説明

中空ワークの内面加工装置

【課題】加工ユニットに設けた刃具を旋回させることにより、内側球面を高精度に加工できる中空ワークの内面加工装置を提供する。
【解決手段】中空ワークWを回転駆動する駆動主軸30を回転可能に支持した主軸台11と、主軸台に対向して配設された心押台12と、刃具を保持し中空ワーク内に挿入される加工ユニット40と、主軸台および心押台にそれぞれ進退移動可能に設けられ中空ワーク内に挿入された加工ユニットを両側より回転不能に挟持する一対のユニット保持アーバー25、31と、一方のユニット保持アーバー内を通して加工ユニットに保持された刃具をユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに旋回させる旋回手段58とによって構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフケースのような中空ワークの内側球面を球面加工する中空ワークの内面加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、差動ギヤ機構が収容される自動車のデフケースにおいては、一対のサイドギヤに噛合う一対のピニオンギヤの各背面が摺接する内側球面を高精度に加工することが要求されている。特に、中空状をなす一体形のデフケースにおいては、主軸に装着されたカッタをデフケースの外部から挿入して内側球面を加工することが難しいため、例えば、特許文献1に記載されているように、刃具を備えた複数の加工ユニットをデフケース内に順次挿入し、これら加工ユニットを保持アーバーによって回転不能に保持するとともに、保持アーバー内に挿通された回転駆動部材の回転によって刃具を所定の方向に移動させることにより、内側平面および内側球面を加工するようになっている。
【0003】
すなわち、特許文献1に記載された内面加工装置においては、内側球面を球面加工する場合には、一対のユニット保持アーバーの協働により加工ユニットを軸線方向に移動させる軸線方向移動手段と、一方のユニット保持アーバー内を通して加工ユニットに保持された刃具を径方向に移動させる径方向移動手段との2軸同時制御によって、刃具を球面に沿って移動させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−272468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に記載の内面加工装置においては、デフケースのような内側平面および内側球面を、加工ユニットの交換によって1台の機械で旋削加工することができる特徴を有している。しかしながら、加工ユニットを軸線方向に移動させる軸線方向移動手段と、加工ユニットに保持された刃具を径方向に移動させる径方向移動手段との2軸同時制御によって、刃具を球面に沿って移動させ、デフケースの内側球面を球面加工するようになっている。このために、各軸の運動方向が反転する象限切替え時や、刃具の動作が係合穴とカムフォロアによる変換運動であることにより、摩擦力の影響等によって軌跡誤差を発生し、球面加工精度(真球度)が厳しく要求されるワークに対しては適用することが難しい問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の不具合を解消するためになされたもので、加工ユニットに設けた刃具を旋回させることにより、内側球面を高精度に加工できる内面加工装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、中空ワークの内面を加工する内面加工装置において、前記中空ワークを回転駆動する主軸を回転可能に支持した主軸台と、該主軸台に対向して配設された心押台と、刃具を保持し前記中空ワーク内に挿入される加工ユニットと、前記主軸台および心押台にそれぞれ進退移動可能に設けられ前記中空ワーク内に挿入された前記加工ユニットを両側より回転不能に挟持する一対のユニット保持アーバーと、前記一方のユニット保持アーバー内を通して前記加工ユニットに保持された前記刃具を前記ユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに旋回させる旋回手段とによって構成したことである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記加工ユニットを把持して中空ワーク内に挿入し、中空ワークの加工時は前記加工ユニットを中空ワーク内に置き去りにして退避されるユニット供給装置を有することである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記加工ユニットは、前記一対のユニット保持アーバーによって回転不能に保持されるユニット本体と、該ユニット本体に前記ユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに回転可能に支持され前記刃具を保持した旋回中心軸と、前記ユニット保持アーバー内に回転可能に挿通され前記旋回中心軸を中心にして前記刃具を旋回する回転駆動部材とを備えたことである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記加工ユニットは、異なる刃具を保持した少なくとも2種類の加工ユニットからなり、これら加工ユニットが順次中空ワーク内に挿入されて加工に供せられるようになっていることである。
