説明

中空糸膜の製造方法

【課題】中空糸膜の偏平や閉塞といった品質不良品の発生を抑えながら、中空糸膜モジュールの偏流を防止し、安定した高い透過性能の発現が可能となるような中空糸膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、外周面上に多数のロッドを備えた少なくとも一対のロールからなるクリンプ付与装置に中空糸膜を通過させることによりクリンプを付与する中空糸膜の製造方法であって、中空糸膜がロール外周面上のロッドに沿って走行しながら進行方向を変えつつ、ロール間の噛み合わせ部に中空糸膜が挟み込まれ、蛇行し、クリンプが付与されることを特徴とする中空糸膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、中空糸膜の品質不良の発生を抑制しつつ、中空糸膜モジュール作製における接着不良を低減することにより、外部環流液の偏流を防止し、安定した高い透析効率発現を可能とする中空糸膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平膜に比較して、大きな膜面積を小型のモジュールに納めることのできる中空糸膜は、容積効率に優れており、液体処理関係の様々な分野で活用されており、特に血液浄化処理分野においてはその主流を占めている。
【0003】
中空糸膜は、1000本〜20000本を束ねた状態でモジュールと呼ばれるハウジング内に納められ、中空糸膜モジュールとして組み立てられる。中空糸膜モジュールの性能は、構成する中空糸膜自体の透過性能に左右されることはもちろんであるが、その構造による影響も無視できない。
【0004】
中空糸膜モジュールは、例えば血液浄化用に用いられる場合、その使用に際し、血液は中空糸膜の内側を流れ、透析液は中空糸膜の外側、つまり中空糸膜同士の隙間を流れることにより、血液と透析液との間で膜を介して血液中の不要物質を透析液側に除去する仕組みをとっている。このとき、透析液が全ての中空糸膜間を均一に流れず、ある一部分のみに流れると、透析液が流れない部分の中空糸膜は有効に活用されないため、透析効率が著しく低下し、モジュールとしての透過性能が十分に発現されない。この現象を偏流またはチャネリングと呼んでいるが、特に尿素などの低分子物質の除去能に多大な悪影響を与えることが知られている。
【0005】
一方、上記のような中空糸膜間の間隙が十分でない中空糸膜束は、モジュール組み立て時の接着性に不良が生じやすい。すなわち、モジュール組み立て工程において、中空糸膜端部とモジュール端部を樹脂によって接着する際に、中空糸膜間の間隙が不十分であるとその間に樹脂が入り込まずに空間が生じ、微小リークやス抜けと呼ばれる接着不良が発生する。そこで、上述したような偏流現象や接着不良を回避するために、これまで多くの工夫がなされてきた。
【0006】
例えば、中空糸膜外側、長手方向に複数のフィンを形成させ、中空糸膜同士の密着を防止することにより、中空糸膜の間隙を保つ技術が開示されている。(特許文献1参照)。また、中空糸膜にスペーサーヤーンを巻き付け、スペーサーヤーンの広がりの力を利用することで、中空糸膜間の間隙を確保する技術が示されている。(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、前者の技術は特殊な口金が必要であり、操業面や紡糸条件にも制約がかかり、真円状の中空糸膜ほどの透過性能を発現させることは困難であり、現実的ではない。また、後者の技術は、スペーサーヤーンを巻き付ける工程が必要であるためコスト高となるし、嵩高さが増すために、コンパクトなモジュールを得ることができないという問題がある。
【特許文献1】特開昭61−119274号公報
【特許文献2】特開平5−41979号公報
【0007】
そこで、操業面や紡糸条件に対する制約も少なく、低コストで簡略に偏流現象や接着不良を防ぐ方法として、中空糸膜にクリンプと呼ばれる捲縮を付与することで、隣り合う中空糸膜同士の密着を防ぐ技術が開示されている。(例えば、特許文献3参照)。該文献に開示の技術は紡糸された中空糸膜をボビンに特定の綾角で巻きとることにより上下に重なる中空糸膜同士が点接触した状態になる。この巻き取られたチーズを熱セットすることにより点接触した部分を支点とした波形の形状(クリンプ)を中空糸膜に固定することができる。この方法は確かに有効な技術であるが、クリンプを熱固定するために、紡糸後に別途、特殊な条件で加熱処理するための工程が必要となり、それに伴う所要時間が無視できない。また、ボビン巻き状態での処理に限定され、ボビン巻きができない中空糸膜には適用できないという問題がある。さらに、ボビン内層と外層において、単位長さ当たりのクリンプ数が異なるため、外層側の中空糸膜を用いて作製されたモジュールを内層側の中空糸膜を用いて作製されたモジュールとの間で性能差が生じるという問題がある。
【特許文献3】特開昭58−182722号公報
【0008】
