説明

不飽和有機珪素化合物の重合を阻止する方法

本発明の対象は、一般式(1)H2C=C(R1)[C(O)O]w(O)x−(R2y−Si(R3z(OR43-z(1)で示される不飽和有機珪素化合物(S)を製造するかまたは取り扱う際に重合を阻止する方法であり、この場合R1、R2、R3、R4、w、x、yおよびzは、それぞれ請求項1に記載された意味を有し、この場合、前記の製造または取扱いの少なくとも1つの工程は、工業用装置(A)中で実施され、この装置の有機珪素化合物(S)と接触する表面は、少なくとも70%が鉄不含の材料からなり、この場合、材料が鉄1質量%未満を含有する場合には、この材料は、鉄不含と呼ばれ、この場合工業用装置(A)は、少なくとも200 lの充填容量を有するバッチ法のための装置であるか、または少なくとも15 l/hの通過量を有する連続的方法のための装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和有機珪素化合物の製造または取扱いの際に不飽和有機珪素化合物の重合を阻止するための工業的方法に関する。
【0002】
不飽和有機官能基、例えばビニル基、アクリル基またはメタクリル基を有する有機珪素化合物は、無機材料と有機材料との間の付着助剤として、例えばガラス繊維のためのサイジングに、有機ポリマーにおける架橋剤として、または充填剤の処理のために、広範囲に使用されている。
【0003】
この種の化合物のための製造方法は、例えばSiH結合を有するシランと多重不飽和有機化合物との間の、金属化合物によって促進される反応を包含する。更に、通常の方法は、クロロアルキルシランとアルカリ金属(メタ)アクリレートとの反応である。前記の全ての方法は、共通して、発熱的に高められた温度で進行する。それによって、反応中に不飽和有機基を介しての生成物の重合の危険が存在し、その結果として生成物は、失われ、使用された反応装置は、費用を掛けて洗浄しなければならない。
【0004】
更に、不飽和有機基を有するシランは、多くの場合になお蒸留によって精製され、この場合そのために必要とされる熱負荷は、同様に多大な重合の危険を必然的に伴なう。最後に、この化合物の貯蔵中の重合の危険も存在する。
【0005】
不飽和有機基を有する有機珪素化合物の重合の危険を最少化する種々の方法が公知である。米国特許第4276426号明細書には、例えばアリルメタクリレートおよびSiH結合を有する種々のシランから、これらの反応成分を高速にポンプ循環させながらループ型反応器中で合成し、それによって重合を阻止しうることが記載されている。
【0006】
不飽和有機基を有する有機珪素化合物の重合の阻止するための数多くの反応は、いわゆるラジカル重合抑制剤の使用をまぬがれない。ドイツ連邦共和国特許第1183503号明細書には、ヒドロキシフェニル化合物、例えばヒドロキノンまたはヒドロキノンモノメチルエーテル50〜500ppmを、水およびシランに可溶性のアルコール0.5〜10質量%と一緒に添加することによって安定化することが記載されている。
【0007】
ドイツ連邦共和国特許第2238295号明細書には、キノンを相応するエノールと一緒に使用することが記載されている。米国特許第4563538号明細書には、不飽和有機珪素化合物を2,6−ジ−第三ブチルベンゾキノンによって安定化することが記載されており、他方、米国特許第4722807号明細書では、2,6−ジ−第三ブチルヒドロキノンとメタノールとの組合せが使用される。
【0008】
米国特許第4894398号明細書には、別の方法が記載されている:この場合、不飽和有機珪素化合物は、ヒドロキシルアミンを十分な量で添加することによって安定化される。ドイツ連邦共和国特許第3832621号明細書C1には、N,N’−ジ置換p−フェニレンジアミンの種類からの化合物と2,6−ジ−第三ブチル−4−アルキルフェニールの種類からの化合物とからなる、2つの異なる重合抑制剤の組合せが記載されている。
【0009】
米国特許第4780555号明細書には、不飽和有機珪素化合物の重合を抑制する、もう1つの方法が記載されている。この場合、フェノチアジンと、不飽和有機珪素化合物と接触される、酸素少なくとも0.1体積%を含有するガス雰囲気との組合せは、安定化をもたらす。
【0010】
この方法の欠点は、殊に蒸留中に工業的に費用が掛かり、さらに安全技術的に欠点とみなされる、一定量の酸素の存在を必要とすることである。更に、米国特許第5145979号明細書中に安定化作用を有することが記載されている、化合物の組合せは、立体障害フェノール、芳香族アミンおよびアルキルアミンからなる混合物である。更に、不飽和有機官能基を有する有機珪素化合物の安定化に使用される化合物は、例えば特に2,6−ジアルキル−4−N,N−ジアルキルアミノメチルフェノールであり、これを単独でかまたは別の安定化作用を有する化合物(欧州特許第0520477号明細書B1)、第3アミン(ドイツ連邦共和国特許出願公開第4430729号明細書)、非芳香族の安定性フリーラジカル、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシド("TEMPO"、米国特許第5616753号明細書、米国特許第5550272号明細書)、N,N’−ジ置換p−キノジイミン(欧州特許第0708081号明細書)、不飽和有機酸のジアルキルアミド(例えば、欧州特許出願公開第0845471号明細書A2)、2−メルカプトベンゾチアゾールまたはジメチルジチオカルバメートの亜鉛塩(例えば、欧州特許出願公開第0845465号明細書A2)との組合せで使用される。
