説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】本発明は、中空糸膜モジュールの大型化に当たっても容易に中空糸膜を開端することができる中空糸膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、中空糸膜が開口部を通して集水管に樹脂で固定された中空糸膜モジュールの製造方法であって、前記中空糸膜の先端が入るように凹部を設けた発泡樹脂製の溝部形成治具を前記集水管内に設置する工程と、前記開口部を通して前記凹部に前記中空糸膜の先端を配置する工程と、前記凹部に発泡性樹脂を充填し硬化させる工程と、前記凹部であって前記発泡性樹脂の上部に非発泡性ポッティング樹脂を充填し硬化させる工程と、前記発泡性樹脂の部分で前記中空糸膜を切断する工程と、残存した前記溝部形成治具を除去する工程と、を有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関する。より詳しくは、例えば河川水、し尿、下水、排水等の高汚濁水中に含まれる懸濁物質を濾過するのに用いることができる中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過膜及び限外ろ過膜などの多孔質膜は、工業廃水等の汚濁物質処理、医薬品用水等の無菌化などの目的で、幅広い分野において使用されている。
【0003】
これらの分野で用いられる中空糸膜モジュールには、例えば、従来の精密濾過の分野に用いられてきた円形状や同心円状に中空糸膜を集束して配置した円筒形タイプのものがある。また、近年では、膜処理槽での高集積化のために中空糸膜の開口部の形状がほぼ矩形である中空糸膜モジュールが用いられるようになってきた。
【0004】
上記した中空糸膜の開口部の形状がほぼ矩形である中空糸膜モジュールで吸引濾過する場合には、中空糸膜が疎な状態で濾過対象水の中に浮遊することになり、断続的若しくは連続的に膜面洗浄を行ないつつ濾過を行うことが出来る。従来の円筒タイプの精密濾過モジュールは、中空糸膜表面に有機物等が堆積して中空糸膜同士が固着一体化し、有効膜面積が減少し、濾過流量の急激な低下を起こす場合があった。一方、上記した中空糸膜の開口部の形状がほぼ矩形である中空糸膜モジュ−ルはこのような欠点がなく、また膜機能の回復処理も非常に容易である。
【0005】
こうした中空糸膜モジュールの構造に用いられるポッティング樹脂としては、エポキシ系、ポリウレタン系又はアクリル系の3種類が主な例として上げられる。これらのポッティング樹脂は構造体を形成することに力点が置かれており、非常に強い接着力が得られる。例えばこのポッティング樹脂と他の構成部材とを接着させ、力を負荷した場合、接合面が破壊する前に材料自体の破壊が生ずるほど接着力が強いことがよくある。
【0006】
ここで、図9に中空糸膜端面の開口部がほぼ矩形である中空糸膜モジュールにおける集水管部分の断面図を示し、中空糸膜モジュールの従来の製造例について説明する。図9に示した方法では、まず、中空糸膜(中空糸膜編織物)1を一旦矩形の型枠治具11を使用して樹脂固定し、その固化した樹脂の一部を切断(点線部分)して中空糸膜に開口端を形成する(図9(a))。その後、樹脂固定された中空糸膜の開口端を集水管2の側面に設けられたほぼ矩形状の開口部に挿入し、次いで、集水管2を逆さまにして、中空糸膜端面の開口部を閉塞しないように樹脂と集水管2の開口部との隙間にポッティング樹脂(不図示)を充填し固定する(図9(b))。
【0007】
これらの中空糸膜モジュールの製造例では、中空糸膜端部を一度矩形状にポッティングし一部を切断して中空糸膜の開口部を設けてから、集水管側面の矩形状開口部に挿入固定する方法をとっている。このため、集水管2とポッティング樹脂との接合面から漏れる場合があった。
【0008】
ここで、中空糸膜モジュールにおいては、ポッティングした中空糸膜の端部を開放する必要がある。そのため、中空糸膜モジュールの製造方法においては、高い接着力と同時に易開放性も重視される。そこで、構造体としての接着力と易開放性を同時に有する中空糸膜モジュールの製造方法の確立を目的として、様々な手法が開示されている。
【0009】
たとえば特許文献1においては、凹部を設けた軟質樹脂製の中空中子を集水管内に配し、その凹部に中空糸膜の端部を設置し、ポッティング樹脂により固化し、その後中空中子ごとカッターにより端部を開端する方法が開示されている。
【0010】
特許文献2においては、水溶性ゲルを充填・固化後、中空糸膜固定用のポッティング樹脂により固定し、固化後に水などにより水溶性ゲルを洗うことで端面を開端する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3330231号明細書
