説明

中性子遮蔽用コンクリート

【課題】普通骨材を用いたコンクリートと同程度の圧縮強度を示し、コンクリートの壁厚を厚くすること無く、優れた中性子遮蔽能を発揮することができ、従って、中性子遮蔽を必要とする施設建設時において広範囲に渡る空間設計を可能にしうる中性子遮蔽用コンクリートを提供すること。
【解決手段】本発明の中性子遮蔽用コンクリートは、セメント、水、粗骨材及び細骨材を含み、前記粗骨材としてかんらん岩採石を含み、前記細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ前記灰ホウ石の含有割合が、コンクリート全量基準で5〜20重量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、原子力施設、加速器施設、RI(放射性同位元素)研究施設、医療施設等における、放射線遮蔽、特に中性子遮蔽を必要とする施設に用いることができる、優れた中性子遮蔽能と強度とを兼ね備えた中性子遮蔽用コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設や医療施設における放射線の遮蔽では、施設内で使用する機器の性能向上と共に、従来軽視されてきた中性子の遮蔽が重要となっている。
そこで、このような中性子の遮蔽を改善するために、例えば、コンクリートの壁厚を厚くする方法、局所的に中性子遮蔽樹脂を使用する方法が提案されている。また、国際核融合実験炉ITER等において、中性子遮蔽のために、高価な炭化ホウ素(B4C)を混合したコンクリートが採用されている。
しかし、コンクリートの壁厚を厚くする方法では、該壁の占有領域が大きくなるので、施設の効率設計が困難である。一方、中性子遮蔽樹脂や炭化ホウ素を混合したコンクリートを用いる場合には、コスト的に問題があり、更には、中性子遮蔽材料の耐久性の点も不安がある。
【0003】
また、特許文献1には、コレマナイト(灰ホウ石)等の含ホウ素骨材と、鉱油等の油に該油を乳化する界面活性剤が混和された油混和剤とが、それぞれ所定の割合で混和されている中性子遮蔽コンクリートが提案されている。該コンクリートに用いられる灰ホウ石は、優れた中性子遮蔽能を有するが、コンクリート中に多く配合すると、得られるコンクリートの強度が発現しないという問題があり、所望の中性子遮蔽能と強度との両立に関しては課題がある。また、該中性子遮蔽コンクリートにおいては、特殊な鉱油を使用するため、現場における使用が困難であるという問題もある。
一方、非特許文献1には、粗骨材として灰ホウ石を用いたコンクリートブロックの圧縮強度試験が記載され、ある程度多く配合してもその強度が維持できることが報告されている。しかし、非特許文献2には、灰ホウ石を細骨剤として用いた場合、その配合割合を多くすると優れた圧縮強度が得られないことが記載されている。要するに、優れた中性子遮蔽能を付与するために、灰ホウ石をコンクリート全体に分散させるように細骨剤として用いた場合、所望の強度が得られていないのが実状であり、灰ホウ石を用いて、優れた中性子遮蔽能と強度とを両立したコンクリートの開発が望まれている。
【特許文献1】特開平6−1645号公報
【非特許文献1】Journal of Nuclear Materials 212−215 (1994), p1720−1723
【非特許文献2】Volkman, D. E. and Bussolini, P. L., Journal of Testing and Evaluation, JTEVA, Vol. 20, No.1, Jan. 1992, pp.92−96
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、普通骨材を用いたコンクリートと同程度の圧縮強度を示し、コンクリートの壁厚を厚くすること無く、優れた中性子遮蔽能を発揮することができ、従って、中性子遮蔽を必要とする施設建設時において広範囲に渡る空間設計を可能にしうる中性子遮蔽用コンクリートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、粗骨材としてかんらん岩採石を、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を用い、しかも前記灰ホウ石を、コンクリート