説明

両軸受リールのスプール制動装置

【課題】スプール制動装置において、コイルの起電力にバラツキが生じても、目標制動力に対して安定した制動力をスプールに付与できるようにする。
【解決手段】スプール制動機構25は、リール本体1に回転自在に装着され釣り糸を巻付可能なスプール12を電気的に制動する装置である。スプール制動機構25は、スプール制動ユニット40と、張力検出部82と、スプール制御ユニット42と、を備えている。スプール制動ユニット40は、スプール12に連動して回転する磁石61と、磁石61に対向して配置され磁石61の回転に応じた電流を発生するコイル62と、を有する。張力検出部82は、釣り糸に作用する張力を検出する。スプール制御ユニット42は、張力検出部82が検出した張力に応じてコイル82に流れる電流をアナログで制御してスプール制動ユニット40を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置、特に、両軸受リールのリール本体に回転自在に支持され釣り糸を巻付可能なスプールを電気的に制動する両軸受リールのスプール制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スプールを電気的に制動する両軸受リールのスプール制動装置は、スプールとリール本体との間に磁石とコイルとからなる発電機構を設け、それを電気的に制御してキャスティング途中の制動力を調整している。
【0003】
従来のスプール制動装置は、スプールに設けられた磁石と、リール本体に設けられたコイルと、釣り糸に作用する張力を検出する張力検出手段と、検出張力から制動開始時期を決定し、コイルに流れる電流を制御する制御機構とを備えている。従来の両軸受リールのスプール制動装置では、キャスティング開始からの張力の変化を検出し、張力が所定値以下になったときに、制御を開始している。具体的には、制動力が徐々に小さくなるデジタル値のデューティ比で表される目標制動力になるようにスイッチング素子をデジタルでスイッチング制御し、制動力を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−159847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のスプール制動装置は、デューティ比を制動力とみなしている。このため、磁石及びコイルの寸法並びにそれらの取付位置のバラツキにより、コイルの起電力がばらつくと、目標制動力として設定されたデューティ比で制御しても電流値が異なってしまい、制動力が安定しないおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、コイルの起電力にバラツキが生じても、安定した制動力をスプールに付与できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係る両軸受リールのスプール制動装置は、両軸受リールのリール本体に回転自在に装着され釣り糸を巻付可能なスプールを電気的に制動する装置である。スプール制動装置は、スプール制動部と、張力検出部と、スプール制御部と、を備えている。スプール制動部は、スプールに連動して回転する磁石と、磁石に対向して配置され磁石の回転に応じた電流を発生するコイルと、を有する。張力検出部は、釣り糸に作用する張力を検出する。スプール制御部は、張力検出部が検出した張力に応じてコイルに流れる電流をアナログで制御してスプール制動部を制御する。
【0008】
このスプール制動装置では、スプール制動部のコイルの出力電流値が検出された張力に応じてアナログ制御される。ここでは、デューティ比でなく、実際の制動力に比例する電流値をアナログ制御するので、磁石及びコイルの寸法並びに取付位置のバラツキが生じ、コイルの起電力にバラツキが生じても、安定した制動力をスプールに付与きるようになる。
【0009】
発明2に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明1に記載の装置において、スプールの回転速度を検出する回転速度検出部をさらに備え、張力検出部は、回転速度検出部で検出された回転速度の変化率に基づいて、スプールを回転させるトルクを検出するトルク検出手段を有し、算出されたトルクから張力を検出する。この場合には、回転速度の変化により張力を検出できるので、回転速度と張力の両方の検出を一つの検出部で行える。
【0010】
発明3に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明2に記載の装置において、スプール制御部は、目標制動力出力部と、電流検出部と、差分データ出力部と、電流制御部と、を有している。目標制動力出力部は、回転速度検出部が検出した回転速度と、張力検出部で検出された張力とに応じて所望の目標制動力を算出し、目標制動力に応じたアナログの目標電圧を出力する。電流検出部は、コイルから出力される電流を検出してアナログの検出電圧に変換する。差分データ出力部は、目標電圧と検出された検出電圧との電位差に応じた差分データを出力する。電流制御部は、出力された差分データにより、コイルから出力される電圧が目標電圧となるようにコイルから出力される電流を制御する。
【0011】
この場合には、アナログの目標電圧とコイルから出力されるアナログの電圧との差分データによりコイルから出力される電圧が目標電圧になるように電流制御される。このように電流制御を電圧の差分データにより行うことで、制動力を安定させることができる。
【0012】
発明4に係る両軸受リールのスプール制動装置は、発明3に記載の装置において、目標制動力出力部は、スプールの回転開始からの時間に応じて変化する参照張力を設定する張力設定部と、第1制動力を制定する第1制動力設定部と、第1制動力を基準として制動力を増加させた第2制動力を設定する第2制動力設定部と、をさらに有する。目標制動力出力部は、制動開始時は、第1制動力を目標制動力とし、その後張力検出部で検出された張力が参照張力以下になると、第2制動力を目標制動力として目標電圧を出力する。
【0013】
この場合には、検出張力が参照張力を超えていると、弱い第1制動力で制動し、検出張力が参照張力以下になると第1制動力を基準として制動力を増加させた強い第2制動力でスプールを制動する。したがって、釣りの条件に応じて制動力の強弱が自動的に制御される。このため、釣りの条件がある程度変化しても、制動力の強弱の設定をし直す必要がなくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アナログ制御により、正確な目標制動力になるように出力電流を制御できる。このため、磁石及びコイルの寸法並びに取付位置のバラツキが生じ、コイルの起電力にバラツキが生じても、安定した制動力をスプールに付与できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態が採用された両軸受リールの斜視図。