【0011】
記載された方法には、共通して、比較的大量の安定化化合物がシランの質量に対して50〜2000ppmの質量で添加されなければならず、この化合物は、しばしばまさに高価であり、記載された方法は、しばしば、酸素を含有するガス混合物との接触を如何にして安全技術的に厳密な判断を下すことができるかという欠点がある。
【0012】
更に、記載された大抵の化合物の場合に、不飽和有機珪素化合物に対して発揮された安定化作用にも拘わらず、不飽和有機珪素化合物が重合され、それによって不飽和有機珪素化合物が失われるという危険が残る。
【0013】
最終的に、もう1つの欠点は、重合抑制剤として記載された大抵の化合物が固体であり、この固体の計量供給には、費用の掛かる作業工程または装置が必要であるという事実にある。米国特許第6441228号明細書B2には、メタクリル酸の合成においてモリブデン含有鋼合金を使用することが記載されている。WO 2005/40084には、エチレン系不飽和化合物の製造、精製、取扱いまたは貯蔵のために銅含有合金を使用することが記載されている。通常でない合金を使用することは、欠点である。
【0014】
従って、本発明の課題は、大工業的生産に適しており、従来技術の欠点を有しない、不飽和有機珪素化合物を製造し、精製し、取扱うかまたは貯蔵するための方法を開発することであった。
【0015】
本発明の対象は、一般式(1)
2C=C(R1)[C(O)O]w(O)x−(R2y−Si(R3z(OR43-z (1)
〔式中、
1は、水素原子または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
2は、1〜40個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、この炭化水素基は、元素の窒素、酸素、硫黄または燐から選択されたヘテロ原子の1つ以上を含有することができ、
3およびR4は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
wは、0または1の値であることができ、
xは、0または1の値であることができ、
yは、0または1の値であることができ、および
zは、0、1または2の値であることができ、
この場合wとxは、双方が同時に1であってはならない〕で示される不飽和有機珪素化合物(3)を製造するかまたは取り扱う際に重合を阻止する方法であり、
この場合、前記の製造または取扱いの少なくとも1つの工程は、工業用装置(A)中で実施され、この装置の有機珪素化合物(S)と接触する表面は、少なくとも70%が鉄不含の材料からなり、この場合、材料が鉄1質量%未満を含有する場合には、この材料は、鉄不含と呼ばれ、
この場合工業用装置(A)は、少なくとも200 lの充填容量を有するバッチ法のための装置であるか、または少なくとも15 l/hの通過量を有する連続的方法のための装置である。
【0016】
鉄不含の材料を使用する場合、有機珪素化合物(S)の重合は、該有機珪素化合物の製造または取扱いの際に著しく遅速になるかまたは完全に阻止される。
【0017】
本方法は、全ての任意の製造工程または取扱い工程、例えば合成;精製、例えば濾過による有機珪素化合物(S)からの固体の分離、低沸点不純物の分離による有機珪素化合物(S)の蒸留精製または有機珪素化合物(S)それ自体の蒸留による有機珪素化合物(S)の蒸留精製;輸送および貯蔵;および後続生成物への後加工の際に重合を阻止する。
【0018】
好ましくは、装置(A)の有機珪素化合物(S)と接触する表面は、少なくとも90質量%、特に有利に99質量%が鉄不含の材料からなる。この場合、「鉄不含」の概念は、それぞれの材料が鉄1質量%未満、特に鉄0.1質量%未満、殊に有利に鉄0.01質量%、殊に鉄0.001質量%を含有する。
【0019】
鉄不含の材料の例は、ガラス、エナメル、ニッケル、銅、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタルおよび0.5質量%未満の鉄含量を有する前記金属の合金、プラスチック、例えばPTFE、黒鉛、酸化物セラミック、例えば酸化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素である。好ましいのは、金属不含の材料、例えばガラス、エナメル、プラスチック、例えばPTFE、黒鉛、酸化物セラミック、例えば酸化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素であり、特に好ましいのは、ガラス、エナメル、黒鉛、酸化物セラミック、例えば酸化アルミニウム、炭化珪素および窒化珪素、殊にガラス、エナメルおよび黒鉛である。
【0020】
不飽和有機珪素化合物(S)の合成は、種々の方法で行なうことができる。即ち、不飽和有機化合物、例えばエチンまたはアリルメタクリレートと、SiH結合を有する珪素化合物との反応は、触媒、例えば白金化合物の存在下で望ましい不飽和有機珪素化合物(S)を生じる。
