説明

中空糸膜、およびそれを用いた中空糸膜モジュール、膜ろ過装置、水処理方法

【課題】化学的耐久性と物理的強度に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた高い耐汚れ性を有する水処理用中空糸膜を提供すること。
【解決手段】ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜において、前記中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径が0.01μm以上0.1μm以下であり、前記被処理水側表面における細孔密度が1×1013個/m以上1×1015個/m以下であり、かつ、前記被処理水側表面における開孔率が3%以上30%以下であることを特徴とする中空糸膜。被処理水側表面における細孔の平均孔径が0.01μm以上0.1μm以下であり、かつ被処理水側表面における細孔密度が1×1013個/m以上1×1015個/m以下であり、かつ被処理水側表面における開孔率が3%以上30%以下であるポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
浄水処理、工業用水製造、排水処理、逆浸透膜前処理などの水処理に用いられる中空糸精密ろ過膜、中空糸限外ろ過膜、およびそれを用いた中空糸膜モジュール、膜ろ過装置、透過水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過膜や限外ろ過膜などの分離膜は食品工業や医療分野、用水製造、排水処理分野等の様々な方面で利用されている。特に近年では、飲料水製造分野すなわち浄水処理過程において分離膜が使われることが多くなってきている。
【0003】
特に飲料水製造分野で使われる分離膜では、透過水の殺菌や膜のファウリング低減の目的で次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を被処理水や逆洗水に添加したり、膜の薬液洗浄として、塩酸、クエン酸、シュウ酸などの酸や水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ、塩素、界面活性剤などで膜を洗浄することが必須であり、これらの薬品に対する高い化学的耐久性が求められている。また、20世紀終盤からクリプトスポリジウムなどの耐塩素性病原性微生物が飲料水に混入する問題が顕在化してきており、膜が破損して被処理水が透過水に混入することがないように、高い物理的強度と物理的耐久性も求められている。このような背景から近年では高い化学的耐久性と高い物理的強度および物理的耐久性を有する素材としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた分離膜が注目され、今後適用が拡大する傾向にある。
【0004】
浄水処理などの水処理用途で用いられる場合、処理しなければならない水量が大きいため、単位体積あたりの有効膜面積が大きい中空糸膜が一般に多く採用されている。さらに中空糸膜の透水性能が優れていれば、必要膜面積が小さくなり、装置がコンパクトになるため設備費が節約でき、膜交換費やプラントの設置敷地面積の点からも有利になってくる。
【0005】
しかしながら、透水性能は被処理水中に含まれる様々な成分によって膜が汚れることにより、ろ過運転の継続と共に低下していく。特にポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた分離膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が化学的耐久性や物理的強度特性に優れるものの、疎水性の素材であることから汚れやすいため、これまでもポリフッ化ビニリデン系樹脂製中空糸膜の耐汚れ性に対する工夫が施されてきている。
【0006】
膜の汚れ、すなわち“ファウリング”の問題は、極めて複雑な現象であり、水処理分野の分離膜の共通的な課題で、多くの研究者、技術者がファウリングのメカニズム解明やファウリング制御、低ファウリング膜の研究開発にしのぎを削っているが、未だ普遍化、体系化された理論を確立できる段階からはほど遠い状況にある。
【0007】
本発明者らは、これまで自然水中の成分と中空糸膜のファウリングとの関係について鋭意研究を行ってきており、様々な自然水中成分の中で高分子量のフミン質が膜ファウリングの主要な原因物質の1つであることを非特許文献1において明らかにしている。フミン質とは、「植物の残骸や微生物の遺体が微生物による分解を受け、その分解産物から化学的、生物的に合成された高分子有機酸の総称」であり、非特許文献2によれば、フミン質の分子サイズは、高分子フミン質、中分子フミン質、低分子フミン質の3つに大別できる。また、Stokes-Einsteinの式による高分子フミン質の分子径はおおよそ0.1μmより大きく0.45μmより小さいことも述べられている。すなわち分子径0.1μmから0.45μmの高分子フミン質を膜に付着させにくくすることが、自然水を被処理水とする膜ろ過において、中空糸膜のファウリングを低減するための極めて効果的な手段であると言える。
