説明

中空糸の製造方法およびその製造装置

【課題】
本発明の目的は、乾湿式紡糸法による複数本の中空糸膜製造において、浴中における複数本の中空糸膜同士の接触による付着を防ぎ、ガイドとの接触による擦過を低減し、糸切れ、糸表面のキズ、表面異常等をなくし、安定性に優れた中空糸膜の製造方法および製造装置を提供することにある。
【解決手段】
複数の中空糸膜を乾湿式紡糸法により製造する方法において、浴中に中空糸膜の走行方向と垂直の方向に等間隔をおいてかつジグザグに配列されたガイドを設置し、複数本の中空糸膜を糸条毎に分繊させて走行させることを特徴とする中空糸膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾湿式紡糸法による中空糸膜の製造方法およびその際に使用する分繊ガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子からなる中空糸は、あらゆる分野における様々な目的や用途のため開発され使用されている。特に、中空糸状の高分子膜(中空糸膜)は精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、気体分離膜、窒素冨化膜、酸素冨化膜、血液浄化膜、人工腎臓、人工肺などの様々な用途で実用化されている。
【0003】
従来、中空糸型分離膜の製造方法としては、二重管型口金を用いて原液および中空形成材を同時に吐出させ、数10mm〜数100mmの空間を経た後、凝固浴中で液中方法変換ガイドにより進行方向を上方に変え、凝固浴から再び空中を走行させ、回転ロールを経て水洗浴に導き、次いで水洗浴中に設置した分繊ガイドと呼ばれるガイドを通しつつ水中を走行させ、乾燥工程やその他の工程へと進む、いわゆる乾湿式紡糸法が知られている。この乾湿式紡糸法において、多数の中空糸膜を紡糸しようとした場合、洗浄工程である水洗浴中で複数本の糸条同士の接触による付着が起こり、その後にガイドによって無理に元の複数本の糸条に分けようとするため、通過時にガイドとの摩擦により糸切れを引き起こすトラブルが発生する。
【0004】
かかる問題に対し、従来、凝固浴中に設けたタテガイドとヨコガイドからなる格子状ガイドを用いて口金から吐出された中空糸膜を単糸毎に分繊したもの(例えば、特許文献1参照)は存在していたが、上記互いに付着した複数本の糸条の通過時のガイドとの摩擦を防止することができず、糸切れの原因となっていた。
【0005】
また、複数の糸条をガイド歯部の1ピッチ分を空けて分繊を行うことで、糸同士の付着は改善される。しかしながら、上記機幅制限が存在する場合、各ピッチを短くする必要が生じるため、隙間が狭くなり糸切れが生じやすく、問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006―239576
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、乾湿式紡糸法による複数本の中空糸膜製造において、浴中における複数本の中空糸膜同士の接触による付着を防ぎ、ガイドとの接触による擦過を低減し、糸切れ、糸表面のキズ、表面異常等をなくし、安定性に優れた中空糸膜の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目標を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
1. 複数の中空糸膜を乾湿式紡糸法により製造する方法において、浴中に中空糸膜の走行方向と垂直の方向に等間隔をおいてかつジグザグに配列されたガイドを設置し、複数本の中空糸膜を糸条毎に分繊させて走行させることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
2. 前記複数本の中空糸膜を、前記ガイドの歯部間を1ピッチ以上空けて走行させることを特徴とする前記1に記載の中空糸膜の製造方法。
3. 前記配列が、千鳥配列であることを特徴とする前記1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
4. 前記分繊ガイドのガイド歯部間距離が糸条幅に対し2倍以上であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
5. 複数本の中空糸膜の乾湿式紡糸法での製造装置において、浴中に中空糸膜の走行方向と垂直の方向に等間隔をおいてかつジグザグに配列された分繊ガイドが設けられたことを特徴とする中空糸膜の製造装置。
6. 前記分繊ガイドが、ガイド歯部本数およびピッチが同一である糸条走行方向における位置が同一の直線状のガイド歯部間距離に対し、ガイド歯部間距離が4倍以上とされたことを特徴とする前記5に記載の中空糸膜の製造装置。
7. 前記配列が、千鳥配列であることを特徴とする前記1または2に記載の中空糸膜の製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における千鳥配置の分繊ガイドを設けた浴中の一例を示す側面図である。
【図2】本発明における千鳥配置の分繊ガイド設置部の拡大図の一例を示す側面図である。
【図3】図2のA−A’断面図である。