【0012】
【特許文献2】特表2003−532521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に記載の方法では、特に大型モジュールにおいて、長い矩形内に挿入する刃に大きな力を必要とし、切断機械及び刃に大きな負荷がかかるという問題点があった。また、切りやすくするために樹脂を加熱処理すると樹脂の可撓性が増大して切断時に樹脂のたわみが生じてしまうため、切断面が荒れるという問題点があった。
【0014】
特許文献2に記載の方法では、水溶性のゲルを洗浄する必要があり、十分に溶解させて洗浄するには時間を要する場合があり、またその残留物(未溶解物)がポンプ等を詰まらせる問題点があった。
【0015】
本発明は、中空糸膜モジュールの大型化に当たっても容易に中空糸膜を開端することができる中空糸膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明は、
[1]中空糸膜が開口部を通して集水管に樹脂で固定された中空糸膜モジュールの製造方法であって、前記中空糸膜の先端が入るように凹部を設けた発泡樹脂製の溝部形成治具を前記集水管内に設置する工程と、前記開口部を通して前記凹部に前記中空糸膜の先端を配置する工程と、前記凹部に発泡性樹脂を充填し硬化させる工程と、前記凹部であって前記発泡性樹脂の上部に非発泡性ポッティング樹脂を充填し硬化させる工程と、前記発泡性樹脂の部分で前記中空糸膜を切断する工程と、残存した前記溝部形成治具を除去する工程と、を有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
[2]前記溝部形成治具は、発泡性のフッ素樹脂製の容器であることを特徴とする[1]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[3]前記発泡性樹脂は、起泡・硬化後体積(Vb)と、硬化前の体積(V)との比(Vb/V)が、1.1〜10である[1]又は[2]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[4]前記溝部形成治具の気泡性状が独立気泡型であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[5]前記発泡性樹脂は、発泡剤を含むウレタン樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[6]前記非発泡性ポッティング樹脂はウレタン樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[7]前記中空糸膜は編織物であることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
[8]前記切断は、前記集水管の側面から切り刃を挿入して、前記発泡性樹脂と共に前記中空糸膜を切断することを特徴とする[1]乃至[7]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、中空糸膜の端面が開口した中空糸膜モジュールを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図2】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図3】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図4】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図5】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図6】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図であって、必要に応じて発泡性樹脂を除去した状態を示す概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図7】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図であって、好ましい形態の一例を示す概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図8】本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法における一工程を説明するための概略図であって、好ましい溝部形成治具の一例を示す概略図である((a)短手方向断面図、(b)長手方向断面図)。