【0008】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂製分離膜において膜ファウリングの低減に主眼をおいた発明も開示されている。例えば特許文献1では、ポリフッ化ビニリデン樹脂製の中空糸膜の内外表面及び該微細孔表面をエチレン−ビニルアルコール共重合体で被覆した中空糸膜により耐汚れ性を改善する技術が開示されている。特許文献1では、平均孔径が小さいほど透水抵抗は大きくなり、膜の透水性能が低下して好ましくないこと、大きくなると濁質物質等の阻止性能が下がるため好ましくないことは述べられているものの、孔径とファウリングの関係については一切議論されていない。加えて、特許文献1において実験的に明らかにされている中空糸膜の平均孔径は最小のものでも0.19μmであり、それ未満の平均孔径の中空糸膜の性能については実験的に明らかにされておらず、詳細な検討がなされていないのが現状である。
【0009】
また、一般に膜を親水化すれば耐汚れ性が向上することが定性的に言われており、様々な親水化手段が開示されている。例えば特許文献2において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のアルカリ水溶液による親水化処理によって膜表面を改質する方法などが開示されているが、膜の汚れ性の議論はなされておらず、特に孔径との関係などは全く記載されてない。
【0010】
特許文献3では、表面層に所定の平均孔径を有するポリフッ化ビニリデン製中空糸膜が開示されているが、特許文献3において実験的に明らかにされている中空糸膜の平均孔径は最小のものでも0.26μmであり、それ未満の平均孔径の中空糸膜の性能については実験的に明らかにされておらず、詳細な検討がなされていないのが現状であり、さらに膜ファウリングと平均孔径との関係も全く言及されていない。
【0011】
特許文献4に最大孔径が0.037μm以上0.040μm以下の緻密構造層を有するポリフッ化ビニリデン製中空糸膜が開示されているが、ウイルスを確実に除去することを目的とした医療用途の中空糸膜であり、被処理水側表面は孔径が0.29μm以上0.44μm以下の粗大構造層であるため、高分子フミン質が閉塞してファウリングが加速すると考えられる。
【0012】
上述のように膜の主要原因物質である高分子フミン質によるファウリング低減を狙った被処理水側表面の平均孔径が0.1μm以下のポリフッ化ビニリデン樹脂製中空糸膜はこれまで知られていなかった。
【非特許文献1】浄水処理における中空糸UF膜のファウリング物質の把握、水道協会雑誌、Vol.71、No.5、pp.2-13 (2002).
【非特許文献2】河川水のUF膜ろ過における膜ファウリング発現機構、水道協会雑誌、Vol.69、No.2、pp.12-23 (2000).
【特許文献1】特開2002−233739号公報
【特許文献2】特開昭58−93734号公報
【特許文献3】特許第2899903号公報
【特許文献4】国際公開WO03/026779号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、自然水のろ過を目的としたポリフッ化ビニリデン系樹脂製中空糸膜において、自然水中成分のうち、特に高分子フミン質の目詰まりによる透水性能の低下が小さく、薬液洗浄頻度が少なく、長寿命の中空糸膜を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、自然水中成分の汚れによる透水性能の低下が小さい高性能ポリフッ化ビニリデン系樹脂製中空糸膜を発明するに至った。すなわち本発明は、
(1)ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜において、前記中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径が0.01μm以上0.1μm以下であり、前記被処理水側表面における細孔密度が1×1013個/m以上1×1015個/m以下であり、かつ、前記被処理水側表面における開孔率が3%以上30%以下であることを特徴とする中空糸膜。
【0015】
(2)100kPa,25℃における純水透過性能が0.4m/m・hr以上8m/m・hr以下、破断強力が3N/本以上30kg/本以下であり、かつ、破断伸度が30%以上300%以下である前記中空糸膜。
【0016】
(3)被処理水側表面が中空糸膜の外側表面である前記中空糸膜。
【0017】
(4)中空糸膜を用いてなる中空糸膜モジュール。
【0018】
(5)前記中空糸膜モジュールを有してなる膜ろ過装置。
【0019】
(6)前記膜ろ過装置を用いて被処理水から透過水を得る水処理方法。
からなるものである。
【発明の効果】
【0020】
化学的耐久性と物理的強度に優れ、自然水中成分の汚れによる透水性能の低下が少なく高い耐汚れ性を有する高性能ポリフッ化ビニリデン系樹脂製中空糸膜が得られ、この膜を用いることにより、造水コストの低減が実現される膜ろ過装置の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の中空糸膜は、被処理水側表面における細孔の平均孔径が0.01μm以上0.1μm以下、好ましくは0.01μm以上0.08μm、さらに好ましくは0.02μm以上0.05μm以下であり、かつ、被処理水側表面における細孔密度が1×1013個/m以上1×1015個/m以下、好ましくは2×1013個/m以上8×1014個/m以下、さらに好ましくは3×1013個/m以上6×1014個/m以下であり、かつ、被処理水側表面における開孔率が3%以上30%以下、好ましくは4%以上28%以下、さらに好ましくは5%以上25%以下である細孔を有する。かかる細孔を有する本発明の中空糸膜の一例を図1に示す。図1は走査型電子顕微鏡で撮影した中空糸膜の表面写真であり、黒色部分1が本発明の中空糸膜の被処理水側表面に存在する細孔である。
【0022】