全体量に対して特定割合で含有させることにより、上記課題が解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明によれば、セメント、水、粗骨材及び細骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートであって、粗骨材としてかんらん岩採石を含み、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ前記灰ホウ石の含有割合が、コンクリート全量基準で5〜20重量%であることを特徴とする中性子遮蔽用コンクリートが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の中性子遮蔽用コンクリートは、粗骨材としてかんらん岩採石を含み、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ前記灰ホウ石を特定割合で含有するので、普通骨材を用いたコンクリートと同程度の圧縮強度を示し、且つ優れた中性子遮蔽能を発揮することができる。例えば、被曝線量評価において重要なエネルギー領域の中性子を出す252Cf中性子源で評価した場合、同一壁厚の普通コンクリートに比べて、遮蔽対象となる中性子のエネルギーや、コンクリートの厚さによって性能差は異なるが、約1.5〜1.7倍の遮蔽能を発揮することができ、また2次ガンマ線生成量で、約1/2〜1/10より少ない性能を発揮させることが可能である。
従って、原子力施設、加速器施設、RI研究施設、医療施設等における、放射線遮蔽、特に中性子遮蔽を必要とする施設へ好適に採用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の中性子遮蔽用コンクリートは、セメント、水、特定の粗骨材及び特定の細骨材を含む。
前記セメントとしては、通常、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント等を用いることができる。
本発明の中性子遮蔽用コンクリートにおいて、セメントの使用量や、水/セメント比は、通常のコンクリート製造時の条件に基づいて、建設する施設に応じて適宜選択することができる。また、骨材量も同様に適宜選択することができる。
【0008】
本発明に用いるかんらん岩(Olivine rock)はその産地により、その成分組成が多少異なるが、通常、SiO2とMgOとを主成分とし、結晶水を約1〜2重量%含むものである。
本発明において、粗骨材として用いるかんらん岩砕石は、通常、25mm篩を通過しうる、最短径5mm程度の砕石である。粗骨材としては、かんらん岩砕石以外の他の通常の粗骨材等を含有させることも可能である。しかし、本発明の所望の優れた中性子遮蔽能をより向上させるためには、粗骨材中のかんらん岩砕石の含有割合が高いほど好ましい。
粗骨材の含有割合は適宜選択することができるが、コンクリート全量基準で、通常、40〜45重量%、好ましくは41〜42重量%である。
【0009】
本発明において、細骨材として用いるかんらん岩砕砂は、通常、10mmの篩を通過しうる大きさの粒径を有する砕砂であることがコンクリートへの分散性の点で好ましい。
該かんらん岩砕砂の配合割合は、所望の効果を勘案して適宜選択することができるが、コンクリート全量基準で、通常17〜36重量%、好ましくは17〜26重量%である。36重量%を超えると、所望の中性子遮蔽能が低下する恐れがあり、一方、17重量%未満では、所望の強度を確保することができない恐れがある。
【0010】
本発明において、細骨材として用いる灰ホウ石は、2CaO・3B2O3・5H2Oを主成分として、好ましくはB2O3を43.49重量%以上含む鉱物である。灰ホウ石は、通常、10mmの篩を通過する粒径、好ましくは5mmの篩を通過する粒径を有する、粒子であることが、所望の中性子遮蔽能及び強度を得るために好ましい。
該灰ホウ石の含有割合は、コンクリート全量基準で5〜20重量%、好ましくは10〜18重量%程度であり、更には、骨材全量基準において0.4〜22重量%の条件をも充足することが所望の効果をより改善しうる点で好ましい。コンクリート全量に対する灰ホウ石の含有割合が、5重量%未満では所望の中性子遮蔽能が得られず、一方、20重量%を超える場合には、所望の強度が得られない。
