説明

中空糸膜製造用紡糸ノズル

【課題】製膜における気泡や割れ等の発生を抑制し、安定した強度を備えた中空糸膜を製造することができる紡糸ノズルを提供する。
【解決手段】中心側の芯液流路33と、その外側の製膜溶液流路24と、を備えた二重管構造の中空糸膜製造用紡糸ノズル10において、前記製膜溶液流路24内に、内径方向に流入してきた製膜溶液を製膜溶液吐出口23に向けて中心軸と平行な方向に整流する製膜溶液整流流路25を形成する整流流路形成部36を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜製造用紡糸ノズルに関し、特に、乾湿式法による多孔質中空糸膜の製造に用いられる中空糸膜製造用紡糸ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密濾過や限外濾過等に用いられる多孔質中空糸膜(以下、中空糸膜という)の一般的な製造方法について、その概略を説明する。
【0003】
ポリマー溶液、ドープ等と呼ばれる製膜溶液は、膜を形成するポリマーとその他適宜配合される添加剤を良溶媒中に溶解させて調整される。この製膜溶液を圧力ポンプや定量ポンプ等によって二重管構造の紡糸ノズルの環状の外側流路に供給する。環状の外側流路の内側に設けられた流路には、内部凝固液と呼ばれるポリマーを凝固(相分離)させる非溶媒(一般的には水または水に良溶媒を混ぜたもの)を芯液として供給する。
【0004】
紡糸ノズルから管状の中空構造を呈して押し出される製膜溶液は、空気中を一定距離通過した後、外部凝固液と呼ばれるポリマーを凝固させる溶液に浸漬され、その外側が凝固される。また製膜溶液の内側(中空部)は芯液によって凝固される。このようにして中空状の中空糸膜が形成される。
【0005】
このような一般的な中空糸膜製造方法については以下に示す文献に開示されている。
【特許文献1】特開2002−66272号公報
【非特許文献1】「日本膜学会編膜学実験シリーズ第III巻人工膜編」共立出版株式会社、1993年12月10日発行、p.2〜9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中空糸膜の製造に使用される紡糸ノズルとしては、例えば、図4に示すようなものがある。図4は、従来技術に係る紡糸ノズルの模式的断面図である。紡糸ノズル101は、製膜溶液管部102と、芯液管部103とからなる二重管構造で構成されている。
【0007】
中空糸膜を形成する製膜溶液は、製膜溶液管部102に設けられた製膜溶液流入口121から注入され製膜溶液流路122を通って製膜溶液吐出口123から吐出される。一方、中空糸膜の中空部を形成するための芯液は、芯液管部103の芯液流路135を通って芯液吐出口133から吐出される。
【0008】
このような紡糸ノズル101の場合、製膜溶液流入口121は軸方向に延びる製膜溶液流路122に対して径方向に設けられているため、図5に示すように、製膜溶液は製膜溶液流路122内に内径方向に流入する。図5は、図4の製膜溶液流路122を拡大して示した模式的透視図である。
【0009】
したがって、製膜溶液流入口121から流入してきた製膜溶液は、図5および図6に示すように、芯液管部103の周りを一方の周方向と他方の周方向とに分かれて芯液管部103を巻き込むように流れつつ、軸方向に流れを変えて製膜溶液吐出口123に向かって流れていく。なお、図6は図5のA−A断面図である
【0010】
このような流れの分流や方向の変化等により、また、製膜溶液流入口121から製膜溶液流路122に流れ込む際に流路断面積の拡大によって生じる急激な流速低下等により、
製膜溶液の流れは不均一となり、製膜溶液が分流する箇所105において流れの滞留や局所的な細かい乱れ(その他の箇所で生じる大きな乱れに係る流れとは異なる流れ)が生ずる。
【0011】
このような分流箇所105における流れの乱れ等が製膜溶液吐出口123からの製膜溶液の吐出しに与える影響により、図7に示すように、製膜後の中空糸膜に気泡106等が発生してしまうという問題があった。図7は、製膜後の中空糸膜の模式的断面図である。
【0012】
特に製膜溶液はある程度の粘性を有するため、このような局所的な乱れや滞留が製膜溶液吐出口123まで痕跡を残し易いものと考えられる。そして、このような気泡106等の発生がさらに悪化すると、中空糸膜に割れが発生し中空糸膜の強度を著しく低下させていた。
【0013】