【図2】そのリール本体内部の構成を示す断面図。
【図3】第1側カバーの正面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】そのスプール制動装置の分解斜視図。
【図6】スプール制動装置のブロック図。
【図7】その制御動作を示すグラフ。
【図8】そのメインルーチンの制御動作を示すフローチャート。
【図9】その出力処理ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<リールの構成>
図1及び図2において、本発明の一実施形態による両軸受リールは、ベイトキャスティング用のロープロファイル形の両軸受リールである。このリールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用ハンドル2と、ハンドル2のリール本体1側に配置されたドラグ調整用のスタードラグ3とを備えている。
【0017】
ハンドル2は、ハンドルアーム2aと、ハンドルアーム2aの両端に回転自在に装着されたハンドル把手2bとを有するダブルハンドル形のものである。ハンドルアーム2aは、図2に示すように、ハンドル軸30の先端に回転不能に装着されている。ハンドルアーム2aは、ナット28によりハンドル軸30に連結されている。
【0018】
リール本体1は、例えばマグネシウム合金などの軽金属製の部材である。リール本体1は、フレーム5と、フレーム5の左方及び右方に装着された第1側カバー6a及び第2側カバー6bと、前カバー7を有している。リール本体1の内部には糸巻用のスプール12がスプール軸20(図2)を介して回転自在に装着されている。
【0019】
フレーム5内には、図2に示すように、スプール12と、サミングを行う場合の親指の当てとなるクラッチレバー17と、スプール12内に均一に釣り糸を巻くためのレベルワインド機構18とが配置されている。またフレーム5と第2側カバー6bとの間には、ギア機構19と、クラッチ機構21と、クラッチ制御機構22と、ドラグ機構23と、キャスティングコントロール機構24と、が配置されている。ギア機構19は、ハンドル2からの回転力をスプール12及びレベルワインド機構18に伝えるための機構である。クラッチ機構は、スプール12とハンドル2との連結・遮断する機構である。クラッチ制御機構22は、クラッチレバー17の操作に応じてクラッチ機構21を制御するための機構である。ドラグ機構23は、クラッチオン時のスプール12の糸繰り出し方向の回転を制動する機構である。キャスティングコントロール機構24は、スプール12の回転時の抵抗力を調整するための機構である。また、フレーム5と第1側カバー6aとの間には、キャスティング時のバックラッシュを抑えるための電気制御式のスプール制動機構(スプール制動装置の一例)25が配置されている。
【0020】
フレーム5は、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置された第1側板8a及び第2側板8bと、第1側板8a及び第2側板8bを一体で連結する複数の連結部8cと、を有している。第1側板8aには、円形の開口8dが形成されている。この開口8dには、リール本体1を構成するスプール支持部13がネジ止め固定されている。スプール支持部13にはスプール12の一端を支持する第1軸受26aが収納される軸受収納部14が設けられている。
【0021】
第1側カバー6aは、ポリアミド樹脂等の合成樹脂製の型成形された部材である。第1側カバー6aは、図2、図3、図4及び図5に示すように、第1側板8aの外方を覆うように形成されている。第1側カバー6aは、カバー本体9と、カバー本体9にネジ止め固定された銘板10と、を有している。カバー本体9は、外側から装着された第1ネジ部材11a及び第2ネジ部材11bにより、第1側板8aの外側面に固定されている。カバー本体9には、第1ネジ部材11a及び第2ネジ部材11bが各別に通過する第1貫通孔9a及び第2貫通孔9bが形成されている。カバー本体9には、後述するモードつまみ43を外部に露出させるためのつまみ開口9cが形成されている。外側面において、つまみ開口9cの周囲には、銘板10を装着するための装着凹部9dが形成されている。装着凹部9dは銘板10の外形に沿うように概ね雨滴形状に形成されている。
【0022】
銘板10は、ポリアミド樹脂等の合成樹脂製の部材である。銘板10は、後部につまみ開口9cに対向する開口10aが形成された円形部10bを有する概ね先細りの雨滴形状である。円形部10bの外周面には、カバー本体9の裏面に係止される係止爪10cが後方に突出して形成されている。カバー本体9のつまみ開口9cの後部には、係止爪10cが嵌合するスリット9fが形成されている。この係止爪10cによって銘板10の後部をカバー本体9に係止することにより、銘板10の左方(図4上方)への反りを抑制できる。銘板10の前部には、カバー本体9の第1貫通孔9aに対向する第3貫通孔10dが形成されている。第3貫通孔10dの周囲には、第1ネジ部材11aの頭部11cが配置される座繰り部10eが凹んで形成されている。したがって、第1ネジ部材11aの頭部11cが図2に示すように、第1側カバー6aの外側面から突出しない。第1ネジ部材11aにより、銘板10とカバー本体9とが一括して第1側板8aに固定される。これにより、銘板10を内側から固定する場合に銘板10に生じるおそれがある樹脂のひけを防止できる。なお、銘板10及び第1ネジ部材11aは、黒色であり、第1ネジ部材11aが銘板10に対して目立たないようにしている。
【0023】
図4に示すように、銘板10の外側面は、カバー本体9の外側面より僅かに凹んで配置されている。カバー本体9の装着凹部9dの縁部9eは、テーパ形状に面取りされている。したがって、カバー本体9と銘板10の外側面との間には微小な段差が形成されている。これにより、略雨滴形状の先細りの銘板10をカバー本体9に組み付ける際に、銘板10がカバー本体9の装着凹部9dの縁部に干渉するのを抑えている。この結果、意匠の良好性を維持しつつ、銘板10をカバー本体9に組み付ける際の作業性を向上させることができる。
【0024】
図4及び図5に示すように、銘板10の前部の内側面には、カバー本体9に向け円柱状に突出する位置決め突起10fが形成されている。位置決め突起10fは、カバー本体9の外側面に内側面に貫通して形成された位置決め孔9gに嵌合する。これにより、銘板10の前部がカバー本体9に位置決めされる。
