説明

両眼広視野映像提示及び視線計測装置

【課題】例えば、MRI装置内のような狭い空間内においても、両眼に対し広視野の映像を提示し、立体映像も提示することができ、かつ、この映像を観察している状態の眼球運動の計測が同時に行える装置を提供する。
【解決手段】左右独立した映像提示光学系1と、映像を提示されている眼球の瞳孔を撮影する撮影光学系2とを備え、各映像提示光学系1の最大径は左右の眼幅以下であり、各映像提示光学系1の第1レンズ1aは、提示映像における水平方向について、眼球103からの第1レンズ1aの有効径の視角度が提示映像における水平視野角以上となり、提示映像における垂直方向について、眼球103からの第1レンズ1aの有効径の視角度が提示映像における垂直視野角以上で、かつ、撮影光学系2が眼球を撮影することができる眼球正面からの傾き角の最大値以下となる範囲に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両眼に対し広視野の映像を提示するとともに、この映像を観察している状態の眼球運動の計測が同時に行える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MRI装置(核磁気共鳴画像撮影装置)内において被験者に映像を提示するとともに、被験者の眼球運動(視線の方向)を正面方向から監視し、提示された映像を観察している状態における被験者の脳機能を計測する装置が提案されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、被験者の眼球に略正面方向から入射する光路上にダイクロイックミラーを設置し、このダイクロイックミラーにより反射される光路によりプロジェクタ・スクリーンを光源とする映像を提示し、一方、ダイクロイックミラーを透過する光路により、赤外光のランプにより照明しながら赤外光カメラによる眼球運動の監視を行うようにした装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−160086号公報
【特許文献2】特開2004−041411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した装置においては、被験者に対して広視野の映像を提示することは困難である。一方、広視野の映像を提示できる装置として、スクリーンや液晶表示デバイスに表示される映像の各点からの光を平行光束として眼球に入射させる映像提示光学系を有する装置が提案されている。この装置においては、両眼に対し両眼視差に対応した差異を有する映像を提示することにより、立体映像を提示することもできる。
【0006】
しかしながら、被験者の眼前に設置した光学系により広視野の映像提示を行う場合においては、映像提示のための光学系が被験者の眼球前方を覆ってしまうため、眼球運動の計測のために被験者の正面から眼球(瞳孔)を撮影することは極めて困難である。
【0007】
特に、MRI装置内のような狭い空間内においては、映像提示を行う光学系の大きさ及び設置位置が制限されるため、被験者の眼球の撮影は一層困難となる。
【0008】
そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、例えば、MRI装置内のような狭い空間内においても、両眼に対し広視野の映像を提示し、立体映像も提示することができ、かつ、この映像を観察している状態の眼球運動の計測が同時に行える装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置は、表示映像全域にわたる眼球運動の測定が可能な角度で、被験者の眼球の下瞼側、または、上瞼側から瞳孔を撮影する装置であり、これを実現するための映像提示光学系のWD(Working Distance:瞳孔から最近接レンズまでの距離)及び瞳孔撮影角度のそれぞれを特定したものである。
【0010】
すなわち、本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置は、上述の課題を解決するため、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0011】
〔構成1〕
右眼用及び左眼用の互いに独立した一対の映像提示光学系と、映像提示光学系により映像を提示されている眼球の瞳孔をこの眼球の下瞼側、または、上瞼側から撮影する撮影光学系とを備え、各映像提示光学系の最大径は、左右の眼幅以下であり、各映像提示光学系のうち最も眼球に近い第1レンズは、この映像提示光学系が提示する提示映像における水平方向については、眼球からの該第1レンズの有効径の視角度が、提示映像における水平視野角以上となるとともに、提示映像における垂直方向については、眼球からの該第1レンズの有効径の視角度が、提示映像における垂直視野角以上となり、かつ、撮影光学系が瞳孔を撮影することができる眼球の正面からの傾き角の最大値以下となる範囲内に配置されていることを特徴とするものである。