【図4】本発明における分繊ガイド設置部の拡大図の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について図面を参照しながらさらに詳しく説明する。
【0011】
図1は本発明を実施するための千鳥配置の分繊ガイドを設けた浴中の一例を示す側面図であり、図2は図1の千鳥配置の分繊ガイド設置部の拡大図の一例を示す側面図である。また、図3は図2のA−A’断面図である。図4については、本発明における分繊ガイド設置部の拡大図の一例を示す側面図である。
【0012】
口金から吐出させた中空糸膜は、凝固浴に入るまでは各糸条が単独で走行するが、凝固浴中あるいは水洗浴2、さらには乾燥機内においては、すでに中空糸膜としての表面が形成されていることから複数本の糸条5を一緒に集束して走行させる場合がある。なお、本発明において、糸条幅とは、複数本の糸条を一列に整列させた場合の幅であり、糸外径×糸本数となる。
【0013】
図1において中空糸膜としての表面が形成された複数本の糸条5は、浴中2に導かれ、下方フリーロール4に設けられた千鳥配置の分繊ガイド1を図3に示すとおり、ガイド歯部間ピッチ9を1ピッチ空けてガイド歯部間を通過させる。その後、乾燥処理装置を通過させ、次いで、多羽根型ロールを用いて捲縮付与し、巻き取り機で巻き取る。
【0014】
図2は図1の千鳥配置の分繊ガイド設置部の拡大図の一例を示す側面図であり、千鳥配置の分繊ガイドは、下方フリーロール4の中心軸下方から中空糸膜の走行方向上流側へ傾けて設置する。
【0015】
図3は図2のA−A’断面図であり、千鳥配置の分繊ガイドのガイド歯部は等間隔で配置させ、上述したように複数本の糸条をガイド歯部間ピッチ9を1ピッチ空けてガイド歯部間を通過させる。
【0016】
上記の様に、ガイド歯部間ピッチ9を1ピッチ以上空けて複数本の糸条を走行させることで、糸同士が分けられ、付着を未然に防止することが可能となる。しかしながらこの場合、上述のように、浴には機幅制限があるため、糸条走行方向における位置が同一の直線状のガイドでは、ガイド歯部間ピッチを変えざるを得ない。ここで、上記千鳥配列等、中空糸膜の走行方向と垂直の方向に等間隔をおいて、かつ中空糸膜の走行方向におけるガイド歯部の位置がジグザグに配置されたガイドを用いると、ガイド歯部間距離を広く取ることができるため、糸条とガイドとの摩擦が生じ難い。ガイド歯部間距離は、ガイド歯部本数およびピッチが同一の場合において、上記直線状のガイドのガイド歯部間距離に対し2倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましい。一方で、ガイド形状が複雑になるため、10倍以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明において、ガイド歯部間距離は糸条幅の2倍以上とすることが好ましい。しかしながら、ガイド幅が広くなりすぎるため、ガイド歯部間距離を糸条幅の20倍以下とすることが好ましい。
【0018】
また、分繊ガイドの配置は千鳥配置に限定されず図4のような斜め配置等でも、これらを満たすことが可能であるが、製造装置のサイズ、分繊作業の煩雑さ等により、千鳥配列が最も好ましい。
【0019】
以上説明したように、口金から吐出され、中空糸膜としての表面が形成された複数本の糸条5は、浴中に設けられた千鳥配置の分繊ガイド1を1ピッチ空けて通過することによって浴中で接触することなく、さらに千鳥配置によりピッチの大きさを維持できるため、連続して安定した中空糸膜の製造が可能となる。
【0020】
本発明における分繊ガイドの材料としては、凝固液による腐食さえ起こらなければ、従来の糸ガイド形成材料と同様のものを用いることができる。具体的には、ステンレス、チタンなどの高硬度の耐食金属、硬質クロームメッキやアルミナ、シリコンカーバイド、チタンナイトライド、“テフロン”(登録商標)などのフッ素、シリコーンなどの無機、有機材料でコーティングを施した金属、ガラス、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックスなどが挙げられる。また、ベークライトその他の硬質プラスチックスも使用することができる。表面の状態は、鏡面状であってもよいし、梨地状であってもよい。また、ガイドの形状としては、中空糸膜との接触、摩擦による中空糸膜表面へのキズの発生を防ぐため、中空糸膜との接触部はなめらかな曲線状になっていることが好ましい。好適な例としては、丸棒状のガイドが挙げられる。
【0021】
本発明の中空糸膜の製造方法としては、例えば、通常二重管式口金を用いて紡糸された中空糸状のポリマー流体が、流下過程で多孔質を形成したものを凝固浴中で固化し、水洗浴2にて芯側流体を洗浄し、乾燥し、捲縮を付与した後巻き取る方法が採用できる。
【0022】
本発明の中空糸膜は、好ましくは中空糸状の多孔質膜で、スポンジのようなものである。液体透過用、血液透析、血液濾過等に好適に使用されるものであり、内径は100〜1000μm、膜厚は10〜60μm、直径は0.1〜0.5mmであるものが好ましい。
【0023】