【0025】
スプール12は、図2に示すように、両側部に皿状のフランジ部12aを有しており、両フランジ部12aの間に筒状の糸巻胴部12bを有している。図2左側のフランジ部12aの外周面は、糸噛みを防止するために開口8dの内周側に僅かな隙間をあけて配置されている。スプール12は、糸巻胴部12bの内周側を貫通するスプール軸20にたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。
【0026】
スプール軸20は、たとえばSUS304等の非磁性金属製であり、第2側板8bを貫通して第2側カバー6bの外方に延びている。その延びた他端は、第2側カバー6bに装着されたボス部6cに第2軸受26bにより回転自在に支持されている。スプール軸20の中心には、大径部20aが形成されており、第1軸受26a及び第2軸受26bに支持される第1小径部20b及び第2小径部20cが両端に形成されている。なお、第1軸受26a及び第2軸受26bは転がり部材と内輪及び外輪とがSUS404C製でその表面を改質して耐食性を向上させた転がり軸受である。
【0027】
さらに、図2左側の第1小径部20bと大径部20aとの間には両者の中間の外径を有する、後述する磁石61を装着するための磁石装着部20dが形成されている。磁石装着部20dには、たとえば、SUM(押出・切削)等の鉄材の表面に無電界ニッケルめっきを施した磁性体製の磁石保持部27が、たとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。磁石保持部27は、断面が正方形で中心に磁石装着部20dが貫通する貫通孔27aが形成された四角柱状の部材である。磁石保持部27の固定方法はセレーション結合に限定されず、キー結合やスプライン結合等の種々の結合方法を用いることができる。
【0028】
スプール軸20の大径部20aの右端は、第2側板8bの貫通部分に配置されており、そこにはクラッチ機構21を構成する係合ピン29が固定されている。係合ピン29は、直径に沿って大径部20aを貫通しており、その両端が径方向に突出している。
【0029】
クラッチレバー17は、図1に示すように、第1側板8a及び第2側板8bの間の後部でスプール12後方に配置されている。クラッチレバー17はクラッチ制御機構22に連結されており、第1側板8a及び第2側板8bの間で上下方向にスライドして、クラッチ機構21を連結状態と遮断状態とに切り換える。
【0030】
ギア機構19は、ハンドル軸30と、ハンドル軸30に固定されたドライブギア31と、ドライブギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32とを有している。ハンドル軸30は、第2側板8b及び第2側カバー6bに回転自在に装着されており、図示しないローラ型のワンウェイクラッチ及び爪式のワンウェイクラッチにより糸繰り出し方向の回転(逆転)が禁止されている。ドライブギア31は、ハンドル軸30に回転自在に装着されており、ハンドル軸30とドラグ機構23を介して連結されている。
【0031】
ピニオンギア32は、第2側板8bから軸方向外方に延び、中心にスプール軸20が貫通する筒状部材である。ピニオンギア32は、スプール軸20に軸方向に移動自在に装着されている。また、ピニオンギア32の図2左端側は、軸受33により第2側板8bに回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。ピニオンギア32の図2左端部には係合ピン29に噛み合う噛み合い溝32aが形成されている。この噛み合い溝32aと係合ピン29とによりクラッチ機構21が構成される。また中間部にはくびれ部32bが、右端部にはドライブギア31に噛み合うギア部32cがそれぞれ形成されている。
【0032】
クラッチ制御機構22は、スプール軸20方向に沿って移動するクラッチヨーク35を有している。また、クラッチ制御機構22は、スプール12の糸巻取方向の回転に連動してクラッチ機構21をクラッチオンさせるクラッチ戻し機構(図示せず)を有している。
【0033】
キャスティングコントロール機構24は、スプール軸20の両端を挟むように配置された複数の摩擦プレート51と、摩擦プレート51によるスプール軸20の挟持力を調節するための制動キャップ52とを有している。左側の摩擦プレート51は、スプール支持部13内に装着されている。
【0034】
<スプール制動機構の構成>
スプール制動機構25は、図2及び図5に示すように、スプール12とリール本体1とに設けられたスプール制動ユニット(スプール制動部の一例)40と、スプール制動ユニット40を後述する4つの制動モードのいずれかで電気的にアナログ制御するスプール制御ユニット42(スプール制御部の一例)と、4つの制動モードを選択するためのモードつまみ43とを有している。
【0035】
<スプール制動ユニットの構成>
スプール制動ユニット40は、スプール12を発電により制動する電気的に制御可能なものである。スプール制動ユニット40は、スプール軸20に回転方向に並べて配置された複数(たとえば4つ)の磁石61を含む回転子60と、回転子60の外周側に対向して配置され直列接続された複数(たとえば4つ)のコイル62と、を備えている。スプール制動ユニット40は、磁石61とコイル62との相対回転により発生する電流を、スプール制御ユニット42によりアナログ制御することにより、スプール12を制動する。
【0036】
回転子60の4つの磁石61は、周方向に並べて配置され極性が交互に異なっている。磁石61は、磁石保持部27と略同等の長さを有する部材であり、その外側面は断面円弧状の面であり、内側面は平面である。この内側面がスプール軸20の磁石保持部27の外周面に接触して配置されている。磁石61の両側には、磁石61を位置決めするための位置決め部材63が配置されている。回転子60は、止め輪64及びワッシャ65により抜け止めされている。
【0037】
4つの磁石61は、磁石保持部27及び位置決め部材63とともに予め芯出し用の治具に装着し、互いの接触面に接着剤を塗布した後に外側から別部材で緊縛することより固定されている。接着後に別部材は取り外される。これにより、磁石61及び磁石保持部27がスプール軸20に対して芯出しされた状態になり、磁石61の位置ずれが生じにくくなる。このため、スプール12回転時に回転バランスの低下による振動の発生を抑えることができる。なお、接着剤による固定に代えて、変形量が多い合成樹脂製のリング部材を治具に装着された磁石組立体の外周面に圧入して位置ずれを防止しても良い。また、4つの磁石61だけを芯出し用の治具に装着して接着しても良い。
【0038】
