説明

中性脂肪蓄積抑制剤

【課題】血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制する組成物、医薬組成物及び機能性食品を提供する。
【解決手段】リコピンを中性脂肪蓄積抑制剤の有効成分として含有させる。また、リコピンを血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制するための医薬、飲食品に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積抑制剤、並びに高脂血症や脂肪肝を予防・治療するための医薬組成物及び機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、過食や運動不足、食生活の欧米化に伴い、血中や肝臓中における脂質の量が正常範囲を超えて増加した状態、いわゆる高脂血症や脂肪肝などが問題となっている。
【0003】
血中の脂質が高値を示す高脂血症は、蓄積する脂質の違いにより分類がなされている。例えば、日本動脈硬化学会による高脂血症治療ガイド(2004年)によると高コレステロール血症と高トリグリセリド血症は明確に分類されている(表1)。
【0004】
【表1】

【0005】
さらに、WHOは、高脂血症を6つのタイプに分類し、これらの分類に基づいて治療方針を決定するのが実用的であるとしている(表2)。
【0006】
【表2】

【0007】
その分類によると、高脂血症には、コレステロール値のみが増加するもの、中性脂肪値のみが増加するもの、両者が増加するものがあるが、I型、IV型、V型は、コレステロール値に顕著な変化はなく、中性脂肪値のみが高値を示す。このうち、I〜III型及びV型は、主に遺伝的な要因によって生じると考えられており、IV型は、主に暴飲暴食、動物性脂肪の摂取過多などの食生活の乱れによって生じると考えられている。
【0008】
血中のコレステロール値が上昇すると、血管の内皮細胞をLDLが透過しやすくなり血管瘤をつくり、動脈硬化を引き起こす。さらに血流により血管が破損し、血小板凝集により血栓ができやすくなり、心筋梗塞の原因となる。また、酸化されたLDLコレステロールが多いと、内皮細胞で作られる血管を拡張させる一酸化窒素の合成が減り、血管の強い収縮が起こって、血流が遮断されやすくなる。これが冠動脈の攣縮(れんしゅく)性狭心症の原因や、運動時の狭心症発作の引き金になる。
一方、血中の中性脂肪値が上昇すると、HDLコレステロールが減少し、LDLの粒子が小さくなって、血管壁にコレステロールがたまりやすい環境になる。さらに凝固因子などの量が増大し、血栓ができやすくなり、しかもできた血栓を溶かすプラスミンという物質の合成を抑えるため、血栓が溶けにくくなる。このため、心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなり、重症となる可能性がある。
以上のように、血中のコレステロール値の上昇も中性脂肪値の上昇も、共に動脈硬化や心筋梗塞のリスク増加に関与しているが、これらのリスク増加のメカニズムには異なる部分もある。
【0009】
日本人に発症例が多い高脂血症は、コレステロール値が高いIIa型、コレステロール値と中性脂肪値が共に高いIIb型、中性脂肪が高いIV型である。高コレステロール血症を治療するための医薬は、さまざま製品化され、数千億円以上の市場となっている。また、食品においても特定保健用食品を始め、コレステロールを含有しない食品など、高コレステロール血症の予防などに有効である旨を示したものも存在する。
しかしながら、上述したようにさまざまなタイプの高脂血症を予防・治療するためには、血中のコレステロール値を低下させるだけでは十分でなく、必要に応じて、血中の中性脂肪値を低下させなければならない。
【0010】
さらに、膵炎と糖尿病などの疾病は、血中の中性脂肪値の増大が大きく関係すると考えられる。
膵炎は、一定量以上のアルコールを毎日習慣的に飲み続ける人に発症しやすく、膵炎患者の約80%は30〜50代の男性であるとされている。膵炎はアルコールの多量摂取に、他の食生活の要因が加わって発症すると考えられ、中性脂肪の増加との関連性が指摘されている。また、動物実験でも中性脂肪の増加が、膵炎を引き起こすことが報告されている。例えば、イヌによる動物実験で中性脂肪を添加した膵臓還流を行ったところ膵炎を来たしたことが報告されている(Saharia P. et al., Surgery 82, 60-67 (1977))。また、中性脂肪に由来する遊離脂肪酸が膵炎の原因になっているとの報告がある(Morita Y. et al., Pancreas 17, 383-389 (1998))。
