説明

中間フランジを有するプーリ

【課題】中間フランジの空回りを確実に防止させ、中間フランジの組立作業負担を軽減させ、中間フランジの真円度を向上させ、溶接強度のばらつきを解消して品質を向上させたプーリを提供する。
【解決手段】ベルト巻回面110に円周方向に凹設されたフランジ溝と、フランジ溝の幅方向に2枚重ね合わされてフランジ溝に嵌合され中間フランジ120を構成する円周方向に複数に分割された円弧状の分割フランジと、分割フランジの端面対向部に配置されるとともにフランジ溝に穿孔されたピン孔に圧入され突出部分が半割形状の回り止めピンとを具備し、端面対向部がフランジ溝の幅方向に重ならないように配置され、端面対向部で対向している端面と回り止めピンの突出部分と端面対向部に並設されている分割フランジの側面とが一緒に溶接されていることにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械や電動射出成形機などの伝動軸(駆動軸及び従動軸)に固設してベルトを巻き掛けて動力伝達するプーリに関し、特に、ベルト巻回面をベルト幅方向に分割して複数のベルトを巻き掛けて使用するプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一つのプーリのベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを巻き掛けて動力の伝達を行うプーリが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このようなプーリは、図8に示すように、ベルト巻回面310の円周方向にフランジ溝を設け、そのフランジ溝に略半円弧状の一対の分割フランジ322、324を端面が対向するように嵌合させ、その端面間の隙間を溶接して接合することによって中間フランジ320を構成していた。図8の拡大図において、符号330を付した部分が溶接部である。
【特許文献1】特開2007−127166号公報(特に、第3頁、図2参照)
【特許文献2】特開2002−54720号公報(特に、第3頁、図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図8に示したような従来のプーリ300は、略半円弧状の一対の分割フランジ322及び分割フランジ324の端面間を溶接するだけで中間フランジ320が構成されているので、中間フランジ320がプーリ300のベルト巻回面310に対して空回りすることがあった。そして、中間フランジ320が空回りすると、金属同士が摺接することによる耳障りな騒音や異音が発生していた。
【0005】
さらに、溶接部330があるためプーリ300を超高速回転した場合、遠心力により溶接部330に異常荷重が加わり、中間フランジ320が破断に至る恐れがあった。万一、中間フランジ320が破断した場合、プーリ300に巻き掛けされた複数のベルトが干渉するためベルトが切断され、プーリ300が装着された機械構造物の他の部品まで破損する恐れがあった。
【0006】
また、中間フランジ320は、略半円弧状の一対の分割フランジ322及び分割フランジ324をフランジ溝に嵌合させて2つ合わせて上下2箇所の端面間を溶接している。そのため、分割フランジ322及び分割フランジ324は、2つを合わせたときに溶接するための隙間ができるように形成されている。すなわち、分割フランジ322及び分割フランジ324は、真の半円弧形状ではなく、若干短く形成されている。したがって、上下2箇所の端面間の間隔がばらつくため溶接体積がばらつき、溶接強度もばらつくとともに、中間フランジ320の真円度が低下する原因ともなっていた。しかも、上下2箇所の端面間の間隔を合わせることが困難で溶接する際の作業負担が大きかった。その結果、複数のプーリを製造した際に、製品間で中間フランジの接合強度がばらつき、製品の品質が低下するという課題が指摘されていた。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、中間フランジの空回りを確実に防止させ、中間フランジの組立作業負担を軽減させ、中間フランジの真円度を向上させ、溶接強度のばらつきを解消して品質を向上させたプーリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、本請求項1に係る発明は、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを巻き掛けするプーリにおいて、前記ベルト巻回面に円周方向に凹設されたフランジ溝と、前記フランジ溝の幅方向に2枚重ね合わされて該フランジ溝に嵌合され前記中間フランジを構成する円周方向に複数に分割された円弧状の分割フランジと、前記分割フランジの端面対向部に配置されるとともに前記フランジ溝に穿孔されたピン孔に圧入され突出部分が半割形状の回り止めピンとを具備し、前記端面対向部がフランジ溝の幅方向に重ならないように配置され、前記端面対向部で対向している端面と前記回り止めピンの突出部分と前記端面対向部に並設されている分割フランジの側面とが一緒に溶接されていることによって、前記課題を解決したものである。