【0011】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項4において、前記加工ユニットの少なくとも1つは、前記刃具が半径方向に移動可能に保持されており、前記一対のユニット保持アーバーの協働により前記加工ユニットを軸線方向に移動させる軸線方向移動手段と、前記一方のユニット保持アーバー内を通して前記加工ユニットに保持された前記刃具を半径方向に移動させる半径方向移動手段とを有することである。
【発明の効果】
【0012】
上記したように、請求項1に係る発明は、中空ワークを回転駆動する主軸を回転可能に支持した主軸台と、主軸台に対向して配設された心押台と、刃具を保持し中空ワーク内に挿入される加工ユニットと、主軸台および心押台にそれぞれ進退移動可能に設けられ中空ワーク内に挿入された加工ユニットを両側より回転不能に挟持する一対のユニット保持アーバーと、一方のユニット保持アーバー内を通して加工ユニットに保持された刃具をユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに旋回させる旋回手段とによって構成したので、従来のように軸線方向と半径方向とに同時制御することにより円弧運動させる必要がなく、刃具を旋回させるだけで、中空ワークの内面を高精度に球面加工することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、加工ユニットを把持して中空ワーク内に挿入し、中空ワークの加工時は加工ユニットを中空ワーク内に置き去りにして退避されるユニット供給装置を有するので、加工ユニットを一対のユニット保持アーバーの間に自動的に挟持させることができ、加工ユニットの取替えを簡単かつ迅速に行えるようになり、加工効率を向上することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、加工ユニットは、前記一対のユニット保持アーバーによって回転不能に保持されるユニット本体と、該ユニット本体に前記ユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに回転可能に支持され前記刃具を保持した旋回中心軸と、前記ユニット保持アーバー内に回転可能に挿通され前記旋回中心軸を中心にして前記刃具を旋回する回転駆動部材とを備えているので、回転駆動部材をサーボモータによって回転することにより、刃具を旋回させることができ、刃具によって中空ワークの内側球面を球面加工することができる。従って、従来のような象限切替え等による影響を受けることなく、内側球面を高精度に球面加工することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、加工ユニットは、異なる刃具を保持した少なくとも2種類の加工ユニットからなり、これら加工ユニットが順次中空ワーク内に挿入されて加工に供せられるようになっているので、例えば、ワークの直交する2個所に加工個所を有するものにおいても、ワークを旋回させることなく、加工できるようになり、また、特に精度が厳しいワークに対しては、刃具を荒加工用と仕上げ加工用の2種類の加工ユニットで対応することも容易に可能となる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、加工ユニットの少なくとも1つは、工具シャンクが半径方向に移動可能に保持されており、一対のユニット保持アーバーの協働により加工ユニットを軸線方向に移動させる軸線方向移動手段と、一方のユニット保持アーバー内を通して加工ユニットに保持された工具シャンクを半径方向に移動させる半径方向移動手段とを有するので、通常のNC旋盤と同様に、ワークを回転させた状態で、刃具を軸方向および半径方向に移動することにより、中空ワークの両側内面を旋削加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施に好適な中空ワークの内面加工装置を示す全体図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す内面加工装置の断面図である。
