説明

中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュール濾過装置

【課題】封止端部材に原水を供給する開口部を設けると共に、開口部から供給される原水の状況に影響されることなく、安定した原水の流路を確保して、原水を中空糸膜束全体に亘って充分に行き渡らせることができ、より効率的な濾過処理を行うことができる中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュール濾過装置を提供する。
【解決手段】開口端を有する複数本の中空糸膜が所定の間隙を設けて配置された中空糸膜束と、中空糸膜束の一端に設けられ、中空糸膜の開口端とは反対側の端部を封止および固定する封止端部材とを備えており、封止端部材の中心部に、中空糸膜束の中心部に原水を供給する開口部が設けられ、開口部に連続して形成された原水の流路空間に、開口部に対応した筒状で、中空糸膜束の形状を維持することができ、側周面に原水の出入りが自在な流通孔を有する流路エレメントが設けられている中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理や海水淡水化等に用いられ、高い流束を有する中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュール濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排水処理システムや海水淡水化システム等において、複数本の中空糸膜を集束して形成された中空糸膜モジュールを用いて、海水等の原水を濾過する中空糸膜モジュール濾過装置が提案されている。
【0003】
そして、その濾過方式としては、中空糸膜の内表面側から外表面側へ濾過する方式(内圧式)に比べて、単位容積当たりの濾過に寄与する膜面積を大きく確保することができ、コスト的に有利である中空糸膜の外表面側から内表面側へ濾過する方式(外圧式)が広く採用されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−57154号公報
【特許文献2】特開平5−212254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外圧式であっても、従来の中空糸膜モジュール濾過装置は、充分な流束(単位面積、単位時間あたりの濾過量)が確保されているとは言い難く、さらなる効率的な濾過処理が望まれていた。
【0006】
本発明者は、従来の外圧式の中空糸膜モジュール濾過装置において、充分な流束が確保できなかった原因が、原水の供給が中空糸膜束の外側から内側へ行われることにより、束の中心部に近い中空糸膜には原水が十分に行き届かず、中空糸膜モジュール内で原水の流れが一様とならないことにあることを確認した。
【0007】
これを、図5および図6に基づき説明する。図5は従来の外圧式の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。そして、図6の(a)は従来の中空糸膜モジュールの基本的構造を説明するために中空糸膜の本数を少なくして模式的に描いた断面図であり、(b)は封止端部の平面図である。なお、図5および図6は、作図の意図が異なるため、各部の寸法は比例させていない。
【0008】
各図において、1は中空糸膜モジュール、2は中空糸膜、3は中空糸膜束、4は封止端部材、5は外筒、6は間隙、7は集水室、8は原水供給口、9は濾過水取出口であり、10、11は原水排水口である。
【0009】
図5および図6に示すように、従来の中空糸膜モジュール濾過装置において、中空糸膜モジュール1は、多数の中空糸膜2を集束することにより形成された中空糸膜束3と、中空糸膜束3の一端に、各中空糸膜2の一端を封止および固定する封止端部材4が設けられて構成されており、封止端部材4が外筒5の原水供給口8に対向するように外筒5に収納されている。
【0010】
このため、外筒5の原水供給口8から取り込まれた原水は、封止端部材4により流水方向が変更させられ、中空糸膜束3と外筒5の間隙6、即ち、中空糸膜束3の外周部に送られ、さらに、中空糸膜束3の外周部から、多くの中空糸膜2間の間隙に供給される。
【0011】
各中空糸膜2の外表面に至った原水は、中空糸膜2の外表面側から内表面側に向けて濾過される。濾過された濾過水は、中空糸膜2の内部を集水室7に向けて送られ、濾過水取出口9から外部に別途設けられた貯水容器等に送られる。
【0012】
しかし、このような構造の場合、中空糸膜間の間隙への原水の供給は中空糸膜束の外側のみから行われるため、束の中心部に近い中空糸膜間には原水が十分に行き届かず、中空糸膜モジュール内で原水の流れが一様とならず、充分な流束を確保できなかった。
【0013】
そこで、本発明者は、その解決策として、中空糸膜束の一端を封止、固定する封止端部材の中心部に、原水を中空糸膜束の内側から供給するための開口部が設けられた中空糸膜モジュールを提案した(特願2010−173549号:2010年8月2日出願)。
【0014】
