説明

中枢神経系の癌を含む癌の処置のための系および方法

【課題】癌治療に対する新規のアプローチを提供すること。
【解決手段】本発明は、癌の処置に関し、特に、中枢神経系の癌(例えば、多形性神経膠芽細胞腫)の処置に関する。二重治療アプローチが提供され、これは、樹状細胞ベースの癌ワクチンと化学療法レジメンとの投与を包含する。この2つの治療は、互いに同時に、かつ/または化学療法の前の初回ワクチン接種と同時に、投与され得る。種々の実施形態において、上記樹状細胞ベースの癌ワクチンは、刺激された樹状細胞または刺激されていない樹状細胞のいずれかを含む。例えば、上記樹状細胞は、自系腫瘍抗原が提示された樹状細胞である。本発明の二重治療アプローチは、癌を有する哺乳動物の化学感受性に有益に影響を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、癌の処置に関し、特定の実施形態においては、中枢神経系(「CNS」)の癌(例えば、脳において見出される癌)に関する。
【背景技術】
【0002】
(2.関連技術の説明)
悪性脳腫瘍は、最も重篤な形態の癌の1つである。これらの治癒不可能な腫瘍のうち最も一般的な多形性神経膠芽細胞腫(「GBM」)は、全ての頭蓋内神経膠腫のうちの50%、および成人における頭蓋内腫瘍の25%の原因である。例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照のこと。GBMとの診断は、12ヶ月と18ヶ月との間の平均生存(90〜95%の患者が、2年未満しか生存しない)に繋がり、自発的な寛解の可能性も有効な処置の可能性もない。例えば、同書;および非特許文献3を参照のこと。GBMをこのような破滅的な疾患にせしめる、一貫して生存が短いことおよび自発的な寛解がないことはまた、この疾患に対する新規の治療法の評価を、比較的迅速かつ明確にする。腫瘍質量の減少(すなわち、外科的な減少)は、必ずしも生存の延長とは相関しないことに部分的に起因して、全体的な生存が、GBMに対する治療法が評価される基準を示す。例えば、非特許文献4;非特許文献5;および非特許文献6を参照のこと。
【0003】
不幸にも、従来の治療法は、非神経膠腫腫瘍の患者に有意な利益を与えるその能力にも関わらず、GBMの臨床結果を改善することにおいては著しく無効である。例えば、非特許文献3;非特許文献7;および非特許文献8を参照のこと。GBMに対して有効なわずかな処置でさえ、代表的には、大きな集団の研究かまたは本来有利な特定の(例えば、若い)患者の部分集団かのいずれかのみから明らかになる、生存における小さな増加を示すだけである。例えば、非特許文献9;および非特許文献10を参照のこと。このように、GBMに対する新規の治療法に対する必要性が、当該分野に存在する。
【0004】
癌ワクチンは、このようなGBMに対する治療法の1つを示す。例えば、非特許文献11;非特許文献12;および非特許文献13を参照のこと。しかしながら、任意のヒト腫瘍のに対する治療的ワクチン接種の臨床的有効性は、議論の余地があるままである。なぜなら、一貫した腫瘍の破壊または寿命の延長が、ワクチン接種されたほとんどの癌患者において観察されないからである。例えば、非特許文献14;非特許文献15;および非特許文献16を参照のこと。対照的に、最近の癌ワクチンは、ほとんどの患者において、腫瘍反応性の細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)を、実際に誘発する。例えば、非特許文献14;非特許文献15;および非特許文献17を参照のこと。癌ワクチンの一般的な臨床的失敗の根底にある理由は未知であるが、1つの可能性は、癌患者における抗腫瘍CTL殺傷の反応速度論が、インサイチュで急速に増殖し、変異していく腫瘍に付いていくのには、あまりに非効率的であり得ることである。この概念と一致して、自系腫瘍抗原で刺激したDCを有する治療用ワクチン接種が、GBM患者において、末梢血腫瘍反応性CTL活性およびCD8+ T細胞のインサイチュの腫瘍への浸潤を強化するのに十分であることが、既に報告されている。例えば、非特許文献13を参照のこと。それにもかかわらず、全体的な患者の生存における改善は、この初期研究において明らかではなかった。
【0005】
CTLは、その細胞標的において死を誘発するので、非効率的なCTL殺傷が、標的腫瘍細胞における死の経路を不完全に引き起こすか、またはCTL耐性の腫瘍改変体を選択するかのいずれかであり得ると予想することは、不合理ではない。第一の場合において、ワクチンにより誘発された腫瘍応答性CTLは、腫瘍の死の機構を「刺激する(priming)」ことにより、本質的に腫瘍を改変し得る。第二の場合において、このようなCTLは、腫瘍細胞の生理学および/または遺伝学を本質的に改変し得る。これらの可能性の両方が、理論的には、さらなる治療様式により開発され得る。このように、癌ワクチンの臨床的非効率は、ワクチン接種と他の治療法との間の相乗効果の試験を、特にこのような試験が癌治療に対する新規のアプローチを明らかにし得る程度まで、奨励する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L.M.DeAngelis「Medical progress: Brain tumors」N.Engl.J.Med.,344:114(2001)
【非特許文献2】F.G.Davisら「Prevalence estimates for primary brain tumors in the United States by behavior and major histology groups」Neuro−oncol.3:152(2001)
【非特許文献3】W.J.J.Curranら「Recursive partitioning analysis of prognostic factors in three Radiation Therapy Oncology Group malignant glioma trials」J.Natl.Cancer Inst.,85:690(1993)
【非特許文献4】F.W.Krethら「Surgical resection and radiation therapy versus biopsy and radiation therapy in the treatment of glioblastoma multiforme」J.Neurosurg.,78:762(1993)
【非特許文献5】M.R.Quigleyら「Value of surgical intervention in the treatment of glioma」Stereotact.Funct.Neurosurg,65:171(1995)
【非特許文献6】S.J.Hentschelら,「Current surgical management of glioblastoma」Cancer J.,9:113(2003)
【非特許文献7】J.F.Reavey−Cantwellら「The prognostic value of tumor markers in patients with glioblastoma multiforme:analysis of 32 patients and review of the literature」J.Neurooncol.,55:195(2001)
【非特許文献8】R.Stuppら「Recent developments in the management of malignant glioma」J.Clin.Oncol.,1091−9118:779(2001)
