両親媒性分子の二重層の形成
両親媒性分子の二重層を形成する方法は、疎水性媒質中、例えば油中の水溶液の液滴を使用する。両親媒性分子、例えば脂質の層は、前記液滴の表面の周囲に形成される。これは、油中に脂質を供給することと、層を形成するために十分な時間にわたり前記液滴を放置することによって達成できる。前記液滴は、相互に接触させられ、その結果として両親媒性分子の二重層が接触している液滴間の界面として形成される。前記二重層は、広範囲の試験のために使用できる。本技術は、前記二重層のための長い寿命を提供すること、小容量の試験を許容すること、そして複雑な系を試験するためにその間に前記二重層を備える液滴の鎖及び網状組織の構築を許容することを含む数多くの利点を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性分子、例えば脂質の二重層の形成に関する。そのような二重層は、細胞膜のモデルであり、したがってバイオ技術における広範囲の試験を実施するために使用できる。
【0002】
脂質二重層、又はより一般的には両親媒性分子の二重層は、細胞膜のモデルであり、広範囲の実験的研究のための、例えば単一チャネル記録による膜タンパク質のインビトロ調査のための優れたプラットフォームとして役立つ。条件、例えば温度、二重層の組成(表面電荷、コレステロール含有量など)及び膜内外などは、生物学的系を模倣する、又は生理学的範囲を越える試みを行ういずれかのために調整することができる。最も重要なことに、溶液の状態(pH、塩の組成、イオン強度)の操作が膜の両側で可能である。生きている細胞における膜タンパク質についてのインビボ調査はパッチクランプ法によって可能であるが、使用できる条件は細胞を健常に維持するための要件によって限定される。
【背景技術】
【0003】
従来の技術では、平面脂質二重層は、油性混合物を用いて前処理されているプラスチック開口部の上方に形成される。学術研究では広汎に使用されているにもかかわらず、この従来の技術は、例えば以下のような、数多くの制限に悩まされている。
【0004】
従来の技術は面倒であり、生成される二重層は傷つきやすい。平面二重層を形成する2つの最も一般的な方法は、開口部全体にわたり脂質/油混合物を塗布する方法、及び開口部の各側から1枚ずつ、2枚の単層を一緒に折り畳む方法である。どちらの技術も、熟練の科学者の手を必要とする。振動もしくは流動に起因する小さな静水力は、しばしば平面二重層を破裂させる。最善の条件下でさえ、平面二重層の寿命は通常は数時間に過ぎない。この限定された寿命は、試験することが可能なプロセスの範囲を事実上制限する。
【0005】
さらに、各二重層の環状領域のサイズ及び形状(膜の特性を決定する)は固有であり、平面二重層内への膜タンパク質の挿入を標準化することは困難である。
【0006】
一部の系を試験する際に生じる困難のまた別の原因は、平面二重層のいずれかの側にある電気記録セルの容量が典型的には1mLより大きいことである。このため各実験は大量のタンパク質もしくは他の試薬を必要とし、これらは生成するのが容易ではない。各実験後、電気記録セルの両側は、完全に洗浄されなければならない。
【0007】
最後に、従来の技術は、2つのチャンバ間で単一の平面二重層を使用する。多数の膜を含む系を試験するためには、原理的にはより多くのチャンバ及び膜を有するセルを構築することが可能であるが、二重層を形成する実験技術は極めて複雑なものになり、実際の問題として科学者にとってはこれを極めて面倒で魅力に欠けたものになる。
【0008】
これらの制限の1つ又はそれ以上を軽減する代替方法を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明によると、両親媒性分子の二重層を形成する方法であって:
液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える疎水性媒質中の水溶液の複数の液滴を形成することと;
前記液滴を相互に接触させ、その結果として両親媒性分子の二重層が接触している液滴間の界面として形成されることとを含む方法が提供される。
【0010】
二重層を形成する本方法は、重要な利点を有しており、特には上記で考察した従来の技術の制限を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本方法は実施するのが容易であり、バイオ技術の分野における広範囲の研究及び用途に使用できる堅固な二重層を生じさせる。液滴は、極めて容易に、例えば疎水性媒質中へ水溶液をピペッティングすることによって単純に形成できる。同様に、液滴は、それらを相互に接触させるために容易にあちこち移動させられる。実際に、液滴が移動させられる方法は、液滴が堅固で容易に操作されるので、重要ではない。液滴を取り扱うために適合する装置の例を以下に提示するが、限定的ではない。
【0012】
液滴の表面の周囲での両親媒性分子の層の形成もまた容易である。例えば、それは液滴の疎水性媒質中もしくは水溶液中に両親媒性分子を供給することによって造作なく達成することができ、その後で液滴が十分な時間にわたり放置されると、自然に層が形成される。両親媒性分子はまた、液滴自体の中に溶解させる、又は脂質ベシクルとして懸濁させることもでき、そこから両親媒性分子は再び液滴と疎水性媒質との間の界面で単分子層を自然に形成するが、それは疎水性媒質中で平衡している濃度の両親媒性分子を有する可能性がある。
【0013】
二重層は、液滴を相互に単純に接触させることによって形成される。水溶液の周囲の層内の両親媒性分子の配向性は、二重層の形成を許容する。液滴が接触するにつれて、介在する疎水性媒質が置き換えられた後、接触している液滴間の界面として二重層が極めて急速に形成される。二重層は、別の概して球状である2個の液滴間で平面を形成する。この平面二重層は、最小自由表面エネルギーを備える形状であり、負の生成自由エネルギーを有する;このためこれは自然事象である。両親媒性分子は、2個の液滴が安定性二重層の形成によって融合することなく接触することを可能にする。
【0014】
液滴は、様々な技術によって取り扱うことができる。液滴を移動させる1つの特に有益な方法は、液滴の内側に親水性外面を有するアンカーを配置することである。アンカーの移動は、液滴が移動するのを、例えば液滴が他の液滴と接触するのを可能にする。
【0015】
二重層は、両親媒性分子の二重層で、又は両親媒性分子の二重層を通して発生するプロセスを含む実験を実施するために使用できる。主要なクラスの実験は、二重層内に挿入された膜タンパク質を使用する。これは、水溶液中に膜タンパク質を供給することによって単純に達成できる。二重層の形成後には、膜タンパク質は、従来の技術によって形成される二重層と同一方法で自然に二重層内に挿入されることが証明されている。
【0016】
二重層は、従来の技術によって形成される二重層と同一方法で機能的に挙動することが観察されている。このため、本方法によって形成される二重層は、同一タイプの実験を実施するために使用できるが、以下でさらに考察するように、可能性のある実験の範囲を拡大する数多くの利点を提供する。そこで、本方法は、膜タンパク質の調査及び/又はスクリーニング、膜タンパク質と相互作用する分析物の調査及び/又はスクリーニング、ならびに二重層の調査及び/又はスクリーニングを含む広範囲の実験に適用できる。実際に、本方法は、典型的には二重層で、もしくは二重層を通して発生するプロセスを含む、一般に任意の二重層現象を試験するために使用できる。
【0017】
脂質二重層は、またその中に挿入された膜タンパク質の特性を試験するためにも使用できる。例えば、膜タンパク質の特性の電圧依存性を決定できる。脂質二重層中の膜タンパク質を試験するための技術は、当分野において周知である。チャネルもしくは細孔の機能は、例えば膜タンパク質を通して脂質二重層全体を流れるイオン電流を測定することによって決定できる。トランスポータの機能は、脂質二重層を越えて移行した分子の量を測定することによって、例えば質量分析計もしくはELISAによって、又は蛍光性もしくは放射活性物質でタグ付けされた基質を用いて決定することができる。
【0018】
実施できる実験のその他の例は以下のとおりである。
【0019】
水滴は、その初期浸透圧濃度に依存して浸透圧的に膨張又は収縮させることができる。水は、接触時に形成される二重層を通る浸透圧勾配に応答して液滴間を移動することができる。さらに、薬物のような二重層透過性である他の分子、又は画像描出できる分子は、1個の液滴から他の液滴へ二重層接触区間を通って移動するように作製できる。そこで、反応物質を分離させ、二重層を越えて移動した場合にのみ反応させることができる。この場合の用途には、接触させて、二重層を越える反応物質が相違する液滴間で接触しているときにのみ形成される新規な生成物を生成するために反応させることのできる液滴のマイクロ流体システムを含むことができる。1つの可能性は、1つの反応物質が二重層透過性であり、また別の反応物質が非二重層透過性であることである。この場合には、生成物は、非二重層透過性反応物質を含有する液滴中でのみ発生する。他方、両方の反応物質が二重層移動可能である場合は、生成物は両方の液滴内で、又は接触二重層を越える各反応物質の相対透過性に依存して複数の接触している液滴を形成することができる。これらの例は膜タンパク質自体は含んでおらず、それを通して反応物質及び生成物が拡散する可能性がある形成された二重層の接触だけを含んでいる。
【0020】
以下では本方法を適用できるまた別の研究の特定の例について考察する。
【0021】
多くの試験では、電気計測値が入手される。これは、液滴が相互に接触しているときに電極を液滴と電気接触させることによって、例えば電極を液滴内に挿入することによって、又はチャンバもしくはマイクロ流体チャネル内に挿入された静止電極上に液滴を配置することによって容易に達成できる。
【0022】
本方法によって形成される二重層は、従来の技術と比較して、堅固であり長い寿命を有するという利点を有する。例えば、従来の技術によって形成される二重層は調製する技量を必要とし、典型的には数時間、そして極めて低い比率の場合でさえせいぜい2、3日間しか存続しない。これとは対照的に、本技術によって形成される二重層は、より確実に形成され、はるかに長期間、一般には数日間にわたって存続する。寿命に関する十分な研究は実施されていないが、二重層は、液滴を分離することによって故意に分割される前に8日間という期間にわたり存続することが観察されている。
【0023】
より長い寿命の理由は、2個の液滴間で形成された二重層が従来の技術によって形成される二重層より低い表面自由エネルギーを有することにあるという仮説が立てられている。後者の場合には、開口部の辺縁に隣接する環状領域では、二重層は開口部を規定する障壁の反対側に伸長する2枚の単層で構成されている。また、安定性は、開口部を規定する隔膜の材料上に付着(もしくは吸着)させられなければならない環の欠如によって与えられる可能性もある。従来の技術と類似方法で、二重層は、この場合には液滴界面を単純に被覆する2枚の単層で構成されており、そして(チャンバの表面を除いて)支持体材料では終了しない。このため二重層は、開口部を越えて「伸長させられる」ことはないが、2個の液滴の接触区間で形成され、追加の拡散もしくは湿潤張力は誘導されず、二重層の張力は疎水性媒質中の単層の張力及び生成自由エネルギーによって決定される。
【0024】
より長い寿命は、それ自体がより長い寿命を有する生物学的プロセスの試験を可能にする。この方法で、本方法は新規な分野の試験を開拓する。
【0025】
二重層の形成は、さらに高度に可逆性及び再現性でもある。相互に接触させられている液滴は自由に分離させて二重層を分割させることができ、引き続いて再び接触させて二重層を再作製することができる。二重層の作製、分割及び再作製に関するそのような制御もまた、新規な分野の試験を開拓する。
【0026】
制御度は、二重層の形成を標準化することを容易にさせる。特には、液滴が相互に接触しているときに液滴を移動させることによって両親媒性分子の二重層の領域を容易に変動させることができる。二重層の領域内の変化は、視覚的に、又はキャパシタンス測定によって観察することができる。二重層の径を30μmから1,000μmの範囲にわたって変化させることが可能であることは証明されているが、これが限界であるとは思われない。
【0027】
さらに、疎水性媒質の性質は、接触した単層の拡散度及びそれにより接触角を決定する。例えば、実験において、疎水性媒質としてのデカン中で形成されたグリセリルモノオレエート(GMO)の二重層について、接触域は比較的小さく、接触角は約3°であり、これは従来の脂質膜系中で測定された接触角と一致することが観察されている。他方、疎水性媒質がスクアレンである場合は、より大きな接触面が形成され、接触角は25°であり、これもまた従来の脂質膜上での測定値と一致している。これらの溶媒依存性作用は、GMO:スクアレン系(ほぼ−500mJ/m2)と比較して、GMO:デカン系(ほぼ−4mJ/m2)の小さな生成自由エネルギーを反映しているが、このとき二重層の厚さは付随して50Åから25Åへ減少し、二重層からのより大きなスクアレン溶媒の枯渇を示している。この生成自由エネルギーの非線形増加は油薄膜を越えて作用する水の2つの無限スラブについての単純なLifshitz理論から逸脱しており、「枯渇凝集」作用とより一致している。本質的により大きなスクアレン溶媒分子はGMO二重層からエントロピー的に排除され、この溶媒枯渇は二重層上により大きな浸透圧を加え、それによって何らかのLifshitz作用に加えて、デカンからスクアレンへ移る際に生成自由エネルギーを数桁分上昇させる。そこで接触の接着ならびに強度及び安定性は、二重層中の溶媒の存在の有無に大きく左右される。
【0028】
本方法の別の利点は、それが比較的少量の水溶液の使用を許容することにある。特には、容量は、従来の技術において使用されるセルのチャンバ内に存在する容量より小さくてよい。液滴は、典型的には1,000nL未満の容量を有していてよい。一般に、液滴は水溶液のディスペンサの制御度、及び直接操作が所望である場合には光学分解能の限度によってのみ制限される任意のサイズであってよい。配置された電極からの電気記録もしくは刺激を有することが必要とされない液滴は、懸濁液中で集合させ、それらの介在する二重層を介して相互に全部が接触しているμm(マイクロメートル)からさらにnm(ナノメートル)までの寸法を有する液滴のラフトもしくは3D凝集体もしくは綿状体を形成することができる。標準型ピペットを用いて、実験は200nLから800nLの範囲内の容量を有する液滴上で実施されてきたが、より小さな容量の液滴を適切な装置を用いて生成できることが予測されている。例えば、比較的高倍率の顕微鏡において観察されるガラス製マイクロピペットから液滴を形成するためにマイクロピペット操作を用いて、およそ30μmの径の液滴が集合させられる場合、その容量はおよそ14pLである。懸濁液中では、およそ200nmの径の液滴の液滴凝集は、およそ4aL(aLは、10-18Lであるアトリットルを表す)の内部容量を産生する。
【0029】
本発明の重要な利点は、鎖もしくは網状組織状で、例えばマイクロ流体チャネル内の平面もしくはディンプル付き表面上で、又は上記で指摘したように凝集もしくは綿状懸濁液中で2個を超える液滴を相互に接触させることが可能である点である。それによって液滴を単純にあちこちに移動させることによって二重層を形成できる単純性及び制御は、従来の技術にしたがって障壁内の開口部内で二重層が形成される系においては実行不可能である大きな鎖もしくは網状組織を構築することを容易にする。これは、例えば複数の液滴を用いて全系をモデリングする、従来の技術を用いて実際的であるよりはるかに大きな系を試験する可能性を切り開く。以下に一部の実施例を記載するが、試験できる科学の範囲ははるかに広い。
【0030】
本方法は、以下のように、広範囲の材料で実施することができる。
【0031】
一般に、両親媒性分子は、その中に液滴が配置されている疎水性媒質中で二重層を形成する任意のタイプであってよい。これは、疎水性媒質及び水溶液の性質に依存するが、広範囲の両親媒性分子が可能である。両親媒性分子は、疎水性基及び親水性基の両方を有する分子である。液滴の周囲に形成された層は、親水性基が内側に向いて、そして疎水性基が外側に向いて分子が液滴の表面上で整列するように、疎水性基及び親水性基と水溶液との相互作用によって自然に形成かつ維持される両親媒性分子の単層である。
【0032】
