説明

中空糸膜モジュールを用いたろ過方法

【課題】透水性能の低下を抑制し、かつ高いろ過能力を長時間に亘って発揮し得る中空糸膜モジュールを用いたろ過方法を提供する。
【解決手段】複数本の中空糸膜1が開口部31、31’を露出した状態で、両端を注型剤により固定された固定部20、20’を有しており、前記固定部20、20’間の領域が、ろ過機能を有するろ過室となっている中空糸膜モジュール100を用いたろ過方法であって、中空糸膜1の両端の開口部31、31’から、同時に原水を供給し、中空糸膜1の壁面を透過させ、透過液を得るろ過工程と、中空糸膜1の一端の開口部から原水を供給し、他の一端の開口部から排出させるフラッシング工程とを有し、ろ過工程とフラッシング工程とを繰り返し行う中空糸膜モジュールを用いたろ過方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールを用いたろ過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の電子部品の製造工程で用いられる超純水を製造するラインにおいては、精密ろ過膜やイオン交換樹脂、逆浸透ろ過膜を用いて製造した超純水をユースポイントに供給する直前に、さらに精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いてろ過している。
これらの精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜は、保安用フィルターとしての機能を有している。
【0003】
保安用フィルター用のろ過モジュールとしては、従来、中空糸膜の外側に原水を供給してろ過する、いわゆる外圧式ろ過モジュールが従来提案されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
一方、近年においては、半導体等の電子部品の製造規模の拡大と共に、使用する超純水量が多くなっており、それを処理するためのろ過モジュールが、高いろ過能力(すなわち1モジュールあたりの透水量が大きいこと)が求められている。
【0005】
外圧式ろ過モジュールにおいて高いろ過能力を発揮するためには、供給水量を多くする方法が挙げられるが、この場合、モジュール内を高流速で流れることになり、それによって中空糸膜が激しく振動する現象が起こる。これは、長期間ろ過を継続するうちに中空糸膜同士や中空糸膜とモジュール内の構成部材とが擦れることにより膜表面の細孔が閉塞して透水性能が低下する原因となる。
【0006】
上述したような中空糸膜のダメージを防止する方法として、中空糸膜を収納するハウジングと中空糸膜束との間に、保護用の円筒体を設けた中空糸膜モジュールを使用することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−204804号公報
【特許文献2】特公平07−102307号公報
【特許文献3】特開2000−37616号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】黒田、「超純水配管システム 超純水用ファイナルフィルターの開発」、配管と装置、三幸企画出版部、1997年3月、第37巻、第3号、p.2−7
【非特許文献2】伊藤、「超純水製造プロセスにおける膜分離技術」、クリーンテクノロジー、日本工業出版、1998年10月、第8巻、第10号、p.22−25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術においてはいずれも高い透水性能を維持したまま、優れたろ過能力をも発揮するという、性能の両立を実現するという観点からは、未だ改善の余地を有している。
そこで本発明においては、中空糸膜の振動に起因した透水性能の低下を効果的に抑制し、しかも高いろ過能力を長時間に亘って発揮し得る中空糸膜モジュールを用いたろ過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、中空糸膜の内表面側から外表面側へと原水をろ過する、いわゆる内圧式ろ過を行い、かつ中空糸膜の両端の開口部から、それぞれ原水を供給することにより、中空糸膜の振動を効果的に抑制し、かつ高い透水性能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕
