説明

不織布の嵩回復方法

【課題】嵩を回復する操作が容易であり、また必要とする装置構成も簡易であり、不織布の嵩を増加させるのに要するエネルギー量が少ない不織布の嵩回復方法を提供することにある。
【解決手段】ロール状に巻回されている不織布原反101から不織布10を繰り出し、遠赤外線源と該不織布10との間に、遠赤外線を透過する材料からなる保護プレート3を介在させた状態で、該不織布10に遠赤外線を照射して該不織布10を発熱させ、該不織布10の嵩を増加させて、嵩を回復させる不織布の嵩回復方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布の嵩回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の製造においては、所定の方法に従い製造した不織布をロール状に一旦巻回して保管し、これを別工程へ搬送することがしばしばある。そして別工程において、不織布はロールから繰り出され、所定の製品の製造原料として用いられる。巻回状態にある不織布には大きな巻回圧が加わることから、巻回圧によってその嵩が減じられてしまうという不都合がある。この不都合は不織布が嵩高であるほど顕著である。そして、従来、不織布の嵩回復方法に関して、様々の提案されている。例えば、巻回によって嵩が減少した不織布の厚みを容易に回復させ得る不織布の嵩回復方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
本出願人は先に特許文献1において、捲縮を有する熱可塑性繊維を含み且つロール状に巻回されている不織布原反から不織布を繰り出し、熱可塑性繊維の融点未満で且つ該融点−50℃以上の温度の熱風を不織布にエアスルー方式で0.05〜3秒間吹き付けて該不織布の嵩を増加させる不織布の嵩回復方法を提案している。
【0004】
また、貯蔵または輸送等の目的で合成繊維含有嵩高不織材料用の圧縮性ウエブを薄い厚みの高密度シートに転化することを含む、該圧縮性ウエブの製法(特許文献2)が知られている。
【0005】
特許文献2において、不織材料の繊維を十分に高い結合温度に暴露して、2成分繊維の低軟化点成分を軟化しかつ繊維間接触点を介して嵩高不織材料を形成する工程を含む方法において、繊維に低密度結合を与えるのに十分に高い結合温度に暴露する前に、ウエブの全ての他の成分よりも低い軟化点を有する熱可塑性粘着性繊維をウエブ内に配合し、圧縮下で嵩高不織材料を低軟化点成分の軟化点以下の温度であって、かつ粘着性繊維の軟化点以上の温度にて加熱して、低軟化点成分を溶融することなしに粘着性繊維を軟化させることにより再嵩高化することの可能な、より高密度に結合された暫定的なシート製品を形成方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−137655号公報
【特許文献2】特開平5−222658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の不織布の嵩回復方法では、その装置構成として、熱風発生装置、コンベア又はドラム等を必要としており、装置構成が簡易ではなく、設置スペースもある程度の大きさを要すると考えられる。また、装置を可動するために要するエネルギー量も少なくない。
【0008】
特許文献2記載の方法においては、嵩高不織材料を保管する前に、熱可塑性粘着性繊維をウエブ内に配合する工程が必要となる。また、嵩高不織材料を再嵩高化する際に、赤外線の照射により、粘着性繊維を軟化させて加熱する旨の記載があるが、照射の方法(遠赤外線のヒーターの容量)・照射の条件(被加熱物の搬送速度・照射される時間)など、遠赤外線の照射に関する具体的な状況が何ら記載されていない。
【0009】