【0009】
そして、本請求項2に係る発明は、請求項1に係るプーリにおいて、フランジ溝の幅方向に重ね合わされて該フランジ溝に嵌合された2枚の分割フランジの外周端面が円周方向の複数箇所で互いに溶接されていることによって、前記課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本請求項1に係る発明によれば、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを巻き掛けするプーリにおいて、ベルト巻回面に円周方向に凹設されたフランジ溝と、フランジ溝の幅方向に2枚重ね合わされて嵌合され中間フランジを構成する円周方向に複数に分割された円弧状の分割フランジと、分割フランジの端面対向部に配置されるとともにフランジ溝に穿孔されたピン孔に圧入され突出部分が半割形状の回り止めピンとを具備し、分割フランジの端面対向部がフランジ溝の幅方向に重ならないように配置され、端面対向部で対向している端面と回り止めピンの突出部分と端面対向部に並設されている分割フランジの側面とが一緒に溶接されていることによって、フランジ溝に穿孔されたピン孔に圧入された回り止めピンが分割フランジの円周方向の移動を阻止するため、中間フランジが空回りすることのないプーリが実現できる。
【0011】
また、中間フランジの接合部の接合強度が端面同士の溶接のみならず、回り止めピンの突出部分及び並設されている分割フランジの側面との溶接によっても担われるため、中間フランジの接合部の接合強度が飛躍的に向上する。
【0012】
さらに、回り止めピンが分割フランジの端面間に介在することによって、端面間の間隔が必然的に一定に保たれるため、中間フランジの組立作業負担が大幅に軽減される。そして、中間フランジの真円度が向上するとともに各接合部の溶接体積が一定となるため、各接合部の接合強度が均一になり品質の向上が図られる。
【0013】
本請求項2に係る発明によれば、請求項1に係るプーリにおいて、フランジ溝の幅方向に重ね合わされてフランジ溝に嵌合された2枚の分割フランジの外周端面が円周方向の複数箇所で互いに溶接されていることによって、重ね合わされた分割フランジが一体化するため、回り止めピンによる空回り防止効果と相俟って、中間フランジの接合強度がより一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のプーリは、ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを巻き掛けするものであって、ベルト巻回面に円周方向に凹設されたフランジ溝と、フランジ溝の幅方向に2枚重ね合わされて嵌合され中間フランジを構成する円周方向に複数に分割された円弧状の分割フランジと、分割フランジの端面対向部に配置されるとともにフランジ溝に穿孔されたピン孔に圧入され突出部分が半割形状の回り止めピンとを具備し、分割フランジの端面対向部がフランジ溝の幅方向に重ならないように配置され、端面対向部で対向している端面と回り止めピンの突出部分と端面対向部に並設されている分割フランジの側面とが一緒に溶接されていることによって、中間フランジの空回りを確実に防止させ、中間フランジの組立作業負担を軽減させ、中間フランジの真円度を向上させ、溶接強度のばらつきを解消して品質を向上させるものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0015】
例えば、本発明のプーリは、ベルト巻回面をベルト幅方向に1つの中間フランジによって2分割するものであっても、2以上の中間フランジによって複数に分割するものであっても何ら支障ない。
【0016】
また、本発明のプーリは、プーリの中心の軸穴を伝動軸の軸端から差し込んで、キーなどでとめる、いわゆる一体形プーリであっても、伝動軸の中間で半割りにしたものを両側から伝動軸を挟んでボルト締めする、いわゆる割り形プーリであっても良く、また、平ベルト用プーリであっても歯付きベルト用プーリであっても何ら支障はない。
【0017】
本発明のプーリの実施例について、図1乃至図6に基づいて説明する。
【0018】