複数本の中空糸膜が開口部を露出した状態で、両端を注型剤により固定された固定部を有しており、前記固定部間の領域が、ろ過機能を有するろ過室となっている中空糸膜モジュールを用いる中空糸膜モジュールを用いたろ過方法であって、前記中空糸膜の両端の開口部から、同時に原水を供給し、前記中空糸膜の壁面を透過させ、透過液を得るろ過工程と、前記中空糸膜の、一端の開口部から原水を供給し、他の一端の開口部から排出させるフラッシング工程とを有し、前記ろ過工程と、前記フラッシング工程とを、繰り返し行う中空糸膜モジュールを用いたろ過方法を提供する。
【0012】
〔2〕
前記中空糸膜モジュールは、前記複数本の中空糸膜がハウジングに収納されており、前記ハウジングの前記ろ過室の両端部に相当する位置には、それぞれ、第1ノズルと第2ノズルとが設けられており、前記ろ過工程においては、前記第1及び第2ノズルの双方から同時に透過液を得る前記〔1〕に記載の中空糸膜モジュールを用いたろ過方法を提供する。
【0013】
〔3〕
前記複数本の中空糸膜が上下方向に配列されている中空糸膜モジュールを具備するろ過装置を用いたろ過方法であって、前記ろ過装置において、原水は、原水下側配管と原水上側配管とに分岐して供給するようになされており、前記原水下側配管が、前記中空糸膜モジュールの下端と連結しており、前記原水上側配管は、モジュール上側配管と、外部に連通する排出配管とに分岐しており、前記モジュール上側配管は、前記中空糸膜モジュールの上端と連結しており、前記ろ過工程の前工程として、前記原水下側配管及び前記原水上側配管から前記中空糸モジュールに原水を供給し、続いて、前記モジュール上側配管を経由して原水を前記排出配管から排出する前記〔1〕又は〔2〕に記載のろ過方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的低い膜間差圧で高いろ過流量が得られ、中空糸膜の振動が効果的に抑制できる。これにより長時間のろ過処理を継続して行った場合においても、高い透水性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態におけるろ過方法において使用する中空糸膜モジュールの一例の概略構成図を示す。
【図2】本実施形態におけるろ過方法を実施するろ過装置の一例の概略構成図を示す。
【図3】本実施形態におけるろ過方法を実施するろ過装置の他の一例の概略構成図を示す。
【図4】比較例2におけるろ過方法を説明するためのろ過装置の概略構成図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、図を参照して説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0017】
〔中空糸膜モジュール〕
図1に、本実施形態で使用する中空糸膜モジュール100の一例の概略構成図を示す。
本実施形態において用いる中空糸膜モジュール100は、複数本の内部に中空部30を有する中空糸膜1が開口部31、31’を露出した状態で、両端を注型剤によって固定された固定部20、20’を有しており、前記固定部20、20’間の領域が、ろ過機能を有するろ過室となっている中空糸膜モジュールである。
【0018】
前記中空糸膜モジュール100は、前記複数本の中空糸膜1がハウジング2に収納されており、ハウジング2の前記ろ過室の両端部に相当する位置には、それぞれ、第1ノズル3と第2ノズル3’とが設けられている。
中空糸膜1同士、及び中空糸膜1とハウジング内壁とは液密的に固定されている。
【0019】
また、固定部20、20’のろ過室側界面近傍、すなわち前記ろ過室の両端部に相当する位置には、中空糸膜1の束の外周を囲むように、それぞれ第1目皿4と、第2目皿4'とが設けられている。
これら第1目皿4と、第2目皿4'とは、局部的に過大な水流が生じて中空糸膜1が損傷することを防止する機能を有する。
なお、第1目皿4及び第2目皿4'には、その壁面に多数の貫通穴を設けておいてもよい。
【0020】
さらに、中空糸膜モジュール100の両端部には、外部配管と接続するための第1キャップ5及び第2キャップ5’が、所定のシール部材(図示せず)を介して、固定部材6、6’により液密的に固定されている。
【0021】
なお、本実施形態において使用する中空糸膜モジュール100は、複数本から成る中空糸膜1の束とハウジング2とが別体となっている、所謂カートリッジ型のモジュールであってもよい。
すなわち、複数本の開口部を露出させた状態の中空糸膜1の束が固定されているカートリッジを、例えばOリング等の所定のシール部材により液密的にハウジング2に固定した構成を有するものであってもよい。
【0022】
中空糸膜モジュール100のろ過室部の直径は、30mm〜500mmが好ましく、100mm〜200mmがより好ましい。