【0012】
〔構成2〕
構成1を有する両眼広視野映像提示及び視線計測装置において、提示映像は、垂直視野角が、水平視野角より狭く、第1レンズは、提示映像における垂直方向についての有効径が、提示映像における水平方向についての有効径より小さいことを特徴とするものである。
【0013】
この場合には、広視野の映像提示と眼球運動の計測との双方を同時に実現するために、要求される画角(水平視野角及びアスペクト比)での映像提示が可能な範囲で光学系の下瞼側、または、上瞼側を切削するものである。
【0014】
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する両眼広視野映像提示及び視線計測装置において、提示映像は、水平視野角が、100°以上であることを特徴とするものである。
【0015】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する両眼広視野映像提示及び視線計測装置において、MRI装置内において用いて、被験者に映像を提示するとともに被験者の眼球運動を監視し、被験者の両眼に対し同一の映像を提示したときの脳機能の計測、被験者の両眼に対し両眼視差に対応した差異を有する映像を提示して立体映像を提示したときの脳機能の計測、または、被験者の両眼に対し全く異なる映像を提示したときの脳機能の計測のいずれをも行うことができることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置においては、各映像提示光学系の最大径は、左右の眼幅以下であり、各映像提示光学系のうち最も眼球に近い第1レンズは、この映像提示光学系が提示する提示映像における水平方向については、眼球からの該第1レンズの有効径の視角度が、提示映像における水平視野角以上となるとともに、提示映像における垂直方向については、眼球からの該第1レンズの有効径の視角度が、提示映像における垂直視野角以上となり、かつ、撮影光学系が瞳孔を撮影することができる眼球の正面からの傾き角の最大値以下となる範囲内に配置されている。
【0017】
すなわち、本発明は、例えば、MRI装置内のような狭い空間内においても、両眼に対し広視野の映像を提示し、立体映像も提示することができ、かつ、この映像を観察している状態の眼球運動の計測が同時に行える装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置の要部の構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置における映像提示光学系の光軸及び眼球回転中心を通る提示映像水平方向の平面における断面図である。
【図4】本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置における映像提示光学系の光軸及び眼球回転中心を通る提示映像垂直方向の平面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0020】
本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置は、例えば、MRI装置内のような狭い空間内においても、両眼に対し広視野の映像を提示し、立体映像も提示することができ、かつ、この映像を観察している状態の眼球運動の計測が同時に行える装置である。
【0021】
図1は、本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置の要部の構成を示す側面図である。
【0022】
この両眼広視野映像提示及び視線計測装置は、図1に示すように、スクリーン6や液晶表示デバイスに表示される映像の各点からの光を平行光束として眼球に入射させる映像提示光学系1を有して構成される。この映像提示光学系1は、右眼用の映像提示光学系及び左眼用の映像提示光学系が互いに独立して一対をなして設置されている。
【0023】
そして、この両眼広視野映像提示及び視線計測装置は、映像提示光学系1により映像を提示されている眼球を、この眼球の下瞼側、または、上瞼側から撮影する撮影光学系2を有している。
【0024】
この装置は、MRI装置内において用いた場合には、被験者に映像を提示するとともに、被験者の眼球運動を監視し、提示された映像を観察している状態における被験者の脳機能を計測することができる。この場合においては、両眼に対し同一の映像を提示したときの脳機能の計測、両眼に対し両眼視差に対応した差異を有する映像を提示して立体映像を提示したときの脳機能の計測、または、両眼に対し全く異なる映像を提示したときの脳機能の計測のいずれをも行うことができる。
【0025】