本方法を適用できる重要なクラスの両親媒性分子は、脂質分子である。脂質分子は、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質及びポリケチドを含む主要クラスの脂質のいずれかであってよい。一部の重要な例には、リン脂質、糖脂質もしくはコレステロールが含まれる。脂質分子は、天然型もしくは合成であってよい。脂質分子からの二重層の形成は証明されているが、本方法は、二重層を形成できる任意の両親媒性分子のために適切であると予想されている。
【0033】
両親媒性分子は、全部が同一タイプである必要はない。両親媒性分子は、混合物であってよい。また別の重要な例は、接触させられる2個の液滴の各層内の両親媒性分子が相違するタイプであり、その結果として2つの単層によって形成される二重層は非対称性である場合である。
【0034】
水溶液は、実施すべき実験的研究のために自由に選択することができる。各液滴の水溶液は、同一であっても相違していてもよい。溶質の性質及び濃度は、溶液の特性を変化させるために自由に変化させることができる。1つの重要な特性はpHであり、これは広範囲にわたって変化させることができる。電気計測値を用いる実験におけるまた別の重要な点は、電流を運ぶために適切な塩を選択することである。また別の重要な特性は、浸透圧である。
【0035】
疎水性媒質は、広範囲の材料から選択することもできる。材料は、水溶液が、疎水性媒質と混合するよりむしろ液滴を形成するように疎水性であるが、そうでなければ疎水性媒質は自由に選択できる。疎水性媒質の粘度は、液滴の移動及び、両親媒性分子の層が疎水性媒質中に提供される場合にはそれらの形成の速度に影響を及ぼすために選択することができる。
【0036】
疎水性媒質は、油であってよい。任意のタイプの油は、その表面活性が比較的高い限り、そしてそれが形成された二重層を不安定化させない限り適合する。油は、分枝状もしくは非分枝状の炭化水素、例えば5から20個の炭素原子を有する炭化水素であってよい(だが低分子量の炭化水素は蒸発の制御を必要とする)。適切な例には、アルカンもしくはアルケン、例えばヘキサデカン、デカン、ペンタンもしくはスクアレンが含まれる。他のタイプの油が可能である。例えば、油は、フルオロカーボンであってよい。これは、一部の系の試験のために、例えば液滴からの特定の膜タンパク質もしくは分析物の消失を最小限に抑えるため、又は気体含量、例えば酸素を制御するために有用な可能性がある。
【0037】
上記で考察したように、多くの実験的研究では、二重層内に挿入するために膜タンパク質は1個又はそれ以上の液滴中へ供給される。本方法は、問題のタンパク質のために適切な特性を備える水溶液が選択されることを前提に、膜タンパク質の選択を限定しない。そこで、膜タンパク質は、任意のタイプであってよい。内在性膜タンパク質の使用は実証されているが、外在性膜タンパク質を使用できることも同等に予想されている。本発明の方法は、β−バレルバンドルもしくはα−ヘリカルバンドルである2つの主要クラスを含む任意の膜タンパク質に適用される。重要な適用は、細孔もしくはチャネルである膜タンパク質である。細孔もしくはチャネルタンパク質の他に、また別の可能性のある膜タンパク質には、排他的ではないが、受容体、トランスポータ又は細胞認識もしくは細胞間相互作用に影響を及ぼすタンパク質が含まれる。
より明確に理解できるように、以下では本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら非限定的な実施例にしたがって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】二重層を形成するために液滴を取り扱うための装置の断面図である。
【図2】2個の接触している液滴と、それらの間の界面として形成された二重層との略断面図である。
【図3】二重層を形成するために液滴を取り扱うための代替装置の断面図である。
【図4】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図5】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図6】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図7】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図8】液滴の網状組織の画像である。
【図9】「バイオ電池」を形成している液滴の網状組織の図である。
【図10】図9の網状組織内に記録された電流のトレースである。
【図11】光感知能力を有する液滴の網状組織の図である。
【図12】図11の網状組織内に記録された電流のトレースである。
【0039】
本方法を実施するための水溶液の液滴を取り扱うために適合する装置1は、図1に示している。装置1は、1mLのPerspex浴である容器2を含んでいる。容器2は、油3を含有する。
【0040】
油3内には水溶液の2個の液滴4がある。油3は疎水性媒質であるので、液滴4の水溶液は高度には油3と混合しない。水中への炭化水素及び炭化水素中への水の溶解限度に依存して、ある程度の相互溶解性が予想されている。液滴4は、例えば従来のピペットから、もしくは実際に任意の適切なディスペンサから、水溶液を単純に投入することによって油3内に形成される。ディスペンサは、好ましくは液滴4の容量の制御を可能にするタイプである。実験は、200nLから800nLの範囲内にあるがこれは限定的ではない容量の液滴4を用いて実施されている。本方法の利点の1つは、小容量の液滴4を使用する能力であり、200nL未満の容量を使用できることが予想されている。マイクロピペット操作は、たった10μmの液滴4を作製するために使用されており、乳化技術はおよそ100nmの径を有する二重層に接触する液滴の懸濁液を生成できると予想されている。
【0041】
油3内の容器2の底面上では、装置1には疎水性外面を有する3つの支持体5が用意されている。支持体5は、本実施例では単純に容器1上に載せられた10μLのディスポーザブルピペットチップである。そこで、支持体5は環状である。液滴4は、支持体5上にそれらをこの位置に投入することによって配置できる。一例として、図1は、支持体5の1つの上に支持された液滴4−Aを示している。プラスチックから製造される支持体5に起因して発生する支持体5の外面の疎水性の性質は、その上に支持された液滴4−Aが支持体5から流れ落ちるのを防止する。代替法として、ディンプル付き表面の形状にある支持体を使用することができる。
【0042】
各支持体5には、支持体5の中心にある開口部を通して0.5mm突き出ているAg/AgClで被覆された100μm径の棒によって形成された電極8の端部に保持されたヒドロゲル液滴7によって形成されたアンカー6が用意されているので、ヒドロゲル液滴7は、水溶液の液滴4−Aの内側に配置されている。特には、ヒドロゲルはバッファ溶液中の5%(w/v)アガロースである。極めて高い含水量を有するヒドロゲルに起因して、ヒドロゲル液滴7の外面は親水性である。その結果としてヒドロゲル液滴7は、液滴4−Aの水溶液への吸引力のために、支持体5上に支持された液滴4−Aを固定する。この方法で、アンカー6は、液滴4−Aを支持体5上に保持することを支援する。
【0043】
また別の液滴4、例えば図1に示した液滴4−Bは、図1に略図により示されていて従来のタイプであってよいマイクロマニピュレータ9を用いて油3内であちこちに移動させることができる。液滴4−Bは、マイクロマニピュレータ9につなげられているアンカー10によって保持される。アンカー10は、200μm径の球を形成するために末端で部分的に融解させられている1区間のAg線を含んでいる。これは、Ag/AgCl電極12を作製するためにNaClOで最初に処理され、次にヒドロゲル液滴11を形成するためにヒドロゲルの層で被覆された。詳細には、ヒドロゲルはバッファ溶液中の5%(w/v)アガロースであり、およそ200μmの厚さを有する。ヒドロゲルは極めて高い含水量を有するために、ヒドロゲル液滴11の外面は親水性である。その結果としてヒドロゲル液滴11は、液滴4−Bの水溶液への引力のために、液滴4−Bをアンカー10上に固定する。そこで、液滴4−Bは、マイクロマニピュレータ9を制御してアンカー10を移動させることによってあちこちに移動させることができる。
【0044】
水溶液の液滴4が油3内で形成された後、両親媒性分子の、例えば脂質分子の層が液滴4の表面の周囲に形成される。これを達成するためには、2つの選択肢がある。
【0045】
第1の選択肢は、油3内に両親媒性分子を供給することである。これは、液滴4を油3内に投入する前に、即ち油3内の両親媒性分子の溶液として油3を供給することによって実施できる。又は、両親媒性分子は、液滴4を油3内に投入した後に供給することもできるが、この場合は両親媒性分子を油3と混合するのがより困難になる。液滴4自体が、溶液中に、ミセル懸濁液中に、又は脂質ベシクルもしくはリポソームとして界面活性剤もしくは脂質を含有していてよい。
【0046】
その後に、両親媒性分子が油3内に供給された後、そして液滴4が油3内に投入された後、自然に両親媒性分子の層が液滴4の外面周囲に形成される。これは、十分な期間にわたって液滴4を油3内に単純に放置することによって達成できる。層の形成を促進するために何らかの特別な手段を講じる必要はないが、手段、例えば攪拌はこのプロセスを加速することができる。
【0047】
第2の選択肢は、液滴4を形成するために、油3内に投入された水溶液中に両親媒性分子を供給することである。例えば、両親媒性分子は、水溶液中に懸濁させたベシクルとして供給することができる。その後に、両親媒性分子の層は、液滴4の外面周囲に自然に形成される。これは、十分な期間にわたって液滴4を油3内に単純に放置することによって達成できる。層の形成を促進するために何らかの特別な手段を講じる必要はないが、手段、例えば攪拌はこのプロセスを加速することができる。
【0048】
両親媒性分子の層を形成するために必要とされる期間は、油3、両親媒性分子、及び水溶液の性質に左右されるが、典型的にはおよそ数十分間である。必要とされる時間は、任意の所定の材料系に対して実験によって容易に決定される。即ち、以下に記載するように、液滴4を形成し、二重層を形成するために液滴4を一緒にする前に様々な期間にわたって放置するトライアルを実施することができる。トライアルの期間が短すぎると安定性二重層は生じず、その代りに液滴4が一つに合併してより大きな液滴を形成する。安定性二重層が形成されるトライアルに関する期間は、問題の材料系にとって適切な期間である。
【0049】
両親媒性分子の層が液滴4の周囲で形成された後に、液滴4を相互に接触させる。これは図1に記載の装置では、マイクロマニピュレータ9を用いて、支持体5上に支持された静止液滴4−Aと接触するまで液滴4−Bを移動させることによって達成される。
【0050】
液滴4を接触させると、両親媒性分子の二重層が液滴4間の界面として形成される。これは、油3内の水溶液の2個の液滴4を示している図2に示した。各液滴4は、それらの疎水性尾部13aが外側に向き、それらの親水性頭部13bが内側に向くように方向付けられた、略図として(そして縮尺ではなく)示されている両親媒性分子の層13によって取り囲まれている。液滴4が接触すると、各液滴4の両親媒性分子の層13は二重層14を形成する。それは最低自由表面エネルギーの形状であるので、二重層14は、少なくとも液滴4の残りの部分の周囲の両親媒性分子の層13の単層と比較して平面である(二重層14は、小さな程度の曲率を有していてよい)。
【0051】
二重層の形成は、液滴4が接触しているとき自然に発生し、顕微鏡を通して視覚的に観察することができる。液滴4が接触するにつれて、液滴4は変形し、その後に自然に図2に示したように平面形を伴う二重層14が形成される短い遅延が生じる。この遅延は、液滴4間の油3が界面から駆逐されるために要する時間である。
【0052】
二重層14の形成は、また特には液滴4間のキャパシタンスの電気計測によって観察することもできる。これを測定して他の電気計測を実施するために、装置1は、障壁内の開口部を用いる上記従来の方法を使用して二重層を試験するための公知の装置に使用されるタイプと同一タイプの回路15をさらに含んでいる。回路15は、電極8及び12に接続されている。液滴4の水溶液との電気的接触は、ヒドロゲル液滴7及び11の導電性の性質に起因して行われる。二重層14が形成されると、回路15によって測定されるキャパシタンスは、従来の方法によって形成された二重層を用いた場合と同様に増加する。
【0053】
本方法の特定の利点は、接触している液滴を相互に離れさせたり近づけたり移動させることによって二重層14の領域を変化させられる点である。図1の装置では、これはマイクロマニピュレータ9による液滴4−Bの移動によって達成される。二重層14の変化する領域は、視覚的に、そしてキャパシタンス測定の両方から観察することができる。実験では、二重層14の平均径を30μmから1,000μmの範囲内で変化させたが、これは限定的ではない。キャパシタンス測定は、また二重層14の領域の正確な制御を可能にし、これは所定の実験が標準領域の二重層14を使用することによって標準化できるという利点を提供できる。領域を変化させるまた別の利点は、膜タンパク質の挿入は、最初に大きな二重層14を形成することによって促進することができ、そして挿入後には二重層14の領域を減少させられる点である。二重層14の領域の減少中には膜タンパク質は測定によって観察されるように、二重層14が分離する直前まで挿入されたままであることが観察されている。二重層14の領域におけるそのような減少は、さらにまた電気計測における雑音を減少させることもできる。
【0054】
二重層14は、液滴4を分離することによって反復して確実に分離することができ、液滴4を再度接触させることによって再作製できることもまた観察されている。これは、複雑な実験を実施することを許容するので有益である。
【0055】
装置1は便宜的であるが、一般には、広範囲の装置において水溶液の液滴4を一緒にさせて二重層14を形成することができる。液滴4自体は、数多くの様々な方法で、例えばそれらをアンカーに固定する代わりに、物理的に押したり配置したりすることによって操作できるほど十分に堅固である。同様に、二重層14の形成は、液滴4が操作される方法には依存せずに、堅固かつ反復性である。そこで極めて様々な装置を用途に依存して使用できる。操作技術は極めて単純であってよい。例えば、液滴4は、単純なプローブ、例えばガラス棒もしくはプラスチック棒を用いてそれらを押すことによって簡単に移動させることができる。又は、より複雑な操作技術を適用してもよい。例えば、液滴はマイクロ流体装置を用いて移動させてもよい。油中の水溶液の液滴を移動させるために使用されるマイクロ流体システムに関する文献では広範囲にわたる考察がなされており、そのような技術は有益にも本発明へ、例えば高スループットスクリーニングを促進するために適用できる。
【0056】
使用されている、単純な代替装置16は、図3に示した。この場合には、容器2の底部は、この場合にはテフロン(登録商標)から製造されており、底部を通って突き出ている電極17を有している。液滴4は、底部上に支持されて電極17を被覆している。液滴4は、それらを油3内に投入することによって単純に配置され、続いてそれらをあちこちへ押すことによって操作される。例えば、液滴4は電極17上に投入されてよい、又は底部の相違する領域へ投入されて、電極17上へ押されてもよい。図1の装置1はより便宜的に使用できるが、図3の装置16は二重層14を形成して監視することを可能にするので、本方法の頑健性を証明している。
【0057】
これとは反対に、他のより複雑な装置を用途に依存して使用できることが予想されている。例えば、スクリーニングにおいて使用するためには、一連の液滴4を支持し、また別の一連の液滴4を相互に向けて移動させることができる。液滴4を移動させるためのまた別の考えられる方法は、マイクロ流体装置もしくは電気パターン化装置を使用する方法である。
【0058】
既に考察したように、本方法によって形成される二重層は、両親媒性分子の二重層で、又は両親媒性分子の二重層を通して発生するプロセスを含む広範囲の実験を実施するために使用できる。以下では、本発明の方法の有効性を証明するために実施された実際の実験の一部の実施例を提示する。
【0059】