【図3】中空ワーク内への加工ユニットの挿入状態を示す断面図である。
【図4】図2の要部を拡大した加工ユニットを示す断面図である。
【図5】図4の5−5線に沿って切断した加工ユニットの断面図である。
【図6】図4の6方向から矢視した加工ユニットの側面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示す要部断面図である。
【図8】図7の8−8線に沿って切断した断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態を示す要部断面図である。
【図10】図9の10−10線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず初めに、中空状の加工対象ワーク、すなわち、デフケースWの形状について図2および図3に基づいて説明する。デフケースWには、一対のサイドギヤをそれぞれ支持する同心的な支持穴W11、W12と、各サイドギヤに噛合う一対のピニオンギヤをそれぞれ支持する同心的な支持穴W21、W22と、これら支持穴W21、W22と直交する方向に、サイドギヤおよびピニオンギヤを組み込むための開口窓W31、W32がそれぞれ貫通されている。本実施の形態における内面加工装置は、上記したデフケースWの各ピニオンギヤの背面に摺接する円弧状の内側球面W1、W2、および各サイドギヤの背面に摺接する内側平面W3、W4を、それぞれ球面加工および平面加工するものである。
【0019】
デフケースWは、後述するように、支持穴W11、W12の中心が主軸中心に一致するように、位置決めピンとクランプ装置によって位置決めクランプされ、後述する加工ユニット40によって、各ピニオンギヤの背面に摺接する円弧状の内側曲面W1、W2が球面加工されるようになっている。なお、図3においては、便宜上、後述するユニット供給装置60によって、加工ユニット40をデフケースW内に挿入した状態を示している。
【0020】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る内面加工装置の全体を示すもので、10はベッドで、このベッド10上には互いに対向して主軸台11と心押台12が設置されている。主軸台11はベッド10上に固定され、心押台12はベッド10上に設けられた案内ベース13上にZ軸方向に進退可能に装架されている。心押台12はサーボモータ14により図略のボールねじを介してZ軸方向に進退移動され、その移動量はサーボモータ14に連結されたエンコーダ14aによって検出される。
【0021】
主軸台11には、図2に示すように、固定軸20がZ軸方向と平行に固定されている。固定軸20の外周には円筒状の主軸21が回転可能に支持され、主軸駆動モータ22によって回転駆動されるようになっている。主軸21の先端部には主軸面板21aが取付けられ、この主軸面板21aにデフケースWが位置決めピン23によって回転方向に位置決めされるとともに、ピンアーバチャック24によってクランプされるようになっている。ピンアーバチャック24はよく知られているように、円周上複数(例えば3個)のピンアーバー24aが傾斜方向に移動可能に設けられ、これらピンアーバー24aの移動により、その先端に取付けたチャック爪24bにてデフケースWの外周を主軸面板21aの基準面に押圧しながらクランプするものである。しかしながら、チャック24としては、3つ爪チャック等別の構成のクランプ装置も利用できる。
【0022】
固定軸20の中心部にはユニット保持アーバー25がキー部材26によって軸線方向移動のみ可能に貫挿され、このユニット保持アーバー25は固定軸20の後部に設置されたアーバー進退用シリンダ27によって進退されるようになっている。ユニット保持アーバー25はデフケースWの支持穴W11を貫通して、先端がデフケースWの中空部に挿入されるようになっている。ユニット保持アーバー25の先端には、後述するように加工ユニット40の本体に嵌合するテーパ面25aが形成されている。
【0023】
前記心押台12の先端には、円筒状のユニット保持アーバー31がユニット保持アーバー25と同心上に固設されており、ユニット保持アーバー31はデフケースWの支持穴W12を貫通して、先端がデフケースWの中空部に挿入されるようになっている。ユニット保持アーバー31の先端には、後述する加工ユニットの本体に嵌合するテーパ穴31aが形成されており、このテーパ穴31aの内周に加工ユニット40の本体に係合する係合爪31bが形成されている。
【0024】