従って、本発明の目的は、前述した従来技術の有する欠点を解消しうる長尺状シートの熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ロール状に巻回されている不織布原反から不織布を繰り出し、遠赤外線源と該不織布との間に、遠赤外線を透過する材料からなる保護プレートを介在させた状態で、該不織布に遠赤外線を照射して該不織布を発熱させ、該不織布の嵩を増加させる不織布の嵩回復方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不織布の嵩回復方法によれば、嵩を回復する操作が容易であり、また必要とする装置構成も簡易であり、不織布の嵩を増加させるのに要するエネルギー量が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施態様に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の方法の一実施態様に用いられる装置の模式図が示されている。図1に示す装置1は、繰り出しロール5と、第1遠赤外線照射部Aと、第2遠赤外線照射部Bと、送りロール7と、ガイドロール6a、6b、6c、6dとを備えている。
繰り出しロール5は、不織布の原反101をニップして所定の速度で繰り出す一対のロールを備えている。
【0013】
第1遠赤外線照射部Aには、第1遠赤外線源2aが設けられている。第1遠赤外線源2aは、図1及び図2に示すように、縦長であり、その長手方向を不織布10の搬送方向と一致させて配設されている。第1遠赤外線源2aは、図2に示すように、その断面形状が円形であり、その周面から遠赤外線を輻射(放射)する。遠赤外線は、赤外線(およそ0.7〜1000マイクロメートルの波長を有する)を波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線と3つに区分した場合に、最も長い波長帯の区分に属する赤外線であり、およそ4〜1000マイクロメートルの波長を有する電磁波である。
【0014】
遠赤外線により物質が加熱される機構は以下の通りである。遠赤外線源から、その物質の物性に適した波長を含む遠赤外線を、物質に照射し、吸収させると、物質の分子が励起し、その振動エネルギーにより物質自らが発熱する。遠赤外線を吸収した物質は、瞬時に発熱して昇温する。遠赤外線による物質の加熱は、このような輻射伝熱による。
【0015】
遠赤外線による物質の加熱は、熱媒体を用いないため、例えば、熱風を用いる加熱方法と比べると、空気を加熱する必要がないために、必要とするエネルギー量が少なく且つエネルギーロスも少ないので、熱風を利用する場合と比べて、必要とするエネルギー量は、およそ1/2〜1/3となる。また、装置の寸法も、相対的に小さくなる。
【0016】
遠赤外線源としては、ハロゲンランプ等の金属発熱体を用いるもの、セラミックスをヒーターにより加熱して用いるもの、シーズヒーター、石英管ヒーター等が好ましく用いられる。セラミックスは、金属と比べて遠赤外線の輻射率が高い特徴を有している。
【0017】
遠赤外線は熱を持った物体( HYPERLINK "http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B6%E5%AF%BE%E6%B8%A9%E5%BA%A6" \o "絶対温度" 絶対温度が0Kを超える物体)からは必ず輻射されており、熱線としての性質を有する。また、高い温度の物体ほど短い波長の赤外線を輻射する。装置1における第1遠赤外線源2aは、その表面温度を制御できるようになっており、該表面温度を調節し、不織布10の形成材料の物性に適した波長を含む遠赤外線を輻射できるようになっている。
【0018】
詳述すると、不織布10を構成する繊維は、複数の原子からなる化合物である。該化合物中の原子は、それらの結合状態に特有の振動をしており、その振動と等しい振動数の遠赤外線が照射されると、振動の共鳴が起こって遠赤外線が吸収される。第1遠赤外線源2aは、不織布10の形成材料の物性に適した波長として、不織布10が最も吸収する波長の遠赤外線を輻射するように、その表面温度を調節できるようになっている。
【0019】
