説明

不良碍子検出方法及びその装置

【課題】簡単且つ精度良く碍子の分担電圧を測定して不良碍子を検出する。
【解決手段】不良碍子検出装置は、絶縁中空パイプ10と、前記絶縁中空パイプ10の先端部に装着され、碍子の両端の電位差を測定するためのホーン13−1,13−2と、前記ホーン13−1,13−2の近傍にそれぞれ設けられ、前記測定された電位差に対し、前記ホーン13−1,13−2間に生じる計測手順上不要な電位差をキャンセルするためのサブホーン14−1,14−2と、パルス発振部20と、信号処理出力部25,30,40,50とを有している。パルス発振部20は、前記不要な電位差がキャンセルされた電位差を、パルス信号に変換して絶縁中空パイプ10へ送出する。信号処理出力部25,30,40,50は、絶縁中空パイプ10から伝送されてくるパルス信号を受信し、前記電位差に対応する分担電圧を算出し、前記分担電圧の適正を判断し判断結果を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線等における不良碍子の検出を行うための不良碍子検出方法とその不良碍子検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線等に設けられる碍子の不良検出方法の1つとして、例えば、下記の特許文献等に記載されているように、複数枚の碍子が連結された碍子連において、各碍子の両端のキャップ金具間に接触子である一対のホーンを接触して、碍子の分担電圧を測定することにより、碍子本体の良否を判定する方法が知られている。この不良碍子検出方法では、碍子連の両端に掛かる電圧は各碍子に一定の分担電圧となって現れるが、劣化して不良となった碍子があると、その碍子の分担電圧は他の正常な碍子の分担電圧に比べ小さく検出されるので、碍子の不良検出が可能になる。
【0003】
【特許文献1】特開平3−176670号公報(特許第2854352号公報)
【特許文献2】特開平5−281286号公報
【0004】
特許文献1に記載された音響パルス式の不良碍子検出方法では、測定対象である碍子連における個々の碍子の両端に一対のホーンを接触させてその分担電圧を測定し、その測定データを元にパッシェン曲線を描いて、曲線の様子から不良碍子の判定を行っている。この不良碍子検出方法を用いた不良碍子検出装置では、碍子の分担電圧をアナログ式の音響パルス発振部において放電管の繰り返し放電を発生させ、スピーカーでその繰り返し放電を音響パルス信号に変換する。音響パルス信号は、不良碍子検出装置を構成している本体パイプの中を伝搬し、パイプの末端にある受信変換部で電気信号に変換され、その変換信号の電圧がアナログ式メータで計測され、分担電圧が把握できる構成になっている。
【0005】
このような不良碍子検出装置を用いて一連の碍子の分担電圧を測定する際には、例えば、1枚の碍子の両端に一対のホーンを接触させ、アナログ式メータに表示される測定値を目で確認し、測定値を他の作業員に呼称し、それを受けた作業員が測定値を台帳に記録する。1枚目の碍子の測定が終了したら、同様の操作を順次行うことにより、全ての碍子を測定する。
【0006】
このように、不良碍子検出装置は、その用途上送電線等の高所で使われるため、作業に要する人員は測定者、メータ読み取り者、及び記録者の3名必要である。又、分担電圧はアナログ式メータを読み取るため、読み取り誤差が発生することがあり、更に、測定後のパッシェン曲線の作成及び報告書の作成に手数を要する。
【0007】
これに対し、特許文献2に記載された不良碍子検出装置では、碍子の両端に一対のホーンを接触させて検出回路により絶縁抵抗を測定し、その検出回路の出力電圧に応じた周波数の発信信号を発信回路から発信する。受信回路では、その発信信号を空間をおいて受信すると共に、その受信信号をモニタ用スピーカにより音声に変換して出力する構成になっている。このように、検出回路で検出された絶縁抵抗値は、発信回路により外部へ送信されるため、安全に計測を行うことができる。しかも、モニタ用スピーカによって不良表示音が発生されるので、音の聴取により確実に不良碍子を検出できる。そのため、少なくとも2名の作業員にて簡易に不良碍子を検出できるという利点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の特許文献2の技術では、特許文献1の技術に比べて、少ない作業員にて簡易に不良碍子を検出できるという利点があるが、音の聴取により不良碍子を検出しているので、測定された碍子の劣化程度等といった詳細な測定結果を得ることができない。しかも、測定は、高所の鉄塔等で、足場が不安定な場所であることから、測定作業環境は可能な限り簡易であることが望ましいし、メンテナンスコスト(保守点検費用)の削減の面からも測定人員については1人が望ましいので、改善が望まれていた。