図2は、本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
この両眼広視野映像提示及び視線計測装置は、図2に示すように、提示映像貯蔵部3を有し、この提示映像貯蔵部3は、提示する左右各眼用の映像データを貯蔵している。提示映像貯蔵部3は、映像再生に応じて、順次的に映像データを提示映像再生部4へ転送する。
【0027】
提示映像再生部4は、提示映像貯蔵部3から読み出された映像データを映像信号として再生し、映像投射部5に送信する。
【0028】
映像投射部5は、望遠レンズが取り付けられたプロジェクタ2台からなる。提示映像再生部4から受信した映像信号に基づいて、左右各眼用の映像を後述の映像提示光学系スクリーン6上に横に並べて投影する。
【0029】
映像提示光学系1は、被験者101の眼前に設置された一対のレンズ系と、その後方に位置するスクリーン6とからなる。被験者101は、レンズ系を介してスクリーン6上の映像を観察する。一対のレンズ系の光軸は互いに平行であり、その距離は、人の平均両眼間距離を基準として、50mm乃至70mmとされている。
【0030】
撮影光学系2は、望遠レンズが取り付けられたカメラと、撮影位置及び角度を調整するミラー系からなり、被験者の瞳孔を撮影する。撮影光学系2のカメラで撮影された眼球映像信号は、眼球運動解析部7に送信される。
【0031】
眼球運動解析部7は、撮影光学系2から送られた映像信号を画像処理し、認識された映像中の瞳孔位置変化に基づいて眼球運動を算出し、この算出結果を示す眼球運動データを出力する。この眼球運動データは、眼球運動記録部8に送られる。眼球運動記録部8は、送られた眼球運動データを記録する。
【0032】
図3は、本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置における映像提示光学系の光軸及び眼球回転中心を通る提示映像水平方向の平面における断面図である。
【0033】
なお、図2及び下記の図3において、映像提示光学系の光軸は、眼球回転中心を貫く位置関係に配置してある。
【0034】
左右眼用の一対の映像提示光学系1を互いに横に並べて配置するためには、光軸間距離を左右の眼幅(平均両眼間距離)に保つ必要があり、したがって、映像提示光学系1の光軸から水平端までの距離は、最大でも、左右の眼幅の半分(d/2)以下である必要がある。すなわち、各映像提示光学系1の最大径は、左右の眼幅d以下である。
【0035】
図3に示すように、仮に映像提示光学系1の系が最大であったとして、被験者101が提示映像の水平視野角θxの限界にまで視線を向けた場合に、被験者の瞳孔102全体に、各映像提示光学系のうち最も眼球に近い第1レンズ1a(最近接レンズ)からの光線が入射するためには、WDが一定の距離以下である必要がある。この条件から、WDの上限値Wmaxが特定される。
【0036】
すなわち、各映像提示光学系1のうち最も眼球に近い第1レンズ1aは、この映像提示光学系1が提示する提示映像における水平方向については、眼球103からの第1レンズ1aの有効径の視角度αxが、提示映像における水平視野角θx以上となる範囲内に配置されている。なお、第1レンズ1aの有効径の視角度αxは、瞳孔102の外縁を通る線で考える。提示映像の水平視野角は、例えば、100°以上である。
【0037】
図4は、本発明に係る両眼広視野映像提示及び視線計測装置における映像提示光学系の光軸及び眼球回転中心を通る提示映像垂直方向の平面における断面図である。
【0038】
図4に示すように、水平方向の場合と同様に、提示映像のアスペクト比によって定まる垂直視野角にまで被験者101が視線を向けた場合を考えることにより、映像提示光学系1の下瞼側、または、上瞼側(この実施の形態においては下瞼側)の切削可能範囲が特定される。
【0039】
すなわち、提示映像は、垂直視野角θyが水平視野角θxより狭く、第1レンズ1aは、提示映像における垂直方向についての有効径が、提示映像における水平方向についての有効径より小さくなっている。
【0040】
一方、被験者が提示映像の上端及び下端の限界まで視線を向けた場合においても瞳孔102全体が撮影可能な条件を考えると、これは、映像提示光学系1の下瞼側から瞳孔102の上端(または、映像提示光学系1の上瞼側から瞳孔102の下端)が撮影可能な場合と一致する。このことから、瞳孔撮影角度(映像提示光学系1の光軸に対する角度)の上限値γmaxが特定される。これは、第1レンズ1aが最も眼球103に近づく条件でもあり、ここから、WDの下限値WDminが特定される。同様にして、図3で求めたWDの上限値に対応する瞳孔撮影角度の下限値γminが特定される。
【0041】
すなわち、各映像提示光学系1のうち最も眼球に近い第1レンズ1aは、提示映像における垂直方向については、眼球103からの第1レンズ1aの有効径の視角度αyが、提示映像における垂直視野角θy以上となり、かつ、撮影光学系2が瞳孔102を撮影することができる眼球の正面からの傾き角の最大値γmax以下となる範囲内に配置されている。