本発明で規定する被処理水とは、中空糸膜ろ過において膜に供給される原水のことであり、例えば浄水処理分野では主に河川水、湖沼水、地下水などの自然水が被処理水となる。被処理水は下水の2次処理水、海水などでも構わない。
【0023】
本発明で規定する表面とは、外側表層の表面の場合には中空糸膜の表層を真上から見たときの面を、内側表層の表面の場合には中空糸膜を切断して表出した中空糸膜の内部を真上から見たときの面を指し、中空糸膜の厚み方向に同様の構造が連続していなくてもよく、また、前記被処理水側表面における細孔の平均孔径、細孔密度、開孔率とは、かかる表面を走査型電子顕微鏡等で観測して把握される細孔(例えば、図1の1の部分)について測定すれば良い。本発明で規定する被処理水側表面とは、自然水などの膜供給水が最初に中空糸膜に触れる表面のことである。一般的に中空糸膜には、上述の通り外側表面と内側表面の2つがあり、本発明においてはいずれの表面も被処理水側表面として構成しうるが、一般に自然水などの濁質を多く含む水をろ過する場合には、中空糸膜の外表面側から内表面側に向かって原水を通水するいわゆる外圧式の方が、物理洗浄によって剥離した汚れを膜モジュール系外に排出しやすいため、被処理水側表面としては中空糸膜の外側表面とすることがより好ましい。
【0024】
本発明で規定する被処理側表面における細孔の平均孔径とは、被処理水側表面を走査型電子顕微鏡を用いて1万倍以上の倍率で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定して、数平均して求めた値を言う。なお、被処理側表面の細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることができる。
【0025】
本発明者らは、3種類のミリポア製デュラポアメンブレンフィルター、VVLP(親水性ポリフッ化ビニリデン樹脂製平膜、孔径0.1μm)、GVWP(親水性ポリフッ化ビニリデン樹脂製平膜、孔径0.22μm)、VVHP(疎水性ポリフッ化ビニリデン樹脂製平膜、孔径0.1μm)を用いて膜の汚れ性と親水性/疎水性および平均孔径との関係について、湖水をヘッド差1.8mの定圧でろ過する実験によって検討した。物理洗浄を行わずに前記3種の平膜を用いた平膜セルからの透過水をビーカーに受け、透過水量の経時変化からろ過抵抗推移を算出し、VVLP<VVHP<GVWPの順にろ過抵抗の上昇が大きいことを明らかにした。すなわち、親水性の膜でも平均孔径が0.22μmの場合、平均孔径が0.1μmの疎水性膜よりも汚れやすいという従来の知見とは異なる現象が起こることを見出したのである。つまり、本発明者らは、上述したように、高分子フミン質の分子径が0.1μmから0.45μmであり、かつ、高分子フミン質が膜ファウリング主要原因物質であると考えられることから、たとえ親水性の膜であっても、膜表面における細孔の平均孔径が高分子フミン質と同程度の場合、高分子フミン質が膜の表面の細孔で完全閉塞してファウリングしやすくなることを明らかにし、高分子フミン質よりも小さい平均孔径0.1μm以下の表面を有する膜とすることで、極めてファウリングが起こりにくくなることを明らかにしたのである。ただし、実用的な透水性能を保持させるためには平均孔径が0.01μm以上であることが必要である。
【0026】
上述してきたように、被処理水側表面における細孔の平均孔径を小さくすることで耐ファウリング性が向上し、被処理水のろ過の継続による透水性能の低下が低減できることを見出したが、一方で、単に平均孔径を小さくしただけでは、純水の透水性能が小さくなり、ろ過差圧が高くなってしまって、自然水をろ過したときに長時間の安定運転ができない。
【0027】
そこで本発明者らは、膜全体の透水性能向上などの検討を行った結果、細孔の数すなわち被処理水側表面における細孔密度が1×1013個/m以上であり、かつ被処理水側表面における開孔率が3%以上でないと自然水の連続安定ろ過はできないことを見出すに至った。すなわち、小さな細孔を沢山開けることで、高分子フミン質などの汚れ物質が膜表面に堆積することによって一時的に塞がる細孔の割合を少なく抑えることができ、30分から2時間程度毎に行う物理洗浄間でのろ過抵抗の急上昇が起こらず、安定なろ過運転を継続できることを明らかにしたのである。なお、細孔密度や開孔率を高める製膜技術については後述するとおりである。ただし、被処理水側表面における細孔密度、開孔率が高すぎると膜表面の物理的強度および物理的耐久性の維持に支障をきたす可能性が高く、かかる観点から、前記被処理水側表面における細孔密度は1×1015個/m以下、開孔率30%以下であることが必要とされる。
【0028】
ここで、本発明で規定する被処理水側表面における細孔密度とは、中空糸膜の被処理水側の表面を細孔が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡等を用いて写真を撮り、その写真の中の細孔を数えて、1m当たりの細孔数に換算したものを細孔密度と定義する。複数の領域など、出来るだけ広域について数えて平均することが好ましい。例えば、本発明の実施例においては走査型電子顕微鏡写真3μm四方あたりの細孔数を数えて算出した。写真を画像処理装置で解析することも採用できる。また、本発明で規定する被処理水側表面における開孔率とは、平均孔径と細孔密度から次式により計算で求める。
【0029】
開孔率(%)=π×(平均孔径/2)×(細孔密度)×100。
【0030】