近年になって、上記のクリンプの効果が再確認されるようになり、ボビン巻き以外の形態で製造される中空糸膜に対してもクリンプを付与するための試みがなされてきた。特に近年は、中空糸膜の内側に緻密なスキン層を持つ非対称構造を有する中空糸膜が注目を浴びている。非対称構造膜は、中空糸膜の内側にスキン層を形成するために芯液としてポリマーに対して凝固性を有する液体、特に水溶液を用いて製造される。このような中空糸膜をボビンに巻き取ると水を含む芯液が入った状態になるので、クリンプ固定のために加熱処理すると、水の蒸発に伴う表面張力の影響により膜が潰れてしまう。
【0009】
非対称構造の中空糸膜にクリンプを付与する方法としては、相対するギヤ間に中空糸膜を蛇行させながら通過させることにより、機械的に中空糸膜にウェーブを形成するといった処理を行うことが試行されている。しかしながら、このような機械的な処理では、特に血液浄化に用いられるようなデリケートな中空糸膜に対しては、これまで有効なクリンプを付与することができていないのが現状である。というのは、効果的な強いクリンプを付与するためには機械的な外力をより強く中空糸膜に与える必要があるため、中空糸膜を変形、閉塞させてしまったり、膜を破損してしまったりする可能性が非常に高くなるからである。
【0010】
したがって、従来の技術では極力中空糸膜にダメージを与えないよう、クリンプ間ピッチの長い大波のウェービング構造のものしか製品とすることができていない。しかしながら、このような大波のウェービング構造では、隣り合う中空糸膜同士の間隙を確保する効果が十分ではないため、これだけでは偏流を完全に回避することはできず、モジュールのハウジング構造の改良など、他の技術との併用によって対応しているのが現実である。
【0011】
また、例えば特許文献4では、波長10mm以上、振幅0.2mm以上のクリンプを付与することで上記問題の解決を図っているが、偏流抑制効果の安定性に問題があり、多数のモジュールを作製した際には本来の透過性能を発現できないモジュールが混在してしまうことがあった。
【特許文献4】特開2005−348784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、これらの従来技術に鑑み、中空糸膜の品質不良を抑制しつつ、モジュールとして組み立てた際の透析液等の偏流現象を防止し、安定した高い透過性能発現と接着不良の低減を可能とする中空糸膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決することができる本発明の中空糸膜の製造方法は、以下の構成によりなる。
(1)外周面上に多数のロッドを備えた少なくとも一対のロールからなるクリンプ付与装置に中空糸膜を通過させることによりクリンプを付与する中空糸膜の製造方法であって、中空糸膜がロール外周面上のロッドに沿って走行しながら進行方向を変えつつ、ロール間の噛み合わせ部に中空糸膜が挟み込まれ、蛇行し、クリンプが付与されることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
(2)該ロールの噛み合わせ部が互いに接触しないことを特徴とする(1)に記載の中空糸膜の製造方法。
(3)該ロッド間のピッチが15mm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の中空糸膜の製造方法。
(4)該ロッドの外径が1〜5mmφであることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
(5)該ロッドが自由に回転することを特徴とする(1)〜(4)いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
(6)該ロッドの表面が鏡面加工されていることを特徴とする(1)〜(5)いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
(7)該ロール間の噛み合わせ部に中空糸膜が挟み込まれる噛み込み深さが0.3〜5.0mmであることを特徴とする(1)〜(6)いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の中空糸膜の製造方法によれば、中空糸膜モジュール組立て時の接着不良の低減とモジュール使用時の偏流防止に効果的なクリンプを付与できるので、安定した高い透過性能を発現可能な中空糸膜を高歩留まりで得ることが可能となる。また、機械的にクリンプを付与する際、従来は中空糸膜の偏平や閉塞、破損のリスクが大きな問題であったが、本発明の製造方法によりこういった不良製品の発生を抑制することが可能となる。さらには熱固定に必要なエネルギーも不要となるため省コスト、設備の簡略化にも有効である。従って、特に品質保持が強く求められる中空糸膜の製造方法として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を適用した中空糸膜の製造方法の実施形態を説明する。
【0016】
熱固定法以外の従来のクリンプ付与技術では十分なクリンプを付与できない原因について、本発明者らは詳細に調査、検討を行った。
【0017】