また、心押台12には駆動主軸30が回転可能に支持され、この駆動主軸30に心押台12に設置されたサーボモータ33(図1参照)が連結されている。駆動主軸30の先端には回転駆動部材37が回転を規制されて軸方向に所定量だけ相対移動可能に支持されている。回転駆動部材37はユニット保持アーバー31を貫通して先端がユニット保持アーバー31より突出され、その突出端にキー係合部37aが形成されている。回転駆動部材37は駆動主軸30との間に設けられた図略のスプリングのばね力により常に前進方向に付勢され、通常前進端位置に保持されている。
【0025】
上記した構成により、サーボモータ33が駆動されると、駆動主軸30とともに回転駆動部材37が回転され、その回転量はサーボモータ33に連結されたエンコーダ33aにて検出される。
【0026】
40は、デフケースWの加工時にデフケースWの中空部に挿入されて内側曲面W1、W2を球面加工する加工ユニットを示す。加工ユニット40は、図4、図5および図6に示すように、ユニット本体41の中心軸心O1上の一端に、ユニット保持アーバー25の先端に形成されたテーパ面25aに嵌合するテーパ穴41aを有している。一方、ユニット本体41の中心軸心O1上の他端には、ユニット保持アーバー31の先端に形成されたテーパ穴31aに嵌合するテーパ面42aと、テーパ穴31aに形成された係合部31bに係脱可能に係合する係合爪部42bを形成した円筒状の係合部材42が固定されている。
【0027】
ユニット本体41には、旋回中心軸としての回転軸43が中心軸心O1と直交する軸線O2の回りに回転可能に支持されている。回転軸43の両端部には、一対の回転円盤45、46がユニット本体41を挟んで取付けられ、一方の回転円盤45とユニット本体41の一端(図3の上面)は、回転円盤45に貼付けられたターカイト47を介して相対回転可能に面接触するようになっており、他方の回転円盤46とユニット本体41の他端(図3の下面)との間には、スラストベアリング48が介挿されている。また、一方の回転円盤45は、回転軸42の一端部に形成されたねじ部43aに螺合され、他方の回転円盤46は、回転軸43の他端に形成されたフランジ部43bに固定されている。
【0028】
従って、一方の回転円盤45を締付けることにより、一対の回転円盤45、46がターカイト47およびスラストベアリング48を介してユニット本体41を両側(上下)より挟持するように取付けられる。なお、49は、回転軸43の端部に形成されたロック用のねじ部43cに螺合するロックナットであり、ロックナット49を締付けて回転円盤45に接合させることにより、回転円盤45の緩みを防止するようになっている。このようにして、一対の回転円盤45、46はユニット本体41に対し、軸線O2の回りに回転のみ可能に支持される。
【0029】
刃具51を微調整移動可能に取付けた刃具ユニット52が、一対の回転円盤45、46に跨って固定され、刃具51は回転円盤45、46の回転により、軸線O2を中心とする円弧軌跡A1(図4参照)に沿って旋回されるようになっており、刃具51によって内側曲面W1、W2を球面加工できるようになっている。
【0030】
一方の回転円盤45にターカイト47を介して面接触するユニット本体41の端面には、環状の凹部53が形成されている。凹部53には、回転軸43に嵌合する被動傘歯車54が収容され、被動傘歯車54は回転円盤45に固定されている。ユニット本体41には、被動傘歯車54に噛合う駆動傘歯車55の軸部56が係合部材42の内周に相対回転可能に嵌合されて、中心軸心O1の回りに回転のみ可能に支持されている。駆動傘歯車55の軸部56の端面には、回転駆動部材37の先端に形成されたキー係合部37aに係脱可能に係合するテーパ状のキー溝56aが形成されている。なお、図4中57は後述するユニット供給装置のユニット把持爪によって把持される把持部である。
【0031】
上記したサーボモータ33によって回転駆動される駆動主軸30、回転駆動部材37、駆動傘歯車55、被動傘歯車54に噛合う駆動傘歯車55、回転軸43、および回転円盤45、46等によって、刃具51を中心軸心O1と直交する回転軸43の中心(軸線O2)の回りに旋回する旋回手段58(図4参照)を構成している。
【0032】
内側曲面W1、W2加工用の加工ユニット40は、例えば、ベッド10に設置されたロボット等からなるユニット供給装置60のユニット把持爪61に把持部57を把持されて、デフケースWの開口窓W31(W32)を通してデフケースW内に挿入される。
【0033】
次に、数値制御装置70について説明する。図1において、数値制御装置70は、中央処理装置(CPU)71、メモリ72、およびインタフェース(I/F)73、74より構成されている。インタフェース(I/F)73にはNC制御に必要な制御パラメータや、NCプログラムを入力する入出力装置75が接続されている。
【0034】
また、インタフェース(I/F)74には、サーボモータ駆動ユニット(DUC、DUZ)77、78および主軸駆動ユニット(DUA)79が接続されている。このサーボモータ駆動ユニット(DUC、DUZ)77、78、主軸駆動ユニット(DUA)79は、中央処理装置71からの指令を受けて各サーボモータ14、33および主軸駆動モータ22を駆動する。