本発明におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲で、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレン等のモノマーが共重合されていても良い。また、耐汚れ性を高める目的で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の化学的耐久性および物理的強度を損ねない範囲において、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、アクリロニトリル、ビニルアルコールなどから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有しても構わない。またポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、要求される中空糸膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが10万〜80万の範囲が好ましい。中空糸膜への加工性を考慮した場合は20万〜60万の範囲がより好ましく、25万〜50万の範囲がさらに好ましい。
【0031】
本発明の中空糸膜は、100kPa,25℃における純水透過性能が0.4m/m・hr以上8m/m・hr以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.6m/m・hr以上6m/m・hr以下、さらに好ましくは0.8m/m・hr以上5m/m・hr以下であり、また、破断強力が3N/本以上30N/本以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは4N/本以上25N/本以下、さらに好ましくは5N/本以上20N/本以下であり、かつ、破断伸度が30%以上300%以下の範囲にあることが好ましく、好ましくは40%以上250%以下、さらに好ましくは50%以上200%以下である。この範囲にあることにより、通常の使用条件で、十分な透水性能を発揮するとともに、破断を起こさない中空糸膜とすることができる。なお、中空糸膜の純水透過性能は、逆浸透膜処理水を25℃で1.5mの水位差を駆動力に小型モジュール(長さ約20cm、中空糸膜の本数1〜10本程度)に送液し、一定時間の透過水量を測定して得た値を、100kPa当たりに換算して算出する。透水性能は、ポンプ等で一定の圧力に加圧して得た値を100kPa当たりに換算して求めてもよい。水温についても、25℃以外で測定し、評価液体の粘性から25℃での値に換算してもよい。破断強伸度は、引張試験機を用いて、試験長50mmでフルスケール2000gもしくは5000gの加重をクロスヘッドスピード50mm/分で10回測定し、平均して求める。
【0032】
上述の中空糸膜は、原液流入口や透過液流出口などを備えたケーシングに収容され、中空糸膜モジュールとして使用される。中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定し、透過水を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜の両端を固定して透過水を回収できるようにする。なお、本発明の中空糸膜モジュールは、上記中空糸膜の被処理水側表面を被処理水側に配置して構成することが好ましい。すなわち、被処理水を中空糸膜の外側表面に接触させて中空糸膜の内側から透過水を得る場合には前記外側表面を被処理水側表面として配置された中空糸膜モジュールとし、他方、被処理水を中空糸膜の内側表面に接触させて中空糸膜の外側から透過水を得る場合には前記内側表面を被処理水側表面として配置された中空糸膜モジュールとすることが好ましい。
【0033】
また、上述の中空糸膜モジュールは、少なくとも原液側(被処理水側)に加圧手段もしくは透過液側(透過水側)に吸引手段を設けて、透過水の製造を行う膜ろ過装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いてもよいし、また水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。かかる膜ろ過装置に、表流水、湖沼水、地下水などの被処理水を供給することで、透過水を造水コストの低減が実現できるのである。
【0034】
本発明の中空糸膜の例えば以下に説明する製造方法によって実施される。
【0035】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を20重量%から60重量%以下程度の比較的高濃度で、該ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒または良溶媒に比較的高温で溶解して該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を調製し、該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を冷却固化することにより相分離せしめて、球状構造を有する中空糸膜を形成させる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂濃度は高くなれば高い強度、伸度を有する中空糸膜が得られるが、高すぎると中空糸膜の空孔率が小さくなり透過性能が低下する。また、該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の粘度が適正な範囲に無ければ、取り扱いが困難であり、製膜することができなくなる。
【0036】
