説明

中融点油脂及び可塑性油脂組成物

【課題】 マーガリンやファットスプレッド、ショートニング等に用いられる中融点油脂に関し、これを使用した可塑性油脂組成物が、広い温度範囲での可塑性、好ましい保型性、光沢のある良好な状態、良好な口溶けに加え、保存時の状態が良好である可塑性油脂組成物を提供する。
【解決手段】 下記のエステル交換油10〜70質量%及びパーム油30〜90質量%を配合した、融点が30〜40℃である中融点油脂。
パーム油60〜80質量部、パーム核油10〜30質量部、及び液状油10〜20質量部のエステル交換油であって、10℃でのSFCが25〜40、20℃でのSFCが15〜25、30℃でのSFCが5〜15である可塑性油脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーガリンやファットスプレッド、ショートニング等に用いられる中融点油脂及びそれらの可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、練り込み用のマーガリンやファットスプレッド、ショートニング等の可塑性油脂組成物を製造する際に、その油脂配合としては、高融点油脂(融点40〜60℃)、中融点油脂(融点30〜40℃)、低融点油脂(常温で液状の油脂)の硬さの異なる3種類の油脂が配合使用されており、これらの配合比率を調整することにより、マーガリンやファットスプレッド、ショートニング等の硬さを調節している。
【0003】
これら融点の異なる3種類の油脂のうち、中融点油脂は可塑性油脂組成物に、可塑性、保型性、良好な製品状態(光沢、なめらかさ等)などの物性、及び口溶け等の食感を付与する。
これらの機能を付与するために、これまでは、中融点油脂として各種動植物油脂の部分硬化油(部分水添油)が配合されてきた。これら部分硬化油には、通常、構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれているが、このトランス酸の特性により、部分硬化油を配合した可塑性油脂組成物において良好な可塑性、保型性、口溶け等、可塑性油脂組成物に機能が付与されることが広く知られている。
また、可塑性油脂組成物には、保存時における製品の状態や可塑性について品質が安定なことが必要であるが、この点においても部分硬化油の使用は優れている。
【0004】
しかし、近年の研究では、部分硬化油に多く含まれるトランス酸が、血漿中のLDL/HDLコレステロール比を増大させ循環器疾患の原因となるとの報告がある。このように、トランス酸を過剰摂取することによる健康への影響に対する懸念があるため、油脂中のトランス酸含量を少なくした方が好ましく、デンマークでは、2004年より国内の食品について油脂中のトランス酸含有率を2質量%以下にしなければならないとの制限を設けている。そのため、マーガリンやファットスプレッド、ショートニング等の可塑性油脂組成物中のトランス酸含有量は2質量%以下が一つの目標とされる。
【0005】
部分硬化油を代替する油脂としては、融点30〜40℃である天然の可塑性油脂、例えば、パーム油やパーム核油、ヤシ油等のラウリン系油脂が挙げられる。この中で、パーム油は可塑性油脂組成物に配合すると保型性に優れた可塑性油脂組成物が得られるので、その使用が期待されている。
しかしながら、パーム油を可塑性油脂組成物に多く配合した場合、可塑性油脂組成物が保存中に次第に硬く変化したり、粗大結晶やグレインが発生したりすることがある。また、ラウリン系油脂を多く使用した場合は、低温にて硬くなり過ぎ、高温では溶け易くなってしまうため、充分な可塑性を得ることができない。
【0006】
そこで、特許文献1には、パーム油を使用せず、高融点油脂である炭素数12及び炭素数20の飽和脂肪酸を含む極度硬化油と低融点油脂である液状油のみを配合し、可塑性油脂組成物を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法で製造される可塑性油脂組成物は、製品の光沢が少なく、可塑性の乏しいボソボソした物性となり易く、また、極度硬化油を多く使用する場合、口溶けが悪くなるといった問題があった。
【0007】
