプルについて、訓練されたパネラー6名によりビタミン臭を評価項目として官能評価を行った。評価点は、対照液を4点、ビタミン臭を強く感じたものを7点、ビタミン臭を全く感じなかったものを1点とした。評価結果の平均値を表2に示した。
処方:
グラニュー糖 150g
ビタミンC 3
クエン酸 2
カフェイン 0.1
ビタミンB6塩酸塩 0.07
ビタミンB2 0.03
炭酸水 750
純水 適量
ドリンクフレーバー 1
計 1000g
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から本発明の抑制剤はビタミン由来の不快臭が抑制され、また苦味、エグ味が改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆を酵素を用いて加水分解処理し、不溶物を除去後加水分解物を吸着剤と接触させて精製して得られるキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物を添加したことを特徴とする不快なビタミン臭が抑制された飲食品。
【請求項2】
飲食品が、ビタミン類が配合された飲食品であることを特徴とする請求項1に記載の飲食品。
【請求項3】
ビタミン類が配合された飲食品が、栄養補助食品又は栄養バランス食品である請求項3に記載の飲食品。
【請求項4】
ビタミン類が、ビタミンB1、B2、B6、B12、ビタミンC、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン、葉酸又はこれらの混合物である請求項2に記載の飲食品。
【請求項5】
コーヒー豆を酵素を用いて加水分解処理し、不溶物を除去後加水分解物を吸着剤と接触させて精製して得られるキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物を飲食品に対し0.00001〜0.0005重量%添加したことを特徴とする飲食品。
【請求項6】
コーヒー豆を酵素を用いて加水分解処理し、不溶物を除去後加水分解物を吸着剤と接触させて精製して得られるキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物を、ビタミン類が配合された飲食品に添加することを特徴とする不快なビタミン臭の抑制方法。
【請求項7】
ビタミン類が配合された飲食品が、栄養補助食品又は栄養バランス食品である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ビタミン類が、ビタミンB1、B2、B6、B12、ビタミンC、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン、葉酸又はこれらの混合物である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
添加量が、飲食品に対し0.00001〜0.0005重量%である請求項6に記載の方法。
【請求項10】
コーヒー豆をタンナーゼ又はクロロゲン酸エステラーゼを用いて加水分解処理し、不溶物を除去後、加水分解物をイオン交換樹脂又はスチレン−ジビニルベンゼン系高分子吸着樹脂と接触させて精製して得られるキナ酸、単糖類及びアミノ酸を含むコーヒー豆加水分解物を、ビタミン類が配合された飲食品に対し0.00003〜0.0001重量%添加することを特徴とする、不快なビタミン臭を抑制する方法。

【公開番号】特開2011−229536(P2011−229536A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152467(P2011−152467)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【分割の表示】特願2000−136971(P2000−136971)の分割
【原出願日】平成12年5月10日(2000.5.10)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】