まず、中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜間の間隙を確保し、間隙を流れる流体の偏流を防止するために重要なクリンプの要素について検討した。中空糸膜に付与された波状またはそれに類する形状のものであって、中空糸膜を鉛直に自然に垂らした程度では波状の形態を保持するものをクリンプと呼んでいるが、その特性値として、クリンプの数(中空糸膜単位長さあたりに存在する個数)と振幅(中空糸膜が長さ方向と垂直に振れている大きさ)で評価される。これら双方について検討したところ、クリンプの振幅よりもクリンプの数がより重要であることを見出した。すなわち、少ないクリンプ数で大きな振幅をもった中空糸膜同士では、中空糸膜同士が接触したまま同一走行する区間が無視できず生じてしまうのに対し、多くのクリンプ数をもつ中空糸膜同士では同一走行する確率が物理的に減少するため、偏流防止により有効であることを突き止めた。さらに、熱固定されていないクリンプは、クリンプ付与後に中空糸膜に加えられる張力その他の外力によってその形状や機能が失われることがあるが、クリンプ数が多いほど、一つのクリンプにかかる外力の影響が少なくなるため、よりクリンプ形状や機能を保持しやすいというメリットもある。
【0018】
そこで、クリンプ付与装置について検討を加えたところ、図7に示すような従来装置では、加工精度・組立て精度・動作の遊びなどの技術的な問題から、クリンプ数を増加させるのに有効なピッチを狭めることが困難であることが判明した。さらに調査、検討を進め、図6に示すような方式にて、設備的には有効なピッチを確保することに成功したが、特に膜厚が薄く比較的強度の弱い中空糸膜に対してはどうしても有効なクリンプを付与させることができなかった。また、無理にクリンプを付与させようとすると、中空糸膜に偏平や閉塞が発生し、中空糸膜の品質や機能が失われてしまうという問題があった。
【0019】
このクリンプの消失や弛緩について詳細に調査した結果、1つには後方の工程で中空糸膜が引っ張られることにより、クリンプ付与装置により挟まれた部分で中空糸膜が滑っているということが分かった。すなわち、中空糸膜にかかる応力が一点に集中せず中空糸膜長さ方向に分散した結果、付与されたようにみえたクリンプが巻き取り工程やバンドル化工程、洗浄工程、乾燥工程、バンドル形態での保存期間中にクリンプが伸びてしまい、血液浄化器などの中空糸膜モジュール作製の歩留まりが低下するとか、中空糸膜モジュールの性能を十分発現することができないなどの問題が生じていた。
また、別の理由として、中空糸膜がクリンプ付与装置のギヤやロールの噛み込み部に挟み込まれる際にも、中空糸膜の滑りを避けることができない。特に、前工程より中空糸膜がフリーに走行してきた場合、噛み込み部での滑りはより大きくなり、応力が1点に集中せず、中空糸膜にクリンプが固定されない原因となっていると考えられた。
そこで、本発明者らはクリンプ付与装置での中空糸膜の滑り防止について鋭意検討の結果、クリンプ付与装置において、少なくとも一対のロール間に中空糸膜が挟み込まれる前後でロール外周面に中空糸膜を一定距離以上沿わせるように走行させることで、ロッドと中空糸膜との滑りを抑制し、ロッドの圧力を中空糸膜の一点に集中させることにより、熱などのエネルギーを加えなくとも非常に良好なクリンプを中空糸膜に固定できることを発見し、ついに本発明を完成した。
【0020】
本発明におけるクリンプ付与は、外周面上に多数のロッドを備えた少なくとも一対のロール間の噛み合わせ部に中空糸膜を挟み込むことによりクリンプを付与することが好ましい。少なくとも一対のロールは、それぞれ等速で回転し、ロールの外周面は平行に配された多数のロッドで構成されており、完全に接触しないよう互いにギヤ状に噛み込ませることができるように構成されている。そして、該ロール間に中空糸膜を挟み込ませることによりクリンプを付与することができる。ロッドは平行に配されることが好ましいが、幾何学的に完全に平行でなくとも、該ロールを噛み込ませたときに中空糸膜が押し潰されない程度の間隙を設けることができれば、多少のずれは許容できることもある。本発明において、クリンプの付与は一対のロール間を一回通すだけでよいが、一対のロールを用いて八の字状に中空糸膜を走行させても良いし、ロールを3つ以上組み合わせたものを用いて、それぞれの噛み合わせ部分を順次通過させる方法をとることも本願発明の範囲内である。
【0021】
本発明において、ロールの径は特に限定されないが、あまり大きすぎると設備コストが増大するだけでなく、中空糸膜をロール間に通す際の作業性の低下や走行中の中空糸膜の弛みや糸切れの懸念が生じる。また、小さすぎると十分な数のロッドをロールに備えることが難しくなるし、クリンプ付与部分の条件設定がセンシティブになりすぎる可能性がある。例えば、外径100〜2000μmの中空糸膜へのクリンプ付与を前提とすれば、ロール外径は10〜50cmφ程度が適当である。このようなロールを2つ以上組み合わせてクリンプ付与に用いる。
【0022】
また、ロッドまたは突起の数は、ロールの大きさやどのような波長、振幅のクリンプを得るかにより変わるものであり特に限定されないが、極度に少ない場合は物理的に中空糸膜を挟み込むことが困難となり有効なクリンプを付与できない可能性がある。逆に、極度に多い場合は設備が巨大化してしまうだけでなく、走行中に弛みや糸切れが発生することがある。したがって、好ましくは20本以上1000本以下、より好ましくは50本以上300本以下である。
【0023】