膵炎は、長期間にわたり炎症が繰り返し起こり、膵臓の正常な細胞が徐々に破壊されていくため、炎症が続く間に繊維化や石灰化が起こり元には戻らない。さらに、膵臓の組織が破壊されるに従って、内分泌・外分泌機能が少しずつ低下し消化不良を起こしたり、糖尿病を招くなど、全身に重大な影響を及ぼす。現在、膵炎の有効な治療法はなく、禁酒や食事制限などにより症状を悪化させないことが重要視されている。
【0011】
一方、平成9年の糖尿病実態調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」の690万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」の680万人を合わせて、全国に糖尿病患者は約1,370万人いると推定されている。また、糖尿病患者の90%以上が、インスリン抵抗性が原因であるII型糖尿病であるとされている。血中の中性脂肪とインスリン抵抗性は、有意に相関を示すとの報告がなされている(池渕ほか、日本臨床代謝学会、1993)。さらに著しい高トリグリセリド(中性脂肪)血症で、血糖が糖尿病型を示す患者で、中性脂肪の正常化とともに血糖の改善が認められた例、薬剤投与により中性脂肪をコントロールすると、有意にインスリン抵抗性の改善が認められた例が報告されている(Norioka M. et al., J. Athroscler Thromb., 7(4), 198-202 (2000))。糖尿病に罹ることで、
糖尿病神経障害(手足のしびれ、痛みに気づかない、筋の萎縮や低下、胃腸の不調、発汗異常など)、糖尿病網膜症(視力の低下や失明)、糖尿病腎症(腎障害、人工透析)を発症しやすくなる。
【0012】
以上のように、血中の中性脂肪値の増大は、さまざまな重大な疾病を引き起こす可能性が高い。これらの疾病は、発症してからは治療が困難であるため、血中の中性脂肪の蓄積を抑制することにより、疾病を予防する手段が強く求められている。
【0013】
一方、脂肪肝は、肝臓中の中性脂肪含量が増加する疾病である。脂肪肝は、脂肪性肝硬変に発展したり、急性肝炎を引き起こす恐れがある。
【0014】
血中や肝臓の中性脂肪値を低下させる手段としては、例えば、高中性脂肪血症の第一選択薬として、フィブラート系医薬品がある。しかしながら、この医薬には横紋筋融解症、肝機能障害、消化器症状、血球減少症、性欲低下、胆石等などの副作用が報告されている。
さらに、シッポゴケ科(Dicranaceae)植物の抽出物を有効成分とした中性脂肪蓄積抑制剤、痩身用皮膚外用剤、及び痩身用食品(特許文献1)、グアバ葉、ホップ、ラフマ葉、ギムネマ葉、サンシンから選ばれる1種又は2種以上の生薬若しくはそれらの抽出物を含有するリパーゼ阻害剤(特許文献2)、ヤーコン地上部の生薬若しくはその抽出物を含有するリパーゼ阻害剤(特許文献3)がある。これらの成分は脂肪細胞の分化を抑制したり、リパーゼを阻害したりする作用を有することが確認されていることから、中性脂肪の脂肪細胞への蓄積効果は一部期待されるものの、血中や肝臓の中性脂肪の蓄積を抑制する作用を有しているかは不明である。また、有効成分が特定されていないため、有効成分を有効量含む医薬や飲食品を安定的に製造するのは困難であるし、その安全性についても不明である。また、海草の抽出物及び薬草木の抽出物からなる血液の中性脂肪の増加を抑制する作用を有する飲料(特許文献4)が報告されている。しかしながら、これも、有効成分が特定されていないため、有効量や副作用が不明である。
【0015】
なお、肥満の治療薬としては、国内では食欲抑制剤のマジンドール(登録商標)が唯一承認されているが、口渇、便秘、胃部不快感、悪心・嘔吐等の副作用が報告されている(臨床評価、13(2)、419−459(1985)、臨床評価、13(2)、461−515(1985))。また、海外においては、リパーゼ阻害活性により腸管からの脂肪吸収の抑制作用を持つゼニカル(登録商標)が肥満改善薬として市販されているが、やはり脂肪便、排便数の増加、軟便、下痢、腹痛等の副作用が報告されている(The Lancet, 352, 167-172 (1998))。
【0016】
一方、リコピンは、急性毒性試験(Milani C., et al., Pharmacology, 4, 334-340 (1970))、亜急性及び慢性毒性試験(Zebinden G., et al., Z Lebensm Unters Forsch, 108, 113-134 (1958))において毒性が報告されておらず、さらには変異原性試験(Aizawa K., et al., Nippon Nogeikagaku Kaishi, 74, 679-681 (2000))においても変異原性が認められていないなど、安全性の高い成分である。