例えば、液滴4が接着して接触区間で二重層14を形成することを確定したら、GMO/溶媒の二重層系におけるような二重層14の透水性を測定することが重要である。これは、各液滴4が相違する浸透圧を有する2個の液滴4を単純に形成することによって容易に達成された。実施した実験では、本発明者らは、500mOsmのグルコース溶液の1個の液滴4と純粋脱イオン水のもう1個の液滴4を集合させることを選択した。液滴4を形成する2つのマイクロピペットには各々相違する溶液を充填し、圧力制御装置を用いて、最初の1個に、そして次にもう1個に陽圧を印加して2個の液滴4を生成した。GMO−スクアレン中で液滴4を形成することは、水が周囲の炭化水素相へ急速には消失しないこと、そして液滴4の容量の変化は、接触時に形成される二重層14を通して、水滴4からグルコース溶液の液滴4への水の通過が浸透圧勾配を低下させることを表すことを保証する。この実験は、次に付着性接触するように液滴4を容易に集合させ、水輸送に起因して発生するそれらの進行及び容量の変化(径から計算される)をビデオ上に記録する。グルコース溶液の液滴4は純水滴4から水を吸収し、水滴4が収縮するにつれて大きくなる。次にデータを液滴容量として経時的にプロットする。
【0060】
多数のタイプの実験では、物理的プロセスは、回路15を公知の技術に類似する方法で使用して、電気計測値、例えばキャパシタンス、電流もしくは電圧を入手することによって監視される。このために、回路15は、一例として、2kHzのコーナー周波数を備えるローパスBesselフィルタ(80dB/10進)を用いて濾過され、次に5kHzのサンプリング周波数でDigiData 1320 A/D変換器(Axon Instruments社)を用いてデジタル化されるパッチ−クランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments社)を含んでいてよい。容器1及び回路15の増幅ヘッドステージは、Faradayケージとして機能させるために金属製の箱の中に封入することができる。
【0061】
一例として、電気計測は、イオンチャネルである膜タンパク質を通るイオンの通過を表す電流を測定することができる。しかし、電気計測を使用することは、問題のプロセスを特徴付ける任意の測定を使用できるために必須ではない。電気計測の1つの代替法は、例えば二重層14越えて輸送される、又は二重層14を越えて輸送される別の分子もしくは二重層14を越える電位に応答する蛍光分子の光学的測定である。
【0062】
多数の実験的技術は、膜タンパク質の機能に関連する試験下のプロセスである、二重層14内への膜タンパク質の挿入を含んでいる。この場合には、膜タンパク質は、1個又はそれ以上の液滴4の水溶液中にそれを供給することによって使用できる。膜タンパク質は、次に二重層14中へ自然に挿入される。これは、任意の特殊な測定を講じなくても、二重層14を挿入が発生するまで放置することによって簡単に達成できる。
【0063】
上記では、2個の液滴4間の単一の二重層14についてだけ考察した。しかし、2個より多い液滴4を接触させると接触している液滴4間で複数の二重層14を形成できることは、本方法の特別な利点である。液滴4は、鎖もしくは網状組織に配列することができる。例えば、図1の装置1では、3個の液滴4は液滴4を鎖状で相互に接触させて3つの支持体5上に配列することができる、又は3つの支持体5上の液滴4はより長い鎖を形成するために他の液滴4によって相互連結させることができる。そのような液滴の鎖は、また別の液滴4を鎖に連結させることによって分岐させることができる。液滴4の分岐部を他の液滴4へ連結させると網状組織を形成することができる。極めて多数の液滴4及びより多くの電極を収容するために、図1の装置1、又は実際上は任意の装置を拡張させることは容易である。同様に、マイクロ流体チャネル内では、2個又はそれ以上の液滴4を結合させて鎖を作製する、又は網状組織パターンのチャネル内に配置することができる。
【0064】
液滴4間で二重層14を形成する本方法は、確実かつ高度に反復性であるので、本方法は、その間で実際的に障壁内の開口部を越えて二重層を形成する従来の方法で対処するのは極めて困難である、二重層14を備える液滴4の複雑な系を形成かつ試験する可能性を切り開く。さらに、複数の相互作用を連続して、もしくは並行して試験することができる。これらの可能性は多岐にわたって刺激的であり、そして組織、例えば心臓組織、又は腸内などに存在する上皮の任意の単層、又は網膜、又はギャップ結合が細胞間情報伝達及びイオンの再分布を提供する耳などのモデリングを含んでいる。さらに、内皮単層もまたモデリングできる。
【0065】
また別の可能性は、液滴4の水溶液が、一次もしくは二次いずれかの輸送である、膜タンパク質を通しての輸送を誘導できる溶質を含むことである。この方法では、本システムは電源内蔵式であってよい。又は、本システムは、例えば回路15によって電気的に、もしくは光起動式システムを用いて光学的に外部電源式であってよい。
【0066】
以下では、本方法の有効性を例示するために、図1の装置1を用いて実施されている幾つかの実験について記載する。
【0067】
第1の実験は、イオン伝導性膜タンパク質が二重層14内に挿入され、二重層14を越えて電位が印加されるとイオン電流の測定を実施するのが可能になることを証明している。
【0068】
特には、2個の200nLの液滴4を支持体5上及びアンカー10上に配置したが、それらのどちらにおいても電極8及び12はAg/AgClから作製された。油3はヘキサデカン(Sigma社)であり、脂質の1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DPhPC、Avanti社)をその中に溶解させて10mM溶液を生成した。
【0069】
1個の液滴4は、10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)中の10pg/mLの野生型(WT)スタフィロコッカスα−ヘモリシン(αHL)ヘプタマーの水溶液を含有しており、もう1個は同様に10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)中の10μM γ−シクロデキストリン(γCD、Sigma社)の水溶液を含有していた。γCDはWT αHLに結合し、加電圧中の電流の増加が液滴/液滴界面を通しての漏電電流ではなくむしろ細孔挿入に起因することを示すための診断薬として作用する、可逆性ブロッキング薬として機能する。
【0070】
この材料系を用いて、液滴4の周囲に脂質層を形成するために必要とされる時間は約30分間であることが見いだされた。即ち脂質は水−油界面が形成されると比較的急速に吸収されると予想されるが、二重層の形成のために必要とされる比較的高密度、この特定の脂質については1分子につきおよそ60Å2の密度の単層を確立するためには約30分間を要する。液滴4がこの時間にわたって分離したまま維持されてその後に接触させられた場合に二重層14が形成されるが、液滴がこれより短い時間にわたり維持された場合には二重層14は安定性ではなく、液滴4は接触させてから1分間未満に融合した。
【0071】
二重層14の形成後、αHL細孔がその中に挿入された。二重層の形成のために必要とされる時間(キャパシタンス測定によって監視する)は、5から10分間であった。イオン電流を測定し、1つの例を図4のトレースに示した。単一αHL細孔のコンダクタンスは、−50mVで798±70pS(n=6)であったが、これは775pS(5mM HEPES、1M KCl(pH7.4))という以前に報告された数値に類似であった。電流は、γCD結合によって一過性で減衰した。αHL細孔に結合したγCDの滞留時間(toff)は495±51ms(n=4)であり、同一溶液条件下で折り畳まれた平面二重層を用いたコントロール実験で見いだされた滞留時間(toff=421±22ms、n=4)に類似であった。
【0072】
シグナルの形態及び計測値は、二重層14内の膜タンパク質の機能が従来の方法によって形成された平面二重層に由来するものと区別できないことを証明している。これとは対照的に、二重層14は、ルーチン的に数日間存続する、はるかに長い寿命を有していた。
【0073】
液滴4間の間隔は、マイクロマニピュレータ9の移動によって制御した。二重層14が形成された後、液滴4を相互に近づくように移動させると二重層14の領域は拡張するが、液滴4を離れるように移動させると二重層14の領域は収縮する。二重層14はタンパク質挿入に適応するために十分に薄かった(<5nm)が、極めて安定性であるので液滴4が一緒になるように押されたり、離れるように引張られた場合でさえ単一チャネル記録が可能であった。これはおそらくこの溶媒−脂質系におけるこの構造についての比較的大きな負の生成自由エネルギーの結果である。
【0074】
液滴4は反復して結合させたり分離させたりすることができ、タンパク質活性が消失する前に多数回にわたってタンパク質含有液滴4の試験が可能であることもまた証明された。これの一例として、WT αHLを含有する液滴4−Aを一連の3種の分析物を含有する液滴4−Bに対してスクリーニングした:それらの内、第1液滴4はバッファ(10mM MOPS、1M KCl(pH7.0))単独を、第2液滴4はバッファ中に50μM γCDを、そして第3液滴4はバッファ中に50μM TRIMEB(過メチル化βCD)を含有していた。WT αHLを含有する液滴4−Aはマイクロマニピュレータ9によって支持された可動性シス電極12上に配置したが、トランス電極8は、それらの各々が支持体5の1つの上に配置された3種の分析物含有液滴4−Bについて共通であった。
【0075】
WT αHLを含有する液滴4−Aを第1液滴4−Bへ結合させ、電気記録を入手した。細孔挿入は、イオン電流の段階的増加として現れた。記録した後、WT αHLを含有する液滴4−Aを第1液滴4−Bから分離し、第2液滴4−Bへ移動させ、また別の記録を実施し、次も同様にした。γCD(第2液滴4−B)のαHL細孔への一過性結合は約60%のイオン電流を遮断したが、TRIMEB(第3液滴4−B)の結合はαHLをほぼ完全に遮断した。これらの結果は、WT αHLを含有する液滴4−Aの反復使用を証明している。さらに、第3液滴4−Bからの記録後、WT αHLを含有する液滴4−Aを第1液滴4−Bへ再結合させ、最終記録を入手した。αHLの挙動は、第1スキャンで証明された挙動と同一であり、これは、WT αHLサンプルがブロッキング分析物のいずれによっても汚染されなかったことを証明している。
【0076】
典型的には、WT αHLモノマーは、大腸菌(E. coli)S30抽出物を用いることによって、結合したインビトロ転写及び翻訳(IVTT)によって生成される。その後で、このタンパク質は赤血球膜上でオリゴマー化され、ゲル電気泳動法によって精製される。他の状況下の液滴はナノリアクタとして機能することができるので、この考えを使用して液滴4の内部でIVTT反応を直接的に実行した。
【0077】
特には、図1の装置を用いて、2個の液滴4を結合させた。第1液滴4は、WT αHLを発現するIVTTミックスを含有しており、第2液滴4は2.5mM MOPS、250mM KCl(pH7.0)中に10μM γCDを含有していた。IVTT反応は通常は50mM未満の濃度のKCl(Promega社、TB129)で実施されるが、イオン電流の記録に役立つように250mM KClをIVTTミックスに加えた。
【0078】
実験では、2個のαHL細孔が二重層内に挿入された。これは、図5の実施例のトレース(電流レベル0、1及び2が各々、両方の細孔が開いている:1つの細孔は開口しており、1つの細孔はγCDによって部分的に遮断されている;及び両方の細孔がγCDによって部分的に遮断されていることを示している)において示されたように、−50mVでのイオン電流における特徴的な増加及びγCD結合によって観察された。少なくとも2分間の遅延時間が、IVTTの成分の混合とαHLポリペプチド鎖の完了との間にある。液滴は最終IVTT成分を添加する1分間以内に油3内に配置されたので、タンパク質は第1液滴4内で生成されていた。
【0079】
電気的観点から、二重層14及びその中に挿入された細孔は回路の成分であり、その回路では二重層14がキャパシタであり、細孔は高抵抗伝導体であり、イオン溶液は2つの要素を電圧源へ接続するワイヤである。これを使用すると、液滴4を集合させることによってより複雑なバイオ−ナノ回路のための基礎を確立することができる。以下では、この実施例について記載する。
【0080】
3個の液滴4は、末端液滴内の電極を用いて、鎖状につなげた。第1液滴4は10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)を含有しており、第2(中央)液滴4はMOPSバッファ中にWT αHLヘプタマーを含有していた。第3液滴4は、MOPSバッファ中に10μM γCDを含有していた。第1及び第3液滴4−Aは、各々支持体5上のシス及びトランス電極上に配置したが、第2液滴4−Aはマイクロマニピュレータ9を用いて保持した。
【0081】
第1及び第2液滴4間で1つ及び第2及び第3液滴4間でもう1つの2つの二重層14が形成された後、イオン電流を監視したが、イオン電流は少なくとも1つのタンパク質が各二重層14内に挿入された後にしか観察されなかった。しかし、各二重層14の形成は独立して発生したので、最初に形成された二重層14は第2二重層14が形成される前に細孔を取り入れ始めた可能性が高い。第2二重層14でのγCDの細孔への結合を示す例の電流トレースは、図6に示した。
【0082】
αHL細孔及び平面二重層の電気特性は広汎に研究されており、コンピュータモデルにおいて容易にシミュレートすることができる。単一二重層系では、γCD結合は電流の顕著な減衰を惹起した。しかし、二重の二重層系の界面でγCDがαHL細孔に結合すると、結合及び分離の両方の後に予測されたレベルへの緩徐な電流変化が続いた(図6の電流トレースにおけるγCDの結合及び分離の直後の湾曲に注目されたい)。このバイオ−ナノ回路のシミュレーションもまた、このタイプの結合挙動を予測した。このモデルから、本発明者らは、以下のように緩徐な電流変化の結果であると考える。第2二重層14での細孔の抵抗はγCDが結合すると増加したが、これは第1二重層14を越える電位を低下させた。これは順に、第1二重層14(キャパシタ)がその蓄積電荷の一部を解放させることを引き起こした。γCDが離れると、このプロセスは逆転された。本発明者らの試験結果は、液滴4の鎖及び網状組織の挙動が基本的電気的原理によって制御され、容易に予測することができることを示唆している。このため、特異的機能、例えばフィードバックループを有する回路を設計することができる。
【0083】
タンパク質ゲートウエイを用いて、安定性の、区分化されて連絡しているナノリットル容量、又はピコリットル容量でさえも相互結合する能力は、基本的な人工細胞を作製するための基礎を形成する。まさに生きている細胞のように別個の区画内で生命の機能を果たし、これらのプロセスを模倣できる液滴4の小さな網状組織を設計できる可能性がある。同様に、まさに単一細胞が機能を実行し、結合した細胞が組織を作り出すように、この概念は液滴細胞の上皮単層及び内皮単層を含むように拡張することができる。この場合には1細胞に付き10μmのサイズスケールでさえも適合し、拡散距離が同等であることを可能にする。このことは、拡散プロセスのための時間は距離との二乗関係によって律速され、径100μmの液滴4は径10μmの液滴4より100倍長い拡散時間を有するため、重要である。
【0084】
αHLタンパク質は優れた開始点であるが、それは細孔の特性、例えば小分子の導電性、イオン選択性、ゲーティング及びブロッキング、ならびに選択的輸送が遺伝子工学を通して特別仕立てできるからである。さらに、αHLは膜内で公知の配向性を採用するが、これは化学勾配の方向は網状組織内の液滴4の配列を通して制御できることを意味する。
【0085】
イオン勾配はイオン選択性細孔と結び付くと膜内外電位差及び液滴界面を越える電流を生成することができ、これを使用すると順に二重層14で発生するプロセスへ液滴4の鎖に沿って遠くへ電力供給することができる。
【0086】
後者の概念は、3個の液滴の鎖を用いて実証された。第1液滴4は、アニオン選択性であるN123R αHLホモヘプタマー(10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)中に)を含有していた。第2(中央)液滴4は、10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)を含有していた。第3液滴4は、10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)バッファ中の10μM βCD及びM113F/K147N αHLホモヘプタマーを含有していた。第1及び第3液滴4は、電気的に電極へ接続させた。
【0087】