【図9】従来の中空糸膜モジュールの製造方法を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図1〜8を参照にして説明する。図1〜8は、本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法を説明するための概略工程図であり、短手方向の断面図(a)と長手方向の断面図(b)を表す。
【0020】
まず、中空糸膜1の先端が入るように凹部を設けた発泡樹脂製の溝部形成治具3を集水管2内に設置する。そして、開口部を通して溝部形成治具3の凹部に中空糸膜1の先端を配置する(図1)。なお、集水管2の両端から樹脂が漏れないように漏れ止めを行うこともできる。
【0021】
次に、溝部形成治具3の凹部に発泡性樹脂4を充填し硬化させる(図2)。図2において、4’は発泡性樹脂4と中空糸膜を表す。
【0022】
次に、発泡性樹脂4の上部に前記発泡性樹脂との接着性を有する非発泡性ポッティング樹脂5を充填し硬化させる(図3)。図3では、中空糸膜1は発泡樹脂製の溝部形成治具3の凹部であって、かつ発泡性樹脂4を下側に非発泡性ポッティング樹脂5を上側にして集水管2に接着固定されている。図3において、5’は非発泡性ポッティング樹脂5と中空糸膜を表す。
【0023】
次に、発泡性樹脂4の部分で中空糸膜1を切断する(図4)。
【0024】
そして、残った溝部形成治具3を除去し、キャップ6を取り付けて、中空糸膜モジュールを作製する(図5)。残存した発泡性樹脂4は必要に応じて除去することができるが(図6)、中空糸膜モジュールとしての性能に問題がなければ、除去する必要はない。また、発泡性樹脂4と非発泡性ポッティング樹脂5との境界近傍で切断することにより、発泡性樹脂4の除去工程を省略する、または簡略にすることができる(図8)。
【0025】
以下、各構成要素について説明する。
【0026】
(発泡樹脂製の溝部形成治具)
本発明において、集水管に設置する溝部形成治具は発泡樹脂からなる。発泡樹脂製の溝部形成治具を用いることにより、切断工程を容易に行うことができる。この発泡樹脂材料については、発泡性を有する樹脂であれば、特に限定されない。また、溝部形成治具を発泡樹脂で作製することにより、その弾力性のため、集水管内に溝部形成治具を挿入することが容易で、隙間からの樹脂漏れを抑制することができる。
【0027】
発泡樹脂材料としては、例えば、発泡剤を添加した樹脂を用いることができる。
【0028】
発泡樹脂材料としては、たとえば発泡ポリスチレン樹脂等が挙げられる。より具体的には、ピオセラン ELV(「商品名」、ポリスチレン・ポリオレフィン複合樹脂発泡体:積水化成品工業株式会社製)、ポリオレフィン系発泡体 トーレペフ(「商品名」、東レ製)等が挙げられる。さらに気泡の形状としては寸法安定性やポッティング樹脂の浸透の防止の点から独立気泡であることが好ましい。
【0029】
また、溝部形成治具の形状は、中空糸膜の先端を配置する部分に凹部を有する。すなわち、溝部形成治具は、一部に凹部を有し、例えば集水管の開口部と前記凹部が一致するように挿入した際に、該溝部形成治具と集水管とで溝部を形成することができる形状を有する。また、集水管内に設置した際に、凹部が集水管の開口部に配置されるように設計し、集水管の内部形状に合わせて適宜形状を選択することが好ましい。円柱あるいは角柱などの棒状を呈しても良いし、凹部を維持したまま中空にしても良い(図8)。また、集水管に挿入したとき、集水管の内壁との間に適当な間隔を保って確実に設置固定できるように、溝部形成治具の側面の適当な部分に、集水管の内部形状に対応した突起を設置してもよい。
【0030】
(発泡性樹脂)
発泡性樹脂は、発泡性を有する熱硬化型樹脂であり、例えば、発泡剤を含有するエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の液状樹脂等を上げることができる。
【0031】
発泡性樹脂としては、発泡性の熱硬化樹脂であれば特に限定されるモノではない。熱硬化性樹脂に発泡剤を混合したモノでもかまわない。たとえばポリウレタン樹脂においては、軟質ウレタンフォームあるいは、硬質ウレタンフォームなどが挙げられる。それらの中でも特に主剤と硬化剤の組み合わせからなる2液混合型のタイプがその取り扱い上、好ましい。
【0032】
1液型では多くの場合、ガス封入による発泡を行うために流動性が乏しく、瞬時に発泡固化するモノが多く、膜間に充填するのにはその取り扱い性から好ましくない。
【0033】
2液混合型に用いられる発泡剤としては、熱分解型発泡剤、揮発型発泡剤、中空粒子型発泡剤等が挙げられる。これらの発泡剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0034】
