説明

中空糸型人工肺

【課題】サンプリングポート部分の簡単な改良により、流出する血液中の平均的なガス分圧を適切に測定可能とする。
【解決手段】ハウジング1には、中空糸束が収容されたガス交換室3が形成され、中空糸膜の内腔を通して酸素を含むガスを流入、流出させるガスポート9、10と、ガス交換室内の中空糸束を横切って血液を流通させる血液流路4と、血液流路の両端部の中央部に対向するように設けられた血液入口、出口ポート5、6と、血液出口ポートから分岐したサンプリングポート11とが設けられている。サンプリングポートの内腔に設けられて、先端が血液出口ポート中に位置するノズル20を有し、ノズルの先端の内径dは、血液出口ポートの軸方向におけるノズルの先端が位置する箇所での血液出口ポートの内径Fよりも小径であり、血液出口ポートから流出する血液の一部をノズルを通して採取可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外循環中の血液に対するガス交換(酸素の供給、二酸化炭素の排出)を行うための中空糸型人工肺に関し、特に、ガス交換後に流出する血液流から検査用の採血を行うためのサンプリングポートの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術においては、患者の心臓を停止させ、その間の呼吸及び循環機能を代行するために、人工心肺装置が用いられる。人工肺は、患者の肺に代わって血液に酸素を供給し、二酸化炭素を排出させる機能を提供して、体外血液循環を可能とするものである。人工肺の例としては、気泡型人工肺と中空糸型(膜型)人工肺が知られている。中空糸型人工肺は、酸素を含むガス及び血液を多孔質中空糸膜を挟んで流動させ、血液とガスとの間でガス交換が行われるように構成される。中空糸型人工肺は、気泡型人工肺に比べて血液損傷が少なく、プライミング量が小さくて済むなどの利点を有することから、近年では中空糸型人工肺が一般的になりつつある。
【0003】
中空糸型の人工肺では、血液流路の出口に連結される血液出口ポートに、ガス交換されて流出する血液をサンプリングするためのサンプリングポートが付設されていることが多い。人工肺の使用時には、人工肺から導出されるガス交換後の血液の一部を、サンプリングポートを通して採取して血液ガス測定装置に送り、その血液の酸素分圧、二酸化炭素分圧などのガス分圧を測定する。この測定により、患者に送られる血液が十分な酸素分圧を有しているか否かを判定し、酸素分圧が適切になるように装置の設定を調整する。
【0004】
しかしながら、従来構成のサンプリングポートから採取した血液では、酸素分圧の測定結果が必ずしも妥当な値を示しているとは言えない場合があった。中空糸積層体を通過したガス交換後の血液は、直線的に血液流路の出口に到達するため、ガス交換室の各部位を通過した血液が十分に混合されずに血液出口から流出する。一方、ガス交換室における酸素含有ガスの流入側と流出側では、ガス中の酸素濃度が変化するため、ガス交換室の各部位を通過した血液の酸素分圧にはバラツキが生じる。従って、サンプリングポートから採取された血液は、人工肺から流出する血液中の平均的な酸素分圧を有するものではなく、測定結果の妥当性を確保することが困難であった。
【0005】
この問題を解決するための構成の一例が、特許文献1に開示されている。これについて、図11〜図12Cを参照して説明する。図11は、人工肺101の構成を一部断面で示した斜視図である。この人工肺101は、ハウジング102内に、中空糸シートの積層体103Aが収納された血液ガス交換室103と、その下部に連設された熱交換部110とを備えた構成を有する。
【0006】
ハウジング102の下側には血液入口ポート104が設けられ、上側には、ガス交換が行われた血液を導出する血液出口ポート105が設けられている。またハウジング102の一方の側面には酸素含有ガスを導入するガス入口ポート106が設けられ、他方の側面のガス出口カバー107にガス出口107Aが設けられている。血液ガス交換室103では、中空糸の膜を介して血液と酸素含有ガスの間でガス交換が行われる。
【0007】
熱交換部110は、ハウジング102の一方の側面に熱交換水入口ポート111が、他方の側面に熱交換水出口ポート112が設けられ、導入される熱交換水が多数のパイプ中を流れるように構成されている。血液入口ポート104から導入される血液は、熱交換水が流れるパイプの間を通って上方に向けて流れ、熱交換水と熱交換することにより、血液が所望の温度に調整される。