【非特許文献9】H.A.Fineら「Meta−analysis of radiation therapy with and without adjuvant chemotherapy for malignant gliomas in adults」Cancer,71:2585(1993)
【非特許文献10】S.Dieteら「Sex differences in length of survival with malignant astrocytoma, but not with glioblastoma」J.Neurooncol.,53:47(2001)
【非特許文献11】R.P.Glickら「Intracerebral versus subcutaneous immunization with allogeneic fibroblasts genetically engineered to secrete interleukin−2 in the treatment of central nervous system glioma and melanoma」Neurosurg.,41:898(1997)
【非特許文献12】L.M.Liauら「Treatment of intracranial gliomas with bone marrow−derived dendritic cells pulsed with tumor antigens」J.Neurosurg.,90:1115(1999)
【非特許文献13】J.S.Yuら「Vaccination of malignant glioma patients with peptide−pulsed DC elicits systemic cytotoxicity and intracranial T−cell infiltration」Cancer Res.,61:842(2001)
【非特許文献14】S.A.Rosenbergら「Immunologic and therapeutic evaluation of a synthetic peptide vaccine for the treatment of patients with metastatic melanoma」Nat.Med.,4:321(1998)
【非特許文献15】K.H.Leeら「Increased vaccine−specific T cell frequency after peptide based vaccination correlates with increased susceptibility to in vitro stimulation but does not lead to tumor regression」J.Immunol.,163:6292(1999)
【非特許文献16】L.Fongら「Altered peptide ligand vaccination with Flt3 ligand expanded DC for tumor immunotherapy」Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:8809(2001)
【非特許文献17】B.Bodeyら「Failure of cancer vaccines: the significant limitations of this approach to immunotherapy」Anticancer Res.,20:2665(2000)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な説明)
本発明は、癌、特にCNSの癌(例えば、GBMのような脳の癌)の新規の処置に関する。一実施形態において、本発明は、少なくとも1種のDCワクチン接種、および少なくとも1種の化学療法の過程またはレジメンを含む、癌の処置に対する二重治療的アプローチを包含する。この2種の治療法は、互いに同時に投与されてもよいし、そして/または化学療法に先立って最初にワクチン接種が投与されてもよい。
【0008】
本発明のこの二重治療的アプローチはさらに、化学療法の投与に先立って、そして/またはこれと同時に、哺乳動物にDCをワクチン接種することにより、癌(CNSの癌を含む)の哺乳動物の化学感受性に有利に影響するように実施され得る。
【0009】
本発明の種々の実施形態と組み合わせて使用されるDCは、自系腫瘍抗原が提示されたDCであってもよいし、またはそれらは「刺激されない」DCであってもよい。これらの細胞は、多くの方法論により、調製され得る。追加的に、さらなる治療的介入が、本発明の二重治療的アプローチと組み合わせて実施され得る。その処置は、例えば、腫瘍の外科的切除、放射線療法などである。
【0010】
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
哺乳動物における疾患状態を処置するための方法であって、該方法は、
該哺乳動物に対して少なくとも1回の樹状細胞(DC)ワクチン接種を投与する工程;および
該哺乳動物に対して化学療法レジメンを投与する工程;
を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記DCは、エキソビボで刺激される、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、前記DCは、自系腫瘍抗原が提示されたDCである、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、前記DCは、刺激されない、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、前記少なくとも1回のワクチン接種を投与する工程は、少なくとも3回のDCワクチン接種を投与する工程をさらに包含する、方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、前記少なくとも1回のDCワクチン接種の各々は、約10個〜約10個のDCを含む、方法。
(項目7)
項目1に記載の方法であって、前記少なくとも1回のDCワクチン接種の各々は、約10×10個〜約40×10個のDCを含む、方法。
(項目8)
項目1に記載の方法であって、前記少なくとも1回のDCワクチン接種を投与する工程は、前記哺乳動物に対して化学療法レジメンを投与する工程の前に行われる、方法。
(項目9)
項目1に記載の方法であって、前記化学療法レジメンは、テモゾロミド、プロカルバジン、カルボプラチン、ビンクリスチン、BCNU、CCNU、サリドマイド、イリノテカン、イソトレチノイン、イマチニブ、エトポシド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、少なくとも1種の化学療法剤の投与を包含する、方法。
(項目10)
項目1に記載の方法であって、前記疾患状態は、中枢神経系の癌である、方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、前記疾患状態は、多形性神経膠芽細胞腫である、方法。
(項目12)
哺乳動物の化学感受性を増加させる方法であって、該方法は、
少なくとも1回の樹状細胞(「DC」)ワクチン接種を提供する工程;および
該哺乳動物に対して該少なくとも1回のDCワクチン接種を投与する工程;
を包含する、方法。
(項目13)
項目12に記載の方法であって、前記DCは、エキソビボで刺激される、方法。
(項目14)