【0035】
メモリ72には、入出力装置75から入力された制御パラメータとNCプログラムをそれぞれ記憶する記憶エリアが設けられている。サーボモータ14、33は、メモリ72に記憶されたNCプログラムの目標位置指令とエンコーダ14a、33aからの現在位置信号との偏差によって制御され、心押台12をZ軸方向の目標位置に位置決め制御するとともに、工具シャンク52を軸線O2を中心として所定の角度範囲旋回制御する。
【0036】
上記した第1の実施の形態における動作について説明する。デフケースWは、手動で、もしくは搬送装置によって自動的に、支持穴W11にユニット保持アーバー25を挿通させながら、主軸面板21aの先端面に搬送され、位置決めピン23とピンアーバーチャック24によって主軸面板21aの先端面に位置決めクランプされる。その状態で、内側球面W1、W2加工用の加工ユニット40が把持部57をユニット供給装置60のユニット把持爪61に把持されて、デフケースWの開口窓W31よりデフケースW内に挿入され、中心軸心O1がユニット保持アーバー25、31に一致するように位置される。
【0037】
次いで、NC指令に基づいてサーボモータ14が駆動され、図略のボールねじを介して心押台12が前進される。これにより、ユニット保持アーバー31がデフケースWの支持穴W12を貫通して、先端のテーパ穴31aがユニット本体41に固定された係合部材42のテーパ面42aに嵌合されるとともに、係合部材42の係合爪部42bにユニット保持アーバー31の係合部31bが係合して回り止めする。同時に、ユニット保持アーバー31を挿通する回転駆動部材37の先端に形成されたキー係合部37aが、駆動傘歯車55の軸部56のキー溝56aに係合される。この際、回転駆動部材37のキー係合部37aが軸部56のキー溝56aにうまく係合しない場合が生ずるが、その後の回転駆動部材37の回転によってキー係合部37aは、回転駆動部材37に作用する図略のスプリングのばね力にてキー溝56aに確実に係合される。
【0038】
このようにして、心押台12が定められた位置まで前進されると、続いて、ユニット保持アーバー25がアーバー進退用シリンダ27によって前進され、その先端のテーパ面25aがユニット本体41のテーパ穴41aに嵌合され、ユニット本体41をユニット保持アーバー31に押圧する。これにより、ユニット本体41は、両端をユニット保持アーバー25、31により挟持されて芯出しされるとともに、回り止めされる。
【0039】
ユニット本体41の両端がユニット保持アーバー25、31によって挟持されると、ユニット把持爪61が開放され、ユニット供給装置60は加工ユニット40をデフケースW内に置き去りにして退避される。この原位置状態においては、加工ユニット40の刃具51が、図2に示すように、デフケースWの支持穴W21に対応する角度位置に保持されており、この状態において、主軸21が主軸駆動モータ22により回転駆動され、デフケースWが回転される。同時に、NC指令に基づいてサーボモータ33が正転方向に所定の回転速度で駆動され、駆動主軸30が一方向に回転される。これにより、回転駆動部材37を介してユニット本体41に支持された駆動傘歯車55が回転され、被動傘歯車54を介して回転軸43とともに一対の回転円盤45、46が回転される。
【0040】
かかる回転円盤45、46の回転により、回転円盤45、46に跨って固定された刃具ユニット52が軸線O2を旋回中心として、例えば、図4の時計回りに所定角度θ1旋回され、刃具ユニット52に取付けた刃具51が、サーボモータ33の回転速度に応じた旋回速度で円弧軌跡A1に沿って移動される。かかる刃具ユニット52の所定角度θ1の旋回により、内側球面W1、W2の半分(図2における右半分)が球面加工される。続いて、サーボモータ33が逆転方向に駆動され、駆動主軸30が他方向に回転される。これにより、回転円盤45、46に跨って固定された刃具ユニット52が軸線O2を旋回中心として、図4の反時計回りに旋回され、図4に示す原位置を挟んで反対方向に所定角度θ1旋回される。これによって、内側球面W1、W2の残りの半分(図2における左半分)が球面加工される。
【0041】
このようにして、内側球面W1、W2の球面加工が完了すると、主軸21が一定の角度位置に停止されるとともに、サーボモータ33が原位置に復帰され、次いで、ユニット供給装置60が作動されてユニット把持爪61がデフケースW内の加工ユニット40の把持部57を把持する。続いて、心押台12およびユニット保持アーバー25が原位置に後退され、ユニット供給装置60によって加工ユニット40がデフケースW内より取り出される。その後、加工が完了したデフケースWの位置決めクランプが解除され、デフケースWは手動で、もしくは搬送装置によって搬出される。