【0008】
ハウジング102の上部には、合成樹脂からなるヘッド部113が設けられている。ヘッド部113の底面図を図12Aに、正面断面図を図12Bに示す。図12Cは、ヘッド部113の底面側から見た斜視図である。図12Aに示されるように、このヘッド部113の中央には血液出口115が設けられ、血液出口ポート105は、この血液出口115に連通している。血液出口ポート105には、途中にサンプリングポート108と血液温度測定用ポート109が分岐状態で設けられている。サンプリングポート108は、血液中の酸素分圧、二酸化炭素分圧、酸素飽和度などを測定するために、少量の血液を採取する回路に接続される。血液温度測定用ポート109には、温度センサーが挿入される。
【0009】
図12B、12Cに示されるように、ヘッド部113の中央に設けられた血液出口115の周囲には、混合部として4つの板状凸部116が突出形成されている。板状凸部116は、血液出口115の近傍に位置した長手方向一端側から血液出口115に対して斜めに離間する方向に沿って形成されている。
【0010】
板状凸部116を設けることによって、ガス交換を終えた血液は、血液出口115に流れ込む際に板状凸部116にガイドされて流れ、斜め方向から血液出口115に流れ込む。これにより、血液出口115付近で血液の混合が行われる。その結果、血液出口ポート105から導出される血液のガス濃度が均一化され、サンプリングポート108から採取された血液中の酸素分圧等の血液ガス分析結果のバラツキを低減することができる。このように、血液出口から導出される血液を混合することで、酸素分圧の測定値の妥当性を確保して、血液中の酸素分圧を適切に管理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−192780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示された中空糸型人工肺を採用して、ヘッド部113の内面側に突出形成された板状凸部116により、血液出口115から流出する血液を確実に平均的な状態にすることは困難と考えられる。何故ならば、血液出口115の周囲の内面側に形成された板状凸部116による血液の混合は、極めて短時間での作用であり、混合作用を十分に行わせるためには、板状凸部116の高さが十分に大きい必要があると考えられるからである。ところが、板状凸部116の高さを十分に大きくすると、ハウジング102の容積が増大し、血液充填量が増大する不都合を生じる。また、板状凸部116の形状、寸法によっては、プライミング性や気泡除去性が低下する危険性がある。
【0013】
そこで本発明は、血液出口ヘッダーにおけるハウジング内面の構造を変更することなく、サンプリングポート部分の簡単な改良により、血液出口ポートから流出する血液中の平均的なガス分圧(酸素分圧、二酸化炭素分圧)を適切に測定可能とし、ガス分圧の管理の妥当性を確保することが可能な中空糸型人工肺を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の中空糸型人工肺は、複数本の中空糸膜により形成された中空糸束と、前記中空糸束が収容されたガス交換室を形成しているハウジングと、前記中空糸膜の内腔を通して酸素を含むガスを流入、流出させるように前記ハウジングに設けられたガスポートと、前記ガス交換室内の前記中空糸束を横切り前記中空糸膜の外表面に接するように血液を流通させる血液流路と、前記血液流路の両端部の中央部に対向するように前記ハウジングに各々設けられた血液入口ポートおよび血液出口ポートと、前記血液出口ポートから分岐したサンプリングポートとを備える。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の中空糸型人工肺は、前記サンプリングポートの内腔に設けられ、先端が前記血液出口ポート中に位置するノズルを有し、前記ノズルの先端の内径dは、前記血液出口ポートの軸方向における前記ノズルの先端が位置する箇所での前記血液出口ポートの内径Fよりも小径であり、前記血液出口ポートから流出する血液の一部を前記ノズルを通して採取可能なように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成の中空糸型人工肺によれば、先端を血液出口ポートの中心部に位置させたノズルを用いて血液の一部を採取することにより、血液出口ポートから流出する血液中の平均的なガス分圧を有する血液を採取することができ、ガス分圧を適切に測定することが可能となる。従って、血液出口ヘッダーにおけるハウジング内面の構造を変更することなく、サンプリングポート部分の簡単な改良により、酸素分圧の管理の妥当性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1における中空糸型人工肺の側面図