本発明においてロールの外周面上に備えられたロッドは、一方のロールのロッド間の溝部分に他方のロールのロッド部分を互いにギヤ状に噛み込ませることができれば、その構成は特に問わない。多数のロッドを平行に外周面上に配置してもよいし、ロッドの代わりにロールの外周面を削り出すことにより平行に多数の溝と突起部を形成せしめてもよい。ただし、ロッドまたは削りだしによって形成された突起部の外周部は、中空糸膜に直接接触するので、中空糸膜を傷つけないよう、外周面に配するロッドは円柱形が好ましく、または突起部は中空糸膜の進行方向に沿って円弧状となるように形成されているのが好ましい。ロッドおよび突起の中空糸膜に接触する表面は中空糸膜との接触により中空糸膜に傷をつけないよう、また中空糸膜が滑らないように鏡面加工されているのが好ましい。また、ロッドの場合には中空糸膜の走行に沿って回転するように設計されると中空糸膜へのダメージがより軽減されるのでさらに好ましい。ロッドおよび突起の材質については特に限定されないが、加工性や入手のしやすさからステンレス製またはアルミニウム製であることが好ましく、ステンレス製が耐久性の面から、より好ましい。また、表面に耐蝕性や滑り止め、耐摩耗性向上のためのコーティング処理が施されたものを使用することも本発明の範囲内である。
【0024】
本発明におけるクリンプ付与装置に備えられるロッドまたは突起間のピッチは、目的とするクリンプ数により適宜設定すればよいが、有効なクリンプ数を確保するためにはできるだけピッチが狭い方が好ましい。しかし、狭すぎると加工性、耐久性の低下や中空糸膜を挟み込む隙間の確保が困難になるため、1mm以上15mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以上10mm以下、さらに好ましくは4mm以上8mm以下である。ロッドまたは突起間のピッチは等間隔である方が製作上やメンテナンス上都合がよいが、互いにギヤ状に噛み込ませることができれば意図的に間隔を変えてもよい。また、ロッドまたは突起は、円筒部分の回転軸に対して平行に配するのが製作上やメンテナンス上都合がよいが、これも互いにギヤ状に噛み込ませることができれば意図的に変えてもよい。
【0025】
ロッドまたは溝の削りだしによって形成された突起部の径については、大きすぎると上記のピッチを確保することが困難となり、また小さすぎると中空糸膜が折れてしまうリスクが増大する。中空糸膜の強力や伸度にもよるが、好ましくは1.0〜5.0mmφであり、より好ましくは2.0〜4.0mmφである。
【0026】
本発明において、中空糸膜にクリンプを付与する際、ロールの噛み込み部分の前後をロールの外周面に沿って中空糸膜を走行させることが重要なポイントである。このことによって、中空糸膜がロールの噛み込み部分でスリップすることなく把持され、中空糸膜の一点にロッドまたは突起の応力が集中し、有効なクリンプを付与できる。この点について更に検討の結果、中空糸膜がクリンプ付与装置に接触してからロール間の噛み合わせ部分を通過しクリンプ付与装置を離れるまで、ある程度の区間が必要である。その好ましい区間を、中空糸膜が接触しつつ走行するクリンプ付与装置の回転軸を中心にした角度で表すと、およそ延べ90°以上あれば足りるといえる。噛み込み前後で各々45°以上取るのがより好ましい。接触しつつ走行する区間が少ない場合には、巻取りやその後の工程から受ける張力により、ロール間の噛み合わせ部分を通過する中空糸膜がスリップすることがあり、効果的なクリンプが得られないことがある。また、接触しつつ走行する区間が延べ720°を超えるような糸道は、設備が複雑化するだけでなく、クリンプ付与装置に中空糸膜を通す際の作業性や糸の弛み、糸切れといった操業面でのリスクが増大する可能性がある。したがって、中空糸膜が本発明のクリンプ付与装置のロール外周面に沿って走行する区間は、延べ90°以上720°以下が好ましく、より好ましくは、180°以上540°以下である。
【0027】
従来、熱固定せずに機械的にクリンプを付与しただけの中空糸膜は、その後の洗浄処理や乾燥処理、モジュール作製、保存期間中にクリンプが弛緩してしまったり、消失してしまったりといった課題の発生を抑えることが出来なかった。この理由について詳細はわからないが、フリーで走行してきた中空糸膜がクリンプ付与装置のギヤやベルトの噛み合わせ部に進入する際には、噛み合わせ部での中空糸膜のスリップが大きくなる。このようにスリップを起こすと、応力が中空糸膜の一点に集中しないために、後に中空糸膜が受ける外力や後処理においてクリンプが緩和してしまう現象が生ずるものと考えている。
本発明においては、クリンプ付与装置の噛み合わせ部に中空糸膜が進入する際のスリップを防止する配慮を施したことにより、熱固定せずとも強固で長時間のクリンプ保持性の良好なクリンプ付与ができたものと推測している。
【0028】
本発明において、中空糸膜1cm当たりのクリンプ数は0.50個/cm以上が好ましい。本発明者らの先行技術において、ボビン巻きし、熱固定を施すことによりクリンプを付与した中空糸膜を用いて作製したモジュールの偏流抑制効果は臨床の現場において実績がある。このボビン巻き品のクリンプ数を目標とし、クリンプ数の下限を前記範囲とした。0.60個/cm以上がより好ましく、0.65個/cm以上がさらに好ましい。クリンプ数が多すぎて特に問題が生じることはないが、クリンプ付与装置の製造コストや技術的難易度を考慮すると、10個/cm以下程度が上限と考えられる。