本発明は、上述の従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、製膜における気泡や割れ等の発生を抑制し、安定した強度を備えた中空糸膜を製造することができる紡糸ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明における中空糸膜製造用紡糸ノズルは、中心側の芯液流路と、その外側の製膜溶液流路と、を備えた二重管構造の中空糸膜製造用紡糸ノズルにおいて、製膜溶液流路内には、内径方向に流入してきた製膜溶液を製膜溶液流路の出口に向けて中心軸と平行な方向に整流する流路を形成する整流流路形成部が設けられていることを特徴とする。
【0015】
このように、内径方向に流入してきた製膜溶液の流れが、整流流路形成部によって形成される整流流路により中心軸と平行で均一な流れに整流され、これにより製膜溶液の流れの中に局所的な乱れや滞留が発生するのが抑制され、製膜後の中空糸膜に気泡や割れ等が発生するのが抑制される。
【0016】
整流流路を、0.01mm〜1mmの幅の環状の流路としてもよい。
【0017】
整流流路形成部を、内管の外壁から外側に向かって突出した環状凸部としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、中空糸膜の製膜において気泡や割れ等の発生が抑制され、気泡や割れ等の発生等による強度低下のおそれの少ない、安定した強度を備えた中空糸膜の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0020】
まず、図3を参照して、本発明の実施例に係る中空糸膜製造用紡糸ノズル(以下、紡糸ノズルという)を備えた中空糸膜製造装置について、中空糸膜の製造工程と合わせて説明する。図3は、本実施例に係る紡糸ノズルを備えた中空糸膜製造装置の構成を説明する模式図である。
【0021】
中空糸膜製造装置1は、紡糸ノズル10と、ギアポンプ12と、マイクロポンプ13と、外部凝固液浴槽14と、巻取りロール15とを備える。
【0022】
紡糸ノズル10は、中空糸膜の中空部を形成するための芯液を吐出する芯液吐出口と、該芯液吐出口の周りに環状に設けられ、製膜溶液を管状に吐出する製膜溶液吐出口と、を備える。
【0023】
製膜溶液2は、中空糸膜を形成するポリマーとその他の適宜配合される添加剤とを良溶媒中に溶解させることにより調整される。製膜溶液2は粘性の高い溶液であり加圧によってギアポンプ12に送り込まれ(図3中P)、ギアポンプ12から定量的に紡糸ノズル10に注入される。
【0024】
芯液3には、ポリマーを凝固させる能力を持つ低粘性溶液、一般的には、水または水に良溶媒を混ぜたものが用いられ、中空糸膜の内側(中空部)を形成するための内部凝固液として、マイクロポンプ13によって紡糸ノズル10に注入される。
【0025】
外部凝固液浴槽14は、外部凝固液と呼ばれるポリマーを凝固させる溶液で満たされており、紡糸ノズル10から吐出された製膜溶液2が浸漬される。
【0026】
中空糸膜の成形の手順は、まず、マイクロポンプ13によって芯液3が紡糸ノズル10に注入され、次いで、ギアポンプ12によって製膜溶液2が紡糸ノズル10に注入される。
【0027】
そして、紡糸ノズル10から吐出されたゲル状の製膜溶液2を一定距離空走させたのち(エアギャップ11)外部凝固液浴槽14に導き、外部凝固液に浸漬させてその外側を凝固させることにより、中空糸膜4が形成される。中空糸膜4の内側(中空部)は芯液によって凝固されて形成される。
【0028】
形成された中空糸膜4は、さらに外部凝固液浴槽14中でしばらく溶媒置換(初期洗浄)が行われた後乾燥され、巻取りロール15で回収される。
【0029】
次に、図1を参照して、本実施例に係る紡糸ノズルについてさらに詳しく説明する。図1は、本実施例に係る紡糸ノズルの模式的断面図である。本実施例に係る紡糸ノズル10は、製膜溶液管部20と、芯液管部30とを有する二重管構造で構成される。
【0030】
製膜溶液管部20は、軸方向に貫通する軸方向穴21と、該軸方向穴21の周面から径方向に製膜溶液管部2の側面まで貫通する径方向穴22とを備える。軸方向穴21は一方の開口部が先細に形成されており、径方向穴22は製膜溶液の流入口であり軸方向穴21の他方の開口部側に設けられている。
【0031】
芯液管部30は、軸方向に突出したノズル部31と、ノズル基部32と、これらの中心を軸方向に貫通する軸方向穴(芯液流路)33とを備える。