図2に示すように、糸巻胴部12bの内周面の磁石61に対向する位置には、たとえば、SUM(押出・切削)等の鉄材の表面に無電界ニッケルめっきを施した磁性体製のスリーブ68が装着されている。スリーブ68は、糸巻胴部12bの内周面に圧入又は接着などの適宜の固定手段により固定されている。このような磁性体製のスリーブ68を磁石61に対向して配置すると、磁石61からの磁束がコイル62を集中して通過するので、発電及びブレーキ効率が向上する。
【0039】
コイル62は、コギングを防止してスプール12の回転をスムーズにするためにコアレスタイプのものが採用されている。さらにヨークも設けられていない。コイル62は、巻回された芯線が磁石61に対向して磁石61の磁場内に配置されるように略矩形に巻回されている。4つのコイル62は直列接続されており、その両端がスプール制御ユニット42に接続されている。コイル62は、磁石61の外側面との距離が略一定になるようにスプール軸芯に対して実質的に同芯の円弧状にスプール12の回転方向に沿って湾曲して成形されている。このため、コイル62と回転中の磁石61との隙間を一定に維持することができる。コイル62は、スプール制御ユニット42の回路基板70に取り付けられている。
【0040】
モードつまみ43は、4つの制動モードのいずれかを選択するために設けられている。4つの制動モードは、後述する第1制動力及び第2制動力が異なる制動モードであり、Lモード(遠投モード)と、Mモード(中距離モード)と、Aモード(オールラウンドモード)と、Wモード(ウインドモード)の4つのモードである。
【0041】
ここで、Lモードは、比重の軽い釣り糸を使用し、追い風の恵まれた条件においてスプーン、メタルジグ、バイブレーションなどの空気抵抗が少なく重い仕掛け(ルアー)を超遠投するためのロングディスタンスモードである。キャスティング直後のエネルギーを極限まで利用し、最大回転数を可能な限り高め、さらに中盤以降をほとんどフリーにして飛距離を伸ばせるように考慮された制動モードであり、後述する第1制動力が最も小さく設定されている。
【0042】
Mモードは、重心移動式プラグやペンシルベイト、バイブレーションなど空気抵抗の少ない仕掛け(プラグ)で快適に遠投できるように設定された制動モードである。キャスティング直後のオーバーランを抑えつつ、中盤以降を上手く補正してギリギリのところでバックラッシュさせずに飛距離を伸ばせるように設定している。比重の小さいポリアミド樹脂系の釣り糸を使用する場合、このモードを基準に設定するのが好ましい。
【0043】
Aモードは、キャスティング直後のエネルギーを極限まで利用しつつ、後半の伸びを重視したブレーキ設定である。釣り糸や仕掛けの種類、風向きを問わず、ほとんどの状況でオールマイティーに使用可能である。とくに、比重の重いフロロカーボン系の釣り糸を使用する場合、このモードを基準に設定するのが好ましい。
【0044】
Wモードは、完全な向かい風の中で仕掛けの飛行距離が落ちる状況でもバックラッシュを可及的に抑えて飛行距離を伸ばすモードであり、第2制動力が最も大きく設定されている。飛行中に回転して減速しやすい重心固定ミノーやフラットサイドクランクを向かい風に向かって投げる場合に最適なように設定されている。また、ピッチングやスキッピングなどのライトキャスティングであっても低回転からしっかりとバックラッシュを防止するように設定されている。
【0045】
モードつまみ43は、第1側カバー6aに回動自在かつ制動モードに応じた4つの回転位相に位置決め可能に設けられている。モードつまみ43には図示しない磁石が設けられている。回路基板70には磁石が回動する領域に間隔を隔てて配置された2つのホール素子からなるつまみ位置センサ45(図6参照)が設けられている。つまみ位置センサ45は、磁石の通過による2つのホール素子のオンオフの変化、具体的には、両方オン、一方オン他方オフ、一方オフ他方オン、両方オフにより、モードつまみ43の回転位相を検出し、後述するデジタル制御部55は、4つの制動モードのいずれかを回転位相に応じて設定する。
【0046】
<スプール制御ユニットの構成>
スプール制御ユニット42は、図2に示す回路基板70に搭載されている。回路基板70は、中心が円形に開口する座金形状のリング状の基板であり、軸受収納部14の外周側でスプール軸20と実質的に同芯に配置されている。回路基板70は、スプール支持部13にネジ止めされている。回路基板70は、コイル62とともに合成樹脂製の硬質の絶縁被膜により覆われている。したがって、コイル62及び回路基板70は、鍔付き筒状に形成されている。回路基板70は、スプール支持部13のスプール12のフランジ部12aに対向する面に装着されている。
【0047】
ここでは、回路基板70がスプール支持部13のスプール12のフランジ部12aと対向する面に装着されているので、回転子60の周囲に配置されたコイル62を回路基板70に直接取り付けることができる。このため、コイル62と回路基板70とを接続するリード線が不要になり、コイル62と回路基板70との絶縁不良を軽減できる。しかも、コイル62がスプール支持部13に取り付けられた回路基板70に装着されているので、回路基板70をスプール支持部13に取り付けるだけでコイル62もスプール支持部13に装着される。このため、スプール制動機構25を容易に組み立てできる。
【0048】
なお、この回路基板70に搭載されたコイル62を含む各部は、合成樹脂絶縁体製の絶縁被膜90により覆われている。絶縁被膜90は鍔付き円筒状に形成されており、コイル62と回路基板70と回路基板70に装着された電気部品と、を覆っている。
【0049】
スプール制御ユニット42は、図6に示すように、デジタル制御部55と、アナログ制御部57と、を有している。また、スプール制御ユニット42は、図示しない蓄電素子を有し、スプール12の回転により発電した電力が蓄電素子に蓄えられる。この蓄電素子に蓄えられた電力により、スプール制御ユニット42は動作する。
【0050】
デジタル制御部55は、たとえばCPU,RAM,ROM及びI/Oインターフェイス等が搭載されたマイクロコンピュータから構成されている。マイクロコンピュータは、DA(デジタル/アナログ)出力ポート55aを有している。DA出力ポート55aは、デジタル信号をアナログ信号に変換可能である。デジタル制御部55のROMには、目標制動力出力プログラム、後述する第1制動力、第2制動力、及びタイマ値等が格納される。デジタル制御部55は、目標制動力出力プログラムにより実現される機能構成として、目標制動力出力部80と、張力検出部82と、を有している。目標制動力出力部80は、張力設定部83と、第1制動力設定部84と、第2制動力設定部85と、を有している。張力設定部83には、スプール12が糸繰り出し方向に回転を開始するキャスティング開始からの経過時間に応じて変化する参照張力Frが設定されている。第1制動力設定部84には、第1制動力TF1が設定されている。第2制動力設定部85には、第1制動力を基準として制動力を増減させた第2制動力TF2が設定されている。第1制動力TF1は検出された張力Fが参照張力Frを超えている場合の目標制動力である。第2制動力は、検出された張力Fが参照張力Fr以下のときの目標制動力である。なお、これらの参照張力Fr、第1制動力TF1及び第2制動力TF2は、つまみ位置センサが検出した4つの制動モードに応じて設定されている。