前述した原子の結合状態に特有の振動には、複数のモードが存在する場合がある。この場合には、不織布10の形成材料の物性に適した波長が複数存在する。また、不織布10が、複数の種類の化合物から形成されている場合にも、不織布10の形成材料の物性に適した波長が複数存在しうる。そのため、第1遠赤外線源2aは、複数の波長の遠赤外線を輻射できるか、又は所定の波長幅を有する連続波長の遠赤外線を輻射できることが好ましい。
【0020】
遠赤外線は、物質に対して浸透性があるため、不織布10の加熱時には、不織布10の第1遠赤外線源2a側の表面から、不織布10の厚み方向内方まで、好ましくは不織布10の厚み方向中心部まで、更に好ましくは不織布10の反対側の表面まで加熱することができる。
【0021】
また、第1遠赤外線照射部Aには、遠赤外線が照射され発熱している不織布10の温度を測定するための、非接触タイプの温度測定器(図示せず)が備えられている。第1遠赤外線照射部Aは、該温度測定器により不織布10の温度を測定し、第1遠赤外線源2aの表面温度を調節することにより、不織布10の温度が所定の温度以上にならないようになっている。
【0022】
第1遠赤外線照射部Aは、図1及び図2に示すように、反射カバー4aを有し、該反射カバー4aと不織布10との間に第1遠赤外線源2aが位置している。第1遠赤外線源2aは、その長手方向全体に亘って、下方に開口部を有する縦長の反射カバー4aにより覆われている。反射カバー4aは、金属の板から形成されており、その断面形状は、図2に示すように、下底を有さない中空の台形形状である。反射カバー4aは、第1遠赤外線源2aが位置している内側の面が鏡面となっている。
【0023】
その断面形状が円形である第1遠赤外線照射部Aは、その周面全体から遠赤外線を輻射する。第1遠赤外線照射部Aの下方に輻射された遠赤外線は、直接不織布10に照射される。一方、第1遠赤外線源2aから不織布10が位置する下方以外の方向に輻射された遠赤外線は、反射カバー4a内側の鏡面に反射して、不織布10が位置する下方に照射されるようになっており、不織布10の嵩回復が効率的に行なわれる。
【0024】
反射カバー4aは、ステンレス、アルミ等の金属の板から形成されていることが好ましい。また、反射カバー4aの内側の鏡面は、例えば、金属の板がクロムメッキされて形成されていること、又はバフ仕上げにより鏡面が形成されていることが好ましい。
【0025】
反射カバー4aの開口部は、保護プレート3aにより覆われており、第1遠赤外線源2aは、反射カバー4aと保護プレート3aとにより密閉されている。保護プレート3aは、縦長矩形形状であり、その面には開孔を有していない。保護プレート3aは、反射カバー4aの開口縁部と密着して接合されており、反射カバー4aの内側と外側と間の通気が遮断されている。不織布10を装置1に通すと、不織布10からは、塵状の繊維粉が発生し、舞い上がる。しかし、該繊維粉は、反射カバー4aの内側に進入できないので、高温の第1遠赤外線源2aに繊維粉が接触し、該繊維粉が燃焼することが防止されている。
【0026】
保護プレート3aは、遠赤外線の透過係数が高いことが、遠赤外線の吸収によるロスを低減する上で好ましい。また、保護プレート3aは、所定の耐熱性を有することが好ましい。
装置1において、保護プレート3aは、石英から形成されている。石英は、遠赤外線の透過係数が極めて高い材料であり、第1遠赤外線源2aから輻射された遠赤外線を通すことができる。また、第1遠赤外線源2aが有する熱が、反射カバー4a内側の空気又は反射カバー4a自体を介して、保護プレート3aに伝導し、保護プレート3aの温度が上昇するが、石英は、耐熱性に優れ且つ熱膨張係数が極めて低い材料であり、温度上昇による変形がほとんどなく、第1遠赤外線源2aの密閉状態が損なわれないようになっている。
【0027】
保護プレート3aの形成材料としての石英は、天然石英又は合成石英の何れも好ましく用いられる。合成石英としては、例えば東ソー(株)無水合成石英ガラスのグレード「ED-B」が好適である。
【0028】