また、モジュール作製後のクリンプ数がクリンプ付与装置通過直後のクリンプ数の80%以上を保持することが好ましい。前記範囲を保持しているということはすなわち、クリンプ付与設備通過後のさまざまな工程を経てもクリンプの消失度合いが小さいということであり、中空糸膜にクリンプが強固に固定されているということである。よって、実使用時の偏流発生の可能性を低く抑えることができるため好ましい。クリンプ保持率は85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0029】
また、本発明の中空糸膜は、振幅が0.2mm以上のクリンプが付与されていることが好ましい。中空糸膜の振幅が小さすぎる場合、モジュール組み立て工程においてフィルム内の中空糸膜のずれによりモジュール組み立て性が悪化したり、中空糸膜同士の密着及び透析液の偏流により尿素等の小分子量物質の透過性能の低下が発生することがある。一方、クリンプの振幅が大きくなりすぎるとモジュール組み立て工程で、中空糸膜の束をモジュールケースに挿入する際の抵抗が大きくなることにより中空糸膜表面が傷ついてしまい、リークが発生することがある。したがって、クリンプの振幅は5mm以下、より好ましくは4mm以下である。
【0030】
クリンプ付与装置において、中空糸膜を挟み込む噛み合わせ部の深さは、ロッドまたは突起部の径、またはそれらのピッチ、さらには中空糸膜の強度や伸度、外径、所望するクリンプの振幅などにより適宜設定すればよい。噛み合わせ部の深さが浅すぎる場合には、有効なクリンプを付与できず、逆に深すぎる場合には中空糸膜の偏平や走行中の弛み、糸切れなどの問題を引き起こすため、好ましい噛み合わせ部の深さは0.5mm以上5.0mm以下である。
【0031】
また、中空糸膜が完全に弛緩した状態では有効なクリンプを付与することができないため、クリンプ付与部分には適度な張力を与える必要があるが、これについても、その強さはクリンプ付与装置のロッドまたは突起部の径、またはそれらのピッチ、中空糸膜の強度や伸度、外径などにより適宜適当な強さが選択される。クリンプ付与装置の回転速度および噛み込み深さによって調整可能であり、効果的にクリンプを付与するために、最も変形を受ける部位が膜の降伏強度以上、破断強度未満となるよう設定することが好ましい。具体的には、中空糸膜1本当り0.5〜50gfの張力を与えるのが好ましい。
【0032】
本発明において、クリンプ付与装置を走行する中空糸膜の速度は、中空糸膜の巻き取りに問題のない速度であれば特に規定されないが、血液浄化用の中空糸膜の場合、中空糸膜性能への影響なども考慮し5〜200m/minが適当である。
【0033】
本発明における中空糸膜の径および膜厚は、用途や膜素材などによって適当に選択され、中空糸膜として有用なものであれば特に規定されないが、径が大きすぎるとクリンプ付与装置のロッド間の隙間の確保が難しく、また径が小さすぎると膜面積を確保するためにコストが上がってしまうなどの問題があるため、好ましい外径は100μm以上2000μm未満であり、より好ましくは150μm以上1500μm未満である。また、膜厚を薄くしすぎると本発明を適用しても有効なクリンプ付与と中空糸膜の品質維持が困難となり、逆に厚くしすぎると原料コストがかかることや膜モジュールとしての性能の低下の懸念があるため、好ましい膜厚は10μm以上150μm未満であり、より好ましくは15μm以上100μm未満である。
【0034】
また、本発明において、クリンプ付与装置を通過させる中空糸膜は、複数本まとめた状態で走行させてもよいが、まとめる本数が多すぎると、見かけ上の径が太くなるため、クリンプ付与装置のロッド間の隙間が十分に確保されず、偏平や閉塞が発生しやすくなる。また、まとめた状態でクリンプを付与しても、クリンプの位相が同調しているためバラケにくく、本発明の効果が得られないことがある。したがって、クリンプ付与装置を走行させる際の中空糸膜をまとめる際は、10本以下が好ましく、より好ましくは4本以下である。まとめずに単糸で走行させることがさらに好ましい。
【0035】
本発明における中空糸膜の素材は特に限定されず、セルロース誘導体またはポリスルホン系もしくはポリアクリロニトリル系高分子、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、市場における普及率や高い透過性能が発現できる点などからセルロース誘導体またはポリスルホン系もしくはポリアクリロニトリル系高分子が本発明の効果が高く、好適に使用できる。
【0036】
本発明における中空糸膜の構造は特に限定されないが、中空糸膜の芯液に水溶液を用いて生産される、内側にスキン構造を持つ非対称膜と呼ばれる中空糸膜は、チーズ形態での生産が難しく従来技術では有効なクリンプを付与することが困難であったため、本発明の効果がより高い。
【0037】