また、本発明の中空糸膜の膜素材としては、疎水性高分子からなる膜素材、あるいは疎水性高分子と親水性高分子のブレンド膜などが挙げられる。疎水性高分子としては、セルロース、セルロースアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどがあるが、なかでもポリスルホンが好適に用いられる。親水性高分子としてはポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、デキストランあるいはその誘導体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸があるが、なかでもポリビニルピロリドンが好適に用いられる。膜素材はこれら疎水性高分子を単独で用いても複数の疎水性高分子をブレンドして用いてもよい。また、疎水性高分子と親水性高分子をブレンドして用いてもよいが、ポリスルホンとポリビニルピロリドンのブレンド膜が製膜性、および膜性能の面から好適に用いられる。
【0024】
また、本発明の中空糸膜を内蔵したモジュールは、人工腎臓、精密濾過、限界濾過、逆浸透、気体分離、窒素富化、酸素富化、血液浄化等として好適に用いられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
ポリスルホン(テイジンアモコ社製“ユーデル”P−3500)16部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)4部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K90)2部をジメチルアセトアミド77部、水1部に加え、90℃で14時間加熱溶解した。この製膜原液を環状オリフィス部分の外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型吐出孔が32孔並んだ口金より吐出し、芯液としてジメチルアセトアミド36部からなる溶液を吐出させ、乾式長350mmを通過した後、ジメチルアセトアミド20重量%水80重量%からなる溶液を充填した凝固浴に導いた。複数本の糸条5(16合糸)毎に分けた後、水を充填した水洗浴中の下方フリーロール4の中心軸から上方20mmの位置に設けたガイド歯部間ピッチを等間隔で5mm、ガイド歯部間距離が8mmで、ガイド直径3mmである千鳥配置の分繊ガイド1を、図3に示すとおり1ピッチ空けて16本合糸を通過させ、その後、乾燥処理装置を通過させた。次いで、多羽根型ロールを用いて捲縮付与し、巻き取り機で巻き取り、中空糸膜を得た。連続3日間の運転中、糸切れなどのトラブルは全く起こらなかった。
【0027】
(比較例1)
実施例と同じ方法で、直線配列の分繊ガイドを用いて紡糸を行った。その結果、水洗浴中で複数本の中空糸膜同士が接触により付着し、その後の分繊ガイドを通過する時に糸切れが生じて、巻き取り機までの糸かけが出来ない状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の中空糸膜の製造方法およびその製造装置は、たとえば人工腎臓用途等の血液浄化器用途、また浄水器用途等の水浄化器用途に用いる中空糸膜を得る場合に特に有効に用いることができる。
【符号の説明】
【0029】
1:千鳥配置の分繊ガイド
2:水洗浴
3:上方駆動ロール
4:下方フリーロール
5:複数本の中空糸膜(糸条)
6:浴液面
7:ガイド歯部
8:ガイド縁部
9:ガイド歯部間ピッチ
10:ガイド歯部間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜を乾湿式紡糸法により製造する方法において、浴中に中空糸膜の走行方向と垂直の方向に等間隔をおいてかつジグザグに配列されたガイドを設置し、複数本の中空糸膜を糸条毎に分繊させて走行させることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
前記複数本の中空糸膜を、前記ガイドの歯部間を1ピッチ以上空けて走行させることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
前記配列が、千鳥配列であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
前記分繊ガイドのガイド歯部間距離が糸条幅に対し2倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
複数本の中空糸膜の乾湿式紡糸法での製造装置において、浴中に中空糸膜の走行方向と垂直の方向に等間隔をおいてかつジグザグに配列された分繊ガイドが設けられたことを特徴とする中空糸膜の製造装置。
【請求項6】
前記分繊ガイドが、ガイド歯部本数およびピッチが同一である糸条走行方向における位置が同一の直線状のガイド歯部間距離に対し、ガイド歯部間距離が4倍以上とされたことを特徴とする請求項5に記載の中空糸膜の製造装置。
【請求項7】
前記配列が、千鳥配列であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205978(P2012−205978A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71958(P2011−71958)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】