【図2】同中空糸型人工肺の正面図
【図3】同中空糸型人工肺の図1と同じ向きに見た断面を示す断面図
【図4】同中空糸型人工肺のサンプリングポートの近傍を拡大して示した断面図
【図5】同中空糸型人工肺のサンプリングポートの要部についての望ましい条件を説明するための断面図
【図6】同サンプリングポートの要部についての望ましい条件を調べた実験に用いた系を示す図
【図7】同サンプリングポートの要部についての望ましい条件を調べた実験を示す図
【図8】実施の形態2における中空糸型人工肺の要部であるサンプリングポートの近傍を示す断面図
【図9】同中空糸型人工肺のサンプリングポートの近傍の他の態様を断面図
【図10】同中空糸型人工肺のノズルの構造を示す断面図
【図11】従来例の中空糸型人工肺の構成を一部断面で示した斜視図
【図12A】同中空糸型人工肺のヘッド部を示す底面図
【図12B】同ヘッド部を示す正面断面図
【図12C】同ヘッド部の底面側から見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の中空糸型人工肺は、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0019】
すなわち、前記ノズルは、前記サンプリングポートの前記血液出口ポート側の端部を、前記血液出口ポートの中心に向かって延在させることにより形成され、前記ノズルと前記サンプリングポートの境界部では、両者の内径は内周面に段差が形成されないように設定されている構成とすることができる。そのような構成をとることによって、気泡の滞留、残存を抑止できる。
【0020】
あるいは、前記ノズルは、前記サンプリングポートとは別体に形成され、前記サンプリングポート中に装着されている構成とすることができる。それにより、サンプリングポートの構造を変更することなく、ノズルを通じた血液採取による効果を得ることが可能となる。
【0021】
その場合に、前記ノズルの基端部に結合した嵌合部を備え、前記ノズルをサンプリングポートの内腔中に嵌合させた状態で、前記嵌合部は前記サンプリングポートの外端部の外周面に嵌合して、前記嵌合部が前記サンプリングポートの外端部により位置決めされ、その位置決めを介して、前記ノズルの先端が前記血液出口ポートの内腔で位置決めされており、前記嵌合部の部分に、血液を測定装置等へ移送するためのチューブを接続可能である構成とすることができる。それにより、簡潔な構成を維持したまま、ノズルの位置決めを確実に行うことができ、ガス分圧の平均値を適切に測定することができる。前記ノズルと前記嵌合部は一体に形成されていてもよい。
【0022】
また、前記ノズルは、前記サンプリングポートと接続されるチューブの先端に取り付けられ、前記チューブを前記サンプリングポートに接続した状態で、前記ノズルの先端が前記血液出口ポートの内腔の中心部に位置決めされている構成とすることができる。
【0023】
また、前記血液出口ポートの内周面からの前記ノズルの先端の中心の突出量をLとしたとき、前記血液出口ポートの内径Fに対する前記突出量Lの比L/Fが、下記の条件を満足する範囲に設定されていることが好ましい。これにより、血液出口ポートから流出する血液の中から、全体のガス分圧の平均値に十分に近い酸素分圧を有する血液を適切に採取可能である。
【0024】
0.2≦L/F≦0.5
また、前記ノズルの先端の内径をdとしたとき、血液出口ポートの内径Fに対する前記内径dの比d/Fが、下記の条件を満足する範囲に設定されていることが好ましい。これにより、血液出口ポートから流出する血液中から、全体のガス分圧の平均値に十分に近いガス分圧を有する血液を、実用上、容易に採取可能となる。
【0025】
0.1≦d/F≦0.2
