説明

主軸装置

【課題】加減速時であっても確実に冷却用媒体を供給することができ、冷却効果に係る信頼性の高い主軸装置を提供する。
【解決手段】主軸4の内部に、螺旋方向が時計回り方向となる螺旋溝流路15aと、螺旋方向が反時計回り方向となる螺旋溝流路15bとを設けた。そして、主軸4を正転方向へ加速させた際、左ねじ状の螺旋溝流路15bにはクーラントを逆流させる方向へ軸流ポンプ作用による圧力が生じるものの、右ねじ状の螺旋溝流路15aには順方向へ同じ軸流ポンプ作用による圧力が生じて、上記逆流させる方向への圧力が相殺されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等に設置される主軸装置であって、クーラント等の冷却用媒体を流すための冷却用流路を内部に備えてなる主軸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、主軸装置では、主軸の軸受や主軸を回転させるモータ等が発熱したり、加工点に生じた熱の影響によって主軸が加熱されてしまう。そして、発生した熱をそのままにしておくと、主軸の熱膨張により加工精度が悪化してしまったり、軸受が破損してしまったりすることになる。そこで、従来から主軸装置には、主軸を冷却するための構造が備えられており、たとえば特許文献1に記載の主軸装置では、主軸装置の内部に冷却用流路を螺旋溝状に設け、該冷却用流路内にクーラント等の冷却用媒体を流すことによって、主軸装置全体を均一に冷却しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−31585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに、特許文献1に記載の主軸装置の如く、冷却用流路を螺旋溝状に形成すると、冷却用流路内を流れる冷却用媒体の流速が上がるため、冷却効率は向上する。しかしながら、冷却用媒体として空気等の圧縮性流体を採用していたり、クーラント等の非圧縮性流体を採用しているものの冷却用流路内が完全に冷却用媒体で満たされていない(すなわち、空気等が混在している)状態では、加減速時においては軸流ポンプ作用によって流体圧力が発生する。したがって、この流体圧力が高くなると、たとえば回転継手部において冷却用媒体の漏れが発生してしまうという問題があった。さらに、回転継手部における漏れ量が多くなったり、冷却媒体が逆流する方向へ高い流体圧力がかかると、主軸装置内へ十分な量の冷却用媒体を供給できなくなるという問題も生じてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、加減速時であっても確実に冷却用媒体を供給することができ、冷却効果に係る信頼性の高い主軸装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、主軸の内部に、冷却用流体を流すための冷却用流路が前記主軸の軸方向へ螺旋状に形成されてなる主軸装置であって、前記冷却用流路は、所定の螺旋方向である第1螺旋状部と、前記所定の螺旋方向とは螺旋方向が逆方向となる第2螺旋状部とを有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1螺旋状部と前記第2螺旋状部とのリード、条数、及び軸方向長さが同じであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記主軸が軸方向前側から見て反時計回りに加速して回転を開始するとともに、前記冷却用流路が前記主軸の軸方向後端から回転継手及びシール部を介して前記主軸の外部に接続される主軸装置であって、前記第1螺旋状部と前記第2螺旋状部とを連続して設けるとともに、前記回転継手及びシール部に近い方の螺旋方向を反時計回り方向としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、冷却用流路が、所定の螺旋方向である第1螺旋状部と、所定の螺旋方向とは螺旋方向が逆方向となる第2螺旋状部とを有しているため、主軸の加減速時に一方の螺旋状部にかかる流体圧力の少なくとも一部を他方の螺旋状部によって相殺することができる。したがって、冷却用流路全体に所定方向に大きな流体圧力がかからないため、主軸外との接続部(すなわち回転継手やシール部等)から冷却用媒体が漏れにくいし、冷却用流路内へ冷却用媒体が供給不足になるといった事態も生じず、冷却効果に係る信頼性が高い。
また、請求項2に記載の発明によれば、第1螺旋状部と第2螺旋状部とのリード、条数、及び軸方向長さが同じであるため、一方の螺旋状部にかかる流体圧力を他方の螺旋状部によって完全に相殺することができ、冷却用媒体の漏れ抑制や、冷却用媒体の確実な供給といった効果を向上することができる。