【0009】
そこで、本願の発明者は、一旦測定開始ボタンを操作した後は、操作部に触れることなく、全ての碍子連の測定が終了するまで自動にて一連の測定を行えるような不良碍子検出装置を提案した。
【0010】
しかし、不良碍子検出装置を自動化した場合、碍子連、特にアーキングホーン周囲の強い電界強度による静電誘導によって、碍子にふれていなくても誤動作により測定データが表示されてしまう問題が発生した。これは強電界により、不良碍子検出装置の先端に設けられた一対のホーン間に誘導電圧による電位差が発生するために起こっている。この現象は分担電圧測定の自動計測においては、次の碍子の測定に移る際に測定データがゼロにならないため、前の碍子の測定終了から次の碍子の測定開始に移行しないことがあり、作業効率を低下させる原因になっている。つまり、不良碍子検出装置を自動化した場合、測定中に一対のホーンを測定対象の実運用の碍子に近づけると、周囲には高圧に伴う電磁界が生じていることから、誤動作によってその電圧に装置が反応してしまい、その調整のために作業効率が低下するという弊害が生じていた。
【0011】
従って、作業員1名でも簡単且つ精度良く分担電圧を測定して不良碍子を検出できる不良碍子検出方法及びその装置を実現することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、作業員1名でも簡単且つ精度良く分担電圧を測定して不良碍子を検出できる不良碍子検出方法及びその装置を提供することにある。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の不良碍子検出方法では、第1〜第4の処理を有している。
【0014】
ここで、前記第1の処理では、第1のホーンと、第2のホーンと、前記第1又は第2のホーンの近傍に取り付けられたサブホーンとを用い、前記第1及び第2のホーンを、計測対象である碍子の両端に接触させ、前記第1及び第2のホーン間に生じる計測手順上不要な電位差を前記サブホーンにてキャンセルして、前記碍子の両端の電位差を測定する。前記第2の処理では、前記第1の処理で測定された前記電位差を、その大きさに応じた周期的なパルス信号に変換して送信する。前記第3の処理では、前記送信箇所から所定距離離れた位置において前記パルス信号を受信して前記パルス信号の信号周期を検出し、前記検出した信号周期に基づいて前記電位差に対応する分担電圧を算出する。その後、前記第4の処理では、前記第3の処理で算出された前記分担電圧から、前記分担電圧の適正を判断し判断結果を出力する。
【0015】
特に、本発明の不良碍子検出方法では、前記第1又は第2のホーンの近傍に取り付けられたサブホーンを用い、前記第1の処理において、前記第1及び第2のホーン間に生じる計測手順上不要な電位差をキャンセルし、碍子の両端の電位差を測定することを特徴とする。
【0016】
又、前記目的を達成するために、本発明の不良碍子検出装置では、パルス信号を伝送するための絶縁部材からなる所定の長さの伝送媒体と、第1及び第2のホーンと、サブホーンと、パルス発振部と、信号処理出力部とを有している。
【0017】
ここで、前記第1及び第2のホーンは、前記伝送媒体の一方の端部に装着され、計測対象である碍子の両端に接触させて前記碍子の両端の電位差を測定するためのものである。前記サブホーンは、前記第1又は第2のホーンの近傍において、前記第1又は第2のホーンの軸方向に対して略平行に並設され、且つ前記第1又は第2のホーンと電気的に接続され、前記測定された電位差に対し、前記第1及び第2のホーン間に生じる計測手順上不要な電位差をキャンセルして電位差を生成するためのものである。
【0018】
前記パルス発振部は、前記伝送媒体の一方の端部側に取り付けられ、前記生成された電位差を、その大きさに応じた周期的なパルス信号に変換して前記伝送媒体へ送出するものである。更に、前記信号処理出力部は、前記伝送媒体の他方の端部側に取り付けられ、前記伝送媒体から伝送されてくる前記パルス信号を受信して前記パルス信号の信号周期を検出し、前記検出した信号周期に基づいて前記生成された電位差に対応する分担電圧を算出し、前記算出された分担電圧から前記分担電圧の適正を判断し判断結果を出力するものである。