第1及び第2液滴4間の1つ及び第2及び第3液滴4間のもう1つの、2つの二重層14の形成後、イオン電流を監視した。第1二重層14を越えるイオン勾配は1つの電位を生成したが、両方の二重層14での細孔の挿入はこの電位がイオン電流として消散することを可能にした。N123R細孔の選択性は優先的に第1液滴4から第2液滴4へのClイオンの流動を許容し、これは第1二重層14で陽電位を生じさせた。回路15は電位を印加するために使用されたのではなく、むしろ電流を記録するためにのみ使用されたことを留意されたい。図7の実施例トレースに示したように、第1及び第2液滴4によって効果的に形成された電池により供給される電力は、M113F/K147N細孔が分子アダプタβCDへ可逆的に結合した場所である第2二重層14でのブロッキング事象の観察を可能にした。
【0088】
液滴4を使用すると、模擬生物系を作り出すことができる。二重層14は自然に形成されて数日間存続するので、これは緩徐なプロセス、例えば完全代謝サイクルについて試験することを可能にすることが示されている。タンパク質は、(IVTTによって)インサイチューで生成して、同一液滴4内での単一チャネル記録によって試験することができる。液滴4を分離及び再結合する能力は、このアプローチが高スループットスクリーニング及びコンビナトリアル・ケミストリ用途における強力なツールとなる可能性があることを示唆している。さらに、複雑な網状組織の作製は、液滴4をあるパターンで配列することによって容易に遂行されるが、その幾何学的形状は2つの寸法に制限される必要はない。例えば、液滴4は、いわゆる六角形のABABもしくはABCABC「結晶」パターンで層形成させることができる。3個の液滴の鎖は、ナノ区画を機能的通路と接続させる実行可能性を証明しており、生物階層を模倣するために可能な出発点として機能する。
【0089】
液滴の網状組織は、以下のように証明されている。液滴4は、油/脂質混合物を充填して一方の端部で閉鎖した内径1.59mmのチュービングの20cmの直線区間を用いて作製した。開放端を上に向けて、液滴4を油の表面直下でチューブの上方へピペットで注入し、チューブのほぼ底部へ落下させた。次にチューブを反転させ、液滴4が開放端へ向かって降下することを引き起こした。液滴4が開口部に到達する直前に、チューブを容器2内で油3の表面と接触させると、これは容器2の底部上に液滴4が着陸することを可能にした。
【0090】
網状組織を形成するために、容器の底面は、各ディンプルが液滴4のための支持体として機能するように、1mmの径及び700μmの心心間隔を備えるマイクロ加工したディンプル(小型「エッグクレート」)の正方形のアレイを備えるPerspex表面を有していた。電極は、ディンプルの底部を通して穿孔された200μm径の穴に通してねじ入れた。セルの裏面は、油3が電極の周囲に漏出しないことを保証するためにUV硬化型接着剤を用いて密閉した。全電極は、パッチクランプ・ヘッドステージの増幅(接地と対照的に)端部へ接続された共通のワイヤへはんだ付けした。
【0091】
視認性のために、各液滴4は10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)中のテトラメチルローダミン(ピンク)又はデキストランポリマーに結合したAlexa 488(イエロー)のどちらかを含有していた。液滴4を加えると、隙間の油3が置き換えられるにつれて、隣接液滴4とともに二重層14を形成した。結果として生じる液滴の網状組織は、図8に示した。
【0092】
液滴4間の界面は、機械的摂動に対して安定性であった。実際に、液滴4内に穿刺して、次にそれをマイクロマニピュレータによって制御されたアガロースゲル被覆Ag/AgCl電極を用いることによって抽出することが可能であった。さらに、また別の液滴4を安定化させて空いた位置へ落下させることによって消失した液滴4に置き換えることも可能であった。この液滴は、自然に網状組織内に統合された。そこで、網状組織の成分である液滴は、周囲の系の完全性を侵害せずに抽出かつ交換することができる。
【0093】
生きている組織は特異的機能領域に分化し、これは順に様々な細胞に細分化される。類似方法で、所定の機能に限定した液滴4の集団を用いて、液滴4の網状組織を使用することを想定できる。これらの集団の相互接続は、最終的には生きている細胞内のプロセスを模倣する原始的人工組織を導くことができる。
【0094】
膜タンパク質、例えば細孔を組み込むことができる。αHLタンパク質細孔は優れた出発点であり、この場合には細孔は膜内の公知の配向性を採用し、タンパク質ドメイン(つまり、細孔のキャップ及びステム)の位置は、液滴4の配列によって容易に制御することができる。さらに、細孔の特性、例えば単位コンダクタンス、イオン選択性、整流作用、ゲーティング、ブロッカーとの相互作用及び小分子の選択的輸送は、網状組織内に特異的機能を提供するために遺伝子工学を通して特別仕立てすることができる。
【0095】
直接的に重要であるのは、電気的に伝搬する系、例えば心臓である。イオン勾配、ギャップ結合及びその他のタンパク質を含有する液滴は、刺激波動の機序をシミュレートして試験するために正確に配列することができる。液滴4は、分離したり交換したりすることができるので、変異体タンパク質のライブラリーは、疾患関連タンパク質異常を試験するために機能的網状組織を用いてスクリーニングすることができる。例えば、イオン勾配をイオン選択性細孔と結合すると1つの二重層14を越える膜内外電位差を生成することができ、これを使用すると順に二重層14で発生するプロセスへ上記で考察したように証明されている液滴4の鎖に沿って遠くへ電力を供給することができる。
【0096】
網状組織の特性は、その形状を変化させることによって修飾することができる。例えば、分岐した「バイオ電池」は、図9に示したように、上述したものと同一のイオン勾配を用いて6個の200nL液滴4から構築した。3個の液滴4aは、N123R αHLホモヘプタマー(10mM HEPES、100Mm NaCl(pH7.5中))を含有しており、共通分岐電極の末端に配置した。これらは、10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)を含有する空の液滴4bの3つの面と相互作用し、その液滴4bの残りの面は17ng/mLのWT αHLヘプタマーを含有する10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)の液滴4cの短い鎖へ結合させた。対向する電極を末端αHL液滴4c内へ差し込んだ。N123R αHLを含有する全液滴4aが末端αHL液滴4cと結合すると、図10に示したように高電流(およそ−390pA)が記録された。矢印1によって示されたように、1個のαHL液滴4cを網状組織から取り除くと、これは電流のおよそ−61pAへの低下を引き起こした。矢印2によって示されたように、第2αHL液滴4aの除去は、さらに電流のおよそ−21pAへの低下を引き起こした。矢印3によって示されたように、液滴4bの除去は、電流を停止させた。
【0097】
刺激から集められた情報を受信して伝達する自然の能力は、正確に機能する分化細胞によって可能にされる。網膜は、例えば、脳による解釈のために視神経へ情報を伝達する情報のカスケードを開始する、桿状体細胞及び錘状体細胞を用いて光を感知する。光を検出する液滴「細胞」は、網膜及び網膜神経におけると同様に、電流を伝導する液滴「細胞」へ結合させることができる。実際に、液滴4の単層内に配置されている炭化水素相結合からさえ受容体結合及びチャネル電動によって駆動される味覚及び嗅覚のようなその他の「感覚」を液滴網状組織間及び網状組織内で伝達できる。ここで、親水性末端によって結合された疎水性部分を備えるおそらく天然ではない受容体は、おそらく液滴単層内の機能的形態では区分化もしくは配向しない。しかし油相内の疎水性受容体で水に面するように単層内の「受容体」を固定するただ1つの親水性ドメインによって結合された疎水性ドメインを想定することができる。そのような分子が、例えば液滴界面の内側で検出可能な事象を開始した構造変化によって疎水性可溶性分子結合(大多数の香料及び活性薬は比較的疎水性である)に応答するように設計できれば、疎水性溶液が分析物のイオンを感知することは可能である。
【0098】
網膜及び視神経の原始的模倣体では、光感知網状組織を図11に示したように光駆動プロトンポンプであるバクテリオロードプシン(BR)に基づいて構築した。3個の液滴4dは共通電極の末端に配置し、10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)、0.001%ドデシルマルトシド(DDM)及び18μM BRを含有していた。中央の液滴4eは10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)を含有しており、最後の外側液滴4fは10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)を17ng/mLのWT αHLヘプタマーとともに含有しており、その中に差し込まれた対向電極を有していた。1mWの緑色(532nm)ペン型レーザーを使用して、この網状組織を照明した。図12に示したように、レーザーのスイッチを入れると、電流の鋭いスパイクを視認することができ、これは5秒間後には約5pAへ急速に崩壊した。レーザーのスイッチを切ると、電流は短時間は負の数値へ低下したが、その後ゼロへ戻った。類似の系を用いて、BR挙動の類似の観察が認められた。5秒間のオン及び5秒間のオフの3サイクルを実施し、この後に一連の迅速な16レーザーパルスを続けた。各BRは、膜を越えて吸収された光線1フォトンに付き1プロトンを輸送する。このため、5pA電流は、膜14内では数万個の分子が機能していることを示唆している。そのような大きな電流は単一二重層を用いて入手するのは困難であったが、液滴4の網状組織はこの系の光収集能力を増幅させる。コントロールとして、液滴4をバッファしか含有していない液滴4と置換し、実験を反復した。電極表面は照明中にレーザーへ露光させられたが、光電効果からの電流は観察されなかった。
【0099】
上述した実験では、以下の技術を適用した。
【0100】
野生型(WT)、M123R及びM113F/K147N αHLヘプタマーは、インビトロ転写及び翻訳(IVTT)、その後に赤血球膜上でのオリゴマー化によって調製した。SDS−PAGEによって精製した後、ヘプタマーバンドをゲルから切断し、タンパク質を抽出した。典型的には、αHLサンプルをバッファ中で100から10,000倍に希釈し、これを使用して液滴4を形成した。希釈後、ゲル精製から残留した界面活性剤は二重層14の安定性に影響を及ぼさなかった。
【0101】
ハロバクテリウム・サリナリウム(Halobacterium salinarum)由来のバクテリオロードプシン(BR)は、Sigma社から購入した。精製せずに、1mgのBRを水中のバッファ(10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5))及び0.01%ドデシルマルトシド(DDM)の40μLの1:1混合液中で30分間にわたる超音波処理によって可溶化すると、これは濃紫色の懸濁液を生成した。BR液滴を調製する場合に、BRのストック懸濁液は10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)中で10倍まで希釈した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性分子、例えば脂質の二重層の形成に関する。そのような二重層は、細胞膜のモデルであり、したがってバイオ技術における広範囲の試験を実施するために使用できる。
【0002】
脂質二重層、又はより一般的には両親媒性分子の二重層は、細胞膜のモデルであり、広範囲の実験的研究のための、例えば単一チャネル記録による膜タンパク質のインビトロ調査のための優れたプラットフォームとして役立つ。条件、例えば温度、二重層の組成(表面電荷、コレステロール含有量など)及び膜内外などは、生物学的系を模倣する、又は生理学的範囲を越える試みを行ういずれかのために調整することができる。最も重要なことに、溶液の状態(pH、塩の組成、イオン強度)の操作が膜の両側で可能である。生きている細胞における膜タンパク質についてのインビボ調査はパッチクランプ法によって可能であるが、使用できる条件は細胞を健常に維持するための要件によって限定される。
【背景技術】
【0003】
従来の技術では、平面脂質二重層は、油性混合物を用いて前処理されているプラスチック開口部の上方に形成される。学術研究では広汎に使用されているにもかかわらず、この従来の技術は、例えば以下のような、数多くの制限に悩まされている。
【0004】
従来の技術は面倒であり、生成される二重層は傷つきやすい。平面二重層を形成する2つの最も一般的な方法は、開口部全体にわたり脂質/油混合物を塗布する方法、及び開口部の各側から1枚ずつ、2枚の単層を一緒に折り畳む方法である。どちらの技術も、熟練の科学者の手を必要とする。振動もしくは流動に起因する小さな静水力は、しばしば平面二重層を破裂させる。最善の条件下でさえ、平面二重層の寿命は通常は数時間に過ぎない。この限定された寿命は、試験することが可能なプロセスの範囲を事実上制限する。
【0005】
さらに、各二重層の環状領域のサイズ及び形状(膜の特性を決定する)は固有であり、平面二重層内への膜タンパク質の挿入を標準化することは困難である。
【0006】
一部の系を試験する際に生じる困難のまた別の原因は、平面二重層のいずれかの側にある電気記録セルの容量が典型的には1mLより大きいことである。このため各実験は大量のタンパク質もしくは他の試薬を必要とし、これらは生成するのが容易ではない。各実験後、電気記録セルの両側は、完全に洗浄されなければならない。
【0007】
最後に、従来の技術は、2つのチャンバ間で単一の平面二重層を使用する。多数の膜を含む系を試験するためには、原理的にはより多くのチャンバ及び膜を有するセルを構築することが可能であるが、二重層を形成する実験技術は極めて複雑なものになり、実際の問題として科学者にとってはこれを極めて面倒で魅力に欠けたものになる。
【0008】
これらの制限の1つ又はそれ以上を軽減する代替方法を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明によると、両親媒性分子の二重層を形成する方法であって:
液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える疎水性媒質中の水溶液の複数の液滴を形成することと;
前記液滴を相互に接触させ、その結果として両親媒性分子の二重層が接触している液滴間の界面として形成されることとを含む方法が提供される。
【0010】
二重層を形成する本方法は、重要な利点を有しており、特には上記で考察した従来の技術の制限を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本方法は実施するのが容易であり、バイオ技術の分野における広範囲の研究及び用途に使用できる堅固な二重層を生じさせる。液滴は、極めて容易に、例えば疎水性媒質中へ水溶液をピペッティングすることによって単純に形成できる。同様に、液滴は、それらを相互に接触させるために容易にあちこち移動させられる。実際に、液滴が移動させられる方法は、液滴が堅固で容易に操作されるので、重要ではない。液滴を取り扱うために適合する装置の例を以下に提示するが、限定的ではない。
【0012】
液滴の表面の周囲での両親媒性分子の層の形成もまた容易である。例えば、それは液滴の疎水性媒質中もしくは水溶液中に両親媒性分子を供給することによって造作なく達成することができ、その後で液滴が十分な時間にわたり放置されると、自然に層が形成される。両親媒性分子はまた、液滴自体の中に溶解させる、又は脂質ベシクルとして懸濁させることもでき、そこから両親媒性分子は再び液滴と疎水性媒質との間の界面で単分子層を自然に形成するが、それは疎水性媒質中で平衡している濃度の両親媒性分子を有する可能性がある。
【0013】
二重層は、液滴を相互に単純に接触させることによって形成される。水溶液の周囲の層内の両親媒性分子の配向性は、二重層の形成を許容する。液滴が接触するにつれて、介在する疎水性媒質が置き換えられた後、接触している液滴間の界面として二重層が極めて急速に形成される。二重層は、別の概して球状である2個の液滴間で平面を形成する。この平面二重層は、最小自由表面エネルギーを備える形状であり、負の生成自由エネルギーを有する;このためこれは自然事象である。両親媒性分子は、2個の液滴が安定性二重層の形成によって融合することなく接触することを可能にする。