項目12に記載の方法であって、前記DCは、自系腫瘍抗原が提示されたDCである、方法。
(項目15)
項目12に記載の方法であって、前記DCは、刺激されない、方法。
(項目16)
項目12に記載の方法であって、前記少なくとも1回のワクチン接種を投与する工程は、少なくとも3回のDCワクチン接種を投与する工程をさらに包含する、方法。
(項目17)
項目12に記載の方法であって、前記少なくとも1回のDCワクチン接種の各々は、約10個〜約10個のDCを含む、方法。
(項目18)
項目12に記載の方法であって、前記少なくとも1回のDCワクチン接種の各々は、約10×10個〜約40×10個のDCを含む、方法。
(項目19)
項目12に記載の方法であって、前記哺乳動物の化学感受性は、中枢神経系の癌の化学療法処置に関して増加される、方法。
(項目20)
項目12に記載の方法であって、前記哺乳動物の化学感受性は、多形性神経膠芽細胞腫の化学療法処置に関して増加される、方法。
(項目21)
疾患状態の処置における使用のためのキットであって、該キットは、
一定量の樹状細胞(「DC」);
一定量の少なくとも1種の化学療法剤;および
該疾患状態の処置において該一定量のDCと該一定量の少なくとも1種の化学療法剤とを使用するための指示書;
とを備える、キット。
(項目22)
項目21に記載のキットであって、前記疾患状態は、中枢神経系の癌である、キット。
(項目23)
項目21に記載のキットであって、前記疾患状態は、多形性神経膠芽細胞腫である、キット。
(項目24)
項目21に記載のキットであって、一定量のDCをエキソビボで刺激する際に使用するための少なくとも1種の成分をさらに備える、キット。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1は、本発明の実施形態に従う腫瘍進行を示す。図1Aは、GBM患者の各群に対してモニターされた腫瘍進行(再発)の間隔を図示する。進行時間を、ワクチン接種または化学療法の間の間隔にわたって、そして実質的にはその後もモニターした。
【図1B】図1Bは、ワクチン群、化学療法群およびワクチン+化学療法群における、腫瘍進行の時間を図示する。腫瘍の進行は、脳腫瘍の初期診断(全ての症例における新規のGBM)から最初の新しいスキャンの強調(scan enhancement)までの時間(その後の精密検査または組織学により立証された場合)、または診断から腫瘍の進行による死までの時間として定義された。表示されるように、平均の腫瘍進行までの時間+標準誤差が、特定の間隔にわたって各群に対して示される。有意性(p値)は、対応がある両側t検定(ワクチン+化学療法群における、ワクチン後の初期再発対その後の化学療法後の再発)または対応がない両側t検定(他の全ての比較)から導出された。初期再発時間は、3群全ての間で同一であった(P>0.6)。ワクチン群と化学療法群との間の、その後の再発時間における小さな差異は、実質的に有意ではなかった(P=0.07)。
【図2】図2は、本発明の実施形態に従う、ワクチン群、化学療法群およびワクチン+化学療法群における、全体的な生存を示す。全体的な生存は、脳腫瘍の初期診断(全ての症例における新規のGBM)から腫瘍進行による死までの時間として、定義された。打ち切り値(censored value)を含むKaplan−Meyer生存プロットが、白丸で各群に対して示される。破線:化学療法群;細い実線:ワクチン群;太い実線;ワクチン+化学療法群。ワクチン群の生存は、化学療法群の生存と同一であった(p=0.7、logランク)。ワクチン+化学療法群の生存は、他の2つの群両方の生存に対して有意に長く、(p=0.047、logランク)、かつ化学療法群のみにおける生存よりも長かった(p=0.02、logランク)。ワクチン群の生存は、より短くなる傾向があったが、ワクチン+化学療法群との生存と実質的に異なってはいなかった(p=0.05、logランク)。
【図3】図3は、本発明の実施形態に従う、ワクチン化学療法後の腫瘍の退縮を示す。診断後の相対的な日数が、個々のMRIスキャンの下に数字で示され、各列は個々の患者のスキャンである。患者Aは、ワクチン開始から82日後に再発し;患者Bは、ワクチン開始から147日後に再発し、外科的に処置され、ワクチン開始からさらに227日後(合計374日後)に再発した。ワクチン処置から35日後に腫瘍の再発を罹患し、その後化学療法で処置された追加の患者は、客観的な腫瘍退縮を経験したが、画像の完全な並び(array)は、この個体に対しては利用可能ではなかった。患者Bに対する切除前のスキャンを除く全てのスキャンは、ガドリニウムを用いて、次のコントラスト強調(post−contrast enhancement)が行われた。客観的腫瘍退縮を示した3人の患者のうちの2人は、診断後2年より長く(730日)生存した。
【図4】図4は、本発明の実施形態に従う、CD8+ T細胞レセプター切除環(「TREC」)が、ワクチン接種後の化学療法の応答と強く関連することを図示する。月における腫瘍進行までの時間の増加は(y軸)は、同じGBM患者において、(A)手術時点にて収集された末梢血単核細胞(「PBMC」)由来の50,000の精製CD8+ T細胞で定量されたTREC、または(B)患者の年齢、と相関した。データは、全てのワクチン接種されたGBM患者(この患者に対して、化学療法応答およびTREC結果(n=13)または年齢(n=17)が利用可能)から導出された。関連するパラメーターである、ワクチン接種後の腫瘍進行までの時間で割られた化学療法後の腫瘍進行までの時間もまた、有意にCD8+TRECと相関した(r=0.73;P<0.01)が、患者の年齢とは相関しなかった(r=−0.40;P>0.05)。
【図5】図5は、本発明の実施形態に従う、GBM患者群の、人口統計パラメーターおよび処置パラメーターを示す。2年生存%および3年生存%の計算は、打ち切り値を除外して、ここに示される。
【図6】図6は、本発明の実施形態に従う、ワクチン試行の構成および特徴を示す。ここに示されるCTL応答性は、試行当たり5個の試験可能なサンプルから決定された。
【図7】図7は、本発明の実施形態に従う化学療法の使用を示す。ここに示される、テモゾロミドの標準用量は、28日ごとに、150−200mg/m qd×5日である。Gliadelウエハは、1,3−ビス(2−クロロエチル)−l−ニトロソ尿素(nitosourea)(「BCNU」)の時間放出型封入物である。「CCNU」により意味されるものは、1−(2−クロロエチル)−3−シクロヘキシル−1−ニトロソ尿素である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本明細書中に引用される全ての参照は、完全に記載された通りに、参考として援用される。
【0013】
他のように定義されない限り、本明細書中で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,第2版,J.Wiley & Sons(New York,NY 1994);March,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 4th ed.,J.Wiley & Sons(New York,NY,1992)およびSambrook and Russel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版、Cold Spring Harbor Press(Cold Spring Harbor,NY 2001)は、本出願において使用される用語の多くに対する一般的案内を、当業者に提供する。当業者は、本明細書中に記載される方法および材料と類似するかまたは等価である、多くの方法および材料を認識し、それらは、本発明の実施において使用され得る。実際、本発明は、記載される方法および材料には決して限定されない。本発明の目的のために、以下の用語が、以下に定義される。