【0042】
なお、内側球面W1、W2の径が異なるワークWを加工する場合には、刃具51を径に応じて位置調整するか、あるいは異なる径に応じた別の加工ユニットを用意することによって対応可能である。
【0043】
上記した第1の実施の形態によれば、一対のユニット保持アーバー25、31によって両側を回転不能に挟持される加工ユニット40が、ユニット本体41にユニット保持アーバー25、31の軸線と直交する軸線の回りに回転可能に支持され径方向外方位置に刃具ユニット52を保持した回転軸43と、回転軸43に設けた被動傘歯車54に噛合されユニット本体41に回転可能に支持され回転駆動部材37に係脱可能に係合されて回転駆動される駆動傘歯車55とを備えている。これにより、回転駆動部材37がサーボモータ33によって回転されると、駆動傘歯車55および被動傘歯車54を介して回転軸43とともに刃具51を軸線02の回りに旋回させることができるので、刃具51によって、ワークWの内側球面W1、W2を球面加工することができる。この場合、従来のような象限切替え等による影響を受けることなく、内側球面W1、W2を高精度に球面加工することができる。
【0044】
また、第1の実施の形態によれば、加工ユニット40を把持して中空ワークW内に挿入し、中空ワークWの加工時は加工ユニット40を中空ワークW内に置き去りにして退避されるユニット供給装置60を有するので、加工ユニット40を一対のユニット保持アーバー25、31の間に自動的に挟持させることができ、加工ユニット40の取替えを簡単かつ迅速に行えるようになり、加工効率を向上することができる。
【0045】
しかも、第1の実施の形態によれば、ユニット本体41を貫通した回転軸41の両端部に、第1および第2の回転円盤45、46がそれぞれ取付けられ、これら第1および第2の回転円盤45、46の外面に跨って刃具ユニット52が取付けられ、被動傘歯車54および駆動傘歯車55がユニット本体41と回転円盤45とで囲まれた凹部53内に収容されているので、加工ユニット40内部への切屑の侵入を防止することができ、高精度な球面加工を長期に亘って安定的に行うことができる。
【0046】
図7および図8は、本発明の第2実施の形態を示すもので、第1の実施の形態と異なる点は、加工ユニットの構成の簡素化を図ったことである。なお、第1の実施の形態で述べたと同一の構成部品については同一の参照番号を付し、説明を省略する。
【0047】
図7および図8において、ユニット保持アーバー25、31によって両端を保持される加工ユニット80のユニット本体81には、旋回中心軸としての支持軸82が中心軸心O1と直交する軸線O2上に設けられ、この支持軸82上に工具ホルダ83が旋回可能に嵌装されている。工具ホルダ83の円周上一部は、放射方向に延在され、ユニット本体81に形成された開口部84よりユニット本体81の外部に突出されている。支持軸82の一端には締付けナット85が螺着され、この締付けナット85の締付けにより、スラストベアリング86および後述する被動傘歯車を介して工具ホルダ83をユニット本体81の摺接面87に回転のみ可能に押圧している。
【0048】
工具ホルダ83の径方向の先端には、刃具88を取付けた工具シャンク89が固定されている。工具ホルダ83には、支持軸82に回転可能に嵌装された被動傘歯車90が固定され、この被動傘歯車90に回転駆動部材37によって駆動される駆動傘歯車55が噛合されている。なお、図7中の81aは、ユニット供給装置60のユニット把持爪61によって把持される把持部であり、把持部81aは開口部84の一端を閉塞するようにユニット本体81に固定されている。また、81bは、支持軸82の一端を支持する支持ブロックであり、ユニット本体81に固定されている。
【0049】
これにより、第1の実施の形態で述べたと同様に、サーボモータ33の駆動により、駆動主軸30とともに回転駆動部材37が所定角度回転されると、駆動傘歯車55および被動傘歯車90を介して工具ホルダ83が軸線O2の回りに旋回され、刃具88が軸線O2を中心とした円弧軌跡A1に沿って移動されることにより、内側球面W1、W2が球面加工される。
【0050】
かかる第2の実施の形態の加工ユニット80によれば、第1の実施の形態で述べた加工ユニット40に比べて、ユニットの構成を簡素化することができる。なお、第2の実施の形態における加工ユニット80においては、ユニット本体81の開口部84より、内側球面W1、W2の加工によって発生した切屑が被動傘歯車90と駆動傘歯車55との噛合い部に侵入することが懸念されるが、ユニット本体81と工具ホルダ83との間に、開口部84を閉塞する、例えばスライド可能に重合するカバーを設けることにより、切屑の侵入を防止することが可能となる。