中空糸膜モジュール100のろ過室部の長さは、500mm〜2000mmの範囲が好ましい。
【0023】
中空糸膜1としては、限外ろ過膜から精密ろ過膜まで、種々の孔径を有するものを適宜使用できる。
特に、超純水ラインにおける保安フィルターとして用いる場合には、中空糸膜として、限外ろ過膜が好適である。
【0024】
中空糸膜1の素材については、特に限定されるものではなく、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4メチルペンテン、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複合素材であってもよい。
【0025】
中空糸膜1は、内径50μm〜3000μmで、内/外径比が0.3〜0.8の範囲であることが好ましい。前記内径は500μm〜2000μmがより好ましく、600μm〜1200μmがさらに好ましい。
中空糸膜1の内径が小さい程、一定容積のモジュールハウジング内に収納できる中空糸膜1の膜面積を大きくすることができる。一方において中空糸膜1の内径が小さいほど、中空部30を原水が流れるときの圧力損失が大きくなる。
内径が上記範囲であるとき、モジュールハウジング内に収納できる膜面積の大きさと中空部内における圧力損失とのバランスが良好なものとなり、低い膜間差圧で高い透水量が得られる。
【0026】
注型剤により形成されている固定部20は、中空糸膜1同士を接着し、中空糸膜1の位置を固定する機能を有しているものである。
注型剤としては、通常、2液混合型硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。
2液混合型硬化性樹脂は、反応性を有する複数の化合物を混合することによって硬化する樹脂であって、例えば、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、融点が中空糸膜1を構成するポリマーの融点あるいは熱変形温度よりも低く、かつ、ろ過対象原水に対して物理的及び化学的に安定であるものとする。例えば、熱可塑性のポリウレタンやポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ワックス類等が挙げられる。
【0027】
第1ノズル3及び第2ノズル3’は、ろ過室からハウジング2の外部に連通していればよく、ハウジング2の側面に設けてもよいし、中空糸膜1を固定している注型剤による固定部を貫通するノズルを設け端面側から、ろ液を導出するようにしてもよい。後者の場合には、中空糸膜モジュール100に流入する原水とは隔絶した状態で外部配管と接続するような構成とする。
第1ノズル3及び第2ノズル3’は、図1に示すように、注型剤による固定部20の、ろ過室側界面近傍、すなわちハウジング2の前記ろ過室の両端部に相当する位置に設けることが好ましい。
第1ノズル3及び第2ノズル3’から均等にろ過水を抜き出すようにすると、流動抵抗が効果的に低減化される。
【0028】
次に、本実施形態における中空糸膜モジュールを用いたろ過方法について説明する。
図2に本実施形態におけるろ過方法を実施するろ過装置の一例の概略構成図を示す。
図2においては、中空糸膜モジュール100を、重力方向を基準として上下方向(縦)に設置して配管と接続した構成とする。
なお、本実施形態においては、必ずしも縦に設置する必要は無く、水平に設置してもよいし、斜めに設置してもよい。
中空糸膜モジュール100を配管に接続してろ過を行うに際しては、予め配管内や中空糸膜モジュール100内に存在するガスを排出するが、中空糸膜モジュールを図2のように縦状態で設置すると、ガスの排出が容易に実施できるので、好ましい。
【0029】
なお、図2における配管の位置と名称を下記に示す。
A点からB点までの配管:原水上側配管41
B点からC点までの配管:モジュール上側配管42
B点からG点までの配管:排出配管43
A点からD点までの配管:原水下側配管44
E点からH点までの配管:上側ノズル配管45
F点からI点までの配管:下側ノズル配管46
また、原水上側配管41又はモジュール上側配管42、原水下側配管44、上側ノズル配管45、下側ノズル配管46には、各々に流量計(図示せず)が設けてあり、A点よりも上流側には、原水を導入する機能を有する所定のポンプ(図示せず)が設置されている。
図2に示すろ過装置は、中空糸膜1が上下方向に配列されている中空糸膜モジュール100を具備するろ過装置であり、原水は、図2中のA点において、原水下側配管44と原水上側配管41とに分岐して供給されるようになされている。