【0021】
一般式(2)
2C=C(R1)C(O)O−(R2y−Si(R3z(OR43-z (2)
で示されるシラン(S)を
一般式(3)
X−(R2y−Si(R3z(OR43-z (3)
で示されるハロゲンアルキルシランおよび
一般式(4)
2C=C(R1)C(O)O- (4)
で示される陰イオンを有する(メタ)アクリレートの塩から出発して製造する合成は、特に有利であり、
この場合Xは、ハロゲン原子であり、残りの全ての変数は、一般式(1)で記載された意味を有する。
【0022】
この合成は、しばしば相間移動触媒の存在下で実施される。この種の相間移動触媒の例は、テトラオルガノアンモニウム塩またはテトラオルガノホスホニウム塩である。この反応は、特に60〜150℃の温度、特に有利に70〜120℃の温度で実施される。副生成物として生じるハロゲン塩ならびに場合によっては存在する一般式(4)の陰イオンを有する(メタ)アクリル酸塩の残分は、特に濾過によって分離される。引続き、この生成物は、有利に蒸留により精製され、この場合には、1つの精製工程が実施されるかまたは複数の精製工程も実施される。特に、最初に低沸点の不純物が蒸留により分離される。これは、特に減圧下および20〜120℃、有利に40〜80℃の温度で行なわれる。引続き、場合によっては一般式(2)のシラン(S)自体が蒸留され、この場合には、前記の蒸留工程も特に減圧下で実施され、したがって蒸留中の塔底温度は、200℃未満、特に150℃未満、特に有利に130℃未満である。
【0023】
一般式(1)〜(4)において、R1は、水素または1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、殊にCH3を表わし;R2は、特に1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、殊にCH2−または(CH23−基を表わし;R3は、有利にCH3またはエチル基を表わし;およびR4は、特にメチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基を表わし、この場合メチル基およびエチル基は、特に好ましい。Xは、特に塩素または臭素、特に有利に塩素を表わす。
【0024】
不飽和有機珪素化合物(S)の製造または取扱いの場合には、従来の安定剤、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、N,N−ジ置換アミノメチレンフェノールおよび/または酸素が存在していてよい。
【0025】
一般式(1)または(2)の不飽和有機珪素化合物(S)の製造または取扱いのための装置(A)の例は、攪拌釜、管状反応器、蒸留塔およびその取付け物および充填体、薄層蒸発器、流下薄膜式蒸発器、薄層蒸発器中の取付け物、例えばワイパーを含めて短路蒸留装置、また、熱交換器およびタンクである。
【0026】
本発明の好ましい実施態様の場合、装置(A)は、少なくとも200 lの充填容量を有する、有機珪素化合物(S)のバッチ式合成および/または蒸留のための攪拌釜であり、この場合には、少なくとも500 lまたは少なくとも1000 lの充填容量が特に好ましい。
【0027】
更に、本発明の好ましい実施態様の場合、装置(A)は、少なくとも15 l/hの通過量を有する連続合成のための反応器であり、この場合、少なくとも30 l/hまたは少なくとも100 l/hの通過量は、特に好ましい。
【0028】
更に、本発明の好ましい実施態様の場合、装置(A)は、少なくとも15 l/hの通過量を有する薄層蒸発器、流下薄膜式蒸発器または短路蒸留装置であり、この場合、少なくとも30 l/hまたは少なくとも50 l/hの通過量は、特に好ましい。
【0029】
好ましくは、一般式(1)または(2)の不飽和有機珪素化合物(S)が熱的に負荷される処理工程、例えば合成および蒸留による精製は、装置(A)中で実施される。特に有利には、蒸留による精製は、装置(A)中で実施される。この場合には、特にバッチ蒸留のための装置(A)、特に有利に薄層蒸発器、流下薄膜式蒸発器または短路蒸留装置が使用される。この場合、薄層蒸発器、流下薄膜式蒸発器または短路蒸留装置は、例えば十分な生成物精製のために単に低沸点物が除去されなければならない場合には、一工程であることができ、或いは、2工程の処理においては、最初に低沸点物が除去され、蒸発器での第2の通過で生成物それ自体が蒸留される。同様に、2工程の薄層蒸発器、流下薄膜式蒸発器または短路蒸留装置が使用されてもよく、この場合には、第1工程で低沸点物が除去され、第2工程で生成物それ自体が蒸留される。この場合、全ての薄層蒸発器工程は、本発明の範囲内の装置(A)を意味する。1つの好ましい方法において、2つの薄層工程の1つは、装置(A)からなるが、しかし、特に2つの薄層工程は、装置(A)である。
【0030】
1つの好ましい方法の場合、有機珪素化合物(S)の合成、濾過による有機珪素化合物(S)からの固体の分離、低沸点不純物の分離による有機珪素化合物(S)の蒸留による精製または有機珪素化合物(S)それ自体の蒸留による有機珪素化合物(S)の蒸留による精製から選択された処理工程の少なくとも2つは、上記の性質を有する工業用装置(A)中で実施される。特に有利には、全ての処理工程は、この種の装置(A)中で実施される。