【0032】
ノズル部31が軸方向穴21の他方の開口部から挿入され、ノズル部31根元のノズル基部32の端面が製膜溶液管部20の軸方向穴21の他方の開口部側の端面に当接し、ボルト等の締結具5によって製膜溶液管部20と芯液管部30とが軸方向に締め付けられることにより、製膜溶液管部20と芯液管部30とが一体となって紡糸ノズル10が構成される。
【0033】
ノズル部31の根元側の外周面は、製膜溶液管部20の軸方向穴21の内周面と嵌合す
るように形成されており、これにより、ノズル部31が軸方向穴21に対して正確に位置決めされる
【0034】
ノズル部31と軸方向穴21の軸方向の寸法はほぼ同じに設定されており、また、ノズル部31先端部の外径は、先細に形成された軸方向穴21の一方の開口部の径よりも小さく設定されている。したがって、ノズル部31が軸方向穴21に挿入されることにより、ノズル部31先端の外周面と、軸方向穴21の一方の開口部の内周面とによって製膜溶液の環状の吐出口23が形成される。一方、芯液の吐出口34は、ノズル部31先端の開口部となる。
【0035】
製膜溶液は、製膜溶液管部20の径方向穴(流入口)22から注入され、ノズル部31の外周面と軸方向穴21の内周面とにより環状に形成された流路24を通り、環状の吐出口23から管状に吐出される。
【0036】
中空糸膜の中空部を形成する芯液は、軸方向穴33のノズル基部32側の開口部(流入口35)から注入され、ノズル部31先端の開口部(吐出口34)から吐出される。
【0037】
本実施例に係る紡糸ノズル10においては、芯液管部30のノズル部31の外周に、径方向に突出する(ノズル部31の外壁から外側に向かって突出する)環状の凸部(整流流路形成部)36が設けられており、凸部36の外周面と製膜溶液管部20の軸方向穴21の内周面との間に、凸部36より上流の流路26及び凸部36より下流の流路27に対して幅の小さい環状の整流流路25が形成される。したがって、製膜溶液の流路24は、整流流路25と、整流流路25より上流の流路26と、整流流路25よりも下流の流路27とにより構成されることになる。
【0038】
ここで、図2を参照して、本実施例に係る紡糸ノズルの製膜溶液流路における製膜溶液の流れ及び整流流路による整流効果について説明する。図2は、本実施例に係る紡糸ノズルの製膜溶液流路を拡大して示した透視図である。ここで、同図中の矢印は製膜溶液の流れを表している。
【0039】
製膜溶液は、軸方向穴21に対して径方向に設けられた流入口22から流路26内に流入する。流入した製膜溶液は、ノズル部31の外周を両周方向に分かれてノズル部31を巻き込むようにして流れつつ、吐出口23に向かって軸方向に流れの向きを変えながら流れていくことになる。
【0040】
このような流れの分流や方向の変化等や、流入口22から流路26に流れ込む際の流路断面積の拡大によって生じる急激な流速低下等により、製膜溶液の流れは不均一となり、製膜溶液の分流箇所で流れの滞留や局所的な細かい乱れ等が生ずる。
【0041】
滞留や乱れの生じた製膜溶液は、流路26に対して流路面積の小さい整流流路25に流入することにより、流れの向きが軸方向(中心軸と平行)に概ね揃えられるとともに、整流流路25を流れる流量の偏りが抑制されて概ね均一となる。
【0042】
以上のようにして整流流路25で整流された製膜溶液は、流路27を流れる過程でさらに流れが整えられ吐出口23から吐出される。すなわち、凸部36を設けて整流流路25を形成することで製膜溶液の流れの向きを概ね揃えることができ、流れに偏り等が生じるのを抑制され、安定した吐出が可能となる。
【0043】
その結果、製膜後の中空糸膜に気泡や割れ等が発生するのが抑制され、安定した強度を備えた中空糸膜の製造が可能となる。
【0044】
なお、整流流路25よりも上流の流路26では、ノズル部31のノズル基部32側から凸部36にかけての外形形状が、図1および図2に示すように中間部でくびれた形成を呈している。これにより、流入口22から内径方向に流入してきた製膜溶液の流れの向きをゆるやかに軸方向に変えることができ、よりスムーズに整流流路25に向けて流すことによってより効果的な整流効果を得ることができる。
【0045】
また、ノズル部31の凸部36からノズル部31先端にかけての外形形状は、釣鐘状に先細となった形状を呈しており、整流流路25よりも下流の流路27の空間は、整流流路25を出てから一旦広がり、その後吐出口23に向かって徐々に狭くなっていくように変化する。