原水下側配管44は、中空糸膜モジュール100の下端と連結しており、原水上側配管41は、上部配管分岐部11においてモジュール上側配管42と外部に連通する排出配管43とに分岐している。
モジュール上側配管42は、中空糸膜モジュール100の上端と連結している。
【0030】
図2に示すろ過装置を用いてろ過工程を行う前段階としてガス抜き操作を行う。
先ず、中空糸膜モジュール100の上部弁8と上部排出弁9を開いておく。
次に、上側配管弁7と下側配管弁7'とを少しずつ開き、原水を中空糸膜モジュール100内に導入する。
これにより、原水上側配管41、原水下側配管44、モジュール上側配管42、排出配管43の、それぞれの配管中のガスと、中空糸膜(図1中の1)の中空部(図1中の30)のガスを排出して原水で満たす。
このとき、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'は開けておいてもよいし、閉止しておいてもよい。
次に、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'が全開の状態として、上部排出弁9を閉止する。
これによって、中空糸膜(図1中の1)の内表面と外表面との間に圧力差が生じ、中空糸モジュール100内の中空糸膜の外側にろ過水が溜まってくる。暫時この状態を継続することにより、中空糸膜モジュール内と上側ノズル配管45及び下側ノズル配管46中のガスを排出してろ過水で満たすことができる。
上述した操作を行うことにより、配管内と中空糸膜モジュール内のガスが排出されて水で満たされた状態となる。
【0031】
次に、ろ過工程を実施する。
本実施形態におけるろ過方法は、ろ過工程において中空糸膜モジュールの両端から同時に原水を導入してろ過を行うことを特徴とする。
具体的には、中空糸膜モジュール100の上部弁8を全開状態とし、上部排出弁9を全閉状態とし、上側配管弁7と下側配管弁7'を調整して、予め設定した流量に合わせる。
このとき、原水上側配管41から中空糸膜モジュール100の上側端面に流入する流量と原水下側配管44から中空糸膜モジュール100の下側端面に流入する流量とが等しくなるようにすることが好ましい。
中空糸膜モジュール100の端部からの流動距離が短い程、原水が中空部(図1中の30)を流れるときの圧力損失が少なくなるので、上述したように、両端からの流量を等しくすることにより、最も圧力損失を小さくできる。
さらに、上側ノズル弁10、下側ノズル弁10'の開度を調整して、上側ノズル配管45の流量と下側ノズル配管46の流量とが等しくなるようにすることが好ましい。
上記のように原水とろ過水の流れを調整することによって、膜間差圧(即ち、圧力損失)を効果的に低減化できる。
【0032】
なお、図1に示すように、両側の注型剤固定部6及び6'、目皿4及び4'、ノズル3及び3'の寸法が同じ構造であり、位置関係が対称である中空糸膜モジュールを用いると、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'とが全開状態でも、上側ノズル配管45の流量と下側ノズル配管46の流量とが略同じになり、中空糸膜1から第1ノズル3及び第2ノズル3’に流れるときの圧力損失が最も低くできるので、本実施形態において用いる中空糸膜モジュール100は、両側の固定部材6及び6'、目皿4及び4'、ノズル3及び3'の寸法が同じ構造であり、位置関係が対照であることが好ましい。
【0033】
上述したようなろ過工程を継続して行うと、中空糸膜1の膜面に、ろ過された懸濁物質が堆積して、ろ過性能が低下することがある。
このようなろ過性能の低下に対処するために、圧力変化や流量変化によってろ過性能の低下が観測された時点で、中空糸膜1の中空部30をフラッシングして、膜面の堆積物の除去を行うことが有効である。この操作をフラッシング工程という。
このフラッシング工程は、上記のようにろ過性能の低下が確認されたときに行ってもよいし、予め定められた時間おきに定期的に行ってもよい。
フラッシング工程における堆積物の除去操作の一例を下記に示す。
フラッシング工程においては、中空糸膜モジュールの上部弁8と上部排出弁9を全開状態とし、ろ過水側の上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'を全閉にする。
次に、上側配管弁7を全閉として原水下側配管44から中空糸膜モジュール内に原水を導入する。原水は中空部30を流通し、モジュール上側配管42と排出配管43とを経由し排出される。