また、第1遠赤外線照射部Aは、副反射カバーを有し、該副反射カバーと反射カバー4aとの間に不織布10が位置していることも好ましい。前記副反射カバーにより、不織布10を透過した遠赤外線を反射して、反射した該遠赤外線を該不織布10に照射することにより、該不織布10の嵩回復を更に効率的に行なうことができる。前記副反射カバーは、その内側の鏡面部分が、不織布10の方向を向いていて、反射カバー4aと同様の構成を有していることが好ましい。
【0029】
装置1において、遠赤外線源2aの長手方向の長さは、40〜200cm、特に60〜150cmであることが、不織布10を十分に加熱して嵩を回復させる観点及び取り扱い易さの観点から好ましい。
遠赤外線源2aと不織布10との間の長さを、不織布10の一方の面に直交する方向に測定した長さL(図2参照)は、5〜100mm、特に5〜10mmであることが好ましい。
反射カバー4aの開口部の幅W(図2参照)は、50〜200mm、特に100〜150mmであることが、第1遠赤外線源2aから下方以外の方向に輻射された遠赤外線を反射して、不織布10に照射する上で好ましい。
【0030】
遠赤外線源2aと不織布10と間の距離は、小さいほうが不織布10の嵩回復性が良い。ここで、不織布10の搬送において、保護プレート3aが該不織布10と接触するようなことは、搬送抵抗になるため避ける必要がある。また、不織布10を構成する繊維がカールすることも考慮すると、保護プレート3aと不織布10との間の距離は、3〜20mm、特に3〜5mm離れていることが好ましい。
【0031】
第2遠赤外線照射部Bには、第2遠赤外線源2b及び不織布10の温度を測定する温度測定器が設けられている。第2遠赤外線源2bにも、第1遠赤外線源2aと同様に、反射カバー4b及び保護カバー3bそれぞれが備えられている。第2遠赤外線照射部Bにおける第2遠赤外線源2b、前記温度測定器、反射カバー4b及び保護カバー3bそれぞれは、前述した第1遠赤外線照射部Aと同様である。また、第1遠赤外線照射部Aと第2遠赤外線照射部Bとは、仕切られており、第1遠赤外線源2aから輻射された遠赤外線は、第2遠赤外線照射部Bには届かないようになっている。
【0032】
また、装置1は、図1に示すように、4つのガイドロール6a、6b、6c、6dを備えている。不織布10は一方の面及び他方の面を有しており、その一方の面が、第1遠赤外線源2aにより遠赤外線が照射された後、ガイドロール6a、6bにより、その面が反転されて、遠赤外線が照射されていない他方の面に、第2遠赤外線源2bにより遠赤外線が照射される。
遠赤外線が照射された不織布10は、ガイドロール6c、6dにより、再び反転される。
【0033】
送りロール7は、遠赤外線が照射されて嵩が増加した不織布10をニップして所定の速度で、次工程へ送る一対のロールを備えている。
【0034】
次に、以上の構成を有する装置1を用いた本実施態様について説明すると、本実施態様の方法の対象物である不織布10は、図3(a)及び(b)に示すように嵩高な三次元形状のものであり、第1層11及びこれに隣接する第2層12を備えている2層からなる多層構造のものである。第1層11と第2層12とは多数の接合部13において部分的に接合されている。接合部13は全体として菱形格子状のパターンを形成している。接合部13は圧密化されており、不織布10における他の部分に比べて厚みが小さく且つ密度が大きくなっている。接合部13の形状には例えば矩形、線状、星形等があり、図3(a)及び(b)に示す接合部13は円形となっている。
【0035】
不織布10は、前記の菱形格子状のパターンからなる接合部13によって取り囲まれて形成された閉じた領域を多数有している。この閉じた領域において、第1層11は凸状の三次元的な立体形状をなしている。この立体形状をなしている部分はドーム状の形状をしている。一方、第2層12はほぼ平坦な形状となっている。そして不織布10全体としてみると、その第2層12側の外面が平坦であり且つ第1層11側の外面に多数の凸部を有している構造となっている。
【0036】