【0042】
以上により、要求する画角での立体映像提示と映像観察時の視線可動範囲での瞳孔撮影を両立するための必要条件が、WDの範囲WDmin≦WD≦WDmax及び瞳孔撮影角度の範囲γmin≦γ≦γmaxとして特定された。これら上限値及び下限値とその算出に必要な距離l1からl10及び角度αx,αy,βは以下の各計算式により求まる。
【0043】
なお、各式中のパラメータの定義は次の通りである。θxは、提示映像の水平視野角、θyは、提示映像の垂直視野角、dは、眼幅(両眼間距離)(50mm〜70mm)、φは、瞳孔径(2mm〜8mm)、Rは、眼球回転中心(回旋点)と瞳孔102との間の距離(9.4mm:グルストランドの模型眼に基づく)である。
【0044】
αx=θx/2
αy=θy/2
β=atan((φ/2)/R)
l1=R/cosβ
l2=l1・sin(αx+β)
l3=R−l1・cos(αx+β)
l4=l2+l3・tan(αx)
l5=l1・sin(αy+β)
l6=R−l1・cos(αy+β)
l7=(2・l5)・tan(αy)/{tan(90°−αy)−tan(αy)}
l8=l7・tan(90°−αy)
l9=WDmax+l6
l10=l5+l9・cos(αy)
WDmin=l8−l6
WDmax=(d/2−l4)/tan(αx)
γmin=atan(l9/(l5+l10))
γmax=90°−αy
【0045】
具体的には、水平視野角αx=100°、垂直視野角αy=56.25°(アスペクト比16:9に基づく)、両眼間距離d=65mm、瞳孔径φ=4mmの場合を考えると、WD及び瞳孔撮影角度の範囲は、以下の通り算出される。
【0046】
WDmin=7.219mm
WDmax=15.26mm
γmin=32.04°
γmax=61.88°
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、両眼に対し広視野の映像を提示するとともに、この映像を観察している状態の眼球運動の計測が同時に行える装置に適用される。
【符号の説明】
【0048】
1 映像提示光学系
1a 第1レンズ
2 撮影光学系
101 被験者
102 瞳孔
103 眼球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右眼用及び左眼用の互いに独立した一対の映像提示光学系と、
前記映像提示光学系により映像を提示されている眼球の瞳孔を、この眼球の下瞼側、または、上瞼側から撮影する撮影光学系と
を備え、
前記各映像提示光学系の最大径は、左右の眼幅以下であり、
前記各映像提示光学系のうち最も眼球に近い第1レンズは、この映像提示光学系が提示する提示映像における水平方向については、前記眼球からの該第1レンズの有効径の視角度が、前記提示映像における水平視野角以上となるとともに、前記提示映像における垂直方向については、前記眼球からの該第1レンズの有効径の視角度が、前記提示映像における垂直視野角以上となり、かつ、前記撮影光学系が前記瞳孔を撮影することができる前記眼球の正面からの傾き角の最大値以下となる範囲内に配置されている
ことを特徴とする両眼広視野映像提示及び視線計測装置。
【請求項2】
前記提示映像は、垂直視野角が、水平視野角より狭く、
前記第1レンズは、前記提示映像における垂直方向についての有効径が、前記提示映像における水平方向についての有効径より小さい
ことを特徴とする請求項1記載の両眼広視野映像提示及び視線計測装置。
【請求項3】
前記提示映像は、水平視野角が、100°以上である
ことを特徴とする請求項1、または、請求項2記載の両眼広視野映像提示及び視線計測装置。
【請求項4】
MRI装置内において用いて、被験者に映像を提示するとともに前記被験者の眼球運動を監視し、前記被験者の両眼に対し同一の映像を提示したときの脳機能の計測、前記被験者の両眼に対し両眼視差に対応した差異を有する映像を提示して立体映像を提示したときの脳機能の計測、または、前記被験者の両眼に対し全く異なる映像を提示したときの脳機能の計測のいずれをも行うことができる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の両眼広視野映像提示及び視線計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−188957(P2011−188957A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56775(P2010−56775)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【出願人】(501193218)株式会社 清原光学 (16)
【Fターム(参考)】