このように、マーガリンやファットスプレッド、ショートニング等の可塑性油脂組成物には中融点の可塑性油脂が必要である。そして、中融点油脂としてパーム油やラウリン系油脂の天然の可塑性油脂を配合した場合、トランス酸を含む部分硬化油を用いて製造された可塑性油脂組成物と同等の品質を保つことは難しかった。
【0008】
そこで、トランス酸含量の少ない中融点油脂が開発されている。その例として、エステル交換油の使用が検討されている。特許文献2には、パーム油起源の油脂とラウリン系油脂のエステル交換油が開示されている。しかしながら、このエステル交換油はシート状のマーガリン用であり、この油脂を用いた練り込み用の可塑性油脂組成物は低温にて硬くなり過ぎ、高温では溶け易い傾向があるため、可塑性の乏しい物性になってしまうといった問題があった。
【特許文献1】特開2002−161294
【特許文献2】特開2001−262181
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、マーガリンやファットスプレッド、ショートニング等の可塑性油脂組成物には、広い温度範囲での可塑性、使用温度範囲における好ましい保型性、光沢のある良好な状態、良好な口溶け等が求められる。
本発明は、上記の物性や食感を可塑性油脂組成物に付与することのできる中融点油脂を提供する。さらに、物性や食感及び保存時の状態が良好な可塑性油脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の発明である。
本発明における第1の発明は、
下記のエステル交換油10〜70質量%及びパーム油30〜90質量%を配合した、融点が30〜40℃である中融点油脂。
パーム油60〜80質量部、パーム核油10〜30質量部、及び液状油10〜20質量部のエステル交換油であって、10℃でのSFCが25〜40、20℃でのSFCが15〜25、30℃でのSFCが5〜15である可塑性油脂である。
【0011】
本発明における第2の発明は、
融点40〜60℃の油脂(A成分)0〜40質量%、融点30〜40℃の油脂(B成分)20〜95質量%及び、融点10℃以下の液状油脂(C成分)0〜60質量%を配合した可塑性油脂組成物であって、B成分が請求項1記載の中融点油脂であることを特徴とし、全体におけるパーム油の割合が60質量%以下である、トランス酸含有量が2%以下の可塑性油脂組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明における第1の発明によれば、可塑性油脂組成物に配合した際に粗大結晶やグレインを発生することなく、可塑性油脂組成物に広い温度範囲で可塑性を与え、保型性、光沢等の製品状態、口溶け等の食感を良好とする中融点油脂が提供される。また、保存時において、可塑性油脂組成物の可塑性や硬さを良好に維持できる中融点油脂が提供できる。
【0013】
本発明における第2の発明によれば、粗大結晶やグレインを発生することなく広い温度範囲で可塑性があり、製品状態や保型性、口溶けが良好である可塑性油脂組成物が提供される。また、保存時において、可塑性や硬さを良好に維持できる可塑性油脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
(中融点油脂)
本発明の中融点油脂は、エステル交換油及びパーム油を配合した、融点が30〜40℃である中融点油脂である。
前述したように、パーム油を単独で中融点油脂に使用すると、これを配合した可塑性油脂組成物において保型性に優れた組成物を製造できる一方で、保存中に硬度が次第に硬く変化したり、粗大結晶やグレインが発生したりする。
本発明は、特定の組成からなるエステル交換油をパーム油に特定の割合で配合した油脂を、中融点油脂として可塑性油脂組成物に配合すると、パーム油を単独で使用する際の保型性を維持でき、さらに、パーム油単独で使用する際の上記の問題点を解決できることを見出した。そして、口溶けなどの食感を改良できることを見出して本発明を完成したものである。
【0015】
本発明の中融点油脂は後述するエステル交換油を10〜70質量%及びパーム油30〜90質量%を配合した、融点が30〜40℃である可塑性油脂である。
【0016】