第1層11は、捲縮を有する熱可塑性繊維(以下、単に捲縮繊維という)を含む層である。捲縮繊維としては、機械捲縮によって二次元的にジグザグ状に捲縮した繊維や、螺旋状に三次元捲縮した繊維などを用いることができる。第1層11は、捲縮繊維100%から構成されていてもよく、或いは捲縮繊維に加えて熱融着性繊維、例えば芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維を含むこともできる。どのような繊維を用いる場合にも、実質的に熱収縮性を有しないか、又は後述する第2層12に含まれる熱収縮性繊維の熱収縮温度以下で熱収縮しないものが用いられる。捲縮繊維はその繊度が1〜11dtex、特に1.5〜7dtexであることが、肌触り、感触及び液透過性の点から好ましい。一方、第2層12は熱収縮性繊維を含む層である。熱収縮性繊維はその繊度が1〜11dtex、特に2〜7dtexであることが、収縮性と液透過性の点から好ましい。
【0037】
不織布10の製造方法及びその構成繊維等の詳細については、本出願人の先の出願に係る特開2002−187228号公報に記載されている。製造方法について簡単に述べると、先ず捲縮繊維を含む繊維原料を用いて第1層のカードウエブを製造する。これとは別に、熱収縮性繊維を含む繊維原料を用いて第2層のカードウエブを製造する。第2層のカードウエブ上に第1層のカードウエブを重ね合わせ、両者を所定パターンからなる接合部において部分的に接合する。接合には例えば超音波エンボスやヒートエンボスが用いられる。次いで、第2層のカードウエブに含まれている熱収縮性繊維の熱収縮開始温度以上で、エアスルー方式によって熱風を吹き付ける熱処理を行い、第2層を熱収縮させると共に接合部によって取り囲まれた閉じた領域に位置する第1層を凸状に突出させ三次元立体形状を形成する。更に、構成繊維の交点を熱融着させる。これによって不織布10が得られる。斯かる製造方法で製造された不織布10は、一旦ロール状に巻回され原反となされて保管される。
【0038】
次に図1に示すように、原反101は装置1における繰り出しロール5よりも上流の位置に配置され、該原反101から不織布10が繰り出される。ロール状に巻回された状態にある不織布10は、巻回圧によってその嵩が減じられている。特に、前述の通り不織布10は嵩高な三次元形状を有していることから、巻回圧による嵩の減少は著しい。この状態の不織布10を、装置1に通すことによってその嵩を回復させる。
【0039】
本発明の不織布の嵩回復方法の本実施態様は、ロール状に巻回されている不織布原反101から不織布10を繰り出し、遠赤外線源と該不織布10との間に、遠赤外線を透過する材料からなる保護プレート3を介在させた状態で、該不織布10に遠赤外線を照射して該不織布10を発熱させ、該不織布10の嵩を増加させて、嵩を回復させるものである。
【0040】
本実施態様について、更に以下に詳述する。
まず、原反101から繰り出された不織布10を、繰り出しロール5により第1遠赤外線照射部Aに所定の速度で搬送する。第1遠赤外線照射部Aにおいて、不織布10は、石英から形成される保護プレート3を介在させた状態で、該不織布10の該一方の面側に位置する遠赤外線源2aから、該一方の面に遠赤外線が照射される。第1遠赤外線源2aから、不織布10が位置する下方以外の方向に輻射された遠赤外線は、反射カバー4により反射され、反射した該遠赤外線が、保護プレート3を通って不織布10に照射される。
物質に対して浸透性がある遠赤外線は、不織布10の第1遠赤外線源2a側の表面から、不織布10の厚み方向内方にまで達し、遠赤外線の照射を受けた不織布10の部分は、所定の温度まで発熱により瞬時に昇温する。
【0041】
次に、一方の面に遠赤外線が照射された不織布10は、ガイドロール6a、6bにより、該一方の面が下方を向き且つ他方の面が上方を向くように反転されて、第2遠赤外線照射部Bに搬送される。第2遠赤外線照射部Bにおいて、遠赤外線が照射されていない不織布10の他方の面側に位置する第2遠赤外線源2bから、該他方の面に遠赤外線が照射される。これにより、遠赤外線の照射を受けた不織布10の部分は、所定の温度まで発熱により瞬時に昇温する。
【0042】