【0014】
液滴は、様々な技術によって取り扱うことができる。液滴を移動させる1つの特に有益な方法は、液滴の内側に親水性外面を有するアンカーを配置することである。アンカーの移動は、液滴が移動するのを、例えば液滴が他の液滴と接触するのを可能にする。
【0015】
二重層は、両親媒性分子の二重層で、又は両親媒性分子の二重層を通して発生するプロセスを含む実験を実施するために使用できる。主要なクラスの実験は、二重層内に挿入された膜タンパク質を使用する。これは、水溶液中に膜タンパク質を供給することによって単純に達成できる。二重層の形成後には、膜タンパク質は、従来の技術によって形成される二重層と同一方法で自然に二重層内に挿入されることが証明されている。
【0016】
二重層は、従来の技術によって形成される二重層と同一方法で機能的に挙動することが観察されている。このため、本方法によって形成される二重層は、同一タイプの実験を実施するために使用できるが、以下でさらに考察するように、可能性のある実験の範囲を拡大する数多くの利点を提供する。そこで、本方法は、膜タンパク質の調査及び/又はスクリーニング、膜タンパク質と相互作用する分析物の調査及び/又はスクリーニング、ならびに二重層の調査及び/又はスクリーニングを含む広範囲の実験に適用できる。実際に、本方法は、典型的には二重層で、もしくは二重層を通して発生するプロセスを含む、一般に任意の二重層現象を試験するために使用できる。
【0017】
脂質二重層は、またその中に挿入された膜タンパク質の特性を試験するためにも使用できる。例えば、膜タンパク質の特性の電圧依存性を決定できる。脂質二重層中の膜タンパク質を試験するための技術は、当分野において周知である。チャネルもしくは細孔の機能は、例えば膜タンパク質を通して脂質二重層全体を流れるイオン電流を測定することによって決定できる。トランスポータの機能は、脂質二重層を越えて移行した分子の量を測定することによって、例えば質量分析計もしくはELISAによって、又は蛍光性もしくは放射活性物質でタグ付けされた基質を用いて決定することができる。
【0018】
実施できる実験のその他の例は以下のとおりである。
【0019】
水滴は、その初期浸透圧濃度に依存して浸透圧的に膨張又は収縮させることができる。水は、接触時に形成される二重層を通る浸透圧勾配に応答して液滴間を移動することができる。さらに、薬物のような二重層透過性である他の分子、又は画像描出できる分子は、1個の液滴から他の液滴へ二重層接触区間を通って移動するように作製できる。そこで、反応物質を分離させ、二重層を越えて移動した場合にのみ反応させることができる。この場合の用途には、接触させて、二重層を越える反応物質が相違する液滴間で接触しているときにのみ形成される新規な生成物を生成するために反応させることのできる液滴のマイクロ流体システムを含むことができる。1つの可能性は、1つの反応物質が二重層透過性であり、また別の反応物質が非二重層透過性であることである。この場合には、生成物は、非二重層透過性反応物質を含有する液滴中でのみ発生する。他方、両方の反応物質が二重層移動可能である場合は、生成物は両方の液滴内で、又は接触二重層を越える各反応物質の相対透過性に依存して複数の接触している液滴を形成することができる。これらの例は膜タンパク質自体は含んでおらず、それを通して反応物質及び生成物が拡散する可能性がある形成された二重層の接触だけを含んでいる。
【0020】
以下では本方法を適用できるまた別の研究の特定の例について考察する。
【0021】
多くの試験では、電気計測値が入手される。これは、液滴が相互に接触しているときに電極を液滴と電気接触させることによって、例えば電極を液滴内に挿入することによって、又はチャンバもしくはマイクロ流体チャネル内に挿入された静止電極上に液滴を配置することによって容易に達成できる。
【0022】
本方法によって形成される二重層は、従来の技術と比較して、堅固であり長い寿命を有するという利点を有する。例えば、従来の技術によって形成される二重層は調製する技量を必要とし、典型的には数時間、そして極めて低い比率の場合でさえせいぜい2、3日間しか存続しない。これとは対照的に、本技術によって形成される二重層は、より確実に形成され、はるかに長期間、一般には数日間にわたって存続する。寿命に関する十分な研究は実施されていないが、二重層は、液滴を分離することによって故意に分割される前に8日間という期間にわたり存続することが観察されている。
【0023】
より長い寿命の理由は、2個の液滴間で形成された二重層が従来の技術によって形成される二重層より低い表面自由エネルギーを有することにあるという仮説が立てられている。後者の場合には、開口部の辺縁に隣接する環状領域では、二重層は開口部を規定する障壁の反対側に伸長する2枚の単層で構成されている。また、安定性は、開口部を規定する隔膜の材料上に付着(もしくは吸着)させられなければならない環の欠如によって与えられる可能性もある。従来の技術と類似方法で、二重層は、この場合には液滴界面を単純に被覆する2枚の単層で構成されており、そして(チャンバの表面を除いて)支持体材料では終了しない。このため二重層は、開口部を越えて「伸長させられる」ことはないが、2個の液滴の接触区間で形成され、追加の拡散もしくは湿潤張力は誘導されず、二重層の張力は疎水性媒質中の単層の張力及び生成自由エネルギーによって決定される。
【0024】
より長い寿命は、それ自体がより長い寿命を有する生物学的プロセスの試験を可能にする。この方法で、本方法は新規な分野の試験を開拓する。
【0025】
二重層の形成は、さらに高度に可逆性及び再現性でもある。相互に接触させられている液滴は自由に分離させて二重層を分割させることができ、引き続いて再び接触させて二重層を再作製することができる。二重層の作製、分割及び再作製に関するそのような制御もまた、新規な分野の試験を開拓する。
【0026】
制御度は、二重層の形成を標準化することを容易にさせる。特には、液滴が相互に接触しているときに液滴を移動させることによって両親媒性分子の二重層の領域を容易に変動させることができる。二重層の領域内の変化は、視覚的に、又はキャパシタンス測定によって観察することができる。二重層の径を30μmから1,000μmの範囲にわたって変化させることが可能であることは証明されているが、これが限界であるとは思われない。
【0027】
さらに、疎水性媒質の性質は、接触した単層の拡散度及びそれにより接触角を決定する。例えば、実験において、疎水性媒質としてのデカン中で形成されたグリセリルモノオレエート(GMO)の二重層について、接触域は比較的小さく、接触角は約3°であり、これは従来の脂質膜系中で測定された接触角と一致することが観察されている。他方、疎水性媒質がスクアレンである場合は、より大きな接触面が形成され、接触角は25°であり、これもまた従来の脂質膜上での測定値と一致している。これらの溶媒依存性作用は、GMO:スクアレン系(ほぼ−500mJ/m2)と比較して、GMO:デカン系(ほぼ−4mJ/m2)の小さな生成自由エネルギーを反映しているが、このとき二重層の厚さは付随して50Åから25Åへ減少し、二重層からのより大きなスクアレン溶媒の枯渇を示している。この生成自由エネルギーの非線形増加は油薄膜を越えて作用する水の2つの無限スラブについての単純なLifshitz理論から逸脱しており、「枯渇凝集」作用とより一致している。本質的により大きなスクアレン溶媒分子はGMO二重層からエントロピー的に排除され、この溶媒枯渇は二重層上により大きな浸透圧を加え、それによって何らかのLifshitz作用に加えて、デカンからスクアレンへ移る際に生成自由エネルギーを数桁分上昇させる。そこで接触の接着ならびに強度及び安定性は、二重層中の溶媒の存在の有無に大きく左右される。
【0028】
本方法の別の利点は、それが比較的少量の水溶液の使用を許容することにある。特には、容量は、従来の技術において使用されるセルのチャンバ内に存在する容量より小さくてよい。液滴は、典型的には1,000nL未満の容量を有していてよい。一般に、液滴は水溶液のディスペンサの制御度、及び直接操作が所望である場合には光学分解能の限度によってのみ制限される任意のサイズであってよい。配置された電極からの電気記録もしくは刺激を有することが必要とされない液滴は、懸濁液中で集合させ、それらの介在する二重層を介して相互に全部が接触しているμm(マイクロメートル)からさらにnm(ナノメートル)までの寸法を有する液滴のラフトもしくは3D凝集体もしくは綿状体を形成することができる。標準型ピペットを用いて、実験は200nLから800nLの範囲内の容量を有する液滴上で実施されてきたが、より小さな容量の液滴を適切な装置を用いて生成できることが予測されている。例えば、比較的高倍率の顕微鏡において観察されるガラス製マイクロピペットから液滴を形成するためにマイクロピペット操作を用いて、およそ30μmの径の液滴が集合させられる場合、その容量はおよそ14pLである。懸濁液中では、およそ200nmの径の液滴の液滴凝集は、およそ4aL(aLは、10-18Lであるアトリットルを表す)の内部容量を産生する。
【0029】
本発明の重要な利点は、鎖もしくは網状組織状で、例えばマイクロ流体チャネル内の平面もしくはディンプル付き表面上で、又は上記で指摘したように凝集もしくは綿状懸濁液中で2個を超える液滴を相互に接触させることが可能である点である。それによって液滴を単純にあちこちに移動させることによって二重層を形成できる単純性及び制御は、従来の技術にしたがって障壁内の開口部内で二重層が形成される系においては実行不可能である大きな鎖もしくは網状組織を構築することを容易にする。これは、例えば複数の液滴を用いて全系をモデリングする、従来の技術を用いて実際的であるよりはるかに大きな系を試験する可能性を切り開く。以下に一部の実施例を記載するが、試験できる科学の範囲ははるかに広い。
【0030】
本方法は、以下のように、広範囲の材料で実施することができる。
【0031】
一般に、両親媒性分子は、その中に液滴が配置されている疎水性媒質中で二重層を形成する任意のタイプであってよい。これは、疎水性媒質及び水溶液の性質に依存するが、広範囲の両親媒性分子が可能である。両親媒性分子は、疎水性基及び親水性基の両方を有する分子である。液滴の周囲に形成された層は、親水性基が内側に向いて、そして疎水性基が外側に向いて分子が液滴の表面上で整列するように、疎水性基及び親水性基と水溶液との相互作用によって自然に形成かつ維持される両親媒性分子の単層である。
【0032】
本方法を適用できる重要なクラスの両親媒性分子は、脂質分子である。脂質分子は、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質及びポリケチドを含む主要クラスの脂質のいずれかであってよい。一部の重要な例には、リン脂質、糖脂質もしくはコレステロールが含まれる。脂質分子は、天然型もしくは合成であってよい。脂質分子からの二重層の形成は証明されているが、本方法は、二重層を形成できる任意の両親媒性分子のために適切であると予想されている。
【0033】
両親媒性分子は、全部が同一タイプである必要はない。両親媒性分子は、混合物であってよい。また別の重要な例は、接触させられる2個の液滴の各層内の両親媒性分子が相違するタイプであり、その結果として2つの単層によって形成される二重層は非対称性である場合である。
【0034】
水溶液は、実施すべき実験的研究のために自由に選択することができる。各液滴の水溶液は、同一であっても相違していてもよい。溶質の性質及び濃度は、溶液の特性を変化させるために自由に変化させることができる。1つの重要な特性はpHであり、これは広範囲にわたって変化させることができる。電気計測値を用いる実験におけるまた別の重要な点は、電流を運ぶために適切な塩を選択することである。また別の重要な特性は、浸透圧である。
【0035】
疎水性媒質は、広範囲の材料から選択することもできる。材料は、水溶液が、疎水性媒質と混合するよりむしろ液滴を形成するように疎水性であるが、そうでなければ疎水性媒質は自由に選択できる。疎水性媒質の粘度は、液滴の移動及び、両親媒性分子の層が疎水性媒質中に提供される場合にはそれらの形成の速度に影響を及ぼすために選択することができる。
【0036】
疎水性媒質は、油であってよい。任意のタイプの油は、その表面活性が比較的高い限り、そしてそれが形成された二重層を不安定化させない限り適合する。油は、分枝状もしくは非分枝状の炭化水素、例えば5から20個の炭素原子を有する炭化水素であってよい(だが低分子量の炭化水素は蒸発の制御を必要とする)。適切な例には、アルカンもしくはアルケン、例えばヘキサデカン、デカン、ペンタンもしくはスクアレンが含まれる。他のタイプの油が可能である。例えば、油は、フルオロカーボンであってよい。これは、一部の系の試験のために、例えば液滴からの特定の膜タンパク質もしくは分析物の消失を最小限に抑えるため、又は気体含量、例えば酸素を制御するために有用な可能性がある。
【0037】
上記で考察したように、多くの実験的研究では、二重層内に挿入するために膜タンパク質は1個又はそれ以上の液滴中へ供給される。本方法は、問題のタンパク質のために適切な特性を備える水溶液が選択されることを前提に、膜タンパク質の選択を限定しない。そこで、膜タンパク質は、任意のタイプであってよい。内在性膜タンパク質の使用は実証されているが、外在性膜タンパク質を使用できることも同等に予想されている。本発明の方法は、β−バレルバンドルもしくはα−ヘリカルバンドルである2つの主要クラスを含む任意の膜タンパク質に適用される。重要な適用は、細孔もしくはチャネルである膜タンパク質である。細孔もしくはチャネルタンパク質の他に、また別の可能性のある膜タンパク質には、排他的ではないが、受容体、トランスポータ又は細胞認識もしくは細胞間相互作用に影響を及ぼすタンパク質が含まれる。
より明確に理解できるように、以下では本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら非限定的な実施例にしたがって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】二重層を形成するために液滴を取り扱うための装置の断面図である。
【図2】2個の接触している液滴と、それらの間の界面として形成された二重層との略断面図である。
【図3】二重層を形成するために液滴を取り扱うための代替装置の断面図である。
【図4】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図5】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図6】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図7】2個の液滴間に形成された二重層を用いて実施される特定の実験におけるイオン電流のトレースを示した図である。
【図8】液滴の網状組織の画像である。
【図9】「バイオ電池」を形成している液滴の網状組織の図である。
【図10】図9の網状組織内に記録された電流のトレースである。
【図11】光感知能力を有する液滴の網状組織の図である。
【図12】図11の網状組織内に記録された電流のトレースである。
【0039】
本方法を実施するための水溶液の液滴を取り扱うために適合する装置1は、図1に示している。装置1は、1mLのPerspex浴である容器2を含んでいる。容器2は、油3を含有する。
【0040】
油3内には水溶液の2個の液滴4がある。油3は疎水性媒質であるので、液滴4の水溶液は高度には油3と混合しない。水中への炭化水素及び炭化水素中への水の溶解限度に依存して、ある程度の相互溶解性が予想されている。液滴4は、例えば従来のピペットから、もしくは実際に任意の適切なディスペンサから、水溶液を単純に投入することによって油3内に形成される。ディスペンサは、好ましくは液滴4の容量の制御を可能にするタイプである。実験は、200nLから800nLの範囲内にあるがこれは限定的ではない容量の液滴4を用いて実施されている。本方法の利点の1つは、小容量の液滴4を使用する能力であり、200nL未満の容量を使用できることが予想されている。マイクロピペット操作は、たった10μmの液滴4を作製するために使用されており、乳化技術はおよそ100nmの径を有する二重層に接触する液滴の懸濁液を生成できると予想されている。
【0041】