エステル交換油が10質量%未満の場合、すなわちパーム油が90質量部を超える場合、パーム油独自の特徴が顕著に表れてしまい、この中融点油脂を用いた可塑性油脂組成物は保存中に次第に硬く変化したり、粗大結晶やグレインが発生したりすることがある。
また、エステル交換油が70質量%を超える場合、すなわちパーム油が30質量%未満である場合、製造される可塑性油脂組成物の製造直後の保型性が充分でなく、ダラダラとした軟らかい状態のものとなってしまい、容器への充填が良好に行えない場合がある。
さらに、本発明の中融点油脂は、融点が30〜40℃である。この範囲内であれば、硬めの可塑性油脂組成物にも、軟らかめの可塑性油脂組成物にも配合し易い。
【0017】
(エステル交換油)
本発明において、エステル交換油は、中融点油脂としてパーム油を使用する際に特定量を配合することにより、これを配合した可塑性油脂組成物について伸びなどの可塑性、口溶けなどの食感をより良好にするものである。
本発明においてパーム油に配合するエステル交換油は、パーム油60〜80質量部、パーム核油10〜30質量部、及び液状油10〜20質量部のエステル交換油である。
パーム油が60質量部に満たない場合、可塑性油脂組成物の可塑性が乏しくなってしまったり、中融点油脂として用いるパーム油の良好な保型性を損ねてしまったりする場合がある。また、80質量部を超えると、エステル交換するにも関わらず、パーム油独自の分子構造に由来する結晶構造が完全に失われないため、これを使用した可塑性油脂組成物は、保型性は良好であるものの粗大結晶やグレインが発生し易くなってしまう。
次に、パーム核油が10質量部に満たない場合、充分な口溶けを有するエステル交換油が得られない場合があり、可塑性油脂組成物の食感が悪化してしまう。30質量部を超えるとエステル交換油が低温にて硬くなり過ぎ、高温では溶け易くなってしまう場合があるため、可塑性油脂組成物の可塑性が悪化し易い。
液状油は、エステル交換油の温度に対応する硬さを調整する成分であり、適度な硬さを維持するために使用する。10質量部に満たない場合、エステル交換油が低温にて硬くなり、高温では溶け易くなってしまう場合がある。また、20質量部を超えるとこのエステル交換油を中融点油脂として用いた可塑性油脂組成物は液状油の染み出しが起こり易くなってしまう場合がある。
【0018】
さらに本発明におけるエステル交換油は、10℃でのSFCが25〜40、20℃でのSFCが15〜25、30℃でのSFCが5〜15であることが好ましい。
このようなSFCの範囲では、パーム油の可塑性や保型性を維持しながら、口溶けの良好な中融点油脂を設計できる。
したがって、パーム油との配合により製造される中融点油脂において、充分な可塑性、保形性及び口溶けが得られ、硬めの可塑性油脂組成物にも、軟らかめの可塑性油脂組成物にも配合できる中融点油脂の原料となり得る。
【0019】
また、本発明におけるエステル交換油は、構成脂肪酸の炭素数の総和が40〜48のトリアシルグリセロールが50質量%以上、炭素数の総和が50〜54のトリアシルグリセロールが42質量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、充分な可塑性及び保型性を有し、且つ口溶けを有するエステル交換油が得られるため好ましい。
【0020】
本発明において、中融点油脂に配合する、あるいはエステル交換油に使用するパーム油は、パームの果肉より抽出された油脂であり、構成脂肪酸中のパルミチン酸の割合が40〜45質量%程度、オレイン酸の割合が36〜43質量%程度である油脂である。
また、本発明のエステル交換油に使用できるパーム核油はパーム種子の核より抽出された油脂であり、構成脂肪酸中のラウリン酸の割合が40〜48%程度、オレイン酸の割合が14〜23質量%程度である油脂である。
また、液状油は、常温にて液状の植物油で、融点10℃以下の油脂であり、特に限定されないが、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、米油、米糠油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、オリーブ油、綿実油、あるいはそれらの分別油等が挙げられ、それらを1種又は2種以上選択することができる。
【0021】
(可塑性油脂組成物)