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1における中空糸型人工肺の側面図を、図1に示す。この人工肺は、ハウジング1により熱交換部2及びガス交換部3が形成され、その内部にそれぞれ、熱交換及びガス交換のための要素が収納された構造を有する。図2は、ガス交換部3の側から見た正面図である。図3は、図1と同じ向きに見た断面図である。
【0027】
熱交換部2及びガス交換部3が形成する内腔を水平方向に貫通して、断面が円形の血液流路4(図3にのみ図示)が形成されている。血液流路4の両端に対応するハウジング1の外殻壁は各々、血液入口ポート5が設けられた血液入口ヘッダー、および血液出口ポート6が設けられた血液出口ヘッダーを形成している。熱交換部2の左右端部のハウジング1の外殻壁は各々、熱交換液である冷水または温水を流入出させるための冷温水ポート7、8(図2参照)が設けられた冷温水ヘッダーを形成している。ガス交換部3の上下端部のハウジング1の外殻壁は各々、酸素含有ガスを導入、導出するためのガスポート9、10が設けられたガスヘッダーを形成している。
【0028】
血液出口ポート6の基端部には、ガス交換されて流出する血液をサンプリングするためのサンプリングポート11と、温度測定用ポート12が分岐する状態に設けられている。熱交換部2のハウジング1の外殻壁の上面部には、この人工肺を所望の状態に支持するため支持部13が形成されている。ガス交換部3側の血液出口ヘッダーを形成するハウジング1の外殻壁の内面には、図2に示されるように、血液入口ポート5の近傍から外方に放射状に延びるリブ14が形成されている。
【0029】
図3に示すように、熱交換部2の内腔には、熱交換のためのステンレスパイプ15の束が配置されている。冷温水ポート7、8を介して、ステンレスパイプ15中に冷温水が流入し、流出する。ガス交換部3の内腔には、複数本の中空糸膜16により形成された中空糸束が配置されている。ガスポート9、10を介して、中空糸膜16の内腔に酸素を含むガスが流入し、流出する。熱交換部2及びガス交換部3の外縁部領域には、ステンレスパイプ15及び中空糸膜16の両端を露出させてポッティング部17を形成するようにポッティング材が充填されている。このポッティング部17の内腔が上述の血液流路4を形成しており、水平方向にステンレスパイプ15及び中空糸膜16を横断して延在している。それによりステンレスパイプ15及び中空糸膜16の外表面に接して血液が流通する。ここで、血液入口ポート5及び血液出口ポート6は、血液流路4の横断面形状の一部である中央部に対応させて設けられている。温度測定用ポート12には、温度センサー18が挿入される。
【0030】
血液入口ポート5から流入する血液は、熱交換部2からガス交換部3に亘る血液流路4を通過し、血液出口ポート6から流出する。冷温水入口ポート8から流入する熱交換液である冷水または温水は、各ステンレスパイプ15の一端から内腔に進入し、各ステンレスパイプ15の他端を経由して冷温水出口ポート7から流出する。その間に、熱交換部2内の血液との間で熱交換が行われる。一方、ガス入口ポート9から流入する酸素含有ガスは、各中空糸膜16の一端から内腔に進入し、各中空糸膜16の他端を経由してガス出口ポート10から流出する。その間に、ガス交換部3内の血液との間でガス交換が行われる。
【0031】
本実施の形態は、血液出口ポート6から流出する血液の一部を、サンプリングポート11を介して採取するための改良された構成に特徴を有する。図4の断面図は、サンプリングポート11の近傍を拡大して示したものである。この図に示されるように、サンプリングポート11の基端部にノズル20が設けられ、ノズル20の先端が血液出口ポート6の中心部に向かって延在している。サンプリングポート11の外端部には、チューブ21が接続部材22を介して接続される。なお、接続部材22及びチューブ21は、断面ではなく外観が示されている。
【0032】
図5は、サンプリングポート11の要部についての望ましい条件を説明するための断面図であり、ハウジング1の一部として形成された要素のみが示される。図5に示されるように、ノズル20は、サンプリングポート11の血液出口ポート6側の端部を、血液出口ポート6の中心に向かって延在させることにより形成されている。ノズル20とサンプリングポート11の境界部では、両者の内径は、内周面に段差が形成されないように設定され、従って、ノズル20の内周面はサンプリングポート11の内周面と滑らかに連続している。
【0033】