【0051】
張力検出部82は、トルク検出部82aを有している。トルク検出部82aは、後述する回転数検出器41で検出されたスプール12の回転速度ωの変化に応じてトルクを検出する。デジタル制御部55には、アナログ制御部57及びつまみ位置センサ45が接続されている。デジタル制御部55は、つまみ位置センサ45及びアナログ制御部57で得られたスプール回転速度に応じて目標速度算出プログラムにより目標制動力を算出する。算出された目標制動力を示す動信号は、DA出力ポート55aを介してアナログ電圧の形態でアナログ制御部57に出力される。
【0052】
アナログ制御部57は、スプール12の回転速度を検出する回転数検出器41(回転速度検出部の一例)と、電流検出器46(電流検出部の一例)と、電流制御器47(電流制御部の一例)と、演算増幅器(差分データ出力部の一例)48と、を有している。回転数検出器41は、コイル62に接続されており、コイル62からの出力電流の変化により回転数を示すパルス信号を生成する。電流検出器46は、例えば抵抗を用いており、コイル62に接続されている。電流検出器46は、コイル62から出力される電流の電流値を電圧値に変換する。電流制御器47は、電流検出器46と、演算増幅器48に接続されている。電流制御器47は、例えば、2つの電界効果トランジスタ(FET)を用いている。電流制御器47は、ゲートが演算増幅器48に接続されており、演算増幅器48から出力される電圧信号により、コイル62から出力される電流を制御し、コイル62から出力される電流を目標制動力となるように制御する。演算増幅器48は、正端子にデジタル制御部55から出力される目標制動力を示すアナログ電圧が入力され、負端子に電流検出器46で変換されたコイル62の出力電圧が入力される。演算増幅器48は、デジタル制御部55から出力された目標制動力となるアナログ電圧と、コイル62から電流検出器46を介して入力されたコイル62の出力電圧と、の差分電圧(差分データの一例)に応じた電圧信号を電流制御器47のゲートに出力する。電圧信号は、コイル62の出力電圧が、デジタル制御部55から出力された目標制動力に応じた電圧に等しくなるように定められた信号である。電流制御器47は、演算増幅器48から出力された制御信号に応じて、コイル62の出力電圧が目標制動力となるようにコイル62の出力電流を制御する。
【0053】
<実釣時のリールの操作及び動作>
キャスティングを行うときには、クラッチレバー17を下方に押圧してクラッチ機構21をクラッチオフ状態にする。このクラッチオフ状態では、スプール12が自由回転状態になり、キャスティングを行うと仕掛けの重さにより釣り糸がスプール12から勢いよく繰り出される。このキャスティングによりスプール12が回転すると、磁石61がコイル62の内周側を回転して、制動モードに応じた目標制動力がデジタル制御部55からアナログ制御部57に出力され、アナログ制御部57により目標制動力となるようにコイル62の出力電流が制御され、スプール12が制動される。キャスティング時にはスプール12の回転速度は徐々に速くなり、ピークを越えると徐々に減速する。
【0054】
仕掛けが着水すると、ハンドル2を糸巻取方向に回転させて図示しないクラッチ戻し機構によりクラッチ機構21をクラッチオン状態にし、リール本体1をパーミングしてアタリを待つ。
【0055】
<デジタル制御部の制御動作>
次に、キャスティング時のデジタル制御部55の概略の目標制動力TFの出力動作について図7を参照して説明する。なお、図7では、縦軸に制動力の強さを表す電圧と張力と回転速度を示し、横軸にキャスティングからの時間経過を示している。また太実線で実際に出力される目標制動力の電圧が描かれている。
【0056】
キャスティングが開始され、デジタル制御部55に電源が投入されると、モードつまみ43の位置に応じて、制動モードに応じた後述する第1制動処理の第1初期制動力(電圧値V1S)と、第2制動処理の第2初期制動力(電圧値V2S)と、第2制動力TF2の倍率MP(たとえば、1.2倍から2.5倍の範囲)と、第2制動力TF2の減衰率RA(たとえば0.2〜0.6)と、補正制動時のタイマTNのタイマ値(たとえば、0.05秒から0.5秒の範囲)と、がデジタル制御部55にセットされる。また、検出された張力Fに対する比較対照としての参照張力Frや第1制動力TF1による制動開始時点を決定する開始張力Fsもセットされる。なお、図7では、第2制動力TF2の増加分の倍率RAは、たとえば1.5で説明している。
【0057】
続いて、回転数検出器41からの回転速度ωにより張力検出部82が回転速度ωをもとに張力Fを算出する。
【0058】
ここで、張力Fは、スプール12の回転速度の変化率(Δω/Δt)とスプール12の慣性モーメントJとで求めることができる。キャスティングしているときにスプール12の回転速度が変化すると、このとき、もしスプール12が釣り糸からの張力を受けずに単独で自由回転していた場合の回転速度との差は釣り糸からの張力により発生した回転駆動力(トルク)によるものである。このときの回転速度の変化率を(Δω/Δt)とすると、駆動トルクTは、下記(1)式で表すことができる。
【0059】
T=J×(Δω/Δt)・・・・・(1)
(1)式から駆動トルクTが求められれば、張力検出部82が釣り糸の作用点の半径(通常は15〜20mm)から張力Fを求める。
【0060】
キャスティング開始から徐々に降下する張力Fが所定値(開始張力Fs)以下になったときに大きな制動力を作用させると、回転速度のピークの手前で仕掛けの姿勢が反転して安定して飛行することを知見した。この回転速度のピークの手前で制動して安定した姿勢で仕掛けを飛行させるために以下の制御を行う。すなわち、キャスティング当初に短時間強い一定の第1初期制動力V1Sを作用させて仕掛けを反転させる第1制動処理を行う。続いて、第2制動処理において、徐々に弱くなる第1制動力TF1と第2制動力TF2とを組み合わせた目標制動力TFを、所定回転速度ωeに下がるまで、デジタル制御部55は出力する。ここで、第1制動力TF1の電圧V2は第2初期制動力の電圧値V2Sから回転速度の二乗に比例して減少する。また、第2制動力TF2の電圧AV1は、第1制動力TF2の電圧V2に所定の倍率MP分増加させた初期値(TF2=(MP+1)×TF1)からセットされた減衰率RAで減少する。