これを、図7に基づき説明する。図7の(a)は、上記で提案した中空糸膜モジュールの基本的構造を説明するために模式的に描いた断面図であり、(b)は封止端部の平面図である。図7に示すように、上記で提案した中空糸膜モジュール1においては、封止端部材4の中心部に、原水を中空糸膜束3の内側へ直接供給する開口部4aを設けているため、原水供給口8から取り込まれた原水は、中空糸膜束3の外周部に送られて、中空糸膜間の間隙6へ供給されると共に、開口部4aから連続して形成された流路空間12を経由して、中空糸膜束3の内側から中空糸膜間の間隙へ供給される。このため、中空糸膜束3全体に一様に原水を供給することができ、充分な流束を確保することができる。この結果、充分な濾過性能を発揮させることができ、効率的な濾過処理を行うことができる。
【0015】
しかしながら、上記の提案において、開口部4aから供給される原水の状況(供給量や供給圧など)が変化した場合、中空糸膜束3の中心部に形成された原水の流路空間12に沿った中空糸膜2が揺動して、流路空間12の形状が安定せず、充分な流束を安定して確保することができない恐れがある。
【0016】
そこで、本発明は、封止端部材に原水を供給する開口部を設けると共に、開口部から供給される原水の状況に影響されることなく、安定した原水の流路空間を確保して、原水を中空糸膜束全体に亘って充分に行き渡らせることができ、より効率的な濾過処理を行うことができる中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュール濾過装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、以下の各請求項に示す発明により、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、各請求毎に説明する。
【0018】
請求項1に記載の発明は、
中空糸膜の外表面側から内表面側に向けて原水を濾過する中空糸膜モジュール濾過装置に用いられる中空糸膜モジュールであって、
開口端を有する複数本の中空糸膜が所定の間隙を設けて配置された中空糸膜束と、
前記中空糸膜束の一端に設けられ、前記中空糸膜の前記開口端とは反対側の端部を封止および固定する封止端部材とを備えており、
前記封止端部材の中心部に、前記中空糸膜束の中心部に原水を供給する開口部が設けられ、
前記開口部に連続して形成された原水の流路空間に、前記開口部に対応した筒状で、前記中空糸膜束の形状を維持することができ、側周面に原水の出入りが自在な流通孔を有する流路エレメントが設けられている
ことを特徴とする中空糸膜モジュールである。
【0019】
本請求項の発明においては、中空糸膜束の中心部に形成された原水の流路空間に筒状の流路エレメントを設けて、中空糸膜束の形状を維持すると共に、中空糸膜を拘束しているため、開口部から供給される原水の状況により中空糸膜が揺動したりすることがなく、安定した原水の流路を確保することができる。
【0020】
そして、流路エレメントの側周面には、原水の出入りが自在な流通孔が設けられているため、流路エレメントを通過した原水を、中空糸膜束3の内側から中空糸膜間の間隙へ充分に行き渡らせることができる。この結果、各中空糸膜の各々に充分な原水を供給できるため、より効率的な濾過処理を行うことができる。
【0021】
流路エレメントの材質としては、例えば、PP、PEなどを好ましく使用することができる。
【0022】
そして、流通孔の大きさとしては、各中空糸膜へ原水を充分に供給することができる大きさであれば特に限定されないが、通常は、直径10〜100mm程度とすることが好ましい。
【0023】
また、流路エレメントの形状としては、開口部の径に対応した径の円筒状であればよいが、開口部から離れた箇所では原水が行き渡りにくいことを考慮して、開口部から離れるに従って径を大きくした逆円錐台状とすることも好ましい。
【0024】
中空糸膜としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の中空糸膜を好ましく使用することができる。また、中空糸膜の孔径としては特に限定されず、MF膜、LF膜、UF膜のいずれも、好ましく使用することができる。
【0025】
請求項2に記載の発明は、
前記流路エレメントが、メッシュ形状の流路エレメントであることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールである。
【0026】
メッシュ状の流路エレメントは、流通孔の面積を大きくすることができ、また、容易に作製することができるため好ましい。
【0027】
請求項3に記載の発明は、
前記流通孔が、前記開口部から離れるに従って大きく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールである。
【0028】
開口部から離れるに従って、流路エレメントの流通孔を大きく形成することにより、開口部から離れた場所まで、開口部と同様に原水を充分に供給することができる。
【0029】
請求項4に記載の発明は、
前記流通孔が、前記開口部から離れるに従って、多く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールである。
【0030】
開口部から離れるに従って、流路エレメントの流通孔の数を多く形成することにより、開口部から離れた場所まで、開口部と同様に原水を充分に供給することができる。
【0031】
請求項5に記載の発明は、
前記流路エレメントが、逆洗時における曝気流路エレメントを兼ねていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールである。