【0014】
特定の癌および/またはその病理を「軽減する(alleviating)」とは、腫瘍を分解(例えば、腫瘍の構造的完全性または結合組織を分解)して、腫瘍サイズが、処置前の腫瘍サイズと比較して減少するようにすることを包含する。癌の転移を「軽減する」とは、その癌が他の器官へと蔓延する速度を減少させることを包含する。
【0015】
「有益な結果」としては、疾患状態の重篤度を減少または軽減すること、疾患状態が悪化するのを防ぐこと、疾患状態を治癒すること、および患者の生命または生命予測を延長することが挙げられ得るが、これらに決して限定されない。上記疾患状態は、中枢神経系に関連し得るか、または中枢神経系によって調節され得る。
【0016】
「癌」および「癌性」とは、制御されない細胞増殖によって代表的に特徴付けられる、哺乳動物における生理状態を指すかまたは記載する。癌の例としては、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頚部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、頭部および頚部の癌、ならびに脳の癌(神経膠星状細胞腫、上衣腫(ependymal tumor)、GBMおよび未分化神経外胚葉性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書中で使用される「化学療法」とは、疾患状態(例えば、癌)の処置における、化学物質(例えば、薬剤または薬物)の使用を指す。
【0018】
「化学療法剤」は、化学療法を達成するために使用される特定の化学物質(例えば、薬剤または薬物)を示す。
【0019】
本明細書中で使用される「状態」または「疾患状態」とは、任意の形態の癌を包含し得るが、決して限定されず;例としては、神経膠星状細胞腫、上衣細胞腫、神経膠腫、GBMおよび未分化神経外胚葉性腫瘍である。
【0020】
癌を「治癒する(curing)」とは、腫瘍を分解して、処置後に腫瘍が検出され得ないようにすることを包含する。腫瘍は、例えば、血液供給の欠如から萎縮することによって、または本発明に従って投与される1種以上の成分によって攻撃もしくは分解されることによって、サイズが減少され得るかまたは検出不能になり得る。
【0021】
本明細書中で使用される「哺乳動物」とは、哺乳綱の任意のメンバーを指し、そのメンバーとしては、ヒトおよび非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー種および他の類人猿種およびサル種);家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマ);家畜哺乳動物(例えば、イヌおよびネコ);実験動物(齧歯類(例えば、マウス、ラット、モルモットなど)を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。この用語は、特定の年齢も性別も意味しない。従って、成体被験体および新生被験体、ならびに胎仔(雄または雌に関わらない)は、この用語の範囲内に包含されることが意図される。
【0022】
癌の「病理」とは、患者の健康を含む全ての現象を包含する。これには、異常な細胞増殖もしくは制御不能な細胞増殖、転移、近隣細胞の正常な機能の妨害、異常なレベルでのサイトカインもしくは他の分泌産物の放出、炎症応答もしくは免疫応答の抑制もしくは悪化、新形成、前悪性腫瘍、悪性腫瘍、周囲もしくは遠位の組織もしくは器官(例えば、リンパ節など)への浸潤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書中で使用される「処置」および「処置する」とは、治療処置および予防(prophylactic)手段もしくは予防(preventative)手段の両方を指し、その目的は、その処置が最終的に不首尾であった場合でさえ、標的とした病理学的状態または障害を予防するかまたは遅延することである。処置が必要な者としては、その疾患状態を既に患う者、ならびにその疾患状態を有するかもしくは発症する傾向がある者、またはその疾患状態を予防されるべき者が、挙げられる。腫瘍(すなわち、癌)の処置において、治療因子(例えば、化学療法剤)は、腫瘍細胞の病理を直接減少し得るか、または他の治療法(例えば、放射線療法)による処置に対して腫瘍細胞をより感受性にし得る。
【0024】
本明細書中で使用される「腫瘍」とは、全ての新形成性細胞の成長および増殖(悪性または良性に関わらない)ならびに全ての前癌性および癌性の細胞および組織を指す。
【0025】
本明細書中で使用される(特に「癌ワクチン」として参照される)「ワクチン」とは、処置された疾患が産生する微生物またはその産物、あるいは処置された細胞(例えば、ワクチンレシピエントから収集された樹状細胞)の調製物を指し、代表的には液体形態または懸濁液形態である。これらは、レシピエントにおいて疾患状態への耐性または別の有利な結果を与えるために、身体における免疫応答を刺激するために使用される。
【0026】
本発明は、従来のGBM化学療法の有効性に関する治療的ワクチン接種の影響の遡及的な試験の実施において、本発明者らによって得られた驚くべき結果に部分的に基づく。進行速度および全体的な生存が、12人のワクチン処置された新規GBM患者、13人の化学療法処置された新規GBM患者、および13人のワクチン+化学療法処置された新規GBM患者の間で比較された。これらの結果は、化学療法が先の治療的ワクチン接種と相乗し、個々の治療に対して、GBMの進行を遅らせ、そして有意に患者の生存を延長する独特の効果的な処置を生み出すことを示唆した。これは、ワクチンベースの治療的アプローチが、大多数の癌患者のためになり得る第一の証拠を示し、そして広い年齢範囲にわたって、かつ標準的な放射線+化学療法に対して、GBMの生存を実質的に延長し得る新規の処置ストラテジーを示す。さらなる個々の証拠が、抗腫瘍T細胞を、GBMの化学感受性に影響すると関係付けた。
【0027】
本発明の実施形態に従って、疾患状態(例えば、癌)に対する処置は、少なくとも1つの過程の化学療法と組み合わせた、少なくとも1回のDCベースの癌ワクチンでの治療的ワクチン接種を包含する。この二重の処置は、多くの疾患状態(具体的には、癌であり、より具体的には、脳の癌(例えば、GBM))を軽減および潜在的に治癒するために、哺乳動物に投与され得る。
【0028】
本発明の種々の実施形態において使用される癌ワクチンは、任意の樹状細胞(「DC」)ベース癌ワクチンから選択され得、そして慣用的方法によって投与され得る。このDCベースの癌ワクチンは、化学療法の過程と同時に投与されても良いし、そして/または化学療法に先立って最初にワクチン接種が投与されてもよい。DCは、従来の方法によってエキソビボで「刺激(prime)」」される、自系腫瘍抗原により提示されたDCであり得る。例えば、DCは、培養された腫瘍細胞または自系腫瘍溶解物由来のHLA溶出エピトープを、負荷され得る。あるいは、DCは、2002年9月20日に出願された米国特許出願番号10/251,148(その開示は、その全体が参考として本明細書中に援用される)に記載されるように、「未刺激(unprimed)」状態で送達され得、基本的にインビボで刺激され得る。「未刺激」DCの使用は、腫瘍が外科的に手術不能である場合、手術がそれ以外には望ましくない場合、またはその腫瘍のどの部分も、その腫瘍に対してエキソビボでDCを刺激するために回収され得ない場合に、特に有利であり得る。