【0061】
第2制動処理では、少なくとも一部が時間とともに減少するように設定された参照張力Frと張力検出部82で検出された張力Fとを比較し、張力Fが参照張力Fr以下になると、第2制動力TF2に応じた電圧AV1を目標制動力TFとして出力する。この第2制動力TF2は、第1制動力TF1を基準にして増加させたものであり、減衰率RAに従って減衰する。具体的には、検出張力が参照張力以下になると、タイマTN(N:1,2,3・・・)がその都度作動し、タイマTNがタイムアップすると、そのときの第1制動力TF1を基準にして増加した第2制動力TF2により制動する。なお、タイムアップ前に検出された張力Fが参照張力Frを超えるとタイマTNはリセットされ、第2制動力TF2による制動は行われず、第1制動力TF1による制動が行われる。
【0062】
たとえば、図7は、時間ta1で検出張力Fが参照張力Fr以下になると、タイマT1がスタートしてからタイムアップするまで検出張力Fが参照張力Fr以下である。このため、タイマT1がタイムアップした時点でそのときの第1制動力TF1の電圧V2を基準に増加させた第2制動力TF2の電圧AV1が目標制動力TFの電圧として出力される。また、時間ta2でもまた検出張力Fが参照張力Fr以下になった。しかし、図7に破線の円内に示すように、タイマT2がタイムアップする前の時間tbで、検出張力Fが参照張力Frを超えている。このため、第2制動力TF2の出力はキャンセルされ、第2初期制動力の電圧値V2Sから電圧が徐々に減少する第1制動力TF1が目標制動力TFの電圧として出力される。さらに、時間ta3では、再度検出張力Fが参照張力Fr以下になり、かつタイマT2がタイムアップするまでその状態が続いている。したがって、タイマT2がタイムアップした時点での第1制動力TF1の電圧値V22を増加させた第2制動力TF2の電圧AV1が目標制動力TFの電圧として出力される。第2制動力TF2は前述したように時間経過とともに減衰率RAに応じて減衰する。また、第2制動力TF2は、第1制動力TF1以下になることはない。
【0063】
次に、具体的な目標制動力出力処理について図8及び図9の制御フローチャートを参照して説明する。
【0064】
キャスティングによりスプール12が回転して蓄電素子に電力が蓄えられデジタル制御部55に電源が投入されると、ステップS1で初期設定が行われる。ここでは、各種のフラグや変数がリセットされる。たとえば、タイマTNの回数を示す変数Nを1にセットする。ステップS2では、後述する出力処理が開始されたか否かを示すフラグCFがオンしているか否かを判断する。まだ出力処理が始まっていない場合は、ステップS3に移行する。ステップS3では、つまみ位置センサ45により何れの制動モードBMn(nは1〜4の整数)が選択されたか否かを判断する。ステップS4では、制動モードを選択された制動モードBMnに設定する。具体的には、デジタル制御部55内のROMから制動モードBMnに応じた第1制動処理の第1初期制動力の電圧値V1S,第2制動処理の第1制動力TF1の第2初期制動力の電圧値V2S,第2制動力TF2の増加率MP,タイマTNのそれぞれのタイマ値,第2制動力TF2の減衰率RA及び第2制動力TF2で制動する際に使用する参照張力Fr等の制動モードBMn毎の値が読み出されマイクロコンピュータのRAMにセットされる。なお、ROMに格納され最初に設定される第1初期制動力の電圧値V1Sは、キャスティング初期の回転速度が10000rpmのときの電圧値である。したがって、キャスティング初期の回転速度ωに応じて、制御時の第1初期制動力の電圧値V1Sは補正される。タイマTN(N:正の整数)は第2制動処理において第2制動力で制動する際にこの順で使用されるものであり、順にタイマ値が長くなるように設定されている。たとえば、タイマT1のタイマ値は0.05秒であり、タイマT2のタイマ値は0.1秒である。
【0065】
ステップS5では、回転数検出器41からのパルスによりスプール12の回転速度ωを検出する。ステップS6では、スプール12から繰り出される釣り糸に作用する張力Fを張力検出部82が回転速度ωから算出する。
【0066】
ステップS7では、算出された張力Fが開始張力Fs(たとえば、0.5〜1.5Nの範囲のいずれかの値)以下か否か判断する。開始張力Fsを超えている場合にはステップS5に戻る。
【0067】
張力Fが所定値Fs以下になるとステップS8に移行する。ステップS8では、フラグCFをオンする。ステップS9では、ステップS5で直近に検出した回転速度ωをキャスティング初期の回転速度ω1にセットする。ステップS10では、図9に示す出力処理を行う。ステップS11では、検出した回転速度ωが制御終了となる極低速の終了速度ωeになったか否かを判断する。回転速度ωが終了速度ωeに達すると、ステップS12では全てのフラグをオフし、ステップS13で全てのタイマTNをリセットしてステップS2に戻る。しかし、キャスティングが終わってスプール12の回転が停止すると、電源電圧が下がり蓄電素子が放電するのでデジタル制御部55のCPUはリセットされる。
【0068】
ステップS2で、フラグCFがオンしており、すでに制動処理が始まっている場合はステップS10にスキップする。
【0069】
ステップS10の出力処理では、図9のステップS20で、検出された張力Fが所定値Fs以下になってから時間ts2が経過したか否かを判断する。時間ts2が経過するまではステップS21に移行し、第1制動処理を実行し、ステップS11に戻る。ステップS21の第1制動処理では、図7に示すように、ステップS4でセットされた第1初期制動力の電圧値V1Sをキャスティング初期の回転速度ω1に応じて補正し、一定の制動力で時間ts2の間スプール12を制動する。
【0070】
制動を開始してから時間ts2が経過するとステップS20からステップS22に移行して第2制動処理を実行する。ステップS22では、回転速度ωを検出する。ステップS23では、張力Fを算出する。ステップS24では、フラグSFがオンしているか否かを判断する。このフラグSFは、第2制動処理をすでに開始しているか否かを判断するフラグである。フラグSFがオンしていない場合は、ステップS24からステップS25に移行してフラグSFをオンする。ステップS26では、ステップS22で検出した回転速度ωを第2制動処理における初期回転速度ω2にセットし、ステップS27に移行する。フラグSFがすでにオンしている、すなわち第2制動処理がすでに開始されている場合には、ステップS24からステップS27に移行する。