ここで、貧溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒のことである。貧溶媒に対し、60℃以下の低温領域でもポリフッ化ビニリデン系樹脂を5重量%以上溶解させることができる可能な溶媒を良溶媒、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点または溶媒の沸点まで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒を非溶媒と定義する。ポリフッ化ビニリデン系樹脂中空糸膜の場合、貧溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステルおよび有機カーボネート等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。非溶媒と貧溶媒の混合溶媒であっても、上記貧溶媒の定義を満足するものは、貧溶媒であると定義する。また良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアキド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を冷却固化するにあたっては、二重管式口金の外側の管から該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を冷却浴中に吐出する方法が好ましい。この際、冷却浴に用いる冷却液体としては温度が5℃から50℃であり、濃度が60重量%から100重量%の貧溶媒もしくは良溶媒を含有する液体を用いて固化させることが好ましい。冷却液体には、貧溶媒、良溶媒以外に非溶媒を含有していても良いが、冷却液体に非溶媒を主成分とする液体を用いると、冷却固化による相分離よりも非溶媒滲入による相分離が優先し、球状構造が得られにくくなる。また、中空部形成流体を二重管式口金の内側の管から吐出しながら冷却浴中で固化することで中空糸膜とする。この際、中空部形成流体には、通常気体もしくは液体を用いることができるが、本発明においては、冷却液体と同様の濃度が60重量%から100重量%の貧溶媒もしくは良溶媒を含有する液体を用いることが好ましく採用できる。ここで非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0037】
次いで、以上のようにして得られた球状構造からなるポリフッ化ビニリデン系樹脂中空糸膜の上に、非溶媒誘起相分離法によって得られる三次元網目構造を積層させる。すなわち球状構造からなるポリフッ化ビニリデン系樹脂中空糸膜の上に、非溶媒誘起相分離を起こすポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬することで三次元網目構造を有する層を積層させる方法である。ここで、三次元網目構造を形成させるためのポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に、被処理水側の平均孔径を小さくして、かつ細孔密度と開孔率が高くなるよう、以下に示すように開孔剤として界面活性剤を添加することが本発明の特徴である。
【0038】
すなわち、前述した三次元網目構造を形成させるためのポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液はポリフッ化ビニリデン系樹脂および良溶媒を主成分として構成されるものであるが、そこに平均孔径や細孔密度、開孔率を変化させるために、開孔剤と称した別の成分を添加する。非溶媒誘起相分離法においてポリマー溶液にポリマーと良溶媒以外の成分を添加することは従来技術においても知られているが、本発明の特徴は開孔剤に少なくとも1種類以上の界面活性剤を添加することである。界面活性剤は親水性の部分と疎水性の部分を有するため、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と溶媒、その他成分にミクロに分散し、凝固、水洗後に膜から溶媒と共に溶出して、微細な細孔を多数形成する。界面活性剤の添加量が多くなるとポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の安定性が徐々に損なわれ、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液がゲル化(ポリフッ化ビニリデン系樹脂が相分離/不溶化する)してしまうが、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の安定性が損なわれない範囲において、臨界ミセル濃度の2倍を超える過剰の界面活性剤を添加することが界面活性剤の表面張力低下効果が最大となり好ましい。この過剰な界面活性剤の添加によりミセルが微細な構造を形成するためのミクロ相分離の起点となり、小さな多孔構造が形成される。さらに三次元編み目構造全体の相分離/凝固を制御する目的で、界面活性剤の他に有機化合物および/または無機化合物および/または前述した非溶媒を添加することも好ましく採用される。有機化合物としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に用いる溶媒および非溶媒誘起相分離を起こす非溶媒の両方に溶解するものが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストランなどの水溶性ポリマー、グリセリン、糖類などを挙げることができる。無機化合物としても、フッ素樹脂系高分子溶液に用いる溶媒および非溶媒誘起相分離を起こす非溶媒の両方に溶解するものが好ましく、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。耐汚れ性をさらに高める目的で、前述したセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、アクリロニトリル、ビニルアルコールなどから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有することも好ましく採用できる。