【0029】
簡単に述べると、「未刺激」DCは、腫瘍組織をタンパク質供給源として取得することおよびその後この組織を培養することに依存しない、DCを包含する。従来の方法において、DCが、エキソビボで刺激される。この様式での刺激は、代表的には、DCを、そのDCが後で使用される腫瘍細胞とともに培養することを含み、それによってその腫瘍タンパク質に対するDCの接近を提供し、そしてそのDCに、患者への投与の際にT細胞に対して消化された抗原の提示のための調製において結合した抗原をプロセシングさせる。しかし、本発明の種々の実施形態において、このDCは、最初にエキソビボで刺激されることなく、腫瘍床または腫瘍領域中へと直接送達され得る。DCは、インビボで腫瘍抗原をプロセシングする。
【0030】
本発明の種々の実施形態に従う使用に適したDCは、そのような細胞が見出されるあらゆる組織から単離もしくは取得され得るか、または他の方法で培養されて提供され得る。特に、抗原を提示するDCは、本発明に従って使用され得る。例えば、このようなDCは、哺乳動物の骨髄またはPBMC、哺乳動物の脾臓あるいは哺乳動物の皮膚において見られ得る。すなわち、DCの性質に類似した特定の性質を有するランゲルハンス細胞が皮膚において見られ得、さらに本発明と組み合わせて使用され得、そして本明細書中で使用されるDCの範囲に含まれる。例えば、本発明の一実施形態において、骨髄が、哺乳動物から収集され得、そしてDCの増殖を促進する培地において培養され得る。GM−CSF、IL−4および/または他のサイトカイン、増殖因子、ならびに上清が、この培地中に含まれ得る。適切な時間の後、一団のDCが、収集および/または継代された後に、癌ワクチンにおける使用のために収集され得る。
【0031】
DCベースの癌ワクチンが、適切な任意の送達経路によってレシピエントに送達され得る。この経路としては、注射、注入、接種、直接的外科手術的送達、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられ得るが、これらに決して限定されない。本発明の一実施形態において、DCベースの癌ワクチンが、定位手術(神経外科の当業者にとって公知である標準的接種手順)を介して、直接接種によって哺乳動物に投与され得る。さらに、このワクチンは、腫瘍自体に投与され得るか、腫瘍に近接した生理学的領域に投与され得るか、または哺乳動物内の標的腫瘍に対して遠位に投与され得る。
【0032】
本発明のDCベースの癌ワクチンは、薬学的キャリア中にある「刺激された(primed)」DCまたは「未刺激の(unprimed)」DCを含み得る。従来の任意の薬学的キャリアが、本発明に従って使用され得る。適切なキャリアが、慣用的技術によって当業者によって選択され得る。本発明の一実施形態において、薬学的キャリアは生理食塩水であるが、他のキャリアが、その癌ワクチンの望ましい特徴に依存して利用され得る。例えば、そのワクチンのための種々の送達技術、患者間での生理的差異(例えば、性別、重量、年齢など)、または種々の腫瘍型(例えば、脳、乳房、肺など)をとりわけ考慮するために、差次的に癌ワクチンを処方し得る。本発明に従って哺乳動物に投与されるDCベースの癌ワクチンは、種々のさらなる物質および化合物(例えば、適切な任意のキャリア、ビヒクル、添加剤、賦形剤、薬学的アジュバント、または他の適切な生成物)のいずれかと組み合わせて送達され得る。
【0033】
本発明の方法を行うための癌ワクチンとして患者に投与するために適切なDCの量、およびそのような投与の最も簡便な経路は、種々の要因に基づき得、そのワクチン自体の処方も、同様に種々の要因に基づき得る。これらの要因のうちのいくつかとしては、患者の生理的特徴(例えば、年齢、体重、性別など)、腫瘍の生理的特徴(例えば、位置、大きさ、増殖速度、接近しやすさなど)、ならびに他の治療方法論(例えば、化学療法、ビーム放射線療法)が全体的処置レジメンと組み合わせて実施される程度が挙げられ得るが、これらに限定されない。疾患状態を処置するために本発明の方法を実施する際に考慮すべき種々の要因に関わらず、哺乳動物には、本発明の一実施形態においては、単回投与において、約0.05mL〜約0.30mLの生理食塩水中で約10個〜約10個のDCが投与され得る。さらなる投与が、上記の要因および他の要因(例えば、腫瘍病理の重篤度)に依存して行われ得る。本発明の一実施形態において、約10×10〜約40×10個のDCの約1回〜約5回の投与が、2週間間隔で実施される。
【0034】
本発明と組み合わせて使用される化学療法剤は、当業者によって容易に認識されるような、任意の化学療法剤から選択され得る。そのような化学療法剤の例としては、テモゾロミド、プロカルバジン、カルボプラチン、ビンクリスチン、BCNU、CCNU、サリドマイド、イリノテカン、イソトレチノイン(Hoffman−LaRoche,Inc.から、商標名Accutane(登録商標)にて入手可能)、イマチニブ(Novartis Pharmaceuticals Corporationから、商標名Gleevec(登録商標)にて入手可能)、エトポシド、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ヒドロキシ尿素、ビンブラスチン、およびパクリタキセルが挙げられ得るが、これらに限定されない。単一の化学療法剤が、癌を処置するために本発明の種々の実施形態と組合わせて投与され得、一方で、広範な化学療法剤の組み合わせ群が癌の処置において代替的に投与され得ることもまた、当業者によって容易に認識される。さらに、化学療法剤は、任意の適切な送達経路(例えば、経口(PO)経路、静脈内(IV)経路、髄腔内(IT)経路、動脈内経路、腔内経路、筋肉内(IM)経路、病変内経路、または局所経路であるが、これらに限定されない)によって投与され得る。
【0035】
本発明のさらなる実施形態において、哺乳動物における癌の処置のためのキットが、提供される。一実施形態において、上記キットは、脳の癌のため、例えば、GBMの処置のために、構成され得る。上記キットは、疾患状態を処置する本発明の方法を実施するために有用である。上記キットは、少なくとも1用量のDCベースの癌ワクチンと、少なくとも1用量の化学療法剤とを含む、材料または成分の集合である。本発明のキットにおいて構成される成分の正確な性質は、特定のDCベースの癌ワクチンと、実施される化学療法レジメンとに依存する。例えば、本発明の特定の実施形態に従って使用されるDCベースの癌ワクチンが、「刺激された」DCを含むべき場合、本発明のキットは、一定量のDCをエキソビボで刺激することと組合わせて使用され得る成分を含み得る。上記DCベースの癌ワクチンが「未刺激」DCのみを含むべき本発明の実施形態において、上記DCを刺激するためにのみ使用される成分は、上記キット中では必要ではないことが、容易に明らかであるはずである。
【0036】