【0019】
特に、本発明の不良碍子検出装置では、第1及び第2のホーン間に発生する、計測手順上不要な電位差をキャンセルし、真に必要な碍子の分担電圧のみを計測するよう、サブホーンを設けたことを特徴とする。このサブホーンを設ける位置については、計測手順上不要な電位差がキャンセル可能な位置であれば、基本的にどの位置であっても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の不良碍子検出方法及び不良碍子検出装置によれば、第1又は第2のホーンの近傍に取り付けられたサブホーンを用い、前記第1及び第2のホーン間に生じる計測手順上不要な電位差をキャンセルするようにしたので、静電誘導による誤動作を防止できる。その結果、デジタル信号処理等による自動化によって作業性の向上を図ることができ、測定時の人員削減、測定時間の大幅な短縮、測定後の作業の簡素化が可能になり、送電保守作業等の効率向上と経費削減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。但し、以下の図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1における不良碍子検出装置の特徴は、1人の作業員により簡易に測定可能なように、測定した分担電圧の処理をデジタル信号処理により自動化し、分担電圧の数値をデジタル値で読み取る方式にし、更に、個々の碍子の分担電圧測定の開始及び終了を自動化して作業効率の改善を図っている。つまり、一旦測定開始ボタンを操作した後は、操作部に触れることなく、全ての碍子連の測定が終了するまで自動にて一連の測定を行えるような構造にしている。又、測定手法についても、アナログ式からデジタル式に変更している。
【0023】
しかし、上述したように、不良碍子検出装置を自動化した場合、測定中に一対のホーンを測定対象の実運用の碍子に近づけると、周囲には高圧に伴う電磁界が生じていることから、誤動作によってその電圧に装置が反応してしまい、弊害が生じる虞がある。そこで、本実施例1では、その弊害を除去するために、ホーンの先端部に、測定手順上不要な電圧をキャンセルする目的で、サブホーンを設け、これにより、各碍子の分担電圧を、順次滞り無く測定できるようにしている。以下、本実施例1の内容を詳細に説明する。
【0024】
(不良碍子検出装置の全体構成)
図1は、本発明の実施例1を示す不良碍子検出装置における全体の概略の構成図である。更に、図2は、図1の不良碍子検出装置における一部を省略した概略の構成図である。
【0025】
この不良碍子検出装置は、碍子連1を構成する複数枚の碍子1a,1b,1c,・・・のそれぞれの分担電圧を測定して不良碍子を検出する装置であり、パルス信号(例えば、音響パルス信号)を伝送するための絶縁部材(例えば、ガラス繊維入り強化プラスチック(F.R.P)等)からなる所定の長さの伝送媒体(例えば、絶縁中空パイプ)10を有している。絶縁中空パイプ10は、好ましくは、数段(例えば、3段)式に伸び縮みする構造にすれば、取り扱いが容易になる。絶縁中空パイプ10の一方の端部である先端部10aには、碍子等で構成された絶縁支持部材11が突設されている。絶縁支持部材11の先端には、回転軸部材12を介して、電極棒からなる第1のホーン13−1の後端が取り付けられている。第1のホーン13−1の先端は、回転軸部材12を支点にして所定の角度だけ上下に回転し、各碍子1a,1b,1c,・・・と接触可能な構造になっている。
【0026】
又、先端部10aの外周面には、導電テープ等が巻装されて所定の長さの第1のサブホーン14−1が形成されている。第1のサブホーン14−1の後端側に位置する絶縁中空パイプ10の外周箇所には、導電性を有するリング状の固定部材15が取り付けられ、この固定部材15に、回転軸部材16が突設されている。回転軸部材16には、略逆L字形の電極棒からなる第2のホーン13−2の後端が取り付けられている。第2のホーン13−2の後端は、回転軸部材16及び固定部材15を介して第1のサブホーン14−1と電気的に接続されており、この第2のホーン13−2の先端が、回転軸部材16を支点にして所定の角度だけ上下に回転し、各碍子1a,1b,1c,・・・と接触可能な構造になっている。