【0071】
ステップS27では、検出張力Fが参照張力Fr以下になったか否かを判断する。検出張力Fが参照張力Fr以下になると第2制動力を出力するために、ステップS28に移行する。ステップS28は、タイマTN(最初はタイマT1)がすでにタイムアップしているか否かを判断する。タイムアップしていないときは、ステップS29に移行し、タイマTNがスタートしているか否かを判断する。タイマTNがスタートしていないときは、ステップS30に移行してタイマTNをスタートさせメインルーチンに戻る。タイマTNがすでにスタートしているとは、ステップS30をスキップしてメインルーチンに戻る。
【0072】
タイマTNがタイムアップしているときは、ステップS28からステップS31に移行する。ステップS31では、検出張力Fが初めて参照Fr以下になった補正制動処理であるのか否かを示すフラグTFがオンしているか否かを判断する。フラグTFがオンしていないときは初めての場合であるのでステップS32に移行して次のタイマTN(たとえば、タイマT2)を準備するために変数Nを1インクリメントする。ステップS33では、フラグスTFをオンする。ステップS34では、第2制動力TF2の電圧AV1をセットしてメインルーチンに戻る。第2制動力TF2の電圧AV1は、図7に示すように、タイマTNがタイムアップしたときの第1制動力TF1の電圧値V21に倍率MP(たとえば、1.5)を掛けたものを第1制動力TF1の電圧V2に足してセットされる。
【0073】
また、フラグTFがすでにオンしている場合には、ステップS31からステップS35に移行して第2制動力TF1の減衰処理をおこなう。具体的には、そのときの第2制動力TF1の電圧値AV1から第2制動力TF2の電圧値AVに所定の減衰率RAを掛けたものを引いた値を新たな第2制動力TF2の電圧AV1にセットする。ステップS36では、第1制動力D2より第2制動力AD1が弱くならないようにするために、減衰された第2制動力TF2の電圧AV1が第1制動力TF1の電圧V2以下か否かを判断する。第2制動力TF2の電圧AV1が第1制動力TF1の電圧V2以下の場合はステップS40に移行して第1制動力TF1の電圧を出力する。
【0074】
一方、検出張力Fが参照張力Frを超えている場合は、ステップS27からステップS37に移行する。ステップS37では、フラグTFがオンしているか否か、つまり、補正制動処理がすでになされているか否かを判断する。補正制動処理が行われている場合はステップS38に移行してフラグTFをオフする。補正制動処理が行われていない場合はステップS38をスキップする。ステップS39では、タイマTNをリセットし、タイマTNを初期化する。これにより、タイマTNがリセットする前に検出張力Fが参照張力Frを超えた場合に、タイマTNがタイムアップしないようにして第2制動力による制動処理をキャンセルしている。
【0075】
ステップS40では、第1制動力TF1の出力処理を行いメインルーチンで戻る。第1制動力TF1による出力処理では、第2初期制動力V2Sを回転速度の二乗で減少させた電圧(V2=V2S(ω/ω2))を出力する。
【0076】
ここでは、検出張力Fが参照張力Frを超えていると、弱い第1制動力TF1を出力する。また、検出張力Fが参照張力Fr以下になると第1制動力TF1を基準として制動力を増加させた強い第2制動力TF2を出力する。したがって、釣りの条件に応じて制動力の強弱が自動的に制御される。このため、釣りの条件がある程度変化しても、制動力の強弱の設定をし直す必要がなくなる。
【0077】
上記のデジタル制御部55の出力処理により、第1初期制動力V1S、第1制動力TF1又は、第2制動力TF2に応じた電圧がデジタル制御部55から出力されると、アナログ制御部57が動作する。アナログ制御部57では、演算増幅器48がデジタル制御部55から出力された目標制動力となる電圧値と、コイル62から出力された電流の電圧値との差分に応じた出力信号を電流制御器47に出力し、アナログ制御部57が目標制動力となるようにコイルの出力電流を制御する。
【0078】
ここでは、デジタル制御で目標制動力となる電圧データを作成し、その電圧データをアナログ電圧で出力し、その出力値とコイル62のアナログの出力値とを比較し、差分に応じたデータによりコイル62の出力電流をアナログで制御している。このようなアナログ制御により、正確な目標制動力になるように出力電流を制御できる。このため、磁石61及びコイル62の寸法並びに取付位置のバラツキが生じ、コイル62の起電力にバラツキが生じても、目標制動力に対して安定した制動力をスプールに付与できるようになる。
【0079】
<他の実施形態>
(a)前記実施形態では、釣り糸に作用する張力をスプールの回転速度から算出したが、スプール軸にひずみゲージを装着する等などにより張力を直接検出してもよい。
【0080】
(b)前記実施形態では、第2制動処理で時間とともに徐々に減衰する第2制動力で制動したが、一定の第2制動力で所定時間制動するようにしてもよい。また、第2制動力を回転速度の二乗に応じて減衰させてもよい。
【0081】
(c)前記実施形態では、一定の制動力で制動する第1制動処理と変化する制動力で制動する第2制動処理とで制動しているが、本発明はこれに限定されず、第2制動処理だけでスプールを制動してもよい。
【0082】
(d)前記実施形態において、複数の第1制動力に応じた複数の参照張力を設定できるようにしてもよい。
【0083】
(e)前記実施形態では、デジタル制御部55のマイクロコンピュータがDA出力ポート55aを有していたが、マイクロコンピュータがDA出力ポートを有していなくても良い。この場合、デジタル制御部から出力されたデジタルの目標制動力をパルス幅変調(PWM)出力し、ローパスフィルタ(LPF)を用いてアナログ電圧に変換し、演算増幅器又は電流制御器に与えても良い。
【0084】
(f)前記実施形態では、演算増幅器48をアナログ制御部57に設けたが、演算増幅器を受けなくても良い。たとえば、デジタル制御部のマイクロコンピュータがAD(アナログ/デジタル)入力ポートを有している場合、演算増幅器の機能をマイクロコンピュータ内でソフトウェアにより実現しても良い。
【0085】
(g)前記実施形態では、マイクロコンピュータを有するデジタル制御部55により目標制動力を求めたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、スプールの回転速度と回転速度の変化量に応じて、目標制動力となる所定の電圧を発生するデジタル又はアナログの回路を用いても良い。
【0086】
<特徴>