意外にも、この遠赤外線の照射操作によって、嵩が減じられた状態にある不織布10の嵩が増加して、巻回前の嵩と同程度にまで回復することが、本発明者らの検討によって判明した。巻回圧による不織布10の嵩の減少は、捲縮繊維が含まれている第1層11において顕著であるが、前記の遠赤外線の照射操作によって、第1層11の嵩が非常に回復する。このことは、不織布4の嵩の回復は、第1層11に含まれている捲縮繊維の嵩の回復が主たる要因であることを意味する。
【0043】
しかる後、第2遠赤外線源2bにより遠赤外線が照射された不織布10は、ガイドロール6c、6dにより、再び反転された後、送りロール7により所定の速度で次工程へ搬送される。
【0044】
前述した不織布10の嵩回復方法における好ましい各条件は以下の通りである。
不織布10の搬送速度は、不織布10の材質、嵩の減じられている程度等によって異なるが、不織布10が熱可塑性繊維を含む場合には、20〜250m/分、特に25〜150m/分であることが好ましい。
【0045】
第1遠赤外線源2a又は第2遠赤外線源2bそれぞれの表面の温度は、該遠赤外線源の種類、不織布の材質等によって異なるが、遠赤外線源がセラミックヒーターであって、不織布4が熱可塑性繊維を含む場合には、400〜1000℃、特に600〜800℃であることが好ましい。
【0046】
更に詳述すると、不織布10にポリエチレンが含まれている場合には、該ポリエチレンを構成する分子の振動の共鳴が起こって吸収される遠赤外線の波長は、2.3〜3.4マイクロメートルであるので、第1遠赤外線源2a又は第2遠赤外線源2bは、前述した範囲の波長を含む遠赤外線を輻射することが好ましい。具体的には、遠赤外線源がセラミックヒーターである場合には、第1遠赤外線源2a及び第2遠赤外線源2bそれぞれの表面の温度は、400〜1000℃、特に600〜800℃であることが好ましい。
【0047】
不織布10にポリプロピレンが含まれている場合には、該ポリプロピレンを構成する分子の振動の共鳴が起こって吸収される遠赤外線の波長は、2.3〜3.4マイクロメートルであるので、第1遠赤外線源2a又は第2遠赤外線源2bは、前述した範囲の波長を含む遠赤外線を輻射することが好ましい。具体的には、遠赤外線源がセラミックヒーターである場合には、第1遠赤外線源2a及び第2遠赤外線源2bそれぞれの表面の温度は、400〜1000℃、特に600〜800℃であることが好ましい。
【0048】
不織布10にポリエチレンテレフタレートが含まれている場合も同様である。遠赤外線源がセラミックヒーターである場合には、第1遠赤外線源2a及び第2遠赤外線源2bそれぞれの表面の温度は、400〜1000℃、特に600〜800℃であることが好ましい。
【0049】
また、不織布10が、熱処理を受けることにより、長手方向に収縮する性質を有する場合には、繰り出しロール5の周速は送りロール7の周速に対して1〜15%、特に1〜3%速くすることが好ましい。一方、不織布4が、熱処理を受けることにより、長手方向に伸張する性質を有する場合には、繰り出しロール5の周速は送りロール7の周速に対して1〜15%、特に1〜3%遅くすることが好ましい。
尚、不織布4が、熱処理を受けても、長手方向の長さが実質的に変化しない場合には、繰り出しロール5及び送りロール7それぞれの周速を、同じにして良いことはいうまでもない。
【0050】
以上の操作によって、不織布10の嵩(厚み)は熱風の吹き付け前の嵩の約1.5〜2倍にまで回復する。
【0051】
嵩が回復した不織布10は、引き続き次工程である加工工程に付される。この加工工程へ付す場合には、不織布10を巻き取らずに、厚みが回復した状態のままで搬送することが好ましい。加工工程としては、不織布10の用途に応じて様々な工程があるが、その典型的な一例として、生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの吸収性物品の製造工程がある。
【0052】
本発明の不織布の嵩回復方法又は装置1は、前述した実施態様又は実施形態に制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