リコピンの作用については、さまざま報告されており、高コレステロール血症治療作用を有することも報告されている(特許文献5)。しかしながら、ここでは一定量のリコピンが血中コレステロール濃度を下げることが明らかにされているのみで、リコピンが血中や肝臓の中性脂肪濃度を下げる作用を有することは知られていない。また、リコピンが抗肥満剤として用いられることが報告されている(特許文献6)。しかしながら、ここでは、リコピンが脂肪細胞の分化を抑制することが明らかにされているのみで、血中や肝臓の中性脂肪濃度を下げる作用を有することは知られていない。
【0017】
【特許文献1】特開2005−60345号公報
【特許文献2】特開2001−226274号公報
【特許文献3】特開2001−299272号公報
【特許文献4】特開2006−36681号公報
【特許文献5】特開平9−2947号公報
【特許文献6】特開2003−95930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、血中や肝臓中の中性脂肪の蓄積を抑制することにより、高中性脂肪血症、さらにこの症状が一因となりうる膵炎や糖尿病、脂肪肝などの疾病を予防・治療するための血中及び肝臓の中性脂肪蓄積抑制剤並びにこれを含む医薬組成物や飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、血中及び肝臓中の中性脂肪値を低下させる作用を有し、かつ安全性が高い成分を探し求め、その効果について研究を重ねた結果、リコピンに血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制する作用があることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)リコピンを有効成分として含有する、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積抑制剤。
(2)(1)に記載の中性脂肪蓄積抑制剤を含有する、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するための医薬組成物。
(3)リコピンが1日当たり20〜2000mgの量で投与されることを特徴とする、(2)に記載の医薬組成物。
(4)(1)に記載の中性脂肪蓄積抑制剤を含有する、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積を抑制する効果を有する機能性食品。
(5)リコピンを40〜400mg%の濃度で含むことを特徴とする、(4)に記載の機能性食品。
【発明の効果】
【0021】
本発明のリコピンを有効成分として含有する血中及び肝臓の中性脂肪蓄積抑制剤を一定期間服用することにより、血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制することができる。また、本発明の中性脂肪蓄積抑制剤は、安全かつ簡便に使用することができ、医薬組成物、飲食品に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の血中及び肝臓の中性脂肪蓄積抑制剤(以下、単に中性脂肪蓄積抑制剤という。)は、リコピンを有効成分として含有することを特徴とする。リコピンを得る方法は特に制限されない。ここで、リコピンは例えばトマト100g中に3〜10mg(3mg%〜10mg%)程度含まれている。トマトからリコピンを分離精製する技術はすでに確立されているので、その方法を基にリコピンを得ることができる。また、リコピンの構造式は判っているので、化学合成により得たものを用いてもよい。
【0023】
リコピンを抽出する方法を以下に例示する。但し、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0024】
まず、トマトを凍結乾燥し、この乾燥粉末に蒸留水を加え、上清を取り除き残渣を得る。この残渣に有機溶媒(好ましくはヘキサン、アセトン、エタノール及びトルエン(体積比10:7:6:7)からなる混合液)を加え、残渣を取り除いた上清を抽出液として得る。この抽出液を濃縮乾固させることにより抽出物を得る。
【0025】
更にこの抽出物を有機溶媒(好ましくはヘキサン、アセトン、エタノール及びトルエン(体積比10:7:6:7)からなる混合液)に溶解した後、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーを使用して、クロマトグラフ分画することによりさらに分離・精製を行い、リコピンの分画物を得る。
【0026】
リコピンを得るための上記クロマトグラフ分画の例を以下に例示する。