熱分解型発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム等の無機系熱分解型発泡剤を用いることができる。また、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル又はジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系熱分解型発泡剤を用いることもできる。更に、揮発型発泡剤としては、プロパン若しくはブタン等の脂肪族炭化水素類、クロロジフルオロメタン若しくはジフルオロメタン等のハロゲン化炭化水素類、二酸化炭素又は窒素などを用いることができる。
【0035】
発泡剤の配合量は特に限定されないが、樹脂を100質量部とした場合に、例えば1〜50質量部とすることができ、1〜30質量部とすることがより好ましく、2〜25質量部とすることが特に好ましい。熱分解型発泡剤が配合されているときは、水を発泡剤とする場合のように特に急激に高温に昇温させる必要はなく、熱分解型発泡剤が分解する温度で加熱すればよい。
【0036】
発泡性樹脂において、硬化前の体積(V)と、気泡発泡時の体積(Vb)との比(Vb/V)は、1.1〜10であることが好ましく、1.1〜8であることがより好ましく、1.1〜5であることが特に好ましい。(Vb/V)がこのような範囲にあれば、容易に切断可能な十分な空隙率を有し、適度な強度と流動性を有することができる。(Vb/V)が1.1より小さいと、空隙率が低いために、加温を必要とするなど切断が難しくなるために好ましくない。また、(Vb/V)が10より大きいと、発泡の制御が難しく、中空糸膜の開放端部付近の樹脂の含浸性が低下するために好ましくない。
【0037】
また、発泡剤以外の材料として、必要に応じて、発泡助剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤又は顔料等の添加剤を適宜配合することができる。
【0038】
(非発泡性ポッテイング樹脂)
非発泡性ポッテイング樹脂としては、発泡性を有しないポッティング樹脂のことであり、通常使用されているポッティング樹脂を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いることができる。さらに必要に応じて、ポッティング樹脂に、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤又は顔料等の添加剤を配合することができる。
【0039】
(モジュールへのポッティング樹脂充填方法)
中空糸膜モジュールの製造において、液状のポッティング樹脂を中空糸膜間に隙間なく充填する方法としては、一般に遠心力を利用する方法が採用されている。ただし、中空糸膜編織物を用いる場合は、樹脂固定部分の中空糸膜の密度が編織組織によって規定されていて偏りがないので、振動を利用した方法や、更に重力のみによる方法も可能である。振動法による中空糸膜の樹脂固定方法(ポッティング方法)の詳細は、例えば特開平3−114515号公報に開示されている。ここで、樹脂の粘度は、1000〜2500センチポイズ程度の粘度であることが好ましい。
【0040】
(中空糸膜端部の開端方法)
集水管2の側面に設けた穴から切断手段を用いて中空糸膜を溝部形成治具及び発泡性樹脂ごと切断することができる。切断手段としは、例えばカッター刃を用いることができる。残った溝部形成治具を除去することにより、中空糸膜モジュールを得ることができる。切断する位置は、中空糸膜に接着して残る部分がモジュールケース5の一部を成す底板部(又は、天板部)として十分な強度を有するだけの厚みを有し、且つ、切断により更新された分離膜束3の端部が切断面に開口している箇所であることが好ましい。
【0041】
カッター刃としては、発泡性樹脂が充填されている内部の長手方向に渡って挿入可能なものであれば何でも良く、特に限定されるものではない。本発明では、発泡性樹脂で接着固定された中空糸膜端部及びその周囲の溝部形成治具を切断することになる。
【0042】
カッター刃としては、例えば、円筒状のカッター柄に取り付けられていて、中空糸膜の端面の切断片は、カッター柄の円筒の内側を通って排出されるものが挙げられる。
【0043】
また、切断処理後、集水管2の両端にキャップ6を接合することにより、漏れのない中空糸膜モジュールを得ることができる。
【0044】
ここで、キャップは、集水管と同じ材質であることが望ましい。例えば同じ材質の樹脂である場合は、一般的に樹脂配管に行われているように、溶剤接着で容易に接合することが可能である。また、集水管とキャップがそれぞれ雄ネジと雌ネジを形成するようにして、ねじ込みによる接合もまた可能である。キャップは、吸引濾過の為に、配管が接合できる構造になっていることが望ましい。
【0045】
(中空糸膜)
