説明

不飽和結合を有するアミド化合物の精製方法

【課題】
工業的に重要な不飽和結合を有するアミド化合物の不純物含量を実質上増加させず、かつ高価な設備の増設等をせずに選択的に不飽和結合を有するアミド化合物の重合物を除去することにより不飽和結合を有するアミド化合物の品質を安定的に維持する方法を提供する。
【解決手段】
工業的に重要な不飽和結合を有するアミド化合物水溶液に対し、活性炭処理することにより不飽和結合を有するアミド化合物水溶液から(メタ)アクリルアミド重合物のみを選択的に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和結合を有するアミド化合物の精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不飽和結合を有するアミド化合物は、様々な材料の原料モノマーとして重要な工業原料であり、中でも特に、(メタ)アクリルアミドは、高分子凝集剤、原油2、3次回収用薬剤、紙用薬剤等の原料モノマーとして広く使用される重要な工業原料であるが、非常に重合しやすくその製造時においても重合が起こる場合がある。微量の重合物が製品に混入することにより、品質の低下が起こるため、貯蔵、輸送等において大きな問題となっている。
【0003】
これまで、重合防止剤の添加による安定的貯蔵法の報告がなされている(特公昭39−10109号公報、特許第2548051号公報)。
また一方、常に攪拌し続ける等の物理的対応方法等が考案されている。しかしながら前者では、(メタ)アクリルアミドの純度が下がったり品質に影響を与える、後者では、専用の装置が必要となり設備費が増加する等の問題があり、より安価な品質を維持する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭39−10109号公報
【特許文献2】特許第2548051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、非常に重合しやすく取り扱いが難しかった不飽和結合を有するアミド化合物において、生成する重合物を簡便に除去し、不飽和結合を有するアミド化合物の品質を維持する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したように、不飽和結合を有するアミド化合物の安定的品質維持方法について鋭意検討した結果、不飽和結合を有するアミド化合物を活性炭処理することにより、化学的性質は不飽和結合を有するアミド化合物その重合物とで、非常に類似しているにもかかわらず、生成した不飽和結合を有するアミド化合物の重合物を全く予想外に選択的且つ効率的に除去できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕重合物を含有する不飽和結合を有するアミド化合物含有液を活性炭と接触させることを特徴とするアミド化合物の精製方法
〔2〕アミド化合物含有液が対応するニトリル化合物の水和反応により得られる生成液である〔1〕に記載の精製方法
〔3〕アミド化合物がアクリルアミドまたはメタクリルアミドである〔1〕または〔2〕に記載の精製方法
〔4〕アミド化合物がニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体または該微生物菌体の処理物を用いて合成されたものである〔2〕または〔3〕に記載の精製方法
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不飽和結合を有するアミド化合物の不純物含量を実質上増加させず、かつ高価な設備の増設等をせずに選択的に不飽和結合を有するアミド化合物の重合物を除去することにより不飽和結合を有するアミド化合物の品質を安定的に維持することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に適用される不飽和結合を有するアミド化合物は、分子内に不飽和二重結合を含むアミド化合物であれば特に限定はされない。本発明に適用される不飽和結合を有するアミド化合物としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、クロトンアミド、チグリックアミド、2−ペンテン酸アミド、3−ペンテン酸アミド、4−ペンテン酸アミド、2−ヘキセン酸アミド、3−ヘキセン酸アミド、5−ヘキセン酸アミド等のモノアミド化合物、フマル酸ジアミド、マレイン酸ジアミド、シトラコン酸ジアミド、メサコン酸ジアミド、イタコン酸ジアミド、2−ペンテン二酸ジアミド、3−ヘキセン二酸ジアミド等のジアミド化合物などが挙げられる。好ましくは、モノアミド化合物が挙げられ、より好ましくは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドが挙げられる。
本発明に適用される不飽和結合を有するアミド化合物含有液は、特に限定するものではないが、好ましくは、該アミド化合物が対応するニトリル化合物の水和反応により得られた生成液に適用される。またより好ましくは、アクリロニトリルの水和反応により得られるアクリルアミド含有液、またはメタクリロニトリルの水和反応により得られるメタクリルアミド含有液に特に好適に適用される。
【0010】