【0031】
一般式(1)の不飽和有機珪素化合物(S)の例は、
ビニルシラン、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリフェニルオキシシラン、ビニチルトリイソプロピルシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニル(ジメトキシ)メチルシラン、ビニル(ジエトキシ)メチルシラン、ビニル(ジフェニルオキシ)メチルシラン、ビニル(ジイソプロポキシ)メチルシラン、ビニルビス(2−メトキシエトキシ)メチルシラン、
アリルシラン、例えばアリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリフェニルオキシシラン、アリルトリイソプロポキシシラン、アリルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アリル(ジメトキシ)メチルシラン、アリル(ジエトキシ)メチルシラン、アリル(ジフェニルオキシ)メチルシラン、アリル(ジイソプロポキシ)メチルシラン、アリルビス(2−メトキシエトキシ)メチルシラン、3−アリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アリルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、
アクリルシラン、例えばアクリルオキシメチルトリメトキシシラン、
アクリルオキシメチルトリエトキシシラン、
アクリルオキシメチルトリフェニルオキシシラン、
アクリルオキシメチルトリイソプロポキシシラン、
アクリルオキシメチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ジメトキシシラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ジエトキシシラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ジフェニルオキシシラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ジイソプロポキシシラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ビス(2−メトキシエトキシ)シラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)メトキシシラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)エトキシシラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)フェニルオキシシラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)イソプロポキシシラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)(2−メトキシエトキシ)シラン、
3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、
3−アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、
3−アクリルオキシプロピルトリフェニルオキシシラン、
3−アクリルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、
3−アクリルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、
3−アクリルオキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(メチル)ジエトキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(メチル)ジフェニルオキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(メチル)ジイソプロポキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(メチル)ビス(2−メトキシエトキシ)シラン、
3−アクリルオキシプロピル(ジメチル)メトキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(ジメチル)エトキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(ジメチル)フェニルオキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(ジメチル)イソプロポキシシラン、
3−アクリルオキシプロピル(ジメチル)(2−メトキシエトキシ)シランであるか、または
メタクリルシラン、例えばメタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、