【0051】
次に本発明の第3の実施の形態を図9および図10に基づいて説明する。第3の実施の形態においては、2種類の加工ユニット(第1および第2の加工ユニット)90A、90Bを用いて、デフケースWの内側球面W1、W2と、内側平面W3、W4を順次加工できるようにしたものである。なお、内側球面W1、W2を加工する第1の加工ユニット90Aについては、第1の実施の形態で述べた加工ユニット40と同じであるので、図示を省略し、以下においては、内側平面W3、W4を加工する第2の加工ユニット90Bについて、図9および図10に基づいて説明する。
【0052】
第2の加工ユニット90Bの本体91には、中心軸心O1上の一端に、ユニット保持アーバー25の先端に形成されたテーパ面25aに係合するテーパ穴91aが形成されている。ユニット本体91の中心軸心O1上の他端には、ユニット保持アーバー31の先端に形成されたテーパ穴31aに嵌合するテーパ面91bと、ユニット保持アーバー31の先端内周に形成された係合部31bに係脱可能に係合する係合爪部91cが形成されている。ユニット本体91には工具シャンク92が径方向に移動可能に保持され、その一端はユニット本体91より外部に突出されている。工具シャンク92の一端には、両端部にスローアウェイのチップ93a、93bを取付けた刃具93が固定されている。刃具93は中心軸心O1より径方向に所定量偏倚され、かつ工具シャンク92の径方向移動により、各スローアウェイチップ93a、93bによりデフケースWの内側平面W3、W4を順次旋削可能である。
【0053】
ユニット本体91の中心部には、工具シャンク92を貫通して偏心ピン94が中心軸心O1上に回転可能に収納されている。偏心ピン94には、工具シャンク92に形成された係合穴92aの係合面に係合する偏心部94aが設けられ、偏心ピン94の回転による偏心部94aの円弧運動により工具シャンク92を径方向に移動できるようになっている。工具シャンク92とユニット本体91との間には、係合穴92aの係合面を常に偏心ピン94に当接させるスプリング95が介挿されている。偏心ピン94の一端には、前記回転駆動部材37のキー係合部37aに係合するテーパ状のキー溝94bが形成され、回転駆動部材37の回転によって偏心ピン94が回転される。
【0054】
従って、第1の実施の形態で述べたと同様に、サーボモータ33によって駆動主軸30を回転駆動することにより、回転駆動部材37を介して偏心ピン94が回転され、偏心ピン94と係合穴92aとの係合作用により、工具シャンク92が径方向に直線移動される。
【0055】
上記したサーボモータ33、駆動主軸30、回転駆動部材37ならびに偏心ピン94等によって、工具シャンク92を径方向に移動させる径方向移動手段を構成しており、また、上記したサーボモータ14、図略のボールねじ、心押台12、ユニット保持アーバー31、ならびにユニット保持アーバー25、アーバー進退用シリンダ27等によって、第2の加工ユニット90BをデフケースWの軸線方向に移動させる軸線方向移動手段を構成している。
【0056】
上記した第3の実施の形態においては、第1の実施の形態で述べたと同様な、図略の第1の加工ユニット90AによるデフケースWの内側球面W1、W2の球面加工が完了すると、第1の加工ユニット90Aが、ユニット供給装置60によってデフケースWの開口窓W31より取り出された後、第2の加工ユニット90Bがユニット供給装置60によってデフケースW内に搬入される。
【0057】
第2の加工ユニット90BがデフケースW内に搬入され、ユニット供給装置60が退避されると、主軸21が主軸駆動モータ22により回転駆動され、デフケースWが回転される。同時に、NC指令に基づいてサーボモータ14が駆動され、心押台12がZ軸方向(例えば図2の左方向)に所定量移動され、一方の内側平面W3に対してスローアウェイチップ93aを切込む。次いで、NC指令に基づいてサーボモータ33が駆動され、駆動主軸30が所定速度で所定量回転される。これにより、回転駆動部材37によって偏心ピン94が所定角度回動され、工具シャンク92が径方向に所定速度で所定量移動されて、一方のスローアウェイチップ93aにより一方の内側平面W3を旋削加工する。
【0058】
一方の内側平面W3の旋削加工が終了すると、NC指令に基づいてサーボモータ14が前記と逆方向に駆動され、心押台12が図2の右方向に定められた距離だけ移動され、他方の内側平面W4に対してスローアウェイチップ93bを切込む。次いで、前述したと同様に、駆動主軸30をサーボモータ33により回転し、回転駆動部材37および偏心ピン94を介して工具シャンク92を径方向に移動させ、他方のスローアウェイチップ93bにより他方の内側平面W4を旋削加工する。
【0059】