本発明において不飽和結合を有するアミド化合物の重合物とは、上記不飽和結合を有するアミド化合物が2分子以上の複数分子にて反応し、オリゴマーまたはポリマーになったものを指す。本発明において不飽和結合を有するアミド化合物の重合物とは、重合物を構成する要素に不飽和結合を有するアミド化合物が含まれるものを指す。
【0011】
不飽和結合を有するアミド化合物を生産する方法は、特に限定されないが、例えば微生物による生産方法が好適に例示される。好適に使用されるニトリルヒドラターゼを産生する微生物としては、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、好熱性のバチルス属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドクロウス(rhodochrous)種に代表されるロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属またはサーモフィラ(thermophila)種に代表されるシュードノカルディア(Pseudonocardia)属、バイテリジューム(Bacteridium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物などが挙げられる。また、これらの微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で高発現させた形質転換体、および組換えDNA技術を用いて該ニトリルヒドラターゼの構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入することにより、アミド化合物耐性やニトリル化合物耐性、温度耐性を更に向上させた変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体なども挙げられる。
【0012】
尚、ここでいう任意の宿主には、後述の実施例のように大腸菌(Escherichia coli)が代表例として挙げられるが、とくに大腸菌に限定されるのものではなく枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の微生物菌株も含まれる。その様なものの例として、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。
【0013】
これら微生物の中でも、高活性、高安定性のニトリルヒドラターゼを有するという点で、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属に属する微生物、および該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で高発現させた形質転換体、および変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体形質転換体が好ましい。なお、上記形質転換体は、ニトリルヒドラターゼの安定性をより高め、菌体当たりの活性がより高い点で好ましい。
【0014】
また、微生物内にニトリルヒドラターゼを高発現できる、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J−1、該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で高発現させた形質転換体も同様に好ましい。上記ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の菌体は、分子生物学・生物工学・遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法により調製できる。
【0015】
本発明に係る組換えベクターは、ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を含有するものであり、ベクターにニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を連結することにより得ることができる。ベクターとしては、特に限定されるものではなく、例えばpET-21a(+)、pKK223-3、pUC19、pBluescriptKS(+)およびpBR322等に代表される市販の発現プラスミドに、ニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を組み込むことにより、該ニトリルヒドラターゼの発現プラスミドを構築することができる。また、形質転換に使用する宿主生物としては、組換えベクターが安定、かつ自己増殖可能で、さらに外来のDNAの形質が発現できるものであればよく、例えば大腸菌が好例として挙げられるが、大腸菌だけに限らず枯草菌、酵母等に導入することにより、ニトリルヒドラターゼの生産能を有する形質転換体を得ることができる。
【0016】
上述のようなニトリルヒドラターゼを生産する微生物は、公知の方法により、適宜培養し増殖させ、ニトリルヒドラターゼを生産させても良い。