【0039】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液中のポリフッ化ビニリデン系樹脂濃度は、通常5〜30重量%が好ましく、より好ましくは10〜20重量%の範囲である。5重量%未満では、三次元網目構造層の物理的強度が低下し、30重量%を超えると透過性能が低下する。該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の濃度や溶媒の種類、界面活性剤などの添加剤の種類・濃度によって溶解温度が異なるが、おおよそ溶解温度は40℃以上120℃以下程度である。溶媒の沸点以下の温度で攪拌しながら数時間加熱して、透明な溶液にすることが好ましい。
【0040】
上述したように調整したポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を前記球状構造からなるポリフッ化ビニリデン系樹脂中空糸膜の上に塗布した後、非溶媒を主成分とする凝固浴に浸漬することで三次元網目構造を有する層を積層させる。以上のような製膜方法により本発明の中空糸膜を得ることができる。
【0041】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例における中空糸膜の平均孔径は、被処理水側表面である中空糸外表面を走査型電子顕微鏡(S−800)(日立製作所製)を用いて3万倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の孔径を測定し、数平均して求めた。また、細孔密度は、平均孔径を求めた写真の中の3μm四方あたりの細孔数を数えて算出し、1m当たりの細孔数に換算して求めた。開孔率は、求めた平均孔径と細孔密度から次式により計算して求めた。
【0043】
開孔率(%)=π×(平均孔径/2)×(細孔密度)×100。
【0044】
純水透過性能は、次のように求めた。まず、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を5分間行い、その間の透過量(m)を求めた。次に、その透過量(m)を単位時間(h)および有効膜面積(m)あたりの値に換算し、さらに(100/16)倍することにより、圧力100kPaにおける値に換算して純水透過性能を求めた。
【0045】
破断強力および破断伸度は、引張試験機(TENSILON/RTM−100)(東洋ボールドウィン製)を用いて、測定長さ50mmの試料を引張速度50mm/分で測定した。1種類の中空糸膜に対して10回の測定を行い、数平均して破断強力と破断伸度を求めた。
【0046】
耐汚れ性については、次の運転性評価によって求めた。直径3cm、長さ50cm、有効膜面積が0.3mとなるように作製した中空糸膜モジュールを用いて、琵琶湖水を膜ろ過流速3m/dで定流量外圧全ろ過運転を行った。60分毎に、5ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液による逆洗を30秒、空気によるエアースクラビングを1分行った。1ヶ月間のろ過差圧推移を計測して、次式により1日平均のろ過差圧上昇速度(kPa/日)を算出して比較した。
【0047】
ろ過差圧上昇速度(kPa/日)=(P−P)/T。
【0048】
ここで運転評価開始時点の物理洗浄直後のろ過差圧をP(kPa)、運転評価終了時点の該ろ過差圧をP(kPa)、運転期間をT(日)とする。ろ過差圧上昇速度が0.35kPa/日程度以下であれば、6ヶ月の運転で約60kPaのろ過差圧上昇である。運転初期ろ過差圧が20〜30kPa程度であり、薬液洗浄の目安がろ過差圧100kPaから150kPa程度であることを考えれば、ろ過差圧上昇速度が0.35kPa/日のろ過運転は薬液洗浄間隔が6ヶ月程度となり、該中空糸膜は耐汚れ性が高く、安定運転が可能と言える。
【0049】
<実施例1>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ36重量%と64重量%の割合で170℃の温度で溶解した。このポリマー溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、γ−ブチロラクトン水溶液からなる冷却浴中で冷却、相分離、凝固/固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。
【0050】
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーとポリオキシエチレンヤシ油ソルビタンとジメチルスルホキシドを、それぞれ13重量%と5重量%と82重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を前記中空糸膜の外表面に塗布し、30℃の水で凝固し、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0051】
