説明

中枢機能改善剤

【課題】 摂食抑制作用及び学習促進作用に優れた中枢機能改善剤を提供すること。
【解決手段】 Arg−Ile−Tyrで示される生理活性ペプチドを含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Arg−Ile−Tyrで示される生理活性ペプチドを含有する中枢機能改善剤に関し、さらには摂食抑制作用及び学習促進作用を有する中枢機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の進展とともに生活習慣病の増大が問題となっており、これには、中高年期以降の肥満が基礎となり、高血圧、糖尿病、動脈硬化を引き起こすことが考えられている。この原因として、過剰な食物摂取によるカロリーの増大に対し、運動不足による消費エネルギーが減少しており、カロリー調節のバランスが崩れているために肥満を引き起こしていると考えられている。
【0003】
また、一方では高齢化に伴う痴呆症も大きな社会問題となっており、これを治療、あるいは予防する物質の開発が望まれている。
【0004】
かかる痴呆症に関しては、ほうれん草由来のペプチド(Try−Pro−Leu−Asp−Leu−Phe)に学習促進作用があることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】Peptides,vol24,325−328(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の文献記載のペプチドは、学習促進作用は認められるが、摂食抑制作用についてはその作用を有しないものである。
すなわち、今後の高齢化社会を見据えた中枢機能を改善し、摂食抑制作用や学習機能促進作用を併せもつようなマルチファンクションのペプチドが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は、かかる課題を解決すべくペプチドに関して種々検討した結果、Arg−Ile−Tyrで示される生理活性ペプチドが摂食抑制作用と学習促進作用を併せ持つ中枢改善機能を有することを見出し本発明を完成するに至った。
なお、本発明者は、なたね由来のArg−Ile−Tyrで示される生理活性ペプチドについて既に出願している(特開2004−51636号公報)。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規ペプチドは、摂食抑制作用を有し、かつ学習機能促進作用をも示すペプチドである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の中枢機能機能を有するペプチドはArg−Ile−Tyrの配列で示されるもので、ここでいうArgはアルギニン、Ileはイソロイシン、Tyrはチロシンを意味しかかるアミノ酸はいずれもL−体である。
【0009】
上記のペプチドは、下記のようなペプチド合成法で製造することができる。
かかるペプチドの合成は液相法または固相法で行われ、いずれの場合でもペプチド結合の任意の位置で二分される2種のフラグメントの一方に相当する反応性カルボキシル基を有する原料と、他方のフラグメントに相当する反応性アミノ基を有する原料とを2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)等の活性エステルを用いた方法またはカルボジイミドを用いた方法等で縮合させる。
【0010】
この縮合において反応に関与すべきでない官能基は、保護基により保護される。アミノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル(Bz)、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、p−ビフェニルイソプロピロオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)等が挙げられる。カルボキシル基の保護基としては例えばアルキルエステル、ベンジルエステル等を形成し得る基が挙げられるが固相法の場合は、C末端のカルボキシル基はクロロトリチル樹脂、クロルメチル樹脂、オキシメチル樹脂、P−アルコキシベンジルアルコール樹脂等の担体に結合している。
【0011】
縮合反応終了後、保護基は除去されるが、固相法の場合はさらにペプチドのC末端と樹脂との結合を切断し、通常の方法に従い精製される。かかる精製については例えば逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の方法が挙げられる。
合成したペプチドの分析は、エドマン分解法でC−末端からアミノ酸配列を読み取るプロティンシークエンサー、LC−MS等の方法で行われる。
【0012】
本発明の中枢機能改善剤は、上記のペプチドを含有するもので、かかる中枢機能改善剤の投与経路としては、経口投与、血管内投与、直腸内投与のいずれでもよいが、経口投与が好ましい。かかる中枢機能改善剤の人に対する投与量は、投与方法、患者の症状・年令等により一概に言えないが、通常は1回0.1〜1000mg、好ましくは1〜100mgを1日当たり1〜3回とすることが好ましい。
かかる中枢機能改善剤は、通常製剤の形で投与される。製剤に用いられる担体や助剤としては、製剤分野において常用され、かつかかるペプチドと反応しない物質が用いられる。
【0013】
具体的には、例えば乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、庶糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン界面活性剤、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0014】
剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、中枢機能改善剤を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0015】