このとき、下側配管弁7'の開度を調整して中空部30を流れる線速が0.2〜10m/secとなるようにすることが好ましく、0.5〜5m/secとすることがより好ましく、1〜3m/secにすることがさらに好ましい。線速を上記範囲とすることにより、中空糸膜1の膜面の堆積物を効率的に除去できる。
また、フラッシング工程を行う時間は、通常5〜600secであるものとし、10〜300secとすることが好ましい。
【0034】
上述したフラッシング工程は、図2を示して説明した場合と逆の方向に原水を流すことにより行うこともできる。
以下、図3を示してフラッシング工程の他の例について説明する。
まず、下部配管弁7'を全閉とし、モジュール上部弁8と下部排出弁9'とを全開状態とし、ろ過水側の上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'を全閉にする。
次に、上側配管弁7の開度を調整して、原水上側配管41から中空糸膜モジュール内に原水を導入する。原水は中空部30を流通し、下部の排出配管47(図3中、D点からJ点までの配管)から排出する。
【0035】
上述したろ過工程とフラッシング工程とを繰り返して行うことにより、長期間に亘って低い膜間差圧を維持しつつ安定したろ過運転を行うことができる。
【0036】
ろ過工程とフラッシング工程の繰り返しは、下記の4つのパターンを採ることができ、原水の水質によって適宜選択できる。
なお、以下の説明においては、中空糸膜1の開口する片端(例えばモジュール下部側)をA端としたとき他端(モジュール上部側)をB端と記載する。
【0037】
パターン1:ろ過工程とA端側から原水を導入するフラッシング工程とを繰り返すパターン。
パターン2:ろ過工程とB端側から原水を導入するフラッシング工程とを繰り返すパターン。
パターン3:ろ過工程と、A端側(若しくはB端側)から原水を導入するフラッシングを行った後に反対側から原水を導入するフラッシングを行う工程とを繰り返すパターン。
パターン4:ろ過工程を行った後にA端側(又はB端側)から原水を導入するフラッシング工程を行い、次いでろ過工程を行った後に前記とは反対側から原水を導入するフラッシング工程を行う、操作を繰り返すパターン。
【0038】
上記4つのパターンのうち、パターン3とパターン4は、洗浄効率が高く好ましい。
原水が超純水である場合には、パターン1でも十分安定した運転が可能であり、比較的簡易な設備で済むのでパターン1がより好適である。
一方、地下水等の比較的清澄ではあるが上記超純水よりは不純物が多い原水の場合には、洗浄効率が高いパターン3又はパターン4が好適である。
【0039】
大量の原水を処理する場合には、多数本の中空糸膜モジュールを用いることが必要であるが、1本又は複数本の中空糸膜モジュールを1単位とするユニットを複数個設け、1つのユニットでフラッシング工程を行い、その間は他のユニットでろ過工程を行うようにするのが好ましい。
このような構成とすることにより、常に一定のろ過水を得られ、また、一時的に多くのろ過水が必要になったときに、全てのユニットでろ過工程を行って必要なろ過水を得ることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて具体的に説明する。
〔実施例1〕
実施例1においては、図1に示す構造の中空糸膜モジュール100を用いてろ過を行った。
ポリスルホン製の中空糸膜(外径1.2mm、内径0.7mm、内面積換算単糸透水量7600L/h/m2/100kPa)8200本を、透明なポリスルホン製ハウジング(ろ過室部内径154mm、ノズル口内径58mm)に収納し、両端部をエポキシ樹脂で固定した中空糸膜モジュールを使用してろ過運転を行った。
なお、本実施例において使用した中空糸膜モジュールは、中空部が開口しており、両開口部間の長さが1045mmであり、上記エポキシ樹脂で固定した部分(注型剤固定部)を除く、ろ過室として有効な膜有効長が930mmである。
両側の注型剤固定部、目皿4、4’、ノズル3、3’の寸法等の構成は互いに同一であり、位置関係は対称であるものとする。
【0041】
上記中空糸膜モジュール100を、図2に示すように配管に接続して、ろ過装置を構成した。
処理対象の原水として超純水を用いた。
超純水は河川水を精密ろ過膜と逆浸透膜及びイオン交換樹脂による処理を行い、UV殺菌処理を施すことにより製造した。
用いた超純水は、比抵抗が18.22MΩ、0.05μm以上0.1μm未満の微粒子数が1〜2PCS/mlであり、0.1μm以上の微粒子数が1PCS/ml未満であった。
なお、比抵抗は電気化学計器(株)製:商品名「高感度抵抗率計」:型式名「AQ−11」を用い、微粒子数は、Particle Measuring Systems社製:商品名「リキッドパーティクルカウンター」:型式名「HSLS−M50」を用いて測定した。