一方、ノズル20の先端であるノズル先端20aの内径dは、血液出口ポート6の内径Fよりも十分に小径である。但し、血液出口ポート6の内径Fは、血液出口ポート6の軸方向におけるノズル先端20aが位置する箇所での値である。ノズル先端20aの内径dは、サンプリングポート11の内径よりも細く設定され、サンプリングポート11との境界部ではサンプリングポート11の内径と等しくなっている。従って、ノズル20の内径は、先端から後端向けて漸次太くなっている。
【0034】
以上の構成により、血液出口ポート6から流出する血液の一部がノズル20を通して採取されるようになっている。ノズル20から採取される少量の血液はチューブ21を通して、血液中の酸素分圧、二酸化炭素分圧、酸素飽和度などを測定するための回路に移送される。
【0035】
ノズル先端20aの内径dが血液出口ポート6の内径Fよりも小径であることを前提として、血液出口ポート6の内周面からのノズル先端20aの中心の突出量L(図5参照)には、望ましい範囲が存在する。すなわち、ノズル先端20aの中心が、血液出口ポート6の内腔の中心軸に対して適切な位置に配置されることにより、採取される血液のガス分圧等は、ノズル20から導出される血液全体のガス分圧の平均値に近くなる。実用上、血液出口ポート6の内径Fに対する突出量Lの比L/Fの望ましい範囲が存在するので、当該範囲について以下に説明する。
【0036】
また、ノズル先端20aの内径dは、血液出口ポートの内径Fに対する比d/Fが十分に小さいほど、より確実に、ガス分圧の平均値に十分に近いガス分圧を有する領域の血液を採取可能となり、ガス分圧の測定値のばらつきが抑制され、正確さが向上する。ここで、実用上、実施可能な比d/Fの望ましい範囲が存在するので、当該範囲について以下に説明する。
【0037】
ノズル先端20aの中心の突出量L、及びノズル先端20aの内径dに関し、ガス交換試験により実用上望ましい設定範囲を調べた実験結果について以下に説明する。実験には、図6に示すような系を用いた。すなわち、本実施の形態に基づくサンプリングポート11を有する中空糸型人工肺Oxに対して、血液入口ポート5から血液を流入させ、血液出口ポート6から流出する血液の一部を、サンプリングポート11を通じて採取した。また、流出した血液にラインフィルタLfを通過させ、ラインフィルタLfで血液の一部を採取した。採取した血液の二酸化炭素分圧を測定して、サンプリングポート11から採取した血液が、流出する血液全体のガス分圧の平均値を適切に近似し得るか否かを評価した。
【0038】
実験のために各要素に適用したパラメータは、次のとおりである。
【0039】
突出量L:0、1、2、3、4、5[mm]
ノズル先端20aの内径d:1.0、1.5、2.0[mm]
血液出口ポート6の内径F:10[mm]
サンプリングポート11を通じて採取した血液について測定した二酸化炭素分圧をP1、ラインフィルタLfにおいて採取した血液について測定した二酸化炭素分圧をP2とし、二酸化炭素分圧差異=(P1−P2)を求めた。実験の結果を図7に示す。
【0040】
図7において、横軸は突出量L(mm)、縦軸は二酸化炭素分圧差異を示す。ノズル先端20aの内径dを1.0[mm]とした場合を黒三角▲で、1.5[mm]とした場合を黒四角■で、2.0[mm]とした場合を白菱形◇で示す。
【0041】
図7から、ノズル先端20aの中心の突出量Lについては、比L/Fが下記の条件を満足する範囲に設定することにより、サンプリングポート11から採取した血液のガス分圧が、実用的には十分に平均値を近似していることが判る。
【0042】
0.2≦L/F≦0.5
以上は、二酸化炭素分圧を指標として、血液出口ポートから流出する実際の血液と、サンプルポートから採取した血液の各ガス分圧の差異を示したものである。一方、酸素分圧を指標とした場合も同じ傾向を示す。従って、酸素分圧、或いは二酸化炭素分圧のいずれであっても、本発明の構成を採用することで、実際的な血液値とサンプル採取値との差異を低減することができる。
【0043】
従って、この条件を満足させてノズル先端20aの中心位置を設定し、ノズル20から採取される血液のガス分圧を測定することが望ましい。それにより、血液出口ポート6から流出する血液中のガス分圧の平均値に対して、実用上、十分に近い値を測定値として得ることが可能である。
【0044】