なお、心押台12およびユニット保持アーバー31のZ軸方向移動に伴い、ユニット保持アーバー25はアーバー進退用シリンダ27に抗して、あるいはアーバー進退用シリンダ27によって、ユニット保持アーバー31に追従して移動され、第2の加工ユニット90Bを常に両端で安定的に保持する。
【0060】
この場合、最初に、第2の加工ユニット90Bによって一対の内側平面W3、W4を加工し、しかる後、第1の加工ユニット90Aによって内側球面W1、W2を加工するようにしてもよい。
【0061】
上記した第1および第2の実施の形態においては、回転駆動部材37の回転を、駆動傘歯車55および被動傘歯車54、90を介して旋回中心軸(回転軸、支持軸)43、82上に保持された刃具51、88に伝達することにより、刃具51、88を旋回中心軸43、82を中心にして旋回させるようにしたが、駆動傘歯車55および被動傘歯車54、90に代えて、ウォーム軸とこれに噛合うウォームホイールからなるウォーム減速機構や、リード溝とこれに係合するカムフォロアからなるリード溝機構を設けることもできる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る内面加工装置は、デフケースのような中空ワークの内側球面を球面加工するものに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0064】
11…主軸台、12…心押台、25、31…ユニット保持アーバー、30…駆動主軸、33…サーボモータ、37…回転駆動部材、40、80…加工ユニット、41、81…ユニット本体、43、82…旋回中心軸(回転軸、支持軸)、45、46…回転円盤、51、88…刃具、52…刃具ユニット、53…凹部、54…被動傘歯車、55…駆動傘歯車、58…旋回手段、60…ユニット供給装置、W…中空ワーク(デフケース)、W1、W2…内側球面、W3、W4…内側平面、W31、W32…開口窓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空ワークの内面を加工する内面加工装置において、
前記中空ワークを回転駆動する主軸を回転可能に支持した主軸台と、該主軸台に対向して配設された心押台と、刃具を保持し前記中空ワーク内に挿入される加工ユニットと、前記主軸台および心押台にそれぞれ進退移動可能に設けられ前記中空ワーク内に挿入された前記加工ユニットを両側より回転不能に挟持する一対のユニット保持アーバーと、前記一方のユニット保持アーバー内を通して前記加工ユニットに保持された前記刃具を前記ユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに旋回させる旋回手段とによって構成したことを特徴とする中空ワークの内面加工装置。
【請求項2】
請求項1において、前記加工ユニットを把持して中空ワーク内に挿入し、中空ワークの加工時は前記加工ユニットを中空ワーク内に置き去りにして退避されるユニット供給装置を有することを特徴とする中空ワークの内面加工装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記加工ユニットは、前記一対のユニット保持アーバーによって回転不能に保持されるユニット本体と、該ユニット本体に前記ユニット保持アーバーの軸線と直交する軸線の回りに回転可能に支持され前記刃具を保持した旋回中心軸と、前記ユニット保持アーバー内に回転可能に挿通され前記旋回中心軸を中心にして前記刃具を旋回する回転駆動部材とを備えたことを特徴とする中空ワークの内面加工装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記加工ユニットは、異なる刃具を保持した少なくとも2種類の加工ユニットからなり、これら加工ユニットが順次中空ワーク内に挿入されて加工に供せられるようになっていることを特徴とする中空ワークの内面加工装置。
【請求項5】
請求項4において、前記加工ユニットの少なくとも1つは、前記刃具が半径方向に移動可能に保持されており、前記一対のユニット保持アーバーの協働により前記加工ユニットを軸線方向に移動させる軸線方向移動手段と、前記一方のユニット保持アーバー内を通して前記加工ユニットに保持された前記刃具を半径方向に移動させる半径方向移動手段とを有することを特徴とする中空ワークの内面加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−230250(P2011−230250A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103716(P2010−103716)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000237271)富士機械製造株式会社 (775)
【Fターム(参考)】