【0042】
先ず、モジュール上部弁8と上部排出弁9を全開にしておき、上側配管弁7と下側配管弁7'とを少しずつ開けて、流量を各々2m3/hに調整して、原水を中空糸膜モジュール100内に導入した。
これにより、原水上側配管41、原水下側配管44、モジュール上側配管42、排出配管43の、それぞれの配管中のガスと中空糸膜1の中空部30のガスが排出され、原水で満たされた。なお、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'は開いた状態とした。
次に、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'が全開の状態で、上部排出弁9を全閉にし、中空糸膜モジュール100内と、上側ノズル配管45及び下側ノズル配管46中のガスを排出してろ過水で満たした。上記操作を2分間行うことによりノズル配管45及び46出口における気泡の混入が無くなったことを確認したが、上記操作を5分間継続した。
【0043】
上記操作を行った後、上側配管弁7と下側配管弁7'とを調整して、流量を各々14m3/hに設定し、かつ、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'の開度を調整して各々同流量に設定してろ過を行った。
上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'の開度は、両方とも全開状態であった。
このときの膜間差圧は、0.11MPaであった。
また、このときに中空糸膜1の状態を観察したところ、中空糸膜1の振動は、観察されなかった。
【0044】
なお、膜間差圧は、下記のようにして求められる。
すなわち、図2中に示すC点、D点、E点、F点における圧力を測定し、各々の値をPc、Pd、Pe、Pfとしたとき、下記式で計算される値を膜間差圧とした。
(膜間差圧)=(Pc+Pd)/2−(Pe−Pf)/2
【0045】
1週間に1回の頻度で2分間フラッシングを行った。
上部排出弁9を開けた後、上側ノズル弁10、下側ノズル弁10’、上側配管弁7を全閉にした。このようにすることによって原水は、原水下側配管44から中空糸膜モジュール100の下部に供給され、中空糸膜1の下側開口部31’から上側開口部31に向けて中空部30内を流れ、モジュール上側配管42と排出配管43を介して外部に流出する。
このとき、下側配管弁7'の開度を調整して流量が28m3/hになるようにした。
中空糸膜1の中空部30の総断面積で除して求めた平均線速は2.5m/secであった。
フラッシング工程とろ過工程とを繰り返して、ろ過運転を継続して行った。
【0046】
1ヶ月間ろ過運転を行った時点でフラッシング操作を行った後に運転を停止した。
中空糸膜モジュール100を解体して、中空糸膜1を取り出し、外表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、擦過傷等の異常は観られなかった。
また、単糸透水量を測定したところ、7300L/h/m2/100kPaであり、ろ過運転開始前と比較して、有意差が認められず、ろ過性能の低下が効果的に抑制されていた。
【0047】
〔比較例1〕
上述した実施例1において使用した中空糸膜モジュールと同じ構成を有する中空糸膜モジュールを用いた。
比較例1においては、中空糸膜モジュールの下側端面からのみ原水を供給してろ過を行った。
なお、ろ過開始に際して行うガス抜き操作については、上述した実施例1と同様にして行った。
【0048】
図2に示す構成のろ過装置において、上側ノズル弁10と下側ノズル弁10'とが全開の状態で、上部排出弁9と上側配管弁7を全閉にした。
下側配管弁7’の開度を調整して流量を28m3/hに設定した。
このときの膜間差圧は、0.23MPaであった。
比較例1においては、実施例1の2.1倍もの高い圧力損失が生じていたことが分かった。
【0049】
〔比較例2〕
上述した実施例1において使用した中空糸膜モジュールと同じ構成を有する中空糸膜モジュールを用いた。
この比較例2においては、中空糸膜モジュールの下側ノズル3'から原水を供給して、外圧式ろ過を行った。
【0050】
比較例2における中空糸膜モジュール100の配管接続構成を図4に示す。
先ず、モジュール上部弁8と上部排出弁9、上側配管弁7、下側配管弁7'を全閉にしておく。
上側ノズル弁10を全開にした状態で、下側ノズル弁10'を少しずつ開け、流量を4m3/hに調整して原水を中空糸膜モジュール100内に導入し、中空糸膜モジュール100内とノズル配管内のガスを排出して原水で満たした。