【0027】
略逆L字形の第2のホーン13−2における水平部分の近傍には、この水平部分の軸方向に対して略平行に、電極棒からなる第2のサブホーン14−2が配設されている。第2のサブホーン14−2は、ホーン間接続ケーブル17により、第1のホーン13−1と電気的に接続されている。第2のサブホーン14−2の全体と、この第2のサブホーン14−2に並設される第2のホーン13−2の一部とは、樹脂等で形成された絶縁カバー18により覆われている。絶縁カバー18は、第2のサブホーン14−2と第2のホーン13−2との間を電気的に絶縁するものである。
【0028】
本実施例1の第1の特徴である第1及び第2のサブホーン14−1,14−2は、第1のホーン13−1と第2のホーン13−2との間に発生する、計測手順上不要な電位差をキャンセルし、真に必要な碍子1a,・・・の分担電圧のみを計測するために設けられている。第1及び第2のサブホーン14−1,14−2を設ける位置については、計測手順上不要な電位差がキャンセル可能な位置であれば、基本的にどの位置であっても良い。試験等の結果、第2のサブホーン14−2は、第2のホーン13−2の水平部分の近傍であって、且つ、その水平部分に対して略平行に設けることが好ましい。
【0029】
前記第1の特徴のように、第2のサブホーン14−2を第2のホーン13−2の近傍に設けることによって、計測手順上不要な電位差をキャンセルする効果は優れるが、その一方で、第2のサブホーン14−2と第2のホーン13−2との間でスパークが発生するという弊害が懸念される。この懸念を完全に除去することを目的とし、本実施例1の第2の特徴として、第2のサブホーン14−2と第2のホーン13−2との間に、絶縁物を介在させている。具体的には、絶縁カバー18にて第2のサブホーン14−2及び第2のホーン13−2を覆うようにし、第2のサブホーン14−2と第2のホーン13−2との間を確実に絶縁する構造になっている。
【0030】
絶縁中空パイプ10の先端部10a内には、パルス発振部20が内蔵され、更に、その絶縁中空パイプ10の後端部10b側には、パルス受信部(例えば、マイクロホン)25、信号処理部30、表示部40及び操作部50により構成される信号処理出力部が装着されている。
【0031】
パルス発振部20は、第1、第2のホーン13−1,13−2及び第1、第2のサブホーン14−1,14−2と電気的に接続され、第1のホーン13−1と第2のホーン13−2との間にホーン間電圧(即ち、分担電圧)が生じた場合に、そのホーン間電圧により駆動され、そのホーン間電圧の大きさに応じた周期的なパルス信号(例えば、音響パルス信号)を発信する回路である。このパルス発振部20のグランドGND部が、例えば、第1のサブホーン14−1として使用されている。
【0032】
マイクロホン25は、絶縁中空パイプ10の後端部10b側に内蔵され、この絶縁中空パイプ10内から伝送されてくる音響パルス信号を受信して電気的なパルス信号に変換する音響/電気変換器であり、この出力側に、信号処理部30が接続されている。信号処理部30は、前記電気的なパルス信号の信号周期を検出し、この検出された信号周期に基づいて補正された分担電圧を算出する回路であり、デジタル信号処理回路により構成され、この出力側に、表示部40が接続されている。
【0033】
表示部40は、絶縁中空パイプ10の外周面に装着され、前記算出された分担電圧を表示したり、その分担電圧から碍子1a,・・・の正常/不良を判定してその判定結果を表示したり、あるいは、測定対象碍子情報(例えば、鉄塔番号等)の設定値の表示等を行う回路であり、デジタル信号処理回路により構成されている。この表示部40には、操作部50が接続されている。操作部50は、絶縁中空パイプ10の外周面に装着され、分担電圧の測定開始、取消の操作や、測定対象情報の設定等を行う操作ボタンにより構成され、そのボタン操作は表示部40において処理される。
【0034】
(不良碍子検出装置の回路構成)
図3は、図1の不良碍子検出装置を示す概略の回路構成図である。