さらに、請求項3に記載の発明によれば、主軸が軸方向前側から見て反時計回りに加速して回転を開始するとともに、冷却用流路が主軸の軸方向後端から回転継手及びシール部を介して主軸の外部に接続される主軸装置であって、第1螺旋状部と第2螺旋状部とを連続して設けるとともに、回転継手及びシール部に近い方の螺旋方向を反時計回り方向としているため、特に流体圧力が発生しやすい回転開始時に回転継手及びシール部へ流体圧力がかかりにくく、当該箇所からの冷却用媒体の漏れを一層確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】主軸装置の軸方向での断面を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となる主軸装置について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0010】
図1は、主軸装置1の軸方向での断面を示した説明図である。尚、図1における左右方向を主軸装置1の前後方向とする(特に左側を前側)。また、主軸4の軸方向で前側から見て反時計回り(左回り)方向を正転方向、時計回り(右回り)方向を逆転方向とし、後述する右ねじ、左ねじについても主軸4の前側から見た場合を基準として説明する。
主軸装置1は、たとえばマシニングセンタ等といった工作機械に設置されるものであって、ハウジング2内に複数の軸受3、3・・を介して主軸4をC軸周りで回転可能に支持してなる。また、主軸4の外周面にはロータ5が、ハウジング2の内周面でロータ5と対向する位置にはステータ6が夫々設置されており、該ロータ5とステータ6とで所謂ビルトインモータ構造がとられ、主軸4を回転可能としている。さらに、主軸4の軸心部には前後方向へ進退可能なドローバー8が設置されており、該ドローバー8の進退動作に応じて作用する保持機構(図示せず)によって、主軸4の前端に工具7を装着可能となっている。
【0011】
ここで、本発明の要部となる主軸装置1を冷却するための構造について説明する。
上述したような主軸4の後部を覆うようにして継手ハウジング11が設置されているとともに、主軸4の後端面には第1の回転継手9aが、継手ハウジング11の内面で、第1の回転継手9aと軸方向で所定の間隔を有して対向する位置には第2の回転継手9bが、夫々取り付けられている。また、回転継手9a、9b間は、第1の回転継手9aに設けられたシール部12a、12aと第2の回転継手9bに設けられたシール部12b、12bとによりシールされている。そして、主軸装置1を冷却するためのクーラントを、継手ハウジング11の外部から主軸装置1内部(特に主軸4内部)へ送り込んだ後、再び継手ハウジング11の外部へ排出させるようになっている。尚、クーラントは、主軸装置1の外部に設けられた別途供給装置を供給源として送り込まれる。
【0012】
そして、主軸装置1には、上述したようにクーラントを送り込む/排出させるにあたり、クーラントを流すための冷却用流路として、送り流路13、14と、螺旋溝流路15a、15bと、排出流路16、16とが設けられている。第1の送り流路13は、継手ハウジング11及び回転継手9a、9bの中心を貫通し、ドローバー8の軸部を軸方向に沿って前端際まで延設されてなり、継手ハウジング11の開口部は図示しないクーラント供給源と接続されている。第2の送り流路14は、ドローバー8の前端際において径方向へ設けられており、第1の送り流路13と後述する螺旋溝流路15aとを繋いでいる。
【0013】
一方、主軸4は、軸心部に円柱状の収納空間を有し、外周面が軸受3、3・・に支持される外側部材4aと、外側部材4aの収納空間内に内装される円柱状の内側部材4bとからなる二重構造となっており、この外側部材4aと内側部材4bとの間に螺旋溝流路15aと螺旋溝流路15bとが連続して形成されている。各螺旋溝流路15a、15bは、内側部材4bの外周面に径方向へ螺旋状に突設された突条部間が外側部材4aに覆われることによって形成されており、主軸4の前側の螺旋溝流路15aは螺旋方向が時計回り方向となる右ねじ螺旋溝とされている一方、主軸4の後側の螺旋溝流路15bは螺旋方向が反時計回り方向となる左ねじ螺旋溝とされている(すなわち突条部の螺旋方向が内側部材4aの前部と後部とで逆方向となっている)。また、螺旋溝流路15aと螺旋溝流路15bとのリード(突条部の軸方向での間隔)、条数、及び軸方向長さは同じとされている。さらに、螺旋溝流路15bの後端開口と対応する位置から回転継手9a、9b及び継手ハウジング11を貫通するように排出流路16、16が軸方向と平行に延設されている。
【0014】