メタクリルオキシメチルトリエトキシシラン、
メタクリルオキシメチルトリフェニルオキシシラン、
メタクリルオキシメチルトリイソプロポキシシラン、
メタクリルオキシメチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ジメトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ジエトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ジフェニルオキシシラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ジイソプロポキシシラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ビス(2−メトキシエトキシ)シラン、
メタクリルオキシメチル(ジメチル)メトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(ジメチル)エトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(ジメチル)フェニルオキシシラン、
メタクリルオキシメチル(ジメチル)イソプロポキシシラン、
メタクリルオキシメチル(ジメチル)(2−メトキシエトキシ)シラン、
3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピルトリフェニルオキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、
3−メタクリルオキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(メチル)ジエトキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(メチル)ジフェニルオキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(メチル)ジイソプロポキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(メチル)ビス(2−メトキシエトキシ)シラン、
3−メタクリルオキシプロピル(ジメチル)メトキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(ジメチル)エトキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(ジメチル)フェニルオキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(ジメチル)イソプロポキシシラン、
3−メタクリルオキシプロピル(ジメチル)(2−メトキシエトキシ)シランでもある。
【0032】
一般式(2)の特に好ましい不飽和有機珪素化合物(S)の例は、R2がメチレン基を表わすものである。このシランは、しばしば特に高い反応性を示し、それと結び付いて、特に高い重合傾向を示す。殊に好ましいのは、次のものである:
アクリルオキシメチルトリメトキシシラン、
アクリルオキシメチルトリエトキシシラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ジメトキシシラン、
アクリルオキシメチル(メチル)ジエトキシシラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)メトキシシラン、
アクリルオキシメチル(ジメチル)エトキシシラン、
メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、
メタクリルオキシメチルトリエトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ジメトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(メチル)ジエトキシシラン、
メタクリルオキシメチル(ジメチル)メトキシシランおよび
メタクリルオキシメチル(ジメチル)エトキシシラン。
【0033】
前記式の全ての前記の符号は、それらの意味を、それぞれ互いに無関係に有する。全ての式において、珪素原子は、四価である。
【0034】
以下の実施例および比較例において、別記しない限り、全ての量の表記およびパーセントの表記は、質量に対するものであり、かつ全ての反応は、0.10MPa(絶対)および20℃の温度で実施される。
【0035】
BHTは、ブチルヒドロキシトルエン(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシトルエン)を意味する。
【実施例】
【0036】
比較例1:
BHT200ppmおよびフェノチアジン200ppmで安定化された、メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量(KOH3500ppmを含有する)を、空気中で150℃でガラスフラスコ中で特殊鋼ウールの存在下で加熱した。60分後、生成物は、ゲル化した。