また、本発明によって得られた中空糸膜は、1000本〜20000本を束ねた状態で中空糸膜モジュールとして組み立てられるが、モジュールのハウジング径と中空糸膜の外径により適当な本数が選定される。充填率を(中空糸膜外形)×(中空糸膜本数)/(モジュールハウジング端部内径)×100(%)と定義したとき、好ましい充填率は30%〜75%である。充填率が30%を下回るほど小さくなると、モジュールサイズに対して有効な膜面積が稼げないため非効率的であり、本発明の効果も小さい。また逆に、充填率が75%を超えるほど大きくなると、モジュールハウジング内における中空糸膜同士が密着し、物理的に中空糸膜間の間隙を得ることが困難となるだけでなく、ケースに挿入する際の接触により膜を傷つけてしまうなど、他の問題の要因ともなる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例にて本発明の好ましい実施態様を説明する。ただし、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0039】
(中空糸膜の内径、膜厚の測定方法)
中空糸膜断面のサンプルは以下のようにして得ることができる。測定には芯液を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた形態で観察することが好ましい。乾燥方法は問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去したのち、純水で完全に置換した後、湿潤状態で形態を観察することが好ましい。中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられた3mmφの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon-12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5断面について同様に測定を行い、平均値を内径、膜厚とした。
【0040】
(中空糸膜のクリンプ数の測定方法)
中空糸膜に付与したクリンプ数は次のようにして測定する。中空糸膜を20cm程度切り取り、中空糸膜の長さ方向が向かって垂直となるように置いたとき、波状となっている部分の山の頂上の個数をカウントし(谷の個数はカウントしない)、切り取った中空糸膜の長さから単位長さあたりの個数を算出する。中空糸膜5本について同様に測定し、平均値とする。この際、中空糸膜の長さは、自然な状態で鉛直下方に垂らしたときの見かけの長さを用いる。
【0041】
(中空糸膜の振幅の測定方法)
中空糸膜に付与した振幅は次のようにして測定する。中空糸膜を10〜30cm切り取り、波状となっている部分の、1つの山とその次の谷の長さ方向に対する振れ幅を測定し、その1/2の値を算出する。中空糸膜5本について同様に測定し、平均値とする。
【0042】
(中空糸膜の真円度の測定方法)
中空糸膜の偏平度合いを評価するために、中空糸膜の真円度を測定した。真円度とは中空糸膜断面における中空糸膜内径の短軸/長軸比のことであり、例えば真円であれば真円度は1である。画像解析ソフト「Image-Pro Plus」(Media Cybernetics社)によって、モジュール端面中任意の100個の中空糸膜断面に関して画像解析による測定を実施し、その平均値を求めた。
【0043】
(中空糸膜の潰れの測定方法)
中空糸膜の閉塞を評価するために、中空糸膜の潰れを測定した。中空糸膜の潰れとは、中空糸膜断面における中空糸内径の短軸/長軸比が1/3未満の偏平の極端なものや実質的に中空部が潰れているものと定義し、モジュール端面中に存在する個数をカウントし、端面に含まれる中空糸膜の総本数からその存在割合を求めた。
【0044】
(中空糸膜モジュールの尿素クリアランスの測定方法)
中空糸膜モジュールの尿素クリアランスは、日本透析医学会発行のダイアライザー性能評価基準に従って測定し、膜面積1.0m2あたりの値に換算した。
透析液(キンダリー希釈液)に尿素1.0g/Lの濃度で溶解させ測定液とした。モジュールの血液側入口より200ml/minの速度で37℃の測定液(以下B液とする)を導入し、透析液側入口より37℃に保った透析液(以下D液とする)を500ml/minにてB液に対し向流で導入した。B液入口、出口圧(それぞれPBi、PBoとする)およびD液入口、出口圧(それぞれPDi、PDoとする)を計測し、式1で示される膜間圧力差(TMP)100mmHgにて測定を行った。
TMP=(PBi+PBo)/2−(PDi+PDo)/2 (式1)
測定中に流量変化がないことを確認しながら、B液の入口と出口の液とD液の出口の液をサンプリングした。和光純薬製尿素窒素テストワコーBを用いてサンプリング液の濃度を求め、これらの値から式2、3にてクリアランス(CL)を算出した。
CL=(CBi×QBi−CBo×QBo)/CBi (式2)
ここで、CBiはB液入口溶質濃度(g/ml)、QBiはB液入口流量(ml/min)、CBoはB液出口溶質濃度(g/ml)、QBoはB液出口流量(ml/min)である。なお、これらの値にはマスバランスエラー(MBE)が5%以下であるものを採用した。MBEは以下の式2から算出した。
MBE=(QBi×CBi−QBo×CBo−QDo×CDo)/(QBi×CBi−QBo×CBo) (式3)
ここで、QDoはD液出口流量、CDoはD液出口濃度である。