また、ノズル先端20aの内径dについては、実験した範囲、すなわち比d/Fが下記の条件を満足する範囲に設定された場合であれば、サンプリングポート11から採取した血液のガス分圧が、実用的には十分に平均値を近似していることが判る。
【0045】
0.1≦d/F≦0.2
従って、この条件を満足するように内径dを設定することが望ましい。これにより、血液出口ポート6から流出する血液の中から、全体のガス分圧の平均値に十分に近いガス分圧を有する血液を、実用上、容易に採取することが可能である。
【0046】
なお、以上の説明では、ハウジング1により熱交換部2及びガス交換部3が形成された構成を有する中空糸型人工肺を例として示したが、本発明の適用はこれに限られない。すなわち、熱交換部2の無いガス交換部3のみの構成を有する中空糸型人工肺であっても、上述のサンプリングポート11の構成を適用して、上述と同様の効果を得ることができる。以下の実施の形態についても同様である。
【0047】
(実施の形態2)
図8、図9に、本発明の実施の形態2における中空糸型人工肺のサンプリングポート11の近傍を拡大した断面図を示す。この人工肺の全体の構造は、図1〜3に示した実施の形態1の人工肺と同様である。本実施の形態では、ノズルがサンプリングポート11とは別体に形成されていることが特徴である。ノズルの寸法、配置、機能作用等は、実施の形態1におけるノズル20と同様である。
【0048】
図8に示す一態様では、サンプリングポート11とは別体に形成されたチップ状ノズル23が、サンプリングポート11中に装着された構成が用いられる。サンプリングポート11は、従来と同様、血液出口ヘッダーを形成するハウジング1外殻壁に、血液出口ポート6及び温度測定用ポート12とともに形成される。チップ状ノズル23の外径は、サンプリングポート11の内周面と嵌合して密着するように設定される。図4に示した構成と同様、サンプリングポート11の外端部には、接続部材22を介してチューブ21が接続される。
【0049】
図9に示す他の態様では、ノズル24と嵌合部25が結合したノズル部材26を用いる。嵌合部25の外端部には接続部25aが設けられ、接続部材22を介してチューブ21が接続される。なお、ノズル24は断面で示されているが、嵌合部25及び接続部25aは、断面ではなく外観が示されている。
【0050】
ノズル部材26の断面構造を、図10に断面で示す。嵌合部25はノズル24の基端部に結合している。この構成では、ノズル24は嵌合部25と一体に形成されているが、ノズル24をチップ状に形成し、嵌合部25を別体に作製した後、相互に接合した構成としてもよい。嵌合部25は、サンプリングポート11の外端部の外周面に嵌合する。その状態で、ノズル24はサンプリングポート11の内腔中に装着され、嵌合する。
【0051】
嵌合部25がサンプリングポート11の外端部に装着されて、当該外端部により位置決めされることにより、その位置決めを介して、ノズル24の先端が血液出口ポート6の内腔で位置決めされる。
【0052】
さらに他の態様として、図示しないが、ノズルを、サンプリングポート11と接続されるチューブの先端に取り付けられる接続部材に結合した構成とすることもできる。その場合、チューブ21をサンプリングポート11に接続した状態で、ノズル先端が血液出口ポート6の中心部に位置するように設定される。
【0053】
本実施の形態の中空糸型人工肺の場合も、ノズル23、24について、血液出口ポート6の内径Fに対する突出量Lの比L/F、及び血液出口ポート6の内径Fに対する内径dの比d/Fは、実施の形態1の場合と同様の設定範囲とすることが望ましい。
【0054】
なお、以上の実施の形態に示した人工肺の構成は一例であり、他のどのような構成であっても、本実施の形態のサンプリングポート11の構成を適用することができる。熱交換部2とガス交換部3は、他の形態で合体していても、あるいは相対的に可動であってもよい。また、人工肺2は、熱交換部2及びガス交換部3から構成されているものに限らず、ガス交換部のみで構成されていても、本実施の形態のサンプリングポート11の構成を適用して、同様の効果を奏することが可能である。従って、本発明において、人工肺とは、ガス交換部のみで構成されている装置も含む意味で用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の中空糸型人工肺によれば、サンプリングポート部分の簡単な改良により、血液出口ポートから流出する血液中の平均的なガス分圧を適切に測定することが可能となり、体外血液循環のための人工心肺装置として有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 ハウジング