上記冷却用流路を有する主軸装置1によれば、クーラントは、まず第1の送り流路13を介してドローバー8の内部を主軸4の前端近傍まで送られた後、第2の送り流路14を介して径方向へ送られる。そして、螺旋溝流路15a、15bを通った後、排出路16、16を介して外部へ排出されることになる。したがって、主軸4を正転方向へ加速させた際、左ねじ状の螺旋溝流路15bにはクーラントを逆流させる方向へ軸流ポンプ作用による圧力が生じるものの、右ねじ状の螺旋溝流路15aには順方向へ同じ軸流ポンプ作用による圧力が生じて、上記逆流させる方向への圧力が相殺される。一方、主軸4を減速させた(すなわち主軸4に逆転方向への加速度を加えた)際には、加速時とは逆で螺旋溝流路15aにクーラントを逆流させる方向へ軸流ポンプ作用による圧力が生じるが、これも螺旋溝流路15bに生じる圧力によって相殺されることになる。つまり、主軸装置1によれば、主軸4の加減速時に螺旋溝流路15a、15b全体として正逆何れか一方に大きな流体圧力がかからないため、回転継手9a、9bやシール部12a、12b等からクーラントが漏れにくいし、冷却用流路内へクーラントが供給不足になるといった事態も生じず、冷却効果に係る信頼性が高い。
【0015】
また、回転継手9a、9bやシール部12a、12bに近い螺旋溝流路15bを左ねじ状としている(すなわち、螺旋方向を反時計回り方向としている)ため、冷却用流路内に空気等が混在しやすい主軸4の停止状態からの加速時において、螺旋溝流路15bにはクーラントの逆流方向(すなわち、反回転継手9a側)へ流体圧力がかかる。したがって、回転継手9a、9bやシール部12a、12b等からのクーラント漏れを一層効果的に抑制することができる。
さらに、螺旋溝流路15aと螺旋溝流路15bとは、リード、条数、及び軸方向長さを同じとしているため、螺旋溝流路15aと螺旋溝流路15bとで相反方向に生じる圧力を完全に相殺することができ、クーラント漏れの抑制やクーラントの確実な供給といった効果を一層向上することができる。
【0016】
なお、本発明に係る主軸装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、主軸装置が設置される工作機械の種類等は勿論、冷却用流路の構成や冷却用媒体の種類等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0017】
たとえば、上記実施形態では、主軸4の前側を右ねじ状の螺旋溝流路15aとし、後側を左ねじ状の螺旋溝流路15bとしているが、逆としてもよいし、主軸4の前端及び後端に右ねじ状の螺旋溝流路を、主軸4の中央部に左ねじ状の螺旋溝流路を形成する等してもよく、螺旋溝流路の右ねじとする位置、左ねじとする位置に関しては、主軸4の回転方向やどの状況で軸流ポンプ作用による圧力が発生しやすいか等に応じて適宜変更することができる。
また、必ずしも、右ねじ状の螺旋溝流路15aと左ねじ状の螺旋溝流路15bとのリード、条数、及び軸方向長さを同じとする必要はなく、各螺旋溝流路におけるリード、条数、及び軸方向長さについても適宜設計変更可能である。
さらに、冷却用流路への冷却用媒体の供給方向についても適宜変更可能であって、上記実施形態とは逆に、螺旋溝流路側から送り込み、ドローバーの中心を通って主軸の後方へ排出させるように構成することも可能である。
さらに、上記実施形態では、主軸4に工具を装着可能とした主軸装置としているが、主軸にワークを把持させるような主軸装置に対しても、上記冷却用流路に係る構成は当然適用可能であるし、冷却用媒体についてもクーラントに何ら限定されることはない。
【符号の説明】
【0018】
1・・主軸装置、2・・ハウジング、4・・主軸、9a、9b・・回転継手、11・・継手ハウジング、12a、12b・・シール部、13、14・・送り流路、15a、15b・・螺旋溝流路、16・・排出流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸の内部に、冷却用流体を流すための冷却用流路が前記主軸の軸方向へ螺旋状に形成されてなる主軸装置であって、
前記冷却用流路は、所定の螺旋方向である第1螺旋状部と、前記所定の螺旋方向とは螺旋方向が逆方向となる第2螺旋状部とを有することを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
前記第1螺旋状部と前記第2螺旋状部とのリード、条数、及び軸方向長さが同じであることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記主軸が軸方向前側から見て反時計回りに加速して回転を開始するとともに、前記冷却用流路が前記主軸の軸方向後端から回転継手及びシール部を介して前記主軸の外部に接続される主軸装置であって、
前記第1螺旋状部と前記第2螺旋状部とを連続して設けるとともに、前記回転継手及びシール部に近い方の螺旋方向を反時計回り方向としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の主軸装置。

【図1】
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