本発明の中空糸膜の製造方法を採用することにより、5本のモジュールを用いて測定した尿素クリアランスのバラツキ(σ)が15以下という高品質の中空糸膜を精度良く得ることができる。より好ましくはバラツキが10以下、さらに好ましくは7以下である。
【0045】
(実施例1)
ポリエーテルスルホン(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)17.5質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K-90)3.0質量%、非溶媒として水5.5質量%、溶媒にジメチルアセトアミド74.0質量%を均一に溶解したものを紡糸原液とし、44.5質量%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液とした。2重管構造の紡糸用口金を用い、外側から紡糸原液を、内側から芯液を、垂直下方に向け吐出し、中空糸膜を形成した。長さ620mmの蒸気雰囲気中を通過させた後、凝固浴に浸漬させ、水洗浴、熱水浴を経た後、クリンプ付与装置を単糸で通過させ、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図3に示すようにS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前180°、噛み込み後180°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ2.5mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり1.0gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度75m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道は図4に示すように鉤型状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前90°、噛み込み後90°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ4.8mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ1.0mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり1.6gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0047】
(実施例3)
紡糸原液として、ダイセル化学工業製セルローストリアセテート19.0質量%、Nメチル2ピロリドン68.9質量%、トリエチレングリコール12.1質量%を180℃にて混合溶解したものを用いた。これを2重管構造の紡糸用口金の外側環状部から垂直下方に向け吐出した。同時に内側の管には芯液として水を供給し、中空糸膜を形成した。この中空糸膜は、30mmの蒸気雰囲気中を通過後、凝固浴、水洗浴を経た後、クリンプ付与装置を単糸で通過させ、カセにて巻取り速度60m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図5のようにS字状(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前210°、噛み込み後210°)とし、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ3.5mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり1.3gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0048】
(実施例4)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道は図3に示すようにS字状とし、中空糸膜をφ3.5mmのロッド間に噛み込み深さ3.0mmで挟み込ませた。該ロッド間のピッチは7.9mmであった。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり0.9gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度40m/minで巻き取った。クリンプ付与装置として、図6に示すような、上下に多数のロッドを備えたベルト状の設備を用い、中空糸膜をφ4.5mmのロッド間に噛み込み深さ4.5mmで挟み込ませた。該ロッド間のピッチは20.0mmであった。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり2.6gfであった。
巻き取られた中空糸膜10100本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0050】
(比較例2)
実施例3と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度60m/minで巻き取った。クリンプ付与装置を通過する糸道は図7のようにストレートとし、クリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ4.0mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり1.3gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0051】