本発明において、中空糸膜は特に限定されるものではなく、公知の中空糸膜を用いることができる。中空糸膜の分画レベルは、精密ろ過膜(MF)、限外濾過膜(UF)、又はナノろ過膜(NF)等のいずれのレベルであってもよい。また、濾過膜として使用可能のものであれば、孔径、空孔率、膜厚、外径等には特に制限はないが、濾過の対象となるものによって適宜選択される。更に、有機物やウイルスの除去を目的とする場合には分画分子量数万から数十万の限外濾過膜を用いる場合もある。
【0046】
本発明の中空糸膜は、例えばセルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニールアルコール系、ポリスルフォン系、ポリアクリロニトリル系、フッ素系樹脂などを挙げることができる。分離膜の形状に成形可能なものであれば各種材料から形成することが使用でき、材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、又はポリスルホン等が挙げられる。
【0047】
特に中空糸膜の表面特性として、耐薬品性の強い樹脂を用いることが好適であり、特に好ましくは、フッ素系樹脂である。フッ素系樹脂の中でも、膜への賦形性と耐薬品性などからフッ化ビニリデリン樹脂を用いることがより好ましい。ここで、フッ化ビニリデリン樹脂としては、フッ化ビニリデリンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデリンと、フッ化ビニリデリンと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。上記共重合可能な単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどがある。
【0048】
中空糸膜は、複数の細孔を有する。細孔は、中空糸膜の表面及び裏面を貫通する連続孔であることが好ましい。細孔の孔径は、目的によって任意に選択できるが、例えば、0.01〜5μm、好ましくは0.1〜1μmであることが適当である。
【0049】
また、本発明の中空糸膜は、一方の表面の孔径が小さく、他方の表面の孔径が大きい、非対称構造であることが好ましい。非対称構造の場合、一方の表面の孔径が、他方の表面孔径の1倍より大きく100倍以下、好ましくは2倍〜10倍であることが適当である。
【0050】
中空糸膜の外径は、例えば、0.1〜10mmとすることができ、好ましくは0.5〜5mmであることが適当である。本発明の中空糸膜は、純水に対する透液性能を示す純水透過係数が、10〜250m3/m2/時/MPa、好ましくは20〜150m3/m2/hr/MPaであることが適当である。なお、純水透過係数は、以下の式より求めることができる。
【0051】
純水透過係数=[純水透過量(m3)]/[多孔質膜の表面積(m2)]/[透過時間(時)]/[純水の圧力(MPa)]
【0052】
(中空糸膜モジュール及びその構造)
中空糸膜モジュールは集水管に中空糸膜がポッティングされている形状を呈する。その形状としては、集水管は中空糸膜の両端に設けられていてもよく(直線状両端口型)、また、中空糸膜の一端に集水管が設けられていてもよい(直線状片側開口型)。
【0053】
さらに、集水管の形状は特に限定されるものではないが、例えば矩形状や円環状、円柱状などが挙げられる。散気方法によりその洗浄性を低下させない範囲で適切な形状を選択すればよい。
【0054】
集水管は、中空糸膜モジュール全体を支持し、中空糸膜内側に吸引濾過される流体を集める部材として機能する。その側面には細長いほぼ矩形の開口部を有する。その材質は、機械的強度及び耐久性を有するものであれば良く、例えばポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ABS樹脂、変性PPE樹脂、PPS樹脂、耐腐蝕性金属等が例示される。とくに、ポッティング樹脂との接着性が良いものがより好ましい。
【0055】
(中空糸膜編織物の製造方法)
中空糸膜は編織物であってもよく、中空糸膜を例えば緯糸として編地としたものを数枚積層したものであれば、集水管2の側面のほぼ矩形の開口部に収納するのに好適である。編地の製造方法は、例えば特開昭62−57965号、特開平1−266258号各公報に開示されている。
【0056】
本発明のように発泡樹脂製の溝部形成治具及び発泡性樹脂を用いることにより、容易に固定した中空糸膜を開口することができ、中空糸膜モジュールを容易に量産することができる。
【実施例】
【0057】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【0058】
(実施例1)