【0032】
中空糸膜モジュールを用いて連続して濾過を行った場合、原水に含まれる難溶性成分や高分子の溶質、コロイド、微小固形物などが、徐々に膜表面に沈着して(ファウリング)、流束の低下を招いたり、膜の目詰まりが発生する。
【0033】
そこで、適宜、通常の濾過とは逆に、液を濾過水側から原水側に流して、膜に付着したファウリング物質を濁質として除去することが行われる(逆洗)。
【0034】
このとき、曝気機構を用いて、逆洗と同時に曝気(バブリング)を行うことにより、原水側の膜表面上に形成されたファウリング層などの濁質を、容易かつ確実に除去することができ、効率的に膜性能を回復させることができる。
【0035】
本請求項の発明においては、逆洗時、流路エレメントを曝気流路エレメントとして使用して、原水の流路を曝気流路としている。このため、曝気に対して中空糸膜の揺動を起こすことなく、曝気を中空糸膜束の全体に亘って行き渡らせることができ、効果的に、ファウリング層などの濁質を除去することができる。
【0036】
請求項6に記載の発明は、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールが、外筒に収納されている中空糸膜モジュール濾過装置であって、
前記外筒の一端に原水供給口が設けられ、他端に濾過水取出口が設けられており、
前記中空糸膜モジュールに設けられた封止端部材が、前記原水供給口に対向するように、前記中空糸膜モジュールが配置されている
ことを特徴とする中空糸膜モジュール濾過装置である。
【0037】
前記の中空糸膜モジュールは、中心部に流路エレメントを設けて、原水を安定して中空糸膜束全体に亘って充分に行き渡らせているため、より効率的な濾過処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、封止端部材に原水を供給する開口部を設けると共に、開口部から供給される原水の状況に影響されることなく、安定した原水の流路を確保して、原水を中空糸膜束全体に亘って充分に行き渡らせることができ、より効率的な濾過処理を行うことができる中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュール濾過装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。
【図2】(a)は本発明の第1の実施の形態の中空糸膜モジュールの基本的構造を説明するために中空糸膜の本数を少なくして模式的に描いた断面図であり、(b)は封止端部の平面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。
【図5】従来の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。
【図6】従来の中空糸膜モジュールの基本的構造を説明するために中空糸膜の本数を少なくして模式的に描いた断面図であり、(b)は封止端部の平面図である。
【図7】他の従来の中空糸膜モジュールの基本的構造を説明するために中空糸膜の本数を少なくして模式的に描いた断面図であり、(b)は封止端部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施の形態に基づき図面を用いて説明する。
【0041】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。図2の(a)は本発明の第1の実施の形態の中空糸膜モジュールの基本的構造を説明するために中空糸膜の本数を少なくして模式的に描いた断面図であり、(b)は封止端部の平面図である。なお、図1および図2は、作図の意図が異なるため、各部の寸法は比例させていない。また、図1〜7の各図は、理解の便宜のために模式的に示した図であり、1層の中空糸束しか描いていないが、実際には、中空糸膜モジュールの径に応じて、流路エレメントを複数層の中空糸束が囲んでいる。
【0042】
本実施の形態に係る中空糸膜モジュール1は、中空糸膜束3を構成する複数の中空糸膜2と、中空糸膜2の下端を閉じて封止して固定する封止端部材4を有している。また、中空糸膜モジュール1は、封止端部材4の中央に開口部4aを1個有するとともに、中空糸膜束3の中央部に中空糸膜2を設けない略円柱状で上端が閉塞された流路空間12を有している。また、原水供給口8から供給された原水が中空糸膜束3の外側に流れ過ぎるのを抑制するためのスカート4bが、封止端部材4の原水供給口8側の外周部に設けられている。中空糸膜2の上端は集水室7に開口し、中空糸膜2で濾過された濾過水が集水室7に集められて、濾過水取出口9から排出される。
【0043】
流路空間12には、筒状の流路エレメント13が嵌め込まれている。流路エレメント13は、中空糸膜束3の最も内側に中空糸膜2(流路空間12の輪郭を構成する中空糸膜2)に近接して配置されている。また、流路エレメント13には多数の流通孔13aが全長および全周に亘って形成され、流通孔13aは、パンチングやメッシュの網目などで形成されている。
【0044】
上記のように構成された中空糸膜モジュール1は、外筒5に収納されることにより、中空糸膜モジュール濾過装置が形成されて、海水淡水化等の濾過に使用される。
【0045】