絶縁中空パイプ10の先端部10aに内蔵されたパルス発振部20は、測定対象の碍子1a,・・・に接触されたホーン13−1,13−2,14−1,14−2からのホーン間電圧を直流に変換する分担電圧整流部21を有し、この分担電圧整流部21の出力側に、パルス発振部22が接続されている。パルス発振部22は、分担電圧整流部21の出力電圧に応じた周期的なパルス信号を発生するための回路であり、電圧制御発振器等で構成され、この出力側に、スピーカ23が接続されている。スピーカ23は、パルス発振部22から出力された電気的なパルス信号を音響パルス信号に変換して絶縁中空パイプ10内へ送出する電気/音響変換器である。
【0035】
絶縁中空パイプ10の後端部10b側には、マイクロホン25が内蔵され、このマイクロホン25の出力側に、信号処理部30が接続されている。信号処理部30は、マイクロホン25から出力された電気的なパルス信号を最適な音声波形にするためのフィルタ31及び増幅器(以下「アンプ」という。)32を有し、このアンプ32の出力側に、マルチバイブレータ33が接続されている。マルチバイブレータ33は、アンプ32の出力信号から方形波のパルス信号を生成するための発振器であり、この出力側に、表示部40が接続されている。
【0036】
表示部40は、装置全体をプログラム制御するマイクロプロセッサ(以下「マイコン」という。)41と、測定結果、測定対象情報等を表示するための発光ダイオード(LED)等からなる表示部本体42と、地上表示ユニットと通信を行うための無線アンテナ43と、電源供給用のバッテリ44等とを有している。マイコン41は、計測を自動的に行うための制御プログラムを記憶するプログラムメモリ41aと、分担電圧算出結果や碍子の良否判定結果等を記憶するデータ記憶部(例えば、データメモリ)41bと、マルチバイブレータ33から出力されるパルス信号のパルス間隔を入力し、予め設定されたパルス間隔対分担電圧の相関から、分担電圧値を算出する図示しない演算部と、装置全体を制御するための図示しない制御部等とを有している。このマイコン41に対して、図示しないシリアルインタフェース部を介して、外部から例えばパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)を接続することにより、このパソコンによってマイコン41のデータを取り込むことが可能な構成になっている。
【0037】
(サブホーンによる静電誘導影響の低減原理)
本実施例1の特徴は、作業性が損なわれないように静電誘導の影響による誤動作の問題を解決するため、少なくとも、第2のホーン13−2側に、周囲の電界の影響による誘導電圧の検出用補助電極である第2のサブホーン14−2を取り付け、その第2のサブホーン14−2をホーン間接続ケーブル17によって第1のホーン13−1に接続している。これにより、周囲の電界の影響による第1及び第2のホーン13−1,13−2間に発生する誘導電圧による電位差を軽減し、碍子1a,・・・に触れていなくても表示部本体42にデータが表示されてしまう現象をキャンセルするようにしている。なお、第1のホーン13−1側に、第1のサブホーン14−1を取り付け、その第1のサブホーン14−1を回転軸部材16を介して第2のホーン13−2に接続すれば、キャンセル効果が大きくなる。この原理を以下説明する。
【0038】
図4は、図1中のサブホーンの原理を説明するための図である。
第1及び第2のホーン13−1,13−2が碍子に接触していない場合(A)と、接触している場合(B)とに分けて説明する。
【0039】
(A) 第1及び第2のホーン13−1,13−2が碍子に接触していない場合
図4に示すように、第1のホーン13−1の電位をV1、第2のホーン13−2の電位をV2、第1のサブホーン14−1の電位をV3、第2のサブホーン14−2の電位をV4とすると、次の式(1)が成り立つ。
V1=V4、 V2=V3 ・・・(1)
【0040】
理想的には、V2=V4、V1=V3にすれば、V1=V2となって第1及び第2のホーン13−1,13−2は同電位になり、電位差がゼロになって誤作動は現れない。V2=V4、V1=V3の条件にするには、それぞれの第1、第2のホーン13−1,13−2、及び第1、第2のサブホーン14−1,14−2の空間位置、面積が同じであることが必要であるが、物理的に不可能である。そこで、本実施例1では、|V2−V4|と|V1−V3|の値が、音響パルス信号が出ない位にまで値が近づくように、電位V4,V3のサブホーン14−2,14−1の長さを調節している。
【0041】
(B) 第1及び第2のホーン13−1,13−2が碍子に接触している場合