PET(ポリエステル)繊維を組紐状に加工し、その表面にPVDF多孔質部を形成した多孔質中空糸膜(三菱レイヨン(株)製、内径1000μm、外径2800μm)を3本合糸し緯糸とした。その緯糸を用いて、幅1000mmで編み長さ2000mmで編地5枚を編成し、中空糸膜編地積層体を得た。
【0059】
「ピオセラン Oシリーズ」(商品名、発泡倍率10倍、ポリスチレン・ポリオレフィン複合樹脂発泡体、積水化成品工業株式会社製)を用いて発泡ポリスチレン成型機により、溝部形成治具を作製した。
【0060】
集水管として、外径38mm×内径36mm×長さ1200mmのABS製角形パイプの側面に幅18mm×長さ1000mmのほぼ矩形状の開口部を設けて、この集水管の両側から溝部形成治具を挿入し、PTFE製の加工用キャップでシールした。
【0061】
次に、先に準備した中空糸膜編地積層体を集水管の開口部に、溝部形成治具の凹部に当たるまで挿入した。そして、開口部から中空糸膜編地積層体の根本付近に、発泡性樹脂を充填し固化させた。発泡性樹脂は、起泡・硬化後体積(Vb)と硬化前の体積(V)との比(Vb/V)が10である2液型発泡ウレタン樹脂(「モデラー800−10A/B」、商品名、株式会社ソーラー製)と、2液型非発泡ウレタン樹脂(「ニッポラン4430/3100B」、商品名、日本ポリウレタン工業社製)を当量ずつ混合し、発泡倍率を5倍に調整したものを用いた。
【0062】
その固化後、発泡性樹脂(発泡ウレタン樹脂)の上部に、ポッティング用に2液型非発泡ウレタン樹脂である上記の「ニッポラン4430/3100B」を充填し、固化させた。
【0063】
次に、集水管端部からカッターを挿入して発泡性樹脂(発泡ウレタン樹脂)に包埋された中空糸膜端部を切断した。また、残存した溝部形成治具を除去した。その後、集水管の両端に配管口付きの塩ビキャップを溶剤接着した。
【0064】
以上のようにして、中空糸膜が集水管の開口部に固定された中空糸膜モジュールを得た。この中空糸膜モジュールの有効膜面積は25m2であった。さらに、エタノールを用いた膜リーク検査においてリークは見られなかった。
【符号の説明】
【0065】
1 中空糸膜
2 集水管
3 溝部形成治具
3’ 中空を有する溝部形成治具
4 発泡性樹脂
4’中空糸膜+発泡性樹脂
5 非発泡性ポッティング樹脂
5’中空糸膜+非発泡性ポッティング樹脂
6 キャップ
11 型枠治具
12 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜が開口部を通して集水管に樹脂で固定された中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記中空糸膜の先端が入るように凹部を設けた発泡樹脂製の溝部形成治具を前記集水管内に設置する工程と、
前記開口部を通して前記凹部に前記中空糸膜の先端を配置する工程と、
前記凹部に発泡性樹脂を充填した後、硬化させる工程と、
前記凹部であって前記発泡性樹脂の上部に非発泡性ポッティング樹脂を充填し硬化させる工程と、
前記発泡性樹脂の部分で前記中空糸膜を切断する工程と、
残存した前記溝部形成治具を除去する工程と、
を有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記溝部形成治具は、発泡性のフッ素樹脂製の容器であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記発泡性樹脂は、起泡・硬化後体積(Vb)と、硬化前の体積(V)との比(Vb/V)が、1.1〜10である請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記溝部形成治具の気泡性状が独立気泡型であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記発泡性樹脂は、発泡剤を含むウレタン樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記非発泡性ポッティング樹脂はウレタン樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記中空糸膜は編織物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記切断は、前記集水管の側面から切り刃を挿入して、前記発泡性樹脂と共に前記中空糸膜を切断することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−184219(P2010−184219A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31316(P2009−31316)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】