【0046】
流路27をこのように形成することにより、整流流路25で整流された製膜溶液をよりスムーズに吐出口23に向けて流すことができるとともに、粘調の製膜溶液の圧力損失を小さくして、吐出口23における吐出圧を十分に確保することができる。これにより、製膜溶液の安定した吐出形状を形成することができ、吐出の偏り等による糸裂け等を防止することができる。
【0047】
ただし、ノズル部31や流路24の形状は上述の形状に限定されるものではなく、流路を流れる流体の性質等によって適宜変更されることは言うまでもない。すなわち、本実施例のような粘調流体ではなく低粘度の溶液等を流すような場合には、吐出時における最終的な隙間間隔のまま吐出口まで続くように流路を構成してもよい。
【0048】
ここで、整流流路25の幅(凸部36の外周面と軸方向穴21の周面との間の距離、すなわち、整流流路25の内径と外径との差の2分の1)は、広過ぎると凸部36による作用効果が低下し十分な整流効果を得ることができなくなる。また、逆に狭すぎると溶液中のコンタミの目詰まり、圧力損失による溶液供給圧の上昇、溶液の圧縮流れによる乱れ等により、粘調の製膜溶液の流れを阻害してしまう。
【0049】
そこで、整流流路25の幅を0.01mm〜1mm、好ましくは0.05mm〜0.2mmとすることで、上述の問題を回避しつつ十分な整流効果を得ることができる。なお、軸方向穴21の径(図中のR)は10mm〜20mmとする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例に係る紡糸ノズルの模式的断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る紡糸ノズルの製膜溶液流路部分の一部拡大透視図である。
【図3】本発明の実施例に係る紡糸ノズルを備えた中空糸膜製造装置の構成を説明する模式図である。
【図4】従来技術に係る紡糸ノズルの模式的断面図である。
【図5】従来技術に係る紡糸ノズルの製膜溶液流路部分の一部拡大透視図である。
【図6】従来技術に係る紡糸ノズルにおける製膜溶液の流れを説明する模式図である。
【図7】従来技術に係る紡糸ノズルにより製造された中空糸膜の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 中空糸膜製造装置
2 製膜溶液
3 芯液
4 中空糸膜
10 紡糸ノズル
11 エアギャップ
12 ギアポンプ
13 マイクロポンプ
14 外部凝固液浴槽
15 巻取りロール
20 製膜溶液管部
21 軸方向穴
22 径方向穴(流入口)
23 吐出口
24 製膜溶液流路
25 整流流路
26 上流流路
27 下流流路
30 芯液管部
31 ノズル部
32 ノズル基部
33 軸方向穴(芯液流路)
34 吐出口
35 流入口
36 整流流路形成部
5 締結具
101 紡糸ノズル
102 製膜溶液管部
105 分流箇所
106 気泡
121 製膜溶液流入口
122 製膜溶液流路
123 製膜溶液吐出口
103 芯液管部
133 芯液吐出口
135 芯液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心側の芯液流路と、
その外側の製膜溶液流路と、
を備えた二重管構造の中空糸膜製造用紡糸ノズルにおいて、
前記製膜溶液流路内には、内径方向に流入してきた製膜溶液を製膜溶液流路の出口に向けて中心軸と平行な方向に整流する流路を形成する整流流路形成部が設けられていることを特徴とする中空糸膜製造用紡糸ノズル。
【請求項2】
前記整流流路は、0.01mm〜1mmの幅の環状の流路であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜製造用紡糸ノズル。
【請求項3】
前記整流流路形成部は、内管の外壁から外側に向かって突出した環状凸部であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜製造用紡糸ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−239147(P2007−239147A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64076(P2006−64076)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】