これらの製剤は、目的のペプチドを0.01重量%以上、さらには0.5〜70重量%の割合で含有することが好ましい。これらの製剤はまた、治療上価値のある他の成分を含有していてもよい。
【実施例】
【0016】
次に実例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、試験群はコントロール群に対して有意水準1%で有意な場合はP<0.01、有意水準5%で有意な場合はP<0.05と表記した。
【0017】
実施例1
【0018】
〔ペプチドの合成〕
市販のFmoc−Tyr(tBu)樹脂(置換率0.5meq/g)0.6gをPS3型ペプチド合成機(Protein Technologies社製)の反応槽に分取し、以下のように新規ペプチドの合成を行った。
まず、上記の樹脂を反応容器に入れて、1mmolのFmoc−Ileと、活性化剤として1mmolのHBTUを10mlの0.4M N−メチルモルフォリンを含むジメチルフォルムアミドに溶解したものを反応槽に加え、室温にて20分撹拌反応させた。一旦樹脂をジメチルフォルムアミドで洗浄した後、上記と同様にFmoc−Ile及びHBTUを使用し反応した。
得られた樹脂を20容量%ピペリジンを含むジメチルフォルムアミド20ml中で、Fmoc基を除去し、ついで上記のFmoc−Ileをカップリングさせた方法と同様にC末端から順次Fmoc−アミノ酸をカップルさせて、Arg−Ile−Tyr(tBu)樹脂を得た。該樹脂を10mlの脱保護液(82容量%トリフルオロ酢酸、5容量%チオアニソール、3容量%エタンジチオール、2容量%エチルメチルスルフィド、3容量%フェノール、5容量%水の混合液)中で室温にて4時間撹拌し、ペプチドを樹脂から遊離させた。
【0019】
ここに40mlの冷エーテルを添加し、ペプチドを沈殿させ、さらに冷エーテルにて3回洗浄して粗ペプチドを得た。これをODSカラム(Cosmosil 5C18−ARII、20×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1重量%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開、精製し、Arg−Ile−Tyrの配列を有するペプチドを得た。なお、本品をプロテインシーケンサー(アプライド バイオシステムズ社製「492型」)により分析して、上記の配列であることを確認した。
【0020】
上記で得られたペプチドを用いて、Arg−Ile−Tyrの摂食抑制作用に関して以下に示す方法で試験した。
(試験化合物の調製および投与)
ddYマウス(雄、7週齢、日本エスエルシー株式会社)を一定の条件下(22℃、明暗サイクル12時間)に維持したケージ内で個別に飼育し、飼料と水を自由摂取させた。マウスは、試験24時間前より絶食させて試験に使用した。Arg−Ile−Tyrは生理食塩水に溶解して経口投与し、コントロールには生理食塩水のみを投与した。
【0021】
(摂食量の測定)
マウスにArg−Ile−Tyr(30、50mg/kg)を経口投与し、経口投与前および投与後、20、60、120および180分に飼料重量を測定し、摂取量を算出した。
【0022】
(統計学的解析)
結果を平均±標準誤差で示した。ボンフェローニt−検定による分散分析(ANOVA)を用いて各群の間の差を調べた。(0.05未満のP値を有意とした。)
【0023】
図1に示されるように、Arg−Ile−Tyr投与群では、コントロール群と比較して摂取量が抑制され、Arg−Ile−Tyrの摂食抑制作用が示された。
【0024】
(学習促進作用)
学習能に対する効果を、ステップスルー装置を用いた受動的回避実験により検討した。ddyマウス(オス、体重24±2g)を明暗2室に分かれた装置の明室に入れると、マウスは暗いところを好むことから暗室に入る。暗室に入ると床から電気ショック(28−29V、5sec duration)を与えて暗室が危険なことを教育する(訓練試行)。訓練試行直後にArg−Ile−Tyrを10または30nmol/マウスの容量で側脳質内投与し、24時間後にテスト試行を行った。即ちマウスを再び同じ装置に入れ、明暗に止まっている時間を測定することにより、ペプチドの有無におけるマウスの学習能を比較した。
【0025】
図2に示したとおり、Arg−Ile−Tyrを投与することにより、明室内滞在時間は延長され、ペプチドを投与することによりマウスの学習能が増強されていることが示された。なお、図2においてn=12であり、600秒を本実験におけるカットオフ値とした。マン アンド ホイットニー(Mann and Whitney)法によりU検定を行ったところ、Arg−Ile−Tyrを10nmol投与した群において、コントロール群と比較して5%の危険率で有意差が認められた(P<0.05)。また、30nmol投与では有意差はないものの同様の傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の中枢機能改善剤は、摂食抑制作用及び学習促進作用に優れており、摂食抑制剤及び学習促進剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】各投与後の経時における摂食量を示すグラフ
【図2】各濃度でArg−Ile−Tyrを脳室内投与した際の明室内滞在時間を示す グラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Arg−Ile−Tyrで示される生理活性ペプチドを含有することを特徴とする中枢機能改善剤。
【請求項2】
摂食抑制剤に用いることを特徴とする請求項1記載の中枢機能改善剤。
【請求項3】
学習促進剤に用いることを特徴とする請求項1記載の中枢機能改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−8572(P2006−8572A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187120(P2004−187120)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【出願人】(500333132)日本サプリメント株式会社 (9)
【Fターム(参考)】