例えば、本発明の不織布の嵩回復方法では、遠赤外線源の数は、3つ以上設けることも好ましく、該遠赤外線源の数を増やすことにより、不織布10の搬送速度を増加し、生産のスループットを向上することができる。
【0053】
また、本実施態様で用いられた装置1では、第1遠赤外線源2aと第2遠赤外線2bとは、不織布10の流れ方向において、直列に設けられていたが、第1遠赤外線源2aと第2遠赤外線2bとを、不織布10を介在させて、対向するように配置して設けていても良い。また、本実施態様で用いられた装置1では、不織布10の両面側それぞれに位置する遠赤外線源から、該両面それぞれに遠赤外線を照射していたが、不織布10の片側のみに遠赤外線源を有し、該片面のみに遠赤外線を照射するようにしていても良い。
また、本実施態様において、その嵩を回復する不織布としては、従来公知の各不織布を用いることができる。例えばカード機を用いて得られたウエブを、熱処理するエアスルー不織布又はヒートロール不織布、機械的に交絡させるニードルパンチ不織布、水流交絡させるスパンレース不織布等を用いることができる。
更に、装置1において、遠赤外線源と不織布との間の距離を、可変となるようにしていても良い。例えば、第1遠赤外線源2a又は第2遠赤外線2bは、それぞれの位置を、不織布10に対して上下方向に移動することができるようになっていることも好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を用いて更に説明する。ただし、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0055】
〔不織布Aの製造〕
(1)第1層の製造
芯がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘がポリエチレンからなる同心の芯鞘型複合繊維(2.4dtex×51mm)を原料として、カード法によってウエブを製造した。この繊維は機械捲縮したものであった。このウエブに145℃±10℃の熱風をエアスルー方式で吹き付けて繊維どうしを融着させた。このようにして、坪量22g/m2のエアスルー不織布からなる第1層を得た。
【0056】
(2)第2層の製造
ポリエチレンとポリプロピレンからなる潜在捲縮性の熱収縮性複合繊維(2.3dtex×51mm、捲縮発現温度約100℃)を原料としてカード法によって坪量22g/m2のウエブからなる第2層を製造した。この潜在捲縮性繊維は、三次元的にコイル状の捲縮を発現するものである。
【0057】
(3)不織布の製造
第1層と第2層とを重ね合わせ、熱エンボス法によって両繊維集合体を部分的に接合し積層体を得た。エンボスによる各接合部の形状は直径2mmの円形であり、エンボスパターンは、千鳥格子状のパターンで点状に配置されている。不織布の長手方向及び幅方向に隣接する各接合部の中心間距離は7mmであった。熱風炉において熱収縮処理を行った。これによって第2層に含まれる潜在捲縮性繊維を捲縮させて各繊維集合体をその面内方向に収縮させた。その結果、第1層の繊維集合体から形成される第1層においては接合点間において凸部が多数形成され、坪量70g/m2の不織布を得た。得られた不織布をロール状に巻回して原反とした。
【0058】
〔実施例1〜7〕
ロール状に巻回された不織布Aを繰り出し、表1に示す搬送速度で該不織布に遠赤外線を照射し、実施例1〜7とした。実施例1〜7は、図1の装置で実施した。第1遠赤外線源2a及び第2遠赤外線源2bそれぞれの表面温度は630℃であった。第1遠赤外線源2a及び2bは、共に容量1Kw、発熱長660mmのヒーター((株)八光電機製作所、ハイレックスヒーター)を使用した。保護プレート3a、3bと不織布10との間の距離は、5mmであった。繰り出しロール5と送りロール7との周速比は、1:1であった。遠赤外線照射中の不織布Aの温度は、120度以下となるように調節した。遠赤外線の照射後の不織布の厚みを以下の方法で測定した。結果を以下の表1に示す。尚、ロール状に巻回された不織布Aの原反を、常温(約23℃)で2ヶ月以上保管しておいた。繰り出された際の不織布Aの坪量は70g/m2であった。
〔比較例〕