この場合使用される培地としては炭素源、窒素源、無機塩類およびその他の栄養素を適量含有する培地であれば合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。例えば、LB培地、M9培地等の通常の液体培地に、微生物を植菌した後、適当な培養温度(一般的には20℃〜50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上でもよい。)で培養させることにより調製できる。培養は前記培養成分を含有する液体培地中で振とう培養、通気攪拌培養、連続培養、流加培養などの通常の培養方法を用いて行うことができる。形質転換体の培養温度としては、15−37 ℃が好ましい。培養条件は、培養の種類、培養方法により適宜選択すればよく、菌株が生育しニトリルヒドラターゼを生産することが出来れば特に制限はない。
【0017】
本発明では上述のニトリルヒドラターゼを生産する微生物の菌体を、不飽和アミド化合物と反応させるために、遠心等により集菌したり、破砕して菌体破砕物を作製する等、さなざまな処理を行っても良く、これらのなんらかの処理を施した菌体を菌体処理物と総称する。
【0018】
破砕される微生物の菌体の形態としては、ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の菌体を含む限り特に制限はないが、例えば、該菌体を含む培養液そのもの、その培養液を遠心分離して分離・回収された集菌体、さらにこの集菌体を生理食塩水等で洗浄したものなどが挙げられる。
【0019】
上記菌体を破砕する装置としては、菌体を破砕可能であれば特に制限はないが、例えば、超音波破砕機、フレンチプレス、ビーズショッカー、ホモゲナイザー、ダイノーミル、クールミルなどの摩砕装置などが挙げられる。これらの中でも、安価にスケールアップができるという点で、ホモゲナイザーが好ましい。なお、ホモゲナイザーとは、ピストンで送液を行うプランジャー式高圧ポンプの出口に設けられたホモバルブの隙間をネジまたは油圧で調節して、導入された流体に剪断・激突・キャビテーション等の相乗効果を瞬間的に発生させる装置である。このホモゲナイザーは、株式会社三和機械、株式会社イズミフードマシナリなどが市販している。
【0020】
菌体を破砕する時の温度は特に制限はないが、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは0℃以上25℃以下である。
【0021】
また、菌体を破砕する時のpHは特に制限はないが、好ましくはpH4以上10以下、より好ましくはpH6以上8以下である。
【0022】
ホモゲナイザーを用いて菌体を破砕する場合の圧力は菌体が破砕される圧力であれば特には制限が無いが、好ましくは10MPa以上300MPa以下、より好ましくは30MPa以上100MPa以下である。
【0023】
本発明で使用する活性炭については特に限定は無く、粉状及び粒状のいずれであっても使用することが出来る。また精製処理を行う装置においても、用いる活性炭の粒度に適したものを用いれば良い。例えば粉状活性炭を用いる場合は、液の攪拌が可能な槽において、回分式および連続式のいずれでも実施することが出来る。また、粒状活性炭を用いるような場合は、上記形式の他に、充填塔形式による連続処理も可能である。
【0024】
また、活性炭には一般的には、原料として石炭、木、及びヤシ殻当を用いたもの等があるが、吸着能を有するものであれば特段の限定は無く、いずれのものであっても使用することが可能である。好ましくは、金属分含有量の少ないものが挙げられ、より好ましくは、原料が木質のもの、またはヤシ殻のものが挙げられる。
【0025】
本発明において、不飽和結合を有するアミド化合物を精製処理する際に使用する活性炭量は、あまり少ない場合は十分な重合物除去効果を得ることが困難であり、またあまり多く使用しても不経済となることから、その使用量としては不飽和結合を有するアミド化合物含有液に対して、通常0.01〜20重量%の範囲、より好ましくは、0.05〜10重量%の範囲である。
【0026】
また、活性炭として特に粉状のものを用いる場合、該活性炭は不飽和結合を有するアミド化合物含有液中にそのまま直接添加してもよく、または一旦、活性炭を水等の媒体中に分散させてスラリー状としたものを、該不飽和結合を有するアミド化合物含有液に添加あるいは供給するようにしても良い。
【0027】
本発明において、活性炭により不飽和結合を有するアミド化合物含有液を精製処理する際の温度は、該アミド化合物の結晶が析出せずに、かつその安定性に影響のない範囲であれば、特に制限はない。通常は0〜80℃の範囲で行われるが、好ましくは重合反応生起を防止するために60℃以下、より好ましくは10〜50℃の範囲で活性炭と接触させる。接触処理に要する時間は、処理形式や活性炭の量にもよるが、通常は0.5〜20時間の範囲である。
【0028】
活性炭処理時のpHには特に制限はないが、さらなる重合防止の観点から、処理後のpHは中性付近になることが好ましい。ついで、本発明では上記接触処理した不飽和結合を有するアミド化合物含有液から活性炭を分離し、該アミド化合物含有液の精製液を得る。活性炭を分離する方法としては、一般に用いられる固液分離装置を用いる方法であれば特に限定は無く、例えば加圧濾過器、減圧濾過器、または遠心分離器等が挙げられ、さらには回分式及び連続式のいずれであっても構わない。
【0029】
また、本発明においては上記活性炭を分離した後の不飽和結合を有するアミド化合物含有液を冷却し、液中より目的の不飽和結合を有するアミド化合物を晶析させるという方法を採用することにより、更に精製された不飽和結合を有するアミド化合物を得ることも可能である。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるもの
ではない。
【0031】
[実施例1]
[ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒の調製]
特開2001−340091号の実施例1に記載の方法に従い、No.3クローン菌体を取得し、同じく、同実施例1の方法、すなわち下記の方法で培養してニトリルヒドラターゼを含む湿菌体を得た。
【0032】
500mLのバッフル付三角フラスコに下記の組成の培地100mLを調製し、121℃・20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に終濃度が50μg/mLとなるようにアンピシリンを添加した後、上記のNo.3クローン菌体を一白菌耳植菌し、37℃・130rpmにて20時間培養した。遠心分離(15000G×15分間)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、50mLの生理食塩水に該菌体を再懸濁した後に、再度遠心分離を行って湿菌体を得た。
【0033】
培地組成
酵母エキストラクト 5.0g/L
ポリペプトン 10.0g/L
NaCl 5.0g/L
塩化コバルト・六水和物 10.0mg/L
硫酸第二鉄・七水和物 40.0mg/L
pH7.5
[アクリルアミドの製造]
最終製品として、水溶液中のアクリルアミド濃度が50重量%の製品を得るため、以下の条件で反応を行った。
【0034】
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第2反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ20mを準備した。第1反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0035】
上記の培養方法で得られた湿菌体を純水に懸濁した。第1反応器内を撹拌しながら、この懸濁液を、11g/hの速度で連続的にフィードした。アクリロニトリルは、32g/hの速度で、また、純水は37g/hの速度で連続的にフィードした。さらに反応pHが7.5〜8.5となるように、0.1M−NaOH水溶液をフィードした。これらの原料は、各々の貯槽から単独のラインで供給され、反応器内にフィードされるまで、他の原料に接触することはなかった。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出し、第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。なお、湿菌体の添加量は、第1反応器のアクリロニトリル転化率が90%となるように調整を行った。
【0036】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
【0037】
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液(反応液(I))をサンプリングし、以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、第1反応器出口でのアクリルアミドへの転化率が90%、かつ第2反応器出口でのアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)、アクリルアミド濃度が53.5重量%となった。
【0038】
ここで分析条件は以下のとおりであった。
アクリルアミド分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC−10Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長250nm、カラム温度40℃)
分離カラム :SCR-101H (株式会社島津製作所製)
溶離液 :0.05 %(容積基準)−リン酸水溶液
アクリロニトリル分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC−10Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長200nm、カラム温度40℃)
分離カラム :Wakosil-II 5C18HG (和光純薬製)
溶離液 :7%(容積基準)−アセトニトリル、
0.1mM−酢酸、0.2mM−酢酸ナトリウムを
各濃度で含有する水溶液
アクリルアミド濃度は以下のようにして求めた。市販のアクリルアミドを、純水に溶解して、濃度既知のアクリルアミド水溶液を調製し、HPLCにおけるアクリルアミド濃度分析用検量線を作成した。これを用いて、被験液のHPLC分析時の面積値を、アクリルアミド濃度に換算した(絶対検量線法)。また、HPLC測定に用いる反応液の量は5μLであった。なお、各反応液の密度の影響はほとんどないため、このようにしてアクリルアミド濃度(重量%)が得られた。
【0039】
この反応を2日目に分析を実施して以降さらに約4日間継続した。この約4日間で約7500gの反応液(反応液(I))が得られた。これに対し、活性炭(三倉化成(株)製 粉状活性炭PM−SX)を30g添加し、0.5重量%−アクリル酸水溶液160gを加えた後、1M−NaOH水溶液でpHを5に調整した。これを25℃で5時間撹拌したあと、濾紙にて濾過を行い、活性炭を除去した。その後、活性炭に付着したアクリルアミドを回収するため、300gの純水で活性炭を洗浄し、先の活性炭処理液と混合して、1M−NaOH水溶液で中和し、pHを7として約7900gの製品(反応液(II))を得た。この活性炭処理後の製品(反応液(II))中の最終アクリルアミド濃度は、50.6重量%であった。