本実施の形態に係る中空糸膜モジュール1によれば、原水供給口8から取り込まれた原水は、中空糸膜束3の外周部に送られる。それと共に、原水は、前記開口部4aおよび流路空間12を通して、中空糸膜束3の中心部にも直接供給される。このとき、中心部の中空糸膜2には、流路空間12に流入する原水の力が加わるが、中空糸膜2の動きが流路エレメント13により規制されるため、中空糸膜2の揺動を防ぐことができる。
【0046】
このため、中空糸膜2の揺動により流路空間12が狭められることがなく、安定した原水の流路空間を確保できるため、充分な量の原水を中空糸膜束3に確実に供給することができ、また、中空糸膜2の位置が安定するため、中空糸膜2内での原水の流通がスムーズとなり、中空糸膜2での安定した濾過が可能になる。この結果、中空糸膜束3の中心部側の中空糸膜2の流束を確実に向上させることができ、中空糸膜モジュール1全体として充分な流束を確保することができる。
【0047】
また、中空糸膜2の洗浄に用いられる逆洗装置は、洗浄水を濾過水取出口9から装置内に逆流させるための洗浄用水供給手段(図示省略)と、曝気用のエアを原水供給口8から装置内に供給するための曝気供給手段(図示省略)を備えており、これにより、洗浄水を逆流させながら、曝気を供給することにより、中空糸膜2の細孔を洗浄する。
【0048】
すなわち、洗浄水が中空糸膜2の内部に流入し、その側周に多数かつ緻密に形成されている細孔を通過して中空糸膜2の外部に流出し、この際、洗浄水により中空糸膜2に付着している濁質を流し去る。また、バブリング効果が加わるため、濁質の剥離が一層促進されることとなる。除去された濁質は、原水排水口10、11より外部に排出される。
【0049】
このとき、バブリング効果は、流路空間12を通じて中空糸膜束3の中心部の中空糸膜2にも及ぶ。その際、中心部の中空糸膜2にバブリングの力が加わるが、中空糸膜2の動きが流路エレメント13により規制されるため、バブリングによる中空糸膜2の揺動により流路空間12が狭められて曝気用のエアの供給量が減少するのを防ぐことができ、中空糸膜束3の中心部側においても所望のバブリング効果を確保することができ、中空糸膜束3の各中空糸膜2に洗浄効果を確実に及ぼすことができる。
【0050】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明の第2の実施の形態の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。図3に示すように、第2の実施の形態は、流路エレメント13の流通孔13aの大きさを、上側ほど大きくなるように設定した点を除いて、第1の実施の形態と同じ構成になっている。
【0051】
原水は上に行くほど流れの勢い(圧力)が弱くなるため、流路空間12の上側にまでは原水が行き渡りにくくなる。このため、原水は中空糸膜2の全長に行き渡り難くなり、中空糸膜2の流束が小さくなる。
【0052】
第2の実施の形態では、流路エレメント13の流通孔13aの大きさを、上側ほど大きくなるように設定したため、下側では流路エレメント13の流通孔13aからの原水の流出を抑えると共に、上側では流路エレメント13の流通孔13aからの原水の流出を促進することができる。このため、原水を流路空間12の全長に亘って万遍なく行き渡らせることができ、この結果、中空糸膜モジュール1全体として、充分な流束を確保することができる。
【0053】
(第3の実施の形態)
図4は、本発明の第3の実施の形態の中空糸膜モジュールを模式的に示す図である。図4に示すように、本実施の形態は、流路エレメント13を上側が広がった逆円錐台状に形成し、かつ、流路エレメント13の流通孔13aの数を、上側ほど多くなるように設定した点を除いて、第1の実施の形態と同じ構成になっている。
【0054】
これによっても、第2の実施の形態と同様に、流路空間12の全長に亘って万遍なく、原水を行き渡らせることができて、中空糸膜モジュール1全体として、充分な流束を確保することができる。
【0055】
第3の実施の形態では、流路エレメント13を逆円錐台状に形成しているため、上端ほど孔密度を高くすると共に、孔径も大きくすることができ、より高い流束を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、海水の淡水化処理に本発明の中空糸膜モジュール濾過装置を用いる場合を想定した実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【0057】
1.中空糸膜モジュール濾過装置
(1)中空糸膜モジユール
中空糸膜モジュールとして、材質がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、外径2.3mm、内径1.1mm、膜厚0.6mm、全長1200mm、有効長1000mmの中空糸膜を用いた。
【0058】
また、流路空間12の開口径は20mm、全長は1000mmである。なお、封止端部材の直径は80mmであり、外筒の外径は114mmである。
【0059】
(2)流路エレメント
流路エレメント13については、以下のタイプ1〜3の3つのタイプを用意した。
【0060】
(a)タイプ1(実施例1)
タイプ1の流路エレメントは、肉厚1mmのパンチング加工されたPP製シートを、内径20mmで全長1000mmの円筒状にして形成されている。流通孔13aは、流路エレメント13の全面に亘って同径で孔径10mmであり、孔数は等密度で孔密度0.5個/cmである。
【0061】