使用するための指示書が、上記キット中に含まれ得る。「使用するための指示書」とは、代表的には、上記キットの成分および処置スケジュール、上記DCベースの癌ワクチンおよび化学療法剤の投与に関する指示を記載する、明白な表現を含む。種々の実施形態において、使用するための指示書は、哺乳動物からのDCの採取および/またはそのDCをエキソビボで刺激するために実施されるべき手順を記載し得る。上記キットはまた、他の有用な成分(例えば、希釈剤、緩衝剤、薬学的に受容可能なキャリア、標本容器、シリンジ、ステント、カテーテル、ピペット用具または測定用具など)も含み得る。そのキット中に集められた材料または成分は、その作業性および有用性を保持する簡便かつ適切な任意の様式で保存されて、実施者に提供され得る。例えば、その成分は、溶解形態、脱水形態、または凍結乾燥形態であり得る。その成分は、室温、冷蔵温度、または凍結温度で、提供され得る。
【0037】
その成分は、代表的には、適切な包装材料中に含まれる。本明細書中で使用される場合、句「包装材料」とは、そのキットの内容物を収容するために使用される1つ以上の物理的構造体を指す。その包装材料は、周知の方法によって構築されて、好ましくは、滅菌され混入物のない環境を提供する。上記キットにおいて使用される包装材料は、当該分野で通例使用される材料である。本明細書中で使用される場合、用語「包装」とは、個々のキット成分を収容可能な適切な固体のマトリックスまたは材料(例えば、ガラス、プラスチック、紙、箔など)を指す。従って、例えば、包装は、適切な量の化学療法剤を含む組成物を含むために使用されるガラスバイアルであり得る。その包装材料は、一般的には、そのキットの内容物および/もしくは目的ならびに/またはその成分を示す、外部標識を有する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
(差次的に処置された患者間での比較)
新たに診断された新規GBM患者(GBMは、最初は低腫瘍度の神経膠腫の悪性疾患進行から生じなかった)を、3つのワクチン研究のうちの1つに登録させたか、または外科腫瘍切除および標準的放射線療法の後に、化学療法を単独で投与した。図5および図6において示されるように、ワクチン接種した(「ワクチン」または「ワクチン+化学療法」)患者に、自系腫瘍抗原で刺激したDCによる少なくとも3回のワクチン接種を行った。このワクチン接種は、それぞれ、手術後約15週間および放射線治療後5週間で開始した。化学療法単独を受けている患者(「化学療法」患者)を、図7において示すように、ワクチン接種患者と同じ時間間隔にわたって(手術、放射線、および化学療法で)処置した。連続MRIスキャンを、すべての患者において2〜3ヵ月ごとに実施した。ワクチン群、化学療法群、およびワクチン+化学療法群の間における腫瘍進行および全体的生存を、図1および図2において示されるように決定し比較した。
【0039】
処置パラメーターおよび人口統計学的パラメーター(非生存者の程度、ワクチン接種の前もしくは後の手術(適切な場合)、ワクチン接種前の化学療法(適切な場合)、性別および年齢を含む)は、図5において示されるように、関連する群の間で有意には異ならなかった。さらに、Karnofsky活動指標(「KPS」)は、ワクチン患者群とワクチン+化学療法患者群との間で有意には異ならなかった(図5)。ワクチン接種した新規GBM患者(3回のワクチン試験の間で共通する患者サブグループ)についての組み入れ基準(inclusion criteria)は、3回のワクチン試験において同一であった(図6)。同様に、抗腫瘍免疫応答速度は、3回のワクチン試験に関して同様であった(図6)。このことは、個別のワクチン試験の間での抗原源投与および/またはワクチン投与の差は、それらの免疫学的効力に実質的には影響しなかったことを示唆する。さらに、ワクチン患者、ワクチン+化学療法患者、および化学療法患者は、ワクチン接種後に同じ再発回数を示した(図1)。このことは、初回処置後の3つすべての群の間で、腫瘍臨床挙動における固有の偏向がないことを示す。
【0040】
外科的切除の程度のみが、上記の患者群の間で有意に異なった。すべてのワクチン接種患者は、画像完全(image−complete)切除を受け、化学療法患者の一部は、部分的切除を受けた。この特定の偏向は、化学療法群と比較して長い生存を、ワクチン群において選択的に生じると予期された。驚くべきことに、そして全くそれとは反対に、化学療法患者の進行および全体的生存に対する平均時間は、以前の報告(例えば、Stuppら、779頁参照)と同様であり、ワクチン接種患者と有意には異ならなかった(図1、図2および図6)。従って、治療ワクチン接種単独では、従来のGBM化学療法と比較して進行を有意に遅くすることも、生存を延長することも、できなかった(P=0.7、logランク(rank))。これらの結果は、抗腫瘍免疫が効率的には誘導されなかったこと、またはGBM腫瘍がワクチンが惹起した免疫破壊だけに対して固有に耐性であったことを、示唆した。このワクチン方法論による抗腫瘍CTL応答の効率的誘導は、以前に実証された(Yuら、842頁参照)ので、後者の可能性が、最も高いようであった。
【0041】
(実施例2)
(GBM腫瘍の化学療法処置に対するワクチン接種の効果)
ワクチン接種がGBM腫瘍に対してより微細な影響を惹起し得たか否かを決定するために、本発明者らは、ワクチン接種がその後の化学療法に対するGBM感受性を変更し得るか否かを試験した。ワクチン接種後に化学療法を受けるGBM患者は、ワクチン接種単独を受けるGBM患者または化学療法単独を受けるGBM患者と比較して、有意に長期の腫瘍進行を享受した。同様に、ワクチン接種後に化学療法を受けるGBM患者は、いずれかの処置を個別に受けるGBM患者と比較して有意に長期の生存を示した。不注意な選択の偏向が、ワクチン接種後に化学療法を受ける患者において本質的に遅く進行する腫瘍をもたらす可能性は、3つすべての患者群(「ワクチン」、「化学療法」、および「ワクチン+化学療法」)の間で統計学的に同一である初期進行時間(すなわち、初期ワクチン接種後または初期化学療法後)と矛盾する。腫瘍は、初期ワクチン接種にも初期化学療法にも関わらず、臨床的に同じように挙動し、遅くなった腫瘍進行は、ワクチン接種後の化学療法期間に特有であった。さらに、2つ群のワクチン接種した患者は、他のすべての処置パラメーター(開頭術の数、放射線、SRS、およびワクチン接種前の化学療法)に関して統計学的に同一であり、ワクチン治療後に同様のKarnofsky活動(performance)スコアを示した。
【0042】
重要なことには、2年間の生存、3年間の生存、および4年間の生存もまた、ワクチン接種後に化学療法を受ける患者に特有であった。化学療法単独またはワクチン接種単独は、GBMについて確立された範囲内で2年間の生存をもたらす(8%;図5)一方で、ワクチン接種後の化学療法は、2年間生存者の実質的な増加(42%;図5)をもたらした(P<0.05;二項分布)。同様に、3年間生存者も4年間生存者も、化学療法単独またはワクチン接種単独の後では明らかに存在しなかったが、そのような生存者が、ワクチン接種後に化学療法をした患者において存在した(3年間生存者についてP<0.01;二項分布)。
【0043】