碍子に接触している場合は、V2>V4、V1>V3になり、(V1−V2)の電位差がパルス発振部20に入力されるので、分担電圧の計測が可能になる。但し、分担電圧が低い場合や、サブホーン14−1,14−2だけが極端に碍子の充電部に接近する場合は、V2>V4、V1>V3が成り立たなくなる可能性もあると考えられ、その場合は、|V2−V4|、|V1−V3|の差分が誤差となって現れる。しかし、試験結果からその誤差も小さなものであり、実用的には考慮しなくても良い。
【0042】
図1に示す不良碍子検出装置では、第1及び第2のホーン13−1,13−2の内、第2のホーン13−2は、グランドGND側の第1のサブホーン14−1に接続されており、この第1のサブホーン14−1は第1のホーン13−1に位置的に近い。そのため、第2のサブホーン14−2に誘導される電圧を第1のホーン13−1へ導けば、グランドGND側の第1のサブホーン14−1に誘導される電圧と、第2のサブホーン14−2に誘導される電位との電位差Vbは、第1及び第2のホーン13−1,13−2間に誘導される電位差Vaを軽減する方向に働く。
【0043】
つまり、第1及び第2のホーン13−1,13−2間の電位差をVa、第1及び第2のサブホーン14−1,14−2間の電位差をVb、パルス発振部20の動作電圧をVdとすると、次の式(2)の関係が成り立つとき、誤動作は発生しない。
Va−Vb<Vd ・・・(2)
【0044】
本実施例1では、特に、第2のサブホーン14−2の最適な大きさとサイズ、第1、第2のホーン13−1,13−2とグランドGND側の第1のサブホーン14−1の誘導電圧のバランスが重要であり、これを実験的に求めて静電誘導による影響が発生しても、パルス発振部20が音響パルス信号を出力しないレベルにまで低減している。更に、第1、第2のホーン13−1,13−2が、碍子に接触している場合において、第2のサブホーン14−2とグランドGND側の第1のサブホーン14−1との電位差Vbが不良碍子判定に影響しないレベルにしている。
【0045】
(不良碍子検出方法)
図5は、本発明の実施例1の不良碍子検出装置を用いた不良碍子検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0046】
表示部40に設けられた図示しない電源スイッチを押してバッテリ44により電源を投入すると、装置が初期化された後に起動し、検出動作が開始される(ステップS1)。不良碍子の測定を始める前に、操作部50の設定ボタンを押下して、これから測定を行う碍子の測定対象情報を入力する(ステップS2)。測定対象である碍子連1におけるアース側の碍子1aの両端に第1及び第2のホーン13−1,13−2を接触させ、分担電圧を測定する(ステップS3)。測定された分担電圧は、パルス発振部20内の分担電圧整流部21で直流電圧に整流され、パルス発振部22で分担電圧に応じたパルス信号に変換された後、スピーカ23により音響パルス信号に変換され、絶縁中空パイプ10の先端部10aから後端部10bへ送出される。
【0047】
絶縁中空パイプ10の後端部10bへ送出された音響パルス信号は、マイクロホン25で電気的なパルス信号に変換され、フィルタ31及びアンプ32により最適な音声波形に変換された後、マルチバイブレータ33により一定の方形波のパルス信号に変換されて、表示部40内のマイコン41へ送られる。マイコン41は、マルチバイブレータ33から送られてきたパルス信号のパルス間隔を測定することにより、デジタル的に分担電圧を計測し、計測した分担電圧値が適正か否かを判断し、表示部本体42による表示と音によって作業者に通知する(ステップS4)。例えば、分担電圧の計測時、2枚目以降の碍子に対して、前回計測した分担電圧値に対して所定の範囲内に入っている場合を正常、入っていない場合を不良可能性有りとみなす。計測されたデータは、マイコン41内のデータメモリ41bに自動的に保存され、報告書の作成を支援する。
【0048】
図5の碍子分担電圧の測定結果の例が図6に示されている。この図6には、例えば、碍子連位置情報が「内側」、相別情報が「下相」、起点・終点情報が「若番」の碍子の測定結果が示されている。
【0049】