【0011】
本発明において前記細骨材としては、上記かんらん岩砕砂及び灰ホウ石以外の通常の細骨材を含有させることも可能である。しかし、本発明の所望の効果をより向上させるためには、他の細骨材の含有割合は低い方が好ましい。
本発明において細骨材の含有割合は、適宜選択することができるが、コンクリート全量基準で、通常、27〜36重量%、好ましくは28〜35重量%である。27重量%未満では、所望の中性子遮蔽能が低下する恐れがあり、一方、36重量%を超える場合には、所望の強度を確保することができない恐れがある。
【0012】
本発明の中性子遮蔽用コンクリートにおいて、優れた圧縮強度と中性子遮蔽能とを両立できる理由は、以下の作用によるものと考えられる。
一般に、放射線の中でも中性子と物質の相互作用は複雑で、中性子のエネルギーの違いによって相互作用が変化する。中性子のエネルギーは、0keV〜1keVの低速中性子、
1keV〜500keVの中速中性子及び500keV〜1MeVの高速中性子に分けられる。
中性子の相互作用には、大まかに弾性散乱と非弾性散乱とがあり、弾性散乱は、低速中性子及び中速中性子が引き起こすもので、水素のような軽い原子核との相互作用により中性子のエネルギーが減少する。特に、水素原子は中性子と同じ質量なので、効率よく中性子のエネルギーを減少させることができる。一方、非弾性散乱は、高速中性子に起こる現象で、鉄等との相互作用により中性子のエネルギーが減少する。
本発明に採用するかんらん岩は、水分を多く含むので、該水分における水素原子と中性子とが弾性散乱を起こし、低速及び中速中性子が減速される。また、岩石であるために鉄分も含まれており、該鉄により高速中性子の減速効果も得られる。
【0013】
本発明に採用する灰ほう石は、天然の岩石であり、平均40重量%以上のホウ素成分を含んでいる。該ホウ素は、低速中性子を吸収する特性を持っていることが従来から知られており、原子力発電所の原子炉制御棒にも用いられている材料である。
従って、本発明の中性子遮蔽用コンクリートにおいては、かんらん岩によって減速された中性子が灰ホウ石のホウ素に吸収されることで、効率良く中性子を遮蔽することができる。そして、このような効率的な中性子遮蔽能が得られるので、強度低下の原因となる細骨材としての灰ホウ石の含有割合を高くしなくても所望の中性子遮蔽能を達成でき、強度低下を最小限に抑えることができる。しかも、かんらん岩を粗骨材にも用いることでより強度低下が抑制できる。本発明においては、以上の作用により、所望の効果が達成できるものと考えられる。
【0014】
本発明の中性子遮蔽用コンクリートは、通常のコンクリートと同様な方法により製造することができるので、現場においても容易に施工することが可能である。この際、必要に応じて、コンクリートに通常使用される各種添加剤や混和剤等を適宜選択して用いることもできる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例に用いる材料は以下のとおりである。
粗骨材(A):25mm篩を通過する最短径5mmのかんらん岩採石
粗骨材(B):25mm篩を通過する川砂利(普通粗骨材)
細骨材(A):10mm篩を通過するかんらん岩の砕砂
細骨材(B):10mm篩を通過する灰ホウ石の砕石
細骨材(C):10mm篩を通過する川砂(普通細骨材)
セメント:普通ポルトランドセメント
混和剤:AE減水剤
【0016】
実施例1及び参考例1
表1に示す組成により、直径100mm、高さ200mmのコンクリート成型物を調製し、材齢7日、28日、56日及び91日における圧縮強度をJIS A 1108に従って測定した。結果を図1に示す。
図1より、実施例1に係るコンクリートは、普通骨材を用いた参考例1のコンクリートと同等の強度が得られることが判った。
【0017】
【表1】

【0018】
次に、実施例1における組成のコンクリートの中性子遮蔽性能を、参考例1における組成のコンクリートとシミュレーション計算により比較した。使用した計算コードは、米国ロスアモス国立研究所で開発された中性子挙動シミュレーションコードMCNPバージョン5である。使用した原子核データは、日本原子力研究開発機構で整備されたJENDL-3.3である。入力データには、実際に製造した実施例1のコンクリートの元素分析を行い、その分析結果をシミュレーション計算の入力データとした。これら計算コード及び原子核データは、共に世界中で広く用いられており、実験値を精度良く再現する計算コードとして多大な実績を有するものである。