本発明の可塑性油脂組成物は、融点40〜60℃の油脂(A成分)0〜40質量%、融点30〜40℃の油脂(B成分)20〜95質量%、融点10℃以下の液状油脂(C成分)0〜60質量%を配合した可塑性油脂組成物である。
A成分が40質量%を超えると、可塑性油脂組成物が硬くなりすぎ、練り込み用の製品として使用する際に、硬すぎるために作業性が悪くなったり、口溶けが悪くなったりする場合がある。
B成分が20質量%未満の場合、高融点油脂と液状油の配合比率が多くなってしまい中融点油脂を配合する効果が得られず、得られる可塑性油脂組成物が可塑性の乏しいボソボソした物性となり易い。95質量部を超えると、可塑性油脂組成物の硬さの調整が困難となり、練り込み用の製品として使用する際に、作業性よく使用できる温度帯の幅が狭く限定されてしまう。
C成分が60質量%を超えると、保存中に液状油の染み出しが起こり易い可塑性油脂組成物となる。
【0022】
本発明の可塑性油脂組成物の一般的なA成分、B成分及びC成分の配合としては、A成分が5〜30質量%、B成分が30〜80質量%、C成分が5〜40質量%である。
しかしながら、本発明の中融点油脂は、A成分とのみ配合することにより、例えば夏場や暖かい地域等の高温の環境下において作業性良く使用することのできる、硬さの硬い可塑性油脂組成物を得ることができる。
また、本発明の中融点油脂は、C成分とのみ配合することにより、例えば冬場や寒い地域等の低温の環境化において作業性良く使用することのできる、硬さの軟らかい可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0023】
本発明における可塑性油脂組成物中全体におけるB成分由来のパーム油の割合は60質量%以下であることが好ましい。パーム油の割合が60質量%を超える場合、パーム油独自の特徴が顕著に表れてしまい、可塑性油脂組成物が保存中に次第に硬く変化したり、粗大結晶やグレインが発生したりすることがある。
【0024】
本発明の可塑性油脂組成物に用いるA成分は、融点が40〜60℃の油脂であり、各種植物油の極度硬化油や天然の可塑性油脂を分別した高融点画分等が挙げられ、特に限定されないが、例えば、パーム油やパーム核油、菜種油等の極度硬化油、パームの分別高融点画分やパーム核油の分別高融点画分等、及びこれらのエステル交換油が例示でき、それらを1種又は2種以上選択することができる。
【0025】
本発明の可塑性油脂組成物に用いるC成分は、融点が10℃以下の液状の植物油であり、特に限定されないが、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、米油、米糠油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、オリーブ油、綿実油、あるいはそれらの分別油等が挙げられ、それらを1種又は2種以上選択することができる。
【0026】
本発明の可塑性油脂組成物はA成分、B成分、C成分の油脂を混合したものであり、マーガリンやショートニングの形態が例示できる。これらマーガリンやショートニングは、例えば、以下のような製造方法により製造することができる。
マーガリンの形態の油脂組成物の場合は、まず、連続相となる油脂成分(本発明の可塑性油脂組成物)を加熱溶解し、これに各種乳化剤を溶解もしくは分散させる。これに水を加え、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等により急冷捏和処理し、さらに場合によっては熟成することによって得ることができる。水相の含有量は、マーガリン形態の油脂組成物100質量部中に10〜15質量部であることが好ましい。さらに、油相にはトコフェロール、香料、着色料等、その他油溶性の添加物を、水相には、食塩、粉乳、濃縮乳、香料、呈味成分、その他水溶性添加物等を添加することができる。
ショートニング形態の油脂組成物の場合は、まず、連続相となる油脂成分(本発明の可塑性油脂組成物)を加熱溶解し、これに各種乳化剤を溶解もしくは分散させる。これをボテーター、コンビネーター、パーフェクター等により急冷捏和処理し、さらに場合によっては熟成することによって得ることができる。さらに、油相にはトコフェロール、香料、着色料等、その他油溶性の添加物を添加することができる。
【0027】