不織布Aをロールから繰り出し、遠赤外線を照射せずに表1に示す搬送速度で搬送のみを行い、比較例とした。不織布の厚みを以下の方法で測定した。
【0059】
〔不織布の厚みの測定〕
比較例の厚みは、ロールから繰り出した不織布を1分経過後に測定した。遠赤外線の照射後の厚みは、遠赤外線の照射から1分経過後に測定した。何れの測定も次の方法で行った。
【0060】
先ず、不織布を100mm×80mmの大きさに裁断し測定片を採取する。測定台上に、この測定片よりも小さなサイズ(直径56.4mm)の12.5gのプレートを載置する。この状態でのプレートの上面の位置を測定の基準点Aとする。次にプレートを取り除き、測定台上に測定片を載置し、その上にプレートを再び載置する。この状態でのプレート上面の位置をBとする。AとBの差から0.5cN/cm2圧力下での不織布の厚みを求める。測定機器にはレーザー変位計〔(株)キーエンス製、CCDレーザ変位センサ LK−080〕を用いるが、ダイヤルゲージ式の厚み計を用いてもよい。但し厚み計を用いる場合は測定機器の測定力とプレートの重さを、0.5cN/cm2圧力下に調節する。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示す結果から明らかなように、実施例の方法に従い処理された不織布は、比較例と比べて厚みが回復していることが判る。実施例における不織布の厚みの回復の程度は、搬送速度が低い程、大きくなっている。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の方法に用いられる装置を示す模式図である。
【図2】図2は、図1のX−X線拡大断面図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、本発明の方法の適用対象となる不織布を示す模式図であり、(a)は斜視図であり、(b)は(a)におけるY−Y線断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 装置
2a、2b 遠赤外線源
3a、3b 保護プレート
4a、4b 反射カバー
5 繰り出しロール
6a、b、c、d ガイドロール
7 送りロール
10 不織布
101 不織布の原反
11 第1層
12 第2層
13 接合部
A 第1遠赤外線照射部
B 第2遠赤外線照射部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻回されている不織布原反から不織布を繰り出し、遠赤外線源と該不織布との間に、遠赤外線を透過する材料からなる保護プレートを介在させた状態で、該不織布に遠赤外線を照射して該不織布を発熱させ、該不織布の嵩を増加させる不織布の嵩回復方法。
【請求項2】
前記不織布は一方の面及び他方の面を有しており、該不織布の該両面側それぞれに位置する前記遠赤外線源から、該両面それぞれに遠赤外線を照射する請求項1記載の不織布の嵩回復方法。
【請求項3】
石英から形成される前記保護プレートを用いる請求項1又は2記載の不織布の嵩回復方法。
【請求項4】
反射カバーを有し、該反射カバーと前記不織布との間に前記遠赤外線源が位置しており、
前記反射カバーにより、前記遠赤外線源から輻射された遠赤外線を反射して、反射した該遠赤外線を前記不織布に照射する請求項1〜3の何れかに記載の不織布の嵩回復方法。
【請求項5】
副反射カバーを有し、該副反射カバーと前記反射カバーとの間に前記不織布が位置しており、
前記副反射カバーにより、前記不織布を透過した遠赤外線を反射して、反射した該遠赤外線を該不織布に照射する請求項4記載の不織布の嵩回復方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−204876(P2007−204876A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24269(P2006−24269)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】