ステップS4における測定結果が不良可能性有りの場合は、ステップS3へ戻り、再度測定を行う等、測定ミスがないようにする。測定結果が正常の場合は、碍子連1の測定を完了したか否かを判定し(ステップS5)、測定を完了していない場合は、ステップS3へ戻り、アース側からライン側に向かって碍子連数分同様の操作を行う。ステップS5において、碍子連1の測定が完了したと判定された場合は、次の碍子連の測定が有るか否かが判定される(ステップS6)。次の碍子連の測定が有る場合は、ステップS2へ戻り、前記と同様の処理を繰り返す。次の碍子連の測定が無い場合には、不良碍子検出処理を終了する(ステップS7)。
【0050】
(実施例1の効果)
本実施例1の不良碍子検出方法及び不良碍子検出装置によれば、次の(a)〜(c)のような効果がある。
【0051】
(a) 第1、第2のホーン13−1,13−2の近傍に取り付けられた第1、第2のサブホーン14−1,14−2を用い、第1及び第2のホーン13−1,13−2間に生じる計測手順上不要な電位差をキャンセルするようにしたので、静電誘導による誤動作を防止できる。その結果、デジタル信号処理等による自動化によって作業性の向上を図ることができ、測定時の人員削減、測定時間の大幅な短縮、測定後の作業の簡素化が可能になり、送電保守作業等の効率向上と経費削減が期待できる。
【0052】
(b) 操作部50から測定開始の操作指示がマイコン41に入力されると、プログラムメモリ41aに記憶された制御プログラムに従い、計測対象である碍子の枚数分に応じた測定回数だけ測定処理が自動的に行われる構成にしたので、測定開始の操作を行って一旦測定が開始されると、その後は、所定の測定回数(測定対象である碍子の枚数分に応じた測定回数)を終える迄の間、手動の操作が一切不要になる。そのため、作業員は、制御プログラムの測定処理に応じて発生する合図等に従って、測定対象の碍子に順次第1及び第2のホーン13−1,13−2を接触させて測定しさえすれば良いので、測定作業が簡単になる。
【0053】
(c) 従来、例えば、測定した測定値に関しては、対象の碍子を測定している際に表示部に表示される測定値を確認して測定値を記録帳等に記録し、記録を終えた後、次の測定対象の碍子の測定に移行し、この作業を繰り返さなければならないという不利不便さがあった。即ち、測定作業は例えば上空の鉄塔(足場の不安定な危険が伴う場所)等で行われることから、極力簡素であることが望まれるが、従来の測定方式では作業性が悪く、作業人員も複数名必要であるという不利不便さがあった。これに対し、本実施例1では、測定された測定値については測定時にマイコン41内のデータメモリ41bに自動的に記憶されるようになっており、一連の全ての碍子を測定し終えた後に、都合の良い時に、操作部50を操作することにより、表示部本体42で確認が可能となっている。そのため、作業性が良く、作業人員が1名でも作業が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1を示す不良碍子検出装置における全体の概略の構成図である。
【図2】図1の不良碍子検出装置における一部を省略した概略の構成図である。
【図3】図1の不良碍子検出装置を示す概略の回路構成図である。
【図4】図1中のサブホーンの原理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1の不良碍子検出装置を用いた不良碍子検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図5の碍子分担電圧の測定結果の例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 碍子連
1a,1b,1c 碍子
10 絶縁中空パイプ
13−1,13−2 第1、第2のホーン
14−1,14−2 第1、第2のサブホーン
18 絶縁カバー
20 パルス発振部
25 マイクロホン
30 信号処理部
40 表示部
41 マイコン
42 表示部本体
50 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のホーンと、第2のホーンと、前記第1又は第2のホーンの近傍に取り付けられたサブホーンとを用い、前記第1及び第2のホーンを、計測対象である碍子の両端に接触させ、前記第1及び第2のホーン間に生じる計測に不要な電位差を前記サブホーンにてキャンセルして、前記碍子の両端の電位差を測定する第1の処理と、
前記第1の処理で測定された前記電位差を、その大きさに応じた周期的なパルス信号に変換して送信する第2の処理と、