(b)タイプ2(実施例2)
タイプ2の流路エレメントは、肉厚1mmのパンチング加工されたPP製シートを、内径20mmで全長1000mmの円筒状にして形成されている。流通孔13aの孔数は、流路エレメント13の全面に亘って等密度で0.5個/cmであり、流通孔13aの孔径は、流路エレメント13の下端部の流通孔13aが10mm、上端部の流通孔13aが30mmであり、下端から上端に向けて徐々に大きくなるように設定されている。
【0062】
(c)タイプ3(実施例3)
タイプ3の流路エレメントは、肉厚1mmのパンチング加工されたPP製シートを、全長1000mmの逆円錐台状にして形成されている。流路エレメント13の下端の内径は10mm、上端の内径は40mmであり、内径は下端から上端に向けて直線的に増加するようになっており、全体として逆円錐台状に形成されている。流通孔13aの孔径は、流路エレメント13の全面に亘って同径で同じ孔密度で、孔径10mmであり、孔密度0.5個/cmであり、上端ほど孔数が増えるようになっている。
【0063】
2.流束
実施例1〜3および流路エレメントを有さない中空糸膜モジュールを用いた比較例1について、濾過テストを行うことにより流束を調べた。
【0064】
(1)濾過テスト
(a)濾過テスト方法
海水を略一定の圧力50kPaで供給して全濾過(膜供給水の全量を濾過する方式)を行い、濾過経過時間毎の濾過水量を測定して流束(m/d)を求めた。なお、濾過水の外部への流出口での圧力20kPa、差圧30kPaとして設計した。また、濾過方式は、外圧方式を採用した。
【0065】
(b)濾過テスト結果
濾過テスト結果をまとめて表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
(2)考察
表1より、比較例に比べて実施例の方が、流束が大きいことが確認できた。実施例の流束がこのように大きいのは、流路エレメント13を設けたことにより、原水が中空糸膜束の内部を流れやすくなり、中空糸膜束の全体により均等に行き渡るようになったためである。
【0068】
また、実施例1に比べて実施例2、3の方が、流束が大きいことが確認できた。実施例2、3の流束がこのように大きいのは、原水を流路空間12の全長に亘って万遍なく行き渡らせることができたことにより、中空糸膜モジュール1全体として、充分な流束を確保することができたためである。
【0069】
以上より、本発明によれば水を濾過する際の流束を大きくできるため、海水の淡水化や排水処理などの水処理をより効率良く行うことができる。
【0070】
以上、実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 中空糸膜モジュール
2 中空糸膜
3 中空糸膜束
4 封止端部材
4a 開口部
4b スカート
5 外筒
6 間隙
7 集水室
8 原水供給口
9 濾過水取出口
10、11 原水排水口
12 流路空間
13 流路エレメント
13a 流通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜の外表面側から内表面側に向けて原水を濾過する中空糸膜モジュール濾過装置に用いられる中空糸膜モジュールであって、
開口端を有する複数本の中空糸膜が所定の間隙を設けて配置された中空糸膜束と、
前記中空糸膜束の一端に設けられ、前記中空糸膜の前記開口端とは反対側の端部を封止および固定する封止端部材とを備えており、
前記封止端部材の中心部に、前記中空糸膜束の中心部に原水を供給する開口部が設けられ、
前記開口部に連続して形成された原水の流路空間に、前記開口部に対応した筒状で、前記中空糸膜束の形状を維持することができ、側周面に原水の出入りが自在な流通孔を有する流路エレメントが設けられている
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記流路エレメントが、メッシュ形状の流路エレメントであることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記流通孔が、前記開口部から離れるに従って大きく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記流通孔が、前記開口部から離れるに従って、多く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記流路エレメントが、逆洗時における曝気流路エレメントを兼ねていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールが、外筒に収納されている中空糸膜モジュール濾過装置であって、
前記外筒の一端に原水供給口が設けられ、他端に濾過水取出口が設けられており、
前記中空糸膜モジュールに設けられた封止端部材が、前記原水供給口に対向するように、前記中空糸膜モジュールが配置されている
ことを特徴とする中空糸膜モジュール濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−115747(P2012−115747A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266631(P2010−266631)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】