【0037】
実施例2:
BHT200ppmおよびフェノチアジン200ppmで安定化された、メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量(KOH3500ppmを含有する)を、空気中で150℃でガラスフラスコ中で特殊鋼ウールの不在下で加熱した。180分後、生成物は、ゲル化した。
【0038】
比較例3:
BHT200ppmおよびフェノチアジン200ppmで安定化された、メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量(メタンスルホン酸で中和した)を、空気中で150℃でガラスフラスコ中で特殊鋼ウールの存在下で加熱した。2時間20分後、生成物は、ゲル化した。
【0039】
比較例4:
BHT200ppmおよびフェノチアジン200ppmで安定化された、メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量(燐酸で中和した)を、空気中で150℃でガラスフラスコ中で特殊鋼ウールの存在下で加熱した。6時間後、生成物は、ゲル化した。
【0040】
実施例5:
BHT200ppmおよびフェノチアジン200ppmで安定化された、メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量(メタンスルホン酸で中和した)を、空気中で150℃でガラスフラスコ中で特殊鋼ウールの不在下で加熱した。7時間後、生成物は、ゲル化した。
【0041】
比較例6:
BHT200ppm、フェノチアジン200ppmおよび銅アセチルアセトネート200ppmで安定化された、メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量(燐酸で中和した)を、空気中で150℃でガラスフラスコ中で特殊鋼ウールの存在下で加熱した。120℃への加熱時に、生成物は、ゲル化した。
【0042】
前記の実験室規模での試験は、安定性に対する鉄含有材料の影響を示す。
【0043】
実施例7:エナメル製釜での生産
メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量を、ドイツ連邦共和国特許第10118489号明細書C1の記載によりエナメルメッキされた攪拌機中でクロロメチルジメトキシメチルシラン200kgおよびカリウムメタクリレートから製造する。
【0044】
ポリマー形成について、次のように試験する:
メタクリルシラン1.5mlを20mlのスナップ蓋付きフラスコ(Schnappdeckelglas)中に装入し、これにさらにイソヘキサン6mlを添加し、水6mlとの混合物を下塗りする。このフラスコの蓋を閉じ、振盪する。相分離後、二相の溶液は、澄明なままである。
【0045】
粗製バッチ量3 lをガラス製短路蒸留装置(タイプ)(80℃、0.2ミリバール)中で精製する。塔底部からの流出物は、均一であり、僅かに粘性である。
【0046】
比較例8:鋼製釜での生産
メタクリルオキシメチル−ジメトキシメチルシランの粗製バッチ量を、ドイツ連邦共和国特許第10118489号明細書C1の記載によりエナメルメッキされていない、VA鋼からなる攪拌機中でクロロメチルジメトキシメチルシラン200kgおよびカリウムメタクリレートから製造する。
【0047】
メタクリルシラン1.5mlを20mlのスナップ蓋付きフラスコ(Schnappdeckelglas)中に装入し、これにさらにイソヘキサン6mlを添加し、水6mlとの混合物を下塗りする。このフラスコの蓋を閉じ、振盪する。相分離後、二相の境界面にポリマー塊状物が形成される。粗製バッチ量3 lをガラス製短路蒸留装置(タイプ)(80℃、0.2ミリバール)中で精製する。塔底部からの流出物は、ゲル状の団塊物であり、明らかに粘性である。
【0048】
比較例9:鋼製短路蒸留装置での蒸留
実施例7からの粗製バッチ量を2工程の短路蒸留装置(VA鋼、黒鉛/PTFEワイパーを装備、蒸発面積0.25m2、温度80℃、0.2ミリバールの真空、通過量25kg/h)により蒸留する。60分後、ポリマーは、増加して現われ、したがって、生産は、中断される。
【0049】
実施例10:ガラス製短路蒸留装置での蒸留
実施例7からの粗製バッチ量を1工程のガラス製短路蒸留装置(QVF(マインツ、ドイツ連邦共和国)、蒸発面積0.6m2、温度120℃、13ミリバールの真空、通過量24kg/h)により蒸留する。
【0050】
生成物は、ポリマーの形成なしに蒸留することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
2C=C(R1)[C(O)O]w(O)x−(R2y−Si(R3z(OR43-z (1)
〔式中、
1は、水素原子または1〜10個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
2は、1〜40個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、この炭化水素基は、元素の窒素、酸素、硫黄または燐から選択されたヘテロ原子の1つ以上を含有することができ、