前記送信箇所から所定距離離れた位置において前記パルス信号を受信して前記パルス信号の信号周期を検出し、前記検出した信号周期に基づいて前記電位差に対応する分担電圧を算出する第3の処理と、
前記第3の処理で算出された前記分担電圧から、前記分担電圧の適正を判断し判断結果を出力する第4の処理と、
を有することを特徴とする不良碍子検出方法。
【請求項2】
前記第3及び第4の処理は、デジタル信号処理により実行することを特徴とする請求項1記載の不良碍子検出方法。
【請求項3】
前記第2、第3及び第4の処理は、
測定開始の操作指示が入力されると、予め記憶された制御プログラムに従い、前記計測対象である碍子の分担電圧を自動的に測定し、所定の枚数分だけ測定を繰り返すことを特徴とする請求項2記載の不良碍子検出方法。
【請求項4】
前記第3の処理における前記分担電圧算出結果は、前記制御プログラムに従い、自動的にデータ記憶部に記憶され、
データ出力のための操作指示が入力されると、前記制御プログラムに従い、前記データ記憶部の記憶内容が読み出されて出力されることを特徴とする請求項3記載の不良碍子検出方法。
【請求項5】
パルス信号を伝送するための絶縁部材からなる所定の長さの伝送媒体と、
前記伝送媒体の一方の端部に装着され、計測対象である碍子の両端に接触させて前記碍子の両端の電位差を測定するための第1及び第2のホーンと、
前記第1又は第2のホーンの近傍において、前記第1又は第2のホーンの軸方向に対して略平行に並設され、且つ前記第1又は第2のホーンと電気的に接続され、前記測定された電位差に対し、前記第1及び第2のホーン間に生じる計測手順上不要な電位差をキャンセルするためのサブホーンと、
前記伝送媒体の一方の端部側に取り付けられ、前記測定された電位差の大きさに応じた周期的なパルス信号に変換して前記伝送媒体へ送出するパルス発振部と、
前記伝送媒体の他方の端部側に取り付けられ、前記伝送媒体から伝送されてくる前記パルス信号を受信して前記パルス信号の信号周期を検出し、前記検出した信号周期に基づいて前記測定された電位差に対応する分担電圧を算出し、前記算出された分担電圧から前記分担電圧の適正を判断し判断結果を出力する信号処理出力部と、
を有することを特徴とする不良碍子検出装置。
【請求項6】
前記伝送媒体は、絶縁中空パイプであることを特徴とする請求項5記載の不良碍子検出装置。
【請求項7】
請求項6に記載された不良碍子検出装置は、更に、
前記サブホーンの全体と前記サブホーンに並設される前記第1又は第2のホーンの一部とを被覆すると共に、前記サブホーンと前記第1又は第2のホーンとの間を電気的に絶縁するための絶縁カバーを有することを特徴とする不良碍子検出装置。
【請求項8】
前記パルス発振部は、前記絶縁中空パイプの一方の端部に内蔵されて、前記第1及び第2のホーンと電気的に接続され、前記第1及び第2のホーン間電圧が生じた場合、前記ホーン間電圧により駆動され、前記ホーン間電圧の大きさに応じた周期的な音響パルス信号を発振する構成になっており、
前記信号処理出力部は、
前記絶縁中空パイプの他方の端部に内蔵され、前記絶縁中空パイプから伝送されてくる前記音響パルス信号を受信して電気的なパルス信号に変換するパルス受信部と、
前記絶縁中空パイプの他方の端部に内蔵され、前記電気的なパルス信号の信号周期を検出し、前記検出した信号周期に基づいて前記測定された電位差に対応する分担電圧を算出する信号処理部と、
前記絶縁中空パイプの外周面に装着され、前記算出された分担電圧を表示すると共に、前記算出された分担電圧から前記分担電圧の適正を判断し判断結果を表示する表示部と、
前記絶縁中空パイプの外周面に装着され、少なくとも、前記分担電圧の測定開始及び測定対象情報を設定するための操作部と、
を有することを特徴とする請求項6又は7記載の不良碍子検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−70638(P2009−70638A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236120(P2007−236120)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000220642)東京電設サービス株式会社 (21)
【出願人】(000130835)株式会社サンコーシヤ (64)
【Fターム(参考)】