油3内の容器2の底面上では、装置1には疎水性外面を有する3つの支持体5が用意されている。支持体5は、本実施例では単純に容器1上に載せられた10μLのディスポーザブルピペットチップである。そこで、支持体5は環状である。液滴4は、支持体5上にそれらをこの位置に投入することによって配置できる。一例として、図1は、支持体5の1つの上に支持された液滴4−Aを示している。プラスチックから製造される支持体5に起因して発生する支持体5の外面の疎水性の性質は、その上に支持された液滴4−Aが支持体5から流れ落ちるのを防止する。代替法として、ディンプル付き表面の形状にある支持体を使用することができる。
【0042】
各支持体5には、支持体5の中心にある開口部を通して0.5mm突き出ているAg/AgClで被覆された100μm径の棒によって形成された電極8の端部に保持されたヒドロゲル液滴7によって形成されたアンカー6が用意されているので、ヒドロゲル液滴7は、水溶液の液滴4−Aの内側に配置されている。特には、ヒドロゲルはバッファ溶液中の5%(w/v)アガロースである。極めて高い含水量を有するヒドロゲルに起因して、ヒドロゲル液滴7の外面は親水性である。その結果としてヒドロゲル液滴7は、液滴4−Aの水溶液への吸引力のために、支持体5上に支持された液滴4−Aを固定する。この方法で、アンカー6は、液滴4−Aを支持体5上に保持することを支援する。
【0043】
また別の液滴4、例えば図1に示した液滴4−Bは、図1に略図により示されていて従来のタイプであってよいマイクロマニピュレータ9を用いて油3内であちこちに移動させることができる。液滴4−Bは、マイクロマニピュレータ9につなげられているアンカー10によって保持される。アンカー10は、200μm径の球を形成するために末端で部分的に融解させられている1区間のAg線を含んでいる。これは、Ag/AgCl電極12を作製するためにNaClOで最初に処理され、次にヒドロゲル液滴11を形成するためにヒドロゲルの層で被覆された。詳細には、ヒドロゲルはバッファ溶液中の5%(w/v)アガロースであり、およそ200μmの厚さを有する。ヒドロゲルは極めて高い含水量を有するために、ヒドロゲル液滴11の外面は親水性である。その結果としてヒドロゲル液滴11は、液滴4−Bの水溶液への引力のために、液滴4−Bをアンカー10上に固定する。そこで、液滴4−Bは、マイクロマニピュレータ9を制御してアンカー10を移動させることによってあちこちに移動させることができる。
【0044】
水溶液の液滴4が油3内で形成された後、両親媒性分子の、例えば脂質分子の層が液滴4の表面の周囲に形成される。これを達成するためには、2つの選択肢がある。
【0045】
第1の選択肢は、油3内に両親媒性分子を供給することである。これは、液滴4を油3内に投入する前に、即ち油3内の両親媒性分子の溶液として油3を供給することによって実施できる。又は、両親媒性分子は、液滴4を油3内に投入した後に供給することもできるが、この場合は両親媒性分子を油3と混合するのがより困難になる。液滴4自体が、溶液中に、ミセル懸濁液中に、又は脂質ベシクルもしくはリポソームとして界面活性剤もしくは脂質を含有していてよい。
【0046】
その後に、両親媒性分子が油3内に供給された後、そして液滴4が油3内に投入された後、自然に両親媒性分子の層が液滴4の外面周囲に形成される。これは、十分な期間にわたって液滴4を油3内に単純に放置することによって達成できる。層の形成を促進するために何らかの特別な手段を講じる必要はないが、手段、例えば攪拌はこのプロセスを加速することができる。
【0047】
第2の選択肢は、液滴4を形成するために、油3内に投入された水溶液中に両親媒性分子を供給することである。例えば、両親媒性分子は、水溶液中に懸濁させたベシクルとして供給することができる。その後に、両親媒性分子の層は、液滴4の外面周囲に自然に形成される。これは、十分な期間にわたって液滴4を油3内に単純に放置することによって達成できる。層の形成を促進するために何らかの特別な手段を講じる必要はないが、手段、例えば攪拌はこのプロセスを加速することができる。
【0048】
両親媒性分子の層を形成するために必要とされる期間は、油3、両親媒性分子、及び水溶液の性質に左右されるが、典型的にはおよそ数十分間である。必要とされる時間は、任意の所定の材料系に対して実験によって容易に決定される。即ち、以下に記載するように、液滴4を形成し、二重層を形成するために液滴4を一緒にする前に様々な期間にわたって放置するトライアルを実施することができる。トライアルの期間が短すぎると安定性二重層は生じず、その代りに液滴4が一つに合併してより大きな液滴を形成する。安定性二重層が形成されるトライアルに関する期間は、問題の材料系にとって適切な期間である。
【0049】
両親媒性分子の層が液滴4の周囲で形成された後に、液滴4を相互に接触させる。これは図1に記載の装置では、マイクロマニピュレータ9を用いて、支持体5上に支持された静止液滴4−Aと接触するまで液滴4−Bを移動させることによって達成される。
【0050】
液滴4を接触させると、両親媒性分子の二重層が液滴4間の界面として形成される。これは、油3内の水溶液の2個の液滴4を示している図2に示した。各液滴4は、それらの疎水性尾部13aが外側に向き、それらの親水性頭部13bが内側に向くように方向付けられた、略図として(そして縮尺ではなく)示されている両親媒性分子の層13によって取り囲まれている。液滴4が接触すると、各液滴4の両親媒性分子の層13は二重層14を形成する。それは最低自由表面エネルギーの形状であるので、二重層14は、少なくとも液滴4の残りの部分の周囲の両親媒性分子の層13の単層と比較して平面である(二重層14は、小さな程度の曲率を有していてよい)。
【0051】
二重層の形成は、液滴4が接触しているとき自然に発生し、顕微鏡を通して視覚的に観察することができる。液滴4が接触するにつれて、液滴4は変形し、その後に自然に図2に示したように平面形を伴う二重層14が形成される短い遅延が生じる。この遅延は、液滴4間の油3が界面から駆逐されるために要する時間である。
【0052】
二重層14の形成は、また特には液滴4間のキャパシタンスの電気計測によって観察することもできる。これを測定して他の電気計測を実施するために、装置1は、障壁内の開口部を用いる上記従来の方法を使用して二重層を試験するための公知の装置に使用されるタイプと同一タイプの回路15をさらに含んでいる。回路15は、電極8及び12に接続されている。液滴4の水溶液との電気的接触は、ヒドロゲル液滴7及び11の導電性の性質に起因して行われる。二重層14が形成されると、回路15によって測定されるキャパシタンスは、従来の方法によって形成された二重層を用いた場合と同様に増加する。
【0053】
本方法の特定の利点は、接触している液滴を相互に離れさせたり近づけたり移動させることによって二重層14の領域を変化させられる点である。図1の装置では、これはマイクロマニピュレータ9による液滴4−Bの移動によって達成される。二重層14の変化する領域は、視覚的に、そしてキャパシタンス測定の両方から観察することができる。実験では、二重層14の平均径を30μmから1,000μmの範囲内で変化させたが、これは限定的ではない。キャパシタンス測定は、また二重層14の領域の正確な制御を可能にし、これは所定の実験が標準領域の二重層14を使用することによって標準化できるという利点を提供できる。領域を変化させるまた別の利点は、膜タンパク質の挿入は、最初に大きな二重層14を形成することによって促進することができ、そして挿入後には二重層14の領域を減少させられる点である。二重層14の領域の減少中には膜タンパク質は測定によって観察されるように、二重層14が分離する直前まで挿入されたままであることが観察されている。二重層14の領域におけるそのような減少は、さらにまた電気計測における雑音を減少させることもできる。
【0054】
二重層14は、液滴4を分離することによって反復して確実に分離することができ、液滴4を再度接触させることによって再作製できることもまた観察されている。これは、複雑な実験を実施することを許容するので有益である。
【0055】
装置1は便宜的であるが、一般には、広範囲の装置において水溶液の液滴4を一緒にさせて二重層14を形成することができる。液滴4自体は、数多くの様々な方法で、例えばそれらをアンカーに固定する代わりに、物理的に押したり配置したりすることによって操作できるほど十分に堅固である。同様に、二重層14の形成は、液滴4が操作される方法には依存せずに、堅固かつ反復性である。そこで極めて様々な装置を用途に依存して使用できる。操作技術は極めて単純であってよい。例えば、液滴4は、単純なプローブ、例えばガラス棒もしくはプラスチック棒を用いてそれらを押すことによって簡単に移動させることができる。又は、より複雑な操作技術を適用してもよい。例えば、液滴はマイクロ流体装置を用いて移動させてもよい。油中の水溶液の液滴を移動させるために使用されるマイクロ流体システムに関する文献では広範囲にわたる考察がなされており、そのような技術は有益にも本発明へ、例えば高スループットスクリーニングを促進するために適用できる。
【0056】
使用されている、単純な代替装置16は、図3に示した。この場合には、容器2の底部は、この場合にはテフロン(登録商標)から製造されており、底部を通って突き出ている電極17を有している。液滴4は、底部上に支持されて電極17を被覆している。液滴4は、それらを油3内に投入することによって単純に配置され、続いてそれらをあちこちへ押すことによって操作される。例えば、液滴4は電極17上に投入されてよい、又は底部の相違する領域へ投入されて、電極17上へ押されてもよい。図1の装置1はより便宜的に使用できるが、図3の装置16は二重層14を形成して監視することを可能にするので、本方法の頑健性を証明している。
【0057】
これとは反対に、他のより複雑な装置を用途に依存して使用できることが予想されている。例えば、スクリーニングにおいて使用するためには、一連の液滴4を支持し、また別の一連の液滴4を相互に向けて移動させることができる。液滴4を移動させるためのまた別の考えられる方法は、マイクロ流体装置もしくは電気パターン化装置を使用する方法である。
【0058】
既に考察したように、本方法によって形成される二重層は、両親媒性分子の二重層で、又は両親媒性分子の二重層を通して発生するプロセスを含む広範囲の実験を実施するために使用できる。以下では、本発明の方法の有効性を証明するために実施された実際の実験の一部の実施例を提示する。
【0059】
例えば、液滴4が接着して接触区間で二重層14を形成することを確定したら、GMO/溶媒の二重層系におけるような二重層14の透水性を測定することが重要である。これは、各液滴4が相違する浸透圧を有する2個の液滴4を単純に形成することによって容易に達成された。実施した実験では、本発明者らは、500mOsmのグルコース溶液の1個の液滴4と純粋脱イオン水のもう1個の液滴4を集合させることを選択した。液滴4を形成する2つのマイクロピペットには各々相違する溶液を充填し、圧力制御装置を用いて、最初の1個に、そして次にもう1個に陽圧を印加して2個の液滴4を生成した。GMO−スクアレン中で液滴4を形成することは、水が周囲の炭化水素相へ急速には消失しないこと、そして液滴4の容量の変化は、接触時に形成される二重層14を通して、水滴4からグルコース溶液の液滴4への水の通過が浸透圧勾配を低下させることを表すことを保証する。この実験は、次に付着性接触するように液滴4を容易に集合させ、水輸送に起因して発生するそれらの進行及び容量の変化(径から計算される)をビデオ上に記録する。グルコース溶液の液滴4は純水滴4から水を吸収し、水滴4が収縮するにつれて大きくなる。次にデータを液滴容量として経時的にプロットする。
【0060】
多数のタイプの実験では、物理的プロセスは、回路15を公知の技術に類似する方法で使用して、電気計測値、例えばキャパシタンス、電流もしくは電圧を入手することによって監視される。このために、回路15は、一例として、2kHzのコーナー周波数を備えるローパスBesselフィルタ(80dB/10進)を用いて濾過され、次に5kHzのサンプリング周波数でDigiData 1320 A/D変換器(Axon Instruments社)を用いてデジタル化されるパッチ−クランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments社)を含んでいてよい。容器1及び回路15の増幅ヘッドステージは、Faradayケージとして機能させるために金属製の箱の中に封入することができる。
【0061】
一例として、電気計測は、イオンチャネルである膜タンパク質を通るイオンの通過を表す電流を測定することができる。しかし、電気計測を使用することは、問題のプロセスを特徴付ける任意の測定を使用できるために必須ではない。電気計測の1つの代替法は、例えば二重層14越えて輸送される、又は二重層14を越えて輸送される別の分子もしくは二重層14を越える電位に応答する蛍光分子の光学的測定である。
【0062】
多数の実験的技術は、膜タンパク質の機能に関連する試験下のプロセスである、二重層14内への膜タンパク質の挿入を含んでいる。この場合には、膜タンパク質は、1個又はそれ以上の液滴4の水溶液中にそれを供給することによって使用できる。膜タンパク質は、次に二重層14中へ自然に挿入される。これは、任意の特殊な測定を講じなくても、二重層14を挿入が発生するまで放置することによって簡単に達成できる。
【0063】
上記では、2個の液滴4間の単一の二重層14についてだけ考察した。しかし、2個より多い液滴4を接触させると接触している液滴4間で複数の二重層14を形成できることは、本方法の特別な利点である。液滴4は、鎖もしくは網状組織に配列することができる。例えば、図1の装置1では、3個の液滴4は液滴4を鎖状で相互に接触させて3つの支持体5上に配列することができる、又は3つの支持体5上の液滴4はより長い鎖を形成するために他の液滴4によって相互連結させることができる。そのような液滴の鎖は、また別の液滴4を鎖に連結させることによって分岐させることができる。液滴4の分岐部を他の液滴4へ連結させると網状組織を形成することができる。極めて多数の液滴4及びより多くの電極を収容するために、図1の装置1、又は実際上は任意の装置を拡張させることは容易である。同様に、マイクロ流体チャネル内では、2個又はそれ以上の液滴4を結合させて鎖を作製する、又は網状組織パターンのチャネル内に配置することができる。
【0064】
液滴4間で二重層14を形成する本方法は、確実かつ高度に反復性であるので、本方法は、その間で実際的に障壁内の開口部を越えて二重層を形成する従来の方法で対処するのは極めて困難である、二重層14を備える液滴4の複雑な系を形成かつ試験する可能性を切り開く。さらに、複数の相互作用を連続して、もしくは並行して試験することができる。これらの可能性は多岐にわたって刺激的であり、そして組織、例えば心臓組織、又は腸内などに存在する上皮の任意の単層、又は網膜、又はギャップ結合が細胞間情報伝達及びイオンの再分布を提供する耳などのモデリングを含んでいる。さらに、内皮単層もまたモデリングできる。
【0065】
また別の可能性は、液滴4の水溶液が、一次もしくは二次いずれかの輸送である、膜タンパク質を通しての輸送を誘導できる溶質を含むことである。この方法では、本システムは電源内蔵式であってよい。又は、本システムは、例えば回路15によって電気的に、もしくは光起動式システムを用いて光学的に外部電源式であってよい。
【0066】
以下では、本方法の有効性を例示するために、図1の装置1を用いて実施されている幾つかの実験について記載する。
【0067】
第1の実験は、イオン伝導性膜タンパク質が二重層14内に挿入され、二重層14を越えて電位が印加されるとイオン電流の測定を実施するのが可能になることを証明している。
【0068】
特には、2個の200nLの液滴4を支持体5上及びアンカー10上に配置したが、それらのどちらにおいても電極8及び12はAg/AgClから作製された。油3はヘキサデカン(Sigma社)であり、脂質の1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](DPhPC、Avanti社)をその中に溶解させて10mM溶液を生成した。
【0069】
1個の液滴4は、10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)中の10pg/mLの野生型(WT)スタフィロコッカスα−ヘモリシン(αHL)ヘプタマーの水溶液を含有しており、もう1個は同様に10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)中の10μM γ−シクロデキストリン(γCD、Sigma社)の水溶液を含有していた。γCDはWT αHLに結合し、加電圧中の電流の増加が液滴/液滴界面を通しての漏電電流ではなくむしろ細孔挿入に起因することを示すための診断薬として作用する、可逆性ブロッキング薬として機能する。