次に、中空糸膜モジュール100の上部弁8と、上側配管弁7、下側配管弁7'を全開とし、上側ノズル弁10を全閉にして、中空糸膜1の中空部30と配管中のガスを排出してろ過水で満たした。
上記操作を3分間行うことにより、ろ過水中の気泡が無くなったことを確認したが、上記操作を5分間継続した。
【0051】
上述のようにしてガス抜き操作を行った後、下側ノズル弁10'を調整して流量を28.3m3/hに設定し、かつ、上側ノズル弁10の開度を調整して0.3m3/hの流量に設定した。同時に上側配管弁7と下側配管弁7'の開度を調整して各々の流量が14m3/hになるように設定した。このときの膜間差圧は、0.12MPaであった。
比較例2においては、外圧式ろ過を行ったため、下側ノズル配管46から原水が供給され、上側ノズル配管45からは濃縮水が排出される。原水上側配管41及び原水下側配管44を介してろ過水が得られる。
比較例2における外圧式ろ過工程において中空糸膜の状態を観察したところ、中空糸膜が激しく振動していたことが確認された。
【0052】
このろ過運転を1週間継続した後、ろ過運転を停止した。
中空糸膜モジュール100を解体して、中空糸膜1を取り出し、外表面をSEMで観察したところ、擦過傷と推察される傷が観察された。
また、単糸透水量を測定したところ、6100L/h/m2/100kPaであり、ろ過運転開始前と比較して透水性能が明らかに低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明方法は、超純水ラインの保安フィルター用として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0054】
1 中空糸膜
2 ハウジング
3 第1ノズル
3’ 第2ノズル
4 第1目皿
4’ 第2目皿
5 第1キャップ
5’ 第2キャップ
6、6’ 固定部材
7 配管弁
8 上部弁
9 上部排出弁
9’ 下部排出弁
10 上側ノズル弁
10’ 下側ノズル弁
11 上部配管分岐部
20、20’ 固定部
30 中空部
31、31’ 開口部
41 原水上側配管
42 モジュール上側配管
43 排出配管
44 原水下側配管
45 上側ノズル配管
46 下側ノズル配管
47 下部の排出配管
100 中空糸膜モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸膜が開口部を露出した状態で、両端を注型剤により固定された固定部を有しており、前記固定部間の領域が、ろ過機能を有するろ過室となっている中空糸膜モジュールを用いたろ過方法であって、
前記中空糸膜の両端の開口部から、同時に原水を供給し、前記中空糸膜の壁面を透過させ、透過液を得るろ過工程と、
前記中空糸膜の、一端の開口部から原水を供給し、他の一端の開口部から排出させるフラッシング工程と、を有し、
前記ろ過工程と、前記フラッシング工程とを、繰り返し行う中空糸膜モジュールを用いたろ過方法。
【請求項2】
前記中空糸膜モジュールは、前記複数本の中空糸膜がハウジングに収納されており、
前記ハウジングの前記ろ過室の両端部に相当する位置には、それぞれ、第1ノズルと第2ノズルとが設けられており、
前記ろ過工程においては、前記第1及び第2ノズルの双方から同時に透過液を得る請求項1に記載の中空糸膜モジュールを用いたろ過方法。
【請求項3】
前記複数本の中空糸膜が上下方向に配列されている中空糸膜モジュールを具備するろ過装置を用いたろ過方法であって、
前記ろ過装置において、原水は、原水下側配管と原水上側配管とに分岐して供給するようになされており、
前記原水下側配管が、前記中空糸膜モジュールの下端と連結しており、
前記原水上側配管は、モジュール上側配管と、外部に連通する排出配管とに分岐しており、
前記モジュール上側配管は、前記中空糸膜モジュールの上端と連結しており、
前記ろ過工程の前工程として、
前記原水下側配管及び前記原水上側配管から前記中空糸モジュールに原水を供給し、続いて、前記モジュール上側配管を経由して原水を前記排出配管から排出する請求項1又は2に記載のろ過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−5615(P2010−5615A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126003(P2009−126003)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】