シミュレーション計算は、一般の原子力施設で用いられる低速中性子から高速中性子までのエネルギー範囲を再現するため、252Cf中性子源(低速中性子から10MeV付近まで再現可能)に対する遮蔽性能と、核融合施設の遮蔽性能を再現するため、14MeV中性子源に対する遮蔽性能を計算した。それぞれの結果を図2及び図3に示す。
図2及び図3から、実施例1組成のコンクリートは、参考例1組成のコンクリートに対して、252Cf中性子源に対しては1.7倍以上、14MeV中性子源に対しては、1.5倍以上の遮蔽性能を有することが判る。
【0019】
実施例2〜4及び参考例2
表2に示す組成により、直径100mm、高さ200mmのコンクリート成型物を調製し、材齢7日、28日、56日及び91日における圧縮強度をJIS A 1108に従って測定した。結果を図4に示す。
図4より、実施例2及び3に係るコンクリートは、かんらん岩である粗骨材(A)及び細骨材(A)を用いない参考例2に係るコンクリートと同等の強度が得られ、実施例4に係るコンクリートも参考例2に係るコンクリートより若干低下する程度であった。
【0020】
【表2】

【0021】
次に、実施例2における組成のコンクリートの中性子遮蔽性能を、参考例2における組成のコンクリートとシミュレーション計算により実施例1及び参考例1と同様に比較した。252Cf中性子源(低速中性子から10MeV付近まで再現可能)に対する遮蔽性能の計算結果を図5に、14MeV中性子源に対する遮蔽性能の計算結果を図6に示す。
図5及び図6から、実施例2に係る組成のコンクリートは、骨材としてかんらん岩を用いていない参考例2に係る組成のコンクリートよりも遮蔽性能に優れることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1及び参考例1組成におけるコンクリートの材齢に対する圧縮強度変化を示すグラフである。
【図2】実施例1及び参考例1組成におけるコンクリートの252Cf中性子源に対する遮蔽性能の計算結果を示すグラフである。
【図3】実施例1及び参考例1組成におけるコンクリートの14MeV中性子源に対する遮蔽性能の計算結果を示すグラフである。
【図4】実施例2〜4及び参考例2組成におけるコンクリートの材齢に対する圧縮強度変化を示すグラフである。
【図5】実施例2及び参考例2組成におけるコンクリートの252Cf中性子源に対する遮蔽性能の計算結果を示すグラフである。
【図6】実施例2及び参考例2組成におけるコンクリートの14MeV中性子源に対する遮蔽性能の計算結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、粗骨材及び細骨材を含む中性子遮蔽用コンクリートであって、
粗骨材としてかんらん岩採石を含み、細骨材としてかんらん岩砕砂及び灰ホウ石を含み、且つ前記灰ホウ石の含有割合が、コンクリート全量基準で5〜20重量%であることを特徴とする中性子遮蔽用コンクリート。
【請求項2】
粗骨材の含有割合がコンクリート全量基準で41〜42重量%、細骨剤の含有割合がコンクリート全量基準で33〜36重量%であり、且つ細骨材としてのかんらん岩砕砂の含有割合がコンクリート全量基準で17〜26重量%であることを特徴とする請求項1記載の中性子遮蔽用コンクリート。
【請求項3】
粗骨材としてのかんらん岩採石が、25mm篩を通過しうる、最短径5mmの採石であり、細骨材として用いるかんらん岩砕砂が、10mmの篩を通過しうる大きさの粒径を有し、且つ細骨材として用いる灰ホウ石が、10mmの篩を通過する粒径を有することを特徴とする請求項1又は2記載の中性子遮蔽用コンクリート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−39453(P2008−39453A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210671(P2006−210671)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】