得られた中空糸膜の外表面すなわち被処理水側表面における細孔の平均孔径は、0.03μm、細孔密度8.0×1013個/m、開孔率5.7%、純水透過性能は0.8m/m・hr、破断強力10.8N/本、破断伸度115%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.22kPa/日であり、耐汚れ性が高く、安定なろ過運転を行うことができた。
【0052】
<実施例2>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーとモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンとジメチルスルホキシドを、それぞれ13重量%と5重量%と82重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、35℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0053】
得られた中空糸膜の外表面すなわち被処理水側表面における細孔の平均孔径が0.04μm、細孔密度が9.3×1013個/m、開孔率が11.7%、純水透過性能が1.6m/m・hr、破断強力10.8N/本、破断伸度113%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.31kPa/日であり、耐汚れ性が高く、安定なろ過運転を行うことができた。
【0054】
<実施例3>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーと水とN-メチル-2-ピロリドンとポリオキシエチレンヤシ油ソルビタンを、それぞれ14重量%と1重量%と80重量%と5重量%の割合で混合し、90℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様の中空糸膜の外表面に塗布し、30℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0055】
得られた中空糸膜の外表面すなわち被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.05μm、細孔密度は1.1×1014個/m、開孔率は21.6%、純水透過性能は1.6m/m・hr、破断強力は9.8N/本、破断伸度は108%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.20kPa/日であり、耐汚れ性が高く、安定なろ過運転を行うことができた。
【0056】
<実施例4>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーとモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンと水とジメチルホルムアミドを、それぞれ11重量%と5重量%と2重量%と82重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、40℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0057】
得られた中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.08μm、細孔密度は2.1×1013個/m、開孔率は10.6%、純水透過性能は1.6m/m・hr、破断強力は11.8N/本、破断伸度は105%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.34kPa/日であり、耐汚れ性が高く、安定なろ過運転を行うことができた。
【0058】
<実施例5>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーとセルロースアセテートとN-メチル-2-ピロリドンとモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを、それぞれ15重量%と1重量%と77重量%と7重量%との割合で混合し、110℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、25℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0059】
得られた中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.01μm、細孔密度は6.8×1014個/m、開孔率は5.3%、純水透過性能は0.9m/m・hr、破断強力は10.8N/本、破断伸度112%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.25kPa/日であり、耐汚れ性が高く、安定なろ過運転を行うことができた。
【0060】
<実施例6>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーとポリオキシエチレンヤシ油ソルビタンとジメチルスルホキシドを、それぞれ13重量%と4重量%と83重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、35℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0061】