抽出物に対して、ヘキサン、アセトン、エタノール、トルエンの混合溶媒(体積比10:7:6:7)を加えて溶解させる。次に40%水酸化カリウム/メタノール溶液を加えてけん化を行う。次に蒸留水を加えて分配後、上層の有機溶媒層を分取する。有機溶媒層を減圧濃縮し、ヘキサン、アセトン、エタノール、トルエンの混合溶媒(体積比10:7:6:7)を加えて溶解させる。HPLCで、C30カラム((株)ワイエムシィ製、YMCカロテノイドカラムS−5)を用い、移動相として、A液:メタノール、t−メチルブチルエーテル、水の混合溶媒(体積比75:15:10)、B液:メタノール、t−メチルブチルエーテル、水の混合溶媒(体積比8:90:2)を表1の条件で混合し、流速1ml/分で分取する。リコピンのリテンションタイムは、およそ30分である。分取後、有機溶媒を減圧濃縮し、リコピンを得る。
【0027】
【表3】

【0028】
他の方法としては、トマトを搾汁し、それを遠心分離して液状部を取り出し、その液状部を高圧下にホモジナイズ処理してこれに含まれるリコピンを凝集させてから遠心分離処理してリコピン分画物を得る方法が挙げられる。
【0029】
このようにして得たリコピンは、そのままで中性脂肪蓄積抑制剤とすることができるし、さらに他の任意成分を配合して中性脂肪蓄積抑制剤としてもよい。このような任意成分は、血中や肝臓中の中性脂肪値を低下させる作用や肥満を抑制する作用が期待され、かつ安全性が確認されているものを特に制限なく用いることができる。また、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、保存剤、矯味矯臭剤、希釈剤等を加えてもよい。
【0030】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤に任意成分を配合する場合のリコピンと任意成分の割合は、血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制するのに有効な量のリコピンが含まれる限り特に制限されず、剤形、使用形態、使用対象、使用方法などにより適宜調節することができる。通常は、成人1人、1日当たり、リコピン20〜2000mg、好ましくは40〜400mgを投与、摂取するのに適した含有量とするのがよい。
【0031】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤は、そのままで、又は通常医薬組成物に用いられる成分と組み合わせて製剤化することにより、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するための医薬組成物とすることができる。
本発明の医薬組成物に用いることができる任意成分は、安全性が確認されているものである限り特に制限されない。
本発明の医薬組成物の剤形は、特に制限されないが、一般に製剤上許容される1または2種類以上の担体、賦形剤、統合剤、防腐剤、安定剤、香味剤等と共に混合して、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、水薬、ドリンク剤等の内服剤形とすることが好ましい。このような製剤化は、医薬の製造に用いられる常法に従って行うことができる。
【0032】
また、本発明の医薬組成物における中性脂肪蓄積抑制剤の含有量は、有効量のリコピンを継続的に投与するのに好適な範囲であれば特に制限されない。すなわち、投与する対象の症状、年齢、性別、食生活などの生活習慣に応じて適当な投与量を選択し、医薬組成物を製造することができる。通常は、成人1人、1日当たり、リコピンを20〜2000mg、好ましくは40〜400mg継続的に投与するのに適した範囲となるように、本発明の中性脂肪蓄積抑制剤の含有量を調節するのがよい。このような含有量として通常は、医薬組成物全量に対してリコピンを20〜100質量%の割合とすることが挙げられる。
また、本発明の医薬組成物は、内服することにより投与することが好ましい。投与量は有効量のリコピンを投与できればよく、上記と同様に投与する対象に応じて適宜調節することができる。通常は、成人1人、1日当たり、リコピンを20〜2000mg、好ましくは40〜400mg投与することが好ましい。また、投与方法は特に制限されるものではないが、2週間以上の期間にわたって継続的に投与することが好ましい。
【0033】
本発明の中性脂肪蓄積抑制剤は、そのままで、又は飲食品に用いられる成分と組み合わせたり、飲食品に配合することにより、血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積を抑制するための機能性食品とすることができる。例えば、血中や肝臓中の中性脂肪値を低下させる作用や肥満を抑制する作用があるとされる天然成分などを適宜配合し、ドリンク剤や粉末、錠剤、カプセルなどのサプリメントに加工することができる。加工方法についても特に制限されず、サプリメントの製造などに用いられる常法に従って行うことができる。