ここで、図1は、本発明の実施例であるプーリの全体斜視図であり、図2(a)は、図1のIIA部の拡大斜視図であり、図2(b)は、図1のIIB部の拡大斜視図であり、図3は、図2(a)のIII−III面で切断したときの断面図であり、図4は、図3を矢視IVから見たときの上面図であり、図5は、中間フランジの部分組立図であり、図6は、本実施例であるプーリの中間フランジを構成する分割フランジと回り止めピンの配置関係を示す概略組立図である。
【0019】
本発明の実施例であるプーリ100は、図1に示すように、伝動軸(図示していない)をアルミ合金鋳物からなるプーリ本体190の中心に設けられた軸穴192に差し込んで固定し、他のプーリとの間にベルトを巻き掛けて動力伝達を行うためのものである。
【0020】
そして、本実施例のプーリ100は、図1に示すように、プーリ本体190の両外周端部に熱間圧延軟鋼板(JIS G3131で規定されるSPHC)からなるフランジ194が設けられているとともに、この一対のフランジ194に挟まれたベルト巻回面110の中央に中間フランジ120が設けられてベルト巻回面110を2分割し、2本のベルトが巻き掛けできるようになっている。
【0021】
ここで本実施例のプーリ100における中間フランジ120は、次のような工程によって構成される。まず、図5に示すように、ベルト巻回面110に円周方向に沿って、中間フランジ120の高さに対応した深さのフランジ溝150を凹設する。このフランジ溝150の底面にフランジ溝150の幅よりも若干短い直径のピン孔140を円周方向に等角度間隔で4つ、すなわち90°間隔で穿孔する。これらのピン孔140に、長さ方向の略半分が中心を通る面で半割形状に切断された回り止めピン160を圧入する。
【0022】
次に、中間フランジ120を構成するフランジ溝150の幅の2分の1より若干薄い幅の2枚の一般構造用圧延鋼板(JIS G3101で規定されるSS400)からなる環状部材の外周縁を面取り加工して環状部材の片側面にテーパー面を形成する。本実施例の場合、このテーパー面のテーパー角(垂直面に対する傾斜角)を45度としている。面取り加工後、それぞれの環状部材を1つの直径で2分割する。そして、2分割された半円弧状部材の切断端面を各々、回り止めピン160の半径にほぼ等しい長さ分切削する。
【0023】
このようにしてできた略半円弧形状の4つの分割フランジを図3に示すように、45度のテーパー面を形成した側面同士を重ね合わせる。このように環状部材の片側面にテーパー面を形成した後に、1つの直径で2分割して半円弧形状とし、テーパー面を形成した側面同士を重ねることにより、図3に示すように、重ね合わせた面に対して対称のテーパー面が、重ね合わせた2つの分割フランジの内側側面に形成される。その結果、2枚の分割フランジを重ね合わせて1つのフランジを構成するときに生じがちな断面非対称となることを確実に防止している。
【0024】
そして、図6に示すように、円周方向に対向配置された分割フランジ121及び分割フランジ123並びに分割フランジ122及び分割フランジ124の端面対向部を円周方向に90°ずらして配置し、この端面対向部間に図5に示すように、回り止めピン160の半割形状の突出部分160aが挟持されるように、4枚の分割フランジ121、122、123、124をフランジ溝150に嵌合させる(図5には、分割フランジ123は図示されていない。分割フランジ123については、図6参照。)。
【0025】
そして、4箇所の端面対向部において、図5に示すように、2つの分割フランジ122、124の対向している端面122a、124aと回り止めピン160の突出部分160aと端面対向部に並設している分割フランジ121の側面121aとを一緒に溶接し、その溶接面を旋削仕上げして溶接部130(図2及び図4参照)を構成する。この時、対向している分割フランジ122、124を並設している分割フランジ121の側面121aに宛がって溶接できるため、溶接しようとする部分が固定され作業性が飛躍的に向上する。また、図6に示すように、分割フランジ121と分割フランジ123との端面対向部が分割フランジ122と分割フランジ124の側面に宛がわれ、また、分割フランジ122と分割フランジ124との端面対向部が分割フランジ121と分割フランジ123の側面に宛がわれるため、同心度を出しやすく中間フランジの真円度も向上する。そして、真円度が向上することによって、各溶接部への負荷のバランスが良くなり、1箇所に負荷が集中することが防止されるため、中間フランジ全体の強度が向上し、その効果は甚大である。なお、本実施例においては、回り止めピン160を、全ての端面対向部に配設しているが、中間フランジの回転力や要求される強度に応じて、配設する数を適宜変更することができる。
【0026】