2 熱交換部
3 ガス交換部
4 血液流路
5 血液入口ポート
6 血液出口ポート
7、8 冷温水ポート
9、10 ガスポート
11 サンプリングポート
12 温度測定用ポート
13 支持部
14 リブ
15 ステンレスパイプ
16 中空糸膜
17 ポッティング部
18 温度センサ
20、24 ノズル
20a ノズル先端
21 チューブ
22 接続部材
23 チップ状ノズル
25 嵌合部
25a 接続部
26 ノズル部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸膜により形成された中空糸束と、
前記中空糸束が収容されたガス交換室を形成しているハウジングと、
前記中空糸膜の内腔を通して酸素を含むガスを流入、流出させるように前記ハウジングに設けられたガスポートと、
前記ガス交換室内の前記中空糸束を横切り前記中空糸膜の外表面に接するように血液を流通させる血液流路と、
前記血液流路の両端部の中央部に対向するように前記ハウジングに各々設けられた血液入口ポートおよび血液出口ポートと、
前記血液出口ポートから分岐したサンプリングポートとを備えた中空糸型人工肺において、
前記サンプリングポートの内腔に設けられ、先端が前記血液出口ポート中に位置するノズルを有し、
前記ノズルの先端の内径dは、前記血液出口ポートの軸方向における前記ノズルの先端が位置する箇所での前記血液出口ポートの内径Fよりも小径であり、
前記血液出口ポートから流出する血液の一部を前記ノズルを通して採取可能なように構成されたことを特徴とする中空糸型人工肺。
【請求項2】
前記ノズルは、前記サンプリングポートの前記血液出口ポート側の端部を、前記血液出口ポートの中心に向かって延在させることにより形成され、前記ノズルと前記サンプリングポートの境界部では、両者の内径は内周面に段差が形成されないように設定されている請求項1に記載の中空糸型人工肺。
【請求項3】
前記ノズルは、前記サンプリングポートとは別体に形成され、前記サンプリングポート中に装着されている請求項1に記載の中空糸型人工肺。
【請求項4】
前記ノズルの基端部に結合した嵌合部を備え、
前記ノズルをサンプリングポートの内腔中に嵌合させた状態で、前記嵌合部は前記サンプリングポートの外端部の外周面に嵌合して、前記嵌合部が前記サンプリングポートの外端部により位置決めされ、その位置決めを介して、前記ノズルの先端が前記血液出口ポートの内腔で位置決めされており、
前記嵌合部の部分に、血液を測定装置等へ移送するためのチューブを接続可能である請求項3に記載の中空糸型人工肺。
【請求項5】
前記ノズルと前記嵌合部は一体に形成されている請求項4に記載の中空糸型人工肺。
【請求項6】
前記ノズルは、前記サンプリングポートと接続されるチューブの先端に取り付けられ、前記チューブを前記サンプリングポートに接続した状態で、前記ノズルの先端が前記血液出口ポートの内腔の中心部に位置決めされている請求項3に記載の中空糸型人工肺。
【請求項7】
前記血液出口ポートの内周面からの前記ノズルの先端の中心の突出量をLとしたとき、前記血液出口ポートの内径Fに対する前記突出量Lの比L/Fが、下記の条件を満足する範囲に設定されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空糸型人工肺。
0.2≦L/F≦0.5
【請求項8】
前記ノズルの先端の内径をdとしたとき、血液出口ポートの内径Fに対する前記内径dの比d/Fが、下記の条件を満足する範囲に設定されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空糸型人工肺。
0.1≦d/F≦0.2

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【公開番号】特開2013−59380(P2013−59380A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198210(P2011−198210)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】