また、本発明の中性脂肪蓄積抑制剤を配合する飲食品も、安全性が確認されているものであれば、特に制限されない。例えば、トマトを主成分とするトマトジュース、トマト搾汁液を濃縮した濃縮トマトを利用したトマトピューレ、トマトペースト、トマトソース、トマトケチャップ、又はトマトスープなどが挙げられる。また、トマト搾汁液を乾燥し、粉末状や固形状にしたものや、濃縮トマトを乾燥し、粉末状や固形状にした乾燥トマトなども上げられる。また、このようなトマトを主成分とする飲食品を製造する場合には、必ずしもトマトを搾汁する工程を経る必要はなく、トマトに充てん液を加え又は加えないで加熱殺菌した固形トマトを利用してもよい。
【0034】
また、トマトを主成分する飲食品以外にも、飲料類(例えば、ジュース、茶等)、菓子類(例えば、ゼリー、ウエハース、クッキー、キャンディー、タブレット、スナック菓子等)、調味液類(ケチャップ、ドレッシング、ソース等)等に本発明の中性脂肪蓄積抑制剤を配合して、本発明の機能性食品としてもよい。
【0035】
本発明の機能性食品としては、特にドリンク剤や粉末、錠剤、カプセルなどのサプリメントやジュースなどの飲料類の形態が好ましい。
【0036】
本発明の機能性食品における中性脂肪蓄積抑制剤の含有量も、有効量を安全かつ継続的に摂取するのに好適な範囲であり、飲食品の風味や味を損なわない範囲であれば特に制限されない。本発明の機能性食品に用いることができる他の成分は、安全性が確認されてい
る成分であれば特に制限されず、上述したように摂取する対象に応じて適宜調節することができる。通常は、成人1人、1日当たり、リコピンを20〜2000mg、好ましくは40〜400mg摂取するのに適した範囲の含有量とするのがよい。例えば、サプリメントやジュースの形態とする場合には、血中及び肝臓への中性脂肪蓄積を抑制するのに有効な量のリコピンを、1日当たり1回〜数回で摂取できるように、濃度を調節することが好ましい。このような濃度として、例えば、飲食品100g当たり40〜400mg(40〜400mg%)のリコピンを含有させることが好ましく挙げられる。なお、トマトを主成分とした飲食品に中性脂肪蓄積抑制剤を配合する場合には、トマト中のリコピン量と合わせて上記リコピン濃度となるように、中性脂肪蓄積抑制剤の含有量を調節することができる。
また、中性脂肪蓄積抑制剤を飲食品に配合する方法も特に制限されず、常法に従って行うことができる。
【0037】
また、本発明の中性脂肪蓄積抑制剤を含有する機能性食品は、当該飲食品の包装部分や説明書等の添付文書等に血中及び肝臓中の中性脂肪値を低下させる効果がある旨、高脂血症、脂肪肝の予防・改善に効果がある旨を表示して提供することができる。
【実施例】
【0038】
<1>リコピンの調製
評価に使用したリコピンは、トマトオレオレジンより抽出、精製したものである。市販のトマトオレオレジン(LycoRed社製、6%リコピン含有)にジクロロメタン、メタノールを加え、さらに60%水酸化カリウムを加えた後にスターラーで攪拌しながら、50℃、1時間のけん化反応を行った。その後、吸引ろ過により残渣と濾液に分離し、残渣を水及びメタノールで洗浄した。
残渣は、ジクロロメタン/メタノール混合液(ジクロロメタン:メタノール=1:2)で再結晶を行い、乾燥させて精製リコピンとした。
なお、本試験に用いたリコピンは、吸光度法による純度検定で純度が90%以上であり、HPLC法より他のカロテノイドが混在していないことを確認した。
【0039】
<2>中性脂肪蓄積抑制剤の投与試験
(1)マウスの飼育
5週齢のICR雄性マウス(日本チャールズ・リバー株式会社より入手)を用いた。7日間の予備飼育後、各群の平均体重がほぼ等しくなるように各群10匹ずつ群分けし、2週間の中性脂肪蓄積抑制剤の投与試験を行った。予備飼育、投与試験期間中の飼育とも、室温22〜26℃(設定値:24℃)、湿度40〜70%(設定値:50%)、明暗各12時間(照明:午前6時から午後6時)に維持された飼育室でマウスの飼育を行った。飼育は同一試験群のマウスを5匹ずつ、1つのマウスケージに入れて行った。
予備飼育期間中(7日間)は、固形飼料(CE−2、日本クレア株式会社製)を自由摂取させた。投与試験期間中(2週間)は、通常飼料摂取の対照群(NT群)にはCE−2を、対照群(Cont群)にはCE−2にコレステロール(和光純薬工業株式会社製)を1%混ぜたものを、リコピン1群(Lyco1群)には、CE−2にコレステロールを1%まぜ、さらに精製したリコピンを1.8mg%の濃度で混ぜたものを、リコピン2群(Lyco2群)には、CE−2にコレステロールを1%まぜ、さらに精製したリコピンを180mg%の濃度で混ぜたものを自由摂取させた。飼育期間中、飼料は、ガラス製給餌器を用いて24時間自由摂取させた。また、飲料水は水道水を給水ビンを用いて自由摂取させた。
試験期間中は、経時的に体重、飼料摂食量、摂水量を測定した。
【0040】
(2)血中及び肝臓中の中性脂肪値の分析
試験終了後、腹部大動脈より採血を行い、その後肝臓の摘出を行った。血中の中性脂肪