さらに、フランジ溝の幅方向に重ね合わされてフランジ溝に嵌合された2枚の分割フランジの外周端面にそれぞれの分割フランジのテーパー面が対向して形成される断面V字形状の溶接溝120a(図3参照)を円周方向の複数箇所(図1の参照符号131、132)で溶接し、重ね合わされた2枚の分割フランジを互いに固着する。その結果、重ね合わされた分割フランジが一体化するため、回り止めピンによる空回り防止効果と相俟って、中間フランジの強度がより一層向上する。
【0027】
以上のように、本発明の実施例であるプーリ100は、中間フランジ120を幅方向に2分割された分割フランジを重ね合わせて構成し、溶接部を円周方向に4箇所設けるとともに、その溶接部を2つの分割フランジの対向している端面と回り止めピン160の突出部分と並設されている分割フランジの側面とが一緒に溶接されているため、溶接の接合力が円周方向のみならず幅方向によっても担われるため、プーリの超高速回転時に生じがちな強大な遠心力にも耐え得る高強度化が実現できる。さらに、プーリ本体190に圧入された回り止めピン160が溶接部の2つの分割フランジの対向している端面間(端面対向部)に配置されているため、中間フランジの空回りが確実に防止され、しかも、各溶接部の溶接体積を一定にすることができ各溶接部への負荷のバランスが良くなるため、長期に亘って中間フランジの接合強度を持続させることができる。
【0028】
なお、前述したプーリ100は、図6に示すように、中間フランジ120が厚み方向に2枚重ね合わされるとともに円周方向に2分割された合計4枚の分割フランジ121乃至分割フランジ124から構成されているが、円周方向の分割個数は2分割に限定されることなく、例えば、図7に示したように、4分割された合計8枚の分割フランジ221乃至分割フランジ228から構成されるものであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例であるプーリの全体斜視図。
【図2】(a)が図1のIIA部の拡大斜視図、(b)が図1のIIB部の拡大斜視図。
【図3】図2(a)のIII−III面で切断したときの断面図。
【図4】図3を矢視IVから見たときの上面図。
【図5】中間フランジの部分組立図。
【図6】4つの分割フランジと回り止めピンとの配置関係を示す概略組立図。
【図7】8つの分割フランジと回り止めピンとの配置関係を示す概略組立図。
【図8】従来の中間フランジを持つプーリの全体斜視図。
【符号の説明】
【0030】
100、300 ・・・ プーリ
110、310 ・・・ ベルト巻回面
120、320 ・・・ 中間フランジ
121、122、123、124、322、324 ・・・ 分割フランジ
120a ・・・ 溶接溝
130、330 ・・・ 溶接部
131、132 ・・・ (分割フランジの外周端面の)溶接部
140 ・・・ ピン孔
150 ・・・ フランジ溝
160 ・・・ 回り止めピン
190 ・・・ プーリ本体
192 ・・・ 軸穴
194 ・・・ フランジ
220 ・・・ 中間フランジ
221〜228 ・・・ 分割フランジ
260 ・・・ 回り止めピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト巻回面をベルト幅方向に中間フランジによって分割し複数のベルトを巻き掛けするプーリにおいて、
前記ベルト巻回面に円周方向に凹設されたフランジ溝と、
前記フランジ溝の幅方向に2枚重ね合わされて該フランジ溝に嵌合され前記中間フランジを構成する円周方向に複数に分割された円弧状の分割フランジと、
前記分割フランジの端面対向部に配置されるとともに前記フランジ溝に穿孔されたピン孔に圧入され突出部分が半割形状の回り止めピンとを具備し、
前記端面対向部がフランジ溝の幅方向に重ならないように配置され、
前記端面対向部で対向している端面と前記回り止めピンの突出部分と前記端面対向部に
並設されている分割フランジの側面とが一緒に溶接されていることを特徴とするプーリ。
【請求項2】
前記フランジ溝の幅方向に重ね合わされて該フランジ溝に嵌合された2枚の分割フランジの外周端面が円周方向の複数箇所で互いに溶接されていることを特徴とする請求項1記載のプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−287607(P2009−287607A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138015(P2008−138015)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(500310993)株式会社椿本スプロケット (7)
【Fターム(参考)】