(A)スプール制動機構25は、両軸受リールのリール本体1に回転自在に装着され釣り糸を巻付可能なスプール12を電気的に制動するものである。スプール制動機構25は、スプール制動ユニット40と、張力検出部82と、スプール制御ユニット42と、を備えている。スプール制動ユニット40は、スプール12に連動して回転する磁石61と、磁石61に対向して配置され磁石の回転に応じた電流を発生するコイル62と、を有する。張力検出部82は、釣り糸に作用する張力を検出する。スプール制御ユニット42は、張力検出部82が検出した張力に応じてコイル62に流れる電流をアナログで制御してスプール制動ユニット40を制御する。
【0087】
このスプール制動機構25では、スプール制動ユニット40のコイル62の出力電流が検出された張力Fに応じてアナログ制御される。アナログ制御では、正確な目標制動力になるように出力電流を制御できる。このため、磁石及びコイルの寸法並びに取付位置のバラツキが生じ、コイル62の起電力にバラツキが生じても、安定した制動力をスプールに付与できるようになる。
【0088】
(B)スプール制動機構25は、スプール12の回転速度を検出する回転数検出器41をさらに備えている。張力検出部82は、回転数検出器41で検出された回転速度の変化率に基づいてスプール12を回転させるトルクを検出するトルク検出部82aを有し、算出されたトルクから張力を検出する。この場合には、回転速度の変化により張力を検出できるので、回転速度と張力の両方の検出を一つの検出部で行える。
【0089】
(C)スプール制動機構25おいて、スプール制御ユニット42は、目標制動力出力部80と、電流検出器46と、演算増幅器48と、電流制御器47と、を有している。目標制動力出力部80は、回転数検出器41が検出した回転速度と、張力検出部82で検出された張力Fとに応じて所望の目標制動力TFを算出し、目標制動力TFに応じたアナログの目標電圧を出力する。電流検出器46は、コイル62から出力される電流を検出してアナログの検出電圧に変換する。演算増幅器48は、目標電圧と検出された検出電圧との電位差に応じた差分データを出力する。電流制御器47は、出力された差分データにより、コイルから出力される電圧が目標電圧となるようにコイルから出力される電流を制御する。
【0090】
この場合には、アナログの目標電圧とコイル62から出力されるアナログの電圧との差分データによりコイルから出力される電圧が目標電圧になるように電流制御される。このように電流制御を電圧の差分データにより行うことで、制動力を安定させることができる。
【0091】
(D)スプール制動機構25において、目標制動力出力部80は、スプール12の回転開始からの時間に応じて変化する参照張力Frを設定する張力設定部83と、第1制動力TF1を制定する第1制動力設定部84と、第1制動力TF1を基準として制動力を増加させた第2制動力TF2を設定する第2制動力設定部85と、をさらに有する。目標制動力出力部80は、制動開始時は、第1制動力TF1を目標制動力とし、その後、張力検出部82で検出された張力Fが参照張力Fr以下になると、第2制動力TF2を目標制動力として目標電圧を出力する。
【0092】
この場合には、検出張力Fが参照張力Frを超えていると、弱い第1制動力TF1で制動し、検出張力Fが参照張力Fr以下になると第1制動力TF1を基準として制動力を増加させた強い第2制動力TF2でスプールを制動する。したがって、釣りの条件に応じて制動力の強弱が自動的に制御される。このため、釣りの条件がある程度変化しても、制動力の強弱の設定をし直す必要がなくなる。
【符号の説明】
【0093】
1 リール本体
12 スプール
25 スプール制動機構
40 スプール制動ユニット
41 回転数検出器
42 スプール制御ユニット
46 電流検出器
47 電流制御器
48 演算増幅器
61 磁石
62 コイル
80 目標制動力出力部
82 張力検出部
82a トルク検出部
83 張力設定部
84 第1制動力設定部
85 第2制動力設定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
両軸受リールのリール本体に回転自在に装着され釣り糸を巻付可能なスプールを電気的に制動する両軸受リールのスプール制動装置であって、
前記スプールに連動して回転する磁石と、前記磁石に対向して配置され前記磁石の回転に応じた電流を発生するコイルと、を有するスプール制動部と、
前記釣り糸に作用する張力を検出する張力検出部と、
前記張力検出部が検出した前記張力に応じて前記コイルに流れる電流をアナログで制御して前記スプール制動部を制御するスプール制御部と、
を備える両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項2】
前記スプールの回転速度を検出する回転速度検出部をさらに備え、
前記張力検出部は、前記回転速度検出部で検出された前記回転速度の変化率に基づいて前記スプールを回転させるトルクを検出するトルク検出手段を有し、算出された前記トルクから前記張力を検出する、請求項1に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項3】
前記スプール制御部は、
前記回転速度検出部が検出した回転速度と、前記張力検出部で検出された張力とに応じて所望の目標制動力を算出し、前記目標制動力に応じたアナログの目標電圧を出力する目標制動力出力部と、
前記コイルから出力される電流を検出してアナログの検出電圧に変換する電流検出部と、
前記目標電圧と前記検出電圧との電位差に応じた差分データを出力する差分データ出力部と、
出力された前記差分データにより、前記コイルから出力される電圧が前記目標電圧となるように前記コイルから出力される電流を制御する電流制御部と、を有する、請求項2に記載の両軸受リールのスプール制動装置。
【請求項4】
前記目標制動力出力部は、
前記スプールの回転開始からの時間に応じて変化する参照張力を設定する張力設定部と、
第1制動力を設定する第1制動力設定部と、
前記第1制動力を基準として制動力を増加させた第2制動力を設定する第2制動力設定部と、をさらに有し、
制動開始時は、前記第1制動力を前記目標制動力とし、その後前記張力検出部で検出された前記張力が前記参照張力以下になると、前記第2制動力を前記目標制動力として前記目標電圧を出力する、請求項3に記載の両軸受リールのスプール制動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−34429(P2013−34429A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173026(P2011−173026)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】