【0040】
さらに、予め1M−HCL水溶液を用いてH型にしておいた陽イオン交換樹脂であるアンバーライトIR120B(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を200mL、ガラスカラムに充填し、これに、SV=1(1/h)の速度で反応液(II)を通液して、不純物を除去した。すなわち、反応液(II)に含まれる金属イオン等の陽イオンの濃度を低減させた。最後に、1M−NaOHで中和を行い、pHを7に調整して、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0041】
[アクリルアミド重合物の製造]
上記の方法で得られたアクリルアミド水溶液に、水を加え濃度20重量%のアクリルアミド水溶液とした。この20重量%アクリルアミド水溶液500gを1Lポリエチレン容器に入れ、18℃に保ちながら、窒素を通じて液中の溶存酸素を除き、直ちに、発泡スチロール製の保温用ブロックの中に入れた。
【0042】
ついで、200×10-6mpm(アクリルアミドに対するモル比)の4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)、200×10-6mpmのジメチルアミノプロピオニトリル、および80×10-6mpmの過硫酸アンモニウムを各々小量の水に溶解して、この順序に1Lポリエチレン容器中に素早く注入した。これらの試薬には、予め窒素ガスを通じておき、また、注入およびその前後には、上記ポリエチレン容器にも少量の窒素ガスを通じ、酸素ガスの混入を防止した。
【0043】
試薬を注入すると、数分間の誘導期の後、ポリエチレン容器の内部の温度が上昇するのが認められたので窒素ガスの供給をとめた。約100分間、保温用ブロック中で、そのままの状態でポリエチレン容器を保持したところ、ポリエチレン容器の内部の温度が約70℃に達した。そこで、ポリエチレン容器を保温用ブロックから取りだし、97℃の水に2時間浸漬しさらに重合反応を進めた。その後冷水に浸漬して冷却し、重合反応を停止した。
【0044】
このようにして得られたアクリルアミド重合物の含水ゲルをポリエチレン容器から取り出し、小塊にわけ、肉挽器ですりつぶした。このすりつぶしたアクリルアミド重合物の含水ゲルを、100℃の熱風で2時間乾燥し、さらに、高速回転刃粉砕器で粉砕して乾燥粉末状のアクリルアミド重合物を得た。
[重合物を含有するアクリルアミド水溶液の調整]
上記で得られた約50重量%のアクリルアミド水溶液1000gに、上記で得られたアクリルアミド重合物0.1gを添加して、アクリルアミド重合物を含有するアクリルアミド水溶液を調整した。
このアクリルアミド重合物を含有するアクリルアミド水溶液100gに対し、2重量%の活性炭(クラレケミカル(株)製、粉末活性炭PM−SX)を添加し、25℃で5時間攪拌を行った後、濾紙にて濾過を行った。得られた濾液10mlにメタノール100mlを加えても白濁せず、重合物の存在は認められなかった。
【0045】
[実施例2]
実施例1で調整したアクリルアミド重合物を含有するアクリルアミド水溶液に対し、5重量%−アクリル酸水溶液を添加してpHを5に調整した以外は、実施例1と同様の処理を行い濾液を得た。この濾液10mlにメタノール100mlを加えても白濁せず、重合物の存在は認められなかった。
【0046】
[実施例3]
実施例1で調整したアクリルアミド重合物を含有するアクリルアミド水溶液に対し、10重量%−水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8に調整した以外は、実施例1と同様の処理を行い濾液を得た。この濾液10mlにメタノール100mlを加えても白濁せず、重合物の存在は認められなかった。
【0047】
[比較例]
実施例1で調整したアクリルアミド重合物を含有するアクリルアミド水溶液を、25℃で5時間攪拌を行った。得られた濾液10mlにメタノール100mlを加えたところ白濁し、重合物の存在が認められた。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合物を含有する不飽和結合を有するアミド化合物含有液を活性炭と接触させることを特徴とするアミド化合物の精製方法
【請求項2】
アミド化合物含有液が対応するニトリル化合物の水和反応により得られる生成液である請求項1に記載の精製方法
【請求項3】
アミド化合物がアクリルアミドまたはメタクリルアミドである請求項1または2に記載の精製方法
【請求項4】
アミド化合物がニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体または該微生物菌体の処理物を用いて合成されたものである請求項2または3に記載の精製方法



【公開番号】特開2011−241201(P2011−241201A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117166(P2010−117166)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】