3およびR4は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状炭化水素基であり、
wは、0または1の値であることができ、
xは、0または1の値であることができ、
yは、0または1の値であることができ、および
zは、0、1または2の値であることができ、
この場合wとxは、双方が同時に1であってはならない〕で示される不飽和有機珪素化合物(S)を製造するかまたは取り扱う際に重合を阻止する方法であり、
この場合、前記の製造または取扱いの少なくとも1つの工程は、工業用装置(A)中で実施され、この装置の有機珪素化合物(S)と接触する表面は、少なくとも70%が鉄不含の材料からなり、この場合、材料が鉄1質量%未満を含有する場合には、この材料は、鉄不含と呼ばれ、
この場合工業用装置(A)は、少なくとも200 lの充填容量を有するバッチ法のための装置であるか、または少なくとも15 l/hの通過量を有する連続的方法のための装置である、一般式(1)の不飽和有機珪素化合物(S)を製造するかまたは取り扱う際に重合を阻止する方法。
【請求項2】
一般式(2)
2C=C(R1)C(O)O−(R2y−Si(R3z(OR43-z (2)
で示される不飽和有機珪素化合物(S)を
一般式(3)
X−(R2y−Si(R3z(OR43-z (3)
で示されるハロゲンアルキルシランおよび
一般式(4)
2C=C(R1)C(O)O- (4)
で示される陰イオンを有する(メタ)アクリレートの塩から出発して製造するかまたは取り扱う際に重合を阻止する方法であり、
この場合Xは、ハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4、w、x、yおよびzは、請求項1に記載された意味を有し、
この場合、前記の製造または取扱いの少なくとも1つの工程は、工業用装置(A)中で実施され、この装置の有機珪素化合物(S)と接触する表面は、少なくとも70%が鉄不含の材料からなり、この場合、材料が鉄1質量%未満を含有する場合には、この材料は、鉄不含と呼ばれ、
この場合工業用装置(A)は、少なくとも200 lの充填容量を有するバッチ法のための装置であるか、または少なくとも15 l/hの通過量を有する連続的方法のための装置である、一般式(2)の不飽和有機珪素化合物(S)を製造するかまたは取り扱う際に重合を阻止する方法。
【請求項3】
前記装置(A)の有機珪素化合物(S)と接触する表面は、少なくとも99%が鉄不含の材料からなり、この場合、材料が鉄0.1質量%未満を含有する場合には、この材料は、鉄不含と呼ばれる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
鉄不含の材料は、ガラス、エナメル、プラスチック、黒鉛、酸化物セラミック、炭化珪素および窒化珪素から選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
1は、水素原子またはCH3を意味する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
2は、CH2または(CH23基を意味する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
3は、メチル基またはエチル基を意味する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
4は、メチル基またはエチル基を意味する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工業的装置(A)は、少なくとも15l/hの通過量を有する薄層蒸発器、流下薄膜式蒸発器または短路蒸留装置である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工業用装置(A)は、少なくとも1000 lの充填容量を有するバッチ法のための装置であるか、または少なくとも100 l/hの通過量を有する連続的方法のための装置である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
式(1)または(2)による有機珪素化合物(S)の合成、濾過による有機珪素化合物(S)からの固体の分離、低沸点不純物の分離による有機珪素化合物(S)の蒸留による精製または有機珪素化合物(S)それ自体の蒸留による有機珪素化合物(S)の蒸留による精製から選択された処理工程の少なくとも2つは、工業用装置(A)中で実施される、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
全ての処理工程を装置(A)中で実施する、請求項11記載の方法。

【公表番号】特表2011−528008(P2011−528008A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517864(P2011−517864)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058617
【国際公開番号】WO2010/006963
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】