得られた中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.03μm、細孔密度は5.2×1013個/m、開孔率は3.7%、純水透過性能は0.8m/m・hr、破断強力は11.8N/本、破断伸度は112%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.30kPa/日であり、耐汚れ性が高く、安定なろ過運転を行うことができた。
【0062】
【表1】

【0063】
<比較例1>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーと分子量2万のポリエチレングリコールと水とジメチルホルムアミドを、それぞれ13重量%と5重量%と3重量%と79重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、60℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0064】
得られた中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.4μm、細孔密度は7.1×1011個/m、開孔率は8.9%、純水透過性能は1.8m/m・hr、破断強力は9.8N/本、破断伸度は103%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は350kPa/日と耐汚れ性が著しく悪く、数時間しかろ過運転を行うことができなかった。
【0065】
<比較例2>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーとジメチルスルホキシドを、それぞれ15重量%と85重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、60℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0066】
得られた中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.03μm、細孔数3.7×1013個/m、開孔率 2.6%、純水透過性能は0.5m/m・hr、破断強力は11.8N/本、破断伸度は122%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は0.95kPa/日と耐汚れ性が悪かった。
【0067】
<比較例3>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーと水とジメチルホルムアミドを、それぞれ12重量%と3重量%と85重量%の割合で混合し、100℃の温度で溶解した。このポリマー溶液を実施例1と同様な中空糸膜の外表面に塗布し、40℃の水で凝固して、その後水洗により脱溶媒して本発明の中空糸膜を得た。
【0068】
得られた中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径は0.09μm、細孔数6.7×1012個/m、開孔率は4.3%、透水性能は1.6m/m・hr、破断強力は9.8N/本、破断伸度は103%であった。琵琶湖水のろ過抵抗上昇速度は4.5kPa/日と耐汚れ性が悪く、3週間のろ過運転で薬液洗浄時期を迎えた。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、化学的耐久性と物理的強度に優れるポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いて、汚れにくく、高透水性能を長時間維持する高性能中空糸膜を提供するものである。本発明の中空糸膜は、飲料水製造、浄水処理、下水、排水処理、海水淡水化前処理などの水処理分野において、低造水コストを発現する膜ろ過装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の中空糸膜の被処理水側表面写真の一例である。
【符号の説明】
【0072】
1 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜において、前記中空糸膜の被処理水側表面における細孔の平均孔径が0.01μm以上0.1μm以下であり、前記被処理水側表面における細孔密度が1×1013個/m以上1×1015個/m以下であり、かつ、前記被処理水側表面における開孔率が3%以上30%以下であることを特徴とする中空糸膜。
【請求項2】
100kPa,25℃における純水透過性能が0.4m/m・hr以上8m/m・hr以下、破断強力が3N/本以上30N/本以下であり、かつ、破断伸度が30%以上300%以下である請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
前記被処理水側表面が中空糸膜の外側表面である請求項1または2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜を用いてなる中空糸膜モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の中空糸膜モジュールを有してなる膜ろ過装置。
【請求項6】
請求項5に記載の膜ろ過装置を用いて被処理水から透過水を得る水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−231274(P2006−231274A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53036(P2005−53036)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】