最後に、腫瘍塊全体の客観的(>50%)退縮が、13人のワクチン+化学療法患者のうちの3人において観察された。これは、ワクチン接種後の化学療法開始後にのみ、生じた。同様の退縮が、ワクチン接種後に化学療法を受けるグレードIII悪性神経膠腫患者1人においてもまた、観察された(データは、示さない)。新規GBMのそのような劇的な退縮は、この群に特有であった。これは、文献において未知であるが、ワクチン後の化学療法の後における再発性GBMの部分的退縮の一例が、最近報告された。H.Okadaら「Autologous glioma cell vaccine admixed with interleukin−4 gene transfected fibroblasts in the treatment of recurrent glioblastoma:preliminary observations in a patient with a favorable response to therapy」J.Neuro−oncol.,64:13(2003)を参照のこと。しかし、その報告において、画像化研究における腫瘍増加によって判断された迅速な腫瘍再発が、ワクチン接種後に明らかに生じたが、これは軽視されて、退縮がワクチン接種自体に関連したという概念が支持された。この文脈において、現行の研究においてすべてのワクチン接種患者における腫瘍再発は、MRIスキャンにおける腫瘍画像化の増加によって決定されたことが、重要である。さらに、ワクチン患者のうちの33%(4/12)およびワクチン+化学療法患者のうちの46%(6/13)を、腫瘍画像化におけるワクチン後増加が観察された際に生検した。すべてが、組織学的に確認された再発性腫瘍を示した。このことは、本発明者らの研究における腫瘍画像化の明らかな増加は、ワクチン誘導性炎症応答に起因するのではなく、代わりに、一般的には、正真正銘の腫瘍再発を反映したことを、示唆する。このことは、ワクチン接種単独ではなく、ワクチン接種後の化学療法という特定の治療レジメンが、この腫瘍退縮を惹起したことを示唆する。いずれの場合においても、これは、任意の養子免疫療法の状況における、および一般的にはGBM処置における、腫瘍塊全体の客観的退縮についての最初の証明である。
【0044】
本発明者らの研究は、臨床結果が、GBM患者においてワクチン接種と化学療法との特定の組み合わせおよび順序によって有意に改善されるという概念を支持する。より一般的に述べると、抗腫瘍免疫は、GBM化学感受性に直接影響を与えると考えられる。後に化学療法を受けるワクチン接種された患者は、後に化学療法を受けないワクチン接種を受ける患者または化学療法単独を受ける患者と比較して、有意に遅れた腫瘍進行および長い生存を示した。改善された臨床結果は、治療ワクチン接種の後に化学療法という特定の組み合わせおよび順序に依存するようであった。これらの知見は、GBM患者に関して、GBM進行の実質的な治療上の遅延および全体的生存の延長を示唆する。これらの臨床的利点は、以前のワクチン研究における利点およびGBM化学療法の最も有望な分析における利点さえも、顕著に上回るようであった。例えば、Stuppら、779頁を参照のこと。さらに、ワクチン後化学療法によって与えられるより好ましい臨床結果は、患者の比較的若い部分集団に限定はされないようであった。従って、このことは、この特定の処置の組み合わせが、処置された癌患者のうちの大多数に対して臨床的改善を付与したという概念(これは、ワクチンベースの治療に特有であると考えられる)を支持する。
【0045】
(実施例3)
(腫瘍進行時間の増加とのCD8+ TRECの相関性)
CD8+ T細胞の胸腺産生は、精製されたT細胞におけるTRECの濃度によって正確に反映される。例えば、D.C.Douekら「Assessment of thymic output in adults after haematopoietic stem−cell transplantation and prediciton of T−cell reconstitution」The Lancet 355:1875(2000);D.C.Douekら「Changes in thymic function with age and during the treatment of HIV infection」Nature 396:690(1998);およびB.D.Jamiesonら「Generation of functional thymocytes in the human adult」Immunity 10:569(1999)を参照のこと。さらに、CD8+ T細胞の胸腺産生は、年齢依存性神経膠腫の予後および結果の原因となり、そして主に、GBM患者におけるワクチン誘導性抗腫瘍応答に影響を与える。C.J.Wheelerら「Thymic CD8+ T cell production strongly influences tumor antigen recognition and age−dependent glioma mortality」J.Immunol.171(9):4927(2003)を参照のこと。本発明者らは、GBM化学感受性(これ自体は、年齢依存性の現象である(Fineら、2585頁を参照のこと))に対する抗腫瘍免疫の直接的影響は、同じGBM患者におけるCD8+ TRECと化学療法応答性との間の主要な関係によって反映されると推測した。従って、精製されたCD8+ T細胞におけるTREC含量は、ワクチン後の化学療法の後の腫瘍再発時間の増加と主に相関した。この関係は、化学感受性およびCD8+ T細胞の胸腺産生に対する、単なる年齢の独立的影響の関数ではなかった。なぜなら、この相関関係の強度および重要性は、ワクチン後の化学療法の後の再発時間の増加と患者の年齢との間の強度および重要度を上回ったからである(図4)。
【0046】
胸腺産生物と神経膠腫の結果との間の密接な関係は、CD8+ T細胞の産生および/または機能の直接的結果である。Wheelerら、4927頁を参照のこと。従って、CD8+ TRECとワクチン後の化学療法の後の長期進行時間との間の主な関係は、化学療法に対する臨床的応答性が、新たに移出したCD8+ T細胞の産生および/または関数によって同様に影響を受けることを示唆する。そのようなT細胞のレベルは、GBM患者のワクチン接種後の抗腫瘍免疫応答性を主に媒介することが示された(同書)ので、このことは、抗腫瘍免疫がGBM化学感受性に影響を与えるという概念の独立した確認を構成する。
【0047】
まとめると、いかなる特定の理論によって拘束されることも望まないが、これらの知見は、GBM腫瘍が細胞性免疫成分によって認識されてインサイチュで作用されることを示唆する。全体的に、そのような活性は、GBM腫瘍の基本的変化をもたらし得る。ワクチン接種自体は患者に対して明白な臨床的利益を付与しないにも関わらず、この変化は、GBMの腫瘍を、DNAを損傷する化学療法に対してますます感受性にする。
【0048】
さらに、臨床的結果および化学療法応答性はいずれも、一般的には、神経膠腫における年齢依存性プロセスであることが公知である。例えば、W.J.J.Curran、690頁;Fine、2585頁;およびK.L.Chandlerら「Long−term survical in patients with gliomblastoma multiforme」Neurosurg.,32:716(1993)を参照のこと。年齢依存性の神経膠腫の臨床結果は、マウスの胸腺におけるCD8+ T細胞の産生によって決定的に影響を受け、直接的に関連するパラメーターであるCD8+ T細胞中のTREC濃度が、GBM患者における年齢依存性予後の原因である。Wheelerら、4927頁を参照のこと。このことは、GBMのさらなる年齢依存性特性(例えば、化学療法に対する応答性)に対する同様の免疫の影響の確率を増加させる。これを支持して、本発明者らは、CD8+ TRECと、ワクチン後の化学療法に対するGBM応答性との間の強固な相関性を観察した。この相関性は、年齢と、化学療法に対する応答性との間の相関性を上回った。従って、特定の細胞性免疫のパラメーターは、GBMにおける最も強力な予後因子(すなわち、年齢)の原因であるようであるだけではなく、これらの腫瘍の化学療法応答性に密接に関連するようでもある。さらに、年齢は、ほとんどのヒト腫瘍の結果に影響を与える最も主要な一要因であるので、個々の腫瘍に対するこのような免疫の影響についての一般性を確立することは、免疫ベースの癌治療に関連する臨床的予測を実質的に広げ得る。これに関して、細胞性免疫プロセスが、個別のヒト腫瘍における臨床結果および化学療法効力に同様に影響を与えるか否かを決定することは、さらに重要である。