マーガリン及びショートニングを製造する際に添加する乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、リン脂質等の乳化剤が挙げられる。これらの乳化剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔製造例1〜7〕
本実施例ではB成分として製造例1〜6のエステル交換油及び製造例7の配合油を使用した。
製造例1、3、5:パーム油、パーム核油、菜種油のランダムエステル交換油
製造例2:パーム油、パーム核油、コーン油のランダムエステル交換油
製造例4:パーム油の分別高融点画分、パーム核油、菜種油のランダムエステル交換油
製造例6:パーム油、パーム核油のランダムエステル交換油
製造例7:パーム油、パーム核油、菜種油の配合油
【0030】
(ランダムエステル交換)
ランダムエステル交換油の反応方法及び条件を以下に示す。反応容器に原料混合油を仕込み、窒素気流中、撹拌しつつ加熱した。100℃〜120℃の状態で3時間以上この状態を保ち、油脂中の水分が100ppm以下になるまで脱水した。その後、油脂を80℃まで冷却し、ナトリウムメチラートを対油0.1〜0.2質量部加え、撹拌下窒素気流中で30分間反応させた。反応液に70℃の温水を加え撹拌した後、静置して油層と水層を分離する温水洗浄を行った。分離した水層のpHが8以下になるまで温水洗浄を繰り返した後、窒素気流中、撹拌しつつ加熱し、100℃〜120℃で水分が蒸発しなくなるまで脱水した。次いで、活性白土を3質量部加え15分間脱色した後、濾過した。
【0031】
製造例1〜7の油脂の配合組成、10℃、20℃、30℃のSFCを表1に示した。SFCの測定は基準油脂分析法2.2.9−2003(NMR法)にて行った。なお、製造例1では構成脂肪酸の炭素数の総和が40〜48のトリアシルグリセロール(C40〜48TG)が54.9質量%、炭素数の総和が50〜54のトリアシルグリセロール(C50〜54TG)が40.6質量%であったのに対し、製造例1と同配合でエステル交換を行っていない製造例7では、C40〜48TGは21.9質量%、C50〜54TGは62.1質量%であった。これらトリアシルグリセロールの総和については、基準油脂分析法2.4.6.1−1996にて分析を行った。
【0032】
【表1】

【0033】
〔実施例1〜4〕
上記の製造例1、2で得られた油脂にパーム油を表2に示した割合で配合しB成分とした。これらB成分を用いて、A成分である高融点油脂及びC成分である液状油をそれぞれ混合し、実施例1〜4の可塑性油脂組成物を製造した。各実施例の油脂配合は表2に示した。また、実施例1〜4の可塑性油脂組成物について、トランス酸含量の測定及び後述の項目について評価を行い、その結果も表2に示した。トランス酸含有量は基準油脂分析法 暫定法17−2007にて分析を行った。なお、実施例1〜4のB成分の融点は34℃〜37℃の範囲内であった。融点は基準油脂分析法2.2.4.2−1996にて分析を行った。
【0034】
(可塑性油脂組成物:マーガリンの製造方法)
実施例1〜4の可塑性油脂組成物を用いて、マーガリンを製造した。
まず、各油脂組成物84.6質量部にグリセリン脂肪酸エステル0.1質量部を混合し、70℃に過熱し撹拌して溶解し、油相部を準備した。次に、βカロチン0.05質量部及びバターフレーバー0.05質量部を水15.2質量部に加熱溶解し、水相部を準備した。その後、上記油相部に水相部を添加し、混合して乳化し、これをコンビネーター(シュレーダー社製)に通し急冷捏和することにより各種マーガリンを得た。これらはそれぞれ冷蔵庫に保管した。
【0035】
得られたマーガリンについては、その可塑性(製造直後及び製造後1ヵ月後)、保型性、硬さの変化、グレインの有無、食感の5項目について下記に示した方法により評価を行った。
【0036】
可塑性(製造直後及び製造後1ヶ月):得られたマーガリンの滑らかさ、伸びについて評価し、可塑性の評価とした。
製造直後のマーガリンを冷蔵庫にて24時間保管した。その後、そのマーガリンをバターナイフにて削り取り、ステンレス製の板に伸ばし、そのときの滑らかさ及び伸びについて以下の4段階で評価した。
また、1ヶ月間冷蔵保管したマーガリンについて、上記と同様の方法で、可塑性の評価を行った。