【0070】
この材料系を用いて、液滴4の周囲に脂質層を形成するために必要とされる時間は約30分間であることが見いだされた。即ち脂質は水−油界面が形成されると比較的急速に吸収されると予想されるが、二重層の形成のために必要とされる比較的高密度、この特定の脂質については1分子につきおよそ60Å2の密度の単層を確立するためには約30分間を要する。液滴4がこの時間にわたって分離したまま維持されてその後に接触させられた場合に二重層14が形成されるが、液滴がこれより短い時間にわたり維持された場合には二重層14は安定性ではなく、液滴4は接触させてから1分間未満に融合した。
【0071】
二重層14の形成後、αHL細孔がその中に挿入された。二重層の形成のために必要とされる時間(キャパシタンス測定によって監視する)は、5から10分間であった。イオン電流を測定し、1つの例を図4のトレースに示した。単一αHL細孔のコンダクタンスは、−50mVで798±70pS(n=6)であったが、これは775pS(5mM HEPES、1M KCl(pH7.4))という以前に報告された数値に類似であった。電流は、γCD結合によって一過性で減衰した。αHL細孔に結合したγCDの滞留時間(toff)は495±51ms(n=4)であり、同一溶液条件下で折り畳まれた平面二重層を用いたコントロール実験で見いだされた滞留時間(toff=421±22ms、n=4)に類似であった。
【0072】
シグナルの形態及び計測値は、二重層14内の膜タンパク質の機能が従来の方法によって形成された平面二重層に由来するものと区別できないことを証明している。これとは対照的に、二重層14は、ルーチン的に数日間存続する、はるかに長い寿命を有していた。
【0073】
液滴4間の間隔は、マイクロマニピュレータ9の移動によって制御した。二重層14が形成された後、液滴4を相互に近づくように移動させると二重層14の領域は拡張するが、液滴4を離れるように移動させると二重層14の領域は収縮する。二重層14はタンパク質挿入に適応するために十分に薄かった(<5nm)が、極めて安定性であるので液滴4が一緒になるように押されたり、離れるように引張られた場合でさえ単一チャネル記録が可能であった。これはおそらくこの溶媒−脂質系におけるこの構造についての比較的大きな負の生成自由エネルギーの結果である。
【0074】
液滴4は反復して結合させたり分離させたりすることができ、タンパク質活性が消失する前に多数回にわたってタンパク質含有液滴4の試験が可能であることもまた証明された。これの一例として、WT αHLを含有する液滴4−Aを一連の3種の分析物を含有する液滴4−Bに対してスクリーニングした:それらの内、第1液滴4はバッファ(10mM MOPS、1M KCl(pH7.0))単独を、第2液滴4はバッファ中に50μM γCDを、そして第3液滴4はバッファ中に50μM TRIMEB(過メチル化βCD)を含有していた。WT αHLを含有する液滴4−Aはマイクロマニピュレータ9によって支持された可動性シス電極12上に配置したが、トランス電極8は、それらの各々が支持体5の1つの上に配置された3種の分析物含有液滴4−Bについて共通であった。
【0075】
WT αHLを含有する液滴4−Aを第1液滴4−Bへ結合させ、電気記録を入手した。細孔挿入は、イオン電流の段階的増加として現れた。記録した後、WT αHLを含有する液滴4−Aを第1液滴4−Bから分離し、第2液滴4−Bへ移動させ、また別の記録を実施し、次も同様にした。γCD(第2液滴4−B)のαHL細孔への一過性結合は約60%のイオン電流を遮断したが、TRIMEB(第3液滴4−B)の結合はαHLをほぼ完全に遮断した。これらの結果は、WT αHLを含有する液滴4−Aの反復使用を証明している。さらに、第3液滴4−Bからの記録後、WT αHLを含有する液滴4−Aを第1液滴4−Bへ再結合させ、最終記録を入手した。αHLの挙動は、第1スキャンで証明された挙動と同一であり、これは、WT αHLサンプルがブロッキング分析物のいずれによっても汚染されなかったことを証明している。
【0076】
典型的には、WT αHLモノマーは、大腸菌(E. coli)S30抽出物を用いることによって、結合したインビトロ転写及び翻訳(IVTT)によって生成される。その後で、このタンパク質は赤血球膜上でオリゴマー化され、ゲル電気泳動法によって精製される。他の状況下の液滴はナノリアクタとして機能することができるので、この考えを使用して液滴4の内部でIVTT反応を直接的に実行した。
【0077】
特には、図1の装置を用いて、2個の液滴4を結合させた。第1液滴4は、WT αHLを発現するIVTTミックスを含有しており、第2液滴4は2.5mM MOPS、250mM KCl(pH7.0)中に10μM γCDを含有していた。IVTT反応は通常は50mM未満の濃度のKCl(Promega社、TB129)で実施されるが、イオン電流の記録に役立つように250mM KClをIVTTミックスに加えた。
【0078】
実験では、2個のαHL細孔が二重層内に挿入された。これは、図5の実施例のトレース(電流レベル0、1及び2が各々、両方の細孔が開いている:1つの細孔は開口しており、1つの細孔はγCDによって部分的に遮断されている;及び両方の細孔がγCDによって部分的に遮断されていることを示している)において示されたように、−50mVでのイオン電流における特徴的な増加及びγCD結合によって観察された。少なくとも2分間の遅延時間が、IVTTの成分の混合とαHLポリペプチド鎖の完了との間にある。液滴は最終IVTT成分を添加する1分間以内に油3内に配置されたので、タンパク質は第1液滴4内で生成されていた。
【0079】
電気的観点から、二重層14及びその中に挿入された細孔は回路の成分であり、その回路では二重層14がキャパシタであり、細孔は高抵抗伝導体であり、イオン溶液は2つの要素を電圧源へ接続するワイヤである。これを使用すると、液滴4を集合させることによってより複雑なバイオ−ナノ回路のための基礎を確立することができる。以下では、この実施例について記載する。
【0080】
3個の液滴4は、末端液滴内の電極を用いて、鎖状につなげた。第1液滴4は10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)を含有しており、第2(中央)液滴4はMOPSバッファ中にWT αHLヘプタマーを含有していた。第3液滴4は、MOPSバッファ中に10μM γCDを含有していた。第1及び第3液滴4−Aは、各々支持体5上のシス及びトランス電極上に配置したが、第2液滴4−Aはマイクロマニピュレータ9を用いて保持した。
【0081】
第1及び第2液滴4間で1つ及び第2及び第3液滴4間でもう1つの2つの二重層14が形成された後、イオン電流を監視したが、イオン電流は少なくとも1つのタンパク質が各二重層14内に挿入された後にしか観察されなかった。しかし、各二重層14の形成は独立して発生したので、最初に形成された二重層14は第2二重層14が形成される前に細孔を取り入れ始めた可能性が高い。第2二重層14でのγCDの細孔への結合を示す例の電流トレースは、図6に示した。
【0082】
αHL細孔及び平面二重層の電気特性は広汎に研究されており、コンピュータモデルにおいて容易にシミュレートすることができる。単一二重層系では、γCD結合は電流の顕著な減衰を惹起した。しかし、二重の二重層系の界面でγCDがαHL細孔に結合すると、結合及び分離の両方の後に予測されたレベルへの緩徐な電流変化が続いた(図6の電流トレースにおけるγCDの結合及び分離の直後の湾曲に注目されたい)。このバイオ−ナノ回路のシミュレーションもまた、このタイプの結合挙動を予測した。このモデルから、本発明者らは、以下のように緩徐な電流変化の結果であると考える。第2二重層14での細孔の抵抗はγCDが結合すると増加したが、これは第1二重層14を越える電位を低下させた。これは順に、第1二重層14(キャパシタ)がその蓄積電荷の一部を解放させることを引き起こした。γCDが離れると、このプロセスは逆転された。本発明者らの試験結果は、液滴4の鎖及び網状組織の挙動が基本的電気的原理によって制御され、容易に予測することができることを示唆している。このため、特異的機能、例えばフィードバックループを有する回路を設計することができる。
【0083】
タンパク質ゲートウエイを用いて、安定性の、区分化されて連絡しているナノリットル容量、又はピコリットル容量でさえも相互結合する能力は、基本的な人工細胞を作製するための基礎を形成する。まさに生きている細胞のように別個の区画内で生命の機能を果たし、これらのプロセスを模倣できる液滴4の小さな網状組織を設計できる可能性がある。同様に、まさに単一細胞が機能を実行し、結合した細胞が組織を作り出すように、この概念は液滴細胞の上皮単層及び内皮単層を含むように拡張することができる。この場合には1細胞に付き10μmのサイズスケールでさえも適合し、拡散距離が同等であることを可能にする。このことは、拡散プロセスのための時間は距離との二乗関係によって律速され、径100μmの液滴4は径10μmの液滴4より100倍長い拡散時間を有するため、重要である。
【0084】
αHLタンパク質は優れた開始点であるが、それは細孔の特性、例えば小分子の導電性、イオン選択性、ゲーティング及びブロッキング、ならびに選択的輸送が遺伝子工学を通して特別仕立てできるからである。さらに、αHLは膜内で公知の配向性を採用するが、これは化学勾配の方向は網状組織内の液滴4の配列を通して制御できることを意味する。
【0085】
イオン勾配はイオン選択性細孔と結び付くと膜内外電位差及び液滴界面を越える電流を生成することができ、これを使用すると順に二重層14で発生するプロセスへ液滴4の鎖に沿って遠くへ電力供給することができる。
【0086】
後者の概念は、3個の液滴の鎖を用いて実証された。第1液滴4は、アニオン選択性であるN123R αHLホモヘプタマー(10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)中に)を含有していた。第2(中央)液滴4は、10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)を含有していた。第3液滴4は、10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)バッファ中の10μM βCD及びM113F/K147N αHLホモヘプタマーを含有していた。第1及び第3液滴4は、電気的に電極へ接続させた。
【0087】
第1及び第2液滴4間の1つ及び第2及び第3液滴4間のもう1つの、2つの二重層14の形成後、イオン電流を監視した。第1二重層14を越えるイオン勾配は1つの電位を生成したが、両方の二重層14での細孔の挿入はこの電位がイオン電流として消散することを可能にした。N123R細孔の選択性は優先的に第1液滴4から第2液滴4へのClイオンの流動を許容し、これは第1二重層14で陽電位を生じさせた。回路15は電位を印加するために使用されたのではなく、むしろ電流を記録するためにのみ使用されたことを留意されたい。図7の実施例トレースに示したように、第1及び第2液滴4によって効果的に形成された電池により供給される電力は、M113F/K147N細孔が分子アダプタβCDへ可逆的に結合した場所である第2二重層14でのブロッキング事象の観察を可能にした。
【0088】
液滴4を使用すると、模擬生物系を作り出すことができる。二重層14は自然に形成されて数日間存続するので、これは緩徐なプロセス、例えば完全代謝サイクルについて試験することを可能にすることが示されている。タンパク質は、(IVTTによって)インサイチューで生成して、同一液滴4内での単一チャネル記録によって試験することができる。液滴4を分離及び再結合する能力は、このアプローチが高スループットスクリーニング及びコンビナトリアル・ケミストリ用途における強力なツールとなる可能性があることを示唆している。さらに、複雑な網状組織の作製は、液滴4をあるパターンで配列することによって容易に遂行されるが、その幾何学的形状は2つの寸法に制限される必要はない。例えば、液滴4は、いわゆる六角形のABABもしくはABCABC「結晶」パターンで層形成させることができる。3個の液滴の鎖は、ナノ区画を機能的通路と接続させる実行可能性を証明しており、生物階層を模倣するために可能な出発点として機能する。
【0089】
液滴の網状組織は、以下のように証明されている。液滴4は、油/脂質混合物を充填して一方の端部で閉鎖した内径1.59mmのチュービングの20cmの直線区間を用いて作製した。開放端を上に向けて、液滴4を油の表面直下でチューブの上方へピペットで注入し、チューブのほぼ底部へ落下させた。次にチューブを反転させ、液滴4が開放端へ向かって降下することを引き起こした。液滴4が開口部に到達する直前に、チューブを容器2内で油3の表面と接触させると、これは容器2の底部上に液滴4が着陸することを可能にした。
【0090】
網状組織を形成するために、容器の底面は、各ディンプルが液滴4のための支持体として機能するように、1mmの径及び700μmの心心間隔を備えるマイクロ加工したディンプル(小型「エッグクレート」)の正方形のアレイを備えるPerspex表面を有していた。電極は、ディンプルの底部を通して穿孔された200μm径の穴に通してねじ入れた。セルの裏面は、油3が電極の周囲に漏出しないことを保証するためにUV硬化型接着剤を用いて密閉した。全電極は、パッチクランプ・ヘッドステージの増幅(接地と対照的に)端部へ接続された共通のワイヤへはんだ付けした。
【0091】
視認性のために、各液滴4は10mM MOPS、1M KCl(pH7.0)中のテトラメチルローダミン(ピンク)又はデキストランポリマーに結合したAlexa 488(イエロー)のどちらかを含有していた。液滴4を加えると、隙間の油3が置き換えられるにつれて、隣接液滴4とともに二重層14を形成した。結果として生じる液滴の網状組織は、図8に示した。
【0092】
液滴4間の界面は、機械的摂動に対して安定性であった。実際に、液滴4内に穿刺して、次にそれをマイクロマニピュレータによって制御されたアガロースゲル被覆Ag/AgCl電極を用いることによって抽出することが可能であった。さらに、また別の液滴4を安定化させて空いた位置へ落下させることによって消失した液滴4に置き換えることも可能であった。この液滴は、自然に網状組織内に統合された。そこで、網状組織の成分である液滴は、周囲の系の完全性を侵害せずに抽出かつ交換することができる。
【0093】
生きている組織は特異的機能領域に分化し、これは順に様々な細胞に細分化される。類似方法で、所定の機能に限定した液滴4の集団を用いて、液滴4の網状組織を使用することを想定できる。これらの集団の相互接続は、最終的には生きている細胞内のプロセスを模倣する原始的人工組織を導くことができる。
【0094】
膜タンパク質、例えば細孔を組み込むことができる。αHLタンパク質細孔は優れた出発点であり、この場合には細孔は膜内の公知の配向性を採用し、タンパク質ドメイン(つまり、細孔のキャップ及びステム)の位置は、液滴4の配列によって容易に制御することができる。さらに、細孔の特性、例えば単位コンダクタンス、イオン選択性、整流作用、ゲーティング、ブロッカーとの相互作用及び小分子の選択的輸送は、網状組織内に特異的機能を提供するために遺伝子工学を通して特別仕立てすることができる。
【0095】
直接的に重要であるのは、電気的に伝搬する系、例えば心臓である。イオン勾配、ギャップ結合及びその他のタンパク質を含有する液滴は、刺激波動の機序をシミュレートして試験するために正確に配列することができる。液滴4は、分離したり交換したりすることができるので、変異体タンパク質のライブラリーは、疾患関連タンパク質異常を試験するために機能的網状組織を用いてスクリーニングすることができる。例えば、イオン勾配をイオン選択性細孔と結合すると1つの二重層14を越える膜内外電位差を生成することができ、これを使用すると順に二重層14で発生するプロセスへ上記で考察したように証明されている液滴4の鎖に沿って遠くへ電力を供給することができる。
【0096】