【0049】
(実施例4)
(患者および臨床パラメーター)
すべての患者は、新たに診断されたGBMに罹患しており(平均55歳、32歳〜78歳の範囲)、処置および関連するモニタリングに対してインフォームド・コンセントを提供した。「ワクチン群」における患者には、開頭術を行った(5人の患者には、ワクチン治療を受ける前に1回の開頭術を行い、6人の患者には、2回の開頭術を行い、1人の患者には、ワクチン治療を受ける前に4回の開頭術を行った)。これらの患者すべてに、ワクチン接種前に一定治療期間の放射線を与えた。この群における4人の患者にはまた、化学療法を与え、1人の患者には、ワクチン接種前に定位放射線手術(「SRS」)を与えた。ワクチン接種後、これらの患者のうちの5人に、さらなる開頭術を行い、3人に、さらなる「SRS」を行った。ワクチン接種後には、誰にも化学療法を行わなかった。「化学療法群」におけるすべての患者には、開頭術、放射線、および化学療法を行った。これらの患者のうちの6人には、2回目の開頭術を行い、5人の患者には、さらなるSRSを行った。注目すべきことに、この群における全体的な最長生存者(991日間)は、手術後の頭蓋内膿瘍を患い、排膿のために複数回の外科手順を必要とした。悪性神経膠腫患者における頭蓋内感染が、長期生存と関連付けられており、抗腫瘍免疫応答を開始すると提唱された。A.P.J.Bowlesら「Long−term remission of malignant brain tumors after intracranial infections:a report of four cases」Neurosurgery 44:636(1999)を参照のこと。「ワクチンおよび化学療法群」における患者には、ワクチン治療を受ける前に開頭術を行った(8人の患者に、1回の開頭術を行い、5人の患者に、2回の開頭術を行った)。これらの患者すべては、放射線治療を行った。5人の患者には、さらなる化学療法を行い、3人の患者には、SRSを行った。ワクチン接種後に、これらの患者のうちの6人にさらなる開頭術を1回行い、5人にはSRSを行った。すべての患者には、腫瘍進行時にワクチン接種した後に化学療法を行った。顕著なことに、この群における1人の患者(>730日間生存した。図3Bに示す)は、ワクチン接種前に、DTH試験のために照射腫瘍細胞を接種した部位において、1つのリンパ節が改善した皮膚神経膠芽細胞腫を経験した。これらの2つの腫瘍を、化学療法の約1年間前に外科的に除去した。これらは再発しなかった。
【0050】
ワクチン接種した患者には、血液収集の間にはステロイドを与えなかった。ワクチン接種を、Yu(842頁)に記載されるように投与した。患者には、3回のワクチン(培養腫瘍細胞由来のHLA7溶出ペプチドまたは150μg/mlの自系腫瘍凍結融解溶解物のいずれかを負荷した10×10〜40×10の自系DC)を、手術の約15週間後から始めて、2週間間隔で与えた。4回目の同じワクチン接種を、フェーズII臨床患者(25人中12人)のみにおいて、6週間後に行った。連続MRIスキャンを、すべての患者について2ヵ月毎〜3ヵ月毎に実施した。
【0051】
(実施例5)
(細胞の単離および溶解)
PBMCを、手術時に得た患者の血液および/または保存した白血球搬出物から、Ficollを用いて調製した。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞を、MACSビーズ分離(Miltenyi Biotec;Auburn,CAから得た)を使用して、PBMCから精製した。1ml当たり10個のCD4+細胞またはCD8+細胞を、100μg/mLプロテイナーゼK(Boehringer;Indianapolis,IN)中で56℃にて1時間溶解し、95℃にて10分間不活化することによって、定量的リアルタイムPCR(「qPCR」)のために調製した。
【0052】
(実施例6)
(TREC定量)
TRECを、D.C.Douekら「Assessment of thymic output in adults after haematopoietic stem−cell transplantaion and prediction of T−cell reconstitution」The Lancet 355:1875(2000)に記載されるように、5’ヌクレアーゼ(TaqMan)法を使用してqPCRによって二連または三連で定量し、iCymerシステム(BioRad;Hercules,CAから得た)上で検出した。TRECを、表1に示されるプライマー(プローブは、MegaBases;Chicago,ILから得た)を用いて、5μL細胞溶解物(50,000個の細胞由来)に対して実施した。
【0053】
(表1:qPCRにおいて使用したプライマー)
【0054】
【表1】

【0055】
0.5U Platinum Taq(Gibco;Grand Island,NYから得た)と、3.5mM MgClと、0.2mM dNTPと、500nMの各プライマーと、150nMプローブとを含む、PCR反応物を、「95℃にて5分間、95℃にて30秒間、および60℃にて1分間」を45サイクル行って増幅した。コントロールのβ−アクチン反応物を実施して、核酸含量を確認した。ネガティブサンプルは、さらなる分析から除外した。TREC値を、T細胞純度に関して調整した。
【0056】
(実施例5)
(統計分析)
統計分析は、疾患を有さない全体的生存についての両側マン−ホイットニーlogランク検定と、二項分布確率と、SASおよびExcelソフトウェアを用いて計算したピアゾン相関係数(r値)とを含んだ。二項分布を、ワクチン+化学療法患者群と、他の(ワクチンまたは化学療法)患者群との間の2年生存頻度および3年生存頻度について、決定した。
【0057】
上記の説明は、本発明の特定の実施形態を参照するが、本発明の趣旨から逸脱することなく多くの改変がなされ得ることが、理解される。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲および趣旨の範囲内にあるそのような改変を網羅することが意図される。従って、現在開示される実施形態は、すべての点において例示として考えられるべきであり限定的であるとは考えられるべきではない。本発明の範囲は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。従って、特許請求の範囲の意味およびその等価な範囲に入るすべての変更が、特許請求の範囲に包含されるべきことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−132684(P2010−132684A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22614(P2010−22614)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【分割の表示】特願2006−536762(P2006−536762)の分割
【原出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】