(比較例3)
実施例3と同様に中空糸膜を形成し、カセによって巻取り速度60m/minで巻き取った。その際、クリンプ付与装置を通過する糸道は図8に示すようにクリンプ付与部分でカーブさせ(中空糸膜がクリンプ付与装置のロール噛み込み部の前後でロールに沿って走行する角度:噛み込み前30°、噛み込み後30°)、その中間部分でクリンプ付与装置にそれぞれピッチ7.9mmで配されたφ2.0mmのロッド間に噛み込み深さ3.5mmで挟み込ませた。なお、クリンプ付与設備における張力は、中空糸膜1本あたり1.2gfであった。
巻き取られた中空糸膜10800本の束をポリエチレン製パイプに挿入し、長さ方向と垂直に切断してバンドルとし、乾燥処理した。乾燥後のバンドルから中空糸膜を取り出し、クリンプの測定を行った。また、乾燥後のバンドルをモジュールに組立て、潰れ評価と尿素クリアランス測定を行った。
結果を表1に示す。ただし、モジュールは5本作製し、尿素クリアランスは接着不良モジュールを除いて測定した平均値を示す。また、モジュール径に対する中空糸膜の充填率は、55〜65%の範囲内であった。
【0052】
【表1】

【0053】
本発明を利用することによって、モジュール組立て時の接着不良を防止でき、また、偏平や閉塞といった中空糸膜の品質不良の抑制と安定した高い透析効率の発現を両立できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の中空糸膜の製造方法によれば、中空糸膜モジュール組立て時の接着不良の低減とモジュール使用時の偏流防止に効果的なクリンプを付与できるので、安定した高い透過性能を発現可能な中空糸膜を高歩留まりで得ることが可能となる。また、機械的にクリンプを付与する際、従来は中空糸膜の偏平や潰れ、破損のリスクが大きな問題であったが、本発明の製造方法によりこういった不良製品の発生頻度を抑制することが可能となる。さらには熱固定に必要なエネルギーも不要となるため省コスト、設備の簡略化にも有効である。従って、特に品質保持が強く求められる中空糸膜の製造方法として好適であり、産業界に大きな貢献が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の中空糸膜製造工程の全体を示す1例である。
【図2】本発明のクリンプ付与装置の1例を示す拡大図である。
【図3】本発明の実施態様(実施例1、4)を示す模式図である。
【図4】本発明の別の実施態様(実施例2)を示す模式図である。
【図5】本発明の別の実施態様(実施例3)を示す模式図である。
【図6】比較例1の実施態様を示す模式図である。
【図7】比較例2の実施態様を示す模式図である。
【図8】比較例3の実施態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1:ロッド
2:噛み込み深さ
3:ロッド間ピッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面上に多数のロッドを備えた少なくとも一対のロールからなるクリンプ付与装置に中空糸膜を通過させることによりクリンプを付与する中空糸膜の製造方法であって、中空糸膜がロール外周面上のロッドに沿って走行しながら進行方向を変えつつ、ロール間の噛み合わせ部に中空糸膜が挟み込まれ、蛇行し、クリンプが付与されることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
該ロール間の噛み合わせ部が互いに接触しないことを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
該ロッド間のピッチが15mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
該ロッドの外径が1〜5mmφであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
該ロッドが自由に回転することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
該ロッドの表面が鏡面加工されていることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項7】
該ロール間の噛み合わせ部に中空糸膜が挟み込まれる噛み込み深さが0.3〜5.0mmであることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の中空糸膜の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−190081(P2008−190081A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25289(P2007−25289)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】