濃度、肝臓中のリコピン濃度及び中性脂肪濃度を以下の方法により測定した。
【0041】
肝臓中のリコピン濃度分析は、HPLC法を用いて行った。すなわち、解凍した肝臓の一部を切り取り、60%KOHとエタノール(3%BHT含有)を添加し、ホモジェナイズした後、50℃、30分のけん化処理を行った。その後、ヘキサン/ジクロロメタン混合液(ヘキサン:ジクロロメタン=4:1)で2回抽出を行い、減圧下濃縮し、HPLCに付してリコピン濃度を測定した。
HPLCの条件を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
血中の中性脂肪濃度は、市販の臨床検査キット(トリグリセライドE−テストワコー、和光純薬工業株式会社製)を用いて測定した。
肝臓中の中性脂肪質量は、解凍した肝臓の一部を切り取り、生理食塩水を加えホモジェナイズした後に、同様に臨床検査キットを用いて測定した。このようにして求めた中性脂肪質量を、予め測定しておいた肝臓質量で除すことにより、肝臓中の中性脂肪濃度を求めた。
【0044】
(3)試験結果
各群の1日あたりの飼料摂食量とそれより概算したリコピン摂取量及び摂水量を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
2週間の飼育期間後の体重増加量、肝臓中のリコピン濃度、血中の中性脂肪濃度、肝臓中の中性脂肪濃度を表6に示す。
【0047】
【表6】

【0048】
以上の結果のように、マウスにリコピンを32.3mg/kg体重〜346.3mg/kg体重の割合で摂取させることで血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積が抑制された。
なお、各群での体重増加量、飼料摂食量、摂水量には有意な差は確認されなかったことから、血中及び肝臓への中性脂肪の蓄積抑制は、飼料摂食量や摂水量の違いによるものではないと考えられる。
Jainらの報告(Nutr. Res., 19(9), 1383 (1999))によると体重362gのラットにリコピンを1日142μg摂取させると、血中のリコピン濃度は19.55ng/mlとなる。ラットはもともと血中にリコピンを持たないので、1日に392μg/kg体重の割合でリコピンを投与すると血中のリコピン濃度が20ng/ml上昇すると考えられる。
また、Johnsonらの報告(Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 218(2), 155(1998))によると、ヒトがリコピンを1日に3.3mg摂取すると、血中のリコピン濃度はおよそ180ng/mlから280ng/mlへと上昇する。ヒトの体重を60kgと想定した場合、1日に55μg/kg体重の割合でリコピンを投与することにより、血中のリコピン濃度が約100ng/ml上昇すると考えられる。
これらの例からは、ヒトにおけるリコピンの吸収率は、マウスのリコピンの吸収率の約
50倍であると考えられる。また、一般的には、ヒトの方が10倍から100倍リコピンの吸収力に優れるといわれている。
これらのことを考慮して、本試験結果の考察を行うと、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するためには、成人1人、1日当たり、リコピンを20〜2000mg、好ましくは40〜400mg、2週間以上の期間にわたって投与することが好ましいと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リコピンを有効成分として含有する、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の中性脂肪蓄積抑制剤を含有する、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するための医薬組成物。
【請求項3】
リコピンが1日当たり20〜2000mgの量で投与されることを特徴とする、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の中性脂肪蓄積抑制剤を含有する、血中及び肝臓の中性脂肪蓄積を抑制する効果を有する機能性食品。
【請求項5】
リコピンを40〜400mg%の濃度で含むことを特徴とする、請求項4に記載の機能性食品。

【公開番号】特開2007−269631(P2007−269631A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93437(P2006−93437)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000104113)カゴメ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】