◎:滑らかで伸びが良好
○:滑らかさにやや欠けるが、伸びはやや良好
△:滑らかさに欠け、伸びもやや不良
×:滑らかさに欠け、ボソボソの状態で、伸びが不良
保型性:得られた製造直後のマーガリンを硬度測定用の缶(内径6.0cm、高さ4.8cm)にヘラを用いて充填し、そのマーガリンを15℃の温度で24時間保管した。その後、その缶を20℃の恒温水槽に24時間浸漬させレオメーター(サン科学社製、圧縮弾性アダプター使用)にてマーガリンの硬度を測定した。その硬度の値から、各マーガリンの保型性について以下の評価基準にて評価した。
◎:150g重〜250g重 (保型性良好)
○:250g重〜300g重 (やや硬いが保型性良好)
△:100g重〜150g重 (保型性やや不良)
×:100g未満及び300g超 (保型性不良)
硬さの変化:1ヶ月間冷蔵保管したマーガリンを上記の硬度測定用の缶に充填し、その缶を20℃の恒温水槽に24時間浸漬させ、上記と同様にマーガリンの硬度を測定した。その硬度の上昇値から、マーガリンの硬さの変化について以下の評価基準にて評価した。
○:上昇値が100g重以内
△:上昇値が100g重〜150g重
×:上昇値が150g重超
グレインの有無:冷蔵庫にて1ヶ月間保管した各種マーガリンについて、バターナイフで削り取り、それらをステンレスの板に薄く延ばし、グレインが有るかどうかの確認を行った。その発生具合について以下の4段階で評価した。
◎:グレイン無し
○:小さなグレインがやや有り
△:小さなグレイン多く、大きなグレインがやや有り
×:大きなグレインが多い
食感:得られたマーガリンを口に含んだときに感じる口溶けを以下の評価基準で評価した。
◎:最良 ○:良好 △:やや良好 ×:不良
【0037】
〔比較例1〜9〕
上記の製造例1、3〜7で得られた各油脂を用いて、表2の配合に従い、それぞれをA成分及びC成分、B成分であるパーム油と混合し、比較例1〜9の可塑性油脂組成物を製造した。そして、これら可塑性油脂組成物を用いてマーガリンを上記の方法により製造した。これらのマーガリンについて、実施例と同様に、製品の可塑性(製造直後及び製造後1ヶ月)、保型性、硬さの変化、グレインの有無、食感の5項目について評価を行い、その結果を表2に示した。また、比較例9として、B成分のエステル交換油の代わりに菜種油の部分硬化油を用いて可塑性油脂組成物を製造し、他の比較例と同様にそのマーガリンの性能を評価した。
【0038】
【表2】

【0039】
本発明の実施例1〜4において、その可塑性油脂組成物は、可塑性、保型性、食感が良好であり、グレインの発生や硬さの経時的な変化もなく、部分硬化油を用いて製造された可塑性油脂組成物と同等の良好な性能を示した。
また、比較例1〜4はB成分のエステル交換油の配合比率が本発明とは異なる例、比較例5はB成分に製造例1と同配合のエステル交換を行っていない配合油を用いた例、比較例6はB成分にエステル交換油を用いずパーム油のみを用いた例、比較例7はB成分にパーム油を用いずエステル交換油のみを用いた例、比較例8はB成分のエステル交換油とパーム油の比率が本発明とは異なり、且つ可塑性油脂組成物中におけるパーム油の全体に占める割合が本発明とは異なる例であるが、いずれも実施例と同等の可塑性油脂組成物としての性能は得られなかった。なお、比較例9はトランス酸を大量に含む場合の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のエステル交換油10〜70質量%及びパーム油30〜90質量%を配合した、融点が30〜40℃である中融点油脂。
パーム油60〜80質量部、パーム核油10〜30質量部、及び液状油10〜20質量部のエステル交換油であって、10℃でのSFCが25〜40、20℃でのSFCが15〜25、30℃でのSFCが5〜15である可塑性油脂。
【請求項2】
融点40〜60℃の油脂(A成分)0〜40質量%、融点30〜40℃の油脂(B成分)20〜95質量%、及び融点10℃以下の液状油脂(C成分)0〜60質量%を配合した可塑性油脂組成物であって、B成分が請求項1記載の中融点油脂であることを特徴とし、全体におけるパーム油の割合が60質量%以下である、トランス酸含有量が2%以下の可塑性油脂組成物。