網状組織の特性は、その形状を変化させることによって修飾することができる。例えば、分岐した「バイオ電池」は、図9に示したように、上述したものと同一のイオン勾配を用いて6個の200nL液滴4から構築した。3個の液滴4aは、N123R αHLホモヘプタマー(10mM HEPES、100Mm NaCl(pH7.5中))を含有しており、共通分岐電極の末端に配置した。これらは、10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)を含有する空の液滴4bの3つの面と相互作用し、その液滴4bの残りの面は17ng/mLのWT αHLヘプタマーを含有する10mM HEPES、1M NaCl(pH7.5)の液滴4cの短い鎖へ結合させた。対向する電極を末端αHL液滴4c内へ差し込んだ。N123R αHLを含有する全液滴4aが末端αHL液滴4cと結合すると、図10に示したように高電流(およそ−390pA)が記録された。矢印1によって示されたように、1個のαHL液滴4cを網状組織から取り除くと、これは電流のおよそ−61pAへの低下を引き起こした。矢印2によって示されたように、第2αHL液滴4aの除去は、さらに電流のおよそ−21pAへの低下を引き起こした。矢印3によって示されたように、液滴4bの除去は、電流を停止させた。
【0097】
刺激から集められた情報を受信して伝達する自然の能力は、正確に機能する分化細胞によって可能にされる。網膜は、例えば、脳による解釈のために視神経へ情報を伝達する情報のカスケードを開始する、桿状体細胞及び錘状体細胞を用いて光を感知する。光を検出する液滴「細胞」は、網膜及び網膜神経におけると同様に、電流を伝導する液滴「細胞」へ結合させることができる。実際に、液滴4の単層内に配置されている炭化水素相結合からさえ受容体結合及びチャネル電動によって駆動される味覚及び嗅覚のようなその他の「感覚」を液滴網状組織間及び網状組織内で伝達できる。ここで、親水性末端によって結合された疎水性部分を備えるおそらく天然ではない受容体は、おそらく液滴単層内の機能的形態では区分化もしくは配向しない。しかし油相内の疎水性受容体で水に面するように単層内の「受容体」を固定するただ1つの親水性ドメインによって結合された疎水性ドメインを想定することができる。そのような分子が、例えば液滴界面の内側で検出可能な事象を開始した構造変化によって疎水性可溶性分子結合(大多数の香料及び活性薬は比較的疎水性である)に応答するように設計できれば、疎水性溶液が分析物のイオンを感知することは可能である。
【0098】
網膜及び視神経の原始的模倣体では、光感知網状組織を図11に示したように光駆動プロトンポンプであるバクテリオロードプシン(BR)に基づいて構築した。3個の液滴4dは共通電極の末端に配置し、10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)、0.001%ドデシルマルトシド(DDM)及び18μM BRを含有していた。中央の液滴4eは10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)を含有しており、最後の外側液滴4fは10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)を17ng/mLのWT αHLヘプタマーとともに含有しており、その中に差し込まれた対向電極を有していた。1mWの緑色(532nm)ペン型レーザーを使用して、この網状組織を照明した。図12に示したように、レーザーのスイッチを入れると、電流の鋭いスパイクを視認することができ、これは5秒間後には約5pAへ急速に崩壊した。レーザーのスイッチを切ると、電流は短時間は負の数値へ低下したが、その後ゼロへ戻った。類似の系を用いて、BR挙動の類似の観察が認められた。5秒間のオン及び5秒間のオフの3サイクルを実施し、この後に一連の迅速な16レーザーパルスを続けた。各BRは、膜を越えて吸収された光線1フォトンに付き1プロトンを輸送する。このため、5pA電流は、膜14内では数万個の分子が機能していることを示唆している。そのような大きな電流は単一二重層を用いて入手するのは困難であったが、液滴4の網状組織はこの系の光収集能力を増幅させる。コントロールとして、液滴4をバッファしか含有していない液滴4と置換し、実験を反復した。電極表面は照明中にレーザーへ露光させられたが、光電効果からの電流は観察されなかった。
【0099】
上述した実験では、以下の技術を適用した。
【0100】
野生型(WT)、M123R及びM113F/K147N αHLヘプタマーは、インビトロ転写及び翻訳(IVTT)、その後に赤血球膜上でのオリゴマー化によって調製した。SDS−PAGEによって精製した後、ヘプタマーバンドをゲルから切断し、タンパク質を抽出した。典型的には、αHLサンプルをバッファ中で100から10,000倍に希釈し、これを使用して液滴4を形成した。希釈後、ゲル精製から残留した界面活性剤は二重層14の安定性に影響を及ぼさなかった。
【0101】
ハロバクテリウム・サリナリウム(Halobacterium salinarum)由来のバクテリオロードプシン(BR)は、Sigma社から購入した。精製せずに、1mgのBRを水中のバッファ(10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5))及び0.01%ドデシルマルトシド(DDM)の40μLの1:1混合液中で30分間にわたる超音波処理によって可溶化すると、これは濃紫色の懸濁液を生成した。BR液滴を調製する場合に、BRのストック懸濁液は10mM HEPES、100mM NaCl(pH7.5)中で10倍まで希釈した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性分子の二重層を形成する方法であって:
液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える疎水性媒質中の水溶液の複数の液滴を形成すること;及び
前記液滴を相互に接触させ、その結果として両親媒性分子の二重層が接触している液滴間の界面として形成されること
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の液滴が、鎖もしくは網状組織状で相互に接触させられる2個より多い液滴を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液の液滴の少なくとも1個が、両親媒性分子の二重層内へ挿入できる膜タンパク質を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記膜タンパク質がチャネル又は細孔である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記両親媒性分子の二重層で、又は前記両親媒性分子の二重層を通して発生するプロセスを含む実験を実施するために前記液滴上で測定値を入手することをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記液滴が相互に接触しているときに電極を前記液滴と電気接触させること、及び前記電極を用いて電気計測値を入手することをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電極がヒドロゲルの内側に配置され、前記ヒドロゲルを液滴の内側に配置することによって前記液滴と電気接触させられる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記両親媒性分子の二重層の領域を変化させるために前記液滴が相互に接触しているときに前記液滴を移動させることをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
液滴を相互に接触させる工程が、親水性外面を有するアンカーを液滴の内側に配置すること、及び前記液滴を静止液滴と接触させるために前記アンカーを移動させることによって実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
液滴を相互に接触させる工程が、疎水性外面を有する支持体上に液滴を配置すること、及び別の液滴を前記支持体上の液滴と接触させるために移動させることによって実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記支持体が環状である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持体が親水性外面を有するアンカーを有し、かつ前記液滴が前記液滴の内側で前記アンカーを備える前記支持体上に配置される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記アンカーがヒドロゲルから作製される、請求項9又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記液滴が1,000nL未満の容量を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記両親媒性分子の二重層が、30μmから1,000μmの範囲内の径を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記疎水性媒質が油である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記油が炭化水素である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記両親媒性分子が脂質分子である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
相互に接触していた液滴を分離することをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える水溶液の複数の液滴を形成する前記工程が、
(a)前記疎水性媒質中の水溶液の液滴を形成すること;
(b)工程(a)の前又は後に、前記疎水性媒質中に両親媒性分子を供給すること;及び
(c)工程(a)及び(b)の後に、両親媒性分子の層を形成させるために十分な時間にわたり前記液滴を放置すること
を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える水溶液の複数の液滴を形成する前記工程が、前記両親媒性分子を含有する水溶液から前記疎水性媒質中の水溶液の複数の液滴を形成すること、及びその後に両親媒性分子の層を形成させるために十分な時間にわたり前記液滴を放置することを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
両親媒性分子の二重層を形成する方法であって:
液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える疎水性媒質中の水溶液の複数の液滴を形成すること;及び
前記液滴を相互に接触させ、その結果として両親媒性分子の二重層が接触している液滴間の界面として形成されること
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の液滴が、鎖もしくは網状組織状で相互に接触させられる2個より多い液滴を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液の液滴の少なくとも1個が、両親媒性分子の二重層内へ挿入できる膜タンパク質を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記膜タンパク質がチャネル又は細孔である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記両親媒性分子の二重層で、又は前記両親媒性分子の二重層を通して発生するプロセスを含む実験を実施するために前記液滴上で測定値を入手することをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記液滴が相互に接触しているときに電極を前記液滴と電気接触させること、及び前記電極を用いて電気計測値を入手することをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電極がヒドロゲルの内側に配置され、前記ヒドロゲルを液滴の内側に配置することによって前記液滴と電気接触させられる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記両親媒性分子の二重層の領域を変化させるために前記液滴が相互に接触しているときに前記液滴を移動させることをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
液滴を相互に接触させる工程が、親水性外面を有するアンカーを液滴の内側に配置すること、及び前記液滴を静止液滴と接触させるために前記アンカーを移動させることによって実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
液滴を相互に接触させる工程が、疎水性外面を有する支持体上に液滴を配置すること、及び別の液滴を前記支持体上の液滴と接触させるために移動させることによって実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記支持体が環状である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持体が親水性外面を有するアンカーを有し、かつ前記液滴が前記液滴の内側で前記アンカーを備える前記支持体上に配置される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記アンカーがヒドロゲルから作製される、請求項9又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記液滴が1,000nL未満の容量を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記両親媒性分子の二重層が、30μmから1,000μmの範囲内の径を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記疎水性媒質が油である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記油が炭化水素である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記両親媒性分子が脂質分子である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
相互に接触していた液滴を分離することをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える水溶液の複数の液滴を形成する前記工程が、
(a)前記疎水性媒質中の水溶液の液滴を形成すること;
(b)工程(a)の前又は後に、前記疎水性媒質中に両親媒性分子を供給すること;及び
(c)工程(a)及び(b)の後に、両親媒性分子の層を形成させるために十分な時間にわたり前記液滴を放置すること
を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記液滴の表面の周囲に両親媒性分子の層を備える水溶液の複数の液滴を形成する前記工程が、前記両親媒性分子を含有する水溶液から前記疎水性媒質中の水溶液の複数の液滴を形成すること、及びその後に両親媒性分子の層を形成させるために十分な時間にわたり前記液滴を放置することを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−503517(P2010−503517A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521345(P2009−521345)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002856
【国際公開番号】WO2008/012552
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(507316457)アイシス イノベーション リミテッド (4)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002856
【国際公開番号】WO2008/012552
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(507316457)アイシス イノベーション リミテッド (4)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【Fターム(参考)】
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